魔王「リインカーネーション」

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268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/16(金) 23:15:11.40 ID:qg/nRbuLO

警備兵「黙れ」

王女「!!」ビクッ

警備兵「これまで何の苦労もなく温々と過ごしてきた奴に何が分かる」

警備兵「向こう側で行き場を無くした屑共が流れ込み多くの犯罪を犯しているのが現状だ」

警備兵「それを……言うに事欠いて我々とニンゲンが同じだと? 笑わせるな」

警備兵「ニンゲンが死んで喜ぶ奴は数多くいるだろうが悲しむ奴などいやしない」

警備兵「そもそも君が外へ出なければこのような事態にはならなかった。それを忘れるな」

王女「わたしはただ…」

警備兵「君が何を思おうが起きた事実は変わらない。分かったなら黙っていろ『お嬢さん』」

王女「…っ、はいっ…」キュッ

騎士団長「(姫様が思っているほど、外は美しい世界ではない。私を含め、彼のような考えを持っている者が大半だ)」
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/17(土) 00:21:30.80 ID:JDKwS+7HO

騎士団長「(ただ、少なくとも…)」チラッ

警備兵「………」コクン

騎士団長「(やはりそうか。少なくとも彼だけは協力するつもりでいた)」

騎士団長「(しかし、警備隊である彼がニンゲンに手を貸せば立場は危うくなる)」

騎士団長「(奴はそこまで考えて一人で行くと言ったのか? だとしたら……)」チラッ

王女「………」

騎士団長「(だとしたら姫様が信頼するのも分からなくはない。あんなニンゲンはこれまで見たことがない)」

騎士団長「(……姿形が違えど、か。もしそうであれば、どれだけ良い世界になっていただろう)」

ーーー
ーー


盗賊「(……そういや、一人で歩くのは久しぶりだな。いや、そうでもねえか)」

盗賊「(大した時間は経ってねえはずなのに、姫様とは長いこと一緒にいたような気がする)」
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/17(土) 12:43:12.97 ID:Ldb6e3ZbO
警備兵イケメン過ぎる
C
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/17(土) 22:33:14.96 ID:A50nUZETO

トコトコ…

盗賊「っくし! 冷えてきたな」

盗賊「(しっかし静かだな。街の皆様方はお布団の中でぐっすりか。羨ましいぜ)」

盗賊「(さっさと終わらせたいとこだけど、どうなるもんかな。一応準備はしてきたけど上手く行くかどうか……)」

ブワッ…ヒュゥゥゥ…

盗賊「なんだ…今の風……」ゾクッ

シーン…

盗賊「(……気味が悪りぃ)」

盗賊「(一瞬で空気が重苦しくなった気がする。まるで沼の中に沈んでくような感じだ)」

盗賊「(首筋にジリジリきやがる。全身が粟立つのが分かる。向こうで何かが起きたのか?)」
272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/17(土) 22:42:19.57 ID:A50nUZETO

トコトコ…

盗賊「っくし! 冷えてきたな」

盗賊「(しっかし静かだな。街の皆様方はお布団の中でぐっすりか。羨ましいぜ)」

盗賊「(さっさと終わらせたいとこだけど、どうなるもんかな。一応準備はしてきたけど上手く行くかどうか……)」

ブワッ…ヒュゥゥゥ…

盗賊「なんだ…今の風……」

シーン…

盗賊「(……気味が悪りぃ)」

盗賊「(一瞬で空気が重苦しくなった気がする。まるで泥沼の中に沈んでくような……)」

盗賊「(ッ、首筋にジリジリきやがる。全身が粟立つのが分かる。向こうで何かが起きたのか?)」
273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/17(土) 23:02:08.93 ID:A50nUZETO

盗賊「(にしては悲鳴の一つも聞こえねえな)」

盗賊「(一体何なんだ? 街の雰囲気すら一変したような気がする。嫌な予感しかしねえ)」

盗賊「………」ザッ

盗賊「(この街、こんなに暗かったか? 街並みはそのままなのに全く別の場所に感じる)」

盗賊「(もし…もしこれが奴の放つ気配だとしたら奴は人じゃない。勿論『こっち側』の奴でもない)」

盗賊「(ツノだとか牙だとか耳だとか尻尾だとか、そんな話しじゃねえ。正真正銘のバケモノだ)」

盗賊「……ッ…何にせよ、行かなきゃ始まらねえか」ダッ

ーーー
ーー


盗賊「(……着いた。辺りは静かだな)」

盗賊「(でも、空気は重苦しいいままだ。宿屋の中は…この中はどうなってる?)」ザッ

ガチャ…ギィィィ…
274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/18(日) 00:25:15.79 ID:17lus0uEO

盗賊「…ッ…酷え…」

ビチャッ…ビチャッ…

盗賊「(滅茶苦茶だ。何をどうしたらこんな風になるんだ? 天井も壁も床も全部血で……)」

ズルッ…ドシャッッ…

盗賊「ッ、いい趣味してるぜ」

盗賊「(まともな死体は一つもありゃしねえ。飛び散った肉片が壁や天井に張り付いてやがる)」

盗賊「(血の雨でも降ったような…ってのは正にこのことだろうな。あっという間に血塗れだ)」

ゴトッ…

盗賊「!?」バッ

「ひっ…た、助けてくれ。頼む。もう止めてくれ。私は何もしていないんだ」
275 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/18(日) 00:27:12.79 ID:17lus0uEO

盗賊「落ち着け。やったのは俺じゃねえ」

「分かってる。そうじゃない。違う。違うんだ。あいつが、白い騎士が来る。出て来る」

盗賊「……出て来る? それよりあんた、その手の火傷はーー」

「違うっ! 私じゃない。私じゃないんだ。出て来るんだ。勝手に…出て来るおぇぇッ…」

盗賊「お、おいっ。しっかりしろ!!」

「はな…でろ…ばだでろ…離れろ。いげ、もう。もう。だめだ。ぐる…ででぐるっ!!」

盗賊「ちっ!!」バッ

「おげぇぇッ…ぎ、ぐるででぐる腹がか突きやぶってぐぼぁっ…」ガクガク
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/18(日) 00:34:22.04 ID:17lus0uEO

盗賊「(何だ? 口から何かが…)」

ゴバッッ!

白騎士「…ハァァ…やれやれ、脱ぐにも一苦労だな」

盗賊「なっ…」

白騎士「これはこれは…随分と見苦しい所を見せてしまった。どうした?顔色が悪いぞ?」

盗賊「……通りで見付からねえわけだ。まさか甲冑が人を着てるとはな」

白騎士「驚いたかね?」

盗賊「ああ、吐き気がするほどにな」

白騎士「はははっ、恐怖を植え付けるには良い演出だっただろう?」

白騎士「これは戦に必要不可欠な技術であり、戦場を彩る数少ない芸術でもあるのだ」

盗賊「悪りぃけど全く共感出来ねえな。俺とあんたじゃ美的感覚が違い過ぎる」
277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/18(日) 01:13:30.39 ID:17lus0uEO

白騎士「そうか。それは残念だ」

盗賊「(マズい。完全にやられた。この野郎、俺が来るのを待ってやがったんだ)」

盗賊「(まともにやって勝てる相手じゃねえ。何とかして此処から出ねえと……)」

白騎士「此処は狭いな。やはり屋外、開けた場所にすべきだったか」

盗賊「(ッ、今しかねえ!!)」ヒュッ

ドガンッ!

白騎士「……逃げたか。面白い奴だ」

白騎士「しかし、あんなものは見たことがないな。武器も戦も変わったと言うわけか」

ーーー
ーー


盗賊「(外へ出たのはいい。この先はどうする? どうやって勝つ? 考えろ。考えるんだ)」ダッ
278 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/18(日) 01:53:11.68 ID:17lus0uEO

盗賊「(甲冑の隙間。関節部位…突けるか?)」

盗賊「(そもそも近付けるかどうかも怪しいもんだ。とにかく、今はこのまま距離をーー)」ゾクッ

ズドンッ! パラパラッ…

盗賊「…っぶねえな」

白騎士「よく避けた。褒めて遣わす」

盗賊「そりゃどうも。つーか色々おかしいだろ。どうやったら甲冑着けたまま飛べんだよ」

白騎士「そういった常識や限界は自らを拘束する枷でしかない」

盗賊「答えになってねえよ」

白騎士「常識に囚われるなということだ」

白騎士「凡人は往々にして限界を定め自らに枷をする。不可能などないというのに」

盗賊「あんたの動きはヒト科の範疇を超えてんだよ。少しは弁えろ」
279 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/18(日) 20:54:09.00 ID:ru+hyu8uO

白騎士「弁える必要などない」

白騎士「勝利するには何者をも寄せ付けぬ力が必要なのだ。その為には理の外へと踏み出さねばならない」ザッ

盗賊「(武器は姫様の言ってた通りだ。刃は長く厚い。籠手でいなせるような代物じゃない)」

白騎士「……故に進む。進み続ける。ただひたすらに、勝利のみを求めて」トッ

盗賊「(また跳びやがった。身が軽いとかって話じゃねえぞ!!)」

ドギャッッ! 

盗賊「…ッ、跳ぶわ走るわ…とんでもねえ奴だな。中身入ってんのか?」スタッ

白騎士「知りたいのなら勝利して確かめろ」

盗賊「(……やっぱり、こいつは半端じゃねえ)」

盗賊(石畳を砕いて地面を抉りやがった。刀身が根本までぶっ刺さってる)」

盗賊「(斬擊や打突の類じゃねえ。ぶん殴るって表現が一番しっくりくる)」
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/18(日) 21:05:31.78 ID:ru+hyu8uO

白騎士「………」ズッ

盗賊「(相手は甲冑装備。素早さなら勝てると思ってたけど、ぎりぎりだな)」

白騎士「眼が良いな。実に良い眼をしている」

盗賊「そりゃそうさ、まだまだ夢見る年頃なんでね。綺麗なもんだろ?」

白騎士「ハハハッ! 夢、夢ときたか。そうだな、夢を抱くのは良いことだ」

盗賊「……あんた眼はどうだ?」

白騎士「何?」

盗賊「あんたはその兜の奥でどんな眼をしてる? あんたの眼は何を見てる?」
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/18(日) 21:28:36.22 ID:ru+hyu8uO

白騎士「無論、輪転器」

盗賊「なら、こんな道草食ってる暇はねえと思うけどな。行かれても困るけど」

白騎士「民草の血肉は喰らったが道草は食っていない。求めるものは目の前にある」

盗賊「あんたが求めてんのは俺との戦か? 戴冠の戦だっけ? 俺の冠が見当たらねえけどな」

白騎士「案ずるな。此処に在る」

盗賊「……まるで意味が分からねえ。あんたは何なんだ? 生きてんのか?死んでんのか?」

白騎士「難しい質問だな」

盗賊「千年も前に死んだって聞いたぜ。死には勝てず、甲冑を身に付けたまま眠ったってな」

白騎士「あの輪転器から聞いたのか。しかし、私の時代の書物が残っているとは考えられん」

白騎士「大方、後期の者が好き勝手に書いたのだろう。過去に泥を塗るような脚色は好かんな」
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/18(日) 21:59:53.17 ID:ru+hyu8uO

盗賊「脚色?」

白騎士「他に何が書いてあったかは知らんが、ただ一つだけ確実に間違っている点がある」

盗賊「何がだよ」

白騎士「私は負けてなどいない」

盗賊「……あんた、すっげー頑固だな」

盗賊「本物かどうかは分かんねえけど、本物並みに勝利に餓えてんのは間違いなさそうだ」

白騎士「私を真似られる者などいない。後にも先にも、私は私だけだ」

盗賊「自分でそんなこと言うなんて随分と驕り高ぶった御方だな。王様に喧嘩売ったってのも頷けるぜ」
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/18(日) 22:28:33.57 ID:ru+hyu8uO

白騎士「そうでなくてはならない」

盗賊「?」

白騎士「夢を抱き夢を叶えようとするのなら、敗北は決して許されない。勝ち続けるしかない」

白騎士「貴様もそうであろう? 得難きを得るべく歩き続けているのだから」

盗賊「………」

白騎士「故に驕り高ぶり、故に限界を定めず、己が往く道を妨げる者は徹底的に排除する」

白騎士「積み上げた勝利。勝利の上の勝利。全ては私が到達せんとする場所に辿り着く為に」

盗賊「……その為なら何をしても許されるってか?」

白騎士「私以外に私を赦す存在はいない。私を赦せる存在などいてはならない」

盗賊「ああそうかい。なら、今からでも俺に謝る準備しとけ。絶対に許さねえけどな!!」ヒュパッ
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/19(月) 01:02:46.17 ID:DF1P7wLNO

グルンッ…ギチッ!

盗賊「あんたの首を貰う」グイッ

白騎士「……実戦で鞭を使うとは少々驚いたな。だが、その程度で首は取れんぞ」ブチンッ

盗賊「んなことは分かってるさ」

白騎士「(何の武器も無しに向かって来るか。何か策があるのだろうが……)」スッ

盗賊「(あの構え、突いてくるか斬ってくるか判断出来ねえな。けど、行くしかねえ。懐に潜る)」

白騎士「敵が特殊な武器を扱う場合、その特性を殺す。先を取り懐に潜る。基本だな」

盗賊「(ッ、腰を落としやがった)」

白騎士「鞭による奇襲。予想外の武器を扱った割に攻め手は教科書通りか」
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/19(月) 01:24:34.36 ID:DF1P7wLNO

盗賊「(下からの突き。直線攻撃。半歩外)」

ゴッッ!

盗賊「(ッ、脇腹掠めた。危ねえ、もう一歩踏み込んでたら腹に風穴空いてたな)」

白騎士「(二度。たった二度見ただけでこれを見切るか。流石はーーー)」

ズドッッ!

盗賊「(入った。普通なら、これで終わる。つーか終わってくれ)」

白騎士「……ミセリ…コルデ…か」ガクンッ

盗賊「……あんたに対して慈悲の気持ちはないけどな。痛いなら無理しないで倒れてくれねえか」

白騎士「フッ、フフッ…これで確信したぞ。やはり貴様で間違いない」ズッ

ガシィッ!

盗賊「がッ…まだ動けんのかよ。俺のことはいいから…先に…逝ってろ!!」ジャキッ
286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/19(月) 01:52:50.67 ID:DF1P7wLNO

白騎士「!?」

ズギャッッ!

白騎士「……これはジャマダハルに似ているな。まさか籠手にまで武器を仕込んでいるとは」

ミシッ…ミシミシッ…

盗賊「ぐっ…ガハッ…無理すんな。安らかに眠れ」

白騎士「こうも痛みが酷くては眠れんよ。かえって目が覚めた」ググッ

盗賊「ッ、さっさと逝け。冥府の船頭に渡す金がねえなら後で代わりに出してやる」

白騎士「此処まで来てのだ。二百年も待てんな」

盗賊「頑張っても五十年だ。向こうで待ってろ。つーか何で死なねえんだよ」
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/19(月) 02:04:59.08 ID:DF1P7wLNO

白騎士「!?」

ズギャッッ!

白騎士「……これはジャマダハルに似ているな。まさか籠手にまで武器を仕込んでいるとは」

ミシッ…ミシミシッ…

盗賊「ぐっ…ガハッ…無理すんな。安らかに眠れ」

白騎士「こうも痛みが酷くては眠れんよ。かえって目が覚めた」ググッ

盗賊「ッ、さっさと逝け。冥府の船頭に渡す金がねえなら後で代わりに出してやる」

白騎士「此処まで来たのだ。二百年も待てんよ」

盗賊「頑張っても五十年だ。向こうで待ってろ。つーか何で死なねえんだよ」
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/19(月) 02:45:38.77 ID:DF1P7wLNO

白騎士「知りたいのならーー」

盗賊「勝利して確かめろ…だろ?」ニヤッ

白騎士「ほう、この状況になって尚も笑うか。まだ何か策があるというのか?」

盗賊「ゲホッ…さあ…どうだろうな」

白騎士「出来ることならばもう少し付き合いたいところだ。しかし、私には時間がない」

盗賊「なに…言ってんだ?」

白騎士「(あれだけ喰らってもこの程度しか保たんとはな。此処では駄目だ。あの場所へ行かなければ……)」ダンッ

ズガンッ!ズガンッ!ズガンッ!

盗賊「ガハッ…(ったく、こんな夜更けに民家の壁ぶち破るなんて何考えてんだ。常識ってもんはねえのか)」

盗賊「(それより、何で心臓刺されてんのに走れるんだ。手応えはあった、外したはずはねえ)」

ズガンッ!ズガンッ!

盗賊「(ッ、今ので完全に傷が開いたな。痛み止めも切れた。すっげー痛え)

盗賊(背中縫って貰わねえと…姫様、怒るだろうな……あ〜、頭が回らねえ…)」
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 20:12:21.56 ID:TdQm0sKQO

ダッダッダッ…

白騎士「ぐっ…」ブシュッ

ボタボタッ…

白騎士「(……最早己の肉体さえ儘ならぬか)」

白騎士「(だが終わらんぞ。終わりなど認めん。この私に終わりなど訪れるはずがない)」

白騎士「(死など存在しない。あってはならない。私は不滅でなくてはならないのだ)」ダンッ

バリンッッ!

『な、何だぁ!?』

白騎士「ハァァァ…」クルッ

『ひッ…ひぃぃッ!!』

白騎士「(これでは駄目だ。これでは足りぬ。今は喰らう時間すら惜しい。急がねば)」タッ

ドガッッ!パラパラッ…

『て、天井が……な、何だったんだ今のは……』
290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 22:09:39.80 ID:TdQm0sKQO

白騎士「………」ズダンッ

盗賊「…ゴフッ…ゲホッゲホッ…何を焦ってんだ。まだ夜は始まったばかりだってのによ」

白騎士「フッ、そうだな。これは始まりの夜だ。新たな始まり、終わりではない」

盗賊「何を言ってんのかさっぱり分かんねえ。俺にも分かるように言ってくれよ」

白騎士「話すより見せた方が早い。理解出来るかは別としてな」ダンッ

盗賊「(また跳びやがった。ったく、どんな跳躍力してんだ。つーか高え、着地出来んだろうな)」

ビョゥゥゥ…

白騎士「欲したものは必ず手に入れる。何があろうと、必ず……」

盗賊「(……今、何か言ったな。風に遮られて良く聞こえなかったけど……)」
291 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 23:44:36.35 ID:TdQm0sKQO

ビョゥゥゥ…

盗賊「(……つーか、この状況はマズいな)」

盗賊「(この高さだ。首根っこ掴まれたまま着地されたら間違いなくボキッといっちまう)」

盗賊「(仕掛けは済んでる。今ならやれるか? いや、風に邪魔されちまうのがオチだ……ん?)」

白騎士「………」ブシュッ

盗賊「(……何でか分かんねえけどさっきから出血してんな。俺が刺した場所以外からも血が溢れ出てる)」

盗賊「(掴む力もかなり弱まってる。今なら内肘を刺して振り解けるんじゃねえか?)」

盗賊「(でもなぁ、これは流石に高すぎる。下に何か…落下の衝撃を逃がせる何かがあれば……)」チラッ

盗賊「(……あった。どうせこのまま落ちたら首折れて死ぬんだ。やるしかねえ)」
292 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/21(水) 00:34:02.37 ID:Eyhl8jLIO

盗賊「……あんた、流れ星は見たことあるか?」

盗賊「消える前に願いを三度唱えれば、その願いは叶うらしいぜ。間に合えばだけどな」

白騎士「……何を言っている」

盗賊「見せてやるよ、流れ星。三度唱える時間があるか分かんねえけどな!!」ヒュッ

グサッッ!

白騎士「ぐっ!?」ズルッ

ビョゥゥゥ…

盗賊「ふ〜っ…これで思いっ切り空気が吸える。よしっ…」

盗賊「助かりますように助かりますように助かりますように助かりますように!!」

盗賊「(何だよ、案外簡単に言えるじゃねえか。一回多く言ったけど、流れ星の願いって叶うのかな……)」

ビョゥゥゥ…

盗賊「(……まあ、なるようになんだろ)」
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/21(水) 01:26:14.42 ID:Eyhl8jLIO

ボフッッ!

盗賊「……願っといて良かった」ガサッ

盗賊「(あの野郎が跳んだ先に牧場がなかったら死んでたな。あちこち痛えけど生きてりゃいいや……)」

盗賊「……ん、何だありゃ?」ザッ

盗賊「(地面が淡く光ってる。これは焦げ跡? ってことは遺体があった場所か)」

盗賊「(妙な紋様もあるな。あの野郎、儀式でもしたのか? やっぱりまともじゃねえな)」

ズダンッッ!

盗賊「!?」クルッ

白騎士「落ちた時は少々肝を冷やしたが、そこまで運ぶ手間が省けたな」
294 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/21(水) 20:23:32.38 ID:rDYNLnmxO

盗賊「……早かったな。願いごとは唱えたかい?」

白騎士「願いとは叶えるものだ。唱えるだけでは叶わない。私の願いはそう安いものではない」

盗賊「……その願いってのは何人殺せば叶うんだ。そこまでして叶えたい願いってのは何なんだよ」

白騎士「直に分かる。ここからが戴冠の戦だ」ザッ

盗賊「(相変わらず何言ってんのか分かんねえ。輪転器が狙いじゃねえのか?)」

盗賊「(そもそも何で俺と戦う必要がある? あの爺さんに殺せって命令されたのか?)」

白騎士「冠を戴くのは勝利者のみ」ブシュッ

盗賊「(……まあ、それはいい。それより、何であの出血で動ける。歩くたびに甲冑から死が噴き出てーー)」

白騎士「往くぞ」ダンッ

盗賊「(鎧通しでぶっ刺した。心臓も貫いた。それなのに、まだこんな動きが出来んのかよ)」
295 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/21(水) 22:40:57.74 ID:rDYNLnmxO

白騎士「………」グオッ

ブンッッ!

盗賊「(さっきと同じだ。ぶん殴るような大振り。これを避けてもう一度中にーー)」

白騎士「先の攻撃に眼が慣れたようだな。撒かれた餌とも知らずに」

盗賊「回っ…くっ!!」

ザンッッ!

盗賊「…はぁっ…はぁっ…くそっ…」ガクンッ

白騎士「(咄嗟に身を捩ったようだが傷は深い。だが、眼は生きている)」

白騎士「(要らぬ小細工をされると厄介だ。もう一押し、際の際まで追い詰める)」ダンッ

盗賊「(ッ、気を保て集中しろ。大きく動くな小さく躱せ。まだ終わらねえ、勝ち目はある)」
296 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/21(水) 23:37:15.71 ID:rDYNLnmxO

白騎士「(眼が変わったな)」ズッ

盗賊「(突き。よく見える。これは誘いだ。飛び込んだ瞬間に肘を曲げて背中を刺すつもりか)」

白騎士「(……縦ではなく横に動いた。この程度の誘いには乗らんか)」

白騎士「(深傷を負えば勝負を急くだろうと思ったが、中々に冷静な男だな)」

盗賊「…ハァッ…ハァッ…」ジャリッ

白騎士「(諦めた様子は微塵もない。まだ勝とうとしているのか、面白い)」ヒュンッ

盗賊「(野郎、さっきとはまるで違うじゃねえか。一撃の力押しを止めて繋げて来やがった)」

ザシュッッ…ジリッッ…

盗賊「(ッ、しかも途切れねえ。これを全て躱し切るのは無理だ。どうしても小さいのを貰っちまう)」

盗賊「(このままじゃ受けてちゃマズい。何とかしてえけど、ああもくるくる舞われたら付け入る隙もねえ)」
297 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/21(水) 23:43:07.79 ID:rDYNLnmxO

白騎士「(眼が変わったな)」ズッ

盗賊「(突き。よく見える。これは誘いだ。飛び込んだ瞬間に肘を曲げて背中を刺すつもりか)」

白騎士「(……縦ではなく横に動いた。この程度の誘いには乗らんか)」

白騎士「(深傷を負えば勝負を急くだろうと思ったが、中々に冷静な男だ)」

盗賊「…ハァッ…ハァッ…」ジャリッ

白騎士「(諦めた様子は微塵もない。まだ勝とうとしているのか、面白い)」ヒュンッ

盗賊「(野郎、さっきとはまるで違うじゃねえか。一撃の力押しを止めて繋げて来やがった)」

ザシュッッ…ジリッッ…

盗賊「(ッ、しかも途切れねえ。これを全て躱し切るのは無理だ。どうしても小さいのを貰っちまう)」

盗賊「(このまま受けてちゃマズい。何とかしてえけど、ああもくるくる舞われたら付け入る隙もねえ)」
298 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 00:39:28.96 ID:kbFSV2H3O

白騎士「(この眼、機を窺っているな)」

白騎士「(私にも時間はない。何もさせぬまま、このまま押し切る)」グンッ

盗賊「(ちっ、まだ上がんのかよ。くそっ、速過ぎる。これ以上は避けきれねえ……)」グラッ

白騎士「(血を失いすぎたか。捉えたぞ)」

グサッッ!

盗賊「………」ガクンッ

白騎士「右肩を貫いた、利き腕はもう使えまい。この戦、私の勝ちだ。後はあの場所ーー」

盗賊「籠手は右手にあるからな。こうするしか方法はなかった。膝を突いたのは隠す為だ」

盗賊「俺の持ってる爆弾は小せえし威力も高くない。でもな、近距離で二つ三つ爆発させれば話は別だ」
299 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 01:20:04.03 ID:kbFSV2H3O

白騎士「何?」

盗賊「……あんたはすぐに鞭を引き千切ったけど、巻き付いた部分は首に残ってる」

盗賊「鞭の先には爆弾を括り付けてある。甲冑を着けてても首を吹っ飛ばせるくらいにはな」ジュッ

白騎士「!!」バッ

盗賊「今更取ろうとしても遅えよ」ヒュッ

白騎士「(蹴り飛ばして距離をーー)」

盗賊「(このままじゃ俺まで巻き込まれる。後ろにーー)」

ドガンッッ!

盗賊「…はぁっ…はぁっ…危ねえ」

盗賊「(タイミングが良かった。跳んだ瞬間に蹴り飛ばされてなかったら巻き込まれてたな)」
300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 20:46:41.08 ID:yQJdRAdIO

白騎士「(この眼、機を窺っているな)」

白騎士「(だが、私にも時間はない。何もさせぬまま、このまま押し切る)」グンッ

盗賊「(ちっ、まだ上がんのかよ。くそっ、速過ぎる。これ以上は避けきれねえ……)」グラッ

白騎士「(血を失いすぎたか。捉えたぞ)」

グサッッ!

盗賊「………」ガクンッ

白騎士「右肩を貫いた、利き腕はもう使えまい。この戦、私の勝ちだ。後はあの場所にーー」

盗賊「こうするしか方法はなかった。左手さえ動けば着火出来るからな」

白騎士「……何?」

盗賊「俺の持ってる爆弾は小せえし威力も高くない。でもな、近距離で二つ三つ爆発させれば話は別だ」
301 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 20:51:08.50 ID:yQJdRAdIO

白騎士「だから何だとーー」

盗賊「あんたはすぐに鞭を引き千切ったけど巻き付いた部分は首に残ってる」

盗賊「その鞭の先には爆弾を括り付けてある。爆発すれば甲冑を着けてようが首を吹っ飛ばせる」ジュッ

白騎士「!!」バッ

盗賊「今更取ろうとしても遅えよ」ヒュッ

白騎士「(蹴り飛ばして距離をーー)」

盗賊「(このままじゃ俺まで巻き込まれる。後ろにーー)」

ドガンッッ!

盗賊「…はぁっ…はぁっ…危ねえ」

盗賊「(タイミングが良かった。跳んだ瞬間に蹴り飛ばされてなかったら巻き込まれてたな)」
302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 20:56:50.38 ID:yQJdRAdIO

盗賊「ッ、詰め所に…戻らねえとな……」フラッ

盗賊「(くそっ、意識を保つのがやっとだ。気を抜いて倒れたらそのまま逝っちまう)」

ガシャッ…

白騎士「…ゴボッ…ガフッ…」

盗賊「(おいおい冗談だろ。首吹っ飛んでんのにまだ生きてんのかよ。頭が胸元まで垂れ下がって……)」

白騎士「……右肩を狙わせたのは武器を封じる為か。利き手を失ったのは私の方だったと言うわけだ」ザッ

盗賊「(有り得ねえ。今に分かったことじゃねえが、あいつは本物のバケモノだ)」

白騎士「ゴフッ…鞭を使ったのは先を取る為ではなく、初めからこれを狙ってのこと……」

白騎士「全ては確実に仕留める為の布石。堪え忍び、息を殺し、この時を待っていた。そうであろう?」

盗賊「(もう、声も出ねえな。ここまで来ると笑えてくるぜ)」

白騎士「見事、実に見事。褒めて遣わす。それでこそ私の輪転器に相応しい」
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 22:44:29.67 ID:yQJdRAdIO

盗賊「(何? 今、何て言った?)」

白騎士「私は終わらん。私に死は訪れない。新たな血と肉を得て、私は再び歩き出す」ダッ

盗賊「(……ざけやがって、あんなのどうしろってんだよ。もう策は尽きた。避けようにも体が耳を貸さねえ)」

白騎士「ハハハッ! 体が歓喜に震える。久しい、久しいぞ。そうだ、そうであった」グオッ

盗賊「イカレ野郎が……」

ガシッッ!

盗賊「ぐッ…ゲホッ…」

白騎士「求めるものは苦難の果てにある。それこそが勝利。私の求めるもの」

ダッダッダッ…ドサッ!

盗賊「(ぐっ…この場所は遺体があったとこか? 何だ、さっきより光が……)」
304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/22(木) 23:59:23.58 ID:yQJdRAdIO

白騎士「これで準備は整った」

盗賊「(まさか男に覆い被さられる時が来るなんてな。これが美女なら諦めも付いたのに……)」

ゴシャッ! ズルリ…

盗賊「(今の音は何だ? 垂れ下がった頭が邪魔で何も見えねえ)」

白騎士「今こそ、転生の時……」

ゾブッ…

盗賊「(ッ、何だ。腹ん中に何かが入ってくる。くそっ、すっげえ痛え…力が抜けてく……)」

盗賊「(寒くて冷たくて眠い。今目を閉じたら、さぞや気持ち良く眠れるんだろうな)」
305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 00:25:52.20 ID:U0wfq6ijO

白騎士「貴様の死が、私の新たな始まりだ」

盗賊「(……ああそうか、これが死ってやつか。何か、妙に落ち着くな。悪くねえ気分だ)」

盗賊「(死ぬのはいい。どうせいつかは死ぬんだ。でも、こんな奴に殺されんのは御免だ)」

白騎士「さあ眠れ。私の器として生まれたことを光栄に思うがいい」

盗賊「……そんなに死ぬのが怖いのか。あんた、案外臆病な奴なんだな」

白騎士「まだ減らず口を叩けるとはな。だが、もうじき終わる」

盗賊「……口さえ動けば上等さ。口さえ動けば、喉元に齧り付けるからな」

ガブッッ! ブチブチッ!

白騎士「がッ!?」

盗賊「(これで死ぬかどうか分かんねえ。ただ、やれることはやる。死ぬまで諦めねえ)」
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 01:28:35.59 ID:U0wfq6ijO

白騎士「…ゴブッ…よ…ぜ…やめろ」

盗賊「………」ギチッ

白騎士「やめろォォォッッ!!」

盗賊「………」グイッ

ブチブチッッ! ゴロンッ…

白騎士「」ドサッ

盗賊「……どんな奴でも死ぬときゃ死ぬんだよ。憶えとけ」

ガシャンッ…

盗賊「?」チラッ

盗賊「(兜が外れたのか。つーか、あの顔……まあいいや。何かもう、色々疲れた……)」
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/23(金) 01:33:10.41 ID:U0wfq6ijO
また明日
308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/23(金) 05:31:57.08 ID:ZRDtCuwJo
309 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/24(土) 00:28:28.78 ID:/HbUbsMAO

【これまでのあらすじ】

王の秘宝、輪廻転生機。通称『輪転機』

輪転機を狙って王宮に忍び入った盗賊だったが、宝物庫で目にしたのは寝間着の女性であった。

状況を飲み込めずにいる盗賊に対し、彼女は自分が王女であること、探し求める輪転機が自分であることを告げる。

輪転機とは輪転器。王の力は器を変えて代々受け継がれているのだという。

「わたしを盗みますか?」

盗賊は面倒事になるからとその場を立ち去ろうとするが、駆け付けた騎士に取り抑えられてしまう。

暗殺未遂で処刑を言い渡された盗賊は独房へと入れられたが、さして気にすることもなく看守と談笑していた。

そこへ老人(魔王)が現れる。老人は看守に下がるように言い、盗賊に語り始めた。

「儂の体は長くは保たない」

王位継承の時は刻々と迫っており、この時期になると輪転器暗殺を企む輩が現れる。

何故にそんな話をするのかと問う盗賊に、今や王宮内部の者達は信用出来ないのだと言う。
310 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/24(土) 00:30:23.78 ID:/HbUbsMAO

「儂の娘を、輪転器を盗んでくれ」

王の力が輪転器へと渡るまで彼女を守って欲しい。それが、魔王の依頼であった。

盗賊はその依頼を引き受けると夜に脱獄。再度王宮へと忍び込み、宝物庫にて王女と再会する。

まさかの再会に驚く王女。

彼女は輪転器であることを受け入れながらも、外界への憧れを捨てきれずにいた。

「今から外に出て星を眺めようと思ってるんだけど、良ければ一緒にどうかな?」

盗賊の言葉に大きく心を動かされる王女だったが、自分の我が儘で混乱を招くことを恐れ、決断を下すことが出来ない。

いっそ何も言わず連れ去ってくれたなら。そんなことを考えている間に騎士達の足音が迫っていた。

それでも王女の答えを待つ盗賊。曰く、無理矢理に攫うような真似は好きではないらしい。

「きみは輪転器なんて無機質なモノじゃない。きみは、生きてる」

この言葉により、王女は王宮を出ることを決意する。

「……今からでも、間に合いますか?」

盗賊は王女の願いを叶える為、傷を負いながらも王宮から脱出するのであった。
311 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/24(土) 00:33:44.81 ID:/HbUbsMAO

逃亡中、失血により盗賊が落馬してしまう。

王女の手当てによって傷は塞がったものの盗賊に意識はなく、失血と寒さに身を震わせていた。

「迷う必要なんてない。この人を死なせはしない」

文字通り命を賭して王宮から連れ出してくれた盗賊を救う為、王女は服を脱ぎ、冷え切った体に寄り添った。

一夜が明け、添い寝の甲斐あってか盗賊は意識を取り戻す。

「行くって、何処へ……」

「姫様の自分探しに決まってるだろ?」

こうして、二人は街を目指した。

盗賊は追っ手が来ないことを不審に思いながらも馬を走らせ、街に到着。

王女は門番によるニンゲンへの差別を目の当たりにし、これが世の常識なのだと実感する。

一触即発と思われたが、賄賂によって門を潜り抜け、二人は街に足を踏み入れた。

「な、何だか目が回りそうです」

王宮とは全く違う景色に驚く王女。街の人々はそれぞれがそれぞれの生活をしていた。
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/24(土) 00:38:06.17 ID:/HbUbsMAO

変装用の服を買い。遅めの朝食。

朝食を終え、預けていた白馬を迎えに行こうとするも、何やら騒ぎが起きていた。

見れば厩の辺りに煙が上がっており、急いで駆け付けると野次馬の会話が耳に入る。

『ついさっき兵士の会話を聞いちまったんだが、厩舎の主が焼け死んでたって話だ……』

厩へ近付くと警備兵に呼び止められ、二人は厩の中へと案内される。

警備兵によると盗賊の馬のみが逃げ、他の馬は全て斬殺されたと言う。

そして、壁には盗賊に向けた殴り書きがあった。

「我が王冠は貴様の手に在り。貴様の王冠は我が手に在る。さあ、戴冠の戦を始めよう」

盗賊はその意味が分からぬまま、気を失った王女を背負い宿屋へと向かったのであった。
313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/24(土) 00:52:53.17 ID:/HbUbsMAO

目覚めた王女は、外へ出たことを悔いていた。

「泥棒さんに傷を負わせたのも、厩舎の主さんを死なせてしまったのも、わたしの我が儘が原因です」

これ以上迷惑を掛けるわけにはいかない。王宮に戻る。そう言い出した王女に、盗賊は全てを打ち明けた。

王の依頼内容。輪転器暗殺を企てている存在。何処へ行こうとも君は命を狙われるのだと。

それを聞いた王女は、これまでの行いは全て依頼の為だったのかと涙ながらに問い質す。

「あの時、きみに一目惚れしたんだ。今まで見た何よりも綺麗で、誰よりも輝いて見えた」

更に泣き出す王女であったが、徐々に落ち着きを取り戻し、事件のあらましについて盗賊に訊ねた。

話を聞く内に、王女はある人物を思い出す。それは千年も前に没した白い騎士。

犯人と戦うことを決意した盗賊。その助けになればと思い、王女は語り出した。

王女が白い騎士について話し終えると、盗賊は部屋の前にいた警備兵を招き入れた。

警備兵は王女の言葉を信じ、宿屋よりは安全だと言い、二人を詰め所へと案内する。
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/24(土) 02:02:22.81 ID:/HbUbsMAO

詰め所へ到着した後、盗賊は犯人について警備兵に訊ねたが進展はなかったという。

特に怪しいのは盗賊が馬を預けた直後にやって来た男。盗賊の言うように右手に火傷はあったが何も所持していなかったとのこと。

盗賊がその男に会いに行こうとした時、突如王宮騎士団長が現れる。何故此処が分かったのかと問う王女に、馬の導きだと答える騎士団長。

騎士団長の背後から現れたのは白馬。白馬は逃げ出したのではなく、盗賊の危機を報せる為に走ったのだった。

盗賊は二人に王女を任せ、詰め所を後にする。宿屋に到着し足を踏み入れると、中は血の海であった。

宿泊客全員が殺害されたかと思ったが、犯人と思しき男のみが生きていた。

男は何かに怯えるように小刻みに震えている。盗賊が近付こうすると、男の絶叫と共に何かが現れた。

男の体を突き破って現れたのは白い騎士。白銀の甲冑を着た男が犯人かと思われたが、甲冑が人を着ていたのだ。
315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/24(土) 02:11:01.38 ID:/HbUbsMAO

長い戦いが始まった。

一度距離を取ろうとするが追い付かれ、接近戦を余儀なくされる。

石畳ごと地面を穿つ圧倒的な力に戦慄しながらも間一髪で避け、鞭による奇襲を仕掛ける。

攻撃を掻い潜り鎧通しで刺し貫き、更には心臓を貫くが白い騎士の動きは止まらない。

白い騎士は動揺する盗賊の首を掴み、盗賊を盾に家屋を次々と突き破り、屋根を蹴り跳んだ。

盗賊は内肘を突き刺し空中で拘束を解き、牧場に落下。藁の山に救われる。

焼け跡が淡く光っていることに疑問を持つ盗賊だったが、直後に白い騎士が牧場に降り立ち再び戦いが始まる。

先程とは打って変わり舞うように斬り付けてくる攻撃に付いて行けず、袈裟に斬られてしまう。

身を捩って体勢を立て直したものの白い騎士の猛攻は収まらず、遂には右肩をも貫かれる。

膝を突き敗北したかに見えたが鞭に仕掛けていた爆弾を誘爆させ、首を吹き飛ばすことに成功。

しかしそれでも白い騎士を倒すことは叶わず、遺体現場に組み伏せられてしまう。

盗賊は死を覚悟したが、垂れ下がった首の繊維に齧り付き、白い騎士の頭部を引き千切ろうと試みる。

やめろと叫ぶ白い騎士の声が届くことはなく、頭部を引き千切られ完全に沈黙。

死闘の末に勝利したものの、盗賊は深い微睡みに落ちたのだった。
316 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/24(土) 02:21:06.13 ID:/HbUbsMAO
普通に続き書けば良かった。また明日。
317 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/24(土) 17:06:25.49 ID:paZgWt6xO
あらすじとか必要ないから本編書いてくれよ
318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/24(土) 19:19:14.57 ID:sMx/A2h3o
投下おつ
319 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 00:04:27.76 ID:vxyR53DYO

【詰所】

コンコンッ…

警備兵「誰だ?」

『事件現場の見張りを担当している者です。報告があります』

警備兵「その場で話してくれ」

『裏手の牧場にて白い騎士とニンゲンが交戦。両者共に死亡したかと思われます』

王女「そんなっ!! あなた達は一体何をしてーー」

警備兵「黙っていろ」

王女「!!」ビクッ

『何か問題でも?』

警備兵「いや、何も問題ない。それより死亡したと思われるとは何だ? 生存確認は?」

『いえ、しておりません。その必要はないと判断しました』
320 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/25(日) 00:09:42.97 ID:vxyR53DYO

【詰所】

コンコンッ…

警備兵「誰だ?」

『事件現場の見張りを担当している者です。報告があります』

警備兵「その場で話してくれ」

『裏手の牧場にて白い騎士とニンゲンが交戦。両者共に死亡したかと思われます』

王女「そんなっ!! あなた達は一体何をしてーー」

警備兵「黙っていろ」

王女「!!」ビクッ

『何か問題でも?』

警備兵「いや、何も問題ない。それより死亡したと思われるとは何だ? 死亡確認は?」

『いえ、しておりません。その必要はないと判断しました』
321 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/25(日) 00:42:24.95 ID:vxyR53DYO

警備兵「……今から行く。医者を手配しておけ」

『その必要はないかと思いますが』

警備兵「念の為だ。死亡していた場合は医者の診断書が必要になる」

警備兵「後になって報告書に時間を取られると面倒だ。早い内に済ませたい」

『それもそうですね。了解しました』ザッ

タッタッタッ…

警備兵「申し訳ない。お聞きの通り急用が出来たので少しばかり外します」

騎士団長「ああ、了解した」

王女「…………」

警備兵「では、失礼」ザッ

ガチャ…パタンッ…

王女「……これも、外では当たり前のことなのですか?」
322 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 01:26:38.04 ID:vxyR53DYO

騎士団長「姫様、聞いて下さい」

王女「彼等は警備隊なのでしょう!? 警備隊とは守る立場にある方々ではないのですか!?」

王女「先ほど報告に来た方は現場にいたと言っていました!彼等なら助けられたかもしれない!!」

騎士団長「(姫様……)」

王女「……助けることは出来なくともお医者様は呼べたはずです。なのに放って置くなんて、わたしには理解出来ません」

王女「それも、あんなにも平然としていられるなんて……何故ですか? 彼がニンゲンだからですか?」

騎士団長「……そうです。ニンゲンとは我々にとって『その程度』の存在なのです」
323 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/25(日) 10:16:53.48 ID:OvgkZgD8O

王女「っ、何故そこまで…」

騎士団長「守る立場だからこそです。我々のような者にとって、ニンゲンとは犯罪者でしかない」

王女「全てがそうと言うわけではないでしょう?中には善良なニンゲンもいるはずです」

騎士団長「確かにそうでしょうな。全てのニンゲンが悪であるとは思いません。民間人の中には親しくしている者もいるかもしれません」

騎士団長「しかしながら、私のような立場にある者は犯罪を犯すニンゲンしか知らない」

王女「知らない?」

騎士団長「知らないと言うより、仕事上悪党を相手にすることが圧倒的に多いのです」

騎士団長「その為、私や警備隊の彼等にとってニンゲンとは悪であるという考えが根付いた」

王女「……余りにも偏った考えです。そこに救うべき者がいるのなら種族など関係ないはずです」

騎士団長「そうでしょうな。私もそうあるべきだと思います。しかし、世に平等などない」
324 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 10:41:01.77 ID:OvgkZgD8O

騎士団長「この際、はっきりと言っておきます。姫様が仰っていることは綺麗事です」

王女「!!」

騎士団長「差別もあれば偏見もある。それはニンゲンに限ったことではありません。此方側でも起きていることなのです」

騎士団長「耳や尻尾を持つ者を獣だと迫害する者もいれば、私のように角がある者を野蛮だと罵る者もいる」

王女「………」

騎士団長「……ニンゲンによる殺人事件が起きた場合、そのご家族は誰を憎むと思いますか?」

王女「いきなり何をーー」

騎士団長「彼等は犯人ではなく、ニンゲンという種族そのものを憎みます」

王女「…………」

騎士団長「同族による殺人事件ならば犯人を憎むでしょう。しかし、種族が違えば種族を憎む」
325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 11:09:19.00 ID:OvgkZgD8O

王女「……わたしには、分かりません」

騎士団長「そうでしょうな。姫様には書物で得た知識しかない。彼等が与えられた痛みを見たことがないのですから」

王女「……っ」キュッ

騎士団長「彼等警備隊はその痛みを知っている。何度も何度も見てきたことでしょう」

騎士団長「そして、一度根付いたものは消えることはない。種族の違いとはそれ程までに大きい。姫様、これが現実なのです」

王女「だからニンゲンである彼を見殺しに? ニンゲンならば見殺しにしても構わないと?」

騎士団長「………」

王女「……被害者の家族は犯人ではなくニンゲンそのものを憎む。そう言いましたね」
326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 14:30:44.28 ID:OvgkZgD8O

王女「そのお言葉を返すようですが」

王女「わたしはニンゲンという種族に救われたのではありません。わたしは彼というニンゲンに救われたのです」

王女「彼は彼です。自由で優しい、温かい心を持った…わたしの……」ポロポロ

騎士団長「………」

王女「……彼は境界線を飛び越えて、種族を飛び越えて、わたしをわたしとして連れ出してくれた」

王女「まだ二日と経っていないけれど、彼は短い間に沢山のものを見せてくれたのです……」フラフラ

ガシッ…

王女「離して下さい。彼に会いに行きます……」

騎士団長「なりません。姫様を守ると約束しました。これは奴の頼みでもあります」

王女「…っ…うぅ…わたしは、まだ彼に何も……与えられてばかりで…何も……」ポロポロ
327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/25(日) 23:17:08.89 ID:BGtx0UxZO

王女「お言葉を返すようですが」

王女「わたしはニンゲンという種族に救われたのではありません。わたしは彼というニンゲンに救われたのです」

王女「彼は彼です。自由で優しい、温かい心を持っています。彼は…彼はわたしの……」ポロポロ

騎士団長「………」

王女「……彼は境界線を飛び越えて、種族を飛び越えて、わたしをわたしとして連れ出してくれた」

王女「まだ二日と経っていないけれど、彼は短い間に沢山のものを見せてくれたのです……」フラフラ

ガシッ…

王女「離して下さい。彼に会いに行きます……」

騎士団長「なりません。姫様を守ると約束しました。これは奴の頼みでもあります」

王女「…っ…うぅ…わたしは、まだ彼に何も……与えられてばかりで…何も……」
328 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/26(月) 00:47:45.00 ID:b2rVHaqQO

騎士団長「姫様、落ち着いて下さい。まだ奴が死んだと決まったわけではありません」

騎士団長「此処を出る前に警備兵が医者を手配させたのを憶えていますか?」

王女「……ええ、死亡診断書とやらを書いて貰う為でしょう?」

騎士団長「いえ、私はそうではないと思います。彼は奴に助力するつもりでしたからな」

王女「えっ…」

騎士団長「おそらく、報告書や診断書云々は医者を呼ばせる為の方便」

騎士団長「どうにかしてあのニンゲンを助けたい……」

騎士団長「などと言った所で聞く耳を持たなかったでしょう。あのように言うしかなかったのです」
329 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/26(月) 01:00:42.58 ID:b2rVHaqQO

王女「では、兵士さんは泥棒さんを……」

騎士団長「ええ、助けるつもりです。死亡確認していないのであれば、まだ分かりません」

騎士団長「ですが、先程の報告者は確認するまでもない言っていました。となれば相当の深傷を負っていると見て間違いないでしょう」

王女「……助かる可能性はあるのですね?」

騎士団長「可能性はありますが助かるか否かは分かりません。そればかりは運としか……」

王女「……なら、待ちます。あのっ、先程は取り乱してしまって申し訳ありません」ペコッ

騎士団長「そ、そんなっ、姫様が謝ることなどありません!! 謝らなければならないのは私です。姫様に対してあのような過ぎた口をーー」

王女「お気になさらないで下さい」

王女「あれは警備隊の方々や此方側が抱えている様々な問題。それらを教える為に言って下さったのでしょう?」
330 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/26(月) 01:30:13.97 ID:b2rVHaqQO

騎士団長「………」

王女「現実。そう言われた時は頭をがつんと殴られたような気がしました」

王女「差別について納得は出来ませんが、現実に起きていることとして受け入れようと思います」

王女「ですから、謝ることなどありません。いつまでも無知なままでは駄目ですから」

騎士団長「姫様……」

王女「外は美しい世界だとばかり思っていました。これからは気を付けなければなりませんね」

騎士団長「これから? それは一体どういう……」

王女「泥棒さんが帰って来たら、また旅に出ることになると思いますから」
331 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/26(月) 01:45:03.02 ID:b2rVHaqQO

騎士団長「ですが、生きているかーー」

王女「ええ、生きているかどうかなど分かりません。だからこそ、信じて待ちます」

王女「泥棒さんはすぐに帰ってくると言っていました。だから、きっと大丈夫。きっと……」

騎士団長「(姫様のこんなお姿は見たことがない。たった一日で随分とお変わりになられた)」

騎士団長「(……いや、姫様が変わったのではない。私が姫様のことを何一つ知らなかったのだ)」

騎士団長「(私にとって、姫様があの部屋にいるのは当たり前だった。姫様が苦しんでいることなど知る由もなかった)」

騎士団長「(……違うな。もっと言うなら、私は知ろうとすらしていなかった)」
332 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/26(月) 01:54:56.19 ID:b2rVHaqQO

王女「……どうか、彼をお救い下さい」

騎士団長「(内向的で読書が好きな少女。勝手にそう思い込んでいたが、どうやら違っていたようだな)」

騎士団長「(おそらく、これこそが本来の姫様なのだろう)」

騎士団長「(泣きもすれば笑いもする。感情を露わにするのは変化ではない。当たり前のことだ)」

騎士団長「(しかし、また旅に出たいなどと言い出すとは。出来ることなら一刻も早く王宮へ戻って欲しいが……)」チラッ

王女「……お願いします。彼をお救い下さい」

騎士団長「(奴が生きて帰ったらどうするべきか……今の内にどちらを選ぶか決めておいた方が良さそうだな)」
333 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 01:55:43.99 ID:b2rVHaqQO
また明日
334 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 18:48:26.80 ID:kq6tQuAQO
姫がいくら盗賊庇おうが犯罪者だしな城に侵入する建物破壊する兵士を傷つける……
うん、ゴミ野郎だな盗賊
335 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 20:11:22.65 ID:4ZwKmF14O
ついでに言えば姫様誘拐してるし白馬盗んでるし門番に賄賂渡してるし白騎士のことなんて殺しちゃってるしな
とんでもない極悪人だよ
336 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/27(火) 06:56:58.50 ID:Hhk4OGsIO
極悪人だな盗賊に稼ぎ頭の夫(兵士)が傷つけられて路頭に迷う家庭もあったりするんやろな
337 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/27(火) 07:45:00.80 ID:6mn+ZYD/O
そんな描写ないけど>>336には何が見えてるの?
338 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/27(火) 07:50:15.27 ID:NTKWR3S9o
誰一人傷付けてない上に城を破壊して雇用を生み出す有能盗賊。
なお白馬は、厩舎が爆破された際に見捨てられたところを、盗賊が回収しただけの模様。
339 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/27(火) 19:46:34.50 ID:ojhQIDIBO

【厩舎】

『おい、これ見ろよ』ジャラッ

『こ、こいつは凄え。それ全部金貨かよ。このニンゲンは一体何者だ?大した身なりじゃないが……』

『そんなことはどうだっていい。それよりどうだい? 二人で山分けにしないか?』

『おいおい。死人から剥ぎ取る気か?』

『人聞きの悪いこと言うなよ。どうせ使い道がないんだ。このままじゃ金が泣いちまうだろ?』

『……まあ、それもそうだな。今なら誰にもバレやしない。今のうちに頂いちまおう』

『へへっ、現場の見張りなんて退屈で仕方なかったが、まかさこんなご馳走にありつけるとはな』

『ああ、これで当分は遊んで暮らせる。いっそ警備隊なんぞ辞めてーー』

ザッ…

『『!!?』』

警備兵「厩の前に姿がないから何をしているかと思えば二人揃って死体漁りか」
340 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/27(火) 20:38:40.39 ID:ojhQIDIBO

『何だよ。文句あんのか?』

警備兵「いや? 別に文句はない。ただ、考えていた筋書きと異なる展開なので少々困っている」

『筋書き?』

『まさか独り占めにする気じゃねえだろうな?』

警備兵「……勇敢な警備隊員が殺人鬼に襲われていたニンゲンを助け、殺人鬼を打ち倒した」

警備兵「忌むべきニンゲンをも救おうと奮闘した警備隊員は街の英雄となり、更には莫大な報奨金を手に入れる」

警備兵「事件は解決。警備隊全体の評価も上がる。とまあ、こう考えていた」
341 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/27(火) 20:41:16.51 ID:ojhQIDIBO

『ちなみに、その勇敢な警備隊員ってのは?』

警備兵「お前達以外に誰がいる?」

『……いまいち信用ならないな。あんたは何をしに来た』

警備兵「そこの白い騎士に警備隊が使っている剣を刺しておこうと思ってな」

『何でだよ?』

警備兵「そこのニンゲンに手柄を横取りされては警備隊の面子が潰れるだろう?」

『誰もニンゲンがやったなんて思わねえだろ』

警備兵「甲冑を見てみろ。見る奴が見れば誰がやったか分かる。そのニンゲンが使ったのは特殊な武器のようだしな」
342 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/27(火) 20:44:42.18 ID:ojhQIDIBO

『た、確かにそうかもしれねえな』

警備兵「そこで、警備隊が殺したという確固たる証拠が必要になるわけだ」

警備兵「だが、『今のところ』そんな証拠は何処にもない。さて、どうする」

『なる程、読めたぜ。なければ作れば良いってわけだな?』

『そういうことなら俺達の剣を使ってくれ』ザクッ

警備兵「そうか、それは助かる。二本ともしっかり刺しておこう。報告書にもそう書いておく」

『裏切ったらただじゃおかねえぞ』

警備兵「そんな馬鹿な真似はしない。そんなことをすれば俺も終わるからな」
343 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/27(火) 21:00:25.78 ID:ojhQIDIBO

『共犯ってわけだな。後は頼むぞ』

警備兵「ああ、そうだ。ちょっと待て」

『『?』』

警備兵「名誉の負傷だ。受け取れ」

ヒュッヒュッ…ブシュッッ…

『いぎゃあああ!!』

『ひ、ひぃぃっ!! 腕、腕が!!』

警備兵「傷がなければ不審がられる。それも必要な証拠だ。さっさと医者に行け。血相を変えてな」

『か、肩を貸してくれ』

『ッ、早くしろ。行くぞ』

タッタッタッ…

警備兵「富と名誉の為なら斬られても文句一つ言わないか。欲深い奴らだ」

警備兵「……しかし、奴等が英雄か。あの傷が癒えたら、酒場あたりで女相手に得意気に語るのだろうな」
344 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/27(火) 21:04:10.97 ID:ojhQIDIBO

『共犯ってわけだな。後は頼むぞ』

警備兵「ちょっと待て」

『『?』』

警備兵「名誉の負傷だ。受け取れ」

ヒュッヒュッ…ブシュッッ…

『いぎゃあああ!!』

『ひ、ひぃぃっ!! 腕、腕が!!』

警備兵「傷がなければ不審がられる。それも必要な証拠だ。さっさと医者に行け。血相を変えてな」

『か、肩を貸してくれ』

『ッ、早くしろ。行くぞ』

タッタッタッ…

警備兵「富と名声の為なら斬られても文句一つ言わないか。欲深い奴らだ」

警備兵「……しかし、奴等が英雄か。あの傷が癒えたら、酒場あたりで女相手に得意気に語るのだろうな」
345 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/27(火) 22:13:11.39 ID:ojhQIDIBO

警備兵「…チッ…まあいい。おい、人払いは済んだ。もう出て来ていいぞ」

ガサガサッ…

医師「………」

警備兵「何をしてる。さっさと始めろ」

医師「あんたも警備隊だろ? 何でそこまでしてニンゲンをーー」

警備兵「いいからさっさとしろ。それから、来る途中にも言ったはずだ。お前に拒否権はない」

医師「……例の件、本当に見逃してくれるんだろうな」

警備兵「ああ、助けることが出来たらな」

医師「っ、畜生。何でニンゲンなんか治療しなけりゃならないんだ……」ブツブツ

カチャカチャ…ヂョキヂョキ…

医師「……酷いな。脈はあるが助かるかどうか分からんぞ。適切な処置をしても見込み薄だ」
346 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/27(火) 22:28:15.00 ID:ojhQIDIBO

警備兵「…………」

医師「も、勿論全力は尽くす。けどな、助からなくても文句は言うなよ」

警備兵「文句は言わないが口が滑るかもしれないな。怪しげな薬を売り捌いて違法に利益をーー」

医師「分かった!分かったよ!! やれば良いんだろ!!」

キュポンッ…バシャバシャ…

警備兵「今の液体は?」

医師「消毒と止血剤だ。微量の麻痺毒も混ぜてある。体が跳ねるかもしれないから抑えててくれ」

警備兵「分かった」ガシッ

医師「しっかし、この傷で生きてるのが不思議なくらいだ。普通ならとっくに……ん?」

警備兵「どうした?」

医師「臍の辺りに何かが刺さってる。何かの破片のようだが……まずはこっちだな」
347 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/27(火) 23:00:51.59 ID:ojhQIDIBO

ジクジク…

医師「……なあ、やっぱり聞かせてくれないか」

医師「何でニンゲンを助ける? あんたは今まで何人ものニンゲンを取っ捕まえてきた」

医師「殺したことだってあるはずだ。それなのに何故だ? どうにも理解出来ない」

警備兵「お喋りな医者だな。まずは自分の口を縫ったらどうだ」

医師「真面目に聞いてるんだ。答えくれ」

警備兵「……偽りの名声を得る為に斬られる奴。誰かの為に命を張る奴。お前ならどっちを取る」

医師「それは後者だろうよ。ニンゲンじゃなければな」

警備兵「そうだな、ニンゲンじゃなければ隠れて助ける必要もなかった。あんな奴等に手柄をくれてやることも……」

医師「……あんたがそこまでして助けるなんて今でも信じられない。そんなに良い奴なのか?」
348 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/27(火) 23:06:09.07 ID:ojhQIDIBO

警備兵「いいや、悪党だ。王宮に侵入して王の秘宝を盗もうとして捕まった」

医師「そんな馬鹿な……冗談だろ? そんなことしたってんなら既に処刑されてるはずだ」

警備兵「…………」

医師「……マジなのか?」

警備兵「ああ、これ以上詳しくは言えないがな」

医師「だったら尚更だ。何で助ける?」

警備兵「馬鹿だからだ」

医師「は?」

警備兵「このニンゲンは此方側の女の為に命を張って戦った。たった一人で、助けを求める素振りも見せずにな」

警備兵「まるで種族なんぞ関係ないように振る舞って、当然のように一人で戦いに行ったんだ」

医師「それでこのザマってわけか。正しく馬鹿で愚か者だな。満足げな顔しやがって……」
349 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/27(火) 23:37:58.77 ID:ojhQIDIBO

警備兵「気に入らないだろ?」

医師「気に入らないな。この顔を見てると腹が立ってくる。いけ好かない奴だ」

ビクンッ!

医師「っ、始まったか。しっかり抑えててくれよ」

警備兵「ああ、分かっている」ガシッ

医師「……その女ってのはさぞかしイイ女なんだろうな。男を馬鹿にさせるくらいに」

警備兵「そんな魔性ではない。確かに美しいが世を知らぬ箱入り娘だ。純粋で疑うことを知らない」

医師「そういう女の方がそそるのかね。まあ、分からんでもないな。守りたくなるってやつか?」

警備兵「かもしれないな。俺は御免被るが」

医師「何でだい?」

警備兵「彼女と共にいれば命が幾つあっても足りないからだ。傍にいれば『こうなる』」

医師「何でまた、そんな厄介な女に……」

警備兵「言っただろう。馬鹿なんだよ、こいつは……だから何としても助けたい。そして、俺が捕まえる」

医師「……そうか、なら協力しないとな。こんな凶悪犯をあの世に逃がすわけにはいかない」
350 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/28(水) 00:13:48.96 ID:uSRogMXUO

ジクジク…ヌリヌリ…

医師「……よし。後は破片だけだな」

警備兵「これは?」

医師「白銀のように見えるな。しかし妙だ。出血が全くない。刺さっていると言うより、めり込んでいるような……」

医師「とにかく引き抜いてみるしかない。金属片というのは厄介だからな。これで挟んで……」カチッ

ズズ…ズルリ…

警備兵「……長いな。こんなものが腹に入っていたのか」

医師「まるで結晶柱のようだ。綺麗に磨き上げられてる。それより見てくれ、引き抜いた箇所には傷一つない」

警備兵「こんなことが有り得るのか? 傷を負わせずに杭を打ち込むようなものだぞ?」

医師「……何かは分からないが、下手に触らなくて正解だった。小瓶に入れておこう」
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/28(水) 00:16:58.82 ID:uSRogMXUO

医師「(しかし気味が悪いな)」

医師「(微かに脈があるような気がする。まるで生きているようだ……)」

カチャカチャ…カランッ…キュッ…

医師「ふ〜っ、これで終わりだ。最善は尽くした」

警備兵「いや、まだ終わっていない。運ぶのを手伝え」

医師「…ハァ…ああ、分かったよ。しかし当てはあるのか?」

警備兵「ある。そこの荷車に乗せて運ぶぞ。急げ」

医師「まったく、本当に人使いの荒いお人だな。俺は医師だぞ? 走るのは馬の仕事だ」

警備兵「さっさとしろ。準備は良いな?行くぞ」

医師「準備もなにも拒否権は無いんだろ? 分かってるよ」ハァ

ガラガラガラ…
352 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/28(水) 00:58:13.61 ID:uSRogMXUO

ーーー
ーー


『気でも狂ったか白騎士よ』

『私は正気だ。ただ、仕える人物を間違えた。私が仕えるべきは貴様ではない』

『呑まれたか。哀れな男だ……』

『哀れ? 哀れだと? 貴様に私を哀れむ資格など微塵もない。貴様も所詮は王の傀儡だ』

『……我が国の英雄の最期がこれか。やはり渡すべきではなかったな』

『何とでも言うがいい。私が仕えると決めたのは生涯ただ一人。彼女だけだ』

『聞け、白騎士。彼女はもういないのだ。正気を取り戻せ、それに呑まれるな』

『ならば待つまでだ。百年だろうと千年だろうと待ち続けよう。彼女は必ずや蘇る』
353 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/28(水) 01:40:31.20 ID:uSRogMXUO

『……最早何を言っても無駄なようだな』

『私が勝利を捧げるべきは彼女のみ。勝利は我が手に在り。いざ、参る』

盗賊「ッ!!」ガバッ

ゴツンッ!

盗賊「(ッ、いってえ!! 体中が痛え!!)」

盗賊「(あ〜痛え。ていうか暗いし狭いな。これは蓋か? 足で押してみるか)」ググッ

ギギィッ…ガコンッ……

盗賊「(開いた…けど薄暗いな。此処はどこだ? つーかこれ棺桶じゃねえか。死んだと思われたのかな)」

盗賊「(でも、毛布が掛けてあるってことは生きてるの分かってて棺桶に入れたってことだよな)」

盗賊「(……端っこに机と椅子がある。机の上にあんのは姫様の日記か?)」

盗賊「(ってことは姫様は無事なのか。でも何だってこんなとこにーー)」

コツコツ…ガチャッ…

王女「泥棒さん、林檎と葡萄の絞り汁を持って来ました。少しでも栄養を取らなーー」ポトッ

盗賊「………えっ〜と、お帰りなさい。いや、ただいま?」
354 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/28(水) 01:42:03.36 ID:uSRogMXUO
また明日
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/28(水) 01:48:09.76 ID:uSRogMXUO

『……最早何を言っても無駄なようだな』

『私が勝利を捧げるべきは彼女のみ。勝利は我が手に在り。いざ、参る』

盗賊「ッ!!」ガバッ

ゴツンッ!

盗賊「(ッ、いってえ!! 体中が痛え!!)」

盗賊「(あ〜痛え。ていうか暗いし狭いな。蓋でもされてんのかな? 足で押してみるか)」ググッ

ギギィッ…ガコンッ……

盗賊「(おっ、開いた…けど薄暗いな。此処はどこだ? つーかこれ棺桶じゃねえか。死んだと思われたのかな)」

盗賊「(でも、毛布が掛けてあるってことは生きてるの分かってて棺桶に入れたってことだよな)」

盗賊「(……端っこに机と椅子がある。机の上にあんのは姫様の日記か?)」

盗賊「(ってことは姫様は無事なのか。でも何だってこんなとこにーー)」

コツコツ…ガチャッ…

王女「泥棒さん、林檎と葡萄の絞り汁を持って来ましたよ。少しでも栄養を取らなーー」ポトッ

盗賊「………え〜っと、お帰りなさい? いや、ただいま?」
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/28(水) 01:49:13.69 ID:uSRogMXUO
また明日
357 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/28(水) 02:06:07.16 ID:GTF8G2J50
358 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/28(水) 20:09:32.91 ID:C1mbaYfEo
凄い引き込まれるな
一気に読んで追いついた
359 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/29(木) 00:28:09.35 ID:Qgswn/tEO

王女「泥棒さん…グスッ…よかった……」ペタン

盗賊「お、おいっ…」

王女「お医者様に意識が戻らないかもしれないって言われて、傷も酷いし体はとっても冷たくって……」ポロポロ

盗賊「……そうだったのか」

王女「わたしを連れ出してくれたあの日から泥棒さんは傷を負ってばかりです。本当に、本当にごめんないっ」

盗賊「この傷は姫様に負わされたものじゃない。姫様が謝ることはないよ」

王女「でもっ、わたしは何もしてあげられない。あなたに与えられてばかりで何も……」

盗賊「姫様、自分のことをそんな風に思ってたのか。そんなことないのに」

王女「へっ?」

盗賊「俺は姫様に色んなものを貰ってる。だからさ、そんな悲しい顔しないでくれ」
360 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/29(木) 01:18:49.55 ID:Qgswn/tEO

王女「…グスッ…何をです?」

盗賊「えっ? 何って何が?」

王女「わたしに貰っていると言いました。わたしは泥棒さんに何かを与えているのですか?」

盗賊「何って言われると上手く言えないけど、傍にいてくれりゃあそれでいいよ」

王女「……あ、ありがとうございますっ」カァァァ

盗賊「よっと」スタッ

王女「あっ、急に動いては体に障ります。まだ横になっていないと……」

盗賊「んなこと言われてもな。さっきから腰を抜かして立てないんだろ? ほら」スッ
361 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/29(木) 01:54:11.40 ID:DEEXV1bcO

王女「(左手。やっぱり右手はまだ……)」

盗賊「どうした?」

王女「い、いえっ。何でもありません……」スッ

ギュッ…グイッ…

盗賊「そういや、さっき何か落としたみたいだけど。あぁ、これか?」ヒョイ

王女「あ、それは軟膏です。右肩の刺し傷と胸の切り傷、それから背中にも塗るようにとお医者に渡されました」

盗賊「へ〜、そりゃありがたいな」

王女「後はこれを頂きました。葡萄や林檎をすり潰して作った飲み物です」

盗賊「美味そうだな、早速飲んでもいいか?」

王女「ええ、どうぞ。ゆっくりと飲んで下さいね?」スッ

盗賊「ん、分かった。んっ…ゲホッゲホッ…」

王女「だ、大丈夫ですか!?」

盗賊「ゲホッ…悪い。気を付けて飲んだつもりだったんだけどな……」
362 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/30(金) 00:38:09.00 ID:J4JnjP9PO

王女「っ、泥棒さん」

盗賊「けほっ…けほっ…ん?」

王女「ちょっとずつ。口に含んでからゆっくりと飲んでみて下さい」

盗賊「そうするよ……んっ…お〜、めちゃくちゃ美味いなこれ。じわってくる」

王女「……よかった。さっきは口に含んだ量が多かったので体が驚いたんだと思います」

盗賊「胃とか弱ってんのかな。腹は減ってんだけど、この調子じゃ食うのは無理そう…ッ」クラッ

王女「!!」

ギュッ…

盗賊「っと……悪い、ちょっとふらついた。もう大丈夫だ。一人で立てる」

王女「……無理はしないで下さい。立っているだけでも負担は掛かります。横になりましょう?」
363 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/30(金) 01:14:47.02 ID:J4JnjP9PO

盗賊「えっ、せっかく棺桶から這い出たのに永眠しろとーー」

王女「泥棒さん、掴まって下さい。それから永眠とか言わないで下さい。そういう冗談は嫌いです」

盗賊「ハイ、ゴメンナサイ」

王女「んっしょ…」ギュッ

トコ…トコ…トサッ…

王女「ふぅ…大丈夫ですか?」

盗賊「あ、うん。つーか姫様に運ばれるのはこれで二回目だな。ありがとう」

王女「………」キュッ

盗賊「?」

王女「……こんな聞き方は狡いですけれど、泥棒さんは後悔していませんか?」
364 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/30(金) 02:20:47.37 ID:J4JnjP9PO

盗賊「人生に?」

王女「………」

盗賊「冗談、冗談だから。で、何に後悔してるって?」

王女「それはその……『こうなって』しまったことに。です」

盗賊「ない。これっぽっちもない。そもそも俺が攫ったんだ。後悔なんてするわけない」

盗賊「姫様は後悔してんのか? あの時、外に出たいなんて言わなかったら良かったってさ」

王女「外に出たことに後悔はありません。けれど、それによって巻き込まれ命を奪われた人がいます」

王女「あの時、泥棒さんはわたしの人生だと言ってくれました。その時、わたしは自由に触れたいと思ったのです。自分の思うように生きてみたいと……」

王女「でも、自由とは無関係の方々まで巻き込んで手にするものなのでしょうか……」
365 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/30(金) 18:14:17.61 ID:RlZ2n5szO

盗賊「人生に?」

王女「………」

盗賊「冗談、冗談だから。で、何に後悔してるって?」

王女「それはその……『こうなって』しまったことに。です」

盗賊「ないよ。これっぽっちもね」

盗賊「姫様は後悔してんのか? あの時、外に出たいなんて言わなかったら良かったってさ」

王女「……外に出たことに後悔はありません。けれど、それによって命を奪われた方がいます」

王女「泥棒さんはわたしの人生だと言ってくれました。そう言われた時、わたしは自由に触れてみたいと思いました。自分の思うように生きてみたいと」

王女「でも、それは無関係の方々の命を奪ってまで欲するべきものなのでしょうか……」
366 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/30(金) 18:16:46.04 ID:RlZ2n5szO

盗賊「かなり思い悩んでるみたいだけど、姫様が自分を責める必要は全くないぜ?」

盗賊「殺しの動機は分かんねえけど、命を奪ったのは紛れもなく白い騎士の仕業なんだ」

王女「でも、犯人はわたしを狙ってこの街にーー」

盗賊「その前提から間違ってる。奴は姫様を狙ってこの街に来たんじゃない。俺を狙って来たんだ」

王女「……えっ」

盗賊「俺も最初は姫様を狙って来たもんだと思ってたよ。でも違ったんだ」

王女「あの、何故そう言い切れるのですか?」

盗賊「奴は俺のことを輪転器だと言った」

王女「!?」

盗賊「びっくりだろ? 奴は初めから俺を狙ってたんだ。実際、姫様のとこに向かう素振りは一切見せなかったしな」
367 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/30(金) 21:10:32.16 ID:RlZ2n5szO

王女「い、意味が分かりません。何で泥棒さんを輪転器だなんて言ったのでしょう?」

盗賊「さあね、俺にもさっぱりだ。でも、奴は確かに輪転器と言った」

盗賊「私の器として生まれたことを光栄に思え。今こそ転生する。そう言ってたよ」

王女「ですが、輪転器とは王のみが所持するものなのですよ?」

盗賊「ああ知ってる。だからこそ秘宝って呼ばれてるわけだしな。でも、それだけじゃない」

王女「?」

盗賊「奴にとどめを刺した時、あるものを見たんだ」

盗賊「血を流し過ぎて頭がおかしくなったのか幻覚を見たのかもしれない。それを踏まえた上で聞いてくれ」

王女「えっ…は、はい。分かりました」

盗賊「意識を失う直前、奴の顔を見た」

盗賊「……俺と同じ顔。まるで水面に映したみたいにそっくりだった」
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