【安価】ガイアメモリ犯罪に立ち向かえ【仮面ライダーW】

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207 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/28(日) 16:40:58.25 ID:6TTeuXTWO
ニンジャメモリ(ニンジャドーパント)

その名のとおり「忍者」の記憶を有したメモリ 割りに合わない値段
割りに合わない理由はユーザーによってドーパントの強さが極端に変わるから(まともに使える人がいなかった)
下忍・中忍・上忍と別れており、一般人が使うとほぼ下忍(マスカレイドと同じ強さ)にしかならない。アスリートの様に鍛えた人でも現状中忍までしか確認できていない。
男女と強さでドーパントの姿が変わり、男性は黒装束に、女性はぴっちりとしたスーツを着た様な姿を基本としてそこから中忍・上忍にランクが上がることによって更に装備が増えていく
メモリのNの形は手裏剣がNの字を作っている
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/29(月) 07:55:41.52 ID:01b06Flp0
バンド・ドーパント

「楽団」の記憶を内包するメモリで変身する
ZOOメモリと同じ様に一本のメモリで複数の能力を持っている
主に使用される能力は「ボーカル」「ギター」「ドラム」「キーボード」「ベース」これらに加えて使用者によっては「サックス」や「パーカッション」も加わる
ドーパント体は顔は五線譜を模したものであり、肩からはギターのネックが突き出た感じになっている
一本で複数の能力を使える強力なメモリであるが複数の能力の行使の条件として他の人間を取り込む必要がある。取り込む人間によってドーパントは強化され、「その楽器を演奏している変身者のバンド仲間」が一番強化の度合いが強い
バンド・ドーパントの奏でる音楽には様々な効果があり癒やしの能力から破壊まで様々な能力が使えるが、演奏中は移動ができないという欠点を持つ
209 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/29(月) 16:51:10.22 ID:09sdmqmX0
(クインビードーパントって小説版に既出だったのか…)

(まぁ使役してるのはビーじゃなくてホーネットだから自爆しないし、蜜屋先生の方が適合率高いから見た目がリッチってことで、なんとか)
210 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/31(水) 21:54:45.80 ID:lGIpjtHk0
「まず、今まで通り適当なドーパントで、仮面ライダーとあの女をおびき寄せて…」

 公園の身障者用トイレにて。タイルの上に転がした男に跨って、激しく腰を振りながら、ミヅキはぶつぶつと呟いた。

「…あの女を人質にして、それから…」

 組み敷かれて喘ぐだけの男の胸に、指で『作戦』を書き記す。

「…ああもうっ、駄目、ダメダメダメっ! 全っ然良い案が浮かばない!」

 ミヅキは考えるのを止めると、目の前の男との性交に専念し始めた。



 最後の男を見送ると、ミヅキは再びトイレの個室に向かった。今度は、単純に寝るためだ。
 その背中に、誰かが声をかけた。

「おい」

「…は〜い?」

 一人追加。そう思い、振り返った彼女の顔が、引きつった。
 そこにいたのは、薄汚い格好をして、意地の悪い笑みを浮かべた、ガタイの良い一人の男であった。

「よう、美月。こんなところにいやがったのかよ」

 ミヅキは青ざめた顔で、小さく呟いた。

「…ぱ、パパ」

 その肩を乱暴に掴むと、男は汚い歯を剥き出して、言った。

「ほら、帰るぞ。俺『たち』の家になぁ!」
211 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/31(水) 21:57:20.11 ID:lGIpjtHk0



 その日、リンカは体調を崩していた。

「だ、大丈夫か…?」

 そもそも、彼女にも体調という概念があることを失念していた徹は、紅い顔でいつもの金ネクタイを締める彼女に、おろおろと尋ねた。

「軽微なものです。支障ありません」

「だけど、風邪はひき始めが肝心って言うし…」

「風邪ではありません。加えて症状の経過が、行動によって左右されることはありませんので、ご心配なく」

「いや、余計に心配なんだが」

 食い下がる徹をあしらうと、彼女はさっさと出かけてしまった。何でも、蜜屋志羽子について重要な手がかりを掴める寸前なのだそうだ。



 バイト先から帰る途中、人気の少ない道を歩いていた徹は、何かを聴きつけて立ち止まった。

「悲鳴…?」

 女の悲鳴のようなものが、彼の耳に届いた気がした。周りを見回すと、他に2人の通行人がいるが、どちらも何事もないように歩き続けている。
 気のせいだろうか。早く帰ろう、リンカも心配だし…。そう思い、再び歩き出そうとしたその時



「嫌っ、助けて…っ!」



「!!」

 はっと、振り返る。その瞬間、後方の曲がり角に消えていくピンク色のスカートの裾が目に入った。
 徹は、迷わず駆け出した。
212 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/31(水) 21:59:53.49 ID:lGIpjtHk0
 果たして、角を曲がった先は薄暗いビルの隙間で、更に入り込んだところには、一人の若い女と、それを壁に押さえつける一人の男がいた。

「おい、何をしてる!」

 徹は駆け寄ると、男の肩を掴んで引き剥がした。

「早く、今のうちに逃げろ!」

「っ…」

 女は何か言いかけたが、すぐに路地の出口へと逃げ出した。
 男は、徹の腕を掴むと、舌打ちした。

「テメエ、何しやがんだよ」

「それはこっちの台詞だ。…警察を呼ぶ」

「はっ、やれるもんならやってみやがれ!」

 そう言うと男は、徹を突き飛ばした。そして、汚れたジャケットのポケットに手を突っ込むと、酷薄な笑みを浮かべながらガイアメモリを取り出した。黒い筐体には、ヘドロめいた筆跡で『G』と書かれている。



『ガーベ「ゴーッド!」



 メモリの声を掻き消すように、男は叫んだ。

「ゴッド! 神! 俺は神だ!」

 そう言うと彼はよれたTシャツの襟を引っ張り、露わになった左胸のコネクターに、自称神のメモリを突き立てた。

「ガイアメモリ…!」

 男の体が、黒いヘドロと、しわくちゃのビニールめいた膜に覆われていく。その姿は、どれだけ好意的に見ても、神のそれではなかった。

「俺様の邪魔をしたらどうなるか、教えてやるよォ!」

「やれるものなら、な! 変身!」ファンタジー!

 徹は変身すると、長剣を構えた。自称神のドーパントが、驚いたように一歩退く。

「なっ…仮面ライダーだと…風都にしかいねえと思ってたのに」

『この町にだって、仮面ライダーはいるんだぞ。そして…』

 切っ先を、ドーパントに向ける。

『お前みたいに町の平和を乱すやつは、俺が倒す!』
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/31(水) 22:19:27.26 ID:MBW8vuEi0
この男ブゥン!しそう
214 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/01(木) 21:08:49.62 ID:8sIrjYta0
『はあぁっ!』

 振り下ろした刃が、怪人の粘つく体を切り裂く。ビニールの被膜が破れ、中から汚い汁が滲み出てきた。

「ぐっ、うぅっ」

 先ほどからドーパントは防戦一方だ。狭い路地でファンタジーは、長剣を突き出すように振るい、敵に傷を付けていく。

『命は取らない。だが、メモリはブレイクさせてもらうぞ!』ファンタジー! マキシマムドライブ

『ファンタジー・イマジナリソー…』

 その時、彼の背後から悲鳴が聞こえてきた。

『!?』

 はっと振り返ると、そこには先ほど逃げた筈の女と、それを捕まえる一人の少女が立っていた。

『ミヅキ…!?』

「変身を解除して。でないと、この女を殺す」

『何でこんなこと…こいつもお前の仲間か』

「早く!」

「放して! 放してっ…」

『…』

 ファンタジーは仮面の下で歯噛みすると、ドライバーからメモリを抜いた。装甲が解けていくのを見届けると、ミヅキはヘドロのドーパントに向かって言った。

「パパも、仮面ライダーにはもう手出ししないで」

「お前、俺に口出しすんのかよ」

「パパ、だと…?」

 困惑する徹。ミヅキは意外にも、あっさり女を放した。逃げていく女を見てドーパントが唸った。

「クソがっ、どいつもこいつも…!」

 言いながら、いきなり徹に殴りかかってきた。

「パパっ!!」

「っ…」

 身構える徹。その時、塀の上から銀色の影が飛来した。

「ぐわあぁっ!?」

 それはドーパントの体に激突すると、徹の前に着地し、敵に向かって威嚇するように嘶いた。

「おお、助かったぜメモコーン…!」

 再びドライバーを手に取る徹。彼と、その足元に控える小さな一角獣を交互に見ると、ドーパントは舌打ちした。

「…ケッ、もううんざりだ。美月、帰ったら覚悟しとけよ」

 そう言った瞬間、彼の体が黒いタールめいた液体に覆われた。液体の中でドーパントの体はどろどろに溶け、アスファルトのひび割れに吸い込まれるように消えてしまった。
215 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/01(木) 21:09:20.62 ID:8sIrjYta0
 残された徹は、ミヅキの方を見た。

「…ミヅキ、あれがお前の父親なのか」

「…」

 ミヅキは何も言わず、徹を睨む。その顔は、最後に見た時よりやつれているようであった。何より、頬や額に大きな痣ができている。

「あんな奴の言いなりになるような人間じゃないだろ、お前は。一体何があった?」

「…余計なお世話」

 ぽつりと言うと、彼女は地面を蹴って彼の背後まで跳んだ。そのまま、何処かへと走って行ってしまった。



「本当なら、ウチの課で扱う事件じゃなかったんだがな」

 溜め息を吐くと、植木は徹に調査書を差し出した。

「佐倉強也、39歳。元はホストだったとも、風俗の受付だったとも言われていてはっきりしない。分かっているのは、この男が夫と別れた直後の兎ノ原皐月と交際し、2年後にはその連れ子と共に風とで同棲していたということ。皐月と、当時7歳だった連れ子の美月に、身体的、性的な暴行を加えていたことだ」

「…」

 目の細い、酷薄な顔を思い出す。路地裏で女に乱暴しようとするどころか、血縁でないとは言えそれを自分の娘に手伝わせていた。汚らしいドーパント態に相応しい、腐りきった男だと、徹は思った。

「美月が保護されると同時に、虐待に加担した皐月もろとも逮捕されたが、翌月には執行猶予付きで釈放された。以後、立件されていないだけで数件の強姦に関わったと言われている。つい最近北風町に引っ越してきたらしいが…そうか…こいつもガイアメモリを」

「こいつは、俺が絶対に倒します。そしてミヅキも、捕まえて連れて来ます」

「我々も厳戒態勢を敷こう。…ところで」

 植木は徹の隣を見ると、不思議そうに尋ねた。

「あの、いつものフリー記者Bは?」

「リンカは…」

 徹は言葉を濁した。
 体調を崩したあの日から、明らかに彼女の病態は悪化していた。それでも外に出ようとする彼女を無理やりベッドに寝かしつけると、彼はアパートの鍵をかけてここまで来たのであった。
216 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/01(木) 21:09:47.13 ID:8sIrjYta0



「はあっ、このっ、クソガキがっ…」

 散らかり切ったアパートの一室にて。汚れた床にうつ伏せにミヅキを押さえつけると、佐倉は乱暴に腰を振っていた。

「テメエよぉ、あの男…お前の、知り合いかよっ…」

 剥き出しの尻を叩く。打たれた痕や爪痕で、彼女の尻は血塗れだ。

「ただの知り合いっ…彼氏でもないからっ…」

「ヤッたのかよ、ええ?」

「…一回だけ」

「ゴミカスがよぉ!!」

 腰を引くと、彼は娘の腹を力任せに蹴り飛ばした。うめき声を上げて転がる彼女を尻目に立ち上がると、彼は吐き捨てた。

「お前のガバマンじゃ、ヤッた気になんねえんだよ。出てくるぞ」

 足音荒く部屋を後にする佐倉。

「待って、パパ、ごめんなさい、待ってっ…」

 追いすがるミヅキを蹴ると、彼はアパートを出てどこかへ行ってしまった。
217 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/01(木) 21:10:46.67 ID:8sIrjYta0
『招かれざるR/神のメモリ』完

今夜はここまで
218 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/01(木) 21:11:26.45 ID:8sIrjYta0
間違えた

『招かれざるG/神のメモリ』

でした
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/01(木) 21:23:15.66 ID:SsnkdDR6O
エンペラーペンギン・ドーパント

『皇帝ペンギン』の記憶を宿したメモリで変身するドーパント。メモリは皇帝の名前通り、やけに高級品
ずんぐりむっくりとした巨大なペンギンの姿で頭に王冠。背中にマントを羽織った偉そうな雰囲気が特徴
見た目からは想像がつかないが、『世界一過酷な子育てをする鳥』の異名があるドーパントなので非常にタフ
また、皇帝の名前に引っ張られたのか大規模なカリスマ性。配下のちびペンギンの召喚、使役。羽を剣に見立てた剣戟等、容姿で舐めてかかると痛い目に会うだろう
メモリの形はペンギンが横にヒレを伸ばし、嘴、羽、足でEの字を形作っている
220 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/01(木) 21:45:51.34 ID:8sIrjYta0
(朝塚のメモリは最初クローバーにしようとして、どうしてもシロツメクサで攻撃する方法が浮かばなくて途中でアコナイトに変えたんですけど、アペタイトでA使っちゃってたからクローバーの方が良かったなって今更思う)



『ホーネットドーパント』

 『スズメバチ』の記憶を内包するガイアメモリで、北風町に跋扈するメモリ密売人が変身するドーパント。強力な顎、鋭い棘の生えた腕による攻撃だけでなく、臀部から生えた30cmほどの巨大な棘から毒を流し込むこともできる。ただし、毒が使えるのは一度の変身につき一度までで、使用した後は最低3日は変身できなくなる。この毒は一度目で死ぬことはないが、二度受けると生身の人間なら確実に死に至るという特徴がある。また、短距離ではあるが飛行能力もある。
 量産型ながら戦闘力の高いドーパントで、彼らの首魁であるクイーンビードーパントはこのメモリへの適合率から優れた戦闘員を見出し、より高位の昆虫系メモリを与える指標にしている。マスカレイドやビーと違い、自爆機能は付いていない。
 メモリの色は黄色。顎と触覚を広げたスズメバチの頭部を正面から見た画が『H』の字になっている。
221 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/02(金) 22:29:33.59 ID:XAbD419/0
「リンカ、おじや作ったけど食うか?」

 ベッドに横たわるリンカに、徹は片手鍋とお椀を持って近寄った。

「…いただきます」

 リンカはおじやをよそったお椀とスプーンを受け取ると、ちびちびと食べ始めた。

「具合はどうだ? 寝たら少しはマシになったか?」

「特に変わりありません。休んで改善するものではないので」

「おいおい…病院には行ったのかよ?」

「医療で改善するものでもありません」

「何だよ…」

 だんだんと、徹は苛立ってきた。

「その言い方だと、原因が分かってるみたいだな。分かってて、何で放ったらかしてんだよ?」

「そうせざるを得ないからです。特に」

 彼女は、彼の目をじっと見て、言った。

「現在、兎ノ原美月と接触している限りは」

「ミヅキが? どうして」

 言いかけたその時、彼の携帯が鳴った。画面には『坂間刑事』の文字。

「…もしもし?」

”風車7丁目のドヤ街で、女の遺体が見つかった。暴行された痕があったそうだぞ”

「! 佐倉が」

”ホシのアパートを張ってはいたが、部屋を出たと思ったらいつの間にか消えてたんだと。そいつもドーパントとやらの能力なのか?”

「そうだと思います」

 体をタール状に解かし、吸い込まれるように消えていったドーパント。そのまま、どこにでも現れることができるのか。それとも、何か条件があるのか…?
 考え込む徹。その足元に小さな一角獣が歩み寄り、せっつくようにその角で、彼の足を突いた。
222 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/02(金) 22:30:46.21 ID:XAbD419/0



 北風町、とある薄暗い路地にて。投げ捨てられたゴミや動物の糞に塗れたアスファルトの、錆びたマンホールがカタリと音を立てた。次の瞬間、蓋の隙間から黒いどろどろした液体が湧き出し、歪な人の形に固まった。

「ふぃ〜っ…」

 出来たての首をこきりと鳴らすと、自称神のドーパントは、満足げに息を吐いた。久々に処女とヤれた。やはり犯すなら若い処女が良い。泣き叫ぶ顔も、穴の締まりも最高だ。この力があれば、何でも自分の思うがまま……

「…っ!?」

 突然、彼の足元から炎が噴き上げた。慌てて躱し、周囲を見回す。



『…見つけたぞ、ヘドロ野郎』



「! その声は」

 彼の目の前に、白と赤の魔術師が降り立った。装いは違うものの、フードの下の複眼は、先日戦った騎士の、バイザーの向こうに見えたそれと同じであった。

「どうやってここに来た…」

『お前は、体を液体に変えて移動する。だったら流れる場所を通る必要がある。加えて、その体…上水道や地下水よりは、下水道の方がお似合いだと思ったまでだ』

「ンなもん、いくらでもあるだろうがよぉ! 何でここが分かったんだ!?」

『現場と、お前の家の間。その中でも、人気の少ない場所のマンホールに絞った。足りない人手は…』

 仮面ライダーは、どこからともなく竹とんぼを取り出すと、慣れた手付きで回した。冷たい風に攫われ、ふわりと宙へ舞い上がると、それは一機のドローンに変化した。

『…俺の力は、空想を現実にする。どこに現れようが、俺は必ず見つけ出す…!』

「上等だぁ!」

 ドーパントは怒鳴ると、仮面ライダーに殴りかかった。

「テメエはここで、ぶっ殺す」

『それはこっちの台詞だ…!』

 怒りに燃えた声で言い返すと、彼は襲いかかる敵をカウンターで殴り倒した。そして、ドライバーに装填された赤いガイアメモリを抜くと、変形させて今度は青いメモリを装填した。

『セイバー』

 仮面ライダーの姿が騎士に変わる。銀の鎧の上には、蒼の勇壮な装甲が加わっており、その手には青と銀の長剣を握っていた。
223 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/03(土) 08:32:58.89 ID:161JS0Va0
 銀の刃が、ヘドロの体を深々と切り裂いた。

「ぎゃあぁぁっ!!?」

 それだけでなく、傷口からは灼けるように煙が立ち上る。
 剣は、古来から英雄の武器として様々な伝説に登場している。その記憶を有するガイアメモリによって形作られたこの剣は、特に悪しき存在に対して強力な効果を発揮した。

「ぐっ、うぅっ…」

『やぁっ!』

 切っ先が、ドーパントの体を貫いた。彼は憎々しげに唸った。

「うぅ…俺は…お、俺は、神だ…」

『女をレイプして、子供を虐げる、そんな汚い姿の神がいるものか!』

 剣を引き抜き、ドライバーの前にかざす。

『トドメだ…』

「俺はぁ! 神だあぁぁぁっっ!!!」

 突然、ヘドロに覆われたドーパントの体が、音を立てて沸き上がった。煮え立つタールが飛び散り、騎士の鎧に付くと、鎧が煙を上げて融け出した。

『!!』

 咄嗟にマントを広げると、体を防御した。その間にメモリを入れ替え、魔術師の姿に戻る。

『いい加減に…』

 防壁を展開し、更に掌を突き出す。次の瞬間、ドーパントの足元から巨大な炎の柱が噴き上がった。

「ぎゃあぁぁぁぁっっ!!」

 炎に包まれ、絶叫するヘドロのドーパント。燃え盛る体が次第に蒸発していき…やがて炎が収まった頃、そこにはボロボロになった一人の男が座り込んでいた。

「くそ…おれは…おれ、は…」

『…』

 無言で歩み寄る仮面ライダー。彼は、男の目の前に立つと、赤と銀の杖を振り上げた。

「俺はあぁっ! 俺はっ…」



『ガー「ゴッド! ゴッドゴッド! 神、だ…」



 喚きながら、黒いメモリを掲げる。
 仮面ライダーは、冷たい声で言った。

『ただの、クズ野郎だ』

 そして、手にした杖を、生身の男に向かって……
224 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/03(土) 14:42:59.92 ID:161JS0Va0



「もう止めて!!」


225 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/03(土) 14:43:27.04 ID:161JS0Va0
『…』

 仮面ライダーの手が止まる。
 彼の目の前に、汚れたピンクのロリータ服を着た、やつれた少女が立ちはだかった。

『…何でだ。そいつは、お前のことも傷付けたのに』

「これ以上…あたしの居場所を取らないで…」

 涙を浮かべながら少女が訴える。仮面ライダーは杖を下ろすと、言った。

『居場所だと? そんな所にいるんじゃない。…こっちに来るんだ』

「嫌! こんなパパだけど、お母様の邪魔をするあんたたちに比べたら、マシ」

 それから彼女は、地面に座り込んでぶつぶつ呟く男を抱えると、仮面ライダーに背を向けた。

「俺は、おれは…俺は、かみ、俺は…」

「帰ろう、パパ」

 汚れたアスファルトを蹴ると、塀を飛び越えて去って行った。



「…ただいま」

 家に帰った徹は、室内がやけに静かなのに気付いた。

「…リンカ?」

 嫌な胸騒ぎを感じ、寝室に向かう。
 そこには、ベッドに横たわって動かないリンカの姿があった。

「リンカ!?」

 駆け寄って抱き起こすと、彼女は苦しげなうめき声を上げた。

「おい…おい、しっかりしろ! リンカ、どうしたんだ…」

「…っ、はぁっ」

 歯を食いしばり、彼の腕を振り払うリンカ。こんな状態だというのに、いつもの白スーツの、上着のボタンすら外さない。捲れたジャケットの裾から、金属のベルトが見えた。

「…えっ?」

 金属ベルトだと? そんなもの、普段付けていたか?
 彼女の体を無理やり仰向けにすると、彼は上着のボタンを外して前を開けた。

「!!」

 露わになった彼女の腰には、彼女の所持しているガイアドライバーが巻かれていた。しかし今、そこに装填されているのは、金色のトゥルースメモリではない。

「これは…」

 半挿しになったメモリを掴み、抵抗する彼女を抑えて引き抜く。
 彼の手に収まったのは、ピンク色のガイアメモリ。耳をぴんと立てた、ウサギの頭部が描かれている。

「ずっと、ここに隠していたのか」
226 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/03(土) 14:44:36.93 ID:161JS0Va0
「…」

 何も言わず、彼女は小さく頷いた。メモリを外しただけで、彼女の顔から苦痛の色が引いていくのが分かった。

「何だってそんな、無茶なことを」

「警察病院に刺客が来た時…貴方の身の安全と同時に、このメモリを奪取しに来る可能性について考慮しました。その上で、常に私の目が届き、かつ他者には物理的に取り出せない場所…すなわち、私の体内という結論に達しました」

「だが、そのせいでこんな」

「…このメモリは、兎ノ原美月に適合しすぎました。臓器と接触しないよう、ぎりぎりガイアドライバー内に留めていましたが…凄まじい拒絶反応と副作用で、やや人格に変調を来しかけました」

 そう言えば最近、彼女から徹に触れたり、抱きついたりすることが多かったように思える。ラビットメモリを近くに置いていたために、彼女の性格に影響が出たのかも知れない。

「…とにかく、このメモリは俺が持っておくぞ」

「お断りします。これは、私が管理します」

「駄目だ! もうこれ以上、あんたが苦しい目に合うのは御免だ」

「ですが、貴方はこれを兎ノ原美月に返却する気でしょう?」

「…」

 徹は、言葉に詰まった。リンカがすかさず続ける。

「佐倉強也の虐待によって、兎ノ原美月は現在のような人格になった、そういう意味では彼女も被害者でしょう。しかし、それでも敵であることには変わりありません。彼女が再びメモリを手にすれば、我々、そしてこの町にとって大きな障害となることは明らかです。極端な話をするなら」

「…分かった。もういい分かった!」

「このまま、彼女を放置すべきでしょう」

「黙れ! それ以上言うな!!」

「佐倉のもとで、衰弱死でもしてくれた方が、我々にとってはプラスです」

「…あんた…っ!」

 徹は歯ぎしりしながらリンカを睨んだ。彼はリンカに背を向けると、足音荒く部屋を出て行った。
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/03(土) 17:44:18.13 ID:eHbDHCJk0
ホラーメモリ

頭を抱えのたうち回る人の姿を上から見た様子で描かれたメモリ。
相手が元々怖いと思っているものとなり、暗闇や背後にワープして襲い、その恐怖をエネルギーにする。

副作用で使用者は残忍で猟奇的になる(ホラー映画のキャラみたいになる)
228 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/03(土) 22:30:21.79 ID:161JS0Va0



 夜の公園。ベンチに座り込んで、徹は溜め息を吐いた。電灯の下に、ピンク色のガイアメモリをかざす。

『ラビット』

「…どうして」

「!」

 顔を上げると、彼の目の前にミヅキがいた。

「どうして、あたしはここに」

「このメモリに引き寄せられたんだろう」

 ほとんど無意識に、メモリに手を伸ばすミヅキ。徹は、それをさっと引っ込めた。

「…返して」

「駄目だ」

「じゃあ、何のためにここに来たの。何であたしのメモリを持ってるの!」

「話すことなんてない! 返して!」

 飛び蹴りを浴びせようと、膝を曲げるミヅキ。徹は椅子から立ち上がると

「…っ!?」

 彼女の体を、きつく抱き締めた。

「放してっ…放してっ!」

「ガイアメモリは、あんたを幸せにはしてくれない! あの男もだ!」

「余計なお世話だって! あんたに何が分かるの!?」

「母神教も、あんたの居場所にはならない! お母様とやらだって、あんたを操って、戦わせるじゃないか」

「お母様は!」

 彼の脇腹に膝を打ち付けながら、ミヅキが叫ぶ。

「あたしを、愛してくれる…パパだって」

「違う! そんなのは嘘だ!」
229 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/03(土) 22:30:49.00 ID:161JS0Va0
 彼女を抱く腕に、力を込める。

「あんたは…生まれた時から、ずっと傷付いてきたんだ。勝手な大人たちに振り回されて、辛い思いをし過ぎたんだ。…もう、止めよう。まだ間に合う。やり直すんだ!」

「うるさい! うるさいうるさい、うるさいっ!!」



「…見つけたぞ、クソガキ」



 突然、背後から怒声が飛んだ。

「…佐倉、強也」

 徹はミヅキの体を離すと、佐倉とは逆の方へ、そっと押し出した。そうして、自分はその男と正面から向き合った。

「よぉ、ヒトの娘と、何盛ってやがんだよぉ!」

「一つだけ、訊きたい」

「…あん?」

 徹は一瞬、ミヅキの方を見て、それから問うた。

「ミヅキの母親…兎ノ原皐月は、今どうしてる?」

「ああ? …ああ、あいつか」

 彼はつまらなさそうに鼻を鳴らすと、言った。

「ムショ出てから、景気づけにヤッたら、何か死んじまった。…ひひっ、隠しといたのをメモリの力で、ドロドロに溶かして捨てたから、バレずに済んだけどな」

「! そんな」

「…そうか」

 徹は、ドライバーとメモリを掲げた。その足元に、小さな一角獣が寄り添う。

「もう、何も言わなくていいぞ。…ここが、お前の終わりだ」ファンタジー!

『…ミヅキ。向こう向いて、耳を塞いでろ。何かしようなんて考えるな。こいつは…あんたの人生には、初めからいなかったんだ』セイバー!

 銀と蒼の騎士は、剣を構えた。

「よく言うぜ! …娘は返してもらうぞ」



『ガ「ゴッド! ゴーッド!」



「俺は、神だからなぁ!!」
230 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/03(土) 22:31:14.84 ID:161JS0Va0
 ヘドロの弾幕が、ファンタジーを襲った。それを剣で叩き落としながら、彼は敵に肉薄していく。

『やあっ!』

「ぐふっ…」

 斬撃を受け止めると、ドーパントは足元にヘドロを広げた。

『!』

 飛び下がるファンタジー。すかさず黒いタールの鞭が、彼を襲う。それを切り払うと、彼はマントを広げて夜空に舞い上がった。

『たあぁっ!!』

「ぐはっ…!」

 重力の乗った一撃が、ドーパントの肩を切り裂いた。

「こ、の…」

 傷口が融け、また塞がっていく。彼は辺りを見回すと、突然、腕を長く伸ばした。
 手繰り寄せたのは、公園のゴミ箱。空き缶や、弁当の箱が捨ててある。彼はそれを持ち上げると、口を開けて中身を呑み込んだ。

「んっ、ぐっ、ぐっ…」

 やがて空になったゴミ箱を投げ捨てたドーパントの体は、先程よりも少しだけ大きくなっていた。

「ひひひっ…こいつでどうだっ!」

『くっ』

 重いパンチを、剣で受け止める。どうにか受け流すと、ファンタジーは剣を突き出した。切っ先が、黒い腹部を刺し貫く。だが、傷口がすぐに塞がってしまう。

『だったら…』

 ファンタジーが剣を掲げる。と、その刀身が激しく燃え上がった。

『ジャスティセイバー・レーヴァテイン! はあぁっ!!』

「ぐあぁぁっ!?」

 炎の剣が、ドロの体を切り裂き、更に蒸発させていく。ドーパントは更に体を強化すべく、周囲のゴミを探す。だが、見当たらない。

「…っ、そうだ」

 彼は何かを思いついたように呟くと、やおら体を黒い液状に変化させた。そのまま地面を這い進むと、ファンタジーの後ろにいたミヅキの方へと近寄っていった。

「最初から、テメエを喰っちまえば良かったんだよぉ!!」

「! パパ…」

『この野郎…っ!!』

 ファンタジーは猛然と駆け寄ると、人型に戻りつつあるその背中に、燃える剣を突き立てた。

「ぐうぅぅっ…ひっ…ひひっ…はははははっ…」

「…」

 ドーパントの体から、タールが黒い触手めいて伸び、ミヅキの体を捕らえた。ミヅキはその場から動こうとせず、じっと自分の義理の父親を見つめていた。

『ミヅキ! ミヅキ、逃げろ! クソっ…』

 体を燃やされながらも、娘を捕食しようと腕を伸ばすドーパント。ミヅキの体が、黒い液体に覆われていく…

『ミヅキ! ……手を、出せ』

「…!」

 ピンクのスカートが溶け、細い腿が露わになる。……そこに刻まれた、生体コネクターが。
231 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/03(土) 22:31:41.94 ID:161JS0Va0



『ラビット』


232 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/03(土) 23:11:00.74 ID:161JS0Va0
 次の瞬間、そこには、何事もなかったかのように立つミヅキと、その前で崩れ落ちる、ヘドロのドーパントがいた。

「美月…テメエ…」

『…これで、終わりだ』セイバー! マキシマムドライブ

『セイバー…ジャスティスラッシュ!!』

 蒼い閃光が、ドーパントの体を両断した。

「ぎゃあぁぁぁっ…」

 弱々しい断末魔。光が収まった時、そこにいたのは倒れ伏す薄汚い男と、砕け散った黒いガイアメモリ。散り際、持ち主の虚偽に抗議するように、メモリは自らの名を告げた。

『ガーベッジ』

「…ミヅキ」

 変身を解除して、徹は呼びかけた。
 ミヅキは動かず、倒れ伏す義理の父親を見つめていた。

「…ぐっ」

 佐倉は呻き声を上げると、どうにか上半身を起こした。

「み、美月…た、たす、け」

「…」

 ミヅキは黙って、彼の言葉を聞くと…
 彼の胸を、蹴り上げた。

「がっ…!?」

「やめろ!!」

 徹が身を乗り出すが、もう遅い。彼女の爪先は、佐倉の胸を、文字通り貫通していた。
 上げた脚から、スカートの裾が滑る。露わになったコネクターに、ピンク色のメモリを突き立てた。

『ラビット』

「み、づ、き…」

「やめろ! やめろおぉぉぉっっ!!」
233 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/03(土) 23:11:35.26 ID:161JS0Va0



「…バイバイ、パパ」


234 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/03(土) 23:12:22.61 ID:161JS0Va0
 兎の回し蹴りが、佐倉の頭を粉々に砕いた。飛び散る脳漿の中に立ち尽くすと、ラビットドーパント…ミヅキは、変身を解除した。

「あ…ああ…」

「…仮面ライダーさん」

 彼女は呟くと…突然その場で跳躍し、徹の胸に飛び込んだ。そうして、彼の唇に、自分のそれをそっと重ねた。

「ありがと。でも、兎は寂しいと死んじゃうの。…あたしには、お母様がいないと」

「どうして…俺のところじゃ、駄目だったのか…?」

 ほとんど無意識に問うた徹に、ミヅキは首を振った。

「あなたには、あの金ピカネクタイ女がいるから。…あなたのことは、好き。今まで数え切れない男とエッチしてきたけど、キスしたのはあなたが初めて」

 ゆっくりと、後ずさる。その背中から、眩い白の光が溢れ出した。

「…ああ。迎えに来てくれたの、『お母様』」



”おかえりなさい、愛しい子”



「!!」

 徹は目を見張った。白い光の中に、何かがいる。逆光に塗り潰された、一つの人影が。

”あなたが、再び母を求めるのを、ずっと待っていました”

「ごめんなさい、遅くなって」

”良いのですよ。…ときに”

「!」

 響く声が、徹の方を指した。

”貴方が、仮面ライダーですね。…母の娘が、お世話になりました”

「お前が…お前が、ミヅキを」

”貴方も、愛しい母の子。母の愛を求めるなら…或いは”

「…あたしに逢いたくなったら、いつでも来てね」

 照れくさそうに言うミヅキ。その体が、白い光に包まれ……そして、消えた。
235 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/03(土) 23:15:00.27 ID:161JS0Va0
『招かれざるG/バイバイ、パパ』完

今夜はここまで
そしてミヅキ編も一旦ここまで
236 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/03(土) 23:33:09.49 ID:161JS0Va0
『ガーベッジドーパント』

 『廃棄物』の記憶を内包するガイアメモリで、強姦魔の佐倉強也が変身するドーパント。ヘドロめいた黒の体に、ビニールめいた被膜が所々を覆っている。よく見ると、ヘドロの中からは空き缶やペットボトルといったゴミが浮いたり沈んだりしている。体を構成するヘドロを飛ばしたり、伸ばしたりできる他、体を液状に変化させることも可能。ヘドロの中では異常な早さで腐敗が進むため、人体などを溶かすこともできる。ゴミや死骸を吸収することで、傷を治したりパワーアップすることも可能。こう書くと使い勝手は良さそうだが、そもそもの戦闘力がそれほど高くない上、炎には極端に弱いため、仮面ライダーやドーパント同士の戦闘には不向き。
 警察から釈放された後、どこかのタイミングでこのメモリを手に入れた佐倉は、強姦の末殺害した内縁の妻である兎ノ原皐月の遺体を吸収し、証拠隠滅を図った。それ以降は、襲う女に近付いたり、犯した女の体を溶かしたりするのに能力を使っていた。また、彼はこれを神の力と信じ、ガイアウィスパーに被せるようにゴッドと叫んでいた。当然、ゴッドメモリなるものは存在しないし、したとしても幹部級のメモリになっていたであろう。
 メモリの色は黒。ヘドロの飛沫めいた筆跡で『G』と書かれている。
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/03(土) 23:46:49.22 ID:3JrB34HiO
乙、ミヅキちゃんまた出てくる?
238 : ◆iOyZuzKYAc [sage saga]:2019/08/03(土) 23:50:29.68 ID:161JS0Va0
もうちょっとしたらまた出てくる
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/04(日) 01:05:09.16 ID:pOIcKN1Qo
クソガキから一転、どうなるかハラハラの面白いことになったなー、ミヅキちゃん
240 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/04(日) 21:25:09.38 ID:nzo4YOI90
「…」

「…」

 朝。部屋は、重苦しい空気に包まれていた。

「…やはり、メモリを返却しましたか」

「あの場は、ああするしかなかった」

「ガーベッジドーパントの戦闘力は、それほど高くありません。人一人吸収したところで、ファンタジー・セイバーの敵ではなかったでしょう」

「じゃあミヅキが死ぬのを見殺しにしろってのか!?」

 リンカは、そっと目を伏せた。

「…敵であれ、命の損失を抑えたいと願う貴方の姿勢は、個人的には好ましく思います」

 ぽつりと、言う。

「ですが…手段を選んでいられる状況でないことも事実です。ラビットメモリを返却して、我々が得たものは、あまりにも少ない」

「お母様とやらの声を聞いたぞ。いつでも会いに来いとも言われた」

「ラビットドーパントはともかく、首魁の戦闘力は未知数です。今飛び込むのは、あまりに危険と考えます」

「じゃあどうしろって…」

 張り詰めた空気を破るように、徹の携帯電話が鳴った。画面には『植木警部』の文字。

「…もしもし、おはようございます」

”力野さん、先程警察病院から連絡があったんだが…朝塚芳花が、死亡した”

「朝塚って…アコナイトメモリを使った…!」

”集中治療室で昏睡状態だったが、とうとう回復することは無かった…。今日、改めて朝塚ユウダイを呼んで取り調べたいと思う。力野さん、リンカさんも、一緒に来てくれないか”



 母親が死んだというのに、息子はぼんやりした顔で、坂間の質問に要領を得ない答えを投げ返した。

「ガイアメモリは、どこで手に入れたの」

「…塾の帰りに、拾いました」

「蜜屋の塾で、何を教わってるの」

「勉強と、奉仕の心です」

「ユウダイ君…っ!」

 坂間は語気を荒げた。

「君のお母さんが、亡くなったんだぞ!? 君が持ってきた、ガイアメモリを使って…」

「母は、使い方を間違えたんだと思います。先生は、何も関係ありません」

 机を叩き、いらいらと首を振る坂間。それを見ながら、徹とリンカは、静かに取調室を出た。
241 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/04(日) 21:25:50.81 ID:nzo4YOI90
「…そう言えば、蜜屋について調べてたんだろ。何か分かったのか?」

 廊下の自販機で缶コーヒーを買いながら、徹は尋ねた。

「そうですね。あれだけ具体的な証言が出ているにも関わらず、決定的な証拠を掴ませない、巧妙さは思い知りました」

 微糖コーヒーを受け取りながら、リンカが答える。

「その、愛巣会とやらにも行ったのか」

「はい。中では、授業とレクリエーション、それから野外での奉仕活動が行われているだけでした」

「洗脳だ何だの証拠は掴めてない、か」

 無糖コーヒーを啜ると、徹は溜め息を吐いた。

「何だよ、そっちも進捗ナシじゃねえか」

「進捗ならあります。…塾の敷地内で、九頭英生を見かけました」

「九頭だと!?」

 徹は素っ頓狂な声を上げた。

「あいつは自爆して死んだはずだ。何かの見間違いだろ」

「側頸部の生体コネクターを確認しました。何より、教員の一人が九頭の名を呼びました」

「だが…」

「井野定を覚えていますか」

「えっ?」

 急に彼女が別の男の名前を出したので、徹は虚を衝かれたようにぽかんと口を開けた。

「彼は、墓から妹の遺骨を取り出す時、『お母様の力があれば妹が帰ってくる』と言いました。死亡したはずの九頭が、まだ生きているとすれば…案外、無理な話でもないのかも知れません」

「…」

 徹は黙って考え込んだ。

「…俺も、行ってみるか」

「そうしましょう。特に、九頭は貴方が仮面ライダーであることを知っています。反応を確かめるだけでも収穫はあるでしょう」
242 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/04(日) 21:26:24.89 ID:nzo4YOI90



 川沿いにある細長いビルが、丸ごと愛巣会の建物であった。玄関をくぐったリンカを、蜜屋志羽子はにこやかに出迎えた。

「いつもお世話になってます、リンカさん。…」

 挨拶してから、その後ろにくっついて来た、見慣れない男に一瞬、眉をひそめる。

「こちらの方は…?」

「力野と申します」

 徹は名刺を差し出した。

「実を言うと、円城寺に先生の取材を委託したのが私でして。本日は、一緒にお邪魔させていただきます」

「まあ、そういうことだったんですね」

 蜜屋は納得したように頷くと、名刺を丁寧に仕舞った。そうして、奥を指した。

「では、参りましょうか。力野さんがご一緒ですので、また最初からのご案内になりますが、よろしいでしょうか? リンカさん」

「もちろんです」

 リンカは頷いた。蜜屋の先導で、2人はビルの奥へと進んだ。



 2階から、教室が始まっていた。1フロアにつき2部屋の教室があり、それぞれの部屋には大きな机と椅子が、緩やかな円形に並んでいた。椅子には10人弱の生徒が座って、黙々と勉強をしている。

「今日…と言うより、近世より日本人が固執する教育方式は、先進国では絶えて久しいものです。生徒全員が一方向を向いて座り、教師から一方的な教えを投げつけられるだけ」

「確かに、机はアメリカの学校など見る配置ですね。…クラス分けに、何か基準は?」

「まずは、目的です。学業の成績向上と、生活の改善とでは、行うべきことが違います。この階は、純粋に勉強をする生徒のためのものです」

 片方の部屋に入ると、生徒たちが顔を上げて一斉に挨拶した。その中の一人を呼び寄せると、蜜屋は紹介した。

「室長の小崎君です。…こちらのお二方は、勉強するあなた方を取材しに来てくださいました」

「小崎と申します。よろしくお願いします」

 中学生くらいに見えるその少年は、恭しく頭を下げた。態度だけでなく、話す内容も気味が悪いほどに模範的で、徹たちの付け入る隙を与えない。疑いの目で見れば、確かに洗脳されているのかもと思えるくらいであった。
243 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/04(日) 21:26:58.79 ID:nzo4YOI90
 2つ階層を上ってもそれは同じであった。様子が変わってきたのは、4階に辿り着いてからだ。

「この階からは、非行の更生のためのクラスになります」

 確かに、先程までとは空気が違う。教室にいる生徒たちも、席に座らずに歩き回ったり、談笑したりしている。

「良いんですか? 勉強に励んでいるようには見えませんが」

「こうして仲間と触れ合い、絆を育むことが、彼らにとっての勉学なのですよ」

 笑顔で言うと、彼女は教室に入った。

「あっ、先生! おはようございます!」

 蜜屋に気付くと、生徒たちが挨拶した。

「ええ、おはよう」

 挨拶を返しながら教室の奥へ進むと、片隅で座って読書する少女に声をかけた。

「速水さん、何を読んでいるの?」

「…朔田友子の、新作」

 ぼそりと答えると、彼女は文庫本のブックカバーを外してみせた。

「前におすすめした作品ね。彼女の生き方には、学ぶことがたくさんあるわ。…」

 教室を出ると、蜜屋は言った。

「あの娘は、少し前までパソコンばかりをして、家に引き籠もっていました。うちに入塾してからは、少しずつ段階を踏んで、今では本に興味を持ってくれるようになりました。もうすぐで、外の世界に出ていけるはずです」
244 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/04(日) 21:27:27.54 ID:nzo4YOI90
今夜はここまで
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/04(日) 22:18:46.64 ID:pOIcKN1Q0
全く関係ないところでゴス子とメテオがゴールインしてる……
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/05(月) 12:45:00.60 ID:W3SwJkMkO
速水ってギャレンの人やんけ!
247 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/08(木) 20:19:08.16 ID:JTTnaW1h0



 6階に着いた時、片方の教室から一人の女が飛び出してきた。

「あっ、蜜屋先生!」

「友長先生? どうしました」

 ブラウスの上からきっちりと長白衣を着込んだその女は、焦燥した顔で言った。

「園田君と渡部君が…」

「行ってみましょう」

 教室に入ると、2人の少年が殴り合いの喧嘩の最中であった。周りでは、他の生徒たちが囃し立てたり、迷惑そうに眺めたりしていた。

「止めなさい、2人とも!」

 蜜屋は2人の間に割って入ると、声を張り上げた。

「…喧嘩の理由は、後で聞きます。友長先生、2人を医務室にお願いできますか」

「分かりました」

 2人が教室を出ていくと、蜜屋は低い声で言った。

「…このように、子供が暴力に訴えるのは、それしか対話の方法を知らないからです。彼らは、生まれた時から言語によるコミュニケーションを疎かにされ、暴力に頼った教育を受けてきた、被害者なのです」

「では、あの2人は」

「ええ。虐待を受け、児童相談所に保護された子たちです。ここにいるのは、ほとんどがそのような経歴の持ち主たちです」

「この後、どのような指導を?」

「まずは、じっくり待つことですね。お互い怒ったまま話を聞いても、前には進みませんから。…あら、もうこんな時間」

 蜜屋は腕時計を見ると、申し訳無さそうに言った。

「階段を上ってばかりで、お疲れでしょう。少し休憩にいたしましょうか」



「そつが無さ過ぎる」

 応接室にて。蜜屋がいなくなったことを確認すると、徹はずばり言った。
248 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/08(木) 20:19:37.60 ID:JTTnaW1h0
「同感です。まるで私たちの求めるものを知っていて、先回りして隠しているかのようです」

「生徒の手首にコネクターは無かったが…」

 そこへ、一人の職員がお茶と菓子を持って入ってきた。

「どうぞ、粗茶ですが」

「あ、どうも……っっ!!?」

 受け取っておいて、徹は絶句した。盆を運んできた職員。それは、目の前で自爆したはずのマスカレイドドーパント、九頭英生その人であった。
 九頭はまるで初対面ですと言わんばかりに、2人に向かって丁寧に頭を下げた。しかしその首には、明らかにガイアメモリのコネクターが刻まれていた。
 彼が去った後で、徹とリンカは顔を見合わせた。

「…何だか、馬鹿にされてる気がするな」

「同感です」

「だが…ここで打って出るのは、明らかに向こうの思う壺だろうな」

「ええ。付け入る隙があるとすれば…」

 リンカは、九頭が出ていった扉を睨みながら、言った。

「朝塚芳花が、この塾の正体について知ったきっかけ…誰が彼女に、ここで行われていることを教えたのか」



「…知りたいですか?」



「!?」
249 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/08(木) 20:21:48.46 ID:JTTnaW1h0
 振り返ると、そこには先程出てきた、友長と呼ばれた白衣の女が立っていた。

「あなたは…」

「塾の専属医…まあ、学校医の、友長真澄といいます」

 不思議な女だった。美人であることに変わりはないが、視界に入る度に少女のようにも、老婆のようにも映る。白衣の上からでも分かる、大きな胸が目立った。

「…わたしは、蜜屋先生のやり方に疑問を抱いています」

「この塾に勤めておられる、あなたが?」

「ええ。…見ていただいた方が早いでしょう」

 そう言うと彼女は、2人を先導してエレベーターに乗り込んだ。そこで何やら、階層のボタンを数度押すと、エレベーターが音もなく下へ向かって進み始めた。

「地下…?」

「隠された部屋です。あの2人は、医務室へ連れて行くと言われましたが、実際に向かったのはこの先です」

 エレベーターのドアが開く。目の前に現れたのは、冷たい金属の扉。
 友長はそっとノブに手をかけると、静かに回し、細く扉を開けた。

「どうぞ、ご覧ください」

 徹は、隙間からそっと中を覗いた。
 そこにいたのは、先程喧嘩していた2人の少年と、一人の男。

「あれは…」

「…蜜屋の秘書、と思われます。以前にもお会いしたことがあります」

 リンカが覗いて言った。それから何か言おうとして、はっと息を呑んだ。

「あれは…ガイアメモリ!?」

「何だと?」

 身を寄せ合って、2人で隙間に目を近づける。
 男は、黙って突っ立っている2人の前で、紺色のガイアメモリを掲げた。目を凝らすと、そこには鉛筆や鞭を組み合わせた意匠で『T』と書かれていた。
 男が、威圧的な口調で何か言う。そして、メモリが自らの名を告げた。
250 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/08(木) 20:22:17.94 ID:JTTnaW1h0



『ティーチャー』


251 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/08(木) 20:23:18.60 ID:JTTnaW1h0
『Sの秘密/愛を育む巣』完

今夜はここまで

しばらくは更に更新頻度が落ちそう
252 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/08(木) 20:38:44.74 ID:VYAvH3Vt0
おつ
253 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/10(土) 08:45:29.57 ID:kUSbn9bv0
 男が腹にメモリを刺すと、その体を灰色のコンクリートめいた液体が覆った。それは見る見る内に四角い構造を成し、やがて一棟の小さな校舎を形作った。時計から、不気味な鐘の音が響き……2人の少年が、消えた。

「!? おい、何をした!?」

 思わず、徹はドアを開け、部屋の中に飛び込んだ。

「徹! 危ない…」

「なっ、これは…うわあぁぁっ!?」

 校舎の下部、玄関と思しき扉が開き、徹の体がその中へと吸い込まれていく。リンカは咄嗟に後を追い、彼の手を掴もうとした。ところが

「…ああ、見つけてしまったのね」

「!」

 振り返ると、そこいたのは蜜屋志羽子。冷たい目でリンカを睨んでいる。
 校舎の中へ消えていく徹を尻目に、蜜屋は言った。

「あなたがこの塾を嗅ぎ回っていることは、最初から分かっていたわ。決定的な証拠を掴まない間は好きにさせてあげようと思ってたけど、見つけてしまったなら仕方ない」

「…」

 入ってきた扉の向こうに注意を向ける。いつの間にか、友長の姿が消えている。

「偽りです。貴女は最初から私たちをここにおびき寄せた上で、秘密裏に始末するつもりだった」

「いいえ? ここが見つかるのは、本当に想定外よ。…全く。あなたが私の生徒なら、どれほど優秀な働き蜂になれたでしょうね」

「お断りします」

 鞄からXマグナムを抜き、構える。が

「ふんっ」

 蜜屋が、何かをリンカに向かって投げた。それは凄まじい速度で銃身を直撃し、彼女の手からはたき落としてしまった。
 ブーメランめいて戻ってきた物体を掴むと、蜜屋は目の前に掲げた。



『クイーンビー』



254 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/10(土) 08:46:23.17 ID:kUSbn9bv0



『トゥルース』



 リンカは黄金のメモリを取り出すと…手裏剣のように、蜜屋に向かって投げつけた。

「!」

 蜜屋も、メモリを投げる。空中でぶつかり合った2本の小匣は、それぞれの持ち主の元へ戻ると、方やガイアドライバー、方や後頭部のコネクターに、吸い込まれるように収まった。
 爆風が部屋を薙いだ。次の瞬間、そこには殺人蜂の女王と、真実の女神が、陽炎を纏って向かい合っていた。

「やはり、蜂の首魁は貴女でしたか」

「ええ。…この姿は、2度めね」

 言いながら女王蜂は、虹色の翅を震わせた。すると壁に六角形の穴がいくつも開き、中からヤンクめいた服装の若者たちが一斉に飛び出してきた。

「さあ、私の優秀な生徒たち。…この邪魔者を、喰い殺しておしまい」

「はい、先生!!」ホーネット!



ホーネット



 ホーネット ホーネット 


ホーネットホーネットホーネット    ホーネット
     ホーネット          ホーネットホーネット   ホーネット ホーネット ホーネット
                    ホーネット ホーネットホーネットホーネット  ホーネットホーネット ホーネット    ホーネット      ホーネットホーネット        ホーネット
ホーネットホーネット  ホーネット ホーネット
ホーネットホーネットホーネット ホーネットホーネット   ホーネットホーネットホーネットホーネットホーネット



 スズメバチの大群が、部屋を埋め尽くす。彼らは牙や爪、巨大な棘を剥き出し…一斉に、リンカに襲いかかった。
255 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/10(土) 16:07:39.24 ID:kUSbn9bv0



「ここは…?」

 気が付くと、徹は学校の教室に立っていた。広い部屋に、2つだけぽつんと置かれた机と椅子には、先程の2人の少年が座って教壇を見つめている。教壇に立っているのは、ティーチャードーパントに変身したはずの、蜜屋の秘書だった。

「授業を始めます」

 男が言うと、黒板にずらずらとチョークで書かれたような白い文字が流れ始めた。

「あなた方は蜜屋先生の生徒です。生徒としての役割を果たしなさい。互いに争うことは許しません」

「な、何だこれは…?」

 ロボットのように抑揚のない声で、ひたすら喋り続ける男。それを黙って聞く少年たち。黒板には、文字に混じって蜜屋の顔写真やホーネットメモリの画像が流れ始めた。

「人は一人では生きていけない存在です。蜜屋先生を信じなさい。蜜屋先生に従いなさい。それが全ての始まりです」

「おい…何を言ってるんだ!」

 徹は声を上げた。しかし、誰一人として反応しない。

「より多く、ガイアメモリを広げなさい。…より多く、『お母様』の賛同者を増やしなさい」

「!!」

 徹は、ドライバーとメモリを取り出した。

「ここで、子供たちを洗脳しているってわけか…変身!」ファンタジー!

 その時、男が初めて徹の方を見た。

「そこのあなた! 校則違反です! この神聖な教室では、何人も生徒や教師を傷付けることは許しません!」

「校則違反」「校則違反です」ホーネット

 2人の少年が椅子から立ち上がり、振り返った。虚ろな目で徹を見ると、各々黄色いガイアメモリを抜き、手首に刺した。

『上等だ。こんな歪んだ教室……』

 ファンタジーは剣を構えた。

『…俺が、ぶっ壊してやる!』
256 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/11(日) 16:51:45.67 ID:dBkOTmV10



 トゥルースドーパントが、エジプト十字の杖を振りかざすと、スズメバチたちの動きが止まった。

「なにっ…」「ぐっ」「うあぁっ…!?」

「人の身で虫などに身をやつし。ただ一人の人間に盲目的に従い。組めぬ徒党を組んで、歪みを広げる。貴方たちの在り方は……偽りです」

 杖を振るうと、ドーパントたちがその場に膝を突き、崩れ落ちていく。しかしよく見ると、その程度には差があった。変身が解除される者もいれば、歩みが遅くなった程度の者もいる。
 そしてその中に、明らかに影響を受けていない、2匹の蜂がいた。

「小崎君、速水さん」

「はい」「はい。先生」

 女王蜂の号令で、2人は前に進むと……変身を解除し、それぞれ、別のガイアメモリを掲げた。



『バンブルビー』『ロングホーン』



 小崎が左肩に、速水が右脇腹に、新たなメモリを打ち込むと、彼らの姿はそれぞれ熊蜂と、カミキリムシの怪人へと変化した。

「真実。偽り。それを決めるのは、何? ……所詮は、メモリとの適合率の問題。簡単なことだわ」

 熊蜂が、太い腕で殴りかかってきた。それを杖で受け止めると、女神は片方の翼を広げ、鋭い羽をカミキリムシに向けて放った。

「っ、くっ、うっ」

 外骨格で羽を弾きながら、カミキリムシも女神に肉薄し、そして鋭い牙を剥き出した。大きく開かれた顎に向けて、女神が金の光弾を放つ。

「ああっ!?」

「ぐはっ…」

 突き出した杖が、熊蜂の腹を抉る。
 崩れ落ちた2体を蹴り飛ばすと、女神は女王蜂を睨んだ。

「人は。……蜂でも、甲虫でもない。彼らのこの姿は、どうしようもなく偽りです」

「こ、の…っ!」

 怒りに唸りながら、遂に女王蜂が翅を広げ、襲いかかってきた。
257 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/11(日) 17:31:23.89 ID:dBkOTmV10



「せぇいっ!」

「ふんっ!」

 剣と爪がぶつかり合う。机を切り裂き、椅子を蹴散らしながら、ファンタジーは2匹のスズメバチと戦いを繰り広げていた。その後ろでは、相変わらず蜜屋の秘書が、黒板の前で絶えず洗脳の言葉を紡いでいる。

「蜜屋先生は絶対です。蜜屋先生を信じなさい。皆さんは優秀な生徒です。必ず、先生のご期待に応えなさい。…」

「こ、の…!」

 ファンタジーは手元に短剣を出現させると、男に向かって投げつけた。無論、直接刺さらないようにだ。
 鋭い刃が、すぐ耳元を掠めたと言うのに、男は一切怯まない。

「蜜屋先生の教えを広めるのです! ガイアメモリと、皆さんの努力で…」

「クソっ!」

 剣を片方のドーパントに突き立て、もう片方を拳で殴り倒した。

「ぐわっ!」

「倒しても倒しても…」

「くっ、そっ!」

 男の声が響く教室で、2人の生徒は何度倒されても、諦めずに立ち上がってくる。その動きに、疲労が見えない。

「キリがない…」

 剣を収めると、魔術師の姿になった。かざした手から炎が噴き出し、ドーパントを襲う。

「うわあぁっ!」

「お前もだっ!」

 殺しは論外だが、黙らせなければ。魔法陣から緑色の霧が噴き出して、男の顔を覆った。

「蜜屋先生は…っ! げほっ、がっ…!?」

「お前たちの教えは、確かに活かされてるぞ。…この、ワサビ攻撃にな!!」
258 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/11(日) 22:13:52.36 ID:dBkOTmV10
 蜂たちの動きが鈍る。その隙に、メモリをスロットルに挿し込んだ。

『これで…』ファンタジー! マキシマムドライブ

『…終わりだ! ファンタジー・イマジナリソード!』

「ああああっっ!!」「ぐわああぁぁっ!」

 白い閃光が、2体のドーパントを切り裂く。スズメバチのメモリが破壊され、人間に戻った生徒たちは、ふっと教室から消え去った。

『よし、後はこの教師をどうにかすれば…』

 ところが、次の瞬間



「…仮面ライダー!」「見つけたぞ!」「わ、私が倒す…」「いや、俺だ!」



『何っ!?』

 教室に、新たにホーネットドーパントが、大量に出現したのだ。特に、ファンタジーの近くに出現したドーパントは、翅を広げてその場に浮かび上がると、尻から突き出した巨大な針を、ファンタジーに向けた。

「この教室が、あなたの墓場です! さあ、生徒たち!」

「はい!」

 男の号令で、スズメバチたちが一斉に襲いかかってきた。



 鋭い棘と、七色の翅が空中でぶつかり合う。時折介入してくる、バンブルビーとロングホーンをいなしながら、トゥルースドーパントはクイーンビーと射撃戦を繰り広げる。
 腕から棘を飛ばしながら、クイーンビーが叫んだ。

「あなたたち! ここで寝ているくらいなら、教室に加勢なさい!」

「! は、い…」

 トゥルースドーパントによって力を抑えられていたホーネットたちが、ゆっくりと起き上がる。

「仮面ライダーを倒しなさい。…活躍した生徒には、褒美を与えるわ」

「!!」

 女王蜂の言葉に、弱っていたはずの蜂たちが我先にと、ミニチュアの校舎に飛び込んでいく。

「! メモコーン、早く来て…」
259 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/11(日) 22:17:17.10 ID:dBkOTmV10
「あなたの相手は、この私よ」

 手首から、巨大な針を伸ばして殴りかかる。間一髪で躱すと、杖で殴り返した。打撃を肩の装甲で受けると、そこに蜂の巣めいて六角形の穴が空いた。

「…!」

 咄嗟に翼を広げ、体を庇う。そこへ、白い弾丸が直撃した。

「っ、流石に手強い…」

「思ったほどでは無いのね。…さあ」

「はい」

 バンブルビーとロングホーンが、背中から彼女に致命傷を与えんと、腕を振り上げた。次の瞬間

「…っ!?」「痛っ!」

 歌うようないななき。銀の一角獣が何処からともなく飛び出し、2体のドーパントに体当たりを見舞った。

「! メモコーン、徹を助けて…」

 ところがメモコーンは校舎に目もくれず、今度は女王蜂に突撃した。

「メモコーン! 私のことは良いから…」

「っ、うっとおしい…!」

 跳び回る一角獣を捕らえると、クイーンビーは床に叩きつけて踏みつけた。そのまま、トゥルースドーパントを複眼で睨んだ。

「…キリが無いわね。どう、リンカさん? この際、あの頼りない仮面ライダーなんて捨てて、私たちの所に来ない?」

「…」

「あなたが単純な正義のために動いているわけじゃないことは、何となく察してるわ。どうせ、あの男とは一時的な協力関係…或いは、あなたが一方的に利用しているのでなくて?」

 手首の針を、鼻先に向ける。

「…場合によっては、私たちの方があなたの助けになるかも」

「…魅力的な申し出ですが」

 女神は、言った。

「ええ。物分りが良いのはとても」

「今は、ご自身の背後を気にするべきかと」

「!?」

 咄嗟に振り返る女王蜂。
260 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/11(日) 22:53:11.55 ID:dBkOTmV10
 そこには、一人の少年がいた。

「お、お前が…お前が」

「…朝塚君。今更、何の用」

「お前が、母さんを!!!」

 少年…朝塚ユウダイは、泣きながら一本のガイアメモリを、両手で捧げ持った。
 奇妙なメモリであった。プロトタイプらしく剥き出しの基盤に端子しか付いていないのだが、基盤には白いテープが乱雑に巻かれていて、油性マジックらしき線で『X』と書かれていた。

「! どうしてそれを」

「ああああああああっっっ!!!!!」

 絶叫しながら彼は、そのメモリを喉に突き立てた。そのまま、クイーンビー…蜜屋志羽子に向かって、突進した。

「落ちこぼれが…ッッッ!?」

 棘を剥き出し、迎え撃とうとしたその体が、壁まで弾き飛ばされた。
 ユウダイは止まらず、ティーチャードーパントの所まで走り、そのまま小さな校舎に吸い込まれていった。
261 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/11(日) 22:53:53.82 ID:dBkOTmV10



『ぐっ…く、うぅっ…』

 震える手で剣を握り、肩で息をするファンタジー。片手で覆った脇腹には、巨大な棘が深々と突き刺さっている。

「あと一回だ! 誰か!」

 彼に棘を見舞った少年が、仲間たちに叫んだ。彼自身は針を刺した瞬間、人間に戻ってしまった。一度使うと、ドーパント態を保てなくなるのかもしれない。
 スズメバチの針なのだから、効果も察するというものだ。先程からファンタジーは、全身に強い痺れを感じていた。しかし、こんなものは序の口だ。真に恐ろしいのは、2発目…一度毒を受けた体が、二度目に同じ毒を受けた時…その時は、間違いなく命は無いだろう。

「俺だ!」「私よ!」「どけっ、ここは…」

 せめてもの救いは、手柄を焦るあまりホーネットたちが押し合いへし合いして、中々ファンタジーに辿り着けずにいることだ。

『はあっ…はあっ…やあっ!』

 すり抜けてきた1人を切り伏せる。しかし、次は無さそうだ。彼の手から、剣が落ちた。
 メモコーン…クエストのメモリがあれば、毒を解除できるかも知れない。だが…

『…ったく、肝心の時に役に立たねえ!!』

 更にすり抜けてきた1人が突き出した、尻の棘を、ぎりぎりのところで掴んで止めた。そのまま床に投げつけると、とうとう彼は床に膝を突いた。せめて盾をと念じるが、具現化する力も残っていない。

『はぁっ…ここまで…なのか…っ!?』

 死を覚悟した、その時



「うあああああああっっ!!!」



『!?』

 突然、教室に誰かの叫び声が響き渡った。と思うや、部屋の中心に1人の少年が現れた。

『また加勢か…』

 ところがその少年は、ファンタジーではなく、教壇に立つ男に向かって一直線に突っ込んでいった。

「よくも! よくも母さんを! 母さんを、返せえええぇぇぇx!!!!」

「! ガキが…!」

 苛立った顔で、少年をあしらおうとする男。ところが、存外に少年の力が強い。
 ここに至って、ファンタジーは少年が何者なのか気付いた。

『ユウダイ君!? どうしてここに…』

「母さんを! 良くも!」

 男のスーツを掴み、殴りつけるユウダイ。

「劣等生め、ここで死ね!」

「ぐあぁっ…!」

 男が手をかざすと、コンクリートめいた液体が湧き出し、ユウダイの顔を覆った。気道を塞がれてもなお彼はもがいた。だが、それも長くは続かず、ユウダイは男の足元に崩れ落ちた。
262 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/11(日) 23:06:23.48 ID:dBkOTmV10
「ふん、クズめ……っ!?」

 そこまで言って、突然彼の顔に狼狽が浮かんだ。

「しまっ…」

 次の瞬間、教室の空気が歪んだ。

『なっ、何が』

 床が揺れ、壁がひび割れ、机や椅子が溶けて無くなっていく。
 やがて…満身創痍のファンタジーは、元いた地下室に、大勢のホーネットドーパント、そして動かなくなった朝塚ユウダイと共に戻ってきた。

『はあっ…も、戻ってきた…?』

「徹!」

『!』

 呼びかける声に、はっと顔を上げる。そこにいたのは、女王蜂のドーパントと対峙する、黄金の女神。
 彼のもとに、小さな一角獣が駆け寄ってきた。

『遅いんだよ、お前はよ…!』クエスト!

 赤いメモリを装填すると、ファンタジーの姿は白いローブに赤い装飾を纏った魔術師に変わった。同時に、体を蝕む毒も消え、彼はすっくと立ち上がった。

『もう許さねえ! 母親だけじゃなく、息子まで…』クエスト! マキシマムドライブ

 ファンタジーの体を、白いマントが包み込んでいく。

「…チッ」

 女王蜂は舌打ちすると、翅を震わせて部屋から逃げ出した。後を追って、生徒たちも部屋を出ていく。
 それらを追うことはせず、巨大なグリフォンと化した仮面ライダーは、天井を突き破って宙へ舞い上がった。

『クエスト…ラストアンサー!!』

 急転直下、銀の矢が、ミニチュアの校舎を打ち砕く。

「ぐ、うっ」

 ぼろぼろに崩れ落ちた校舎の中で、男が倒れる。その体から紺色のメモリが吐き出され、そして砕け散った。
263 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/11(日) 23:06:50.35 ID:dBkOTmV10
「…ユウダイ君!!」

 変身を解除すると、徹はユウダイの体を抱き起こした。

「…ユウダイ君…おい、しっかりしろ!」

 しかし、彼は動かない。息をしていない。……心臓が、動いていない。

「そんな…」

「警察を呼びましょう」

 同じく変身を解除したリンカが、冷静に言った。

「この塾はクロだと証明できました。ティーチャードーパントの変身者が逃げない内に」

「…ああ」



 植木警部に連絡し、超常犯罪捜査課が到着し、捜査が始まり……その、どこかのタイミングで。
 朝塚ユウダイの遺体は、まるで蜃気楼か何かのように、忽然と姿を消したのであった。
264 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/11(日) 23:22:00.66 ID:dBkOTmV10



 大聖堂。白いヴェールの向こうには、2つの人影が蠢いていた。

「あぁ…母さん…母さん…」

”可哀想なユウダイ…愛しい子”

 祭壇に仰向けに横たわる、白い女。その上に、裸の少年が寝そべって、泣きながらその胸にしがみついている。

”もう、心配いりません。あなたは一度死んで、母の胎から生まれました。これで、身も心も、母の子…”

「母さん……『お母様』…」

”ふふふ…そうですよ、ユウダイ…さあ、生まれたてのあなたには、母のお乳が必要です…たんと召し上がれ…”

「お母、様…」

 うわ言のように言いながら、彼は顔を上げ、女の胸に吸い付いた。

”んっ…ぁ…”



「…」

 ヴェールの外から、それを不機嫌そうにミヅキは見つめていた。



「んっ、んっ、んくっ…お母様、もっと…」

”ええ。もっと、好きなだけ…”



「…」

 悩ましげな声に浮かされるように、無意識にスカートの中に手を伸ばす。

「…っ」

 苛立ち。焦燥。そして、嫉妬。凡そ不愉快極まりない感情を快感で塗り潰すように、彼女は自らの秘部を乱暴に弄ったのであった。
265 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/11(日) 23:22:49.40 ID:dBkOTmV10
『Sの秘密/働き蜂の先生』完

今夜はここまで
266 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/11(日) 23:35:43.23 ID:dBkOTmV10
『ティーチャードーパント』

 『教師』の記憶を内包するガイアメモリで、朝塚志羽子の秘書が変身するドーパント。変身すると全身がコンクリートめいた物体に覆われ、全高2m弱の小さな校舎のような姿となる。その玄関に当たる穴から範囲内の人間を吸い込み、内部に創られた『教室』に閉じ込めることができる。そこでは変身者を『教師』、吸い込まれた人間を『生徒』として、『授業』という名の洗脳が行われる。また、教室内では変身者が予め定めておいた『校則』に縛られ、それに違反するとそこにいる全ての人間が違反者を排除しにかかる。ただし変身者も校則に縛られ、万が一変身者が違反した場合は教室が崩壊し、中にいる人間は全員元の場所に強制的に戻される。なお、上記は全てドーパント内部のことであり、ドーパント自身の肉体は文字通り校舎となるため一切の身動きがとれない。そのためティーチャードーパントが十全の力を発揮するには、外で体を護衛する者が必要。
 蜜屋は自身の生徒の中から見込みのある者をこのドーパントに洗脳させ、自身の手下としていた。仲間割れを起こした手下の再洗脳を命じられた秘書であったが、生徒と一緒に力野徹まで吸収してしまう。洗脳を止めさせようと変身する彼を、校則違反として排除しようとしたのはよかったものの、途中で同じ生徒である朝塚ユウダイの妨害に遭う。彼は怒りに任せてユウダイを殺害するが、そのせいで『何人も教師と生徒を傷付けてはならない』という校則に自ら違反することとなってしまい、教室は崩壊した。
 メモリの色は紺。鞭(ウィップではなくケインの方)と鉛筆を組み合わせた意匠で『T』と書かれている。



>>206をアレンジして採用させていただきました。ありがとうございました!
267 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/12(月) 00:05:46.41 ID:pLVSCbM/0
『バンブルビードーパント』

 『熊蜂』の記憶を内包するガイアメモリで、愛巣会の生徒小崎善貴が変身するドーパント。ホーネットに比べてマッシブな体つきで、パワフルな肉弾戦が得意。その反面、飛行能力はほぼ無く、動きもやや鈍重。
 メモリの色は焦茶。蜂の片羽を象った『B』の字が書かれている。



『ロングホーンドーパント』

 『カミキリムシ』の記憶を内包するガイアメモリで、愛巣会の生徒速水かなえが変身するドーパント。硬い外殻に鋭い牙を持ち、長い触覚で相手の気配を察知することにも長けている。ミュージアム崩壊後に造られた、新造のガイアメモリ。
 メモリの色は赤。長い触覚を直角に広げた、カミキリムシの頭部が『L』に見える。ちなみに、カミキリムシの中でもこのドーパントはクビアカツヤカミキリに似ている。
268 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/12(月) 00:19:52.36 ID:pLVSCbM/0
『クイーンビードーパント』

 『女王蜂』の記憶を内包するガイアメモリで、教育評論家の蜜屋志羽子が変身するドーパント。女性的な蜂の体を素体に、虹色の翅、巨大な複眼、琥珀めいた装飾、蜂の巣を象った六角形の装甲と、随所に高貴な意匠が施されている。ホーネットドーパントと違い飛行時間に制限が無いだけでなく、一度使用すると変身を解除される毒針も、腕から無限に撃つことができる。また、肩の装甲からロケットランチャーめいて白い弾丸を放つことも可能。しかしこのメモリの真価は『虫たちの女王』であることで、このメモリ自体がビーやホーネット、バンブルビーといった蜂系のドーパントを操る能力を持っている。加えて適合率の高い蜜屋は、蜂だけでなく昆虫全般のドーパントをも操ることができる。
 シルバーメモリとゴールドメモリの中間に位置する、幹部級を除けば最高級のメモリで、ミュージアム下で2本しか製造されなかった特注品。1本を禅空寺朝美が、そしてもう1本を蜜屋志羽子が所持していた。つまり、ミュージアム崩壊前から彼女はガイアメモリの使用者であった。その上で彼女は、自身の生徒に量産型のホーネットメモリを持たせることで、操作、洗脳の足がかりとしていたのだ。
 メモリの色は黄色と黒の縞模様。円形のハニカムの縁に、一匹の蜂が佇む画を『Q』と読ませる。
269 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/12(月) 00:36:47.16 ID:pLVSCbM/0
『トゥルースドーパント』

 『真実』の記憶を内包するガイアメモリで、財団Xのエージェント、円城寺リンカが変身するドーパント。白地に藍色の隈取の施された仮面に、白い羽の刺さった黄金の冠を被り、金糸で刺繍された白の長衣の上から、黄金と宝石の装飾をいくつも纏っている。その手にはエジプト十字、すなわち生命を意味するアンクを象った杖を持ち、背中からは七色の羽の生えた翼が伸びている。モチーフは、その羽が罪の重さを量る分銅となる、エジプト神話における真実の女神マァト。金色の光弾や、鋭い羽を飛ばす攻撃は、並のドーパントなら瞬殺できるほど強力。しかしこのメモリの本質はそこではなく、『真実を量る』こと。特にドーパントに対しては、適合率が低かったり、元の姿や性質からかけ離れているほどにメモリの力が強く作用し、程度によってはそれだけでメモリブレイクできることもある。
 元はミュージアムにて製造されたゴールドメモリ、すなわち園咲家の人間やその関係者にのみ使用を許された、極めて強力なメモリ。ミュージアム崩壊後、旧園咲邸を家宅捜索した際にリンカが発見し、そのままガイアドライバーごと所有することになった。しかし、もしミュージアムが崩壊していなければ、このメモリを使用する人間が、いずれ園咲家に誕生する予定だったのかもしれない。
 メモリの色は当然金。天秤を象った『T』の字が書かれている。







 ……余談だが、白の長衣はほとんどシースルーで、宝石の襟や細い前垂れ付きベルトで局部をかろうじて隠しているため、肌の露出が少ないくせにタブードーパントよりもエロいと一部ではもっぱらの評判である
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/12(月) 07:39:55.38 ID:bBuA2EZs0
ジオウを見たら思いついたので投稿

パラレルワールドメモリ
『平行世界』の記憶を有したガイアメモリ
ガイアメモリが地球の記憶を力としている特性上、『平行世界』の記憶であるこのメモリは殆ど力を持っておらず(マスカレイド以下)、そのくせ無駄にメモリのランクは高い(幹部級)という散々なものだった。そのため鑑賞用のメモリと揶揄されていた。
しかし、どこぞの『通りすがり』が『ガイアメモリを持つもの』及び『地球の本棚にアクセスできるもの』に接触したことにより、地球が『平行世界』の記憶を獲得してしまい、爆発的に力が増加してしまった。
使用したものがいない(使用したものがいない)ためその力は未知数だが、下手をしたら世界の創造ができるかも…?
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/12(月) 10:31:31.74 ID:ZP9VzrMTO
カートゥーン・ドーパント

「2次元」の記憶を内包するメモリを使用し変身したドーパント
変身した者にマンガやアニメ表現の様な能力を与え、異様な程に誇張化した仮面ライダーの様な姿へと変える
具体的には身体を粘土の様に曲げて攻撃を避けたり、明らかに死ぬダメージを受けても即時復活する。所謂トゥーンだから無敵デース理論
また、他者を2次元に拐う能力を持ち、拐えば拐うほど自己の世界観はより強固なものとなり、能力も強化される
当然と言えば当然だが、使用し続けると現実と2次元の境が曖昧になり意識が2次元に取り残されたままとなってしまう
「真実」のメモリとは真実を上書きしてしまうランクをも越えた抜群の相性だが
世界観の衝突が起こりうる「空想」のメモリとの相性は、天敵中の天敵。最悪と言っても過言ではない

相性の下りは追い詰められたリンカを徹が助けるシチュが見たいなと思っていれただけなので、もし不要なら削除しておいてください
272 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/12(月) 12:05:09.28 ID:pLVSCbM/0
「徹」

「どうした?」

 北風署から帰る道すがら、おもむろにリンカが口を開いた。
 蜜屋の秘書は逮捕され、愛巣会には捜査の手が入った。地下室からは大量のガイアメモリが押収され、塾がこの町でのガイアメモリ犯罪の中心にあったことは確実になった。しかし、蜜屋と彼女の生徒の一部は、その場から失踪し、その行方は分かっていない。残った生徒は皆、ガイアメモリについては何も知らされていなかった。

「今までの…そして今回の事象から、今後のために一つの提案があります」

「おう、何だ?」

「徹。…私と、性交渉をしてください」

「…」

 徹は、ぴたりと立ち止まって彼女を見た。彼女は、あくまで無表情に彼を見返した。

「…悪い、よく聞こえなかった」

「私と性交渉、セックスをしてください」

「まっ…」

 さっと周囲を見回す。幸い、2人の会話を聞く者は、その場には見当たらない。
 彼はリンカの手を掴むと、偶然その場にあった喫茶店に引っ張り込んだ。

「…あの、このような公共の場では、流石に」

「ここでする無いだろ!」

 用意するのに時間がかかりそうなドリップコーヒーを注文し、一番奥の席に向かい合って座ると、徹は声を潜めて問うた。

「…その。一つ聞かせてくれ。それは…何でだ?」

「メモコーンの挙動が原因です」

「メモコーンの? …あ」
273 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/12(月) 12:05:40.82 ID:pLVSCbM/0
 徹は、すぐに思い至った。リンカが説明する。

「本来、セイバーメモリにもクエストメモリにも、自律行動するライブモードの想定はされていません。2つのメモリと、前に財団が入手したユニコーンメモリを部品に作られたのが、メモコーンです」

「ふむ」

「ライブモードの有用性は、風都の仮面ライダーで実証済みです。実際、メモコーンも有事の際には戦力としても役立ちました。が…」

「ユニコーン特有の、アレだな?」

「ええ。神話において一角獣は、高い戦闘力を持ち、また毒を浄化する力もあります。ですが、それと同時に、処女に懐くという性質もあります。彼は作られた目的の通り、窮地において私たちをサポートしてくれますが……これまでの挙動を見るに、明らかに優先順位があります」

「確かに…」

 アイドルドーパントと対峙した時。ティーチャードーパントに吸収された時。ピンチにも関わらずメモコーンが助けに来なかった。そんな時は、決まってリンカもピンチに陥っているときだった。

「メモコーンは、当然ガイアメモリとしてドライバーに装填されなければ、本領を発揮しません。私を優先したがために共倒れになるのは、避けなければならない。ならば、私を優先しないようにするしかありません。ですので、私の処女を、貴方に」

「わ、分かった分かった!」

 徹は慌てて彼女の言葉を止めた。店員が、コーヒーを持って近付いていたからだ。
 カップを置いて店員が去っていくのを確認すると、徹は長い息を吐いた。

「…言いたいことは分かった。だが…考えさせてくれ」

「なるべく短めにお願いします」

「あんた…」

 徹は、苦々しく彼女を見た。

「嫌じゃないのかよ、初めての相手が俺とか……それに、そんな格好してるんだから、てっきりそういうのが嫌いなのかと思ってた」

 リンカは美人だが、女性的とはとても言い難い。細身の白いパンツスーツスタイルで、黒い髪を後ろに撫で付けた姿は、寧ろ男装の麗人と言った風貌だ。

「生まれ持った肉体の形状から、女性的な部分を強調するより、男性的に振る舞ったほうが任務に有用だと判断しただけです。ですが、相手については…」

 彼女はふと口を閉じると、黙って天井を向き、机を見つめ、それから指先を見て…やがて、ぽつりと言った。

「…いえ。何度思考し直しても、貴方以外に相手が浮かびませんでした」

「…そ、そうか」

 そう言われると、急にドキドキしてきた。今までの人生に色恋沙汰が無かったわけでは無いのだが、このように今まで共闘してきた相手との関係性が、劇的に変わるかもしれないと言うのは、中々にスリリングな、心躍るような気分であった。改めて見ると、無表情で無愛想な彼女の顔が、急に輝いて見えた。

「もしかして、誰か操を立てる相手が?」

「えっ? いや、そんなのは」

「…兎ノ原美月、ですか」

「!? いやいやいや、そんなわけ…」

 慌てて否定しようとした、その時、通りから悲鳴が聞こえてきた。

「! 落ち着いて考える暇も無いってか。要は、あんたがピンチにならなきゃ良いんだろ? 取り敢えず、そこに隠れてろ!」

 ドライバーとメモリを取り出すと、徹は喫茶店を飛び出した。
274 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/12(月) 12:06:08.02 ID:pLVSCbM/0



「ねえ、お母様」

”どうしました、ミヅキ”

 ヴェールの向こうに、ミヅキは呼びかけた。

「あたしにも、おっぱい」

”ええ、良いですよ。こちらにいらっしゃい”

「あたしだけじゃなきゃ嫌。そこのクソガキは追い出して」

 ヴェールの向こうの影は、二人分。玉座に座るお母様に縋り付いて、ユウダイが乳を吸っているのだ。

”いけませんよ。この子も母の子ですから、みんな平等です”

「嫌だ!」

 ミヅキは叫ぶと、あの生意気な少年を引きずり降ろさんと、ヴェールに向かって突進した。が

”ミヅキ!”

「ぎゃっ!?」

 突然、巨大な拳が現れ、ミヅキの体を殴り飛ばした。

”母の子がいがみ合うことは許しません! 何度言えば分かるのですか!?”

「…お母様のバカっ!!」

 ミヅキは吐き捨てると、聖堂から走り去っていった。
 入れ替わるように、作業着姿の男が入ってきた。

「反抗期、ですな。子を愛すればこそ、子に苦しむこともあります」

”甲太…”

 ガイアメモリ工場長、真堂甲太は、持ってきた小さなケースを恭しく差し上げた。

「…新たなお母様の愛子のために、新たな力をご用意いたしました」

”ありがとうございます。…さあ、ユウダイ”

「はい、お母様」

 ヴェールを捲って、朝塚ユウダイが姿を現す。相変わらず服を着ていない彼の前で、真堂はケースを開けた。
275 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/12(月) 12:06:42.08 ID:pLVSCbM/0
 中には、一本のガイアメモリが鎮座していた。

「食い物にされる立場から一転、捕食者にまで上り詰めた。幸運な君には、このメモリが相応しい」

 メモリを手に取ると、ユウダイは目の前に掲げた。
 白い筐体に、花冠めいた『C』の文字。ガイアウィスパーが、弾むように自らの名を告げた。



『クローバー』



276 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/12(月) 20:34:54.20 ID:pLVSCbM/0



 悲鳴のもとへ駆けつけると、そこには一体の奇妙な怪人がいて、女を掴んで連れ去ろうとするところであった。

『おい、待て!』

「…うん?」

 振り向いた怪人。アメリカンコミックのヒーローのようにやたらマッチョな人型をしていて、右半身が黒、左半身が緑色に塗装されている。その腰には、歪ながらファンタジーのそれに似たドライバーらしきものが装着されていた。そもそも怪人は皆奇妙と言われればそうなのだが、この怪人は今までとは何かが違った。存在自体が、違和感なのだ。言うなれば、海の底を猫が平泳ぎしているような…

「おお、『お前も』仮面ライダーか!」

『お前も? 仮面ライダーは俺1人だ!』

 剣を抜き、斬りかかるファンタジー。

「いいや、俺も仮面ライダーだっ!」

 拳で応戦する、自称仮面ライダー。濁った赤の複眼が点滅する。
 剣がその肩口を切り裂いた時、ファンタジーは強い違和感を覚えた。

『軽すぎる…?』

 確かに刃が相手を捉えたはずなのに、斬った感触がしないのだ。その割に見た目のダメージは大きく、相手の肩には深い傷痕が付いていた。

「おおう、やるな…」

 傷痕が、瞬く間に塞がっていく。やはり、見た目ほどのダメージは無いようだ。

『やり辛い…』

 斬り結ぶ両者。しかし、まるで暖簾を殴っているかのように、手応えがない。
 とうとう業を煮やして、ファンタジーは魔術師にの姿に変わった。

『こいつはどうだっ!』

 魔法陣から噴き出す炎が、仮面ライダーもどきの体を包む。

「ぎゃあぁぁぁっ!? やめろっ、やめんかっ!」

『効いてるな。このまま…』

 ところがある瞬間、炎が幻のように消えてしまった。

「ふぃ〜、危ないところであった」

『こっ、この野郎…』

 平然と立つドーパントに、苛立つファンタジー。両手に魔法陣を出現させると

『喰らえぇ!!』

 ありったけの炎を、敵目掛けて撃ち込んだ。
 ドーパントは、迫りくる炎の弾幕を目の前に___

 ___横を、向いた。
277 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/12(月) 20:35:23.87 ID:pLVSCbM/0
『!?』

 ファンタジーは目を疑った。
 横を向いたドーパントの体には、『厚み』が無かった。切り抜いた紙のように薄っぺらな体を自在に折り曲げて、飛んでくる炎を巧みにすり抜けていく。

『な、何かおかしいぞ…?』

 ファンタジーが攻撃を止めると、ドーパントは近くにあった建物の壁に走り寄り、ぴったりと張り付いた。
 次の瞬間、その体から色が消え…溶け込むかのように、壁の中へと消えてしまった。



 北風町、博物交易第九貨物集積場四番倉庫。すなわち、旧ミュージアムのガイアメモリ製造工場にて。蜜屋と真堂が向かい合っていた。相変わらず平然と立つ真堂に、敵意の目を向ける蜜屋。その後ろでは、彼女の生徒たちが同様に色めき立って真堂を睨んでいた。

「…どういうことかしら」

「何がかね?」

「とぼけないで。ユウダイに、例の試作品を渡したのは、あなたでしょう」

「私が?」

 真堂は、驚いた顔をした。

「流石に、君やお母様以外に大事な試作品は渡さんよ。何かの間違いじゃないのか」

「目の前で、アレを使うところを見たわ。それならあの試作品は、一体誰に渡したの」

「君でなければ、お母様以外にいないさ。…ああ、実際、進捗を訊かれた時にお渡ししたんだった」

「…」

 蜜屋はしばらく、黙って真堂を睨みつけていたが、やがて溜め息を吐いた。

「…お母様、が」

「何かお考えの上でだろう。そう気を落とすな。生徒たちを匿うスペースくらいなら、用意しよう」

「ええ、感謝するわ」

 生徒たちを先導し、その場を立ち去ろうとする、蜜屋。去り際、彼女は質問した。

「…例のモノ、完成はまだなの?」

「あと少しさ。お母様から、『記憶』は全て頂いた。後は出力を調整するだけだ」

「早めにお願いね」

「もちろん」

 真堂は頷いた。
278 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/12(月) 20:36:00.72 ID:pLVSCbM/0



「や〜れやれだ…」

 落書きだらけの橋の下で、男は息を吐いた。よく見ると、柱にスプレーで書かれたような落書きは、全てが助けを求めるような人間の絵であった。

「風都を逃れてこの町に来たが、ここでも仮面ライダーかぁ。ぼくの『作品』は、いつになったら完成するやら…」

「いい方法、教えてあげよっか」

「…ほ〜う?」

 不意に投げかけられた声に、男は動じることなく応えた。
 歩いてきたのは、白いロリータ服の少女。男は、眼鏡をくいと正した。

「仮面ライダーには、どうしようもない弱点があるの。まあ、普通のドーパントからしたら寧ろ危ない相手なんだけど…君にとっては、弱点」

「面白いことを言うねぇ。君、さてはぼくの同類だな?」

「ま、そんなとこ」

「よし、乗った!」

 男は、笑顔で膝を叩いた。そうして、少女の肩に手を置くと、言った。

「じゃあ今からラーメン食いに行こう。…心配ない、ぼくが奢るからね」
279 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/12(月) 20:40:28.60 ID:pLVSCbM/0
『向き合うC/はりぼてのヒーロー』完

今夜はここまで
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/16(金) 20:23:13.15 ID:E/nIDYtVO
大丈夫かな…ほぼ毎日更新してたから心配だ
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/16(金) 21:32:50.83 ID:VqzO5tm3O
お盆だしなあ
282 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/16(金) 23:35:29.71 ID:g6NlXmyk0



「海野君、あなたが仮面ライダーに針を刺したのね」

「は、はいっ」

「よくやったわ。何でも、望むものを言いなさい」

 蜜屋の言葉に、海野はためらいがちに言った。

「…この前、久し振りに会った友達に、まだ童貞なのかと笑われて…だから」

「そう、分かったわ」

 蜜屋は頷くと、後ろの方にいた女子生徒に向かって言った。

「貝原さん。前に出て、服を脱ぎなさい」

「えっ…」

「敵の攻撃を前に、寝ているだけだった劣等生に存在意義を与えると言ってるの。…早く!」

「っ、は、はいっ…」

 おずおずと前に出ると、貝原と呼ばれた少女は震える手でセーラー服のホックを外し始めた。

「っ…ひっ…」

 スカートが滑り落ち、下着姿になる。蜜屋に睨まれると、少女は下着に指をかけた。
 啜り泣きながら、裸になる貝原。蜜屋は海野に手招きすると、言った。

「さあ、貝原さんがあなたの相手になってくれるそうよ」

「い、良いんですか?」

「もちろん。あなたは優秀な生徒だもの。当然の権利よ」

「じゃあ…」



「い、いくよ…」

「待って、まだ……痛っ、あっ!」

「はっ、あ、あぁっ!」

「痛い、痛いっ! やだっ」

「はあっ、はあっ、ああっ、すごっ、あっ」

「いやっ! 許してっ、ごめんなさい、ゆるして、ごめんなさいっ」

「はっ、はっ…あっ、くるっ、あっ」

「…! やだっ! 抜いて、やめっ、お願い抜いてっ!」

「あっ…くぅっ…」

「嫌、出さないでっ、やっ…い、嫌あぁぁぁぁあぁっっ!!」



283 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/16(金) 23:48:26.88 ID:g6NlXmyk0



「仮面ライダーには、協力者がいるの。何とかっていう、白いスーツに金ピカネクタイの、いけ好かない女」

「ふむ」

 北風町のとある飲み屋街。赤提灯の屋台に並んで腰掛けて、ミヅキと眼鏡の男は、大きななるとの載ったラーメンを啜っていた。

「実は、そいつもドーパントなんだけど〜…それも、めちゃくちゃ強いドーパントなんだけど…でも、君のガイアメモリとは相性が悪いみたいなんだよね」

 握り箸でなるとを突き刺しながら説明するミヅキ。実際の所、これらの情報は全て、真堂からカラダで搾り取ったものであった。

「そいつさえ君が引き受けてくれるなら、仮面ライダーはあたしが始末したげる」

「それは魅力的な話だね。…仮面ライダーは、2人も要らないからね」

「…そうだね」

 曖昧に頷くミヅキ。
 ラーメンを完食すると、男は立ち上がった。

「ご馳走様。隣町だが、美味い風都ラーメンだったよ」

「どうも」

 無愛想に会釈する店主。男はニッと笑った。

「…是非、ぼくの『作品』で振る舞って欲しいものだ」

「はい?」

 首を傾げる店主。男は、懐からパステルカラーのガイアメモリを取り出した。



 空になった屋台。叫ぶ人の顔が描かれたメニュー板を取り上げると、男とミヅキは、満足げに飲み屋街を去って行った。



284 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/17(土) 00:20:55.37 ID:kdFZsgbw0



「『カートゥーン』のメモリ、でしょう」

「カートゥーン」

 『ばそ風北』で、蕎麦を注文した徹とリンカ。料理が届くのを待ちながら、リンカはおもむろに口を開いた。

「貴方の証言によると、そのドーパントの外見は風都の仮面ライダーに酷似しています。ですが、粗が目立つ。本物は配色が左右逆ですし、貴方の言うように筋肉質な体型ではありません」

「偽物に成りすますメモリじゃないのか」

「『ダミー』メモリは現存しています。ですが、体に厚みが無い、物理攻撃が通用しない、壁に溶け込むといった特徴はダミーにはありません。何より…」

「ほい、お蕎麦2人前」

「どうも。…カートゥーンメモリだとすれば、人を拉致しようとしていたことに説明がつきます」

「へえ? どうして」

「カートゥーンドーパントは、現実世界の他に、その名の通りアニメーションの世界を創り出すことができます。その世界の強度を保つには、アニメーション世界の住民、すなわち人間が必要です」

「なるほど、だから人を攫ってたってわけか。……にしても、ティーチャーに続いてまた異世界か」

 割り箸を割りながら、溜め息を吐く。

「ガイアメモリってのは、恐ろしいな。早くこの町から、滅ぼさないと」

「…ええ、そうですね」

 何故か少し躊躇って、リンカは頷いた。



 明け方。まだベッドで眠っている徹を尻目に、リンカは誰かと通話していた。

「…ええ、分かっています。ですが、今はまだ能力の全容が見えない」

 ちらちらと徹の方を窺いながら、努めて冷静に答える。

「財団の力で、制御できるか…或いは、コストに見合った効果を得られるか」

 会話しながら、彼女は硬く目を閉じた。そのまま二言三言、話していたが、やがて目を開くと、彼女はきっぱりと言った。

「…ええ。そうなった暁には……仮面ライダーは、もはや不要です。私の手で処分します」
285 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/17(土) 00:21:59.35 ID:kdFZsgbw0
 電話を切ると、リンカは目を閉じた。

「私、は…」

 徹の横たわるベッドに腰掛け、そっと彼の肩に触れる。

「…必要なことを、成すだけ」

 金色のネクタイを、緩める。上着を脱ぎ、シャツのボタンに手をかけて…

「…!」

 はっと、部屋の窓に駆け寄った。
 窓から見える道路に、人影が一つ。下から真っ直ぐに、リンカを見つめている。
 リンカは服を直すと、Xマグナムとガイアドライバー、そしてガイアメモリを鞄に詰めて外へ飛び出した。

「やあ、聞いた通りの金ネクタイだ」

「何の用でしょう」

 街灯の下で待ち受けていたのは、1人の中年男。白髪交じりの長髪に、銀縁の丸眼鏡をかけている。
 男はリンカの質問に答えず、続けた。

「だが…美しい。ぼくの『作品』に添えるに相応しい…!」



『カートゥーン』



「!!」

 すぐさま銃を抜き、男に向けて連射する。
 爆炎の中で、男の体は緑と黒のヒーローもどきへと変化していく。それと同時に、彼の体から実在感とでも言うべきものが抜け落ちていくのに、リンカは気付いた。

「…わざわざ墓穴に飛び込んできましたか」トゥルース

「まさか。君の墓穴を掘りに来たのさ」

 男が言った次の瞬間、その体がコンクリートの地面に吸い込まれるように消えた。と思いきや、今度はトゥルースドーパントの体が地面へと引きずり込まれていった。

「!?」

 見ると、足元にはいつの間にか、色鮮やかな町の絵が描かれていた。
 そこへ駆け寄ってくる、銀の影。

「! メモコーン、来ないで…」

 アニメーションの町へと消えていく、金の女神。後を追うように、銀の一角獣がその中へ飛び込んだ。
286 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/17(土) 00:33:52.81 ID:kdFZsgbw0



「…リンカ?」

 はっと、徹は目を覚ました。何か、嫌な予感がしたのだ。
 それと同時に、彼の耳に微かな声が届いた。



「メモコーン、来ないで…」



「!!」

 徹は跳ね起きると、枕元のドライバーとメモリを取り上げた。

『ファンタジー』

「変身!」

 勢いよく窓を開けると、騎士の姿に変身しながら外へと飛び降りた。

「リンカ! ……っ!?」

 着地して、その地面にパステルカラーの町が描かれているのに気付いた。その中には数人の人間が、助けを求めるように彷徨っている。そして、その中に

「リンカ!!」

 先日対峙したドーパントと向き合う、真実の女神の姿を見つけた。
 ファンタジーは助けに行こうと地面を踏みつけたが、反応がない。

「クソっ、どうすれば…」

「どうしようもない、かな〜」

「!!」

 顔を上げたファンタジー。その目の前に、悠々と姿を表した、ピンクのドレスの少女。

「ミヅキ…」

「逢いに来たよ、仮面ライダーさん」

 彼女は、片手でスカートの裾を小さくたくし上げた。白い太腿に、黒いコネクターが露わになる。

「一応訊くけど…あんな女は捨てて、あたしと一緒にお母様のところへ行こう?」

「断る!」

「…だよね〜」ラビット

 ラメやスパンコールで彩られた、ピンクのメモリが突き刺さる。ミヅキの体が靄に包まれると、薄桃色のウサギの怪人へと姿を変えた。
 その場で跳躍し、飛び蹴りを見舞うラビットドーパント。それを剣で受け止めると、ファンタジーは言った。

「悪いが、今はあんたに構ってる暇は無いんだ。リンカを、助けに行く!」
287 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/17(土) 00:34:54.02 ID:kdFZsgbw0
今夜はここまで
288 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/17(土) 00:36:22.27 ID:kdFZsgbw0
(更新が減って申し訳ない。仕事が忙しい時期なんです)

(ところで、ファンタジーの最終フォームってどんなのだと思います?)
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2019/08/17(土) 00:37:17.40 ID:NKm713bmo
おつおつー
うーん、ファンタジーだし神様か王様かな?
290 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/17(土) 03:05:07.36 ID:eXZxqcJSO
剣と魔法両対応する勇者フォームが固い?
当初の設定だと魔物フォームもなれる的なあれ書いてなかったっけ。とすれば魔王もか
ブレイブ……ジオウ……被ってるじゃないかおのれディケイド!

幻想を現実に的な意味で、造物主としてのクリエイターとか
291 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/17(土) 08:35:31.36 ID:c/p4W+oR0
ファンタジーで最終といえばファイナルファンタジー
292 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/17(土) 09:50:05.95 ID:kdFZsgbw0



「…!」

 気が付くと、リンカは色鮮やかな都市の真ん中に立っていた。左右には、ピンクや緑色のビル群。目の前には、例の仮面ライダーもどき。ビルの隙間を縫うように歩くのは、虚ろな目をした人間たち。そして空には、今までいた北風町の住宅街が、薄っすらと見えた。

「この町は、偽りです」

 冷静に、彼女は杖を掲げた。

「人々の魂で塗り固めた、空想の世界。偽りの産物」

「…ああ、当然さ」

 カートゥーンドーパントは、当然のように言い放った。

「…何ですって?」

「だって、カートゥーンとはそういうものだろう? 作り話、空想、想像。それこそが物語。……それこそが、物語の『真実』」

「!!」

 どぎつい街並みが、急に現実感を帯び始めた。

「それとも、ノンフィクション以外は認めないタチかね? そりゃあ損だ」

 明らかに偽物のようだったドーパントの姿が、いつか資料で見た本物の仮面ライダーに近付いていく。周囲に、旋風が吹き始めた。
293 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/17(土) 10:03:12.08 ID:kdFZsgbw0
「…関係ない!」

 虹色の翼を広げ、鋭い羽を飛ばす。
 ところが、ドーパントが片手を上げると、羽は風に巻き込まれて明後日の方向へと飛んで行ってしまった。

「この世界では、俺が真実だぜ」

『サイクロン』『トリガー』

 怪人の右半身が、黒から青色へと変わる。その手に青色の銃を握ると、高速の弾丸をトゥルースドーパントに向けて放った。

「! ああぁっ!?」

 避けきれず、胸に直撃した。凄まじいダメージに、彼女は膝を突いた。

「良いねぇ、仮面ライダーはこうでなくっちゃ!」

『ヒート』『トリガー』

「ヒーローが活躍する、そのための街。それこそがぼくの目指す『作品』! そのためには、やられる怪人も必要だ…」

『トリガー! マキシマムドライブ』

「このっ…偽り、です…この、街は…」

「言いたいだけ言え。ここでは、俺が真実だ!」

 銃口に、眩い炎の玉が膨れ上がっていく。そして、目の前の怪人に引導を渡すべく、引き金を引こうとした、その時

「…むっ!?」

 彼の手に銀色の影が激突し、銃を弾き飛ばしてしまった。

「! メモコーン…」

「何だよ、無粋な…」

 仮面ライダー目掛けて、さらなる突撃を仕掛けんとする一角獣。ところが、それにまた別の影が突っ込んできた。

「…まあ、こっちにもいるんだがね。『ファング』!」

『ファング』『ジョーカー』

 仮面ライダーが、白と黒の獰猛な姿へと変わる。
 怪人は、杖に縋ってどうにか立ち上がると、ふと空を見上げた。

「!」

 そこには、兎のドーパントと交戦する銀色の騎士の姿があった。
 怪人は叫んだ。

「メモコーン! 私は…私は、良いからあの人を」

「そうホイホイと行き来できるとでも?」

 仮面ライダーは怪人の胸ぐらを掴むと、無理やり立たせた。

『アームファング』

「さあ…ぼくの作品になれ!」
294 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/17(土) 11:52:12.28 ID:kdFZsgbw0



「ぐっ、がぁっ…」

 顎に膝蹴りを受け、仰向けに倒れるファンタジー。その上に馬乗りになると、ラビットドーパントは囁いた。

「ねぇ…一緒に来てよ。あたし、あなたのこと大好きだから」

『敵同士だったあんたから、そこまで言ってもらえて嬉しいよ。だが、これだけは譲れない…!』

 相手の腕を掴んで引き倒すと、逆に馬乗りになる。

『もう、戦うのは止めるんだ、ミヅキ! このまま心と体を傷付けて、何になる』

「お母様が、あたしを愛してくれる!」

 高く跳ね上げた脚が、ファンタジーの後頭部を直撃した。その体が前のめりに吹き飛ばされ、転がった。

『ぐあっ!?』

「…あなたも、愛してもらえる。一緒に」

『断る!!』

 体制を立て直すと、素手で殴りかかった。
 ところがその時、何かに引っ張られるように、彼の動きが止まった。

『…?』

 見ると、彼の足首と腕に、緑色の蔦のようなものが絡みついている。

「!」

 兎のドーパントが、はっと後ろを向いた。その視線を追って、気付いた。
295 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/17(土) 11:54:27.12 ID:kdFZsgbw0
『!! ゆ、ユウダイ君…?』

「…こんにちは、仮面ライダー」

 新たな乱入者…それは、ティーチャードーパントに挑んで死んだはずの、朝塚ユウダイであった。
 彼はラビットドーパントの方を見ると、呆れたような声で言った。

「何遊んでんの。さっさと殺して、お母様に産み直してもらえばいいのに」

「うるさい…!」

 憎々しげに唸るウサギ。ユウダイは口元を歪めると…懐から、純白のガイアメモリを取り出した。

『!? な、何をする気だ!』

「同じお母様の子として、お姉ちゃんに加勢するんだ」



『クローバー』



『! やめろ! 君のお母さんは、そんなこと』

「お母さん? 僕の親は、お母様だけだ」

 純白のメモリを、喉に突き立てる。
 その体が、緑色の草と、白い花に覆われていく。
 それと同時に、ファンタジーの体まで緑の草に包まれていった。

『っ、マズい…』

 魔術師の姿になり、炎で草を焼き払う。しかし、それ以上のスピードで茎が伸び、彼の体を締め上げていく。
 その光景を前に、ラビットドーパント…ミヅキは…

「…お姉ちゃんって、言うな!」

 ユウダイの方へ、飛び蹴りを仕掛けた。

「…」

 彼が片手を上げると、無数の草が伸び、矢の如き蹴りを柔らかく受け止めてしまった。

「お姉ちゃん、反抗期は止めにしよう?」

「クソがっ…この、雑草野郎…」

 悪態を吐きながら、纏わりつく草…シロツメクサの茎と葉に噛みつき、食い千切る。
 内輪揉めを始める2人を前に、ファンタジーはどうにか拘束を脱すると、足元に目をやった。

『!!』

 それを見た瞬間。考えるより先に彼は、白いマントをはためかせ、パステルカラーのアニメーションの世界へと、飛び込んでいった。
296 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/17(土) 12:59:39.42 ID:kdFZsgbw0



「…」

 金の装飾は削り落とされ、白の長衣は切り裂かれ、あちこちから青い血が流れる。白と黒の仮面ライダーは、執拗に腕の刃で怪人を斬りつける。彼の足元には、小さな一角獣が力尽きて倒れていた。
 薄れゆく意識の中で、彼女はぼんやりと考えた。

(…ここで、終われば…彼を、裏切らずに済む…)

「これで、トドメだ!」

『ファング! マキシマムドライブ』

 踵に、白い刃が出現する。そのまま飛び上がり、瀕死の怪人に、正義のキックを……



『……おい』



「…っ!?」

 高速回転するキックは、崩れ落ちる怪人ではなく、突然立ちはだかった銀色の騎士を捉えた。

「っ、このままっ…」

『…』

 鋭い刃が、騎士の鎧を砕き、剥がしていく。
 ___その下にある、漆黒の獣が、姿を現す。騎士でも魔術師でもない、お伽噺の……怪物。

「! な、何だ、その姿は」

「…駄目…とお、る…」



『グウゥゥ・・・』



 棘と刃に覆われた、禍々しい黒のボディ。深紅の複眼の下で、乱杭歯が軋んだ。
297 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/17(土) 13:00:08.83 ID:kdFZsgbw0
『ア゛ア゛ァァァァアアァッッ!!!』

 獣が、吠えた。彼は地面を蹴ると、凄まじい勢いで仮面ライダーに襲いかかった。

「ぐわっ!?」

 鋭い爪が、仮面ライダーの体を切り裂いた。咄嗟に腕の刃で応戦するが、その刃まで切り落とされた。

「何だっ、何だこれはっ!?」

「徹…徹っ! ……メモコーン!!」

 リンカの叫びに呼応するように、メモコーンが再び立ち上がった。カートゥーンドーパントを組み敷いて、一方的に蹂躙するファンタジーの元へ駆けつけると、その頭に頭突きを喰らわせた。

『グァッ! ……っ、はっ』

 彼の動きが止まった。一瞬、彼は戸惑うように周囲を見回した。そして足元に寄ってきた一角獣に気づくと、すぐにそれを拾い上げた。脚を折り畳むと……
 ……胴体を、二つに割った。

「!」

 中から現れたのは、黄色いガイアメモリ。噛み合う5本の牙が『W』の字を形作っている。
298 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/17(土) 13:04:54.78 ID:kdFZsgbw0



『ワイルド』



299 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/17(土) 13:07:08.74 ID:kdFZsgbw0
「ファンタジーの…第三の姿…!」

『超…変身!!』

 ドライバーに装填し、変形させる。メモコーンの体が、咆哮する竜の頭部となってドライバーと結合する。

『ワイルド』

『おお…うおおおぉぉぉぉ!!!』

 黒い体に、黄色のたてがみが生える。全身に青と赤のラインが走り、流麗な装甲を形成していく。
 ファンタジーが、言った。

『お前の身勝手な夢…物語は、俺が止める!』

「馬鹿な、ここは俺の世界だ! ここでは…」

『それは、どうかな』

 彼が言った瞬間、周囲の景色が一変した。
 鮮やかなビル群は消え、一面の草原に。標識の代わりに巨木が立ち、当てもなく走る車は自由な獣立ちへと変化した。そして、虚ろな目で彷徨う人々は、我に返ったように立ち止まり、互いを見つめ合った。
 その、無数の視線が、世界の中心に注がれる。
 そこにいたのは、歪なコスチュームを来た怪人と、野性的な装甲を纏ったヒーロー。



「が…頑張れ!」

「仮面ライダー! 頑張れーっ!」

「やっつけろー!」



「馬鹿な! こんなこと、ここは俺の…」

『お前だけの世界じゃない。ここにいる、全ての人たち、皆の世界だ! そして…』

 竜の上顎を押し、三度、噛み合わせる。

『ワイルド! マキシマムドライブ』

『この俺が…仮面ライダーファンタジーがいる限り…より強い想像が、より強い願いが勝つ!!』

 青と赤の装甲が、右足に収束していく。地面を蹴って高く跳び上がると、装甲は一本の巨大な刃となった。

『ワイルド・バイト!!』

 空中で右足を高く振り上げ…そして、振り下ろした。
 巨大な牙を纏った踵落としが、ドーパントの体を真っ二つに切り裂いた。

「あ…が…ぐわあああぁぁぁぁっっっ!!!」

 爆散するドーパント。
 次の瞬間、周囲は元の北風町に戻り、倒れ伏す1人の男と、解放された大勢の人々が残された。

『…リンカ』

「…」

 ファンタジーは、倒れて動かない女の体を抱き上げると…地面を蹴り、どこかへと去ってしまったのであった。
300 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/17(土) 13:07:59.72 ID:kdFZsgbw0
『向き合うC/願いの世界』完

アバンタイトルの前に設定投下します
301 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/17(土) 13:20:58.05 ID:kdFZsgbw0
『カートゥーンドーパント』

 『漫画』の記憶を内包するガイアメモリで、正体不明のストリート画家が変身したドーパント。ファンタジー同様、変身後の姿は変身者の意思によって変わるが、彼は以前自分と戦い、風都から追放した仮面ライダーの姿を模倣している。しかしその配色は左右逆で、体型もかなりマッシブになっており、ドライバーの形も歪。
 現実世界では薄紙を切り抜いたようなペラペラの体で行動しているが、これは本体から投影された像に過ぎず、どれだけ傷付けてもダメージを与えることはできない。本体は、後述するアニメーション世界の中に存在している。
 このドーパントは、平面に絵を描くことで想像の世界を創り出すことができる。描いただけでは本人が隠れる程度のスペースしか確保できないが、人を攫い、その世界に引きずり込んで『住民』とすることで、世界の広さと強固さを増すことができる。また、その世界においてはドーパントの姿は自身の想像により近くなり、更に力もより強くなる。この世界においては、彼は以前戦った仮面ライダーの各フォームと必殺技まで再現してみせた。つまり彼は、以前ファングジョーカーの必殺技ファングストライザーを喰らったことになるが、あくまで前述の虚像であったため生還することができた。もしエクストリームまで出されていたら、彼は風都で尽きていただろう。
 引きずり込んだアニメーション世界の中で、空想、作り話こそがカートゥーンの真実と宣言することで、トゥルースドーパントの一切の干渉を断ち切り、一方的に優位に立つことができた。しかし乱入してきたファンタジーによって、同系統の『空想』の力を叩き込まれたことで世界の強度が揺らいだ。そして、攫われた人々の声援を受けたファンタジーの必殺技によって、彼と彼の世界は滅ぼされたのであった。
 メモリはパステルカラー迷彩という変わった配色。漫画のコマを繋ぎ合わせたような線で『C』と書かれている。
302 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/17(土) 13:33:07.34 ID:kdFZsgbw0
『ワイルドメモリ/仮面ライダーファンタジー・ワイルド』

 『野生』の記憶を内包する、次世代型ガイアメモリ。ファンタジーが後述する暴走態になったときにメモコーンの胴体から出現するが、普段は存在しないメモリ。
 『空想』の記憶を持つファンタジーメモリであるが、ドライバーを介して毒性を除去しているために騎士や魔術師の姿となっているだけで、ドーパントとしての本来の姿は、棘や刃に覆われた黒い体の、禍々しい魔物である。激情に身を任せたファンタジーは装甲が崩壊し、この姿になって暴走してしまう。普段の姿の数倍の膂力や敏捷性を発揮するが、理性は失われ、ただ怒りに任せて目に見える全てを破壊しにかかる怪物と成り果ててしまう。
 しかし、ドライバーにワイルドメモリを装填することで、ファンタジーは理性を取り戻すことができる。これこそが、仮面ライダーファンタジー・ワイルドである。
 元の黒いボディの上から、青と赤の帯が鎧のように体の周りを走る。この帯は必要に応じて形を変え、盾になったり武器になったりする。そのため暴走態からややスピードは落ちるが、怪力は顕在で、かつ理性があるため荒々しくも効率的な戦闘を行うことができる。まさに、ファンタジーにとってのワイルドカード。『切り札』である。
 メモリの色は黄色。牙を噛み合せたような意匠で『W』と書かれている。このメモリをロストドライバーに装填して変形させることで、咆哮する竜の頭部のような形になる。



 なお、本編登場はこの一回きり。電王のウィングフォームやフォーゼのロケットステイツのような、いわゆる劇場版限定フォーム。ファンタジー・ワイルドの活躍が見たいお友達は、この夏、映画館へ急げ!
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/17(土) 14:01:08.61 ID:5bUaLLFN0
(でもユニコーンのなかに内蔵されてるならナズェヅガワナインディスって気分になるような)
304 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/17(土) 15:30:32.49 ID:2zUVqJSsO
アイアンメイデン・ドーパント

「鉄の処女」ことアイアンメイデンのガイアメモリから生まれるドーパント
顔はアイアンメイデンに付けられた女性の顔、体色は青銅色で女性らしい豊満な体つき
背中にはマントを羽織っている。右手にはハートを模した赤い宝石の付いた錫杖を、左手には鳥籠の様なものを持っている どことなく貴族風
女性特効を持ちドーパントになっていようとも女性には強い、また女性の血を浴びると強化していく。左手の鳥籠には気に入った女性を閉じ込める能力があり、ここに閉じ込めた女性を飼育して自分好みの血に育てることもできる。
アイアンメイデンは伝承の存在ではあるが実際に展示品として作られているため迂闊に「真実」の能力で否定しようとすると痛い目に合う
305 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/17(土) 16:20:09.82 ID:jgn5oy/8O
劇場ボス相当だったのかあのオッサン…
敵側も結構好きで、ミズキちゃんクソガキのクソビッチなのにヒロインっぽくて気になってるけど、蜜屋先生やミズキのHシーンありますか?
306 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/17(土) 20:57:18.97 ID:kdFZsgbw0



 どこを進んだのだろう。自分でも分からないまま、気が付くと彼は、町の北にある、山の頂上近くにいた。
 リンカの体をそっと下ろすと、ドライバーからメモリを外し、変身を解除する。不思議なことにワイルドメモリは、抜いた途端に光になって消え、メモコーンは独りでに元の形に戻って走り去った。野生の装甲が解けた瞬間、彼はその場に膝を突いた。

「徹…」

「…いや、大丈夫だ」

 徹は、弱々しく微笑んだ。それを心配そうに見つめるリンカも、傷だらけであった。
 見上げると、朝日が昇るところであった。

「…ああ、今日もいい天気だ」

 木漏れ日に目を細めながら、彼は息を吐いた。その隣に、リンカがそっと寄り添った。

「ガキの頃、夏休みにな。朝早くに家を抜け出して、こうして山に登って…カブトムシを捕まえたり、走り回ったり…こうして、空を見上げたり。雨が降っても、木に遮られて思ったほど濡れないし…」

「…」

「俺は…この町が好きなんだ。でかい風都の隣で、いろんな苦労をしながらも俺たちを育ててくれた、優しい母親のような、この町が」

「母親…ですか」

「ああ」

 徹は、真面目に頷いた。

「だから、勝手に母を名乗って、この町の人たちを傷付ける奴を、俺は許せない」

「そういうことですか。…」

 沈黙。やがてリンカは、彼に体を預けるように寄りかかった。

「私は…可能な限り、それを支援したいと思っています」

「何だよ、煮え切らないな」

 徹は苦笑した。

「…」

「…リンカ?」

 呼びかける徹。リンカは、しばらく黙って彼の肩に寄り添っていたが、不意に彼の首に両腕を回して抱き寄せた。

「おい…朝だぞ?」

「いつ次の襲撃があるか、分かりませんから」

 彼の胸に縋り、顔を見上げる。撫で付けた髪はすっかり乱れて、額や頬にかかる毛先が妙に艶かしく見えた。

「…本当に、するのか」

「私は、それを希望します」

「そうか。…分かった」

 徹は頷くと、彼女の首を抱き寄せた。
 木漏れ日の下で、2人は初めて、一つになった。



「な、何なんだね君は!?」

 工場の入り口に立って、真堂は叫んだ。彼の目の前には、白い詰め襟の服を着た、がたいの良い男がニヤニヤしながら立っていた。

「あ? てめえらの新しいご主人さまだよ」

「馬鹿なことを。お母様を差し置いて、この私が服従するものか!」アイソポッド!

 赤褐色のガイアメモリを取り出した真堂。白い服の男は、相変わらずニヤニヤしたまま、懐から濃緑色のメモリと、そしてロストドライバーを取り出した。

「良いぜ。ペットの躾は、飼い主の最初の仕事だ」

 ドライバーを装着し、メモリを掲げてみせる。

「…生物種としての、格の違いを見せてやる」
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