97: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 13:09:28.41 ID:iX/HvtXE0
翌朝、目を覚ますと、紗枝ちゃんが私のすぐ横ですやすやと眠っていた。
鳥たちの明るい鳴き声が柔らかな朝日の向こうから聞こえてくる。
彼女のあどけない寝顔が、薄暗い部屋の中でもはっきり見分けられるくらいの距離で私の方に向けられていた。
まどろみながら私は、無意識のうちに彼女の額にかかっている髪をそっとかきあげた。
彼女はまるで愛を知らない少女のように、温もりの中に優しく抱かれて眠っている。
私はしばらくその寝顔をじっと眺めていた。
紗枝ちゃんの瞼が小さく揺れた。
どこか遠いところを彷徨っていたようなその目は、泥の底から少しずつ湧き出る清水のように、やがてそこにひとつの泉を蘇らせるはずだった。
が、どうやら彼女は薄く開かれた瞼の隙間から私を覗き込んだまま、まだ夢と現実のあいだを行きつ戻りつしていたらしかった。
ふいに、紗枝ちゃんの目がぱちりと開かれた。
そして、何か不思議なものを見るように私の顔をじっと見つめだして言った。
「……ゆかり? 起きてるん?」
「起きてるよ」
「なぁんや、びっくりした……目ぇ開けたまんま寝てはるんかと思たわ」
そう言って彼女は再び目を閉じた。
私は相変わらずそうして狸寝入りしているような彼女の輪郭をぼうっと眺め続けていた。
そして次第に彼女の表情が小さな微笑みに変わり、それをごまかすように布団の中に潜りこんでしまった後でも、私は何の反応らしい反応もせず、ただ彼女が甘えるように身を寄せてくるのをさせるがままにしていた。
彼女はそうして私の胸に埋めた顔をひょっこり覗かせ、上目遣いに言った。
「ゆかり」
「はい」
「うちのことも紗枝って呼んで」
「紗枝。……もう起きる時間ですよ」
「いじわる!」
彼女は笑いながら布団の中で私をもみくちゃにした。
私もまた、そんな彼女を抱き止めて声を出して笑ってみせた。
そうして私たちはしばらく無邪気な子猫のように絡み合った。
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