【艦これ】提督「風病」 2【SS】

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1 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/08/06(日) 01:00:34.74 ID:Yh/EkjdW0
バグで続きを投下できそうにないので新スレを立てました。
こちらは風病の続きとなっております。

・前スレ
【艦これ】提督「風病」【SS】
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1423330282/

・twitter
https://mobile.twitter.com/hl_zikaki

新スレでもよろしくお願いします。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1501948834
2 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/08/06(日) 01:06:07.27 ID:Yh/EkjdW0





第三章
「霹靂」





3 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/08/06(日) 01:08:18.33 ID:Yh/EkjdW0

 罪を犯すということは、まっさらなキャンバスに絵を描いてしまうようなものである。

 元の、何も描かれていない状態に戻すことはできない。

 だが、消せないとしても薄めることは可能である。

 例えば時間。時間はすべての万能薬であるという表現はまさに的を射ており、それは罪に対してもあてはまってしまう。場合によっては、思い出にまで昇華されてしまうことだってある。少年時代の悪行は、大人になれば酒を進める題材として扱われるようになるのはよくある話だ。

 しかし、時間は遅効性である。緩く穏やかで、人間の良心に期待し依存する。全ての人間に平等に与えられる薬ではあるが、それで許される罪というのは実に軽い。

 だから、重い罪に対しては時間に合わせて、もう一つ劇薬が必要となってくる。

 それは、その罪に相応の罰を指す。

 だから俺は、浜風へ劇薬を与えることに決めた。不本意ではあるが、それが責任のある立場についた人間の果たすべき役割でもあるから。

 浜風は薬を受け入れた。不満など一つも漏らすことなく、穏やかに微笑みながら艤装を背負った。

榛名『――撃ち方、やめ! 両者元の位置に戻ってください』

 榛名のアナウンスが聞こえる。甲高い砲音が止み、海は静けさを取り戻す。

 二本の白波が引き合うように広がっていた。浜風と、対戦相手の深雪、両者の脚部ユニットのスクリューが作り出す人工的な波だ。両者はところどころペイント弾の粘っこい色味を体に浸み込ませて、ペンキを被ったかのごとき有様になっている。

 俺は双眼鏡の倍率を上げて、浜風を見た。

 一目見た瞬間、疲弊しきっていることが分かった。肩で息をして、航行が若干おぼつかなくなっている。疲労が足にきて震えているからだろう。無理もない。深雪との戦闘で三十一試合目だ。どれだけ屈強に鍛え上げた戦士であろうとも動けなくなってもおかしくはないくらいの対戦数である。

 苦し気に歪んだ浜風の表情をみていると、胸が締め付けられる。

 頑張れ。心の中でそう叫んでしまう。

 だが、声に出すことは許されない。喉から出そうになった声を、下唇を噛んで堪えた。

 この試合こそ、浜風に与えた罰なのだから。
4 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/08/06(日) 01:12:02.62 ID:Yh/EkjdW0

 五十人組手。艦娘の演習試合において最も難易度の高い荒行の一つである。原則として一対一の決闘の形をとり、一試合の長さは三分であるが、大破判定が出ても続行不可能と判断されるまで試合は続く。その苦しさはまさに地獄と表現されるほどのものである。これに挑戦したものは過去十名ほどしかおらず、その中で達成したものは三名しかいないことからもそれは明らかだ。挑戦したもののほとんどは戦闘における負傷のみならず、脱水症状や肝機能不全などで演習終了後に入渠による治療を受けている。

 この荒行はあくまで『挑戦』の一種で、罰として実施するのはこれまでの事例にはない。それも当然、罰と言えば謹慎や体罰などが一般的だからだ。だが、浜風の犯した罪の重さを考えれば、通常の罰では到底贖えるとはいえない。俺はともかく、周囲はその程度では納得しない。浜風の今後の生活のためにも、ここにいる者たちの多くを納得させる形で罰を受けさせる必要があった。

 その手段として、この荒行の実施を決めた。

 死刑に比べれば軽いかもしれないが、それでも誰も実施したがらないような苦行には変わりない。実際、この罰を実施するにあたって最初は眉を顰めていたものたちも、今では浜風の奮闘ぶりを固唾を呑んで見守っているし、応援するものまで現れている。

 この罰の実施自体は成功していると言えるだろう。

 ただ、問題は浜風が耐えられるかどうか、だ。

 俺は次の対戦相手を目にして、息を飲んだ。

 とうとう彼女の出番か。

 陽炎。

 赤い髪を靡かせる彼女の目つきは獣のように鋭い。浜風が疲弊しきっているからといって、一切の手心を加える気がないのだろう。鈍く光る鋼鉄の義手を揉んで、腰辺りに取り付けられた第一砲塔のハンドルを触っている。隻腕でも引き金を引けるように改造された障がい者用の特殊艤装。ハンドルの動きに合わせ仰角や方向を変えられるようになっており、砲身がすべて浜風へと牙を剥いた。

 周囲のざわつきが一層大きくなった。陽炎の気迫が波のように広がり、伝わっている。

榛名『両者、位置について』

 榛名の声が、少しだけ震えていた。

榛名『――打ち方はじめ!』
5 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/08/06(日) 01:14:08.10 ID:Yh/EkjdW0

 陽炎が斉射を放った。轟音に叩きつけられる。頭の先から下腹まで電流のような震えが走り抜け、無意識に息を止めてしまう。息を吐く間もなく連撃が加えられた。

 反応が遅れた浜風はなす術なく水柱に包まれた。いや、もはや水の壁というべきだろうか。浜風の姿が視認できない。

 陽炎は走った。第二、第三、最大戦速で接近する。陽炎の艤装は並の艦娘のそれよりも性能が高く、トップスピードに至るまでの時間が優に速い。卓越した運動神経と艤装適正をもつ彼女だからこそ扱える「特別製」だ。

 かなりの接近を許した段階で、浜風はようやく水柱から出てきた。右舷側に抜ける形で走行する。先ほどの斉射をくらったのか、新しい塗料がこべりついている。組手が始まって四度目の大破判定。普通の演習ならこの時点で終了だが、五十人組手はここで終わらない。

 三分間、陽炎の攻撃を堪える必要がある。

 浜風は肉薄する陽炎に気づき砲を構えた。ギリギリのタイミングである。砲身を陽炎の眼前につきつけ、引き金を引いた瞬間――。

 陽炎の姿が消えた。ふっと、瞬きをする間もなく、霧のように。

 上だ。陽炎は、浜風が砲撃を行うその瞬間に跳躍したのだ。空気抵抗も摩擦も慣性も重力も、すべてを忘れたかのような鮮やかすぎる動きだった。遠くから観戦している俺も思わず見失いかけるほどの常識を逸した回避行動。人間に、いや「船」である艦娘に出来る動きではない。

 会場が静まり返った。刹那のこと。空気が凍ったその一瞬、陽炎が浜風の真後ろに着地し、浜風の砲弾が水柱を上げた。

 二人の姿が、巻き起こった水の中に消えた。

時津風「な、なにが起こったの……?」

 時津風の呟きは、この場にいるほとんどの者の感想を代弁していた。

 戦いが始まってまだ二十秒も経っていない。

 俺たちの認識が追いつかない。

 浜風が、水柱を突き破って出てきた。
6 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/08/06(日) 01:15:29.40 ID:Yh/EkjdW0

「……ひっ!」

 誰かの押し殺した悲鳴が上がる。浜風の右腕があり得ない方向に捻じ曲がっている。

 思わず口を押さえた。

 陽炎が、関節技で破壊したのだろう。

 歯を噛み締め、浜風は連装砲を構えた。が、水柱を切るような陽炎の鋭い蹴りが浜風の腕を跳ね上げた。軌道をずらされ、砲弾が空へと消える。瞬間、途切れることなく陽炎の反対の足が跳ね上がる。回転蹴りが浜風の眉間を捉えた。

 よろめく浜風。装甲の効果で打撃のダメージはほとんどないが、それでも寸瞬間の目くらましには十分である。

 着地した陽炎は浜風の腕を掴むと、勢いよく引っ張った。ぐんと伸びきった直後に足をかけ、浜風をうつ伏せに倒すとそのまま脇固めへと移行する。極まった。なんとか抜けようと足掻く浜風だったが、それを許すような陽炎ではない。鷹のように鋭い目つきで、体重をかけた。

 ゴムが千切れるような音が聞こえた。

 それは錯覚である。距離の関係上、聞こえるはずがない。だが、たしかに俺の耳には聞こえた。それだけ陽炎の関節技が見事に極まっていたということなのだろう。みんなが、小さく呻いた。

 見ていられなくて目を閉じた。

 これ以上はもう……もう無理だ。

 陽炎、すまない。

 俺は手を挙げて、無線を繋いだ。

提督「試合を中止しろ」
7 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/08/06(日) 01:16:46.31 ID:Yh/EkjdW0



 
 
 廊下に乾いた音が響いた。陽炎の平手打ちが俺の頬で爆ぜたのだ。

 足から力が抜け、思わず尻餅をついてしまった。目の前が真っ白に染まり、鼓膜が痺れる。

 手加減されてはいるが、怒りの乗った一撃だった。重い。鍛えていない人間なら頚椎を痛めただろう。

陽炎「……失礼しました」

 陽炎が目を伏せ、謝罪を述べた。

陽炎「不敬を働いてしまいました。罰は、どんなものでも受けます」

提督「いや、いい」

 口の中が鉄臭い。口元を拭うと、立ち上がる。若干の立ち眩みを覚えたが、なんとか堪えた。赤く染まった袖を見ないふりして、陽炎の肩に手を置く。

提督「この件は不問にする。……こちらこそ、無理をさせてすまなかった」

 先ほどの五十人組手で、手加減をせず徹底的に浜風を攻撃した陽炎だったが、あれは俺の命令を受けてのことであった。

 浜風の無断出撃を不問にするためには、ある程度の材料が必要となってくる。五十人組手はそのための一つのカードで、それをさらに強化する手段が陽炎に下した命令だ。

 要は演出である。陽炎が浜風と旧知の仲であることは周知されていることだし、その陽炎が浜風相手に容赦のない攻撃を行い、徹底して「罰」を与えれば、周りも納得せざるをえなくなる。後日、浜風の件は不問にすると問題なく宣言できるようになるのだ。表面的な不満や反発が浜風へ向くこともなくなるだろう。
 
 だが、この命令はあまりにも悪趣味なものだ。言い換えるなら、公開拷問に加担しろと言っているようなものだから。陽炎が憤慨するのは当然だ。いくら理屈を述べようと、親友を痛めつけることを感情的な部分で納得できるわけがない。

 俺が頭を下げようとすると、陽炎は手で静止した。
8 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/08/06(日) 01:20:27.29 ID:Yh/EkjdW0

陽炎「……もう、こんなことは二度とやりません」

提督「ああ」

陽炎「後は上手くやってください。提督なら、みんなを納得させられると思います」

 苦笑いを浮かべそうになった気持ちは、胸中に押し隠す。この事態の遠因は、俺の甘さと俺の「平等主義」にあるのだ。

 まったく、皮肉な話である。

 陽炎は、俺の手を振り払うように距離を取ると、窓辺に寄り掛かって海を見た。一雨くるのだろうか。重たく覆うような雲に仄暗い黒さが沈んでいる。アメジストの瞳が、切なげに揺れる波を受け止めていた。

 ぬるい潮風が、カーテンと俺たちを揺らす。

陽炎「浜風のこと、大切にしてあげてくださいね」

提督「約束するよ」

陽炎「本当ですよ? あの子は、ああ見ても繊細なんですから」

 たしかに、繊細かもしれない。

 ほとんど表情の起伏がなく、普段は凍るように冷静でニヒルだが、彼女の内面は誰よりも複雑で、しかし純粋だと思う。

 意味のない命令違反も、病室で取り乱したときのことも……あの、温もりを知ったときの涙も。

 浜風という少女の脆さが形となったものだ。

 ここにいるみんなと、変わらない。だからこそ、大切にしなければならない。守らなければならない。

提督「浜風は、俺が守るよ」

陽炎「……」

 陽炎が、小さく笑った気がした。

陽炎「なら、安心ですね。ここにいるみんなと同じように、守ってあげてください」

 頷くと、陽炎は踵を返して歩き出した。
9 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/08/06(日) 01:23:03.38 ID:Yh/EkjdW0

陽炎「それでは、私はそろそろ仕事に戻りますね。先日の遠征結果のレポート、上げないといけませんし」

提督「そうだったな。明日までには提出してくれよ」

陽炎「ええ、ええ。分かってますとも。……それより、後ろに大きな猫が隠れていますから、気をつけてください提督」

提督「え?」

 ……猫?

 瞬きをしているうちに、陽炎は廊下の角を曲がってしまった。

 俺は首を捻りながら、振り返る。

浜風「……猫ですか、私は」

 廊下の角から、浜風がひょっこりと顔を出していた。猫と言われたのが少々不満だったのか、小さく頬を膨らませている。

提督「聞いていたのか」

浜風「ええ。本館についたのはついさっきなので、少ししか聞いていませんが…….」

 浜風は珍しく言葉を詰まらせて、こちらを伺うようにしている。

浜風「その……本当、ですか?」

提督「……なにが?」

浜風「私を守る、というのは……」

 遠慮がちに、上目遣いで、言葉尻を弱らせながら訊いてきた。頬に朱が差しているように見えるのは、廊下を照らす光のせいではない。

 なんとなく決まりが悪くて頬をかいた。

提督「それは……その、そうだな」

浜風「……」

提督「それより、浜風。身体は大丈夫なのか? さっきまで入渠して戻ってきたばかりだろ」

浜風「体調は大丈夫ですよ。……話を逸らさないで」

 ダメか。

提督「……えっと」

浜風「……」

提督「……本当だよ。なにがあっても、その……俺は浜風の味方だから」

 顔を伏せてしまったのは仕方がないと思う。

 恥ずかしいなんてものじゃない。浜風の顔を見ることなんて、とてもじゃないができない。
10 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/08/06(日) 01:26:02.99 ID:Yh/EkjdW0

浜風「そうですか」

 浜風の声は少しだけ弾んでいた。

浜風「ふふ、提督が守ってくれるなら、とても頼もしいですね」

提督「……そんなことないよ」

 そんなことあるわけない。

 俺は頼もしさなんてものとは無縁の人間だ。

浜風「そんなこと、あります。あなたは、私に温もりをくれた人だから」

 それは、ただの錯覚にすぎない。盲目になっているだけ。

 そう思いながらも言えなかったのは、彼女が向けてくれる信頼に水を差すのが躊躇われたためである。怖かったのだ。昔から、俺はそうだ。期待を失うことに堪えられない。堪えられないのだ。

浜風「あの提督……。お願いが、あります」

提督「なんだ?」

浜風「もう一度、手を握ってください」

 まるでお菓子をねだる臆病な子供のように。甘く、それでいて遠慮を感じさせる声で、そう言った。

 顔をゆっくりと上げる。薄い朱色に頬を染めた浜風は、まるで瑞々しい果実のようであった。かつての死んだように冷たい少女の面影はそこにはない。

 静かに差し出された手を見る。淡い電灯の光を吸い込んだしなやかな手は、美しいの一言につきた。

 俺が躊躇っていると、浜風の眉が少しずつハの字を書き始めた。

 ええい、仕方がない。

 俺は浜風の手を取った。雪のように冷たい手であった。それが重ねられ、冷たさに挟まれる。だが、愛おしさを感じさせる手つきだった。

浜風「えへへ……」

 浜風の頬が綻び、解れた。

浜風「温かいです、とても」

提督「……」

浜風「温かい……」

 じっくりと味わうように撫でられる。さすがに気恥ずかしくてたまらない。

 だが、浜風の笑顔を見ていると、離せなくなってしまう。

 死の病が取り払われた美しい笑顔を、少しでも翳らせたくないから。
11 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/08/06(日) 01:27:50.44 ID:Yh/EkjdW0

雷「司令官」

 凍てつくように冷たい声がした。感情が欠片もない、抑揚というものを限りなく抹殺した声である。背筋を走り抜けた悪寒に、思わず肩が震えた。

 浜風の後ろに、雷が立っていた。

提督「い、雷……」

 廊下が暗くなったのは、雲がさらに深まったからではない。目に光がない雷の異様さに空気が支配されたためだ。

 浜風の手を振り払ってしまう。遠ざかった温もりを惜しむ小さな呟きが余韻を漂わせた。

雷「……執務室にいないと思ったら、こんなところで油売っていたんだ。仕事、まだ終わってないでしょ?」

提督「あ、ああ……」

雷「さっさと戻るわよ」

 雷は有無を言わさず俺の手を取ると、信じられないほどの力で俺を引っ張った。ぐん、と身体ごと持って行かれる。

提督「い、雷……。痛い、もう少しゆっくり……」

 雷は答えず、ずんずんと進む。

 背後から感じる鋭い気配は、苛立ちの具現化というべきもので。彼女はこうなると俺の言うことなどまったく聞きはしない。

 諦めて大人しく従うしかない。

 俺は浜風の方を見た。

浜風「……」

 青い瞳が、じっとこちらに向けられている。

 先ほどとは違って、感情の篭っていない瞳だった。

 彼女が何かを呟いた。

 何を言っているかは、分からなかった。


 
12 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/08/06(日) 01:29:16.36 ID:Yh/EkjdW0
投下終了です
13 :全治全能の未来を予言するイケメン金髪須賀京太郎様に純潔を捧げる [sage saga]:2017/08/06(日) 07:10:12.27 ID:nxoMlVsA0
須賀京太郎×浜風の薄い本出ろ
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/06(日) 15:39:32.08 ID:wdKikOuG0
いいですね。浜風はやっぱりこうでなくちゃって感じの可愛さになってきました。
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/08(火) 00:49:57.14 ID:s9p/pcqhO
拠り所が見付かってよかったなあ
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/08(火) 06:58:43.26 ID:OcsXLuTa0
乙でした。
拠り所は、雷も同じなんだよな。共存は・・・できませんよねww
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/09(水) 16:08:42.75 ID:wOnqlWEKO
雷の提督への執心が描写される度に冒頭で出てきていないことの不穏さが煽られる
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 22:28:57.07 ID:/EfBPuYfO
乙です。 ゾクゾクするんじゃあ〜
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/15(火) 00:03:49.94 ID:lkW8F3iK0
かなーしーみのー
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/26(土) 23:17:35.44 ID:Hlt7PJs+0
やっぱりヤンデレは最高だぜ!
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/08/31(木) 20:30:10.36 ID:chLC6Y280
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/01(金) 00:29:53.26 ID:2hcyqsbk0
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/01(金) 08:45:10.33 ID:2hcyqsbk0
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/03(日) 22:54:49.85 ID:noluQSef0
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/05(火) 19:24:39.09 ID:rrU576TC0
やっと追いついた
本当に引き込まれる文章だね、楽しみにしてます
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/05(火) 19:43:24.29 ID:UKfE4wxco
>>21-25
sageろks
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/16(土) 14:24:08.79 ID:GDYL9kQ30
次は雷の過去についてですかね?
ゆっくり待ってます。
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 18:01:18.20 ID:1dVCHsmr0
にょむん
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/27(水) 23:19:07.11 ID:ExVLEaBn0
まだぁ?
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/16(月) 21:17:38.04 ID:tNN/w3FO0
むふぁさ
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/24(火) 02:28:43.43 ID:+ykNWrkFo
楽しみに待ってるよ
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/24(火) 08:31:15.46 ID:0oAW65HxO
全裸で待ってます
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/06(月) 22:50:48.28 ID:vSAq6mfX0
久々に覗きに来たけど、更新なしかぁ。
そろそろ続き来てくれないかな。
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/06(月) 23:19:32.33 ID:1eChFKvbo
まあ待ちましょーよ
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/16(木) 00:26:38.93 ID:/D93QT2M0
浜風
36 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/11/28(火) 13:35:29.60 ID:qYOO9WP20
>>1です。お久しぶりです。
いろいろ忙しくて書けませんでしたが、これから少しずつ書いていきます。お待たせして申し訳ありませんでした。
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/28(火) 14:29:23.04 ID:6qaS3efqO
いいぞ!
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/30(木) 23:58:55.04 ID:rKzMhph50
続き楽しみにしてますよ!
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/02(土) 01:27:17.06 ID:oHFzzczH0
全裸でのんびり待機してます
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/06(水) 23:28:28.61 ID:SSbz/Qai0
マッチョった
41 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/12/10(日) 19:06:48.41 ID:eg0K5nIp0




 ■

 帝国歴二十九年、七月。

 雨しかない七月だった。

 晴れた日のことを思い出せないのは、雨の日以外のことをロクに覚えていないせいだ。とくに雨が多い月だったわけでもなかったし、蝉がたくさん鳴いていたのは記憶の片隅に残っている。普通と変わらぬ夏だったはず。

 だけど、その夏はあまりにも私の最愛の人たちが死にすぎた。そして、ことごとくその日が雨だったから、雨が頭の中に黴のようにこべりついて離れない。

 雨、雨、雨。濡れて垂れ下がる髪、頬を伝い首筋を流れる冷たさ、肌に張り付く濡れたシャツ。雨の嫌な記憶、そして感触や匂い。すべてが私を脅かす。

 第六駆逐隊のみんなを最後に迎えたのは、全部そんな嫌な思いに襲われるときの、暗く澱んだ港でだった。

 電を出迎えたときも暁を出迎えたときも、響を出迎えたときも。

 雨が煩かった。

42 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/12/10(日) 19:07:59.99 ID:eg0K5nIp0

 三人とも、リランカ島沖での対潜訓練に参加していた。秋の大規模作戦に向けて鎮守府全体の練度を上げるために行われた訓練だったと思う。第六駆逐隊は、その筆頭訓練候補に選ばれたのだ。

 最初、それを聞いたときは三人とも嬉しそうにしていた。提督から期待をかけていただいていることが、光栄だったから。あの奥手な電も、鼻の穴を広くして興奮していたほどだ。舞い上がった私たちは、絶対にこの訓練で強くなって大規模作戦に参加する艦隊に選ばれようと誓い合った。

 そのときの気持ちは、忘れられない。小さいからと小馬鹿にされ続け、それでも毎日頑張ってきた成果が花開こうとしていたのだ。それがどれだけ私たちの誇りを呼び起こしたか。どれだけ私たちの心が熱くなったか。

 だが、その喜びは線香花火のように一瞬で消えた。

 誰一人。誰一人も、無事に帰ってきてはくれなかった。私以外の三人はそれぞれ個別に出撃し、それぞれが無残に戦死した。

 まず最初に犠牲となったのは電だった。

 彼女は、艤装の不具合で航行不能となったときに、戦艦タ級の主砲の直撃を受けた。一瞬で、電はバラバラになってしまった。随伴艦が助ける暇なんてなく。

 帰ってきたのは、辛うじて残った「腕」だった。

 その「腕」を、三人で出迎えた。雨が降っていたのに、誰も傘をさしていなかった。ずぶ濡れになりながら呆然と「腕」を見つめていた。暁が膝から崩れ落ちて、「腕」にしがみついた。
43 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/12/10(日) 19:08:58.62 ID:eg0K5nIp0

暁「電……電? 嘘よね? いくらあんたでも、こんなに小さくないわよ。ね、電。本当は、どこかに隠れているんでしょ?」

 暁の言葉には、誰も答えなかった。答えられるはずがなかった。

 「腕」を持ち帰ってきた出撃部隊のみんなに、暁は「電はどこ? 電を出して?」と語りかけていた。みんな、俯いて口を噤んだ。誰も何も言わなかったが、暁はそれでも縋り付いていた。

響「暁……」

 響が、暁の肩に手を置いて首を横に振る。暁はその手を払い、出撃部隊旗艦の長門さんに掴み掛かった。

暁「嘘よ! こんなのが、こんなのが電なわけないでしょ! あんたたち、嘘をついているんでしょ? いいから電を出しなさいよ!」

長門「……もう出している」

 長門さんが、唇に鉛でも吊り下げているかのように、重たく、苦しげに言った。

長門「その腕が、電だ。我々が回収できたのはそれだけだった」

暁「うるさい! 嘘をつくなって言っているでしょ! いいから早く電を出せ!」

長門「……もう、出しているんだ」

暁「いい加減に――」

長門「電は戦死した!」

 長門さんの叫びが雨の音をかき消した。出撃部隊のみんなも、暁も、目を見開く。
44 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/12/10(日) 19:10:21.88 ID:eg0K5nIp0

 長門さんは唇を戦慄かせ、声を震わせた。

長門「いいか、暁。電は死んだ。戦士として立派な最後だった」

 握りしめた手から血が溢れ、雨に濡れた地面に溶ける。ただ、それを見詰めることしかできない。

長門「我々のせいだ。我々が、もっとちゃんと守っていれば……もっと早く助けに行けていたら……。こんなことにはならなかった。すべては、この艦隊の部隊長を務めた私の責任だ」

 長門さんはそう言って、深々と頭を下げた。濡れた髪が重たげに垂れ下がる。

 残酷な事実を突きつけられた暁は、よろめき、尻餅をついた。首を何度も横に振り、長門さんの揺れる瞳を見て、最後に「腕」に目を移すと号泣した。

 割れんばかりの慟哭が、沈黙の港を引き裂いた。

 響も唇を噛み締めて泣き、長門さんも目から涙を止めどなく流していた。出撃部隊のみんなも、すすり泣いていた。

 私は、ただ呆然とその光景を見ていた。涙が流れたかどうかなんて、覚えていない。妹のように可愛がっていた親友が死んだ事実を、受け止められなかったのだと思う。きっと、暁よりも信じていなかった。

 ――嘘なのです。

 そんな風に笑いながら、電がどこかから出てくるんじゃないか。

 けど、現実は残酷で。電は、もう帰ってはこなかった。二度と笑いかけてはくれなかった。

 あるのは、痛々しいほどに千切れた「腕」だけ。

 司令官がやってきたのは、それから少ししてからだった。

東「……電」

 変わり果てた電を見て、司令官は重たい声を絞り出すように呟いた。

長門「提督、すまない……」

東「電の最期は……どうだった?」

長門「立派だった。戦士として、誇り高い最期を迎えた」

東「そうか」

 司令官は、泣き崩れる暁の側にしゃがんだ。
45 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/12/10(日) 19:11:39.25 ID:eg0K5nIp0

暁「しれい……かん……」

東「……」

暁「電が……私の妹が……、なんで、なんでなの……? どうしてあの子が死ななくちゃならないの?」

 黒く塗りつぶされた目で、暁は尋ねていた。

東「ここは、戦場だ。残酷だが人が死ぬ」

暁「でも……」

東「暁……君は戦士だろう? 戦士なら分かるはずだ。辛いことだとは思うが、君は電の死を受け入れなければならない。受け入れて、進むしかないのだ」

暁「……」

東「それが、残されたものの役目。電は、真の戦士だった。彼女の勇敢さを忘れてはならない。君も……私も……彼女の勇姿を網膜に焼き付けて、戦うんだ」

暁「戦う……」

東「そうだ! 我々は、戦うしかない。戦って、彼女の無念を晴らそう! 掛け替えのない仲間の命を奪った奴らに鉛玉をくれてやれ!」

 提督は、暁を強く抱き寄せる。暁の目が大きく見開かれた。雨の音を吹き飛ばす提督の力強い言葉が、暁の、そして私たちの耳朶を震わせた。

東「鎮魂の歌は、連装砲で奏でるのだ! それが戦場の仕来りなのだから!」

暁「……私は」

東「仇を取ろう。私は、絶対に奴らを許さない」

 暁は提督の腕に手を置いて、僅かな逡巡を漂わせた後に「腕」を見た。火傷で黒ずんだ指が、暁や私たちへと助けを求めるように伸びている。電の怨嗟が、雨に混じって聞こえた気がした。

 暁が頷いた。ゆっくりと、しかし力強く。響も鋭い眼差しを空へと向ける。憎しみの火が、硝煙の香りを伴いながら私たち三人の心に焼き付いた。

東「――」

 司令官の言葉は、雨に消されていた。

 なんて言ったのかは分からない。

 ただ、司令官は三日月のように口元を歪め、笑っていた。

 
 
46 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/12/10(日) 19:12:15.11 ID:eg0K5nIp0
投下終了です
47 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/12/10(日) 19:18:27.15 ID:eg0K5nIp0
提督→司令官ですね……。すいません。つい、癖で提督と書いてしまいます…
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/10(日) 21:23:29.84 ID:lAcGWgp/O
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/11(月) 21:37:52.23 ID:1/MQFVLeO
乙です
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/14(木) 23:52:53.71 ID:k7OaJJZ60
乙です
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/18(月) 07:49:10.05 ID:x9BjxNeF0
乙乙!
52 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/12/31(日) 12:13:43.84 ID:rVvkDkxp0






 ■

 私は、やり直す。

 提督の側で。提督の温もりに抱かれるために。





陽炎「浜風?」

 陽炎姉さんの言葉で我に帰る。怪訝そうなアメジストの瞳が私を捉えていた。

 いけない、また提督のことを考えていた。彼のことを考え出すとどうしてか止まらなくなってしまう。思考がいつの間にか彼で埋まってしまうのだ。

 任務中は、考えないようにしていたのだが。

浜風「すいません」

陽炎「分かっているとは思うけど、任務に集中しなさいよ」

浜風「はい」

 注意を受けてしまった。私としたことが。

 私は、連装砲のグリップをしっかりと握り直した。辺りを見渡す。海。水平線の向こうが空と溶け合うほどに青い海だ。波を砕く飛沫に洗われながら、私は海上を疾駆している。前方には眼を凝らす時津風と深雪、隣には陽炎姉さんがいる。私が所属する南西鎮守府第一駆逐隊のメンバーだ。

 私たちは、重油資源の確保を目的とした遠征任務に就いていた。南西鎮守府は五月に入り東部オリョール海の攻略を終え、鬼門と言われる沖ノ島海域への挑戦権を得ていた。それに備えて重油を蓄えておきたいからだろう。ここ一週間はほとんど重油資源の確保に重点を置いた遠征が行なわれていた。

時津風「どうしたの浜風〜? 浜風がぼーっとするなんて珍しいこともあるもんだね」

 時津風が振り返り、言った。

浜風「少し考え事をしていました」

時津風「考え事? なになに?」

浜風「それは……」

 提督のことだとは言い辛い。適当に誤魔化そうと言葉を選んでいると、陽炎姉さんから肩を叩かれた。
53 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/12/31(日) 12:14:46.34 ID:rVvkDkxp0

陽炎「私語はほどほどにしなさいよ。時津風も、前を向きなさい」

時津風「はーい」

 時津風は少し面白くなさそうに顔を顰めたが、素直に前を向いた。

深雪「たく、二人とも弛んでるぜ。しっかりしてくれよなー」

時津風「むむっ、深雪に言われると腹立つなあ」

深雪「なんでだよっ? あたしは真面目に警戒してんだろ?」

時津風「いつもいい加減じゃん」

深雪「任務のときはちゃんとやるさ。おら、それより集中しな。あたしまで隊長さんに怒鳴られるのはごめんだぜ」

時津風「……ちっ」

 時津風の舌打ちに、深雪が何か言いたそうに口を開きかけたが、何も言わずに警戒に戻った。陽炎姉さんを怒らせたら怖いことを骨身に沁みて知っているからだろう。

陽炎「まったく……」

 陽炎姉さんは呆れたように息を吐き、腕に巻かれた羅針盤に眼を落とした。

陽炎「そろそろ目的地に到着するわよ! いつも通り妖精たちが回収作業をしている間、私たちは対潜・対空警戒に当たること。もし、敵と会敵するリスクがある場合は作業を中断してすぐに引き上げるわよ! いいわね?」

 了解。私たちはそれぞれ声を張り上げて答えた。いつもやっていることだとはいえ、指先一つ分でも命を天秤にかけている以上は力が入る。

 だが、私は例外だ。敵に発見された場合、時津風や深雪以上に集中して狙われてしまうが、それでも深海棲艦の攻撃では死ぬことは叶わない。そういう呪われた身体を持っていた。だから、私が声を張り上げたのはただの演技である。

 しばらくすると、水平線に島影が見えた。回収地点。

 陽炎姉さんが、曳航していたドラム缶の鎖を手繰り寄せ言った。

陽炎「それでは、作戦を開始する。各自警戒を怠るな!」

54 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/12/31(日) 12:15:56.94 ID:rVvkDkxp0
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55 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/12/31(日) 12:16:43.28 ID:rVvkDkxp0
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56 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/12/31(日) 12:18:26.43 ID:rVvkDkxp0



 遠征を終えて鎮守府に戻ると、遠征隊のみんなが私たちを出迎えた。帰還の鐘が静寂を揺らしていた。

 私たちはドラム缶を携えて港に上がる。みんなが集まって囲ってきた。

「陽炎、お帰り!」

「資源はどう? 回収できたの?」

「敵とは遭遇した?」

 矢継ぎ早に飛んでくる質問は恒例のものである。そんなに毎回大袈裟に聞く必要もないと思うが、ただでさえ娯楽が少ないのが鎮守府という場所だ。出迎えも、艦娘にとって楽しみの一つになるのも無理はない。

 陽炎姉さんはドラム缶を豪快に地面に置いて、胸を張った。

陽炎「何事もなく回収できたわよ〜。それもいつもの二倍くらいね!」

 感心する声が一斉に上がった。

「二倍! そんなに回収したんだ!」

「すごいね……」

時津風「浜風が考案した遠征ルートが見事に当たったね〜。ほとんど敵と合わなかったよ」

深雪「ああ。いつもより若干遠回りだったけど、びっくりした。あんないいルートがあったんだな」

 時津風と深雪の言葉に、視線が一斉に私の方へと向いた。説明をせがまれているようだったので答えることとした。

浜風「以前所属していた鎮守府で私が発見したルートです。あの場所は、地図上には記載がない岩礁地帯と被っていて潜水艦の活動には適さないんですよ。それに、それ以外の艦種も『餌』である魚類の活動が活発ではないからか、避けてくれます。深雪の言うとおり遠回りになってしまうから、提督の皆さんは最初から無視しているようですが」

陽炎「まさに、急がば回れってやつよね。浜風の言う通りドラム缶の量をいつもより増やしていて良かったわ。いつも通りの量だったら、回収しきれなくて油まみれになるところだったろうし。――さすが私の妹」

 陽炎姉さんは満足気に笑いながら私の背中を叩いてくる。たぶん、手を抜いてはいてもそれなりに力が入っているはずだ。後で赤くなるのだろうな。
57 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/12/31(日) 12:19:30.21 ID:rVvkDkxp0

「浜風さん、頭いいなあ……」

「たしかに。浜風さんの物の捉え方や考え方ってかなり鋭いと思う。海域の情報や敵の生態にも専門家が顔負けするくらいに詳しい。悔しいけど、頭の出来が違うわ」

「本当に本配属されてから二年目なの?」

浜風「ありがとうございます。とても、嬉しいです。皆さんの役に立てていれば良いのですが……」

陽炎「役に立つもなにも。浜風の考えたことで、みんな本当に助けられてるんだから。胸を張りなさい」

浜風「姉さん……」

陽炎「真面目なあんたのことだから、負い目があったんでしょうけどね。あんたはきちんと罰を受けた。そして、自分の能力を生かして迷惑をかけた皆にお返しもしている。やってしまったことは消せないけど、あんたが誠意を持って償っていることは皆見ているわ。ね、そうでしょ?」

 陽炎姉さんが周りに同意を求めると、みんなそれぞれに顔を見合わせて頷いてくれた。もちろん、この人だかりにいない人間もいるから全員ではないが……それでも多くの人間が、私を許そうと、歩み寄ろうとしてくれているのを実感できる。

浜風「……ありがとうございます」

 私は、瞳を潤ませてみせた。

浜風「姉さん、皆さん……。これからも、頑張ります……」
58 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/12/31(日) 12:20:26.63 ID:rVvkDkxp0

陽炎「な、泣かなくてもいいでしょ。ちょっと……」

時津風「陽炎慌ててる〜」

陽炎「あ、慌ててないわよ!」

深雪「どう見ても慌ててるんだよなあ」

陽炎「う、うるさい! ほら、浜風……。ハンカチで涙拭いて」

浜風「……」

 私はハンカチを受け取り、目元を拭う。

 本当、お人好しな姉だ。騙されているとも知らずに手を差し伸べてくるなんて。

 私に向けられている優し気な目線の数々にも失笑をこぼしたくなる。なんて、単純な人たちなんだろう。反省の色を示し二三回涙を見せただけで、もう許す気になって心まで開こうとしている。

 この鎮守府には、私と同じように他所の鎮守府で「辛い境遇」を経験して流れ着いてきた者たちが多いとはいえ……。はぐれ者に対してある程度寛容なのは分かるが、それにしても生温いのではないか。

 しかし、呆れる一方で都合がいいとも感じる。優しさや寛容さほど、利用しやすいものはない。

時津風「げっ」

 時津風が一歩引きながら小さく呟いた。苦手な野菜を前にしたときの子供のような反応である。視線の先を追いかけると、その理由が分かった。
 
 雷さんがこちらに来たからだ。
59 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/12/31(日) 12:21:42.12 ID:rVvkDkxp0

雷「お疲れ様、陽炎ちゃん」

陽炎「お疲れ様」

 陽炎姉さんが雷さんを不思議そうに眺めていた。提督がいないからだろう。

雷「司令官はいないわよ。忙しくて手が離せない状況だったから、私が代わりに成果の確認に来たの」

陽炎「ああ、それで……。やっぱ、沖ノ島海域攻略ともなると忙しくなるわよねえ」

雷「鬼門だからね」

 苦笑いしながら答えると、雷さんは手に持っていたファイルを広げた。

雷「それじゃ、確認するわよ。今回の鼠輸送任務で獲得した重油は」

 言いかけて、固まる。私たちが持ち帰ったドラム缶の量を目にしたからだろう。

雷「えっと……。もしかして、このドラム缶全部持って行っていたの?」

陽炎「そうよ」

雷「ずいぶん無茶なことするわね。それで、どれだけ獲得できた?」

陽炎「これ全部」
60 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/12/31(日) 12:22:36.67 ID:rVvkDkxp0

 陽炎姉さんが、ドラム缶に肘をついて得意げに言うと、雷さんは目を白黒させた。

雷「えっ!? 通常の倍くらい量があるのに? う、嘘でしょ」

陽炎「本当だってば。よかったら確認してみてよ」

 雷さんは陽炎姉さんの言葉に従い、ドラム缶一つ一つを検分し始めた。彼女のポケットには妖精たちが潜んでいたようで、ドラム缶の上に躍り出ると注入口を開く。匂いを嗅いだり、微量の重油を取り出して検査薬で品質を確かめたり、忙しなく働いていた。

 やがて検査が終わると、妖精たちは雷さんの肩に止まり、耳打ちをして結果を伝えた。

雷「……全部、基準値をクリアーしているね。本当なんだ」

陽炎「まあ、信じられないのも無理ないわよね……」

雷「間違いなく、今までの鼠輸送で一番の成果よ。これは司令官、大喜びすると思う」

陽炎「そっか〜! だってよ、浜風。よかったじゃない」

 陽炎姉さんがニヤニヤと笑いながら言ってくる。

浜風「はい。そうですね」

陽炎「なんか物足りない反応ね。もっと喜んでいいのよ、もっと」

浜風「一応、喜んでいるつもりですが……」
61 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/12/31(日) 12:23:46.23 ID:rVvkDkxp0

雷「えっと、陽炎ちゃんどういうこと? なんで浜風さんが……」

 困惑を表情に貼り付けて雷さんが訊ねてくる。

陽炎「あれ、雷ちゃん知らない? 今回の遠征は浜風がルートを組んだのよ。この大成功もそのおかげってわけ。……司令にも話し通していたから、聞いていたかと思ってたけど」

雷「一応、第一駆逐隊が遠征ルートの変更を上申してきたとは聞いていたけど……。浜風さんが考えた案だったのね。てっきり、陽炎ちゃんが考えたのかと思ってたわ」

陽炎「ちゃんと浜風が考えた案で行くとは言ってたんだけどね。提督が伝え忘れたのかも」

雷「そ、それで、どんなルートだったの? 私、そこまでは聞いてないから……」

 陽炎姉さんが説明をする。黙って説明を聞いていた雷さんは、目から鱗とでも言うように驚いた表情を浮かべたが、だんだん苦々しい表情になっていった。私の提案の優位性を素直に認めたくないのだろう。

雷「……ふうん。そんなルートがあるんだ」

 雷さんは唇を尖らせながら言った。

雷「すごいじゃない、浜風さん。命令違反ばかりする勝手な人だと思っていたけど、それだけじゃないんだね」

浜風「ええ、どうも」

雷「ちょっと見直しちゃったわ。この調子で、司令官のために頑張ってね」

浜風「……」

 貴女に言われるまでもない。

 私は提督のためになるのなら、なんでもやるつもりだ。そう、なんでも。
62 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/12/31(日) 12:24:54.74 ID:rVvkDkxp0
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63 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/12/31(日) 12:25:50.37 ID:rVvkDkxp0
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64 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/12/31(日) 12:27:09.23 ID:rVvkDkxp0

雷「今回のこと、私から司令官にちゃんと報告しておくわね。それじゃ、検査も終わったし、そろそろ」

浜風「お待ちください」

 踵を返そうとした雷さんに声をかける。彼女はピタリと立ち止まり、マリオネットのような機械的な動作で振り返った。

雷「何かしら?」

浜風「報告なのですが、私から提督にしたいです。今回の遠征は私が考えたものですし、私が報告するのが筋だと思うのですよ」

雷「必要ないわよ」

 雷さんは、にべもなく言い放った。

雷「司令官への報告は特に必要な事由がないなら、秘書艦が行うのが通例でしょ? それこそ筋よ。私が検査に来たのも、そうする必要があるからだしさ。だから、気を回さなくても大丈夫」

浜風「別に気を使っているわけではないです。ただ、私が報告した方がより正確な報告ができると思うので言ったんです。遠征ルートのことが雷さんに伝わってなかったように、報連相は人を通すだけ正確な情報が伝わらなくなる可能性が高くなりますので。そのことを考慮しても、単純にそちらの方が効率が良いとは思いませんか?」

雷「心配しなくてもちゃんと伝えるわよ」

 雷さんは怒気を込めて言った。

雷「ちょっと失礼じゃないかしら? 私がそんなことも伝えられないとでも言いたいわけ?」
65 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/12/31(日) 12:28:08.76 ID:rVvkDkxp0

浜風「そうは言っていません。ただ、私は効率の話をしているだけですので。それに、さっき秘書艦が報告を行うのが通例と仰いましたが妙ですね。前の鎮守府では、遠征の報告は、その遠征を取り仕切る部隊長もしくは部隊長の代行者もしくは部隊全員で行うのが通例でしたよ? 情報の錯誤を避けるためにです」

 私がそう指摘すると、雷さんの顔が青くなった。図星を指されたようである。

浜風「それとも、私の鎮守府だけだったのでしょうか? 陽炎姉さんは、前の鎮守府ではどうでしたか?」

陽炎「ええと……岬鎮守府も、たしかに遠征部隊みんなで報告していたわね」

浜風「だ、そうです。この鎮守府だけのルールみたいですね。もちろん、提督の判断でそうしているのなら従います。ただ、そのことについても確認したいので、一度お伺いを立てたいと思います」

雷「……ダ、ダメよ。ダメ」

浜風「何が駄目なんでしょう? 提督と会って話を聞くだけですよ?」

雷「ダメなものはダメなの! だって、今までは私がやってきたんだから」

浜風「理由になっていませんね。では、提督じゃなく雷さん……いえ、雷秘書艦に聞きましょう。報連相の手段が、そのような非効率な方法になっているのは何故なんですか?」

雷「そ、それは……」

 雷さんは言葉を詰まらせる。言うべきことを探しているが、見つからないのだろう。あまりにも滑稽で、あまりにも愚かしい。
66 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/12/31(日) 12:29:23.67 ID:rVvkDkxp0

浜風「ああ、それとも」

 せせら笑うのを堪えながら、私は核心に触れた。

浜風「私が……いえ、私たちが提督に会うと何か不都合なことでもあるのでしょうかね。雷秘書艦にとって、不都合な何かが」

雷「――」

 雷さんが目を見開き、噛み付かんばかりの勢いで睨んできた。

陽炎「ス、ストップストップ!」

 私と雷さんの間に割って入り、陽炎姉さんが声を張り上げた。

雷「陽炎ちゃんどいて! こ、この。司令官に優しくされているからって、付け上がるんじゃないわよ!」

 叫びながら突進してこようとする雷さん。だが、陽炎姉さんの腕に抑えられ、そこから先は一歩も前進できない。

 しかし、付け上がるな、か。果たしてどの口が言うのだろうか。

陽炎「雷ちゃん、雷ちゃん落ち着いて! たくもう……報告に誰が行くかくらいでそんな揉めることないでしょ!」

雷「うるさい! 喧嘩を売ってきたのはあいつよ! あんな軍規違反女、私がぶっ飛ばしてやる!」

陽炎「落ち着きなさい! 浜風、あんたもよ!」

浜風「私は落ち着いてますが」

陽炎「そうかもしれないけど! でも、どんな形であれ発端はあんたでしょ? とりあえず謝りなさい」
67 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/12/31(日) 12:30:56.24 ID:rVvkDkxp0

浜風「……」

 眉を顰めそうになる。

 鼻息を荒くして唸る珍獣に、どうして私が頭を下げなければならないのか。ただ、まあ、私が軽く挑発したことが原因であるのは確かだ。

 私は溜息をつくのを堪え、頭を下げた。

浜風「そうですね。たしかに、私が怒らせてしまいましたから……。言い過ぎました。不愉快な思いをさせて、申し訳ありません」

雷「……ううぅ! この、この……!」

陽炎「雷ちゃん……ちょっと落ち着こう? ほら、浜風も謝っているし。ね?」

雷「……」

 唸り声が徐々に落ち着いてくる。

陽炎「報告には私が行くわ。雷ちゃんと一緒にね。それだったら筋は通っているし、いいでしょ?」

浜風「はい」

陽炎「雷ちゃんも、それでいいかしら?」

雷「……」

 雷さんは息を荒げながら、ゆっくりと頷いた。

 陽炎姉さんが、安堵の息をついた。

陽炎「……深雪、時津風。私、報告に行ってくるから資源の運搬だけ頼めるかしら?」

深雪「おう。問題ないぜ」

時津風「私も大丈夫〜。任せて〜」

陽炎「ありがとう」

 陽炎姉さんはお礼を言うと、動かなくなった雷さんの腕を肩に回して立ち上がった。そして、そのまま雷さんと一緒に、鎮守府本館の方へと歩いて行った。

 二人が去った後の港には、気まずい空気が流れていた。潮風が走り抜け、沈黙にケチを付けてくる。五月の風が冷たいのかどうかは知らないが、きっと温かいものではないのだろう。

 私は振り返って、みんなに頭を下げた。

浜風「お騒がせして、すいませんでした」
68 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/12/31(日) 12:32:02.22 ID:rVvkDkxp0

時津風「いやいや、いいよ〜。みんな、あの腰巾着さんには少なからず思うところあるしさ」

 時津風がさらりと棘のあることを言った。眠そうな眼差しは、陽炎姉さんたちの去ったところに向けられているが、その色は冷ややかだ。

深雪「……まあな。浜風、秘書艦様が言ったことなんかあんま気にすんなよ。別にお前、間違ったこと言ってねえしな」

浜風「……」

 私が無言で頷くと、深雪はあからさまに嫌味な感じで舌打ちをした。

深雪「なにが『司令官に優しくされてるからって付け上がるな』だよ。それはお前じゃねえか。……たく、遠征も出撃もしねえいいご身分のくせに、人に対してそんなこと言えんのかよ」

「……たしかに、深雪の言うとおりね」

「私も、ちょっとそう思うなあ。昔、色々あったのは知ってるけど、それでもね……。提督にべったりで、みんなと仲良くしようともしないし」

「司令や陽炎は、優しすぎると思う」

 時津風や深雪の言葉をきっかけに、みんなが次々と愚痴をこぼし始めた。雷さんに対して、みんながあまりいい感情を持っていないことは、私も把握していた。鎮守府に来て三カ月になるが、それくらいの期間があれば人間関係はおよそ掴めてくるものだ。やはり、どこの組織にも多寡に差はあれど人間関係のいざこざというものは付き纏ってくるようで、この鎮守府も例外ではない。
69 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/12/31(日) 12:33:13.69 ID:rVvkDkxp0

 とくに、雷さんは難しいポジションにいるようだった。彼女の複雑な出自もそうだし、この鎮守府での立場や扱われ方もそうだ。

 彼女は形ばかりの秘書艦である。明らかにその適性や能力がないのに、秘書についているのだ。詳しい理由は分からないが、どうにも提督の意向でそうなっているとのことである。まあ、彼女の過去や、金魚の糞みたいに提督に付き纏っているところを見れば、察しはつくが。

 ただ、その「特別扱い」がどうにもみんな面白くないようで、出撃部隊も遠征部隊も関係なく、彼女に良くない感情を持っている者は多い。しかも、出撃や遠征任務も免除されている優遇っぷりだから、なおさらその感情に拍車がかかる状況になっている。艦娘は、戦うことをアイデンティティとする存在だから、その嫌悪もまあ無理なからぬことであろう。働かざるもの食うべからず、なんて諺もあるが、いかに寛容なみんなであろうとも、戦う意思が米粒ほどもないものは冷遇するようである。

 そして極め付けは、本人も提督以外に興味がないことだろう。誰とも交わろうとしないから、この状況が変わることはない。現に彼女に接するのは、間宮さんや榛名さん、そして陽炎姉さんくらいだ。

 と、こんな感じで、雷さんはこの鎮守府では孤立している。身から出た錆びというべきもので、同情する余地はあまりない。

 だが、私にとっては彼女の存在もとても都合がいいものだ。彼女は利用できる。この鎮守府の人間たちと信頼関係を築き、掌握する手段の足がかりとして。

 ヤケを起こし、マイナスからスタートした私が、この鎮守府に溶け込む手っ取り早い方法。それは共通の敵を作ることだ。南鎮守府にいた頃は南提督を共通の敵に置いたが、この鎮守府では雷さんにその生贄役をやってもらう。

 雷さん。貴女がこの鎮守府から消えるのはその後だ。

時津風「ささ、そんなことよりパパッと資源片付けちゃお〜。お腹空いたしさあ」

深雪「だなあ。今日はA定食らしいから、張り切ってやるぜ!」

 ドラム缶を運び始める時津風たちを尻目に、私は海を見た。

 海は、ただ静かに潮騒を打っている。

70 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2017/12/31(日) 12:34:38.09 ID:rVvkDkxp0
投下終了です。
来年も風病をよろしくお願いします。
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/31(日) 13:37:29.10 ID:WXSUsJ4Go
乙です
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/31(日) 14:43:01.74 ID:Y6lLsN+Qo
乙!相変わらずしたたかな浜風や
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/31(日) 19:49:09.46 ID:Xpv+DYr7o
乙ー
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/03(水) 11:39:42.97 ID:nG/JY0SX0
乙風
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/04(木) 19:20:35.36 ID:muUCf+zD0
乙でっす
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/09(火) 12:55:09.48 ID:RSrxuefe0
乙ですー
77 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/01/16(火) 01:43:28.80 ID:tKC3niEB0

 



 ■

 静かな夕刻だった。

 執務室にはペンを走らせる音と、時計の音だけがある。俺は黙々と、山と積まれた資料の確認を行っていた。蟻が角砂糖を崩して巣に持ち帰るような、途方もない作業ではあるが、ルーティンと化しているから大して苦痛には感じない。いつものようにやっていれば、そのうち終わる。

 が、今日はいつもより筆が乗らない。集中ができないのだ。理由は、秘書の雷である。

 隣のテーブルに目を移す。そこには雷が座っていた。眉間に皺をよせ、乱暴な手つきでペンを動かしている。

 いかにも虫の居所が悪そうな様子であった。そして、とにかく落ち着きがない。時折思い出したかのように溜息をついたかと思うと、今度は指でリズムを刻み、苛立ちを表現する。

 陽炎と一緒に遠征の報告に来たときから、やけに機嫌が悪い。報告をしているときも声の端々に苛立ちがこもっていたし、陽炎が帰って事務作業を始めてからもずっとこの調子だ。

 同室にいる身としては、気が気ではなかった。
78 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/01/16(火) 01:44:29.38 ID:tKC3niEB0

提督「なあ、雷」

雷「……なに?」

提督「どうかしたのか? やけに機嫌が悪そうだが」

 雷は返事をせず、頬を膨らませ俯いた。

提督「なにか嫌なことでもあったのなら、相談くらいにはのるぞ?」

雷「……」

提督「……うーん」

 困ったな。本人が教えてくれなければ対処のしようもない。

 まあ、無理に訊き出すのも良くはない。彼女が話したくないのなら、その意思を尊重しなければならないだろう。

 執務に戻ろうとすると、椅子が擦れる音がした。雷が立ち上がったのだ。

 お手洗いにでも行くのか。そう思ったが、雷は扉の方ではなくこちらにやって来た。
79 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/01/16(火) 01:45:44.83 ID:tKC3niEB0

提督「雷?」

 相変わらず何も言わない。きゅっと下唇を噛んで、俺を見下ろしている。栗色の瞳に映った俺の像は雨の日の水面のごとく揺れていて、不安定だ。

 どうしたのだろう?

 俺が様子を伺っていると、彼女は俺の後ろに回った。突然のことで反応が追いつかない。後頭部が何か柔らかいもので包まれた。布数枚の先にある人肌の感触が、首筋の辺りを撫でる。

 驚いて振り返ろうとした。だが、頬が彼女の鼻先にぶつかった。温い吐息。心臓の音。そして遅れて感じる肌の熱。それらに気づいた瞬間、銀木犀にも似た香りがふわりと華やいだ。

提督「……」

 突然どうしたのか。

 困惑していると、雷がそっと囁きかけてきた。

雷「ねえ、司令官」

提督「……なんだ?」

雷「あの子に、優しくしないで」

提督「あの子?」

雷「浜風さんのことよ」

 浜風の名前を、苦虫でも吐き棄てるように言う。

 まさか、機嫌が悪い原因は浜風か? 遠征の出迎えの際、浜風と喧嘩でもしたのだろうか。

提督「ひょっとしてだけど」

雷「答えて」

 尋ねようとすると雷に遮られた。有無を言わさない口調だった。
80 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/01/16(火) 01:46:49.69 ID:tKC3niEB0

雷「答えてよ、司令官」

提督「……」

 たしかに客観的に見れば、浜風に対して甘いと思われるのも仕方がないことではある。

 が、それはあくまで彼女の特殊すぎる事情を勘案した結果だ。他の艦娘たちに対しても、それぞれの事情を考慮した上で、不平等になりすぎない範囲で個別に対応している。だから浜風だけを特別扱いしているつもりはない。あくまで、鎮守府の長としての視点で、鎮守府の仲間として見ているだけだ。

 むしろ、特別扱いしているのは君の方だよ。そんなことは口が裂けても言えないので、飲み込んで他の言葉を述べた。

提督「……別に、特別、浜風に優しくしているつもりはない。みんなと同じように接しているはずだ」

雷「そうは思えないわ。あんな重大な違反をしたのに、解体処分にすらしようともしないし。普通なら、とっくに死刑よ。それを大目にみて、しかも遠征部隊として働かせている」

提督「それはあくまで彼女が優秀な艦娘だからだ。純粋に、能力として判断した結果だよ」

雷「……たしかに、浜風さんが優秀なのは認めるわ。でも、本当にそれだけ?」

提督「……なにが言いたい?」
81 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/01/16(火) 01:47:59.58 ID:tKC3niEB0

雷「あの女に対して、何か特別な感情があるんじゃないの?」

 雷の言葉は、重く冷たく耳朶に届いた。

 背筋がぞっとする。彼女の細い腕が蛇のように蠢いて喉仏を軽く押さえつけてきた。

提督「そんな感情なんて、ないよ」

 図星を刺されたわけではないのに、声が掠れた。

 本当に、浜風に対してそのような想いは持っていないのだ。あるのは、救ってしまったことに対する責任感と、仲間としての感情だけ。それ以外にない。

 慄きの正体は、後ろに纏わりついた暗い影にある。

 可憐な少女の裏側から零れ出た闇に。

雷「ふうん」

 うろん気に言うと、彼女は続けた。

雷「じゃあさ、聞いてもいい? あの時――なんで手なんて握っていたの?」

 廊下で、二人きりで。

 俺は心臓を鷲掴みにされたような気分でその言葉を聞いた。冷たい汗が、米神を伝う。

提督「……そ、それは」

 一月前のことだ。今の今までそのことを一度も訊いてこなかったのに、ここで訊いてくるなんて。

 俺は、動揺を隠せなかった。やましい気持ちなどないのに。ただ、浜風のささやかな望みに応えただけだというのに。雷の追求は、まるで刃のように鋭く突き刺さった。

 雷の俺に対する執着心。そして、そこから形成される「愛情」という名の純粋な悪意。その怖ろしさを知っているから。
82 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/01/16(火) 01:49:34.00 ID:tKC3niEB0

雷「ねえ、司令官。ねえねえ。なんで? なんでなの?」

 雷の指が、頬をさする。

提督「……ち、違うんだ。別に、君が気にするような意図は」

 なかった、と弁明を続けることはできなかった。

 雷が、耳に優しく噛み付いてきたからだ。俺は悲鳴を上げそうになった。今度は舌が耳の中を這う。這い回る。身体中の関節という関節に甘い痺れが走る。その甘さ、その熱さ、そしてその奥にある負の感情――。それらがドロドロと入り込み、脳髄を痺れさせてきた。しかし、それは劣情には決して成り切れない恐怖そのものとして。

雷「言い訳なんて聞きたくないわ。ねえ、司令官。あんな雌猫の手なんて握ってはダメよ。どんな病原菌がへばりついているかわからないんだから」

 彼女は俺の腕を鷲掴みにすると、もう片方の手で俺の胸ポケットからライターを取り出し、火をつけた。

雷「ちゃんと消毒しなきゃね」

提督「――」

 ――なにをする気だ。

雷「うふふ……。司令官、最初は痛いかもしれないけれど、我慢してね? ちょっと爛れちゃうかもしれないけど、大丈夫。高速修復材につければすぐに元通りになるから」

 人間にも、高速修復材は効くんだよ。雷は、笑いながらそう言った。

提督「や、やめろ! なにを考えているんだ!」

雷「なにって? 消毒って言ったでしょ?」

提督「馬鹿なことはやめてくれ! それに、一か月前のことだぞ! どうして今になって……」

雷「うん、そのときは我慢したわ。だって、司令官ならあんな病原菌くらい平気だって思ったから。だけど、最近そう思えなくなったの。あの菌が、だんだん司令官の手を穢し始めた気がして……。あの菌って、遅効性だったのよ、きっと」
83 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/01/16(火) 01:50:40.75 ID:tKC3niEB0

 訳のわからない持論を展開し、火を近づけてきた。俺は雷の手を必死で振り払おうとしたが、艦娘の力には抗うことができない。押さえつけられ、なす術もなく彼女の良いように扱われる。

 恐怖が臨界点に近づいてきた。

 足がふるえる。カチカチと歯がなる。背中にシャツが汗で張り付く。潰れた悲鳴を上げ、俺はもがいた。椅子がガタガタと音を立てる様は、恐怖でのたうち暴れる牛のようであろう。

雷「じっとして……ね?」

提督「やめろおおっ!」

 火が、俺の袖を微かに焦がし――消えた。

提督「……え?」

 雷が、小さく笑って告げた。

雷「冗談よ」

提督「……冗談だと?」

雷「そう、冗談。いくらなんでもそこまではしないわよ」

 ふざけているのか。こんなの、冗談の一言で済む問題じゃ――。

雷「でも、半分だけね。司令官に痛い思いをさせるのは嫌だけど、消毒をして欲しいというのは本当。……だから、ちゃんと手を洗ってね? 毎日一時間くらい。じゃないと、今度は本当に燃やしちゃうかも」

 横目で微かに捉えられた雷の目には、光など一片もなかった。頭に昇りかけた怒りが一瞬で霧散する。

雷「そうすれば、あの子のことなんか気にしなくなる。……他の子達と同じように接するようになる。そうよね、司令官」

提督「……あ、ああ」

 逆らっては、ダメだ。

 逆らえば、本当に手を燃やされる。

雷「……司令官が、優しくしていいのは『家族』だけよ。ここにいるみんなは、仲間だけど『家族』じゃない」

 そのこと、忘れないでね。

 雷はそう告げて、腕を解いた。その際に袖が捲れたせいか、右腕に刻まれた無数の傷が見え隠れしたが、俺は見ないふりをする。

 頭を撫でられた。

 いつもなら、いや……前までは心地よく感じていたはずのそれも、今では憂鬱を呼び起こすだけだ。
84 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/01/16(火) 01:51:49.44 ID:tKC3niEB0

雷「……司令官の『家族』は私だけよ」

 違う。

 違うんだ。家族とは、こんな脅迫と心の闇をひけらかした依存で結びついた関係であってはならない。彼女の言う家族の像は酷く歪で、酷くおかしい。

 それに、俺の家族はとっくにみんな死んでいる。父も母も……妹の静流も。柊家の名を継ぐものは俺しかいない。

 それは彼女だって同じだ。彼女の家族だった者たちは、全員あの事件の犠牲となった。艦娘制度始まって以来のシリアルキラーの手にかかり、殺された。

 これは、もう存在しなくなった関係性を無理やり引っ張り出した、狂気じみたごっこ遊びでしかない。みんなに平等に接する義務を負う俺と、「特別な関係」を築くために彼女が考え出した方法だ。ここ一ヶ月近くは、ことあるごとにこの言葉を引き出して、俺とスキンシップを図るようになってきた。

 元々、依存傾向の強い子だ。おそらく、この鎮守府に来る前は『家族』に依存していた。そして、家族を失くしてからは、ぽっかり空いた穴を埋めるように俺へと依存した。

 最初は、それで仕方がないと思った。似たような境遇にあった彼女に同情したのもある。だからこそ、俺は彼女を拒まずに側へ置き、療養してもらおうとした。ある程度は、それで成功したのだ。塞ぎ込んでいた彼女は、徐々に明るさを取り戻した。

 が、一度歪んだものは中々元には戻らない。光が強くなると影が深まるように、明るさの裏に隠れた闇はだんだんと暗く、深くなっていった。

 俺は、それに気づくのが遅れた。

 いや、彼女を受け入れた時点からすでに手遅れだったのかもしれない。俺は彼女の狂気を拒み切れず、そして彼女への情を捨てきれず、ずぶずぶと沼に嵌るように雷という子に囚われた。

雷「……ふふ」

 愛おしげに、雷は笑う。

 俺は、浜風の言葉を思い出していた。

 カタツムリとレウコクロリディウム。俺と雷の関係性へのアイロニーだ。

 俺は、カタツムリか。

 なにかあれば、すぐにブラックニッカという殻に籠って身を守る俺には、ぴったりかもしれない。


 
 
85 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/01/16(火) 01:58:20.74 ID:tKC3niEB0
投下終了です。
>>52>>53>>56>>57>>58>>59>>60>>61>>64>>65>>66>>67>>68>>69

以上が、まとめ速報の方で更新されていませんでしたので上げておきます。あちらで読まれている方、申し訳ありませんでした。
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/16(火) 04:32:34.24 ID:vsIgh03y0
乙です。雷が想像以上に怖い子ですねぇ。良くも悪くも子供って感じですけど。
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/16(火) 06:35:52.90 ID:CwD4TKlbo

怖いなぁ
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/16(火) 07:45:35.49 ID:U6MxKc5RO
乙風
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/21(日) 00:12:46.40 ID:ImO22PzG0
乙です
雷怖いよー
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/21(日) 17:17:01.35 ID:uo3Ji56C0
おつー
91 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/01/27(土) 23:08:25.59 ID:oux51JHM0





 ■

 二度目の雨も煩かった。

 粘りつくように、鬱陶しい雨だった。

 電が荼毘に付されて一週間後のことだ。司令官の命令で、暁を加えた第一艦隊はリランカ島沖へと出撃した。

 もちろん、これは弔い合戦だ。電の無念を晴らすことに躍起になっていた暁は、今まででは考えられないほどに鋭い怒りに満ちた表情をしていた。目は血走り、誤魔化しきれないほどの隈もあった。

暁「行ってくるわ」

響「……暁」

 響が心配そうに暁の背中を見ていた。私も、同じ顔をしていたんだと思う。

 妹の死を誰よりも深く悲しみ、誰よりも憎んだのは彼女だった。これまでの明るい暁は、面影すらも匂わせることなく豹変していた。

 それが、怖かった。暁が急に遠くなった気がしたからだ。

響「……暁、いや姉さん。無理だけはしないでくれ」

暁「分かっているわ。無理なんてしない」

響「約束、だよ?」

暁「レディは必ず約束を守るわ」

 だから心配しないで。

 暁はそう言ったけど、そこに笑顔なんて欠片もなくて。私も、響も、そんな姉の表情に、どうしようもなく不吉な予感を覚えずにはいられなかった。

 電のことが過ぎったこともある。だけど、それ以上に……戻ってきた暁が、もう二度と私の知っている暁じゃなくなるような気がしたのだ。
92 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/01/27(土) 23:09:55.56 ID:oux51JHM0

雷「私とも、約束して欲しい」

 私は何度か逡巡し、絞り出すように言った。

雷「……必ず、戻ってきて」

 暁は、振り返らずに手を挙げた。

 そうして、暁は長門さんたちとともに出撃した。私たちは水平線の彼方に第一艦隊が消えるまで、ずっとずうっと港で見送った。

響「大丈夫。姉さんは、必ず帰ってくる」

 響の呟きに、私は返事ができなかった。

 たぶん、響も返事を期待して言ったわけではないだろう。自分に言い聞かせているだけで、不安を拭いたかったのだ。

 だが雨は、響の言葉に不穏な響きを与えるだけだった。



 それから、二時間ほど経った後だったと思う。出撃部隊から撤退を願い出る電報が入った。

 電のときと同じように、暁の艤装が故障を起こしたのだ。機関部が突然火を上げ、航行不能となったという。あってはならない事態が二度も起こってしまったことに愕然とするしかなかった。一体、整備班は何をやっているのだろうか。こんな失態、許されることではない。

 不安と苛立ちに苛まれる私たちと違って、司令官は冷静だった。同じ轍は二度と踏まないと、すぐさま進言を聞き入れ撤退を命令した。長門さんを殿に、動けない暁を重巡洋艦に曳航させ、状況を見極めながら指示を出し続けた。

 隣で見ていた私たちは、暁の無事を祈った。

 どうか。どうか、神様。

 暁を……私たちの家族を、無事に帰してください。
93 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/01/27(土) 23:11:21.19 ID:oux51JHM0

東「……戦線からは、離脱したな」

 時計の長針はどのくらい回っただろうか。気が遠くなるような祈りの時間は終わった。

 司令官の一言に、私たちは崩れるみたいに尻餅をついた。

響「……よかった。本当に、よかった」

 響が顔をくしゃくしゃにしながらそう言った。きっと、私も同じ顔をしていただろう。視界が滲んで、身体が震えて、訳がわからないくらいに安堵していた。

東「迎えに行こうか。この目で、暁のことを観なければ」

 司令官の言葉に、私たちは頷いた。

 私たちは艤装を身につけて急いで港へ向かった。出撃ドックから直接海に出て暁を迎えにいく。艤装が付けられない司令官は、「灯台の辺りから観るよ」と告げて、そちらへ向かった。

響「……」

雷「……」

 私たちの間に言葉はなかった。

 ただただ、暁の無事な姿を見たいという一念に囚われて、他のことなんてどうでもよかった。暁。私たちのお姉ちゃん。私たちの大切な家族。その顔がみたい。その顔を見るまで、心から安心なんてできない。

 駆けるように、海へ出た。

 暁。暁、暁、暁、暁――。

 雨が、装甲の上で弾け飛ぶ。雨脚がさらに激しくなってきていた。

 暁、暁、暁、暁――。

 第一艦隊の姿が、雨で烟る水面に浮かんできた。影が少しずつ形を現してくる。

響「暁っ!」

雷「お姉ちゃん!」

 喉を焼くように、私たちは叫んだ。
 
 その声は暁に届いたのか。重巡洋艦の肩を借りていた暁は、私たちの姿を見ると小さく笑った。笑顔は血で化粧されている。大破しているのだろう。黒い煙。電気を走らせる壊れた装甲。痛々しい姿だった。
94 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/01/27(土) 23:12:49.18 ID:oux51JHM0

 でも、生きている。
 
 生きていてくれている。

 お姉ちゃん、よかった――。

東『「勧酒」という詩を知っているかい?』

 突然、通信が耳をくすぐった。やけにノイズが少なくて、明瞭に聴こえてくる。

東『人生の儚さを謳った漢詩だ。この国では、井伏鱒二の名訳の方が知られているだろう。――この盃を受けてくれ、どうぞなみなみ注がしておくれ、花に嵐のたとえもあるぞ……とね。ふふ、聴いたことはないかな? 私はこの詩が大好きでね。ふとした瞬間、風呂でも入っているときにでも、よく口ずさんでしまうんだ』

 まるで歌うような調子の声。やけに明るくて、弾んでいるからか、雨の中でもはっきりと聴こえてくる。

 私は、思わず振り返った。

 灯台の下に司令官がいる。雨に邪魔されて司令官の顔だけは見えない。

 なぜ振り返ったのか。わからない。響は暁の元へ向かっているのに。どうして私は……。

東『と、こんなことを言いたいんじゃない。言いたいのは、そう、この詩の最後の一文。特徴的な一文についてだ。そこに書かれていることが本当かどうか、観てみたいと思ったんだよ。なにぶん好奇心が強いものでね。……ああ、後学のために教えておくとしようか。それは、こういう一文だ』

 最後の声音は、優しく紡がれた。

東『「さよなら」だけが人生だ』
95 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/01/27(土) 23:14:50.68 ID:oux51JHM0

 その瞬間だった。

 圧倒的な光と轟音が背後を貫いた。海が隆起し、全身を叩きつけるような衝撃が走る。私は前のめりに倒れてしまった。一瞬、世界から雨が消えた。視界も意識も真っ黒に染まる。

 それは落雷のような爆発だった。

雷「――」

 振り返ると、さっきまでの景色はなかった。炎が渦を起こし、黒煙が空を突き刺すように登っている。まるで海面が焼かれているようだった。

 人が、何人も転がっていた。ある人は血だらけになり、ある人は火に包まれて狂ったように暴れ、ある人は顔の半分を失って泣き叫んでいた。

 一体、なにが起こったのだろう。

 近くの悲鳴が、遠くから聞こえる気がした。

 前にいる響が、叫んでいる。あかつき、あかつき。そう叫んでいる。泣いているように叫んでいる。フラフラと前に歩きながら、炎に手を伸ばしながら。

 私は起き上がることさえできなくて。

 ただ、眼前に広がる光景を呆然と見ていることしかできなかった。

東『ふむ。どうやら本当かもしれないな。さよならだけが人生。ふふ、さよならだけが人生か。人生とは、脆いな』

 司令官の嬉しそうな声だけが、はっきりと聴こえた。

 今度の雨は遮りはしなかった。


96 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/01/27(土) 23:20:19.30 ID:oux51JHM0
投下しました。
人とは何か、という問いはこの作品のテーマでもあります。人ってなんなんでしょうね。
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/28(日) 00:17:10.08 ID:cb9x9pSF0
乙風(´・ω・`)
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/28(日) 09:01:55.34 ID:DMK2Xz2ao
おつ
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/28(日) 21:44:11.78 ID:mjXcrJXx0
更新多くて嬉しい乙
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/01(木) 16:48:58.20 ID:uUB/Rq760
乙です。
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/01(木) 22:38:58.60 ID:sUoWaagD0
乙風です
102 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/02/07(水) 14:37:50.48 ID:FU3OJffo0



 ■

 南西鎮守府は、「小さな揺り籠」だ。

 地図に名も載らない小島の中にある。かつてここは戦場として名を馳せ、何千人もの戦士が死んでいった場所だ。その名残なのか、島のあちこちには兵器の残骸が転がり、いくつもの防空壕の跡がある。そんなところに、優しい提督と艦娘たちが寄り集まっているのだ。

 彼女たちの多くは、かつて他の鎮守府に配属されていた。が、あらゆる地獄に触れ、苦しみの果てに脆く崩れ、傷つき、絶望し、果てにこの地へ流れついた。だから、ここには痛みを共有できる人間関係が自然と形成される。傷を舐め合うことに特化した集団となる。

 その様を、海軍内ではこんな風に揶揄する声があるそうだ。

 隔離病棟。

 鎮守府ではなく病院扱い。それはこれ以上にないほどの恥辱であり、不名誉な扱いであろう。しかし、残念なことに間違いではない。

 ここは元々、鎮守府ではなかったのだから。

 そう。ここは以前その揶揄どおりに病院だったのだ。正確に言えば、精神や肉体に傷を負った艦娘たちのリハビリを行う療養施設だった。

 艦娘は、精神や肉体にダメージを受け、戦闘行為を行えなくなった場合、二つの道を用意される。

 一つ目は解体という手段だ。解体の儀を行うことによって、艦娘の使命から解き放つ……いってしまえばクビにするわけだ。だが、これはあまり積極的に取られる手段ではない。なぜなら、解体をした場合は戦死した場合と違って、艦の魂を次の適合者に降ろせるようになるまで最短で二年もかかるからだ(これには個人差があって五年かかるものもいる)。戦死の場合、一年も掛からない。この厄介な制約が、前者の選択に対するハードルを上げているのだ。
103 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/02/07(水) 14:38:52.50 ID:FU3OJffo0
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104 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/02/07(水) 14:39:52.03 ID:FU3OJffo0

 だから、どちらかといえば二つ目の選択肢の方が積極的に用いられる傾向にあった。前述したとおり治療だ。戦線復帰が可能な見込みのある者を対象に、約一年の期限付きで療養施設へ入院させる。これは聞こえのいいことのようだが、実際は搾取の文脈で語られることだ。その艦娘が使い物にならなくなるまで、徹底して酷使する魂胆がありありと見える。本当に奴隷と紙一重の存在なのだ、我々は。

 まあ、それはさておき。この鎮守府は、元々二つ目の選択肢の役割を担っていた施設だった。それが、十一月に突如として鎮守府へと改装される運びとなったのだ。その理由は、この時期に発覚した『捨て艦』事件にある。

 あの事件がもたらした影響は計り知れないものだった。もはや通常の生活さえもままならないと判断され、解体されたものは人員の三割にも登り、それ以外の艦娘たちのほとんども治療が必要なレベルで「破壊」されていた。つまり、一つの鎮守府が消え、その人員のほとんどが療養施設へ送られることとなったわけだ。

 さすがに提督会議もこの戦力の損失には目を瞑るわけにはいかなかったのだろう。戦力を少しでも有効活用するために、療養施設を鎮守府へと改装する苦肉の策をとったわけである。

 それが、「小さな揺り籠」の創設の歴史だ。

 この鎮守府に、問題を抱える子達が多く集まるのもそういう理由である。

 陽炎姉さんのように身体の一部がない子。躁鬱を抱えながら休みがちに仕事をする子。定期的な幻聴に悩まされる子。いないはずの姉妹艦の名前を時折呼んでしまう子。比較的軽度だがPTSDにかかっている子も多い。むろん、深雪や時津風のように健康な子もいるが、ほとんどがそんな子達ばかりだ。
105 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/02/07(水) 14:41:09.34 ID:FU3OJffo0

 彼女たちは、自分の抱える課題や障がいと向き合い、治療しながら鎮守府の一員として戦うという、ある意味では過酷な状況下におかれている。そんな状況では症状がより悪化しそうであるが、提督の采配がいいおかげで、幸いそうしたトラブルはあまり起こってはいないらしい。情けのように送られてきた補充要員をうまく回して対応したり、それぞれの艦娘たちの症状に合わせたケアに努めていたりするおかげであろう。提督の優秀さが、彼女たちを綱渡りのような状況で救っていると言ってよかった。

 ……以上が、私がこの鎮守府について調べたことの簡単な概説だ。しかし、まだ調査は十分とは言い難い。この鎮守府は思った以上に奥が深く、まだまだ把握できないことも多くあった。まるで、深淵を覗いている気分になるくらいに。

 そう、例えば――あの二人。

 私は、思考の海から帰還し、目線を食堂のカウンターの方に滑らせた。

 そこには、楽しげに談笑しながら食べ物を受け取る鈴谷さんと熊野さんの姿があった。私は熊野さんを注視する。はしゃぐ鈴谷さんを窘めながら、彼女は優雅な動作でトレイを運んでいた。

 目を細めずにはいられない。

鈴谷「おりょ? 浜風さんじゃーん。チィース!」

浜風「どうも」

鈴谷「今一人なの? 珍しいね」
106 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/02/07(水) 14:42:36.13 ID:FU3OJffo0

浜風「陽炎姉さんは提督に呼ばれているみたいで。たぶん、提出した報告書について不備か質問があったのでしょう。私は陽炎姉さんの用件が終わるまで待っています」

鈴谷「ふーん。それじゃあさ、陽炎ちゃんたちが来るまで私たちと一緒にご飯食べない?」

浜風「いいですよ。喜んで」

 愛想笑いを浮かべて了解すると、鈴谷さんも嬉しそうに笑った。後ろにいる熊野さんが躊躇を見せたが、鈴谷さんが席に着くと諦めて座った。

熊野「すいません。……鈴谷が失礼しますわ」

浜風「気にしないでください。私も、お二人とお話ししたいと常々思っていましたので」

鈴谷「そっかそっか。嬉しいこと言ってくれるじゃ〜ん!」

 本当に嬉しそうに鈴谷さんは言った。この笑顔を見ていると、邪気はないように思える。彼女はとても人懐こい性格だし、接しやすいからだろう。

 私は、鈴谷さんと熊野さんとたわいのない雑談をしながら食事を進めた。味気ない食事に、味気ない会話。つまらない時間だったが、二人はとても楽しそうに笑っていた。

 一頻り話をしたところで、陽炎姉さんたちがやってきた。

陽炎「はまかぜー」

鈴谷「……と、陽炎ちゃん来たね。そろそろ私たち行こうかな」

浜風「そうですか。もう少し話していけばいいのに」

鈴谷「んにゃ、そうしたいのは山々だけど。そろそろ私たちも出撃の準備をしなくちゃさ」

浜風「ああ」

熊野「楽しかったですわ。また、機会があればお話ししましょう」

 熊野さんが微笑んだ。
107 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/02/07(水) 14:43:52.23 ID:FU3OJffo0

浜風「それでは、また」

 二人は手を振って去っていった。入れ違う形でやってきた陽炎姉さんが不思議そうな顔で二人の背中を見ていた。

陽炎「浜風、遅れてごめん」

浜風「いえいえ」

陽炎「鈴谷さんたちと食べてたの?」

浜風「ええ。とても楽しいお話をいろいろ聞かせていただきました。鈴谷さんも熊野さんも、いい人ですね」

陽炎「そっかー」

浜風「なんだか嬉しそうですね?」

陽炎「そう? まあ、あんたもちょっとずつみんなと溶け込めてきたんだと思うとね〜」

浜風「なるほど」

 私は曖昧に返事をした。

浜風「ところで、陽炎姉さん」

陽炎「何かしら?」

 鈴谷さんと熊野さんに目をやる。二人は、食堂を出るところであった。私は、熊野さんの背中へと視線を移した。

浜風「……あれは、誰なんですか?」

陽炎「え?」

浜風「熊野さんです」

 ああ、と小さく呟いて、陽炎姉さんは表情を曇らせた。
108 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/02/07(水) 14:45:06.05 ID:FU3OJffo0

陽炎「……気づいちゃったのね」

浜風「偶然、工廠で艤装保管名簿を目にして気付きました。この鎮守府に、熊野なんて艦娘は所属していませんよね」

 本当は、偶然なんかではなく、全員の情報を把握するために行った調査で気付いたのだが。ここに配属されている重巡洋艦は全五隻。そのうち、最上型は二隻だけだ。その中には熊野さんの名前なんてなく、別の艦娘の名前があった。

浜風「私の気のせいではないならば、本当は三隈という名前の艦娘ではないですか?」

 陽炎姉さんは小さく首肯する。

陽炎「……それ、本人に言ってはダメよ? せっかく仲良くなれたんだから」

浜風「わかっています。彼女はおそらく」

陽炎「解離性同一性障害。あの人は、疑うことなく自分のことを熊野だと思っている」

浜風「……」

 やはり、そうか。

浜風「……彼女は以前、どこの鎮守府にいたんですか?」

陽炎「……」

 陽炎姉さんは俯いて、言葉を口の中で転がしていた。言いにくそうにしているところを見ると、察しがついた。

 名前を出すことさえ憚られる鎮守府なんて、一つしかない。

浜風「東鎮守府。そうですね?」
109 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/02/07(水) 14:46:21.27 ID:FU3OJffo0
undefined
110 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/02/07(水) 14:47:05.72 ID:FU3OJffo0

陽炎「そうよ。雷ちゃんたちと、一緒のところ」

 深く深く嘆息し、

陽炎「……あの人は、きっと、耐えられなかったのでしょうね。逃げることもできずに追い詰められた結果、熊野さんという人格を作って、辛い経験と記憶から逃避した。何があったかは、三隈さんの主人格が心を閉ざしてしまっている以上、詳しくはわからないけどね」

浜風「……そうですか」

陽炎「そっとしておいてあげて。気づいていないフリをして、熊野さんとして接して欲しい。事情を知っている子はみんな、そうしているから」

 私は、首を縦に振った。

 解離性同一性障害は、自分の中に別の人格を生み出してしまう精神病である。しかし、それはまったくの別人を生み出すわけではなく、あくまで自分の心を区分けするような形で生み出すのだ。つまり、別人が宿るのではなく、その人の内側から生じる一部でしかない。その一部分のことを「交代人格」と称するが、「交代人格」はその人が辛い経験や記憶から逃れるため、必要に応じて生み出されたものであり、彼らはそれぞれに応じた役割を担う。その理解が前提として重要となってくる。

 この障害は、幼年期の愛着障害と、耐え難いほどの苦痛に満ちた体験を通じて発症するとされている。共通する特徴としては、「安心できる居場所の喪失」が挙げられており、それが基盤にあるからこそ、彼らは自分の交代人格という逃避先を失うことを極度に怖れる傾向にある。自己の存在を確かめるために自傷行為に走ったり、治療をする医師に対して「お前は私を消すつもりなのだろう!」と攻撃的な態度に出るケースがあることも、それを裏付けているだろう。

 だから、私たちは彼らを否定してはいけない。否定せず、その人格の存在を認めなければいけない。それが大事なアプローチなのだ。陽炎姉さんが、そっとしておいて欲しいと言ったのもそれが理由だ。

浜風「鈴谷さんも、わかっていて接しているのですね?」

陽炎「……ええそうよ。彼女は舞鶴鎮守府だったんだけどね。三隈さんの治療のために転属を希望して、ここに来ることになったって司令から聞いたわ。三隈さんとは姉妹艦というだけでなく、同期だったみたいね」
111 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/02/07(水) 14:49:29.05 ID:FU3OJffo0

浜風「なるほど」

 だから、彼女は他の艦娘たちと違って壊れてはいないのか。きっと、心の強い人なのだろう。自分の友人が歪に変わってしまったことを受け入れた上で、自然に振る舞うなんてことは、そう易々とできるものではない。

浜風「ああいう障害には、専門家、周囲、そして側にいて支えてくれる存在……それらが三位一体となった、複合的な支援が必要となってきますからね。鈴谷さんは側にいて支える存在として、これ以上にないくらい適任なのだと思います」

陽炎「そうね……」

 陽炎姉さんはそう言うと俯き、しばらく黙りこんだ。そのまま時計の長針が一周するくらい考え込み、ふと顔を上げた。

陽炎「……あんたに話しときたいことがあるの」

 無言で続きを促すと、陽炎姉さんは周囲を見渡した。

陽炎「場所を変えてもいいかしら。ここじゃ、ちょっと話しにくいから」




 陽炎姉さんとともにやって来たのは艦娘寮の屋上であった。

 金網が軋む。フェンスに背中を置いた陽炎姉さんは、懐から小さな箱を取り出した。「誉」という粗悪な煙草だった。

陽炎「吸うのよ、実は」

浜風「意外です」

陽炎「こう見てもけっこう不良なのよ」

 陽炎姉さんは笑いながら煙草に火をつけた。紫煙がゆらゆらと立ち登り、空へと溶けて無くなる。
112 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/02/07(水) 14:50:52.65 ID:FU3OJffo0

陽炎「あんたと二人でこうして話をするのは、久しぶりかもね」

浜風「たしかに、そうかもしれません。二月からゆっくり話している暇なんてありませんでしたし」

陽炎「いつ以来だったかな」

浜風「もう、一年経ちますね」

陽炎「そっか……」

 煙草の火が蛍のように赤く灯る。

陽炎「谷風は元気にしているかしらね」

浜風「私がいたときは元気でしたよ。今はどうかはわかりませんが……」

 谷風たちが……南鎮守府のみんなが現在どうしているのかは私も分からない。ただ、提督から聞いた話によると南鎮守府は現在も存続しているらしい。南提督が死んだ話は一切伏せていたから、はっきりしたことは知らないが。解体されたとの話もなかったから、きっとまた、新しい提督が着任することになったはずだ。

陽炎「……元気だと、いいわね」

浜風「もしかして、手紙が来ないんですか?」

 陽炎姉さんは、重たげに頷いた。

陽炎「二月からね。ぴったり、来なくなっちゃった」

浜風「……」
113 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/02/07(水) 14:52:05.46 ID:FU3OJffo0

陽炎「だから、友達としては心配かな。心配するだけで、どうすることもできないけど」

 陽炎姉さんらしからぬ、諦観を匂わせる台詞だった。それがさらっと彼女の口から出てきたことが意外で、少しだけ驚く。

 右腕の義手をさすりながら、陽炎姉さんは言った。

陽炎「どうして、みんなに手が届かないんでしょうね。みんな、一人残らず助けられればいいのに」

 伸びきった煙草の灰が、崩れて落ちた。塵となり、一瞬で風にさらわれてゆく。

 私は、何も言わなかった。

 叶わないとわかって口にする理想は、自嘲に他ならない。それを意味もなく貶すのは、悪趣味としか言いようがないだろう。

 戦争での命は、落葉だ。到底拾いきれるものではない。彼女も戦場に足を踏み入れて一年で嫌というほど思い知らされてきたのだろう。彼女の零した本音のかけらには、なんとも言えない哀愁が漂っている。

 一年。たかが一年だ。だが、一年という月日は、あまりにも重くのしかかってくる。陽炎姉さんが煙草を嗜むようになったのも、きっとこの重みから少しでも目を逸らしたかったからなのだろう。

 煙草の火が消えた。

浜風「……そろそろ本題に入りましょう」

 陽炎姉さんが二本目に手をつける前に、私は言った。

浜風「話とは、何ですか?」

陽炎「……」

 握り締められた義手が、音を立てて震えた。

陽炎「……ここが元来どういった場所なのか、提督や他の誰かから聞いているかしら?」

114 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/02/07(水) 14:53:48.69 ID:FU3OJffo0

浜風「はい。元々、療養施設だったようですね。東鎮守府の一件をきっかけに鎮守府へ変わったと聞きました」

陽炎「そうよ。だから、ここには色々な事情で排除された子や傷ついた子達が多く所属しているわ。雷ちゃんや三隈さんのようにね」

 そう言って、上へと視線を移した。雲に濁された空は暗い感情の鏡のようである。

 陽炎姉さんは見るのが嫌だったのかもしれない。目を閉じて、ゆっくりと細く息を吐いた。
 
陽炎「……海軍は狂っている。戦場に出て、一番実感したことがこれよ。戦闘の怖ろしさよりも、命の尊さよりも、何よりもね。私たちが剣を捧げた組織の腐敗に巻き込まれ、みんな病んでしまった。いつも思うのよ、私。私たちは一体何のために……誰のために戦わされているのかって」

 そんなこと、答えは出ている。簡単だ。私たちが怪物を殺せば殺すほど甘い汁を啜ることができる極少数の者達のためだ。国を守るためでも、平和を取り戻すためでもない。大義などない。なんにもない。

 あるのは腐った果実の甘い香り。戦争を狩りと見做し、勲章を見て自慰行為に耽る外道貴族どもの享楽の宴。その実態の中で私たちの有り様は、青と赤の凸型の駒でしかない。艦娘は護国の英雄だと嘯き、虚像の誇りを育む嘘に騙された、愚かな駒だ。

 その嘘に私たちは苦しめられた。私も、おそらく陽炎姉さんも。そして、ここにいる壊れた艦娘たちも。

陽炎「ここにいるみんなも、同じことを思っている。戦うことに、本当は大した意味はないんだって。霧のような夢から目を覚ましちゃったのよ」

浜風「……それでも、みんなは戦いを止めない。それは何故でしょう?」

 分かっていながらも、敢えて訊ねた。意地悪をする気もからかう気も一切ない。

 ただ、なぜだろう。なぜか、陽炎姉さんの口から答えを聴きたい気がしたのだ。

 陽炎姉さんは、ゆっくりと顔を下ろして私の顔を見つめた。皮肉っぽく笑うことなど一切なかった。アメジストの瞳は尊厳に洗われ、澄んでいた。
115 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/02/07(水) 14:57:28.59 ID:FU3OJffo0

陽炎「私たちが、艦娘だからよ。大義があろうがなかろうが、それでも私たちは戦わなければならない。これは、理屈では語れないことよ」

浜風「……そうですね」

 たしかに、理屈を並べ立てては語れないことだ。いかに汚されようとも、嘘の英雄像で飾り付けられようとも、「艦娘である」という誇りだけは確かなものだ。それだけは変わらないし、変えられない。

 真の化物にでも、ならない限りは――。

陽炎「馬鹿だと思う。でも、そんな馬鹿野郎どもを誰よりも私は誇らしく思うの。それは、可笑しなことかしら?」

 私は首を横に振った。

浜風「たしかに、合理とは程遠いですね。でも、誇りというのはそういうものなのだと思います」

陽炎「……そういうところは、変わらないわね」

 陽炎姉さんは呟くように感想を漏らし、少しだけ表情を緩ませた。首を傾げても、彼女は答えず、煙草を咥えた。

 ゆらり、ゆらり。煙がまた昇る。

陽炎「私はね、そんな大好きな馬鹿野郎どもを守りたいの。それは命だけではなくて、心や魂も含めてね。……矛盾したことを言っているように思うかもしれないし、たしかにそう言われたら反論し辛いわ。でも、こんな無茶苦茶な思いを、分かってくれた人がいる」

浜風「……提督、ですね」

 無意識に手を握る。一ヶ月前に感じた熱は、もはや残り滓のように儚い。

 陽炎姉さんは紫煙をゆっくりと吐いて、

陽炎「司令は、私のことを『同志』って言ってくれたわ。同じ想いを抱いた『同志』だって。司令官なんてどいつもこいつも役職だけ立派なクズばかりに違いない思っていたけど……あの人だけは違った。あの人は本当に、この鎮守府を、私たちを守ろうとしてくれている。艦娘の権利を、尊厳を、命を」

 語調が強くなっていく。風が吹き抜け煙草の火を消す。熱を言葉に吸われるように陽炎姉さんの意思に火が灯る。

陽炎「だから、この鎮守府だけは絶対に、どんなことがあっても守護するわ。ここは、私たちにとって最後の希望。唯一の正気の島だから」

浜風「……正気の島」
116 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/02/07(水) 15:00:53.21 ID:FU3OJffo0

 こんな、壊れた者たちが傷を舐め合う場所が、か。

 でも、陽炎姉さんの想いは否定できるものではなかった。たしかに、ここは彼女たちにとって、艦娘としてのアイデンティティを保っていられる最後の居場所だ。提督の傘の下で、仲間達と苦しみを分け合いながら、どうにかこうにか生きている。だからこそ、彼女たちは皆必死に戦おうとするのだろう。

 悲しいほどの直向きさだった。

陽炎「もう、何も失いたくはない。手の届かない場所は無理でも、せめて自分の手の届くところだけは……。もう、守れないのは嫌なの」

 陽炎姉さんは、義手を空に掲げてそう口にした。鋼鉄の腕を見つめる目には、まさに陽炎のような感情の揺らぎが映っている。そこにあるのは腕を失ったことに対する後悔か。それとも、もっと別のことに対する懺悔なのか。

陽炎「……ねえ、浜風。あんたにもお願いしたいの。どうかこの鎮守府にいるみんなを、あんたにも守って欲しい」
 
浜風「私も、ですか」

陽炎「無理にとは言わない。でも、協力して欲しいの。あんたなら、私や提督よりもずっと頭の回転が速いし、こういうのは得意だと思うからさ」

浜風「……」

 これが、彼女の話したかったことなのだろうか。

 きっと、間違いではない。これは、彼女が血を撒き散らしながら彷徨い続け、その果てに見出した一筋の光だ。輝かしい想いを共有し、同じ道を歩きたいと思って話してくれたことに、誇張も嘘もないだろう。
117 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/02/07(水) 15:02:37.30 ID:FU3OJffo0

 まごう事なき本音。ただ、その本音の裏には別の思いが隠れている。きっと洞穴のような暗く澱んだ、失意の片鱗だ。腕を失い、最果ての「小さな揺り籠」に至ることとなった原因……それに触れようとしたのではないか。

 だが、陽炎姉さんは何も語ろうとはしなかった。

 きっと語る勇気が後一歩足りないのだろう。彼女は強く優しい人だが、その反面繊細なところもある。私に知らせたいと思いつつも、知られることが怖いのだ。

 そう察しつつ。私は、助け舟を出す気にならなかった。

 そこに、大した理由はない。
 
浜風「……分かりました」

陽炎「協力してくれる?」

浜風「ええ。陽炎姉さんと提督の願いですから」

陽炎「……ありがとう」

 陽炎姉さんはそう言って、嬉しそうにも寂しそうにも見える微笑みを浮かべた。

陽炎「あんたも一緒なら心強いわ」

 私は何も言わず、そっと空を見上げた。消えかけた紫煙の先に広がる空は、どんよりと重たい色になっていた。

 きっと、雨が降るだろう。

 嘘つきな私を非難する、煩い雨が。

118 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/02/07(水) 15:03:33.61 ID:FU3OJffo0
投下終了です
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/07(水) 15:34:34.12 ID:Tki+bzLQO
乙です
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/07(水) 22:37:27.64 ID:iSK9Wdeg0
乙風
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/07(水) 22:47:57.28 ID:J5gd+Bq90
乙風なの
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/27(火) 07:41:31.86 ID:ZIowptKcO
いいですね
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/04(日) 00:56:50.20 ID:ZMzEcgO60
乙です
124 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/03/18(日) 18:37:14.43 ID:lXqu+oFy0





 ■

 俺は、疲れていた。

 身体が鉛のように重たい。それに反し、頭がふわふわと浮いたように軽い。思考がまとまらないときがあって、ぼうっとしてしまう時間が増えた。報告に来たものたちの言葉も、耳に入っても鼓膜を通過しないで蒸発することが頻繁にあった。歩くと、ふらつくときがある。

 どう考えても、疲労のせいだ。最近、沖ノ島海域攻略の準備で多忙を極めていることもあるが、理由はそれだけじゃない。

 どこに行くにも雷がついて回るからだ。仕事のときも、飯を食いに行くときも、果ては用を足すときまでも、俺の側から離れようとしない。唯一、煙草を吸いに行くときだけは煙の匂いを嫌がって距離を置いてくれるが、それだけだ。それ以外の時間は、ほぼほぼ雷の拘束を受けている状態だった。

 それは、寝るときだって例外ではない。

 重たい溜息が出た。

 雷が右腕に抱きついて寝ていた。俺の部屋、俺のベッドの中で、どうしてこんなにも穏やかな寝顔ができるのか。涎を垂らし、だらしなく口元を緩ませている。

 呑気なものである。俺は、君のせいでロクに休めていないというのに。

 燻る苛立ちを引っ込めて目を瞑る。だが、腕にかかった重さと柔らかな温かさが気になって、どうにも寝ることができない。もちろん、情欲に繋がるものではない。ただただ、岩の上に布一枚敷いたような寝心地の悪さが気になって仕方がないだけだ。もともと、人と一緒に寝れる性質ではないだけに、余計に辛い。

 寝るときくらい、一人にしてくれ。
125 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/03/18(日) 18:38:21.05 ID:lXqu+oFy0

 そう何度念じたことか。

 だが、口には出せない。口に出せば、雷の腕に赤い刻印が増えてしまうから。

 このまま、雷が熟睡したことを確認して抜け出そう。一度深い眠りに入れば、彼女はそうそう起きない。その隙に、一杯ひっかけてやる――。

 そう誓い、目を開ける。

 今夜は半月のようだ。淡い明かりが窓に染み込み部屋を濡らす。夜鳥の声が遠くから聞こえては消え聞こえては消え、静寂を壊さない風情を運んでくる。

 俺はそっと腕を動かしてみた。ぎゅっと握り返された。

 まだ、ダメか。

雷「……響」

 溢れそうになった舌打ちは、その呟きに遮られた。

 腕を引かれた。

雷「響……どこにも、行かないで……」

提督「……」

 熱を孕んだ感情が瞬時に冷めていく。

 響。それは、彼女の姉だった艦娘。理不尽に、無意味に、奪われてしまったかけがえのない命。

 もう二度と、戻ってこない「家族」だ。
126 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/03/18(日) 18:39:28.04 ID:lXqu+oFy0

 雷の目尻から悲愴の露が零れる。鼻筋を通り、俺の腕を冷たく濡らした。雷の中でけっして無くならない喪失の悲しみに、俺は目を伏せずにはいられなかった。

 鬱陶しい。そう、思いそうになっていた。ずっと纏わり付いてきて、自分のわがままを押し通すために狂気をひけらかす雷が重みになりかけていた。

 だが、俺は覚悟したはずだった。雷の……ここにいるみんなの苦しみを受け止める、と。そして、その覚悟に従い、俺は雷を救った。そして、彼女は俺を慕うようになった。俺には彼女を救った責任というものがある。このような身勝手で、感情的な考えを抱くのは無責任という他ない。

 俺は……。俺は、なんてことを。

 雷の髪に触れる。絹のように柔らかい髪は指に絡みつき、すぐに流れた。

 疲れているせいだ。

 初心を忘れてはいけない。たとえ、浜風の嘲り通りの関係性になっていようとも。それを苦々しく思ってしまうことがあろうとも、受け止めなければならないのだ、俺は。

提督「……俺は、提督だからな」

 だから、守らないと。

提督「……雷」

 もう苦しまなくていい。君は、もう辛い思いをする必要はないのだ。

 ゆっくり撫でていると、雷が優しい顔つきに戻った。

 ほっと息をつく。

 こうして見ると天使のようだ。細い眉に、小さな口、そしてやや幼さを感じさせる桃色の頬。もし、艦娘となった副作用で成長が止まっていなければ、きっと今頃美人になっていただろうに。重責も背負わず、悲劇も知らず、幸せになっていただろうに。

 艦娘なんかに、ならなければよかったのに。

 俺は瞑目し、ゆっくりと自分の肩を揺する。肩の骨が軽快に音を立てた。思ったよりも大きい音だったが、雷はまったく反応をせず穏やかな寝息を奏でている。

 とりあえず、酒を飲もう。それなりの量を飲めば寝ることはできるはずだ。睡眠の質は下がるが、どうせ寝れないのなら深酒してしまったほうがいい。

 そう思い、雷の腕をそっと外して起き上がったときだった。
127 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/03/18(日) 18:40:35.08 ID:lXqu+oFy0

 ドアがノックされた。

 軽快だが気遣いを感じさせる優しい音だ。
 
提督「なんだ」

 答えて、はっとした。つい、いつもの癖で反射的に答えてしまった。
 
 馬鹿野郎。今は雷がいるのだ。扉の先にいるのが陽炎ならともかく、あのノック音は間違いなく陽炎ではない。榛名か、それか羽黒……おそらくどちらかだ。

 だが、その予想は最悪の形で外れた。

浜風「……夜分遅くに失礼します」

 心臓が冷えた。あれは、浜風の声だ。

 まさか、このタイミングで浜風が来るなんて。

 俺は雷の方に目を向ける。小さく寝息をたててはいるが、寝ているのは確かだ。

 この状況を浜風に見られるわけにはいかない。いかに雷が幼いとはいえ、秘書艦が提督である自分と共寝しているなどと知れたら、どう誤解されるかわかったものではない。賢い子だから、事情を説明すればわかってくれるかもしれないが……だが、良くは思われないだろう。

 とくに、二人は仲が良くないのだ。これをきっかけに、二人の仲がさらに険悪になるなんてことにも繋がりかねない。

浜風「提督に……その……用事があって来ました。よかったら、開けてもらえると嬉しいです」

提督「あ、ああ! ちょっと待ってくれ」

 一体、どうしようか。

 扉と雷を交互に見ながら考える。身体の重たさはいつのまにか消し飛んでいた。

 とりあえず雷に布団をしっかりと掛ける。これで扉側から見えにくくはなっただろう。だが、寝返りを打たれでもしたら簡単に見つかってしまう。やはりどうにかこうにか理由をつけて帰ってもらうのが得策か。いやしかし――。

 そうこうしているうちに、なんとドアノブが回った。扉がゆっくりと開いていく。浜風が、あっと小さい声を漏らした。

 俺は慌てて扉に近寄った。
128 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/03/18(日) 18:42:03.36 ID:lXqu+oFy0

提督「や、やあ。浜風」

浜風「あの、すいません。まさか開いているとは思わず、つい……」

 浜風は、申し訳なさそうに眉毛をハの字に下げた。

提督「いや、いいんだ。俺が鍵をかけ忘れていたのが悪い。不用心だったな」

浜風「いえ、私も勝手に開けてしまったので。……提督、今、時間よろしいでしょうか?」

提督「そうだな、ちょっと日を改めてもらえると嬉しいかな。明日も早くから起きないといけないし、来客もあるから。憲兵の定期監査が来ることになっている。あと書類もかなり溜まっている。締め切り間近のやつを片付けねばならないんだ」

浜風「は、はあ。相変わらず、お忙しそうですね……」

 早口でまくし立てるように言ってしまったからか、浜風が微苦笑を浮かべた。そして、目を伏せる。

浜風「ご迷惑、でしたね。すいません」

提督「め、迷惑というわけではないぞ。ただ、忙しくてな。睡眠時間だけはしっかり確保したいから」

 背中が汗で冷えていたが、心は少しだけ平静を取り戻しつつあった。この流れなら浜風も帰ってくれるだろう。浜風には悪いが、今だけはどうしてもタイミングが悪すぎる。

 だが、浜風は引こうとはしなかった。

 きゅっと下唇を噛んで、俺の手をしばらく見つめた後、顔を上げた。

浜風「失礼を承知でお願いがあります。そんなに時間は取りませんので。その……」

 息を吐いて、言葉を紡いだ。

浜風「手を握って欲しいんです。それだけなのですが、駄目でしょうか?」

提督「……」

 俺は後ろを気にしながらも、浜風の顔を見た。

 期待と不安が混在した表情だった。青い瞳が潮が引いているときの海のように揺れている。あどけない、歳不相応な彼女が年相応になっていた。木香薔薇の香りが漂っているようだった。

 ささやかな幸福を、浜風は感じている。そして、その幸福をいま欲しがっている。まるで、お菓子を欲しがる子供のようないじらしさがあって可愛いらしい。ほんの一月ほど前は、こんな浜風をみて調子が狂いそうになった。ギャップがありすぎるからだ。
129 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/03/18(日) 18:43:13.31 ID:lXqu+oFy0

 が、今は米神に汗が滲むだけだった。焦りと、過去の慄きが一息に吹き出してきた。後ろの気配が急激に濃密になった気すらした。

 おかげで、「消毒」されかけたのだ。あれ以来ライターは全て処分したが、それであのときの記憶もゴミ箱に行くわけではない。この白磁の中に朱が滲んでいるような美しい手をとった途端、黒い瞳がこちらに向いているのではないか――。冗談として一笑できないのが怖ろしい。

提督「……」

 目を下げると、浜風の手が開いたり閉じたりしているのが見えた。逡巡する。まるでロシアンルーレットでもしているかのような気分だ。

 この手をとっていいものか。

 浜風の気持ちを思えば、握ってあげたい。ほんのささやかな願いでしかないから、叶えたい。

浜風「……やはり、駄目でしょうか?」

 浜風の声は不安げに震えていた。
 
 ええい、仕方ない。自分の気持ちに正直になれ。

 浜風の手を握ろうと手を伸ばした瞬間だった。

雷「……ううん」

 全身が硬直した。

 雷が寝返りをうって、こちらを向いたのだ。毛布が蹴飛ばされていた。扉から漏れ出た淡い光が、寝顔を映していた――。

 時が凍るとはこのことか。すべてが消え失せた。音も色も、感覚の一切が無へと還った。

 浜風がぽかんと口を開けていた。瞬きを繰り返し、思考を停止させているようだった。

 沈黙が重たい。沈黙が、冷たい。
130 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/03/18(日) 18:44:51.36 ID:lXqu+oFy0

浜風「……お邪魔だったようですね」

 冷笑を浮かべながら、浜風が言った。

提督「ま、待て! 待ってくれ! 誤解だ!」

浜風「わかっています。秘書艦娘と同じベッドで『仕事』をすることにお忙しいのでしょう?」

提督「わかってないじゃないか! そ、その、これは違うんだよ! 説明させてくれ!」

浜風「いえ、必要ありません」

 踵を返そうとした浜風の手を、反射的に握った。

提督「た、頼む! 話だけでも聞いてくれ……!」

浜風「……」

 浜風は握られたところをじっと見つめた。

浜風「……話だけなら聞きましょう」





浜風「事情はわかりました」

 浜風はそう言って、溜息をついた。

浜風「想像以上に依存されていますね。……一日中、べったりじゃないですか」

提督「……そうなんだよ」

 俺は扉に背中をあずけた。木の扉が、深く軋んだように思えた。

提督「正直、ちょっと困っている。前はここまでべったりしてくることはなかったんだけどな。夜も、最近はほとんど毎日来る」

浜風「最近は、ということは以前からあったのですか?」

提督「ここまでではないが、結構……。一人では不安で眠れないと言って来ていた」

浜風「なるほど。今は、毎日不安に苛まれているわけですね」

 微かなアイロニーが匂う口調だった。

浜風「そんなに不安を感じることはないと思うのですがね。いつも、どんなときでも提督と一緒にいられるのですから」

提督「……」
131 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/03/18(日) 18:46:05.82 ID:lXqu+oFy0

 君が遠因ではあるのだけどな。

 だが、そんなことは口に出すべきではない。浜風は、ただ普通に接してきているだけだ。多少の「わがまま」はあるが、本当に些細なものだし、注意する必要なんてない。それに、浜風の境遇を思えば、これくらいは付き合ってやりたいと思うのが人としての情というものだ。

 色彩の欠けた世界で生きることを強いられた浜風が、唯一見出した色。俺という人間の温もりだ。それは、さながら雪山の中に突然現れた小屋にも似ていて。浜風がすがりたいと思うのは詮なきことであろう。

 問題の根底は雷にある。あるいは、俺の今までの接し方に誤りがあったか。

提督「……どうしたものかな、本当に」

浜風「拒否するわけにはいかないのですか? あまり優しくしすぎても依存が強まっていくだけですよ」

提督「わかっているよ」

 けれど、それをやってはならない。やってしまえば、彼女は自分を痛めつける。拒絶により吹き出した不安を、傷として刻み込む。

 それは、さすがに浜風には言えない。

 雷の名誉にも、関わってくる。

提督「そうすべきだとは思う。けれど、甘いんだろうな俺は。彼女にはなるべく笑顔で居てもらいたい」

浜風「それで、提督から笑顔が消えるようではいけないと思いますよ。……ロクに寝れていないのでしょう? 目の下に大きな隈があります」

 浜風に指摘されて、思わず目元を拭った。

 やはり隠し切れはしないようだ。

浜風「提督はただでさえ、大変な立場にいらっしゃるのです。雷さんのことまで抱え込みすぎると、今度は貴方が壊れてしまいます。それでは共倒れです」

 浜風の言葉は淡々としているが、鋭く尖っていた。

浜風「提督は、優しすぎますよ」

提督「……そうかな」

浜風「そうですよ。そこは提督の美点でもありますが、それで磨り減るのは勿体ないです。自分をもっと大切にしてください。自分を犠牲にしては、駄目です」

 青い瞳が、疲れ切った俺の顔を映している。酷い顔だ。自分でもそう感じる。
132 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/03/18(日) 18:47:13.52 ID:lXqu+oFy0

提督「もう少し、毅然とした態度を取るべきなのかもしれないな」

浜風「ええ、雷さんのためにもなりませんから。依存状態を抑えるためには、ある程度の線引きは必要なことでもあります。それに……」

 浜風は言葉を区切り、言った。

浜風「場合によっては、もっと専門的な治療も視野に入れるべきでしょう」

提督「……それはつまり」

浜風「提督の元から離すということです。幸い、ここには専門家が在中していますからね。彼らに任せるべきです」

 浜風の言うことはもっともだ。側から見たら、もうそうすべき段階にあるのは目に見えている。依存を止めさせるには、結局のところ、その依存先に近づかないよう離すのが一番だ。

 だが、それはあまりにも危険すぎる。

 口を噤んで、下を向いた。胃の内容物がもぞもぞと蠢いて、上に這い上がってきたからだ。

 思い出すのは血に染まったシーツとベッド。

 まだ、浜風がこの鎮守府にいなかったときのことだ。すでにそのとき、俺は雷の治療を専門家に依頼したことがあった。が、結果は惨事に終わった。俺の元から離れることがわかった雷は、豹変し、狂ったように暴れ、自分の手首の骨が剥き出しになるほど切って切って切りまくった。「司令官と離れ離れになるなら死んでやる!」と咆哮を上げながら――。

 また、ああなることは目に見えている。だから、その選択だけはできない。

 それに、依存のきっかけを作ったのはそもそも俺なのだ。俺には、その責任がある。
133 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/03/18(日) 18:48:28.39 ID:lXqu+oFy0

 俺の無言に察するものがあったのか、浜風が溜息を零した。

浜風「もし、専門家に任せるのが難しいのなら……なるべく距離を置くように工夫するべきです。あなたには、一人の時間が必要ですよ」

提督「そんな方法あるかな」

浜風「なくはないですよ」

 俺は目を白黒させて、浜風を見た。

浜風「簡単な話です。彼女を出撃させればいいんです」

提督「なに?」

浜風「出撃です。理由はよくわかりませんが、提督は彼女を出撃させていませんよね? 遠征隊として出撃させれば物理的に距離を取れますし、それなりの時間も取れますから」

提督「しかし、それは……」

浜風「……なにか不都合なことでもあるのでしょうか?」

 俺は小さく頷いた。

提督「雷は、前の鎮守府で家族を亡くしているんだ。……そのときのことが頭を過るんだろうな。出撃を怖れている節がある」

浜風「……なるほど。ですが、そうも言ってられないとは思いますが」
 
提督「どういうことだ?」

浜風「さっき、言っていたじゃありませんか。憲兵の定期監査が入ると」

 俺は押し黙った。内心、浜風の博識さに舌を巻きつつ。

 そうか、彼女は元秘書艦のだったな。ならば、定期監査でどういったチェックが入り、どういった指導が行われるのか知っていてもおかしくない。

浜風「雷さんは、半年近く一回も出撃していないのですよね? いくら出撃義務がある程度免除される秘書艦とはいえ、その点は確実に突っ込まれると思うのですよ。この鎮守府や、ここにいる艦娘たちの事情がいかに特別なものであろうとも」

 浜風の目が、猫のように細くなる。

浜風「……もしくは、すでに突っ込まれたことがあるのではないですか? 通常なら、療養所で治療中のもの以外を除き、二ヶ月活動記録がない艦娘には『強制出撃』が命じられますからね」

 どういった特別措置がこの鎮守府に適用されているか知りませんが――。浜風はそう言葉を締め、扉の方に目を移した。小さく鼻を鳴らし、微かな笑みを浮かべた。
134 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/03/18(日) 18:49:45.17 ID:lXqu+oFy0
undefined
135 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/03/18(日) 18:50:37.07 ID:lXqu+oFy0

 息を飲む。手が汗で滲んでいるのを感じる。

 怖ろしい子だ。この鎮守府の特異性を考慮し――内容までは仔細に知らないまでも――特別措置が取られていることまで読んで、このような指摘をしてくるなんて。しかも、ほぼ当たっている。雷について、憲兵からすでに指摘を受けているのは事実だ。

 南西鎮守府には、他の鎮守府にはない特別措置がいくつか認められている。これは、俺がこの鎮守府の提督に任命されるにあたり、提督会議と交渉して得たものであった。

 代表的なものを挙げるとするなら、十分な補充要員の確保、そして療養が必要な艦娘のある程度の出撃免除――この二つ。とくに後者は厳しい追及を受けた。落ちこぼれた「戦力」の有効活用が、鎮守府への改装の大前提としてあったからだ。当然、それに反するような条件だから、揉めるに決まっている。

 しかし、胃を痛めながらも交渉をした結果、どうにか後者の条件を勝ち取ることに成功したのだ。ただ、当初提示していた条件に比べると、到底満足できるものにはならなかったが。

 その内容はこうだ。対象となる艦娘については、最大四ヶ月までの出撃免除を認める――というもの。

 そう、四ヶ月。つまり雷はすでにその期間を二ヶ月も超えてしまっているわけだ。憲兵からこのことを問題視されるのは当然の帰結と言えた。なんとか、理由をあれこれつけて雷を庇ってはいるが……そろそろ庇いきれなくなってきている。

浜風「このままでは、どのみち雷さんが辿る道は『強制出撃』です。『強制出撃』は、事実上の処刑とほぼ変わりません。片道分の燃料だけを与えられ、出撃させられるわけですからね。しかも、沖ノ島海域に」

 淡々とした指摘が、降りかかる矢のように突き刺さる。俺の葛藤を、悩みを、的確に鋭く抉ってくる。

 浜風は、何も言えなくなった俺に優しい笑みを向けた。

浜風「しかし、これはチャンスだとも思うんです」

提督「チャンス?」

浜風「もし、雷さんを出撃させることができれば……提督は雷さんと距離が置けるし、雷さんも監査の網から抜けることができる。……それに、提督もご存知ですよね? 雷さんが周りからどう思われているのか」

提督「……ああ」
136 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/03/18(日) 18:51:30.47 ID:lXqu+oFy0

 もちろん、知っている。

 ほとんどの艦娘たちから敬遠され、一部の者たちからは金魚のフン、穀潰しとまで揶揄されている。可哀想ではあるが、それも無理はないことだった。みんな、それぞれに苦悩を抱えながらも、自分たちの居場所を守るために必死になって戦っている。カウンセリングを受けながら、薬を飲みながら、汗と涙と血を流して。そんな中でロクに働かないものが居たら、後ろ指をさされるのは分かり切ったことではある。

 雷は俺しか見えていないから、まるで気にしてはいないが……。俺は当然、頭を抱えていた。全員を纏めるべき立場の秘書艦に協調性がないのは、本来ならば由々しき事態だ。

浜風「……これほど嫌われてしまったら、信頼回復にはかなり時間がかかるでしょう。ですが、彼女をある程度受け入れてくれる者が何人かでてきて、彼女自身も他の子に目を向けることができれば、状況も変わるでしょう。提督への依存も緩和できて、専門家の話も聞くようになるかもしれません」

提督「……」

浜風「必要なら、私も、陽炎姉さんも協力します。こういう助言は得意ですし、昔はよく人の相談にも乗っていましたので。できることならなんでもやりますよ。――雷さんを守るために」

提督「……なぜそこまで。君は、雷と仲が悪いはずじゃなかったか?」

浜風「別に私は彼女のことを嫌っていませんよ。嫌われてはいるでしょうが。……まあ、それに陽炎姉さんとの約束もありますから。この鎮守府にいるみんなを守ることに協力すると。当然、雷さんもその一人です」

 浜風は破顔してそう答えた。彼女にしては珍しい、熱のこもった口調であった。

 銀の髪が、海月の足のように揺らめく。目の前を、浜風の芸術品のごとく整った顔が埋め尽くした。廊下の光と俺の影を染み込ませた頬が、水彩画を思わせる淡い肌色に彩られた。
137 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/03/18(日) 18:52:13.51 ID:lXqu+oFy0

浜風「もちろん、提督もです」

提督「……浜風」

浜風「提督は、私を守ってくれるのでしょう? ならば、私も同じです。提督が苦しんでいるのなら、その苦しみを解消したい。そう、思っています」

 浜風の言葉が、染み渡るように響いた。ほんの少し。ほんの少しだけれど、心の中にある淀みの重たさが抜けていく。

 目の前にある瞳は、空のようだ。青く、澄んでいて、人を惹きつける不思議な魅力がある。

 無言で見つめ合ううちに、浜風の白皙の頬にほんのりと桜色が浮かんできた。

浜風「……えい」

 小さな掛け声とともに、浜風が胸に飛び込んできた。

 驚いて仰け反る。俺たちの体重を受け止めて、扉がゆるりと部屋の方に沈み、反発した。

提督「お、おい」

 いきなりどうしたんだ。

 浜風は俺の背中に手を回してきた。優しく、それでいて離したくないと主張するかのごとく。

浜風「……お許しください。ちょっと、雷さんが羨ましかったもので」

提督「う、羨ましかった?」

 声が裏返ってしまった。

 浜風の柔らかさ、浜風の温もり、浜風の匂い。限りなく大人に近づいた少女の感触が、溶け込むように俺の神経を痺れさせる。
138 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/03/18(日) 18:53:15.88 ID:lXqu+oFy0

浜風「……ずるいですよ、雷さんばかり。私だって提督と一緒にいたいのに」

 思わず、息を飲んだ。

 わかっているのか、この子は。自分と雷の違いというものを――。

提督「……な、なあ浜風。君の気持ちはわかったよ。とりあえず」

浜風「嫌です」

 浜風は俺の言葉を遮り、力を込めてきた。

浜風「離しません。ずっと、我慢していたんですから……。この温もりを……ずっと……」

提督「……」

浜風「……温かい」

 心底、嬉しそうな呟きだった。

 俺は息を吐く。純粋な思いの発露に、少しだけだが緊張が解れた。彼女も根っこではまだ子供なのだと、思うことができたから。

提督「我慢させてすまないな、浜風」

 思えば忙しさや雷を理由に、彼女のことを放ったらかしにしていた。彼女も雷と同じ、俺が救ってしまった子なのだ。放置するのは無責任だったかもしれない。

 それに、浜風の望みはシンプルだ。そんなものさえ叶えてあげないのは、彼女にとってあまりにも酷ではないか。

 浜風の頭に手を置いた。思ったよりも、彼女は小さかった。

提督「まあ、なんだ……。忙しくてなかなか時間は取れないかもしれないが、なるべく、努力するよ」

浜風「ありがとうございます。……でも、無理しなくていいんですよ。雷さんもいるんですから」

提督「まったく自分の時間がないわけではないさ。タバコを吸うときだけは、一人になれるから……。よかったらおいで。いつも二時くらいに、鎮守府本館の裏にいる」

浜風「……はい」

 浜風は俺を見上げて、嬉しそうに笑った。

浜風「また、温もりが欲しくなったら行きますね」
139 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/03/18(日) 18:54:01.34 ID:lXqu+oFy0




 浜風が帰った後、俺は部屋に戻ってベッドに入った。雷の寝息は聞こえない。こちらに背を向けているせいでどんな顔をしているかはわからないが、反応がないところを見るに寝ているのは間違いなさそうだ。

 俺はほっと息をつく。身体が一気に重く、沈んでいくような気がした。

 これなら、酒がなくても寝れそうだ。

 浜風が来たおかげで色々と焦ったが、張り詰めたものが解れたのも確かだ。彼女は、俺が抱えていた葛藤や悩みを理解してくれていた。それが、嬉しかった。

 苦しみを解消したい、か。

 彼女の優しさが、染み渡るようだった。

 浜風……。

 不思議な子だ。あの子を見ていると、なぜか静流のことを思い出す。とくに、見た目が似ているわけでもないのに。雰囲気……だろうか。他の子にはない、なんというか、青い薔薇のような存在感がある。そんなところが、よく似ている。
 
 そんなことを考えているうちに、瞼が重くなってきた。

 久しぶりに、ゆっくり眠れるといいな。

 そうして、俺の意識は闇へと落ちていった。
140 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/03/18(日) 18:55:16.93 ID:lXqu+oFy0












雷「……消毒しなきゃ消毒しなきゃ消毒しなきゃ消毒しなきゃ消毒しなきゃ消毒しなきゃ消毒しなきゃ消毒しなきゃ消毒しなきゃ消毒しなきゃ消毒しなきゃ消毒しなきゃ消毒しなきゃ消毒しなきゃ消毒しなきゃ消毒しなきゃ消毒しなきゃ消毒しなきゃ消毒しなきゃ消毒しなきゃ消毒しなきゃ消毒しなきゃ消毒しなきゃ消毒しなきゃ消毒しなきゃ消毒しなきゃ消毒しなきゃ消毒しなきゃ消毒しなきゃ消毒しなきゃ消毒しなきゃ消毒しなきゃ」













141 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/03/18(日) 18:58:44.81 ID:lXqu+oFy0
投下終了です。
カゼヤマイ(@hl_zikaki)という名でツイッターもやってますので、そちらもよろしくです。
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 21:57:52.49 ID:9+ITzd2D0
ゾッとした…
浜風かわいい
乙です
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/18(日) 21:58:43.05 ID:9+ITzd2D0
sage忘れました
すみません
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/19(月) 00:33:43.46 ID:cnXWYZPA0

控え目に言って怖い(白目)
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/20(火) 00:07:07.12 ID:uywLmFyq0
乙風。
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/28(水) 19:53:09.61 ID:GtBgxv9q0
乙です
147 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/04/03(火) 01:20:58.81 ID:JRDka3s40




 ■

 暁の死は、不幸な事故として扱われた。

 魚雷が突如として爆発、それが他の魚雷や砲弾にも誘爆、そして大破状態だった暁は肉片一つ残さず海の藻屑となった。

 あまりにも残酷で、あまりにも呆気ない死だった。実感なんて持てるわけがなくて、暁の死を受け入れられなかった。受け入れたくなんて、なかった。私も響も。

 だけど、それが実感として落ちてくる間もなく、事態は目まぐるしく動いた。

東「よし、出撃しよう」

 司令官は、あっさりと言い放った。

 暁の死から二日後のことだった。葬式すらやってもいないのに、そんなこと忘れたかのように出撃を指示してきた。

東「明日、またリランカへ行くぞ。タ級には随分と煮え湯を飲まされたからなあ」

 私たちは、呆然と司令官を見詰めた。ここには出撃部隊と欠けた第六駆逐隊がいて、みんな、蝶の蛹から蜂が生まれてきた光景を見たかのような顔をしていた。

 司令官は、何食わぬ顔で耳垢をほじくり返し、指先についたそれを息で吹き飛ばした。そんな呑気な司令官に、長門さんが詰め寄った。

長門「……提督、お前は何を言っているんだ?」

東「ん? なんだ長門、聞こえなかったのか? 出撃だよ出撃。リランカへ電の葬い合戦だ」

長門「そうじゃない! お前、状況がわかっていないのか!」

東「状況なら理解しているよ」
148 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/04/03(火) 01:22:11.05 ID:JRDka3s40

 そう言って、司令官はみんなを見渡した。

東「不幸な事故によって、駆逐艦『暁』が轟沈。暁を曳航していた重巡洋艦『熊野』が重体、その他も二、三名が大破という大損害を被った。まるで激戦をくぐり抜けてきた後のような、酷いヒドォイ状態だ。みんな、ショックも大きいだろう」

長門「ならば、なぜ出撃なんてやろうと言うのだ!」

東「だからこそだよ。だからこそ、行かねばならない。ここで引いたとあっては、一体なんのために戦ってきたのか分からなくなってしまう。暁の死が、無駄になってしまうじゃないか」

長門「……言いたいことはわからなくはない。だが、今は休むべきだ。提督が言ったように、みんな、この事態に対して大きなショックを受けている」

 長門さんはこちらを一瞥し、感情を抑えた声で続けた。

長門「今、出撃しても大した成果を得られるとは思えない。それに、これは元々訓練だったんだ。そんなに急を要することでもないではないか」

東「ずいぶん軟弱なことを言うな」

 司令官は何がおかしいのか、けらけらと笑った。

長門「……なんだと?」

東「わかってないなあ、長門。我々は栄光ある帝国海軍の軍人だぞ? それがだ、仲間を殺されておきながら逃げたとあっては嗤われてしまうぞ。あの世で我々を待っている電も暁も、後ろ指をさされることとなる。それでは、あの二人があまりにも可哀想ではないか」

 司令官は立ち上がり、長門さんの前に立つと肩を叩いた。
149 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/04/03(火) 01:23:18.51 ID:JRDka3s40

東「しっかりしたまえ。君ともあろうものが、本質を見誤っているぞ。死体すらロクに残らなかった暁を弔うのは、形だけの葬式か? ……違うだろう? 戦いだ。今、戦うことこそが、彼女の叶わなかった宿願を繋ぐバトンとなるのだ。泣き喚くだけ泣き喚いて指を咥えて引き篭もるなんてことが、許されていいはずがなかろうが」

長門「……お前」

 長門さんは唖然としていた。私も他のみんなもそうだ。

 司令官の言葉に心を動かされたからではない。尤もらしい理屈を並べているが、どれもこれも白々しいほどに空虚で、まるで頭の中に染み込まなかった。

 司令官は、薄っすらと口元を歪めていた。

 弔いを、死への労りを述べる人間の表情だとは、とても思えなかった。

 私の脳裏にへばりついた声が再生される。人生の脆さを、楽しそうに歌っていたあの声が。

東「だから出撃だ。明日、リランカ島沖へ出撃する。これは命令だ。異論は認めない」

 以上だ。司令官はそう告げて、私と響に笑顔を向けた。

 ぞっとした感覚が足元から駆け上がってきた。全身が硬直する。

 まるで、蛇のような目だ。獲物を見つめる捕食者の目。

 響が手を握ってきた。その手は湿っぽくて、震えていた。

長門「どうしたんだ、提督。……最近、おかしいぞ?」

 長門さんのその言葉は、この場にいるみんなの気持ちを代弁したものだった。

 司令官は、こんな無茶な提案をしてくるような人ではないはずだ。「教授」と慕われるほどに頭が良く、慎重で、無駄を嫌う几帳面な人で……でも、優しい人だった。決して甘い訳ではないが、私たちのことをいつも気遣ってくれていた。

 それが、どうして……。まるで、顔だけ同じ形をした別人に成り代わってしまったかのようだ。
150 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/04/03(火) 01:24:21.94 ID:JRDka3s40

長門「お前は、こんな命令をする男ではないはずだ。考え直してくれ」

東「却下だ。言っただろう。異論は認めない」

長門「提督……!」

東「何度も言わせるな。次口答えをしたら、懲罰房に入ってもらう。わかったか?」

 長門さんは歯噛みして下を向いた。司令官の決定が揺るがないものだと悟ったのだろう。

東「わかったか、と訊いているんだが?」

長門「……わかった」

 渋々といった感じの返事だった。

 長門さんの渋面など見えていないかのように、司令官は口の端を吊り上げて、手を広げる。
 
東「さあ、出撃出撃出撃だ。みんな、気合い入れていこうじゃないか!」

 誰も何も答えなかった。ここにいるほとんどの人が顔を引きつらせ、おかしくなってしまった司令官を見ていた。

 ただ、一人だけ平然としている人がいた。重巡洋艦の青葉だった。彼女は白けた空気に構うことなく、手を挙げた。

青葉「質問いいですかねえ?」

東「……ん? なんだい、青葉」

青葉「出撃メンバーはどうなさるおつもりで?」

東「ああ」

 そうだなあ。そう呟いて、みんなを順々に眺める。
151 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/04/03(火) 01:25:45.23 ID:JRDka3s40

東「……まあ、あまり変わらないかな。熊野と暁の分を変えるくらいだろう」

青葉「ん? でも、飛鷹さんとか全身に大火傷負って、指も数本欠損してましたよ。変えなくていいんですか?」

東「指数本くらいなら誤差だよ誤差。火傷も跡になったくらいで、高速修復自体は成功しているわけだしな。十分、戦力として機能するさ」

 あっさりと言ってのける司令官に、怒りすら湧かなかった。飛鷹さんはこの場にはいない。顔に大きな火傷の跡が出来て、ショックのあまり部屋に閉じこもっていた。それを無理矢理引き摺り出そうとする神経が、信じられなかった。

 長門さんが何かを言おうとするのを遮り、青葉は質問を重ねる。

青葉「じゃあ、熊野さんと暁さんの代わりは誰にするんです?」

東「熊野の代わりは、まあ三隈辺りが妥当だろう。三隈も、熊野がこんな目にあって怒りに震えているはずだしなあ」

青葉「泣き崩れていましたけどね」

東「大丈夫だ。今頃、その悲壮も怒りに変わっている。私には分かるんだ。怒りは、素晴らしいエネルギーだ。その熱量は、信じられないほどの力を生む。成功を導き出す原動力となる」

青葉「そんなものですかね? まあ、いいですが。……では、暁さんの代わりは誰になるんですか?」

 司令官の目がこちらに向いた。みんなの視線も、一斉に集まった。

 驚愕、怖れ、憂い、憐れみ。色と形の違う瞳に浮かぶのは、ゴミ捨て場のゴミように混ざり合う負の感情だった。そして、その中には、生ゴミを漁るカラスやゴキブリのように蠢く狂気がある。

 無言の悲鳴が身体を擽ぐる。立っているのもやっとなほどに、足が震えた。響の手が強く、痛いくらいに握りしめてきて、でもそんな痛みさえも霞んで消えゆくほどに、恐怖が――生理的な恐怖が、私たちを貫いていく。

 司令官は、淡々と告げた。

東「……どっちかだなあ」

青葉「どっちか、と言いますと?」

東「そりゃあ、第六駆逐隊のどっちかに決まっているだろう」
152 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/04/03(火) 01:26:54.62 ID:JRDka3s40

長門「さすがにそれだけは容認できん!」

 たまらない、と言った感じで長門さんが叫んだ。同調する勇気のあるものは、誰もいない。彼女だけが、鋭い眼差しを司令官に向けて、詰め寄った。

長門「第六駆逐隊だけは……絶対に出撃させるべきではない!」

東「なぜだ?」

長門「そんなこと言わなくても分かるだろう! 少しは彼女たちの気持ちを慮れ!」

東「あー、そうだな。少し軽率だったかもしれん。すまないすまない。『家族』だもんな、そりゃあ『家族』がいなくなれば深く悲しんでしまうものだ」

 司令官の謝罪は、羽根よりも軽かった。呆気にとられた長門さんの隙を突くように、口元を吊り上げて続ける。

東「では、第六駆逐隊は解隊しようか。そうすれば、彼女たちは、ただの鎮守府の仲間だ。電と暁とも『家族』ではなくなる。『家族』でなくなれば、問題なかろう」

長門「……貴様」

 長門さんが今にも殴りかからんと言わんばかりに、歯をむき出しにした。が、詰め寄ろうとした瞬間、青葉が割って入って長門さんの腕を掴み、捻りを加えた。
153 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/04/03(火) 01:28:17.44 ID:JRDka3s40

長門「がっ……!」

青葉「おいたは駄目ですよ〜。司令官への不敬は許されない行為です」

 にこにこと笑いながら、さらに捻りを加える。長門さんが空中で一回転し、叩き伏せられた。マホガニーの机が衝撃でグラつき、資料とインクが宙に舞った。

長門「ぐ、ぐあああ……」

 呻き声。あの長門さんが、泡を吹きながら腕を抱えてのたうち回っていた。肘が……あり得ない方向に曲がっている。誰かの悲鳴。そして、笑い声。

 まさに、狂乱とした状態。長門さんに駆け寄る人、恐怖で固まる人、なぜか蹲ってしまった人。わからない。何が起きているのか――。

東「脆いねえ、人間は本当に脆い」

 悲鳴の中に、聞こえた静かな悦楽。それは、悪魔の囁きとしか言いようがないもので。

 悪魔は、はっきりと告げた。

東「さて、次はどちらが死ぬ?」

 ああ、と響が呻いた。私は何も言えなかった。ただ、唇を震わせているだけの虫けらにすぎなかった。

 なにが電と暁を死に追いやったのか、いま、はっきりとした。

 艤装が二度も不自然に故障を起こしたのも、暁の魚雷が突然爆発したのも――。

 すべて、目の前の悪魔がやったことだったのだと。楽しそうな悪魔が、自分の楽しみのためにやったのだと。

 悪魔の赤い瞳が、歪んだ。

東「次は、どちらが私をイカせてくれるんだい? はやく、君たちのどちらかの死体をみて、マスターベーションをさせて欲しい。ああ、暁は肉片すら残らなかったからね。『手』はもう楽しんだから……次は『頭』でも残らないかなあ? ふふ、うふふ、ハヒャハヒャヒャヒャヒャ、ハヒャ、ハヒャハヒャ」

 ナニヲイッテイルカワカラナイ。

 コイツガ、ナニヲイッテイルノカ。

 ワカラナイ。

154 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/04/03(火) 01:28:54.01 ID:JRDka3s40
投下終了です
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/03(火) 19:56:40.38 ID:egmE16D70
乙風
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/03(火) 21:52:11.52 ID:zXDzePFD0
乙です
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/03(火) 23:40:15.43 ID:WysQiB8m0
おっつ。
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/06(金) 17:00:44.03 ID:gzDkQHTNO
おつです
159 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/04/19(木) 23:21:52.39 ID:ZtqPdZ9t0

 


 ■

憲兵「――まず結論から申しますと、鎮守府の運営に関しては、特段の問題はありませんでした」

 対面に座る憲兵が、無表情にそう言った。

 ここは鎮守府にある応接室だ。今日は憲兵による定期監査が実施され、その最終報告がこの部屋で行われていた。深緑の軍服に身を包んだ憲兵は、俺よりも一回り大きな体躯をしているからか、かなりの威圧感がある。鎮守府を監査するものとしての素養を十二分に感じさせる男だ。

 資料を捲りながら、憲兵は続ける。

憲兵「遠征を主軸にして活動されていたためか、資源の獲得量は格段に向上しています。しかし、だからといって人員の酷使があるわけでもない。編成案が非常に練られており、トラブルへの対応策も二重三重に用意されている。効率的な遠征を行う体制が整えられていますね。これからの沖ノ島海域攻略にも期待がもてますよ」

提督「ありがとうございます」

憲兵「……ただですね。一点だけ、気になるところがあります」

 憲兵の鋭い眼差しがこちらに向けられる。

 俺はぐっと下唇を噛んだ。

 ついに来たか。
160 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/04/19(木) 23:22:51.74 ID:ZtqPdZ9t0

提督「気になるところ、といいますと?」

憲兵「駆逐艦『雷』でしたか。以前もたしか、出撃実績がない件で勧告をさせていただいたと思うのですが、あれからも出撃をさせていないようですな。秘書艦娘の認定を受けている艦娘とはいえ、これは見逃せませんよ」

提督「……申し訳ありません。駆逐艦『雷』を出撃させるには、もう少し療養が必要だと判断しました。本人には出撃をする意欲自体はあります。ありますが、まだ万全とは言えないので」

憲兵「もう半年が過ぎているのですが、まだ万全ではないと?」

提督「はい」

 目を逸らさずに言うと、憲兵は肩を揺らして溜息をついた。

憲兵「柊中佐。もうこれ以上の猶予を与えるのは難しいですよ。この件については、憲兵団上層部の方でも問題として指摘されております。次は、稟議書を書いていただけば済むというわけにはいきません」

提督「……わかっています」

憲兵「あなたの鎮守府の特異性は、こちらも考慮してはいます。本来ならば治療段階の艦娘を、戦力として運用する難しさは相当なものでしょう。ですが、決まりは決まり。特約である四カ月の猶予を過ぎれば、本来ならば解体処分、もしくは強制出撃の執行が命じられます。それは、承知のことだとは思いますが」

提督「ええ」

憲兵「中佐のこれまでの功績は、上も高く評価しております。だからこそ、特約違反を稟議書の提出だけで済ませてくれたのです。しかし、今回の監査報告の時点でも出撃が認められないとなると、提督会議の方へ問題を上げなければならなくなります。提督会議にまで話が上がってしまった場合、駆逐艦『雷』への強制執行だけに留まらず、中佐にもなんらかの処分が下される可能性があります」

提督「……」

憲兵「中佐、ご自身のためにも駆逐艦『雷』への処分を検討してください。解体処分にするのか、それとも厳罰を与えた上で出撃をさせるのか。……いま、駆逐艦『雷』を出撃させることを約束していただけるのなら、まだ交渉する余地はあるかと」
161 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/04/19(木) 23:24:56.97 ID:ZtqPdZ9t0
undefined
162 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/04/19(木) 23:25:57.33 ID:ZtqPdZ9t0

 俺は大きく息を吐いて、コーヒーテーブルに置かれていた茶を一息に飲んだ。茶は、すっかり温くなっていた。味をあまり感じられないのは、茶が薄いからだろうか。

 葛藤が口を重くしていた。もう、雷を救う手立ては出撃以外に残されていない。そんなことはわかっていたが、だからといって彼女の意思を踏み躙るような決定に、判子を押すようなことをしたくはない。

 憲兵は静かに俺の言葉を待っていた。感情を込めていない冷めた瞳が俺を射抜く。彼の前に置かれた茶は、まったく減っていない。

 沈黙を揺する時計の針。刻まれれば刻まれるほどに、俺の息苦しさが増していく。ズボンを掴み、歯を噛み締める。背中のシャツが汗で濡れる。

 ――落ち着け。

 目を瞑った。思い出すのは浜風の言葉。ものの見事に、彼女が指摘したような状況に追い込まれたわけだが、彼女はこの状況をチャンスだと言っていた。雷の状況を、そして、雷の重みに耐えきれなくなっている俺の苦しさを変えるチャンスだと。そのために、できることは協力すると言ってくれもしたではないか。

 浜風の言葉を、信じたい。温もりを求める彼女の手が、俺の背中を押した。

提督「……わかりました。雷を、出撃させます」

憲兵「……かしこまりました」

 憲兵は資料から一枚の紙を取り出して、俺の前に置いた。

憲兵「こちらに御署名をお願いします。駆逐艦『雷』の出撃措置に同意したことを示す誓約書です」

 まるで、こうなることをわかっていたかのような用意の良さだった。この憲兵は仕事が出来るのだろうが、あまり好きにはなれない周到さだ。

 とりあえず紙を手に取り、内容に目を通す。

提督「一月に最低二十回の遠征および出撃実績を要する……か」

 月に二十回となると、遠征ならば普通の艦娘より少し多いくらいの頻度だ。だが、雷は療養認定を受けている艦娘である。そのことを考えると、これはかなり酷なことではないか。

 しかも、それだけではない。この制約を、最低半年間続けなければならないとも、記載されている。
163 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/04/19(木) 23:27:13.50 ID:ZtqPdZ9t0

提督「いくらなんでも、これは少しばかり厳しいのではないですか?」

憲兵「仰る通りだと思います。ですが、我々も妥協した結果、こういう内容に決めたのです。それに、多少ばかり厳しくしなければ上が納得しません」

提督「結局は、戦力外と判断されるということですか」

 憲兵は厳かに頷いた。

 万年筆を取りたくない。

 そう思いながらも、重い動作で懐から万年筆を取り出すと、署名して印鑑を押した。インクが滲んだ字にも、曲がった印鑑にも迷いが透けて見える。紙を受け取って精査する憲兵の眉がわずかながら傾いた。

憲兵「……たしかに、受け賜わりました」

提督「……」

憲兵「それでは、私はこれで失礼します。今回の監査結果についての詳細は、また紙面にて改めて送らせていただきますので、届き次第ご確認のほどよろしくお願いします」

提督「ええ」

 気返事しか返せなかった。

 どっと疲れが噴き出してきたのか、身体が重たい。数百枚の書類に判を押す作業よりも、この誓約書を一枚書くことの方が、はるかに心労のかかることであった。

 書類をまとめ終わった憲兵が立ち上がり、礼を述べて扉を開いた。そして、最後にこちらを振り返ると、苦い笑顔を浮かべてこう言った。

憲兵「……お互いに、嫌な仕事をしているものですね」



 憲兵が帰ってから、俺は執務室へと戻った。

 執務室には、雷がいた。机に座って一心不乱に何かを書いている。書類の整理でもしているのだろう。

雷「お帰りなさい、司令官」

提督「ただいま」
164 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/04/19(木) 23:28:13.09 ID:ZtqPdZ9t0

雷「憲兵さんとの話はどうだったの?」

提督「うん、まあ当たり障りのない感じだったかな」

 つい誤魔化してしまった。

雷「ふうん」

 興味がなさそうに言うと、雷は作業に戻った。

 俺は席に座り、机に肘をついて何をするでもなく雷を見詰める。仕事に集中しているのか、俺に見られていることには気づいていない。今日は、別に機嫌が悪いということもなさそうだった。

 どのタイミングで、切り出そうか。

 まさか、自分が出撃を強制されている状況に追い込まれているなんて、雷は夢にも思っていないだろう。この話を聞いたとき、一体彼女はどんな表情を浮かべるのだろう。

 出撃は、彼女にとってトラウマになっているはず。数ヶ月ほど前のことだが、出撃をそれとなく促したときに、不安げに眉を下げて俺に抱きついてきたのを覚えている。あのときの彼女は、微かに震えていた。

 また、あんな表情をするのだろうか。もしかすると、取り乱して泣いてしまうかもしれない。それだけで済めばまだいい方で、最悪自傷行為に走る可能性もある。右腕の傷が、また増える。

雷「どうしたの?」

 視線に気づいたようで、雷が首を傾げながら訊いてきた。

提督「……いや、なんでもないんだ。つい、ぼけっとしてしまった」

雷「もしかして、私の美貌に見惚れていたの? ふふーん」

 雷は手を後ろに回して挑発的なポーズを取りながら、ウインクをした。まったく色気を感じないどころか、背伸びした子供の冗談にしても失笑ものであった。
165 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/04/19(木) 23:29:19.36 ID:ZtqPdZ9t0

雷「ちょ、ちょっと何よ、その冷めた反応! 司令官、ひっどーい!」

提督「すまないすまない。君は……まあ可愛いと思う」

雷「え? そ、そうかしら?」

 雷は頬を赤らめて俯いた。人差し指で前髪をパスタのように絡め取り、所在なさげに弄んでいる。可愛らしい反応だが、これから言わなければならないことを考えると、ますます気が重くなる。

 俺は深呼吸をして、覚悟を決めた。

提督「雷、君に話さなければならないことがある」

雷「どうしたの? そんなに改まって……」

提督「さっき憲兵から、君を出撃させるように注意勧告を受けた。だから今後、君には遠征か出撃に出てもらわなければならなくなる」

雷「え?」

 雷は目を丸くして、口を開けていた。

雷「出撃? 私が……?」
 
提督「そうだ。君の気持ちを思うと、非常に心苦しいのだが……どうしても出てもらわないと困ることになってしまった。だから悪いとは」

雷「うん、いいよ」

 あまりにもあっさりとした返事だった。俺は完全に意表を突かれて、雷がなんと言ったのか聞きこぼしたほどだった。驚いて雷を見ると、彼女は予想に反して爽やかな笑顔を浮かべていた。

雷「出撃だよね、大丈夫。私も、実は司令官にお願いしようかなあって思っていたところだったんだ」

提督「なんだって?」

 驚くしかなかった。彼女は絶対に出撃を嫌がるだろうと思っていたから、まさかそんな心算を持っていたなんて夢にも思わなかった。
166 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/04/19(木) 23:30:56.51 ID:ZtqPdZ9t0

雷「私も艦娘だもの。戦わない艦娘に価値がないことくらい、わかっているわ。いつまでも、司令官の優しさに甘えすぎていてはダメだよね」

提督「……雷」

雷「それに……どくしなきゃだし」

 声が小さくてよく聞こえなかった。首を傾げると、雷はなんでもないよ、と笑ってみせた。

雷「ごめんなさい、今まで。私、これからは司令官のために頑張って出撃するわね」

提督「それでいいのか? 出撃が……その、怖くはないのか?」

 雷は小さく頷いた。

雷「怖くなんてないわよ。出撃の間、司令官の側に居られなくなるのは嫌だけどね」

提督「……わかった。では、君には遠征部隊に加わってもらおうと思う。しかし、かなりの期間ブランクがあるから、数日ほどは模擬戦闘などを繰り返して感覚を取り戻すことに専念して欲しい。いいかな?」

雷「わかったわ。……あ、一ついいかしら?」

提督「なんだ?」

雷「所属する遠征隊なんだけど、どこになる予定なの?」

提督「そこまではまだ考えていない。模擬戦闘の様子を見てから考えようとは思っていたが……希望したい部隊でもあるのかい?」

雷「うん。陽炎ちゃんがいるところがいいなって」

 第一駆逐隊か。

 たしかに、陽炎がいるところなら安心ではある。陽炎は稀に見る戦闘能力の持ち主だし、雷とも仲が良い。だから、任せるには申し分ないが……問題は残りの三人だ。

 深雪と時津風は、雷のことを煙たがっている。二人ともフランクな方だが、一度嫌いになった人間に対してはとことん冷たくなる。雷の所属を歓迎するとはとても思えなかった。
167 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/04/19(木) 23:31:56.06 ID:ZtqPdZ9t0

 そして、浜風。浜風自体は別に雷のことを嫌っているわけではなさそうだが、反対に雷が浜風のことを毛嫌いしている。先日も、鼠輸送任務の帰りに二人が揉めたことは俺の耳にも入っている。

 この三人がいるところに雷を入れた場合、統率の乱れにもつながり兼ねない。

 しかし、だ。俺は、陽炎の想いを……そして、浜風の言葉を信じている。彼女たちになら、雷を任せてもいいのではないか。

提督「……そうだな。検討してみよう」

雷「ありがとう」

提督「だが、雷。言うまでもないことではあるが、遠征はチームプレイだ。隊の秩序を乱すようなことは許されないから、くれぐれも注意するように」

雷「うん、みんなと仲良くするわ」

 雷は満面の笑みでそう答えた。

 ……本当に、大丈夫だろうか。

 しかし、信じるしかあるまい。陽炎と浜風が、上手く調和を取ってくれることを。

 
 

 
雷「そういうわけで、よろしくね!」

 雷はチューリップのような笑顔を咲かせて、そう宣言した。

 出撃措置が決まって次の日の朝だった。爽やかな日差しが差し込む港には、遠征部隊の一同が集まっている。みんな、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で、前に立つ雷を見つめていた。

深雪「……えーと、これは何の冗談なんだ?」

 深雪が、眉間を揉みながら尋ねてきた。

提督「冗談ではない。今し方、雷が説明したとおりだ。雷は、今日から君たち第一駆逐隊の一員として働くことになった」
168 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/04/19(木) 23:34:51.53 ID:ZtqPdZ9t0

深雪「いやいや、わからねえよ! どうして、秘書艦……雷があたし達の隊に加わることになったんだよ! それもいきなり!」

提督「様々な事情や状況を勘案した結果、第一駆逐隊への所属が妥当だと判断した。そちらには陽炎がいるし、君たちは優秀だからな。ブランクのある雷へのサポートとして、一番信頼がおける」

深雪「そんなこと言われたってな……! なんで、あたし達がこんなやつなんかと!」

陽炎「深雪」

 陽炎が、静かな声で言った。

陽炎「これは、提督が決定したことよ」

 深雪が歯を噛んで押し黙る。心底嫌なのだろうが、陽炎の言葉が意味することを分からない彼女ではない。

陽炎「……それでいいんですね、提督」

提督「ああ」

 陽炎のアメジストの瞳が雷へと向けられた。心配や憐れみ、言葉で表し難い様々な感情が、色を混ぜた絵の具のように溶け合い、雷の像を霞ませる。

 しばらくして、細く長い息が陽炎の口から溢れた。

陽炎「かしこまりました。雷ちゃんの復帰と入隊を歓迎します」

深雪「……陽炎!」

陽炎「時津風は、どう?」

 詰め寄ってきた深雪を片手で制し、陽炎は時津風へ訊いた。時津風は眠そうな目をさらに細くして、肩をすくめる。

時津風「陽炎がそう言うなら、不服はないよ〜。別に歓迎はしないけどね〜」
 
陽炎「そう。……浜風は?」

浜風「私は歓迎しますよ。提督の決定は合理的なものだと思いますし、雷さんが復帰するのなら喜ばしいことです」

 浜風は微笑みながら肯定的な意見を述べた。だが、先日の部屋の前でのやり取りを思い出すと薄ら寒いものがある。その澄んだ綺麗な微笑みが、見透かしたものであるように見えて仕方がないのだ。

 まるで、こうなることを分かっていたかのような……。いや、さすがにそれは考えすぎか。

浜風「雷さんの勘が戻るまで、出来る限り尽力致しますよ。極力、怪我がないよう安全に……。前にも左右にも、そして後ろにも、十分注意を払いながら」
169 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/04/19(木) 23:36:02.14 ID:ZtqPdZ9t0

雷「……ありがとう! みんな、協力して頑張りましょう!」

 雷はそう言って、手を差し出した。冷めた表情で時津風は無視し、陽炎と浜風はともに苦笑いを浮かべ、手を伸ばす。

 三人が手を合わせようとした瞬間、深雪が雷の手を払い退けた。

雷「なにするのよ」

深雪「……あたしは、認めたくねえ」

 深雪は眉間にシワを寄せ、雷を睨め付けた。

深雪「みんなが必死になって、死に物狂いで鎮守府を守ろうとしているときに、一人のほほんとしていた腰巾着野郎なんか……。今さら、仲間として認められるか!」

雷「別に、貴女に認められる必要はないんだけどねー」

深雪「あ?」

 深雪が肩を怒らせて、雷に近づいた。

深雪「……んだと、てめえ」

雷「これは司令官が決めたことなんだもん。貴女が一人、我儘を言ったところで今さらどうにもならないわ。違うかしら?」

深雪「この――」

提督「やめないか!」

 二人が一斉にこちらを向いた。

提督「深雪。君が納得いかない気持ちも分からなくはないし、だからこそ無理に雷と仲良くしろという気もない。だけどな、だからといって個人的な感情で動かれても困るぞ。これから同じ隊になるのだから」

深雪「……同じ隊なんかじゃねえよ」

提督「深雪」

 深雪は俯いて舌打ちをした。怒りが背中から立ち昇るようだが、沸騰寸前の状態で蓋を押さえつけているようだった。
170 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/04/19(木) 23:39:26.41 ID:ZtqPdZ9t0

提督「雷、君もだ。先日もあれだけ言っただろう? 隊の秩序を乱すようなことはしてはいけないと」

雷「はあい」

 雷は頬を膨らませながら不本意そうに返事をした。

 思わず米神を押さえる。言葉が耳の奥まで届いている気がしない。

陽炎「……これから大変ね」

 陽炎が独り言ち、空を見上げた。つられて顔を上げると、一粒の水滴が頬で弾けた。

 空はいつのまにか鼠色に染まっている。気づかなかった。ついさっきまで晴れていたというのに。

提督「……それでは、用件も済んだし戻ろうか」

雷「そうね!」

 なぜか上機嫌な雷は、俺の腕に抱きついてきた。

提督「お、おい。いきなりなんだ」

雷「ふふーん。なんかこうしたい気分だったのよ」

提督「歩きづらいし、人の目があるから……」

 そう窘めようとしたが、雷は聞いていなかった。頬を腕に擦り付け、猫のような声を出している。

 陽炎たちの視線を背中越しに感じる。あまり、気分の良いものではない。落ち着かない気分で振り返ると、ぎょっとした。

 ちょうど浜風と目があったのだ。

 俺は、その目に惹きつけられた。陽炎たちの目線など眼中にも入らなくなるほどに。その青さの奥の奥、ひっそりと佇む淀み……微かに現れては消える魚影のような感情の揺らぎ。

 刹那のことだ。瞬きをするほどの瞬間に露と消え、いつもの冷静な眼差しが現れた。

 一体、なんだ。

深雪「……なんだってんだよ」

 深雪のぼやきには誰も答えない。

 俺の腕には、雷の温もりと奇妙な寒気が矛盾した同居をしていた。
171 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/04/19(木) 23:39:58.68 ID:ZtqPdZ9t0
投下終了です
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/20(金) 00:39:29.67 ID:sUVfxG7MO
乙風
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/20(金) 07:38:45.94 ID:bEt2soX3O
乙改風
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/20(金) 19:15:09.93 ID:f1WuElFL0


浜風と雷がとうとう本格的に衝突するのかね・・・
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/21(土) 02:07:55.06 ID:F3m6r0JK0
乙です
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/21(土) 06:54:44.89 ID:Uj1yVWEu0
そういやプロローグの部分で提督を看病してるの雷じゃなく浜風だったよね……あっ(察し)
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/26(木) 11:21:23.05 ID:W2q2cF6l0
乙風です
178 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/05/09(水) 01:13:44.88 ID:XRNYy7No0





 数日ほど様子を見ていたが、雷の動きは悪いものではなかった。氷上を滑るような綺麗な航行といい、砲撃や雷撃の正確さといい、ブランクを感じさせないものである。

 ただそれでも、満点とは言えない。

 第一駆逐隊の動きについていけるようになるまでは、まだ訓練を積む必要があるだろう。ただ、雷にはあまり時間がない。浜風や陽炎にも雷の戦力分析を頼んでいるから、それとの兼ね合いで連携の取り方などを早急に考えていくしかないか。

 双眼鏡を下ろすと、雷が豆粒みたいに小さくなった。今は砲撃および雷撃の訓練中で、雷は動き回りながら的を次々と撃ち落とし、信管を抜いた訓練用魚雷を放っていた。

浜風「……一分半。タイムが縮まりましたね」

 俺の横にいた浜風が言った。ストップウォッチに目を落とし、ボードに記録を書き込んでいる。

浜風「射撃の正確さはなかなかのものですね。夾叉もスムーズです。射撃に関しては問題ないでしょう」

 浜風は分析したことを淡々と語る。
179 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/05/09(水) 01:14:41.07 ID:XRNYy7No0

浜風「ただ、雷撃については若干のモタつきがあります。雷撃が苦手なようです。斉射をする際のタイミングは考えなければならないでしょう。その点も踏まえましても、雷さんは最後尾に置くべきかと」

提督「……そうだな。しかしそれだと、雷へのサポートが疎かになる可能性がある。俺としては、なるべく君か陽炎の近くにつけたいんだ」

浜風「では、配置を変えて私が四番艦につきましょうか。あれだけ正確な射撃ができるなら、夾叉を私でとって雷さんが撃てば命中率も上がるはずですし」

提督「ふむ、それなら大丈夫か」

 俺は手帳に浜風とのやり取りを書き込んだ。

 雷の得意不得意を分析仕切った、非常に理に適った提案だ。文句のつけようもない。

 その隙のない提案力に相変わらず舌を巻きつつ、同時に胸を撫で下ろしてもいた。

 浜風に任せておけば大丈夫だろう。

 そう思うのは早計かもしれない。しかしそう思わせるほどの風格と能力を彼女は併せ持っている。彼女には、普通の人間にはない、人を惹きつける引力のようなものが働いている。人を魅了して離さない黒い薔薇のような……。そういう意味でも稀に見る天才なのだ。
 
青葉「なんか、浜風さんが秘書艦みたいですねー」

 後ろを振り返ると青葉が立っていた。接近に全く気づかなかった。
180 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/05/09(水) 01:15:55.59 ID:XRNYy7No0

提督「いつの間にいたんだ」

青葉「さっきから居ましたよ、もう! 司令官ってば失礼です。愛しい愛しい青葉がこんなにも近くにいるというのに」

提督「また撮影に来たんだな?」

青葉「愛しい青葉ってくだりは無視ですかひどいなあ。……はい、そうですよ。雷さんが現役復帰をすると空から槍が降るようなことを聞いてですね。取材も含めて記事にしようかと」

提督「……何度も言っていると思うが、変な記事は書くんじゃないぞ?」

青葉「書きませんよー? 書くとしても、『秘書艦と司令官の深夜の蜜月! 同衾する姿を激写!』とかくらいです」

提督「ちょ、ちょっと待て。なんだその内容」

 背筋に汗が吹き出てきた。やり取りを黙って聞いていた浜風の横目が鋭くなった気がした。

青葉「……あり? なんですかその妙な反応。まさか本当なのです?」

 青葉が何度も瞬きをしている。どうやら冗談のつもりで言ったようだった。

提督「そんなわけあるか!」

青葉「……本当ですかねえ。なら、今度司令官の部屋にカメラを」

提督「……そんなことをしたら新聞の発行は一生認めないからな」

青葉「うわあ、権力の乱用! パワハラ! 私が逆らえないことをいいことにそんなことを言うなんて! どう思います、浜風さん?」

浜風「……ラ、か」

 急に振られた浜風は聴いていなかったのか、神妙な顔で下を向いていた。何かを呟いたような気がするがよく聞こえなかった。
181 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/05/09(水) 01:17:30.18 ID:XRNYy7No0

青葉「浜風さん? おーい!」

浜風「え? ああ……。すいません、聞いていませんでした」

青葉「司令官の部屋にカメラを仕掛けるぞーって冗談を言ったら、新聞の発行を禁止するって提督が言い出したんですよ! それについてどう思うか聞いたんです。報道の自由に対する侵害ですよね!」

浜風「その前にプライバシーの侵害です。自重してください」

青葉「ががーん」

 浜風にきっぱり突き放されて、わざとらしく青葉は凹んで見せた。

青葉「うう、青葉傷つきました。浜風さんは味方だと思っていたのにぃ」

浜風「すいません」

提督「……いや、律儀に謝る必要はないから」

 生真面目に頭を下げる浜風へそう言うと、俺は雷の方へと目を戻した。彼女は、二回目の訓練に行く準備をし終わっているようだった。慌てて無線で連絡を入れる。

提督「準備できたか?」

雷『うん。いつでもいけるわよ!』

提督「了解」

 そのまま手信号で合図を送ると、雷は再び海を走った。鳥の声すら聞こえてこない静かな海に、艤装のエンジンの音が響き渡る。白波を切る音さえも聞こえてくるようだ。

 砲音が、奏でられる。空気を叩き、身体の内側に染み込むように響いてくる。

青葉「ほほう、ほうほう」

 青葉はさっそくカメラを構えて、写真を撮っていた。

青葉「これはこれは……。ずいぶんとまあ、白々しいですねぇ」

提督「白々しい?」

青葉「あーすいません。言葉の綾です。ブランクもありますし、まあ、こんなものですよね」

浜風「それはつまり、雷さんは本来の力を発揮できていないと言うことなのでしょうか?」
182 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/05/09(水) 01:18:48.08 ID:XRNYy7No0

 俺が口を開くより先に、浜風が言った。

青葉「ですねー。彼女は、青葉と同じ鎮守府の出身ですから。見た目はああですけど、けっこうやるんですよ、彼女。動きもこんなものではないはずです」

浜風「へえ。それは気をつけないといけませんね」

 浜風はボードに目を落とす。

浜風「もっと、情報の整合性に目を向ける必要がありそうです。ヒアリングも実施しておきましょうか」

提督「それは俺がやるとしよう。デリケートな問題に触れる可能性もあるからな」

浜風「かしこまりました」

 その後、射撃訓練は終了した。合計で四回ほど行われた訓練の平均的な結果は、一分四十秒というところであった。陽炎を除いた第一駆逐隊の平均は一分二十秒だから、まだ改善すべき点は多いだろう。浜風の言う通り、とくに雷撃は課題の一つだった。

雷「司令官ー!」

 雷は港に着くと、真っ先に俺のところへやってきた。

提督「お疲れ様」

雷「お疲れ様ー。ねえ、どうだった? どうだった?」

提督「なかなか良かったと思うぞ」

雷「ほんと? 嬉しいわ!」

 雷はパッと花やぐように笑うと、俺に抱きついてきた。

 なんとなく予想していたことだったので、別に驚きはしない。ため息をつきながら、肩に手を置いて引き離そうとする。が、雷はそれを拒否をするように、さらに力を込めてきた。

青葉「おやおや、お熱いことで」

 青葉の茶化しに反応するように、周りにいた他の艦娘たちも何やら囁き合っている。

 とくに、浜風。浜風の視線が冷たくて痛い。

提督「……みんなが見ているから」

 俺が苦言を呈しても、雷は聞いていない。ぐりぐりと頭を上機嫌に押し付けてくる。

提督「おい」

雷「別にいいじゃない。恥ずかしがることなんてないわよ。私と司令官は、そういう仲なんだから」

 誤解されるような言い回しをするんじゃない。

青葉「え、どういうことなんです? 詳しく詳しく!」

雷「えー、それは恥ずかしいなあ。言わなきゃダメ?」

青葉「もったいぶらず! できれば赤裸々に!」
183 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/05/09(水) 01:22:11.34 ID:XRNYy7No0

提督「そういうのじゃないと言っているだろう。ただの提督と秘書艦の関係だ」

青葉「提督と秘書艦……意味深な言い方ですねぇ」
 
 ああ言えばこう言うやつだ。

提督「……あのなあ」

雷「違うわよ」

 反論しようとすると、雷が遮った。あまりにもきっぱりとした言い方だったので、青葉が目を丸くした。

雷「私と司令官はね、『家族』なのよ。上官と部下の関係なんて薄っぺらいものじゃない。もっともっと特別な仲なの」

 関係の深さを見せつけるように。腕に込められた力が強くなる。痛いくらいに締め付けてくる。

雷「『家族』って、そういうものでしょう?」

青葉「あー」

 苦笑いとも微笑みとも取れない表情を浮かべて、青葉は頬をかいた。

青葉「まあ、そうですよね。家族。家族は大切ですよね、うん」

雷「わかってくれた? 私と司令官は『特別』なのよ」

青葉「はい、とても」

 青葉は同意しながらも肩を竦める。

青葉「司令官も果報者ですね。こんな可愛い子に家族として受け入れられているんですから」

 青葉の言葉には答えなかった。

 みんなを見る。顔をひきつらせるもの、囁き合うもの、溜息をつくもの、何かを察して目をそらすもの。非常に気まずい空気だ。

 初夏の日差しの熱さか、空気の重たさに緊張しているのか、汗が米神を伝う。

 鼻歌が横から聴こえてきた。雷の鼻歌だ。リズムもなにもなく適当だが、上機嫌なことだけは伝わってくる。俺は素直に不愉快に感じた。図書館でサックスを吹くような、場の雰囲気をまったく考慮しない行為だからだ。

 こいつは、わかっているのか。

 いや、何も考えていないのだろう。どの言動にしろ、思慮を巡らせた上でやっているとはとても思えない。自分の立場も弁えてはいない。

 彼女は、本当にみんなと仲良くやっていこうという気があるのか。以前聞いた言葉の重みが、さらに軽くなっていく。
184 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/05/09(水) 01:23:16.48 ID:XRNYy7No0

浜風「家族ですか」

 恐ろしく静かな声だった。だというのに、声のもつ引力はみんなの視線を一斉に集めるほどのものだ。俺は怒りを忘れた。鼻歌だけが変わらずに流れ続けた。

 浜風は、笑っていた。浜風が笑うところはなかなか見れないが、いつもの可愛らしく美麗なそれとはどこか違う。

 青い目が、ゆるりと歪んだ。

浜風「たしかに腑に落ちます。お二人とも本当に仲がよろしいですから」

雷「ふふーん、でしょでしょ。なんだー浜風さんも、よくわかっているじゃない」

浜風「ええ、でも、親子にしか見えませんね。それ以上でもそれ以下でもないですね」

 場の空気が凍りついた。

 雷の表情から感情という色が抜け落ちていく。

雷「……どういうことよ?」

浜風「どうもこうも、私は思ったことを言ったまでですよ。提督。提督も、雷さんのことをそういう風に見ているのではないですか?」

提督「……あ、ああ」

 俺は間抜けな返事をしたが、雷の表情が影を帯びていくのが見えて、慌てて訂正を入れた。

提督「だけどそれは雷だけじゃなくてな。みんなそうだよ。俺にとっては、みんな大切な子供のようなものだ」

浜風「そうですか。とても、光栄なことです。雷さんと『同じように』思っていただけて」

 浜風はそう言うと嬉しそうに微笑んだ。

 腕に張り付いた柔らかな温かさがだんだんと感じられなくなってくる。だのに、張り付かれているという実感は、強くなる。生きた心地がしなかった。
185 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/05/09(水) 01:24:30.68 ID:XRNYy7No0

浜風「さあ、みなさん艦娘寮に戻りますよ。今回取れたデータも含め、皆さんとも改めて話し合いたいので。それに、この演習場はもうすぐ出撃部隊が使う予定になっています。はやく行かないと迷惑になりますよ」

青葉「あー、そういえばそうでした。用意してこなくては」

 青葉が手を叩いて戻っていくと、それに呼応する形でみんなも続々と踵を返した。最後に残った浜風は、俺に会釈をし、最後にこう言った。

浜風「それでは、改めてヒアリングも含めて報告書を上げますので。失礼します」

提督「……」

 なにも言うことができなかった。浜風の背中が遠ざかるのをただ呆然と見送るしかなかった。

 浜風のあの一言によって、みんなは毒気を抜かれたようだった。目くじらを立てていたものも、変な噂を膨らませようとしたものも。彼女が場の空気を上手くとりなしてくれた形だが、その代わりに毒気を増幅させたものが一人、残された。

雷「……」

 隣を見る気にはなれない。

 沈黙が、痛い。

提督「なあ、俺たちも戻ろうか」

 返事はない。

提督「雷行くぞ。戻るぞ」

 耐えきれず歩き出そうとすると、一歩目で転びかけた。雷が石のように固まって動かなかったからだ。

提督「おい」

雷「特別よね?」

 雷がぼそりと尋ねてきた。感情を廃した抑揚のない声で。

雷「私たちは、特別な関係……だよね?」

 血の幻臭が、鼻腔をくすぐる。海馬に刻まれた嫌な記憶が呼び起こされる。

 俺は戦慄に震えながら、思ってもいない嘘をついた。

提督「家族、だと思っているよ」

 誤魔化しという名の嘘を。俺には、家族なんていない。偽りの関係に縋る気もない。残念なことだが、君とは違うのだ。

提督「……行こう。仕事があるから」

 長い沈黙の後に、彼女は言った。

雷「……そうね」
186 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/05/09(水) 01:25:11.48 ID:XRNYy7No0
投下終了です
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/09(水) 07:02:57.73 ID:FkoQTCBkO
乙風です
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/09(水) 13:56:46.78 ID:I7/EInhb0
乙風
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/09(水) 19:22:29.56 ID:vLrAfYQ30
乙風
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/09(水) 20:29:30.31 ID:YbPCblFdo
改乙
191 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/05/09(水) 21:26:08.39 ID:XRNYy7No0
あと、最近話題のpixivfanbox を始めました。
もし、支援してくださる方がいらっしゃいましたら、よろしくお願い致します。
URLを貼っておきます

? https://www.pixiv.net/fanbox/creator/14053647?utm_campaign=creator_page_promotion&utm_medium=share&utm_source=twitter?
192 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/05/30(水) 01:49:23.44 ID:H0F4NLTs0

 ■


 嫌だ。

 行きたくない。行きたくない。行きたくない。

 でも、行かなきゃ。行かなきゃ、響が殺される。私の代わりに出撃させられて、意味もなく、無残に死んでしまう。そんなの嫌だ。

 だから決めたんだ。私が行くって。私が、出撃して響の代わりに死ぬということを。

「……」

 誰も何も言わなかった。私は艤装を身につけて、よたよたとよろめきながら出撃ドックへ向かって行く。足がおぼつかず、途中で何度も転んでしまう私は無様だったと思う。見兼ねた長門さんたちが、私のことを支えてくれたが、それでも足は鉛のように重たかった。

「すまない」

 もう、何度目かわからない謝罪が横から聴こえてくる。

「こんな思いをさせてしまって、本当にすまない」

 長門さんの頬は酷く痩けていた。張りのあった唇もボソボソに乾燥し、切れ長で意思の強さを感じさせてくれた目にもまったく力が入っていない。昨日の今日で、もう何十年も年を取ってしまったかのようだった。

 他のみんなも同じだった。出撃部隊は、みんな、口を噤んで歩いている。

 出撃ドックの入り口にたどり着いた。そこには、遠征部隊が顔を揃えて立っていた。私たちを見つけると、全員が沈鬱な面持ちで敬礼をした。誰も、何も、発さない。ただただ無言を貫いている。

 息が苦しい。足が止まってしまった。
193 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/05/30(水) 01:50:29.79 ID:H0F4NLTs0

「……雷」

 息が、出来ない。うっ、うっ、と死にかけの鳥みたいな声が勝手に出てくる。太ももから止めどなく何かが流れ落ちて、止まらない。

 あれ? どうしちゃったのかな?

 立って歩きたいのに、足が言うことを聞かないの。

「……立つんだ、雷」

 長門さんの言葉は淡々としていた。

「何があっても、私が守る。……だから立ってくれ」

「……」

「三隈、羽黒。支えてくれ」

 身体がふわって浮かんだ。なんで、私が持ち上げられているの?

「いや」

「……暴れないで」

 三隈さんが、言った。

「いやだ、いやだ」

「暴れるなって言ってるのよ! バカ!」

「三隈!」

 長門さんが叫んだ。

「叫びたいのは、お前じゃない。そうだろう?」

「……ごめんなさい」

 長門さんの背中が前へ前へ進んでいく。私も、前へ前へ運ばれて行く。

「嫌だよ、いや、いや」

「……」

 出撃ドックが、目の前に見えた。

 カチカチ、カチカチ、頭の内側から音がする。わからない。わからない。何の音がなっているのか、わからない。
194 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/05/30(水) 01:51:30.24 ID:H0F4NLTs0
undefined
195 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/05/30(水) 01:52:22.44 ID:H0F4NLTs0

「……響ちゃん」

 響の名前を誰かが呼んだ。深い草むらから飛び出してきたイタチのように、敬礼する群衆を掻き分け、響が現れたのだ。頭の中の音が止んだ。

 空色の髪を翻らせる響の姿は凛としていて、切れかけた正気の線をギリギリのところで繋ぎ止めてくれた。驚くほどに、響の表情は凛としていた。ここにいる誰もが、響を見ていた。

「雷を降ろしてやってくれ」

「あ、ああ」

 長門さんの合図で、私は降ろされた。

「ひ、びき」

「……」

 私は、満足に動かない足を引きずって響に縋り付いた。鉄がぶつかり合う音が鳴った。なぜか身に纏われていた彼女の艤装と私の艤装が擦れたためだ。

 どうして、艤装なんてつけているんだろう。どうして?

「……私には、どうしても許せないものが二つあるんだ」

 響が淡々と喋り始めた。

「一つ目は、人の心と尊厳を無残に踏み躙るような行為だ。とくに、手前勝手な欲望で他者の生活を脅かす悪辣さには反吐が出る。あるときは暴力に訴えかけ、あるときは権力に物を言わせて……。それが、平然とまかり通ってしまう理不尽を、私は許せないんだ」

 言葉を切った響は、ゆっくりと細い息を吐いた。

「そして、二つ目はそうした理不尽に対抗できない己の弱さ、勇気の無さだ。奪われるだけ奪われて、なにも、一切、抵抗することもできないなんて業腹さ。正義はこちらにあるのに、その正義を貫けばいいのに、それができない。そんな弱さに屈しかけた己が、本当に許せないんだ」
196 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/05/30(水) 01:53:11.88 ID:H0F4NLTs0

 私は、力強く抱きしめられた。その際、装甲の後ろにある装置を触られたのか、艤装の装甲が解除された。響の血の暖かさと鼓動が、ダイレクトに伝わってくる。微かな震えも、そしてそれに抗う身体の強張りも。すべてが――。

「これから、ささやかな抵抗をしようと思うんだ。……私のために、命を投げ出そうとしてくれた優しい妹のためにも」

「なにを言っているの? 響……?」

「愛しているよ、雷」

 突然、視界が激しく揺れた。頭の奥に振動が走った。世界がガタガタに崩れる。身体が沈むように地面に吸い寄せられた。

「……Простите」

 響がなにかを言った。なんて言ったのかは分からない。

 どうして、なんで。

 そんな想いが、沈みかけた意識の底で湧き上がる。だけど、それはすぐに霞のように消えていった。だんだんと、闇が沈んでのしかかり、私の意識を奪い去った。

 
197 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/05/30(水) 01:54:37.55 ID:H0F4NLTs0




 雷ちゃん。

 誰かが私を読んでいる。

 雷。

 誰だろう。一人では、ない。

 雷。

 どうして、私を呼んでいるのだろう。理由は分からない。ただ、優しく、温かい声だ。聞いているだけで、冬の寒い日に暖炉にあたっているような気持ちになる。

 呼びかけようとした。どうしたの、って。けど、声が出てこない。口を開いて喉を震わせても音にならないのだ。

 彼女たちは、何回も呼びかけてくる。答えられない私に、答えを求めるように問いかけてくる。

 ああ、待って。私は、あなたたちと話したいのに。

 そうやって、なんとか声を出そうと足掻いていると、彼女たちが口を揃えてこう言った。

 ――逃げて。

「おはよう」

 目を覚ますと邪悪な笑みが私を見下ろしていた。悲鳴すら溢れない。いつの間にかベッドで眠っていた私は、ただただ固まった。

「可愛い寝顔だったね。ぐっすり眠れたかい?」

 問いかけに答えられない。身体の内側に暗い痺れが走り抜ける。

 ここは、治療室? カーテンもベッドも壁も天井もすべてが真っ白で、見覚えがある空間だ。なんで、私はこんなところにいるのか。 そして、司令官がどうして側にいるのか。

 私が混乱しているのを見ても、司令官は笑顔を崩さない。私の表情など見えていないのかもしれない。いきなり頬を撫でてきた。

「ああ、よかった。すぐに目を覚ましてくれて、本当に良かったよ。これで何日も目を覚まさないってことになっていたら、目も当てられなかった。綺麗なうちに感動の再会をさせてあげられないところだったよ」

「あ、あぁ……」

「ん? どうしたんだい、私の可愛いイカヅチちゃん。そんなに声を引きつらせて……。あ、もしかして、驚かせてしまったかな。ごめんごめん」
198 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/05/30(水) 01:56:24.85 ID:H0F4NLTs0
undefined
199 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/05/30(水) 01:57:39.85 ID:H0F4NLTs0

 指が、頬の上で踊っている。人差し指と中指が、まるでピアノに触るような繊細な動きをしている。だけど、滑らかな動きとは相反する、ねっとりとした液体の感触があって、気持ち悪い。それが、すっと頬を通り口元に落ちてくると、私は全身を強張らせた。

 鉄の味がした。血。血だ。ち、血、血液……。

「あ、あああ」

 私は、椅子に腰掛ける司令官の膝元に目をやった。真っ白な部屋に調和する白い布で包まれた物を持っていた。それは丁度重箱くらいの大きさのもので……下の方が真紅に濡れていた。司令官のズボンも、床も、赤い。

「君は、本当に、本当に優しい家族をもっているね。私は感動したよ。これが、家族愛なんだなあと……。報告を聞いているときも、涙が止まらなかった。なぜか長門には殴られてしまったがね……。酷いやつだよなあ、感動しているのに水を差すのだから。思わず腹が立って懲罰房に叩き込んでしまった」

 司令官が、何かを言っているが聞こえない。私の全意識は、司令官がもつ「布」に向けられている。私の思考はパンク寸前だった。

 あれは、なんだろうなんだろうなんだろうなんだろう。なんなんだろう。あれは、あれは、あれは。

「まあ、そんな瑣末なことは置いておいて。とにかく、君たちの家族愛に、私は大いに感動したんだ。だから、それに免じて君の出撃は免除にしてあげようと思ってな。おめでとう、雷。君は生き残った」

「しれ、しれいかん、それは……」

「ん? ああ、これか。そう焦らなくとも今から開けてやるよ。君へのご褒美だ。私が楽しむ前に、再会させてやろうと思って」
200 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/05/30(水) 01:58:45.37 ID:H0F4NLTs0

 司令官は優しい声で告げて、涙を流した。布の結び目を解いて、中身を露わにさせる。中からふわりと、空色の髪が広がった。

「さあ、響。『家族』に挨拶しなさい」

 私は、絶叫した。世界が割れるような感覚が頭の中から全身に広がっていく。黒く、黒く、ボールペンで紙をめちゃくちゃに塗りつぶすみたいに。

 目の前のそれは、たしかに響だった。けど、あの可愛いらしい顔はそこにはない。鼻もなく、口も裂けていたし、白い肌はそのほとんどが爛れていて、サーモンピンクの粘り気のある肉が露出している。あの、澄んだ瞳も、死んだ牛のそれのように燻んで、両方とも明後日の方向に向いている。

 私は、それを響だと信じたくなかった。けれど、身体は明確にそれを響だと受け取っている。身体が震え、抑えがたい吐き気に犯され、えずいた。

「ああー、見ろよ響。吐いてしまったよ。家族との感動の再開なのに、酷いやつだなあ」

 司令官が、それの頭を撫でていた。うっとりと表情を緩ませて、涙に濡れた優しい瞳を向けながら。

「響、ああ、どうして君はそんなに綺麗なんだ……。私は、君を、愛しているよ」


201 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/05/30(水) 01:59:28.23 ID:H0F4NLTs0
投下終了です
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/30(水) 20:13:14.06 ID:bFW7UMMX0
乙風ー。うーん、、、(昏倒
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/30(水) 21:08:08.85 ID:1P4DQnKH0
乙・・・心に来る描写だぁ・・・
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/31(木) 23:21:03.26 ID:dEI1PIFzO


提督になるにはサイコパス適正が必須なんやね(白目)
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/07(木) 21:02:41.92 ID:xVuPkTZW0
乙です
いいゾ^〜
206 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/06/17(日) 08:55:32.12 ID:Cea17qmb0




 ■

 提督はとても優しい人だ。

 あの日約束してくれた通り、鎮守府の裏に行くと、彼は私にぬくもりを与えてくれた。大切な宝物を扱うように私の手にそっと触れ、私が満足するまでそのままでいてくれた。いつも、いつでも、そうしてくれた。

 不思議なのだ。提督に触れていると、これまで感じたことのない多幸感に襲われる。だけど、それは心を激しく揺さぶるものではなく、ゆっくりと溶けて流れてくる雪解け水みたいに爽やかで静謐な幸せである。水が流れ、草木が芽吹き、花が咲く。春の暖かさとは、こんな感じなのだろうと想像させられる。

 このときだけ、私は自分が悪魔であることを忘れられた。自分の怪物性のすべてに目を背けることができた。一人の、浜風という人間として、自分の姿を描くことができた。

提督「……浜風は、温かいね」

 ある日、提督がそんな風に言ってくれたことがあった。

 私は、私が温かいかどうかなんて知覚することができない。自身の冷酷さには自覚があったから、きっと私の手も凍るように冷たいのだろう。そんな風に思っていたから、その言葉が意外で、なんだろう……とても嬉しかった。

 こそばゆい感じを覚えながらも、恥ずかしくてつい、私は捻くれた返事をしてしまった。

浜風「では、私は優しくないということでしょうか?」

提督「どういう意味だい?」

浜風「だって、こう言うじゃありませんか。手が冷たい人は心が優しい人だって。つまり、その逆を言えば、私は優しくないってことになるんじゃないですか?」
207 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/06/17(日) 08:56:47.12 ID:Cea17qmb0

 提督は優しく微笑んでくれた。

提督「……俺はそんな迷信を信じてはいないから。君は、とても素直で心根の優しい子だと思うよ」

 ずるい。

 そんな顔で、そんなことを言われたら、嬉しくないわけないじゃないか。

 どうしよう、口角が上がって来てしまう。

浜風「へぇ。そうなんですか。……へぇ」

 私を悦ばせることに関して、彼は天才的だと言わざるを得なかった。私に向けられる表情や仕草、そのすべてが、私の心をくすぐってくる。

 この、心の底から湧き上がってくる想いの正体を、私は知っていた。ただ、知識としてだ。実感が伴ったことはこれが初めてである。

 これは、間違いなく恋だった。
208 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/06/17(日) 08:57:52.50 ID:Cea17qmb0



 
 温もりから彩りを知り、彩りから恋を覚え、恋から執念に目覚めた。

 私は、提督を私のものにしたいと思う。欲を言えば、部屋に閉じ込めてしまいたい。それくらい彼が好きで好きで好きで仕方がなかった。

 ふとした瞬間に、彼のことばかりを考えている。彼が何をしているのか、どんなことを思っているのか、そのすべてを知りたいと思ってしまう。
 
 ――随分、ご執心ね。

 薄暗い廊下に、冷淡な声が響いた。私は足を止めて、窓の方に目をやる。

 小さな人影がぼんやりと佇んでいた。その顔を見て、溜息を吐きそうになる。相変わらず下卑た笑いを浮かべているものだ。

 ――そんなにあの男の「温もり」ってやつが良かったの?

浜風「消え失せなさい、阿婆擦れ」

 ――あらあら、冷たいことを言わないでよ。私とあなたの仲じゃない。

 私は無視をして歩き出した。こんな奴に一秒でも時間を割きたくはない。

 影が後ろからついてくる気配があった。鬱陶しい。

 ――何処に行くの? あの男のところかしら?

浜風「……」

 ――この先だもんね。あいつの部屋。我慢出来なくなっちゃったんでしょう? 

浜風「言いたいことはそれだけかしら」
209 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/06/17(日) 08:59:02.34 ID:Cea17qmb0

 足を止めず、言い放つ。義姉の笑い声が耳朶にこべりついて離れない。

 ――あはは、図星を指されて傷ついたのかしら? 

浜風「黙りなさい」

 ――でもさ、この先に行ったところで、またあのチビがいるわよ。あんた、気づいていたでしょう? あのとき、あのチビが起きて話を聞いていたこと。

 私は、何も言わなかった。

 この阿婆擦れの言う通りだ。私はたしかに、雷さんが起きていたことに気づいていた。その上で、あのような振る舞いをして、彼女を「挑発」した。

 そうすれば、必ず私の命を狙ってくることに確信が持てたからだ。

 ――今日は、きっと邪魔されるわよ。

 わかっている。だが、それでも。それでも……だ。夜になるとなぜか、私の胸の奥は引き絞るような苦しみに襲われる。昼間、分けてもらえた「温もり」が強烈に欲しくなる。まるで麻薬のように、抗いがたい甘い狂気に襲われる。

 だから、あの子が居てもいい。邪魔されたなら邪魔されたときだ。

 ――邪魔されたら嫌よね。鬱陶しいと思うでしょう?
 
 もちろんその通り。

 疎ましく思わない方が無理だろう。できるなら、彼女を気絶させてでも、提督の「温もり」を求めたいと思う。が、それは許されることではない。提督に引かれて嫌われでもしたら元も子もないからだ。それだけは、けっしてあってはならない。

 そう、だから……。
210 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/06/17(日) 09:00:09.55 ID:Cea17qmb0

 ――鬱陶しいなら、殺せばいいのに。

 囁きかけるように。

 義姉は私の耳元で、悪魔の言葉を零した。

浜風「……」

 ――透明にしてしまえばいいじゃない。そうすれば、あの男が手に入るかもしれないわ。お得意の水面下でのネチネチした駆け引きなんか、する必要ないでしょ? 今のあんたには「完全犯罪」が可能なんだから。

 私は、再び立ち止まった。提督の部屋はもうすぐそこにあって、視界の端に映っている。それでも止まったのは、微かに頭を過ぎった逡巡からだった。

浜風「……わかっていますよ。そうした方が、手っ取り早いことくらい」

 だが、それはあまりにも危険なことだ。

 提督は彼女を疎ましく思う一方で、彼女に依存しているところがある。依存されて頼られることを、心の拠り所にしている。雷さんをなかなか出撃に出そうとしなかったのも、彼女の状態を慮った以上に彼女を失う恐怖が背景としてあったからだろう。

 その拠り所を急に消してしまえば、提督がどうなってしまうのかわからない。そこについては、未知数だった。

 だからこそ本来ならば、時間をかけて外堀を埋めて、じっくりとやる必要があった。周りから信用、提督からの信頼を得られるようになり、雷さんを居心地の悪い状態に置き、精神的に追い詰めて、「最終手段」をとるしかない状況に持っていく。そして、事件を起こした彼女を、提督が解体処分にせざるを得ないようにする。そういう方法で排除するつもりだった。

 が、目論見はだんだんと軌道修正せざるを得なくなった。

 ――わかっているんでしょう? もう、殺してしまうしか方法がないことくらい。

 義姉の言葉には死んでも頷きたくはない。

 窓が、揺れた。風の音だと思ってみたら、複数の「顔」が張り付いていた。青や赤の光を纏ったその「顔たち」は、廊下の窓ガラス全面を埋め尽くし、嗤う。

 ――それだけあの男の心には、悪い意味であの子が巣食ってしまっている。あんたにはそれが分かってしまった。だから、わざわざお膳立てをしてあげたんでしょう? あの子が、あんたの隊に入ってこられるように。その気になれば、いつでも殺せるように。
211 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/06/17(日) 09:01:27.02 ID:Cea17qmb0

浜風「……違う」

 私は無意識のうちに、手を握ったり開いたりしていた。

 ――何が違うってのよ?

浜風「本来の計画を早めることにしただけです。つまり、あの子を滅するつもりはないと言うことです。彼女は、絶対に私の命を狙うでしょう? だからこそ、狙いやすいようにわざわざ私の後ろに配置してやったのですから。……その証拠さえ掴めれば、彼女を殺さずともこの鎮守府から退場させることは可能です」

 ――ふうん。解体処分に追い込むわけね。まあ、あの甘ちゃん提督なら、たしかに解体処分くらいで済ませてしまうでしょう。

 義姉はつまらなさそうに言って、溜息をつくと続けた。

 ――ようやく殺る気になったかと思えば、また回りくどいことをやるつもりなのね。下らない。

浜風「どうとでも言えばいいです。あなたの喜悦を満たすために、私は動いているわけではないのですから」

 ――そりゃあ、そうでしょうよ。

 義姉は私の前に回り込み、けたけたと声を上げて笑った。

 ――でも、あんたがそんな回りくどい方法に拘る理由はなんなの?

浜風「……あの子を殺してしまえば、提督が壊れてしまうかもしれないからです」

 ――壊れたっていいじゃない、別に。あんたは、あの男が自分だけを愛してくれればそれでいいんじゃないの? だったら、壊れてくれた方が都合はいいと思うけどね。あんた、そう言う人間に寄り添うのが得意なんだから。

浜風「……」

 ――何をそんなに躊躇しているの? 壊してしまえばいいのよ。いつもみたいに。あんたに依存するよう、仕向ければいいじゃない。

 甘い誘惑が毒を伴って、私の心に伸びてくる。

 私はそれを振り払うように歩き出した。

 ――あんたがわざわざ命をかけてまで、そんな面倒なことをする必要があるのかしら。艦娘の艤装なら、あんたは普通に死ぬってこと、知らないわけじゃないでしょ?
212 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/06/17(日) 09:07:36.07 ID:Cea17qmb0

浜風「……わかっている」

 でも、そうしないと。

 そうしないと、殺す以外に方法がなくなってしまう。

 提督は簡単に彼女を手放すことはない。そして彼女も提督からは離れようとはしないだろう。だから、多少面倒な手を使ってでも、提督が彼女を手放さざるを得ない状況を作り出す。そうすれば、提督が負う精神的なダメージも遥かに少ないもので済むはずだ。自分で決断して除籍したのと突然理不尽に失うのとでは、傷の深さは圧倒的に違う。

 それに、雷さんを殺すことは、提督の切なる願いを無碍にするということでもある。

 そんなこと、できるわけがない。

 ――ふうん。相変わらず面倒な奴ね。

 私が創り出した幻影は、私の心を読んだかのように冷笑を浮かべた。

 ――じゃあ、理由をあげるわ。あなたが納得して、あの子を殺すことができる理由をね。

 義姉は私より先回りして提督の部屋につくと、部屋の扉を親指で指し示した。

 ――この先で起こっている光景を、黙って覗いてみなさいな。そうすれば、あんたはあの子を殺したくて殺したくて仕方なくなるから。

 私は眉を潜めながら、扉に近づく。扉はなぜかほんの少しだけ空いていた。そこから、悪魔のような囁きが聞こえてきた。

雷「――だからね、司令官。私たちの子供、作っちゃお?」



213 : ◆jc3o0gJHYo [sage saga]:2018/06/17(日) 09:08:03.46 ID:Cea17qmb0
投下終了です
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/17(日) 11:08:36.86 ID:DVXDm2xc0
乙風
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/17(日) 17:54:13.18 ID:SFKGshdDO


これは盛りのついたメス猫ですわ
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/17(日) 18:23:04.89 ID:VS1VIpT30
乙風ー。 提督、貞操の危機☆
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/18(月) 06:28:37.01 ID:iAY1pDGI0
乙風
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/18(月) 15:36:25.34 ID:9fu2mAfzO
おつ風
ヒエー!
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/18(月) 23:12:54.92 ID:VhQ51VqUO

青葉の不穏な気配も地味に気になる
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/07/14(土) 10:43:55.87 ID:3eAm/+FXO
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/08/12(日) 19:43:58.51 ID:3hEnifH9O
a
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/10/16(火) 22:43:54.03 ID:kT/5JOLKO
sa
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/31(水) 14:10:52.75 ID:aiyspl2eO
待ってるぞ
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/04(日) 22:18:10.07 ID:H+vdccZCO
ツイッターが止まってて心配
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/09(金) 22:23:12.18 ID:TdjqxYxn0
また気がむいた時にでも書いて欲しい。待ってる。
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/19(水) 00:49:58.08 ID:UnSR+zbt0
ほしゅ
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