【安価】ガイアメモリ犯罪に立ち向かえ【仮面ライダーW】

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151 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/07/16(火) 21:59:36.99 ID:QEVssDs90



「いやああっっ!! …あああぁぁあぁああぁぁっ!!」



「!?」

 警察署から病院に戻ろうとして、リンカは立ち止まった。背後で轟く、女の絶叫を耳にしたからだ。
 すぐに引き返した彼女が目にしたのは、警察署の奥から凄まじい勢いで伸びてくる、灰色の根と紫の花びらであった。

「な、何が…ああっ!?」

 猛毒の根がすぐ横を掠め、リンカはバランスを崩した。見ると、建物にいた人々が一斉に外へと逃げ出している。逃げ遅れた人は、追い詰められるか、根に刺されて倒れている。

「このままでは…」

 Xマグナムを抜き、ミサイルメモリを装填する。そのまま何度も引き金を引くが、爆破された側から根が伸びて、壁や床を埋め尽くそうとしていた。
 そして遂に、リンカは受付カウンターの前に追い詰められた。

「…」

 銃を構え、蠢く植物を睨む。彼女の頭の中では、この場を切り抜ける方法を探しながら、一方で半ば諦めに近い感情を覚えていた。走馬灯のように浮かぶのは、俺に任せろと言ってのけた力野徹の、精一杯強がった笑顔であった。

「…?」

 おかしい。根が、動かなくなった。不審に思い、周囲を再度確認するリンカ。そして、警察署の入り口に、彼女は見た。



「…まだ、間に合うか?」



152 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/07/16(火) 22:00:04.75 ID:QEVssDs90
 汗みずくの病衣の上から、ライダースジャケットを羽織り、ゆっくりと署内に踏み入ってくる、一人の男。
 そしてその横を歩く、小さな一角獣。

「!」

「! リンカ、ここにいたのか!」

 彼が、徹が駆け寄ってくる。不思議なことに、彼と一角獣の歩く道からは、毒の根は恐れをなすように離れていく。

「徹…っ!」

 ほとんど無意識に、彼女は彼の胸に飛び込んだ。徹は驚いたように彼女を受け止めると、ぎこちない手で彼女の背中を叩いた。

「…悪い、待たせた」

 リンカの体を離し、後ろを振り向く。
 彼の目線の先では、根や花びらが一ところに集まり、人の形を形成していた。

「あ…あ、あああっ…ああああっ…!」

 唸りながら、それはどんどん膨れ上がっていく。

「こいつは…」

「『アコナイト』…トリカブトのドーパントです。根は猛毒です。気をつけて」

「毒、か。…丁度良い!」ファンタジー!

 徹は変身すると、魔術師の姿をとった。

「ああああっ! ああああああっっ!!!」

 アコナイトドーパントが、巨大な腕を振り回した。それを空中に出現させた防壁で受け止めると、ファンタジーは片手を差し上げた。
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/07/16(火) 22:01:05.81 ID:QEVssDs90
『来い、『メモコーン』!』

 すると、彼の足元に控えていた一角獣が、彼の掌の上に飛び上がってきた。
 彼は小さな獣の背中を上から押し、細い脚を折り畳むと、後ろの脚をくるりと回転させた。すると、ジャックナイフめいて背中から赤いガイアメモリが飛び出してきた。

「あのメモリは…」

 ファンタジーメモリを抜くと、代わりに赤いメモリを装填し、展開した。一角獣の体は、銀と赤のグリフォンの頭部に変形し、ドライバーと一体化した。

『クエスト』

 ファンタジーの体を、赤い閃光が包み込む。光は肩や腕、そして頭部に収束し、深紅の装飾となった。

『俺は、仮面ライダーファンタジー…ファンタジー・クエストだ!』

 右手を掲げると、赤と銀の杖が出現した。それを振るうと、ドーパントの動きが止まった。

『トリカブトの毒に、治療法は無い…だが、熱と圧力をかければ毒は弱くなる!』

 杖から炎が迸り、もがくドーパントを包み込んだ。その球が、見る見る内に小さく縮まっていく。
 やがて炎が消えた頃、ドーパント本体を包んでいた根や花びらは、焼け焦げて炭と灰になっていた。

『トドメはこっちだ…』

 メモリを抜くと、クエストメモリを引っ込め、今度は一角獣の角を回転させた。すると、今度は首から青いメモリが現れた。こちらにはシャムシールめいて『S』の字に湾曲した、、一振りの剣が描かれていた。
 青いメモリを装填し、展開する。今度はユニコーンの頭部となってドライバーと合体した。

『セイバー』

 ファンタジー姿が騎士に変わる。その鎧には、青い綺羅びやかな装甲が追加されていた。
 杖が変形し、銀と蒼の長剣に変わる。

『仮面ライダーファンタジー・セイバー…!』

 長剣の鍔を、ドライバーの前にかざす。

『セイバー! マキシマムドライブ』

『セイバー・ジャスティスラッシュ!!』

 青い剣閃が、ドーパントを一刀のもとに切り裂いた。

「あ、ぁ…」

 灰の中で、一人の母親が倒れた。その喉から、紫色のメモリと、壊れた基盤が吐き出された。

「あれは…?」

 リンカが手を伸ばすより先に、それは紫のメモリと共に、粉々に砕け散った。
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/07/16(火) 22:02:21.09 ID:QEVssDs90
『Qを掴み取れ/小さな英雄』完

今夜はここまで
あと、これから更新頻度が落ちます
155 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/16(火) 22:10:59.35 ID:QEVssDs90
『アコナイトドーパント』

 『トリカブト』の記憶を内包するガイアメモリで、主婦の朝塚が変身したドーパント。紫色の花びらと、灰色の根に覆われているが、本体は緑の細い茎のような形をしている。実際のトリカブト同様、全身が猛毒であるが、特に根に強力な毒を持っており、これで刺されたり、掠っただけでも生身の人間なら即死する。また、花びらを空中に散布して不特定多数の人間を毒殺することも可能。ただし、蜜屋への復讐だけが目的の朝塚はこの力は用いなかった。
 蜜屋以外の人間をできるだけ害したくなかった朝塚であったが、他ならぬ蜜屋の手によって、このメモリと一緒に試作品のX_t___メモリをねじ込まれ、無差別に人を毒殺する凶悪な怪物へと成り果ててしまった。
 メモリの色は紫。正面から見たトリカブトの花がアルファベットの『A』に見える。
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/17(水) 02:02:37.44 ID:CaX8HfSx0
ガーディアンメモリ
守護者の記憶が内包されたメモリ
その最大の特徴は使用者のなにかを護りたいという気持ちが強ければ強いほど力を発揮する
また護りたい対象が具体的であれば更に力を増し、対象は人物だけでなく物や場所にも及ぶ
157 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/20(土) 13:19:29.74 ID:aiqpPaVc0
「乾杯」

 そう言って徹とリンカは、缶ビールを打ち合わせた。
 ちゃぶ台の上には、漆塗りの豪勢な寿司桶が鎮座している。リンカが、徹の快気祝いにと出前を取ってくれたのだ。本当は、植木が彼らにご馳走すると言っていたのだが、アコナイトの件で北風署が大きな被害を受けてしまい、それどころでは無くなってしまった。

「何か、悪いな。こんな高そうな飯用意してもらって」

「植木警部から、資金は頂いてます。差額は財団の経費で落ちますので、ご心配なく」

「そ、そうか…」

 平然というリンカに、少し恐縮しながらも、彼は玉子を取って醤油につけた。
 彼らの足元には、銀色の小さな一角獣が座っていて、静かに眠り込んでいる。

「こいつも、何か食わないのかな」

 それを眺めて、ぽつりと零す徹。
 彼の名はメモコーン。リンカが財団Xに要請した、追加支援の内容がこれであった。今はペット型ロボットのように自律して動いているが、その体には2本のガイアメモリが内蔵されており、徹の変身する仮面ライダーに新たな力を授けるのだ。

「メモコーンに食事の必要はありません」

「そうは言ってもなぁ…」

 玉子の端をちぎって、メモコーンの鼻先に差し出してみる。

「ほれ、食うか」

 ところが、メモコーンは少し頭を上げると、ぷいと顔を逸らしてしまった。彼はそのまま立ち上がると、リンカの足元へ移動し、そこでまた眠りに戻った。

「な、なんかコイツ、リンカの方に懐いてないか…?」

「恐らく、『ユニコーン』のガイアメモリが部品に使われているのでしょう。一角獣は、処女を好むと聞きます」

「なるほど……ん?」

「私には性交渉の経験が無いので、メモコーンが」

「わ、分かった! もう良い、分かったから」

 慌てて止めると、彼は寿司桶を彼女の方へ押しやった。

「ほら、あんたも食べてくれよ」

「そうですか」

 リンカは頷くと、鉄火巻きを箸でつまんだ。徹もマグロを口に入れながら、漠然と何か足りないような感覚を覚えた。とは言え、それが何か大変なことになるという気はしない。彼は無視して、目の前のご馳走を堪能することにした。
158 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/20(土) 14:03:13.68 ID:aiqpPaVc0



 一方その頃。徹の住むアパートに寿司を配達した若い板前が、空き地にミニバイクを停めて黄昏れていた。

「はぁ…来る日も来る日も、配達ばかり…」

 寿司屋に弟子入りして、もう4年になるというのに、一度も包丁を握らせてもらえないのを彼は嘆いていた。大将は何を考えているのだろう。自分には、素質が無いのだろうか。そんなことを考えながら、バイクのシートでぼんやりと夜空を眺めていた。

「…」

「お〜に〜い〜さんっ」

「っ!?」

 耳元で囁く声に、彼は飛び上がった。振り向くと、そこには一人の少女が立っていた。何やら生臭い匂いのするジャケットを羽織った少女は、彼に悪戯っぽい笑みを向けた。

「元気無いね、どうしたの〜?」

「…どうだって良いだろ」

「当てよっか。…折角、修行して立派なお寿司屋さんになりたいのに、いつまで経っても雑用ばっかり。自分、向いてないのかなぁ〜? なんて」

「っ、お前に何がっ…!」

「コツコツ努力なんて、向いてない向いてない。君に必要なのは…」

 言いながら彼女は、何処からともなく黄緑色の小さな機械を取り出し、彼に握らせた。

「…こっち。使ってごらん、君が、本当に必要なものが分かるかも」

 それだけ言うと、少女はさっさとその場を立ち去ってしまった。
 取り残された板前は、恐る恐るその機械を、電灯の下にかざした。そして、表面に付いたボタンを押した。



『ワサビ』


159 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/20(土) 14:11:28.84 ID:aiqpPaVc0
そうです。ギャグ回です。
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/20(土) 19:06:46.01 ID:4gkbdv+q0
親子丼は強かったし食べ物系は強いかも?
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/20(土) 19:07:10.88 ID:v/C1Q2Na0
ソイソースメモリ持ってこないと
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/07/20(土) 20:39:29.03 ID:aiqpPaVc0
 携帯の着信音で、徹は目を覚ました。はっと外を見ると、まだ暗い。時計は午前4時を指していた。

「な、何だこんな時間に…」

「植木警部からのようです」

 枕元には、既に外出の準備を整えたリンカが立っていた。彼女が差し出したスマートフォンを受け取ると、彼は耳に当てた。

「何ですか? ドーパントですか?」

”そうだ”

「!」

 冗談半分に訊いたのに、間髪入れずに肯定されて、徹は一気に頭が醒めた。

「ど、どこに」

”吹流4丁目の空き地だ。周囲に、毒ガスを撒き散らしているらしい”

「4丁目!?」

 吹流4丁目と言えば、このアパートのある一帯だ。徹は通話を続けながら、カーテンから外を窺った。

「と、とにかく向かいます。警察の皆さんは、住民の避難を」

”既に向かっている。君も、気を付けて向かってくれ”



 徹はアパートを出ると、ドライバーを装着してバイクに跨った。タンデムシートにリンカが座ると、メモコーンも後からついてきた。

「やっぱりこいつ、リンカがお気に入りじゃねえか…変身」ファンタジー!

『…ま、良いか。しっかり付いてこいよ!』

 ファンタジーはアクセルを吹かした。鋼鉄の白馬が、明け方の住宅街に鋭く嘶いた。

 走り始めると、すぐに彼は違和感に気付いた。

『何か…空気がおかしいぞ』

「…」

 後ろのリンカは、黙ったまま彼の腰にしがみついている。その様子にも何か違和感を感じて、ファンタジーは心の中で首をひねった。
 空き地の数十メートル手前で、警察がバリケードを張っていた。

「…あっ、お疲れ様です!」

 警備に当たっていた警官が仮面ライダーに気付き、敬礼した。

『どうも…これは、一体?』

 バイクを降りながら尋ねる。植木が毒ガスと言っていたように、彼もマスクを数枚重ねて着用していた。

「向こうでドーパントが暴れて、と言うか、何かを撒き散らしているようで…ジョギングしていた男性が、それを浴びてしまい」

 警官の指す方を見ると、ブルーシートの上で高齢の男性が目と鼻を押さえてのたうち回っていた。むせながら、「は、鼻が…」とうめいている。

『毒か…リンカ、どう思』

 振り返って、ぎょっとした。
 リンカは、真っ赤に腫れた目で、助けを求めるように彼を見つめていた。しかも、大粒の涙をぽろぽろと零している。

『ど、どうしたんだ!?』

「…駄目です」

『何が』

「私は、これが非常に苦手です」
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/07/20(土) 20:39:54.90 ID:aiqpPaVc0
『苦手…? とにかく、そこにいてくれ』

 ファンタジーはそう言付けると、バリケードを越えて空き地に入った。

『ドーパント、観念しろ!』

「…! 仮面ライダー…」

 空き地の真ん中で、両腕を広げて天を仰いでいたドーパントは、ファンタジーの存在に気付くと顔をそちらに向けた。
 黃緑色の、ごつごつした体をしており、頭に当たる部分からは濃い緑色の茎と葉が伸びている。モチーフは植物のようだ。モアイ像めいて横に開いた口と思しき穴からは、呼吸に合わせて白い煙が細々と立ち上っていた。
 ファンタジーは剣を出現させると、両手に握ってドーパントに向けた。

『メモリを捨てて、自主しろ』

「い、嫌だ…」

 ドーパントは後ずさると…いきなり、白い煙をファンタジー目掛けて噴射した。

「喰らえーっ!!」

『うわっ、何だこれ!?』

 煙を顔に浴びてしまい、ファンタジーは怯んだ。更に次の瞬間

『……あ゛っ!? こ、これは…ごほっ』

 突き刺すような冷たい刺激が、彼の鼻と喉を襲った。仮面の奥で涙が溢れ、視界が歪む。と同時に、彼は今まで感じてきた違和感、それも、昨夕寿司を食べていた時のものに至るまで、全ての正体を理解した。

『これっ…ワサビかっ!!?』

「寿司なんて…寿司なんてーっ!」

 叫びながら、ワサビドーパントが突進してきた。彼は、ワサビの根のような指を突き出すと、ファンタジーの顔に擦りつけた。
 騎士の兜に指先がすりおろされ、ファンタジーの目や鼻を襲う。

『あ゛あっ! やっ、やめろっ…お゛えっ、ごほっ』

 凄まじい刺激に、ファンタジーは腕を振り回して抵抗する。ワサビドーパントとはふざけた敵だが、この刺激は純粋に恐ろしい。何しろ、目と鼻が潰される上、呼吸もままならなくなるのだ。
 とうとう、ファンタジーは地面にうずくまった。

『うっ…げほっ、ごほっ…』

「や、やった…仮面ライダーを倒したぞ…」

 頭上で、ワサビドーパントの声がする。

「この力があれば…おれだって…うわあっ!?」

 ところが、その言葉は途中で遮られた。向こうの方から、リンカの叫ぶ声がする。

「メモコーン! 彼を助けて!!」

 うずくまるファンタジーの肩を、一角獣の角が手荒く突いた。

『っ、分かってる!』

 ファンタジーはそれを受け取ると、変形させ、赤いメモリをドライバーに装填した。

『クエスト』

 ファンタジーが、白い法衣に赤い装飾を纏った魔術師の姿となる。彼の視界が、一気に開けた。

『はあっ…ワサビの辛さは、揮発性だ…熱すれば、飛んでいく…!』

 よろよろと立ち上がると、おののくドーパントを真っ直ぐに睨んだ。

『お前が何を恨んでるのか知らないが…こんな力で人を害するのを、見逃す訳にはいかない!』

 赤と銀の杖を振りかざす。

『大人しく、メモリを』

「嫌だっっ!!」
164 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/20(土) 21:07:09.51 ID:aiqpPaVc0
 ドーパントが叫んだ、次の瞬間

『あああっ!?』

 その体中から、濃い白色の煙が噴き出した。今なら分かる。それは、細かくすりおろされた、ワサビの粒子であった。

『あっこらっ! 逃げ、げえっ、え゛ほっ…』

 熱で刺激を無効化しようとする間に、ドーパントの姿は白い煙の中に消えてしまった。



 もう、夜も明けてきていたその頃。ワサビ怪人に苦戦する仮面ライダーの姿を、物陰で見ている者がいた。そう、あの若い板前にワサビのガイアメモリを渡した、例の少女である。彼女は目と鼻を分厚いタオルで覆っていたが、周囲の様子を正確に把握しているようであった。

「へぇ〜、小バエから奪ったメモリにしては中々やるじゃ〜ん」

 少女…ミヅキの服は、血で汚れている。今まで着ていた白のロリータ衣装とは違うこの服は、メモリの密売人から奪ったものであった。
 仮面ライダーに雁字搦めにされたところを、女王蜂のドーパントに救われた。しかし女王蜂は、彼女を『お母様』の下へは返さず、鎖さえ解かずに自分のところに監禁していた。そうしてミヅキの接触した仮面ライダーの変身者について聞き出そうとした。しかし、彼女は何も覚えておらず、呆れた女にそのまま放置されていた。つい先日、他から情報を手に入れた女に、思い出したように解放されたが、それまで彼女は、一度もトイレに行くことができなかった。
 彼女は汚れた服を捨てると、裸で街を徘徊した。そうしてメモリの密売人を発見すると、襲撃し、服と売り物のメモリを強奪した。そうして、自身のガイアメモリを取り返すべく、行動を開始したのであった。

「…それに、あたしのメモリを奪ったやつも見つけた。もうちょ〜っと、良いところに行ってくれないかな〜…?」

 呟きながら彼女は、目が塞がった状態のまま、正確にワサビドーパントを追いかけ始めた。
 密売人を襲ったとき、当然彼らはホーネットメモリで応戦した。しかし、極限以上にメモリを使い込み、生身でも超人的な力を発揮するようになっているミヅキには、練度の低い雑魚ドーパントなど敵ではなかった。
165 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/20(土) 21:08:20.51 ID:aiqpPaVc0
『Wのから騒ぎ/意外な弱点』完

今日はここまで
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/20(土) 21:16:42.64 ID:/XmhJ92A0
167 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/20(土) 23:25:16.85 ID:aiqpPaVc0
『北風町』

 風都に隣接する、人口3万人弱の町。企業のオフィスを多く有する風都のベッドタウンとして機能している一方で、街のイメージダウンに繋がるとして、風都が条例で禁じたもの、例えば産業廃棄物の処理施設や、風俗店などが押し付けられる形でこの町に集中している。そのため、この町で生まれた人間は風都に対して良い感情を持っていないことが多い。
 内陸に位置しており、海は無いものの、町の北側を占める山からは川が流れており、地下水も豊富。住宅街の建設で以前より大幅に減少したものの、今でもこの地下水を利用した、野菜や特産品の蕎麦栽培が盛ん。名物はかけ蕎麦に白髪ネギをどっさり盛って、おろし生姜を添えた北風蕎麦。住宅街の片隅にぽつりと建つ蕎麦屋『ばそ風北』は、根強いファンの多い隠れた名店。

 ミュージアムは、この北風町にもガイアメモリ製造工場を建設した。ミュージアム壊滅後も工場は稼働しており、風都近辺にいた密売人の残党がこの町に集まってきている。また、何処からともなく現れた新興宗教『母神教』と結びついて、この町にガイアメモリ汚染を広げている。



 ___この街には、いつも冷たい風が吹く。
168 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/21(日) 19:36:50.23 ID:iu6E2u8G0
「…あんた、ワサビ駄目だったんだな」

「…はい」

 今まで見たことのない暗い顔で、リンカは頷いた。
 北風署の応接室。現場から二人を案内した坂間という刑事は、容疑者の情報を入手しにどこかへ行ってしまった。
 昨日、寿司を食べながら徹が感じた違和感。それは、全ての寿司にワサビが入っていないことであった。

「私は基本的に食に関して、知識はありますが特に関心があるわけではありません。これと言って嫌悪する食材もありません。が…」

「ワサビは食えない、と」

「…はい」

 俯いたまま涙ぐむリンカを、徹は慌てて慰めた。

「いや、そんな気にするなって…誰だって、好き嫌いの一つや二つあるだろ。それに、最近はワサビ嫌いな大人も多いって聞くし…」

「…徹は?」

「…俺はイケるけど」

「…」

 この世の終わりのような顔で、ローテーブルの上を凝視するリンカ。徹はおろおろしながらそれを見ていた。
 そこへ、坂間が戻ってきた。

「現場に残された宅配用バイクの持ち主が割れた……ん? どうしたんだ、二人共?」

「あっ、いや、気にしないで」

「そう…?」

 彼は2人の向かいに腰を下ろすと、数枚の書類と写真をテーブルに広げた。

「バイクは北風町にある、『潮風寿司』という寿司屋のものだった。大将の話では、昨日の夕方に寿司の出前に行った若い板前が、まだ戻ってきてないらしい」

「…えっ?」

「その板前、どこに寿司を運んでたと思う?」

 大真面目な顔で問うてくる坂間に、徹は唾を呑んだ。

「…ウチ、です」
169 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/21(日) 19:37:17.74 ID:iu6E2u8G0
「そう、メゾン・ド吹流202号室。つまり力野徹宅、あんたの家だ。…」

 彼は、顔写真の添えられた1枚の紙を取り上げた。

「生島彰二、22歳。18歳の頃に潮風寿司の店主に弟子入りし、修行してきた。だが、4年経った今でも寿司の皿洗いと配達しか任されなかったらしい。あんた、顔見たんだろ?」

「見はしましたけど…」

 顔写真と、昨夜の記憶を比較し、彼は首を横に振った。

「玄関先で、一瞬だけだったので…」

「その時はガイアメモリによる中毒症状らしきものはありませんでした。恐らく、帰宅途中に密売人と接触し、メモリを入手したものと思われます」

「どうだか…」

 疑わしげにリンカを見る坂間。どうにもこの刑事、彼ら2人のフリー記者には良い感情を持っていないようだ。

「ま、大将への恨みが原因なら、近い内に寿司屋に現れるだろう。もう警備は送ってあるから、何かあったら連絡する」

 そこまで言うと、彼はもう帰れと言わんばかりに部屋の出口を視線で指した。
 2人は、軽く会釈して立ち上がり、警察署を後にした。リンカはもちろん、力野も気にする様子はない。得体の知れないフリー記者を好む人種なんて、地球上にいるはずがない。この程度の扱いは、彼にとって日常茶飯事であった。



「そんな、とんでもねえ」

 リンカの差し出した封筒を、潮風寿司の大将は固辞した。
 ワサビドーパント…恐らく生島が、ご丁寧に受け取った代金を持って逃げていたため、店に寿司代が支払われていなかったのだ。
 潮風寿司。北風町にある老舗の寿司屋で、店内での食事はもちろん、出前も受け付けている。老舗ながら新しいものも積極的に取り入れるスタイルで、趣向を凝らした寿司は若者にも人気があった。

「ウチのもんが迷惑かけたってのに、金なんて貰うわけにはいかねえよ」

「いえ、そう言わず」

「災難はお互い様ですから」

 二人がかりでどうにか封筒を握らせると、徹は警備に当たる警官をちらりと窺い、それから大将に尋ねた。

「あれから、店に何か連絡は」

「何もねえ」

 大将は、溜め息を吐いた。

「…あンの馬鹿野郎。ここんとこ仕事に身が入ってねえと思ってたら、こんな悪いことしやがるなんて…」

「生島さんは、ここに就職して4年だそうですね」

「ああ。ショージの奴…魚触れねえからって焦ってやがったが…」

「失礼ですが、雑用ばかりだったと」

「雑にやるから雑用なんだ。掃除、皿洗い、配達…やりようで、そこから学ぶことがたーくさんあるってのに、それが奴には分かってなかった」

「なるほど…」

 職人の世界には疎い徹であったが、生島の勤務態度には大将も思うところがあったようだ。

「何より…サビ抜きで握る俺を見て、鼻で笑いやがった。送り出す前に、そいつを説教したんだ。そしたら、こんなことになっちまって」
170 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/21(日) 19:37:47.58 ID:iu6E2u8G0
「…」

 気まずそうに視線を逸らすリンカ。大将は、悲しげに顔を覆った。

「…何がいけなかったんだろうな」

「とにかく今は、彼が現れるのを待ちましょう」

 徹は、励ますように言った。



 数時間後、警官のトランシーバーから声がした。

「はい、こちら現場前…えっ、北風署に!?」

「何があったんですか」

 徹が尋ねると、彼はパトカーに向かいながら答えた。

「例のドーパントが、北風署に現れたと」

「えっ、そっちに!?」

「とにかく、向かいましょう。力野さんも」

「はい。…」

 パトカーに乗り込もうとした徹の後ろから、突然、大将が叫んだ。

「…おい、俺も行くぞ!」

「すみません、危険なので…」

「だが、奴は俺のとこのもんだ。俺が行かなくてどうする!」

「…行きましょう、大将」

 徹は後部座席に座って、手招きした。そうして、リンカに向かって言った。

「リンカ、ここに残ってくれるか」

「…はい」

 小さく頷くリンカ。2人の警官と、徹、そして潮風寿司の大将を乗せ、パトカーはサイレンを鳴らしながら走り出した。



 徹たちが到着した頃、北風所では既に多くの職員や警官が逃げ出しているところであった。
 パトカーを降りた瞬間、あのツーンと来る匂いが彼らの鼻を突き刺した。

「くっ…早速やってるな」ファンタジー!
171 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/21(日) 19:38:38.82 ID:iu6E2u8G0
『今度はヘマはしないぞ』クエスト!

 変身し、署内に踏み入ると、白い煙の中にワサビの怪人が立ち尽くしていた。

『おい! もう逃さないぞ!』

 赤と銀の杖、クエストワンドを振りかざすと、周囲の煙が一気に晴れた。
 襲撃者の存在に気付き、ワサビドーパントがこちらを向いた。

「やっぱり来たか、仮面ライダー…っ!?」

「俺もいるぞ」

 仮面ライダーの後ろから、ゆっくりと進み出た大将に、ドーパントが明らかに狼狽の色を見せた。しかし、すぐに持ち直すと、強がるように言った。

「はっ、わざわざ縁を切りに来たのかよ。丁度良い…」

「こンの、大馬鹿野郎が!!」

 突然、大将がドーパントを一喝した。

「こんな、訳の分からねえ姿になって、人様に迷惑かけやがって……何より山葵を、人を傷つける道具にしやがった!!」

「だから何だ、あんたに言われたくはない!」

 ドーパントも、負けじと声を張り上げる。

「大体何だよ、サビ抜きなんてお子様舌に媚びやがって! 他にも、訳分かんないネタなんて握ってんじゃねえか! 何がアボカドだよ、何が…」

「だからてめえは、いつまでも雑用なんだよ!!」

『ちょっ、大将』

 止めようとするファンタジーを振り切って、彼はドーパントに掴みかかった。

「昔ながらの型に嵌まるだけが寿司じゃねえ! お客の好み、時代の流れは変わっていくんだ。それに応えてこそ、食べる人を喜ばせることができるんだろうが!」

 細い首を掴み、激しく揺する。

「てめえはよぉ! 配達に行く時に、寿司を受け取るお客の顔を、よく見たことがあるかよ! 寿司桶の中身を覗くお客の表情に、注意を凝らしたことが、一度でもあるのかよ!? 今運んでる寿司をどんな人が食べるのか、何が好みか、山葵は大丈夫か…4年の間、てめえは一度でもそれを考えたことはあるのかよ!!」

「…っ」

「寿司が寿司屋を創るんじゃねえ、俺たち寿司屋が、寿司を握るんだ。…それを食べる人の、”美味い”って幸せを創るんだよ!!」

「…う」

 大将の言葉に、ドーパントは震える声で何か呟いた。

「…どうした、何か言ってみろ」

「…うあああああっっ!!!」

 突然、ドーパントが絶叫した。叫びながら、ワサビの煙を体中から噴き出した。

『大将、危ない!!』

 咄嗟に防壁を展開するファンタジー。ところが、大将は動じず、唸るように言った。

「効かねえ…使い方を弁えねえ山葵なんて、これっぽっちも効くかよ…!」

『大将、もう逃げるんだ!』

 ファンタジーは彼の体を掴むと、警察署の外に向けて放り投げた。杖を振ると、大量の白と赤の羽毛が噴き出して、大将の体を受け止めた。

『…もう、諦めろ』

 彼は、クエストワンドをドライバーの前にかざした。

『クエスト! マキシマムドライブ』

 白いマントが翻り、彼の体を包み込む。次の瞬間、ファンタジーは白と赤のグリフォンの姿となり、空中へ舞い上がった。

『クエスト・ラストアンサー!!』

 白と赤の流星が、ワサビドーパントを貫く。

「ぐ、ああああっっ!!」

 ワサビドーパントの体が爆ぜた。
 爆炎が収まったとき、そこには一人の青年が立っていた。彼は、再び駆け寄ってくる大将を見ると、涙を流した。

「大将…おれ…」
172 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/21(日) 19:39:10.82 ID:iu6E2u8G0
「…もう、懲りただろ」

 倒れ込む青年の体を、彼は抱きとめた。左の掌から黄緑色のガイアメモリが抜け、床に落ちて砕けた。

「罪を償って、帰ってきたら…寿司を握って、食わせてやるよ。お前に必要なものが、少しでも分かるように…」

『ひとまずこれで、一件落着…』

 そこへ、一人の警官が駆け込んできた。

「大変です! 寿司屋の方で、リンカさんが…」



 寿司屋のカウンターに座って、リンカは考え込んでいた。

「ワサビ…それに、先日のアコナイト」

 これらのメモリは、財団のリストにもある、ミュージアムが作ったガイアメモリだ。思えば、新造メモリを使っていたのは、工場の長に、今まで意識不明だった筈の密売人と、状況が特殊な人物たちだ。まだ売買の対象にはなっていないのかも知れない。それに何より、アコナイトと一緒に挿入された謎のプロトタイプ…

「! もし、あのワサビドーパントにも同様のメモリが使われていたら」

 徹が危ない。そう思い、立ち上がったその時

「はい、プレゼント〜」

「なっ……ん゛っ!?」

 彼女の視界が、緑に染まった。と思う間もなく、彼女の嫌うあの感覚が、鼻を突き抜けた。

「う゛っ…あ゛っ、え゛ほっ…」

「特製のワサビパイ、良いでしょ〜」

「その声っ…うぐっ」

 彼女の顔に張り付いているのは、夥しい量の練りワサビであった。どうにか拭い取ろうとする彼女の腹に、膝蹴りがめり込んだ。

「がはっ…」

 倒れ込むリンカ。声の主は、彼女を一度無視して、彼女の所持する鞄を漁り始めた。

「ちょ〜っとエッチしてあげたら、馬鹿みたいに言う事聞いたね、あのワサビくん。ま、警察にあたしのメモリがあるなんて思ってないけど…」

 目当てのものを見つけたらしく、笑い声が聞こえた。

「あはっ、あった!」

 それから彼女はリンカの体を掴んで引き起こすと

「…ついでだし、君にはも〜っと苦しんでもらおうかな〜」

 更に山盛りの練りワサビの盛られた皿を、顔に叩きつけた。

「あ゛っ、あ、がっ…」

 皿を外すと、リンカの目や鼻に、執拗にワサビを塗り込む。

「あはははっ! いつも澄ました顔してるくせに、ワサビ一つでこ〜んなに可愛くなっちゃう!」

 突き刺すような刺激に呼吸もできなくなり、とうとうリンカは床に崩れ落ちた。

「あはははっ、ははっ…はははははっ…」

 ひとしきり笑い転げた後、ふっと彼女は笑みを消し、そして言った。

「…じゃあ、死ね」

 ズボンを下ろし、取り返したメモリを太腿のコネクターに挿そうと振りかざす。と

『そこまでだ!!』

「…チッ」

 そこへ飛び込んできたのは、仮面ライダー。しかも、見たことのない姿をしている。彼女は舌打ちすると、近くにあった窓を飛び蹴りでぶち破り、そのまま外へと逃げ出した。

『ああクソッ…リンカ、大丈夫か』

 仮面ライダーが、倒れるリンカを抱き起こす。彼女は目を真っ赤に泣き腫らしながら、口角を吊り上げた。
 そして、掠れた声で言った。

「ええ…心配、いりません」
173 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/21(日) 19:40:06.99 ID:iu6E2u8G0



 公園の身障者用トイレに入ると、ミヅキは歓喜の声を上げた。

「やった〜、やっと取り返した…」

 その手に握られているのは、ピンク色のガイアメモリ。ラメやスパンコールでデコレーションされたそれには、両耳をぴんと立てた兎の頭部が描かれている。

「これで、お母様のもとへ帰れる…」

 言いながら、メモリのスイッチを押す。

『false』

「…ん?」

 不審に思い、もう一度スイッチを押す。

『false』

「あ、あれ? これ、あたしのメモリだよね…?」

『false』

 何度も押していると、突然、メモリから耳をつんざくモスキート音が流れ出した。

「あ゛あっ、ああああっ!?」

 メモリの影響で強化された聴覚に、不快な音声が大音響で突き刺さる。耳を塞いでのたうち回るミヅキの鼻先で、落としたメモリがパンと音を立てて弾けた。中に入っていたのは、『false:偽』と書かれた紙切れ。

「う…ああああああっ!! クソクソクソクソクソぉぉっ!!」

 ミヅキは叫びながら、偽メモリの残骸を両足で何度も踏みつけた。それから、やおらトイレの手すりを蹴り折ると、ズボンと下着を脱ぎ捨てて自らの股間に無理やりねじ込んだ。

「ああああっ! クソッ! あっ! ああああっ!」

 女性器から血が出るのも構わず、彼女は怒りに任せて、乱暴な自慰行為を続けたのであった。
174 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/21(日) 19:41:28.44 ID:iu6E2u8G0
『Wのから騒ぎ/幸せを握る人』完

今日はここまで

ギャグ回って言った割にギャグが面白くないという
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/21(日) 19:49:44.88 ID:XoK2IsJhO
ジオウの映画はよ見たい
オーマフォーム見たいよおおおお
176 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/21(日) 19:49:48.89 ID:iu6E2u8G0
『ワサビドーパント』

 『山葵』の記憶を内包するガイアメモリで、寿司職人見習いの生島彰二が変身したドーパント。緑のごつごつした体に、頭からは濃緑色の茎と葉が生えている。自身の体を微粒子化して煙のように飛ばしたり、手を相手の顔に擦り付けることでワサビ独特の『ツーン』とくる刺激を与えるという、恐ろしいドーパント。あくまでワサビの刺激に過ぎないので、まともに喰らっても毒性は無いが、気道への刺激で呼吸ができなくなり、窒息死する危険性は否定できない。
 生島は比較的内気な青年であったが、内心ではワサビを食べられない客を見下したり、積極的に新しいネタを取り入れる大将に疑問を抱いていた。また、加えて大将に認めてもらえない劣等感がメモリの毒性によって増幅され、極めて攻撃的なドーパントとなってしまった。
 メモリの色は黄緑。山葵の地下茎と、それをすりおろした軌跡で『W』の字が描かれている。
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/21(日) 19:50:08.35 ID:pMAvYjIR0
NOTメモリさえあれば……
178 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/21(日) 20:23:37.09 ID:iu6E2u8G0
方向性決めとかないとダレそうだな

↓1〜3で多い方 どっちから進める?

@ミヅキルート

A蜜屋・真堂ルート
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/21(日) 20:36:41.19 ID:2/Pp3ZkQ0
1
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/21(日) 20:50:05.32 ID:XZQ1eKADO
不遇なミヅキちゃん用に新ガイアメモリ案

ラストメモリ
7つの大罪の一つ「色欲」の力を宿す女性専用の強力なメモリ
芳香により周囲の人間に対して劣情を抱かせて支配する能力を持つ
(男性なら使用者を抱くためなら何でもする肉人形に、女性ならお姉様と呼んで盲目的に従う妹になる)
強力なメモリではあるが毒性も強く、使用者の精神を侵食しハーレムを作る事が目的とさせてしまう

ラビットからの派生でここまで考えてたけどラビットはRでラストはLだったわ・・・
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/21(日) 20:50:38.81 ID:XZQ1eKADO
あ、1でお願いします
182 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/21(日) 21:04:09.73 ID:iu6E2u8G0
(心配しなくてもミヅキちゃんの強化メモリはもう考えてある)

というわけでミヅキルートですね
183 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/22(月) 21:24:21.78 ID:N8D22hV60
「マリマリ☆ちゃんねる〜!」

 斜め上に持ち上げたハンディカムに向かって、ピンクのゴスロリ服を着た少女は笑顔で手を振った。

「…えー、今日は、自販機のルーレットで当たりが出るまでまし、回したいと、思いまーす」

 ちらちらと辺りを窺いながら、一台の自販機のもとへ歩いて行く。

「えっと…ここなら、迷惑にならないかな…お小遣い、全部小銭に変えてきたからね。今日は絶対当てるよ…」

 たどたどしい口上を取り繕うように、カメラに向かって笑顔。と、こちらに向けた小さな画面に、誰か別の人間が映り込んでいるのに気付いた。
 慌てて口を閉ざす。ここは編集だ。面倒臭いけど、また撮り直さないと…
 ところが、映り込んだ人物…自分とそう変わりない年頃の少女は、画面内から去ろうとしない。それどころか、衣麻理に向かってすたすたと歩いてくるではないか。

「…っ、な、何ですか」

 振り返った衣麻理。彼女が抗議しようとした瞬間、そのこめかみに飛び回し蹴りが突き刺さった。

「いだいっ!?」

 コンクリートの上にひっくり返る衣麻理。少女はその頭に足を乗せると、ぐりぐりと踏みつけた。

「やだっ…やめてっ…」
184 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/22(月) 21:26:46.91 ID:N8D22hV60
「服、脱いで。あたしに頂戴」

「え…?」

 呆然と聞き返す彼女の顔を、少女は爪先で蹴り上げた。

「痛いっ! わかった、分かったから許してっ!」

 衣麻理は起き上がると、ゴスロリ服のボタンに指をかけた。誰か通りかからないかと期待して、辺りを見回すが、人気はない。彼女自身が、そういう場所を選んだのだから。

「ブラとパンツも頂戴」

「嘘でしょ…」

 ファスナーを下ろす手が止まった瞬間、向う脛を思い切り蹴られた。

「いやあっ! 許して、ごめんなさいっ…」

 華やかなワンピースドレスを脱いだ彼女は、震える指で地味なブラのホックを外した。

「っ…ひぐっ…」

 泣きながらショーツを下ろす。それを確認すると、何と少女まで、自分が着ているストリートめいた服を、全て脱ぎ始めた。

「ひっ…えぐっ…」

 両手で胸と股間を庇う衣麻理の前で同じく裸になると、少女は恥じらう様子もなく、自分が着ていた服を蹴って渡した。

「もういらないから、あげる」

「ぐすっ…あ、ありがとう、ございます…」

 地面に屈み込み、拾おうとする彼女の背中に足を載せると、少女は言った。

「ついでに、これもあげる」

 何処からともなく取り出した拳銃めいた機械に、綺羅びやかなガイアメモリをセットし、丸出しの尻に押し付けた。

「あ痛゛っ!」

 右の尻たぶに、黒いコネクターが刻まれる。その横にメモリを放り捨てると、少女は強奪した服を拾い、素っ裸のままでその場を去っていった。
185 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/22(月) 21:27:20.16 ID:N8D22hV60
短いけどひとまずここまで

出てくるメモリのアルファベット被りすぎ問題
186 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/25(木) 20:03:10.18 ID:WrIFYxb+0



 『ばそ風北』の暖簾をくぐった徹は、あまりの人の多さに仰天した。

「うわっ、今日は大盛況だな…」

 確かにここの蕎麦は美味いし、密かなファンの多い店ではあるのだが、あくまで隠れた名店といった立ち位置で、ここまで人が詰めかけることは今まで無かった。
 よく見ると、カウンターの周りに人混みができている。皆、蕎麦と言うよりはカウンターに腰掛けて蕎麦を食する人物が目当てのようだ。
 カウンターの手前で右往左往していると、奥にいる店主と目が合った。手招きされて台所の入り口に来ると、彼は開口一番「今日は、彼女と一緒じゃないのかい?」などと訊いてきた。

「別の仕事が入ってるんだ。…って言うか、彼女じゃないって」

 彼女と言うのはもちろんリンカのことである。実際、彼女は今、自分がかつて関わった教育評論家の蜜屋志羽子について、独自に調べているところであった。

「そうかぁ、残念だ。折角、あの『マリマリ』ちゃんが来てるのに…」

 店主は分かってるよと言わんばかりに頷くと、ふとカウンターの方に視線を向けた。
 人混みの隙間から、この店に不釣り合いな青いフリフリのドレスがちらりと見えた。

「…何、タレントか何か?」

「えっ、知らないの!?」

 店主が急に、素っ頓狂な声を上げるので、徹は慌てて辺りを見回した。

「今流行りの、大人気『フーチューバー』のマリマリちゃんだよ? 物書きやってるのに、徹ちゃん知らないの?」

「はあ…?」

 徹は首をひねった。
 フーチューバーの存在自体は知っている。某大企業が運営する動画投稿サイト『WhoTube』に動画を投稿し、広告収入を得ている人々のことだ。中には年収が数億円に上る者もいて、流石にその名前くらいは知っているが、マリマリなるフーチューバーの存在は初耳であった。

「まあ後で調べてみてよ。とにかく、そのマリマリちゃんが、今ウチに来て蕎麦の食レポをしてるんだ! これがフーチューブに投稿されたら、忙しくなるぞ…」

「おっちゃん…意外とミーハーだったんだな」
187 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/25(木) 20:03:36.11 ID:WrIFYxb+0
「別にそういうわけじゃないけどさ。マリマリちゃんは別格だよ。…そう、アイドルだよ!」

 齢60近い筈の店主は、少年のように瞳を輝かせて言ったのであった。



「…? 何を見ているのですか」

「ああ、これ」

 その日の夜。真新しいノートパソコンに向かって、じっと動画を観ている徹に、帰ってきたばかりのリンカが声をかけた。

「蕎麦屋のおっちゃんが観とけって言うもんだから」

 指差す先に映っているのは、例のマリマリなる少女。

「チャンネル登録者数140万人、最新の動画の再生数は300万回超えだってさ。大したもんだ」

「…」

 リンカは眉をひそめて、画面の向こうでコンビニ弁当を食べる少女を見た。やや大げさな仕草で牛丼弁当を絶賛しているのだが、彼女が着ているのはフリルたっぷりのメイド服だ。

「兎ノ原美月のような服装ですね」

「ははっ、言われてみれば。…」

 ブラウザバックし、動画一覧を開く。やたら数の多いそれをスクロールしながら、彼はぽつりと言った。

「…今度、この娘に取材することになった」

「貴方が?」

「ああ。と言うのも…」



 諦めて帰ろうとする徹を、店主は引き止めた。

「ちょっと待って。徹ちゃん、一度、マリマリちゃんとお話ししてくれないかな?」

「俺が? いや、俺、そのマリマリちゃんのこと、よく知らないし…」

「そう言わずに、ね。ここで会ったのも何かの縁だしさ。…実はあの娘、メディアとのコネを欲しがってるんだ。フーチューブだけだと、どうしても一部の層にしか見てもらえないからって」

「はあ…」

 店主の勢いに押された徹は、店の奥でまかない蕎麦を食べながら、彼女の撮影が終わるまで待った。そうして、自分が社会的地位の低いフリーライターであることを断った上で、彼女と会話した。
 マリマリこと太田衣麻理は、予想以上に彼に食いついた。

「フリーライター…って、雑誌の記事とか書いたりしてるんですか?!」

「えっと、まあ何本か」

「凄い! マリ、ネットでは最近売れてきたけど、本や雑誌にはまだ載ったことがないんです」

「そ、そうなんですか。じゃあ、これから」

 載ると良いですね。そう言おうとした彼を、彼女は遮った。

「取材してくださるんですか!? 是非お願いします!」

「えっ!? えっと、それは」

 身を乗り出し、両手を握ってくる衣麻理。近寄ってきたその顔が存外に美しくて、徹はどぎまぎした。

「…か、書いて、持ち込んで…載せてもらえるかは分からないですけど…」

「ありがとうございますっ! じゃあ、日程なんですけど…」



「…で、貴方は勢いに押された、と」
188 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/25(木) 20:05:12.39 ID:WrIFYxb+0
「…はい」

 無表情に徹を見つめるリンカ。無表情だが、近頃ようやく彼女の考えていることが、何となく分かるようになってきた。

「…ごめんなさい」

「何故謝るのですか」

 リンカは無感情に言いながら、彼の手からマウスを奪った。それから動画一覧を、一番下まで一気にスクロールした。

「…このマリマリなる人物、最初期の再生回数はせいぜい10数回です」

「フーチューバーって意外とシビアなんだぞ。最初は皆、そんなもんだ」

「これが一気に伸び始めたのは…」

 スクロールホイールをくるくると回し、画面を上へと送っていく。どう頑張っても3桁まで届かない再生数が一気に増えたのは、驚くことにほんの先週のことであった。

「この手のショービズ、それも個人が注目を浴びるためには、既に影響力のある人物の力が必要です。しかし、彼女はそれを利用したわけではなさそうです。加えて、一度付いた視聴者は過去の動画も観ることが多いですが、注目を浴びる以前の動画の再生回数は、相変わらず二桁台」

「た、確かに。…て言うかあんた、意外と詳しいんだな」

「何より」

 リンカはもう一つウィンドウを開くと、再生数の伸び始めた動画と、その一つ前の動画を再生し、横に並べた。

「…何だこりゃ、まるで別人じゃないか」

「化粧を変えたにしても、印象があまりにも違う。整形手術か、映像加工か」

「いや、CGは無いだろ。俺はこの顔、直接見たし…って」

 いつの間にか動画が終わり、新しい動画へ切り替わる。そこに映っている顔は、更に印象が変わっていた。と言うより、垢抜けて、美しく見えた。何より、先ほど徹が見た顔に、より近くなっていた。
189 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/25(木) 20:06:03.63 ID:WrIFYxb+0



 撮影を終え、店を出た衣麻理は、数人の男たちに囲まれた。興奮気味に寄ってくる彼らに笑顔で応えながら、衣麻理は通りを歩く。静かな住宅街において、彼女の格好は極めて目立つ。増えたり減ったりする野次馬を、彼女は寧ろ愉しむように歩いていた。
 とは言え、時間が遅いこともあって人の群れは徐々に散っていく。それでも熱心に追ってくるのは、4人の男であった。互いに牽制し合うように、衣麻理をストーキングする男たちを、彼女はちらりと覗き見た。そして

「…んふっ」

 いつの間にか彼女は、人気の無い公園の一角に来ていた。彼女はそこで立ち止まると、おもむろにフリルのたっぷり付いたスカートの中に手を入れた。その手が下へと下りると、彼女の太腿の間を薄いショーツがするすると滑っていった。
 困惑少々、期待大半にそれを見つめる男たちに背を向けたまま、彼女はくるりと首だけを回して彼らを見た。

「…みんな、マリのこと、好き?」

「好きだ!」

 一人が叫んだ。残りの3人も、口々に自分の思いの丈をアピールする。
 それを満足気に聞くと、衣麻理は言った。

「ありがとう。…これからも、ずっとマリのこと応援してね」

 ゆっくりと、片手でスカートの後ろを持ち上げる。鼻息荒くそれを見守る彼らの目に飛び込んできたのは、白い尻に刻まれた、黒い機械的な文様であった。
 もう片方の手に、ダイヤモンドめいて輝く小匣を掲げる。



『アイドル』



「永遠に、死ぬまで…マリのこと、推し続けてね…!」

 彼女が去った後、そこにはぼんやりと座り込んだまま動かない、屍めいた4人の男たちだけが残された。
190 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/25(木) 22:55:05.43 ID:WrIFYxb+0



「へえ、じゃあ最近は、風都で一人暮らしを」

「はい。ようやく売れ始めて、収入を入ってきたので、どうにか親を説得できました」

 メモを取りながら、彼はノート越しにちらりと彼女の顔を覗き見た。そして、密かに胸を高鳴らせた。
 先日『ばそ風北』で会ったときよりも、太田衣麻理は、明らかに綺麗になっていた。



 北風新報の藤沢編集長に、彼女を取材するので記事を載せられないか尋ねたとき、彼は徹の思っていた数十倍は食いついてきた。

”マジで!? マジでフーチューバーのマリマリちゃんの独占インタビューを取り付けたの!?”

「え、ええ。成り行きでと言うか」

”それ、絶対逃さないでよ。それから、絶対に他のとこには内緒だからね。その代わり、原稿料はうんと弾むから”

 受話器の向こうで、藤沢が大声で呼びかけている。

”社内の会議場押さえて! カメラマンも呼ぼう。付けれたらスナップショット集も付けたいな。それからインタビューには適当な女の子も同席させて。対面が男ばっかだと、過激なファンが凸ってくる…”

 電話越しの喧騒を、徹は呆然と聞いていた。



 そんな訳で、北風新報の社内にある会議室で、徹は衣麻理と向き合っていた。時折フラッシュが焚かれて、彼女の横顔や話している様子が写真に撮られる。派手な衣装は撮影の時だけのようで、今はデニムのショートパンツにカットソーと、ラフな格好をしている。

「親御さんの反応はどうでしたか。初めての一人暮らしだと、やっぱり心配されたのでは」

「そうですけど、二人共マリのこと応援してくれてますから」

「そうなんですね」

 徹の相槌に、衣麻理は意味深に微笑んだ。それがまたミステリアスで美しい。

「…これからやってみたいこと、展望がありましたら、教えていただけますか」

「やってみたいことはたくさんありますけど、やっぱり…歌ってみたいかな。歌が好きなんです」

「良いですね、そうなったら本物のアイドルみたいですね」

「応援してくれる人たちのおかげで、マリはどんどん有名になって、いつかは本当のアイドルになりたいなって、そう思ってます!」
191 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/25(木) 22:55:51.17 ID:WrIFYxb+0



 インタビューを終え、レコーダーとメモを鞄に収めると、徹は会社を出た。衣麻理の方は会社の人間が送り迎えまでしてくれるらしい。もう少し彼女と話していたかったが、後であらぬ疑いを掛けられても面倒だ。大人しく帰ることにした。
 帰り道、彼は『ばそ風北』に寄った。腹が減っていたのもあるが、何より店主が彼女へのインタビューのことを知りたがっていたからだ。

「…?」

 住宅街を突っ切った分かりにくいところに『ばそ風北』はある。普段は近所の住民や、常連くらいしか見かけないのだが、衣麻理が動画にしたこともあってか今日は人が多い。
 ところが、店の前でたむろしている人々は、誰一人として店に入っていかない。

「あの…何かあったんですか」

 少し離れてそわそわしながら突っ立っている男に、尋ねてみた。彼は苛立たしげに店を見て、言った。

「マリマリちゃんの動画見て、聖地巡礼に来たのに、この有様だよ」

「この有様って…」

 店に近寄って、気付く。

「…あれ、閉まってる」

 定休日は日曜日だが、今日は木曜日だ。定休日以外で店主が急に店を閉めたことは、徹の記憶では一度もなかった。

「朝からずっとこんな感じなんだよ」

「それはおかしいな…」

 徹は裏に回ると、勝手口を叩いた。

「おーい、おっちゃん、いるのかー?」

 呼びかけるが、反応がない。

「おーい、返事してくれないかー? おーい…」



 そのすぐ向こうには、店主が座っていた。しかし彼は一切動かない。その虚ろな目は、真新しいパソコンの画面を見つめている。
 そこには、華やかな衣装を着て駄菓子を食べる、太田衣麻理の映像が流れていた。
192 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/25(木) 22:56:57.70 ID:WrIFYxb+0
『永遠のI/インターネットのお姫様』完

今夜はここまで
193 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/25(木) 23:07:28.77 ID:WrIFYxb+0
>>188の後が抜けてた



 リンカは、徹の顔を真っ直ぐに見た。

「この女には、何かある。そう考えるべきでしょう。私はその日、行動を共にはできませんが…くれぐれも、気を付けてください」
194 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/27(土) 13:03:42.08 ID:g1DpNED/0
 風都にて。とあるインターネットカフェでのイベントを終えた衣麻理は、ほくほく顔で繁華街へ出てきた。出待ちの群衆を家来のように連れて、通りを歩く。
 企業とタイアップしての仕事は、これが初めてだ。イベントを訪れた誰もが、彼女の美しさに夢中だ。
 ___彼女の去った後のイベント会場には、スクリーンにループ再生される彼女の動画を、虚ろな目で見つめる観客やスタッフたちが残されたが、そんなことはどうでも良かった。

「…!」

 衣麻理の足が、ぴたりと止まった。野次馬を押し退けて、彼女の目の前に、一人の少女が現れたのに気付いたからだ。
 つい最近まで衣麻理が着ていた、ピンクのゴスロリ衣装を纏う少女を見た瞬間、衣麻理の顔から余裕と愉悦が消えた。
 少女は、獣めいた笑みを浮かべながら、言った。

「…ちょ〜っと、お話ししたいな。二人っきりで」

 衣麻理は、がたがたと震えながら、ゆっくりと頷いた。



「…」

 徹は、じっとパソコンの画面を見ていた。映し出されているのは、もちろん太田衣麻理の動画である。何でも、ネットカフェでイベントをやることになったらしい。告知によると、今日がその日だったらしいから、今頃は全部終わって家に帰っていることだろう。
 アルバイトが入っていなければ、自分も行きたかった…。そう考えて、彼は想像以上に彼女に入れ込んでいる自分に驚いた。

「徹」

「…」

「…徹。…」

「…うわっ!?」

 背中に温かいものが触れて、彼は驚いて振り返った。いつの間にかリンカがいて、彼の首に両腕を回して抱きついていた。

「ど、どうした?」

 痛いほどに打つ心臓を抑えながら尋ねると、彼女は無表情に、しかし明らかに沈んだ声で言った。

「不安になります」

「不安に…? あんたが?」

「貴方は、言葉が上手い。それだけでなく、言ったことを現実にする力がある」

「…」

「貴方が道を違えた時が、最も危険であると考えます」

「…気を付けるよ」

 徹が言った瞬間、彼の背中からリンカの姿が消え、真実を司る金色の女神がそこに現れた。

「っ!?」

 しかし、それはほんの一瞬で、またリンカの姿に戻った。

「…真実を見てください。どうか」

「…分かった」

 徹は頷いた。画面に目を戻すと、今まで夢中になって観ていた動画が、急に退屈なものに思えて、彼はノートパソコンを閉じた。
195 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/27(土) 15:48:14.55 ID:g1DpNED/0
「気付いたらもうこんな時間か。そろそろ寝ようかな…」

 立ち上がろうとしたその時、彼の携帯電話が鳴った。

「おっと。…もしもし?」

”もしもし…力野さんですか?”

「!? 太田さん…」

 徹はリンカの方をちらりと窺うと、通話をスピーカーモードにした。

「イベントは終わったんですか?」

”はい。それで、突然で申し訳ないんですけど…今から会うことって、できませんか?”

「会うって、俺とですか?」

”はい。駄目ですか?”

「ファンが黙ってないでしょう。危ないですよ」

”大丈夫です、変装して行くので…”

 変装とは、まるで芸能人のようだ。考えあぐねてリンカの方を見ると、彼女は小声で言った。

「乗ってみるべきです。彼女の秘密について、知ることができるかも」

「…わ、分かりました。じゃあ場所ですけど…」



 タクシーの後部座席で待っていると、太田衣麻理は早足にやって来た。いつもの派手な服装ではなく、黒のシャツにハーフパンツで、帽子を目深に被っている。
 彼女は俯いたまま徹の隣に乗り込むと、低い声で「風車町の、適当なホテル」と運転手に伝えた。
 驚いたのは徹である。風車町は風都に近い地区で、水商売や風俗の店が多く立ち並ぶ区域であった。当然、そこにあるホテルと言ったら、ラブホテルのことである。

「…マジで?」

 彼は思わず呟いたが、衣麻理は何も言わなかった。



 ホテルに着いた。部屋に入り、初めて帽子を脱いだ彼女を見て、徹は困惑した。
 確かに、今まで見た通り美しい。更に磨きがかかったような気がする。しかし、それと重なるように、極めて平凡な、目を引く所のない女の顔が見えた。それでいてどちらの顔も、間違いなく太田衣麻理であると断言することができた。
 衣麻理が、口を開いた。

「急に、こんな夜にお呼びしてごめんなさい。実は、お願いがあって」

「お願い?」

 少し警戒しながら、問う。

「マリの、お友達がいるんです。その娘、大事なものを取られちゃったんだって。あなたに」

「俺に…?」

「さっき、その娘に会って。あなたがそれを持ってるから、返すように説得してほしい、せめてどこに隠したか聞いてほしいって頼まれたんです」

「いや、俺は何も盗んで…」

 そこまで言って、彼ははっとなった。

「まさか…」
196 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/27(土) 15:48:47.55 ID:g1DpNED/0
「お願いします。返してくれたら…」

 言いながら衣麻理は、いきなり彼の胸にぴったりと身を寄せた。

「…何でもします」

「っ!!?」

 平凡な少女の顔がかき消え、美しい女の姿だけが映る。

「な、何でも、って」

「…」

 彼女は彼の体を、ベッドの上に押し倒した。倒れた彼の上に馬乗りになると、彼女は有無を言わさずシャツを脱ぎ捨てた。

「皆から『推し』てもらう度に、マリ、どんどん綺麗になっていくの…」

「す、ストップ! 俺、その大事なものが何なのか知らないし、何処にあるかも…」

 ところが、衣麻理の耳には、もはや彼の言葉など入っていなかった。とうとう派手なブラジャーを外すと、美しく膨らんだ乳房を彼の目の前に突き出した。

「見て、もっと見て! 綺麗なマリを、もっと…」

 うわ言のように呟きながら、彼の体をまさぐる。その指が上着の内ポケットに触れた瞬間、彼女の動きが止まった。

「! あった…」

 呆然とする徹のポケットから、探り当てたそれを抜き出す。

「見つけた…ガイアメモリ…!」

「っ!」

 ここに来て、徹は正気に戻った。すぐにメモリを奪い返すと、ベッドから飛び降りて彼女から距離を取った。

「やめろ、こいつはお前が触れていい代物じゃない…」

「返してよ…あの人に返さないと、マリが大変なことになるの…!」

「悪いが、これは多分、お前が探してるやつとは違うメモリだ」

「だったら…」

 衣麻理は、おもむろに下の衣服まで脱ぎ始めた。露わになった下半身には、無駄な毛や肉が一切なく、美しい上半身と合わせて完璧な裸体を形作っていた。

「ああ…見てる…マリのカラダ、見られてる…『気持ちいい』…!」

 言いながら、ゆっくりと後ろを向く。徹の目に、丸い尻に刻まれた、黒いコネクターが飛び込んできた。

「…力野さんも、マリを推してくれるよね…?」

 その手に、宝石めいて輝くガイアメモリ。
197 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/27(土) 15:50:46.44 ID:g1DpNED/0
『アイドル』



”真実を見てください。どうか”



「…これが、真実…か」

『ファンタジー』

 再び徹の方を向いた衣麻理の体は、赤や青の綺羅びやかな衣装に包まれていた。しかしその頭に顔は無く、ブラックホールめいた灰色の渦が描かれているのみであった。

「! 仮面ライダーだったの。……嬉しい! 仮面ライダーが、マリを推してくれるなんて!」

 太田衣麻理…アイドルドーパントが叫んだ瞬間、その顔の渦が回転し始めた。何かが吸い込まれる感触がして、ファンタジーは咄嗟に躱した。そのすぐ横の空間が、ぐにゃりと歪むのを、彼は知覚した。
 ファンタジーは剣を握ると、ドーパントに斬りかかった。

『せやっ!』

「やめて…マリを、傷つけないで!」

 その手にマイクスタンドめいた錫杖を出現させると、アイドルドーパントは斬撃を受け止めた。

「見て、マリを見て、綺麗なマリを…」

 打ち合いながら、ドーパントはぶつぶつと呟いている。ファンタジーは、流石に気味が悪くなってきた。

『ガイアメモリに頼っても…本当に、綺麗には、なれないぞ!』

 突き出す剣を、杖で弾く。

「そんなことない! こっちが…本当の、マリなの!」

 杖を大きく振りかぶった隙に、腹部に拳を叩き込む。

「ぐぅっ…」

『大人しく、メモリブレイクさせろっ!』ファンタジー! マキシマムドライブ

『ファンタジー・イマジナリソード…』

 輝く剣が、ドーパントに迫る。致命の一撃を前に、アイドルドーパントは…
 ___変身を、解除した。

『うわあっ!?』

 目の前の怪人が、突然裸の美女に戻り、ファンタジーは慌てて剣を止めた。尻から吐き出されたメモリを握りしめると、衣麻理は窓を破ってホテルから逃げ出した。
198 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/27(土) 21:42:07.27 ID:g1DpNED/0



 ホテルの入口には、バイクに跨ったリンカが待っていた。

「逃げられた。…太田衣麻理は、ドーパントだった」

 変身を解除した徹に、リンカは頷いた。

「そうだろうと思っていました。使用メモリは『アイドル』と予想しますが」

「ああ、合ってる」

 リンカがタンデムシートに移動すると、代わりに徹が運転席に跨った。

「どこに逃げたと思う?」

「この時間帯に、できるだけ人が集まる場所でしょう」

 バイクが走り出すと、リンカはアイドルメモリについて説明した。

「アイドルドーパントには、人間の興味や関心、或いは意欲に至るまでを全て自分に向けさせ、エネルギーとして吸収する能力があります。吸収すればするほどドーパントは力を増し、また変身前の外見的魅力も強くなります。ある意味、人間態もドーパント態の延長と言えるでしょう」

「その、興味とかを吸収された人間は…」

「変身者以外へのあらゆる興味、関心、意欲を失い、廃人のようになります」

「! まさか、蕎麦屋のおっちゃんも」

「落ち着いて。メモリブレイクすれば興味の対象が消失し、被害者は元の状態に戻ります」

「そ、そうか。だったら、早く見つけて倒さないとな!」

「ええ。…このメモリには、使用する度に自己顕示欲や承認欲求が肥大するという副作用があります。人の多い場所を目指していると予想したのは、そのためです」

「そうか…」

 自分を見て、と繰り返していたドーパント。メモリの力で手に入れた美しさを、誰かに見せびらかさずにはいられない。そして、より多くの人に見られるには、もっと美しくならねばならない…。酷い悪循環だ。早く断ち切らないと。



 北風駅前。遅い会社帰りのサラリーマンや、何かの待ち合わせに集まる若者たち、ウォーキング中の老夫婦など、多くの人が行き交っている。その人混みの真中に、太田衣麻理はいた。どこかで手に入れたコートを着込み、落ち着かない様子で周囲を窺っている。

「…あれ、マリマリちゃんじゃね?」

 ふと、居酒屋の前で誰かを待っていた、若者の一人が気付いた。衣麻理は待ってましたとばかりに口元を歪めると、その声の主に向かってつかつかと近寄っていった。

「お兄さん、一等賞!」

「うわっ、マジだった!」

「えっ、マリマリちゃん?」

「うそ、どこどこ?」

 続々と寄ってくる野次馬たち。衣麻理は若者にスマートフォンを握らせると、言った。

「カメラマン、よろしくね」

「あ…はいっ!」

 フーチューブの配信をオンにして、カメラが自分を映したことを確認すると、衣麻理は大声で宣言した。

「今日は! この北風駅前で、もっとマリのことを、皆に見て…知ってもらおうと、思いまーす!!」
199 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/27(土) 21:55:46.20 ID:g1DpNED/0
 言い終わるや否や、彼女はコートを脱ぎ捨てた。コートの下は、全裸であった。
 たちまち、歓声が上がった。

「ははははははっ…見て、マリを見て、もっと!」

 青年に撮影させながら、彼女は群衆の中に突っ込んだ。
 駅前はパニックになった。その場にいた者たちはもちろんのこと、その中の誰かがSNSに裸の衣麻理の写真を投稿し、それを見た人々までもが駅前に殺到したのだ。
 道路はストップし、店からは客が消えた。店員も消えた。夥しい人の海に揉みくちゃにされながら、衣麻理は気持ちよさそうに歩いた。

「ああ、見てる、見て、触って…皆、マリを推して…!」

 彼女が叫ぶと、近いところにいた人々が、次々にその場に崩れ落ちた。地面に倒れ、周りの人に踏みつけられても、虚ろな目は絶えず衣麻理を追っている。



 そこへ、徹とリンカが到着した。彼らは駅前を埋め尽くす人混みに足を止められ、止む無くバイクを降りた。

「…そうだ、言い忘れてた」

「何でしょう」

「あいつ、友達の大事なものを俺が持ってるから返せとか言ってきたんだ。もしかしたら」

「ラビットメモリ…兎ノ原美月が、近くにいるかも、と」

「ああ。気を付けてくれ。…変身!」ファンタジー!

 騎士の姿となったファンタジーは、白いマントの翼を広げ、空へ飛び上がった。

『…そこまでだ、衣麻理!』

 上空から衣麻理の姿を見つけると、人を掻き分けて彼女の目の前に着地した。

「あっ、仮面ライダー! やっと来たね」アイドル

 衣麻理の体が、美しい衣装と、不気味な仮面に包まれる。錫杖を振り上げると、周囲にいた人間が次々と倒れていった。

「ね、凄いでしょ。ここにいる皆が、マリのこと推してくれてるんだよ!」

『それは推してるとは言わない! お前が、ただの養分にしているだけだ!』

「えー? 推すって、そういうことでしょ?」

 言いながら、杖で殴りかかってきた。ファンタジーは剣で応戦する。

『っ、力が増してる…!』

「皆に推されるほど、マリは強く、綺麗になるの!」

 剣を叩き落とし、胸の辺りを強く突く。

『ぐはっ…』

 一歩、引き下がるファンタジー。こうしている間にも、集まった人々は倒れ、ドーパントの養分となっていく。立っている人々はそれに違和感すら感じないようで、口々に「何やってんだ!」「マリマリちゃんに何てことを!」などと仮面ライダーにブーイングを飛ばしている。

『ああもうっ…メモコーン!』

 ファンタジーは、自律稼働するガイアメモリの名を叫んだ。
 ところが、今日に限ってあの小さな一角獣が、姿を見せない。
200 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/27(土) 21:56:14.61 ID:g1DpNED/0
『…自分でどうにかしろってことかよ! こういう時は…』

 周囲を窺い、状況を判断する。どうやら、この野次馬は全員アイドルドーパントの影響下にあるらしい。つまり、興味関心を、このドーパントに吸われているということだ。これを断ち切るには…
 ファンタジーは、魔術師の姿になると、両手を掲げた。すると、頭上に眩い光の玉が現れた。

「スポットライト! 仮面ライダーも、マリを推してくれるんだね」

『それはどうかな』

 光球の数がどんどん増えていく。ファンタジーが手を振ると、光の玉がぐるりとアイドルドーパントを囲い込んだ。
 光が等間隔に、円形に並んだ瞬間、光の中に、彼女の姿がふっと消えた。

「…あれ?」

「おれ、何をして」

「うわ、まっぶし…」

『色んな角度から強い光を当てると、外から姿が見えなくなるんだ。運転するようになったら気を付けるんだな! そして、姿が見えなくなれば、ある程度は力を削れるみたいだ』

「くっ、こんな所…っ」

 光の下から抜け出そうとするドーパント。しかし、ファンタジーが掌を突き出すと、魔法陣から鎖が伸び、彼女を拘束した。

『おっと、ステージから逃げるなよ』ファンタジー! マキシマムドライブ

 ファンタジーが騎士の姿に戻り、白いマントをはためかせて空へ昇る。

『ファンタジー・エクスプロージョン!!』

「いや、嫌、いやああああっっ!!!」

 光を裂いてミサイルキックが直撃し、アイドルドーパントは爆散した。

「嫌…折角、せっかく、きれいに…マリ…」

 倒れ伏す衣麻理。その体からガイアメモリが排出され、クリスタルのように儚く砕け散った。



 リンカの見守る向こうで、明るい光が爆ぜた。無事、ドーパントを倒したようだ。リンカの周りでも、倒れていた人々が、またゆっくりと起き上がってきていた。

「これでひとまず解決」

 誰にともなく呟きながら、彼女はおもむろにXマグナムを抜いた。その足元には、ずっとメモコーンが控えていて、威嚇するように低い声を上げていた。

「…バレてた?」

「もちろん」

 いつの間にか彼女の目の前には、ピンクのゴスロリ姿の少女、ミヅキが立っていた。

「あのドーパントも、私や仮面ライダーをおびき寄せるための餌ですか」

「ううん。服を貰ったお礼に、メモリをあげただけ。利用できたら良かったけど、役に立たなかったみたい」

 そこまで言うと、突然、少女はその場に両手を突いて頭を下げた。

「…お願いします。あたしのメモリを返してください」

「お断りします」

 すげなく言うリンカ。ミヅキは一層頭を下げると、コンクリートに額を擦り付けるようにして言った。

「あれがないと、お母様に合わせる顔が無いの…蜂女も、ダンゴムシおやじも、みんなあたしのこと仲間外れにするし」

「それは丁度良い。私たちのところへ来て、母神教について知っていることを教えていただければ、身の安全とガイアメモリ中毒の治療、並びに社会的な更生をお約束します」

「それじゃあ駄目なんだよ!!」

 ミヅキはその場で跳び上がると、そのままリンカに回し蹴りを放った。それを軽く躱すと、リンカは銃口を向けた。

「ラビットメモリの副作用は知っています。限界以上に使い込んだ貴女が、どのような状態に陥っているかも予測できます。その上で、明言しましょう。メモリは現在、『貴女の手の届かない場所』にある」
201 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/27(土) 22:01:31.43 ID:g1DpNED/0
「こ、の…っ!」

 ミヅキは憎々しげに歯ぎしりしていたが、ふっとリンカに背を向けた。

「…良いも〜ん。自分で何とかするから」

「頑張ってくださいね」

 白々しく言うリンカに唾を吐くと、ミヅキは地面を蹴って近くの信号機の上に跳び上がった。そうして屋根や電柱を伝って、夜の闇へと消えていった。

「おーい、勝ったぞー!」

 そこへ、徹が駆け寄ってきた。

「お疲れさまでした。…おや、上着は?」

「ああ。衣麻理を裸のまま転がしとくのは可哀想だったから、気休めに掛けてきたんだ。ま、そんなに高いものでもないし、無くなってもそこまで惜しくないから…」

「そうでしたか」

 リンカは、ミクロン単位で薄く微笑んだ。そうして、彼が今来た方をちらりと見た瞬間に、額を伝う脂汗を、密かに手の甲で拭った。



「…おっ、いらっしゃい徹ちゃん!」

「よっ、また来たよ」

「私も同伴です」

 暖簾をくぐってきた2人の姿を認めると、『ばそ風北』の店主は嬉しそうに手を振った。
 カウンターに並んで座ると、2人で北風蕎麦を注文した。

「何だか、夢を見てたような気がするよ」

 ふと、店主がこぼした。店の中は、以前のように静かで、衣麻理が来た時のような活気は無い。

「マリマリちゃんも、チャンネルがBANされてからはすっかり動かなくなっちゃったし」

「ああ…まあ、あんなことやっちゃ、ねぇ」

 全裸で駅前を歩き回る配信は、当然開始から数分で強制的にストップされた。従って、ドーパントと化した衣麻理や、それと戦う仮面ライダーの姿は映像には残っていない。既に投稿された彼女の動画は今でも見られるのだが、それも全く視聴数が増えない。あんなに注目を集めたはずのネットアイドルは、改めて見ると何処にでもいる、極めて平凡な少女であった。SNS上でも動きがないのは、彼女がメモリの離脱症状から抜けきれず、今でも入院しているからである。

「それにね、改めて見たら、そんなに美人でもなかったかなって。…リンカちゃんの方がよっぽど美人だよ。徹ちゃんにはもったいないよ、このこのっ!」

「だぁかぁらぁ! リンカは彼女じゃないっての!」

「えっ?」

「えっ」

「えっ、じゃねえよ! 何でリンカまで乗ってくるんだよ!?」

「…冗談はさておいて。彼と私は単なる仕事仲間です。訳あって協力関係にありますが、それも一時的なものです」

「えー、そうだったのか…」

 きっぱりと言うリンカに、店主だけでなく、徹までどういうわけか落胆してしまった。少し沈んだ気持ちで彼女の顔をちらりと見て、気付く。

「…」

「…?」

 横目に見たリンカの顔に、何故だか、後悔や罪悪感めいた色が浮かんでいるように思えた。
 困惑する徹の目の前に、出来たての蕎麦が置かれた。湯気が視界を横切ると、彼女の顔はまた、いつもの無表情に戻っていたのであった。
202 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/27(土) 22:02:48.93 ID:g1DpNED/0
『永遠のI/推しがわたしのエネルギー』完

今夜はここまで
203 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/27(土) 22:25:06.05 ID:g1DpNED/0
『アイドルドーパント』

 『偶像』の記憶を内包するガイアメモリで、無職の太田衣麻理が変身するドーパント。赤や青の華やかな衣装を纏い、顔の代わりに黒い渦の描かれた、スタイルの良い女の姿をしている。エネルギーが高まると、マイクスタンドめいた形の錫杖を出現させることもできる。顔の渦巻きから人間の興味や関心、意欲といった前向きな感情を吸い上げ、自身のエネルギーとすることができる。吸われた人間は一切のやる気を失い、廃人のようになってしまうが、感情の方向を自分に向けさせた上で吸い上げるという工程を踏むため、感情の対象、すなわちアイドルドーパントが倒されれば元通りに戻る。また、エネルギーを集めるほどに変身前の状態でも外見的な魅力が増していくという、特徴的な能力も持つ。それと比例して、自己顕示欲や承認欲求も肥大化していくという副作用がある。
 売れない配信者であった太田衣麻理は、半ば事故のようにこのメモリを入手すると、まず反対する両親からエネルギーを吸い上げた。それからは、主に近付いてくるファンからエネルギーを奪って自身の糧としていた。人の多い場所を目立つ格好で歩くのは、糧にする標的を探しながら自身の自己顕示欲を満たすためであった。しかし、徹を誘惑するために裸体を見せたことで承認欲求の箍が完全に外れ、暴走。人の多い夜の駅前を、全裸で闊歩するという暴挙に至った。
 メモリはダイヤモンドめいて輝くクリアカラーで、スポットライトを浴びるマイクの意匠で『I』と書かれている。クリアカラーに銀端子と、流通メモリの中では何気に高級品。ミヅキが密売人から強奪していなければ、到底衣麻理の手に届く代物ではなかっただろう。



>>94をアレンジして採用させていただきました。ありがとうございます!
204 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/27(土) 22:56:04.16 ID:g1DpNED/0
あ、ドーパント案は随時募集中です。ライダーの強化は大体もう決めてあるけど…

ちなみに、読みにくい名前が多いけど、今まで出てきた人物は
力野 徹(ちからの とおる)
植木 忍助(うえき にんすけ)
井野 定(いの じょう)
井野 遊香(いの ゆうか)
九頭 英生(くず えいしょう)
熊笹 修一郎(くまざさ しゅういちろう)
真堂 甲太(しんどう こうた)
火川 カケル(ひかわ かける)
朝塚 芳花(あさつか よしか)
蜜屋 志羽子(みつや しわこ)
兎ノ原 美月(とのはら みづき)
生島 彰二(いくしま しょうじ)
太田 衣麻理(おおた いまり)
という名前です
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/28(日) 11:01:40.85 ID:BPTkaxiP0
『スマイルドーパント』

「笑顔」の記憶を内包するメモリを使用。ドーパント体は全身が黄色くて細身で顔は貼り付けた様な歪な笑顔になっている。また、背中には触手がマント状に広がっている。この触手に突き刺されたものは何事にも常に笑顔を浮かべながら幸福感を感じるようになり、優しい人物になる。しかし、その優しさや笑顔は歪であり、早い話がディケイドのディエンド編で洗脳された人々を更に歪めたようになってしまう。
メモリに惹かれる人物は「無垢であり、人に笑顔になって欲しいと思う人」であり、(無垢という条件から)精々が高校生ぐらいまでの人物
使用の副作用は、人を笑顔にして挙げているということから全能感が強くなってしまい、自分が世界を救うという風に思ってしまう。

できれば女子高生がなってくれると嬉しいです
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/28(日) 12:47:45.02 ID:68tFiGy9O
ティーチャー・ドーパント
「教師」の記憶を内包するメモリを使用。
ドーパント体は胸から上で、時計台のついた凸の字型の校舎を模した姿になる。
胸部の昇降口に小規模な教室様の異空間を作り出し、そこへ犠牲者を吸い込み、『生徒』にしてしまう。
そのなかでは教師に扮した変身者が『教育』を行う空間であり、生徒に教えたいことを教え込む(実質、洗脳する)ことができる。
また、空間内では犠牲者は『校則』に縛られる。
ただし変身者も学校の規範に従わなければならず、例えば生徒への暴力や淫行などの問題行為を行うと『学級崩壊』を起こし、異空間を保てなくなる。
なお、宇宙との関係性はない。
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/28(日) 16:40:58.25 ID:6TTeuXTWO
ニンジャメモリ(ニンジャドーパント)

その名のとおり「忍者」の記憶を有したメモリ 割りに合わない値段
割りに合わない理由はユーザーによってドーパントの強さが極端に変わるから(まともに使える人がいなかった)
下忍・中忍・上忍と別れており、一般人が使うとほぼ下忍(マスカレイドと同じ強さ)にしかならない。アスリートの様に鍛えた人でも現状中忍までしか確認できていない。
男女と強さでドーパントの姿が変わり、男性は黒装束に、女性はぴっちりとしたスーツを着た様な姿を基本としてそこから中忍・上忍にランクが上がることによって更に装備が増えていく
メモリのNの形は手裏剣がNの字を作っている
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/29(月) 07:55:41.52 ID:01b06Flp0
バンド・ドーパント

「楽団」の記憶を内包するメモリで変身する
ZOOメモリと同じ様に一本のメモリで複数の能力を持っている
主に使用される能力は「ボーカル」「ギター」「ドラム」「キーボード」「ベース」これらに加えて使用者によっては「サックス」や「パーカッション」も加わる
ドーパント体は顔は五線譜を模したものであり、肩からはギターのネックが突き出た感じになっている
一本で複数の能力を使える強力なメモリであるが複数の能力の行使の条件として他の人間を取り込む必要がある。取り込む人間によってドーパントは強化され、「その楽器を演奏している変身者のバンド仲間」が一番強化の度合いが強い
バンド・ドーパントの奏でる音楽には様々な効果があり癒やしの能力から破壊まで様々な能力が使えるが、演奏中は移動ができないという欠点を持つ
209 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/29(月) 16:51:10.22 ID:09sdmqmX0
(クインビードーパントって小説版に既出だったのか…)

(まぁ使役してるのはビーじゃなくてホーネットだから自爆しないし、蜜屋先生の方が適合率高いから見た目がリッチってことで、なんとか)
210 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/31(水) 21:54:45.80 ID:lGIpjtHk0
「まず、今まで通り適当なドーパントで、仮面ライダーとあの女をおびき寄せて…」

 公園の身障者用トイレにて。タイルの上に転がした男に跨って、激しく腰を振りながら、ミヅキはぶつぶつと呟いた。

「…あの女を人質にして、それから…」

 組み敷かれて喘ぐだけの男の胸に、指で『作戦』を書き記す。

「…ああもうっ、駄目、ダメダメダメっ! 全っ然良い案が浮かばない!」

 ミヅキは考えるのを止めると、目の前の男との性交に専念し始めた。



 最後の男を見送ると、ミヅキは再びトイレの個室に向かった。今度は、単純に寝るためだ。
 その背中に、誰かが声をかけた。

「おい」

「…は〜い?」

 一人追加。そう思い、振り返った彼女の顔が、引きつった。
 そこにいたのは、薄汚い格好をして、意地の悪い笑みを浮かべた、ガタイの良い一人の男であった。

「よう、美月。こんなところにいやがったのかよ」

 ミヅキは青ざめた顔で、小さく呟いた。

「…ぱ、パパ」

 その肩を乱暴に掴むと、男は汚い歯を剥き出して、言った。

「ほら、帰るぞ。俺『たち』の家になぁ!」
211 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/31(水) 21:57:20.11 ID:lGIpjtHk0



 その日、リンカは体調を崩していた。

「だ、大丈夫か…?」

 そもそも、彼女にも体調という概念があることを失念していた徹は、紅い顔でいつもの金ネクタイを締める彼女に、おろおろと尋ねた。

「軽微なものです。支障ありません」

「だけど、風邪はひき始めが肝心って言うし…」

「風邪ではありません。加えて症状の経過が、行動によって左右されることはありませんので、ご心配なく」

「いや、余計に心配なんだが」

 食い下がる徹をあしらうと、彼女はさっさと出かけてしまった。何でも、蜜屋志羽子について重要な手がかりを掴める寸前なのだそうだ。



 バイト先から帰る途中、人気の少ない道を歩いていた徹は、何かを聴きつけて立ち止まった。

「悲鳴…?」

 女の悲鳴のようなものが、彼の耳に届いた気がした。周りを見回すと、他に2人の通行人がいるが、どちらも何事もないように歩き続けている。
 気のせいだろうか。早く帰ろう、リンカも心配だし…。そう思い、再び歩き出そうとしたその時



「嫌っ、助けて…っ!」



「!!」

 はっと、振り返る。その瞬間、後方の曲がり角に消えていくピンク色のスカートの裾が目に入った。
 徹は、迷わず駆け出した。
212 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/07/31(水) 21:59:53.49 ID:lGIpjtHk0
 果たして、角を曲がった先は薄暗いビルの隙間で、更に入り込んだところには、一人の若い女と、それを壁に押さえつける一人の男がいた。

「おい、何をしてる!」

 徹は駆け寄ると、男の肩を掴んで引き剥がした。

「早く、今のうちに逃げろ!」

「っ…」

 女は何か言いかけたが、すぐに路地の出口へと逃げ出した。
 男は、徹の腕を掴むと、舌打ちした。

「テメエ、何しやがんだよ」

「それはこっちの台詞だ。…警察を呼ぶ」

「はっ、やれるもんならやってみやがれ!」

 そう言うと男は、徹を突き飛ばした。そして、汚れたジャケットのポケットに手を突っ込むと、酷薄な笑みを浮かべながらガイアメモリを取り出した。黒い筐体には、ヘドロめいた筆跡で『G』と書かれている。



『ガーベ「ゴーッド!」



 メモリの声を掻き消すように、男は叫んだ。

「ゴッド! 神! 俺は神だ!」

 そう言うと彼はよれたTシャツの襟を引っ張り、露わになった左胸のコネクターに、自称神のメモリを突き立てた。

「ガイアメモリ…!」

 男の体が、黒いヘドロと、しわくちゃのビニールめいた膜に覆われていく。その姿は、どれだけ好意的に見ても、神のそれではなかった。

「俺様の邪魔をしたらどうなるか、教えてやるよォ!」

「やれるものなら、な! 変身!」ファンタジー!

 徹は変身すると、長剣を構えた。自称神のドーパントが、驚いたように一歩退く。

「なっ…仮面ライダーだと…風都にしかいねえと思ってたのに」

『この町にだって、仮面ライダーはいるんだぞ。そして…』

 切っ先を、ドーパントに向ける。

『お前みたいに町の平和を乱すやつは、俺が倒す!』
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/31(水) 22:19:27.26 ID:MBW8vuEi0
この男ブゥン!しそう
214 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/01(木) 21:08:49.62 ID:8sIrjYta0
『はあぁっ!』

 振り下ろした刃が、怪人の粘つく体を切り裂く。ビニールの被膜が破れ、中から汚い汁が滲み出てきた。

「ぐっ、うぅっ」

 先ほどからドーパントは防戦一方だ。狭い路地でファンタジーは、長剣を突き出すように振るい、敵に傷を付けていく。

『命は取らない。だが、メモリはブレイクさせてもらうぞ!』ファンタジー! マキシマムドライブ

『ファンタジー・イマジナリソー…』

 その時、彼の背後から悲鳴が聞こえてきた。

『!?』

 はっと振り返ると、そこには先ほど逃げた筈の女と、それを捕まえる一人の少女が立っていた。

『ミヅキ…!?』

「変身を解除して。でないと、この女を殺す」

『何でこんなこと…こいつもお前の仲間か』

「早く!」

「放して! 放してっ…」

『…』

 ファンタジーは仮面の下で歯噛みすると、ドライバーからメモリを抜いた。装甲が解けていくのを見届けると、ミヅキはヘドロのドーパントに向かって言った。

「パパも、仮面ライダーにはもう手出ししないで」

「お前、俺に口出しすんのかよ」

「パパ、だと…?」

 困惑する徹。ミヅキは意外にも、あっさり女を放した。逃げていく女を見てドーパントが唸った。

「クソがっ、どいつもこいつも…!」

 言いながら、いきなり徹に殴りかかってきた。

「パパっ!!」

「っ…」

 身構える徹。その時、塀の上から銀色の影が飛来した。

「ぐわあぁっ!?」

 それはドーパントの体に激突すると、徹の前に着地し、敵に向かって威嚇するように嘶いた。

「おお、助かったぜメモコーン…!」

 再びドライバーを手に取る徹。彼と、その足元に控える小さな一角獣を交互に見ると、ドーパントは舌打ちした。

「…ケッ、もううんざりだ。美月、帰ったら覚悟しとけよ」

 そう言った瞬間、彼の体が黒いタールめいた液体に覆われた。液体の中でドーパントの体はどろどろに溶け、アスファルトのひび割れに吸い込まれるように消えてしまった。
215 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/01(木) 21:09:20.62 ID:8sIrjYta0
 残された徹は、ミヅキの方を見た。

「…ミヅキ、あれがお前の父親なのか」

「…」

 ミヅキは何も言わず、徹を睨む。その顔は、最後に見た時よりやつれているようであった。何より、頬や額に大きな痣ができている。

「あんな奴の言いなりになるような人間じゃないだろ、お前は。一体何があった?」

「…余計なお世話」

 ぽつりと言うと、彼女は地面を蹴って彼の背後まで跳んだ。そのまま、何処かへと走って行ってしまった。



「本当なら、ウチの課で扱う事件じゃなかったんだがな」

 溜め息を吐くと、植木は徹に調査書を差し出した。

「佐倉強也、39歳。元はホストだったとも、風俗の受付だったとも言われていてはっきりしない。分かっているのは、この男が夫と別れた直後の兎ノ原皐月と交際し、2年後にはその連れ子と共に風とで同棲していたということ。皐月と、当時7歳だった連れ子の美月に、身体的、性的な暴行を加えていたことだ」

「…」

 目の細い、酷薄な顔を思い出す。路地裏で女に乱暴しようとするどころか、血縁でないとは言えそれを自分の娘に手伝わせていた。汚らしいドーパント態に相応しい、腐りきった男だと、徹は思った。

「美月が保護されると同時に、虐待に加担した皐月もろとも逮捕されたが、翌月には執行猶予付きで釈放された。以後、立件されていないだけで数件の強姦に関わったと言われている。つい最近北風町に引っ越してきたらしいが…そうか…こいつもガイアメモリを」

「こいつは、俺が絶対に倒します。そしてミヅキも、捕まえて連れて来ます」

「我々も厳戒態勢を敷こう。…ところで」

 植木は徹の隣を見ると、不思議そうに尋ねた。

「あの、いつものフリー記者Bは?」

「リンカは…」

 徹は言葉を濁した。
 体調を崩したあの日から、明らかに彼女の病態は悪化していた。それでも外に出ようとする彼女を無理やりベッドに寝かしつけると、彼はアパートの鍵をかけてここまで来たのであった。
216 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/01(木) 21:09:47.13 ID:8sIrjYta0



「はあっ、このっ、クソガキがっ…」

 散らかり切ったアパートの一室にて。汚れた床にうつ伏せにミヅキを押さえつけると、佐倉は乱暴に腰を振っていた。

「テメエよぉ、あの男…お前の、知り合いかよっ…」

 剥き出しの尻を叩く。打たれた痕や爪痕で、彼女の尻は血塗れだ。

「ただの知り合いっ…彼氏でもないからっ…」

「ヤッたのかよ、ええ?」

「…一回だけ」

「ゴミカスがよぉ!!」

 腰を引くと、彼は娘の腹を力任せに蹴り飛ばした。うめき声を上げて転がる彼女を尻目に立ち上がると、彼は吐き捨てた。

「お前のガバマンじゃ、ヤッた気になんねえんだよ。出てくるぞ」

 足音荒く部屋を後にする佐倉。

「待って、パパ、ごめんなさい、待ってっ…」

 追いすがるミヅキを蹴ると、彼はアパートを出てどこかへ行ってしまった。
217 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/01(木) 21:10:46.67 ID:8sIrjYta0
『招かれざるR/神のメモリ』完

今夜はここまで
218 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/01(木) 21:11:26.45 ID:8sIrjYta0
間違えた

『招かれざるG/神のメモリ』

でした
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/01(木) 21:23:15.66 ID:SsnkdDR6O
エンペラーペンギン・ドーパント

『皇帝ペンギン』の記憶を宿したメモリで変身するドーパント。メモリは皇帝の名前通り、やけに高級品
ずんぐりむっくりとした巨大なペンギンの姿で頭に王冠。背中にマントを羽織った偉そうな雰囲気が特徴
見た目からは想像がつかないが、『世界一過酷な子育てをする鳥』の異名があるドーパントなので非常にタフ
また、皇帝の名前に引っ張られたのか大規模なカリスマ性。配下のちびペンギンの召喚、使役。羽を剣に見立てた剣戟等、容姿で舐めてかかると痛い目に会うだろう
メモリの形はペンギンが横にヒレを伸ばし、嘴、羽、足でEの字を形作っている
220 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/01(木) 21:45:51.34 ID:8sIrjYta0
(朝塚のメモリは最初クローバーにしようとして、どうしてもシロツメクサで攻撃する方法が浮かばなくて途中でアコナイトに変えたんですけど、アペタイトでA使っちゃってたからクローバーの方が良かったなって今更思う)



『ホーネットドーパント』

 『スズメバチ』の記憶を内包するガイアメモリで、北風町に跋扈するメモリ密売人が変身するドーパント。強力な顎、鋭い棘の生えた腕による攻撃だけでなく、臀部から生えた30cmほどの巨大な棘から毒を流し込むこともできる。ただし、毒が使えるのは一度の変身につき一度までで、使用した後は最低3日は変身できなくなる。この毒は一度目で死ぬことはないが、二度受けると生身の人間なら確実に死に至るという特徴がある。また、短距離ではあるが飛行能力もある。
 量産型ながら戦闘力の高いドーパントで、彼らの首魁であるクイーンビードーパントはこのメモリへの適合率から優れた戦闘員を見出し、より高位の昆虫系メモリを与える指標にしている。マスカレイドやビーと違い、自爆機能は付いていない。
 メモリの色は黄色。顎と触覚を広げたスズメバチの頭部を正面から見た画が『H』の字になっている。
221 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/02(金) 22:29:33.59 ID:XAbD419/0
「リンカ、おじや作ったけど食うか?」

 ベッドに横たわるリンカに、徹は片手鍋とお椀を持って近寄った。

「…いただきます」

 リンカはおじやをよそったお椀とスプーンを受け取ると、ちびちびと食べ始めた。

「具合はどうだ? 寝たら少しはマシになったか?」

「特に変わりありません。休んで改善するものではないので」

「おいおい…病院には行ったのかよ?」

「医療で改善するものでもありません」

「何だよ…」

 だんだんと、徹は苛立ってきた。

「その言い方だと、原因が分かってるみたいだな。分かってて、何で放ったらかしてんだよ?」

「そうせざるを得ないからです。特に」

 彼女は、彼の目をじっと見て、言った。

「現在、兎ノ原美月と接触している限りは」

「ミヅキが? どうして」

 言いかけたその時、彼の携帯が鳴った。画面には『坂間刑事』の文字。

「…もしもし?」

”風車7丁目のドヤ街で、女の遺体が見つかった。暴行された痕があったそうだぞ”

「! 佐倉が」

”ホシのアパートを張ってはいたが、部屋を出たと思ったらいつの間にか消えてたんだと。そいつもドーパントとやらの能力なのか?”

「そうだと思います」

 体をタール状に解かし、吸い込まれるように消えていったドーパント。そのまま、どこにでも現れることができるのか。それとも、何か条件があるのか…?
 考え込む徹。その足元に小さな一角獣が歩み寄り、せっつくようにその角で、彼の足を突いた。
222 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/02(金) 22:30:46.21 ID:XAbD419/0



 北風町、とある薄暗い路地にて。投げ捨てられたゴミや動物の糞に塗れたアスファルトの、錆びたマンホールがカタリと音を立てた。次の瞬間、蓋の隙間から黒いどろどろした液体が湧き出し、歪な人の形に固まった。

「ふぃ〜っ…」

 出来たての首をこきりと鳴らすと、自称神のドーパントは、満足げに息を吐いた。久々に処女とヤれた。やはり犯すなら若い処女が良い。泣き叫ぶ顔も、穴の締まりも最高だ。この力があれば、何でも自分の思うがまま……

「…っ!?」

 突然、彼の足元から炎が噴き上げた。慌てて躱し、周囲を見回す。



『…見つけたぞ、ヘドロ野郎』



「! その声は」

 彼の目の前に、白と赤の魔術師が降り立った。装いは違うものの、フードの下の複眼は、先日戦った騎士の、バイザーの向こうに見えたそれと同じであった。

「どうやってここに来た…」

『お前は、体を液体に変えて移動する。だったら流れる場所を通る必要がある。加えて、その体…上水道や地下水よりは、下水道の方がお似合いだと思ったまでだ』

「ンなもん、いくらでもあるだろうがよぉ! 何でここが分かったんだ!?」

『現場と、お前の家の間。その中でも、人気の少ない場所のマンホールに絞った。足りない人手は…』

 仮面ライダーは、どこからともなく竹とんぼを取り出すと、慣れた手付きで回した。冷たい風に攫われ、ふわりと宙へ舞い上がると、それは一機のドローンに変化した。

『…俺の力は、空想を現実にする。どこに現れようが、俺は必ず見つけ出す…!』

「上等だぁ!」

 ドーパントは怒鳴ると、仮面ライダーに殴りかかった。

「テメエはここで、ぶっ殺す」

『それはこっちの台詞だ…!』

 怒りに燃えた声で言い返すと、彼は襲いかかる敵をカウンターで殴り倒した。そして、ドライバーに装填された赤いガイアメモリを抜くと、変形させて今度は青いメモリを装填した。

『セイバー』

 仮面ライダーの姿が騎士に変わる。銀の鎧の上には、蒼の勇壮な装甲が加わっており、その手には青と銀の長剣を握っていた。
223 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/03(土) 08:32:58.89 ID:161JS0Va0
 銀の刃が、ヘドロの体を深々と切り裂いた。

「ぎゃあぁぁっ!!?」

 それだけでなく、傷口からは灼けるように煙が立ち上る。
 剣は、古来から英雄の武器として様々な伝説に登場している。その記憶を有するガイアメモリによって形作られたこの剣は、特に悪しき存在に対して強力な効果を発揮した。

「ぐっ、うぅっ…」

『やぁっ!』

 切っ先が、ドーパントの体を貫いた。彼は憎々しげに唸った。

「うぅ…俺は…お、俺は、神だ…」

『女をレイプして、子供を虐げる、そんな汚い姿の神がいるものか!』

 剣を引き抜き、ドライバーの前にかざす。

『トドメだ…』

「俺はぁ! 神だあぁぁぁっっ!!!」

 突然、ヘドロに覆われたドーパントの体が、音を立てて沸き上がった。煮え立つタールが飛び散り、騎士の鎧に付くと、鎧が煙を上げて融け出した。

『!!』

 咄嗟にマントを広げると、体を防御した。その間にメモリを入れ替え、魔術師の姿に戻る。

『いい加減に…』

 防壁を展開し、更に掌を突き出す。次の瞬間、ドーパントの足元から巨大な炎の柱が噴き上がった。

「ぎゃあぁぁぁぁっっ!!」

 炎に包まれ、絶叫するヘドロのドーパント。燃え盛る体が次第に蒸発していき…やがて炎が収まった頃、そこにはボロボロになった一人の男が座り込んでいた。

「くそ…おれは…おれ、は…」

『…』

 無言で歩み寄る仮面ライダー。彼は、男の目の前に立つと、赤と銀の杖を振り上げた。

「俺はあぁっ! 俺はっ…」



『ガー「ゴッド! ゴッドゴッド! 神、だ…」



 喚きながら、黒いメモリを掲げる。
 仮面ライダーは、冷たい声で言った。

『ただの、クズ野郎だ』

 そして、手にした杖を、生身の男に向かって……
224 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/03(土) 14:42:59.92 ID:161JS0Va0



「もう止めて!!」


225 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/03(土) 14:43:27.04 ID:161JS0Va0
『…』

 仮面ライダーの手が止まる。
 彼の目の前に、汚れたピンクのロリータ服を着た、やつれた少女が立ちはだかった。

『…何でだ。そいつは、お前のことも傷付けたのに』

「これ以上…あたしの居場所を取らないで…」

 涙を浮かべながら少女が訴える。仮面ライダーは杖を下ろすと、言った。

『居場所だと? そんな所にいるんじゃない。…こっちに来るんだ』

「嫌! こんなパパだけど、お母様の邪魔をするあんたたちに比べたら、マシ」

 それから彼女は、地面に座り込んでぶつぶつ呟く男を抱えると、仮面ライダーに背を向けた。

「俺は、おれは…俺は、かみ、俺は…」

「帰ろう、パパ」

 汚れたアスファルトを蹴ると、塀を飛び越えて去って行った。



「…ただいま」

 家に帰った徹は、室内がやけに静かなのに気付いた。

「…リンカ?」

 嫌な胸騒ぎを感じ、寝室に向かう。
 そこには、ベッドに横たわって動かないリンカの姿があった。

「リンカ!?」

 駆け寄って抱き起こすと、彼女は苦しげなうめき声を上げた。

「おい…おい、しっかりしろ! リンカ、どうしたんだ…」

「…っ、はぁっ」

 歯を食いしばり、彼の腕を振り払うリンカ。こんな状態だというのに、いつもの白スーツの、上着のボタンすら外さない。捲れたジャケットの裾から、金属のベルトが見えた。

「…えっ?」

 金属ベルトだと? そんなもの、普段付けていたか?
 彼女の体を無理やり仰向けにすると、彼は上着のボタンを外して前を開けた。

「!!」

 露わになった彼女の腰には、彼女の所持しているガイアドライバーが巻かれていた。しかし今、そこに装填されているのは、金色のトゥルースメモリではない。

「これは…」

 半挿しになったメモリを掴み、抵抗する彼女を抑えて引き抜く。
 彼の手に収まったのは、ピンク色のガイアメモリ。耳をぴんと立てた、ウサギの頭部が描かれている。

「ずっと、ここに隠していたのか」
226 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/03(土) 14:44:36.93 ID:161JS0Va0
「…」

 何も言わず、彼女は小さく頷いた。メモリを外しただけで、彼女の顔から苦痛の色が引いていくのが分かった。

「何だってそんな、無茶なことを」

「警察病院に刺客が来た時…貴方の身の安全と同時に、このメモリを奪取しに来る可能性について考慮しました。その上で、常に私の目が届き、かつ他者には物理的に取り出せない場所…すなわち、私の体内という結論に達しました」

「だが、そのせいでこんな」

「…このメモリは、兎ノ原美月に適合しすぎました。臓器と接触しないよう、ぎりぎりガイアドライバー内に留めていましたが…凄まじい拒絶反応と副作用で、やや人格に変調を来しかけました」

 そう言えば最近、彼女から徹に触れたり、抱きついたりすることが多かったように思える。ラビットメモリを近くに置いていたために、彼女の性格に影響が出たのかも知れない。

「…とにかく、このメモリは俺が持っておくぞ」

「お断りします。これは、私が管理します」

「駄目だ! もうこれ以上、あんたが苦しい目に合うのは御免だ」

「ですが、貴方はこれを兎ノ原美月に返却する気でしょう?」

「…」

 徹は、言葉に詰まった。リンカがすかさず続ける。

「佐倉強也の虐待によって、兎ノ原美月は現在のような人格になった、そういう意味では彼女も被害者でしょう。しかし、それでも敵であることには変わりありません。彼女が再びメモリを手にすれば、我々、そしてこの町にとって大きな障害となることは明らかです。極端な話をするなら」

「…分かった。もういい分かった!」

「このまま、彼女を放置すべきでしょう」

「黙れ! それ以上言うな!!」

「佐倉のもとで、衰弱死でもしてくれた方が、我々にとってはプラスです」

「…あんた…っ!」

 徹は歯ぎしりしながらリンカを睨んだ。彼はリンカに背を向けると、足音荒く部屋を出て行った。
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/03(土) 17:44:18.13 ID:eHbDHCJk0
ホラーメモリ

頭を抱えのたうち回る人の姿を上から見た様子で描かれたメモリ。
相手が元々怖いと思っているものとなり、暗闇や背後にワープして襲い、その恐怖をエネルギーにする。

副作用で使用者は残忍で猟奇的になる(ホラー映画のキャラみたいになる)
228 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/03(土) 22:30:21.79 ID:161JS0Va0



 夜の公園。ベンチに座り込んで、徹は溜め息を吐いた。電灯の下に、ピンク色のガイアメモリをかざす。

『ラビット』

「…どうして」

「!」

 顔を上げると、彼の目の前にミヅキがいた。

「どうして、あたしはここに」

「このメモリに引き寄せられたんだろう」

 ほとんど無意識に、メモリに手を伸ばすミヅキ。徹は、それをさっと引っ込めた。

「…返して」

「駄目だ」

「じゃあ、何のためにここに来たの。何であたしのメモリを持ってるの!」

「話すことなんてない! 返して!」

 飛び蹴りを浴びせようと、膝を曲げるミヅキ。徹は椅子から立ち上がると

「…っ!?」

 彼女の体を、きつく抱き締めた。

「放してっ…放してっ!」

「ガイアメモリは、あんたを幸せにはしてくれない! あの男もだ!」

「余計なお世話だって! あんたに何が分かるの!?」

「母神教も、あんたの居場所にはならない! お母様とやらだって、あんたを操って、戦わせるじゃないか」

「お母様は!」

 彼の脇腹に膝を打ち付けながら、ミヅキが叫ぶ。

「あたしを、愛してくれる…パパだって」

「違う! そんなのは嘘だ!」
229 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/03(土) 22:30:49.00 ID:161JS0Va0
 彼女を抱く腕に、力を込める。

「あんたは…生まれた時から、ずっと傷付いてきたんだ。勝手な大人たちに振り回されて、辛い思いをし過ぎたんだ。…もう、止めよう。まだ間に合う。やり直すんだ!」

「うるさい! うるさいうるさい、うるさいっ!!」



「…見つけたぞ、クソガキ」



 突然、背後から怒声が飛んだ。

「…佐倉、強也」

 徹はミヅキの体を離すと、佐倉とは逆の方へ、そっと押し出した。そうして、自分はその男と正面から向き合った。

「よぉ、ヒトの娘と、何盛ってやがんだよぉ!」

「一つだけ、訊きたい」

「…あん?」

 徹は一瞬、ミヅキの方を見て、それから問うた。

「ミヅキの母親…兎ノ原皐月は、今どうしてる?」

「ああ? …ああ、あいつか」

 彼はつまらなさそうに鼻を鳴らすと、言った。

「ムショ出てから、景気づけにヤッたら、何か死んじまった。…ひひっ、隠しといたのをメモリの力で、ドロドロに溶かして捨てたから、バレずに済んだけどな」

「! そんな」

「…そうか」

 徹は、ドライバーとメモリを掲げた。その足元に、小さな一角獣が寄り添う。

「もう、何も言わなくていいぞ。…ここが、お前の終わりだ」ファンタジー!

『…ミヅキ。向こう向いて、耳を塞いでろ。何かしようなんて考えるな。こいつは…あんたの人生には、初めからいなかったんだ』セイバー!

 銀と蒼の騎士は、剣を構えた。

「よく言うぜ! …娘は返してもらうぞ」



『ガ「ゴッド! ゴーッド!」



「俺は、神だからなぁ!!」
230 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/03(土) 22:31:14.84 ID:161JS0Va0
 ヘドロの弾幕が、ファンタジーを襲った。それを剣で叩き落としながら、彼は敵に肉薄していく。

『やあっ!』

「ぐふっ…」

 斬撃を受け止めると、ドーパントは足元にヘドロを広げた。

『!』

 飛び下がるファンタジー。すかさず黒いタールの鞭が、彼を襲う。それを切り払うと、彼はマントを広げて夜空に舞い上がった。

『たあぁっ!!』

「ぐはっ…!」

 重力の乗った一撃が、ドーパントの肩を切り裂いた。

「こ、の…」

 傷口が融け、また塞がっていく。彼は辺りを見回すと、突然、腕を長く伸ばした。
 手繰り寄せたのは、公園のゴミ箱。空き缶や、弁当の箱が捨ててある。彼はそれを持ち上げると、口を開けて中身を呑み込んだ。

「んっ、ぐっ、ぐっ…」

 やがて空になったゴミ箱を投げ捨てたドーパントの体は、先程よりも少しだけ大きくなっていた。

「ひひひっ…こいつでどうだっ!」

『くっ』

 重いパンチを、剣で受け止める。どうにか受け流すと、ファンタジーは剣を突き出した。切っ先が、黒い腹部を刺し貫く。だが、傷口がすぐに塞がってしまう。

『だったら…』

 ファンタジーが剣を掲げる。と、その刀身が激しく燃え上がった。

『ジャスティセイバー・レーヴァテイン! はあぁっ!!』

「ぐあぁぁっ!?」

 炎の剣が、ドロの体を切り裂き、更に蒸発させていく。ドーパントは更に体を強化すべく、周囲のゴミを探す。だが、見当たらない。

「…っ、そうだ」

 彼は何かを思いついたように呟くと、やおら体を黒い液状に変化させた。そのまま地面を這い進むと、ファンタジーの後ろにいたミヅキの方へと近寄っていった。

「最初から、テメエを喰っちまえば良かったんだよぉ!!」

「! パパ…」

『この野郎…っ!!』

 ファンタジーは猛然と駆け寄ると、人型に戻りつつあるその背中に、燃える剣を突き立てた。

「ぐうぅぅっ…ひっ…ひひっ…はははははっ…」

「…」

 ドーパントの体から、タールが黒い触手めいて伸び、ミヅキの体を捕らえた。ミヅキはその場から動こうとせず、じっと自分の義理の父親を見つめていた。

『ミヅキ! ミヅキ、逃げろ! クソっ…』

 体を燃やされながらも、娘を捕食しようと腕を伸ばすドーパント。ミヅキの体が、黒い液体に覆われていく…

『ミヅキ! ……手を、出せ』

「…!」

 ピンクのスカートが溶け、細い腿が露わになる。……そこに刻まれた、生体コネクターが。
231 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/03(土) 22:31:41.94 ID:161JS0Va0



『ラビット』


232 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/03(土) 23:11:00.74 ID:161JS0Va0
 次の瞬間、そこには、何事もなかったかのように立つミヅキと、その前で崩れ落ちる、ヘドロのドーパントがいた。

「美月…テメエ…」

『…これで、終わりだ』セイバー! マキシマムドライブ

『セイバー…ジャスティスラッシュ!!』

 蒼い閃光が、ドーパントの体を両断した。

「ぎゃあぁぁぁっ…」

 弱々しい断末魔。光が収まった時、そこにいたのは倒れ伏す薄汚い男と、砕け散った黒いガイアメモリ。散り際、持ち主の虚偽に抗議するように、メモリは自らの名を告げた。

『ガーベッジ』

「…ミヅキ」

 変身を解除して、徹は呼びかけた。
 ミヅキは動かず、倒れ伏す義理の父親を見つめていた。

「…ぐっ」

 佐倉は呻き声を上げると、どうにか上半身を起こした。

「み、美月…た、たす、け」

「…」

 ミヅキは黙って、彼の言葉を聞くと…
 彼の胸を、蹴り上げた。

「がっ…!?」

「やめろ!!」

 徹が身を乗り出すが、もう遅い。彼女の爪先は、佐倉の胸を、文字通り貫通していた。
 上げた脚から、スカートの裾が滑る。露わになったコネクターに、ピンク色のメモリを突き立てた。

『ラビット』

「み、づ、き…」

「やめろ! やめろおぉぉぉっっ!!」
233 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/03(土) 23:11:35.26 ID:161JS0Va0



「…バイバイ、パパ」


234 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/03(土) 23:12:22.61 ID:161JS0Va0
 兎の回し蹴りが、佐倉の頭を粉々に砕いた。飛び散る脳漿の中に立ち尽くすと、ラビットドーパント…ミヅキは、変身を解除した。

「あ…ああ…」

「…仮面ライダーさん」

 彼女は呟くと…突然その場で跳躍し、徹の胸に飛び込んだ。そうして、彼の唇に、自分のそれをそっと重ねた。

「ありがと。でも、兎は寂しいと死んじゃうの。…あたしには、お母様がいないと」

「どうして…俺のところじゃ、駄目だったのか…?」

 ほとんど無意識に問うた徹に、ミヅキは首を振った。

「あなたには、あの金ピカネクタイ女がいるから。…あなたのことは、好き。今まで数え切れない男とエッチしてきたけど、キスしたのはあなたが初めて」

 ゆっくりと、後ずさる。その背中から、眩い白の光が溢れ出した。

「…ああ。迎えに来てくれたの、『お母様』」



”おかえりなさい、愛しい子”



「!!」

 徹は目を見張った。白い光の中に、何かがいる。逆光に塗り潰された、一つの人影が。

”あなたが、再び母を求めるのを、ずっと待っていました”

「ごめんなさい、遅くなって」

”良いのですよ。…ときに”

「!」

 響く声が、徹の方を指した。

”貴方が、仮面ライダーですね。…母の娘が、お世話になりました”

「お前が…お前が、ミヅキを」

”貴方も、愛しい母の子。母の愛を求めるなら…或いは”

「…あたしに逢いたくなったら、いつでも来てね」

 照れくさそうに言うミヅキ。その体が、白い光に包まれ……そして、消えた。
235 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/03(土) 23:15:00.27 ID:161JS0Va0
『招かれざるG/バイバイ、パパ』完

今夜はここまで
そしてミヅキ編も一旦ここまで
236 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/03(土) 23:33:09.49 ID:161JS0Va0
『ガーベッジドーパント』

 『廃棄物』の記憶を内包するガイアメモリで、強姦魔の佐倉強也が変身するドーパント。ヘドロめいた黒の体に、ビニールめいた被膜が所々を覆っている。よく見ると、ヘドロの中からは空き缶やペットボトルといったゴミが浮いたり沈んだりしている。体を構成するヘドロを飛ばしたり、伸ばしたりできる他、体を液状に変化させることも可能。ヘドロの中では異常な早さで腐敗が進むため、人体などを溶かすこともできる。ゴミや死骸を吸収することで、傷を治したりパワーアップすることも可能。こう書くと使い勝手は良さそうだが、そもそもの戦闘力がそれほど高くない上、炎には極端に弱いため、仮面ライダーやドーパント同士の戦闘には不向き。
 警察から釈放された後、どこかのタイミングでこのメモリを手に入れた佐倉は、強姦の末殺害した内縁の妻である兎ノ原皐月の遺体を吸収し、証拠隠滅を図った。それ以降は、襲う女に近付いたり、犯した女の体を溶かしたりするのに能力を使っていた。また、彼はこれを神の力と信じ、ガイアウィスパーに被せるようにゴッドと叫んでいた。当然、ゴッドメモリなるものは存在しないし、したとしても幹部級のメモリになっていたであろう。
 メモリの色は黒。ヘドロの飛沫めいた筆跡で『G』と書かれている。
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/03(土) 23:46:49.22 ID:3JrB34HiO
乙、ミヅキちゃんまた出てくる?
238 : ◆iOyZuzKYAc [sage saga]:2019/08/03(土) 23:50:29.68 ID:161JS0Va0
もうちょっとしたらまた出てくる
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/04(日) 01:05:09.16 ID:pOIcKN1Qo
クソガキから一転、どうなるかハラハラの面白いことになったなー、ミヅキちゃん
240 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/04(日) 21:25:09.38 ID:nzo4YOI90
「…」

「…」

 朝。部屋は、重苦しい空気に包まれていた。

「…やはり、メモリを返却しましたか」

「あの場は、ああするしかなかった」

「ガーベッジドーパントの戦闘力は、それほど高くありません。人一人吸収したところで、ファンタジー・セイバーの敵ではなかったでしょう」

「じゃあミヅキが死ぬのを見殺しにしろってのか!?」

 リンカは、そっと目を伏せた。

「…敵であれ、命の損失を抑えたいと願う貴方の姿勢は、個人的には好ましく思います」

 ぽつりと、言う。

「ですが…手段を選んでいられる状況でないことも事実です。ラビットメモリを返却して、我々が得たものは、あまりにも少ない」

「お母様とやらの声を聞いたぞ。いつでも会いに来いとも言われた」

「ラビットドーパントはともかく、首魁の戦闘力は未知数です。今飛び込むのは、あまりに危険と考えます」

「じゃあどうしろって…」

 張り詰めた空気を破るように、徹の携帯電話が鳴った。画面には『植木警部』の文字。

「…もしもし、おはようございます」

”力野さん、先程警察病院から連絡があったんだが…朝塚芳花が、死亡した”

「朝塚って…アコナイトメモリを使った…!」

”集中治療室で昏睡状態だったが、とうとう回復することは無かった…。今日、改めて朝塚ユウダイを呼んで取り調べたいと思う。力野さん、リンカさんも、一緒に来てくれないか”



 母親が死んだというのに、息子はぼんやりした顔で、坂間の質問に要領を得ない答えを投げ返した。

「ガイアメモリは、どこで手に入れたの」

「…塾の帰りに、拾いました」

「蜜屋の塾で、何を教わってるの」

「勉強と、奉仕の心です」

「ユウダイ君…っ!」

 坂間は語気を荒げた。

「君のお母さんが、亡くなったんだぞ!? 君が持ってきた、ガイアメモリを使って…」

「母は、使い方を間違えたんだと思います。先生は、何も関係ありません」

 机を叩き、いらいらと首を振る坂間。それを見ながら、徹とリンカは、静かに取調室を出た。
241 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/04(日) 21:25:50.81 ID:nzo4YOI90
「…そう言えば、蜜屋について調べてたんだろ。何か分かったのか?」

 廊下の自販機で缶コーヒーを買いながら、徹は尋ねた。

「そうですね。あれだけ具体的な証言が出ているにも関わらず、決定的な証拠を掴ませない、巧妙さは思い知りました」

 微糖コーヒーを受け取りながら、リンカが答える。

「その、愛巣会とやらにも行ったのか」

「はい。中では、授業とレクリエーション、それから野外での奉仕活動が行われているだけでした」

「洗脳だ何だの証拠は掴めてない、か」

 無糖コーヒーを啜ると、徹は溜め息を吐いた。

「何だよ、そっちも進捗ナシじゃねえか」

「進捗ならあります。…塾の敷地内で、九頭英生を見かけました」

「九頭だと!?」

 徹は素っ頓狂な声を上げた。

「あいつは自爆して死んだはずだ。何かの見間違いだろ」

「側頸部の生体コネクターを確認しました。何より、教員の一人が九頭の名を呼びました」

「だが…」

「井野定を覚えていますか」

「えっ?」

 急に彼女が別の男の名前を出したので、徹は虚を衝かれたようにぽかんと口を開けた。

「彼は、墓から妹の遺骨を取り出す時、『お母様の力があれば妹が帰ってくる』と言いました。死亡したはずの九頭が、まだ生きているとすれば…案外、無理な話でもないのかも知れません」

「…」

 徹は黙って考え込んだ。

「…俺も、行ってみるか」

「そうしましょう。特に、九頭は貴方が仮面ライダーであることを知っています。反応を確かめるだけでも収穫はあるでしょう」
242 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/04(日) 21:26:24.89 ID:nzo4YOI90



 川沿いにある細長いビルが、丸ごと愛巣会の建物であった。玄関をくぐったリンカを、蜜屋志羽子はにこやかに出迎えた。

「いつもお世話になってます、リンカさん。…」

 挨拶してから、その後ろにくっついて来た、見慣れない男に一瞬、眉をひそめる。

「こちらの方は…?」

「力野と申します」

 徹は名刺を差し出した。

「実を言うと、円城寺に先生の取材を委託したのが私でして。本日は、一緒にお邪魔させていただきます」

「まあ、そういうことだったんですね」

 蜜屋は納得したように頷くと、名刺を丁寧に仕舞った。そうして、奥を指した。

「では、参りましょうか。力野さんがご一緒ですので、また最初からのご案内になりますが、よろしいでしょうか? リンカさん」

「もちろんです」

 リンカは頷いた。蜜屋の先導で、2人はビルの奥へと進んだ。



 2階から、教室が始まっていた。1フロアにつき2部屋の教室があり、それぞれの部屋には大きな机と椅子が、緩やかな円形に並んでいた。椅子には10人弱の生徒が座って、黙々と勉強をしている。

「今日…と言うより、近世より日本人が固執する教育方式は、先進国では絶えて久しいものです。生徒全員が一方向を向いて座り、教師から一方的な教えを投げつけられるだけ」

「確かに、机はアメリカの学校など見る配置ですね。…クラス分けに、何か基準は?」

「まずは、目的です。学業の成績向上と、生活の改善とでは、行うべきことが違います。この階は、純粋に勉強をする生徒のためのものです」

 片方の部屋に入ると、生徒たちが顔を上げて一斉に挨拶した。その中の一人を呼び寄せると、蜜屋は紹介した。

「室長の小崎君です。…こちらのお二方は、勉強するあなた方を取材しに来てくださいました」

「小崎と申します。よろしくお願いします」

 中学生くらいに見えるその少年は、恭しく頭を下げた。態度だけでなく、話す内容も気味が悪いほどに模範的で、徹たちの付け入る隙を与えない。疑いの目で見れば、確かに洗脳されているのかもと思えるくらいであった。
243 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/04(日) 21:26:58.79 ID:nzo4YOI90
 2つ階層を上ってもそれは同じであった。様子が変わってきたのは、4階に辿り着いてからだ。

「この階からは、非行の更生のためのクラスになります」

 確かに、先程までとは空気が違う。教室にいる生徒たちも、席に座らずに歩き回ったり、談笑したりしている。

「良いんですか? 勉強に励んでいるようには見えませんが」

「こうして仲間と触れ合い、絆を育むことが、彼らにとっての勉学なのですよ」

 笑顔で言うと、彼女は教室に入った。

「あっ、先生! おはようございます!」

 蜜屋に気付くと、生徒たちが挨拶した。

「ええ、おはよう」

 挨拶を返しながら教室の奥へ進むと、片隅で座って読書する少女に声をかけた。

「速水さん、何を読んでいるの?」

「…朔田友子の、新作」

 ぼそりと答えると、彼女は文庫本のブックカバーを外してみせた。

「前におすすめした作品ね。彼女の生き方には、学ぶことがたくさんあるわ。…」

 教室を出ると、蜜屋は言った。

「あの娘は、少し前までパソコンばかりをして、家に引き籠もっていました。うちに入塾してからは、少しずつ段階を踏んで、今では本に興味を持ってくれるようになりました。もうすぐで、外の世界に出ていけるはずです」
244 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/04(日) 21:27:27.54 ID:nzo4YOI90
今夜はここまで
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/04(日) 22:18:46.64 ID:pOIcKN1Q0
全く関係ないところでゴス子とメテオがゴールインしてる……
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/05(月) 12:45:00.60 ID:W3SwJkMkO
速水ってギャレンの人やんけ!
247 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/08(木) 20:19:08.16 ID:JTTnaW1h0



 6階に着いた時、片方の教室から一人の女が飛び出してきた。

「あっ、蜜屋先生!」

「友長先生? どうしました」

 ブラウスの上からきっちりと長白衣を着込んだその女は、焦燥した顔で言った。

「園田君と渡部君が…」

「行ってみましょう」

 教室に入ると、2人の少年が殴り合いの喧嘩の最中であった。周りでは、他の生徒たちが囃し立てたり、迷惑そうに眺めたりしていた。

「止めなさい、2人とも!」

 蜜屋は2人の間に割って入ると、声を張り上げた。

「…喧嘩の理由は、後で聞きます。友長先生、2人を医務室にお願いできますか」

「分かりました」

 2人が教室を出ていくと、蜜屋は低い声で言った。

「…このように、子供が暴力に訴えるのは、それしか対話の方法を知らないからです。彼らは、生まれた時から言語によるコミュニケーションを疎かにされ、暴力に頼った教育を受けてきた、被害者なのです」

「では、あの2人は」

「ええ。虐待を受け、児童相談所に保護された子たちです。ここにいるのは、ほとんどがそのような経歴の持ち主たちです」

「この後、どのような指導を?」

「まずは、じっくり待つことですね。お互い怒ったまま話を聞いても、前には進みませんから。…あら、もうこんな時間」

 蜜屋は腕時計を見ると、申し訳無さそうに言った。

「階段を上ってばかりで、お疲れでしょう。少し休憩にいたしましょうか」



「そつが無さ過ぎる」

 応接室にて。蜜屋がいなくなったことを確認すると、徹はずばり言った。
248 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/08(木) 20:19:37.60 ID:JTTnaW1h0
「同感です。まるで私たちの求めるものを知っていて、先回りして隠しているかのようです」

「生徒の手首にコネクターは無かったが…」

 そこへ、一人の職員がお茶と菓子を持って入ってきた。

「どうぞ、粗茶ですが」

「あ、どうも……っっ!!?」

 受け取っておいて、徹は絶句した。盆を運んできた職員。それは、目の前で自爆したはずのマスカレイドドーパント、九頭英生その人であった。
 九頭はまるで初対面ですと言わんばかりに、2人に向かって丁寧に頭を下げた。しかしその首には、明らかにガイアメモリのコネクターが刻まれていた。
 彼が去った後で、徹とリンカは顔を見合わせた。

「…何だか、馬鹿にされてる気がするな」

「同感です」

「だが…ここで打って出るのは、明らかに向こうの思う壺だろうな」

「ええ。付け入る隙があるとすれば…」

 リンカは、九頭が出ていった扉を睨みながら、言った。

「朝塚芳花が、この塾の正体について知ったきっかけ…誰が彼女に、ここで行われていることを教えたのか」



「…知りたいですか?」



「!?」
249 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/08(木) 20:21:48.46 ID:JTTnaW1h0
 振り返ると、そこには先程出てきた、友長と呼ばれた白衣の女が立っていた。

「あなたは…」

「塾の専属医…まあ、学校医の、友長真澄といいます」

 不思議な女だった。美人であることに変わりはないが、視界に入る度に少女のようにも、老婆のようにも映る。白衣の上からでも分かる、大きな胸が目立った。

「…わたしは、蜜屋先生のやり方に疑問を抱いています」

「この塾に勤めておられる、あなたが?」

「ええ。…見ていただいた方が早いでしょう」

 そう言うと彼女は、2人を先導してエレベーターに乗り込んだ。そこで何やら、階層のボタンを数度押すと、エレベーターが音もなく下へ向かって進み始めた。

「地下…?」

「隠された部屋です。あの2人は、医務室へ連れて行くと言われましたが、実際に向かったのはこの先です」

 エレベーターのドアが開く。目の前に現れたのは、冷たい金属の扉。
 友長はそっとノブに手をかけると、静かに回し、細く扉を開けた。

「どうぞ、ご覧ください」

 徹は、隙間からそっと中を覗いた。
 そこにいたのは、先程喧嘩していた2人の少年と、一人の男。

「あれは…」

「…蜜屋の秘書、と思われます。以前にもお会いしたことがあります」

 リンカが覗いて言った。それから何か言おうとして、はっと息を呑んだ。

「あれは…ガイアメモリ!?」

「何だと?」

 身を寄せ合って、2人で隙間に目を近づける。
 男は、黙って突っ立っている2人の前で、紺色のガイアメモリを掲げた。目を凝らすと、そこには鉛筆や鞭を組み合わせた意匠で『T』と書かれていた。
 男が、威圧的な口調で何か言う。そして、メモリが自らの名を告げた。
250 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/08(木) 20:22:17.94 ID:JTTnaW1h0



『ティーチャー』


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