過去ログ - 京子「萌ゆる百合の花も、枯れれば醜くありけり」
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1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/06(日) 20:33:14.63 ID:0s1iP1/no
今日のお茶は、また一段と濃口だな」
結衣がそう呟き苦笑すると、ちなつは「はっ」と何かに気づいたように目を見開き、そしてまた直ぐに俯いた。
「葉の分量を、間違えてしまって」
ちなつは伏し目がちにそういった。
暫しの沈黙。
結衣は、本当ならばこのまま、黙りこくっていたかった。
しかし、泥の様に沈み込んだちなつの姿を見てしまっては、そうもいかず、観念したように只一言
鉛よりも重たい唇を押しのけて、ひねり出した。
「仕方ないよ。それは」
それはちなつに対して、というよりも、自分自身に言って聞かせるような言いざまだった。
不意に口をつきそうだった本音を咀嚼し、飲み下すための、形ばかりの言葉。



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2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/06(日) 20:34:05.18 ID:0s1iP1/no
気丈にもちなつは【普段通り】を貫こうと努力していた。擦り切れていた。
少なくとも、結衣の目にはそう映る。
ちなつは、いつもそうしているように、四人分、お茶を淹れようとしたのである。
平素を意識するが故に、無意識のままに。
そんな健気な彼女の姿を、いったい誰が責められようものか。
以下略



3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/06(日) 20:34:46.43 ID:0s1iP1/no
だが、結衣はほんの一瞬、ちなつに当たりそうになった。
「嫌なことを、まざまざと思い出させないでくれ」と声を荒げそうになった。
そして、そんな自分を激しく嫌悪し、嘔吐感に苛まれる。苦いお茶を一気に飲み干した。

「仕方ない」そんなものは戯言だ。
以下略



4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/06(日) 20:35:28.25 ID:0s1iP1/no
一週間前。午後7時。丁度夕飯の支度をしているところである。
京子が泊まりに来ていた。こうして一人暮らしをしている結衣の元に、ふらりと遊びにやってきては、一泊していく。
能くある、幼馴染同士。
今まで幾度となくこうしてきた。
その日も、二人でTVゲームに興じているうちにすっかり日が暮れてしまった。成り行き任せとはよく言ったもので、ほとんど予定調和の内だった。
以下略



5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/06(日) 20:36:01.58 ID:0s1iP1/no
女同士の恋愛というのはいわば人間関係の相転移であって、本来ならば「有り得ない」ことなのである。
裏返し、ちぐはぐであべこべな間柄。
親友から、思い人へと転換するその瞬間は、もはや何者にも観測しえない、未知なる特異点である。
それはあくる日も、そしてこの日も、結衣を悩ませた。

以下略



6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/06(日) 20:37:04.04 ID:0s1iP1/no
結衣は京子を抱きしめた。柔らかな肌の感触。髪の匂いに、力を増す両の腕。
「痛いよ」京子は困ったような顔で言った。
結衣はそれを無視した。そして耳元で小さく「好きだ」と、ただ一言、囁くようにして叫んだ。
すると京子は、結衣の腕を振りほどき、二、三歩後ずさりをした。
その顔は赤く上気していた。
以下略



7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/06(日) 20:37:44.62 ID:0s1iP1/no
結衣が正気を取り戻す頃には、京子は部屋を飛び出していた。
追いかけないわけにはいかない。

走った。はだしのままの、全力疾走である。不安であったからこそ、風と化した。
―――――――――――――――私は拒絶されてしまったのではないか。
以下略



8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/06(日) 20:38:39.09 ID:0s1iP1/no
マンションから道路へと飛び出した京子を、大型トラックが撥ねたのだ。
結衣は、その瞬間を克明に目撃してしまった。
京子の体が横っ飛びに、少なくとも5mは宙を舞って、アスファルトに激突する。
それを、網膜に焼き付くようなスローモーションで、余すところなく、見た。
それは夢だと思った。しかし、一向に回復しない息切れが、残酷にも現実を突きつけた。
以下略



9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/06(日) 20:39:34.77 ID:0s1iP1/no
結局、大型トラックの運転手が119番通報し、救急車が京子を乗せて走り去るまでの間
結衣はただ茫然と立ち尽くしていた。
そのうちに膝から力が抜け、その場にへたり込んだ。




10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/06(日) 20:40:18.96 ID:0s1iP1/no
「嘘だ」
救急車やパトカーがやって来た騒ぎに、マンションの住人達が野次馬の如く群がった。
その喧噪はやはり、現実のものである。
まるで早回しのシネマを見るように、結衣の思考は全く追いつかなかった。
つい先程、京子を抱きしめたその腕の感触が、夜の冷たさに麻痺していく。
以下略



11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/06(日) 20:40:56.15 ID:0s1iP1/no
「結衣先輩」
ノイズの様にちらついた意識は、ちなつの声に呼び戻された。
「ああ、ごめん。少しぼーっとしてた」
結衣は乾いた笑みを浮かべて言った。その笑みに、ちなつはたじろいだ。
憔悴しきっていたのである。目の下には深いくま。掠れた声。
以下略



12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/06(日) 20:41:26.47 ID:0s1iP1/no
「ごめん。もう無理だよ」
そんな結衣の姿を見たあかりは、それだけ言い残し、部室を後にした。
―――――――見るに堪えない、ということだろう。
結衣はあかりの後ろ姿を見送りながら、自らを嘲笑した。

以下略



13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/06(日) 20:41:54.60 ID:0s1iP1/no
「昨日、京子の病院に行ってきた」
「……」
ちなつは返事をしなかった。
結衣はそれでもなお、咎人が己の罪を告白するように、陰鬱な調子で言葉を紡いだ。

以下略



14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/06(日) 20:42:27.55 ID:0s1iP1/no
京子の容体についてである。
目立った外傷は、ない。
しかし、頭部をアスファルトに強打した事による外傷性のくも膜下出血。その血が前頭葉を圧迫している。
依然として意識不明の昏睡状態。
幸い小脳が機能していることにより、かろうじて生き永らえている。
以下略



15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/06(日) 20:43:03.18 ID:0s1iP1/no
結衣がうわ言の様に喋り続けるのを、ちなつはただ黙って聞いていた。
やがてそれらを総括する様に結論を告げる。

「医者によれば、意識が戻ることは万に一つもないらしい」

以下略



16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/06(日) 20:44:10.19 ID:0s1iP1/no
「京子は、ずっと眠ったままなんだってさ。笑っちゃうよね。だって、身体には傷一つないんだから」
結衣は笑った。涙を零しながら。

精神が乖離していた。冗談じみた現実に対する、拒絶反応である。
泣いてよいのやら、笑ってよいのやら、結衣にはそれが、わからなくなり始めていた。
以下略



17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/06(日) 20:44:40.41 ID:0s1iP1/no
そんな中、ちなつが結衣を抱きとめた。崩壊する砂の城をせめて守る様に、強く、優しく。
結衣は驚愕した。
ちなつも、限界である筈だった。
それにもかかわらず、この精神が瓦解してしまわぬよう、こうして抱き締めてくれる、その強さに驚愕したのである。
同時にそれが眩しくもあった。
以下略



18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/06(日) 20:45:09.80 ID:0s1iP1/no
ちなつは何も語らなかった。
しかし、その両腕から伝わるのはこれ以上無いほどの愛である。
その慈しみが明らかであればそうであるほどに、結衣の弱さは曝かれるのだ。
ただ今は、まるで許しを乞う羊のように、その優しさに浸っていたかった。
労りと偽りはよく似ている。
以下略



19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/06(日) 20:45:48.35 ID:0s1iP1/no
その時、よぎった。
一週間前のあの出来事である。
鮮明に蘇るのは、腕の感触。
京子のか細い身体。そして、こみ上げる痺れ。
ーーーーそうだ。あの時。
以下略



20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/06(日) 20:46:32.35 ID:0s1iP1/no
ちなつの抱擁を受け入れることなど、不可能であった。
結衣は腕を振り払って
「ごめん。今はそういう気分じゃないんだ」
と一言だけ呟き、部室を出た。

以下略



21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/01/06(日) 20:47:01.74 ID:0s1iP1/no





以下略



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