水本ゆかり「人形の檻」【ゆかさえ】
1- 20
8: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 08:52:05.93 ID:iX/HvtXE0

お母さまが、もう座席につきなさい、とおっしゃった。
それで私はのろのろと新幹線の中に入って行った。

車内は暖房が効きすぎなくらい効いていた。
窓際の指定席に座ると、ホームで手を振っている家族四人が見えた。

お母さまは、大きな荷物は上の棚に置きなさい、というようなことを身振り手振りで指示なさっていた。
私は重たいキャリーバッグを不安定な体勢で持ち上げて頭上の棚に置いた。

そうして落ち着いてからも、相変わらずお母さまたちは窓の外から心配そうに私を見つめていらしてばかりいた。
私はまた少しこそばゆい気持ちがして、まるで遊園地の乗り物に一人で乗って得意そうにしている子供のように、いたずらに窓の外に向かって手を振っているのだった。

アナウンスが流れ、扉が閉まった。

突然、お母さまがその場にうずくまってしまわれた。

私は思わず身を乗り出して、どうしたんだろう、どこか具合を悪くされたのかしら、などと考えていた。

そうして私は、窓越しにうずくまったままのお母さまと、そんなお母さまの肩を抱いて堪えがたいものを堪えているようなお父さまの姿とを、何か自分がおそろしい事をしてしまったような気持ちで見ていた。

やがて新幹線がゆっくりと走り出した。
お父さまやお祖母さまたちは小さく手を振って見送ってくださった。

けれどもお母さまは最後までその場に座り込んでいらしたきりだった。

そうして窓の向こうに次第に遠ざかっていく家族の姿を、私はそれが見えなくなってしまうまで見つめていた。

新青森駅を発てばすぐ、窓の外には雄大な八甲田山を眺められるに違いなかった。
しかしその日は吹雪のために灰色の憂鬱な風景が通り過ぎて行くばかりだった。



<<前のレス[*]次のレス[#]>>
192Res/249.13 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice