【安価】ガイアメモリ犯罪に立ち向かえ【仮面ライダーW】

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251 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/08(木) 20:23:18.60 ID:JTTnaW1h0
『Sの秘密/愛を育む巣』完

今夜はここまで

しばらくは更に更新頻度が落ちそう
252 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/08(木) 20:38:44.74 ID:VYAvH3Vt0
おつ
253 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/10(土) 08:45:29.57 ID:kUSbn9bv0
 男が腹にメモリを刺すと、その体を灰色のコンクリートめいた液体が覆った。それは見る見る内に四角い構造を成し、やがて一棟の小さな校舎を形作った。時計から、不気味な鐘の音が響き……2人の少年が、消えた。

「!? おい、何をした!?」

 思わず、徹はドアを開け、部屋の中に飛び込んだ。

「徹! 危ない…」

「なっ、これは…うわあぁぁっ!?」

 校舎の下部、玄関と思しき扉が開き、徹の体がその中へと吸い込まれていく。リンカは咄嗟に後を追い、彼の手を掴もうとした。ところが

「…ああ、見つけてしまったのね」

「!」

 振り返ると、そこいたのは蜜屋志羽子。冷たい目でリンカを睨んでいる。
 校舎の中へ消えていく徹を尻目に、蜜屋は言った。

「あなたがこの塾を嗅ぎ回っていることは、最初から分かっていたわ。決定的な証拠を掴まない間は好きにさせてあげようと思ってたけど、見つけてしまったなら仕方ない」

「…」

 入ってきた扉の向こうに注意を向ける。いつの間にか、友長の姿が消えている。

「偽りです。貴女は最初から私たちをここにおびき寄せた上で、秘密裏に始末するつもりだった」

「いいえ? ここが見つかるのは、本当に想定外よ。…全く。あなたが私の生徒なら、どれほど優秀な働き蜂になれたでしょうね」

「お断りします」

 鞄からXマグナムを抜き、構える。が

「ふんっ」

 蜜屋が、何かをリンカに向かって投げた。それは凄まじい速度で銃身を直撃し、彼女の手からはたき落としてしまった。
 ブーメランめいて戻ってきた物体を掴むと、蜜屋は目の前に掲げた。



『クイーンビー』



254 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/10(土) 08:46:23.17 ID:kUSbn9bv0



『トゥルース』



 リンカは黄金のメモリを取り出すと…手裏剣のように、蜜屋に向かって投げつけた。

「!」

 蜜屋も、メモリを投げる。空中でぶつかり合った2本の小匣は、それぞれの持ち主の元へ戻ると、方やガイアドライバー、方や後頭部のコネクターに、吸い込まれるように収まった。
 爆風が部屋を薙いだ。次の瞬間、そこには殺人蜂の女王と、真実の女神が、陽炎を纏って向かい合っていた。

「やはり、蜂の首魁は貴女でしたか」

「ええ。…この姿は、2度めね」

 言いながら女王蜂は、虹色の翅を震わせた。すると壁に六角形の穴がいくつも開き、中からヤンクめいた服装の若者たちが一斉に飛び出してきた。

「さあ、私の優秀な生徒たち。…この邪魔者を、喰い殺しておしまい」

「はい、先生!!」ホーネット!



ホーネット



 ホーネット ホーネット 


ホーネットホーネットホーネット    ホーネット
     ホーネット          ホーネットホーネット   ホーネット ホーネット ホーネット
                    ホーネット ホーネットホーネットホーネット  ホーネットホーネット ホーネット    ホーネット      ホーネットホーネット        ホーネット
ホーネットホーネット  ホーネット ホーネット
ホーネットホーネットホーネット ホーネットホーネット   ホーネットホーネットホーネットホーネットホーネット



 スズメバチの大群が、部屋を埋め尽くす。彼らは牙や爪、巨大な棘を剥き出し…一斉に、リンカに襲いかかった。
255 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/10(土) 16:07:39.24 ID:kUSbn9bv0



「ここは…?」

 気が付くと、徹は学校の教室に立っていた。広い部屋に、2つだけぽつんと置かれた机と椅子には、先程の2人の少年が座って教壇を見つめている。教壇に立っているのは、ティーチャードーパントに変身したはずの、蜜屋の秘書だった。

「授業を始めます」

 男が言うと、黒板にずらずらとチョークで書かれたような白い文字が流れ始めた。

「あなた方は蜜屋先生の生徒です。生徒としての役割を果たしなさい。互いに争うことは許しません」

「な、何だこれは…?」

 ロボットのように抑揚のない声で、ひたすら喋り続ける男。それを黙って聞く少年たち。黒板には、文字に混じって蜜屋の顔写真やホーネットメモリの画像が流れ始めた。

「人は一人では生きていけない存在です。蜜屋先生を信じなさい。蜜屋先生に従いなさい。それが全ての始まりです」

「おい…何を言ってるんだ!」

 徹は声を上げた。しかし、誰一人として反応しない。

「より多く、ガイアメモリを広げなさい。…より多く、『お母様』の賛同者を増やしなさい」

「!!」

 徹は、ドライバーとメモリを取り出した。

「ここで、子供たちを洗脳しているってわけか…変身!」ファンタジー!

 その時、男が初めて徹の方を見た。

「そこのあなた! 校則違反です! この神聖な教室では、何人も生徒や教師を傷付けることは許しません!」

「校則違反」「校則違反です」ホーネット

 2人の少年が椅子から立ち上がり、振り返った。虚ろな目で徹を見ると、各々黄色いガイアメモリを抜き、手首に刺した。

『上等だ。こんな歪んだ教室……』

 ファンタジーは剣を構えた。

『…俺が、ぶっ壊してやる!』
256 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/11(日) 16:51:45.67 ID:dBkOTmV10



 トゥルースドーパントが、エジプト十字の杖を振りかざすと、スズメバチたちの動きが止まった。

「なにっ…」「ぐっ」「うあぁっ…!?」

「人の身で虫などに身をやつし。ただ一人の人間に盲目的に従い。組めぬ徒党を組んで、歪みを広げる。貴方たちの在り方は……偽りです」

 杖を振るうと、ドーパントたちがその場に膝を突き、崩れ落ちていく。しかしよく見ると、その程度には差があった。変身が解除される者もいれば、歩みが遅くなった程度の者もいる。
 そしてその中に、明らかに影響を受けていない、2匹の蜂がいた。

「小崎君、速水さん」

「はい」「はい。先生」

 女王蜂の号令で、2人は前に進むと……変身を解除し、それぞれ、別のガイアメモリを掲げた。



『バンブルビー』『ロングホーン』



 小崎が左肩に、速水が右脇腹に、新たなメモリを打ち込むと、彼らの姿はそれぞれ熊蜂と、カミキリムシの怪人へと変化した。

「真実。偽り。それを決めるのは、何? ……所詮は、メモリとの適合率の問題。簡単なことだわ」

 熊蜂が、太い腕で殴りかかってきた。それを杖で受け止めると、女神は片方の翼を広げ、鋭い羽をカミキリムシに向けて放った。

「っ、くっ、うっ」

 外骨格で羽を弾きながら、カミキリムシも女神に肉薄し、そして鋭い牙を剥き出した。大きく開かれた顎に向けて、女神が金の光弾を放つ。

「ああっ!?」

「ぐはっ…」

 突き出した杖が、熊蜂の腹を抉る。
 崩れ落ちた2体を蹴り飛ばすと、女神は女王蜂を睨んだ。

「人は。……蜂でも、甲虫でもない。彼らのこの姿は、どうしようもなく偽りです」

「こ、の…っ!」

 怒りに唸りながら、遂に女王蜂が翅を広げ、襲いかかってきた。
257 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/11(日) 17:31:23.89 ID:dBkOTmV10



「せぇいっ!」

「ふんっ!」

 剣と爪がぶつかり合う。机を切り裂き、椅子を蹴散らしながら、ファンタジーは2匹のスズメバチと戦いを繰り広げていた。その後ろでは、相変わらず蜜屋の秘書が、黒板の前で絶えず洗脳の言葉を紡いでいる。

「蜜屋先生は絶対です。蜜屋先生を信じなさい。皆さんは優秀な生徒です。必ず、先生のご期待に応えなさい。…」

「こ、の…!」

 ファンタジーは手元に短剣を出現させると、男に向かって投げつけた。無論、直接刺さらないようにだ。
 鋭い刃が、すぐ耳元を掠めたと言うのに、男は一切怯まない。

「蜜屋先生の教えを広めるのです! ガイアメモリと、皆さんの努力で…」

「クソっ!」

 剣を片方のドーパントに突き立て、もう片方を拳で殴り倒した。

「ぐわっ!」

「倒しても倒しても…」

「くっ、そっ!」

 男の声が響く教室で、2人の生徒は何度倒されても、諦めずに立ち上がってくる。その動きに、疲労が見えない。

「キリがない…」

 剣を収めると、魔術師の姿になった。かざした手から炎が噴き出し、ドーパントを襲う。

「うわあぁっ!」

「お前もだっ!」

 殺しは論外だが、黙らせなければ。魔法陣から緑色の霧が噴き出して、男の顔を覆った。

「蜜屋先生は…っ! げほっ、がっ…!?」

「お前たちの教えは、確かに活かされてるぞ。…この、ワサビ攻撃にな!!」
258 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/11(日) 22:13:52.36 ID:dBkOTmV10
 蜂たちの動きが鈍る。その隙に、メモリをスロットルに挿し込んだ。

『これで…』ファンタジー! マキシマムドライブ

『…終わりだ! ファンタジー・イマジナリソード!』

「ああああっっ!!」「ぐわああぁぁっ!」

 白い閃光が、2体のドーパントを切り裂く。スズメバチのメモリが破壊され、人間に戻った生徒たちは、ふっと教室から消え去った。

『よし、後はこの教師をどうにかすれば…』

 ところが、次の瞬間



「…仮面ライダー!」「見つけたぞ!」「わ、私が倒す…」「いや、俺だ!」



『何っ!?』

 教室に、新たにホーネットドーパントが、大量に出現したのだ。特に、ファンタジーの近くに出現したドーパントは、翅を広げてその場に浮かび上がると、尻から突き出した巨大な針を、ファンタジーに向けた。

「この教室が、あなたの墓場です! さあ、生徒たち!」

「はい!」

 男の号令で、スズメバチたちが一斉に襲いかかってきた。



 鋭い棘と、七色の翅が空中でぶつかり合う。時折介入してくる、バンブルビーとロングホーンをいなしながら、トゥルースドーパントはクイーンビーと射撃戦を繰り広げる。
 腕から棘を飛ばしながら、クイーンビーが叫んだ。

「あなたたち! ここで寝ているくらいなら、教室に加勢なさい!」

「! は、い…」

 トゥルースドーパントによって力を抑えられていたホーネットたちが、ゆっくりと起き上がる。

「仮面ライダーを倒しなさい。…活躍した生徒には、褒美を与えるわ」

「!!」

 女王蜂の言葉に、弱っていたはずの蜂たちが我先にと、ミニチュアの校舎に飛び込んでいく。

「! メモコーン、早く来て…」
259 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/11(日) 22:17:17.10 ID:dBkOTmV10
「あなたの相手は、この私よ」

 手首から、巨大な針を伸ばして殴りかかる。間一髪で躱すと、杖で殴り返した。打撃を肩の装甲で受けると、そこに蜂の巣めいて六角形の穴が空いた。

「…!」

 咄嗟に翼を広げ、体を庇う。そこへ、白い弾丸が直撃した。

「っ、流石に手強い…」

「思ったほどでは無いのね。…さあ」

「はい」

 バンブルビーとロングホーンが、背中から彼女に致命傷を与えんと、腕を振り上げた。次の瞬間

「…っ!?」「痛っ!」

 歌うようないななき。銀の一角獣が何処からともなく飛び出し、2体のドーパントに体当たりを見舞った。

「! メモコーン、徹を助けて…」

 ところがメモコーンは校舎に目もくれず、今度は女王蜂に突撃した。

「メモコーン! 私のことは良いから…」

「っ、うっとおしい…!」

 跳び回る一角獣を捕らえると、クイーンビーは床に叩きつけて踏みつけた。そのまま、トゥルースドーパントを複眼で睨んだ。

「…キリが無いわね。どう、リンカさん? この際、あの頼りない仮面ライダーなんて捨てて、私たちの所に来ない?」

「…」

「あなたが単純な正義のために動いているわけじゃないことは、何となく察してるわ。どうせ、あの男とは一時的な協力関係…或いは、あなたが一方的に利用しているのでなくて?」

 手首の針を、鼻先に向ける。

「…場合によっては、私たちの方があなたの助けになるかも」

「…魅力的な申し出ですが」

 女神は、言った。

「ええ。物分りが良いのはとても」

「今は、ご自身の背後を気にするべきかと」

「!?」

 咄嗟に振り返る女王蜂。
260 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/11(日) 22:53:11.55 ID:dBkOTmV10
 そこには、一人の少年がいた。

「お、お前が…お前が」

「…朝塚君。今更、何の用」

「お前が、母さんを!!!」

 少年…朝塚ユウダイは、泣きながら一本のガイアメモリを、両手で捧げ持った。
 奇妙なメモリであった。プロトタイプらしく剥き出しの基盤に端子しか付いていないのだが、基盤には白いテープが乱雑に巻かれていて、油性マジックらしき線で『X』と書かれていた。

「! どうしてそれを」

「ああああああああっっっ!!!!!」

 絶叫しながら彼は、そのメモリを喉に突き立てた。そのまま、クイーンビー…蜜屋志羽子に向かって、突進した。

「落ちこぼれが…ッッッ!?」

 棘を剥き出し、迎え撃とうとしたその体が、壁まで弾き飛ばされた。
 ユウダイは止まらず、ティーチャードーパントの所まで走り、そのまま小さな校舎に吸い込まれていった。
261 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/11(日) 22:53:53.82 ID:dBkOTmV10



『ぐっ…く、うぅっ…』

 震える手で剣を握り、肩で息をするファンタジー。片手で覆った脇腹には、巨大な棘が深々と突き刺さっている。

「あと一回だ! 誰か!」

 彼に棘を見舞った少年が、仲間たちに叫んだ。彼自身は針を刺した瞬間、人間に戻ってしまった。一度使うと、ドーパント態を保てなくなるのかもしれない。
 スズメバチの針なのだから、効果も察するというものだ。先程からファンタジーは、全身に強い痺れを感じていた。しかし、こんなものは序の口だ。真に恐ろしいのは、2発目…一度毒を受けた体が、二度目に同じ毒を受けた時…その時は、間違いなく命は無いだろう。

「俺だ!」「私よ!」「どけっ、ここは…」

 せめてもの救いは、手柄を焦るあまりホーネットたちが押し合いへし合いして、中々ファンタジーに辿り着けずにいることだ。

『はあっ…はあっ…やあっ!』

 すり抜けてきた1人を切り伏せる。しかし、次は無さそうだ。彼の手から、剣が落ちた。
 メモコーン…クエストのメモリがあれば、毒を解除できるかも知れない。だが…

『…ったく、肝心の時に役に立たねえ!!』

 更にすり抜けてきた1人が突き出した、尻の棘を、ぎりぎりのところで掴んで止めた。そのまま床に投げつけると、とうとう彼は床に膝を突いた。せめて盾をと念じるが、具現化する力も残っていない。

『はぁっ…ここまで…なのか…っ!?』

 死を覚悟した、その時



「うあああああああっっ!!!」



『!?』

 突然、教室に誰かの叫び声が響き渡った。と思うや、部屋の中心に1人の少年が現れた。

『また加勢か…』

 ところがその少年は、ファンタジーではなく、教壇に立つ男に向かって一直線に突っ込んでいった。

「よくも! よくも母さんを! 母さんを、返せえええぇぇぇx!!!!」

「! ガキが…!」

 苛立った顔で、少年をあしらおうとする男。ところが、存外に少年の力が強い。
 ここに至って、ファンタジーは少年が何者なのか気付いた。

『ユウダイ君!? どうしてここに…』

「母さんを! 良くも!」

 男のスーツを掴み、殴りつけるユウダイ。

「劣等生め、ここで死ね!」

「ぐあぁっ…!」

 男が手をかざすと、コンクリートめいた液体が湧き出し、ユウダイの顔を覆った。気道を塞がれてもなお彼はもがいた。だが、それも長くは続かず、ユウダイは男の足元に崩れ落ちた。
262 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/11(日) 23:06:23.48 ID:dBkOTmV10
「ふん、クズめ……っ!?」

 そこまで言って、突然彼の顔に狼狽が浮かんだ。

「しまっ…」

 次の瞬間、教室の空気が歪んだ。

『なっ、何が』

 床が揺れ、壁がひび割れ、机や椅子が溶けて無くなっていく。
 やがて…満身創痍のファンタジーは、元いた地下室に、大勢のホーネットドーパント、そして動かなくなった朝塚ユウダイと共に戻ってきた。

『はあっ…も、戻ってきた…?』

「徹!」

『!』

 呼びかける声に、はっと顔を上げる。そこにいたのは、女王蜂のドーパントと対峙する、黄金の女神。
 彼のもとに、小さな一角獣が駆け寄ってきた。

『遅いんだよ、お前はよ…!』クエスト!

 赤いメモリを装填すると、ファンタジーの姿は白いローブに赤い装飾を纏った魔術師に変わった。同時に、体を蝕む毒も消え、彼はすっくと立ち上がった。

『もう許さねえ! 母親だけじゃなく、息子まで…』クエスト! マキシマムドライブ

 ファンタジーの体を、白いマントが包み込んでいく。

「…チッ」

 女王蜂は舌打ちすると、翅を震わせて部屋から逃げ出した。後を追って、生徒たちも部屋を出ていく。
 それらを追うことはせず、巨大なグリフォンと化した仮面ライダーは、天井を突き破って宙へ舞い上がった。

『クエスト…ラストアンサー!!』

 急転直下、銀の矢が、ミニチュアの校舎を打ち砕く。

「ぐ、うっ」

 ぼろぼろに崩れ落ちた校舎の中で、男が倒れる。その体から紺色のメモリが吐き出され、そして砕け散った。
263 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/11(日) 23:06:50.35 ID:dBkOTmV10
「…ユウダイ君!!」

 変身を解除すると、徹はユウダイの体を抱き起こした。

「…ユウダイ君…おい、しっかりしろ!」

 しかし、彼は動かない。息をしていない。……心臓が、動いていない。

「そんな…」

「警察を呼びましょう」

 同じく変身を解除したリンカが、冷静に言った。

「この塾はクロだと証明できました。ティーチャードーパントの変身者が逃げない内に」

「…ああ」



 植木警部に連絡し、超常犯罪捜査課が到着し、捜査が始まり……その、どこかのタイミングで。
 朝塚ユウダイの遺体は、まるで蜃気楼か何かのように、忽然と姿を消したのであった。
264 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/11(日) 23:22:00.66 ID:dBkOTmV10



 大聖堂。白いヴェールの向こうには、2つの人影が蠢いていた。

「あぁ…母さん…母さん…」

”可哀想なユウダイ…愛しい子”

 祭壇に仰向けに横たわる、白い女。その上に、裸の少年が寝そべって、泣きながらその胸にしがみついている。

”もう、心配いりません。あなたは一度死んで、母の胎から生まれました。これで、身も心も、母の子…”

「母さん……『お母様』…」

”ふふふ…そうですよ、ユウダイ…さあ、生まれたてのあなたには、母のお乳が必要です…たんと召し上がれ…”

「お母、様…」

 うわ言のように言いながら、彼は顔を上げ、女の胸に吸い付いた。

”んっ…ぁ…”



「…」

 ヴェールの外から、それを不機嫌そうにミヅキは見つめていた。



「んっ、んっ、んくっ…お母様、もっと…」

”ええ。もっと、好きなだけ…”



「…」

 悩ましげな声に浮かされるように、無意識にスカートの中に手を伸ばす。

「…っ」

 苛立ち。焦燥。そして、嫉妬。凡そ不愉快極まりない感情を快感で塗り潰すように、彼女は自らの秘部を乱暴に弄ったのであった。
265 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/11(日) 23:22:49.40 ID:dBkOTmV10
『Sの秘密/働き蜂の先生』完

今夜はここまで
266 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/11(日) 23:35:43.23 ID:dBkOTmV10
『ティーチャードーパント』

 『教師』の記憶を内包するガイアメモリで、朝塚志羽子の秘書が変身するドーパント。変身すると全身がコンクリートめいた物体に覆われ、全高2m弱の小さな校舎のような姿となる。その玄関に当たる穴から範囲内の人間を吸い込み、内部に創られた『教室』に閉じ込めることができる。そこでは変身者を『教師』、吸い込まれた人間を『生徒』として、『授業』という名の洗脳が行われる。また、教室内では変身者が予め定めておいた『校則』に縛られ、それに違反するとそこにいる全ての人間が違反者を排除しにかかる。ただし変身者も校則に縛られ、万が一変身者が違反した場合は教室が崩壊し、中にいる人間は全員元の場所に強制的に戻される。なお、上記は全てドーパント内部のことであり、ドーパント自身の肉体は文字通り校舎となるため一切の身動きがとれない。そのためティーチャードーパントが十全の力を発揮するには、外で体を護衛する者が必要。
 蜜屋は自身の生徒の中から見込みのある者をこのドーパントに洗脳させ、自身の手下としていた。仲間割れを起こした手下の再洗脳を命じられた秘書であったが、生徒と一緒に力野徹まで吸収してしまう。洗脳を止めさせようと変身する彼を、校則違反として排除しようとしたのはよかったものの、途中で同じ生徒である朝塚ユウダイの妨害に遭う。彼は怒りに任せてユウダイを殺害するが、そのせいで『何人も教師と生徒を傷付けてはならない』という校則に自ら違反することとなってしまい、教室は崩壊した。
 メモリの色は紺。鞭(ウィップではなくケインの方)と鉛筆を組み合わせた意匠で『T』と書かれている。



>>206をアレンジして採用させていただきました。ありがとうございました!
267 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/12(月) 00:05:46.41 ID:pLVSCbM/0
『バンブルビードーパント』

 『熊蜂』の記憶を内包するガイアメモリで、愛巣会の生徒小崎善貴が変身するドーパント。ホーネットに比べてマッシブな体つきで、パワフルな肉弾戦が得意。その反面、飛行能力はほぼ無く、動きもやや鈍重。
 メモリの色は焦茶。蜂の片羽を象った『B』の字が書かれている。



『ロングホーンドーパント』

 『カミキリムシ』の記憶を内包するガイアメモリで、愛巣会の生徒速水かなえが変身するドーパント。硬い外殻に鋭い牙を持ち、長い触覚で相手の気配を察知することにも長けている。ミュージアム崩壊後に造られた、新造のガイアメモリ。
 メモリの色は赤。長い触覚を直角に広げた、カミキリムシの頭部が『L』に見える。ちなみに、カミキリムシの中でもこのドーパントはクビアカツヤカミキリに似ている。
268 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/12(月) 00:19:52.36 ID:pLVSCbM/0
『クイーンビードーパント』

 『女王蜂』の記憶を内包するガイアメモリで、教育評論家の蜜屋志羽子が変身するドーパント。女性的な蜂の体を素体に、虹色の翅、巨大な複眼、琥珀めいた装飾、蜂の巣を象った六角形の装甲と、随所に高貴な意匠が施されている。ホーネットドーパントと違い飛行時間に制限が無いだけでなく、一度使用すると変身を解除される毒針も、腕から無限に撃つことができる。また、肩の装甲からロケットランチャーめいて白い弾丸を放つことも可能。しかしこのメモリの真価は『虫たちの女王』であることで、このメモリ自体がビーやホーネット、バンブルビーといった蜂系のドーパントを操る能力を持っている。加えて適合率の高い蜜屋は、蜂だけでなく昆虫全般のドーパントをも操ることができる。
 シルバーメモリとゴールドメモリの中間に位置する、幹部級を除けば最高級のメモリで、ミュージアム下で2本しか製造されなかった特注品。1本を禅空寺朝美が、そしてもう1本を蜜屋志羽子が所持していた。つまり、ミュージアム崩壊前から彼女はガイアメモリの使用者であった。その上で彼女は、自身の生徒に量産型のホーネットメモリを持たせることで、操作、洗脳の足がかりとしていたのだ。
 メモリの色は黄色と黒の縞模様。円形のハニカムの縁に、一匹の蜂が佇む画を『Q』と読ませる。
269 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/12(月) 00:36:47.16 ID:pLVSCbM/0
『トゥルースドーパント』

 『真実』の記憶を内包するガイアメモリで、財団Xのエージェント、円城寺リンカが変身するドーパント。白地に藍色の隈取の施された仮面に、白い羽の刺さった黄金の冠を被り、金糸で刺繍された白の長衣の上から、黄金と宝石の装飾をいくつも纏っている。その手にはエジプト十字、すなわち生命を意味するアンクを象った杖を持ち、背中からは七色の羽の生えた翼が伸びている。モチーフは、その羽が罪の重さを量る分銅となる、エジプト神話における真実の女神マァト。金色の光弾や、鋭い羽を飛ばす攻撃は、並のドーパントなら瞬殺できるほど強力。しかしこのメモリの本質はそこではなく、『真実を量る』こと。特にドーパントに対しては、適合率が低かったり、元の姿や性質からかけ離れているほどにメモリの力が強く作用し、程度によってはそれだけでメモリブレイクできることもある。
 元はミュージアムにて製造されたゴールドメモリ、すなわち園咲家の人間やその関係者にのみ使用を許された、極めて強力なメモリ。ミュージアム崩壊後、旧園咲邸を家宅捜索した際にリンカが発見し、そのままガイアドライバーごと所有することになった。しかし、もしミュージアムが崩壊していなければ、このメモリを使用する人間が、いずれ園咲家に誕生する予定だったのかもしれない。
 メモリの色は当然金。天秤を象った『T』の字が書かれている。







 ……余談だが、白の長衣はほとんどシースルーで、宝石の襟や細い前垂れ付きベルトで局部をかろうじて隠しているため、肌の露出が少ないくせにタブードーパントよりもエロいと一部ではもっぱらの評判である
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/12(月) 07:39:55.38 ID:bBuA2EZs0
ジオウを見たら思いついたので投稿

パラレルワールドメモリ
『平行世界』の記憶を有したガイアメモリ
ガイアメモリが地球の記憶を力としている特性上、『平行世界』の記憶であるこのメモリは殆ど力を持っておらず(マスカレイド以下)、そのくせ無駄にメモリのランクは高い(幹部級)という散々なものだった。そのため鑑賞用のメモリと揶揄されていた。
しかし、どこぞの『通りすがり』が『ガイアメモリを持つもの』及び『地球の本棚にアクセスできるもの』に接触したことにより、地球が『平行世界』の記憶を獲得してしまい、爆発的に力が増加してしまった。
使用したものがいない(使用したものがいない)ためその力は未知数だが、下手をしたら世界の創造ができるかも…?
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/12(月) 10:31:31.74 ID:ZP9VzrMTO
カートゥーン・ドーパント

「2次元」の記憶を内包するメモリを使用し変身したドーパント
変身した者にマンガやアニメ表現の様な能力を与え、異様な程に誇張化した仮面ライダーの様な姿へと変える
具体的には身体を粘土の様に曲げて攻撃を避けたり、明らかに死ぬダメージを受けても即時復活する。所謂トゥーンだから無敵デース理論
また、他者を2次元に拐う能力を持ち、拐えば拐うほど自己の世界観はより強固なものとなり、能力も強化される
当然と言えば当然だが、使用し続けると現実と2次元の境が曖昧になり意識が2次元に取り残されたままとなってしまう
「真実」のメモリとは真実を上書きしてしまうランクをも越えた抜群の相性だが
世界観の衝突が起こりうる「空想」のメモリとの相性は、天敵中の天敵。最悪と言っても過言ではない

相性の下りは追い詰められたリンカを徹が助けるシチュが見たいなと思っていれただけなので、もし不要なら削除しておいてください
272 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/12(月) 12:05:09.28 ID:pLVSCbM/0
「徹」

「どうした?」

 北風署から帰る道すがら、おもむろにリンカが口を開いた。
 蜜屋の秘書は逮捕され、愛巣会には捜査の手が入った。地下室からは大量のガイアメモリが押収され、塾がこの町でのガイアメモリ犯罪の中心にあったことは確実になった。しかし、蜜屋と彼女の生徒の一部は、その場から失踪し、その行方は分かっていない。残った生徒は皆、ガイアメモリについては何も知らされていなかった。

「今までの…そして今回の事象から、今後のために一つの提案があります」

「おう、何だ?」

「徹。…私と、性交渉をしてください」

「…」

 徹は、ぴたりと立ち止まって彼女を見た。彼女は、あくまで無表情に彼を見返した。

「…悪い、よく聞こえなかった」

「私と性交渉、セックスをしてください」

「まっ…」

 さっと周囲を見回す。幸い、2人の会話を聞く者は、その場には見当たらない。
 彼はリンカの手を掴むと、偶然その場にあった喫茶店に引っ張り込んだ。

「…あの、このような公共の場では、流石に」

「ここでする無いだろ!」

 用意するのに時間がかかりそうなドリップコーヒーを注文し、一番奥の席に向かい合って座ると、徹は声を潜めて問うた。

「…その。一つ聞かせてくれ。それは…何でだ?」

「メモコーンの挙動が原因です」

「メモコーンの? …あ」
273 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/12(月) 12:05:40.82 ID:pLVSCbM/0
 徹は、すぐに思い至った。リンカが説明する。

「本来、セイバーメモリにもクエストメモリにも、自律行動するライブモードの想定はされていません。2つのメモリと、前に財団が入手したユニコーンメモリを部品に作られたのが、メモコーンです」

「ふむ」

「ライブモードの有用性は、風都の仮面ライダーで実証済みです。実際、メモコーンも有事の際には戦力としても役立ちました。が…」

「ユニコーン特有の、アレだな?」

「ええ。神話において一角獣は、高い戦闘力を持ち、また毒を浄化する力もあります。ですが、それと同時に、処女に懐くという性質もあります。彼は作られた目的の通り、窮地において私たちをサポートしてくれますが……これまでの挙動を見るに、明らかに優先順位があります」

「確かに…」

 アイドルドーパントと対峙した時。ティーチャードーパントに吸収された時。ピンチにも関わらずメモコーンが助けに来なかった。そんな時は、決まってリンカもピンチに陥っているときだった。

「メモコーンは、当然ガイアメモリとしてドライバーに装填されなければ、本領を発揮しません。私を優先したがために共倒れになるのは、避けなければならない。ならば、私を優先しないようにするしかありません。ですので、私の処女を、貴方に」

「わ、分かった分かった!」

 徹は慌てて彼女の言葉を止めた。店員が、コーヒーを持って近付いていたからだ。
 カップを置いて店員が去っていくのを確認すると、徹は長い息を吐いた。

「…言いたいことは分かった。だが…考えさせてくれ」

「なるべく短めにお願いします」

「あんた…」

 徹は、苦々しく彼女を見た。

「嫌じゃないのかよ、初めての相手が俺とか……それに、そんな格好してるんだから、てっきりそういうのが嫌いなのかと思ってた」

 リンカは美人だが、女性的とはとても言い難い。細身の白いパンツスーツスタイルで、黒い髪を後ろに撫で付けた姿は、寧ろ男装の麗人と言った風貌だ。

「生まれ持った肉体の形状から、女性的な部分を強調するより、男性的に振る舞ったほうが任務に有用だと判断しただけです。ですが、相手については…」

 彼女はふと口を閉じると、黙って天井を向き、机を見つめ、それから指先を見て…やがて、ぽつりと言った。

「…いえ。何度思考し直しても、貴方以外に相手が浮かびませんでした」

「…そ、そうか」

 そう言われると、急にドキドキしてきた。今までの人生に色恋沙汰が無かったわけでは無いのだが、このように今まで共闘してきた相手との関係性が、劇的に変わるかもしれないと言うのは、中々にスリリングな、心躍るような気分であった。改めて見ると、無表情で無愛想な彼女の顔が、急に輝いて見えた。

「もしかして、誰か操を立てる相手が?」

「えっ? いや、そんなのは」

「…兎ノ原美月、ですか」

「!? いやいやいや、そんなわけ…」

 慌てて否定しようとした、その時、通りから悲鳴が聞こえてきた。

「! 落ち着いて考える暇も無いってか。要は、あんたがピンチにならなきゃ良いんだろ? 取り敢えず、そこに隠れてろ!」

 ドライバーとメモリを取り出すと、徹は喫茶店を飛び出した。
274 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/12(月) 12:06:08.02 ID:pLVSCbM/0



「ねえ、お母様」

”どうしました、ミヅキ”

 ヴェールの向こうに、ミヅキは呼びかけた。

「あたしにも、おっぱい」

”ええ、良いですよ。こちらにいらっしゃい”

「あたしだけじゃなきゃ嫌。そこのクソガキは追い出して」

 ヴェールの向こうの影は、二人分。玉座に座るお母様に縋り付いて、ユウダイが乳を吸っているのだ。

”いけませんよ。この子も母の子ですから、みんな平等です”

「嫌だ!」

 ミヅキは叫ぶと、あの生意気な少年を引きずり降ろさんと、ヴェールに向かって突進した。が

”ミヅキ!”

「ぎゃっ!?」

 突然、巨大な拳が現れ、ミヅキの体を殴り飛ばした。

”母の子がいがみ合うことは許しません! 何度言えば分かるのですか!?”

「…お母様のバカっ!!」

 ミヅキは吐き捨てると、聖堂から走り去っていった。
 入れ替わるように、作業着姿の男が入ってきた。

「反抗期、ですな。子を愛すればこそ、子に苦しむこともあります」

”甲太…”

 ガイアメモリ工場長、真堂甲太は、持ってきた小さなケースを恭しく差し上げた。

「…新たなお母様の愛子のために、新たな力をご用意いたしました」

”ありがとうございます。…さあ、ユウダイ”

「はい、お母様」

 ヴェールを捲って、朝塚ユウダイが姿を現す。相変わらず服を着ていない彼の前で、真堂はケースを開けた。
275 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/12(月) 12:06:42.08 ID:pLVSCbM/0
 中には、一本のガイアメモリが鎮座していた。

「食い物にされる立場から一転、捕食者にまで上り詰めた。幸運な君には、このメモリが相応しい」

 メモリを手に取ると、ユウダイは目の前に掲げた。
 白い筐体に、花冠めいた『C』の文字。ガイアウィスパーが、弾むように自らの名を告げた。



『クローバー』



276 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/12(月) 20:34:54.20 ID:pLVSCbM/0



 悲鳴のもとへ駆けつけると、そこには一体の奇妙な怪人がいて、女を掴んで連れ去ろうとするところであった。

『おい、待て!』

「…うん?」

 振り向いた怪人。アメリカンコミックのヒーローのようにやたらマッチョな人型をしていて、右半身が黒、左半身が緑色に塗装されている。その腰には、歪ながらファンタジーのそれに似たドライバーらしきものが装着されていた。そもそも怪人は皆奇妙と言われればそうなのだが、この怪人は今までとは何かが違った。存在自体が、違和感なのだ。言うなれば、海の底を猫が平泳ぎしているような…

「おお、『お前も』仮面ライダーか!」

『お前も? 仮面ライダーは俺1人だ!』

 剣を抜き、斬りかかるファンタジー。

「いいや、俺も仮面ライダーだっ!」

 拳で応戦する、自称仮面ライダー。濁った赤の複眼が点滅する。
 剣がその肩口を切り裂いた時、ファンタジーは強い違和感を覚えた。

『軽すぎる…?』

 確かに刃が相手を捉えたはずなのに、斬った感触がしないのだ。その割に見た目のダメージは大きく、相手の肩には深い傷痕が付いていた。

「おおう、やるな…」

 傷痕が、瞬く間に塞がっていく。やはり、見た目ほどのダメージは無いようだ。

『やり辛い…』

 斬り結ぶ両者。しかし、まるで暖簾を殴っているかのように、手応えがない。
 とうとう業を煮やして、ファンタジーは魔術師にの姿に変わった。

『こいつはどうだっ!』

 魔法陣から噴き出す炎が、仮面ライダーもどきの体を包む。

「ぎゃあぁぁぁっ!? やめろっ、やめんかっ!」

『効いてるな。このまま…』

 ところがある瞬間、炎が幻のように消えてしまった。

「ふぃ〜、危ないところであった」

『こっ、この野郎…』

 平然と立つドーパントに、苛立つファンタジー。両手に魔法陣を出現させると

『喰らえぇ!!』

 ありったけの炎を、敵目掛けて撃ち込んだ。
 ドーパントは、迫りくる炎の弾幕を目の前に___

 ___横を、向いた。
277 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/12(月) 20:35:23.87 ID:pLVSCbM/0
『!?』

 ファンタジーは目を疑った。
 横を向いたドーパントの体には、『厚み』が無かった。切り抜いた紙のように薄っぺらな体を自在に折り曲げて、飛んでくる炎を巧みにすり抜けていく。

『な、何かおかしいぞ…?』

 ファンタジーが攻撃を止めると、ドーパントは近くにあった建物の壁に走り寄り、ぴったりと張り付いた。
 次の瞬間、その体から色が消え…溶け込むかのように、壁の中へと消えてしまった。



 北風町、博物交易第九貨物集積場四番倉庫。すなわち、旧ミュージアムのガイアメモリ製造工場にて。蜜屋と真堂が向かい合っていた。相変わらず平然と立つ真堂に、敵意の目を向ける蜜屋。その後ろでは、彼女の生徒たちが同様に色めき立って真堂を睨んでいた。

「…どういうことかしら」

「何がかね?」

「とぼけないで。ユウダイに、例の試作品を渡したのは、あなたでしょう」

「私が?」

 真堂は、驚いた顔をした。

「流石に、君やお母様以外に大事な試作品は渡さんよ。何かの間違いじゃないのか」

「目の前で、アレを使うところを見たわ。それならあの試作品は、一体誰に渡したの」

「君でなければ、お母様以外にいないさ。…ああ、実際、進捗を訊かれた時にお渡ししたんだった」

「…」

 蜜屋はしばらく、黙って真堂を睨みつけていたが、やがて溜め息を吐いた。

「…お母様、が」

「何かお考えの上でだろう。そう気を落とすな。生徒たちを匿うスペースくらいなら、用意しよう」

「ええ、感謝するわ」

 生徒たちを先導し、その場を立ち去ろうとする、蜜屋。去り際、彼女は質問した。

「…例のモノ、完成はまだなの?」

「あと少しさ。お母様から、『記憶』は全て頂いた。後は出力を調整するだけだ」

「早めにお願いね」

「もちろん」

 真堂は頷いた。
278 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/12(月) 20:36:00.72 ID:pLVSCbM/0



「や〜れやれだ…」

 落書きだらけの橋の下で、男は息を吐いた。よく見ると、柱にスプレーで書かれたような落書きは、全てが助けを求めるような人間の絵であった。

「風都を逃れてこの町に来たが、ここでも仮面ライダーかぁ。ぼくの『作品』は、いつになったら完成するやら…」

「いい方法、教えてあげよっか」

「…ほ〜う?」

 不意に投げかけられた声に、男は動じることなく応えた。
 歩いてきたのは、白いロリータ服の少女。男は、眼鏡をくいと正した。

「仮面ライダーには、どうしようもない弱点があるの。まあ、普通のドーパントからしたら寧ろ危ない相手なんだけど…君にとっては、弱点」

「面白いことを言うねぇ。君、さてはぼくの同類だな?」

「ま、そんなとこ」

「よし、乗った!」

 男は、笑顔で膝を叩いた。そうして、少女の肩に手を置くと、言った。

「じゃあ今からラーメン食いに行こう。…心配ない、ぼくが奢るからね」
279 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/12(月) 20:40:28.60 ID:pLVSCbM/0
『向き合うC/はりぼてのヒーロー』完

今夜はここまで
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/16(金) 20:23:13.15 ID:E/nIDYtVO
大丈夫かな…ほぼ毎日更新してたから心配だ
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/16(金) 21:32:50.83 ID:VqzO5tm3O
お盆だしなあ
282 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/16(金) 23:35:29.71 ID:g6NlXmyk0



「海野君、あなたが仮面ライダーに針を刺したのね」

「は、はいっ」

「よくやったわ。何でも、望むものを言いなさい」

 蜜屋の言葉に、海野はためらいがちに言った。

「…この前、久し振りに会った友達に、まだ童貞なのかと笑われて…だから」

「そう、分かったわ」

 蜜屋は頷くと、後ろの方にいた女子生徒に向かって言った。

「貝原さん。前に出て、服を脱ぎなさい」

「えっ…」

「敵の攻撃を前に、寝ているだけだった劣等生に存在意義を与えると言ってるの。…早く!」

「っ、は、はいっ…」

 おずおずと前に出ると、貝原と呼ばれた少女は震える手でセーラー服のホックを外し始めた。

「っ…ひっ…」

 スカートが滑り落ち、下着姿になる。蜜屋に睨まれると、少女は下着に指をかけた。
 啜り泣きながら、裸になる貝原。蜜屋は海野に手招きすると、言った。

「さあ、貝原さんがあなたの相手になってくれるそうよ」

「い、良いんですか?」

「もちろん。あなたは優秀な生徒だもの。当然の権利よ」

「じゃあ…」



「い、いくよ…」

「待って、まだ……痛っ、あっ!」

「はっ、あ、あぁっ!」

「痛い、痛いっ! やだっ」

「はあっ、はあっ、ああっ、すごっ、あっ」

「いやっ! 許してっ、ごめんなさい、ゆるして、ごめんなさいっ」

「はっ、はっ…あっ、くるっ、あっ」

「…! やだっ! 抜いて、やめっ、お願い抜いてっ!」

「あっ…くぅっ…」

「嫌、出さないでっ、やっ…い、嫌あぁぁぁぁあぁっっ!!」



283 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/16(金) 23:48:26.88 ID:g6NlXmyk0



「仮面ライダーには、協力者がいるの。何とかっていう、白いスーツに金ピカネクタイの、いけ好かない女」

「ふむ」

 北風町のとある飲み屋街。赤提灯の屋台に並んで腰掛けて、ミヅキと眼鏡の男は、大きななるとの載ったラーメンを啜っていた。

「実は、そいつもドーパントなんだけど〜…それも、めちゃくちゃ強いドーパントなんだけど…でも、君のガイアメモリとは相性が悪いみたいなんだよね」

 握り箸でなるとを突き刺しながら説明するミヅキ。実際の所、これらの情報は全て、真堂からカラダで搾り取ったものであった。

「そいつさえ君が引き受けてくれるなら、仮面ライダーはあたしが始末したげる」

「それは魅力的な話だね。…仮面ライダーは、2人も要らないからね」

「…そうだね」

 曖昧に頷くミヅキ。
 ラーメンを完食すると、男は立ち上がった。

「ご馳走様。隣町だが、美味い風都ラーメンだったよ」

「どうも」

 無愛想に会釈する店主。男はニッと笑った。

「…是非、ぼくの『作品』で振る舞って欲しいものだ」

「はい?」

 首を傾げる店主。男は、懐からパステルカラーのガイアメモリを取り出した。



 空になった屋台。叫ぶ人の顔が描かれたメニュー板を取り上げると、男とミヅキは、満足げに飲み屋街を去って行った。



284 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/17(土) 00:20:55.37 ID:kdFZsgbw0



「『カートゥーン』のメモリ、でしょう」

「カートゥーン」

 『ばそ風北』で、蕎麦を注文した徹とリンカ。料理が届くのを待ちながら、リンカはおもむろに口を開いた。

「貴方の証言によると、そのドーパントの外見は風都の仮面ライダーに酷似しています。ですが、粗が目立つ。本物は配色が左右逆ですし、貴方の言うように筋肉質な体型ではありません」

「偽物に成りすますメモリじゃないのか」

「『ダミー』メモリは現存しています。ですが、体に厚みが無い、物理攻撃が通用しない、壁に溶け込むといった特徴はダミーにはありません。何より…」

「ほい、お蕎麦2人前」

「どうも。…カートゥーンメモリだとすれば、人を拉致しようとしていたことに説明がつきます」

「へえ? どうして」

「カートゥーンドーパントは、現実世界の他に、その名の通りアニメーションの世界を創り出すことができます。その世界の強度を保つには、アニメーション世界の住民、すなわち人間が必要です」

「なるほど、だから人を攫ってたってわけか。……にしても、ティーチャーに続いてまた異世界か」

 割り箸を割りながら、溜め息を吐く。

「ガイアメモリってのは、恐ろしいな。早くこの町から、滅ぼさないと」

「…ええ、そうですね」

 何故か少し躊躇って、リンカは頷いた。



 明け方。まだベッドで眠っている徹を尻目に、リンカは誰かと通話していた。

「…ええ、分かっています。ですが、今はまだ能力の全容が見えない」

 ちらちらと徹の方を窺いながら、努めて冷静に答える。

「財団の力で、制御できるか…或いは、コストに見合った効果を得られるか」

 会話しながら、彼女は硬く目を閉じた。そのまま二言三言、話していたが、やがて目を開くと、彼女はきっぱりと言った。

「…ええ。そうなった暁には……仮面ライダーは、もはや不要です。私の手で処分します」
285 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/17(土) 00:21:59.35 ID:kdFZsgbw0
 電話を切ると、リンカは目を閉じた。

「私、は…」

 徹の横たわるベッドに腰掛け、そっと彼の肩に触れる。

「…必要なことを、成すだけ」

 金色のネクタイを、緩める。上着を脱ぎ、シャツのボタンに手をかけて…

「…!」

 はっと、部屋の窓に駆け寄った。
 窓から見える道路に、人影が一つ。下から真っ直ぐに、リンカを見つめている。
 リンカは服を直すと、Xマグナムとガイアドライバー、そしてガイアメモリを鞄に詰めて外へ飛び出した。

「やあ、聞いた通りの金ネクタイだ」

「何の用でしょう」

 街灯の下で待ち受けていたのは、1人の中年男。白髪交じりの長髪に、銀縁の丸眼鏡をかけている。
 男はリンカの質問に答えず、続けた。

「だが…美しい。ぼくの『作品』に添えるに相応しい…!」



『カートゥーン』



「!!」

 すぐさま銃を抜き、男に向けて連射する。
 爆炎の中で、男の体は緑と黒のヒーローもどきへと変化していく。それと同時に、彼の体から実在感とでも言うべきものが抜け落ちていくのに、リンカは気付いた。

「…わざわざ墓穴に飛び込んできましたか」トゥルース

「まさか。君の墓穴を掘りに来たのさ」

 男が言った次の瞬間、その体がコンクリートの地面に吸い込まれるように消えた。と思いきや、今度はトゥルースドーパントの体が地面へと引きずり込まれていった。

「!?」

 見ると、足元にはいつの間にか、色鮮やかな町の絵が描かれていた。
 そこへ駆け寄ってくる、銀の影。

「! メモコーン、来ないで…」

 アニメーションの町へと消えていく、金の女神。後を追うように、銀の一角獣がその中へ飛び込んだ。
286 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/17(土) 00:33:52.81 ID:kdFZsgbw0



「…リンカ?」

 はっと、徹は目を覚ました。何か、嫌な予感がしたのだ。
 それと同時に、彼の耳に微かな声が届いた。



「メモコーン、来ないで…」



「!!」

 徹は跳ね起きると、枕元のドライバーとメモリを取り上げた。

『ファンタジー』

「変身!」

 勢いよく窓を開けると、騎士の姿に変身しながら外へと飛び降りた。

「リンカ! ……っ!?」

 着地して、その地面にパステルカラーの町が描かれているのに気付いた。その中には数人の人間が、助けを求めるように彷徨っている。そして、その中に

「リンカ!!」

 先日対峙したドーパントと向き合う、真実の女神の姿を見つけた。
 ファンタジーは助けに行こうと地面を踏みつけたが、反応がない。

「クソっ、どうすれば…」

「どうしようもない、かな〜」

「!!」

 顔を上げたファンタジー。その目の前に、悠々と姿を表した、ピンクのドレスの少女。

「ミヅキ…」

「逢いに来たよ、仮面ライダーさん」

 彼女は、片手でスカートの裾を小さくたくし上げた。白い太腿に、黒いコネクターが露わになる。

「一応訊くけど…あんな女は捨てて、あたしと一緒にお母様のところへ行こう?」

「断る!」

「…だよね〜」ラビット

 ラメやスパンコールで彩られた、ピンクのメモリが突き刺さる。ミヅキの体が靄に包まれると、薄桃色のウサギの怪人へと姿を変えた。
 その場で跳躍し、飛び蹴りを見舞うラビットドーパント。それを剣で受け止めると、ファンタジーは言った。

「悪いが、今はあんたに構ってる暇は無いんだ。リンカを、助けに行く!」
287 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/17(土) 00:34:54.02 ID:kdFZsgbw0
今夜はここまで
288 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/17(土) 00:36:22.27 ID:kdFZsgbw0
(更新が減って申し訳ない。仕事が忙しい時期なんです)

(ところで、ファンタジーの最終フォームってどんなのだと思います?)
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2019/08/17(土) 00:37:17.40 ID:NKm713bmo
おつおつー
うーん、ファンタジーだし神様か王様かな?
290 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/17(土) 03:05:07.36 ID:eXZxqcJSO
剣と魔法両対応する勇者フォームが固い?
当初の設定だと魔物フォームもなれる的なあれ書いてなかったっけ。とすれば魔王もか
ブレイブ……ジオウ……被ってるじゃないかおのれディケイド!

幻想を現実に的な意味で、造物主としてのクリエイターとか
291 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/17(土) 08:35:31.36 ID:c/p4W+oR0
ファンタジーで最終といえばファイナルファンタジー
292 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/17(土) 09:50:05.95 ID:kdFZsgbw0



「…!」

 気が付くと、リンカは色鮮やかな都市の真ん中に立っていた。左右には、ピンクや緑色のビル群。目の前には、例の仮面ライダーもどき。ビルの隙間を縫うように歩くのは、虚ろな目をした人間たち。そして空には、今までいた北風町の住宅街が、薄っすらと見えた。

「この町は、偽りです」

 冷静に、彼女は杖を掲げた。

「人々の魂で塗り固めた、空想の世界。偽りの産物」

「…ああ、当然さ」

 カートゥーンドーパントは、当然のように言い放った。

「…何ですって?」

「だって、カートゥーンとはそういうものだろう? 作り話、空想、想像。それこそが物語。……それこそが、物語の『真実』」

「!!」

 どぎつい街並みが、急に現実感を帯び始めた。

「それとも、ノンフィクション以外は認めないタチかね? そりゃあ損だ」

 明らかに偽物のようだったドーパントの姿が、いつか資料で見た本物の仮面ライダーに近付いていく。周囲に、旋風が吹き始めた。
293 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/17(土) 10:03:12.08 ID:kdFZsgbw0
「…関係ない!」

 虹色の翼を広げ、鋭い羽を飛ばす。
 ところが、ドーパントが片手を上げると、羽は風に巻き込まれて明後日の方向へと飛んで行ってしまった。

「この世界では、俺が真実だぜ」

『サイクロン』『トリガー』

 怪人の右半身が、黒から青色へと変わる。その手に青色の銃を握ると、高速の弾丸をトゥルースドーパントに向けて放った。

「! ああぁっ!?」

 避けきれず、胸に直撃した。凄まじいダメージに、彼女は膝を突いた。

「良いねぇ、仮面ライダーはこうでなくっちゃ!」

『ヒート』『トリガー』

「ヒーローが活躍する、そのための街。それこそがぼくの目指す『作品』! そのためには、やられる怪人も必要だ…」

『トリガー! マキシマムドライブ』

「このっ…偽り、です…この、街は…」

「言いたいだけ言え。ここでは、俺が真実だ!」

 銃口に、眩い炎の玉が膨れ上がっていく。そして、目の前の怪人に引導を渡すべく、引き金を引こうとした、その時

「…むっ!?」

 彼の手に銀色の影が激突し、銃を弾き飛ばしてしまった。

「! メモコーン…」

「何だよ、無粋な…」

 仮面ライダー目掛けて、さらなる突撃を仕掛けんとする一角獣。ところが、それにまた別の影が突っ込んできた。

「…まあ、こっちにもいるんだがね。『ファング』!」

『ファング』『ジョーカー』

 仮面ライダーが、白と黒の獰猛な姿へと変わる。
 怪人は、杖に縋ってどうにか立ち上がると、ふと空を見上げた。

「!」

 そこには、兎のドーパントと交戦する銀色の騎士の姿があった。
 怪人は叫んだ。

「メモコーン! 私は…私は、良いからあの人を」

「そうホイホイと行き来できるとでも?」

 仮面ライダーは怪人の胸ぐらを掴むと、無理やり立たせた。

『アームファング』

「さあ…ぼくの作品になれ!」
294 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/17(土) 11:52:12.28 ID:kdFZsgbw0



「ぐっ、がぁっ…」

 顎に膝蹴りを受け、仰向けに倒れるファンタジー。その上に馬乗りになると、ラビットドーパントは囁いた。

「ねぇ…一緒に来てよ。あたし、あなたのこと大好きだから」

『敵同士だったあんたから、そこまで言ってもらえて嬉しいよ。だが、これだけは譲れない…!』

 相手の腕を掴んで引き倒すと、逆に馬乗りになる。

『もう、戦うのは止めるんだ、ミヅキ! このまま心と体を傷付けて、何になる』

「お母様が、あたしを愛してくれる!」

 高く跳ね上げた脚が、ファンタジーの後頭部を直撃した。その体が前のめりに吹き飛ばされ、転がった。

『ぐあっ!?』

「…あなたも、愛してもらえる。一緒に」

『断る!!』

 体制を立て直すと、素手で殴りかかった。
 ところがその時、何かに引っ張られるように、彼の動きが止まった。

『…?』

 見ると、彼の足首と腕に、緑色の蔦のようなものが絡みついている。

「!」

 兎のドーパントが、はっと後ろを向いた。その視線を追って、気付いた。
295 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/17(土) 11:54:27.12 ID:kdFZsgbw0
『!! ゆ、ユウダイ君…?』

「…こんにちは、仮面ライダー」

 新たな乱入者…それは、ティーチャードーパントに挑んで死んだはずの、朝塚ユウダイであった。
 彼はラビットドーパントの方を見ると、呆れたような声で言った。

「何遊んでんの。さっさと殺して、お母様に産み直してもらえばいいのに」

「うるさい…!」

 憎々しげに唸るウサギ。ユウダイは口元を歪めると…懐から、純白のガイアメモリを取り出した。

『!? な、何をする気だ!』

「同じお母様の子として、お姉ちゃんに加勢するんだ」



『クローバー』



『! やめろ! 君のお母さんは、そんなこと』

「お母さん? 僕の親は、お母様だけだ」

 純白のメモリを、喉に突き立てる。
 その体が、緑色の草と、白い花に覆われていく。
 それと同時に、ファンタジーの体まで緑の草に包まれていった。

『っ、マズい…』

 魔術師の姿になり、炎で草を焼き払う。しかし、それ以上のスピードで茎が伸び、彼の体を締め上げていく。
 その光景を前に、ラビットドーパント…ミヅキは…

「…お姉ちゃんって、言うな!」

 ユウダイの方へ、飛び蹴りを仕掛けた。

「…」

 彼が片手を上げると、無数の草が伸び、矢の如き蹴りを柔らかく受け止めてしまった。

「お姉ちゃん、反抗期は止めにしよう?」

「クソがっ…この、雑草野郎…」

 悪態を吐きながら、纏わりつく草…シロツメクサの茎と葉に噛みつき、食い千切る。
 内輪揉めを始める2人を前に、ファンタジーはどうにか拘束を脱すると、足元に目をやった。

『!!』

 それを見た瞬間。考えるより先に彼は、白いマントをはためかせ、パステルカラーのアニメーションの世界へと、飛び込んでいった。
296 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/17(土) 12:59:39.42 ID:kdFZsgbw0



「…」

 金の装飾は削り落とされ、白の長衣は切り裂かれ、あちこちから青い血が流れる。白と黒の仮面ライダーは、執拗に腕の刃で怪人を斬りつける。彼の足元には、小さな一角獣が力尽きて倒れていた。
 薄れゆく意識の中で、彼女はぼんやりと考えた。

(…ここで、終われば…彼を、裏切らずに済む…)

「これで、トドメだ!」

『ファング! マキシマムドライブ』

 踵に、白い刃が出現する。そのまま飛び上がり、瀕死の怪人に、正義のキックを……



『……おい』



「…っ!?」

 高速回転するキックは、崩れ落ちる怪人ではなく、突然立ちはだかった銀色の騎士を捉えた。

「っ、このままっ…」

『…』

 鋭い刃が、騎士の鎧を砕き、剥がしていく。
 ___その下にある、漆黒の獣が、姿を現す。騎士でも魔術師でもない、お伽噺の……怪物。

「! な、何だ、その姿は」

「…駄目…とお、る…」



『グウゥゥ・・・』



 棘と刃に覆われた、禍々しい黒のボディ。深紅の複眼の下で、乱杭歯が軋んだ。
297 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/17(土) 13:00:08.83 ID:kdFZsgbw0
『ア゛ア゛ァァァァアアァッッ!!!』

 獣が、吠えた。彼は地面を蹴ると、凄まじい勢いで仮面ライダーに襲いかかった。

「ぐわっ!?」

 鋭い爪が、仮面ライダーの体を切り裂いた。咄嗟に腕の刃で応戦するが、その刃まで切り落とされた。

「何だっ、何だこれはっ!?」

「徹…徹っ! ……メモコーン!!」

 リンカの叫びに呼応するように、メモコーンが再び立ち上がった。カートゥーンドーパントを組み敷いて、一方的に蹂躙するファンタジーの元へ駆けつけると、その頭に頭突きを喰らわせた。

『グァッ! ……っ、はっ』

 彼の動きが止まった。一瞬、彼は戸惑うように周囲を見回した。そして足元に寄ってきた一角獣に気づくと、すぐにそれを拾い上げた。脚を折り畳むと……
 ……胴体を、二つに割った。

「!」

 中から現れたのは、黄色いガイアメモリ。噛み合う5本の牙が『W』の字を形作っている。
298 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/17(土) 13:04:54.78 ID:kdFZsgbw0



『ワイルド』



299 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/17(土) 13:07:08.74 ID:kdFZsgbw0
「ファンタジーの…第三の姿…!」

『超…変身!!』

 ドライバーに装填し、変形させる。メモコーンの体が、咆哮する竜の頭部となってドライバーと結合する。

『ワイルド』

『おお…うおおおぉぉぉぉ!!!』

 黒い体に、黄色のたてがみが生える。全身に青と赤のラインが走り、流麗な装甲を形成していく。
 ファンタジーが、言った。

『お前の身勝手な夢…物語は、俺が止める!』

「馬鹿な、ここは俺の世界だ! ここでは…」

『それは、どうかな』

 彼が言った瞬間、周囲の景色が一変した。
 鮮やかなビル群は消え、一面の草原に。標識の代わりに巨木が立ち、当てもなく走る車は自由な獣立ちへと変化した。そして、虚ろな目で彷徨う人々は、我に返ったように立ち止まり、互いを見つめ合った。
 その、無数の視線が、世界の中心に注がれる。
 そこにいたのは、歪なコスチュームを来た怪人と、野性的な装甲を纏ったヒーロー。



「が…頑張れ!」

「仮面ライダー! 頑張れーっ!」

「やっつけろー!」



「馬鹿な! こんなこと、ここは俺の…」

『お前だけの世界じゃない。ここにいる、全ての人たち、皆の世界だ! そして…』

 竜の上顎を押し、三度、噛み合わせる。

『ワイルド! マキシマムドライブ』

『この俺が…仮面ライダーファンタジーがいる限り…より強い想像が、より強い願いが勝つ!!』

 青と赤の装甲が、右足に収束していく。地面を蹴って高く跳び上がると、装甲は一本の巨大な刃となった。

『ワイルド・バイト!!』

 空中で右足を高く振り上げ…そして、振り下ろした。
 巨大な牙を纏った踵落としが、ドーパントの体を真っ二つに切り裂いた。

「あ…が…ぐわあああぁぁぁぁっっっ!!!」

 爆散するドーパント。
 次の瞬間、周囲は元の北風町に戻り、倒れ伏す1人の男と、解放された大勢の人々が残された。

『…リンカ』

「…」

 ファンタジーは、倒れて動かない女の体を抱き上げると…地面を蹴り、どこかへと去ってしまったのであった。
300 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/17(土) 13:07:59.72 ID:kdFZsgbw0
『向き合うC/願いの世界』完

アバンタイトルの前に設定投下します
301 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/17(土) 13:20:58.05 ID:kdFZsgbw0
『カートゥーンドーパント』

 『漫画』の記憶を内包するガイアメモリで、正体不明のストリート画家が変身したドーパント。ファンタジー同様、変身後の姿は変身者の意思によって変わるが、彼は以前自分と戦い、風都から追放した仮面ライダーの姿を模倣している。しかしその配色は左右逆で、体型もかなりマッシブになっており、ドライバーの形も歪。
 現実世界では薄紙を切り抜いたようなペラペラの体で行動しているが、これは本体から投影された像に過ぎず、どれだけ傷付けてもダメージを与えることはできない。本体は、後述するアニメーション世界の中に存在している。
 このドーパントは、平面に絵を描くことで想像の世界を創り出すことができる。描いただけでは本人が隠れる程度のスペースしか確保できないが、人を攫い、その世界に引きずり込んで『住民』とすることで、世界の広さと強固さを増すことができる。また、その世界においてはドーパントの姿は自身の想像により近くなり、更に力もより強くなる。この世界においては、彼は以前戦った仮面ライダーの各フォームと必殺技まで再現してみせた。つまり彼は、以前ファングジョーカーの必殺技ファングストライザーを喰らったことになるが、あくまで前述の虚像であったため生還することができた。もしエクストリームまで出されていたら、彼は風都で尽きていただろう。
 引きずり込んだアニメーション世界の中で、空想、作り話こそがカートゥーンの真実と宣言することで、トゥルースドーパントの一切の干渉を断ち切り、一方的に優位に立つことができた。しかし乱入してきたファンタジーによって、同系統の『空想』の力を叩き込まれたことで世界の強度が揺らいだ。そして、攫われた人々の声援を受けたファンタジーの必殺技によって、彼と彼の世界は滅ぼされたのであった。
 メモリはパステルカラー迷彩という変わった配色。漫画のコマを繋ぎ合わせたような線で『C』と書かれている。
302 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/17(土) 13:33:07.34 ID:kdFZsgbw0
『ワイルドメモリ/仮面ライダーファンタジー・ワイルド』

 『野生』の記憶を内包する、次世代型ガイアメモリ。ファンタジーが後述する暴走態になったときにメモコーンの胴体から出現するが、普段は存在しないメモリ。
 『空想』の記憶を持つファンタジーメモリであるが、ドライバーを介して毒性を除去しているために騎士や魔術師の姿となっているだけで、ドーパントとしての本来の姿は、棘や刃に覆われた黒い体の、禍々しい魔物である。激情に身を任せたファンタジーは装甲が崩壊し、この姿になって暴走してしまう。普段の姿の数倍の膂力や敏捷性を発揮するが、理性は失われ、ただ怒りに任せて目に見える全てを破壊しにかかる怪物と成り果ててしまう。
 しかし、ドライバーにワイルドメモリを装填することで、ファンタジーは理性を取り戻すことができる。これこそが、仮面ライダーファンタジー・ワイルドである。
 元の黒いボディの上から、青と赤の帯が鎧のように体の周りを走る。この帯は必要に応じて形を変え、盾になったり武器になったりする。そのため暴走態からややスピードは落ちるが、怪力は顕在で、かつ理性があるため荒々しくも効率的な戦闘を行うことができる。まさに、ファンタジーにとってのワイルドカード。『切り札』である。
 メモリの色は黄色。牙を噛み合せたような意匠で『W』と書かれている。このメモリをロストドライバーに装填して変形させることで、咆哮する竜の頭部のような形になる。



 なお、本編登場はこの一回きり。電王のウィングフォームやフォーゼのロケットステイツのような、いわゆる劇場版限定フォーム。ファンタジー・ワイルドの活躍が見たいお友達は、この夏、映画館へ急げ!
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/17(土) 14:01:08.61 ID:5bUaLLFN0
(でもユニコーンのなかに内蔵されてるならナズェヅガワナインディスって気分になるような)
304 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/17(土) 15:30:32.49 ID:2zUVqJSsO
アイアンメイデン・ドーパント

「鉄の処女」ことアイアンメイデンのガイアメモリから生まれるドーパント
顔はアイアンメイデンに付けられた女性の顔、体色は青銅色で女性らしい豊満な体つき
背中にはマントを羽織っている。右手にはハートを模した赤い宝石の付いた錫杖を、左手には鳥籠の様なものを持っている どことなく貴族風
女性特効を持ちドーパントになっていようとも女性には強い、また女性の血を浴びると強化していく。左手の鳥籠には気に入った女性を閉じ込める能力があり、ここに閉じ込めた女性を飼育して自分好みの血に育てることもできる。
アイアンメイデンは伝承の存在ではあるが実際に展示品として作られているため迂闊に「真実」の能力で否定しようとすると痛い目に合う
305 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/17(土) 16:20:09.82 ID:jgn5oy/8O
劇場ボス相当だったのかあのオッサン…
敵側も結構好きで、ミズキちゃんクソガキのクソビッチなのにヒロインっぽくて気になってるけど、蜜屋先生やミズキのHシーンありますか?
306 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/17(土) 20:57:18.97 ID:kdFZsgbw0



 どこを進んだのだろう。自分でも分からないまま、気が付くと彼は、町の北にある、山の頂上近くにいた。
 リンカの体をそっと下ろすと、ドライバーからメモリを外し、変身を解除する。不思議なことにワイルドメモリは、抜いた途端に光になって消え、メモコーンは独りでに元の形に戻って走り去った。野生の装甲が解けた瞬間、彼はその場に膝を突いた。

「徹…」

「…いや、大丈夫だ」

 徹は、弱々しく微笑んだ。それを心配そうに見つめるリンカも、傷だらけであった。
 見上げると、朝日が昇るところであった。

「…ああ、今日もいい天気だ」

 木漏れ日に目を細めながら、彼は息を吐いた。その隣に、リンカがそっと寄り添った。

「ガキの頃、夏休みにな。朝早くに家を抜け出して、こうして山に登って…カブトムシを捕まえたり、走り回ったり…こうして、空を見上げたり。雨が降っても、木に遮られて思ったほど濡れないし…」

「…」

「俺は…この町が好きなんだ。でかい風都の隣で、いろんな苦労をしながらも俺たちを育ててくれた、優しい母親のような、この町が」

「母親…ですか」

「ああ」

 徹は、真面目に頷いた。

「だから、勝手に母を名乗って、この町の人たちを傷付ける奴を、俺は許せない」

「そういうことですか。…」

 沈黙。やがてリンカは、彼に体を預けるように寄りかかった。

「私は…可能な限り、それを支援したいと思っています」

「何だよ、煮え切らないな」

 徹は苦笑した。

「…」

「…リンカ?」

 呼びかける徹。リンカは、しばらく黙って彼の肩に寄り添っていたが、不意に彼の首に両腕を回して抱き寄せた。

「おい…朝だぞ?」

「いつ次の襲撃があるか、分かりませんから」

 彼の胸に縋り、顔を見上げる。撫で付けた髪はすっかり乱れて、額や頬にかかる毛先が妙に艶かしく見えた。

「…本当に、するのか」

「私は、それを希望します」

「そうか。…分かった」

 徹は頷くと、彼女の首を抱き寄せた。
 木漏れ日の下で、2人は初めて、一つになった。



「な、何なんだね君は!?」

 工場の入り口に立って、真堂は叫んだ。彼の目の前には、白い詰め襟の服を着た、がたいの良い男がニヤニヤしながら立っていた。

「あ? てめえらの新しいご主人さまだよ」

「馬鹿なことを。お母様を差し置いて、この私が服従するものか!」アイソポッド!

 赤褐色のガイアメモリを取り出した真堂。白い服の男は、相変わらずニヤニヤしたまま、懐から濃緑色のメモリと、そしてロストドライバーを取り出した。

「良いぜ。ペットの躾は、飼い主の最初の仕事だ」

 ドライバーを装着し、メモリを掲げてみせる。

「…生物種としての、格の違いを見せてやる」
307 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/17(土) 22:45:26.85 ID:kdFZsgbw0
言い忘れてた

今夜はここまで
308 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/18(日) 16:57:32.50 ID:t9aDLu/h0
>>306の新キャラだけど、使用メモリは安価とった方が良いかな
それとも>>1が考えてたやつのままで良いかな?
309 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/18(日) 17:18:48.79 ID:nS4RuzFWO
出来るなら安価したいな
310 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/18(日) 17:21:36.05 ID:4OEv98ky0
安価がいいけど無理なさらず
311 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/18(日) 17:32:39.82 ID:t9aDLu/h0
よし、安価しよう!

↓1〜3でコンマ最大 財団Xのエージェント・ガイキが使用するガイアメモリ
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/18(日) 17:34:58.39 ID:KSXlGS+iO
「フォールダウン」

「堕落」の記憶を持つガイアメモリ
313 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/18(日) 17:36:54.78 ID:4OEv98ky0
ドミネーター(支配者)
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/18(日) 17:44:43.10 ID:9lbYD8/k0
キング(王)
315 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/18(日) 17:45:58.31 ID:nS4RuzFWO
トランス
「変化」の記憶を持つ
316 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/18(日) 19:03:26.95 ID:t9aDLu/h0
というわけで仮面ライダードミネーターとなりました

設定厨なので設定の供養だけさせて



『エボリューションメモリ』

 『進化』の記憶を内包する次世代型ガイアメモリ。本来、単独での使用は想定されておらず、他のメモリと同時に使用することで能力を進化、向上させることを目的として作られた。
 ___しかし、選ばれし者ならば単独で使用することで、人間の可能性、限りなき進化の顎(あぎと)に辿り着けるかもしれない。



 メモリの色は濃緑。未来へ伸びる矢印と、遺伝子の二重螺旋が『E』の字を描いている。
317 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/23(金) 14:22:32.43 ID:wdtQfa3v0
 『友長産婦人科』と書かれた看板の前で、2人は立ち止まった。
 愛巣会での一件の後、超常犯罪捜査課に依頼して、塾の専属医だという友長真澄について調べてもらっていた。騒ぎに乗じて彼女も姿を消しており、蜜屋や母神教と何らかの関係がある可能性が高いと、徹とリンカは考えていた。
 調査の結果、友長真澄という名の女医は日本国内に2人見つかった。その内1人は、九州の大学で研究室に勤めていた。そしてもう1人が風都で、産婦人科をしていた。年齢は48歳ということだが、塾で見た友長は年齢を推測しにくい容姿をしていたため、敢えて気にしないことにした。

「すみません」

 患者が少ない頃を見計らって、受付の事務員に声をかけた。

「診察券はお持ちですか?」

「あ、いえ、そういうわけではなくて」

 どうやら、受診に来た夫婦だと思われたらしい。慌てて否定すると、彼は奥をちらりと窺い、尋ねた。

「…あの、先生にお話を窺いたいのですが。私、記者をしている力野と申します。…」



 閉院後の診察室で、友長と向かい合った2人は、これは別人だとすぐに分かった。

「アポイントも無しに、何の御用でしょうか?」

 明らかに不愉快な声色で問う彼女は、塾で見た女とは程遠い。そもそも、目の前の友長医師は太っている。あの塾にいた友長は、胸は大きかったが腰は細かった。

「突然お邪魔してしまい、申し訳ありません。実は私たち、ある事件を追っておりまして」

 故に、作戦を変えた。
 徹は鞄から、一枚の顔写真を取り出した。これは警察署で予め作ってもらった、友長のモンタージュであった。

「この顔に見覚えはありませんか?」

「…」

 写真を受け取り、一瞥した瞬間、彼女の顔が小さく歪んだ。

「心当たりが?」

「…いえ」

 彼女は首を横に振ると、写真を突き返した。

「知っているとしても、患者さんの情報です。言うわけにはいきません」

「…はい」

 そう言われると、警察でもない2人には手の出しようがない。ここのところは、大人しく引き下がることにした。



「得意の口八丁で何とかなりませんか」

「ならねえよ。警察ならともかく、ただの記者には…だが」

 彼は、振り返って医院を一瞥した。

「あの女が、でたらめにここの医者の名を騙ったわけじゃないのは分かった」

「何か、接点がありそうな反応でした」

「ああ。それも、良い思い出じゃない。これがもし、『産婦人科医として』悪い思い出だとしたら…」

「厄介な患者。不可逆の病態。分娩の失敗。或いは…」

「…中絶。あの顔を見るに、一度や二度じゃなさそうだな」

「調べてみましょう。…但し、今度は警察と一緒に、です」
318 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/23(金) 14:23:21.20 ID:wdtQfa3v0



 収穫は、思わぬところから得られた。
 リンカが坂間刑事と共に市役所に行っている間に、何とアイドルドーパントの変身者だった太田衣麻理が、警察病院で目を覚ましたのだ。

「…ど、どうも」

 徹が病室を訪れると、衣麻理は顔を赤くして俯いた。メモリの副作用で自己顕示欲が増幅していた彼女は、徹の目の前で裸になり、そのまま通りへと出ていったことがある。彼を見ると、その時のことを思い出してしまうのだろう。

「体調は大丈夫ですか?」

「は、はい…まだ、頭ががんがんしますけど…」

 実際の所、彼女が目覚めるのはもっと先だと思っていた。ガイアメモリは、使い込むほどメモリブレイクされたときの反動が大きいことが多い。倒される直前の彼女は、かなりの力を溜め込んでいた。それでもこうして回復したのは、メモリとの相性が良かったのか、それとも能力の強化が可逆的なものであったからか。
 それにしても、こうしてガイアメモリの影響を脱した太田衣麻理は、言い方は悪いが美人ではなく、どこにでもいるような平凡な顔つきをしていた。彼女のインタビュー記事を依頼した藤沢も、「何でこんなののために、大はしゃぎで記事作ったんだろ…」と首を捻っていた。当然、記事は没になった。

「起き抜けで申し訳ないんですけど…」

 彼は、鞄から友長のモンタージュ写真を取り出した。

「ガイアメモリに関わったあなたなら、何か心当たりが無いかなと」

「この人は…」

 正直なところ、徹はあまり期待していなかった。彼女にメモリを与えたのは、母神教から離れていた頃のミヅキだ。蜜屋に近いと思われる友長のことを、彼女が知っているとは思えなかった。
 ところが、衣麻理は何かに気付いたように頷いた。

「…『バチカゼ』のボーカルに似てる、気がします」

「『バチカゼ』?」

 首をひねる徹。衣麻理は、説明した。

「正式には、『薔薇とチークと北風乙女』で、略して『バチカゼ』って言うんですけど…インディーズのバンドで、メジャーデビューの話もあった、その筋では割と有名なガールズバンドだったんです。でも、何年か前に急に活動休止になって、それからしばらくして解散しちゃんたんです」

「で、この人がバチカゼのボーカルだと?」

「私、結構ライブとか行ってたんですよ? 最後に見た時はもう少し若かったけど…」

 それから彼女は、不意に声を潜めた。

「…この人も、やっぱりガイアメモリに?」

「まだ分かりませんが」

「やっぱり…」

 徹は、驚いて言った。

「やっぱり? ガイアメモリに手を出すような心当たりが?」

「そういうわけじゃないですけど、バチカゼって結構黒い噂が多くて…活動休止になった理由も、ボーカルが失踪したからだって言うのが、一番有力な説なんです」

「失踪…」

 沈んだ面持ちで、頷く衣麻理。フーチューバーなるものを志した彼女の原点が、或いは黒い騒ぎの果てに消えた、そのインディーズバンドであったのかもしれない。



「バチカゼは、もう終わったの!」

 とあるライブハウスの楽屋で、レザージャケットを着た女が叫んだ。目の前にいるのは、汚れた格好の中年女。隈の浮いた目をぎらつかせながら、反論する。

「終わってないわ! まだやれる。また…一つに」

「なれない…なれるわけない…だって、シノはもう」
319 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/24(土) 00:34:44.35 ID:oOO+vY460
「シノは、生きてるわ」

「えっ?」

 乾いた唇を歪めて、女が言う。

「生きてるわ。そして、あたしたちを待ってる。だから、あたしたちはまた一つになって、シノを迎えてあげないと」

 レザージャケットの顔に、狼狽が浮かぶ。

「…で、でも」

「大丈夫。…シノは、全部許してくれる」

 言いながら彼女は……悪魔の小匣を、取り出した。

「!? な、何それ」

「さあ…一つになりましょ。また、『バチカゼ』として、一つに…!!」



「薔薇とチークと北風乙女。14年前に結成されたガールズバンドで、メンバーは全員北風町出身の5人」

 徹が、パソコンの前で言う。隣でリンカが、黙って耳を傾けている。

「リードギターのエナ。リズムギター兼コーラスのサヤ。ベースのタラ。ドラムのママオ。そして、ボーカルのシノ。…本名、成瀬ヨシノ」

「連絡を受けて、戸籍を確認しましたが、3年前に成瀬の死亡届が提出されていました」

「ああ。よく探したら、その頃に彼女の自殺が、一部の芸能紙で報じられていた。だが、海岸に遺書と靴が置かれていただけで、遺体は見つかっていないらしい」

「では、成瀬が今も生きていて、母神教に関わっている、と?」

「ああ。まだ断言はできないが…」

 その時、徹の携帯が鳴った。画面には『植木警部』の文字。

”大変だ、東吹寄のオフィスビルにドーパントだ!”

「すぐに行きます!」

 徹は電話を切ると、立ち上がった。

「久し振りに植木さんに呼ばれた気がするな。…リンカ、行ってくる!」
320 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/24(土) 00:35:49.15 ID:oOO+vY460
今夜はここまで
321 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/08/24(土) 22:44:00.29 ID:oOO+vY460



 東吹寄は、北風駅から電車で3駅離れたところにある地区で、土地が広く交通の便も良いため企業のオフィスが集中している。その中でもひときわ目立つ高層ビル(と言ってもせいぜい15階建てだが)の前に、警察車両が並んでいた。

「近付かないで! ここは迂回してください!」

 交通整理を行う若い警官は、猛スピードで接近してくる白銀のバイクと、それに跨る西洋騎士に気付くと、ぽかんと口を開けた。

「え…」

『ちょっと通らせてもらうぜ!』

 仮面ライダーはハンドルを切ると、警官を避けて破壊されたビルの入り口に向かって突撃した。



「タラー、どこにいるのー?」

 屋内に入ると、気の抜けたような声が聞こえてきた。どうやら、ドーパントは上の階にいるらしい。それにしても、やたらと通る声だ。壁や天井が、びりびりと揺れている。
 バイクを駆って、階段を駆け上がると、敵は何と6階にいた。

『見つけたぞ、ドーパント!』

「…?」

 背後から飛んできた呼び声に、ドーパントが振り向いた。
 やたらと不格好な体型であった。黒いスピーカーのような胴体で、人間なら頭がある部分には何もなく、代わりに両肩からエレキギターのネックが飛び出している。腕はシンバルや太鼓を雑にくっつけたような形状で、脚は色とりどりのケーブルがもつれ合ってできていた。

「誰、あんた」

『仮面ライダーファンタジー。お前を、止めに来た!』

「何よ、それ」

 面倒くさそうに応えると…突然、ドーパントが大声で叫んだ。

『っ!?』

 2本分のギターサウンドが、ファンタジーを襲う。凄まじい音量と圧力に、彼は思わず後退した。
322 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/24(土) 22:44:35.40 ID:oOO+vY460
『なっ、何だこれ……メモコーン!』

 駆けつけた一角獣を変形させ、ドライバーに装填する。

『楽器のドーパント、か…?』クエスト!

『だったら、こいつでどうだ!』

 赤と白の魔術師となり、両手を前に突き出す。現れた魔法陣の周囲の空気が、円形に歪んだ。

『くっ…空気が無けれが音は伝わらないが、流石にこの辺全部真空は無理か…っ』

「何だか知らないけど、邪魔しないでよね」

 楽器のドーパントはファンタジーに歩み寄ると、左手にくっついたバスドラムで彼を殴りつけた。

『このっ!』

 防御を解除して躱すと、クエストワンドを出現させた。タムやシンバルで攻撃するドライバーに、杖で応戦する。

「ふんっ! ふんっ!」

『たあっ! せっ!』

 打ち合う度に、腕が痺れるほどの衝撃が襲う。まるで、数人に同時に殴られているかのようだ。
 ファンタジーは一歩下がると、杖を突き出した。

『喰らえっ!』

 杖から水が噴き出し、スピーカーに降りかかる。

「! アンプが…」

 ドーパントは咄嗟に横に躱すと、左手を大きく振った。肘のあたりに付いたシンバルが、鋭い刃のように飛来する。
 それを避けると、ファンタジーは今度は炎を放った。

「もうっ! さっきから機材に何てことを!」

『嫌なら、大人しくメモリブレイクさせろ』

「嫌。タラを探さないと。あの人で最後なのに」

『タラ? それは…』

 言いかけて、彼ははっとなった。

『…まさか、バチカゼの』
323 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/24(土) 22:45:15.79 ID:oOO+vY460
「バチカゼは復活するわ! 再び、一つになるの!」

 ドーパントが叫んだ次の瞬間、胴体のスピーカーから再び大音量のサウンドが流れ出した。爆音に絶えてよく聴いてみると、ギターだけでなくドラムのサウンドも混じっている。そして、何かの曲を演奏しているようであった。

『クソっ、これは…』

「タラ、タラ! 逃げないで! 一緒にシノを迎えましょう!」

 歌うように叫ぶドーパント。ファンタジーは片耳を塞ぎながら、杖を振りかざすと…

『…せいっ!』

 床を、杖の先で叩いた。そこから大きなヒビが走り、ドーパントの方へと伸びていく。

「そして、バチカゼは再び…ッッ!?」

 ドーパントの声が止まった。
 そして遂に、床が崩れ落ちた。

「ああああっっ…!?」

 下の階へと落ちていくドーパント。それを追いかけるようにファンタジーは床の穴に飛び込んだ。

『クエスト・ラストアンサー!』クエスト! マキシマムドライブ

 落ちていくドーパント目掛けて、銀色のグリフォンが吶喊を仕掛ける。迫りくる危機に、ドーパントは…

「…ふんっ!」

 突然、体をばらばらに分解した。

『!?』

 砕けていくドーパントを素通りして、1階の床に激突するファンタジー。すれ違いざまに彼が見たのは、ばらばらに漂って消えていく、2本のギターと、ドラムセットであった。
324 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/24(土) 22:46:58.41 ID:oOO+vY460
『Oの亡霊/一人ぼっちのロックバンド』完

今夜はここまで
325 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/29(木) 22:01:01.55 ID:hQKFxfpJ0
「あんたが、バチカゼの元ベーシストのタラ、本名を足立宝だね」

 植木の問いかけに、足立はおずおずと頷いた。
 楽器のドーパントが出現したオフィスビルの6階には、ある音楽プロダクションがあった。バチカゼ解散後、足立は音楽プロデューサーとして頭角を現し、現在はそのプロダクションで働いているのであった。しかしドーパントが現れた時、幸運にも彼女は仕事で外出していて不在だった。

「プロダクションを襲った怪物は、あんたの名を呼んでたそうだ。何か、心当たりは無いか?」

「…」

 足立は黙って手元を見つめると、やがておもむろにポケットに手を入れ、スマートフォンを取り出した。

「…2日前、知らないアドレスからメールが来ました」

 画面には、『不明な差出人』から届いた、一通の電子メールが表示されていた。



”バチカゼは再結成する。あなたが最後”



「…バチカゼは、もう終わった存在なのに。この人は、何度も何度も再結成だ、復活だ、会いに来いって…」

「そして無視していたら、とうとう向こうから?」

「そういうことだと、思います」

 そこへ、坂間ともう一人の若い警官が入ってきた。

「失礼します」

「おう、どうだった」

「既に死亡届の出ている成瀬以外の、元メンバーの行方を追ってますが…最後に自宅近くでドラムの比高麻央が目撃されたのを最後に、全員消息を絶っています」

「そうか…」

「…」

 黙り込む足立に、植木は声をかけた。

「…率直に言って、犯人はバンドの元メンバーの誰かだろう。改めて訊くが、何か心当たりは無いか」
326 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/29(木) 22:01:36.44 ID:hQKFxfpJ0
「…別に。強いて言うなら、不思議です」

「不思議?」

「だって…バチカゼがばらばらになって、もう10年近いのに…何で今更、よりを戻そうっての? あんなに取り返しのつかないことになったのに、どうして…!」

 拳を震わせる足立。植木と坂間は、何も言えずに顔を見合わせた。



 その頃。警察署の会議室では、徹とリンカ、そして衣麻理の3人が、スクリーンでライブのDVDを鑑賞していた。無論、バチカゼのライブである。衣麻理が実際に客として参加した回のもので、後日僅かに販売されたDVDも、彼女が入手したものであった。

「確かに、ボーカルは友長真澄に似ていますね」

 マイクを握る女を凝視しながら、リンカが言った。個人制作らしく画質の荒い映像であったが、確かにボーカルのシノは、愛巣会で会った友長の若い頃といった感じで、ほとんど同一人物のように見えた。

「…デビューしてから5年もしない内に、どこかのレーベルからメジャーデビューの話は来てたらしいんですよ」

 じっとスクリーンを見つめながら、衣麻理がぽつりと言った。

「でも…デビューさせようとしていたのは、バチカゼじゃなくて、シノ個人だったんです」

「それで、メンバーとの間に軋轢が?」

「あくまで、噂ですけど…」

 画面から目を離さない衣麻理。徹も、彼女の横でスクリーンに目を凝らす。そのスカウトは、5人の中で彼女にだけ、輝く何かを見つけたのだろうか…
 バンドの歌をバックに、一瞬だけ観客席が映った。

「…! 止めて!」

 突然、リンカが叫んだ。

「えっ? あっ、はい…」

「10秒巻き戻して。…」

 再び観客席が映る。ぐるりと見回すカメラワークの途中で、リンカが映像を止めた。

「ここ、最前列に」

「うん? ……あっ!」

 彼女の指差す先を見て、徹は驚愕した。

「何で…何で、九頭がここに…!?」

 2人の注目する先。観客席の最前列には、サビのメロディに合わせて手を振る、元ガイアメモリ密売人の、九頭英生の姿が映っていた。
327 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/29(木) 22:03:09.72 ID:hQKFxfpJ0



「あんたもロックンロールを聴くんだな」

 部屋に入ってくるや、白い詰襟服の男は蜜屋の座る椅子に歩み寄り、後ろから彼女の肩に腕を回した。この馴れ馴れしい髭面の偉丈夫に、蜜屋は僅かに眉をひそめるものの、あくまで穏やかな声で応えた。

「ええ。生徒たちの嗜好は把握しておくべきだもの」

「生徒、ねえ。あんた自身はどうなんだよ」

「…別に。興味ないわ」

「ははっ、そうかよ」

 男は笑うと、肩に回した手を伸ばし、彼女の胸を掴んだ。

「…悪いことは言わないわ。もう少し、若い娘にしておきなさい」

「俺はな、強い女が好きなんだよ。俺より強い女なら、なおさら良い」

「だったら…」

 そこへ、真堂が乱暴にドアを開けて入ってきた。

「おい、お前!」

「…ンだよ、騒がしいなコータ」

「ンだよじゃない! 試作品のメモリを勝手に持ち出して…お母様に知れたら、どうなるか」

「良いじゃねえか。あんたらの大事なお母様とやらを、湿っぽい聖堂から引きずり出せたら、大したもんじゃねえか」

「き、貴様…」

 いきり立つ真堂。男は退屈そうに言う。

「大体、あんなのはオマケだ。…『X』のメモリは、いつになったら完成する?」

「…あと、少しだ」

「期待してるぜ」

 全く心の無い口調。真堂は唇を噛んだ。
328 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/29(木) 22:03:40.54 ID:hQKFxfpJ0
今夜はここまで

蜜屋先生のエロって需要ある…?
329 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/29(木) 22:30:31.01 ID:YHMGU6IIO

エロ需要…あると思う(こなみ)
330 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/29(木) 22:47:32.42 ID:6E2e2MJoO
あります
331 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/31(土) 09:25:51.71 ID:XnmVGGyV0



 捜査は難航を極めていた。最後に目撃されたのはドラムのママオだが、その前日にはリードギターのエナが、さらにその日の早朝には、ギターコーラスのサヤがそれぞれ別の場所で目撃されていたことが判明した。ママオがギターの2人を順に呼び出して襲ったと考えるのは簡単だが、同じことはその2人に対しても言える。ほとんど同時期に目撃されたために、3人への疑いが同じレベルになってしまったのだ。
 失踪する前の行動が少しでも掴めないか。そう思った植木と徹は、リードギターのエナ、本名を出水恵那の夫、出水涼に話を聞いていた。

「本当に、突然でした」

 出水は、暗い顔で答えた。

「でも、言われてみれば…いなくなる直前に、何か携帯に着信があったような気もします。ただ、妻とは言え他人の携帯を覗くのはマナー違反ですから」

「…失礼ですが、奥様とはどちらで出会われたのですか?」

「ああ。彼女も僕も、音楽の仕事をしてまして。レコーディングのスタジオでばったり会って、それ以来」

 彼は、部屋の壁に張られた写真に目を遣った。そこには、ギターを提げたエナと、トランペットを持った出水の姿が映っていた。



「出水恵那はシロだろうか」

 独り言のように、植木が零した。徹は首を横に振った。

「そう考えるのは早いと思います。そもそも、出水涼が共犯である可能性もあります」

「彼が?」

「ええ。…調べた所によると、2人はバチカゼの解散前には既に交際しています。10年近く連れ添った相手が急にいなくなったにしては、動揺が小さい気がします」

「いなくなることが、彼の中で既に織り込み済みだった、と?」

「ええ。こうやって口に出すと、別の可能性まで出てきちゃいますね」

「当てようか。…出水が別のメンバーと通じていて、協力して恵那を陥れた」

 徹は頷いた。頷いておいて、溜め息を吐いた。

「…あくまで、憶測です。と言うより、妄想に近い」

「とにかく、今は足立の周辺を警戒した方が良いだろうな」

「私もそう思います」

 現在、足立は本人の了承のもと少し離れたホテルに移ってもらい、そこで数人の警官による護衛を受けている。それとは別に、足立の自宅の方にはリンカが控えていて、ドーパントが襲撃してくるのを待っていた。
332 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/31(土) 11:30:09.61 ID:XnmVGGyV0



 ところがその翌日、植木の携帯に届いたのは、ホテルで警護にあたる警官からの救助要請だった。

”ど、ドーパント、が…”

「何だと!? リンカさんから何か連絡は?」

”いえ…敵は直接、こちらに来たものと…うわあっ!”

「おいっ! マルタイは無事なのか?」

”坂間さんが、連れて逃げて…”

「分かった。君は身の安全を確保して、可能なら周囲の人の避難誘導を頼む」

 植木は部下と共にパトカーに飛び乗ると、サイレンを鳴らして走り出した。
 走り出して数分後、その隣を銀色のバイクが猛スピードで駆け抜けていった。



 足立の自宅から十分離れた場所にある、古びたビジネスホテル。その入口は、粉々に破壊されていた。

『遅かったか…!』

 既にセイバーメモリを装填し、蒼と銀の騎士の姿となったファンタジーは、足早にホテルの中へと進んだ。
 例によって、ホテルの中ではドーパントの声が壁を震わせながら響き渡っていた。

「タラ、逃げないでよ、タラー!」

『…! 坂間刑事!』

 エントランスに、坂間が倒れているのに気付き、彼は駆け寄った。

『大丈夫ですか?!』

「…っ、足立が、まだ上に…ここまで逃げてきたは良いが、見つかってしまった…足立は追いかけられて、咄嗟に階段を上って、行ってしまった」

『すぐ行きます。ここで休んでてください』

 ひしゃげた非常階段のドアをくぐると、ファンタジーは上の階を目指した。
333 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/31(土) 11:30:37.74 ID:XnmVGGyV0



「やっと見つけた…」

 廊下の突き当りで、追い詰められた足立に、楽器のドーパントが迫る。

「来ないで…来ないでよ」

「これで、皆でシノを迎えられるね。さあ、もう一度一つに」

『そこまでだ!!』

 そこへ、仮面ライダーが現れた。彼は、驚いて振り返ったドーパント目掛けて、渾身の飛び蹴りを見舞った。

「きゃあっ!?」

『何でここが分かったのか知らないが…とにかく、倒す!』

 剣を構えるファンタジー。ドーパントが金切り声を上げる。

「邪魔しないで!! 私たちの夢を…」

「あんた1人の夢だ!!」

 突然、足立が叫んだ。

「シノはあたしたちを裏切った。そして死んだ! バチカゼはばらばらになって、それぞれが自分の道を見つけたのに。どうして、今更…」

「シノは生きてるわ。そして、バチカゼはまた蘇る…!」

『蘇るってんなら、まっとうに再結成してくれ! ガイアメモリなんて使うんじゃない!』

 ファンタジーは剣を振り上げると、ドーパントに斬りつけた。ドーパントも、シンバルの刃で応戦する。

『足立さん、今のうちに逃げるんだ!』

「逃さない!」

 ドーパントの足から無数のケーブルが伸び、足立の体に巻き付いた。

「っ、放してっ」

『!』

 ファンタジーは、両手で剣を大きく振りかぶった。

『ジャスティセイバー・雷切!!』

 次の瞬間、刀身を白い電光が走った。雷の刃で、足立に纏わりつくケーブルを一太刀に切断すると、返す刀でドーパントを斬った。

「ぐぅっ…!」
334 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/31(土) 11:33:53.68 ID:XnmVGGyV0
『せいっ、たあっ! …はあぁっ!!』

「ぐあっ」

 袈裟に斬りつけた刃が、ドーパントの肩口を深く切り裂く。致命的な一撃に、とうとうドーパントが膝を突いた。

『トドメだ!』セイバー! マキシマムドライブ

 蒼い閃光が、ドーパントに迫る。ドーパントは、膝立ちのまま体をファンタジーに向けると…
 突然、胴体のスピーカーから甲高い音が鳴り響いた。

『くっ、ああぁっ!?』

 剣閃が逸れる。その隙にドーパントは素早くケーブルを伸ばし、足立の体を捉えて引き寄せた。

『! やっ、やめろっ!』

「嫌っ! 放してっ!」

 メモリを換える暇もない。ファンタジーは咄嗟に剣を振りかざしたが、足立の体を盾にされてしまい、動けない。

「あ、あぁ…」

 彼女の体が、ケーブルの中に呑み込まれていく。やがて…ドーパントの背中から、もう一本のギターネックが生えてきた。しかし、両肩の二本と違い、弦は4本だ。

『…このぉっ!!』

 耳をつんざく高音に耐えながら、剣を構えるファンタジー。その目の前で、ドーパントは突然、変身を解除した。

『!?』

「…」

 そこに立っていたのは、先程ドーパントに取り込まれたはずの、足立自身であった。

『どういうことだ…?』

「これで、揃った…」

 熱に浮かされたように、足立が言う。次の瞬間、その姿がゆらゆらと波打ち、そして消えた。

「力野さん! …こ、これは」

「…逃げられました」

 変身を解除しながら、徹は悔しげに言った。

「ですが…犯人は分かりました」
335 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/31(土) 16:30:06.43 ID:XnmVGGyV0



 邸宅の前にタクシーを停めると、出水涼は車を降りた。その顔には、隠しきれない興奮の色が浮かんでいた。

「ふ、ふふ…これで、ようやく…」

「出水、涼さん」

 突然、背後から飛んできた声に、彼ははっと振り返った。
 そこには、腕組みする植木と、徹が立っていた。

「…何ですか」

「あなたの奥様を攫ったと思われる犯人…あなたなら、お分かりでしょう?」

「何の話です。そんなの、こっちが知りたいくらいだ」

「あのドーパントには」

 徹が、一歩前に進み出た。

「取り込んだ相手の得意とする楽器を、自分の体に出現させて利用するという特徴があった。実際、ベーシストの足立宝が取り込まれた後、奴の体からはベースのネックが生えてきた」

「…」

 強張った顔で、2人を睨む出水。徹は続ける。

「だが…追い詰められたドーパントが発した音は、今までに取り込んだメンバー…ギター、ドラム、そのどれとも違っていた。……あれは、トランペットの音だった」

「!」

「出水さん、あんた、トランペット奏者なんだろう?」

 突然、植木がぶっきらぼうな口調になって言った。

「失踪したメンバーと近いところにいながら、自分は狙われず…そして、ドーパントはバンドにいないはずのトランペットの音を発した。つまり、あの中には既に誰かトランペット奏者が取り込まれていた!」

「本当にバチカゼの再結成だけが望みなら、トランペットは必要なかったはずだ。なのに何故、ドーパントはトランペットまで取り込んだのか? …他ならぬトランペット奏者、お前がドーパントだからだ!」

 出水を指差し、断ずる徹。出水は…

「…馬鹿な。さっきから聞いていれば、まるで自分が実際に見て、聞いたかのような言い方。恵那や、他の人たちが襲われるところを、君たちは見たのか?」

「見たさ」ファンタジー

「!?」

 徹は、躊躇なくガイアメモリを掲げてみせた。それが、つい先程交戦した仮面ライダーのメモリだと分かった瞬間、出水の顔に狼狽が浮かんだ。

「…そういう、ことか!」

 彼はジャケットの懐に手を入れると、金色のガイアメモリを取り出した。筐体には、音符の載った五線で『O』と書かれている。

「! ゴールドメモリ…!?」
336 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/31(土) 16:30:47.34 ID:XnmVGGyV0



『オーケストラ』



「これが…僕の夢だ…!」

「変身!」

 メモリを耳に挿す出水。徹は変身すると、セイバーメモリを装填した。

『いくぞ!』

「邪魔なんてさせない…させないわ!」

 ドーパントが、数人分の女の声を重ねたような声で叫んだ。
 夜の高級住宅街で、激しい戦闘が始まった。

「バチカゼは…私の、夢だった!」

『お前も、ファンだったってことか』

 バスドラムの拳を躱し、剣を突き出す。

「初めて見た時から…輝くものを感じてた! 一緒に、ステージに立ちたいって思ってた!」

『だったら何故ガイアメモリに手を出した! 恵那さんを説得すれば良かったのに』

「そんなのは無理よ! シノはもう死んだ…だから、諦めてた。でもあの日、神の力を得た!」

 高速回転するシンバルが、ファンタジーの胸元目掛けて飛んでくる。それを弾き飛ばすと、彼は呻いた。

『お前も『神』か…!』

「そして今、メンバーが揃った! 今なら!」

 オーケストラドーパントが、後ろへ下がる。それから両腕を広げると、スピーカーから大音量のサウンドが鳴り響いた。
 それは、先日観たビデオに収録されていた、バチカゼの曲であった。

『もっと…やり方があったはずだろ!』

 ファンタジーは、剣を高く掲げた。その刀身を、白い稲妻が走る。

『ジャスティセイバー…雷切!!』

 振り下ろした切っ先から雷が迸り、ドーパントを襲う。が

「はははははっ!! もう効かない、効かないわ!!」

 足のケーブルから電気が吸収され、音量が更に増していく。

『クソっ、駄目か…』



「おい、うるさいぞ!」

「今何時だと思ってるの?!」



 そこへ、いくつかの怒声が飛んできた。見ると、数件の民家から住民が顔を出している。どうやら、迷惑なパフォーマーがいると思われたらしい。

『危ない!』

「…折角だから、コーラス隊に加わってもらいましょうか」

 ドーパントが言った瞬間、足のケーブルが四方八方へと伸びて、住民を捕らえた。そのまま素早く引き寄せ、体に取り込んでしまった。

『やめっ…』

「ふふふふ…シノには敵わないけど、数合わせくらいなら…」

 遂に、ドーパントの頭が生えてきた。黒いマイクのような頭部には、顔がなく、大きく開かれた口だけが無数に付いていた。

「さあ…シノに会いに行きましょ!」

 大音量で音楽を流しながら、ドーパントが走り出した。
337 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/31(土) 18:36:48.94 ID:XnmVGGyV0



 すれ違う人々を吸収しながら、逃走するドーパント。それをバイクで追跡するファンタジー。人間を取り込むたびにドーパントには口が増え、身体もどんどん大きくなっていく。
 やがて住宅街を抜け、繁華街に出る頃には、全長数メートルを超える巨大な怪物になっていた。

「シノ! シノ! どこにいるの! 私たちはここよ!!」

『止まれ、止まれーっ!』

 クエストメモリに換装し、杖を振りかざす。次々に火の玉をぶつけるが、怪物は止まらない。
 何か、手はないのか。絶望的な気持ちでハンドルを握っていたその時

「…?」

 突然、オーケストラドーパントが歩みを止めた。

『な、何が…』

 立ち止まり、見つめる先には、1人の男が立っていた。



「…貴方を、生かしておくわけにはいきません!」



『あれは…九頭?』

 逃げ惑う人々の真ん中に立つのは、怒りに燃えた顔の九頭英生であった。その両脇には、ミヅキとユウダイも控えている。

「残しておいてはならない、悪夢の残渣…兄弟たち、あれをお母様の目に触れさせてはなりませんよ!」マスカレイド

「は〜い」ラビット

「頑張ろうね、お姉ちゃん」クローバー

 3人は各々メモリを挿し、ドーパントに変身した。その間際、ミヅキがファンタジーに気付いて、笑顔で手を振った。それから一転、緑と白に包まれていくユウダイに向かって舌打ちした。
 白い花冠を被った、天使のような少年…クローバードーパントが両手をかざすと、オーケストラの体にシロツメクサが何重にも巻き付いた。そこへ、ラビットドーパントが飛び蹴りを見舞った。

「ぐうぅっ…」

 呻くオーケストラドーパント。シンバルやタムの腕を振り回しながら、多重コーラスを響かせた。

「うるっさい! この音痴!」
338 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/31(土) 18:37:15.44 ID:XnmVGGyV0
 キックの反動で飛び上がり、今度は踵落とし。動けない敵を、軽やかに傷付けていく。
 そして遂に、巨獣が頭を地に伏せた。すかさずマスカレイドドーパントが、どこからともなく取り出したロケット弾を撃ち込む。

「死ね、死ね! 無かった過去です! 貴方達は…」

『おい待て! それ以上やったら死ぬぞ!』セイバー! マキシマムドライブ

 トドメを刺される前に、メモリブレイクだけでもしようと剣を構え、バイクで迫る。ところが

『…ぐわあぁっ!?』

 突然、正面から何かが激突し、ファンタジーはバイクごと跳ね飛ばされた。
 次の瞬間、辺りが白い光に包まれた。

「! いけません…」

 懇願する九頭。その隣に光が収束した。そして、その中から現れたのは…

『はあっ……っ! 友長、真澄…』



「…」



 友長は一瞬、虚ろな目で目の前の怪物を眺めた。が、すぐに異様な光が灯った。

「…ああ。そう。そうなのね」

「シノ! シノ! やっと会えた!!」

 たちまち息を吹き返す、オーケストラドーパント。シロツメクサの拘束を引きちぎり、連撃するラビットドーパントをはたき落とした。

「ぐえっ」

「さあ、こっちに来て…バチカゼを、もう一度!」

 呼びかける、かつての友。友長真澄、いや、成瀬ヨシノは、穏やかな笑みを浮かべると…
339 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/31(土) 18:37:47.06 ID:XnmVGGyV0



「…あなたも、『母』が愛しましょう」


340 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/31(土) 18:38:14.57 ID:XnmVGGyV0
『…今、何て言った?』

 呟いたその時、成瀬の体から白い光が迸った。溶け出すようにその体が霞み…やがて、そこに立っていたのは、マリア像めいた白い肌の、美しい女のドーパントであった。

「なりません…『お母様』!」

 引き留めようとする九頭。しかし成瀬…『お母様』は構わず、片手を軽く突き出した。

「ぐあああぁっぁっっ!?!」

 たったそれだけで、巨大なオーケストラドーパントの体が空高く打ち上げられた。
 落ちてくるドーパント。『お母様』が両腕を広げると、その着地点に巨大な裂け目が開いた。

「さあ…母の胎内へ、おかえりなさい」

「嫌、あ、あああっ…」

 蒸気を発する巨大な穴に、ドーパントが呑み込まれていく。助けを求めるように突き出したトランペットのベルが、根本からぼっきりと折れて、消えた。
341 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/31(土) 18:38:42.50 ID:XnmVGGyV0
『…なんてこった』

 呆然と、ファンタジーは呟いた。出水やバチカゼのメンバーだけではない。道中で取り込まれた多くの人々ごと、あの穴に消えてしまった。

「また会いましたね、仮面ライダー」

『お前が…お母様…』

 ファンタジーは、剣を構えた。
 お母様は動じない。

「あのドーパントが心配なら、それは不要ですよ。あの子達は、母の中で再び生まれる時を待っています」

『! じゃあ、九頭が今も生きているのも』

「お母様の愛あってのことです」

 マスカレイドドーパントが、2人の間に割って入った。

「お母様は、敵である貴方にも愛を注いでくださるのです。跪きなさい。それだけが、貴方の」

『…九頭』

 ファンタジーは、彼の言葉を遮った。

『お前…バチカゼのファンだったんだな』

「やめなさい! その名を出すな! その名を、お母様に聞かせるな…」

「英生」

『成瀬ヨシノにメモリを与えたのは、お前なんだろ? …彼女を、愛していたのか。彼女に、何があった? バチカゼは、どうして崩壊した』

「やめろやめろやめろぉーっっ!!!」

 九頭は絶叫しながら、ファンタジーに殴りかかろうとした。が、その動きはすぐに止まった。

「…英生。あなたが怒ることはありませんよ」

「お母様! 放してください…さもなくば」

 彼の言葉は、途中で途切れた。見えない力が、彼の体をぺしゃんこに握り潰してしまったのだ。
 メモリの機能で爆散する九頭。その後ろで、お母様は握った手を広げた。

『…お前がやったのか』

「彼はまた生まれてきます。何度も通った道です。それより」

 マリア像めいた顔が、ファンタジーを捉えた。

「母は、あなたを愛したい。母と共に、帰りましょう?」

『…断る』

 ドーパントの体が光に包まれ、また成瀬の姿に戻った。

「…いつでも、待っていますよ」

「待ってるよ〜!」

 いつの間にか変身を解き、手を振るミヅキ。次の瞬間、ミズキとユウダイ、そして成瀬ヨシノの姿は、光の中に消えてしまった。
342 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/31(土) 22:21:31.46 ID:XnmVGGyV0



「…はい。能力の正体が分かりました。あのメモリは…」

 深夜。アパートの玄関先に出て、リンカが電話をかけている。早口に情報を交わすと、彼女は電話を切って、部屋の中に戻った。
 そこには、徹が立っていた。

「!」

「…ああ。用事は済んだか」

「な、ぜ…貴方が、起きて…」

「いや、喉が乾いただけだよ」

 眠そうな顔で笑う徹。その顔を見た瞬間、リンカは何も言わず、彼に縋り付いた。

「ど、どうした? 何かあったか」

「…」

 リンカは黙って、彼の体を押して寝室まで入った。そうして彼をベッドの上に押し倒すと、自分はその上に跨った。

「私は…貴方、に…」

 乱暴にシャツを脱ぎ、質素なブラも外す。慎ましい乳房を露わにすると、背を曲げて彼の唇を奪った。

「んっ…っは。…嫌なことでもあったんだな」

「…」

 残りの衣服も脱ぎ、徹の服も脱がせていく。裸の胸に、涙の雫がぽたぽたと落ちるのを、徹は何も言わず感じていた。



「…おう。ご苦労」

 男は通話を切ると、携帯を放り投げた。

「随分とお仕事熱心なのね」

 彼の下で、蜜屋が嫌味っぽく言った。男は嗤った。

「悪い悪い。もうしねえから」

 言いながら彼女の乳房を乱暴に掴み、腰を大きく振った。

「んっ」

「いい具合じゃねえか。流石に先生は、ガキとつるんでるだけあってカラダが若い」

「教育、指導しているの。遊んでるんじゃないわ」

「はいはい、そうだな」

 腰を振りながら、男は彼女の乳首に歯を立てた。身動ぎする蜜屋。

「っ、あぁ…中で出すから、孕めよ…」

「あっ…無茶、言わないで…っ」

 男の動きが止まった。肩を震わす男。腹の中に広がる熱に、蜜屋は思わず湿った声を上げた。



 その部屋の向こうでは、真堂が緊張の面持ちで机の上を見つめていた。

「つ…遂に、完成した…だが…」

 作業台の上の、真新しいガイアメモリ。それを取り上げると、彼はごくりと唾を呑んだ。

「…あいつらは、もはや信用ならん…ならば…」

 彼は辺りを窺うと、作業着のポケットから古びた二つ折りの携帯電話を取り出した。番号をプッシュし、耳に当てる。

「…もしもし、私だ。すぐに来てくれ。…いや、そんなことではない、もっと重要なことだ…」
343 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/31(土) 22:22:24.44 ID:XnmVGGyV0
『Oの亡霊/消えざる過去』完

今夜はここまで
344 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/31(土) 22:37:37.95 ID:XnmVGGyV0
『オーケストラドーパント』

 『楽団』の記憶を内包するガイアメモリで、トランペット奏者の出水涼が変身するドーパント。ただ変身しただけの場合、スピーカーのような胴体からケーブルめいた手足が生えているだけの、貧弱なドーパントに過ぎない。しかし、このドーパントは他の人間を吸収・同化することで能力が増していく。特に相手が楽器の演奏者である場合、体にその楽器のパーツが追加されていき、スピーカーから出せる音も増えていく。また、吸収した人間の姿に変身することもできる。そのため出水は、バチカゼの元メンバーの前に現れる時は、誰か他のメンバーの姿を取った。しかしその一方で、ある程度意識も残るため、変身時は複数人の意識が混合した、曖昧な状態となる。男である出水が、変身後は女の声や口調になっていたのも、このためである。
 フリーのトランペット奏者でありながら、結成時からの『薔薇とチークと北風乙女』のファンであった彼は、いつか彼女らのサポートメンバーとして共にステージに立つ日を夢見ていた。しかし、その夢は叶わずバンドは解散。ギタリストの財都丸恵那と結ばれるものの、満たされない日々を送っていた。そんなある時、白い服の男からこのメモリを渡され、「ボーカルのシノは生きている」と告げられる。その言葉を信じた彼はメモリを使用。妻の恵那に始まり、次々とメンバーを取り込んでいくこととなった。
 メモリの色は金。音符の載った五線譜が円を描き、『O』の文字を形成している。金塗りではあるが正式な幹部メモリではなく、ミュージアム崩壊後に作られた新種のメモリ。色も幹部メモリを意識したわけではなく、金管楽器の色をイメージしただけである。



>>208をかなりアレンジして採用させていただきました。ありがとうございました!
…もう少し、設定を活かしたかったと反省
345 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/09/01(日) 08:15:14.49 ID:ZyI+mWr60
346 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/09/01(日) 12:31:06.87 ID:+n4C8cgpO
プラトニックドーパント

『純粋』の記憶を内包するガイアメモリで変身したドーパント
ありとあらゆる不純物を消し去り、変身者の望むモノのみを残す光を放つ能力を持つ
特に、ドーパントや仮面ライダー等変身の類いで力を得ている存在には抵抗すらままならないだろう
光は概念的な存在であり、光を遮る。遮蔽物に隠れる等の行動では光を止める事は出来ない
対抗するには、純粋な想い。『誰かを助けたい』という善意から『何があっても倒す』という決意。『生きたい』という単純な想いでも効果がある

このドーパントに変身出来るという事はそれだけ使用者に純粋な想いがあるという事の証明でもある
生半可な気持ちでメモリを起動させた場合、強い拒絶反応が起きてしまう(ファイズのベルトの様な感じ)
347 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/01(日) 21:39:58.98 ID:UpIexPQU0
(ここんとこ特殊系多いから、シンプルに殴って強いドーパントが欲しい)

(贅沢言うとまだ使ってないアルファベットのがいい)
348 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/09/01(日) 23:01:57.33 ID:ZyI+mWr60
こんな感じ?

マッスル・ドーパント
『筋肉』の記憶を内包するメモリ。ドーパント体は全身が異常なほど膨れ上がった赤い筋肉でできている。
特殊能力は無い…しいて言うなら並みのドーパントを遥かに凌駕する身体能力である。
メモリに惹かれる人物は『強靭な肉体(筋肉)を持つが精神が脆弱なもの』か『健全な精神を持つが貧弱(あるいは病弱)な肉体で強靭な肉体へのあこがれが強いもの』のどちらかという両極端なのがあるいみこのメモリの最大の特徴
349 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/09/01(日) 23:07:13.77 ID:K+7NWXoxO
アコナイト、アペタイト
バンブルビー
クローバー
D未消化
アースクエイク
ファンタジー、ファイアーアント、(false)
ガー「ゴッド!」
ホーネット
アイソポッド、アイドル
J、K未消化
ロングホーン
M、N未消化
オーケストラ
P未消化
クエスト、クインビー
ラビット、リインカーネーション
セイバー
トゥルース、ティーチャー
ユニコーン?
V未消化
ワサビ、ワイルド
X_t___
YZ未消化

DJKMNPVYZ が未消化アルファベットの模様
350 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/09/01(日) 23:14:12.91 ID:K+7NWXoxO
なお、アルファベット一字検索で探して各メモリ解説を探したので、解説でアルファベットが示されてないと抜けてるかも。というかカートゥーン(C)抜けてた
あと、アノマロやマスカレイドとかの本家産メモリは省いてあります。
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