【可愛そうにね、元気くん】「進まない」【SS】
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32:名無しNIPPER
2021/08/14(土) 02:48:35.29 ID:JzXNw/sm0
クラスメイトで、暴君で、俺のご主人様で、理解者だった、鷺沢守という女。
原稿を奪われた思い出――初めて殴られた時の痛みと、捕食者の笑み――血の味のキスと痣――ピアス――寝泊り――理解者であることを教えてくれた、最後の冬の射抜くような視線。
正直に言えば……記憶にこびりついた感情の強さなら、八千緑さんより鷺沢の方が少しだけ上だ。
33:名無しNIPPER
2021/08/14(土) 02:50:02.35 ID:JzXNw/sm0
……もちろん、八千緑さんと鷺沢では歪みの方向もカタチも違う。とはいえ――順風満帆とはいかないかもしれないけれど――十年も経てば鷺沢なりに折り合いをつけて生きていっているんだろうって、心のどこかでそんな風に思い捨てていた。
「んん〜……」
34:名無しNIPPER
2021/08/14(土) 02:50:53.24 ID:JzXNw/sm0
「お待たせしました。カシスオレンジです……あら」
バーテンダーっぽい妙齢の女性が、鷺沢の注文を運んできた。通ってたのか、さっきの。
35:名無しNIPPER
2021/08/14(土) 02:51:41.90 ID:JzXNw/sm0
「あなた、守ちゃんの彼氏?」
とか思ってたら爆弾を投げられた。本人に聞かれたらヤバいと思って、慌てて否定した。
36:名無しNIPPER
2021/08/14(土) 02:53:21.23 ID:JzXNw/sm0
驚いて一瞬言葉を失った俺に、店主さんはクスクスと笑いかける。微笑ましいものを見守るような慈しみの笑顔だった。
「それだけ気を許してるって事でしょう? ……きっとあなたに会えて嬉しかったのね」
37:名無しNIPPER
2021/08/14(土) 02:54:06.89 ID:JzXNw/sm0
理解できないモノを見た時、人は困惑する。そこから生じる不安は、言葉では表せないような曖昧な苦しみを与える。
その結果が、学園祭の終わり――励一くんが現れたあの時の教室であり、俺の退学だ。
38:名無しNIPPER
2021/08/14(土) 02:54:33.49 ID:JzXNw/sm0
-逃げられない-
39:名無しNIPPER
2021/08/14(土) 02:55:03.15 ID:JzXNw/sm0
……結局食事の料金は俺が払い、ついでに店主さんにタクシーを呼んでもらった。
潰れた鷺沢に肩を貸しながら地上に出る。ちょうど人肌くらいの生温い風が鷺沢の髪を揺らし、俺の顔をくすぐった。
40:名無しNIPPER
2021/08/14(土) 02:56:39.65 ID:JzXNw/sm0
「……すみません、そこまでお願いします」
「はいよー」
41:名無しNIPPER
2021/08/14(土) 02:58:34.50 ID:JzXNw/sm0
「ん……」
不意に、右肩で髪がこすれる音がした。鷺沢が俺の肩を本格的に枕にしようとして姿勢を変えたようだ。結果として、肩と腕がぴったりと密着する。
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