貴方「僕がヒロインを攻略するまどか☆マギカ…オカルト?」マミ「それは終わったわ」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

526 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/19(金) 00:37:59.70 ID:i4cDoZ5k0
-------------------------
ここまで
次回は20日(土)18時くらいからの予定
527 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/19(金) 00:42:12.37 ID:m9a8d8n40
乙でした。

やっぱりなんだかんだ言ってもなぎさのことを突き放したりしましんね、あすみ。
なぎさの言う性善説?みたいな事、あすみの過去からしたら鼻で笑う偽善ですからね・・・・・・
なぎさのこと嫌ってたらその時点で見限って二度と会わないぐらいの態度とってもおかしくないと思うので。
528 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/20(土) 19:36:36.39 ID:eLbM5oP20



 ――――今日もお父さんは会社で、なぎさは学校です。



 昨日は本当に久しぶりの家でのカレーライスでした。

 学校の給食でもカレーは出ますが、一年生の子も同じものを食べるのでかなり甘くしてあるのです。

 それも美味しいのですが、市販のルーを使った昨日のカレーのほうが『家の味』に近い味でした。


なぎさ(昨日はお父さんもいつもより早く帰ってきたし、カレーも食べさせてあげられたのです!)

なぎさ(お休みの日に作るのはまた別のお料理を考えなくてはいけませんね……)


 褒めてもらえた。安心してもらえた。

 なのにまだ何かが『足りない』気がするのはどうしてなのでしょう。

 ……お父さんには安心してもらいたいけど、なぎさは一人でも大丈夫なんだって安心してもらうほど、離れていくんじゃないかとも思ってしまうのです。


なぎさ(今日はまだカレーがあります。でも昨日よりは少ないくらい)

なぎさ(二日目も普通のカレーにするか……あすみをさそって一緒にアレンジを考えてみるのも楽しいかもです!)


 なぎさには学校があります。授業は退屈なこともありますが、学校は楽しいです。

 お昼はみんなといっしょに給食を食べます。

 休み時間は友達といっしょに遊びます。


 ……それでも。


なぎさ(魔法少女のことを話せるのも、お母さんのことを知ってるのも、あすみだけなのです)


――――――
529 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/20(土) 20:41:54.21 ID:eLbM5oP20
――――――



あすみ「…………今、何時だろ」


 起床時間はとくに決めていない。

 ここを出る時間は人が来るような時間にならないうち。



あすみ(学校行かなくなってから、ホント時間を気にしなくなったよな)


 夜更かししてやることは特にないし、そんなに遅く起きることもないだろう。

 最悪、人が来たとしても部屋を間違えたとでも言って出ればなんとかなるだろう。……子供だから。

 本当だったら一人でこんなところに来るはずもない。


 私は『子供のくせに』や『女のくせに』という言葉が嫌いだ。“アイツ”がよく言っていたからだ。

 侮られたくないと思いながら、結局子供らしさというものを盾にして頼っていることに気づくと癪に障った。


あすみ(とはいえ、毎日真っ当に泊まれるくらいの宿泊代を手に入れるとなるとシャレにならないし、見た目も細工しないと一人じゃ泊まらせてくれないだろうな)

あすみ(……今日は何して過ごそー。魔女狩りは放課後なぎさが誘ってくるかもしれないし、軽く街うろつくくらいにするか?)


 街を見回るついでに魔女がいたら狩る。使い魔もあらかじめ見つけて目を付けてたほうが後々狩りやすい。

 ……しかし、知らない地で見聞きするものが新鮮だったのはほんの最初の頃だけ。

 ひと月程度もすればここにもそろそろ慣れ始めていた。


あすみ(慣れてる方が魔女を狩るにはいいんだろうけど)


 なぎさの母親のことがあってから、一緒に狩りに行くことも増えた。

 狩りの途中で偶然会ったときだけだったが、大体どのくらいの時間にどの場所に行けば会えるかは決まってきている。

 昨日は連絡があって待ち合わせた。


 今まではどちらも好きなように魔女を狩っていたが、こうなると、一緒に居る間だけはどちらかに合わせなきゃいけないことも出てくる。

 まず第一の問題は使い魔を倒すかどうか、だった。なぎさは私が見逃そうとした使い魔も倒そうとする。魔女と使い魔の区別がつかないとかでもなく。


 ……そんなことで悩むことがあるなんて思いもしなかった。

 何度も不思議に思ったが、なぎさはもう新人ではない。正義に燃え滾った新人ならありえない話じゃないけれど。

 あすみの最初に居た街では、そんな人は真っ先に意地汚い人たちに潰されて死んでしまったから。

 それが普通なんだと思うようになってた。

530 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/20(土) 20:58:38.30 ID:TsCUyrlpO
一応どちらも必要としてる感じかな
なぎさの方はやや依存気味に感じるけど
531 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/20(土) 21:29:21.09 ID:J+S7M3MD0
あすみは杏子みたいにホテルに忍び込んでるのか
お金はどうしてるんだろ?
あすみ編ではATMから盗ってたりはしてなかったみたいだけど、はたして今回は……
532 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/20(土) 21:38:30.86 ID:eLbM5oP20


あすみ(……そうだ。この街だって、いい魔法少女だけが現れるなんてありえないんだよ)


 なぎさはああ見えて頑固だ。前にも思ったことがあるが、昨日話を聞いてさらにそう思った。

 あの新人のことで、他の魔法少女に対しても仲良くなるだの助けるだのと意固地になっているようだった。

 その思いが良い方に作用すればいいが、現実はそうはいかない。


 見て見ぬフリは同罪だ。意地汚い輩が勝つ世界なんて嫌だ。

 それでも、それがこの世界の真理であることはよく知っていた。――だから私は、この世界が嫌いだった。

 そして、そんな世界でも私は何者にも負けたくはなかった。


 あすみには自分に向けられた『悪意』を察する力がある。そして、その『呪い』を向け返す力がある。

 当然、自分以外に向けられたソレにはその力は及ぶことはない。


あすみ(つまんね……マジで飽きた。街なんてどこも同じような景色だ。人だらけ、建物だらけ)

あすみ(いっそもっと田舎のほうでも行くか? でもそしたら魔女は減るだろうな)


 魔女は『悪意』と『呪い』の塊である。人もいないのどかな場所じゃ魔女も少ない。

 ――【魔女】はその二つに呑まれた魔法少女の成れ果て。


あすみ(いや、意外と田舎の村とか陰湿って聞くな。少なくもなかったりして?)


 ……ともかく、田舎云々は冗談だ。一時の気の迷い。心の中で思うだけなら、冗談みたいなことを思うことだってある。

 そんなどうでもいいことを考えながら歩いていると、病院のほうから一人の女が出てくるのが目に留まった。


 通行人なんて普段一々気にしないが、それが目に留まったのは、キュゥべえが隣にいて手にはソウルジェムを持っていたからだった。

533 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/20(土) 21:57:57.43 ID:J+S7M3MD0
新たな魔法少女か……誰かな?
534 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/20(土) 22:12:11.40 ID:eLbM5oP20


あすみ(…………)


 思わず隠れて様子を窺う。ここからだと声は聞き取れない。

 だが、魔法で心を読み取れば声以上のものも聞き取れる。


『――――この宝石が光るところに魔女がいるのね?』

QB『そうだよ。ソウルジェムは魔力を感知することができるんだ。光の明滅が強くなるほど近くにいることになるよ』

『思ったよりも足だのみなのね。魔女探しというのは……』


 どうやら女は契約したてらしい。


あすみ(女……なぎさより年は上だろうけど、そもそもなんでこんな時間にこんなとこにいるんだ? 入院でもしてたのか?)


 言葉とともに読み取れたのは漠然とした『恐怖』と『不安』だった。

 言葉としてまとめられていないままの感情の中に、短い言葉がとぎれとぎれに思念となって現れる。


『怖い――そんなの無理――死にたくない――……お父さんとお母さんみたいに』


あすみ(両親を失ってるのか。『死』を身近に感じて見てる。それで恐怖が焼きついてるんだな)

あすみ(……どーりで暗い顔してると思った。これから戦いに行くって顔じゃない。いや、死地に行く少年兵みたい)


 新しい魔法少女との出会い。その時は思っていたよりも早くに訪れた。

 それも契約したて。だからといって性根などわからないのだからすぐに信用はできない。


あすみ(『後輩』、か)


 『次に会う後輩にはそうしてやったら?』……なんて、前言ったっけ。

 軽いこと言わなきゃよかったかも。


あすみ(これから付き合うかもしれないんだし、探っといてやるか)


あすみ「おーい、お姉さん。これから魔女狩りなら一緒にどう? そいつよかいいサポートになるよ?」



あすみ(……クズならその場で潰す)



――――――
535 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/20(土) 22:25:01.79 ID:J+S7M3MD0
これはマミさんですね、多分
あすみが自分から助けに入るとは……
打算があるとはいえなぎさの事を考えてのことなので、やはり心境の変化があるみたいですね
536 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/20(土) 22:39:55.14 ID:TsCUyrlpO
マミはあすみとは相性悪そうだけどな
この後合流したなぎさが喜びそうだがあすみに潰されなきゃ良いけど
537 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/20(土) 23:11:23.06 ID:eLbM5oP20
――――――



 学校が終わった放課後。

 携帯を手にして待つこと数十分……時間を見直してみたらそろそろ一時間というところでした。


なぎさ(返事がこない……。あすみ、気づいてないのですかね)


 今日もお誘いしたのですが、今日はお返事がいっこうに来ません。

 昨日はすぐにお返事きたのに。


なぎさ(まさか、何かあったんじゃ…… ううん。そんなの、考えすぎですよね)

なぎさ(仕方ない、一人で魔女退治に出かけましょーか……)


 少し寂しさを感じますが、なぎさは出発します。

 もしかしたら、途中でどこかで会えるかもしれません。お返事がくればまた場所を考え直して会えばいいのです。


 そう思ったところで、知らないおねーさんから声をかけられました。


「――きみが百江なぎさちゃんだよね?」

なぎさ「はい、そうですけど……おねーさんは?」

「キュゥべえから聞いたんだ。『魔法少女のセンパイ』がここにいるって」

なぎさ「あ、新しい魔法少女さんですか! はじめまして! なぎさはなぎさっていうのです! ……って、もう知ってましたね」

なぎさ「おねーさんの名前はなんて言うですか?」

「おねーさんでいいよ。その呼び方は可愛くて好きだから」

なぎさ「えへへ、可愛いなんてー」

「じゃあ、どうしたらいいか案内してくれる? 魔女っていうのを倒すんだよね? 契約したばっかでどうしたらいいかわからないの」



――――――
538 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/20(土) 23:15:31.12 ID:TsCUyrlpO
なんかなぎさの方は胡散臭いのが来たな
539 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/20(土) 23:40:44.33 ID:eLbM5oP20
――――――



あすみ「お姉さん、入院でもしてたの? どこも怪我とかしてるようには見えないけど」

マミ「ええ。といっても検査入院だけ。……見た通り私は本当に怪我なんてしてないのよ。検査でも何も悪いところなんて見つからなかった」

マミ「キュゥべえに『助けて』って頼んだから。本当に怪我が治って助かったの。……私だけ…………」

あすみ「怪我、してたんだ」

マミ「……事故に遭って」


 移動しながら怪しまれない程度に探りを入れる会話をする。

 この新人は『巴マミ』という名前らしい。自己紹介はさっき済ませた。


 この言いぶりとさっき読心で聞いた声からすると、事故で家族全員怪我を負って、自分は願いのおかげで助かったものの親はそのまま死んだってことなのだろう。

 哀れだとは思うが同情するほど心は動かない。


 この世界でよくある、ありふれた不幸。魔法少女には不幸な身の上が多い。そのほうがインキュベーターが付け入りやすいからだ。

 私やなぎさも含めて、なんだろうな。

 だが、哀れな身の上だからといってソイツが善良な人間かどうかは別問題。むしろそのほうが性根が歪みやすいともいえる。


あすみ(……それこそ、私みたいに?)


 そんな私が新人のサポートなんてしてやってるのは、害がないかどうか選別する為だけだ。

 害がなさそうならなぎさに引き渡してやってもいい、くらい。そのあとの世話はなぎさに丸投げしてやる。

540 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/20(土) 23:43:33.65 ID:TsCUyrlpO
やはりマミだったか
541 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/20(土) 23:56:16.55 ID:eLbM5oP20


マミ「私や神名さんのほかにも他にも魔法少女っているの?」

あすみ「ええ、そうだけど。……なんでそんなこと気にするのよ」


 他の魔法少女のことまで聞かれると思わず目は厳しくなる。探るのはいいが探られるのは抵抗がある。


マミ「キュゥべえから魔女のことを聞かされたのだけど……その時に、グリーフシードっていうのを巡って競争が起きることがあるって言ってたから」

マミ「争いや強盗の被害に遭わないように気を付けてくれって」

あすみ「へえ、珍しく忠告をしてくれてるのね」


 キュゥべえがわざわざ言うなんて、本当にその問題が差し迫ってるか……もしくはマミの言っている理由がでっちあげかのどっちかだろうか。

 いや、読心で見て怪しい点がないのだから、契約したてというのは信じられる。


あすみ「そんなこと聞かされて、よくいきなり現れた私を信じられたね?」

あすみ「聞かされた通り、私に潰されるかもしれないのに」

マミ「私……契約したのは数日前だけど、今までは入院してたから、まだ魔法って使ったことはないの」

マミ「本当に神名さんがそうする気なら、私にはどうすることもできないわね……。でも、魔女に一人で戦って勝てるかどうかもわからないんだもの」

マミ「グリーフシードというのを差し出せば済むのなら、それでもいいわ。二人で倒すのならあなたのほうが受け取るべきなんじゃないかしら?」


 なるほど、剥がされるような身ぐるみはないし、報酬ならくれてやってもいいってことか。


あすみ「そうね、それで私という名の戦力が手に入るならたしかに安いものでしょうね?」

あすみ「でもね、まだ甘いよ。本気で新人をいびる気ならもらうのはグリーフシードだけじゃ済まない」

あすみ「競争相手になる可能性のある芽は確実に摘む。そういうものだよ」

マミ「…………」


 そんなことを言ってやったらマミはちょっと青ざめた顔してたけど、なぎさみたいな甘い考えを持つ前に教えてやったほうがいいだろう。

 話しているうちに魔女の反応を見つけて、マミのほうを見やる。

 ……話に気を取られて明滅に気づいてない。


あすみ「魔女がいるよ。ほら、レッツゴー」

マミ「え、ええ……」


 なんとも頼りない返事がかえってきた。

542 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/21(日) 00:25:43.58 ID:fWNF2+br0


マミ「どうして神名さんは魔女がいることがわかったの?」

あすみ「あぁ、それね」


 結界を目前にしてマミが聞いてきた。


 マミが言ってるのは、『ソウルジェムを持ってないのに』ってことだろう。

 ……そりゃそうだ。いくら新人の前とはいえ、自分の弱点を晒して歩く気にはなれない。


あすみ「勘だよ。もうちっとやってりゃ誰でもわかるようになるよ」

マミ「そう……そういうものなのね」

あすみ「もういい? 逃げられるから行くよ?」

マミ「待って、さっきも言ったけど魔法ってまだ一度も使ったことがないのよ? 一度確認だけでも……」

あすみ「中でやれ!」


 入口を開き、手を掴んで中に飛び込む。


マミ「きゃっ、きゃああ!」



 自分の時を思い返したってこんなにウジウジしてなかったのに。――……ああ、やっぱり新人の世話なんて面倒だ。

 ――それから結界に入って変身しても、マミはいちいち驚いてた。
543 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/21(日) 00:29:17.29 ID:fWNF2+br0


マミ「すごいわ。本当に子供の頃に見たアニメみたい!」

あすみ「そう。少しは戦える気になった?」

マミ「ええ……少しね」

あすみ「大体アンタは考えすぎなの。常識的にありえないとか考えるから枷がかかるの。出来ると思ったことは出来るのよ」

あすみ「……もちろんなんでもとは言わないけど。出来ることはわかるように出来てるはずなんだから」

マミ「魔女って……あれ? あれが敵なの?」

あすみ「あれは使い魔。敵には変わりないね。魔女がいるのはいちばん奥」


 ちんたらしているうちに使い魔がこっちに迫ってた。

 自分で倒してしまおうかと思ったが、こいつに倒させてみたほうがいいと思い直す。


あすみ「ほら、倒しなよ。いい練習台がいるじゃないか」

マミ「た、倒すって、どうやっ……――」


 マミの顔つきがその一瞬で変わったのがわかった。さっき私が言ったことを思い出したらしい。

 多分、真面目なタイプ。ありえない不思議現象とかそのまま受け入れたりできないような。

 でもその分、完全に自分のものにしてしまった後は化けるかも。


 手の先からリボンが伸びて、使い魔を切り裂いた。威力はあんまりなさげ?

 『もう一発!』と私が掛け声をかければ、もう一発リボンが伸びて、今度は魔女を絡めた。そこに私が鉄球を当てて倒す。


あすみ「アンタの魔法って、リボンで縛ってSMプレイってとこ?」

あすみ「動きを止めた後どうやってやっつける気だったのさ。こんなのに手間取るな。次行くよ」


マミ(さっそく帰りたくなってきたわ……教官が厳しすぎます……)


――――
――――
544 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/21(日) 00:30:41.32 ID:fWNF2+br0
-----------------
今回はここまで
次回は21日(日)18時くらいから
545 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/21(日) 19:08:20.44 ID:Ktgz36+gO
マミの方は鬼軍曹が着いてるからいいとして、なぎさの方はヤバ気だな
546 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/21(日) 19:32:41.34 ID:fWNF2+br0


 使い魔を試し斬りさせながらの道のりは、普段よりかなり時間がかかっていた。

 ……あれこれと苦戦しながら、やっと魔女の住み処へと辿りついた。


あすみ「さっさと倒して終わりにしましょ。アンタは出来るとこだけ参加すりゃいいから!」

マミ「え、ええ……」

あすみ「まあ……出来るだけ敵の動き止めといてくれると助かるわー」


 試し斬りといってももう少し、剣でもナイフでも斧でも槍でも――わかりやすいものがあっただろうってのが正直な感想。

 なぎさのシャボン玉ラッパも一見武器に見えないが、あれはあれで使い勝手のいい武器ではある。

 そして、私の『モーニングスター』というのは実にわかりやすく武器らしいものだったのだと思った。


あすみ(なんていうんだろ。こういうのって…… 攻撃性の差、とか?)


 ――――力を込めて踏み出すと、こちらを見た魔女の攻撃をかわして横に跳ねる。

 マミの動きにも気を配って見るが、まだ動けないでいるようだった。構えだけして、戦況を目で追うのみ。


マミ「……!」


 マミもやはり大してその武器を使いこなせてはいなかった。

 リボンの一番わかりやすい使い方は、やっぱり縛り上げること……だ。

 支援向きだが、もしこの初陣も私がついていなかったらどうなっていたのだろうか。今以上に時間がかかって苦戦する?


あすみ(……死ぬ? こんな早く?)


 近くに居た使い魔をフレイルの柄で払い、続けて蹴りを入れる。

 鉄球を魔女に向けて大きく振るう。――しかし、それは当たらなかった。


あすみ「今こそ、縛っといて欲しかったんだけど……ッ!」


 まあ、初陣で戦況を的確に読んで敵の隙を突くなんて、そうそうできないのはわかってる。

 再び魔女の攻撃を避け、外れた鉄球を敢えて更に遠くへ……鎖を長く伸ばして飛ばす。

 そもそも、縛り上げることならこいつに頼らずとも私にも出来る。


あすみ「まあ、いいよ! さっきのは遊び球だし……これで完全試合だから!」


 縛り上げるのに使ったフレイルの柄はもういらない。

 それを放り捨てて新たな獲物を手にすると、高く跳びあがって、鎖に絡め取られた魔女の頭を粉砕する。

547 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/21(日) 19:41:10.94 ID:Ktgz36+gO
弱いマミはなかなか新鮮だな
548 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/21(日) 20:22:27.19 ID:fWNF2+br0



 ……潰れた魔女は汚い色の液体を撒き散らす。思わす顔を顰めたが、その液体ごと結界とともにすぐに消え去った。

 液体が消えて露わになったグリーフシードを拾い上げる。


マミ「……倒したの?」

あすみ「うん。これがグリーフシードってやつ」

マミ「そう。あ、もちろん神名さんが持ってていいから。私には受け取れないわ」


 確かにこいつはこの戦いでろくなことはしてない。

 魔女との戦いじゃただ見てただけだ。……まあ、私があれ以上マミを立てて戦わせるのも面倒臭くなったからっていうのもあるが。


あすみ「うん、そうだね。でも……これから先、いつも誰かがついてるわけじゃないよ。一人で戦える?」

マミ「……!」


 結局のところこいつも、さっきは私がいるから手出ししなくていい――と思ってたところはあるんだろう。


マミ「……私には無理よ。まだ今日は最初だったんだし、次だってそんなに変わらないわ」

マミ「この街に一緒に戦える人がいるなら、一緒に戦ったほうがいいんじゃないかしら? また次も一緒に行きましょうよ!」

あすみ「ずっとそう言うの?」

あすみ「このままじゃ変わらないよ。ずっと誰かが横に居るから……って思ってたら、いつまでも変わらないんじゃない?」

マミ「そ、そんなこと……」

あすみ「本心じゃさ、極力危険な目に遭わないようにしたいって思ってない?」

あすみ「戦うのも本当は嫌だし、他に自分より戦える人がいるなら本気なんて出さなくていい――――って」

あすみ「ま、追い込まれなきゃ本気になれないのは人間の性みたいなもんだししょうがないよ」


 契約も強い意志やら覚悟やらがあったわけでもなく、どうしようもない状況で流されたような願いだ。

 闘争心がない分無欲ではあるんだろう……――今のところは無害なほう、だとは思った。

 少なくとも、臆病なだけではまだ断じられるほど罪深くはない。


あすみ「でもいざ追い込まれた時……どうしても一人で戦わなくちゃいけなくなった時って、死ぬの? 逃げるの?」

あすみ「うまく逃げられればいいね」

マミ「……そ、それでもやっぱり今のままじゃ無理よ」

あすみ「…………」



 ま、面倒見るとして、それはなぎさに丸投げするし。



1受け入れる
2突き放す

 下2レス
549 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/21(日) 20:32:27.56 ID:Ktgz36+gO
まぁ1で
550 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/21(日) 20:33:13.85 ID:XgCymOcQ0
1かな?
丸投げするって言ってるしw
551 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/21(日) 21:49:09.13 ID:fWNF2+br0

あすみ「……戦い方を見てくれる人ならいないでもないよ」


 ふと携帯を取り出してみると、いつのまにかお昼どころか放課後の時間も越してたことに気づく。

 未読が一件あった。もちろんなぎさからだ。それ以外に『私が』連絡を取る相手はいない。


あすみ(気づいてなかったな……)


 もう諦めて一人で魔女狩りに出てるだろうか。

 気づくと、マミが手元を見ていた。


マミ「それってもしかして親御さんから借りてるの?」

あすみ「あん?」

マミ「あまり女の子が使うイメージのある携帯に見えなかったから聞いてみただけ」

あすみ「…………あすみのだよ」

マミ「そうなの。別に趣味に文句を言うつもりはないんだけど……それより、そろそろお腹がすいてこない?」

あすみ「そりゃもう夕方手前だからね」

マミ「ええっ!? ……時間が経つのは早いわね。そうだ、今日はお世話になったし、よかったらご馳走しましょうか?」

あすみ「タダ飯なら悪くないわねー、んー……」


 さっそくなぎさと会わせて引き渡してもいいが、この後でもいいか。

 そう思って歩き出そうとしたところで、不審な声が聞こえた。


『――……“大きい方”のおチビちゃん。コイツは次でいいわ。確実に、一匹ずつ潰していきましょう』


あすみ「は?」


 急に振り返った私をマミは不思議そうに見る。もちろん巴マミじゃない。

 声の主を探して見回すと、通りの向こうになぎさと――……知らない女が隣にいた。

552 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/21(日) 21:53:09.88 ID:Ktgz36+gO
やっぱりね
あすみに見つかったからジ・エンドだな
553 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/21(日) 22:28:00.92 ID:XgCymOcQ0
謎のおねえさんん、やっぱり悪党だったのか・・・
まぁ、あすみんに始末されるんでしょうね。
でも『大きい方』とは?
554 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/21(日) 22:38:30.14 ID:fWNF2+br0


なぎさ「あっ、あすみー! 会えてよかったのですよ! 連絡したのに返事もこないから心配したのです!」


 信号が変わると、向こうからなぎさが駆けてくる。

 隣の女も。やっぱり偶然じゃなく同行してるらしい。


あすみ「メールはさっき見た……そっちの人は?」

なぎさ「このおねーさんとはさっき知り合ったのです! 魔法少女の……って、あ。言っちゃダメな状況でした? あすみこそそっちの人は?」

あすみ「こいつも魔法少女だから平気。それより、ソイツは?」

なぎさ「もー! ソイツーとかコイツーとかダメなのですよ。初対面の人に向かって!」

あすみ「はいはい……で?」

なぎさ「魔法少女の新人さんなのです。契約したばっかりでなにもわからないと言うのでレクチャーしてるところなのです!」

「まぁ、可愛らしいお嬢さんも魔法少女やってるんだ。二人ともこれからよろしくね」

マミ「ええ、よろしく……」


 表面上は取り繕っているが、内面までは繕えない。さっき聞いた声と似たり寄ったりの『悪意』が漏れていた。

 恐らくコイツ、新人ですらない。今までこんなのは散々見てきた。分かりやすいと思えるくらいのクズだ。


あすみ「…………私はよろしくしたくないんだけど」

なぎさ「えっ……?」

あすみ「だってそりゃあ、思ってもないことばっかり言われてもね。なぎさは騙せても私は安い芝居には引っ掛からないよ。縄張り荒らしさん」

なぎさ「なっ……何を言ってるのですか! 落ち着いてください!」

「そ、そうだよ。私はそんなつもりじゃ……!」


 なにかそういう問題が近づいてそうな雰囲気はあると思ってた。

 コイツは子供の魔法少女が二人見滝原に居ることを知っているらしい。大方キュゥべえが私たちの情報を売ったのだろう。

 こんなのに私が騙されるわけはない……が、なぎさはこんなのでも信じている。仲良くして、救う気でいる。


 私へ向けられる『悪意』ならどうにでもできるが、私以外へ向けられるソレには何の力も作用しない。


 ――それに歯噛みする。人の心はどうせ簡単に変えられない。そんなのはわかっていた。本当に痛い目を見ない限りは。

 善良だろうと愚か者は救えない。だったら、放っておけばいい。しかし、本当に痛い目を見ることになればその時は、もう……終わりだ。

555 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/21(日) 22:55:53.67 ID:XgCymOcQ0
ここでバラすという事は前みたいになぎさに現実を突きつけるのか。
556 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/21(日) 23:13:44.87 ID:Ktgz36+gO
新人かどうかなんてここできゅうべぇ呼んで聞けば一発でバレるのにな
557 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/21(日) 23:56:32.88 ID:fWNF2+br0


あすみ「落ち着くのはそっちだよ」

なぎさ「なぎさは落ち着いてます! 魔法少女だからって意地悪しちゃダメだって言ったのに……」

なぎさ「どうしてなぎさの時みたいに仲良くできないのですか!? そっちのおねーさんとはどうなのです?」

あすみ「コイツは別。一応見極められるくらいには一緒にいたから。あとの世話はアンタに任せようと思ってたし」

なぎさ「だったらおねーさんとも一緒にいなきゃわからないはずです! 会ったばかりで悪く言うなんて、よくないです! あやまってください!」


 ……自分の魔法の力を全て正確に伝えていなかったことを後悔する。

 いや、それがなくたって最低限信用できるかくらい見る目はあるつもり。最悪突然襲われた場合の警戒だって怠ったことはない。

 怠るべきではないのだ。一見無害そうな相手だったとしても、まだ断じるほどの罪はなくても、心は変わるものなのだから。


「なぎさちゃん、私のことはいいよ。何が怒らせちゃったのかわからないけど、もういいから……」

なぎさ「ダメなのです!」

「なぎさちゃん……」

なぎさ「なぎさはあすみにもみんなと仲良くしてほしいだけなのです……どうしてわかってくれないのですか……」

なぎさ「もしもおねーさんが悪いことをするならなぎさが止めます……それが仲間だから。その力くらいなぎさにはあるつもりです」

あすみ「…………」

なぎさ「も、もういいです! おねーさんのことはなぎさがついてるって決めてたのです!」

なぎさ「そうやって周りを敵視ばっかりするから……――――あすみには友達がいないのですよっ!」

あすみ「……は……?」

なぎさ「あ…………」

あすみ「あぁ……そうかもね。別に友達が欲しいとも思ってないし、一人で生きることにももう慣れたから」

あすみ「それでいいよ。その方が、誰に裏切られるとも誰かを喪うとも考えなくていいんだから」



 ――私を嘲り笑う『声』が響く。

 ――――忌々しい下品な笑い声が、一見澄ました様子の女から発せられていた。


 殺意を込めて睨む。それには、優しげな微笑みを返された。



 ……騙されたフリでもしてればよかった? いや、コイツは一人ずつ仕留める気だった。

 どうせ私が居る間はしっぽは出さないんだろう。

558 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/21(日) 23:59:02.47 ID:XgCymOcQ0
なぎさちゃん、それは失言だ・・・
559 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/22(月) 00:26:01.98 ID:E59wa3LZ0

あすみ(……殺す。なぎさがどうとかは関係ない。あの女は私を馬鹿にした。ただそれが不快なだけだ)

あすみ(次は私の番? 笑わせるなよ。私に狙いを変えた瞬間がアイツの命運が尽きる時だ)


 元々、キュゥべえはなぎさは死んでも私は死なないと思ってたんだろうな。

 縄張りの魔法少女を皆殺しにされるのは不利益でも、一人死んで入れ替わることで波乱が起きるならそのほうがいいとすら企んでたかもな。


 アイツはそういう奴だ。利用できる時は利用できるけど、味方としてはまったくアテにならない奴。

 アイツのこともなぎさはまだ信じてるんだと思うと……なぜだろう。悔しく感じた。


マミ「え、ええと……神名さん?」


 マミが横から戸惑ったように見ていた。……怖い顔しすぎてた。


あすみ「昼だっけ? 遅いけど。食いいく?」

マミ「さっきの子たちのことはいいの? あ、あの人は結局味方なの? 敵なの?」

あすみ「敵だよ。私は心が読めるんだ」

マミ「ええ!?」


 さっきは隠しすぎて後悔したことを、巴マミには言ってしまった。

 ……いつも最大限の警戒を怠らない私らしくもない、早まった発言であると後で思った。



――――――



なぎさ「……ごめんなさいなのです、おねーさん」



 ――――思わず早足で歩き出してしまいましたが、おねーさんはちゃんと隣についてきました。

 なぎさにとっては早足でしたが、おねーさんからすれば普通の速さだったようです。



「さ、さっきの子のことなら気にしなくていいからね? 行きましょう?」

なぎさ「はい…… そのことも……なのですが」

なぎさ「今はちょっと……戦う気にも教える気にも、なれません……」

560 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/22(月) 00:26:33.53 ID:E59wa3LZ0
-------------------
ここまで
次回は24日(水)20時くらいからの予定
561 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/22(月) 00:36:25.77 ID:KEn2Q5Ox0
乙でした

なんだか喧嘩別れみたいになってしまいましたが、あすみはまだなぎさの事を見限ってはいないようですね。
マミに自分の読心を話してしまったのはあすみらしからぬミスですが、なぎさとの事で多少動揺してたからかな?
562 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/24(水) 21:08:47.80 ID:M7lmf0rA0


「…………そう、そっか。そういうことなら今度でいいよ」

なぎさ「はい、また今度…… で、でもっ、一人で魔女と戦ったり危ないことはしないでくださいねっ!?」

「あー……、うん。そうだね」


 やっぱり浮かぶのはこの前の光景。知り合ったばかりの人が、魔女の結界の中であんな……。

 ……それからしばらく二人とも喋りませんでした。

 何を言っていいのか迷ってしまうような、なんだかぎこちない空気です。


なぎさ「……そうだっ! そのかわり、これからうちにきませんか?」

なぎさ「せっかく魔法少女の友達が増えたのです。戦いとか以外でも、おねーさんにもなぎさのこといっぱい知ってもらいたくて……!」

「まあ、なぎさちゃんのお家に招待してくれるの? うれしい!」

なぎさ「はい、こっちなのですよ!」


 おねーさんもまた笑ってくれたので安心しました。

 なぎさもむくれてちゃダメですね……。あすみのことはいったんおいといて……。


なぎさ(あすみ……)


 足を止めたなぎさに、おねーさんは不思議そうに振り返りました。


なぎさ「な、なんでもないのですっ」

563 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/24(水) 21:28:06.09 ID:UDZ5oLZX0
なぎさちゃん、今日始めて会った相手を家に招待とか流石に無用心すぎるぞ・・・
564 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/24(水) 21:56:12.98 ID:M7lmf0rA0
――――
――――



 なぎさの家に着くと、おねーさんと二人きり。

 この前のカレーの残りをどうするかと相談したところ、おねーさんが何か思いついたようで。



なぎさ「――――わぁ、おねーさんお料理上手なのですねっ!」

「大げさだよ」

なぎさ「おおげさなんかじゃないのです! なにもないと思ってたうちのキッチンからカレードリアができるなんて、夢にも思いませんよ……!」


 冷蔵庫にあった牛乳となぎさのおやつのチーズ、あとお母さんがいなくなってから棚の奥に眠っていた小麦粉……。

 それらを使って作ってくれたのです。


なぎさ「まるで魔法のようです!」

「だから大げさだって……ほら、出来上がったから、火傷しないように食べてね?」

なぎさ「出来上がりもすばらしいです! さっそくいただきます!」


 ……チーズ、お母さんが好きだったから前はこういう料理も作ってくれたな。

 食べた瞬間、そんなことを思い出しました。

 お母さんの好物でもあるけど、なぎさも。


なぎさ「おいしい! これ、なぎさの大好物です!」

「そうなの? よかった」

なぎさ「なんだかお母さんを思い出して…… もう作ってくれないから」

「何かあったの?」

なぎさ「死んでしまいました」

「それは辛いね……。ところで、お父さんは?」

なぎさ「今日はいつ帰ってきますかね……少し早い時もあれば、遅い時も多くて」

「そうなんだ」
565 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/24(水) 22:36:28.50 ID:M7lmf0rA0

なぎさ「……今度、作り方を詳しく教えてください」

「難しいと思うけど、大丈夫なの?」

なぎさ「だ、大丈夫です! なぎさはもう小さくないので……!」

なぎさ「お母さんがいなくなってしまったので、早く家事は覚えないと困るのですよ。ご飯がお菓子とお弁当と外食だらけなのです!」

「このカレーは?」

なぎさ「これは昨日あすみと一緒に作ったのです」

「……さっき会った子ね」

なぎさ「はい……」


 あすみの話が出てきて、さっきのこともまた思い出しました。

 あすみとの思い出はたくさんあります。そのほとんどは良い思い出です。あんなふうに喧嘩してしまったのは初めてでした。


なぎさ「なぎさもあの時は言い過ぎたのはわかってるのです。なぎさにとってもかけがえのない友達だったのに」

なぎさ「もう……友達でいられないんでしょうか」

「なぎさちゃんはどう思ってるの?」

なぎさ「なぎさは……友達でいたいです。でも……」

「でも、あの子の言ってたことは間違ってると思ってる」

なぎさ「そりゃそうですよ! おねーさんがよくても、なぎさがよくないのです……」

なぎさ「会ったばっかなのに、おねーさんのこと何も知らないのにあんなこと言って!」

なぎさ「? む……」


 その時、ポケットに振動を感じました。


「あらあら、お食事中に携帯はマナー違反だよ?」

なぎさ「……それもそうなのですね」

「まあ、『そろそろ』かもしれないけど」

なぎさ「なにがですか?」

「ううん? 何でもないよ?」

566 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/24(水) 22:38:34.65 ID:UDZ5oLZX0
毒か?
567 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/24(水) 23:33:49.36 ID:M7lmf0rA0


 夕食を食べ終わった頃、なぎさは少しウトウトとしかけていました。

 このまま眠ってしまったら気持ちよさそうですが、今はお客さんも来てますし、お父さんが帰る前に寝たくはありません。


「眠くなっちゃった?」

なぎさ「ん〜、まだそんな時間じゃないのに……ちょっとお水を取ってくるのです」

なぎさ「――――うわっ!?」


 椅子から立ち上がろうとしたのですが、転んでしまいました。

 奇妙な感覚でした。どこにぶつけたわけでもなく、足から力が抜けるようにして崩れたのです。

 ただ眠いだけではこんなふうにはならないと思うのですが……。


なぎさ「いたた……あれ? 何か、おかしい……」

「横になってくれば?」

なぎさ「い、いえ。――……そうだ、治癒魔法を!」

「……ねえ、やっぱりなぎさちゃんは『小さい子』だよ」

なぎさ「え?」

「ダメじゃない。知らないおねーさんに着いてっちゃって、そのうえ知らない人の作ったお料理食べてるんだもん」

「でも、ヘンにマセてるより子供は馬鹿で素直なほうがカワイイと思うよ? なぎさちゃんは悪い子だけど、良い子だね」

なぎさ「ど、どういう意味……なのです?」


 立ち上がろうとしても力がうまく入りません。


「小さいから回りも早いよね。そうして段々感覚もなくなって……最期は眠るように死んじゃうんだ〜」

「『優しい』毒でしょ? 痛みもなく気づかれないままソウルジェムを蝕んで殺すの」

「たっぷり時間を稼げてよかったよ。本当は看取るまでしたかったんだけど……治癒されたら困るものね」

なぎさ「毒……って、まさか……!?」

「料理だけじゃないよ? 毒は二つあるの。一つはさっきの料理に……もう一つはこの空気全体に溶けた霧に」

「毒霧のほうはソウルジェムを蝕み、ついでに魔力を察知する能力を鈍らせる毒。そのおかげで魔法なんて使ってたこと気づかなかったでしょ?」

「料理に使ったのは身体と感覚を麻痺させる毒。毒霧だけでも似たような事は出来るけど、効きを確かめづらいしちょっと時間かかるから」

なぎさ「な、なんで……そんな……契約したてでなにもわからないって……」


 そう言うと、おねーさんはくすくすと笑いはじめました。


「そんなのまだ信じてたなんて! 油断させるための嘘に決まってるのに! 簡単に信じちゃうから〜、なぎさちゃんは小さい子なの」

なぎさ「……!」



――――――
568 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/24(水) 23:35:05.87 ID:M7lmf0rA0
-----------------
ここまで
次回は27日(土)18時くらいからの予定です
569 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/24(水) 23:37:06.27 ID:UDZ5oLZX0
乙です

やっぱり毒か・・・この自称新人さんは毒使いだったのか。
そういえば毒に特化した魔法少女って珍しいかも?マギレコの方にもいなかったと思うし。
570 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/27(土) 20:16:57.14 ID:R/3nOHzG0
――――――



マミ「……お口に合わないかしら?」

あすみ「別に。オシャレそーな店らしくなんかオシャレな味してるよ」

マミ「褒めてるのかしら……?」


 こんな微妙な時間じゃファミレスでもランチはやってないだろう。

 安いバーガーでいいと言ったのだが、育ち盛りの子がそんなんじゃダメだとマミが一蹴。

 マミに連れられて入ったのは、今まで縁のなかったようなカフェだった。……まあ、奢りだからいいんけど。


マミ「ねえ、心が読めるってことは本当にあの人は悪い人なんでしょう?」

あすみ「……」

マミ「このままじゃきっと、あの子危ないわよ」

あすみ「私が何言っても聞かないんだし、しょうがないじゃん。忠告はしたんだから私にしては優しいほうだよ」

あすみ「……なぎさに読心のこと言ってなかった以上証拠を提示することもできなかった」

あすみ「そうなりゃ後は考え方と経験の違いってやつじゃん? 私も誰に何言われようが今の考え方を変えるつもりないしね」

マミ「じゃあ、なんで私にだけ話したの」

あすみ「気まぐれ。かもね」


 迂闊だとは思ってた。

 話しすぎるのも、話さないで不利になるのも……だ。後者のことについてはさっきまで考えもしなかったけど。


マミ「……やっぱり気になってるんじゃない? だって、さっきからすごく不機嫌そうな顔してるわ」

あすみ「元からこういう顔だ」


 他人なんか助けようとしたから食われる。この世界で当たり前のことが当たり前に起きてるだけだ。

 ちょっと前に世話してやったからって、一生世話なんてしきれない。

571 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/27(土) 21:05:32.75 ID:R/3nOHzG0


あすみ「…………やっぱこういうとこって値段の割に量少ないね。もう食い終わっちゃった」

マミ「食後には紅茶がついてくるみたいよ?」

あすみ「そうなの? じゃあまだ待ってなきゃいけないのー?」


 ……暇になって、携帯を手に取ってみた。

 手持無沙汰に携帯持ってる奴って多いけど、何やってるのかまったくわからない。最近まで携帯を持ったこともなかった。


 マミには女の子が持ちそうな携帯じゃないと言われたが、そりゃそうだ。

 今持ってるのは前にいた家から取ってきただけだから。いつまで使えるかもわかったものじゃない。


あすみ(もう何か月も経つしそろそろ潮時かもな。そしたら……どうしようか?)

あすみ(なければないでも困んないか。元々大して使う予定もなかったけど、思ったよりは使ったな)


 元はアイツがいなくなったことを怪しまれないためにとチェックしてたはずだった。

 でも今では元から入ってたデータは全部消した。メールのやりとりを見返せば、なぎさとのやりとりばっかり。

 今日の放課後。それ以降のメッセージはない。……一通り見返して、一言だけなぎさに送ってみた。


 『今どこ』


 最後になるかもしれないメッセージ。もう死んでたって何もおかしくないんだから。


あすみ「……ね、暇だからなんか面白いこと言ってよ」

マミ「その無茶ぶりは無理があるわよ……? せっかくだから魔法少女のことについて聞かせてもらえたら」

あすみ「えー、私に話振るの?」

あすみ「魔法少女のことって言われてもなー。この後はなぎさに丸投げするつもりだったし……」


 ……あれ。でもなぎさが死んだらこいつのことはどうする?

 そう思ったところで、さっそく、予想を反してお早いお返事が来たことに気づく。

 いつもとちょっと違う、無愛想な一言で。


あすみ「……はあ?」

マミ「ど、どうしたの? さっきより輪をかけて不機嫌そうな顔をして」

あすみ「そりゃ不機嫌にもなるっての! こんなの予想の斜め上! あいつはどこまで……!」

あすみ「紅茶嫌いだったの思い出したわ。もう出る」



 ――――返ってきたメールには、『なぎさのいえ、おねーさんと一緒』とだけ書かれていた。


572 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/27(土) 21:08:34.84 ID:bsjF1IVh0
間に合うか?
573 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/27(土) 21:41:34.75 ID:R/3nOHzG0


あすみ「……何故アンタまでついてきてる?」

マミ「心配してないって言ってたけど、なぎさちゃんのこと助けに行くんでしょう?」

あすみ「別に」

マミ「……違うの?」

あすみ「私はあの女のことが嫌いなんだ。居場所がわかったから殺しに行くだけ」

あすみ「私に狙いが向いてからって思ってたけど、一人潰して浮かれてるとこ想像しただけでも腹が立つ」

マミ「うーん……素直じゃないのか判断しづらいけど……」

あすみ「アンタこそ、死にたくないんだろ。戦いには間違いなくなるよ。標的の家にまで来てその場で決着着けない理由はないもの」

あすみ「だからこそ私も、なぎさに邪魔されずに殺せる現場を狙ってるんだし」

マミ「でも、私も仲間がピンチなのに見捨てるわけにはいかないわよ。なぎさちゃんはせっかく仲間になれそうな人なんだし」


 あー、こいつ。臆病のくせに無駄に正義感あるタイプなんだ。

 面倒くさい。


あすみ「自分が戦力になるとでも思ってるの? 人質にでもとられたらその時は真っ先に無視するわ」

マミ「……っ」

あすみ「居てもいいけど、邪魔はするなよ。それに……私たちが行くころにはなぎさはもう死んでるかもね。それ見ても動揺しない?」

マミ「神名さんこそ……しないの? なぎさちゃんが本当に、死んでても。交友はあったんでしょう?」

あすみ「もちろんしないわ」


 ……そうなってもきっと心は動かない。

 私は今までだって色んなものを失ってきた。あんな最近知り合っただけの子供なんかよりずっと大切なものを。

 そして私は、契約した日からもう何者にも動揺しない力を手に入れたんだ。


 でも、もしも助けられた時はどうかな。そういう意味での『心が動く』は、長らく忘れ去っていて想像もできないけれど。



――――――
574 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/27(土) 22:19:01.53 ID:R/3nOHzG0
――――――



「じゃ、もう種明かしもしたし、さくっとやっちゃおうねー」

なぎさ「!」


 変身したおねーさんの手から魔力の光が洩れます。その直後に放たれたのは針でした。

 それを横に転がって避けます。


「チッ……あぁいけない。まだ動ける力あったの? でも次こそ終わりよ」

なぎさ「おねーさん、治癒魔法は効くって言ってましたよね……? たくさん練習しといてよかったのです!」

なぎさ「少しずつでも回復は出来てる……少し苦しいけど、そんな細い針くらいならっ!」

「掠りでもすればいいのよッ! 今度こそ眠ってもらうわ!」


 足に重点的に魔力を流したおかげで、なんとか動くようには回復しました。

 それでもハンデを負ってるのは事実。その上で――。

 魔法の衣装に身を包み、武器を片手に持って立ちます。


「なぎさちゃ〜ん? お注射の時間だよ〜ッ!!」

なぎさ「っっ!」


 動かれてもどこかには当たるように広範囲に飛ばしたのでしょう。

 掠っただけで効く毒は恐ろしいですが、この針は物理的な破壊力は強くなさそうです。

 ラッパを吹いて自分をシャボンの膜に包みます。


「なにそれ、ずるいっ!」


なぎさ(とはいえ、シャボン玉に針というのは……相性がよくないですよね)


 何発かは耐えられても、防戦一方では勝てない。


「篭もってたっていつかは割れるのよ。諦めなさいよ」

「足掻くのなんて辛いだけだよ……全部諦めて寝ちゃおうよ。苦しまず死させてあげるよ?」


 ……そんなことは、わかっています。



なぎさ「死んでたまるか――――なのですよっ!」



575 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/27(土) 22:31:30.31 ID:FiDN+yipO
確かに針にシャボン玉は相性が悪いな
576 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/27(土) 23:29:51.74 ID:R/3nOHzG0


 身に纏うシャボン玉を大きくし、渾身の突撃をかましてやります。

 おねーさんもそれは予想していなかったようで横に倒れて…… そこでシャボンの膜を破りました。

 この隙に再びラッパを吹いて、今度は逆に閉じ込めてやります。


なぎさ「形勢逆転ってやつですよね? これ。えへへ……なぎさも魔女との戦いでピンチになった時にはよく使うわざなのです」

なぎさ「でも、おねーさんには……同じ魔法少女の仲間には使いたくありませんでした」

「仲間……ですって……?」

なぎさ「はい! こんなことしたらメッなのですよ!」

「メですって…………なによ、チビっ子のくせに説教して」

なぎさ「そういうのよくありませんー!」


 新たな針でシャボンを割ろうとしてるのを見て、慌てて追加のシャボンを外側に被せます。


なぎさ「うわわっ、もう! 油断も隙もないのです!」

「それがいつまでも続けられる?」


 おねーさんの声とほぼ同時に、くらっとするような眩暈のような感覚がしました。

 これも毒のせいなんでしょうか?


なぎさ(集中が乱れて、魔法が……)


「ほーら、やっぱり。私の毒霧は『ソウルジェムを蝕む』って言ったよね?」

なぎさ「ソウルジェム……?」


 確認してみれば、見たことのない黒色をしてました。

 咄嗟にグリーフシードを取り出しましたが、飛んできた針に弾かれます。


なぎさ「なっ……!」

「回復なんてさせてあげなーい」

577 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/27(土) 23:47:57.69 ID:FiDN+yipO
騙すようなやつだから当然だが性格も悪いな、こいつ
578 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/28(日) 00:02:50.57 ID:PDF/oUon0


 くすくすと笑う声。


なぎさ「そ、それでも負けません!」


 飛んでくる針。

 この時わずかに反応が遅れてしまいました。


なぎさ「あっ…………!?」


 針が一本腕に掠ったようで、血が滲みます。

 『よう』というのも、その感覚すら遠くなって見てから気づいたから。

 感覚を鈍らせる毒、と言ってましたか。痛みもなく死ぬというのは本当らしいのです。

 ……そんなのはイヤです。痛くなくとも死んでたまるかなのです。


「何、誰?」


 それとほぼ同時にチャイムが鳴り、おねーさんが顔を顰めました。


「あー、父親かぁ。言ってたもんね」


 なぎさもお父さんかと思いましたが、その直後のものすごく乱暴な開け方をされたので違うことはすぐにわかりました。

 当然、おねーさんの意識もそっちに向きます。掠りでも針を命中させたなぎさのことはもう放っておいてもいいと思ったからというのもあるのでしょう。


 ――――その瞬間、響いたのは小爆発の音。

 それと、なぎさにとっては聞き馴染みのある鎖の音でした。

579 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/28(日) 00:27:33.34 ID:FnVYvW6HO
あすみ間に合ったけど流石荒っぽいな
580 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/28(日) 00:28:10.85 ID:PDF/oUon0
--------------------------
ここまで
次回は28日(日)18時くらい
581 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/03/28(日) 00:31:51.59 ID:FnVYvW6HO

次で決着つきそうな感じだな
582 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/28(日) 00:33:24.57 ID:FnVYvW6HO
sage出来てなかった、ごめん
583 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/28(日) 15:02:26.93 ID:O5qE7UGn0
ほい
584 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/28(日) 18:21:42.29 ID:PDF/oUon0


あすみ「何普通にチャイム押してんのさ! こういうのは大体力づくでいけば開くのよ」

マミ「え、それは……なんとなく。でもここなぎさちゃんの家でしょ? ドア壊れてない?」

あすみ「律儀か。どう見てもお取込み中な魔力反応してたんだからこれでいいの」

「あら、あなたたちさっきの……」

あすみ「先手必勝の一撃は防がれちゃったけど、防ぐのに使った腕は壊せたからよしとするわ」

あすみ「にしても、明らかに腕折れてんのに表情変わんないね」

「危険を察知するためにはないと困るものだけど、痛いのが好きな人なんていないでしょ?」

あすみ「おねーさん、あすみよりオトナなのにわかってないなぁ〜。痛いのがイイって変態さんも中にはいるんだよ。私は違うけど」

あすみ「でもそういう人って倒錯しすぎていきなりSとM入れ替わるのも多いから気を付けてね?」

「はぁ、何? きも……」

あすみ「あはは、ごもっとも! それよりなぎさ、よく生きてたね。……あれ? 瀕死? ギリで死んじゃった?」

なぎさ「…………」

「ザンネンだけど、もうすぐ『孵る』よ。なぎさちゃんがいなくなったらきみ友達いなくなっちゃうんだっけ? ダッサい子」

「こうやって喋ってるうちにも――――……」


 おねーさんもなぎさを見ます。そして、言葉を途切れさせました。


「こいつ、なんでこんな怪我を……? ――てっ、ていうか何よこれ! なんでシュークリームなんて口に咥えてるの!?」

あすみ「ふーん……このオモシロ死体、アンタがやったわけじゃないんだ?」

あすみ「まあ、わかってたけどね。お菓子出す魔法なんてなぎさしかいないだろうし」

なぎさ「ひたいじゃないれふ!」


 残りをそしゃく。

 みっともない食べ方になったのは反省ですが、このシュークリームはあすみの想像通り、魔法で出したものです。

 みなさんは中身のクリームだけ先に吸い出すなんて食べ方やっちゃいけませんよ。

585 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/28(日) 18:47:51.45 ID:FnVYvW6HO
孵るって言ったのは魔女化の事は知ってるのか
586 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/28(日) 19:16:00.03 ID:1N6gZpAB0
なぎさちゃん、何をしたんだ?身代わりか何かかな?
シュークリーム、たまに中身だけ吸い取ったりしてますw
587 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/28(日) 19:22:19.78 ID:PDF/oUon0


なぎさ「もぐ……――っ、この前あすみに毒入り菓子を作ってはどうかと言われましたが、これは『ハンタイ』にしてみたのです!」

なぎさ「といっても万能な解毒薬にはなりませんが、毒の成分はおねーさんが喋ってくれましたでしょ? それなら反対の効果にすればいいわけです!」

なぎさ「おかげで痺れも取れてきました。なぎさにはおねーさんみたいな毒よりこっちのほうが合ってると思うのです」

なぎさ「悪いことするなら止めるくらいの力はあるって言いましたよね! なぎさはそこまで弱くはないのですよ!」

あすみ「……はぁ、すっかり忘れてたけど、そういえばアンタも新人じゃなかったわね」

「針が掠った周辺を自分で抉り取るくらい肝が据わってたとはね……正直見くびってたわ」

なぎさ「なんて痛々しい表現! ちょっと爆破して吹きとばしただけです!」

マミ「そっちも十分痛々しいと思うけど」

「でもここはもう私のテリトリー。下準備はとっくに終わってるんだから、増えたって私の有利は変わらないわよ」

「一人は本当にただの新人みたいだし」


 戦いが長引けばそれだけでなぎさたちは負けてしまうということです。

 なぎさもたしかにソウルジェムを蝕むという毒霧のほうは解毒できませんでした。他の毒と違って簡単じゃないからです。

 一度は注意が逸れてる間に魔力を回復できたものの、二度目はそうそうできないでしょう。


あすみ「マミ! アンタはこの家を出来るだけ換気しなさい!」

マミ「わかったわ!」


 魔法少女が二人もいれば足止めはできます。

 後はいつも通りあすみと二人で、決戦を仕掛けるのみ――――なのです。

588 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/28(日) 19:34:45.18 ID:1N6gZpAB0
なるほど解毒剤シュークリームだったのか
周りごと傷口を吹っ飛ばすとか、なぎさちゃん根性据わってるなぁ・・・・・・
589 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/28(日) 19:35:46.99 ID:1N6gZpAB0
なるほど解毒剤シュークリームだったのか
周りごと傷口を吹っ飛ばすとか、なぎさちゃん根性据わってるなぁ・・・・・・
590 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/28(日) 19:36:48.89 ID:1N6gZpAB0
あれ?二重投稿にになってる。
申し訳ないです。
591 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/28(日) 20:28:39.93 ID:FnVYvW6HO
なぎさとあすみの共闘がどれだけ習熟してるかだな
592 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/28(日) 20:57:42.07 ID:PDF/oUon0

 おねーさんの狙いはやはり広範囲。でもなぎさも範囲には自信があります。

 たくさんのシャボンを周囲に浮かせます。小さい分は脆くはありますが、一発を防ぐには十分です。


あすみ「霧も針も地味だけどウザい攻撃ね……性格の悪さが反映されてるに違いないな」

あすみ「毒って知らなかったら負けてたかもね」


 イラついた様子のあすみ。

 あすみの戦い方といえば、破壊力十分の鉄球で必殺を決める派手な攻撃。おねーさんとは正反対なタイプです。

 普段見ていても、小さい攻撃は無視することも少なくありません。避けるということをあまり重要視してないようなのです。

 もちろん毒針は無視するわけにはいかないのですが、これも相性はよくないのかもしれません。……逆に、毒を無視できれば早い?


なぎさ「でももうなぎさにさっきの毒は効きません! それに解毒はなぎさができますから!」

あすみ「あー、それもそうだったわね? こんなチンケな針……毒さえ効かなきゃ攻撃にもならないよ!」

「あっそ……でももう『優しい』のは終わりだよ」


 するとおねーさんは一気に針の量を増やしてきました。

 なぎさのシャボンでもこの量を食らったら耐えられないでしょう。篭もるのは逆効果――今度は何が来るのか、身構えます。

 いえ、何が来たってやることは同じなのです。最大限に避ける。食らったらその効果と反対に打ち消す。


なぎさ「つっ…………!」


 最初に来たのは痛みでした。

 これは――――なんの毒? そもそも毒なんでしょうか? ただ針が刺さった部分がズキズキと痛んで、痛んで――――。


「単純だけど痛みに怯まない生き物なんていない。生きるのに必要な『痛み』も過ぎればショックで死んじゃうのよ」

「これで死ぬなんて不幸ね。これが一番『優しくない』毒。せめて感覚麻痺を解毒しなければよかったね?」


 新たな針が生成されるのが見えます。解毒――いや、まだ踏ん張れます!


なぎさ「……と、りゃあああ――――っ!」


 ええと、たぶん初めてラッパを鈍器として使いました。

 踏み込んだあとは、なぎさの全体重をかけて床に倒します。おかげで新しい針の攻撃はあらぬ方向に外れていくことになりました。


なぎさ「あすみ! トドメを――ッ!」

なぎさ「あすみ…………? ――ふぎゃっ!」

「いつまでも乗っかんな!」


 軽々と跳ね除けられてしまいます。なぎさの全体重は、おねーさんと比べたらかなり軽いのでしょう。

 いくらなんでもこんなに至近距離で針を食らったらまずい。今度こそ解毒を……!

593 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/28(日) 21:53:31.04 ID:PDF/oUon0


なぎさ(あれ……?)


 口に鎮痛のシュークリームを咥えつつ、針山にされるのは覚悟してたのですが、攻撃が来ませんでした。

 見てみれば黄色いリボン? でラッピングされたおねーさん。


マミ「換気扇を回して、開けられるところは開けてみたわ! 二人とも無事!?」

なぎさ「なぎさはなんとか……。解毒もできましたし。それよりあなたがやったのです!? すごいですね!?」

マミ「え、ええ!」

なぎさ「それよりあすみは……――――」



――――――
――――――



 『痛み』……それは私が昔怯えていたもの。そして、契約してから感じることのなくなったものだった。


 痛くないから、痛みを与えてくる奴らにも恐怖しない。戦いで攻撃を受けようが恐怖しない。

 ソウルジェムと身体が離れてるから出来る芸当だとキュゥべえは言ってたが、リクツなんてどうでもいい。

 その真実を聞いて絶望する少女もいるらしいが、私は歓喜した。


なぎさ「はいこれ、解毒のシュークリームなのです!」

あすみ「…………っ」

なぎさ「……? 聞いてるのです? もう! こうなのですっ!」

あすみ「むぐっ!? うぐ――……っぶ、あっま……? ……なに、これ」

なぎさ「半分落としてますよ! クリーム吸い出しよりお行儀悪いのですっ!」

なぎさ「無理矢理押し込んだのも悪かったですけど……辛そうだったので。うんんー、もっと食べやすい形にできればよかったかなあ?」


 ……目の前で起きてることが遠くに見えてた。いつもの感覚が戻ってきて、思考も戻ってきた。

 いつのまにかあの女は縛られてて、なぎさとマミも無事だ。

 なにこれ。私だけが無様?

 痛みを味わったさっきから、来なければよかったと心の中で後悔しはじめてた。その気持ちは怒りへと変わる。


 毒の内容は読心でわかってたはずだった。

 ――――魔法少女の使う魔法なら、痛覚を切り離していても効いてもおかしくはない。


 しかし、覚悟していたら私はなぎさのように出来ただろうか?

 いや……踏ん張れないのはきっと私だけじゃない。


あすみ「…………」

なぎさ「……ま、まだ痛いですか? 今小さいの作りますからねっ」

あすみ「ああ、うん。受け取っとく」


 私にプチシューを渡すと、なぎさはリボンで縛られた女のほうに向き合った。

594 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/28(日) 22:01:31.82 ID:1N6gZpAB0
あすみは常時痛覚を切ってたけど今回の「痛み」を伴う攻撃でトラウマが呼び起こされたのか
595 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/28(日) 22:14:18.02 ID:FnVYvW6HO
この後確実に血の雨が降るな
596 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/28(日) 22:38:22.24 ID:PDF/oUon0


なぎさ「おねーさん……もうこれで決着つきましたよね?」

「……これから私をどうする気? 痛いことされた腹いせに、私を嬲り殺しにでもしてみる……?」

なぎさ「怖い事言わないでください! そんなことしたいわけないじゃないですか!」

「私は殺す気だったのに、なんでここまでされて私のこと殺さないの……逆に怖いよ。わけわかんない」

なぎさ「おねーさんもあすみに片腕やられてるので、それでおあいこなのです」

あすみ「……それでいいの?」

なぎさ「おねーさんもあすみも勘違いしてるのです! 魔法少女同士は敵じゃありません!」

なぎさ「ピンチの時は助け合えるし、仲間は多い方がたくさんの人を助けられます! 友達だって多いほうが楽しいのです!」

なぎさ「戦うのも殺し合うのも悲しいだけですよ。なぎさが死にたくないように、おねーさんだって死にたくないでしょ? どうしてわかってくれないんですか!」


 マミは何も言うことなく一歩引いて見守ってた。

 何? なぎさは相変わらず甘い気持ちを引きずってるみたいだけど……本当にこいつもそれでいいわけ?


「グリーフシードは欲しくないの?」

なぎさ「なぎさは必要な分だけあればいいです」

「……なぎさちゃんが欲しくなかったとしても、そういう人がいることを考えられないのはやっぱ小さい子だよ。そのせいで私にやられて」

「でも……こんな子ばっかりだったら平和なのかもね。私だってそりゃあ……死にたくはないよ。本当に、本当に許してくれるの?」

なぎさ「なぎさはおねーさんに裏切られたってわかった時、すごく悲しかったです。でも……許したいのです」

なぎさ「元はと言えばおねーさんを止めるために戦ってたのです! だから……今度こそおねーさんが仲良くしてくれるって言ってくれるなら」

なぎさ「おねーさん、強かったのですよ。これから一緒に戦ってくれるなら心強いです……!」



 ――ああ、わかった。

 今回マミはとくに自分が被害を受けてなかったから、どうでもいいと思ってるのか。



「他の人も……そうなの?」

なぎさ「お願いします! 信じてあげてください!」

マミ「私は他の人に任せる、けど……」

あすみ「いいよ、お友達になりましょう。誰にだって改心の機会は必要よね」
597 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/28(日) 22:41:48.55 ID:FnVYvW6HO
マミはあすみの読心を知ってるからあえて様子見してるんじゃね?
598 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/28(日) 23:31:47.59 ID:PDF/oUon0


あすみ「――――お姉さんってお嬢様なんでしょう? え、父親は県知事やってるの? 私生活窮屈なんだね」

「は…………」

あすみ「あぁ、珍しい苗字だ。そりゃ素性バレかねないし頑なに隠すわけね。そりゃどっかから非行のことがバレたらまずいものね?」

あすみ「学校ではいじめっ子の金魚の糞やってるんだって? 主犯じゃないのがどっか地味なお姉さんらしいなー。でもどっちもクズだとは思うよ?」

「何を言ってるの! で、デタラメ! こいつの言ってること全部デタラメ!」

あすみ「友達になるつもりなのに隠し事ばっかなんておかしいよ!」

「あ、後で言おうと思ってたのよ! でもまだ心の準備が……!」


 それだけは一応本当だ。まあ『先読み』してしまったが。

 そして、つつけばつつくだけ埃のように溢れてくるものだ。


 ……ちょっとイラついてるみたい。でも殺されるわけにはいかないから表に出すまいとしてる。

 もともと強い人には逆らえないタイプみたいだから。


あすみ「ねえ? 自分でも気づいてるみたいだけど、表面上の友達しかいないなんてヘンだよね」

あすみ「お嬢様学校のことも強そうな友達のことも、本当は嫌いなのにアクセサリーにしてるの虚しいね」

あすみ「私たちのこともこれからはアクセサリー扱い? この中の誰よりもおねーさんなのに誰より薄っぺらくない?」

「そ、そんな……こと……!」

あすみ「内心嫌ってるいじめの主犯には逆らう度胸もない癖に、うっかり殺してから変な度胸だけついちゃったんだね……」

あすみ「魔法少女のほうも学校生活のほうも、どっちも自分可愛さに裏切ったり傷つけたりすることばっかり」

あすみ「そんなお友達ができるなんてステキ! ――なんて言うわけねぇだろ!!」


 横っ面に鉄球を一つお見舞い。可愛らしく澄ました顔が醜く歪む。

 正直わざわざ探るまでもないくらい、印象通りの中身だった。


「がは…………っ!!」


 間髪入れずに次を振りかぶる。

 こいつも痛覚切ってるみたいだし私の魔法では嬲り殺す手はないが、私の気が済むまで――――醜く潰れるまで叩き潰してやろうか。


なぎさ「なっ……なにしてるんですか! やめてください――――!!」

あすみ「こんな奴が改心する? 無理だね」

あすみ「クズはクズ肉になるのがお似合いだよ!」

あすみ「どうしても友達になりたいなら、地獄に行ってキレイになってから生まれ変わってこい!」
599 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/28(日) 23:42:54.58 ID:FnVYvW6HO
やっぱりね
あすみが許すわけないんだよな
600 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/28(日) 23:51:00.26 ID:1N6gZpAB0
あすみ編の不届き者さんの時みたいに呪いが発動しなかったのは、そこまで殺意を持ってなかったのかね?
といってもあすみに内心を見透かされてボコボコにされるか・・・・・・
クズ人間は絶対に許さないからな、あすみ
601 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/29(月) 00:47:15.21 ID:z/3KaO4P0


 返り血に濡れる。

 血も涙もない……なんてよく言うけど、それだったらなんでどんなクズにも血が流れてるのだろう?


 『こんな子ばっかりだったら平和なのかもね』


 それには同意するよ。なぎさみたいな人間ばかりだったら、私もこうなってないもの。



 ―――ソウルジェムはもちろん、身体のほうも原型をとどめない肉塊と化した頃にはなぎさもマミも目を覆っていた。

 なぎさも途中まで私を止めようとしていたが、手遅れと判断したのか途中から立ち尽くすだけになってた。



なぎさ「なんでこんなことに……」

マミ「そ、そうよ。これはあんまりだわ……何も殺さなくても」

あすみ「マミには最初から殺すって言ってなかったっけ?」

マミ「だからって……」

あすみ「安っぽい暴言だと思われてたならちょっと癪なんだけど」

なぎさ「一つ聞かせてください……。さっき言ってことって本当なんですか? おねーさんのことどこかで調べたんですか?」

あすみ「実はなぎさには言ってなかった魔法があるんだ。心を読む魔法……といっても自動的に使われるのは私に向けられた『悪意』を含むものだけなんだけど」

なぎさ「じゃああすみは最初からわかってたのですね。なぎさが裏切られるって」

あすみ「うん」

なぎさ「じゃあもう一つ聞かせてください。……さっきはどうだったのですか? さっきも、なぎさたちのこと本当は裏切るつもりだったのですか?」


 そうだと言えばなぎさは納得するのだろうか。


あすみ「いや? 表面上は友達になるつもりだったよ? 少なくとも『あの場では』ね。でもそれだって自分可愛さなんだよ?」

あすみ「あの女の行動原理は全部自分が可愛いから。なぎさを騙して殺そうとしたのも、学校でいじめに加担するのも全部」

あすみ「ならいつか自分が可愛いからって理由で私達を裏切ったり見捨てたりすることくらい想像つくよ。なにより私はクズと一緒に居たくなんてないし」

なぎさ「……」

あすみ「それでもまだいい人になれる可能性はあったって言える?」

あすみ「前言ってたけどさ、魔法少女になるのに必要なのは正義の心じゃなくて『願い』と『素質』だよ。……これでわかっただろ」

602 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/29(月) 01:20:31.46 ID:z/3KaO4P0


あすみ「いざというときに頼れない友達なんて欲しい? そんなの友達だと思わないけど」

なぎさ「なぎさには……っ わかりません」


 なぎさの声が涙で揺らぐ。

 なんか、似合わない臭いこと言ったな。友達なんていらないって思ってたのに。

 でも、なにが友達かっていうなら……ひとつ気づいたことがあった。


なぎさ「信じたかったです。最初のときも、さっきのときも…… 本当に騙されちゃったけど、でも殺すよりは信じたかったんです」

なぎさ「可能性ならあったと思うんです……どんな悪人だってきっとそれは同じで、なぎさがそうできたら一番いいとは思います」

なぎさ「でも……そのせいで傷つく人がいる可能性もきっとあるんでしょうね。それはなぎさかもしれないし、あすみやマミ……もっと違う人かもしれない」

なぎさ「…………だから、わからない」

あすみ「……うん。アンタにしてはよく考えたじゃん」

マミ「私もそれで納得はするけど……もう少しどうにかならなかったのかとは思うわ」

マミ「……殺すにしても、そんな殺し方をする必要はなかったんじゃないの?」


 ……正義感の面倒臭い部分が出た。


あすみ「まぁそこは考え方の違いさね。なぎさの家をどう見ても殺人現場にしちゃったのは素直に謝るよ」

なぎさ「ひっ、そういえばそうです! お父さん帰ってきたら失神しますよ! なぎさだって今にも吐きそうなのに!」


 とまぁ、こんな時にチャイムが鳴った。


あすみ「噂をすれば?」

なぎさ「あああっ、なぎさが出てきます!」


 慌ただしく駆けていくなぎさの腕には、まだ痛々しい怪我があった。

 ……今はあのシュークリームで痛みも抑えられてるかもしれないが、よくあれを耐えて戦ってたものだ。


あすみ「……なぎさのことは頼れるって認めてやるよ。私も正直見くびってた」

なぎさ「えっ? 何か言いましたか?」

あすみ「なんでも!」


 考え方は子供そのものだけど、私より強い一面もあった。

 そんなところは尊敬することにした。


 ――いざっていう時に頼れる。そういうのを『友達』って言うんだろ?

 他人から言われてもしっくりこなかったけど、やっとそう実感をもって思えたから。

――――
――――
603 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/29(月) 01:23:41.29 ID:z/3KaO4P0
------------------------
ここまで
次回は31日(水)20時くらいからの予定です
604 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/29(月) 08:10:57.19 ID:syiESJIBO

想像以上に血生臭くなったな
605 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/31(水) 20:45:54.68 ID:VcfUkZhS0


なぎさ「……まさかさっそくこういう使い方をすることになるとは思わなかったのです」


 出迎えついでに『よく眠れる』シュークリームを口に押し込んできたらしい。

 一家の主をすやすや寝かせている間に、私がリビングの惨状をあらかた片づけたところだった。


あすみ「まあ、薬も毒も似たようなもんだからねぇ。今回は毒寄りの使い方だけど」

なぎさ「パティシエールのプライドがー」


 それにしても、なぎさもマミもお通夜みたいな顔してるな。

 私からすれば自業自得としか思えないけど。


あすみ「じゃ、ひととおり片づけもも済んだし帰るかな」

マミ「…………」


 なぎさは私の前で空元気出せるだけまだ元気だろうが、あきらかに血の気が失せてるのはマミのほうだった。

 ……さすがになぎさは甘くても『魔法少女』だ。ただの一般人より戦いそのものに慣れてるし、度胸もある。


あすみ「あとなぎさ、こいつのお世話は頼んだから」


 メンタルケアまでしてやる気はないから、ここらでなぎさに丸投げしておくことにした。


マミ「……魔法少女って、あんな人ばかりなの?」

マミ「グリーフシードが欲しいからってあんなふうに殺そうとしてきて……殺しちゃった。しかも、あんなに酷く……」


 マミはまだ心を痛めているようだ。あんな奴の死に。

 私のことも、なんて冷酷な奴だとでも思ってるんだろう。


マミ「こんなのまるで無法地帯よ! こんなことがこれからも起きるの?」

なぎさ「そ、そんなこと……!」

あすみ「無いとはもう言えないよね? 私が見てきた中じゃ一般的な部類だよ」

なぎさ「そ、それじゃ、あすみはあんなことを、何回も……」

606 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/31(水) 21:54:53.32 ID:VcfUkZhS0


あすみ「魔法少女になるのに正義の心は必要ないけど、あれが他の人と違う特別な人間ってわけじゃない」

あすみ「魔法少女は悪い事が簡単に出来てバレない力があるから本性が暴きだされやすいってだけ」

あすみ「契約さえしなければあの女も普通の人生を送れたかもねえ。薄っぺらい友情のもとに人を裏切って虐げ、何の報いも受けない普通の人生を!」


 不要な人はいない、どんな命も尊いなんて綺麗事。

 本物の悪意も憎悪も知らず、想像もできずに生きてきたから言えることだ。

 そう思うと腹が立つ。さっさと帰ろうと思ってたのに。……やっぱり私はメンタルケアなんて似合わないようだ。


あすみ「マミの言う通り無法地帯なんだよ、魔法少女の世界は。強いベテランほど染まってるだろうし、弱い奴は淘汰される」

あすみ「アンタも気をつけなよ? 今は怖い怖いって思ってるかもしれないけど、いずれは力の使い方に慣れて、気づいたらすっかり染まってないように」

あすみ「不正、略奪、闘争……と来たらじきに殺しだってなんとも思わなくなるよ。人によっては最後じゃないけど」

あすみ「……まあ、私はそうなんだよね。『最初』に殺したから」

マミ「それも……殺されそうになったから仕方なく、なの?」

あすみ「ええ。私だって初っ端からそれ以外で殺したいと思うほどクズじゃなかったからね」


 しんと静まり返る。今回のことでみんなも何かを察したんだろう。誰も責めようとする人はいなかった。


なぎさ「……なぎさももう悪い人がいないとは言いません。それでも、誰も信じられる人がいないわけじゃないですよ」

なぎさ「いい人ばかりじゃなくても、きっとあすみの言うような人ばかりでもない。だって、この街にはちゃんと仲間がいるじゃないですか」


 ちょっとだけ世間の苦さを知ったとはいえ、相変わらずの甘く眩しいくらいのなぎさの言葉。

 でも、その一言で不思議と怒りは鎮まった。

 碌でもない世界だと思ってたし、今でもそう思ってる。でも――。


あすみ「……まあ、そう言われたら、それについては綺麗事だとは返せないか」


 ……経験の伴わない綺麗事は嫌いだけど、私も少しは変わったのかもしれない。

607 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/31(水) 22:00:24.69 ID:F6datCgf0
魔法を使えることで自分が特別な存在だと思い込んでしまいやすいよね
このマミさんはどんな考えの魔法少女になるのかねぇ
608 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/31(水) 22:38:37.25 ID:VcfUkZhS0

なぎさ「マミもそんなに怖がらないでください! なぎさが守りますから!」

なぎさ「怖い思いはさせないようにします。悪い魔法少女になるのも許しません」

なぎさ「街を守るのは魔法少女の大事な仕事なのですよ。ここは無法地帯にはさせません。なぎさたちで見滝原を守っていきましょう」

マミ「なぎさちゃん…………ええ。よろしくお願いするわ」


 なぎさがマミの手をとる。

 なぎさがあの女に向けようとしてた情熱は、尚更熱量を増してそのままマミに向いたらしい。


 それから、なぎさはどこかへと寂しそうな目を向けた。――空の皿が置いてあるテーブルの上だった。


なぎさ「おねーさんのことも守るって思ってたのにな……やっぱり、すごくショックです。ドリアの作り方教えてくれるって言ったのに……」

マミ「……私が教えましょうか?」

なぎさ「マミもお料理できるですか?」

マミ「ちょっとした趣味程度だけど、それでよければ」

なぎさ「お願いしますです!」


 なんだよ、仲いいじゃんかよ。

 おまけにお洒落料理まで作れるときた。


あすみ「……やっと帰れそうだ」

なぎさ「あすみ、もう帰るです?」

あすみ「うん。お先に」

なぎさ「じゃあまたなのです!」





――――――
――――――
609 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/31(水) 22:49:45.87 ID:bbwW2JTRO
なぎさとマミはやっぱ相性良いのか
610 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/31(水) 23:41:52.84 ID:VcfUkZhS0



 契約してからずっとなぎさひとりだったこの街にあすみがやってきて、そしてまた新しい仲間がふえました!

 マミは最近契約したばかりの後輩だけど、この街のさいねんちょうなのです。


なぎさ「マミ、リボンをつかうの上手になってきましたね! できることも増えてるのです!」

マミ「そうかしら? ふふ……」


 あれからマミとは特訓をしたり、魔女退治に出かけたり、お料理を習ったり。

 特訓は街外れでやってるのですが、ここにはたまにあすみも顔を出しにきます。


あすみ「お、やってる」

なぎさ「あすみ! 見ていくといいのですよ! マミ、とても器用にリボンを操れるようになってきたんです!」


 とはいえ、あすみは本当に顔と口を出す程度。

 直接教えたり一緒に特訓をすることはありません。任せると言ってましたが、本当に任せきりなのです。


あすみ「SMプレイでもすんの?」

なぎさ「じしゃくであそびたいのですか?」

あすみ「え、む! ……どうせわかんないか。つまんないの。マミはわかってそうだけど」

マミ「さあ、なんのことやら……」

あすみ「でもさ……少し過保護すぎない? なにからなにまで面倒見てやって」

なぎさ「マミはまだ新人だし、大切な後輩ですからー。なにかあったら困るのです」

あすみ「まー、任せるけど」

なぎさ「それにマミはちゃんとなぎさが教えたや気づいたことはノートとってるし、えらいのですよ!」

あすみ「……ふーん?」


 そう言うと、あすみもちょっと興味を持ったようす。


あすみ「思った通り細かいわね。わざわざノートにまとめるなんて思いつかなかったわ」

なぎさ「マミはとても真面目なのですよ」



 ……みんなでノートを覗きこんでいると、ふいに、ゴムボールがどこかから転がってきました。


611 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/01(木) 00:03:14.26 ID:ItAIUqyj0


「ねえ、そこの人! 悪いんだけどそのボール取ってくれない?」

なぎさ「これですか?」


 転がってきたボールを投げ返します。向こうには二人の人影が見えました。姉妹でしょうか。

 そのうちの一人、お姉さんのほうがこっちにきたみたいでした。


「ありがと!」


 お姉さんはお礼を言いましたが、そのあと何かが気になるようにこちらを見つめてます。

 言うまでもなく、魔法少女の衣装です。あすみじゃないけど、『変わった格好……』という心の声が聞こえてきそうです。


 ……いつのまに人がいたのでしょうか。これはうかつです。

 ともあれ、ほどなくして軽く頭を下げて去って行きました。ボールと同じ赤色の髪が揺れています。


なぎさ「場所変えたほうがいいですかね?」

マミ「そうね……」

あすみ「じゃあ私は魔女狩ってくるから。さすがに三人は多いでしょ?」

なぎさ「んん、そうですね……また今度なのです、あすみ!」



 マミという新しい後輩ができたのはいいのですが、あすみとの行動も少なくなってきています。

 あんまり三人での行動というのはしないから。

 それをちょっと寂しく思いつつも、なぎさはこの前までより寂しくはなくなりました。


 見滝原を守るという新しい目標ができて、守りたい人ができて、なぎさはまた強くなれた気がします。

 これからこの街はどうなるのでしょうか? また新しい出会いもあるのでしょうか。


 その出会いがいいものだったら、とてもうれしいなと思うのです。



―続・なぎさとあすみの見滝原 『はじめての後輩』END―
612 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/01(木) 00:05:18.45 ID:ItAIUqyj0
-------------------
ここまで
次回は3日(土)18時くらいからの予定です
613 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/01(木) 03:01:09.63 ID:g+XI450XO

最後のは杏子姉妹?
一区切りついたけど続き希望
614 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/03(土) 19:42:41.69 ID:asx4JwnA0
-------------------------------------------------------------------------------

戦いの決着がついたため区切りましたが、続きはほぼ決まってるのですぐにやりましょうか。


ちなみに余談ですが、
無名オリキャラのおねーさんは『悪党すぎないレベルで性格の悪い奴』がテーマでした。
オリジナル魔女図鑑の毒の魔女が原型ですが、能力が使いやすく素性を隠したがる性質が使い勝手が良かったための起用です。
一応白女在学の良家のお嬢様設定ではあるものの、
マミより年上なのでマミが中3になる頃には生きてても誰とも学校が被らない年齢。

すがすがしく悪く描ける使い捨てキャラはなかなかいないのでそういう子は貴重です。
そういう役に出来るのは沙々かオリキャラくらい。

--------------------------------------------------------------------------------
615 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/03(土) 20:28:59.36 ID:Pe0LLK0wO
すがすがしい悪党扱いは良い意味で草
616 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/03(土) 20:40:22.62 ID:asx4JwnA0
――――――――――――――――――
――――――――



 お母さん、お母さん。きいてください。

 あの日お母さんとおわかれしてからもう一年くらいたちました。

 なぎさはこの前の春に新しい学年になりました。今は新しいクラスにもなじんで楽しく過ごしています。


 そうそう、魔法少女のことも、ずっと隠してたけどここなら話してもいいよね。

 この街には魔法少女のお友達が二人もいます。

 途中、あらそいごとが起きたり、友達になりたかったのに拒まれてしまった人もいたけど……この三人は無事です。――この三人は。


 契約したのもあすみと出会ったことも、なぎさにとってはもうすごく前のことに思えます。

 なぎさはたぶん、前より強くなりました。もちろん、あすみもマミもすごく強くなったのですよ!

 魔法少女のことは楽しいことばかりじゃないけど……。きっとこれからもがんばっていけます。



 ……目をあけると、目の前にはお母さん――のお墓があります。

 今日はお父さんと一緒にお墓参りにきていました。



なぎさ「…………」

「なぎさ、もういいのかい?」

なぎさ「うん。いっぱい話せたよ。…………またね、お母さん」



 声は聞こえないけど、ここにいるんだよね? そう思っていても、今でもふと寂しくなる時があるのです。



――――――――――――――――――


 続々・なぎさとあすみとマミの見滝原


――――――――――――――――――
617 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/03(土) 21:50:41.26 ID:asx4JwnA0
――――――
――――



なぎさ「――――マミ! 今ですっ、ぐるぐる巻きお願いするのですよ!」

マミ「ええ!」


 合図とともにまわりの使い魔ごと魔女を捕えるリボン。

 そこになぎさがバツグンのタイミングで仕掛けます。


なぎさ「よしっ! やってやったのです!」

マミ「やってやったわね」


 シャボンが一斉に弾けると、魔女はあとかたもなく消えます。

 マミと二人の魔女退治は今日も無事に終わりました。


なぎさ「使い魔と魔女の動きも味方の動きも、よく見られるようになりましたね。今日もこんびねーしょんはバッチリなのですよー」

マミ「なぎさちゃんが特訓してくれているおかげよ。契約してから今まで、なぎさちゃんがいるから怖くないんだもの」


 怖い思いはさせないって約束したのです。

 それをちゃんと守れてると思うと安心しました。


なぎさ「でも、『れがーれ・ばすたありあ』ってなんなのですか? この前はノートにも書いてありましたけど」

マミ「それは……必殺技よ!」

なぎさ「ひっさつわざ? ゲームみたいなのですか??」

マミ「見滝原は私たちが守るって決めたんだから、この街の魔法少女はこういう魔法少女でもいいんじゃないか……って思ってね」

なぎさ「なるほど……でもそれは一つ大きな問題がありますよ……」

マミ「なにかマズかったかしら?」

なぎさ「なぎさはラッパがあるのでしゃべれません! なぎさもやりたいですー!」

マミ「あぁ、あー……確かにそうだったわね」


 何気ない会話をしながら、魔女結界を抜けたなぎさたちは日常へと帰ります。

 具体的に言うと、マミの家へ。

618 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/03(土) 21:55:33.31 ID:Pe0LLK0wO
このマミは銃使いじゃないから火力低そうだな
619 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/03(土) 22:17:44.79 ID:asx4JwnA0


 もちろんなぎさにはなぎさの家があるのですよ。

 でも、マミと知り合ってからはマミのおうちで食べていくことも多くなりました。

 夕方には紅茶を飲んだり、お料理の練習をしたりします。おかげでなぎさもかなりお料理が上達しました。


マミ「今日は作りたいものがあるの。私も初めて試すのよ」

なぎさ「新レシピですか! 楽しみなのです!」


 魔法の特訓はなぎさが教えてますが、料理のほうはマミのが先輩です。お勉強もマミに教えてもらうことがあります。

 たいていのことはマミのほうが先輩なのは仕方ないのです。人生の先輩ですから。


 マミと出会ってから仲良くなるのに時間はかかりませんでした。

 マミは契約してすぐに事故で両親を亡くしていて、一人で住んでいます。

 なぎさのようにお母さんだけじゃないのです。なぎさも寂しいですが、お父さんまでいなくなってたらなんて想像するのも怖いのです。


 でも、一緒にいるときは寂しくないのです! ……きっとマミだって、そう思ってくれてるのです。


なぎさ「必殺技、なぎさにはどんなのが合うでしょうか?」

マミ「そうね……なぎさちゃんだったら、やっぱりシャボン? いえ、ラッパ、トランペット、あえて角笛と捉えても戦場っぽいかしら?」

なぎさ「あすみはどんなのになりますかね?」

マミ「……モーニングスター?」

なぎさ「考えたら使ってくれるかな?」

マミ「断られちゃいそうね」

なぎさ「あすみももっと楽しんで魔法少女やればいいのに」

マミ「そう思ってくれたらいいけどね。途中から考えを変えるのは難しいのかも」


 考え出したら夢がふくらみます。この街の魔法少女はこうでいいというのにはなぎさも賛成でした。

 ――とはいえ、あすみも丸くなったのですよ? 最初からしたら……ですが。

620 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/04/03(土) 23:27:24.85 ID:eGG3mVGA0
なぎさがあすみと出会ってから約1年か・・・
あすみはまだホテル暮らしとかしてるのかな?
621 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/03(土) 23:49:15.28 ID:asx4JwnA0


なぎさ(今は携帯もつながらないし……本当にいろいろと大丈夫なのでしょうか?)


 魔女退治の途中で会うこともあります。

 向こうから来る時は訓練場所に顔を出したり、家や学校の近くまで来たりします。

 でも、こっちは普段あすみがどこにいるのかもわかりませんし。聞いてみてもはぐらかした答えしかもらえませんでした。


 マミと同じく家族がいないと言ってましたし、一人なのはあすみもいっしょなのです。なのに寂しくないなんて言うし……。


マミ「家に着いたら、まずは紅茶を淹れるわね」

なぎさ「はい! わーい、楽しみ!」



――――――
――――――



 ――――外は暗くなってきた。



 日付や季節の感覚なんてとっくに狂っているが、時間だけは太陽が教えてくれる。それだけで困ることはない。

 私は気付けばひどく原始的な生活を送っているようだった。


あすみ(そろそろ宿行くか。でも、この前のとこはちょっと怪しまれてきてそうだな……新しいとこにする?)


 宿に長居も出来ないので日中は基本的に外だ。かといって街並みの中に興味を引かれるものもない。

 野宿はさすがにできないから、暗くなれば宿を探す生活。

 安定して居られる場所がない……というのもなかなかにストレスだ。これは1年ほど体験してみての気づき。

 最初は何事にも縛られない自由を謳歌していたが、この無駄に文明の進んだ街の明かりの中ではそううまくもいかなかった。


 街中で寝るのはごめんだけど、案外野宿も悪くなかったりして。なんて、冗談は半分で半分は本気で考えてみる。

 ……そもそも、私は街並みというのが嫌いだ。この街で信用できる仲間が出来たとはいえまた別問題だ。



 実のところ、安定した住み処が欲しければどっかの家を襲って奪うのが一番良い。

 けど、この街に来たばかりの頃だったら実行に移してたかもしれないが、今は躊躇があった。


622 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/03(土) 23:53:45.82 ID:Pe0LLK0wO
1年も宿無しとかすげーな、あすみ
623 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/04/03(土) 23:58:22.63 ID:eGG3mVGA0
あすみん、やっぱりホテル暮らし(?)なのか
怪しまれてるって魔法でのごまかしが効きにくくなってるのかな?
マミに頼めば泊めてくれそうではあるけど・・・
624 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/04(日) 00:25:38.10 ID:L4Y/CL/90


なぎさ『街を守るのは魔法少女の大事な仕事なのですよ。ここは無法地帯にはさせません。なぎさたちで見滝原を守っていきましょう』


 ……なぎさの言った言葉は本当だ。あれから本気でこの街の治安を守ろうとしてるし、実際守れてる。

 最近はみんなベテランになったから狙われにくいが、最初になぎさを襲った奴以降にも無法者が沸いたことは何度かあった。


 そりゃ私だってクズなんて嫌いだ。クズに殺されないためにクズになるより、クズを許さないって考えるほうが良い。

 
あすみ(それでも私ももう戻れない。結局潔白にはなりきれない…… 矛盾してるのが腹立つ)


 正しいことだけして負けないのは恵まれてる人だけ――そして私はそうじゃない。そんなこと、前からわかってたことだけど。

 幸い、無駄遣いする癖はついてないから前の家から持ってきたお金は結構もってた。でもそれもこの前尽きたし。


 ……そういえば、思ったよりは使えていた携帯ももう使えなくなったんだった。ただのガラクタだ。

 データだけは入ってるから、昔のメールを見て懐かしむ……くらいには使えるが、位置情報とか取られてもマズい。

 社会からほとんど接点の消えたアイツがこの世からいなくなったのに気づかれるのは時間がかかったが、ついに行方不明扱いになったらしい。



 街中から遠ざかり、外れまで足を進めてきた。

 人目の届かない草原とかなら寝転んでも心地よさそうかもしれない、と思い始めたところで、ぽつんと建物の明かりが見えた。



あすみ(教会……? こんなところにあったんだ)



 もうこの街は探索し尽くしたと思ってたのに、まだ知らない場所があったのか。

 この辺りって、なぎさがマミに特訓つけはじめた頃に最初だけ使ってたとこだったか。人がいたから移ったんだった。

625 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/04(日) 00:28:22.09 ID:L4Y/CL/90
---------------------
ここまで
次回は4日(日)18時くらい…にできたらいいなあ
759.44 KB Speed:0.6   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)