水本ゆかり「人形の檻」【ゆかさえ】
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7: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 08:51:02.80 ID:iX/HvtXE0

中学最後の冬に、私は家族みんなと一緒に新青森駅の新幹線のホームに立っていた。

三月の、珍しく雪がふぶいていた日だった。

灰色の高い屋根の下で、冬の終わりの冷たい風が、私たちの白い息をあちらこちらに散らしていた。
お祖父さまとお祖母さまも見送りに来てくださっていて、これから一人で旅立って行くというのに、あまり寂しいという感じがしなかった。

私は、お母さまやお祖母さまが同じ注意を何度も繰り返しなさっているのを、はい、はい、と頼もしく答えながら、一方では、手袋を車の中に置き忘れてきてしまったことに気付いて、家族をますます不安がらせたりするのだった。
そうしてお父さまが、

「東京はここよりずっと暖かいだろうから、いらないんじゃないか」

とおっしゃるのを、お母さまは頑として受け入れようとなさらず、しきりに自分の手袋を私に持たせようとした。

結局、私の手にはお母さまが長年使っていた手袋がはめられた。

「切符はちゃんと持った?」
「忘れ物はもうない?」
「下宿先に着いたらきちんと挨拶するんですよ」
「菓子折りは潰さないように気をつけなさい」
「何かあったら駅員さんに言うんですよ」
「寂しくなったらいつでも連絡しなさい」

そうしているうちに新幹線が来て、私はたくさんの荷物をかかえながらデッキに乗り込んだ。

後ろから、お父さまの応援するような掛け声が聞こえて振り返った。

みんな、思い思いの表情を顔に浮かべて、そしてそのほとんどは私を心配するためにどこか不安げだったけれど、私なんぞといったら、そうして大事そうに見送られることがなんだか妙にこそばゆくて、デッキに突っ立ったまま、曖昧な微笑をずっと浮かべてばかりいた。



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