【安価】ガイアメモリ犯罪に立ち向かえ【仮面ライダーW】

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

107 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/13(土) 11:23:48.29 ID:RHhQBJf20
「世迷い言を…っ!?」

 襲いかかろうとしたアイソポッドドーパントの体が、突然固まった。

「ガイアメモリ…地球の記憶…それ自体は真実です。しかし、人間のものではない。それは偽り」

「ぐっ…うぐぅっ…」

 もがき苦しむドーパント。リンカ…トゥルースドーパントは、杖を振りかざした。その先端に、無数の金色の光弾が顕現する。

「終わりです」

 光弾が、一斉にドーパントを襲った。

「あ゛あああっっ!!!?」

 目も眩む爆炎の中で、アイソポッドドーパントがもがく。もがきながら、叫んだ。

「お、おのれ…おのれ、おのれ、おのれぇぇぇえぇぇええっっ!!」

 突然、その体がどくんと脈打った。硬質な殻が何倍にも膨れ上がり、遂には人間離れした巨大なダンゴムシめいた怪物へと成り果てた。

「…」

 トゥルースドーパントは、更に光弾を撃ち込もうとした。しかし、そこで足元に横たわる徹に気付いた。

「っ…リンカ…」

 彼は、震える手でドライバーを握り締め、必死に起き上がろうとしていた。

「…」

 彼女は、杖を下ろした。そうして、代わりに徹の体を抱き上げると、七色の翼を広げた。
 輝く体が、宙へと舞い上がる。そのまま彼女は、倉庫の屋根を突き破り、怪物のもとから飛び去ってしまった。
108 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/13(土) 11:26:26.35 ID:RHhQBJf20
『Fを探せ/捕食者の牙』完

多分今日はここまで
109 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/13(土) 11:39:10.57 ID:RHhQBJf20
『アイソポッドドーパント』

 『ダイオウグソクムシ』の記憶を内包するメモリで、ガイアメモリ工場長の真堂が変身したドーパント。全身が硬い殻に覆われ、殆どの物理攻撃が通用しない。防御面だけでなく、棘の生えた四肢による攻撃も強力。また、メモリの力を最大限解放することで、巨大な怪物態『ジャイアント・アイソポッド』へと変化する。モデルとなったダイオウグソクムシ同様、エネルギー効率が異常に高く、ドーパント態でいる間は年単位で食事を摂らなくても生きていける。過剰適合者なら、生身でも飲まず食わずで生きていけるかもしれない。
 ミュージアム壊滅後に新造された、完全に新種のガイアメモリ。戦闘能力以上にこのメモリは、製造した組織が地球の記憶、すなわち『地球の本棚』へアクセスする権限を持っていることを示す、極めて重大な証拠となっている。
 メモリの色は赤茶。いくつもの節に脚と触覚が生えた、等脚類(ワラジムシの仲間)めいた意匠で『I』と書かれている。
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/13(土) 12:12:20.61 ID:9m7XiEz/0
おつ
>>109は面白い設定のガイアメモリだ
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/13(土) 17:07:26.18 ID:2Inh9IzU0
『クエスト』

「探索」の記憶を持つガイアメモリ
相手の弱点の追及のほか、幻惑攻撃などを無効化する

主人公がファンタジーならクエストも必要かなーって
112 :もうちょっとだけ続くんじゃ  ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/13(土) 18:10:57.55 ID:RHhQBJf20
「…うっ、うぅ…」

 痛みに目を覚ますと、真っ白な天井が目に入った。その視界に、すぐにリンカの顔が割り込んできた。

「気が付きましたか」

「リンカ…?」

 どうにか体を起こすと、そこは病院の個室であった。ベッドの横には、リンカだけでなく植木警部の姿もあった。

「ここは…」

「警察病院だ」

 植木は、硬い顔で答えた。それから、徹が何か言う前に、彼に詰め寄った。

「何故隠していた。本当は…君が、仮面ライダーだったということを」

「えっ」

 徹は思わず、リンカの方を見た。彼女は、気まずそうに言った。

「…貴方ほど、上手に偽れませんでした」

「…」

 徹は溜め息を吐いた。思えば、あの時彼女が使ったのは『真実』のメモリだ。元々嘘を吐けない性質なのかも知れない。

「…怒らないでくださいね。あの時はまだ、あなた方を信用しきれていませんでした」

「警察をか」

「はい。…と言うより、警察が仮面ライダーをどう見ているのかが分からなかった。警部も、初めて仮面ライダーを見た時は、ドーパントに準じた対応をなさったでしょう?」

「それは…」

「敵か味方か分からない。その上で人間離れした力を持つ存在が、身近にうろうろしていては、お互いに落ち着かない。そう考えて、仮面ライダーという存在に対する信用が得られるまでは、正体を伏せさせていただこうと考えました」

「…そうか」

 植木は疲れたように首を振った。

「言いたいことは大体分かったよ。どっちにしても、もう過ぎた話だ。君を…仮面ライダーを疑うことはしない。ここだけの話、課ではガイアメモリだけじゃなく、仮面ライダーの動向も探ってたんだ。何処の誰なのか、目的は何なのか…」

「やっぱり」

「だが…何度も言うが、もう過ぎた話だ。これからは、純粋な味方として頼りにさせてもらうよ」

 植木は笑顔で徹の肩を叩いた。それから立ち上がった。

「じゃあ、今日は戻るとしよう。大まかな話はこの人から聞いた。…ゆっくり休んでくれ」

「ありがとうございます」
113 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/13(土) 18:11:31.26 ID:RHhQBJf20
 立ち去ろうとして、思い出したように鞄の中から、一枚の封筒を出した。

「そうだ、頼りっぱなしじゃ何だ。前に君から聞いていた人物について、調べておいたから目を通してくれ。じゃあ」

 病室を出る植木に、徹は黙って頭を下げた。



「兎ノ原美月…風都出身で、生きていれば現在17歳。5歳の頃に両親が離婚し、母子家庭に育つが、7歳の頃に母親の恋人と同居するようになって以後、2人から虐待を受けるようになった。特に母親の恋人からは性的な虐待を受けていたらしい。児童相談所と警察の働きによって保護され、孤児院で暮らすようになるが、14歳の頃に孤児院から失踪。現在は行方不明」

 調査書には、孤児院時代の彼女の写真が同封されていた。ぼろぼろの人形を握りしめてぎこちない笑みを浮かべる、隈の浮いたその顔は、確かに公園で彼を誘った少女のそれであった。

「親に愛されなかった少女にとって、母神教、『お母様』は、文字通り母親みたいな存在なんだろうか…」

「…」

 ぼやく徹を、リンカはじっと見つめている。その口が、小さく動いた。

「…だとしても母神教は、野放しにできません」

「そう、そうだよ。さっきから気になってたんだ」

 徹は身を乗り出した。

「あのダンゴムシ怪人が、何でそんなに重要なんだ? 新種のメモリがあると、何が大変なんだ」

「それを説明するには、ガイアメモリの仕組みについて話す必要があります」

「どうせ入院してて退屈なんだ。じっくり聞かせてくれよ」

「分かりました」

 リンカは頷いた。

「…まず、ガイアメモリの仕組みについて。ガイアメモリはその名の通り、ガイア…すなわち地球の保持する情報を記録したメモリスティックです」

「うん」

「記録するからには、基になる情報が必要になります。この地球に存在する、あらゆる事象…生物や物体、果ては概念に至るまで、全ての知識を収めた空間が存在します。これを、『地球の本棚』と呼びます。地球の本棚で採取した情報を記憶媒体に書き込むことで、ガイアメモリが造られるのです」

「うん…うん?」

「ミュージアムがガイアメモリの製造を始めたのは、この地球の本棚にアクセスする権限を得たからです。正確には、ミュージアムを運営する家族の一人が、ある事件をきっかけにこの本棚に入り、地球の持つ記憶を本として閲覧する能力を得た」

「うん…?」

 話があちこちへ飛び始めて、徹はだんだん訳が分からなくなってきた。

「しかし、この人物…少年Rとしましょう。少年Rは、ある私立探偵によって拉致、と言うより保護されました。以降、彼はその私立探偵と共にミュージアムと敵対。ミュージアムは、ガイアメモリ開発の手段を失うことになりました」

「えっと…それで、新種メモリが造れなくなった、と?」

「はい。結局、少年Rは自身の手でミュージアムを壊滅させました。正確には、私立探偵と共に、ですが…まあ、それは良いでしょう。ミュージアムも、一時期は新たに地球の本棚にアクセスできる人間を創り出したようですが、それもすぐに死亡しました。つまり、現在に至るまで、地球の本棚にアクセスし、新しいガイアメモリを開発しようとする人間は存在しないのです」

「いや…その少年Rとやらが、また戻ってきたんじゃないか」
114 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/13(土) 18:11:58.99 ID:RHhQBJf20
「あり得ません」

 リンカは、きっぱりと否定した。

「どうして」

「少年R…彼は他でもない。風都の仮面ライダー、その人ですから」



 その頃、別の病室で同じく目を覚ました者がいた。

「くっ…うっ」

 苦しげに呻きながら起き上がった、一人の少女。やつれた顔で周囲を見回すと、いらいらと首を振った。

「チクショウ…あの、仮面ライダー…!」

 悪態をつきながらベッドを降りようとして、床に崩れ落ちた。どうにか立ち上がろうと差し上げた手を、別の手が掴んだ。

「先生…!」

「ようやく目が覚めたのね、エミ」

 柔らかな声で言う人物。それは、黄色いスーツを着て眼鏡を掛けた、中年の女であった。
 少女の顔が、歓喜と怯えの混じった、複雑な表情に染まる。女は穏やかな笑みを浮かべたまま、少女を助け起こした。

「ずっと待ってたわ。あなたや、カケルが起きるのを」

「先生…ごめんなさい」

「良いの。人生には、失敗も必要よ。…何故なら」

 女は、スーツの懐から、一本のガイアメモリを取り出した。

「!」

「失敗を乗り越えて、人は成長するものだから」

 少女の手に、毒々しいオレンジ色のメモリを握らせる。メモリには、攻撃的な形状をした蟻が、細長い脚と触覚を伸ばして『F』の字を形作っていた。

「さあ…成長してみせて。期待しているわ」

「はい…先生」

 少女はゆっくりと頷くと…手首のコネクターに、メモリを突き立てた。



『ファイアーアント』



115 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/13(土) 20:00:57.74 ID:RHhQBJf20
”火事です 火事です 病棟2階、特別処置室で火事です”

「!?」

 突然鳴り響いた非常ベルに、徹は思わずベッドから飛び降りた。そして、腹を押さえた。

「ぐぅっ…」

「じっとしてて。今、確認してきます」

 リンカは、病室の外へ飛び出した。
 数分後、戻ってきた彼女は、徹の肩を抱いて立たせながら、言った。

「ドーパントの襲撃のようです。逃げましょう」

「何だと…」

 彼は、懐からドライバーを出そうとして…今着ている病衣に、それが無いことに気付いた。

「ドライバーはここです」

「サンキュ…っとぉ!?」

 取り出してみせたドライバーを、リンカは素気なく引っ込めた。

「今の貴方は万全ではない。まずは自身の安全が第一です」

「だが、俺が戦わないと…!」

 その時、廊下で爆音が響いた。



「仮面ライダーはどこだぁーっ!!」



「!」

 徹はリンカを振り払うと、声のする方へ走り出した。
 そこでは、毒々しい橙色をした、蟻のような怪人が、逃げ惑う病棟のスタッフに火の玉を吐きかけているところであった。

「動くな!」

 駆けつけた警官隊が、陣形を組んで銃を構える。

「邪魔だあっ!」

「わあっ!?」

 しかし、燃え盛る火の玉に、警官たちは呆気なく引き下がった。
 代わりに、徹が前に進み出た。

「おい、ドーパント!」

「! お前は…」

 蟻人間が、徹の存在に気付いた。その反応に、彼は首を傾げた。

「ん? お前、どこかで会ったか?」

「とぼけるな…」

 ドーパントの体が解けていく。中から現れたのは、あの日路地で彼にメモリを売りつけようとした、二人組の密売人の、女の方であった。彼女も徹と同じ警察病院の病衣を来て、手にはオレンジ色のメモリを握っている。

「お前、まだ懲りてなかったのか」

「うるさい! 先生に、任されたの…だから、やり遂げないと!」

『ファイアーアント』

「まずは…仮面ライダー、お前を殺す!」

「徹!」

 そこへ、リンカが走ってきた。彼女は、頼りなく立ち尽くす徹と、蟻のドーパントを順に見て、諦めたように言った。

「…仕方ありません。この程度の敵なら、今の貴方でも倒せるでしょう」

「ああ、任せとけ。それと…」

 投げ渡されたドライバーとメモリを受け取ると、徹は照れくさそうに言った。

「…初めて、俺のこと名前で呼んだな。リンカ」
116 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/13(土) 20:01:42.55 ID:RHhQBJf20
「!」

 彼女の頬が、微かに朱く染まるのを、彼は見ないフリをした。

「…変身」ファンタジー!

「仮面…ライダぁーっ!!」

 飛んでくる火の玉を躱すと、ファンタジーは手に剣を出現させた。攻撃の隙間を縫って接近し、斬りつける。

『せいっ!』

「ふんっ!」

 剣と腕がぶつかり合う。数合打ち合うと、遂にファンタジーの斬撃が敵の肩を直撃した。

「くぅっ…!」

 痛みに苦しみながらも、両腕で剣を捕らえると、至近距離で火の玉を吐き出した。

『おっと!』

 咄嗟に剣を手放し、跳び下がる。

「炎? 『アント』のメモリに、そのような能力は」

『さっきファイアーアントって言ってたぞ?』

 ファンタジーの言葉に、リンカが目を見開く。

「『ファイアーアント』…ヒアリ!? これも新種のメモリですか」

『関係ないさ。炎には…』

 マントを翻し、魔術師の姿に変化する。

『…水だ! 喰らえ!』

 両手を突き出すと、魔法陣から激しい水流が噴き出し、ドーパントを襲った。

「ぎゃあぁぁぁっ!」

 煙を上げ、のたうち回るドーパント。
117 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/13(土) 20:03:23.22 ID:RHhQBJf20
『トドメだ……うぐっ!?』

 ドライバーからメモリを抜こうとして、突然ファンタジーが腹を押さえて呻き出した。前の戦闘の傷が、また痛みだしたのだ。

「やはりまだ早かったですか…!」ミサイル

 リンカは銃を抜くと、ミサイルのギジメモリを装填し引き金を引いた。
 何発ものミサイルが直撃し、体勢を立て直そうとしたドーパントが再び倒れる。
 リンカはギジメモリを抜くと、ファンタジーに向かって銃を投げ渡した。

「これを使って!」

『おっと…分かった!』

 黒い銃のスロットに、ファンタジーメモリを装填し、銃身を変形させる。

『ファンタジー! マキシマムドライブ』

『ファンタジー・ウィザードバレット!!』

 引き金を引くと、銃口の先に巨大な水の球体が現れた。球体は見る見る内に膨れ上がり…爆ぜて、無数の水の弾丸となってドーパントを襲った。

「あっ、あ゛あっ、い゛やああっっ!!!」

 水に包まれたドーパントの体が、ぼろぼろと崩れ落ち、中から少女の体が出てくる。床に倒れ伏した彼女の手首から、オレンジのガイアメモリが抜け落ち、そして砕け散るのを見届けると…ファンタジーは、その場に崩れ落ちた。
 駆け寄ってくるリンカ。更にその向こうから、数人のスタッフが話しているのが聞こえる。

「大変です、患者の数が合いません」

「特室の火川くんは?」

「それが、避難させようとした時にはもう…」

 それを聞きながら、ファンタジー…徹は意識を失った。
118 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/13(土) 20:05:51.73 ID:RHhQBJf20
『Tにご用心/失敗は成功のもと』完

今度こそ今日はここまで
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/13(土) 20:12:45.45 ID:NGyvMBgdo
おっつおっつ
そういえば息抜き・ギャグ回は予定あるんだろうか
あるならそんな感じの(親子丼ドーパント的なの)も投げるんだけど
120 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/13(土) 20:15:00.28 ID:RHhQBJf20
『ファイアーアントドーパント』

 『ヒアリ』の記憶を内包するガイアメモリで、元密売人のエミが変身したドーパント。オレンジと黒の、禍々しい蟻のような姿を持つ。背中には大きな棘が生え、鋭い顎からは火を吐くことができる。また、相手に噛みついて、生身の人間なら即死するほどの強力な麻痺毒を流し込むこともできる。
 メモリの色は毒々しいオレンジで、長い触覚と脚を伸ばした攻撃的な外見の蟻が『F』の字を形作っている。アイソポッドメモリと同様、ミュージアム壊滅後に造られた新種のメモリ。
121 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/13(土) 20:18:57.17 ID:RHhQBJf20
(寿司食いながら、そう言えばギャグ回挟まないとなって考えてました)

(寿司食いながら、もうドーパントまで考えちゃいました)







(相手の視覚と嗅覚と、そして味覚を完膚なきまでに潰す、恐るべきドーパントを考えちゃいました)
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/13(土) 20:22:34.29 ID:NGyvMBgdo
ツーンとなりそうなドーパントだ
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りしま [sage]:2019/07/13(土) 23:54:47.21 ID:21Vs0zar0
プレシオサウルスドーパント

プレシオサウルスのメモリで変身する怪人
怪人だが変身した際は巨大な首長竜になる、陸上でも戦闘が出来るが、真価を発揮するのは海中である
Wだからやっぱり恐竜系のメモリを出してみた
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/14(日) 00:11:43.65 ID:UDt2qwsb0
アーチャーメモリ
『射手』の記憶を内包したメモリ。
弦を引きしぼる弓矢がAを象っている。
アーチャードーパントは左手が弓のように変形し、右手で弦を引きしぼる事でエネルギーを収束・発射する事が可能。
連射力・威力共に申し分ないが、命中率は本人の実力に依存する為、使い手が問われるメモリである。
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/14(日) 02:29:15.43 ID:w6ArOq5X0
コントラクトメモリ


 『契約』の記憶を内包したメモリ。鎖と左中央の南京錠がCを象っている。最初にボタンを押して契約内容を読み取らせて設定し、対象に手渡すだけで対象が契約者となる。自分自身に契約を課すことも可。
コネクタに接続せずとも契約を守り通すことで所持者に加護が付与され、肉体的にも精神的にも契約遂行を手伝う。

 コントラクトドーパントは契約を守り続けた通常態と、契約違反して強制変身した暴走態がある。共通して鎖を全身に纏っており、違いは胸部中央部の大きな南京錠が閉じているのが通常態、開いているのが暴走態である。
当然暴走態の方がメモリからの毒素が濃く、鎖を身体から引き抜いて鞭にする等、手段を選ばす契約遂行しようとする。

 契約達成するとメモリ排出と同時に、報酬として対象から毒素を取り除いて肉体強化を授ける珍しく親切なメモリ。
ただし改造されたコントラクトメモリは対象者から毒素と同時に記憶と意識も奪う。奪われた記憶と意識と無防備な肉体はどこへ回収されるかは・・・


 従順なしもべを無差別に即座に用意できる点から、量産化に成功すればマスカレイドよりも便利かもしれない。
弱点は契約内容を遂行しようとして肉体が保つかどうか。或いはメモリの位置である南京錠を攻撃すれば簡単にメモリブレイクできる。ただし南京錠は堅く、威力が不十分であれば開いて暴走態になってしまう。

ついでに南京錠や契約や鎖故に、
『キーメモリやタブーメモリ(で強制通常化・暴走化)』
『ヒートメモリ(で鎖溶けて契約遂行阻害)』
等にも影響されやすい
126 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/14(日) 15:01:36.74 ID:ZPJfsSAI0
「…」

 ベッドに仰向けになったまま、徹はじっと天井を見つめていた。横では、リンカがペティナイフでりんごの皮を剥いている。

「…なあ、リンカ」

「じっとしていてください」

 起き上がろうとする彼の鼻先に、ペティナイフを突きつける。徹は慌てて、ベッドに背中を押し付けた。

「心配なのは分かるけど…俺、もう大丈夫だから」

「前もそう言っていたような気がします」

 素気なく言うと、彼女はりんごを一切れ、ナイフに刺して彼の口元に差し出した。

「う…」

 徹は黙って、突き出されたりんごを齧った。咀嚼しながら、ずっと気になっていたことを口に出した。

「…あんた、ドーパントだったんだな」

「…」

 リンカは、ナイフを引っ込めて彼を見た。そして、頷いた。

「…ええ」

「『拾い物』って言ってたな。それは…この街で拾ったのか? それとも風都で?」

「ミュージアムが壊滅した直後…」

 彼女は、齧りかけのりんごを口に入れた。数度咀嚼し、ごくりと飲み込む。

「…事後処理のために、私は風都を訪れました。前任者が独断で余計なことをした、その尻拭いも兼ねて。その際に、旧園咲邸…ミュージアム幹部の自宅で、数本のガイアメモリを回収しました。これは、その内の一本です」

 彼女の手に握られた、金色のガイアメモリ。天秤を象った『T』の文字からは、今まで見てきたメモリとは比べ物にならないほどの、強い力を感じる。

「どうやら、このメモリは私によく適合しているようでした。そこで、一緒に回収したドライバーと共に譲っていただきました。…まあ、実際に使うのは初めてでしたが。せいぜいお守り程度の認識でしたので」

「そうだったのか。……済まなかった」

「何が」

「俺が弱かったせいで、あんたまで戦わせてしまった。ドーパントになってまで…」

「今更です。これまでも私は、Xマグナムで戦闘に参加していました」

「だが、それとは訳が違う。だって」

「ガイアメモリの副作用を気にしているのなら、それは不要です。旧式のガイアドライバーとは言え、きちんと機能しているので、メモリの毒性はほぼ完全に除去されています」

 そこまで言って、彼女はりんごをもう一切れ、切り取って徹に突き出した。

「…済まないと思うのなら、きちんと体を回復させることです。次、貴方があのような危機に陥れば、私は一切の躊躇なくメモリを使用します」
127 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/14(日) 15:02:19.73 ID:ZPJfsSAI0



 聖堂に設けられたベッドの上で、火川カケルは目を覚ました。

「っ…こ、ここは…」

「おはよう、カケル」

「! 先生っ!」

 黄色スーツの女に声をかけられて、彼は慌てて起き上がった。聖堂を見回して、尋ねる。

「先生、ここは…?」

「ここは、母神教の本部。『お母様』のお膝元よ」

「お母様の…」

 きょとんとするカケル。確かに、先生の言葉に『お母様』という単語は幾度となく聞いた。しかし、彼にとって尊敬すべき相手は目の前の女であって、それより上の存在をはっきりと意識したことは無かった。
 そんな彼に、ヴェールの向こうの存在が口を開いた。

”火川カケル。…愛しい、母の子”

「!」

 女が、その場に跪く。カケルは戸惑いながらもベッドを降りると、女に倣った。

”よくぞ、ここまで帰ってきてくれましたね。母は、嬉しいです”

「ど、どうも…」

”…あなたは、仮面ライダーとの戦いを生き延び、再び目を覚ましました”

「! …はい」

 少年は頷く。同時に、このヴェールの向こうの存在が言わんとすることを察した。

「ぼくは、メモリを渡そうとした相手が変身するところを見ました」

「それは、どんな人だった?」

 すかさず、女が質問する。少年は「名前までは分かりませんが」と断った上で、目の前で仮面ライダーとなった男の特徴を、できる限り詳しく説明した。また、彼に変身用のドライバーとメモリを与えた女についても話した。
 一通り聞き終えると、『お母様』は満足げに言った。

”ええ。英生の言葉とも一致します。どうやら、間違いないようですね”

「よくやったわ、カケル」

 女は誇らしげに、彼の肩を叩いた。

「あなたは、私の自慢の生徒よ」

「あ…ありがとうございます!」

「あなたになら…」

 女は、懐からオレンジ色のガイアメモリを抜き出した。

「!」

「…私の、手伝いを任せられるわ」
128 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/14(日) 15:02:45.51 ID:ZPJfsSAI0
「…は、はい」

 カケルは、震える手でメモリを受け取った。



 夜の通りを、病院から出たリンカは一人で歩いていた。ファイアーアントドーパントの襲撃で一部損害を受けたものの、病院機能にはさほど影響が無かったとのことで、徹は引き続き警察病院に入院している。しかし、懸念事項は残っていた。メモリブレイク後、昏睡状態だった元密売人が、いかにして新たなガイアメモリを手にしたのか。加えて、ファイアーアントメモリもまた、リンカの持つ財団Xのリストに無い、新種のガイアメモリであった。
 リンカは既に、財団に追加支援を要請している。敵がガイアメモリを開発する手段を持っていること、仮面ライダーにさらなる力が必要であることを、強く伝えてある。

「今は、待つのみ…」

 呟きながら…リンカは、おもむろに鞄に手を入れ、Xマグナムを名付けた銃を抜いた。そしてそれを頭上に向けると、躊躇なく引き金を引いた。

「!」

 銃声。それからやや遅れて、彼女の目の前に、一体の怪人が降りてきた。
 それは、ミヅキを追い詰めた時に現れた、蜂女であった。

「よく、私の尾行が分かったわね」

「いやしくも蜂に扮するのなら、羽音の周波数くらい勉強してください」

「この私に『勉強しろ』と? なかなか面白いことを言う」

 リンカは何も言わず、銃を向けた。

「目的は何ですか。私達が奪取したラビットメモリですか」

「ラビットメモリ? …ああ、そう言えばそんなのもあったわね。今の今まで、すっかり忘れていたわ」

「どういうことですか。貴女は、兎ノ原美月の仲間ではないのですか」

「知らないわよ、あんな出来の悪い生徒」

 蜂女は、吐き捨てるように言った。

「とっくにその辺に捨てたわ。必要な情報も手に入れたもの。…そう」

 鋭い顎を、カチリと鳴らす。

「私の、優秀な生徒のおかげでね」

「生徒…『先生』…!!」

 何かを察し、走り出そうとしたリンカの前に、蜂女は立ち塞がった。

「もう気付いたの。あなたが、私の生徒だったら良かったのに」

「そこを通しなさい。さもなくば」

「真堂から、仮面ライダーよりあなたの方が危険であることは聞いてるわ。せいぜい、私の足止めに付き合って頂戴」

「お断りします」フラッシュ

「っ!?」

 リンカの銃から、凄まじい閃光が迸った。複眼に強い光を食らった蜂女は、思わず仰け反った。

「お、おのれっ」

 首を振り、どうにか視力を取り戻す頃には、既にリンカの姿は無かった。
129 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/14(日) 15:03:32.75 ID:ZPJfsSAI0



「はあっ…くそっ」

 病棟の廊下を進みながら、徹は悪態をついた。
 リンカが帰った直後、またしてもドーパントが病院を襲撃した。今度は検査室を占拠し、仮面ライダーを連れてこいと宣っているのだという。
 この連日の襲撃は何だ。遂に、敵が超常犯罪捜査課を潰しに来たのか。それとも、仮面ライダーたる徹がこの病院に入院していることが、敵にバレたのか…?

「はぁっ…変身」ファンタジー!

 傷ついた体をおして、仮面ライダーに変身する。ドライバーを没収されなくて良かった。

『っ…ドーパントっ!』

 検査室に踏み込んで、あまりの熱に彼は思わず引き下がりかけた。

『な、何だこりゃ…』

「やっと来たね、仮面ライダー!」

 陽炎の向こうに、一人の少年が立っている。

『今度は、お前か』

「そう。あの時は遅れを取ったが、今度はそうは行かないよ」ファイアーアント

 オレンジ色のメモリを手首に刺すと、少年はヒアリのドーパントに変身した。

『お前もヒアリか…だったら!』

 ファンタジーは魔術師の姿になると、両手を掲げた。

『弱点は分かってる。喰らえ!』

 魔法陣から、水流が迸ってドーパントを襲った。ところが

「…ああ。ぼくにも分かってる。だから」

 彼は、身をかがめて水流を躱した。躱された水は、熱せられた壁にぶつかると、たちまち白い蒸気となった。

『! しまった』

 大量の煙が部屋を埋め尽くす。視界が白に染まり、ファンタジーは身構えた。

『どこに隠れた…!!』

 物音に、咄嗟に突き出した両手が、ファイアーアントの両顎を捕らえた。

「ふんっ!」

『くうぅっ…』

 力任せに押してくるドーパント。いつものファンタジーなら力負けすることは無いだろうが、今の彼は万全ではなかった。

『く、あ、あっ』

 仰向けに押し倒されるファンタジー。その背中を、熱せられた床が苛む。

「どうだ、仮面ライダー…!」

『くっ、ぐうっ、う…』

 じりじりと、尖った顎が彼の喉元に迫る。その距離が、見る見る内に狭まり、そして…



「徹!」

 部屋に飛び込んだ瞬間、絶叫が木霊した。

『ぐわああぁあぁぁっ!!』

「徹……っ!!?」

 晴れていく霧の中に、彼女は見た。オレンジと黒の怪人に組み倒され、肩口に鋭い牙を突きつけられた仮面ライダー…戦友の姿を。
130 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/14(日) 15:03:59.99 ID:ZPJfsSAI0



『トゥルース』


131 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/14(日) 15:05:07.85 ID:ZPJfsSAI0
「っ、はあっ…やった…先生、やりました!」

 動かなくなった仮面ライダーから牙を抜き、彼は歓喜に叫んだ。強力な毒を流し込んだ。仮面ライダーとは言え、当面は起き上がれないだろう。これで、お母様の…そして、先生の期待に応えることができた。

「ぼくが、ぼくが一番優しゅ」

 言いかけたその口が、途中で止まった。
 胸の辺りに違和感を感じ、視線を下に向ける。

「…え?」

 そこには、白い羽が深々と突き刺さっていた。
 彼が状況を把握するより先に、彼の体を金色の光弾が襲った。

「ぎゃああっ!?」

 壁まで跳ね飛ばされるドーパント。どうにか起き上がった彼は、ようやく理解した。
 仮面ライダーを庇うように立つ、エジプト女神めいた黄金の怪人を。……その、怒りに燃える瞳を。

「…た、たすけ」

 ぽつりと呟く彼の目の前で、女神は七色の翼を広げた。そこから、無数の羽が矢となって飛来し、彼を次々に刺し貫いた。

「あっ、ぎゃあっ、あがっ…ぐぁ…っ」

 腕がちぎれ、胸が砕け、頭が潰れても、攻撃が止むことは無かった。



 ___数分後。そこには、仰向けに倒れて動かない仮面ライダーと、それに物言わず縋り付く白スーツの女と、そして砕けたガイアメモリにぐちゃぐちゃの肉塊だけが残されていた。
132 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/14(日) 15:05:39.50 ID:ZPJfsSAI0
『Tにご用心/怒れる女神』完

今日はここまで
133 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/14(日) 15:46:14.76 ID:ZPJfsSAI0
『一角獣型ガイアメモリ メモコーン』

 自律稼働するユニコーン型ガイアメモリ。『セイバー』と『クエスト』2本のガイアメモリを内蔵しており、両脚を畳み、角を後ろに倒すことでセイバーメモリが、後ろ脚を回転させることでクエストメモリが出てきて、ロストドライバーに装填・展開することができる。展開した時、メモリ本体がセイバー側だとユニコーン、クエスト側だとグリフォンの頭部に変形する(ダブルドライバーに装填したファングメモリが恐竜の頭になるみたいな)。
 後述するクエストメモリの能力に加えて、メモコーン自体に解毒機能が備わっており、使用者に付いた毒を無効化することができる。



『セイバーメモリ』

 『剣』の記憶を内包する、次世代型ガイアメモリ。古今東西、あらゆる刀剣に加え、架空の刀剣をも再現することができる。また、エクスカリバーや草薙剣といった剣にまつわる伝説から、このメモリは『英雄の力』としての側面を持っているため、単なる切れ味以上に『悪』に対して強い力を発揮する。
 ファンタジーが騎士の姿で使用することで、鎧に青い装甲が追加され、専用剣『ジャスティセイバー』が出現する。
 メモリの色は青。シャムシールめいて『S』の字に弧を描く剣が描かれている。



『クエストメモリ』

 『探求』の記憶を内包する、次世代型ガイアメモリ。いかなる困難な課題に対しても、必ず解決するための道筋を示す力を持つ。これを応用することで、敵の弱点を看破したり、幻覚などの弱体化を解除することができる。また探求だけでなく、それを成し遂げる力・意志を概念として含んでいるため、使用すると防御や耐久も強化される。
 ファンタジーが魔術師の姿で使用することで、ローブに赤い装飾が追加され、専用杖『クエストワンド』が出現する。
 メモリの色は赤。虫眼鏡を象った『Q』の字が描かれている。
134 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/14(日) 15:51:14.45 ID:ZPJfsSAI0
(本編前に玩具のCMでネタバレされることってあるよね)

(関係ないけどファングメモリは平成ライダーの中間強化ガジェットとして最高傑作だと思うの 設定はもちろんだけど、ギミックも格好良くておまけに一切無駄がない)
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/14(日) 20:03:51.48 ID:adx0k0Ev0
このあと最強武器が出ますっていう中間フォームの特性上、最終フォーム後は要らない子になりがちな中間フォームだけど
FJはフィリップがメインで使うっていう最大の特徴で、要らなくなりようがないのすごいよね
中間と思ったが実質最終だったタジャドルさんと並んで確固たる中間フォームだと思う
136 : ◆iOyZuzKYAc [sage]:2019/07/14(日) 21:07:17.76 ID:ZPJfsSAI0
(ファングメモリの何が凄いって、ドライバーに装填した後も格好良いのが凄い)

(恐竜の胴体なんて邪魔くさい付属品になりそうなのに、バッチリ恐竜の頭部に変形して、おまけに開いた顎の間に『F』が来るとか天才か)



(ちなみに次点でNSマグフォンが好き。ガラケー状態だとマグネットスイッチ自体が邪魔くさいのが玉に瑕だけど)
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/15(月) 02:14:12.62 ID:8Pan0DGo0
次の中間フォームがラビラビタンタンに近い各形態の強化フォームだから、最終フォームは両特性をフルパワーで扱えるのが望ましいねぇ
メモリはどうなるんだろ、『ブレイバーメモリ(勇者の記憶)』とかそんなんかしら?RPGで剣も魔法も扱えるのは勇者と相場が決まってるし

あれ、これタドルレガs
138 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/15(月) 14:04:21.05 ID:l6qhdZk40
 警察病院、集中治療室。超常犯罪捜査課の警官たちによって、厳重に警備されたこの部屋のベッドには、仮面ライダーが横たわっていた。そう、仮面ライダーが、である。

「このまま治療するのは無理ですよ!」

 途方に暮れた医師が言った。

「手術も注射もできない…脈すら取れないのに!」

「今、変身を解除するのは不可能です」

 リンカはきっぱりと言った。

「現在、彼の体内ではガイアメモリの力と、ドーパントの毒素が拮抗している状態です。このまま変身を解除すれば、彼の身を守るものが無くなり、即座に死亡します」

「そう言われても…」

 ベッドに横たわり、苦しげに呻く仮面ライダーに目を遣る。

「えっと…力野さん、なんですね?」

『う…そ、そうです』

 小さい声で、彼は答える。

「今、ご気分はどうですか。どのくらい苦しいですか」

『何とか、先生とお話しできるくらい…っ、ごほっ』

「徹、無理をしないで」

 リンカが彼の肩に手を置く。
 今、仮面ライダーが重体だと知れたら、敵からチャンスとばかりに刺客が送り込まれるだろう。そうなれば、今度こそ彼の命は無い。リンカにとって、彼を守るため、己が怪物となることに抵抗は無かった。しかし、またあのような惨劇を繰り返しては、他ならぬ彼自信が悲しむに違いなかった。それが、彼女は嫌だった。

「…必ず、手はあるはず」

「とにかく、ヒアリの毒について調べないと…」

 その時、どこからか微かにメロディが聞こえてきた。

「誰だ、ICUに携帯持ち込んだのは…」

「! これは」

 音の発信源は、病室から持ってきた徹の鞄、その中にある彼のスマートフォンであった。

『誰からか、書いてあるか…?』

「『藤沢』と」

『! 出て、俺の耳に当ててくれ』
139 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/15(月) 14:05:01.30 ID:l6qhdZk40
 言う通りにすると、彼は電話の向こうの人物と会話を始めた。それは、彼が馴染みにしている、雑誌の編集長であった。



”力野くん、今大丈夫?”

『は、はい』

”? 今、具合悪いの? また今度にしようか?”

『いえ、大丈夫…ご用件は?』

”大丈夫なら良いけど…ちょっと、仕事をお願いできないかなって”

『! どんな仕事ですか』

”インタビューを頼まれたくてね。今、ちょっとした話題になってる教育評論家なんだけど…”



 こんな状態で仕事を受けるなんて、正気の沙汰では無かった。しかし、内容を聞く内、彼の中にある考えが浮かんだ。
 故に、彼は言った。

『分かりました…お任せください』

「徹!? 正気ですか」

『ただ…その日、私どうしても外せない用事がありまして…信頼できる同業者がいるので、その人にお願いしようと思います。…ええ、報酬もそっちに振り込んでいただく形で…』

 通話を終えると、彼はリンカの方を見た。

「まさか…」

 彼は、頷いた。

『ああ。…どうしても引っ掛かったんだ。俺の代わりに、受けてくれるか?』
140 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/15(月) 14:05:44.16 ID:l6qhdZk40
『蜜屋 志羽子 講演会 〜令和に愛を取り戻そう』

「…」

 白い立て看板を、リンカは黙って見つめていた。
 教育評論家・蜜屋志羽子。東都大学教育学部卒。北欧で先進的な教育システムを学び、帰国後は日本の教育制度改革を目指すが、その中で子供に対する大人の根本的な意識の違いに気付く。それを問題視し、改めるべく教育評論家として活動を開始。テレビや各種メディアに出演・出稿している他、私塾『愛巣会』を開設し、素行に問題のある児童の更生にも力を入れている。

「…確かに、引っ掛かる」

 リンカは看板から目を外すと、会場へと足を踏み入れた。
 蜜屋なる女は、聞く限りでは志の高い人物に思える。だがその一方で、と言うよりも、それ故に、彼女の思想は母神教と非常に相性が良いように思えた。恐らく、徹もそれが『引っ掛かった』のだろう。



「近年、児童虐待の件数は加速度的に増加しております。これは、市民の皆さまが虐待を見逃さず、通報するシステムが整ったこともあるでしょうが、虐待そのものが増えていることも紛れもない事実であります」

 壇上でスライドを示しながら、淀み無く話す中年の女。黒い髪を後ろで結い、明るい灰色のスーツを着たこの女が、蜜屋であった。

「物理的、心理的、或いは性的虐待といった、直接的に危害を加える行為は言語道断です。しかし、そうでなくとも、現代の子供たちは人生のあらゆる場面において、行き場を失くしています」

 会場の後ろの方で講演を聴きながら、リンカは漠然と、蜜屋に対して既視感を覚えていた。徹の家のテレビに映っているのは何度か見かけたことがある。だがそれ以上に、つい最近、彼女と直接相対したような、そんな気がしたのだ。

「外で遊べば『うるさい』と怒鳴られ、家に帰れば親は仕事でいない。保育園はパンクし、学校では過酷ないじめに曝されます。何より、子供たちに関わる大人たち自身が、既に疲弊し限界を迎えています。これは、いかに国や行政が、子供を軽視し、子供に関わる重要な役割を蔑ろにしてきたかを如実に示しています」

 スライドに、一枚の姿見が映し出される。鏡の下には一人の幼子が座っていて、鏡面にはやつれて傷ついた一人の女が映っている。

「子供は大人の鏡、社会を映し出す鏡です。大人たちは、口を開けば『最近の若者は』と言いますが、その若者を作ったのは他でもない、あなた方であることを自覚していただきたい」

 それから社会の現状、対策について述べ、表題にある『愛を取り戻す』ことについて話した後、彼女は自身の取り組みについて説明を始めた。

「『愛巣会』では、児童相談所だけでなく、お子様の成長に悩む親御さんからのご依頼にもお応えして、健やかな成長をサポートさせていただいております。勉強だけでなく、レクリエーションや地域への奉仕活動を通じて、互いを尊重する心、自分で考える強い意志を育むことを目標に…」

「嘘よ!!」

 突然、会場から怒声が飛んだ。

「…日々、活動を続けています」

「あんたのせいで、うちのユウダイは…」

 構わず講演を続ける蜜屋に、聴衆の一人が立ち上がった。それは、地味な服を着た40から50歳くらいの女であった。
 警備員が駆けつけて、喚く女を外へと引きずっていく。隣を通り過ぎた女を横目に見ながら、リンカは密かに、その顔を記憶に留めた。
141 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/15(月) 14:06:12.13 ID:l6qhdZk40



 控室のドアをノックすると、中から「どうぞ」と声がした。

「失礼します」

 控室に入ってきたリンカの顔を見て、蜜屋は一瞬、顔を強張らせた。が、すぐに元の柔和な表情に戻ると、予め用意してあったと思しき椅子に、彼女を座らせた。

「北風新報から来ました。円城寺リンカと申します」

「教育評論家と、愛巣会の塾長をさせていただいております、蜜屋です」

 急拵えの名刺を、蜜屋は丁寧に名刺入れに仕舞った。

「よろしくお願いします。では、早速ですが…」



 インタビューはつつがなく進んだ。蜜屋も、脇で見ていたマネジャーと思しき男も、リンカの仕事ぶりに対して、一切違和感を感じることは無かった。
 最後に、リンカは尋ねた。

「失礼ですが…先程の講演の最中、先生に対して抗議なさった方がいらっしゃいました」

「そうですね」

 蜜屋は、悲しげに首を振った。

「私の考え、行動については、必ずしも賛同を得られるとは思っておりません。あの方は、始めは私を信じて、大切な我が子を愛巣会に預けてくださいました。しかし、そこでお子様が得たもの、学んだことが、ご自身の期待したものと違っていたのでしょう」

「子供に求めるものに、食い違いがあったと?」

「ええ。私は、自分で考える力を重視し、あくまで言葉による指導を…」

 その時、廊下の方で誰かが騒ぐ声がした。

「…行っております。しかし、生まれ育った環境によっては…」

 彼女の言葉を遮るように、控室のドアが勢いよく開いた。

「蜜屋、志羽子…!!」

「君、止めなさい!」

「落ち着いて…」

 2人の警備員を押し退けて、一人の女が足音荒く部屋に入ってくる。それは、先程蜜屋に罵声を浴びせた女であった。

「…朝塚さん。お話は後で伺いますから」

「ユウダイを、返して…!」
142 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/15(月) 14:06:46.75 ID:l6qhdZk40
 女は、目に涙を浮かべながら言うと……



『アコナイト』



「!?」

 紫色のガイアメモリを、喉に突き立てた。

「う、あああああっっっ!!」

 女の体が、紫の花びらに包まれる。その隙間から、灰色の根が伸び、蜜屋を襲った。

「…」

 リンカは何も言わず立ち上がると、蜜屋の体を突き飛ばした。倒れた彼女のすぐ上を、鋭く尖った根が通り過ぎる。

「大丈夫ですか」

「…」

 一瞬、蜜屋と目が合った。彼女の顔に浮かんでいたのは、恐怖や困惑ではなく、苛立ちであった。
 しかし、彼女はすぐに、その表情を消した。

「あ、ありがとうございます。…」

 立ち上がると、紫の花の怪人…アコナイトドーパントに向けて、叫ぶ。

「…何をするのですか! このような、恐ろしいこと…」

「お前が、お前があああっ!!」

 根が、再び蜜屋に向かって飛んでくる。

「危ないっ…あ゛ああっ!?」

 庇おうと飛び出した警備員に、根が掠った。たちまち彼は胸を押さえて苦しむと、その場に倒れて動かなくなった。

「『アコナイト』…トリカブトですか。蜜屋さん、窓から逃げてください」

「で、ですがあなたは」
143 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/15(月) 14:07:15.99 ID:l6qhdZk40
「問題ありません」

 リンカは、鞄からXマグナムを抜いた。蜜屋は頷くと、窓を開けて逃げ出した。

「他の方も逃げて!」ミサイル

 言いながらミサイルメモリを装填すると、ドーパント目掛けて撃ち込んだ。

「どけ、どけっ! 邪魔するなっ!」

 根を振り回し、抵抗するドーパント。あくまで、狙いは蜜屋一人らしい。リンカは、ワイヤーメモリに差し替えた。

「お断りします」

 銀色のワイヤーが、ドーパントの体を拘束する。

「くうぅっ…離せぇっ…」

 もがくドーパント。しかし、元々膂力は強くないのか、巻き付くワイヤーをちぎることができない。
 やがて、彼女は諦めたようにその場に座り込んだ。その体から花びらが抜け落ち、ガイアメモリが排出されて床に転がった。
 リンカは、女の前に跪くと、言った。

「…お話を、聞かせていただけませんか」



 一方その頃、警察病院では、植木警部を中心に、隊列を組んだ警官たちが拳銃を構えていた。

「それ以上近寄るな! 撃つぞ!」

「撃ってみれば良いじゃん?」

 病院の廊下を堂々と闊歩する、4人の蜂人間。

「どうせ居るんだろ? 仮面ライダーが!」

「カケルはホント良いやつだったよ。一番面倒い仕事をこなしてさ」

「しかも、手柄はオレたちに譲ってくれるときた!」

「う、撃てぇーっ!」

 植木の号令に、警官たちが一斉に引き金を引く。
 しかし、蜂人間たちはびくともしない。

「ひ、怯むな、撃てーっ!」

「うっとおしいなあ! 全員死ね…」

 蜂人間の一人が、腕を振り上げたその時

 ___甲高い、歌声のような嘶きが、廊下に響き渡った。

「…何? いだっ!?」

 蜂人間の腕に、何かが激突した。

「何だ?」

「仮面ライダー? まさか、もう復活して」

「あ゛ああっ!?」

 困惑する蜂人間の胸に、何かがぶつかった。黄色い蜂の外骨格に、抉られたような大きな傷が付いている。

「だ、誰だ…?」

「クソっ、どいつもこいつも…」

 警官隊とドーパントたち、双方が混乱する中、両者の間に降り立った者がいた。

「これは…」

 それは、小さな一角獣を象った、一機のロボットであった。流れるような銀色のボディに、青いたてがみを生やし、赤い尾をなびかせている。
 彼は歌うような声で嘶くと、金色の鋭い角を、ドーパントに向けた。

「な、何だこいつ…」

「仮面ライダーの、味方…?」

「はっ、こんなチビが、オレたちの邪魔なんて…」

 嘲る声など耳に入らぬ。細い脚で床を蹴ると、小さな一角獣は、目にも留まらぬ速さで怪人どもに襲いかかった!
144 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/15(月) 14:09:43.53 ID:l6qhdZk40
『Qを掴み取れ/親と教師』
145 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/15(月) 14:10:49.59 ID:l6qhdZk40
誤爆
『Qを掴み取れ/親と教師』完

今日はここまで



(ギャグ回にしようかと思ったけど、強化フォームお披露目がギャグ回は流石に無いなと思った)
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/15(月) 15:22:44.82 ID:Wnc2IhCCO
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/07/16(火) 20:19:15.98 ID:QEVssDs90
「わたしの息子…ユウダイは、中学校の頃からよく分からない人たちと付き合うようになって…帰りが夜遅かったり、時々怖い人から電話がかかってきて、あの子を呼ぶんです。どうにか真面目なあの子に戻って欲しいと、愛巣会に入塾させました。ですが…」

 北風署の取調室にて、朝塚は言った。

「最初は良かったんですが、だんだんあの子の口数が少なくなっていって。たまに言葉を話しても、『先生が』とか『成績が』とか、そんなことばっかり言うようになったんです」

 彼女は俯くと、震える声で続けた。

「心配になって調べてみたら…愛だなんて、嘘ばかり。あの中で行われてるのは、教育なんかじゃない。洗脳です」

「洗脳?」

 リンカが、オウム返しに問うた。その隣で、若い刑事がメモを取っている。

「蜜屋が、自分を頂点とした社会を作っているんです! 子供たちを、自分への忠誠心でランク付けして…挙げ句の果てに、あんなものまで持たせて!」

「あんなもの…ガイアメモリですか」

 朝塚は頷いた。

「これを誰かに売りつけないと、自分は命が無いと、あの子が言ったんです! あの子が苦しむくらいならと、わたしが…」

「…」

 リンカと刑事は顔を見合わせた。

「…分かりました。我々も適切に対処させていただきますので、一度留置所に戻っていただけますか」

 刑事は立ち上がると、朝塚の腕を取って取調室を出ていった。
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/07/16(火) 20:43:26.45 ID:QEVssDs90



『はぁっ…くぅっ…』

 ベッドの上で、仮面ライダーは苦痛に耐えていた。
 ファイアーアントドーパントの流し込んだ毒が、命を奪うすぐ手前まで来ているのを感じる。
 お見舞いに来ていた植木は、ついさっき慌てて病室を飛び出して行った。その原因が、病院に襲撃してきたドーパントだと知った瞬間、仮面ライダーは無理やりベッドから起き上がろうとして、床に転げ落ちた。医者や看護師に助け起こされながら彼は、せめてこの中に、自分の代わりに変身して戦える者がいないか、必死に目を凝らした。
 リンカの言う通り、彼はファンタジーメモリの力で辛うじて毒に対抗している。ドライバーごと他人に譲渡すれば、自分は死ぬ。しかし、このまま倒れていては、いずれはこの場にいる全員の命が危ない…

「…誰だっ!?」

 突然、医師が叫んだ。彼の視線の先では、硬く閉ざされた病室のドアが、外から激しく叩かれていた。
 強烈な攻撃に、遂にドアにヒビが入った。

『誰、か…』

 とうとう、仮面ライダーが口を開いた。

『ドライバーを、外して…』

「駄目だ、そんなことをしたら死んでしまうんでしょう!?」

『それでも良い…っ! 誰か、代わりに、仮面ライダーに』

「だが…そうしたら、彼女は…」

 医師の言葉に、彼は仮面の中で唇を噛み締めた。
 ドアに入ったヒビが広がり…遂に、大きな穴が空いた。

『逃げて…逃、げ…』

「…こ、これは…?」

 病室に飛び込んできたのは、銀色の小さな一角獣であった。

「えっ…ロボット…?」

『? …!』

 どうにか顔を上げた仮面ライダーと、一角獣の銀の瞳がぶつかった。一角獣はその場で膝を曲げると、大きく飛び上がった。

「うわっ!?」

『…』

 その脚が折り畳まれ、背中から赤いガイアメモリが姿を現す。そこには、虫眼鏡めいた意匠で『Q』の文字が記されていた。
 仮面ライダーはそれをキャッチすると、ドライバーに挿し込んだ。
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/07/16(火) 20:44:18.65 ID:QEVssDs90



『クエスト』


150 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/07/16(火) 20:45:10.20 ID:QEVssDs90
 留置所で、朝塚は座り込んでじっと黙っていた。
 逮捕はされたが、警察は蜜屋のことも調べると言ってくれた。今は、待つしか無い…

「…」

「…朝塚ユウダイは、とんだ落ちこぼれだったわ」

「!?」

 後ろから聞こえてきた声に、彼女ははっと振り返った。
 そこには、件の蜜屋志羽子が、邪悪な笑みを浮かべて立っていた。

「蜜屋っ…ど、どうしてここに」

 ここは、北風署の留置所である。鍵も見張りもある部屋に、どうやって入ってきたのだろう。
 見ると、見張りの警官は、格子の前で倒れている。

「優秀な運び屋がいるのよ。…それにしてもユウダイ。おつかいもこなせないだけでなく、預けたガイアメモリを、よりによって母親に売りつけるなんて」

「お前が…お前のせいで…!」

 掴みかかった朝塚を、蜜屋は軽く一蹴した。

「ああっ!?」

「子が子なら、親も親。後先考えず、目の前の課題しか考えられないのは一緒ね。…折角だから」

 蜜屋は、スーツのポケットから黄色と黒の縞模様のガイアメモリを取り出した。そこには、蜂の巣めいて並んだ六角形に、一匹の女王蜂が描かれていた。

「母親失格のあなたに、最期の授業をしてあげましょう。科目は、ガイアメモリの使い方」



『クイーンビー』



 結った髪を解き、後頭部にメモリを挿入する。たちまち蜜屋の姿は、女性的な体型をした蜂の怪人へと変貌した。その体には、蜂の巣めいた六角形の装甲や、琥珀色の装飾、更には虹色の翅と、随所に高貴な意匠が施されていた。

「ひっ…」

 後ずさる朝塚に、歩み寄る女王蜂。彼女は何処からともなく、紫色のメモリを取り出した。

「アコナイトメモリは、有効活用すれば町一つ簡単に滅ぼせる。今回は、あなたのような落ちこぼれにも、それが可能になるものを用意したわ」

 そう言うと、更にもう一本、メモリを掲げる。しかしそれはまだプロトタイプらしく、外装も何もない、基盤と端子だけの代物であった。

「嫌…来ないで…」

「さあ…せいぜい、試作品の力を見せて頂戴」

 朝塚を壁に追い詰めると、クイーンビードーパントはその顎を掴んで上を向かせた。そして、露わになった生体コネクターに、2本のガイアメモリを無理やりねじ込んだ。
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/07/16(火) 21:59:36.99 ID:QEVssDs90



「いやああっっ!! …あああぁぁあぁああぁぁっ!!」



「!?」

 警察署から病院に戻ろうとして、リンカは立ち止まった。背後で轟く、女の絶叫を耳にしたからだ。
 すぐに引き返した彼女が目にしたのは、警察署の奥から凄まじい勢いで伸びてくる、灰色の根と紫の花びらであった。

「な、何が…ああっ!?」

 猛毒の根がすぐ横を掠め、リンカはバランスを崩した。見ると、建物にいた人々が一斉に外へと逃げ出している。逃げ遅れた人は、追い詰められるか、根に刺されて倒れている。

「このままでは…」

 Xマグナムを抜き、ミサイルメモリを装填する。そのまま何度も引き金を引くが、爆破された側から根が伸びて、壁や床を埋め尽くそうとしていた。
 そして遂に、リンカは受付カウンターの前に追い詰められた。

「…」

 銃を構え、蠢く植物を睨む。彼女の頭の中では、この場を切り抜ける方法を探しながら、一方で半ば諦めに近い感情を覚えていた。走馬灯のように浮かぶのは、俺に任せろと言ってのけた力野徹の、精一杯強がった笑顔であった。

「…?」

 おかしい。根が、動かなくなった。不審に思い、周囲を再度確認するリンカ。そして、警察署の入り口に、彼女は見た。



「…まだ、間に合うか?」



152 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/07/16(火) 22:00:04.75 ID:QEVssDs90
 汗みずくの病衣の上から、ライダースジャケットを羽織り、ゆっくりと署内に踏み入ってくる、一人の男。
 そしてその横を歩く、小さな一角獣。

「!」

「! リンカ、ここにいたのか!」

 彼が、徹が駆け寄ってくる。不思議なことに、彼と一角獣の歩く道からは、毒の根は恐れをなすように離れていく。

「徹…っ!」

 ほとんど無意識に、彼女は彼の胸に飛び込んだ。徹は驚いたように彼女を受け止めると、ぎこちない手で彼女の背中を叩いた。

「…悪い、待たせた」

 リンカの体を離し、後ろを振り向く。
 彼の目線の先では、根や花びらが一ところに集まり、人の形を形成していた。

「あ…あ、あああっ…ああああっ…!」

 唸りながら、それはどんどん膨れ上がっていく。

「こいつは…」

「『アコナイト』…トリカブトのドーパントです。根は猛毒です。気をつけて」

「毒、か。…丁度良い!」ファンタジー!

 徹は変身すると、魔術師の姿をとった。

「ああああっ! ああああああっっ!!!」

 アコナイトドーパントが、巨大な腕を振り回した。それを空中に出現させた防壁で受け止めると、ファンタジーは片手を差し上げた。
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/07/16(火) 22:01:05.81 ID:QEVssDs90
『来い、『メモコーン』!』

 すると、彼の足元に控えていた一角獣が、彼の掌の上に飛び上がってきた。
 彼は小さな獣の背中を上から押し、細い脚を折り畳むと、後ろの脚をくるりと回転させた。すると、ジャックナイフめいて背中から赤いガイアメモリが飛び出してきた。

「あのメモリは…」

 ファンタジーメモリを抜くと、代わりに赤いメモリを装填し、展開した。一角獣の体は、銀と赤のグリフォンの頭部に変形し、ドライバーと一体化した。

『クエスト』

 ファンタジーの体を、赤い閃光が包み込む。光は肩や腕、そして頭部に収束し、深紅の装飾となった。

『俺は、仮面ライダーファンタジー…ファンタジー・クエストだ!』

 右手を掲げると、赤と銀の杖が出現した。それを振るうと、ドーパントの動きが止まった。

『トリカブトの毒に、治療法は無い…だが、熱と圧力をかければ毒は弱くなる!』

 杖から炎が迸り、もがくドーパントを包み込んだ。その球が、見る見る内に小さく縮まっていく。
 やがて炎が消えた頃、ドーパント本体を包んでいた根や花びらは、焼け焦げて炭と灰になっていた。

『トドメはこっちだ…』

 メモリを抜くと、クエストメモリを引っ込め、今度は一角獣の角を回転させた。すると、今度は首から青いメモリが現れた。こちらにはシャムシールめいて『S』の字に湾曲した、、一振りの剣が描かれていた。
 青いメモリを装填し、展開する。今度はユニコーンの頭部となってドライバーと合体した。

『セイバー』

 ファンタジー姿が騎士に変わる。その鎧には、青い綺羅びやかな装甲が追加されていた。
 杖が変形し、銀と蒼の長剣に変わる。

『仮面ライダーファンタジー・セイバー…!』

 長剣の鍔を、ドライバーの前にかざす。

『セイバー! マキシマムドライブ』

『セイバー・ジャスティスラッシュ!!』

 青い剣閃が、ドーパントを一刀のもとに切り裂いた。

「あ、ぁ…」

 灰の中で、一人の母親が倒れた。その喉から、紫色のメモリと、壊れた基盤が吐き出された。

「あれは…?」

 リンカが手を伸ばすより先に、それは紫のメモリと共に、粉々に砕け散った。
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/07/16(火) 22:02:21.09 ID:QEVssDs90
『Qを掴み取れ/小さな英雄』完

今夜はここまで
あと、これから更新頻度が落ちます
155 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/16(火) 22:10:59.35 ID:QEVssDs90
『アコナイトドーパント』

 『トリカブト』の記憶を内包するガイアメモリで、主婦の朝塚が変身したドーパント。紫色の花びらと、灰色の根に覆われているが、本体は緑の細い茎のような形をしている。実際のトリカブト同様、全身が猛毒であるが、特に根に強力な毒を持っており、これで刺されたり、掠っただけでも生身の人間なら即死する。また、花びらを空中に散布して不特定多数の人間を毒殺することも可能。ただし、蜜屋への復讐だけが目的の朝塚はこの力は用いなかった。
 蜜屋以外の人間をできるだけ害したくなかった朝塚であったが、他ならぬ蜜屋の手によって、このメモリと一緒に試作品のX_t___メモリをねじ込まれ、無差別に人を毒殺する凶悪な怪物へと成り果ててしまった。
 メモリの色は紫。正面から見たトリカブトの花がアルファベットの『A』に見える。
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/17(水) 02:02:37.44 ID:CaX8HfSx0
ガーディアンメモリ
守護者の記憶が内包されたメモリ
その最大の特徴は使用者のなにかを護りたいという気持ちが強ければ強いほど力を発揮する
また護りたい対象が具体的であれば更に力を増し、対象は人物だけでなく物や場所にも及ぶ
157 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/20(土) 13:19:29.74 ID:aiqpPaVc0
「乾杯」

 そう言って徹とリンカは、缶ビールを打ち合わせた。
 ちゃぶ台の上には、漆塗りの豪勢な寿司桶が鎮座している。リンカが、徹の快気祝いにと出前を取ってくれたのだ。本当は、植木が彼らにご馳走すると言っていたのだが、アコナイトの件で北風署が大きな被害を受けてしまい、それどころでは無くなってしまった。

「何か、悪いな。こんな高そうな飯用意してもらって」

「植木警部から、資金は頂いてます。差額は財団の経費で落ちますので、ご心配なく」

「そ、そうか…」

 平然というリンカに、少し恐縮しながらも、彼は玉子を取って醤油につけた。
 彼らの足元には、銀色の小さな一角獣が座っていて、静かに眠り込んでいる。

「こいつも、何か食わないのかな」

 それを眺めて、ぽつりと零す徹。
 彼の名はメモコーン。リンカが財団Xに要請した、追加支援の内容がこれであった。今はペット型ロボットのように自律して動いているが、その体には2本のガイアメモリが内蔵されており、徹の変身する仮面ライダーに新たな力を授けるのだ。

「メモコーンに食事の必要はありません」

「そうは言ってもなぁ…」

 玉子の端をちぎって、メモコーンの鼻先に差し出してみる。

「ほれ、食うか」

 ところが、メモコーンは少し頭を上げると、ぷいと顔を逸らしてしまった。彼はそのまま立ち上がると、リンカの足元へ移動し、そこでまた眠りに戻った。

「な、なんかコイツ、リンカの方に懐いてないか…?」

「恐らく、『ユニコーン』のガイアメモリが部品に使われているのでしょう。一角獣は、処女を好むと聞きます」

「なるほど……ん?」

「私には性交渉の経験が無いので、メモコーンが」

「わ、分かった! もう良い、分かったから」

 慌てて止めると、彼は寿司桶を彼女の方へ押しやった。

「ほら、あんたも食べてくれよ」

「そうですか」

 リンカは頷くと、鉄火巻きを箸でつまんだ。徹もマグロを口に入れながら、漠然と何か足りないような感覚を覚えた。とは言え、それが何か大変なことになるという気はしない。彼は無視して、目の前のご馳走を堪能することにした。
158 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/20(土) 14:03:13.68 ID:aiqpPaVc0



 一方その頃。徹の住むアパートに寿司を配達した若い板前が、空き地にミニバイクを停めて黄昏れていた。

「はぁ…来る日も来る日も、配達ばかり…」

 寿司屋に弟子入りして、もう4年になるというのに、一度も包丁を握らせてもらえないのを彼は嘆いていた。大将は何を考えているのだろう。自分には、素質が無いのだろうか。そんなことを考えながら、バイクのシートでぼんやりと夜空を眺めていた。

「…」

「お〜に〜い〜さんっ」

「っ!?」

 耳元で囁く声に、彼は飛び上がった。振り向くと、そこには一人の少女が立っていた。何やら生臭い匂いのするジャケットを羽織った少女は、彼に悪戯っぽい笑みを向けた。

「元気無いね、どうしたの〜?」

「…どうだって良いだろ」

「当てよっか。…折角、修行して立派なお寿司屋さんになりたいのに、いつまで経っても雑用ばっかり。自分、向いてないのかなぁ〜? なんて」

「っ、お前に何がっ…!」

「コツコツ努力なんて、向いてない向いてない。君に必要なのは…」

 言いながら彼女は、何処からともなく黄緑色の小さな機械を取り出し、彼に握らせた。

「…こっち。使ってごらん、君が、本当に必要なものが分かるかも」

 それだけ言うと、少女はさっさとその場を立ち去ってしまった。
 取り残された板前は、恐る恐るその機械を、電灯の下にかざした。そして、表面に付いたボタンを押した。



『ワサビ』


159 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/20(土) 14:11:28.84 ID:aiqpPaVc0
そうです。ギャグ回です。
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/20(土) 19:06:46.01 ID:4gkbdv+q0
親子丼は強かったし食べ物系は強いかも?
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/20(土) 19:07:10.88 ID:v/C1Q2Na0
ソイソースメモリ持ってこないと
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/07/20(土) 20:39:29.03 ID:aiqpPaVc0
 携帯の着信音で、徹は目を覚ました。はっと外を見ると、まだ暗い。時計は午前4時を指していた。

「な、何だこんな時間に…」

「植木警部からのようです」

 枕元には、既に外出の準備を整えたリンカが立っていた。彼女が差し出したスマートフォンを受け取ると、彼は耳に当てた。

「何ですか? ドーパントですか?」

”そうだ”

「!」

 冗談半分に訊いたのに、間髪入れずに肯定されて、徹は一気に頭が醒めた。

「ど、どこに」

”吹流4丁目の空き地だ。周囲に、毒ガスを撒き散らしているらしい”

「4丁目!?」

 吹流4丁目と言えば、このアパートのある一帯だ。徹は通話を続けながら、カーテンから外を窺った。

「と、とにかく向かいます。警察の皆さんは、住民の避難を」

”既に向かっている。君も、気を付けて向かってくれ”



 徹はアパートを出ると、ドライバーを装着してバイクに跨った。タンデムシートにリンカが座ると、メモコーンも後からついてきた。

「やっぱりこいつ、リンカがお気に入りじゃねえか…変身」ファンタジー!

『…ま、良いか。しっかり付いてこいよ!』

 ファンタジーはアクセルを吹かした。鋼鉄の白馬が、明け方の住宅街に鋭く嘶いた。

 走り始めると、すぐに彼は違和感に気付いた。

『何か…空気がおかしいぞ』

「…」

 後ろのリンカは、黙ったまま彼の腰にしがみついている。その様子にも何か違和感を感じて、ファンタジーは心の中で首をひねった。
 空き地の数十メートル手前で、警察がバリケードを張っていた。

「…あっ、お疲れ様です!」

 警備に当たっていた警官が仮面ライダーに気付き、敬礼した。

『どうも…これは、一体?』

 バイクを降りながら尋ねる。植木が毒ガスと言っていたように、彼もマスクを数枚重ねて着用していた。

「向こうでドーパントが暴れて、と言うか、何かを撒き散らしているようで…ジョギングしていた男性が、それを浴びてしまい」

 警官の指す方を見ると、ブルーシートの上で高齢の男性が目と鼻を押さえてのたうち回っていた。むせながら、「は、鼻が…」とうめいている。

『毒か…リンカ、どう思』

 振り返って、ぎょっとした。
 リンカは、真っ赤に腫れた目で、助けを求めるように彼を見つめていた。しかも、大粒の涙をぽろぽろと零している。

『ど、どうしたんだ!?』

「…駄目です」

『何が』

「私は、これが非常に苦手です」
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/07/20(土) 20:39:54.90 ID:aiqpPaVc0
『苦手…? とにかく、そこにいてくれ』

 ファンタジーはそう言付けると、バリケードを越えて空き地に入った。

『ドーパント、観念しろ!』

「…! 仮面ライダー…」

 空き地の真ん中で、両腕を広げて天を仰いでいたドーパントは、ファンタジーの存在に気付くと顔をそちらに向けた。
 黃緑色の、ごつごつした体をしており、頭に当たる部分からは濃い緑色の茎と葉が伸びている。モチーフは植物のようだ。モアイ像めいて横に開いた口と思しき穴からは、呼吸に合わせて白い煙が細々と立ち上っていた。
 ファンタジーは剣を出現させると、両手に握ってドーパントに向けた。

『メモリを捨てて、自主しろ』

「い、嫌だ…」

 ドーパントは後ずさると…いきなり、白い煙をファンタジー目掛けて噴射した。

「喰らえーっ!!」

『うわっ、何だこれ!?』

 煙を顔に浴びてしまい、ファンタジーは怯んだ。更に次の瞬間

『……あ゛っ!? こ、これは…ごほっ』

 突き刺すような冷たい刺激が、彼の鼻と喉を襲った。仮面の奥で涙が溢れ、視界が歪む。と同時に、彼は今まで感じてきた違和感、それも、昨夕寿司を食べていた時のものに至るまで、全ての正体を理解した。

『これっ…ワサビかっ!!?』

「寿司なんて…寿司なんてーっ!」

 叫びながら、ワサビドーパントが突進してきた。彼は、ワサビの根のような指を突き出すと、ファンタジーの顔に擦りつけた。
 騎士の兜に指先がすりおろされ、ファンタジーの目や鼻を襲う。

『あ゛あっ! やっ、やめろっ…お゛えっ、ごほっ』

 凄まじい刺激に、ファンタジーは腕を振り回して抵抗する。ワサビドーパントとはふざけた敵だが、この刺激は純粋に恐ろしい。何しろ、目と鼻が潰される上、呼吸もままならなくなるのだ。
 とうとう、ファンタジーは地面にうずくまった。

『うっ…げほっ、ごほっ…』

「や、やった…仮面ライダーを倒したぞ…」

 頭上で、ワサビドーパントの声がする。

「この力があれば…おれだって…うわあっ!?」

 ところが、その言葉は途中で遮られた。向こうの方から、リンカの叫ぶ声がする。

「メモコーン! 彼を助けて!!」

 うずくまるファンタジーの肩を、一角獣の角が手荒く突いた。

『っ、分かってる!』

 ファンタジーはそれを受け取ると、変形させ、赤いメモリをドライバーに装填した。

『クエスト』

 ファンタジーが、白い法衣に赤い装飾を纏った魔術師の姿となる。彼の視界が、一気に開けた。

『はあっ…ワサビの辛さは、揮発性だ…熱すれば、飛んでいく…!』

 よろよろと立ち上がると、おののくドーパントを真っ直ぐに睨んだ。

『お前が何を恨んでるのか知らないが…こんな力で人を害するのを、見逃す訳にはいかない!』

 赤と銀の杖を振りかざす。

『大人しく、メモリを』

「嫌だっっ!!」
164 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/20(土) 21:07:09.51 ID:aiqpPaVc0
 ドーパントが叫んだ、次の瞬間

『あああっ!?』

 その体中から、濃い白色の煙が噴き出した。今なら分かる。それは、細かくすりおろされた、ワサビの粒子であった。

『あっこらっ! 逃げ、げえっ、え゛ほっ…』

 熱で刺激を無効化しようとする間に、ドーパントの姿は白い煙の中に消えてしまった。



 もう、夜も明けてきていたその頃。ワサビ怪人に苦戦する仮面ライダーの姿を、物陰で見ている者がいた。そう、あの若い板前にワサビのガイアメモリを渡した、例の少女である。彼女は目と鼻を分厚いタオルで覆っていたが、周囲の様子を正確に把握しているようであった。

「へぇ〜、小バエから奪ったメモリにしては中々やるじゃ〜ん」

 少女…ミヅキの服は、血で汚れている。今まで着ていた白のロリータ衣装とは違うこの服は、メモリの密売人から奪ったものであった。
 仮面ライダーに雁字搦めにされたところを、女王蜂のドーパントに救われた。しかし女王蜂は、彼女を『お母様』の下へは返さず、鎖さえ解かずに自分のところに監禁していた。そうしてミヅキの接触した仮面ライダーの変身者について聞き出そうとした。しかし、彼女は何も覚えておらず、呆れた女にそのまま放置されていた。つい先日、他から情報を手に入れた女に、思い出したように解放されたが、それまで彼女は、一度もトイレに行くことができなかった。
 彼女は汚れた服を捨てると、裸で街を徘徊した。そうしてメモリの密売人を発見すると、襲撃し、服と売り物のメモリを強奪した。そうして、自身のガイアメモリを取り返すべく、行動を開始したのであった。

「…それに、あたしのメモリを奪ったやつも見つけた。もうちょ〜っと、良いところに行ってくれないかな〜…?」

 呟きながら彼女は、目が塞がった状態のまま、正確にワサビドーパントを追いかけ始めた。
 密売人を襲ったとき、当然彼らはホーネットメモリで応戦した。しかし、極限以上にメモリを使い込み、生身でも超人的な力を発揮するようになっているミヅキには、練度の低い雑魚ドーパントなど敵ではなかった。
165 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/20(土) 21:08:20.51 ID:aiqpPaVc0
『Wのから騒ぎ/意外な弱点』完

今日はここまで
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/20(土) 21:16:42.64 ID:/XmhJ92A0
167 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/20(土) 23:25:16.85 ID:aiqpPaVc0
『北風町』

 風都に隣接する、人口3万人弱の町。企業のオフィスを多く有する風都のベッドタウンとして機能している一方で、街のイメージダウンに繋がるとして、風都が条例で禁じたもの、例えば産業廃棄物の処理施設や、風俗店などが押し付けられる形でこの町に集中している。そのため、この町で生まれた人間は風都に対して良い感情を持っていないことが多い。
 内陸に位置しており、海は無いものの、町の北側を占める山からは川が流れており、地下水も豊富。住宅街の建設で以前より大幅に減少したものの、今でもこの地下水を利用した、野菜や特産品の蕎麦栽培が盛ん。名物はかけ蕎麦に白髪ネギをどっさり盛って、おろし生姜を添えた北風蕎麦。住宅街の片隅にぽつりと建つ蕎麦屋『ばそ風北』は、根強いファンの多い隠れた名店。

 ミュージアムは、この北風町にもガイアメモリ製造工場を建設した。ミュージアム壊滅後も工場は稼働しており、風都近辺にいた密売人の残党がこの町に集まってきている。また、何処からともなく現れた新興宗教『母神教』と結びついて、この町にガイアメモリ汚染を広げている。



 ___この街には、いつも冷たい風が吹く。
168 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/21(日) 19:36:50.23 ID:iu6E2u8G0
「…あんた、ワサビ駄目だったんだな」

「…はい」

 今まで見たことのない暗い顔で、リンカは頷いた。
 北風署の応接室。現場から二人を案内した坂間という刑事は、容疑者の情報を入手しにどこかへ行ってしまった。
 昨日、寿司を食べながら徹が感じた違和感。それは、全ての寿司にワサビが入っていないことであった。

「私は基本的に食に関して、知識はありますが特に関心があるわけではありません。これと言って嫌悪する食材もありません。が…」

「ワサビは食えない、と」

「…はい」

 俯いたまま涙ぐむリンカを、徹は慌てて慰めた。

「いや、そんな気にするなって…誰だって、好き嫌いの一つや二つあるだろ。それに、最近はワサビ嫌いな大人も多いって聞くし…」

「…徹は?」

「…俺はイケるけど」

「…」

 この世の終わりのような顔で、ローテーブルの上を凝視するリンカ。徹はおろおろしながらそれを見ていた。
 そこへ、坂間が戻ってきた。

「現場に残された宅配用バイクの持ち主が割れた……ん? どうしたんだ、二人共?」

「あっ、いや、気にしないで」

「そう…?」

 彼は2人の向かいに腰を下ろすと、数枚の書類と写真をテーブルに広げた。

「バイクは北風町にある、『潮風寿司』という寿司屋のものだった。大将の話では、昨日の夕方に寿司の出前に行った若い板前が、まだ戻ってきてないらしい」

「…えっ?」

「その板前、どこに寿司を運んでたと思う?」

 大真面目な顔で問うてくる坂間に、徹は唾を呑んだ。

「…ウチ、です」
169 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/21(日) 19:37:17.74 ID:iu6E2u8G0
「そう、メゾン・ド吹流202号室。つまり力野徹宅、あんたの家だ。…」

 彼は、顔写真の添えられた1枚の紙を取り上げた。

「生島彰二、22歳。18歳の頃に潮風寿司の店主に弟子入りし、修行してきた。だが、4年経った今でも寿司の皿洗いと配達しか任されなかったらしい。あんた、顔見たんだろ?」

「見はしましたけど…」

 顔写真と、昨夜の記憶を比較し、彼は首を横に振った。

「玄関先で、一瞬だけだったので…」

「その時はガイアメモリによる中毒症状らしきものはありませんでした。恐らく、帰宅途中に密売人と接触し、メモリを入手したものと思われます」

「どうだか…」

 疑わしげにリンカを見る坂間。どうにもこの刑事、彼ら2人のフリー記者には良い感情を持っていないようだ。

「ま、大将への恨みが原因なら、近い内に寿司屋に現れるだろう。もう警備は送ってあるから、何かあったら連絡する」

 そこまで言うと、彼はもう帰れと言わんばかりに部屋の出口を視線で指した。
 2人は、軽く会釈して立ち上がり、警察署を後にした。リンカはもちろん、力野も気にする様子はない。得体の知れないフリー記者を好む人種なんて、地球上にいるはずがない。この程度の扱いは、彼にとって日常茶飯事であった。



「そんな、とんでもねえ」

 リンカの差し出した封筒を、潮風寿司の大将は固辞した。
 ワサビドーパント…恐らく生島が、ご丁寧に受け取った代金を持って逃げていたため、店に寿司代が支払われていなかったのだ。
 潮風寿司。北風町にある老舗の寿司屋で、店内での食事はもちろん、出前も受け付けている。老舗ながら新しいものも積極的に取り入れるスタイルで、趣向を凝らした寿司は若者にも人気があった。

「ウチのもんが迷惑かけたってのに、金なんて貰うわけにはいかねえよ」

「いえ、そう言わず」

「災難はお互い様ですから」

 二人がかりでどうにか封筒を握らせると、徹は警備に当たる警官をちらりと窺い、それから大将に尋ねた。

「あれから、店に何か連絡は」

「何もねえ」

 大将は、溜め息を吐いた。

「…あンの馬鹿野郎。ここんとこ仕事に身が入ってねえと思ってたら、こんな悪いことしやがるなんて…」

「生島さんは、ここに就職して4年だそうですね」

「ああ。ショージの奴…魚触れねえからって焦ってやがったが…」

「失礼ですが、雑用ばかりだったと」

「雑にやるから雑用なんだ。掃除、皿洗い、配達…やりようで、そこから学ぶことがたーくさんあるってのに、それが奴には分かってなかった」

「なるほど…」

 職人の世界には疎い徹であったが、生島の勤務態度には大将も思うところがあったようだ。

「何より…サビ抜きで握る俺を見て、鼻で笑いやがった。送り出す前に、そいつを説教したんだ。そしたら、こんなことになっちまって」
170 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/21(日) 19:37:47.58 ID:iu6E2u8G0
「…」

 気まずそうに視線を逸らすリンカ。大将は、悲しげに顔を覆った。

「…何がいけなかったんだろうな」

「とにかく今は、彼が現れるのを待ちましょう」

 徹は、励ますように言った。



 数時間後、警官のトランシーバーから声がした。

「はい、こちら現場前…えっ、北風署に!?」

「何があったんですか」

 徹が尋ねると、彼はパトカーに向かいながら答えた。

「例のドーパントが、北風署に現れたと」

「えっ、そっちに!?」

「とにかく、向かいましょう。力野さんも」

「はい。…」

 パトカーに乗り込もうとした徹の後ろから、突然、大将が叫んだ。

「…おい、俺も行くぞ!」

「すみません、危険なので…」

「だが、奴は俺のとこのもんだ。俺が行かなくてどうする!」

「…行きましょう、大将」

 徹は後部座席に座って、手招きした。そうして、リンカに向かって言った。

「リンカ、ここに残ってくれるか」

「…はい」

 小さく頷くリンカ。2人の警官と、徹、そして潮風寿司の大将を乗せ、パトカーはサイレンを鳴らしながら走り出した。



 徹たちが到着した頃、北風所では既に多くの職員や警官が逃げ出しているところであった。
 パトカーを降りた瞬間、あのツーンと来る匂いが彼らの鼻を突き刺した。

「くっ…早速やってるな」ファンタジー!
171 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/21(日) 19:38:38.82 ID:iu6E2u8G0
『今度はヘマはしないぞ』クエスト!

 変身し、署内に踏み入ると、白い煙の中にワサビの怪人が立ち尽くしていた。

『おい! もう逃さないぞ!』

 赤と銀の杖、クエストワンドを振りかざすと、周囲の煙が一気に晴れた。
 襲撃者の存在に気付き、ワサビドーパントがこちらを向いた。

「やっぱり来たか、仮面ライダー…っ!?」

「俺もいるぞ」

 仮面ライダーの後ろから、ゆっくりと進み出た大将に、ドーパントが明らかに狼狽の色を見せた。しかし、すぐに持ち直すと、強がるように言った。

「はっ、わざわざ縁を切りに来たのかよ。丁度良い…」

「こンの、大馬鹿野郎が!!」

 突然、大将がドーパントを一喝した。

「こんな、訳の分からねえ姿になって、人様に迷惑かけやがって……何より山葵を、人を傷つける道具にしやがった!!」

「だから何だ、あんたに言われたくはない!」

 ドーパントも、負けじと声を張り上げる。

「大体何だよ、サビ抜きなんてお子様舌に媚びやがって! 他にも、訳分かんないネタなんて握ってんじゃねえか! 何がアボカドだよ、何が…」

「だからてめえは、いつまでも雑用なんだよ!!」

『ちょっ、大将』

 止めようとするファンタジーを振り切って、彼はドーパントに掴みかかった。

「昔ながらの型に嵌まるだけが寿司じゃねえ! お客の好み、時代の流れは変わっていくんだ。それに応えてこそ、食べる人を喜ばせることができるんだろうが!」

 細い首を掴み、激しく揺する。

「てめえはよぉ! 配達に行く時に、寿司を受け取るお客の顔を、よく見たことがあるかよ! 寿司桶の中身を覗くお客の表情に、注意を凝らしたことが、一度でもあるのかよ!? 今運んでる寿司をどんな人が食べるのか、何が好みか、山葵は大丈夫か…4年の間、てめえは一度でもそれを考えたことはあるのかよ!!」

「…っ」

「寿司が寿司屋を創るんじゃねえ、俺たち寿司屋が、寿司を握るんだ。…それを食べる人の、”美味い”って幸せを創るんだよ!!」

「…う」

 大将の言葉に、ドーパントは震える声で何か呟いた。

「…どうした、何か言ってみろ」

「…うあああああっっ!!!」

 突然、ドーパントが絶叫した。叫びながら、ワサビの煙を体中から噴き出した。

『大将、危ない!!』

 咄嗟に防壁を展開するファンタジー。ところが、大将は動じず、唸るように言った。

「効かねえ…使い方を弁えねえ山葵なんて、これっぽっちも効くかよ…!」

『大将、もう逃げるんだ!』

 ファンタジーは彼の体を掴むと、警察署の外に向けて放り投げた。杖を振ると、大量の白と赤の羽毛が噴き出して、大将の体を受け止めた。

『…もう、諦めろ』

 彼は、クエストワンドをドライバーの前にかざした。

『クエスト! マキシマムドライブ』

 白いマントが翻り、彼の体を包み込む。次の瞬間、ファンタジーは白と赤のグリフォンの姿となり、空中へ舞い上がった。

『クエスト・ラストアンサー!!』

 白と赤の流星が、ワサビドーパントを貫く。

「ぐ、ああああっっ!!」

 ワサビドーパントの体が爆ぜた。
 爆炎が収まったとき、そこには一人の青年が立っていた。彼は、再び駆け寄ってくる大将を見ると、涙を流した。

「大将…おれ…」
172 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/21(日) 19:39:10.82 ID:iu6E2u8G0
「…もう、懲りただろ」

 倒れ込む青年の体を、彼は抱きとめた。左の掌から黄緑色のガイアメモリが抜け、床に落ちて砕けた。

「罪を償って、帰ってきたら…寿司を握って、食わせてやるよ。お前に必要なものが、少しでも分かるように…」

『ひとまずこれで、一件落着…』

 そこへ、一人の警官が駆け込んできた。

「大変です! 寿司屋の方で、リンカさんが…」



 寿司屋のカウンターに座って、リンカは考え込んでいた。

「ワサビ…それに、先日のアコナイト」

 これらのメモリは、財団のリストにもある、ミュージアムが作ったガイアメモリだ。思えば、新造メモリを使っていたのは、工場の長に、今まで意識不明だった筈の密売人と、状況が特殊な人物たちだ。まだ売買の対象にはなっていないのかも知れない。それに何より、アコナイトと一緒に挿入された謎のプロトタイプ…

「! もし、あのワサビドーパントにも同様のメモリが使われていたら」

 徹が危ない。そう思い、立ち上がったその時

「はい、プレゼント〜」

「なっ……ん゛っ!?」

 彼女の視界が、緑に染まった。と思う間もなく、彼女の嫌うあの感覚が、鼻を突き抜けた。

「う゛っ…あ゛っ、え゛ほっ…」

「特製のワサビパイ、良いでしょ〜」

「その声っ…うぐっ」

 彼女の顔に張り付いているのは、夥しい量の練りワサビであった。どうにか拭い取ろうとする彼女の腹に、膝蹴りがめり込んだ。

「がはっ…」

 倒れ込むリンカ。声の主は、彼女を一度無視して、彼女の所持する鞄を漁り始めた。

「ちょ〜っとエッチしてあげたら、馬鹿みたいに言う事聞いたね、あのワサビくん。ま、警察にあたしのメモリがあるなんて思ってないけど…」

 目当てのものを見つけたらしく、笑い声が聞こえた。

「あはっ、あった!」

 それから彼女はリンカの体を掴んで引き起こすと

「…ついでだし、君にはも〜っと苦しんでもらおうかな〜」

 更に山盛りの練りワサビの盛られた皿を、顔に叩きつけた。

「あ゛っ、あ、がっ…」

 皿を外すと、リンカの目や鼻に、執拗にワサビを塗り込む。

「あはははっ! いつも澄ました顔してるくせに、ワサビ一つでこ〜んなに可愛くなっちゃう!」

 突き刺すような刺激に呼吸もできなくなり、とうとうリンカは床に崩れ落ちた。

「あはははっ、ははっ…はははははっ…」

 ひとしきり笑い転げた後、ふっと彼女は笑みを消し、そして言った。

「…じゃあ、死ね」

 ズボンを下ろし、取り返したメモリを太腿のコネクターに挿そうと振りかざす。と

『そこまでだ!!』

「…チッ」

 そこへ飛び込んできたのは、仮面ライダー。しかも、見たことのない姿をしている。彼女は舌打ちすると、近くにあった窓を飛び蹴りでぶち破り、そのまま外へと逃げ出した。

『ああクソッ…リンカ、大丈夫か』

 仮面ライダーが、倒れるリンカを抱き起こす。彼女は目を真っ赤に泣き腫らしながら、口角を吊り上げた。
 そして、掠れた声で言った。

「ええ…心配、いりません」
173 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/21(日) 19:40:06.99 ID:iu6E2u8G0



 公園の身障者用トイレに入ると、ミヅキは歓喜の声を上げた。

「やった〜、やっと取り返した…」

 その手に握られているのは、ピンク色のガイアメモリ。ラメやスパンコールでデコレーションされたそれには、両耳をぴんと立てた兎の頭部が描かれている。

「これで、お母様のもとへ帰れる…」

 言いながら、メモリのスイッチを押す。

『false』

「…ん?」

 不審に思い、もう一度スイッチを押す。

『false』

「あ、あれ? これ、あたしのメモリだよね…?」

『false』

 何度も押していると、突然、メモリから耳をつんざくモスキート音が流れ出した。

「あ゛あっ、ああああっ!?」

 メモリの影響で強化された聴覚に、不快な音声が大音響で突き刺さる。耳を塞いでのたうち回るミヅキの鼻先で、落としたメモリがパンと音を立てて弾けた。中に入っていたのは、『false:偽』と書かれた紙切れ。

「う…ああああああっ!! クソクソクソクソクソぉぉっ!!」

 ミヅキは叫びながら、偽メモリの残骸を両足で何度も踏みつけた。それから、やおらトイレの手すりを蹴り折ると、ズボンと下着を脱ぎ捨てて自らの股間に無理やりねじ込んだ。

「ああああっ! クソッ! あっ! ああああっ!」

 女性器から血が出るのも構わず、彼女は怒りに任せて、乱暴な自慰行為を続けたのであった。
174 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/21(日) 19:41:28.44 ID:iu6E2u8G0
『Wのから騒ぎ/幸せを握る人』完

今日はここまで

ギャグ回って言った割にギャグが面白くないという
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/21(日) 19:49:44.88 ID:XoK2IsJhO
ジオウの映画はよ見たい
オーマフォーム見たいよおおおお
176 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/21(日) 19:49:48.89 ID:iu6E2u8G0
『ワサビドーパント』

 『山葵』の記憶を内包するガイアメモリで、寿司職人見習いの生島彰二が変身したドーパント。緑のごつごつした体に、頭からは濃緑色の茎と葉が生えている。自身の体を微粒子化して煙のように飛ばしたり、手を相手の顔に擦り付けることでワサビ独特の『ツーン』とくる刺激を与えるという、恐ろしいドーパント。あくまでワサビの刺激に過ぎないので、まともに喰らっても毒性は無いが、気道への刺激で呼吸ができなくなり、窒息死する危険性は否定できない。
 生島は比較的内気な青年であったが、内心ではワサビを食べられない客を見下したり、積極的に新しいネタを取り入れる大将に疑問を抱いていた。また、加えて大将に認めてもらえない劣等感がメモリの毒性によって増幅され、極めて攻撃的なドーパントとなってしまった。
 メモリの色は黄緑。山葵の地下茎と、それをすりおろした軌跡で『W』の字が描かれている。
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/21(日) 19:50:08.35 ID:pMAvYjIR0
NOTメモリさえあれば……
178 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/21(日) 20:23:37.09 ID:iu6E2u8G0
方向性決めとかないとダレそうだな

↓1〜3で多い方 どっちから進める?

@ミヅキルート

A蜜屋・真堂ルート
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/21(日) 20:36:41.19 ID:2/Pp3ZkQ0
1
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/21(日) 20:50:05.32 ID:XZQ1eKADO
不遇なミヅキちゃん用に新ガイアメモリ案

ラストメモリ
7つの大罪の一つ「色欲」の力を宿す女性専用の強力なメモリ
芳香により周囲の人間に対して劣情を抱かせて支配する能力を持つ
(男性なら使用者を抱くためなら何でもする肉人形に、女性ならお姉様と呼んで盲目的に従う妹になる)
強力なメモリではあるが毒性も強く、使用者の精神を侵食しハーレムを作る事が目的とさせてしまう

ラビットからの派生でここまで考えてたけどラビットはRでラストはLだったわ・・・
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/21(日) 20:50:38.81 ID:XZQ1eKADO
あ、1でお願いします
182 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/21(日) 21:04:09.73 ID:iu6E2u8G0
(心配しなくてもミヅキちゃんの強化メモリはもう考えてある)

というわけでミヅキルートですね
183 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/22(月) 21:24:21.78 ID:N8D22hV60
「マリマリ☆ちゃんねる〜!」

 斜め上に持ち上げたハンディカムに向かって、ピンクのゴスロリ服を着た少女は笑顔で手を振った。

「…えー、今日は、自販機のルーレットで当たりが出るまでまし、回したいと、思いまーす」

 ちらちらと辺りを窺いながら、一台の自販機のもとへ歩いて行く。

「えっと…ここなら、迷惑にならないかな…お小遣い、全部小銭に変えてきたからね。今日は絶対当てるよ…」

 たどたどしい口上を取り繕うように、カメラに向かって笑顔。と、こちらに向けた小さな画面に、誰か別の人間が映り込んでいるのに気付いた。
 慌てて口を閉ざす。ここは編集だ。面倒臭いけど、また撮り直さないと…
 ところが、映り込んだ人物…自分とそう変わりない年頃の少女は、画面内から去ろうとしない。それどころか、衣麻理に向かってすたすたと歩いてくるではないか。

「…っ、な、何ですか」

 振り返った衣麻理。彼女が抗議しようとした瞬間、そのこめかみに飛び回し蹴りが突き刺さった。

「いだいっ!?」

 コンクリートの上にひっくり返る衣麻理。少女はその頭に足を乗せると、ぐりぐりと踏みつけた。

「やだっ…やめてっ…」
184 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/22(月) 21:26:46.91 ID:N8D22hV60
「服、脱いで。あたしに頂戴」

「え…?」

 呆然と聞き返す彼女の顔を、少女は爪先で蹴り上げた。

「痛いっ! わかった、分かったから許してっ!」

 衣麻理は起き上がると、ゴスロリ服のボタンに指をかけた。誰か通りかからないかと期待して、辺りを見回すが、人気はない。彼女自身が、そういう場所を選んだのだから。

「ブラとパンツも頂戴」

「嘘でしょ…」

 ファスナーを下ろす手が止まった瞬間、向う脛を思い切り蹴られた。

「いやあっ! 許して、ごめんなさいっ…」

 華やかなワンピースドレスを脱いだ彼女は、震える指で地味なブラのホックを外した。

「っ…ひぐっ…」

 泣きながらショーツを下ろす。それを確認すると、何と少女まで、自分が着ているストリートめいた服を、全て脱ぎ始めた。

「ひっ…えぐっ…」

 両手で胸と股間を庇う衣麻理の前で同じく裸になると、少女は恥じらう様子もなく、自分が着ていた服を蹴って渡した。

「もういらないから、あげる」

「ぐすっ…あ、ありがとう、ございます…」

 地面に屈み込み、拾おうとする彼女の背中に足を載せると、少女は言った。

「ついでに、これもあげる」

 何処からともなく取り出した拳銃めいた機械に、綺羅びやかなガイアメモリをセットし、丸出しの尻に押し付けた。

「あ痛゛っ!」

 右の尻たぶに、黒いコネクターが刻まれる。その横にメモリを放り捨てると、少女は強奪した服を拾い、素っ裸のままでその場を去っていった。
185 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/22(月) 21:27:20.16 ID:N8D22hV60
短いけどひとまずここまで

出てくるメモリのアルファベット被りすぎ問題
186 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/25(木) 20:03:10.18 ID:WrIFYxb+0



 『ばそ風北』の暖簾をくぐった徹は、あまりの人の多さに仰天した。

「うわっ、今日は大盛況だな…」

 確かにここの蕎麦は美味いし、密かなファンの多い店ではあるのだが、あくまで隠れた名店といった立ち位置で、ここまで人が詰めかけることは今まで無かった。
 よく見ると、カウンターの周りに人混みができている。皆、蕎麦と言うよりはカウンターに腰掛けて蕎麦を食する人物が目当てのようだ。
 カウンターの手前で右往左往していると、奥にいる店主と目が合った。手招きされて台所の入り口に来ると、彼は開口一番「今日は、彼女と一緒じゃないのかい?」などと訊いてきた。

「別の仕事が入ってるんだ。…って言うか、彼女じゃないって」

 彼女と言うのはもちろんリンカのことである。実際、彼女は今、自分がかつて関わった教育評論家の蜜屋志羽子について、独自に調べているところであった。

「そうかぁ、残念だ。折角、あの『マリマリ』ちゃんが来てるのに…」

 店主は分かってるよと言わんばかりに頷くと、ふとカウンターの方に視線を向けた。
 人混みの隙間から、この店に不釣り合いな青いフリフリのドレスがちらりと見えた。

「…何、タレントか何か?」

「えっ、知らないの!?」

 店主が急に、素っ頓狂な声を上げるので、徹は慌てて辺りを見回した。

「今流行りの、大人気『フーチューバー』のマリマリちゃんだよ? 物書きやってるのに、徹ちゃん知らないの?」

「はあ…?」

 徹は首をひねった。
 フーチューバーの存在自体は知っている。某大企業が運営する動画投稿サイト『WhoTube』に動画を投稿し、広告収入を得ている人々のことだ。中には年収が数億円に上る者もいて、流石にその名前くらいは知っているが、マリマリなるフーチューバーの存在は初耳であった。

「まあ後で調べてみてよ。とにかく、そのマリマリちゃんが、今ウチに来て蕎麦の食レポをしてるんだ! これがフーチューブに投稿されたら、忙しくなるぞ…」

「おっちゃん…意外とミーハーだったんだな」
187 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/25(木) 20:03:36.11 ID:WrIFYxb+0
「別にそういうわけじゃないけどさ。マリマリちゃんは別格だよ。…そう、アイドルだよ!」

 齢60近い筈の店主は、少年のように瞳を輝かせて言ったのであった。



「…? 何を見ているのですか」

「ああ、これ」

 その日の夜。真新しいノートパソコンに向かって、じっと動画を観ている徹に、帰ってきたばかりのリンカが声をかけた。

「蕎麦屋のおっちゃんが観とけって言うもんだから」

 指差す先に映っているのは、例のマリマリなる少女。

「チャンネル登録者数140万人、最新の動画の再生数は300万回超えだってさ。大したもんだ」

「…」

 リンカは眉をひそめて、画面の向こうでコンビニ弁当を食べる少女を見た。やや大げさな仕草で牛丼弁当を絶賛しているのだが、彼女が着ているのはフリルたっぷりのメイド服だ。

「兎ノ原美月のような服装ですね」

「ははっ、言われてみれば。…」

 ブラウザバックし、動画一覧を開く。やたら数の多いそれをスクロールしながら、彼はぽつりと言った。

「…今度、この娘に取材することになった」

「貴方が?」

「ああ。と言うのも…」



 諦めて帰ろうとする徹を、店主は引き止めた。

「ちょっと待って。徹ちゃん、一度、マリマリちゃんとお話ししてくれないかな?」

「俺が? いや、俺、そのマリマリちゃんのこと、よく知らないし…」

「そう言わずに、ね。ここで会ったのも何かの縁だしさ。…実はあの娘、メディアとのコネを欲しがってるんだ。フーチューブだけだと、どうしても一部の層にしか見てもらえないからって」

「はあ…」

 店主の勢いに押された徹は、店の奥でまかない蕎麦を食べながら、彼女の撮影が終わるまで待った。そうして、自分が社会的地位の低いフリーライターであることを断った上で、彼女と会話した。
 マリマリこと太田衣麻理は、予想以上に彼に食いついた。

「フリーライター…って、雑誌の記事とか書いたりしてるんですか?!」

「えっと、まあ何本か」

「凄い! マリ、ネットでは最近売れてきたけど、本や雑誌にはまだ載ったことがないんです」

「そ、そうなんですか。じゃあ、これから」

 載ると良いですね。そう言おうとした彼を、彼女は遮った。

「取材してくださるんですか!? 是非お願いします!」

「えっ!? えっと、それは」

 身を乗り出し、両手を握ってくる衣麻理。近寄ってきたその顔が存外に美しくて、徹はどぎまぎした。

「…か、書いて、持ち込んで…載せてもらえるかは分からないですけど…」

「ありがとうございますっ! じゃあ、日程なんですけど…」



「…で、貴方は勢いに押された、と」
188 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/25(木) 20:05:12.39 ID:WrIFYxb+0
「…はい」

 無表情に徹を見つめるリンカ。無表情だが、近頃ようやく彼女の考えていることが、何となく分かるようになってきた。

「…ごめんなさい」

「何故謝るのですか」

 リンカは無感情に言いながら、彼の手からマウスを奪った。それから動画一覧を、一番下まで一気にスクロールした。

「…このマリマリなる人物、最初期の再生回数はせいぜい10数回です」

「フーチューバーって意外とシビアなんだぞ。最初は皆、そんなもんだ」

「これが一気に伸び始めたのは…」

 スクロールホイールをくるくると回し、画面を上へと送っていく。どう頑張っても3桁まで届かない再生数が一気に増えたのは、驚くことにほんの先週のことであった。

「この手のショービズ、それも個人が注目を浴びるためには、既に影響力のある人物の力が必要です。しかし、彼女はそれを利用したわけではなさそうです。加えて、一度付いた視聴者は過去の動画も観ることが多いですが、注目を浴びる以前の動画の再生回数は、相変わらず二桁台」

「た、確かに。…て言うかあんた、意外と詳しいんだな」

「何より」

 リンカはもう一つウィンドウを開くと、再生数の伸び始めた動画と、その一つ前の動画を再生し、横に並べた。

「…何だこりゃ、まるで別人じゃないか」

「化粧を変えたにしても、印象があまりにも違う。整形手術か、映像加工か」

「いや、CGは無いだろ。俺はこの顔、直接見たし…って」

 いつの間にか動画が終わり、新しい動画へ切り替わる。そこに映っている顔は、更に印象が変わっていた。と言うより、垢抜けて、美しく見えた。何より、先ほど徹が見た顔に、より近くなっていた。
189 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/25(木) 20:06:03.63 ID:WrIFYxb+0



 撮影を終え、店を出た衣麻理は、数人の男たちに囲まれた。興奮気味に寄ってくる彼らに笑顔で応えながら、衣麻理は通りを歩く。静かな住宅街において、彼女の格好は極めて目立つ。増えたり減ったりする野次馬を、彼女は寧ろ愉しむように歩いていた。
 とは言え、時間が遅いこともあって人の群れは徐々に散っていく。それでも熱心に追ってくるのは、4人の男であった。互いに牽制し合うように、衣麻理をストーキングする男たちを、彼女はちらりと覗き見た。そして

「…んふっ」

 いつの間にか彼女は、人気の無い公園の一角に来ていた。彼女はそこで立ち止まると、おもむろにフリルのたっぷり付いたスカートの中に手を入れた。その手が下へと下りると、彼女の太腿の間を薄いショーツがするすると滑っていった。
 困惑少々、期待大半にそれを見つめる男たちに背を向けたまま、彼女はくるりと首だけを回して彼らを見た。

「…みんな、マリのこと、好き?」

「好きだ!」

 一人が叫んだ。残りの3人も、口々に自分の思いの丈をアピールする。
 それを満足気に聞くと、衣麻理は言った。

「ありがとう。…これからも、ずっとマリのこと応援してね」

 ゆっくりと、片手でスカートの後ろを持ち上げる。鼻息荒くそれを見守る彼らの目に飛び込んできたのは、白い尻に刻まれた、黒い機械的な文様であった。
 もう片方の手に、ダイヤモンドめいて輝く小匣を掲げる。



『アイドル』



「永遠に、死ぬまで…マリのこと、推し続けてね…!」

 彼女が去った後、そこにはぼんやりと座り込んだまま動かない、屍めいた4人の男たちだけが残された。
190 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/25(木) 22:55:05.43 ID:WrIFYxb+0



「へえ、じゃあ最近は、風都で一人暮らしを」

「はい。ようやく売れ始めて、収入を入ってきたので、どうにか親を説得できました」

 メモを取りながら、彼はノート越しにちらりと彼女の顔を覗き見た。そして、密かに胸を高鳴らせた。
 先日『ばそ風北』で会ったときよりも、太田衣麻理は、明らかに綺麗になっていた。



 北風新報の藤沢編集長に、彼女を取材するので記事を載せられないか尋ねたとき、彼は徹の思っていた数十倍は食いついてきた。

”マジで!? マジでフーチューバーのマリマリちゃんの独占インタビューを取り付けたの!?”

「え、ええ。成り行きでと言うか」

”それ、絶対逃さないでよ。それから、絶対に他のとこには内緒だからね。その代わり、原稿料はうんと弾むから”

 受話器の向こうで、藤沢が大声で呼びかけている。

”社内の会議場押さえて! カメラマンも呼ぼう。付けれたらスナップショット集も付けたいな。それからインタビューには適当な女の子も同席させて。対面が男ばっかだと、過激なファンが凸ってくる…”

 電話越しの喧騒を、徹は呆然と聞いていた。



 そんな訳で、北風新報の社内にある会議室で、徹は衣麻理と向き合っていた。時折フラッシュが焚かれて、彼女の横顔や話している様子が写真に撮られる。派手な衣装は撮影の時だけのようで、今はデニムのショートパンツにカットソーと、ラフな格好をしている。

「親御さんの反応はどうでしたか。初めての一人暮らしだと、やっぱり心配されたのでは」

「そうですけど、二人共マリのこと応援してくれてますから」

「そうなんですね」

 徹の相槌に、衣麻理は意味深に微笑んだ。それがまたミステリアスで美しい。

「…これからやってみたいこと、展望がありましたら、教えていただけますか」

「やってみたいことはたくさんありますけど、やっぱり…歌ってみたいかな。歌が好きなんです」

「良いですね、そうなったら本物のアイドルみたいですね」

「応援してくれる人たちのおかげで、マリはどんどん有名になって、いつかは本当のアイドルになりたいなって、そう思ってます!」
191 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/25(木) 22:55:51.17 ID:WrIFYxb+0



 インタビューを終え、レコーダーとメモを鞄に収めると、徹は会社を出た。衣麻理の方は会社の人間が送り迎えまでしてくれるらしい。もう少し彼女と話していたかったが、後であらぬ疑いを掛けられても面倒だ。大人しく帰ることにした。
 帰り道、彼は『ばそ風北』に寄った。腹が減っていたのもあるが、何より店主が彼女へのインタビューのことを知りたがっていたからだ。

「…?」

 住宅街を突っ切った分かりにくいところに『ばそ風北』はある。普段は近所の住民や、常連くらいしか見かけないのだが、衣麻理が動画にしたこともあってか今日は人が多い。
 ところが、店の前でたむろしている人々は、誰一人として店に入っていかない。

「あの…何かあったんですか」

 少し離れてそわそわしながら突っ立っている男に、尋ねてみた。彼は苛立たしげに店を見て、言った。

「マリマリちゃんの動画見て、聖地巡礼に来たのに、この有様だよ」

「この有様って…」

 店に近寄って、気付く。

「…あれ、閉まってる」

 定休日は日曜日だが、今日は木曜日だ。定休日以外で店主が急に店を閉めたことは、徹の記憶では一度もなかった。

「朝からずっとこんな感じなんだよ」

「それはおかしいな…」

 徹は裏に回ると、勝手口を叩いた。

「おーい、おっちゃん、いるのかー?」

 呼びかけるが、反応がない。

「おーい、返事してくれないかー? おーい…」



 そのすぐ向こうには、店主が座っていた。しかし彼は一切動かない。その虚ろな目は、真新しいパソコンの画面を見つめている。
 そこには、華やかな衣装を着て駄菓子を食べる、太田衣麻理の映像が流れていた。
192 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/25(木) 22:56:57.70 ID:WrIFYxb+0
『永遠のI/インターネットのお姫様』完

今夜はここまで
193 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/25(木) 23:07:28.77 ID:WrIFYxb+0
>>188の後が抜けてた



 リンカは、徹の顔を真っ直ぐに見た。

「この女には、何かある。そう考えるべきでしょう。私はその日、行動を共にはできませんが…くれぐれも、気を付けてください」
194 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/27(土) 13:03:42.08 ID:g1DpNED/0
 風都にて。とあるインターネットカフェでのイベントを終えた衣麻理は、ほくほく顔で繁華街へ出てきた。出待ちの群衆を家来のように連れて、通りを歩く。
 企業とタイアップしての仕事は、これが初めてだ。イベントを訪れた誰もが、彼女の美しさに夢中だ。
 ___彼女の去った後のイベント会場には、スクリーンにループ再生される彼女の動画を、虚ろな目で見つめる観客やスタッフたちが残されたが、そんなことはどうでも良かった。

「…!」

 衣麻理の足が、ぴたりと止まった。野次馬を押し退けて、彼女の目の前に、一人の少女が現れたのに気付いたからだ。
 つい最近まで衣麻理が着ていた、ピンクのゴスロリ衣装を纏う少女を見た瞬間、衣麻理の顔から余裕と愉悦が消えた。
 少女は、獣めいた笑みを浮かべながら、言った。

「…ちょ〜っと、お話ししたいな。二人っきりで」

 衣麻理は、がたがたと震えながら、ゆっくりと頷いた。



「…」

 徹は、じっとパソコンの画面を見ていた。映し出されているのは、もちろん太田衣麻理の動画である。何でも、ネットカフェでイベントをやることになったらしい。告知によると、今日がその日だったらしいから、今頃は全部終わって家に帰っていることだろう。
 アルバイトが入っていなければ、自分も行きたかった…。そう考えて、彼は想像以上に彼女に入れ込んでいる自分に驚いた。

「徹」

「…」

「…徹。…」

「…うわっ!?」

 背中に温かいものが触れて、彼は驚いて振り返った。いつの間にかリンカがいて、彼の首に両腕を回して抱きついていた。

「ど、どうした?」

 痛いほどに打つ心臓を抑えながら尋ねると、彼女は無表情に、しかし明らかに沈んだ声で言った。

「不安になります」

「不安に…? あんたが?」

「貴方は、言葉が上手い。それだけでなく、言ったことを現実にする力がある」

「…」

「貴方が道を違えた時が、最も危険であると考えます」

「…気を付けるよ」

 徹が言った瞬間、彼の背中からリンカの姿が消え、真実を司る金色の女神がそこに現れた。

「っ!?」

 しかし、それはほんの一瞬で、またリンカの姿に戻った。

「…真実を見てください。どうか」

「…分かった」

 徹は頷いた。画面に目を戻すと、今まで夢中になって観ていた動画が、急に退屈なものに思えて、彼はノートパソコンを閉じた。
195 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/27(土) 15:48:14.55 ID:g1DpNED/0
「気付いたらもうこんな時間か。そろそろ寝ようかな…」

 立ち上がろうとしたその時、彼の携帯電話が鳴った。

「おっと。…もしもし?」

”もしもし…力野さんですか?”

「!? 太田さん…」

 徹はリンカの方をちらりと窺うと、通話をスピーカーモードにした。

「イベントは終わったんですか?」

”はい。それで、突然で申し訳ないんですけど…今から会うことって、できませんか?”

「会うって、俺とですか?」

”はい。駄目ですか?”

「ファンが黙ってないでしょう。危ないですよ」

”大丈夫です、変装して行くので…”

 変装とは、まるで芸能人のようだ。考えあぐねてリンカの方を見ると、彼女は小声で言った。

「乗ってみるべきです。彼女の秘密について、知ることができるかも」

「…わ、分かりました。じゃあ場所ですけど…」



 タクシーの後部座席で待っていると、太田衣麻理は早足にやって来た。いつもの派手な服装ではなく、黒のシャツにハーフパンツで、帽子を目深に被っている。
 彼女は俯いたまま徹の隣に乗り込むと、低い声で「風車町の、適当なホテル」と運転手に伝えた。
 驚いたのは徹である。風車町は風都に近い地区で、水商売や風俗の店が多く立ち並ぶ区域であった。当然、そこにあるホテルと言ったら、ラブホテルのことである。

「…マジで?」

 彼は思わず呟いたが、衣麻理は何も言わなかった。



 ホテルに着いた。部屋に入り、初めて帽子を脱いだ彼女を見て、徹は困惑した。
 確かに、今まで見た通り美しい。更に磨きがかかったような気がする。しかし、それと重なるように、極めて平凡な、目を引く所のない女の顔が見えた。それでいてどちらの顔も、間違いなく太田衣麻理であると断言することができた。
 衣麻理が、口を開いた。

「急に、こんな夜にお呼びしてごめんなさい。実は、お願いがあって」

「お願い?」

 少し警戒しながら、問う。

「マリの、お友達がいるんです。その娘、大事なものを取られちゃったんだって。あなたに」

「俺に…?」

「さっき、その娘に会って。あなたがそれを持ってるから、返すように説得してほしい、せめてどこに隠したか聞いてほしいって頼まれたんです」

「いや、俺は何も盗んで…」

 そこまで言って、彼ははっとなった。

「まさか…」
196 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/27(土) 15:48:47.55 ID:g1DpNED/0
「お願いします。返してくれたら…」

 言いながら衣麻理は、いきなり彼の胸にぴったりと身を寄せた。

「…何でもします」

「っ!!?」

 平凡な少女の顔がかき消え、美しい女の姿だけが映る。

「な、何でも、って」

「…」

 彼女は彼の体を、ベッドの上に押し倒した。倒れた彼の上に馬乗りになると、彼女は有無を言わさずシャツを脱ぎ捨てた。

「皆から『推し』てもらう度に、マリ、どんどん綺麗になっていくの…」

「す、ストップ! 俺、その大事なものが何なのか知らないし、何処にあるかも…」

 ところが、衣麻理の耳には、もはや彼の言葉など入っていなかった。とうとう派手なブラジャーを外すと、美しく膨らんだ乳房を彼の目の前に突き出した。

「見て、もっと見て! 綺麗なマリを、もっと…」

 うわ言のように呟きながら、彼の体をまさぐる。その指が上着の内ポケットに触れた瞬間、彼女の動きが止まった。

「! あった…」

 呆然とする徹のポケットから、探り当てたそれを抜き出す。

「見つけた…ガイアメモリ…!」

「っ!」

 ここに来て、徹は正気に戻った。すぐにメモリを奪い返すと、ベッドから飛び降りて彼女から距離を取った。

「やめろ、こいつはお前が触れていい代物じゃない…」

「返してよ…あの人に返さないと、マリが大変なことになるの…!」

「悪いが、これは多分、お前が探してるやつとは違うメモリだ」

「だったら…」

 衣麻理は、おもむろに下の衣服まで脱ぎ始めた。露わになった下半身には、無駄な毛や肉が一切なく、美しい上半身と合わせて完璧な裸体を形作っていた。

「ああ…見てる…マリのカラダ、見られてる…『気持ちいい』…!」

 言いながら、ゆっくりと後ろを向く。徹の目に、丸い尻に刻まれた、黒いコネクターが飛び込んできた。

「…力野さんも、マリを推してくれるよね…?」

 その手に、宝石めいて輝くガイアメモリ。
197 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/27(土) 15:50:46.44 ID:g1DpNED/0
『アイドル』



”真実を見てください。どうか”



「…これが、真実…か」

『ファンタジー』

 再び徹の方を向いた衣麻理の体は、赤や青の綺羅びやかな衣装に包まれていた。しかしその頭に顔は無く、ブラックホールめいた灰色の渦が描かれているのみであった。

「! 仮面ライダーだったの。……嬉しい! 仮面ライダーが、マリを推してくれるなんて!」

 太田衣麻理…アイドルドーパントが叫んだ瞬間、その顔の渦が回転し始めた。何かが吸い込まれる感触がして、ファンタジーは咄嗟に躱した。そのすぐ横の空間が、ぐにゃりと歪むのを、彼は知覚した。
 ファンタジーは剣を握ると、ドーパントに斬りかかった。

『せやっ!』

「やめて…マリを、傷つけないで!」

 その手にマイクスタンドめいた錫杖を出現させると、アイドルドーパントは斬撃を受け止めた。

「見て、マリを見て、綺麗なマリを…」

 打ち合いながら、ドーパントはぶつぶつと呟いている。ファンタジーは、流石に気味が悪くなってきた。

『ガイアメモリに頼っても…本当に、綺麗には、なれないぞ!』

 突き出す剣を、杖で弾く。

「そんなことない! こっちが…本当の、マリなの!」

 杖を大きく振りかぶった隙に、腹部に拳を叩き込む。

「ぐぅっ…」

『大人しく、メモリブレイクさせろっ!』ファンタジー! マキシマムドライブ

『ファンタジー・イマジナリソード…』

 輝く剣が、ドーパントに迫る。致命の一撃を前に、アイドルドーパントは…
 ___変身を、解除した。

『うわあっ!?』

 目の前の怪人が、突然裸の美女に戻り、ファンタジーは慌てて剣を止めた。尻から吐き出されたメモリを握りしめると、衣麻理は窓を破ってホテルから逃げ出した。
198 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/27(土) 21:42:07.27 ID:g1DpNED/0



 ホテルの入口には、バイクに跨ったリンカが待っていた。

「逃げられた。…太田衣麻理は、ドーパントだった」

 変身を解除した徹に、リンカは頷いた。

「そうだろうと思っていました。使用メモリは『アイドル』と予想しますが」

「ああ、合ってる」

 リンカがタンデムシートに移動すると、代わりに徹が運転席に跨った。

「どこに逃げたと思う?」

「この時間帯に、できるだけ人が集まる場所でしょう」

 バイクが走り出すと、リンカはアイドルメモリについて説明した。

「アイドルドーパントには、人間の興味や関心、或いは意欲に至るまでを全て自分に向けさせ、エネルギーとして吸収する能力があります。吸収すればするほどドーパントは力を増し、また変身前の外見的魅力も強くなります。ある意味、人間態もドーパント態の延長と言えるでしょう」

「その、興味とかを吸収された人間は…」

「変身者以外へのあらゆる興味、関心、意欲を失い、廃人のようになります」

「! まさか、蕎麦屋のおっちゃんも」

「落ち着いて。メモリブレイクすれば興味の対象が消失し、被害者は元の状態に戻ります」

「そ、そうか。だったら、早く見つけて倒さないとな!」

「ええ。…このメモリには、使用する度に自己顕示欲や承認欲求が肥大するという副作用があります。人の多い場所を目指していると予想したのは、そのためです」

「そうか…」

 自分を見て、と繰り返していたドーパント。メモリの力で手に入れた美しさを、誰かに見せびらかさずにはいられない。そして、より多くの人に見られるには、もっと美しくならねばならない…。酷い悪循環だ。早く断ち切らないと。



 北風駅前。遅い会社帰りのサラリーマンや、何かの待ち合わせに集まる若者たち、ウォーキング中の老夫婦など、多くの人が行き交っている。その人混みの真中に、太田衣麻理はいた。どこかで手に入れたコートを着込み、落ち着かない様子で周囲を窺っている。

「…あれ、マリマリちゃんじゃね?」

 ふと、居酒屋の前で誰かを待っていた、若者の一人が気付いた。衣麻理は待ってましたとばかりに口元を歪めると、その声の主に向かってつかつかと近寄っていった。

「お兄さん、一等賞!」

「うわっ、マジだった!」

「えっ、マリマリちゃん?」

「うそ、どこどこ?」

 続々と寄ってくる野次馬たち。衣麻理は若者にスマートフォンを握らせると、言った。

「カメラマン、よろしくね」

「あ…はいっ!」

 フーチューブの配信をオンにして、カメラが自分を映したことを確認すると、衣麻理は大声で宣言した。

「今日は! この北風駅前で、もっとマリのことを、皆に見て…知ってもらおうと、思いまーす!!」
199 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/27(土) 21:55:46.20 ID:g1DpNED/0
 言い終わるや否や、彼女はコートを脱ぎ捨てた。コートの下は、全裸であった。
 たちまち、歓声が上がった。

「ははははははっ…見て、マリを見て、もっと!」

 青年に撮影させながら、彼女は群衆の中に突っ込んだ。
 駅前はパニックになった。その場にいた者たちはもちろんのこと、その中の誰かがSNSに裸の衣麻理の写真を投稿し、それを見た人々までもが駅前に殺到したのだ。
 道路はストップし、店からは客が消えた。店員も消えた。夥しい人の海に揉みくちゃにされながら、衣麻理は気持ちよさそうに歩いた。

「ああ、見てる、見て、触って…皆、マリを推して…!」

 彼女が叫ぶと、近いところにいた人々が、次々にその場に崩れ落ちた。地面に倒れ、周りの人に踏みつけられても、虚ろな目は絶えず衣麻理を追っている。



 そこへ、徹とリンカが到着した。彼らは駅前を埋め尽くす人混みに足を止められ、止む無くバイクを降りた。

「…そうだ、言い忘れてた」

「何でしょう」

「あいつ、友達の大事なものを俺が持ってるから返せとか言ってきたんだ。もしかしたら」

「ラビットメモリ…兎ノ原美月が、近くにいるかも、と」

「ああ。気を付けてくれ。…変身!」ファンタジー!

 騎士の姿となったファンタジーは、白いマントの翼を広げ、空へ飛び上がった。

『…そこまでだ、衣麻理!』

 上空から衣麻理の姿を見つけると、人を掻き分けて彼女の目の前に着地した。

「あっ、仮面ライダー! やっと来たね」アイドル

 衣麻理の体が、美しい衣装と、不気味な仮面に包まれる。錫杖を振り上げると、周囲にいた人間が次々と倒れていった。

「ね、凄いでしょ。ここにいる皆が、マリのこと推してくれてるんだよ!」

『それは推してるとは言わない! お前が、ただの養分にしているだけだ!』

「えー? 推すって、そういうことでしょ?」

 言いながら、杖で殴りかかってきた。ファンタジーは剣で応戦する。

『っ、力が増してる…!』

「皆に推されるほど、マリは強く、綺麗になるの!」

 剣を叩き落とし、胸の辺りを強く突く。

『ぐはっ…』

 一歩、引き下がるファンタジー。こうしている間にも、集まった人々は倒れ、ドーパントの養分となっていく。立っている人々はそれに違和感すら感じないようで、口々に「何やってんだ!」「マリマリちゃんに何てことを!」などと仮面ライダーにブーイングを飛ばしている。

『ああもうっ…メモコーン!』

 ファンタジーは、自律稼働するガイアメモリの名を叫んだ。
 ところが、今日に限ってあの小さな一角獣が、姿を見せない。
200 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/27(土) 21:56:14.61 ID:g1DpNED/0
『…自分でどうにかしろってことかよ! こういう時は…』

 周囲を窺い、状況を判断する。どうやら、この野次馬は全員アイドルドーパントの影響下にあるらしい。つまり、興味関心を、このドーパントに吸われているということだ。これを断ち切るには…
 ファンタジーは、魔術師の姿になると、両手を掲げた。すると、頭上に眩い光の玉が現れた。

「スポットライト! 仮面ライダーも、マリを推してくれるんだね」

『それはどうかな』

 光球の数がどんどん増えていく。ファンタジーが手を振ると、光の玉がぐるりとアイドルドーパントを囲い込んだ。
 光が等間隔に、円形に並んだ瞬間、光の中に、彼女の姿がふっと消えた。

「…あれ?」

「おれ、何をして」

「うわ、まっぶし…」

『色んな角度から強い光を当てると、外から姿が見えなくなるんだ。運転するようになったら気を付けるんだな! そして、姿が見えなくなれば、ある程度は力を削れるみたいだ』

「くっ、こんな所…っ」

 光の下から抜け出そうとするドーパント。しかし、ファンタジーが掌を突き出すと、魔法陣から鎖が伸び、彼女を拘束した。

『おっと、ステージから逃げるなよ』ファンタジー! マキシマムドライブ

 ファンタジーが騎士の姿に戻り、白いマントをはためかせて空へ昇る。

『ファンタジー・エクスプロージョン!!』

「いや、嫌、いやああああっっ!!!」

 光を裂いてミサイルキックが直撃し、アイドルドーパントは爆散した。

「嫌…折角、せっかく、きれいに…マリ…」

 倒れ伏す衣麻理。その体からガイアメモリが排出され、クリスタルのように儚く砕け散った。



 リンカの見守る向こうで、明るい光が爆ぜた。無事、ドーパントを倒したようだ。リンカの周りでも、倒れていた人々が、またゆっくりと起き上がってきていた。

「これでひとまず解決」

 誰にともなく呟きながら、彼女はおもむろにXマグナムを抜いた。その足元には、ずっとメモコーンが控えていて、威嚇するように低い声を上げていた。

「…バレてた?」

「もちろん」

 いつの間にか彼女の目の前には、ピンクのゴスロリ姿の少女、ミヅキが立っていた。

「あのドーパントも、私や仮面ライダーをおびき寄せるための餌ですか」

「ううん。服を貰ったお礼に、メモリをあげただけ。利用できたら良かったけど、役に立たなかったみたい」

 そこまで言うと、突然、少女はその場に両手を突いて頭を下げた。

「…お願いします。あたしのメモリを返してください」

「お断りします」

 すげなく言うリンカ。ミヅキは一層頭を下げると、コンクリートに額を擦り付けるようにして言った。

「あれがないと、お母様に合わせる顔が無いの…蜂女も、ダンゴムシおやじも、みんなあたしのこと仲間外れにするし」

「それは丁度良い。私たちのところへ来て、母神教について知っていることを教えていただければ、身の安全とガイアメモリ中毒の治療、並びに社会的な更生をお約束します」

「それじゃあ駄目なんだよ!!」

 ミヅキはその場で跳び上がると、そのままリンカに回し蹴りを放った。それを軽く躱すと、リンカは銃口を向けた。

「ラビットメモリの副作用は知っています。限界以上に使い込んだ貴女が、どのような状態に陥っているかも予測できます。その上で、明言しましょう。メモリは現在、『貴女の手の届かない場所』にある」
201 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/27(土) 22:01:31.43 ID:g1DpNED/0
「こ、の…っ!」

 ミヅキは憎々しげに歯ぎしりしていたが、ふっとリンカに背を向けた。

「…良いも〜ん。自分で何とかするから」

「頑張ってくださいね」

 白々しく言うリンカに唾を吐くと、ミヅキは地面を蹴って近くの信号機の上に跳び上がった。そうして屋根や電柱を伝って、夜の闇へと消えていった。

「おーい、勝ったぞー!」

 そこへ、徹が駆け寄ってきた。

「お疲れさまでした。…おや、上着は?」

「ああ。衣麻理を裸のまま転がしとくのは可哀想だったから、気休めに掛けてきたんだ。ま、そんなに高いものでもないし、無くなってもそこまで惜しくないから…」

「そうでしたか」

 リンカは、ミクロン単位で薄く微笑んだ。そうして、彼が今来た方をちらりと見た瞬間に、額を伝う脂汗を、密かに手の甲で拭った。



「…おっ、いらっしゃい徹ちゃん!」

「よっ、また来たよ」

「私も同伴です」

 暖簾をくぐってきた2人の姿を認めると、『ばそ風北』の店主は嬉しそうに手を振った。
 カウンターに並んで座ると、2人で北風蕎麦を注文した。

「何だか、夢を見てたような気がするよ」

 ふと、店主がこぼした。店の中は、以前のように静かで、衣麻理が来た時のような活気は無い。

「マリマリちゃんも、チャンネルがBANされてからはすっかり動かなくなっちゃったし」

「ああ…まあ、あんなことやっちゃ、ねぇ」

 全裸で駅前を歩き回る配信は、当然開始から数分で強制的にストップされた。従って、ドーパントと化した衣麻理や、それと戦う仮面ライダーの姿は映像には残っていない。既に投稿された彼女の動画は今でも見られるのだが、それも全く視聴数が増えない。あんなに注目を集めたはずのネットアイドルは、改めて見ると何処にでもいる、極めて平凡な少女であった。SNS上でも動きがないのは、彼女がメモリの離脱症状から抜けきれず、今でも入院しているからである。

「それにね、改めて見たら、そんなに美人でもなかったかなって。…リンカちゃんの方がよっぽど美人だよ。徹ちゃんにはもったいないよ、このこのっ!」

「だぁかぁらぁ! リンカは彼女じゃないっての!」

「えっ?」

「えっ」

「えっ、じゃねえよ! 何でリンカまで乗ってくるんだよ!?」

「…冗談はさておいて。彼と私は単なる仕事仲間です。訳あって協力関係にありますが、それも一時的なものです」

「えー、そうだったのか…」

 きっぱりと言うリンカに、店主だけでなく、徹までどういうわけか落胆してしまった。少し沈んだ気持ちで彼女の顔をちらりと見て、気付く。

「…」

「…?」

 横目に見たリンカの顔に、何故だか、後悔や罪悪感めいた色が浮かんでいるように思えた。
 困惑する徹の目の前に、出来たての蕎麦が置かれた。湯気が視界を横切ると、彼女の顔はまた、いつもの無表情に戻っていたのであった。
202 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/27(土) 22:02:48.93 ID:g1DpNED/0
『永遠のI/推しがわたしのエネルギー』完

今夜はここまで
203 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/27(土) 22:25:06.05 ID:g1DpNED/0
『アイドルドーパント』

 『偶像』の記憶を内包するガイアメモリで、無職の太田衣麻理が変身するドーパント。赤や青の華やかな衣装を纏い、顔の代わりに黒い渦の描かれた、スタイルの良い女の姿をしている。エネルギーが高まると、マイクスタンドめいた形の錫杖を出現させることもできる。顔の渦巻きから人間の興味や関心、意欲といった前向きな感情を吸い上げ、自身のエネルギーとすることができる。吸われた人間は一切のやる気を失い、廃人のようになってしまうが、感情の方向を自分に向けさせた上で吸い上げるという工程を踏むため、感情の対象、すなわちアイドルドーパントが倒されれば元通りに戻る。また、エネルギーを集めるほどに変身前の状態でも外見的な魅力が増していくという、特徴的な能力も持つ。それと比例して、自己顕示欲や承認欲求も肥大化していくという副作用がある。
 売れない配信者であった太田衣麻理は、半ば事故のようにこのメモリを入手すると、まず反対する両親からエネルギーを吸い上げた。それからは、主に近付いてくるファンからエネルギーを奪って自身の糧としていた。人の多い場所を目立つ格好で歩くのは、糧にする標的を探しながら自身の自己顕示欲を満たすためであった。しかし、徹を誘惑するために裸体を見せたことで承認欲求の箍が完全に外れ、暴走。人の多い夜の駅前を、全裸で闊歩するという暴挙に至った。
 メモリはダイヤモンドめいて輝くクリアカラーで、スポットライトを浴びるマイクの意匠で『I』と書かれている。クリアカラーに銀端子と、流通メモリの中では何気に高級品。ミヅキが密売人から強奪していなければ、到底衣麻理の手に届く代物ではなかっただろう。



>>94をアレンジして採用させていただきました。ありがとうございます!
204 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/27(土) 22:56:04.16 ID:g1DpNED/0
あ、ドーパント案は随時募集中です。ライダーの強化は大体もう決めてあるけど…

ちなみに、読みにくい名前が多いけど、今まで出てきた人物は
力野 徹(ちからの とおる)
植木 忍助(うえき にんすけ)
井野 定(いの じょう)
井野 遊香(いの ゆうか)
九頭 英生(くず えいしょう)
熊笹 修一郎(くまざさ しゅういちろう)
真堂 甲太(しんどう こうた)
火川 カケル(ひかわ かける)
朝塚 芳花(あさつか よしか)
蜜屋 志羽子(みつや しわこ)
兎ノ原 美月(とのはら みづき)
生島 彰二(いくしま しょうじ)
太田 衣麻理(おおた いまり)
という名前です
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/28(日) 11:01:40.85 ID:BPTkaxiP0
『スマイルドーパント』

「笑顔」の記憶を内包するメモリを使用。ドーパント体は全身が黄色くて細身で顔は貼り付けた様な歪な笑顔になっている。また、背中には触手がマント状に広がっている。この触手に突き刺されたものは何事にも常に笑顔を浮かべながら幸福感を感じるようになり、優しい人物になる。しかし、その優しさや笑顔は歪であり、早い話がディケイドのディエンド編で洗脳された人々を更に歪めたようになってしまう。
メモリに惹かれる人物は「無垢であり、人に笑顔になって欲しいと思う人」であり、(無垢という条件から)精々が高校生ぐらいまでの人物
使用の副作用は、人を笑顔にして挙げているということから全能感が強くなってしまい、自分が世界を救うという風に思ってしまう。

できれば女子高生がなってくれると嬉しいです
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/28(日) 12:47:45.02 ID:68tFiGy9O
ティーチャー・ドーパント
「教師」の記憶を内包するメモリを使用。
ドーパント体は胸から上で、時計台のついた凸の字型の校舎を模した姿になる。
胸部の昇降口に小規模な教室様の異空間を作り出し、そこへ犠牲者を吸い込み、『生徒』にしてしまう。
そのなかでは教師に扮した変身者が『教育』を行う空間であり、生徒に教えたいことを教え込む(実質、洗脳する)ことができる。
また、空間内では犠牲者は『校則』に縛られる。
ただし変身者も学校の規範に従わなければならず、例えば生徒への暴力や淫行などの問題行為を行うと『学級崩壊』を起こし、異空間を保てなくなる。
なお、宇宙との関係性はない。
684.59 KB Speed:0.4   VIP Service SS速報R 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)