天空橋朋花「夢の中ならレ●プしてもいいとお思いですか〜?」
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4: ◆FreegeF7ndth[saga]
2020/11/14(土) 14:35:36.44 ID:42YhWwR9o
※2

「……朋花?」
「プロデューサーさん、まさか私の顔をお忘れではありませんね」

 朋花がこじ開けた夢の扉は、朋花にもプロデューサーにも馴染み深い、39プロジェクトの劇場へつながっていた。
 キャッチボールなら余裕でできそうな広いフロアを、いくつものキャスターつきパーティションが細かいスペースに仕切っている。朋花とプロデューサーが向かい合って立っているのも、そのスペースの一つだった。

 朋花たちがたたずむスペースの中には、衣装立てが連なっている。朋花の視界に、まず4着が映っていた。

(ブラン・エ・ノワール <白と黒>、ブルームーン・プリズム、ル・シエル・エターナル <この永遠の空>、ナイツ・オブ・テンペランス……衣装、ですか? それも、私のものばかり……)

 振り返って後ろを見ると、フラワー・テンプテーション、マドンナ・ポップ、マリア・レクイエムの3着があった。7着すべて、アイドル・天空橋朋花のため特別にデザインされたものだったので、ちらりと見るだけで『私のものばかり』と朋花は理解できた。

「私の……お懐かしいお衣装もありますね」

 パーティションと同じくキャスターつきの姿見が4枚並んでいて、レッスンウェアをまとう朋花と、背広を着込み壁にもたれるプロデューサーが映っている。調光LEDと、劇場のステージ板を模した上敷きの床材とも映っている。どうやらここは、劇場のフィッティングスペースらしかった。

 自前の施設で公演を開ける規模の劇場となると、衣装だけでなく照明、音響、舞台機構、資機材や資料置き場……とスペースはいろいろの用途でいくらでも必要だが、いろいろの用途がそれぞれどれだけ場所を必要とするかは、公演内容によってバラツキがでる。
 39プロジェクトの劇場の場合は、大きなフロアを一つとり、そこを可動式パーティションで区画した多目的作業スペースとし、公演ごとにレイアウトを組み替えて対応する。レッスンや音響など専用建材がなければ成り立たないものを除き、ほとんどはそのフロアで作業して、省スペース化をはかっている。

「懐かしい、というほどの年月かな。俺にはあっという間だったよ」
「そうでしょうか、私は……」
「年を食うと時の流れが早くなる、ってやつかもしれない」
「老け込むような齢でしょうか、あなたは」

 朋花はプロデューサーに近づき、ひそひそ声を投げかける。

 1フロアで可能な限りなんでもカバーしようとする劇場のやり方は、デッドスペース極小化という面では効果だった。
 代わりに、備品があちこち動くので誰がどこに動かしたかの管理がたいへんだとか、隣やそのまた隣のスペースにまでおしゃべりが聞こえてしまうとか、それなりに深刻な問題も生じた。かしましい少女たちが集まる場所で、あれがない、これはどこにいった……などと、おしゃべりが筒抜けとなると、作業に支障をきたす場面もあった。

 朋花は、その騒がしさを耳と肌で感じると、良くも悪くも、劇場にやって来たという気分になれる。
 心持ちが、ただの少女だけでも『聖母』だけでもない、アイドルの色に塗り替わっていく。宙を舞えそうなステージ上の高揚と似ていて違う。うきうきするけれど、リラックスもできて、ときどき当惑もさせられる場所。
 しかしプロデューサーの夢のとばりに描かれた劇場のフロアは、しぃんとした耳鳴りがにじり寄ってくるほど静かだった。寂しさが響いていた。劇場よりもむしろ、朋花の住む天空橋家の礼拝堂に近かった。

「プロデューサーさん、ずいぶんとおつかれのごようすで」

 朋花とプロデューサーの距離は、どちらかが手を伸ばせば相手に触れられるぐらい。プロデューサーは壁にもたれかかったままだった。珍しく、だらしない姿勢だった。規律を重んじる天空橋家の薫陶を受けた朋花は、自分やファンやプロデューサーにハッキリと規律を求めてきた。壁にもたれかかるプロデューサーを見つけたら、夢であろうとなかろうと『気が抜けているんじゃありませんか〜?』などと戒めるところだった。

「そういう朋花は、いつもの間延びがないな」
「間延び、って」
「間延びというか、噛んで含めるような、保母さんが子供に言い聞かせるようなあれだよ」
「ほぼさん?」
「保育士のこと、昔はそう言ったんだ」



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