【艦これ】龍驤「たりないもの」外伝

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1 : ◆I4lwDj9Dk4S2 [saga]:2018/07/29(日) 19:36:41.81 ID:KWhwaqQEO
このスレは
【艦これ】龍驤「足りないもの」【安価】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1515586186/

からの派生作品や外伝を書き込む場所です、とりあえず場所だけ立てておきました


自分も使えなくなったエンドやその他ボツの話なんかを書き込むかもしれませんので、よろしくお願いします

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1532860601
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/29(日) 19:43:16.32 ID:D3aw33GFO
拡散希望
あやめ速報、あやめ2ndへの掲載拒否を推奨します
創作活動に対する冒涜を行う酷いまとめサイトです

あやめ速報へのSS掲載を拒否して下さい
あやめ速報に掲載されてしまった貴方のSSを消すように訴えて下さい
不当サイトの活動源にしてはいけません
あやめ速報を利用しないで下さい
このことを多くの方へ伝えて下さい
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/15(月) 23:29:46.46 ID:OowvP4VX0
保守
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/19(金) 07:12:34.93 ID:2LesPwfK0
保守
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/02(金) 23:14:21.72 ID:objbYOuMO
ほんの少しですが書かせてもらいます。外伝と呼べるかはわかりませんが龍驤と提督が発狂していた時の話です



狂日

「あひゃははははははっ!沈め沈め沈め沈め!」

今日もまた神通はんの叫び声で目が覚める。朝方までやることギッシリでやっと寝れたと思ったらこれや。
神通はんは朝やろうが昼やろうがお構い無しに暴れよる。もう何が敵で何が味方かすらわかってないみたいや

「やめて下さい神通さん!そんな装備で海に出るなんて!」
「ゼンブワタシが壊す。コワスコワスコワスコワス。…」

夕張はんが必死で神通はんを止めてるけど練度の差は大きい。夕張はんを振り払うと神通はんは単艦出撃して行った

「痛あ・・」
「夕張はん怪我とかしてない?」
「大丈夫です、でも神通さんが一人で出撃してしまいました・・」
「ウチらにはどないしょうもできへん、せめて鎮守府で暴れやんのが救いやで」
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/02(金) 23:17:15.74 ID:objbYOuMO
夕張はんは潜水艦の子らに付きっ切りやから他にできることはウチがせなあかん。執務室に向かおうとした所で今度は龍田はんらを見かけてしまった



「シネ」
「あがっっっぐ・・」
「あああぁぁああぁぁアぁァァァァ!」


龍田はんは槍の柄で暁の首を突き刺しとる。ほんでその脇には頭を抱えて叫んどる響がおった。暁は息ができてないみたいで顔色が悪い。このままやとあかんからとにかく槍を引っ込めるように説得せなあかん



「龍田はんお願いやからやめたってくれる?」
「オマエもシネ」
「がっっっっ・・」


暁に槍を突き立てたままウチの首を絞めてきた。首の骨が折れるん違うかっていうくらい強い力で絞めてくる。右手で槍を持っとるから利き手は右手のはずや。ウチの首を絞めとる左手はそこまで強くないはずやのに。



「シぬ、シヌ・・また死ぬぅんああァァァァ※△○◇!」


響は向こうの言葉で叫んでるみたいやけどどないすることもできへん。暁はとうとう声も聞こえへんようになった。次はウチの番なんやろか。ウチはこのまま死んでしまうんか。
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/02(金) 23:19:02.53 ID:objbYOuMO
いっそこのまま死ぬ方が楽かもしれん。龍田に殺してもらった方が楽かもしれやん。司令はんも狂ってしまったこんな日々は地獄でしかない。この世が地獄なんやったらあの世はきっと天国や。もうやれることは全部やったんやから恨まれることはないでな。ウチがそう思って体を力を弱めた瞬間、龍田はんは突き飛ばされて廊下に転がっていった



「しっかりしなさい暁。意識はあるの?」
「ゲ・・ほっっ・・」
「意識はあるみたいで安心したわ黒潮は平気?」


雲龍はんにお礼を言いつつウチは平気って答える。龍田はんは雲龍はんの一撃でのびたみたいで動いてなかった



「龍田は私が面倒見るから安心して」
「ウチは暁と響のフォローしとくわ。助けてくれてほんまにありがとうな」
「これくらいなんて事ないけど、提督はどこに行ったのかしらね。提督も漣も早く帰ってこないかしら」


雲龍はんの中ではあの事件がなかったことになっとる。龍驤はんが電車に轢かれてカタワになったのと漣がここから逃げ出したことが綺麗サッパリ消えとるんや。
それだけや無くて今が何月何日かも理解できてない。着任してきた日付けを言うたと思ったらその一か月の話をしだしたりするねん。
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/02(金) 23:21:48.73 ID:objbYOuMO
夕張はんによれば記憶障害かもしれんって言うてるけどそんなもんどうでもいいコイツらは全員狂っとるんや。
唯一無事やった潜水艦のみんなもそのうちあかんようになるやろ。そうなったらこの鎮守府は終わりや。


終わり、全部終わりや。せっかく艦娘として生を受けたのにウチはまた死ぬんか。こんなことやったら生まれてくるんやなかった。


何も考える気がなくてボーっとしとったら窓の外から空が見えた。雲一つない景色で上からここが丸見えになっとる感じやった。これやったらカミサマにも見てもらえてるんと違うかな。そんなことはあり得れへんけどウチの口は自然と開いた


「カミサマ助けて・・お願いやからこの地獄からウチを救って下さい・・・・」


ウチの独り言は響の叫び声にかき消されてカミサマどころか誰にも届くことは無かった
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/02(金) 23:22:47.71 ID:objbYOuMO
お目汚しありがとうござました
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/02(金) 23:27:42.40 ID:+Pbvy/qso
おつおつ
よう踏ん張ったな…
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/04(日) 10:58:39.97 ID:w93enpFpO
おつ
酉つけてないということは>>1ではないってことかな?
良かったよ
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/04(日) 15:58:00.58 ID:XaXlXUNH0
乙です
正に地獄だな…
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/05(月) 19:51:30.43 ID:zLVN/nU7O
勝手に書きました。口調などが一貫してない部分があるかもしれません。


これはガングートが爆撃から漁港を守る→記者会見の話の数ヶ月後、漁港が再開され数日経った日の話

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漁港
ワイワイ ガヤガヤ
ワイワイ ガヤガヤ


漁師1「いや〜爆撃された時はどうなるかと思ったがなんとかなるもんだな。」

漁師2「建物はピカピカ、通路はツルツル、死傷者が出なくて本当に良かったな。」

ガングート「全くだ、私に感謝しろよ。」
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/05(月) 19:52:18.79 ID:zLVN/nU7O
漁師1「おっ!ガングートさん、すみませんねまたボランティア頼んじゃって。」

ガングート「いや、私もこの漁港が再開されたらまた手伝おうと思っていたのだ、遠慮するな。
それよりこの荷物はいつもの倉庫に積んでおけば良いのか?」

漁師2「まったく、嬉しい事言ってくれるじゃないの・・・あ〜、このオレンジ色の箱はあっちにいる田中ってヤツに渡してくれ、あいつが整理するから、残りはいつもの場所だ。」

ガングート「了解した、では失礼する。」カツカツ

漁師1「さぁ、俺たちも仕事だ仕事。ボランティアばっかりに任せちゃ顔が立たねぇ。」

漁師2「本当だな、ははは!」

ワイワイ ガヤガヤ
ワイワイ ガヤガヤ
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/05(月) 19:53:43.03 ID:zLVN/nU7O
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昼休み

ガングート「さて、次は・・・」

漁師1「オーイ!もう昼休みだぞー!」

ガングート「む、もうそんな時間だったか」

漁師1「ははは、そんな反応だと思ったよホラ」缶コーヒー

漁師1「そんなに普段の仕事に比べてこっちは楽かい?」

ガングート「あぁ遥かに楽だ、普段の生きるか死ぬかに比べたらな」カシュッ

漁師1「あんた達が居るからこっちも商売出来てるから感謝しきれないよ。本当にありがとうな。」

ガングート「同じ様な事を皆から言われているぞ、気にしなくていい。本当にこの国の人間は義理堅いな。」ゴクゴク

漁師1「・・・それにしても記者会見のガングートさんはテンパってて噛みまくりで面白かったな〜。」

ガングート「ッ!ゴホッゴホッ、貴様ッ!アレを見たのか!」
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/05(月) 19:55:23.43 ID:zLVN/nU7O
漁師1「見たも何も、ここで働いてる人全員であの会見見てたんだぞ。」

ガングート「なっ、全員でだと!」

漁師1「あっ、良いところに。オーイ!」
漁師2「ん?なんだ?」

ガングート「おい!仲間を呼ぶんじゃない!」

漁師1「ガングートさんの記者会見ってみんなで見たよな?」

ガングート「聞くんじゃない!」

漁師2「見た見た。すごい面白かったなアレ」

ガングート「お前も答えるな!」

漁師1「いつもは自信満々で鋭い眼光のガングートさんが挙動不振になって、何か喋る度に唇がプルプル震えてたよな。」

ガングート「思い出さなくていいそんな事!」

漁師2「俺は途中の『危険が危なかった』のやつが好きだけどな。」

ガングート「ぬぁぁぁ!蒸し返すんじゃない!鎮守府内でもかなりイジられたんだからな!」

漁師1「でもそんなガングートさんがこの漁港を守ってくれたから・・・」

ガングート「急に取り繕ったフォローを入れるな!なんなんだまったく・・・」カツカツ
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/05(月) 19:56:16.02 ID:zLVN/nU7O
漁師1「ガングートさん何処行くんですか??」

ガングート「昼飯だ!缶コーヒーだけで腹が膨れるか!」

漁師2「あっ!ガングートさん、お詫びに奢りますよ!」

ガングート「何?本当か??」

漁師2「俺と1さんで奢りますから。」

漁師1「話題振ったのは俺だしな・・・機嫌なおして下さい。」

ガングート「・・・早く行くぞ!さっさと食べて仕事再開だ!」

漁師1「はーい」
漁師2「うーす」

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18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/05(月) 19:57:24.14 ID:zLVN/nU7O
初めてこういうの書きました、楽しんで頂けたら幸いです。
つまらなかったごめんなさい。
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/05(月) 20:08:04.25 ID:0PJ/qziBo
おつおつ
鎮守府ても外でもイジられる親しみ易いガンちゃんいいね!
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/06(火) 18:17:26.87 ID:WiC6eSNG0
途中までですが投稿します。
旧世界(傷付いた)から新世界(足りないもの)へどう変わっていったのか。『足りないもの』が始まる何年か前の所で終わります。
妄想バリバリなので合わない人がいると思います。ご了承ください。
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/06(火) 18:25:01.69 ID:WiC6eSNG0
神威「皆さん、着きました。」


提督「……ここか。」


望月「あ〜、疲れた〜。」


菊月「望月は何もしてないだろう……。三日月、この場所で間違いないな?」


三日月「えぇ、間違いない。ここです。」


千代田「ここで扉ってやつを開けば平和な世界になるのね。」


荒潮「今よりは良い世界になるって言ったけれど本当かしら〜?」


三日月「…………本当よ。理想郷、ニルヤカナイへの扉を開けばその力がこっちの世界に流れ込んで来る。理想郷の力が流れ込んで来るのだから、少なくとも今よりは良い世界になるわ。」


荒潮「……如月はどう思う?始まりの艦娘の言っていることは本当かしら?」


如月「わから…ない…。けれど…嘘を…ついている様には…見えないわ…。」


荒潮「そう……。なら、信じるしか無いわねぇ。」


龍驤「うちはもうこの体で満足してるんやけどなぁ……。もしかして今よりもナイスバディになってしまうんか!?ほんま困るわ〜♪」


曙「はいはい、存分に困ってちょうだい。大鳳、念のために海の底の確認してもらえる?」


大鳳「わかったわ。万全を期しましょう。……………………うん、大丈夫ね。」


羽黒「船の中過ごしやすかった!」


グラーフ「そうだな。揺れも殆ど気にならなかった。」


ル級「(船が揺れてグラーフが泣きついてくると思ったのに……!)」


ガンビアベイ「ほ、本当に船の上でやるんですか?」


ポーラ「直上に島でもあれば良かったんですけどね〜。仕方ないですよねぇ。」


三日月「ここが良いわ。三日月、そろそろ…………。分かりました、始まりの艦娘さん。」


三日月「さぁ、皆さん。ここに大きい扉があるとイメージしてください。そして自分の中にある力を放出してその扉を捉えてください。」


三日月「捉えた。そのまま押して!いきます!」

22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/06(火) 18:34:38.20 ID:WiC6eSNG0


ガシッ ズッ……


千代田「うぅ……重い。」


菊月「くっ、司令官!支えてくれ!」


望月「まじ面倒くせ〜……でもやるしかないか!」


ポーラ「車椅子はポーラが押します!ガンビアベイさんは扉の方に集中してください!」


ガンビアベイ「T……Thank you!(ポーラさん本気だ……。が、頑張らなきゃ!)」


龍驤「これちょっち重過ぎやぁ……曙、まだまだ行くでぇ!」


曙「言われなくても……くっ。」


羽黒「皆が好きだから。だから頑張る!」


神威「皆さんの力に少しでもなれるなら私も頑張ります!」


グラーフ「ル級、一緒に頼む!」


ル級「もちろんだ。……グラーフ、この扉を開けて世界がどうなるか未知数だ。それでも怖くないのか。」


グラーフ「ふんっ、散々話しただろう。怖がって先に進まなかったら平和な世界になんてたどり着けない。・・・・・・怖いのは変わらない。それでも進めるのなら進むのだと。」


ル級「……そんなグラーフも悪くない!」


大鳳「私はこの扉の先、扉が開いた世界の先まで見透してみせるわ。はっ!」


ズズズッ……


三日月「……私は艦娘が虐げられる世界なんて望まないわ。三日月も皆も協力してくれてありがとう。」


荒潮「まだ開いていないんだから、もう終わった事のように言わないでもらえるかしら……!」


菊月「そうだ、終わったら桜の丘で花見をしないか?」


曙「それ今言うの!?」


望月「おぉー。いいねぇ。」


千代田「じゃあ師匠と私と曙で食事の用意しましょ。」


ポーラ「ポーラはワインを用意しますね〜。とってもとっっても楽しみです〜。ザラ姉様達も連れて行きましょう〜。」
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/06(火) 18:44:26.84 ID:WiC6eSNG0




ーー


ーーー


ザラ「……提督。」


ザラ提督「どうした?」


ザラ「平和な世界になるのだとしたら怪我が起こらない。そうすれば怪我が因果となった出会いも消える。」


ザラ「そして過去が変われば今も未来も変わってしまう……。もしそうなるとしたら提督……。」


ザラ提督「……ザラのことは忘れない。忘れたくない。もし忘れたとしても必ず迎えに行く。だからそれまで待っていてくれないか?」


ザラ「あ……。ずっと……ずっと待ってます……。ふふっ。」


ーーー


ーー





千代田「ひ、ら、い、た!」


菊月「ああ……で、一体どのように変わる……んっ…風?」


提督「……!全員俺の所に集まれ!飲み込まれるぞ!」


ーーー


ーー




24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/06(火) 18:47:40.12 ID:WiC6eSNG0



「………………んっ。ここは?」


寒い。暗い。何があったんだっけ。そうだ。扉を開いたら光と風の奔流を受けて……。


「皆!」


返ってくる私の声が無情に突き刺さるだけ。


「菊月!」


そう叫ぶと、錆びついた扉を開ける音と太陽の光が私に飛び込んできた。


「私の名前を呼んだか?」


菊月だ。
私は寒さと喜びで体を震わせながらも菊月の所まで走った。
その姿を見るまでは。


「えっ……。」


右腕がある。右目もある。髪も赤色に変色していない。


いや、扉を開けて平和な世界になったから治ったのね。


そんな私の希望は



「誰だ?貴様。」



容易く打ち砕かれた。
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/06(火) 18:55:22.52 ID:WiC6eSNG0
ーーー

ーー




「お茶です。どうぞ。」


「ありがとう。いただくわ。」


私は菊月に不審艦として応接室まで連れていかれた。
目の前には私を睨む菊月、ソファで寝転んで雑誌か何かを読んでいる望月がいる。


「……望月。」


「ん。呼んだ?」


「その、体は大丈夫?」


「実はさっきまで遠征に行っててさー。あぁー、しんど。マッサージでもしてくれるの?」


「そう、ね。やらせてもらえるかしら?」


「おい、望月。こいつは所属場所が怪しく、私達の鎮守府の倉庫に忍び込んでいたやつだぞ。何をされるか……」


「菊月、客人に失礼過ぎ!もっちもほら、何させようとしているの!」
「してくれるって言ってるんだから良いじゃん。……あーそこそこ。凝ってんだよねー。」


深海棲艦化していない。普通の『望月』だ。なら私の知っている望月とは違う。違う『望月』だ。
なのに私の感覚はこの望月が私の知っている望月だと訴えてくる。


「菊月、謝って!謝らないとまた実験するよ!」


「うげっ!菊月、早く謝れって!」


「はぁ……。確かに失礼だった。悪かった。」


「別に気にしてないから……。ねぇ、菊月。左手で握手してもらえる?」


「なぜ左手?まぁ構わないが…………んっ。」


菊月の手を取る。
千代田と演習した後、一緒にお風呂に入って菊月を応援した。その時に握手したのと同じ感覚。
……あぁ、平和な世界ってそういうことなのねぇ〜。
すると応接室の扉が開かれ、軍服を着た男性が入室してきた。


「司令官。どうでしたか?」


「彼女、荒潮の言っていた鎮守府についてもう一度調べてみたが何も出てこなかった。A提督って人もいなかったよ。それで、もし良かったら……」


「ん〜?A?」


望月が雑誌をパラパラめくっている。覗いてみる。どうやら望月が読んでいたのはファッション雑誌らしい。そしてあるページを開いてテーブルの上に置いた。
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/06(火) 18:58:20.95 ID:WiC6eSNG0

「Aってこの男性モデル?」


そうよねぇ。平和な世界なら提督になってないわよねぇ。なら、こう言うしかないじゃない。


「違う人だわ〜。」


「そうだよねー。」


「……で?司令官は続けて何を言おうとしたんだ?」


「あぁ。荒潮さえ良ければドロップ艦として着任しないか?」


「超低確率のドロップ艦としてですか?」


「超低確率?」


「はい。ドロップ艦は超低確率で……もしかして知りませんでした?」


「あたしだって知ってるよー。」


「誰にでも知っていること知らないことがあるだろう。比べることじゃない。」


この世界だとドロップ艦は希少なのねぇ。


そうだ。


「ねぇ、欠損艦っていないのかしら?」


4人とも目を丸くして私を見てくる。
あら〜、聞いたらまずかったかしらぁ。
そう思っていると三日月が口を開いた。


「欠損艦なんていませんよ。艤装展開中なら大きな怪我もしないんですから。怪我をしてもかすり傷程度です。」


「欠損って深海棲艦に腕とか食べられちゃうわけ?そんな戦いやってらんねー。」


「そんな仕様だったら負け戦になるな。艦娘が最初から今の仕様で本当に良かった。」


「艤装を展開しなければ欠損は起こるだろう。だが今のところそういった話も聞かないな。何か気になることがあるのかな?」


「いいえ、混乱させてごめんなさいねぇ。」


私達が存在するってことは深海棲艦がいる。そして戦いもある。
けれど私達の世界みたいな被害は出ないのねぇ。
なら皆は私達の世界の事を思い出さない方が良いわねぇ。
いえ、菊月も望月も欠損や深海棲艦化が起こっていない。艦娘の常識さえ変わっている。
だとすればこの世界は艦娘誕生から変わっていると考えるのが妥当ねぇ。
だから知らない方が良いっていうのが正しいかしらぁ?


私達の世界で起こった悲しい出来事は私の中だけに閉まっておきましょう。
……でも楽しいこともあったわねぇ。


「うーわぁ、司令官泣かせた。泣かせるのは三日月だけにしときなよ。この前の出張の時に私も一緒に行きたかったって泣いてたんだから。はいハンカチ。」


「え?」


あらやだ大変。泣いちゃった。

27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/06(火) 19:00:24.02 ID:WiC6eSNG0
一旦ここまで
また書きためができたら続きを載せます
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/06(火) 19:09:17.75 ID:B28AqxsAo
たんおつー
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/06(火) 20:08:54.74 ID:WiC6eSNG0
扉を開く前の望月の台詞にカタカナを入れるのと改行ミスしてしまった〜。
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/08(木) 17:40:16.53 ID:X3JKU8xv0
>>26からの続き また途中までですが投稿します。
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/08(木) 17:46:26.46 ID:X3JKU8xv0
「大丈夫ですか?……ってもっち!言わないでって言ったでしょ!」


「……あー。そうだな。今度は三日月も一緒に行けるように手配する。」


「あ……ありがとうごさいます。」


あらあらぁ〜。良いわねぇ〜。


「ラブラブー。ひゅーひゅー。ここは万年春だなぁ。」


「んもぅ!もっち!」


「羨ましいな……。」


「菊月まで!」


「ははは……。それで荒潮。どうだろう?うちに来ないか?」


本当に楽しそう。私も……。でも……。


「保留にして良いかしらぁ?」


「荒潮が良ければ理由を聞きたい。」


「少し旅をしたいからよ〜。」


「…………鎮守府に迷惑をかけてしまうかもしれない旅なのか?」


あらぁ。この提督、結構鋭いのねぇ。


「そうねぇ〜。そうなるかもしれないわねぇ。」


「鎮守府に籍を置けば鎮守府が気になってその旅が出来なくなるか……。わかった。なら少しばかりだが援助をしよう。」


「それでそちらに何のメリットがあるのかしらぁ。」


「面白そうで奇妙な運命に恩を売るのも良いだろう?」


……凄い慧眼を持っているわね。怖くなってきたわ。
それはともかく、確かに少し協力は欲しいわね。


「……そうね。じゃあ……」


そうして協力して欲しいことをあげていく。
ふと横をみると、菊月が雑誌を熱心に見ている。どうしたのかしら。


「……なぁ望月。私もこの雑誌が欲しいんだかどこで売っていたんだ?」


「んぉ?菊月がそういう雑誌に興味を示すの珍しいねぇ。2冊持ってるし、欲しいならそれあげるよ。」


「感謝……。何故かこのAとか言う奴に妙に惹かれるんだ。」


「菊月も?あたしも同じだー。だからいつもは買わないような雑誌2冊も買ったんだよねー。なんだろうね。」


……これも運命なのかしらねぇ〜。
そういえばザラさん達はどうなっているのかしら。この提督に聞いてみましょう。
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/08(木) 18:00:47.79 ID:X3JKU8xv0


「その鎮守府は知っている。そこの提督からイタリアのお土産を貰うんだ。頻繁に行く理由は……確か『恋に落ちた。』とかだったか。いつも仏頂面なのに、その話をするときはよく笑うんだよ。」


今度は心配なさそうねぇ。


「……では準備に時間が必要だからその間はバイト艦としてここで働いてもらう。勿論給料は出す。お金は必要だろう?」


「しばらくお世話になるわ。よろしくね?うふふっ。」

ーーー


ーー




「艦隊が戻ってきまぁ〜す。」


「大分暴れまくっていましたね……。」


「けっこう壊しちゃったぁ。お風呂に入るわねぇ〜。三日月、艤装の整備お願いできる?」


「任せてください。」


聞いていた通りの性能ねぇ。私の艤装もちゃんとこの世界に適応していて良かったわぁ。

一通り洗い終わって広い浴槽にゆっくりと浸かる。
お臍の横に入れた桜のタトゥーは消えていない。良かった。
……艤装の中にお札の貼られた球、如月はいなかった。あの子達はあの球をどこから見つけてきたのかしら。


……もし球が見つかったとしても、この世界になったから干渉できないかもしれない。
そうだとしたら私達の世界を知っているのは実質私1人だけ。あの時味わったような孤独感にまた攻められる。
せっかく平和な世界になったのに皆が私達の世界を知ってしまうのは避けたい。
でも私の中には私達の世界を知って欲しい、共有して欲しいという思いもある。アンビバレンス。
だから旅に出る前に一回だけ会う。ここの提督に協力してもらって、千代田と曙はそれぞれ元々いた鎮守府に所属していることがわかった。アポイントメントも取ってもらった。他のメンバーは難しかった。


千代田、仲間との関係は良好かしら。他の子の娯楽品とか勝手に捨ててない?出撃ばかりして体壊したりなんかしてたら怒るわよ。
曙、提督との関係はどう?
調べてもらって、例の火事は起きていないのはわかったわ。そちらの提督も私達の世界にいた人とは違うみたい。だから火傷の傷なんて出来てないでしょう?あぁ、でも包帯を巻いていると何故か安心するとか言われたら笑っても良いわよね。


艦名が同じなだけで別の艦娘かもしれない。本当に同じ艦娘だとしても、菊月や望月のように知っていないかもしれない。それでも良い。一回だけ会おう。それがこの気持ちを納得させるための方法。

……ちょ〜っと眠くなってきちゃった。お風呂上がりにバナナジュースでも作って飲もうかしらぁ。
そしたら明日の準備の確認をして今日はもう寝ましょう。

33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/08(木) 18:01:32.48 ID:X3JKU8xv0
一旦ここまで
また書きためができたら続きを載せます
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/08(木) 18:34:52.38 ID:9YpTKUlAo
たんおつー!
35 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/17(土) 18:12:27.92 ID:Z/n76TvWO
途中まで投稿されている方がいるのでコテハンで投稿させていただきます

・龍驤が鳳翔のお店で酒を飲みながら語るお話
・時系列的にはどこにおいても何とかなるかと思います
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/17(土) 18:14:31.54 ID:Z/n76TvWO

ー鳳翔のお店ー

……お、おったおった。おつかれさん。

飲みもの?せやなぁ、とりあえずビールでええかな。



お、きたきた……鳳翔はんありがとうな。


キュポンッ


トクトクトクトク……



んじゃ、乾杯!

チンッ


ゴクッゴクッ



……ぷはぁー!頑張ったあとのビールは最高やなぁ。


37 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/17(土) 18:15:48.38 ID:Z/n76TvWO



……それで、どないしたん急に?『2人だけで飲みたい』なんて。

ウチ、あんまり飲まれへんけど、ほんまに大丈夫か?

しかもここ個室やんけ。そんなに聞かれたくない話なん?



……ええで、大丈夫や。ここでの話はウチらだけにしとくから、な?

大丈夫、大丈夫。ツラいのはよーわかる。
戦いだっていつ終わるか分からへんし、いろんな敵に脅かされてるのも楽なことやない。

みんながみんなそうやんや。キミだけやない。

つらかったら、いつでも頼ってくれて、ええんやで……?


38 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/17(土) 18:17:08.52 ID:Z/n76TvWO








……え?そういう話じゃない?


ウチと提督のえっちやと!?アホか!!







あっごめんなさい……静かにします……。


39 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/17(土) 18:18:55.93 ID:Z/n76TvWO


ったく、たまたま誰もおらへんかったから良かったわ……




あ!?誰もおらへんから別に話したっていいじゃない!?

絶対話さへんわ!帰るで!!




……もう止めるから飲もう?

ったく、しゃあないなぁ……


ええか?ウチが酒に弱いからってペラペラ喋ると思ったら大間違いやからな!!


鳳翔はーん!なんか適当に作ってくれへーん?あと日本酒、熱燗でたのむわー!

ウチの?ちゃうちゃう、2人で飲む分やで?

大丈夫やって、最悪鳳翔はんが提督か誰かに電話してくれるから。

気にせず飲もうや、な?
40 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/17(土) 18:21:04.51 ID:Z/n76TvWO


……………………


………ハハハ……ウフフ……


…………声が聞こえる……?




「……ったく、困ったもんや、ウチの性事情なんて知って一体何がしたいねん」

「まぁまぁ、龍驤さんと提督さんの仲はみんな知ってますし、気になることだってありますよ」


龍驤さんと……鳳翔さん?


「そういうもんなんかなぁ……んくっ、そろそろやめとこうかな」

「あら、もうおわりですか?

……龍驤さん、途中から飲んでませんでしたよね?」


え?


「鳳翔はんやって片棒担いでたやろ?途中からのウーロンハイ、ただのウーロン茶になっててびっくりするとこやったわ」

「うふふ、へべれけ対策だって最初に相談したのは龍驤さんですよ?」

「何度か酒で潰されてるからなぁ……鳳翔はんも最初の時からすり替えるの上手なったわ」

「あら龍驤さんだって、相手の方にお酒を勧めるの、お上手になりましたよ?あの日本酒、ほとんど飲ませてましたよね?」

41 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/17(土) 18:23:14.80 ID:Z/n76TvWO


…………あ、また、眠気が…………



「でも、私も気になりますね」

「ん〜?何が?」

「龍驤さんと提督さんの、夜のこと♪」

「えぇ…………?」

「先日来た方がおっしゃってたのを聞いちゃいました。なんでも龍驤さん、

首を絞めていただくのがお好き……だとか」

「」ブッ


えぇっ!?


「ゲホッゲホッ……なんか、声せえへんかった?」


いけない、寝たふり寝たふり……


「……気のせいじゃないですか?」

42 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/17(土) 18:25:36.96 ID:Z/n76TvWO

「そうかなぁ……ま、えぇわ。鳳翔はん、今日の煮物ちょうだい」

「はい、ただいま……それで、首絞めのお話なんですけど」

「……話逸れへんかぁ」


あれ、本当だったんだ……


「うふふ、私も1人の女性として、殿方との営みは気になりますから……それに、今日は小さな2人はお休みなんです」

「う〜……鳳翔はんとウチの仲やから、特別に話してもえぇけど……別に面白くもなんともないで?」

「ありがとうございます。それに……」チラッ




いま、こっちを……!?


「……いえ、なんでもありません」

「?」
43 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/17(土) 18:31:35.06 ID:Z/n76TvWO

『龍驤の異常な愛情 または提督は如何にして心配するのを止めて首を絞めるようになったか』

龍驤が戦線復帰するまでの過程を中心に、なぜ龍驤が首絞めを好むのかを考察したお話

・これは妄想です
・呼称、喋り方、設定でガバったら脳内変換で
・ブラックジョーク要素はありません
・核戦争が起きたりとかしません
・これは妄想です

とりあえず触りだけです
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/17(土) 19:35:10.41 ID:AmauPpOOo
たんおつー
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/18(日) 01:26:12.59 ID:EApYW/Rz0
乙ですって!
鳳翔さんが「首を絞めていただくのがお好き……だとか」なんて言うところに凄い背徳感がある。
題材も文体も良さげて楽しみですね。
また、トリップをつけられたということで、分かりやすくしてもらいありがとうございます。
お互いに楽しんでいきましょう。
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/18(日) 20:13:05.72 ID:EApYW/Rz0
>>32からの続き
また途中までですがよろしくお願いします
酉は後からつけることにします
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/18(日) 20:25:07.88 ID:EApYW/Rz0
undefined
48 : ◆6yAIjHWMyQ [saga]:2018/11/18(日) 22:04:40.74 ID:EApYW/Rz0
 そして翌日になった。
うららかな春の朝日は、布団から私を追い出して目を覚まさせる事はするが、気持ちまでは晴れ晴れとしたものにしてくれない。
今日は曙に会う日。千代田の鎮守府の方が距離は近いのだけれどもそれは日程の関係。
 支度を終えた私はここの提督――――サングラスを掛けているからグラサン提督と呼ぶことにした――――に鎮守府内の如何にもな高級車が置いてあるところまで案内された。
するとグラサン提督から助手席のドアを開けられてどうぞお嬢様と微笑まれた。サングラス姿も相まって非常に付き人らしくみえた。
ありがとうお・じ・さ・ま♪と冗談を言うと渋い顔をされた。イケナイ事をしているみたいだって。不審艦を匿っているのはイケナイ事じゃないかしらぁ。
そう言うと何故か勝ち誇った顔をするグラサン提督。不気味だわぁ。


 グラサン提督が機嫌良く運転している横で、私は三日月から貸してもらっていた書物の続きを読む。この世界の艦娘の扱いや歴史などを頭に入れる為だ。
あっ、この世界だと『本営』表記が『大本営』表記になっているのねぇ〜。細かいところにも気をつけなきゃ。
 そんな感じで読み進めていると、グラサン提督にグローブボックスを開けてみてと言われた。何が欲しいのか聞いてみてもまぁまぁ良いから開けてみてと言われるだけ。


「私の分のサングラスでもあるのかしらぁ〜?怪しい人ねぇ。」


なんて返しながらきっと私に被害が及ぶようなことは起きないだろうと思い、短い付き合いだがグラサン提督を信用している自分に内心驚きつつ、グローブボックスを開けてみる。
中には車検証と思わしき書類が積まれており、その上に艦娘の身分証明証があった。手に取って見てみる。
『グラサン提督の鎮守府近海でドロップ。以降無所属。』
 先ほどの勝ち誇ったような顔をした原因はこれかと頭を抱えた。大鳳の男女関係観を聞いた時の事を思い出した。あの時も頭を抱えたわ。


「大本営に申請してドロップ艦として私の身分証明書を発行したのね。公文書偽装じゃないの。」


「そこそこの権力を持っているから平気だよ。こういう良い事に使う分には特にね。ウチの近海でドロップして倉庫に潜んでいたとすれば嘘じゃない。」
「どこかの鎮守府に所属したい時とか買い物をする時にそれを持っていれば色々便利に事が進む。生活していく上で必要だろう?せっかく作ったから貰ってくれるとうれしいな。」


「仕方ないわね〜。じゃあ……貰っておいてあ・げ・る♪」


 出来るだけ迷惑をかけたくないと思う一方、私はこの世界に存在しても良いのだと言われたようで気持ちに少し日が射した。

49 : ◆6yAIjHWMyQ [sage]:2018/11/18(日) 23:02:27.47 ID:EApYW/Rz0
短いですが一旦ここまで
また書きためができたら続きを載せます
誰が喋ったのか名前を付けなくてもわかりますかね?
50 : ◆6yAIjHWMyQ [sage]:2018/11/18(日) 23:20:43.64 ID:EApYW/Rz0
訂正
大本営に申請してドロップ艦として→ドロップ艦として大本営に申請して
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/19(月) 00:13:33.48 ID:kMIvdiN6o
たんおつー
大丈夫よ
52 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/19(月) 23:20:57.75 ID:PC7kVGmT0
投下
53 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/19(月) 23:23:44.80 ID:PC7kVGmT0



「どこから話そうかな……ウチが艦載機飛ばすために、身体に印を刻んでるって話は知っとるよな?」




巻物と艦載機、両手を使わなあかん龍驤型の艤装。

事故でカタワになってもうたウチは、血眼で戦線復帰の道を探していた。


いろんな理由があるで?


戦い以外の生き方を知らなかったのもある。


ただただ、死に場所へ行きたかった……ってのもある。


でも、理由はそれだけやなかった。
54 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/19(月) 23:25:45.07 ID:PC7kVGmT0

あの時の鎮守府は、今みたいに大所帯でもないし、軍功だってそこそこの小さな鎮守府。

いつ何が起きてもおかしくない中で、とにかく出撃を重ねて戦績を稼ぐ毎日。

そんな最中に、ウチが事故に遭って、鎮守府が機能不全に陥った。

いますぐに取り潰し……そんな処分が下されてもおかしくない状況やった。




鳳翔はんも知っとるやろ?ウチらが発狂していた間、潜水艦のみんながギリギリのところで支えてくれたこと。

でも、それはあくまで最低限のラインを守りきってくれただけ。

少なくない艦娘を預かる鎮守府として、数ヶ月機能していなかった遅れを取り戻し、機能していることを証明せなあかん。




潜水艦たちはもういない。

何とか立ち直ったやつらだけで作った水雷戦隊や雲龍だけで、莫大な遅れを取り返すのは至難の業。

ウチが戻らんかったら、どうなってたかも分からんわ……
55 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/19(月) 23:27:39.04 ID:PC7kVGmT0

ウチが艦載機を飛ばす方法、それ以前に航行する方法を模索してる間、鎮守府は日に日に酷いものになっていった。

結果を出せない鎮守府には当然資材も報酬も満足には与えられない。

戦域を鎮守府近海に抑えて燃料を節約し、クリティカルヒットを意識して弾薬も最小限にする。

修復も大破時以外は無し。

最小限の支援で最大限の利益を図る、まさにブラック鎮守府や。


お互い、闇の中からようやく帰ってきたばかりの寄せ集め。

励ます余裕も無く、みんな黙りこんで、流れ作業のように出撃と帰還を繰り返してた。


(頭の中)ブラック鎮守府が立ち直ったと思ったら(経営)ブラック鎮守府に、なんてな、わはは。






…………ウチ、そういう鳳翔はんの優しい笑い方、好きやで。
56 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/19(月) 23:30:24.69 ID:PC7kVGmT0

片足だけで航行する方法をようやく物にしたのは、いっそのこと本当に心中しようかという考えが鎮守府に広まりだした頃だった。




ところで鳳翔はん、修復材って知っとるよな?

負傷した艦娘が使用することで身体を治療する『液体』や。

本来、修復材は原液を薄めてドッグで長期的に使用する方法と、原液をそのまま使用して即時回復させる方法がある。

財政火の車の鎮守府やから、当然原液で使うなんて言語道断。

しかし、時間のかかるドッグでは出撃数に無駄が出る。


そんな時に夕張と北上が思いついたらしい。




『支障をきたす傷だけ修復材で治療すればいいのでは?』



57 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/19(月) 23:32:09.78 ID:PC7kVGmT0

実験は成功やったよ。


患部に原液を塗ることで、応急処置的に傷口を塞ぐことができた。

極端な話、腕がちぎれても原液を塗ればとりあえず塞がるんや。


これの良いところは、少ない修復材で多くの艦娘を治療できること。

そうすれば出撃できる回数が増えて、おのずと戦果も上がる。

さすがに完全再生させるには入渠せなあかんかったけど、帰還と出撃のサイクルは明らかに早くなった。


どうにか結果を残せるようになって、日々の配給や報酬も多少はよくなった。

明日の朝も迎えられるか分からん鎮守府は、しばらく生きていけるくらいには回復したんや。




理論的には、な。






58 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/19(月) 23:34:05.40 ID:PC7kVGmT0


「そんなことが…………」

「あんま知ってる子もおらんと思うで。ここ最近は艦娘もだいぶ増えたことやし」


ガラガラガラ


「こんばんは、龍驤来てませんか?」


この声……提督?


「あれ?どないしたん?」

「お前が飲みに行ったっきり帰ってこないから、みんな心配してたんだ」

「えっ……げ、もうこんな時間かいな!?」

「あらあら、私も気づかなくて……とりあえず、暖簾を下ろしてきますね」パタパタ

59 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/19(月) 23:35:57.82 ID:PC7kVGmT0

「何もなくて良かったよ……ん?龍驤だけか?」

「あー、それやったら、そこに」


ね、寝てますよー…………(汗)


「寝てるのか……とにかく龍驤、帰ろう」

「あら、まだお話が終わってないですよ?」

「お話?」

「あれやねん、鳳翔はんに、ウチらの、その……営みのこと、聞かれてな///」

「営みって、お前…………」

「ええ、ですがまだそのお話までたどり着いてなくて」

「あれや、ウチが身体に印刻んだ時のこと」

60 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/19(月) 23:36:58.05 ID:PC7kVGmT0

「あれか……鳳翔さん、もしかして、修復材のことも?」

「えぇ、お聞きしましたが……」

「……このこと、絶対内緒にしてくださいね?特に金剛や羽黒には……



……下手すれば鎮守府が潰されるかも分からないので」


えぇっ!?


「!?誰かいないか!?」


……す、すぴー、すぴー…………


「……気のせいか?」

「そうなんちゃう?こんな時間に歩いてなんかおらんやろ?」



「あの、提督さん。潰されるって……」

「あぁ、それなんですけど……」


61 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/19(月) 23:38:20.68 ID:PC7kVGmT0

修復材は所定の方法以外での使用は禁止されてるんです。

龍驤から聞いたと思いますが、使用方法は2つ。ドッグでの使用と、高速修復材としての使用です。

この時、違法な使用を防ぐために、バケツの中身は一括で使い切り、即時破棄する義務があるんです。


これ以外の使用方法を用いた場合、当然罰則が課せられるんですけど……




どうやって凌いだかって?


夕張が空バケツを偽造して、北上が帳簿を誤魔化していたそうです……



62 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/19(月) 23:39:48.95 ID:PC7kVGmT0

「まぁ…………」

「……くれぐれも他言しないようにお願いします」

「まぁここまで話してもうたし、もう鳳翔はんも共犯や」

「あらあら、それは困りましたね……♪」

「まったく……とりあえず鎮守府に連絡してくる」ピポパ



モシモシ?アァ、サザナミカ。ジツハ……



「でも、提督さんが思い出したくないとは、そんなに悔やんでいるということなのでしょうか」

「あの修復材の話、実は致命的なデメリットがあってな……」

「デメリット、ですか?」

「まぁ、追い追い話すわ」

63 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/19(月) 23:40:52.58 ID:PC7kVGmT0

「…………うん、頼む。では」ピッ

「何やって?」

「今日は2人で楽しんでこい……だとさ」

「あら、いい秘書艦さんじゃないですか」

「まぁ、たまにはいいか。鳳翔さん、熱燗をください」

「はい、一緒にお料理もお出ししますね」

「ありがとうございます」



「では」

「改めて」

「「乾杯」」


チンッ



それで、どこまで話したんやっけ?

64 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/19(月) 23:42:33.87 ID:PC7kVGmT0

ここまで
本家で増えた設定に絶賛焦ってますが、まだまだ長いので頑張ります(汗)
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/20(火) 01:35:44.56 ID:1wCBsw58O
おつ
良いですね
少し気になった事があるのですが
>>極端な話、腕がちぎれても原液を塗ればとりあえず塞がるんや。
艤装展開中はそのような傷を負うことはなく
かつ艤装解除時に負った傷は雲龍や瑞鶴、榛名の例から修復材では治すことが出来ないと思われるのですが
そのところはどのようなお考えなのでしょうか?
66 : ◆lxd9gSfG6A [sage]:2018/11/20(火) 10:12:24.32 ID:spKjnhna0
>>65
これはやらかしましたねぇ……
序盤で「出撃の怪我は修復材で治る」ってあったので、修復材をかければ傷や弾痕が治って回復するイメージでしたが、直後の「敵の攻撃で腕が千切れるなんて艦娘じゃない」を見逃すとは……
腕の無い龍驤のブラックジョークだと思ってください




さすがに無理がありますねすいませんでしたぁぁぁぁあ!!

67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/20(火) 10:23:22.47 ID:QZlSr4HWo
そんなに気にしなくてもいい
外伝書くってだけで賞賛もの
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/20(火) 10:49:48.70 ID:v9TUrBCDO
艤装の効果で重傷は防げるにしてもその艤装がダメージを受けすぎて損傷したら効果も消失するとかは考えたけど
そもそもそんな状態になったら欠損がどうとかより轟枕確定かな
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/20(火) 13:05:26.75 ID:zsMULQiuO
好きに書いて…どう解釈してもいいから…
書いてくれるだけで凄く嬉しい…
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/20(火) 18:17:35.04 ID:ggNePMyn0
乙です
良い雰囲気だなぁ 一体誰が寝たふりをしているのだろうか

変に取り繕う文を書くよりはその一行分をなかったことにした方が書きやすいかもね なくても問題なさそうですし
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/18(火) 00:15:55.14 ID:la50Nsh60
保守
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/29(土) 13:59:40.30 ID:BWF1i+bVO
目覚ましが鳴り眼が覚める。いつも通りの変わらない部屋の中でひと伸びしたあと、男は部屋を出て行く。

「寒い……」

男は無意識にそう呟く。住んでいる『アザレア』というアパートは家賃が安いが特殊な建物で、部屋の中に台所が無いのだ。全部屋2L、こんな物件を探せと言われる方が難しいだろう。

洗面所とトイレは共有なので気温がマイナスになろうが顔を洗う為には部屋を出る必要があるのだ。

「寒い……」

蛇口をひねると氷のように冷たい水が出てくる。以前はこの共有の洗面所の水道はよく凍っていたらしいが、住民からのクレームが相次いだ為対策がとられそういう事は無くなった。
洗面所にかける金があるなら部屋に台所をつけてくれ…男はそう思いながら顔を洗い会社へ行く為の身支度を済ませる

「行ってきます」

男の台詞に答える人物は居ない。挨拶は口に出せと親から躾られた影響で意味もなく言葉を発しただけだった。
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/29(土) 14:02:09.00 ID:BWF1i+bVO
「ただいま」

男は意味のない言葉を発し帰宅する。勤めている会社は所謂ブラックでは無いがホワイトでも無いありふれた企業である。決して給料が悪い訳では無いのだが、男はこのアパートに住み続けている。

「今日はミックス弁当が半額か」

ビニール袋から総菜屋の弁当を取り出し机に置く。その弁当は一人暮らしの男性には高級品といえるものだったが、半額ならば相場のものである。
男はそのまま食事を摂るかと思いきや、部屋着に着替え外出する。

その目的は近くにあるコインシャワーだ。風呂が無いアパートなのでこういうものを理由するしか無いが、案外悪くなく汗もしっかりと流せる。
そのコインシャワーは百円で一定量の湯が出る仕組みなのだが、男はいつも百円では足りず二百円を使う羽目になっている。だがその事について男は何とも思っていない。

この男の行動は矛盾しているように思える。安いアパートを借りているのに食事はそこまで節約しない。金が勿体ないのならコインシャワーだってなんとか百円で済まそうとするだろう。

しかし男はそうしない。なぜなら男は金を節約する為にここに住んでいるのではなく、ただ何となく決めただけなのだ。
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/29(土) 14:04:06.87 ID:BWF1i+bVO
この男と「何となく」は切っても切れない縁で大学を決めた理由も「何となく」、今の会社を志望した理由も「何となく」である。

このアパートも会社から特別近い訳ではなかったが「何となく」決めてしまったのだ。『アザレア』という華やか名前とは程遠いこのアパートに惹かれるものがあるとは思えないが、それでも「何となく」ここに住み続けている。

「なんだ?隣の部屋から物音がするのか?」

夕食をしていた男の耳に雑音が入ってくる。隣の部屋は空き部屋だったはずだが確かに物音がする。音を立てないように玄関を開けて隣の部屋を見てみると扉の隙間から光が漏れていた。

「引っ越してきたのか……」

物音の正体が不審者でなさそうだと安堵し静かに扉を閉める。
引っ越しの挨拶が無いのが気になるが、昼間なら仕事で居ないし今はもう夜だ。夜の挨拶は迷惑だと思って自重しているのだろう。

挨拶をする気が無い迷惑を振り撒きそうな隣人が越してきた訳ではないと自分に言い聞かせつつ、男は眠りについた。
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/29(土) 14:07:32.49 ID:BWF1i+bVO
「寒い……」

次の日、いつもと同じように男は洗面所に向かう。だがそこには何時もと違う光景があった。

このアパートの洗面所は狭く、出勤時間が重なる時間には渋滞する。男はそれを嫌いわざわざ早朝に目覚ましを合わせているのだ。そうすれば誰かとかち合うことは無かったのだが、今日の洗面所には人影が見える。

一人だけならそこまで混むことも無いと男は気にせず洗面所に向かう。すると男の気配に気付いたのかその人物がこちらを振り向いた

「ああああ、あの……こここ、この水道って……」

その人物は淡い桃色の髪の毛でまさにアザレアのような色をした女性だった
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/29(土) 15:27:41.96 ID:ceTzd8oAo
たん乙?
この切り口は思いつかなかった
続きがぜひ見たい
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/29(土) 16:39:02.21 ID:BWF1i+bVO
「ここの水道はコツがいるんだ。先ずは根元の元栓を開けてから蛇口をひねる」

「そそそそそ、そうだったんですね……」

「大家から何も聞いていないのか?」

「はははは、はい……」

「あの爺さんついにボケ始めたか?」

「そそそそ、そんな事……ななな、無いです……」

「越してきたばっかりなんだろう?何か分からないことがあったら聞いてくれ」

「ええええ、えっと……?」

「俺は隣に住んでる男だ」

「あ……挨拶……を……ししししし、して……無かった……!」

「ならこれが挨拶でいいじゃないか。日中は仕事だから迷惑をかけることは無いと思う」

「わわわわ、私は……ああああ、明石……です」

洗面所で用を済ませ男が部屋に戻ってくると玄関で崩れ落ちてしまった。それなりに音が出てしまったが周りも起きている時間なので文句は言われないだろう
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/29(土) 16:40:21.98 ID:BWF1i+bVO
「なんだ……あの女性は……それにこの胸の高鳴りは……」

男は恋愛経験があったがそれも人並みで「何となく」好印象だった女性と付き合っていただけだった。

そんな相手とは当然長続きなどするはずも無く、男も本気で誰かを愛したことなど無かった。

だが今の男の抱いているモノは今まで経験のした事の無いような高翌揚感とエネルギーに満ち溢れていた。

「明石……さん……」

男は「何となく」ではなく「本気で」女性を好きになったのだ。
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/29(土) 16:41:46.64 ID:BWF1i+bVO
「明石さん、弁当ここに置いておきます」

「ああああ、ありがとう……ご、ございます……おおおお、お金を払い……ます……」

「気にしなくていいですよ。それより頑張って下さい」

「は、はい……」

俺はあの日から明石さんの部屋をよく訪ねるようになった。水道が無いのは知っていたのにキッチンが無いことには気付かず、飯をどうすればいいのかと半泣きで俺の部屋を訪ねてきたというのも原因の一つだ。

明石さんは何かの研究を独自でしているらしく、薬やそれに関する本がズラリと並んでいた。

明石さんの喋り方や仕事の事は何も聞いていない。一度そういう話になりかけた時に悲しそうな表情をしていたからだ。嫌われたくないというのもあるが、何より明石さんに悲しい表情をして欲しくなかった。
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/29(土) 16:43:16.21 ID:BWF1i+bVO
「おおおおお、お金は……かかか、必ず払います……」

「余裕のある時でいいですよ。じゃあ俺はこれで」

「おおおお、お休みなさい……」


こんなアパートに越してきたということは金が無いんだろう。全額こっちが払うのは嫌がりそうだから、俺が払った金より安い金額を提示しておこう。そんなことより……

「お休みなさいか。誰かに言われるのは久しぶりだ」

今日はいい気分で寝れそうだ。
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/29(土) 16:44:33.83 ID:BWF1i+bVO
「具合悪いんですか?」

「だだだだ、大丈夫……で……す……」

ある日明石さんが洗面所で突っ立っていた。顔を洗っていた素ぶりは無く顔は青白かった。足取りも重く真っ直ぐ歩くことも困難だったので、彼女の部屋まで介抱してあげた。

「病院に行った方がいいんじゃないですか?」

「へへへへへ、平気……です……ねねね、寝てない……だけ」

「無理はしないで下さいね」

「はははは、はい……」

あの顔色は寝不足だけでは無いと思うが、明石さんがそう言うのなら何も言えない。もっと様子を見ておきたかったが、ただの隣人がこれ以上部屋に居座るのもよくない上に出社時間も迫ってきていたので部屋を後にすることにした。
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/29(土) 16:48:47.14 ID:BWF1i+bVO
「悪化したら救急車を呼んで下さいね」

「あああ、ありがとう……ごごごご、ございます……」

その日の俺は仕事が手に付かず、久しぶりに上司に怒られる羽目になった。

会社から帰ってくると明石さんの部屋には明かりが付いていて物音もしていた。動けるようにはななったみたいで一安心だ。後でもう一度様子を見に行ってみよう。

しかし気を使わせてしまう可能性もある。何か異変を感じない限り部屋を訪ねるのはやめておこう。

結局その日は会うことが無く俺は眠りについた。
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/29(土) 16:50:07.43 ID:BWF1i+bVO
「行ってきます……」

返事の帰ってこない嘆きを部屋に投げて出社する。明石さんに会えななかった朝はなんとなく気分が落ち込んでしまう。

そういえばここ数日は朝に会うことは無かったし、昨日は早くに寝ていたようで俺が帰ってきた時にはもう部屋の電気が消えていた。最近体調が悪そうだったから心配だ、研究も大事だろうが自分の身も大事にして欲しい。


「こっちだって早く!」
「わかってるわ!」
「○○……!」

すれ違ったのは艦娘……か?なんでこんな陸地を走っているんだ?この辺に鎮守府は無かったはずだが。

それに胸の大きかった艦娘は何か名前を呼びながら走っていたが、すれ違いざまだったのでよく聞き取れなかった。

だが俺には関係の無いことだ、勝手にしておいてもらおう。それより俺は明石さんの事が心配なんだ。

「今日は食べやすいものを買って帰ろう」

俺はそう呟きながら会社へと向かっていった。
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/29(土) 17:30:39.95 ID:BWF1i+bVO
「寒く……ない」

暖房の効いた部屋で目を覚ました俺はそう呟く。新しく越してきたマンションは床暖房がデフォルトで入っているような素晴らしいマンションだ。ここに越してきて数日しか経ってないが、とても住み心地が良い。

俺が『アザレア』を出た理由はただ一つ、明石さんが消えてしまったからだ。会社から帰ってくると明石さんの居た部屋が空き部屋になっていた。大家に聞いても急に引っ越した、迷惑料として来月分の家賃も置いていったから文句が言えなかったと言われてしまった。

明石さんは携帯も何も持っていなかった。彼女とは隣人という繋がりだけだったのだ。明石さんとの繋がりが消えたアパートに何の未練も無く、俺はすぐに引っ越すことに決めた。

このマンションは以前のアパートとは東西真逆の位置にあり、通勤時間も増えてしまった。だが朝寒くもなく、トイレが自室にある部屋に比べれば大した問題ではない。
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/29(土) 17:32:01.08 ID:BWF1i+bVO
「行ってきます」

誰も居ない部屋にそう呟き部屋を出る。そしてエントランスに貼ってある壁紙をチェックする。ここにはこのマンションに関するお知らせや情報が貼られている。前のアパートでは大家の手書きのメモが投函されているだけだったことに比べれば随分と分かりやすい。

「俺の隣の部屋に引っ越しか」

部屋番号を確認すると確かに隣に新しい住人がくるらしい。そういえば明石さんもそうだったんだよな。

明石さんとの事で後悔していることが一つある。それは気持ちを伝えられなかったことだ。

向こうに好意は無かった可能性が高い。それでも言わなかったことに対しての後悔で胸が潰されそうになった。だから俺はあのアパートから引っ越したのだ。

運命の悪戯か何かで、もう一度彼女に会えたら俺は……
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/29(土) 17:33:49.12 ID:BWF1i+bVO
だが現実的に考えると明石さんともう一度会うことは難しいだろう。名前しか知らずに務め先も分からないのでは探しようも無い。

叶わぬ夢を見るとはこういう気分なのか。俺は初めてこんな気持ちになったのかもしれない。

そうだ、俺は今までこんな気持ちを経験したく無いから「何となく」という選択肢を選んできたんだ。「何となく」選んで失敗してもダメージが少なかったからずっとこの選択肢を選び続けてきた。

人が前に進むためには挫折が必要だと聞いたことがある。挫折というには余り重いが、そう割り切ってしまおう。

俺は前に進んだ。人間として一つの階段を登ったんだ。
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/29(土) 17:35:45.49 ID:BWF1i+bVO
壁紙の前から移動しようとした時、管理室の方から大家さんの話し声が聞こえた。大家さんの大きい声によるとどうやらその引っ越してくる住人が来ているようだ。

ここの大家さんはマダムという言葉が似合う人で、趣味でこのマンションを経営しているらしい。俺とは住む世界が違う。

軽く溜息をついたあと外に出る為にエントランスを抜ける。するとその時に磨りガラスの隙間から一瞬管理室の様子が見えた。



そこにはアザレアのような色をした女の人が座っていた
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/29(土) 17:36:21.55 ID:BWF1i+bVO
『アザレア』
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/29(土) 19:27:44.80 ID:nINio5SCo
おつおつ
外(民間)から足りないもの鎮守府のメンバーを見た様子が良く表現されてて好きです
90 : ◆6yAIjHWMyQ [saga]:2019/01/19(土) 00:10:05.80 ID:pmprOgPyO



 そんなやり取りをしていると時間と車は進んでいったようで、私たちは曙のいる鎮守府に到着した。


 その少し前からフロントガラス越しに見えていた漆喰を塗られた塀と立派な松の木をはじめとした植物達のせいで、内部の様子を窺うことはできなかった。


 私の座っている助手席側、つまり進行方向左側を正門前に向けて停車。日本家屋を元にした鎮守府とは聞いていたが、重厚な正門の側に憲兵さんがいなければどう見ても鎮守府には見えなかった。

 助手席の窓が開けられる。

 私は憲兵さんと一言二言会話しながら先ほど貰った私の身分証を提示する。次にグラサン提督の身分証を右から左へ受け流す。一瞬見えたグラサン提督の名字。『烏山』というらしい。


 すると身分証の確認をしていた憲兵さんがおひょうと素っ頓狂な声を上げた。あたふたした様子でしばらくお持ちくださいと言い、正門のわきに在する小門の方へ小走りで向かって行く。


 私はグラサン提督に疑いの目を向ける。


 「話は通してあるって言ったのはどの口かしらぁ?」


 自分の顎に人差し指を引っ掛け首をかしげてみせる。


 「誰かが来るのは伝えていたが、誰が来るかは伝えないで遊んでいるんだろうなぁ。あの憲兵君は新人だろうに可哀想だ。」


 グラサン提督はサングラスを黒色のハードケースに仕舞いながら答えた。グラサン提督は烏山提督になった。


 はぁとため息が二つ。私の右側にいる烏山提督と戻ってきた憲兵さんからほぼ同時に聞こえた。それが妙に面白くてくすくすと笑ってしまった。


91 : ◆6yAIjHWMyQ [saga]:2019/01/19(土) 00:11:59.65 ID:pmprOgPyO



 車がいかめしい正門をくぐり抜けて鎮守府の敷地内へと乗り入れる。そのまま左手に見えるガレージに向かう。正門前にいたのとは違う憲兵さんが木製のシャッターを上げる。烏山提督はハンドルを切り返して、後ろ向きに車をガレージの中へしまう。勝手を知っているような動きだった。何回か来たことがあるのかしら。

 助手席の窓が軽く叩かれる。

 「荒潮、ドア開けるよ。」

 烏山提督は既に運転席から降りていた。私はシートベルトを外したところだった。車の暖房が良く効いていたせいか、少し呆けてしまっていた。

 ドアが開かれて、手を差し出される。素直に手を引かせてあげる。乗車するときにも似たようなことをされたのを思い出す。ひょっとしたら菊月たちにも毎回やっているのかもしれない。


 二人の靴音が反射に反射を返す。ガレージの中から外へ歩む。前方には水に濡れて黒く光る石畳。その終点は鎮守府本殿まで続いている。私の記憶に間違いがなければ、朝のテレビ番組の天気予報はこの地域の雨雲の不在を知らせていたはず。

 視線を左へ持っていく。海の近くで松の木が己の存在を立派に示していた。ガレージの側の花壇には赤、黄、紫。色とりどりのパンジーが咲いている。


 「「おはようございます!」」


 真後ろから快活な声が聞こえる。
 振り返ると、水やりをしている艦娘二人が、来訪者である私達を見つめていた。ジョウロを片手にし、笑顔で手を振ってくる。石畳はジョウロを運ぶ際に、こぼれた水で濡れてしまったのね。烏山提督も私も手を振って答える。屈託のない笑顔はこの鎮守府の良さを言葉にせずに語っていた。


 「ちょっとあそこにいる憲兵君と話をしてくるから、荒潮はここで待ってて。」

 烏山提督は先ほどシャッターを上げた憲兵さんへと向かう。

 「はぁ〜い。」


 空に指先が触れるほどにぐっと背伸びをする。ずっと座りっぱなしだったので、体の節々からミシミシと音が鳴る。

 「ん、うぅん〜……ふぅ。」

 そのまま大きく深呼吸。潮風に誘われた梅の匂いを含んだ風が、頭の周りを一周して鼻をくすぐり去っていく。朝露に抽出された新緑の青臭さが遅れてやってきた。

 「すこ〜し、寒いわねぇ。」

 手を下ろして腕をさする。時節は春とはいえ、今は午前中でまだ風が冷たい。車の中にいたことで暖まっていた体から、熱が奪われていく。『荒潮改』の服を着ているのもそれに拍車をかけている。

 当時、艤装から呪いの玉を取った後、艤装との接続が安定した、つまり元に戻ったとわかったので改二に戻した。

 それから『荒潮改二』の服を着ていた。が、数日前に改の服装で過ごすように言われた。ドロップ艦がすぐに改二の状態になっていると怪しまれてしまうからということらしい。その時に何か違和感があったのだが、なるほど。身分証明書を発行した為にか。すぐに気付かなかった。
 それはそれとして、この改の格好は私の内温性を揺らす一因となっている。曙の炎が恋しい。


 「やめなさい。」


  強制的に思考を止めるために、自らを戒めるために命令を吐き出す。
 未練がましい。1度会えるだけでも僥倖であるのに、これ以上を望むのか。


 別の事に思考を走らせるために、今度は内側から正門と塀を見てみる。
 鎮守府には見えないと思っていたが、近寄りがたい雰囲気を放つ外装は、民間人を鎮守府から遠ざける為にあるとふと気づく。
 人間を深海棲艦の脅威から守るという鎮守府の役割を考えると、被害に遭う可能性のある人の全体数を減らす点で、理に適っている。同様に、艦娘と民間人との接触回数も減るので、トラブルも起きにくくなる。
 ここの提督は目の付け所が良いのかもしれない。


 烏山提督が私のところへ戻ってきた。


 「じゃあ行こうか。」


 「そうねぇ。」


 烏山提督が石畳の上を歩いて玄関のある方へと向かうので、私もそれに続こうとしたのだが、最初の一歩目で玉砂利の敷かれた場所を踏んでしまった。そのまま二歩三歩。歩くたびにザシュっと聞こえる玉砂利のこすれる音が何だか妙に心地良いので、石畳を無視し玄関に着くまで堪能した。


92 : ◆6yAIjHWMyQ [saga]:2019/01/19(土) 00:13:14.89 ID:pmprOgPyO
一旦ここまで
質問や確認したいこと等がありましたら、どうぞ
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/19(土) 00:39:30.72 ID:otdB5HR/o
おつおつー
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/19(土) 00:42:01.47 ID:AA/LlWkDO
おつです
>>48からの続きでいいのかな?
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