水本ゆかり「人形の檻」【ゆかさえ】
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91: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 13:03:47.42 ID:iX/HvtXE0

それから彼女はひと息ついて、

「けどなぁ、それ言い出したらうちの方こそ、ゆかりはんのプロデューサーはんに菓子折りのひとつやふたつ持っていかなあきまへんわ。一応、お咎めなしで認めてくれはったとはいえ、迷惑かけたことには違いないやろし」

「それは……確かに、そうだね」

例の、私と紗枝ちゃんが堂々とキスしてみせたあの事件は、すでに社内で知らない者はいないほどだった。
目撃者も何人かいたらしく、最初は噂話程度だったのが、それもあっという間に尾ひれがついて広まって、ある日とうとうプロデューサーさんの耳にも入った。

私は正直に事実を話した。
プロデューサーさんは、私たちの付き合い自体には特に深入りしようせず、ただ、目立った行動はしないように、とだけ念を押した。
広まった噂も、事実でない部分に関してはプロデューサーさん側から対処してもらうことになった。
そして、それと引き換えに私と紗枝ちゃんの恋仲はもはや公然の秘密として大勢の関係者に知られることになったのである。

とはいえ、結局のところ私たちが危惧していたようなスキャンダルには発展しなかったし、私の身の回りでも特に大きな変化は起きなかった。
その点については紗枝ちゃんの言っていた通り、私たちの活動が危ぶまれるような大事には至らずに済んだ。


ただ、今回の件に関して、私とプロデューサーさんの間に多少のわだかまりが生じたのは確かだった。
というのは、あの日、私がプロデューサーさんに電話してお仕事のオファーを断ったちょうど前日に例のキスの事件があったので、彼女との付き合いが何か関連しているのではないかと疑われたのである。

もちろん私は、仕事については自分の意志で決めたことであって紗枝ちゃんは関係ない、と弁明はしたけれど、元々、ごまかしたり嘘をつくのが苦手だから、下手な言い訳をしてかえってプロデューサーさんの疑念を深めてしまったような気もするのだった。

差し迫った問題、というわけではないけれど、これもいつかは折り合いをつけていかなければならないことだった……そう考えると、私たちは上手くやったように見えて実際、ただ単に問題を先送りにしていただけなのかもしれなかった。



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