85: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 11:46:59.60 ID:iX/HvtXE0
次の日、学校から帰って、プロデューサーさんに電話をかけた。
自室のベッドに腰掛けて、その隣には紗枝ちゃんがいつものように寄り添って座っている。
彼女は私の手を握りながら、息を潜めて私とプロデューサーさんの会話に聞き耳を立てている。
「……はい。突然、すみません……いえ……それで、あの、先日のお話なんですが……ええ……その、実は少し考えさせてほしくて、だから……はい……そうです……え? 理由、ですか?」
「…………」
「……進学……そう、進学、するので……ええ、それはもちろん……その、別にアイドルを辞めたいわけではなくて、ただ、進学を機に、もう少し落ち着いて考えてみようかなって……はい……はい……すみません、今はちょっと……はい……また後ほど……失礼します」
「……大丈夫そう?」
電話を切ったあと、紗枝ちゃんが心配そうに私の顔を覗きこんだ。
「……分からない、けど……たぶん、昨日のことはまだプロデューサーさんの耳には入ってないと思う」
「ちゃうちゃう、そうやなくて、プロデューサーはん納得してへんかったんやろ?」
「……うん」
「うまく説得できそう? これから……」
私は曖昧に頷いて返事をした。
正直、自信はなかった。
けれど、紗枝ちゃんとずっと一緒に居たいという私自身の願いのためには、こうするしかなかった。
紗枝ちゃんが望む限り、私には他の生き方なんて選べなかったのだ。
静まり返った部屋で、紗枝ちゃんが慰めるように私を抱きしめ、言った。
「ありがとう……ゆかりはん。うち、ほんまに嬉しい。愛してる……」
私たちは眠るように見つめ合った。
不意に、ある予感が胸の奥で激しくざわめきだす。
しかしそれも一瞬の眩暈のうちに消え失せて、後にはただ、漠然とした不安だけが、舞い上がった砂埃のように私の心に広がったきり、なかなか去ろうとしなかった。
私はそうして私を見つめる紗枝ちゃんの表情をぼんやりと眺めながら、彼女の背後、その幸福の影の中に、いつか見たあの夕焼けの追憶をまざまざと蘇らせていた。……
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