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お兄ちゃん、一緒にバカになろ?
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46 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/14(金) 21:36:52.19 ID:VEAIvzGwO
#
「プティ・アンジュ」は相変わらずの賑わいだ。バレンタインが近いというのもあるかもしれない。
佳代ちゃんも、お兄ちゃんにチョコを渡すのだろうか。2人の仲が進展しているとは思えないけど、万一そうならやはり彼女を消さないといけない。
でも、今はコナン君が優先だ。
店に入ると、既にコナン君が準備していた。そこに向かおうとすると、香苗さんに呼び止められる。
「しずくちゃん、ちょっと」
「え?」
香苗さんは厳しい顔で、私を裏口へと連れていく。
「あなたのお兄ちゃん──雄太君。最近家ではどうなの?」
「最近って……いつも通りですけど。帰りが遅いくらいで。忙しいんですよね?」
「何時ぐらいに帰ってる?」
「えっ……11時過ぎとか……昨日は日付が変わる手前に」
「……そっか……」
香苗さんが下を向いた。
「雄太君ね、最近ミスが激増してるの。1年前に病気になって、ちょっと……後遺症でぼんやりするようになってたけど、元が優秀なパティシエだったから十分戦力になってた。
だからうちでも使い続けてたんだけど……あの調子だと、もう限界。首は避けられない」
ガシャン
「磯崎ぃ!!何やってんだバカが!!!」
何かを落とす音と、香苗さんの旦那さんの怒号が聞こえた。香苗さんが、申し訳なさそうに私を見る。
「しずくちゃんも、ずっと心配だったから毎週来てくれたんだろうけど……ごめんね。
雄太君が帰る時の足取りがおかしい時点で、すぐに連絡すべきだった。多分、帰るのもやっとだったんだと思う。
病気の後遺症が酷くなってるんだと思うわ。少なくとも、具合が良くなるまで休んでもらおうかって」
「そ、そんな……!!ケーキ作りは兄の生き甲斐……」
「……でも、仕方ないのよ。『プティ・アンジュ』は都内でも屈指の人気店。看板を汚すわけには、いかないの」
私は、その場に崩れ落ちた。
まさか、いや、そんな……。でも、説明がついてしまう。
お兄ちゃんのバカは、もうちゃんと歩けなくなるまで……悪化している。
私たちは「痴呆薬」を使いすぎたんだ。
47 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/14(金) 21:37:22.67 ID:VEAIvzGwO
そして、意識がまた、暗転した。
48 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/14(金) 22:07:13.65 ID:VEAIvzGwO
……
…………
………………
……ここは。
「君の家だよ、磯崎しずく」
聞き覚えのある声が横からした。そこには……
「やあ」
コナン君がいた。
49 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/14(金) 22:21:31.58 ID:VEAIvzGwO
「……!!?コナン君!!?なぜここに……」
「先週みたいに気を失ったんで、ここまでタクシーでね。君のお兄さんも一緒だ。リビングのソファーに寝かせている」
「……って鍵は」
「無断で借りた。すまない」
コナン君が苦笑した。……口調がまるで違う。こっちが彼の「素」だと、私は直感した。
「……あなた、本当は何者なの。まさか、『名探偵コナン』とか言わないわよね」
「ハハハ!!『名探偵コナン』か、さすがにそれはないよ」
私は身体を起こした。少しダルいけど、何とか動く。
「なら何なの??そもそも、『コナン』なんてふざけた名前……」
「生憎本名だよ。『藤原湖南』。これが僕の名だ」
「え」
「父さんと母さんが『名探偵コナン』のファンで、僕にこの名を付けたという所までは本当だ。
だが、その他はまあ色々違う。君を騙していたのも事実だ」
「騙していた……何なの?何が目的で」
目の前に名刺が差し出された。
「僕はこういう者だ」
50 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/14(金) 22:27:06.66 ID:VEAIvzGwO
『警察庁警備局公安課特務捜査室 室長補佐 藤原 湖南警視』
「……え???」
そんな馬鹿な。こんな小さい子が、警察??それも……公安……??
コナン君……いや、藤原警視が私に顔を近付けた。
「そうだ。僕は警察だ。探偵というよりは、『殺し屋』に近いけどね」
51 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/14(金) 22:27:34.45 ID:VEAIvzGwO
今日はここまで。あと2回か3回で終わります。
52 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/15(土) 10:58:33.37 ID:dwnS3S9OO
「殺し、屋……?……まさか、私を」
一瞬沈黙があった。
「説明が難しいね。とりあえず僕にとって用があるのは、君の冷蔵庫の中にある物だ」
「……!!やっぱり、気付いて」
「ああ。君が南口さんを殺そうとしたのも、当然気付いていた。
あそこにある薬は、『痴呆薬』だろう?」
「……どうして、そこまで」
何とか声を絞り出した私に、藤原警視は目を閉じた。
「それに答える前に、こちらから質問だ。……どうやってあれを手に入れた」
「どう、やって……?」
私は言葉に窮した。何故なら、私にもよく分からなかったからだ。
53 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/15(土) 11:02:05.73 ID:dwnS3S9OO
#
お兄ちゃんをバカにしたのは、私だ。
54 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/16(日) 09:40:12.81 ID:+TuNy4pnO
#
私がお兄ちゃんと最初に関係を持ったのは、今から5年前のことだ。
12歳の私を、お兄ちゃんは犯した。
#
私たちの一家は、傍から見れば理想的な家族に見えただろう。
弁護士の両親は外面は良かったし、金銭的にも余裕があった。
モラルには厳しかったけどとても教育熱心で、それなりに愛情は注いでくれていたのだと思う。
ただ、いかんせん完璧主義者だった。「理想の子供」でなくなることを、彼らは良しとしなかったのだ。
お兄ちゃんは昔から優しいお兄ちゃんだった。温厚で、勉強もすっごくできた。
ルックスも良かったから、女の子からも相当もてていたみたいだった。
男子校だったから彼女はいなかったけど、大学に入ったらいい人が見つかるんだろうなと思っていた。
お兄ちゃんはお菓子作りが好きだった。中学ぐらいから、家のバースデーケーキはお兄ちゃんが作るようになっていた。
どこから勉強してきたのか、その腕前は年を経るごとにぐんぐんと上がっていった。
お兄ちゃんは勉強については秀才だったけど、お菓子作りについては間違いなく天才だった。
うるさい両親も、「趣味の範囲内だから」とそれについては何も言わなかった。
それが一変したのが、5年前だ。
お兄ちゃんが、大学を辞めると言い出したのだ。
55 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/16(日) 11:00:38.05 ID:+TuNy4pnO
お兄ちゃんは、本格的にお菓子作りを学ぼうとしていた。そのつてもいつの間にか作っていた。
でも、両親はそれに断固反対した。お兄ちゃんにとっての「幸福」は、「法曹界に入って然るべき家の女性と家庭を持つこと」だと決めつけていたから。
それは2つの意味で間違いだった。
お兄ちゃんは法律に関心がまるでなかった。そして、お兄ちゃんの愛する女性は……私だけだった。
お兄ちゃんは両親と大喧嘩をした。私は自分の部屋の隅っこで小さくなりながら、彼らの叫び声を聞いていた。
結論から言えば、お兄ちゃんは折れた。両親に逆らいきるには、お兄ちゃんは「いい子」過ぎたし、「頭が良すぎた」のだ。
叫び声が収まってしばらくして……お兄ちゃんは私の部屋に入ってきた。涙でぐしゃぐしゃに顔を歪ませて。
そして、無言で……私の服を剥いだ。荒々しく私を組み伏せ、口を塞いで、前戯も碌にせず無理矢理に押し入った。
あの時の恐怖を、私は忘れない。忘れたくても忘れられない。
56 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/16(日) 11:09:33.24 ID:+TuNy4pnO
ドロリとしたものが私の中に注ぎ込まれ、お兄ちゃんは自分のものを抜いた。
そして、私を強く抱きしめ「ごめん……ごめん……!!」とずっと言い続けたんだ。
お兄ちゃんに対する恐怖は、消えていなかった。でも、お兄ちゃんが何故私を犯したのかも何となく知っていた。
#
私が自由でいられるのは、お兄ちゃんと話している時だけだった。
学校でも、親の前でも、当然塾でも、私は物分かりのいい優等生の「磯崎しずく」であることを強いられていた。
お兄ちゃんだけが、わがままで子供の私を許してくれた。だから、私はお兄ちゃんを好きになった。
異性との接触が禁じられる中、お兄ちゃんだけが「男の子」だった。
だから、幼い私は無意識のうちにお兄ちゃんを「男性」として意識するようになっていた。
まさか、こんな形で結ばれるとは思っていなかったけど。
私はいつの間にか、お兄ちゃんの頭を撫でていた。
「お兄ちゃん、私がお兄ちゃんを守ってあげる」
12の子供の思い上がりだっただろう。でも、その時私は覚悟を決めたのだ。
いつか2人で、2人だけで暮らそうと。
そしてそのために……あの両親を殺すと。
57 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/16(日) 11:18:10.86 ID:+TuNy4pnO
#
お兄ちゃんは、翌朝家を出た。両親は半狂乱になったけど。
お兄ちゃんが私を犯したことには、何故か両親は気付いていなかった。
お兄ちゃんがいなくなったことで、きっと気が動転していたんだろう。
そして、両親は今まで以上に「理想の磯崎しずく」を私に押し付けた。
私はそれに耐えた。お兄ちゃんが家出したのは、単に自分の夢を追うためじゃないのを知っていたから。
そして、その日はやってきた。
#
58 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/16(日) 11:49:36.57 ID:+TuNy4pnO
1年前。高校1年になった私の前に、お兄ちゃんは突然現れた。
「よお」
「お兄ちゃん!!?やっと会え……」
飛びつこうとした私を、お兄ちゃんは制した。
「ここじゃ目立つだろ。静かな場所に行こう」
場所は学校の校門前。校則がやたらと厳しいので有名なうちの学校だ。この程度のことでも校則違反に当たりかねない。
久々に見るお兄ちゃんは、随分精悍になっていた。聞くと「長野の洋菓子店で修業した後、フランスに行っていたんだ」という。
「……辛い思いをさせて、すまない。やっと準備ができた」
「……準備?」
「ああ。つてができた。これなら多分、大丈夫だ」
連れていかれたのは、表参道の裏通りだった。「プティ・アンジュ」と看板が掲げられている。まだ開店前なのか、中は随分暗い。
「ここは?」
「俺の先輩が独立して作ったパティシエールだ。俺もオープニングスタッフとして入る。
開店は1週間後。今日は誰も来ないはずだ」
出来たばかりの建物特有の匂いが鼻を突いた。そして、お兄ちゃんはキッチンの流しに腰を掛ける。
「大学の友人に、ある薬が手に入るという話を聞いたんだ。まだ誰も知らない薬で、検死でも検出されないと聞いている」
「え……そんな都合のいい薬なんて」
「ある。使用量によって効果は違うらしいけど、その効能は見せてもらった。
オーダーによって、多少アレンジを利かせることもできるらしい。これが、その説明書だ」
お兄ちゃんは紙を取り出した。「GATE」というエンブレムが押されている。
「……こんなの、信用していいの?」
「正直、その友人は虫が好かない。恐らく、相当ヤバいことをやろうとしている。
だが、俺に惚れているらしいのを使って『落とした』。大丈夫、外には漏れてない」
心がズキンと痛んだ。友人って、女の人なのか……
暗い感情が、私の胸に広がっていく。
私の様子を見て察したのか、お兄ちゃんは私を抱いた。
「……すまない。俺にとって女はしずくだけなんだが……これしか方法がなかった」
「……うん……分かった。で、どうするの」
「準備ができたら薬を渡す。量は多めに作るよう言っておくさ。
そして、その他の準備ができたら決行だ。あいつらを殺して、2人で生きよう」
そう、お兄ちゃんは約束を忘れていなかった。
5年前、お兄ちゃんは……両親を「完全に」殺す手段を探しに出たのだった。
59 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/16(日) 12:08:05.21 ID:+TuNy4pnO
#
その日は、1ヶ月もしないうちに訪れた。
休日、両親は必ず午後3時にコーヒーを飲む。勿論、両方家にいる時だけだけど。
そして、コーヒーを淹れるのは私の日課だ。ミルクも砂糖もたっぷり入れる。
そしてその日は、黒い水薬を……20ccずつ加えた。お兄ちゃんからもらった薬――「痴呆薬」だ。
1cc飲めば感覚が鋭敏になり、5cc飲めば超人になり、10cc飲めば痴呆――バカになる。
そして20ccは……致死量だ。15ccでも死ぬらしいけど。
#
そして、両親は……眠るように死んだ。
60 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/16(日) 19:15:56.55 ID:+TuNy4pnO
「逝ったかい」
深夜、お兄ちゃんが家にやってきた。屍と化した両親との時間がやっと終わって、私は思わず泣きだした。
「お兄ちゃん、これでやっと……」
「いや、やることは山のようにある。まず、死体の処理だ」
お兄ちゃんは車からドラム缶とセメントを持ってきた。一人で持つには重いそれを、難渋しながら2回の両親の部屋へと持って行った。
「これでいい。今度は死体だ」
死後硬直が始まった2人の身体は、驚くほど重かった。それでも何とか、小一時間かけてそれをドラム缶の中に入れる。
「後は、セメントを流し入れて固まれば全て終わりだ。誰かがこの部屋に入り込まない限り、決してバレることもない。
旅行の偽装工作も済ませている」
「……随分手際がいいんだね」
「友人に教えてもらったんだ。これで、俺たちは自由だ」
ニコリと笑うお兄ちゃんに、私はどこか恐怖を感じた。5年会っていない間に、お兄ちゃんは変わってしまったのだろうか。
「これからどうするの?」
「5cc、あの薬を飲ませて欲しい。あのままだとまずいからね、コーヒーに混ぜてくれ」
「……超人とやらになりたいの?」
「いや、そういうわけじゃないんだけどね。ノーリスクならどんなものか、なってみたいじゃないか」
……何か嫌な感じがした。そもそも、お兄ちゃんは他の女の人にも手を出している。きっと、やむを得ないとはいえ……
お兄ちゃんは、変わってしまった。私はそう確信した。
私にとって必要なのは、そして私が一緒に生きたいのは、5年前の優しかったお兄ちゃんだ。
レイプされた時は怖かったけど、それ以外は本当に優しかった、あのお兄ちゃんだ。
私はキッチンに向かう。そして……
61 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/16(日) 19:16:40.57 ID:+TuNy4pnO
……私は「10cc」、黒い薬をコーヒーに入れた。
62 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/16(日) 19:20:56.74 ID:+TuNy4pnO
バカになれば、お兄ちゃんはきっと優しい昔のお兄ちゃんでいてくれる。
きっと「超人」とやらになって危ないこともしないだろう。この危険な薬を持つ女性とも、縁が切れるだろう。
そして、私はずっと、お兄ちゃんと一緒でいられる。ずっとだ。
「しずく、ありがとう」
お兄ちゃんは何も気付かず、コーヒーを飲んだ。
ごめんね、お兄ちゃん。でも、これは……私とお兄ちゃんのためなんだ。
63 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/16(日) 21:52:14.64 ID:yTBCC42FO
そうやって、お兄ちゃんは「バカ」になった。
数日寝込んだ時には心配したけど、起き上がった時にはすっかり大丈夫になってた。
お兄ちゃんは、小学校低学年ぐらいの知能になっていたけど。
寝込んでいる最中に、長谷川里奈という女――お兄ちゃんの言ってた「友人」が「プティ・アンジュ」に来た。
お兄ちゃんの様子を見に来てたみたいだったので、喫茶店に呼び出してコーヒーに一服盛った。
あろうことか、その女は人妻だった。……お兄ちゃんが左手の薬指の指輪を贈ったとは思えなかったから。
20cc入れようと思ったけど、15ccで止めた。20ccだと、ほぼ即死みたいになってしまうのを知っていたから。
その1週間後ぐらいに、彼女が変死したというニュースがあった。警察が来るかと思ったけど、結局それはなかった。
まさか女子高生が毒殺なんてするはずがないという先入観があったのかもしれない。
そして、私とお兄ちゃんの、望んでいた生活が始まったんだ。
64 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/16(日) 22:36:26.33 ID:yTBCC42FO
#
「……なるほど」
私の告白を聞いた藤原警視は、小さな溜め息をついた。
「つまり、君が殺した長谷川里奈しか、入手経路を知らないというわけだな」
「……ええ。あの女が何者かは知らないけど……そんなにあの薬って」
「当然、危険な代物だ。そもそも毒薬であり麻薬だ。『アイスキャンディ』。聞いたことは」
ブンブンと、私は首を振った。
「……そうか。最上位校だから、君にも話が行っていると思っていたが、違ったか」
「え」
「いや、こちらの話だ。君が知ってどうなるという話ではない」
「それって何なの」
「最悪の麻薬だ。流出しているという話を聞いてね。それの関係者やそれによる死者を、僕らは探している。
そして、長谷川里奈の死を洗い直した。典型的な『アイスキャンディ』乱用による死亡事例だったんでね。
その結果、君に行き当たったというわけだ」
……まさか、初めから私を狙って……?でも、彼は子供だ。子供が警察なんて聞いたことがない。
私の動揺を察したのか、藤原警視が苦笑した。
「君をハメたのは確かだよ。ああ、僕と一緒にいたのは間違いなく僕の家族だ。もちろん、事情は知っている」
「あなた、本当に何者なの」
「詳しく説明してどうなるというものでもないが……僕の肉体年齢は10歳、精神年齢は30歳だ。
ああ、『名探偵コナン』のように若返っているわけじゃない。ある事情で精神だけ30歳になっている。
僕の肩書も、それに付随するものだ」
「何で殺し屋って……あなた、警察でしょ?私を捕まえに来たの?それとも薬を追って……」
ふーっと長い息を藤原警視がついた。
「ここに来たのは、2つ目的がある。最優先目的は、この『痴呆薬』――『アイスキャンディ』をブロン液に溶かしたものを確保することだ」
彼が例の黒い薬を懐から取り出した。いつの間に冷蔵庫から取り出していたのか。
「で、もう一つの目的、それは君だ」
「……殺人罪で逮捕しに来たの?でも、お兄ちゃんは……」
「そうだ。本来なら君の兄、磯崎雄太も殺人の共同正犯だ。だが、今の彼は逮捕できない。心神耗弱だからな。
それ以上に、彼はもうもたない」
え?
「今、何と言ったの??」
「彼は『アイスキャンディ』の度重なる服用で、脳が多分海綿化している。アルツハイマーの末期に限りなく近い。
見た所、これまで社会人生活を曲りなりにも送れたこと自体が驚きだ。
だが、僕が診る限り……恐らくは後1週間は生きられまい」
65 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/16(日) 22:40:48.74 ID:yTBCC42FO
脳が、認識を拒否した。
そんな……馬鹿な。
「うそ、でしょ?あなた、警察でしょ??何でそんなこと分かるのよっ!!!」
「残念ながら、本当だ。僕は本来医師でね。この症例は結構見ているんだ。だから間違いない。
そして、治療は全て手遅れだ。安楽死しかもはや手がない」
うそ。
うそうそうそうそ。
そんなこと、あっていいはずがない。絶対あっちゃいけない。
だって、もしそうなら。本当に、お兄ちゃんがもう助からないなら。それは。
66 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/16(日) 22:42:00.41 ID:yTBCC42FO
「いやああああああああああああ!!!!!!」
67 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/16(日) 22:42:34.80 ID:yTBCC42FO
そう、それは。
私が、お兄ちゃんを、殺したことになるのだから。
68 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/16(日) 22:45:49.83 ID:yTBCC42FO
その瞬間。
「しずくっっっ!!!!!」
血相を変えたお兄ちゃんが、藤原警視に飛び掛かっていた。
69 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/16(日) 22:53:46.87 ID:yTBCC42FO
「何っ!!?」
お兄ちゃんは藤原警視の胸倉を掴むと、力任せに壁へと叩きつけた。ガァン!!!という衝撃音と共に、机の参考書や何やらが、床に落ちる。
「つっっ!!!」
藤原警視は、すぐさま着地する。そこにお兄ちゃんが、右拳を振るった。
ボゴォッ
藤原警視が紙一重で避けると、壁が凹んだ。お兄ちゃん、こんなに力強かったの??
「信じ、られんっ!!?完全に、虫の息だったはず……」
お兄ちゃんは素早く藤原警視を部屋の隅へと追いつめる。そして、今度は右脚で彼を蹴った。
バキィッ
また寸前の所で避けたのか、それは空振りした。柱に当たったのか、部屋全体が揺れているように感じる。
「『アイスキャンディ』の効力かっ!!仕方がないっ!」
藤原警視が、私のベッドの前に来た。お兄ちゃんが、両拳を合わせて彼へと叩きつける。
一瞬、その動きが止まった。そして、藤原警視が銃のようなものを構え……
ビシュッ
「がぁっ、ああっ」
お兄ちゃんは、全身が痙攣し……倒れた。
70 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/16(日) 23:15:26.07 ID:yTBCC42FO
「お兄ちゃんっ!!!!」
気絶しているお兄ちゃんに駆け寄る。藤原警視が、銃をしまった。
「この、人殺しっっっ!!!お兄ちゃん、しっかりしてよおっっっ!!!」
「……殺人者が何のジョークかな。第一、僕は殺してないぞ」
「……え」
「僕が使ったのは、この『テーザーガン』だ。強力なスタンガンの一種、と思ってもらえばいい。
何度も当てれば死ぬだろうが、一発だけなら気絶で済む」
彼はもう一度、銃を見せた。確かに、刑事ドラマで見るそれとは全然形が違う。
「それにしても驚いた。あの状態から息を吹き返すどころか、攻撃までしてくるとは。
君の叫びが届いた、としか考えようがないな。……彼の君への愛は、本物だったということか」
「……お兄ちゃん……」
お兄ちゃんはすうすうと寝息を立てている。確かに、死んではいないようだった。
「……話を元に戻すか。僕のもう一つの目的は、君だ。君は、3人殺している。
少年法に照らしても、長期懲役は避けられまい。もし君が成人なら、死刑は確実だ。……が」
藤原警視が、床に落ちていた「痴呆薬」を取り上げた。
「逮捕はしない。この薬によって3人が死んだという因果関係の立証は不可能に近いんだ。
何せ、体内に吸収されると即分解されるという代物だ。証拠が残らないんだよ。だから逮捕はしない。
ただ、君は人を殺めている。その落とし前は付けなきゃいけない。
そして、何より僕の存在を知ってしまった。僕の存在は基本的に国家機密でね。絶対に知られちゃいけないのさ」
「……だから、殺すの」
藤原警視が目を閉じた。
「……いや。君がもう少し凶悪なら、この場で殺してたと思う。だが、付き合っていくうちに君という少女自体は、至って真っ当な子だと知った。
ただ、磯崎雄太に対する愛情が肥大化し、その愛情を守るためにありえない手段を手にし、実行してしまったというだけで」
彼がまた、大きな溜め息をついた。
「そして、君の生きる理由は、磯崎雄太に他ならない。彼がもはや手遅れと知ってなお、君がまともに生きられるとは思えない。
多分、自死を選ぶだろう。確かに、彼はこのまま行けば君によって殺される。その事実に、君が耐えきれるとも思えない。
……本来、こういうケースでは君を精神病院に入院させるんだ。控えめに言って、一生自由のない生活を送ってもらう。
だが、それはある意味死より厳しく、残酷だ。だから、君に選ばせようと思う」
「選ぶ……?」
「そうだ。まず、磯崎雄太の意識を一時的に戻すことはできる。殺しの道具として、僕は『アイスキャンディ』に類する薬を持っている。
適量を使えば、気付け薬にもなる。もちろん、その反動で彼は死ぬが……少しの間なら、彼と会話することは可能だ。
その後、君がどうするか。罪を背負って一生涯を懺悔に費やすのが、一番望ましい。だが、そうでない道もある」
「そうでない道……」
「ああ。それは、君も『痴呆薬』を飲むことだ。つまり、一緒にバカになって、一緒に死ぬ」
71 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/16(日) 23:24:21.37 ID:yTBCC42FO
藤原警視の顔は、苦痛で歪んでいた。お兄ちゃんの攻撃のせいか、それとも自分の提案のせいか……その両方か。
「え」
「君にも『アイスキャンディ』の度重なる服用で、症状が出始めている。実の所、君はまだ治すことができる。
ただ、君が為してしまったことの重大性を鑑みるに……恐らく治療は認められまい。
1年もしないうちに、君はお兄さんのようになって死ぬだろう。それを僕は、よしとはしない。
何より、僕も君には世話になった。もし君が咎人でないなら……君はきっと、良い教師になっていただろう。本当に、残念だ。だから」
彼は、懐から小さな注射器を取り出した。
「この半アンプルを、お兄さんにこれから打つ。しばらくすれば、彼は意識を取り戻すだろう。多分、2時間程度は。
そして、もう半アンプルを……君が望むなら、君に打つ。君は段々とバカになり……どんなに長くても、1週間以内に死ぬ。
お兄さんが死んだ頃には、もう相当症状が進行しているだろう。だから、そう遠くない未来に、後を追える」
藤原警視が、唇を噛んだ。
「こんなことは、警察がすべきことではない。だが……君に少しでも救いを残すなら、これしか考えつかなかった」
私は、彼を抱き寄せた。そして耳元でこう囁いたのだ。泣き笑い顔で。
「ありがとう『コナン君』。私は……」
72 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/16(日) 23:25:29.86 ID:yTBCC42FO
今日はここまで。あと2回で終了の予定です。
73 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/17(月) 09:47:38.33 ID:z07HhFwhO
テストです。
74 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/17(月) 09:53:46.33 ID:z07HhFwhO
#
「ん……」
お兄ちゃんが目を覚ました。私は思わず彼の首に抱き付いた。
「お兄ちゃんっ!!よかった、目を覚ましてくれて……!!」
「……ああ。……誰か来てたのかい?」
「……来てないよ。誰も」
「そうか。気のせいだったんだな」
お兄ちゃんはさっきのことを覚えていないみたいだった。私はお兄ちゃんを抱く腕に、少しだけ力を込める。
「うん……全部、気のせい」
そうだったらどんなによかっただろう。でも、これは現実だ。
私とお兄ちゃんに残された時間は、あと2時間しかない。
75 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/17(月) 10:00:11.03 ID:z07HhFwhO
#
「これでいい。しばらくしたら、彼の目は覚めるだろう。君にも、感覚の鋭敏化から始まり意識の混濁、そして痴呆の表情が徐々に表れるはずだ」
藤原警視は、すっと立ち上がった。
「僕はここを去るよ。お兄さんが目覚めたら、厄介だからね。
……あ、それと。もし覚えていたらでいいんだが、お店の小さな常連が『すまなかった』と言っていたと伝えてくれ」
「……え」
「『テーザーガン』で撃たれる直前、彼は明らかに動きを止めた。君が近くにいたからだろう。
彼は、本当に君を愛していたのだろうな。僕はそれに乗じたまでだ」
彼が踵を返した。
「もう会うこともないだろう。……さようなら、『しずくお姉ちゃん』」
その後ろ姿は、とても小さく見えた。
76 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/17(月) 10:00:44.05 ID:z07HhFwhO
誤字があったので訂正
#
「これでいい。しばらくしたら、彼の目は覚めるだろう。君にも、感覚の鋭敏化から始まり意識の混濁、そして痴呆の症状が徐々に表れるはずだ」
藤原警視は、すっと立ち上がった。
「僕はここを去るよ。お兄さんが目覚めたら、厄介だからね。
……あ、それと。もし覚えていたらでいいんだが、お店の小さな常連が『すまなかった』と言っていたと伝えてくれ」
「……え」
「『テーザーガン』で撃たれる直前、彼は明らかに動きを止めた。君が近くにいたからだろう。
彼は、本当に君を愛していたのだろうな。僕はそれに乗じたまでだ」
彼が踵を返した。
「もう会うこともないだろう。……さようなら、『しずくお姉ちゃん』」
その後ろ姿は、とても小さく見えた。
77 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/17(月) 23:44:12.22 ID:LRcHzMHAO
#
お兄ちゃんが、私の耳元で囁いた。
「しずく。……悪い、夢を見ていたよ」
「え」
「しずくがどこか、遠いところへ行ってしまう夢だ。……でも、今は落ち着いてるよ」
私の目から涙が溢れた。
「お兄ちゃんっ、私、どこにも行かないよ!!ずっと、ずっと一緒だよ!!」
「うん。分かってる。……でも、俺にはもう時間がないんだろ?」
「……え」
お兄ちゃんが身体を離し、微笑んだ。
「自分の身体だ。自分が一番よく分かってる。もう、永くないんだよな、しずく」
「そんなっ!!?お兄ちゃんは、だいじょ……」
お兄ちゃんが静かに首を振った。
「いや、分かるんだ。もう、それは仕方がない。俺の運命だ」
まさか、お兄ちゃん……正気に戻ってる……?
お兄ちゃんは穏やかに微笑んだままだ。
「ありがとう、しずく。俺を、『バカ』にしてくれて」
78 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/17(月) 23:44:36.71 ID:7OsJgfcjO
今日はここまで。少し終わるのが延びるかもしれません。
79 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/18(火) 09:18:25.71 ID:sM17xn3HO
「……お兄ちゃん、気付いて」
「これは俺に対する罰だ。両親を殺すよう指示したのは俺だし、ヤバい薬と知りながら入手したのも俺だ。
そして、それを使って何かできないかとも考えていた。
そして何より、俺はしずくを裏切った。目的のためとはいえ、長谷川里奈を抱いたんだから」
そして、もう一度私を抱くと、ポンポンと背中を叩いた。
「だから、しずくは悪くないんだ。もし俺が『バカ』になってなかったら……俺はきっと、ずっと取り返しのつかないことをしていたと思う」
「でもっ!!わ、私のせいで……!!」
「しずくは悪くないって言ったろ?これは、運命なんだ」
嗚咽が止まらなかった。お兄ちゃんは、全部分かっていて……バカになってくれたんだ。
「……お兄ちゃん、最期にしたいこと、ある?」
「……しずくと、もう一度一つになりたい。ダメかな」
私の中に喜びが満ち溢れてきた。お兄ちゃんは、私を許してくれたんだ。
その喜びのまま、私はお兄ちゃんに深く口付ける。必死に舌を絡み合わせると、ブワッと幸せが強くなった。
……溶ける。バカになっちゃう。
80 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/18(火) 09:52:05.64 ID:sM17xn3HO
#
お兄ちゃんは、今まで以上に私をじっくりと愛してくれた。まるで肌や性器の味や匂いを、味わうように。
その度に、私は甘くて蕩けるような快感の渦に飲み込まれていく。
どろどろに溶けて、自分が自分でなくなっちゃうみたい。
お返しにとお兄ちゃんのを舐めると、すぐに射精した。ビックリするほど早かったけど、回復もあっという間だった。
「しずくと一緒に溶けたがってるんだよ」というお兄ちゃんの言葉は、きっとその通りだ。
クンニで、フェラチオで、シックスナインで、アナル責めで……私たちは何度もイッた。でも、全然疲れない。
ああ、きっとこれは、2人の最期の命の火が燃えているからなんだ。ロウソクの火が消える時、一瞬だけ大きくなるみたいに。
81 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/18(火) 10:00:23.85 ID:sM17xn3HO
#
「しずく。もう、いいかな」
お兄ちゃんがガチガチに硬くなったペニスの先端を、私の入口へと軽く当てる。それだけで、私の意識は真っ白になりそうだった。
「うん。……その前に、コナン君、覚えてる?」
「……ああ。彼がどうしたの?」
「……『すまなかった』って」
「……そうか。『ありがとう』って、お礼を言ってくれないかな」
「……うん、分かったよ」
目の前が、また涙で滲んだ。彼と会うことは、もう、ない。
私の涙をペロリ、とお兄ちゃんが舐めて微笑んだ。
「しずくに涙は似合わないよ。……じゃあ、挿れるね」
くちゅ……
「ふわあああああっっっっ!!!!」
何これ、なにこれっっ!!!
足りなかったものが、全部満たされていく。とてつもなく甘い幸せが、全身に伝わっていく!!!
くにゅっ
お兄ちゃんの先端が、一番奥に達した時……私の意識は、全部真っ白になった。
……あ。
…………わたし、ばかになっちゃうんだ。
82 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/18(火) 13:09:11.87 ID:oceueJQ2O
ぱちゅんっ、ぱちゅんっ
みずのおとがきこえる。お兄ちゃんのが、コツッコツッとわたしのおくをたたくたびに、わたしはあたまがまっしろくなっていった。
どろどろになってく。これが、ばかになるってことなんだ。
「しずくっ、しずくっ!!!」
「はむっ、おにい、ちゃんっ!!じゅるるっ、おにい、ちゃんっ!!!」
キス、きもちい。くちから、したからとけていくみたい。
お兄ちゃんがはいってるおまんこも、きもちい。
わたしとお兄ちゃんがいっしょにまざって、とけていくのきもちい。
もう、なんかいいったかもわからない。お兄ちゃんも、なんかいもしずくのなかにだしてる。
でも、ほんとうにすごいのがくるって、しずくしってるよ。
まっしろな、あったかくておっきなものがからだのなかからやってきた。それとどうじに、きもちがぶわっとあふれてくる。
すき。
すき。すき。
すきすきすきすきすき。
しずく、しあわせだよ。
83 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/18(火) 13:09:58.47 ID:oceueJQ2O
そして、ひときわおっきな「すき」がやってきた。
84 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/18(火) 13:10:32.35 ID:oceueJQ2O
「お兄ちゃん、いっしょにバカになろ?」
85 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/18(火) 13:11:38.19 ID:oceueJQ2O
すき。
すき。
………………
…………
……
お兄ちゃん、大好きだよ。
86 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/18(火) 13:12:09.42 ID:oceueJQ2O
そして、私の意識は、白い光の中に溶けていった。
87 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/18(火) 13:12:46.08 ID:oceueJQ2O
………………
…………
……
88 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/18(火) 20:03:23.33 ID:9jbONNUiO
#
「CLOSED」との札を無視して、俺は扉を開けた。鍵は当然かかってない。
カウンターには蝶ネクタイに眼鏡の少年が座っている。マスターがサイフォンからコーヒーを淹れた。
「仁か。悪いな、先客ありだ」
少年はチラリとこちらを見て苦笑する。
「……一番会いたくない相手だな」
「相変わらず辛気臭い面だな。育児ノイローゼか?」
「生憎手のかからない子でね。仁さんの所はどうなんだ?」
「どやされっぱなしさ。美和だけならまだいいが、亜衣にまでやられてる」
「それは『6歳』の?それとも『26歳』の?」
「どっちもさ。どうにも女はうるさい生き物らしい」
肩をすくめておどけると、藤原は「はは」と笑った。
「それは仁さんがただだらしないだけじゃないか?」
「俺はお前ほど几帳面にはできてねえもんでな。兵さん、マンデリンを」
「了解だ」
マスターの白田兵次郎……「兵さん」がサイフォンを操作し始めた。
「……磯崎しずくの件だが」
藤原の表情が曇った。
「やはりそれか」
「まあな。お前の望み通りになったな。兄妹は自然死扱いになったらしいじゃないか」
「……当然だ」
「2階のドラム缶もこっそり運び出し、『特葬係』が処理と。ただ、『アイスキャンディ』の流出ルートは不明のままだ」
「……そんなことを言いに僕の所に来たのか。埼玉県警の仁さんには直接の関わりがないだろう」
藤原が渋い顔になった。俺は構わず続ける。
「まあ、な。ただ、1つ報告だ。所沢にある長谷川里奈名義のトランクルームに、誰かが最近入ったらしい」
「……!!?本当か」
「ああ。長谷川は随分前に死んでいるが、誰かがまだ噛んでいる。
んで、そこから微量だが『アイスキャンディ』の反応があった」
「……そういうことか。長谷川が死んでも、磯崎しずくが『痴呆薬』を入手できていたのは」
「ああ。彼女をもう少し生かしておくべきだったな」
コーヒーを一杯口にすると、藤原が溜め息をついた。
「……そうだったかもな。ただ、彼女の症状は既に進行していた。入手ルートを正確に追えたかは分からない」
「だとしてもだ。……どうして心中みたいな真似をさせた」
藤原が目を閉じる。
「仁さんも知っているだろう。あの2人が、『本来』どうなるはずだったか」
「……ああ」
そうだ。俺たちは……精神と記憶だけ、20年前から飛ばされた「帰還者」だ。
89 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/18(火) 21:33:38.73 ID:9jbONNUiO
この世界には、20年前の未来からこうやって精神と記憶だけ飛ばされて肉体に宿った奴が、何人もいる。
全員が善良、というわけでもない。記憶を悪用する犯罪者もいる。
俺たちは、そういう犯罪者に特化した「警察」だ。藤原は「未来の犯罪者」を消す汚れ仕事もやっているが。
そして、「アイスキャンディ」はかつて「帰還者」の犯罪者が日本にばら蒔こうとした、最低最悪の麻薬だ。
俺たちは1年前、その元締めを殺し……全てが終わった。
そのはずだった。
90 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/18(火) 21:47:41.01 ID:9jbONNUiO
だが、「アイスキャンディ」はまだ「漏れている」。
流行まではしていないが、しかし確実に誰かがまだ使っている。
人に最大の快楽を与え、人外の力と頭脳を与え、そしてその最後に絶望と残酷な死を与える。それが「アイスキャンディ」。
こんなものは、決してあってはいけない。どんな理由があっても、だ。
俺は唇を噛んだ。磯崎しずくは、それを手にしてしまった。
それが、今回の結末を生み出したのは、間違いなかった。
91 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/18(火) 22:06:32.95 ID:9jbONNUiO
ただ……俺は「本来の歴史」で、磯崎しずくと磯崎雄太がどうなったかを知っている。
磯崎しずくは、彼女と性的関係にあった磯崎雄太が交際していた女性を殺した。
そして彼女が逮捕された後、彼女との関係が露見した磯崎雄太は両親と口論となり、その果てに2人を殺害。
絶望した磯崎しずくは拘置所で自殺し……その後を、磯崎雄太は追った。
あまりにも救いがない兄妹だった。マスコミが随分騒いだのを、俺も藤原も「覚えている」。
「エリート弁護士一家の崩壊」。近親相姦が絡んでいたこともあり、ネットやワイドショーにとっては格好の餌だった。
92 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/18(火) 22:25:34.34 ID:9jbONNUiO
「……どっちが良かったのだろうな」
俺はマンデリンを飲み、溜め息をついた。
そう、間違いなく「今回」の方が、2人にとってはずっと幸せだっただろう。
束の間とはいえ、2人で暮らし、2人で愛を交わせた。最期も一緒に逝けたのだから。
だが、それが「アイスキャンディ」でもたらされたとしたら……それは、受け入れがたい事実でもある。
「……分からない」
苦虫を噛み潰した顔で、藤原が答える。想いは、俺と同じようだった。
「だが、これしか思い付かなかったんだ。磯崎しずくは、ただ磯崎雄太と一緒に生きたかっただけだ。
もう全てが手遅れだった以上、これしか手がなかった」
「そうか。……2人が『そういう関係』だったことは、知ってる奴はいるのか」
「いや。無断欠席に気付いた担任が家を訪問した時、2人は『服を着たまま』寄り添うように倒れてたからね。
『特葬係』の連中も、そう証言している。彼らがやったのは、散らかった部屋の整理と、ドラム缶の搬出だけだ」
「友人は」
「……南口佳代は、気付いてたかもね。結局、あれから『プティ・アンジュ』には来なかったし。
だが、それは彼女の胸のうちに永久に仕舞われたままだと思う」
「……そうか」
俺は一気にマンデリンを飲み干し、立ち上がった。
「もう行くのかい」
「ああ。とりあえず用件は済んだ。兵さん、藤原のメンタルケアは頼みました」
「俺に押し付けるなよ、仁」
兵さんが苦笑する。俺は振り返った。
「この借りは、お菓子で返しますよ。表参道の『プティ・アンジュ』で。
それと……磯崎兄妹のお墓。この近くらしいです」
「だそうだ、湖南」
藤原が「フフッ」と笑った。
「お供え物は、決まりですね」
93 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/18(火) 22:27:04.34 ID:9jbONNUiO
BADEND BREAKERS SECOND SEASON
1ST CHAPTER
「お兄ちゃん、一緒にバカになろ?」
FIN
94 :
◆Try7rHwMFw
[saga]:2020/02/18(火) 22:28:24.46 ID:9jbONNUiO
以上です。
以前書いていた、以下のスレの続編でした。
殺人鬼コナン
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1535027130/
95 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2020/02/21(金) 01:11:47.33 ID:Oye7Pt0g0
すごくよかった
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