95: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 13:07:43.68 ID:iX/HvtXE0
結局、私たちが温泉に入れたのはほとんど深夜に近い時間だった。
夜の露天風呂は寒かった。
蛍の光のような照明が石床の上に点々と落ちている。
私たちはそのわずかな灯かりを頼りに湯船に足を差し、それからゆっくり肩まで浸かった。
囲いの外から秋の虫たちの鳴き声がりんりんと聞こえてくる。
透き通った雲が流れるように半月にかかり、夜空には星が瞬いていた。
けれど、その星のひとつひとつは浴室から洩れ出る靄のような明かりに紛れてはっきりとは見分けがつかなかった。
そういえば、今、何時だろう?
ふと、大事なことを忘れていたのに気付いた。
たぶん、もう言ってもいいよね。
私は、自分でもなぜそうしたか分からないくらいな気まぐれから、私の身体を温かく包んでいる真黒な湯水をそっと片手ですくい上げた。
柔らかな月の光を浴びてそれは血のようにきらめいて、私の手首を滴り落ちた。
「紗枝ちゃん。誕生日、おめでとう」
すると彼女も、この淡い熱のひとしずくを手のひらに、祝福するように捧げて言った。
「ゆかりはんも、誕生日おめでとうさんどす」
ちゃぷ、と音がして、彼女が立ち上がった。
視界の隅で、彼女の艶やかな肌があらわになった。
そうして彼女は石の縁に腰を下ろし、その細く美しい肢を湯水の上に泳がせながら、感慨に耽るように言った。
「うちら、もう十八なんやなぁ」
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