【安価】ガイアメモリ犯罪に立ち向かえ【仮面ライダーW】

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307 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/17(土) 22:45:26.85 ID:kdFZsgbw0
言い忘れてた

今夜はここまで
308 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/18(日) 16:57:32.50 ID:t9aDLu/h0
>>306の新キャラだけど、使用メモリは安価とった方が良いかな
それとも>>1が考えてたやつのままで良いかな?
309 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/18(日) 17:18:48.79 ID:nS4RuzFWO
出来るなら安価したいな
310 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/18(日) 17:21:36.05 ID:4OEv98ky0
安価がいいけど無理なさらず
311 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/18(日) 17:32:39.82 ID:t9aDLu/h0
よし、安価しよう!

↓1〜3でコンマ最大 財団Xのエージェント・ガイキが使用するガイアメモリ
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/18(日) 17:34:58.39 ID:KSXlGS+iO
「フォールダウン」

「堕落」の記憶を持つガイアメモリ
313 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/18(日) 17:36:54.78 ID:4OEv98ky0
ドミネーター(支配者)
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/18(日) 17:44:43.10 ID:9lbYD8/k0
キング(王)
315 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/18(日) 17:45:58.31 ID:nS4RuzFWO
トランス
「変化」の記憶を持つ
316 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/18(日) 19:03:26.95 ID:t9aDLu/h0
というわけで仮面ライダードミネーターとなりました

設定厨なので設定の供養だけさせて



『エボリューションメモリ』

 『進化』の記憶を内包する次世代型ガイアメモリ。本来、単独での使用は想定されておらず、他のメモリと同時に使用することで能力を進化、向上させることを目的として作られた。
 ___しかし、選ばれし者ならば単独で使用することで、人間の可能性、限りなき進化の顎(あぎと)に辿り着けるかもしれない。



 メモリの色は濃緑。未来へ伸びる矢印と、遺伝子の二重螺旋が『E』の字を描いている。
317 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/23(金) 14:22:32.43 ID:wdtQfa3v0
 『友長産婦人科』と書かれた看板の前で、2人は立ち止まった。
 愛巣会での一件の後、超常犯罪捜査課に依頼して、塾の専属医だという友長真澄について調べてもらっていた。騒ぎに乗じて彼女も姿を消しており、蜜屋や母神教と何らかの関係がある可能性が高いと、徹とリンカは考えていた。
 調査の結果、友長真澄という名の女医は日本国内に2人見つかった。その内1人は、九州の大学で研究室に勤めていた。そしてもう1人が風都で、産婦人科をしていた。年齢は48歳ということだが、塾で見た友長は年齢を推測しにくい容姿をしていたため、敢えて気にしないことにした。

「すみません」

 患者が少ない頃を見計らって、受付の事務員に声をかけた。

「診察券はお持ちですか?」

「あ、いえ、そういうわけではなくて」

 どうやら、受診に来た夫婦だと思われたらしい。慌てて否定すると、彼は奥をちらりと窺い、尋ねた。

「…あの、先生にお話を窺いたいのですが。私、記者をしている力野と申します。…」



 閉院後の診察室で、友長と向かい合った2人は、これは別人だとすぐに分かった。

「アポイントも無しに、何の御用でしょうか?」

 明らかに不愉快な声色で問う彼女は、塾で見た女とは程遠い。そもそも、目の前の友長医師は太っている。あの塾にいた友長は、胸は大きかったが腰は細かった。

「突然お邪魔してしまい、申し訳ありません。実は私たち、ある事件を追っておりまして」

 故に、作戦を変えた。
 徹は鞄から、一枚の顔写真を取り出した。これは警察署で予め作ってもらった、友長のモンタージュであった。

「この顔に見覚えはありませんか?」

「…」

 写真を受け取り、一瞥した瞬間、彼女の顔が小さく歪んだ。

「心当たりが?」

「…いえ」

 彼女は首を横に振ると、写真を突き返した。

「知っているとしても、患者さんの情報です。言うわけにはいきません」

「…はい」

 そう言われると、警察でもない2人には手の出しようがない。ここのところは、大人しく引き下がることにした。



「得意の口八丁で何とかなりませんか」

「ならねえよ。警察ならともかく、ただの記者には…だが」

 彼は、振り返って医院を一瞥した。

「あの女が、でたらめにここの医者の名を騙ったわけじゃないのは分かった」

「何か、接点がありそうな反応でした」

「ああ。それも、良い思い出じゃない。これがもし、『産婦人科医として』悪い思い出だとしたら…」

「厄介な患者。不可逆の病態。分娩の失敗。或いは…」

「…中絶。あの顔を見るに、一度や二度じゃなさそうだな」

「調べてみましょう。…但し、今度は警察と一緒に、です」
318 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/23(金) 14:23:21.20 ID:wdtQfa3v0



 収穫は、思わぬところから得られた。
 リンカが坂間刑事と共に市役所に行っている間に、何とアイドルドーパントの変身者だった太田衣麻理が、警察病院で目を覚ましたのだ。

「…ど、どうも」

 徹が病室を訪れると、衣麻理は顔を赤くして俯いた。メモリの副作用で自己顕示欲が増幅していた彼女は、徹の目の前で裸になり、そのまま通りへと出ていったことがある。彼を見ると、その時のことを思い出してしまうのだろう。

「体調は大丈夫ですか?」

「は、はい…まだ、頭ががんがんしますけど…」

 実際の所、彼女が目覚めるのはもっと先だと思っていた。ガイアメモリは、使い込むほどメモリブレイクされたときの反動が大きいことが多い。倒される直前の彼女は、かなりの力を溜め込んでいた。それでもこうして回復したのは、メモリとの相性が良かったのか、それとも能力の強化が可逆的なものであったからか。
 それにしても、こうしてガイアメモリの影響を脱した太田衣麻理は、言い方は悪いが美人ではなく、どこにでもいるような平凡な顔つきをしていた。彼女のインタビュー記事を依頼した藤沢も、「何でこんなののために、大はしゃぎで記事作ったんだろ…」と首を捻っていた。当然、記事は没になった。

「起き抜けで申し訳ないんですけど…」

 彼は、鞄から友長のモンタージュ写真を取り出した。

「ガイアメモリに関わったあなたなら、何か心当たりが無いかなと」

「この人は…」

 正直なところ、徹はあまり期待していなかった。彼女にメモリを与えたのは、母神教から離れていた頃のミヅキだ。蜜屋に近いと思われる友長のことを、彼女が知っているとは思えなかった。
 ところが、衣麻理は何かに気付いたように頷いた。

「…『バチカゼ』のボーカルに似てる、気がします」

「『バチカゼ』?」

 首をひねる徹。衣麻理は、説明した。

「正式には、『薔薇とチークと北風乙女』で、略して『バチカゼ』って言うんですけど…インディーズのバンドで、メジャーデビューの話もあった、その筋では割と有名なガールズバンドだったんです。でも、何年か前に急に活動休止になって、それからしばらくして解散しちゃんたんです」

「で、この人がバチカゼのボーカルだと?」

「私、結構ライブとか行ってたんですよ? 最後に見た時はもう少し若かったけど…」

 それから彼女は、不意に声を潜めた。

「…この人も、やっぱりガイアメモリに?」

「まだ分かりませんが」

「やっぱり…」

 徹は、驚いて言った。

「やっぱり? ガイアメモリに手を出すような心当たりが?」

「そういうわけじゃないですけど、バチカゼって結構黒い噂が多くて…活動休止になった理由も、ボーカルが失踪したからだって言うのが、一番有力な説なんです」

「失踪…」

 沈んだ面持ちで、頷く衣麻理。フーチューバーなるものを志した彼女の原点が、或いは黒い騒ぎの果てに消えた、そのインディーズバンドであったのかもしれない。



「バチカゼは、もう終わったの!」

 とあるライブハウスの楽屋で、レザージャケットを着た女が叫んだ。目の前にいるのは、汚れた格好の中年女。隈の浮いた目をぎらつかせながら、反論する。

「終わってないわ! まだやれる。また…一つに」

「なれない…なれるわけない…だって、シノはもう」
319 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/24(土) 00:34:44.35 ID:oOO+vY460
「シノは、生きてるわ」

「えっ?」

 乾いた唇を歪めて、女が言う。

「生きてるわ。そして、あたしたちを待ってる。だから、あたしたちはまた一つになって、シノを迎えてあげないと」

 レザージャケットの顔に、狼狽が浮かぶ。

「…で、でも」

「大丈夫。…シノは、全部許してくれる」

 言いながら彼女は……悪魔の小匣を、取り出した。

「!? な、何それ」

「さあ…一つになりましょ。また、『バチカゼ』として、一つに…!!」



「薔薇とチークと北風乙女。14年前に結成されたガールズバンドで、メンバーは全員北風町出身の5人」

 徹が、パソコンの前で言う。隣でリンカが、黙って耳を傾けている。

「リードギターのエナ。リズムギター兼コーラスのサヤ。ベースのタラ。ドラムのママオ。そして、ボーカルのシノ。…本名、成瀬ヨシノ」

「連絡を受けて、戸籍を確認しましたが、3年前に成瀬の死亡届が提出されていました」

「ああ。よく探したら、その頃に彼女の自殺が、一部の芸能紙で報じられていた。だが、海岸に遺書と靴が置かれていただけで、遺体は見つかっていないらしい」

「では、成瀬が今も生きていて、母神教に関わっている、と?」

「ああ。まだ断言はできないが…」

 その時、徹の携帯が鳴った。画面には『植木警部』の文字。

”大変だ、東吹寄のオフィスビルにドーパントだ!”

「すぐに行きます!」

 徹は電話を切ると、立ち上がった。

「久し振りに植木さんに呼ばれた気がするな。…リンカ、行ってくる!」
320 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/24(土) 00:35:49.15 ID:oOO+vY460
今夜はここまで
321 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/08/24(土) 22:44:00.29 ID:oOO+vY460



 東吹寄は、北風駅から電車で3駅離れたところにある地区で、土地が広く交通の便も良いため企業のオフィスが集中している。その中でもひときわ目立つ高層ビル(と言ってもせいぜい15階建てだが)の前に、警察車両が並んでいた。

「近付かないで! ここは迂回してください!」

 交通整理を行う若い警官は、猛スピードで接近してくる白銀のバイクと、それに跨る西洋騎士に気付くと、ぽかんと口を開けた。

「え…」

『ちょっと通らせてもらうぜ!』

 仮面ライダーはハンドルを切ると、警官を避けて破壊されたビルの入り口に向かって突撃した。



「タラー、どこにいるのー?」

 屋内に入ると、気の抜けたような声が聞こえてきた。どうやら、ドーパントは上の階にいるらしい。それにしても、やたらと通る声だ。壁や天井が、びりびりと揺れている。
 バイクを駆って、階段を駆け上がると、敵は何と6階にいた。

『見つけたぞ、ドーパント!』

「…?」

 背後から飛んできた呼び声に、ドーパントが振り向いた。
 やたらと不格好な体型であった。黒いスピーカーのような胴体で、人間なら頭がある部分には何もなく、代わりに両肩からエレキギターのネックが飛び出している。腕はシンバルや太鼓を雑にくっつけたような形状で、脚は色とりどりのケーブルがもつれ合ってできていた。

「誰、あんた」

『仮面ライダーファンタジー。お前を、止めに来た!』

「何よ、それ」

 面倒くさそうに応えると…突然、ドーパントが大声で叫んだ。

『っ!?』

 2本分のギターサウンドが、ファンタジーを襲う。凄まじい音量と圧力に、彼は思わず後退した。
322 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/24(土) 22:44:35.40 ID:oOO+vY460
『なっ、何だこれ……メモコーン!』

 駆けつけた一角獣を変形させ、ドライバーに装填する。

『楽器のドーパント、か…?』クエスト!

『だったら、こいつでどうだ!』

 赤と白の魔術師となり、両手を前に突き出す。現れた魔法陣の周囲の空気が、円形に歪んだ。

『くっ…空気が無けれが音は伝わらないが、流石にこの辺全部真空は無理か…っ』

「何だか知らないけど、邪魔しないでよね」

 楽器のドーパントはファンタジーに歩み寄ると、左手にくっついたバスドラムで彼を殴りつけた。

『このっ!』

 防御を解除して躱すと、クエストワンドを出現させた。タムやシンバルで攻撃するドライバーに、杖で応戦する。

「ふんっ! ふんっ!」

『たあっ! せっ!』

 打ち合う度に、腕が痺れるほどの衝撃が襲う。まるで、数人に同時に殴られているかのようだ。
 ファンタジーは一歩下がると、杖を突き出した。

『喰らえっ!』

 杖から水が噴き出し、スピーカーに降りかかる。

「! アンプが…」

 ドーパントは咄嗟に横に躱すと、左手を大きく振った。肘のあたりに付いたシンバルが、鋭い刃のように飛来する。
 それを避けると、ファンタジーは今度は炎を放った。

「もうっ! さっきから機材に何てことを!」

『嫌なら、大人しくメモリブレイクさせろ』

「嫌。タラを探さないと。あの人で最後なのに」

『タラ? それは…』

 言いかけて、彼ははっとなった。

『…まさか、バチカゼの』
323 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/24(土) 22:45:15.79 ID:oOO+vY460
「バチカゼは復活するわ! 再び、一つになるの!」

 ドーパントが叫んだ次の瞬間、胴体のスピーカーから再び大音量のサウンドが流れ出した。爆音に絶えてよく聴いてみると、ギターだけでなくドラムのサウンドも混じっている。そして、何かの曲を演奏しているようであった。

『クソっ、これは…』

「タラ、タラ! 逃げないで! 一緒にシノを迎えましょう!」

 歌うように叫ぶドーパント。ファンタジーは片耳を塞ぎながら、杖を振りかざすと…

『…せいっ!』

 床を、杖の先で叩いた。そこから大きなヒビが走り、ドーパントの方へと伸びていく。

「そして、バチカゼは再び…ッッ!?」

 ドーパントの声が止まった。
 そして遂に、床が崩れ落ちた。

「ああああっっ…!?」

 下の階へと落ちていくドーパント。それを追いかけるようにファンタジーは床の穴に飛び込んだ。

『クエスト・ラストアンサー!』クエスト! マキシマムドライブ

 落ちていくドーパント目掛けて、銀色のグリフォンが吶喊を仕掛ける。迫りくる危機に、ドーパントは…

「…ふんっ!」

 突然、体をばらばらに分解した。

『!?』

 砕けていくドーパントを素通りして、1階の床に激突するファンタジー。すれ違いざまに彼が見たのは、ばらばらに漂って消えていく、2本のギターと、ドラムセットであった。
324 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/24(土) 22:46:58.41 ID:oOO+vY460
『Oの亡霊/一人ぼっちのロックバンド』完

今夜はここまで
325 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/29(木) 22:01:01.55 ID:hQKFxfpJ0
「あんたが、バチカゼの元ベーシストのタラ、本名を足立宝だね」

 植木の問いかけに、足立はおずおずと頷いた。
 楽器のドーパントが出現したオフィスビルの6階には、ある音楽プロダクションがあった。バチカゼ解散後、足立は音楽プロデューサーとして頭角を現し、現在はそのプロダクションで働いているのであった。しかしドーパントが現れた時、幸運にも彼女は仕事で外出していて不在だった。

「プロダクションを襲った怪物は、あんたの名を呼んでたそうだ。何か、心当たりは無いか?」

「…」

 足立は黙って手元を見つめると、やがておもむろにポケットに手を入れ、スマートフォンを取り出した。

「…2日前、知らないアドレスからメールが来ました」

 画面には、『不明な差出人』から届いた、一通の電子メールが表示されていた。



”バチカゼは再結成する。あなたが最後”



「…バチカゼは、もう終わった存在なのに。この人は、何度も何度も再結成だ、復活だ、会いに来いって…」

「そして無視していたら、とうとう向こうから?」

「そういうことだと、思います」

 そこへ、坂間ともう一人の若い警官が入ってきた。

「失礼します」

「おう、どうだった」

「既に死亡届の出ている成瀬以外の、元メンバーの行方を追ってますが…最後に自宅近くでドラムの比高麻央が目撃されたのを最後に、全員消息を絶っています」

「そうか…」

「…」

 黙り込む足立に、植木は声をかけた。

「…率直に言って、犯人はバンドの元メンバーの誰かだろう。改めて訊くが、何か心当たりは無いか」
326 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/29(木) 22:01:36.44 ID:hQKFxfpJ0
「…別に。強いて言うなら、不思議です」

「不思議?」

「だって…バチカゼがばらばらになって、もう10年近いのに…何で今更、よりを戻そうっての? あんなに取り返しのつかないことになったのに、どうして…!」

 拳を震わせる足立。植木と坂間は、何も言えずに顔を見合わせた。



 その頃。警察署の会議室では、徹とリンカ、そして衣麻理の3人が、スクリーンでライブのDVDを鑑賞していた。無論、バチカゼのライブである。衣麻理が実際に客として参加した回のもので、後日僅かに販売されたDVDも、彼女が入手したものであった。

「確かに、ボーカルは友長真澄に似ていますね」

 マイクを握る女を凝視しながら、リンカが言った。個人制作らしく画質の荒い映像であったが、確かにボーカルのシノは、愛巣会で会った友長の若い頃といった感じで、ほとんど同一人物のように見えた。

「…デビューしてから5年もしない内に、どこかのレーベルからメジャーデビューの話は来てたらしいんですよ」

 じっとスクリーンを見つめながら、衣麻理がぽつりと言った。

「でも…デビューさせようとしていたのは、バチカゼじゃなくて、シノ個人だったんです」

「それで、メンバーとの間に軋轢が?」

「あくまで、噂ですけど…」

 画面から目を離さない衣麻理。徹も、彼女の横でスクリーンに目を凝らす。そのスカウトは、5人の中で彼女にだけ、輝く何かを見つけたのだろうか…
 バンドの歌をバックに、一瞬だけ観客席が映った。

「…! 止めて!」

 突然、リンカが叫んだ。

「えっ? あっ、はい…」

「10秒巻き戻して。…」

 再び観客席が映る。ぐるりと見回すカメラワークの途中で、リンカが映像を止めた。

「ここ、最前列に」

「うん? ……あっ!」

 彼女の指差す先を見て、徹は驚愕した。

「何で…何で、九頭がここに…!?」

 2人の注目する先。観客席の最前列には、サビのメロディに合わせて手を振る、元ガイアメモリ密売人の、九頭英生の姿が映っていた。
327 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/29(木) 22:03:09.72 ID:hQKFxfpJ0



「あんたもロックンロールを聴くんだな」

 部屋に入ってくるや、白い詰襟服の男は蜜屋の座る椅子に歩み寄り、後ろから彼女の肩に腕を回した。この馴れ馴れしい髭面の偉丈夫に、蜜屋は僅かに眉をひそめるものの、あくまで穏やかな声で応えた。

「ええ。生徒たちの嗜好は把握しておくべきだもの」

「生徒、ねえ。あんた自身はどうなんだよ」

「…別に。興味ないわ」

「ははっ、そうかよ」

 男は笑うと、肩に回した手を伸ばし、彼女の胸を掴んだ。

「…悪いことは言わないわ。もう少し、若い娘にしておきなさい」

「俺はな、強い女が好きなんだよ。俺より強い女なら、なおさら良い」

「だったら…」

 そこへ、真堂が乱暴にドアを開けて入ってきた。

「おい、お前!」

「…ンだよ、騒がしいなコータ」

「ンだよじゃない! 試作品のメモリを勝手に持ち出して…お母様に知れたら、どうなるか」

「良いじゃねえか。あんたらの大事なお母様とやらを、湿っぽい聖堂から引きずり出せたら、大したもんじゃねえか」

「き、貴様…」

 いきり立つ真堂。男は退屈そうに言う。

「大体、あんなのはオマケだ。…『X』のメモリは、いつになったら完成する?」

「…あと、少しだ」

「期待してるぜ」

 全く心の無い口調。真堂は唇を噛んだ。
328 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/29(木) 22:03:40.54 ID:hQKFxfpJ0
今夜はここまで

蜜屋先生のエロって需要ある…?
329 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/29(木) 22:30:31.01 ID:YHMGU6IIO

エロ需要…あると思う(こなみ)
330 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/08/29(木) 22:47:32.42 ID:6E2e2MJoO
あります
331 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/31(土) 09:25:51.71 ID:XnmVGGyV0



 捜査は難航を極めていた。最後に目撃されたのはドラムのママオだが、その前日にはリードギターのエナが、さらにその日の早朝には、ギターコーラスのサヤがそれぞれ別の場所で目撃されていたことが判明した。ママオがギターの2人を順に呼び出して襲ったと考えるのは簡単だが、同じことはその2人に対しても言える。ほとんど同時期に目撃されたために、3人への疑いが同じレベルになってしまったのだ。
 失踪する前の行動が少しでも掴めないか。そう思った植木と徹は、リードギターのエナ、本名を出水恵那の夫、出水涼に話を聞いていた。

「本当に、突然でした」

 出水は、暗い顔で答えた。

「でも、言われてみれば…いなくなる直前に、何か携帯に着信があったような気もします。ただ、妻とは言え他人の携帯を覗くのはマナー違反ですから」

「…失礼ですが、奥様とはどちらで出会われたのですか?」

「ああ。彼女も僕も、音楽の仕事をしてまして。レコーディングのスタジオでばったり会って、それ以来」

 彼は、部屋の壁に張られた写真に目を遣った。そこには、ギターを提げたエナと、トランペットを持った出水の姿が映っていた。



「出水恵那はシロだろうか」

 独り言のように、植木が零した。徹は首を横に振った。

「そう考えるのは早いと思います。そもそも、出水涼が共犯である可能性もあります」

「彼が?」

「ええ。…調べた所によると、2人はバチカゼの解散前には既に交際しています。10年近く連れ添った相手が急にいなくなったにしては、動揺が小さい気がします」

「いなくなることが、彼の中で既に織り込み済みだった、と?」

「ええ。こうやって口に出すと、別の可能性まで出てきちゃいますね」

「当てようか。…出水が別のメンバーと通じていて、協力して恵那を陥れた」

 徹は頷いた。頷いておいて、溜め息を吐いた。

「…あくまで、憶測です。と言うより、妄想に近い」

「とにかく、今は足立の周辺を警戒した方が良いだろうな」

「私もそう思います」

 現在、足立は本人の了承のもと少し離れたホテルに移ってもらい、そこで数人の警官による護衛を受けている。それとは別に、足立の自宅の方にはリンカが控えていて、ドーパントが襲撃してくるのを待っていた。
332 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/31(土) 11:30:09.61 ID:XnmVGGyV0



 ところがその翌日、植木の携帯に届いたのは、ホテルで警護にあたる警官からの救助要請だった。

”ど、ドーパント、が…”

「何だと!? リンカさんから何か連絡は?」

”いえ…敵は直接、こちらに来たものと…うわあっ!”

「おいっ! マルタイは無事なのか?」

”坂間さんが、連れて逃げて…”

「分かった。君は身の安全を確保して、可能なら周囲の人の避難誘導を頼む」

 植木は部下と共にパトカーに飛び乗ると、サイレンを鳴らして走り出した。
 走り出して数分後、その隣を銀色のバイクが猛スピードで駆け抜けていった。



 足立の自宅から十分離れた場所にある、古びたビジネスホテル。その入口は、粉々に破壊されていた。

『遅かったか…!』

 既にセイバーメモリを装填し、蒼と銀の騎士の姿となったファンタジーは、足早にホテルの中へと進んだ。
 例によって、ホテルの中ではドーパントの声が壁を震わせながら響き渡っていた。

「タラ、逃げないでよ、タラー!」

『…! 坂間刑事!』

 エントランスに、坂間が倒れているのに気付き、彼は駆け寄った。

『大丈夫ですか?!』

「…っ、足立が、まだ上に…ここまで逃げてきたは良いが、見つかってしまった…足立は追いかけられて、咄嗟に階段を上って、行ってしまった」

『すぐ行きます。ここで休んでてください』

 ひしゃげた非常階段のドアをくぐると、ファンタジーは上の階を目指した。
333 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/31(土) 11:30:37.74 ID:XnmVGGyV0



「やっと見つけた…」

 廊下の突き当りで、追い詰められた足立に、楽器のドーパントが迫る。

「来ないで…来ないでよ」

「これで、皆でシノを迎えられるね。さあ、もう一度一つに」

『そこまでだ!!』

 そこへ、仮面ライダーが現れた。彼は、驚いて振り返ったドーパント目掛けて、渾身の飛び蹴りを見舞った。

「きゃあっ!?」

『何でここが分かったのか知らないが…とにかく、倒す!』

 剣を構えるファンタジー。ドーパントが金切り声を上げる。

「邪魔しないで!! 私たちの夢を…」

「あんた1人の夢だ!!」

 突然、足立が叫んだ。

「シノはあたしたちを裏切った。そして死んだ! バチカゼはばらばらになって、それぞれが自分の道を見つけたのに。どうして、今更…」

「シノは生きてるわ。そして、バチカゼはまた蘇る…!」

『蘇るってんなら、まっとうに再結成してくれ! ガイアメモリなんて使うんじゃない!』

 ファンタジーは剣を振り上げると、ドーパントに斬りつけた。ドーパントも、シンバルの刃で応戦する。

『足立さん、今のうちに逃げるんだ!』

「逃さない!」

 ドーパントの足から無数のケーブルが伸び、足立の体に巻き付いた。

「っ、放してっ」

『!』

 ファンタジーは、両手で剣を大きく振りかぶった。

『ジャスティセイバー・雷切!!』

 次の瞬間、刀身を白い電光が走った。雷の刃で、足立に纏わりつくケーブルを一太刀に切断すると、返す刀でドーパントを斬った。

「ぐぅっ…!」
334 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/31(土) 11:33:53.68 ID:XnmVGGyV0
『せいっ、たあっ! …はあぁっ!!』

「ぐあっ」

 袈裟に斬りつけた刃が、ドーパントの肩口を深く切り裂く。致命的な一撃に、とうとうドーパントが膝を突いた。

『トドメだ!』セイバー! マキシマムドライブ

 蒼い閃光が、ドーパントに迫る。ドーパントは、膝立ちのまま体をファンタジーに向けると…
 突然、胴体のスピーカーから甲高い音が鳴り響いた。

『くっ、ああぁっ!?』

 剣閃が逸れる。その隙にドーパントは素早くケーブルを伸ばし、足立の体を捉えて引き寄せた。

『! やっ、やめろっ!』

「嫌っ! 放してっ!」

 メモリを換える暇もない。ファンタジーは咄嗟に剣を振りかざしたが、足立の体を盾にされてしまい、動けない。

「あ、あぁ…」

 彼女の体が、ケーブルの中に呑み込まれていく。やがて…ドーパントの背中から、もう一本のギターネックが生えてきた。しかし、両肩の二本と違い、弦は4本だ。

『…このぉっ!!』

 耳をつんざく高音に耐えながら、剣を構えるファンタジー。その目の前で、ドーパントは突然、変身を解除した。

『!?』

「…」

 そこに立っていたのは、先程ドーパントに取り込まれたはずの、足立自身であった。

『どういうことだ…?』

「これで、揃った…」

 熱に浮かされたように、足立が言う。次の瞬間、その姿がゆらゆらと波打ち、そして消えた。

「力野さん! …こ、これは」

「…逃げられました」

 変身を解除しながら、徹は悔しげに言った。

「ですが…犯人は分かりました」
335 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/31(土) 16:30:06.43 ID:XnmVGGyV0



 邸宅の前にタクシーを停めると、出水涼は車を降りた。その顔には、隠しきれない興奮の色が浮かんでいた。

「ふ、ふふ…これで、ようやく…」

「出水、涼さん」

 突然、背後から飛んできた声に、彼ははっと振り返った。
 そこには、腕組みする植木と、徹が立っていた。

「…何ですか」

「あなたの奥様を攫ったと思われる犯人…あなたなら、お分かりでしょう?」

「何の話です。そんなの、こっちが知りたいくらいだ」

「あのドーパントには」

 徹が、一歩前に進み出た。

「取り込んだ相手の得意とする楽器を、自分の体に出現させて利用するという特徴があった。実際、ベーシストの足立宝が取り込まれた後、奴の体からはベースのネックが生えてきた」

「…」

 強張った顔で、2人を睨む出水。徹は続ける。

「だが…追い詰められたドーパントが発した音は、今までに取り込んだメンバー…ギター、ドラム、そのどれとも違っていた。……あれは、トランペットの音だった」

「!」

「出水さん、あんた、トランペット奏者なんだろう?」

 突然、植木がぶっきらぼうな口調になって言った。

「失踪したメンバーと近いところにいながら、自分は狙われず…そして、ドーパントはバンドにいないはずのトランペットの音を発した。つまり、あの中には既に誰かトランペット奏者が取り込まれていた!」

「本当にバチカゼの再結成だけが望みなら、トランペットは必要なかったはずだ。なのに何故、ドーパントはトランペットまで取り込んだのか? …他ならぬトランペット奏者、お前がドーパントだからだ!」

 出水を指差し、断ずる徹。出水は…

「…馬鹿な。さっきから聞いていれば、まるで自分が実際に見て、聞いたかのような言い方。恵那や、他の人たちが襲われるところを、君たちは見たのか?」

「見たさ」ファンタジー

「!?」

 徹は、躊躇なくガイアメモリを掲げてみせた。それが、つい先程交戦した仮面ライダーのメモリだと分かった瞬間、出水の顔に狼狽が浮かんだ。

「…そういう、ことか!」

 彼はジャケットの懐に手を入れると、金色のガイアメモリを取り出した。筐体には、音符の載った五線で『O』と書かれている。

「! ゴールドメモリ…!?」
336 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/31(土) 16:30:47.34 ID:XnmVGGyV0



『オーケストラ』



「これが…僕の夢だ…!」

「変身!」

 メモリを耳に挿す出水。徹は変身すると、セイバーメモリを装填した。

『いくぞ!』

「邪魔なんてさせない…させないわ!」

 ドーパントが、数人分の女の声を重ねたような声で叫んだ。
 夜の高級住宅街で、激しい戦闘が始まった。

「バチカゼは…私の、夢だった!」

『お前も、ファンだったってことか』

 バスドラムの拳を躱し、剣を突き出す。

「初めて見た時から…輝くものを感じてた! 一緒に、ステージに立ちたいって思ってた!」

『だったら何故ガイアメモリに手を出した! 恵那さんを説得すれば良かったのに』

「そんなのは無理よ! シノはもう死んだ…だから、諦めてた。でもあの日、神の力を得た!」

 高速回転するシンバルが、ファンタジーの胸元目掛けて飛んでくる。それを弾き飛ばすと、彼は呻いた。

『お前も『神』か…!』

「そして今、メンバーが揃った! 今なら!」

 オーケストラドーパントが、後ろへ下がる。それから両腕を広げると、スピーカーから大音量のサウンドが鳴り響いた。
 それは、先日観たビデオに収録されていた、バチカゼの曲であった。

『もっと…やり方があったはずだろ!』

 ファンタジーは、剣を高く掲げた。その刀身を、白い稲妻が走る。

『ジャスティセイバー…雷切!!』

 振り下ろした切っ先から雷が迸り、ドーパントを襲う。が

「はははははっ!! もう効かない、効かないわ!!」

 足のケーブルから電気が吸収され、音量が更に増していく。

『クソっ、駄目か…』



「おい、うるさいぞ!」

「今何時だと思ってるの?!」



 そこへ、いくつかの怒声が飛んできた。見ると、数件の民家から住民が顔を出している。どうやら、迷惑なパフォーマーがいると思われたらしい。

『危ない!』

「…折角だから、コーラス隊に加わってもらいましょうか」

 ドーパントが言った瞬間、足のケーブルが四方八方へと伸びて、住民を捕らえた。そのまま素早く引き寄せ、体に取り込んでしまった。

『やめっ…』

「ふふふふ…シノには敵わないけど、数合わせくらいなら…」

 遂に、ドーパントの頭が生えてきた。黒いマイクのような頭部には、顔がなく、大きく開かれた口だけが無数に付いていた。

「さあ…シノに会いに行きましょ!」

 大音量で音楽を流しながら、ドーパントが走り出した。
337 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/31(土) 18:36:48.94 ID:XnmVGGyV0



 すれ違う人々を吸収しながら、逃走するドーパント。それをバイクで追跡するファンタジー。人間を取り込むたびにドーパントには口が増え、身体もどんどん大きくなっていく。
 やがて住宅街を抜け、繁華街に出る頃には、全長数メートルを超える巨大な怪物になっていた。

「シノ! シノ! どこにいるの! 私たちはここよ!!」

『止まれ、止まれーっ!』

 クエストメモリに換装し、杖を振りかざす。次々に火の玉をぶつけるが、怪物は止まらない。
 何か、手はないのか。絶望的な気持ちでハンドルを握っていたその時

「…?」

 突然、オーケストラドーパントが歩みを止めた。

『な、何が…』

 立ち止まり、見つめる先には、1人の男が立っていた。



「…貴方を、生かしておくわけにはいきません!」



『あれは…九頭?』

 逃げ惑う人々の真ん中に立つのは、怒りに燃えた顔の九頭英生であった。その両脇には、ミヅキとユウダイも控えている。

「残しておいてはならない、悪夢の残渣…兄弟たち、あれをお母様の目に触れさせてはなりませんよ!」マスカレイド

「は〜い」ラビット

「頑張ろうね、お姉ちゃん」クローバー

 3人は各々メモリを挿し、ドーパントに変身した。その間際、ミヅキがファンタジーに気付いて、笑顔で手を振った。それから一転、緑と白に包まれていくユウダイに向かって舌打ちした。
 白い花冠を被った、天使のような少年…クローバードーパントが両手をかざすと、オーケストラの体にシロツメクサが何重にも巻き付いた。そこへ、ラビットドーパントが飛び蹴りを見舞った。

「ぐうぅっ…」

 呻くオーケストラドーパント。シンバルやタムの腕を振り回しながら、多重コーラスを響かせた。

「うるっさい! この音痴!」
338 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/31(土) 18:37:15.44 ID:XnmVGGyV0
 キックの反動で飛び上がり、今度は踵落とし。動けない敵を、軽やかに傷付けていく。
 そして遂に、巨獣が頭を地に伏せた。すかさずマスカレイドドーパントが、どこからともなく取り出したロケット弾を撃ち込む。

「死ね、死ね! 無かった過去です! 貴方達は…」

『おい待て! それ以上やったら死ぬぞ!』セイバー! マキシマムドライブ

 トドメを刺される前に、メモリブレイクだけでもしようと剣を構え、バイクで迫る。ところが

『…ぐわあぁっ!?』

 突然、正面から何かが激突し、ファンタジーはバイクごと跳ね飛ばされた。
 次の瞬間、辺りが白い光に包まれた。

「! いけません…」

 懇願する九頭。その隣に光が収束した。そして、その中から現れたのは…

『はあっ……っ! 友長、真澄…』



「…」



 友長は一瞬、虚ろな目で目の前の怪物を眺めた。が、すぐに異様な光が灯った。

「…ああ。そう。そうなのね」

「シノ! シノ! やっと会えた!!」

 たちまち息を吹き返す、オーケストラドーパント。シロツメクサの拘束を引きちぎり、連撃するラビットドーパントをはたき落とした。

「ぐえっ」

「さあ、こっちに来て…バチカゼを、もう一度!」

 呼びかける、かつての友。友長真澄、いや、成瀬ヨシノは、穏やかな笑みを浮かべると…
339 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/31(土) 18:37:47.06 ID:XnmVGGyV0



「…あなたも、『母』が愛しましょう」


340 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/31(土) 18:38:14.57 ID:XnmVGGyV0
『…今、何て言った?』

 呟いたその時、成瀬の体から白い光が迸った。溶け出すようにその体が霞み…やがて、そこに立っていたのは、マリア像めいた白い肌の、美しい女のドーパントであった。

「なりません…『お母様』!」

 引き留めようとする九頭。しかし成瀬…『お母様』は構わず、片手を軽く突き出した。

「ぐあああぁっぁっっ!?!」

 たったそれだけで、巨大なオーケストラドーパントの体が空高く打ち上げられた。
 落ちてくるドーパント。『お母様』が両腕を広げると、その着地点に巨大な裂け目が開いた。

「さあ…母の胎内へ、おかえりなさい」

「嫌、あ、あああっ…」

 蒸気を発する巨大な穴に、ドーパントが呑み込まれていく。助けを求めるように突き出したトランペットのベルが、根本からぼっきりと折れて、消えた。
341 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/31(土) 18:38:42.50 ID:XnmVGGyV0
『…なんてこった』

 呆然と、ファンタジーは呟いた。出水やバチカゼのメンバーだけではない。道中で取り込まれた多くの人々ごと、あの穴に消えてしまった。

「また会いましたね、仮面ライダー」

『お前が…お母様…』

 ファンタジーは、剣を構えた。
 お母様は動じない。

「あのドーパントが心配なら、それは不要ですよ。あの子達は、母の中で再び生まれる時を待っています」

『! じゃあ、九頭が今も生きているのも』

「お母様の愛あってのことです」

 マスカレイドドーパントが、2人の間に割って入った。

「お母様は、敵である貴方にも愛を注いでくださるのです。跪きなさい。それだけが、貴方の」

『…九頭』

 ファンタジーは、彼の言葉を遮った。

『お前…バチカゼのファンだったんだな』

「やめなさい! その名を出すな! その名を、お母様に聞かせるな…」

「英生」

『成瀬ヨシノにメモリを与えたのは、お前なんだろ? …彼女を、愛していたのか。彼女に、何があった? バチカゼは、どうして崩壊した』

「やめろやめろやめろぉーっっ!!!」

 九頭は絶叫しながら、ファンタジーに殴りかかろうとした。が、その動きはすぐに止まった。

「…英生。あなたが怒ることはありませんよ」

「お母様! 放してください…さもなくば」

 彼の言葉は、途中で途切れた。見えない力が、彼の体をぺしゃんこに握り潰してしまったのだ。
 メモリの機能で爆散する九頭。その後ろで、お母様は握った手を広げた。

『…お前がやったのか』

「彼はまた生まれてきます。何度も通った道です。それより」

 マリア像めいた顔が、ファンタジーを捉えた。

「母は、あなたを愛したい。母と共に、帰りましょう?」

『…断る』

 ドーパントの体が光に包まれ、また成瀬の姿に戻った。

「…いつでも、待っていますよ」

「待ってるよ〜!」

 いつの間にか変身を解き、手を振るミヅキ。次の瞬間、ミズキとユウダイ、そして成瀬ヨシノの姿は、光の中に消えてしまった。
342 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/31(土) 22:21:31.46 ID:XnmVGGyV0



「…はい。能力の正体が分かりました。あのメモリは…」

 深夜。アパートの玄関先に出て、リンカが電話をかけている。早口に情報を交わすと、彼女は電話を切って、部屋の中に戻った。
 そこには、徹が立っていた。

「!」

「…ああ。用事は済んだか」

「な、ぜ…貴方が、起きて…」

「いや、喉が乾いただけだよ」

 眠そうな顔で笑う徹。その顔を見た瞬間、リンカは何も言わず、彼に縋り付いた。

「ど、どうした? 何かあったか」

「…」

 リンカは黙って、彼の体を押して寝室まで入った。そうして彼をベッドの上に押し倒すと、自分はその上に跨った。

「私は…貴方、に…」

 乱暴にシャツを脱ぎ、質素なブラも外す。慎ましい乳房を露わにすると、背を曲げて彼の唇を奪った。

「んっ…っは。…嫌なことでもあったんだな」

「…」

 残りの衣服も脱ぎ、徹の服も脱がせていく。裸の胸に、涙の雫がぽたぽたと落ちるのを、徹は何も言わず感じていた。



「…おう。ご苦労」

 男は通話を切ると、携帯を放り投げた。

「随分とお仕事熱心なのね」

 彼の下で、蜜屋が嫌味っぽく言った。男は嗤った。

「悪い悪い。もうしねえから」

 言いながら彼女の乳房を乱暴に掴み、腰を大きく振った。

「んっ」

「いい具合じゃねえか。流石に先生は、ガキとつるんでるだけあってカラダが若い」

「教育、指導しているの。遊んでるんじゃないわ」

「はいはい、そうだな」

 腰を振りながら、男は彼女の乳首に歯を立てた。身動ぎする蜜屋。

「っ、あぁ…中で出すから、孕めよ…」

「あっ…無茶、言わないで…っ」

 男の動きが止まった。肩を震わす男。腹の中に広がる熱に、蜜屋は思わず湿った声を上げた。



 その部屋の向こうでは、真堂が緊張の面持ちで机の上を見つめていた。

「つ…遂に、完成した…だが…」

 作業台の上の、真新しいガイアメモリ。それを取り上げると、彼はごくりと唾を呑んだ。

「…あいつらは、もはや信用ならん…ならば…」

 彼は辺りを窺うと、作業着のポケットから古びた二つ折りの携帯電話を取り出した。番号をプッシュし、耳に当てる。

「…もしもし、私だ。すぐに来てくれ。…いや、そんなことではない、もっと重要なことだ…」
343 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/31(土) 22:22:24.44 ID:XnmVGGyV0
『Oの亡霊/消えざる過去』完

今夜はここまで
344 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/08/31(土) 22:37:37.95 ID:XnmVGGyV0
『オーケストラドーパント』

 『楽団』の記憶を内包するガイアメモリで、トランペット奏者の出水涼が変身するドーパント。ただ変身しただけの場合、スピーカーのような胴体からケーブルめいた手足が生えているだけの、貧弱なドーパントに過ぎない。しかし、このドーパントは他の人間を吸収・同化することで能力が増していく。特に相手が楽器の演奏者である場合、体にその楽器のパーツが追加されていき、スピーカーから出せる音も増えていく。また、吸収した人間の姿に変身することもできる。そのため出水は、バチカゼの元メンバーの前に現れる時は、誰か他のメンバーの姿を取った。しかしその一方で、ある程度意識も残るため、変身時は複数人の意識が混合した、曖昧な状態となる。男である出水が、変身後は女の声や口調になっていたのも、このためである。
 フリーのトランペット奏者でありながら、結成時からの『薔薇とチークと北風乙女』のファンであった彼は、いつか彼女らのサポートメンバーとして共にステージに立つ日を夢見ていた。しかし、その夢は叶わずバンドは解散。ギタリストの財都丸恵那と結ばれるものの、満たされない日々を送っていた。そんなある時、白い服の男からこのメモリを渡され、「ボーカルのシノは生きている」と告げられる。その言葉を信じた彼はメモリを使用。妻の恵那に始まり、次々とメンバーを取り込んでいくこととなった。
 メモリの色は金。音符の載った五線譜が円を描き、『O』の文字を形成している。金塗りではあるが正式な幹部メモリではなく、ミュージアム崩壊後に作られた新種のメモリ。色も幹部メモリを意識したわけではなく、金管楽器の色をイメージしただけである。



>>208をかなりアレンジして採用させていただきました。ありがとうございました!
…もう少し、設定を活かしたかったと反省
345 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/09/01(日) 08:15:14.49 ID:ZyI+mWr60
346 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/09/01(日) 12:31:06.87 ID:+n4C8cgpO
プラトニックドーパント

『純粋』の記憶を内包するガイアメモリで変身したドーパント
ありとあらゆる不純物を消し去り、変身者の望むモノのみを残す光を放つ能力を持つ
特に、ドーパントや仮面ライダー等変身の類いで力を得ている存在には抵抗すらままならないだろう
光は概念的な存在であり、光を遮る。遮蔽物に隠れる等の行動では光を止める事は出来ない
対抗するには、純粋な想い。『誰かを助けたい』という善意から『何があっても倒す』という決意。『生きたい』という単純な想いでも効果がある

このドーパントに変身出来るという事はそれだけ使用者に純粋な想いがあるという事の証明でもある
生半可な気持ちでメモリを起動させた場合、強い拒絶反応が起きてしまう(ファイズのベルトの様な感じ)
347 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/01(日) 21:39:58.98 ID:UpIexPQU0
(ここんとこ特殊系多いから、シンプルに殴って強いドーパントが欲しい)

(贅沢言うとまだ使ってないアルファベットのがいい)
348 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/09/01(日) 23:01:57.33 ID:ZyI+mWr60
こんな感じ?

マッスル・ドーパント
『筋肉』の記憶を内包するメモリ。ドーパント体は全身が異常なほど膨れ上がった赤い筋肉でできている。
特殊能力は無い…しいて言うなら並みのドーパントを遥かに凌駕する身体能力である。
メモリに惹かれる人物は『強靭な肉体(筋肉)を持つが精神が脆弱なもの』か『健全な精神を持つが貧弱(あるいは病弱)な肉体で強靭な肉体へのあこがれが強いもの』のどちらかという両極端なのがあるいみこのメモリの最大の特徴
349 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/09/01(日) 23:07:13.77 ID:K+7NWXoxO
アコナイト、アペタイト
バンブルビー
クローバー
D未消化
アースクエイク
ファンタジー、ファイアーアント、(false)
ガー「ゴッド!」
ホーネット
アイソポッド、アイドル
J、K未消化
ロングホーン
M、N未消化
オーケストラ
P未消化
クエスト、クインビー
ラビット、リインカーネーション
セイバー
トゥルース、ティーチャー
ユニコーン?
V未消化
ワサビ、ワイルド
X_t___
YZ未消化

DJKMNPVYZ が未消化アルファベットの模様
350 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/09/01(日) 23:14:12.91 ID:K+7NWXoxO
なお、アルファベット一字検索で探して各メモリ解説を探したので、解説でアルファベットが示されてないと抜けてるかも。というかカートゥーン(C)抜けてた
あと、アノマロやマスカレイドとかの本家産メモリは省いてあります。
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/09/02(月) 00:03:47.72 ID:iUpfNQ7jO
まとめた勢いで

ネブラ・ドーパント
古代のオーパーツ、ネブラディスクの記憶を内包するメモリで変身する。
メモリの色は緑青(ろくしょう)色で、怪人体も同じ緑青色のずんぐりした鎧状の体に、金色の金属質で顔に太陽、胸に三日月、その他の部位に星の意匠がちりばめられている。
両腕にも、実物のネブラディスクにおける弧枠にあたる金色のラインがある。

ネブラディスクは一年365日の太陽暦と、一年354日の太陰暦の二つの暦のすりあわせを行うため用いられていたと推定されている。
そこから、このドーパントは二つの時間の流れを発生させる限定的な時間操作を行える。
腕にある金のラインで指し示した範囲または対象の時間の流れを、二倍程度早めるか遅くすることができる。持続時間は最大で(通常の時間の流れ側における)10分。
範囲の設定は最大で半径10m程度。同時には一つの対象または範囲にしか影響できない。

例えば自身の時間を早めて高速移動したり、相手を遅くしたり、カップ麺の待ち時間を半減させたりするだけでなく、
殴った拳が衝撃を与えている時間を長くして威力を高めたり、出血する傷口を加速して消耗を早めるなど、工夫次第での応用が自在に行える。


ナスカとかの古代ネタが足りなかったのでこんなものを
352 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/09/02(月) 21:50:39.42 ID:3f2FwQtw0
バガボンド・ドーパント

『放浪者』の記憶を内包するガイアメモリで変身。
メモリの色はビリジアン(暗い青緑色)で、後姿の人物のまとっているマントが風にたなびいてVの字を作っている。
ドーパントは三度笠を被り、着流しの上にマントを纏い、下駄を履いている。肌は白く、顔は食いしばった骸骨を連想させる。また、腰に刀を差している。
メイン武器はこの刀で、直接切るほかに斬撃を飛ばしたりすることもできる。
また、体力を大幅に消耗するが高速移動もできる(単純な速度はアクセルトライアルと互角だがこちらの方が使い勝手が悪い)
更に「放浪者」という特性からか拘束・束縛を無効化できる(例えるならウィザードのバインドや鎧武のナギナタ無双スライサーのオレンジ型のエネルギーなど)
353 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/09/03(火) 15:36:39.29 ID:wo0bZCki0
ゾーメモリ

象ではなくゾー。ネパール等で飼われている牛とヤクの交配種の記憶を有している。
英語の綴りは様々だが、Z枠なので「ZO」でお願いします。
354 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/09/04(水) 08:19:42.48 ID:hyyD9Jm90
「J」……ジャスティスメモリ

『正義』の記憶を内包するメモリ。相性のいい人物は正義感の強い人物。言うならば王道の少年漫画の主人公のような人。
ドーパント体はご当地ヒーローのような姿だが使用者によって違う。
このメモリの恐るべきところはドライバーを利用しても防ぎきれない程の非常に強い毒性で、他者のために動く高潔な人物も己にとって不快な人物を正義のもとに排除する独裁者みたいまでに人格を変化させてしまう。

−−−−−勝ったほうが正義、勝てば官軍なのだから
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/09/04(水) 12:39:21.28 ID:UgfI2Gg9O
イールド・ドーパント(yield)

『対価交換』の記憶を宿すメモリで変身したドーパント。手が札束を横に並べている図でyの字になっている
対価を支払う事で自らの性能を引き上げる。特に高額な物を支払えば支払う程、腕力やスピードは格段に上がる
また、敢えてスペックをダウンさせる事で下げた分を他の能力に上乗せする事も可能。(スピードを落とした代わりにパワーを増やす等)
無限に成長を続けるという性質上、理論の上だけならばこのメモリを倒す事は不可能である
支払うものは何でもいいが、イールドという言葉の性質上、札束や金等の通貨類が好ましい
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/09/06(金) 14:04:49.39 ID:eq5+Bn1M0
ディテクティブ・ドーパント
『探偵』の記憶を内包するメモリ。ドーパント体は鳥打帽状の頭部に、レンズを嵌めたような巨大な目が特徴。
メモリには、パイプと紫煙でDの字が形作られている。
ホームズの意匠に引っ張られているものの、どちらかというと名探偵よりも現実的な探偵に寄っている。
主な能力は張り込みのための気配遮断、暗視や望遠・広域視野といった超視力、聞き込みの質問に答えさせるための簡易な催眠能力、推理・推論に関する知能向上。
戦闘に際しては、敵の行動を推理しての先読みで回避や行動潰しができることが強みであるが、ドーパントとしては中の下程度のパワーしかない。
しかし、パワーのある味方がいる場合、推理力から繰り出すサポートは強力だろう

ええ、ほんへに喧嘩売る単語チョイスです
357 : ◆iOyZuzKYAc [sage]:2019/09/06(金) 15:35:22.93 ID:ROqWK1C30
W10周年めでてえ
358 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/06(金) 21:48:04.91 ID:DtuaOLmG0
「…」

 公園の身障者用トイレの前で、徹は黙って立ち尽くしていた。
 ここは、彼とミヅキが初めて会った場所。しかし今、閉じた扉の中からは、何の音も、誰の声も聞こえてこない。

「…駄目、だよな」

 諦めて去ろうとしたその時、後ろから彼の肩を叩く者がいた。

「!」

「やっほ〜、仮面ライダーさん」

 振り向くと、そこにいたのはミヅキ。彼女は軽く跳び上がると、彼の首にかじりついてキスをした。

「あたしに逢いに来たの。嬉しい!」

 徹の手を引き、身障者用トイレに入ろうとする。しかし徹が動こうとしないので、怪訝な顔で振り返った。

「どうしたの? エッチしようよ」

「いや、ちょっと待ってくれ。その前に…」

 彼は、ちらりと周囲を窺った。既に夜も深い時間だが、いつの間にか数人の男たちが集まっていて、ただならぬ表情で徹の方を睨んでいた。

「…場所を変えようか。目立つし、何だか雨も降りそうだ」



 果たして、コンビニで買った惣菜を手に、煙草臭いラブホテルの一室に転がり込む頃には、外では土砂降りの雨が降っていた。

「仮面ライダーって、意外と庶民的なんだね〜」

 コンビニのレジで温めて、既に冷め始めたスパゲティを啜りながら、ミヅキが言った。

「普段は売れないフリー記者なんだよ。前に名刺渡したろ」

「あはっ、捨てちゃった」

「ああ、ちらりとも見ないでな」
359 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/06(金) 21:48:40.49 ID:DtuaOLmG0
 徹は唐揚げを一個、口に入れた。咀嚼し、飲み込んで、それから口を開いた。

「…お母様の正体は、最初から知ってたのか」

「正体? …変身する前の姿なら、あたしはちょいちょい見てたけど。クズのおじさんもね」

「それが誰かまでは、知らなかったのか?」

「別に。お母様はお母様でしょ」

 プラスチックの皿に付いたソースを舐めるミヅキ。徹は少し考えて、また尋ねた。

「皆が皆、あの姿を見てるわけじゃないのか」

「うーん、あの蜂ババアの前で変身を解いてるところは、見たことないかな」

「! そうなのか」

 それが本当なら、蜜屋は自身の根城の奥に、他ならぬ自分の親玉がいたことを知らなかったことになる。思えば、お母様の直属となったユウダイも、元はと言えば蜜屋に洗脳された生徒の一員であった。友長真澄と名乗っていたあの時、自分は蜜屋のやり方に疑問を抱いていると言っていたことからも、お母様は蜜屋を快く思っていない、或いは、既に敵対してしまっているのかも知れない。

「ね、一緒に食べようよ」

 差し出されたロールケーキを頬張りながら、徹はぼんやりと次の質問を考えていた。
 しかし、思考は下半身に伝わる生温かい感触に遮られた。

「! ミヅキ…」

「んっ、む…」

 いつの間にか彼女は、ベッドに腰掛ける徹の膝の間に座り込んで、彼の一物をズボンのファスナーから取り出して口に入れていた。

「…察してるかも知れないが、俺はリンカと同居してるんだぞ」

「ちゅ、れ…んむっ…」

「あまり大きな声では言えないが、寝たこともある」

「…ん、くっ、っぷぁ…ん…」

「だから、あんたとは…あ゛痛っ!?」

 勃ちかけの陰茎に歯を立てられて、徹は悲鳴を上げた。
360 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/06(金) 21:49:26.38 ID:DtuaOLmG0
「…うるさいな〜。フェラ中に話しかけないでって、前にも言ったでしょ」

 不機嫌そうに言うミヅキ。徹はイチモツに傷が付いていないか確認しながら、諭すように言う。

「だから、こういうことは良くないって言いたいんだよ」

「何がいけないの? あたし、雑草以外の男とは皆エッチしたよ? あなたが、あの金ピカネクタイと寝たから、何?」

「…俺は、リンカが好きだ」

「…」

 ミヅキは、呆然と彼を見た。ぽつりと、その唇から言葉が零れた。

「…あたしじゃ、ダメ?」

「あんたのことは大事に思ってる。助けたいとも思ってる。だけど…女としてとか、セックスしたいとか、そういう意味じゃない」

「じゃあどういう意味なの!」

 突然、彼女が声を張り上げた。

「好きなら、エッチするでしょ! そうじゃない関係があるの? そんなの…あたし、知らない!」

「!」

 徹ははっとなった。
 幼い頃から母子家庭で育った彼女が、最初に出会った男は、女を性欲の捌け口としか考えない男だった。そこから孤児院、何処とも知れない路上、そして母神教で、彼女は人の温もりを知ることができただろうか。カラダを代償にしない関係を、一度でも築けたことがあっただろうか。

「誰も…あたし『だけ』を、愛してくれない…お母様だって…」

「…」

 何と声をかけていいか分からず、黙り込む徹。ミヅキは立ち上がると、部屋の隅へと歩いて、そのまま座り込んでしまった。
361 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/06(金) 21:49:54.79 ID:DtuaOLmG0



「…!」

 のしかかる体の重みで目が覚めた。

「愛してよっ…ねえっ…エッチしてよ…っ!」

 暗がりの中で、彼に跨って激しく腰を振る少女。
 彼は思わず、痩せこけたその体を強く抱き締めた。

「ミヅキ…ミヅキっ…!」

「あんっ…好きだから…好きって、言ってよぉ…」

「ミヅキ…俺は…」

 言いかけたその時、突然、ベッドの隅に転がった彼の携帯電話が鳴った。

「えっ…」

「! …」

 徹は一瞬躊躇って、恐る恐る携帯を手に取った。画面には、リンカの名が表示されている。
 徹は、ミヅキの方をちらりと見た。

「…聞かせちゃおうよ。あたしたちが、愛し合うところ!」

 彼女は悪戯っぽく言うと、彼の手から携帯を取り上げ、通話をタップした。
362 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/06(金) 21:50:24.25 ID:DtuaOLmG0
 ところが、聞こえてきたのはリンカの声ではなかった。



”…ごきげんよう、仮面ライダー”



「なっ!?」

「ウジ虫ババア…何で」

 スピーカーから聞こえてきたのは、愛巣会で聞いた、蜜屋志羽子のそれであった。



”どこで遊んでいるのかしら? あなたのとこの娘、寂しそうにしてたわよ”

「! おい! リンカをどうした!?」

 徹は電話をひったくると、画面に向かって叫んだ。

”円城寺さんは…今、私たちが預かってるわ”

「どこだ!」

”前に来たでしょう? 真堂の、ガイアメモリ製造工場…早くしないと、この娘がどうなるかしらね”

「貴様…」

 徹はベッドから飛び降りると、玄関に向かって突進した。そして、料金を入れないと出られないことを思い出して、地団駄を踏みながら部屋を見回した。

「窓を蹴破るか…」

 そんなことを呟いた瞬間、ミヅキが無言で立ち上がり、そして跳躍した。

「…はああぁっ!!」

 ハイドープの人間離れした脚力が、鉄の扉を襖か何かのようにぶち破る。着地したミヅキは、彼の顔を見ないで言った。

「行けば」

「ミヅキ…」

「勝手にしろっ!!」

「…っ」

 徹は歯噛みすると、部屋を飛び出して行った。
 後に残されたミヅキは、崩れるようにその場に座り込むと、声を上げて泣き出した。泣きながら、ポケットの中から何かを取り出した。

「ひぐっ…もういい…もういいもんっ…」

 七色に光るそれは、禁断の力。

「全部…全部、ぶっ壊してやるっ!!」
363 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/06(金) 23:01:30.89 ID:DtuaOLmG0



 土砂降りの雨を裂いて、銀色のバイクが走る。貨物集積所のゲートを突破し、四番倉庫へと向かう。
 開け放たれたシャッターをくぐると、そこには真堂が、物憂げな顔で立ってた。

「…来たか、仮面ライダー」

 彼は沈んだ声で言うと、赤褐色のガイアメモリを取り出した。

「君みたいな、分かりやすい敵だけならどんなに良かったことか…!」アイソポッド

「リンカを…リンカを返せ!!」ファンタジー! セイバー!

『おおおおおおっっ!!』

「ふぅんっ!」

 剣と硬質な腕がぶつかり合う。

「姿を変えようと、君の剣で私を傷付けることはできんよ!」

『おおらぁっ! たあぁっ!』

 ファンタジーは構わず、剣を振るって何度も斬りつける。斬りつけ、叩きつけ、突きつける。
 とうとう、アイソポッドドーパントが苛々と唸った。

「しつこいね、君も!」

 彼は後ろへ下がると、やおら雄叫びを上げた。
 次の瞬間、その体が何倍にも膨れ上がり、ダイオウグソクムシめいた巨大な怪物へと変化した。

「大人しく、捕食者に喰われたまえよ!!」

『…待っていたぞ』クエスト!

「何…?」

 メモリを換装し、魔術師の姿となったファンタジー。その頭上に、巨大な魔法陣が浮かび上がった。
 彼は右手を硬く握り、肘を曲げると…

『…おりゃああぁぁぁぁっっっ!!!!』

 頭上の魔法陣目掛けて、思い切り拳を突き上げた。
 すると、巨大な怪物の足元から、更に巨大な拳が出現してドーパントの体を下から殴りつけ、ひっくり返してしまった。

「うわああぁぁっ!!?」

 仰向けにひっくり返り、短い手足をばたつかせるドーパント。

『その体じゃ、簡単には戻れないだろ。そして…』セイバー!

『…硬い殻に覆われてるのは、背中側。つまり、腹の方が弱点だ!』セイバー! マキシマムドライブ

 白いマントが翼のようにひらめき、騎士の体が宙へと浮かび上がる。
 空中で、彼は白と蒼に輝く剣を振り上げた。

『セイバー…ジャスティスラッシュ!!』

「ぎゃあああぁっっっ!!」

 輝く剣閃が、無防備なドーパントの腹を縦に切り裂く。断末魔と共に、怪物の体が爆ぜた。

「く、そ…こんな、ところで…は」

 燻る炎の中で、真堂が藻掻く。その後ろ首からメモリが抜け落ち、砕け散った。
364 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/06(金) 23:02:07.32 ID:DtuaOLmG0
『…リンカを、探さないと』

 リンカが囚われている工場を目指して、倉庫の奥へ進もうとするファンタジー。ところが

「…ははっ」

 突然、荒れ果てた倉庫の中に、不敵な笑いがこだました。

『誰だっ!?』

「コータがやられたか。そりゃご苦労」

 奥から悠々と歩いてきたのは、白い詰襟服の、大柄な男。その隣には、蜜屋も控えている。

『蜜屋! リンカを出せ!』

「少しは落ち着きなさいな。慌てたら、ケアレスミスが増えるわ」

「そうそう、先生もそう言ってることだしよ」

 男は、ニヤニヤ嗤いながら一歩前へ出てきた。

「…もうちょっと、遊ぼうぜ」

 その手に、深緑色のガイアメモリ。そして…

『メモリ、と…ドライバー!?』

 ロストドライバーを腰に装着し、メモリを目の前に掲げる。筐体には、角張った刃のような字で『D』と書かれている。
 ガイアウィスパーが、メモリの名を告げる。



『ドミネーター』



「生物種としての、格の違いを見せてやる。……変身」
365 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/06(金) 23:04:37.67 ID:DtuaOLmG0
『Dの闖入/ひび割れた愛』完

今夜はここまで
366 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/07(土) 19:35:31.05 ID:DHKSSogP0
『ドミネーター』

 ベルトを中心に、装甲が男の体を覆っていく。見る見る内に彼の体は、陸軍兵めいた深緑色のスーツに黒い防弾ジャケット、そしてガスマスクめいた複眼マスクに包まれた。その右手には、灰色の無骨なグローブが嵌っている。

『じゃ、楽しもうぜ…っ!』

『くっ!?』

 目にも留まらぬスピードで、ドミネーターが肉薄する。突き出された正拳を剣で受けると、凄まじい衝撃がファンタジーの両腕を襲った。

『はっ、おらっ! どうしたァっ!』

『ぐっ…ふっ、うぅっ!』

 素早いキックとパンチの連撃を、間一髪で躱す。洗練された敵の動きからは、豊富な戦闘経験が伺われた。

『せぇやっ!』

『! たあっ!』

 回し蹴りを屈んで躱すと、すかさず剣を斬り上げた。
 切っ先が、仮面の鼻先を掠った。

『はっはっはぁっ! 良いじゃねえか! 人間らしく足掻けよ!』

 ドミネーターは一切怯まず、更に一歩踏み出し、拳を突き出した。

『ぐ、あっ!?』

 止めきれず、拳が鎧の腹部にめり込んだ。一撃で、硬い装甲に亀裂が走った。
 更に、前蹴りが膝を砕く。

『があぁっ!』

 膝を突いたファンタジー。そこへドミネーターが、片足を大きく振り上げた。

『…ぬんっ!』

『!』

 どうにか脇に転がり、落雷の如き踵落としを避ける。彼のすぐ隣で、コンクリートの床が大きくひび割れた。
367 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/07(土) 19:36:09.69 ID:DHKSSogP0
 その足に向かって、剣を突き出した。

『このっ…!』

『セコいことすんじゃねえ!』

『あぁっ!』

 切っ先を蹴られ、剣が遠くへ飛んでいく。更に続くキックを両腕で受け止めると、転がって距離を取った。
 立ち上がり、拳を構える。剣を拾いに行く暇はない。

『はぁっ…はぁっ…』

『そうだ。最後まで足掻け。そして…格の違いを思い知れ!』

 拳が交差する。アッパーカットが空を切ると、カウンターのボディブローが突き刺さった。バックステップで衝撃を逃し、顔面へ手を伸ばす。それさえ軽くいなすと、逆のその手を掴まれた。

『おら…よォっ!』

『がはっ…!』

 引き寄せ、腹に重い一撃。思わずうずくまったその顎に、爪先蹴りが炸裂した。

『ぐっ、ああぁぁぁっ!!?』

 ファンタジーの体が天井近くまで吹き飛び…そして、床に墜落した。

『っ…く、そ…』

『ま、こんなもんだな』

 仰向けに倒れるファンタジー。ドミネーターは、ドライバーからメモリを抜くと、腰のスロットに装填した。

『ドミネーター! マキシマムドライブ』

 悠々と歩み寄る、その右足から、緑色のスパークが飛び散った。光と熱を放つその足を、大きく振り上げると…

『…あばよ』

『ぎゃああぁぁぁぁっっっ!!』

 重い、あまりにも重いストンプが、彼の胸を踏み砕いた。装甲が爆ぜ、仮面が砕け、変身が解除される。

「…が、っ」

 力尽きた徹。男も変身を解除すると、蜜屋のもとへと戻って行った。そのまま彼女と何か言葉を交わしているが、徹の耳には届かない。

「…!」

 動けない彼の視界に、白いスーツが入ってきた。

「…」

「り、んか…」

 攫われたはずのリンカが、無表情に彼を見下ろしている。幸い、傷は無さそうだ。かすれた声で、徹が訴える。

「にげろ…りん、か…にげ…」

「…」

 彼女は何も言わず、彼の脇に屈み込むと…
368 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/07(土) 19:36:39.32 ID:DHKSSogP0



 ……彼の腰から、ドライバーとメモリを外した。


369 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/07(土) 19:37:17.19 ID:DHKSSogP0
「…え?」

「ご苦労さまでした、力野徹」

 彼女はいつもの無感情な声で言うと、ドライバーとメモリを手に男の方へ歩み寄った。

「! だめ、だ…そっちは…」

 しかしリンカは構わず、奪ったそれらのガジェットを、男に差し出した。

「『ガイキ』。事前の計画通り、ファンタジーメモリとロストドライバーを回収しました」

「おう、ご苦労」

 ガイキと呼ばれた男は、興味無さそうに応えた。
 リンカが、徹の方に向かって言う。

「財団Xによる、ガイアメモリ計画へのご協力、ありがとうございました。お陰様で、メモリ新造への道筋が立ちましたので、貴方との協力はここまでになります」

「ど…どういう…ことだ…」

「ミュージアムが崩壊し、T2計画も頓挫し、ガイアメモリ計画は長らく凍結となっていました。最初私たちは、破棄された計画の残滓が他の計画を邪魔することを危惧して、対象の組織を殲滅することを目的に動いていました。しかし、メモリの新造が可能となれば話は別です。組織の主導権を財団が奪還し、再び計画を始動することにしました」

「! じゃあ…あんたたち、これから」

 リンカは目を細めた。

「…無軌道な暴力は殲滅します。メモリの力は、正しく理性的に用いられます。ご安心ください」

「待て…よ…!」

 少しずつ、体力が戻ってきた。どうにか体を起こすと、徹は叫んだ。

「正しい、使い方なんてあるかよ…ガイアメモリは、この町からなくす…じゃないと」

「貸与していた、ドライバーとメモリは返却していただきます。命までは奪いません。貴方は…全て忘れて、明日から元の生活に戻りなさい」

「ふざけるな!! それで良いのかよ、あんたは…」

「帰って!」
370 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/07(土) 19:37:47.06 ID:DHKSSogP0
「!?」

 突然、リンカが声を張り上げた。はっとその顔を見ると、彼女の目元が小さく震えていた。
 その少し後ろでは、ガイキと蜜屋が、じっと2人のやり取りを眺めていた。ガイキの手には、深緑色のメモリ。『良いならいつでも殺すぞ?』と言わんばかりに、とんとんとメモリを指で叩く。

「お願いだから…」

「リンカ…」

 震える手を床に突き、力を振り絞って立ち上がる。そして、リンカに何か言葉をかけようとした時

 彼の隣を、何かが猛スピードで駆け抜けた。

「!」

 ピンク色の風が、リンカに向かって突進する。そして、絶叫しながら懇親の飛び蹴りを見舞った。

「貴女は…っ!」トゥルース

 咄嗟に変身し、防御したリンカの腕に蹴りが突き刺さる。声を上げる間も無く、彼女の体は後ろの壁まで吹き飛ばされていった。
 突然の闖入者は、徹を庇うように立ちはだかると、怒りに燃えた声で怒鳴った。

「…殺す。殺す、殺す、殺す殺す殺すっっっ!!!」

「ミヅキ…?」

 ミヅキは、綺羅びやかなピンク色のメモリを掲げた。

「よくも…よくもあたしから、彼を奪っといて…ゴミクズみたいに、捨てたな! てめえらは殺す! ぐっちゃぐちゃにして殺す!!」

『ラビット』

 しかし彼女は、それをコネクタに挿さず、更にもう一本のメモリを掲げた。
 それを見た蜜屋とガイキの顔に、初めて動揺が浮かんだ。

「!? それは」

「おいおい、いつの間に完成してたのかよ…?」

 七色の、サイケデリックな光を放つガイアメモリ。徹やガイキの所持する、仮面ライダーのメモリと同じ形状をしたそれには、もつれ合う2人の人間が『X』の字を形作っていた。
 ミヅキが、徹を振り返った。

「ちょっと待っててね。こいつら殺して、それから一緒に帰ろ」

「待て、止めろ…」

 ミヅキが、2本目のメモリのスイッチを押した。
371 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/07(土) 19:39:21.89 ID:DHKSSogP0



『エクスタシー』


372 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/07(土) 19:40:07.44 ID:DHKSSogP0
「っ…」

 ミヅキの体が、一瞬、強張る。それでも彼女は両手でスカートの裾を掴むと、顔の高さまで大きく捲り上げた。
 彼女の腿には、ラビットメモリのコネクタがある。しかし今、何も無かった方の腿にも、黒い生体コネクタが刻まれていた。

「はぁっ…はぁっ…っ」

 スカートの裾を咥え、2本のメモリを振りかざす。

「エクス…タシィィィィッッッ!!」

『ラビット』『エクスタシー』

「っ、あっ…あ。ああっ…ああああああっっ!!」

 メモリを挿した瞬間、その体がガクガクと震えだした。丸見えの白いショーツに、染みが広がり、震える太腿の間をびちゃびちゃと音を立てて滴り落ちた。

「ああっ、うっ、くあっ、あぁんっ…ああああっ…」

 失禁しながら痙攣するミヅキ。その体を、ピンクと紫の光が包み…やがて、毒々しい紫の、兎の怪人へと姿を変えた。

「はぁ…っ…うああああああっっっ!!!!」

 金切り声を上げたその瞬間、ラビットドーパントの姿が消えた。

「!? …ぐわっ!」

 瞬きする間も無く、ガイキと蜜屋の体が吹き飛んだ。
 ラビットは、壁際にうずくまるトゥルースドーパントに狙いを定めると、超高速で突進し、飛び蹴りを浴びせた。

「く、うぅっ…!」

「死ね! 死ね! 殺す!」

 かざした杖が、蹴り折られる。ラビットドーパントは執拗に、何度も蹴り続ける。

「お前だけは…絶対殺す…!」

 遂に倒れ伏したトゥルースドーパント。ラビットは空高く跳び上がると、トドメの一撃を見舞わんと、足を振り下ろし…

「…ぐっ…!」

 しかし、それが敵の背中に突き刺さる前に、空中で飛び蹴りが彼女を襲った。
373 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/07(土) 22:40:00.37 ID:DHKSSogP0
『コータめ、余計なことしやがって』

 ラビットの前に着地したドミネーターが、舌打ちする。ラビットはすぐに立ち上がると、ドミネーターにキックを放った。

「殺す! お前も殺す! みんな殺す!!」

『おう、やってみろ!』

「止めろミヅキ! もう、止めてくれ…」

 しかし、2人は戦いを止めない。目にも留まらぬ速さで飛来するキックを、ドミネーターは正確に防いでいく。

『甘い!』

 ハイキックを片手で捕らえると、その足をぐいと捻った。ところがラビットドーパントはその場で跳躍すると、体ごと回転させ、その上自由な足でドミネーターの側頭部に回し蹴りを叩き込んだ。

『うぐっ…やるじゃねえか…!』

 首をゴキゴキと鳴らし、拳を構え直す。

『どらぁっ!』

「ああああっ!」

 ドミネーターが正拳を、ラビットが飛び蹴りを、それぞれ打ち込む。拳と足がぶつかり合い、火花が散った。

『らあっ! でえやっ!』

 ボディブロー、アッパー、フック。今度はドミネーターの連撃がラビットを追い詰める。

「くっ、うっ、ああっ!」

 突然、ラビットがその場に膝を突いた。

『はっ…楽しかったぜ…』

 片足を大きく振り上げ、彼女の頭を踏み砕かんとする。が

「…っっっ!!」

『ぐぇっ!?』
374 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/07(土) 22:40:28.65 ID:DHKSSogP0
 無防備な腹に、ミサイルの如き頭突きが深々と突き刺さった。

「はぁっ…殺す…殺すぅっ!!」

 倒れたドミネーターの胸を、強く踏みつける。トドメとばかりに、片足を振り上げたその時

「…ぐっ!?」

 突然、彼女が胸を押さえて固まった。
 見ると、その胸には巨大な棘が刺さっていた。

「何を遊んでいるの」

 歩み寄ってきたのは、女王蜂。毒針の飛び出た右腕を、顔の前に掲げている。

「本当に。あなたは、最期まで出来の悪い生徒だったわね」

「ぐっ…あっ、があぁっ…」

 悶え苦しむラビットドーパント。
 拘束を脱したドミネーターが、舌打ちしながらメモリをドライバーから抜いた。

『けっ、ままならねえや』

 メモリを、今度は右手のグローブにあるスロットに挿し、左の掌で叩く。

『ドミネーター! マキシマムドライブ』

 右の掌を、苦しむラビットドーパントに向ける。すると、彼女の太腿から七色のメモリが抜け、彼の手に飛んでいった。

「! あぁっ…」

 兎の体から紫色が抜け落ち、元の薄桃色に戻っていく。
 ドミネーターが右手でメモリを握りしめると、メモリからスパークが弾けて、彼の手に吸い込まれていった。

『…ほう、まだ立つか。良いじゃねえか』

 彼は、ゆっくりと彼女の方へ歩み寄った。

「! 止めろ…止めろ! もう…」

 叫ぶ徹。
 ドミネーターが、メモリを握った手を、腰溜めに構える。そして

『…でえぇやあぁぁっっっ!!!』
375 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/07(土) 22:40:54.92 ID:DHKSSogP0
「ぎゃああぁぁあぁああぁっっっ……!!」

 至近距離のパンチが、彼女の胸を貫いた。薄桃色の体が、何度も爆ぜた。毛が抜け、皮が剥がれ、耳が弾け飛んだ。
 そして……そこにいたのは、血塗れで横たわる、小さな少女であった。

「ミヅキ…ミヅキ…?」

 足を引きずって、徹が彼女の元へ駆け寄る。

「ミヅキ! おいミヅキ!!」

 動かない彼女を、どうにか抱き起こす。
 ミヅキが、薄く目を開けた。

「…仮面、ライダー…さん」

「ミヅキ、しっかりしろ! ミヅキ…」

 彼女は、虚ろな目で彼の姿を認めると、血と一緒に言葉を零した。

「…あたしがいなくなったら…寂しい?」

「寂しいに決まってるだろ! だから死ぬな、しっかりしろ…っ!」

 ミヅキは、弱々しく微笑んだ。

「そう。……よかっ、た…」

 その、口元から。目元から。力が抜け…

「ミヅキ…ミヅキ! おい! ミヅキ…!!」

 徹は、彼女の体を抱き上げると、よろよろと倉庫の出口を目指した。

「帰ろう…もう、休もう…」

 ガイキは鼻を鳴らすと、蜜屋の肩を掴んで奥へと引っ込んでいった。リンカは、蹴られた腹を押さえながら、無表情に逃げていく2人を見つめていた。
376 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/07(土) 22:42:07.26 ID:DHKSSogP0
「帰るぞ…一緒に…もう、これ以上…」



 徹の腕の中で、ミヅキの体がどんどん軽くなっていく。

 さらさらと音を立てて、彼女の体が崩れていく。___彼の腕から、落ちていく。



「嫌だ…ミヅキ…ああ…」



 土砂降りの集積所。傷だらけの彼の腕に遺されたのは、ピンク色のガイアメモリだけだった。



「ああ…あぁ……ああああああああ…!!!」



 殴りつけるような雨の中、ボロボロのメモリを胸に抱いて、徹は吠えるように泣き叫んだ。
377 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/07(土) 22:43:44.86 ID:DHKSSogP0
『Dの闖入/砕けた命』完

今夜はここまで
378 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/09/07(土) 22:49:17.43 ID:4R8vdsKUO

これミヅキはガチの退場なのかお母様に産み直してもらうのか
と言うか仮面ライダーじゃなくなった徹はこの先生きのこれるのか
379 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/07(土) 23:00:18.32 ID:DHKSSogP0
『仮面ライダードミネーター』

 『支配者』の記憶を内包するガイアメモリで、財団Xのエージェント・ガイキが変身した姿。深緑色の軍服めいたスーツに、黒い防弾ジャケットとブーツ、灰色のグローブを身に着けており、ガスマスクめいた複眼マスクの上から臙脂色のベレー帽を被っている。
 エターナルメモリのように、他のガイアメモリを支配する能力を持っているが、変身態でその力が常に発揮されているわけではなく、マキシマムドライブの時にのみ行使することができる。しかし、能力を使わずとも純粋な身体強化だけで並大抵のドーパントを圧倒することができ、特に戦闘狂のガイキは強化された肉体による格闘戦の方を好む。
 必殺技は、極限まで強化された脚力によるストンプ攻撃『ドミネーター・インフリンジ』と、相手のメモリを強制的に抜去し、メモリの力を吸収する『パーフェクト・ドミネーション』。後者は、吸収した力を相手に叩き込む二段攻撃も可能。但し、自分より適合率の高い相手からはメモリを奪うことができず、そもそもガイキ自身がこの技をあまり好まない。ミヅキに対して使用した時には、殆ど癒着と言っていいレベルで適合していたラビットメモリは奪えず、使ったばかりのエクスタシーメモリだけを奪う結果となった。
 メモリの色は深緑。刃のような字で『D』と書かれている。
380 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/09/07(土) 23:00:32.76 ID:Aq/xQ2zY0

ミヅキの退場悲しい…
これ途中の選択肢で先生の方を選んでいたら立場が逆になったのかな?
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/09/07(土) 23:13:26.93 ID:+5XkFa9jO
おおう……退場なのかどうなるのか
この状況からどうやって逆転できるのか
382 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/09/08(日) 08:05:04.74 ID:FXClcXRCO
空気読まずにチートをぶん投げる
ゼニス・ドーパント

『頂点』の記憶を宿したガイアメモリで変身したドーパント
巨大な剣を携え、背にはマントをはためかせたヒロイックな容姿だが、色はベタ塗りの様な黒一色
他のメモリを使用すると、変身後は異形となる事が珍しいドーパント態においては逆に異質な勇ましい姿となっている

このメモリの何よりも特異な点は、『自分よりも格下のメモリからの干渉を受けない』事
A〜Zのメモリ。即ちゼニスメモリ以外で変身したドーパント等の特殊な力はこのメモリには通用しない
メモリの能力頼みのドーパントや仮面ライダー等はそれだけで殺されたも同前であり、成す術なく薙ぎ倒される
本体の出力自体も他のメモリとは桁違いのパワーであり、ただ剣を奮うだけでも凄まじい驚異と成りうるだろう
正しく、ドーパントの頂点。並みの相手では足元にすら届かない天上のメモリ

まともに対抗できるのはメモリの中でも最高ランクのゴールドメモリの数々
もしくはこのメモリに左右されない力を持つ、ある『J』の記憶が宿ったメモリ。あるいは頂点に挑もうとする勇者……
メモリの色は金をも塗り潰すという意味で漆黒。下の道から伸びる階段。そしてその上に更に続く道で『Z』になっている

奇しくもこのメモリを超えうる力を持つと推測されるメモリの色も、また同じく黒である


イメージはラスボス手前の準ボスか最強フォームのサンドバッグ
正直盛りすぎた感が否めないのでもし使用される際に適宜デチューンしてくださるとありがたいです
383 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/09/08(日) 09:02:11.89 ID:FHqBvjsC0
思いついちゃたので投稿

ゼノ(XENO)メモリ

『異端』の記憶を宿したガイアメモリで、単独ではなく別のガイアメモリと組み合わせて使うのが前提のメモリ
このメモリの特徴的なのは単純に他のメモリを強化するのではなく、メモリに本来想定されていない『異端』な力を使用可能にさせるという点。
例えば『熱さ』を内包するヒートメモリと同時に使用すると、『零度以下』の『熱さ』……つまり冷気の力も使用させられる。(ある意味拡大解釈に近いかも?)
当然、本来想定されていない力を引き出すので同時使用したメモリには相当負荷をかけるため1回で壊れる可能性も高く、下手をしたらメモリの毒素で使用者が廃人になる可能性もある。
384 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/08(日) 09:29:03.34 ID:KKcmRQqT0
『エクスタシーメモリ』

 『絶頂』の記憶を内包する、母神教によって造られた新造の次世代型ガイアメモリ。エクストリームに継ぐ、第二の『X』のメモリ。
 単独で使用すると、たった1回で脳を完全に破壊し、廃人となってしまうほどの快感を与える。そのため、エクスタシードーパントというものは存在しない。しかし、一部のメモリと組み合わせて使うことで、能力を大幅に向上させることができる。特に、死ぬまで発情期の続く『ラビット』や、性欲の対象となりやすい『アイドル』、そのまま『ラースト(性欲)』などとの相性が良い。
 しかし、それすらも副産物でしかなく、母神教の首魁がこのメモリを造らせた目的は、もっと別にあるようだ。
 メモリの色はサイケデリックな虹色。絡み合って身悶えする男女が『X』の字を形作っている。



 ちなみに、エクスタシーの綴りは本来"ecstasy"であるが、このメモリでは"Xtasy"となっている。
385 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/09/08(日) 09:42:07.64 ID:P2OWLt9FO
ハーピィレディだ(遊戯王並感)
386 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/09/08(日) 20:12:20.26 ID:v0wRr0ZC0
悲しきエクストリーム枠かぁ……
387 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/11(水) 22:06:14.88 ID:LapuAGZv0
 気が付くと彼は、警察に保護されて病院にいた。

「…」

「力野さん…何があったか、そろそろ教えてくれないか」

 呆然とベッドに横たわる徹に、植木が話しかけた。

「…」

「なあ…それにリンカさんは、どうしたんだ?」

「! …」

 徹が、虚ろな目で植木を見た。それから、ぽつりと言った。

「…不器用な奴」

「はぁ?」

「あんな顔するくらいなら…最初から、裏切らなきゃ良いのに…それか、さっさと俺のことなんて、捨てちまえば良かったんだ…」

「…まさか、彼女が裏切ったのか」

「…」

 徹は何も言わず、頭まで布団を被ってうずくまってしまった。
388 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/11(水) 22:06:50.87 ID:LapuAGZv0



 一体、どれほどの時間こうしていただろう。枕元に忍び寄る足音に、徹は目を覚ました。
 傷の痛みに耐えながら、枕元の電灯を点ける。

「…!」

「こんばんは、仮面ライダーさん」

 そこに立っていたのは、友長真澄…もとい、成瀬ヨシノ。即ち、母神教の首魁、『お母様』その人であった。

「何で、あんたがここに」

「愛しい子の、お顔を見に」

「…」

 徹は体を起こし、ベッドの縁に座った。

「…今のあんたは? 『友長真澄』か? それとも『お母様』か?」

「その二つに、違いはありません。揺らぐことも」

「じゃあ、今も変わらず『お母様』なんだな? …」

 年を押した上で、徹は尋ねた。

「…蜜屋を見張ってたな。部下なのに、信用してなかったのか」

「子を心配するのは、母の常です」

 そう言うと成瀬は、徹の手を掴んで立たせた。
 その背中から、白い光が溢れ出す。

「おい…何をする気だ」

「帰りましょう、愛しい子。…母は今、深い悲しみを感じています」

「ミヅキが、死んだからか」

「…」

 光が、成瀬と徹を包み込む。
389 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/11(水) 22:07:17.90 ID:LapuAGZv0
 やがて2人は、真っ白な空間に佇んでいた。

「ここは…」

「母の、記憶の世界です」

 成瀬がそう言うと、どこからともなく無数の本棚が出現し、2人を取り囲んだ。

「! まさか、ここは」

「母は、全ての母ですから…全て、知っているのですよ」

 本棚がするするとスライドし、遠ざかっていく。その中で、一つの本棚が2人の前に移動してきた
。大きな本棚には、たった一冊だけ本が置かれていた。

「もちろん、あなたのことも」

「これは…」

 手に取ると、革張りの表紙には『力野徹』と書かれていた。
 ぱらぱらと捲ると、そこに記されていたのは、彼が今まで歩んできた人生。あるページで、紙を捲る手が止まった。

「…」

 炎上する高層ビル。溶解するコンクリート。誰かに引きずられながら伸ばした手の先で…両親が、マグマの下に消えた。

「…風都…超常犯罪…」

 仮面ライダーは、彼を、彼の両親を、救ってはくれなかった。当時高校生だった彼は、その時から明確に、風都を憎むようになったのだ。

「…」

 本を閉じ、棚に戻す。
 いつの間にか白い空間は消え、徹と成瀬は、薄暗い祭壇の前に立っていた。

「…ここが、母神教の本拠地か」

「ようこそ、母の家へ」

 成瀬は、両腕を広げて歓迎のジェスチャーをしてみせた。
 徹は動かず、また質問した。

「何故、俺をここに連れてきた?」

「病院で寝ているより、ここで待っていれば、あなたの求めるものが来てくれるのでは?」

「!!」
390 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/11(水) 22:09:07.58 ID:LapuAGZv0
 徹は、はっとなった。
 財団Xが、ガイアメモリの新造能力を求めているとしたら、邪魔な仮面ライダーを排除した後に来るのは、その能力を持つ『お母様』の所に違いなかった。
 徹が何か言いかけたその時、成瀬が突然、自分の着ているシャツのボタンを外し始めた。

「!? 何を」

 シャツの前をはだけると、黒いブラジャーのフロントホックを外した。細い体に不釣り合いなほどに豊満な乳房が露わになり、徹は思わず目を逸しかけた。
 しかし、逸らせなかったのは、大きく膨らんだ胸の谷間に、黒い生体コネクターがくっきりと刻まれていたからだった。
 成瀬が、両手を胸元にあてがった。

「っ、く…ぅぅっ…!」

 徹は最初、メモリを挿すところを見せるのかと思った。しかし、実際はその逆であった。
 歯を食いしばる成瀬。そのコネクタから、金色のメモリがゆっくりと顔を出した。

「!」

「くっ…ああぁっ…!」

 苦しげな声を上げながら、メモリを引き抜くと、成瀬はそれを徹に差し出した。

「これは…」

 金色の筐体。リンカのそれと同じ、ゴールドメモリである。そこに描かれているのは、1人の赤子の絵であった。

「…いや、これは」
391 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/11(水) 22:09:40.86 ID:LapuAGZv0
 よく見ると、その赤子は2本の腕に抱かれている。両腕に抱いた赤子を、母親の視点から見た絵なのだと、徹は察した。そして、赤子を抱く2本の腕は、『M』の字に組まれていた。



「母神教の首魁が所持するメモリ、その名称は『マザー』です」

「電話でも聞いたが、まんまだな」

 ソファに深々と沈みながら、ガイキが欠伸混じりに返した。

「ミュージアム最初期に造られたにも関わらず、現在に至るまで放置されてきたゴールドメモリです。人間の遺伝子を体内に取り込むことで、胎内でクローンを育成し、出産するなどの能力を持ちます」

「うわキモ。…そいつが何で、地球の本棚にアクセスする権限を持ってやがる?」

「神話の神々にも、母親は存在します。特に、ギリシャ神話の主神ゼウスの母は、地母神ガイアです」

「クレイドールエクストリームがヒトと地球を繋ぐ巫女なら、マザードーパントは地球そのものってわけか。……こじつけにも程があるぜ」

「無論、ただの使用者がその領域に到達することは不可能です。成瀬ヨシノとマザーメモリの適合率は、99.9%以上……或いは、100%かも知れません。抜去はほぼ不可能でしょう。メモリブレイクは、成瀬の死を意味します」

「しねえしねえ。要は生かしたまま、言うこと聞かせりゃ良いんだろ?」

 ガイキが言ったその時、1人の少年が割り込んできた。

「ガイキさん、準備ができました」

「あいよ」

 彼はソファから立ち上がると、リンカの肩を叩いた。

「おら、行くぞ」

「…はい」

 リンカは、小さく頷いた。
 部屋を出て、少年に続いて廊下を進むと、正方形の広い部屋に出た。白いリノリウムの床には、囲碁や将棋の盤面めいて、黒い線が等間隔に引かれている。
392 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/11(水) 22:10:36.12 ID:LapuAGZv0
 よく見ると、その赤子は2本の腕に抱かれている。両腕に抱いた赤子を、母親の視点から見た絵なのだと、徹は察した。そして、赤子を抱く2本の腕は、『M』の字に組まれていた。



「母神教の首魁が所持するメモリ、その名称は『マザー』です」

「電話でも聞いたが、まんまだな」

 ソファに深々と沈みながら、ガイキが欠伸混じりに返した。

「ミュージアム最初期に造られたにも関わらず、現在に至るまで放置されてきたゴールドメモリです。人間の遺伝子を体内に取り込むことで、胎内でクローンを育成し、出産するなどの能力を持ちます」

「うわキモ。…そいつが何で、地球の本棚にアクセスする権限を持ってやがる?」

「神話の神々にも、母親は存在します。特に、ギリシャ神話の主神ゼウスの母は、地母神ガイアです」

「クレイドールエクストリームがヒトと地球を繋ぐ巫女なら、マザードーパントは地球そのものってわけか。……こじつけにも程があるぜ」

「無論、ただの使用者がその領域に到達することは不可能です。成瀬ヨシノとマザーメモリの適合率は、99.9%以上……或いは、100%かも知れません。抜去はほぼ不可能でしょう。メモリブレイクは、成瀬の死を意味します」

「しねえしねえ。要は生かしたまま、言うこと聞かせりゃ良いんだろ?」

 ガイキが言ったその時、1人の少年が割り込んできた。

「ガイキさん、準備ができました」

「あいよ」

 彼はソファから立ち上がると、リンカの肩を叩いた。

「おら、行くぞ」

「…はい」

 リンカは、小さく頷いた。
 部屋を出て、少年に続いて廊下を進むと、正方形の広い部屋に出た。白いリノリウムの床には、囲碁や将棋の盤面めいて、黒い線が等間隔に引かれている。
393 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/11(水) 22:11:03.89 ID:LapuAGZv0
 その部屋の中心に立つと、少年は一本のガイアメモリを取り出した。

『ゾーン』

 少年の体が、小さな黒いピラミッドめいた形状になり、宙へと浮かび上がる。
 次の瞬間、白い床からホログラムのように、建物や道路の小さな映像が現れた。それはよく見ると、北風町の全体図を精巧に投影したものであった。

「…俺は止めねえぜ」

 突然、ガイキが口を開いた。

「何がですか」

「とぼけるなよ。…未練たっぷりなんだろ? あいつに」

「…」

 リンカは、何も言わない。
 彼らの足元で、ある一件の建物が点滅し始めた。それは、母神教の本部であった。

「では、転送します…!」

 頭上で、黒いピラミッドが宣言した。
 と、瞬く間に2人の体が、点滅する建物の映像に吸い込まれて、消えた。
394 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/11(水) 22:11:34.07 ID:LapuAGZv0
今夜はここまで
395 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/13(金) 23:25:06.34 ID:tz1p4c9m0
ゆるくない募

>>351みたいなオーパーツ系のメモリ

今週末は更新できなそう
396 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/09/13(金) 23:52:58.94 ID:wzflFxp50
ストーンヘンジ・ドーパント

「ストーンヘンジ」の記憶を持つメモリの力で変身するドーパント
身体は直立巨石に手足が生えているだけなので一見弱そうに見える
ストーンヘンジの成り立ちには諸説あるが、古代の天文観測所という見解を強く発揮しており、空の見えるところで夜には星座の力を借りる強力な力を持つ
例えば射手座が出ているときにはボウガンの様な強力な射撃部気がしようで着たり、蛇つかい座が出ているときにはエナジーの蛇を扱ったりすることもできる。
なら、昼に戦えばいいのかというとそんな単純な話でなく、太陽礼拝の意味もあったという話による記憶から太陽の力を一部使うことが出来たりもする。

ゾディアーツではない。
397 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/09/14(土) 00:14:37.90 ID:pCR8YhLB0
お疲れやで……

ピラー・ドーパント
『柱』、なかでも錆びない鉄柱のオーパーツとして知られる『アショカ・ピラー』の記憶を内包するメモリの力で変身する。
黒鉄色のメモリで、パルテノン神殿のような柱の意匠がPの字を描いている。
ドーパント体も黒鉄の、胴体にあたる一本と、両腕の位置に浮翌遊する二本の合計三本の鉄柱になる。
ドーパント状態で胴体部は地面に刺さり全く移動することはできないが、折れず、錆びず、敵からの干渉をほとんど受けない
両腕の二本の鉄柱は、蛇神ヴァースキを貫いているとする伝説にちなんで、槍やパイルのように射出でき、固定砲台として機能する。
398 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/09/14(土) 10:18:55.53 ID:sBDxg8KaO
ヴィマーナ・ドーパント


神々の持つ空飛ぶ戦車『ヴィマーナ』の記憶を内包したドーパント
戦車、車、飛行機、宮殿等の諸説あるが、このメモリでは主に空中戦車としての面が強い
ドーパント体は非常に巨体であり、数十人乗り込んでもまだ余裕がある程頑強。そしてどれだけ無理な旋回をしても振り落とされない
火炎と水流を放射する攻撃を得意とし、上空からの空爆だけで甚大な被害を巻き起こす
メモリの色は火を表すオレンジ。戦闘機が空気をかき分け、そのかき分けた衝撃がVの字となっている
399 : ◆iOyZuzKYAc :2019/09/14(土) 17:18:24.22 ID:HlPuoY2x0
ネブラを採用するにあたって、相方が欲しいんだ
ネタバレすると、変身者は若い女

現時点ではヴォイニッチが浮かんでる
400 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/09/14(土) 18:15:22.24 ID:4mU/SF5YO
ヴォイニッチで良いと思うけど・・・案を置く

モナリザ・ドーパント

「モナリザ」の記憶で変身するドーパント
見た目は長髪の聖母の様な女性で杖を所持している
モナリザ・・・ガレリオのモナリザには不思議な点がある。それは恐竜らしきものが描かれているということだ。あの時代にどのようにして恐竜を知ることが出来たのか・・・謎に包まれている
その為かこのドーパントも恐竜態に変身することが出来る
401 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/09/15(日) 02:33:58.35 ID:9WYe3VJVO
ゆるくなくモチーフ指定したらめっちゃ集まってて草
402 : ◆iOyZuzKYAc [sage]:2019/09/15(日) 08:12:38.93 ID:XQ6LdapB0
(PC無いから更新できないけど、集まったアイデアを見ると書くのが楽しみになる)

(ストーリー展開まで安価したスレを今まで散々エタらせてきたけど、このくらいの安価でも自分の思いもよらない展開に繋がって楽しい)
403 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/09/15(日) 16:20:15.14 ID:SiWZ6axDO
そういや今までどれだけ採用されたんだっけ
もう7〜8くらい採用されてる?
404 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/09/15(日) 17:11:36.97 ID:kQId8ESUO
>>403
カートゥーン
ファンタジー
アイドル
オーケストラ(提案時バンド)
クエスト
リインカーネーション
セイバー
トゥルース、ティーチャー
ワイルド

名前募集のもの含めてこれくらい採用されてるかな。漏れてたら失敬
405 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/17(火) 20:23:41.61 ID:ZkCaa3cg0
 次の瞬間、2人は薄暗い聖堂の真ん中に立っていた。祭壇のあるべき部屋の前方には、分厚い虹色のヴェールがかかっている。そこから、一つの人影が透けて見えた。

”待っていましたよ、子どもたち”

「財団Xです。アポイントも取らずに申し訳ありません。私たちは、貴女がたと取引を」

「よお、お母様とやら!」

 ガイキが、大声で割り込んだ。

「俺たちに従え。さもなきゃ殺す」

”…”

 あまりに乱暴な言い方に、ヴェールの向こうの人影は絶句し、リンカは溜め息を吐いた。

”…母は、あなた方を愛したい”

「好きにしろよ。だが、俺たちの言うことには従ってもらう」

「現時点で、私たちの利害は衝突しないと考えています。どうでしょうか。…貴女が、ガイアメモリをこの町に広げる理由を、聞かせていただけますか」

 リンカの問いかけに、人影がゆらりと動いた。

”母は、全てを愛しています。全ての母であるが故に。ですが…”

「何か問題が?」

”子は多く、母は独り。全てを愛しても、それは伝わり難い…現にミヅキは、誰よりも愛を求めていたのに、母はそれに応えられなかった…”

「挙げ句、仮面ライダーとやらに寝取られちまったな。ははっ!」

”まさか。兄妹が睦み合うことを嫌う母がいましょうか”

「…」

 ガイキは、うんざりした顔でリンカを見た。

「…それで? 結論は」

”ガイアメモリは、母の知恵。一度でも触れたものは皆、母の腕の中。腕の中で……一つになる”

「なるほど、そりゃあ良い」

 ようやくガイキが頷いた。

「目指すところは大体一緒だな。よし、交渉成立……っぐ!?」

「っ!」

 手を叩こうとしたその時、彼が呻き声を上げた。一拍遅れて、リンカがその場に膝を突いた。
406 : ◆iOyZuzKYAc [saga]:2019/09/17(火) 20:24:09.19 ID:ZkCaa3cg0
「もちろん、君たち2人も一緒だよ」

「こ、の、野郎…」

 振り返ると、そこにはシロツメクサの冠を被った、天使のような少年が立っていた。その手には、四つ葉のクローバーを模した重いメイス。

「『お母様』は必要だが、テメエはぶっ殺す…」ドミネーター!

「…やむを得ません」トゥルース

”ユウダイ。程々に、ですよ”

「はい、お母様」

 ヴェールが開き、中からマリア像めいた白い女のドーパントが姿を現した。ドミネーターとトゥルースドーパントは、拳や杖を構えてそれらと向き合った。



『…ケッ』

「っ…」

 肩で息しながら、舌打ちするドミネーター。その隣でトゥルースドーパントも、深呼吸を繰り返す。

”気負うことはありません、我が子たち。母に委ねなさい”

 ゆっくりと祭壇を降り、2人に歩み寄るマザードーパント。彼女は2人を交互に見て、それから何か言おうとして……おもむろに、後ろを振り返った。

「!」

「! お前は…!」

 そこには、右手の毒針を構え、今まさに主の背中に突き立てんとしていた、クイーンビードーパントがいた。

”母に、その毒を向けますか”

「…」

 奇襲を見破られ、狼狽する女王蜂。いきり立つクローバードーパントを制すると、マザードーパントは、一言、呼びかけた。

”…『蜜屋先生』”

「!! その声、まさかあなたは」

 白い光が、マザードーパントの体を包む。光が収まった時、そこに立っていたのは、ブラウスに白衣を纏った、自身の塾の専従医であった。

「友長…先生……ああ…」

 女王蜂は呆然と呻くと…突然、ヒステリックな声で叫んだ。

「あああっ! あと少し、もう少しだったのに!! 誰も、誰にも私は…」

 叫びながら、腕を振り上げ、そして突き出した。

「やめろ、このっ…!」

 クローバーが駆け出すが、ドミネーターに阻まれる。

”…っ”
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