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ダンテ「学園都市か」【MISSION 09】 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/10/14(金) 18:04:17.19 ID:Frj+rhn1o
「デビルメイクライ(+ベヨネッタ)」シリーズと「とある魔術の禁書目録」のクロスです。

○大まかな流れ

本編 対魔帝編

外伝 対アリウス&ロリルシア編

上条覚醒編

上条修業編

勃発・瓦解編

準備と休息編

デュマーリ島編

学園都市編(デュマーリ島編の裏パート)←今ここの終盤(スレ建て時)

創世と終焉編(三章構成)

ラストエピローグ


○ダンテ「学園都市か」で検索すればまとめて下さったサイトが出てきます。
編名も一緒に検索すると尚良しです。

○過去スレ
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1267269712/
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1267368924/

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1267417603/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1269069020/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1271690981/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1276448902/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1281455278/

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1294936389/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1295618410/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1306653951/

○有志の方がうpして下さった過去ログ(dat)
ttp://www1.axfc.net/uploader/Sc/so/88288.zip
pass:dmc
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ごめんなさい、このSS速報VIP板のスレッドは1000に到達したか、若しくは著しい過疎のため、お役を果たし過去ログ倉庫へご隠居されました。
このスレッドを閲覧することはできますが書き込むことはできませんです。
もし、探しているスレッドがパートスレッドの場合は次スレが建ってるかもしれないですよ。

ぶらじる @ 2024/04/19(金) 19:24:04.53 ID:SNmmhSOho
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713522243/

旅にでんちう @ 2024/04/17(水) 20:27:26.83 ID:/EdK+WCRO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713353246/

木曜の夜には誰もダイブせず @ 2024/04/17(水) 20:05:45.21 ID:iuZC4QbfO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1713351945/

いろは「先輩、カフェがありますよ」【俺ガイル】 @ 2024/04/16(火) 23:54:11.88 ID:aOh6YfjJ0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713279251/

【MHW】古代樹の森で人間を拾ったんだが【SS】 @ 2024/04/16(火) 23:28:13.15 ID:dNS54ToO0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713277692/

こんな恋愛がしたい  安部菜々編 @ 2024/04/15(月) 21:12:49.25 ID:HdnryJIo0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713183168/

【安価・コンマ】力と魔法の支配する世界で【ファンタジー】Part2 @ 2024/04/14(日) 19:38:35.87 ID:kch9tJed0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713091115/

アテム「実践レベルのデッキ?」 @ 2024/04/14(日) 19:11:43.81 ID:Ix0pR4FB0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713089503/

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/10/14(金) 18:04:44.98 ID:Frj+rhn1o
―――注意事項及び補足―――

※当SSはかなりかなり長いです。

※基本シリアスです。

※本編後のおまけシリーズはパラレルとなっており、外伝以降の本筋ストーリーとは全く関係ありません。

※DMC(ベヨネッタ)勢は、ゲーム内の強さよりも設定上の強さを参考にしたため絶賛パワーインフレ中。
それに伴い禁書キャラの一部もハイパー状態です。

※妄想オリ設定がかなり入ります。
ダンテ・バージル・ネロを始めとする各キャラ達の生い立ちや力関係、
幻想殺し等『能力』や『魔術』等の仕組み・正体などは、多分にオリジナル設定が含まれます。

また、世界観はほぼ別物となっております。

※禁書側の時間軸でイギリスクーデター直後(原作18巻)、DMC側の時間軸は4の数年後から始まっています。
ネロは20代前半、ダンテとバージルは40代目前、ルシアの身体成長度は10歳前後となっております。

※また、クロス以降の展開は双方の原作に沿わないものとなります。
その関係上、禁書原作21巻以降に明かされた諸設定は基本的に適用されてません。
ただ例外として、天使の姿・攻撃技等は反映させて頂く場合があります。
(ベヨネッタと禁書の天使の、配色・デザインの系統がそれなりに似ている感じなので)

※投下速度は大体週二回〜三回、週50レス以上を目標としています。

※主なカップリングは上条×禁書、ネロ×キリエ(これ当然)となっております。

――――――――――――――
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2011/10/14(金) 18:32:49.82 ID:9U8KH+sBo
スレ立て乙

>>1はトリップ付けたりしないの?
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/14(金) 20:55:13.84 ID:sIzy/1PDO
遊戯王ばりに超展開になっててワロタ
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/10/14(金) 22:36:29.21 ID:qdb2lUKvo
新スレ乙です。あ、すっげぇ今更ながらネロのDT状態について少し。
成人式した後、姿形の描写はスパーダ持ったネロ・アンジェロってなってましたが、プルガトリオ大暴れなうでもそのままですか?
個人的にはアンジェロ7:スパーダ2程度のハイブリッドを妄想してるんですけども。
6 : ◆tSIkT/4rTL3o [sage]:2011/10/15(土) 00:55:37.94 ID:nGwYW+74o
>>3
必要性は今まで特に感じませんでしたが、
良い機会ですのでとりあえず何かあった時のためにと作っておきます。

>>5
全体はネロアンジェロそっくりですが、
細部はかなり魔剣スパーダの影響も受けているイメージですので、まさにその7:2という具合です。
ちなみにデュマーリ島決戦後の『最強の人間』なった今は、魔人化しても本質たる真の姿ということで人の姿のままです。
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 00:56:23.96 ID:nGwYW+74o

―――

一方「要はオマエ、ダンテの仲間だったのかよ」

学園都市の一画。
魔の冷気に変わり、冬の冷気に支配されている瓦礫の原の中。

瓦礫の上に腰を下ろしている一方通行が、白い吐息と共にそう言葉を返した。
正面は伏せっている三頭の巨狼、ケルベロスに向けて。

ケルベロス『うむ。人界時間にして20年来の友だ』

対する巨狼、その口から漏れるは青みかかった吐息。
伏せっているにも関わらず、高さ3mの位置にある大きな牙の隙間からは、
魔界の冷気が漏れ出していた。

一方「…………」

あの獅子を葬ってから、『守り番』としてここに留まって数十分。

あれから学園都市内では騒動は起きていないが、
ケルベロスの話によるとデュマーリ島やヨーロッパ・ロシアの他にも、
異界で複数の戦いが同時進行しているとのことだ。

一方「……これからどォなるンだ?天界とやらは?」

ケルベロス『我にもわからぬ』

一方「…………チッ。」

ケルベロスのその言葉からも伺える通り、
今や想像を遥かに超えるスケールの騒乱が起きているのは確実か。
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 00:58:22.27 ID:nGwYW+74o

となると、こうしてただ黙って受身に甘んじていることなどできない。
一方通行は立ち上がると、
能力を起動した状態の手で己の上着そしてポケットをまさぐった。

しかし落としてしまったのか、それとも持ってきてすらいなかったのか。
目当てのモノは見つからなかった。

ケルベロス『……探し物か?』

一方「あァ。すぐ戻る」

そうして少し思案気に佇んでは巨狼に一瞥し、一跳び。

砲弾のように一気に飛翔し、彼が降り立ったその先。
そこは先ほど、一人の少女を保護したあのジャッジメント支部であった。

上階が吹き飛んでいるその支部の中、彼は視線を静かに巡らせて。
瓦礫の中から倒れ転がっている堅牢なロッカーを見出しては、ねじ切るようにして開けていく。

そうやって三つ目を開けた時、
彼はようやくそこに目当てのモノを見つけた。

このようなところには必ず、予備の携帯やら通信機が複数置かれているものだ。

ロッカーの中には官製とも言えるか、ジャッジメント備品の通信機がいくつも入っていた。

その一つをこれまた握り潰さないよう、
能力で充分に制御している手で掴みあげて。


一方「おィ。聞えてンだろ」

電源を入れてすぐさま、チャンネル設定もせずにまず声を放った。
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 00:59:22.92 ID:nGwYW+74o

普通ならばもちろん、これに声など返って来るはずが無い。
ただ一方通行は、アレイスターやその下にいる者達が常に己を監視しているのを知っていた。
そして向こうも今となってはそれを特に隠そうともしていない。

『―――用件は?』

案の定、通信機から響いてきた事務的な男の声。
特に一方通行は驚きもせず。

一方「……シスターズに預けたあのガキはどォなった?」

まずは先ほどここで保護した少女の件を問うた。

『10032号と19090号が芳川桔梗のシェルターに届けた』

一方「…………」

芳川、そして打ち止めがいる第一学区地下深部のシェルターか。
一般のシェルターは既に封鎖済みであることも考えると、当然の判断になるか。

それに他のシェルターに比べればずっとマシな所だ。

確かに悪魔相手に『安全』と呼べる地など存在しない。

しかしあそこは、恐らく垣根帝督の脳といった、
アレイスターの『私物』も納められている不可侵の領域であるのだから
少なくとも学園都市内では最も生存率が高い場所なのだ。

それを聞いた一方通行、
安堵の意を篭めて小さく目を細めては、次なる問いを向けた。

一方「……デュマーリ島は?」 

『デュマーリ島における作戦は成功した』
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:02:09.35 ID:nGwYW+74o

これもまたあっさりと答えは返って来た。

一方「……」

こうもすんなり喜ばしい答えが返って来るとは思っていなかった一方通行、
今度は少々不意を突かれた形で再び目を細め。

一方「成功、か。どの程度に?」

『少し待て』

そうしてまた返って来た言葉も、少し意外なものであった。

『土御門元春と繋げられるが、直接聞くか?』

一方「―――……あァ。頼む」

直接聞けるに越した事は無い。
少なくともアレイスター側のフィルターが通っていないだけマシと言うものだ。

そして少しのノイズ音ののち。


土御門『―――アクセラレータか』


聞きなれた男の声が響いてきた。
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:03:38.83 ID:nGwYW+74o

向こうでは航空機が複数飛んでいるのか、けたたましい音が響いてくる。

一方「よォ。生きてたか。上手くいったみたいだな」

土御門『まあな。厳しかったことに変わりないが、終ってみれば当初の想定よりもずっと上出来な結果だったぜい』

歯切れがよく快活であるも、どこか冷ややかで心読めぬ声。
相変わらずのそんな土御門の声も、『普段どおり』目的は達されたことを示していた。

一方「アリウスとやらはどォなった?」

土御門『アリウスはネロが潰してくれたよ』

一方「おォ、つゥことは天界が開くこともねェのか?」

土御門『それについてなんだがな……』

と、そこで土御門の声に少し『詰まり』が生じた。
これもまた一方通行にとっては聞きなれた詰まり方。
想定していなかった事案、結果になった時には、土御門はいつもこのような声色になるのだ。


土御門『天の門は開く。あと魔界の門も開く』


一方「―――はァ?」


そして土御門にとって想定外となれば、
そちら側には疎い一方通行にとって―――まさに予想だにしない、
その意味を正確に理解することさえ難しいことであった。

一方「おィ……どォいうことだ?魔界のモンってなンだよ?」

土御門『俺も良くはわからない』

土御門『だがダンテには何か考えがあるらしい。ネロからもそう頼まれたんだ』

一方「……で、オマエはろくに知らねェままホイホイ応じたわけか」


土御門『―――そうだ』

と、ここで即答した土御門の声は再び、確かな自信を帯びたものに変わった。
他にどうしろと、お前もこの立場なら同じ判断をするだろ、と暗に向けてくるように。
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:04:58.89 ID:nGwYW+74o

一方「……ハッ」

そしてその点については、一方通行も大いに同意する。
ダンテやネロの指示を拒否できるわけも無い。

己程度の考えよりも、彼ら言葉の方が遥かに信頼に足るものだ。

土御門『だから状況は終ってはいない。そっちも充分に警戒しててくれ』

一方『あァ。わかってる』

ケルベロスから聞いた言葉、それから推測できる状況を今一度確認しながら、
一方通行は頷いた。

そして。


一方「そっちの女帝サマにもよろしく伝えておけ」


そう何気なく続けたも、その返された―――


土御門『ああ、そのことなんだがな―――』


―――この土御門にしても異常なまでに冷え切った声は。




土御門『――――――麦野は死んだよ』




一方『―――……………………………………』


それは、まさに矢に頭を射抜かれたかのような鋭い響きを有していた。
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:06:35.65 ID:nGwYW+74o


―――麦野沈利。


彼女とは親しかったどころか、
その性格を知るほどの時間を過ごしたわけでもない。

ここ一週間、少し関わっただけの女。

あの女が死のうが、それを知って鼓動が早まることも体が火照ることも、
目頭が熱くなるなんてことも実際にこの通り無い。


だが―――ただ一つ。



一方「………………………………」



―――ぽっかりと。


この胸から、この心から大切な『何か』が抜け落ちていくような気がした。
『ソレ』じゃなければ絶対に埋められない穴から。

瞬間、一方通行は外界からの情報を途絶してしまった。

続く土御門の声が聞えるが、その言葉の意味も思考に反映されてこない。
声どころか冬風が抜ける音も、目に見える崩れた学園都市の街並みも。

その理由は、彼の意識が全て内側に向いていたからだ。


―――鮮やかに蘇るあの女の姿、声、表情に。


緩やかな髪を翻してエプロンに向かっていく、最後に目にした彼女の後姿に。

昨晩、酒の席で見せた彼女の表情、そして口にした―――


―――『生きたい』という言葉に。
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:07:56.53 ID:nGwYW+74o

土御門『―――レータ。アクセラレータ。聞いてるか?』

一方「…………」

変わらぬ、感情が完全に廃された土御門の平坦な声。
それがようやく意味を有して浸透してきたのは十数秒後のことであった。

一方通行は、返すための言葉を探すかのように声無く口を動かして。

一方「……………………どォ……やって死んだ?」

何とか繋ぐ『返し』を見つけて、
ぎこちなく絞り出す。


土御門『大悪魔と相打ちだ。最期はアイテムの元部下達が看取った』


一方「……………………そォか。そいつは…………」

そしてそのことについて一言何かを言おうとするも。


一方「……………………」


今度こそ言葉が出なかった。

脳裏にはっきりと浮かぶあの女の姿、
その彼女にどんな言葉を向ければいいのか、それがまるでわからなかったのだ。

まるで舌が抜かれてしまったよう。

一方通行はこんな心模様に相応しき言葉を、
彼女の姿に手向けるべき言霊を―――『知らなかった』。
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:09:27.41 ID:nGwYW+74o

土御門『…………』

一方「……………………」

沈黙は十秒近く続いた。
彼の言葉を邪魔しないよう、素直に待っているのか、
それとも電話越しの空気から彼の心情を察しているのか。

土御門も一言も返しては来なかった。


そうした沈黙の後、ようやく動いた一方通行の口。


一方「…………………………………………オマエ等が戻るのは?」


懸命に言葉捜したその口から出てきたのは、
話を変えてしまう別の問いだった。

彼は結局、相応しき言霊を見出せず。
彼女には一言も発せられなかった。


土御門『…………超音速機を手配できれば……そうだな、三時間以内には』


一方「…………そォか。気をつけてな」

土御門『ああ。そっちも頼んだぞ』

一方通行の口から響いた素直に気遣う言葉。
普段ならば驚いたであろうその返しだが、この時ばかりは土御門も特に反応を示さず。

土御門『…………じゃあな』

そして静かに通信は終了した。

一方通行「…………」
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:11:05.62 ID:nGwYW+74o

通信機を無造作に上着のポケットに突っ込むと、
一方通行は来た時と同じく跳躍し、ケルベロスの近くへと降り立った。

そして座っていた瓦礫へと歩んでいく。

その間も脳裏に蘇るあの女の姿を見つめながら。

一方「……」

あんな表情で『生きたい』と言ったあの女は、
一体どんな表情で逝ってしまったのだろうか。

あんな表情で『生きたい』と言ったあの女は、
一体最期に何を思ったのか。

あんな表情で『生きたい』と言ったあの女は一体―――どんな気持ちでそう口にしたのだろうか。


あの女の鋭くも透き通る瞳に、この世界は一体―――どのように映っていたのだろうか。


結局何もかも、わからずじまいであった。


一方「…………」


―――知りたかったのに。


―――『麦野沈利』をもっと知りたかったに。
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:13:05.56 ID:nGwYW+74o

一方「―――――――――……ッ……!!カッ……!!クソッ…………」


―――とその時だった。

そこまで思い至った瞬間、彼は突然その場にどかりと腰を下ろして、
悪態を天に吐き出した。


彼は気付いてしまったのだ。


この己が今抱いている『感情』の正体に―――『痛み』の原因に気付いてしまった。


性格上、それは絶対に認めたくない事実であったが、
一方で聡明な思考がはっきりと確信してしまっていた。

己はあの女に対して、
『興味』と言えるものよりも更に強い感情を抱いてしまっていたのだ、と。


少し―――。


そして生まれて初めて―――『魅せられていた』のかもしれない。


初めて出会った、共感できる『同類』に。

そして同類でありながら、己とは違い『生きたい』と愚かしいくらいに堂々言えるあんな女に。
その言葉の原動力となった、己には無い『モノ』を持っていた彼女に。


底なしに罪深く、愚かしいまでに強く、
忌々しいほどに美しく、そして途方も無く『わがまま』な――――――麦野沈利に。
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:15:21.82 ID:nGwYW+74o

ケルベロス『…………大切な者を失ったか』

天を仰ぎ白い吐息を吐き出していると、
その様子から敏感に悟ったのか、魔狼がぶっきら棒に声を放ってきた。

一方「…………………………そンなご大層なもンじゃねェよ……」

彼は表情も視線も変えぬまま。


一方「……ただ……………………『約束』をすっぽかされただけだ」


静かにそう返す。

不思議な事に、胸痛むのに居心地は特に悪くも無かった。
むしろ妙に暖かい。

一寸先の未来も定かではないこの状況の中で今、
あの女が占有しそして奪っていった領域が、まるで一時のオアシスのように機能している。

一方「…………カカッ」

その己の精神状態を冷静に分析して彼は小さく笑った。
全く大した女だ、と。

このイカレて壊れてしまった『クソ野郎』に、誰かの死をここまで見つめさせるなど。
妹達への行いに対する『己』の行い、それに向ける『憤怒』ではなく――――――


―――『他者』に向ける純粋な『悲嘆』を人並みに抱かせるなんて。


たった一週間の記憶だけで、ここまでこの『腐り果てたクズ』に『静けさ』を与えるなんて。
ただ、そのように居心地が良い一方、それはそれはたまらなく癪で。


一方「…………クソアマが…………」


そして―――なんと言えばいいのか――――――寂しかった。


せめてもの弔いだ。

しばらくあの女の姿に浸ろう。
すぐ先にあるかもしれない次なる困難まで。

鼻腔を抜けて肺を満たす冬の冷気。
夜も更けてより一層冷えてきたのか、文字通り骨身に凍みる鋭さを帯びてきていた。

―――
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:16:41.44 ID:nGwYW+74o
―――

プルガトリオ。
学園都市を映すとある階層にて。

レディやネロが離れていった後も、ダンテはその階層に一人。
いや、今や友であるアグニ・ルドラと共に残り続けていた。

双子の兄弟はその巨躯を解き放ち、調子を確かめるように大通りでゆっくりと演舞を行っており。

そんな彼らを見下ろす位置、ダンテは適当なビルの屋上に半ば寝そべるように座し、
片目閉じてはリベリオンの刃を検分してた。

ダンテ「―――それで調子はどうだ?」

そしてその傍ら、手首に装着されている拳銃へと声を放つ。

トリッシュ『ええ最悪。特に変わらないわ』

返って来るのは、ネヴァンと共に事務所にいるであろう相棒の声。
ダンテが見聞き感じることをそのまま受け取っている彼女は。

トリッシュ『それにしても。さすがのその剣でも、結構堪えたみたいね』

リベリオンを『見て』そう告げてきた。
100柱斬りを行ったこの魔剣、その白銀の刃はところどころ欠けていたのだ。

それを聞いてこんっ、と軽く魔剣を叩いたダンテ。

ダンテ「なあに。あと5分もすりゃ元通りさ」


ダンテ「それどころか、『こいつ』はまだ足らなねえらしいぜ?困ったもんだ」


はっ、と小さく肩を竦めながらそう返した。
あたかも自分のせいではないとでも言うように。
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:18:58.11 ID:nGwYW+74o

そんな変わらぬ調子の彼に、
トリッシュは呆れがちに息をついて。

トリッシュ『それは主もそうだからでしょ全く……飽きないわねあなたも』


ダンテ「トリッシュさんよ、わかってるんだぜ。お前も楽しんでたろ?お前からの視線、ギンギンだったぞ」


トリッシュ『……ふふ、まあね。スカッとしたわ』

そして笑った。
少し疲労と―――『陰』を滲ませながら。

と、その時だった。


ロダン『―――ダンテ』

虚空から響くのは、先ほどネロと合流したらしいロダンからのもの。
ダンテはリベリオンを脇に突きたてては天を仰ぎ見て。

ダンテ「お、もう終ったか。向こうはどうだった?」

ロダン『こちらの期待通りの結果だ。ネロは良くやってくれたぞ。学園都市の連中もだ』

ダンテ「ハッ!そいつは良かった!」


ロダン『だがちょっとばかし……いやかなり信じられねえことがあった』


と、そう喜ばしい報告も束の間。
突然ロダンが声を曇らせた。

ダンテ「ん?」

そして彼は一言一言確かめるようにゆっくりと。


ロダン『……ネロがな…………―――魔剣スパーダをへし折りやがったんだよ』


まるで親の機嫌を見る子供のように、恐る恐るといった具合でそう告げた。
一方、対するダンテの返答は。


ダンテ「―――へぇ。どうやって?」


これまた、不気味なまでにあっさりとしたもの。
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:20:30.30 ID:nGwYW+74o

ロダン『―――ッ……!!』

そんな変わらぬダンテの調子に、
さすがのロダンも驚いてしまったのか暫し声を詰まらせて。


ロダン『魔剣スパーダを奪ったアリウスごと、レッドクイーンと言ったか、あの自分の剣で叩き斬っちまった』


これまたゆっくりと確かに告げると。
それを聞いたダンテ、今度は―――不敵に笑った。

ニヤリと、目を細めて声を漏らさずに。


彼はこの簡単な説明だけで理解したのだ。


ネロが示した―――『答え』を。


あの青年が突きつけた意志はまさに見事なものだ。
彼は『予定された英雄』になることを真っ向から拒否したのだ。


ダンテ「―――上出来だ。ネロ」


そんなあの青年を称えて。
彼は静かながらも、良く響く声でそう呟いた。


ロダン『―――おいおい、いいのか?どういうことだ?どうなってる?』

ネロが折るという行為、いや、
そもそもスパーダが折れてしまうということすら信じられぬ様子のロダンだが。

ダンテ「なぁに構いやしねえ。あいつの剣だ。あいつがどうしようが別に良いだろ。気にするな」

ロダン『……お前さんがそう言うのなら…………まあ…………良しとするか』

へらへらと笑いつつも『強引』なダンテに彼は屈してしまった。
明らかに納得していない様子であったが。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:23:09.53 ID:nGwYW+74o

そうしてとりあえずと、ロダンは話を換えて。

ロダン『……今の各界の状況だ』

ロダン『まあ予想は出来ていたんだが、魔界の口が開いたのを知ってやすぐ―――残りの十強が休戦協定を結びやがった』

ダンテ「へえ」


ロダン『明らかに侵攻のために急ピッチで体制を整え始めてる。特にベルゼブブとコロンゾン』


ロダン『この二柱は前から人間界にかなり興味持ってやがったからな、確実に来るぞ。全軍を率いて』

ロダン『更に内戦に消極的だった他の諸王共も動きを見せてやがる』

ロダン『そして天界では既に。ジュベレウス派の出撃準備は整っている』


そこでロダンは一度区切る形で間に沈黙を挟み。
強調してはっきりと。


ロダン『ダンテ。始まるぞ』


秒読み段階にまで迫った全面戦争を確認した。


ダンテ「―――ああ、いよいよな」


それ以上、今交わす言葉は無かった。
この最後の確認すら本来は無用、互いに理解していることなのだ。
二人とも、己がこれから何をすればいいのか十二分に把握しているのだから。

ダンテ「……」

ロダン『……』

そうしてこれで無言のまま、会話の糸は切断された。
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:26:36.44 ID:nGwYW+74o

その後。


トリッシュ『―――ねえ』


ネロの件を聞いても沈黙を守っていたトリッシュが声を向けてきた。


トリッシュ『―――「どこ」まで行くつもりなの?あなたは』


ダンテの不敵な笑みの遥か下。
決して表に出さない、何人にも明かさぬ深層で一体何を考えているのか。

それを今唯一見ている『他者』、トリッシュのそんな問い。


ダンテ「『どこ』までもさ」


ダンテはこれまた包み隠さず、思ったとおりに素直に応えた。
声とともにその思考もまた直で送りつけて。


トリッシュ『……そう』


そうした赤裸々な返答に、相棒は示すは。
明らかに『不服』ながらも、一方で申し立てる気も無い反応―――。

それを知りながら、ダンテは平然と言葉を続けていく。
普段の調子でかつ『嬉しそう』に。

ダンテ「まだまだこれからだ。見せてやるぜトリッシュ」

トリッシュ『……ええ』

トリッシュも、成す術無く彼の言葉に続くしかなく。
そして再確認せざるを得なかった。


ダンテ「誰も見たことの無い世界をな」


相棒であり恩人であり最良の友であるこの男を―――ただ見守るしかできない、と


トリッシュ『――――――期待してるわ。ダンテ』


彼の生き様を―――ただその瞳に刻むことしかできないと。


―――
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:27:14.47 ID:nGwYW+74o
―――

束の間の平穏は終る。
更にここからこの大きな『うねり』は加速し、あらゆる役者を引き摺り込んでゆく。

今、学園都市にて『同胞』の死に浸っている一人の少年もまた、
もちろんそこから逃れることなどできやしない。


ささやかな彼の『弔い』は唐突に、そして残酷に打ち切られた。


ケルベロス『―――ッ』

まず反応したのは魔狼であった。
突然その身に力を纏わせては起き上がり―――。

一方「―――」

次いですぐ、
一方通行もこの場の『異常』に気付き跳ねるようにして立ち上がった。


突然出現した―――強烈な『圧迫感』に。

その源へとまるで吸い寄せられるように振り向くとそこには。



大きな――――――『コウノトリ』が立っていた。


一方「―――」

瞬間、彼の意識を満たすは―――ただ純粋な『絶望』だった。

力をはっきりと認識してしまうからこそ、瞬時にわかってしまう。
勝てる可能性があるかどうかの次元ではない。

先ほどの獅子も大概であったがこの『鳥』は―――桁が違う。


―――格が違うと。
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:32:11.83 ID:nGwYW+74o


ケルベロス『―――――――――シャックス』


明らかに驚き動揺している魔狼。
その揺らいでいる声でそう呼ばれた『コウノトリ』―――シャックスは。


シャックス『なるほど。イポスも滅びたか―――』

細い鳥足で一歩、また一歩と歩みながら。

シャックス『大公、そして将らが全滅したとなると』


シャックス『まさに我々は敗北した、その通りでしょうな。だが―――』


瞳から赤き光を零しながら、
そう不気味に異界の声を響かせて。


シャックス『ネビロス殿、サルガタナス殿に次ぐ大将である我が、ここで手柄無しに生き永らえるわけにはいかん』


シャックス『気高き者達へのせめてもの弔いですな』


硬直している一頭と一人に向けて、残酷に告げた。


シャックス『スパーダの息子が贔屓にしているこの街を―――破壊してやろう』
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:34:14.01 ID:nGwYW+74o

そうして示された魔鳥の力は―――圧倒的であった。

刹那。

ケルベロス『―――』

見えぬ衝撃波がまず魔狼を襲った。
諸神たるシャックスが放ったその力はどうしようもなく強烈で。

このケルベロスにもさえ、回避どころか何かしらの防御策をとる暇すら与えなかった。


一方「―――なッ―――」


そして一方通行は感知すらできなかった。
瞬間、溢れる凄まじい衝撃と―――力の衝突。

彼がそれを認識できたのは、
氷の破片を撒き散らせながら、魔狼が遥か後方へと吹っ飛んでいく時にようやくだ。


一方「ウソ―――だろ―――」


目の前の光景が信じられなかった。
この余りにも残酷すぎる現実が。

突きつけられた現実があまりにも強烈過ぎ、戦意すら『忘れてしまう』ほどだ。

聡明な彼の思考は一瞬で悟ってしまったのだ。

己は虫けらのように殺され―――この街はあっけなく破壊されると。



だが―――。



―――真の『現実』はもう少し―――『入り組んで』いた。
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:37:10.57 ID:nGwYW+74o

『幸い』にも今、彼を絶対に失うわけにはいかない者がいた。
いや、ある意味では『不幸』か。

とにかくその者は絶大な影響力を持っており、当然この瞬間も彼を見ていて。
『ちょうど良い』とばかりに、この脅威に対応する。


一方「―――」


その時、彼は独特の感覚を身に覚えた。
過去に一度だけ経験したことのある、そして絶対に忘れられない感覚を。

それは間違いなくあの日―――悪魔の存在を知り―――バージルに再戦を挑んだ時の―――。



そう――――――垣根帝督に接続されたのだ―――。



今を『見て』、アレイスター=クロウリーが『稼動』させたのだ。
それはまさしく今の一方通行には救いの一手だった。

だが―――『これ』が稼動した瞬間、
彼の意識からは眼前のシャックスの問題など吹き飛んでしまった。

彼は知っていたのだから。
『これ』が妹達に、そして打ち止めにどんな影響を及ぼすかを。

脳裏に過ぎる、夢の中で出会った垣根の言葉。

それに、―――まさか本当に―――、と驚愕し。


―――こんなに早く―――、と絶望し


――――よせ――やめろ―――、抵抗し。


そして、――――――やめてくれ―――、懇願しても。


もう遅かった。


背から、そして全身から噴出した闇は―――彼の背後に―――。



一方『―――ウォォォォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛―――!!!!!!』



黒曜石に似た質感の―――六枚の―――『翼』を形成した。
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:39:38.16 ID:nGwYW+74o

それは。

シャックス『―――なんだ―――お前は―――』


かのバージルに血を流させた―――『史上最強の能力者』の姿。


その力の前には、一介の諸王『程度』が立ち向かえるわけも無かった。


ケルベロスを一撃で戦闘不能にさせてしまったあの衝撃波も―――少年に届く前にあっけなく霧散。

その髪の毛を一本ですら揺らすことも出来ず。


対して目障りだとばかりに伸びる翼、その伸びた一枚目が―――シャックスの胸を貫き。



シャックス『馬鹿な―――今の世に―――こんな「人間」が存在するはずが―――』



二枚目が―――シャックスの頭部を瞬時にもぎ取って行き―――。


三枚目と四枚目が『取り残された胴体』を包み込み―――魂ごと一瞬ですり潰し。


―――存在を『抹消』した。


哀れなシャックス、彼の死はこの一方通行の記憶にすら残らない。
彼の意識は今、すべてが打ち止めとアレイスターに向けられていたのだから。
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:41:46.41 ID:nGwYW+74o

魔鳥をあっけなく虐殺した傍ら。

一方『―――』

びきり、みきり、と軋むその頭の中で響くは、
今回の件で打ち止めも使用すると説明した際のアレイスターの言葉。


『何も命を頂こうという訳では無い。自由と安寧への少しばかりの奉仕をラストオーダーにもしてもらう』


一方通行は、この流してしまっていた言葉の真の意味をようやく理解した。

実はその言葉の裏にはこう続いていたのだ。
『命を奪うつもりは無いが、結果として失われる』、と。

なんと愚かなことか、なぜ気付かなかったのか。
アレイスターの行いが結果的に学園都市を救う、という点に目が眩んでしまったのか。


彼はここで今一度―――『呪った』。


一時でも、あの男を信じて打ち止めを預けてしまった愚か過ぎる己を。

それしか選択肢が無かった、
そんな状況にしか導けなかった―――どうしようもなく無力な己を。


そして―――あの『怪物』―――アレイスター=クロウリーを。
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:43:28.61 ID:nGwYW+74o

あの魔帝の騒乱の時を更に越えて、その身は『昇華』していく。

噴出した闇が渦となり周囲を穿ち、そして再びその身に纏わり付き―――

―――肉を食い荒し、臓腑、骨、脳、そして髪や皮膚にまで徐々に置き換わり。

噴出す血液すら、地に落ちるよりも前に漆黒の影の飛沫へと変貌する。
そしてその瞳に宿るは―――人界の神々が纏っていた『オレンジの光』。

ただその変容による痛みなど、今の彼にとっては全く意識する水準ではなかった。
それよりも。

それよりも遥かに。




一方『―――――アァァ゛ァ゛ァ゛ァ゛レィ゛ィ゛スタァァァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ―――!!!!』




身の内で爆発した『憤怒』が苛烈だったのだから。
天を仰ぎ見て発せられたその『地獄の底から響いた咆哮』は、まさに学園都市全体を揺るがし。

この街にいる全員の耳へと届き―――その『人の魂』に恐怖と―――ある種の歓喜を抱かせた。


そう、なにせこれは。


長き時を越えてこの世に発せられた――――――人界の神の『産声』なのだから。

―――
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/10/15(土) 01:44:03.85 ID:nGwYW+74o
今日はここまでです。
次は月曜に。
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/15(土) 01:45:34.76 ID:u2UQdJqho
お疲れ様でした。
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(佐賀県) [sage]:2011/10/15(土) 01:46:49.36 ID:hAxA+gXb0
お疲れ様です
一方さん本格的にドレッドノート身に付けてたのか
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/10/15(土) 06:36:24.05 ID:G3XDlRRuo

麦のんの死でだいぶ参ってるのに打ち止めまで死にそうレベルまでやられたらそりゃブチギレるわな
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/15(土) 08:08:51.05 ID:ng2Vnz3DO
義手一方→?
黒一方?
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/10/15(土) 08:12:27.41 ID:5yiMhsawo
乙です。
・・・意外と学園都市編の進行が早いですね。まさかもうデュマーリ島編が終わってたとは。
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県) :2011/10/15(土) 10:49:34.43 ID:KIFBF7Cx0
ぱねええええええええ
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/10/15(土) 10:50:22.18 ID:lPOs/sdwo
ちょうど一年前がデュマーリへの出発だったんだよな
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/10/15(土) 10:53:26.90 ID:lPOs/sdwo
ちょうど一年前がデュマーリへの出発だったんだよな
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/15(土) 13:10:22.60 ID:fGSE73CDO
>>1乙ー
前スレの1000がスタイリッシュ
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(徳島県) [sage]:2011/10/16(日) 10:48:54.31 ID:0G6XGx400
諸王程度を虐殺したって事は
一方さんはダンテと同レベル?
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/16(日) 14:16:29.15 ID:9YOCIfdDO
>>41
虐殺したからって同レベとは限らんだろ
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/10/16(日) 14:42:09.51 ID:8AvMMYE90
新スレおめで読み応えガッツリ乙乙乙!
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/10/17(月) 01:11:18.94 ID:ITkXCQr/o
>>41
これでもバージルに傷を負わせた程度だぞ?
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 14:21:53.40 ID:Wk3upE3Y0
以前アラストルが一方通行程度魔界にはゴロゴロいるって言ってたけど
それは垣根と接続されてない状態を指していたと見ていいのかな。
そうでなくともアラストルは一方通行の戦いを実際目の当たりにしてないから
バージルに傷を負わせたレベルってのを知らないだけかもしれないけど。
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/17(月) 17:06:50.90 ID:D48IDv7No
維持無しのアスタロトくらいの強さだろうか、垣根接続一方さん
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/17(月) 17:11:23.79 ID:8+wcnrMn0
アスタロト幹部のシャックス瞬殺できたってことは最低でも魔界十強と同等かな
人界は一つの界中の神として、やっと力を取り戻したってことかー
でもそれを楽々越える力を持ってるスパーダ一家ぱねぇ
流石はジュベ神が創造した世界の中の最強世界の中の最強三柱の一柱
魔界のTOPは他界のTOPを大きく超えているってのを再認識。
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/10/17(月) 18:18:50.56 ID:yBMZHFOfo
竜王が完全復活したら接続一方通行超えんのかな
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/10/17(月) 23:04:04.61 ID:1bjtULLAo
垣根接続モードの一方通行は前スレ>>475の特上、
維持無しのアスタロトに匹敵する力の規模で、魔界の最上位層に食い込む水準です。
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:06:45.51 ID:1bjtULLAo
―――
聞える、壮絶な『産声』が。

怒りに満ちたその魂の咆哮は―――


上条「―――……ア……クセラレータ……なのか……?!」


―――もちろん人でもある彼の耳にも届く。

覚えのある、それでいながら明らかに異質な彼の声に、
上条は驚きを隠せなかった。

一方通行のこの声には、これまた信じ難い要素が含まれていたのだ。
アレイスターの言葉によるショック状態から、否応無くその意識を引き上げてしまうほど。

一方通行のもの、とは別の意味でもう一つ、上条はこの声に『聞き覚え』があったのだ。

アレイスター「覚えは無いか?」

忘れるわけが無い。
この魂の古き記憶の中にはっきりと『彼』の姿は残っている。

この声は、かつて人界に存在していたティタン神族クロノスの―――息子。


上条「…………ハデス……」


上条は放心した面持ちのまま、まるで独り言のようにその名を口にした。
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:10:29.10 ID:1bjtULLAo

だがその口から続けられたのは、今度は一転して否定の言葉。

上条「でも、違う。あいつじゃない……」

アレイスター「そうだ。きわめて似てはいるも『別人』だ」

対してアレイスター。
その顔に仄かに満足げな色を滲ませては。

アレイスター「私が『再設計』した存在だよ」

ホログラム映像に目を通しながら得意げに、自身溢れる声で言った。

上条「……設……計……?!」

アレイスター「一方通行だけではない。この街の人工能力者は皆、私が作った」

アレイスター「この理論自体は、2700年前の偉大な先人ホメロス、そしてヘシオドスが確立させたものだ」

上条「……」

ホメロス、ヘシオドス。
その名を聞いて引き出された記憶は非常に新しいもの、世界史の授業で習っていたことだ。

前者はイリアスやオデッセイア、
後者は神統記などを記したとされる古代ギリシアの叙事詩人の名だ。


アレイスター「私はそれを形にし、そして科学と結びつけることで『大量生産』を可能とした」


上条「……『大量生産』……」

そうして次々と発される、信じ難くそして不愉快きわまりない言葉。
まるで「人形」に対するものの如く癇に障る物言いに、上条は憤りの滲む声で繰り返した。


上条「大量生産……だと?」
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:13:18.70 ID:1bjtULLAo

アレイスター「確かに自然発生体、原石は古来から一定数存在していた」

だがそんな彼の反応など気にも留めず、アレイスターは平然と言葉を続けていく。
上条がどう受け取っているかそれを理解している上で。

アレイスター「しかし自然発生する性質上、当然だが都合よく私の求める系統のものとはならない」

アレイスター「研究材料には良いがプランには使えない」

アレイスター「更に神の『種』となる水準、つまりレベル5クラスとなれば百年に一体」


アレイスター「私が求める系統のレベル5が出現する確率は、実に100億年に一度というものだったのだよ」


アレイスター「君もわかるだろう。『作る』方が遥かに良いと」

アレイスター「能力とは、封印されし力場、つまりは『竜の胃』の中から引き出されている力だ」

アレイスター「となればその性質は当然、古の神々の派生となる」

アレイスター「そこに人の魔術体系の基本である偶像の理論を用いることにより、望む性質を有した能力者を作り出すことが可能となる」


上条「…………」

一言どころか相槌、瞬きすらせず、
その光を失った視線を真っ直ぐにアレイスターに向ける上条当麻。

アレイスターの許し難い言葉を一つ残らずその耳に刻み込もうとしていた。
確かにきわめて不愉快であるが、
この男の言葉の中に、今の状況を打開するヒントが含まれているかもしれないのだ。

相手が一筋縄ではいかないということを充分わかってはいるも、
上条はとにかくあらゆる情報を集めようとしていた。

どこからでもいいから、とにかくここから抜け出す隙を見出すべく。

そしてもう一つ、耳を傾ける大きな理由があった。

それはただ純粋に『知りたかった』からだ。

いや、己が『始まり』である以上これは―――『知る義務』があったから。
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:16:33.93 ID:1bjtULLAo

アレイスター「もちろん、この方法が楽と言うわけでも無い」

ホログラムを確認しているアレイスター、
彼もまた、その志の祖となった上条に聞かせたいのであろう、声を続けていく。

アレイスター「原石を使用する場合よりも早いというだけで、要するむしろ労力はこちらの方が遥かに多い」

アレイスター「230万の中で『種』に成り得る基準を満たしたのは僅か五人。更にその内、昇華の可能性を見せたのは二人」

アレイスター「そして辿り着いたのは一人。それもこうして、手遅れになる直前になんとかといった形だ」

そう言葉を続けながら彼は、
今しがたまで見ていたホログラムを手で撫でるようにして消し、
傍らにあるもう一つの方へと目を向け。

アレイスター「彼らの傾向は当然、ホメロス達の記述を基にしているため、俗に言うギリシア神話の存在が基となる」


アレイスター「例えば、カオスからは未現物質、ゼウスからは超電磁砲と原子崩しが」


そしてぱちり、と指を小さく鳴らすと。

上条「―――ッ!!」

ちょうど上条の顔の前にもう一つ、
大きなホログラム画面が浮かび上がった。

アレイスター「『映像として』は見えなくとも、『認識』はできるだろう?」

そこに映し出されていたのは、廃墟の中で咆哮を挙げる少年。


アレイスター「そしてハデスからは彼だ」


壮絶な変異を遂げている最中の一方通行だった。
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:20:29.65 ID:1bjtULLAo

上条「―――アクセラレータッ!!」

その姿を『見て』思わず、上条は
届かないとわかっていながらも彼の名を口にしてしまった。

と、身を乗り出した上条からその画面を取り上げるかのように。

アレイスター「ただ彼らの傾向は、今の最終段階においてはもう特に重要でもない」

再び指を鳴らしては、今度はそのホログラムを消去しながら、
アレイスターはそう口にした。


アレイスター「必要なのは虚数学区を維持可能な規模のAIM拡散力場と、セフィロトの樹を一手に掌握できる巨大な力、器」


アレイスター「人格といった『中身』は用済みだ」

上条「……ッ……!」

またしても聞き捨てならない物言い。
ただ、そこで怒鳴りたくなるのを懸命に堪え。

上条「……聞きたい事がある」

冷静を保ちながら、ここで静かに口を開いた。
実は先ほどから一つ、アレイスターの話の中で引っかかる点があったのだ。


それは。


上条「セフィロトの樹に繋がれている人間にどうやって、神々の偶像を刷り込んだ?」


天界に、今に至るまで悟られなかったその理由だ。
セフィロトの樹に繋がれている人間に手を加えるなんて、しかも能力者に仕立て上げるなんて、
まさに天界の目の前で堂々と物を盗んでいくようなもの。

だがその困難をこうして遂げている以上、そこから上条はこう確信していた。
アレイスターは、まだこちらに明かしていない『何か』を持っている、と。
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:25:07.69 ID:1bjtULLAo

アレイスター「少なくとも彼ら自身に『魔術的』な手は、一切加えていない。もちろんセフィロトの樹にも干渉はしない」

その上条の疑問に、アレイスターはこれまた平然と答えた。


アレイスター「セフィロトの樹が察知できない、科学的刺激は与えたがな」


アレイスター「物質領域に縛られている一般の人間の思念は、神経細胞の状態に大きく左右されるものだ」

アレイスター「その方法で深層心理の概念に少しばかり『欠損』を生じさせると。それが能力発現のトリガーとなる」

上条「……でもそれだけでじゃ―――」

アレイスター「そう、トリガーは自然に絞られるものではない。そこにはまた別の、何らかの原動力が必要となる」

そこで彼は再び、
宙にあるホログラム画面に目を映しながら。


アレイスター「アウレオルス=イザード」


唐突に、とある男の名を口にした。

上条「……っ」

それははっきりと覚えのある名。
忘れるはずが無い、姫神とインデックスを巡り、三沢塾で相対したあの錬金術師。

アレイスター「彼が如何なる魔術を使用したか覚えているかな?」

上条「……」

覚えているとも。
『黄金練成』、錬金術の到達点。
世界そのものをシミュレートし現実に反映させるという、常軌を逸した術式だ。

56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:29:33.29 ID:1bjtULLAo

そう上条が意識した瞬間。

アレイスター「それと基本原理は『同じ』だよ」

まるで頭の中を見透かしているのかのように、
彼が言葉を返す前にアレイスターは『答え合わせ』を行い、そして続けていく。

アレイスター「もっとも私のは、彼のものよりも遥かに洗練されているがな」

アレイスター「環境を改変するのだ」


上条「……!」

アレイスター「周囲に『偶像』、つまり神々が生まれそして成長した環境を再現すれば、」

アレイスター「その中に置かれている彼らは自然と神に似、そしてトリガーが絞られていく」

アレイスター「もちろん、全て同じと言うわけではない。それだと気の遠くなる時間がかかるからな」

アレイスター「現代世界に馴染むよう手を加え、更に短縮化のために『誘導しやすい材料』を付加」

上条「付加、だと?」


アレイスター「そうだ。憤怒、絶望、悲劇、抑圧、といった特に強くそして単純明快なストレスを」


上条「……ぐっ……!」

アレイスターの言葉はまさに、このおぞましい街の実像を示していた。


この学園都市は実験場、ここに集められた者達はモルモットだ、と。


怨嗟渦巻く場にあえて押し込め、潰し合わせ。
そして傷まみれでで這い上がってくる者を冷めた目で観察し―――利用する。

このアレイスターの不快な物言いに、上条の限界はもうすぐそこまで迫っていた。
だがそれでも彼は、懸命に歯を食いしばって何とか己を抑え込む。

もっと情報を引き出さねば、そして知らねばならないのだ。
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:31:41.99 ID:1bjtULLAo

しかし。

アレイスター「もっとも改変と言っても、大々的に作り変えるわけではない」

アレイスター「既存の物体の配置を僅かに変える、基本的にはそれだけだ」

アレイスター「そして物理法則こそ全てのこの人間界おいては、それだけで充分効果があるのだ」

更に連なっていくアレイスターの言葉の耐え難さは増して行く。
まるで彼を試しているかのように。


アレイスター「事故や災害から、個々人の細かい親交や確執まで。『幸せ』か『不幸せ』かまでも、全て誘導できる」


上条「―――」

『不幸せ』、その単語を耳にした瞬間、この今の話が己自身にも重なっていく。
アレイスターの言葉によって、まるで引き摺り出されるかのように記憶が蘇ってくる。

アレイスター「改変状態を常に維持する必要は無い。一瞬だけ、僅かなところに手を加えれば良い」

学園都市に来る前の『災難』の日々の記憶が。
運が無い事例はきりが無い、中には命にかかわる事さえ。


アレイスター「例えば、改変である走行中の自動車のディスクブレーキを外す」


例えば、自動車に―――。


アレイスター「すると『人を撥ねる』、もしくは『衝突する』という結果が必然的に生じる」


上条「―――……ッ」


―――轢かれ大怪我を負ったことなども、『複数回』。
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:33:52.45 ID:1bjtULLAo

あまりの『不幸』具合に周囲も恐れ、
疫病神だと迫害され、そして家族の保護も限界でどうしようもなくなっていた時。

ちょうど学園都市への入居試験に『なぜか』合格して、逃げるようにこの街にやって来たのだ。

アレイスター「そう。このやり方は、程度に差があれど人間であれば例外なく効果がある」

と、そんな上条の回顧を、
やはりこれまた『覗いている』かのような口調で。


アレイスター「君のような特殊な個体でもな。『幻想殺し』」


そう残酷に、あっさりと告げた。
その『不幸体質』は私が作ったものだと。

上条「―――なっ……なっ……―――!!」

それは人として至極全うな反応だろう。
今まで苦しめられてきた『不幸』、それが全て誰かの意志によるものだと理解したら―――怒りを覚えぬ者はいない。


アレイスター「最初はテレズマを、連中から力を盗み出すことは特に難しくない。ローラ=スチュアートと同じ方法だ」

アレイスター「能力者の数が揃いこの街がAIMに満たされてからは、その力を使用し更にプランを最適化した」

アレイスター「天界からすれば、この能力者の増加原因は未だ不明のままであろう」

アレイスター「ただ悪魔達が介入するようになってからは、その効果が安定しなくなった」

アレイスター「ダンテ達の影響は、さすがに制御可能なものではないからな」


アレイスター「君が、禁書目録へ対する自身の感情に気付いたのも、その―――」


上条「―――――――――うるせえッッ!!」
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:36:29.46 ID:1bjtULLAo

それは耐えに耐えかねた怒号。
上条はその腹に溜まっていた熱を吐き出してしまった。


アレイスター「限界か?『上条当麻』」


そしてアレイスターの口ぶりはやはり試していたかのような、
見透かした挑発的なもの。

アレイスター「君はやはり短絡的だな」

上条「……ぐッ……!!」

これは明らかに不覚だった。
そう、『話』はまだ途中だったのだ。
言い返したいも返す言葉は無く、そして感情に任せて言い返してもならない。

幸いにも、アレイスターはこの『不覚』を見逃してくれるようだ。
無言でホログラム画面に目を通したまま、明らかにこちらの言葉を待っていた。

この明らかな余裕には警戒するべきなのだろうが、
そもそも磔にされてしまっているのだから、いちいち避けていては埒が明かない。

とにかく情報を得る、知ることが先決だ。

上条は何度も深呼吸し、熱暴走しかかった思考を冷やして。

アレイスターの不愉快な言葉を反芻し、その話を再確認していく。
こちらが受け取った意図は正しいか、そこに矛盾は無いか、欠けているところは―――。


上条「……」


と、そこで上条は見つけた。
一つ引っかかる『欠け』を。
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:38:07.36 ID:1bjtULLAo

アレイスターは先ほど、セフィロトの樹には干渉しないと言った。
それが文面どおりなら、ここに一つの疑問が生じる。


セフィロトの樹を介さないまま―――どうやって人間の魂の状態を『隅々まで完全』に確認しているのだ、と。


魂だけじゃない、精神、思念、感情、記憶、それら全てをどうやって?


それも230万、いや―――それは単に集められた数で、それらを選別したことも考えると、
アレイスターが確認していた人間の数は更に多い数になる。


それだけの大勢を一体どうやって。


更に普通の人間と変わりなかった段階の『上条当麻』を見つけ出している。
それも『生まれる前』からだ。

これはセフィロトの樹、いや、更にそこから天界が有する記録に潜らないと到底不可能なはず。

              ミ カ エ ル
少なくとも彼、『上条当麻』の考えでは、だ。
そしてその認識は正しかったらしく。


アレイスター「―――それだ。それが正しき疑問だ」


アレイスターが上出来だとばかりにそう告げた。
上条がその疑問を口にする『前』に、だ。
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:40:06.34 ID:1bjtULLAo

アレイスター「君の考える通り、全人類を探り『幻想殺し』を見つけ出すには、」

アレイスター「セフィロトの樹とその先にある『アーカイヴ』を参照することが不可欠。だが一方で天界に発見されるのも不可避」

と、そこで彼はふと。
ホログラムから目を上げては、何もない宙空へとぼんやりと目を向けて。

アレイスター「恐らくホメロス達も同じだったのだろうな」

遠くを眺めているような面持ちで言った。


アレイスター「私は『一度』、その手段を用いたことで失敗し『大きな代償』を払った」


上条「……」

これまでには無かった、
僅かだが確かに『感情の影』が滲み出ている声で。

アレイスター「だが、二度目の今はこの通りセフィロトの樹を使わずに済んでいる」



アレイスター「ある原石が『いる』おかげでね」



上条「……げ、原石?つまり『能力』を使っているのか?」


アレイスター「そう、俗世の言い方ならば―――『占い』が妥当か、」



アレイスター「『彼女』の能力は、人間を―――『完全観測』できるというものだった」
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:42:54.91 ID:1bjtULLAo

上条「完全……観測?」

これは少し意外な答えであった。
このアレイスターの口から、虎の子は『能力』、と返されるとは思ってもいなかったのだ。
『彼女』と言うには普通に考えて女性か、そしてその『完全観測』とは。

そんな上条の思考を『明らか』になぞり、
アレイスターの言葉が続いていく。

アレイスター「彼女の能力は人間を対象として、その状態の全て把握できる」

アレイスター「その居場所から肉体、魂、深層心理、感情、思考、記憶、生い立ち」


アレイスター「そしてセフィロトの樹によって決定されている未来――――――『寿命』までも」


上条「寿命……」

その単語を彼が口にした時。
上条はその声に、影とは別にもう一つ微かな色を見出した。

それはこちらの感覚が正しければ―――『怒り』、と呼べる感情を。

アレイスター「彼女が自身のAIMを辿ることで、古き神々の封印されし『思念体』とも私は接触でき、」

アレイスター「そして真の歴史を知る手がかりにもなった。君が私の目標ならば、彼女は私の『きっかけ』だよ」

しかし。
上条が悟っているのを知りながらも、変わらぬ調子で言葉を紡いでいくアレイスター。

アレイスター「ただ初期の頃は、とてもプランに使える強度ではなかった」

アレイスター「それに私も愚かにも辛抱足ら無くてな、知的欲求にも急かされる形でセフィロトの樹に手を出してしまったのだ」


アレイスター「その代償として、私は『肉体』を失い―――彼女も『死んだ』」


上条「―――……」


アレイスター「だが幸いにも、彼女の能力は『存続できた』」

アレイスター「その失敗の後の30年間、私は主に彼女の力を拡張することに研究を費やし、そして今にこうして至る」
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:46:21.52 ID:1bjtULLAo

ぞわり、と。
上条はこの時、アレイスターの言葉から今度は妙な寒気を覚えた。

悪寒ではなく、なぜか胸が締め付けられるような悲壮な色を。

アレイスター「とはいえ彼女は出会った当初から、まさにレベル5クラスの強大な能力者であった」

アレイスター「私と彼女は偶然にして出会ったわけではない。天界による必然のものだ」

その色を滲ませながら続けていくアレイスター。


アレイスター「当時から『魔神』であった私は、天に仕える『狩人』の任を担っており、彼女は『獲物』だったのだからな」


アレイスター「面白い女だったよ。何から何まで興味深く、共にいても飽きず、聡明ながらも愚かで。そして『人間的』で」


口ぶりは、まさしく思い出を語るものに微かに変化していき。


アレイスター「初めて相対した際、私を『見て』彼女が何と言ったかわかるか?」


そして彼は上条の方へと振り向いた。

長い髪をふわりと揺るがせて。


アレイスター「いきなりこう言ったよ―――」


そして女性的な―――いや、纏う雰囲気等を省けば、
物質的な造形は完全に―――『美しい女性』である、その顔で真っ直ぐに見上げて。



アレイスター「―――『あなたが私の夫ですか』、と」

64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:48:17.54 ID:1bjtULLAo

上条「―――」

儚げながら力強さもあり、目元や鼻筋が凛々しくも、
面持ちには少しあどけなさが残る顔つき。

そう告げたアレイスターの顔、それは『美麗』の一言に尽きるものだった。
一瞬、わかっていながらも上条の鼓動が高鳴ってしまうほどだ。

そう、上条は『わかってしまった』。

この男が、いや、『彼ら』がここまで歩んできた過程に、
具体的にまでとはいかないものの、大まかに何があったのかを。


その『物語』は不吉で、凄惨で、陰鬱で、冒涜的で、そして果てしなく―――悲劇的で『救いが無かった』。


困難に面した際に彼らは一度も、他者から助けられることも救われることもなかったのだと。

己のように土御門や御坂、ステイル、神裂などといった、
頼れる友が一人もいなかったのだ。


己にとってのダンテのように――――――その背中で示してくれる『師』がいなかったのだ。


迷った時、彼らの前に導は存在せずどこまでも迷い続けたのだ。

上条はここで思ってしまった。
もしも、己は頼れる友の誰とも出会えず、たった一人で足掻き続けて。

それも無駄で―――結局、インデックスを救えていなかったら―――。


―――『このアレイスター』になってしまっていたのだろうか、と。
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:51:44.33 ID:1bjtULLAo

『彼ら』の言葉は平然と続いていく。
アレイスターはその体も上条の前へと向き合わせて。

アレイスター「では、改めて『彼女』を紹介しよう」

右手をその『自身』の胸に当て。


アレイスター「最初のレベル5にして『第六位』―――」


己が『肉体』を指し示しながら。


アレイスター「名は―――ローズ」


淡々と告げる。



アレイスター「――――――私の『妻』だ」



もはや上条には返せる言葉は無かった。
呼吸さえ止まってしまう勢いで、彼はただただ硬直していることしかできなかった。

この事実、歴史、彼らの生き様の前には―――。


その時、
突然地鳴りに似た轟音が響き、建物全体が激しく振動する。

それを聞いてはアレイスター、小さく微笑んで。


アレイスター「さて、時間通りだ。『彼』が来たぞ」


そして彼の声の直後響く、
直前の轟音を遥かに上回る―――



『―――――――――アレイィ゛ィ゛スタァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛―――!!!!』



―――恐らくすぐ屋外からの、力の圧を伴う凄まじい咆哮。

憤怒に満ちた、彼の名を叫ぶ声。


―――
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/10/17(月) 23:52:11.98 ID:1bjtULLAo
今日はここまでです。
次は木曜に。
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/17(月) 23:53:31.29 ID:9d70v+vIo
乙!!

ゾクゾクしたわ、この展開
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/17(月) 23:57:25.36 ID:7Uj48ZSHo
お疲れ様でした
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/18(火) 00:00:35.61 ID:TiOzd+rDO
展開やっばい
☆さんのカリスマ度がヤバい
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/18(火) 00:07:52.67 ID:JpYYgy800
相変わらずイイ、乙です
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県) :2011/10/18(火) 00:57:45.13 ID:UEwe67ng0
うおおおおおおおおおおおおおおおおテンションあがってきたあああああああああ
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/10/18(火) 01:04:48.31 ID:NclWRGJvo
今更ながら作者すごいな。
更新乙でした。
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/10/18(火) 01:09:43.96 ID:HKwsMHTqo
>>72
自分以外で初めて青森の人見たような気がする
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/10/18(火) 09:03:36.16 ID:YEkR0hKA0
>>1がヤバすぎる、乙!
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/10/18(火) 10:49:31.74 ID:Oeu5y46So
乙乙乙。これは学園都市編も佳境か・・・
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/10/19(水) 01:42:48.24 ID:vkprC4KAo
うおおおおおおおお!!
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/10/19(水) 09:55:40.75 ID:3eGD0/j70
>>53
>>230万の中で『種』に成り得る基準を満たしたのは僅か五人。更にその内、昇華の可能性を見せたのは二人」
脳筋抜いても6人だろと引っかかってたら
何のことはない6位も原石だったでござる…
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/10/19(水) 13:36:48.33 ID:83CdR3jw0
原作がまだ空埋めしてるところを容赦無くぶっこんでってるのが凄いな乙!
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/19(水) 18:08:20.03 ID:MQS/NPtSO
これからの展開が楽しみ。
それにしても人間界の神々ってそんなに強かったんだな。てっきり四元徳とどっこいどっこいかそれよりも弱いかと思った。
あ、でもベヨ姉さんたちが『間借り』とは言えダンテ達と普通に殺り合えるくらいの強さ持ってるからそうでもないか。
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/19(水) 20:49:38.64 ID:FKzU7oOz0
もう先が気になりすぎてLRボタン押しっぱなしでスティックぐりぐり回したいぜ!
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/19(水) 21:53:07.59 ID:BQO6mKNDO
>>80
ネヴァン無双やめろw
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 02:34:15.06 ID:EdL2s1VTo
―――

第23学区。

空港施設の地下、とあるシェルター内の病室にて。

エツァリ「急いで準備してください」

車椅子に座している褐色の肌の少年、エツァリは、
ベッドに横たわっている同じく褐色の肌の少女―――

エツァリ「あと20分でこの街からの最後の便が出ます」

―――同郷の魔術師ショチトルへ向けてそう告げた。

ショチトル「この私にどこに行けと?居場所なんてもう無いのに」

その言葉に少女は冷ややかに返す。
すっぽりと布団を被り背を向けたまま。

エツァリ「陰陽寮へ。かなりの『コネ』がある友人がいましてね。陰陽寮があなたの身を保障してくれています」

ショチトル「…………」

エツァリ「…………あと19分。さあ、早く」

と、そこでショチトルはごろりと寝返ってエツァリの顔を見据えた。
目を細め、明らかに納得していない表情で。

そして問う。

ショチトル「…………貴様は?」

エツァリ「残ります。まだ仕事が残っていますので」
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 02:36:47.67 ID:EdL2s1VTo

ショチトル「…………」

それを聞いた少女。
これまた不愉快そうに顔を顰めては、ごろりと。
寝返って再びそっぽを向いてしまった。

エツァリ「……お願いしますから……」

手首の時計へと目を移しながら、その背に放つエツァリ。
声には苛立ちと焦りが僅かに滲みつつあった。

文字通り、次が学園都市の外へ向かう最後の輸送便なのだ。

どれだけ強固なシェルターでも、人が物質領域の技のみで作った防壁なんかあてにはならない。
この街には、天界という脅威から逃れられる場所などひとつも無いのだ。

だから、と。

エツァリは望む。
せめてこの大切な女性―――ショチトルだけは遠ざけておきたい。と。

学園都市だけではなく日本、そして世界中が破壊されるという、最悪の末路を迎えて、
結果的に僅かな延命にしかならなくても。

一秒でも長く、長く生かしたかった。

それが例え彼女に恨まれようが。

ショチトル「……貴様の仕事とは?」


エツァリ「なに、ちょっとした事ですよ。すぐに終ります。『簡単』ですし」


嘘を放ち、騙すことになってしまってもだ。
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 02:38:55.84 ID:EdL2s1VTo

ショチトル「…………」

だがその巧みな話術も、彼女には通じなかった。
エツァリを特に良く知っているショチトルだからこそ、彼の言葉はすぐさま見破られてしまう。

ショチトル「貴様が首を突っ込んでいる案件、この街が直面している脅威は神の領域のものだろ」

ショチトル「原点を扱える程度で歯向かえる訳が無い。どうせその傷を受けた時だって、虫けらみたいに殺されかけてたんだろ」

エツァリ「―――……っ!どこからそんな……!」

ショチトルの口から飛び出てきたは、隠しに隠してきた事情。


ショチトル「それくらい、貴様の顔を見ればわかる」


驚くエツァリに向け、
彼が何かを言うよりも早く、追い討ちとばかりに彼女ははっきりと背中越しに声を飛ばした。

これには彼も観念してしまった。
隠しようも騙しようも無いと。


エツァリ「…………あなたを失いたくないのです。……お願いです。ショチトル」


そして彼は、今度は懇願するようにそう告げた。
仮面を被った声ではなく、自身の想いをのせたありのままの言霊で。

だが。

ばさりと布団を翻して再び振り向いたショチトル、
エツァリの顔をジッと見つめたのちに返す答えは。


ショチトル「……………………イヤだ。断る。私は動かない」
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 02:40:51.32 ID:EdL2s1VTo

エツァリ「…………何が気に入らないのですか?」

そんな彼女に対して、エツァリの声には焦りが色濃く浮き上がっていた。
こうしている間にも最終便の時刻は迫ってきているのだ。

ショチトル「貴様が一緒に来るのならば話は別だが」

一方で徐々に苛立ちつつあるのも、彼女の方もまた同じ。

エツァリ「それは先ほど言ったとおり……」

そして話はいつまでも平行線で。

ショチトル「だったら話す事は無い。さっさとその仕事に行け」

エツァリ「聞き分けが悪すぎますよ。ショチトル」


ショチトル「―――うるさい!!私は行かない!!」


ついに声が張り上げられてしまう。


エツァリ「いい加減にして下さい!!これ以上駄々を捏ねるなら力ずくで!!」


ショチトル「駄々だと!?そうだ貴様にとっては駄々だしな!!」


ショチトル「私が何をどう思っていようが貴様にとってはたかが―――戯言なんだ!!」
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 02:43:11.62 ID:EdL2s1VTo

エツァリ「なっ!ショチトル?!」

そうしてショチトルの言動は、
エツァリが予想していなかった方向へと向かい。


ショチトル「私は貴様のペットでも人形でもない!!私の命を助けたからって、私が自分のものだと思うな!!」

エツァリ「―――!」

ショチトル「イヤだと言ったらイヤだ!!私はどこにも行かない!!」


エツァリ「―――ダ、ダメだ!!行くんだ!!行け!!」


その行動もまた―――予想だにしていなかったものに。
エツァリはここでようやく知ることとなった。

ショチトルが一体どれだけ考え込み。
どれだけその心を痛めていたか。

彼女がどんな気持ちを抱いていたのかを。

ショチトル「―――断る!!行くぐらいならここで―――!!」

そう声を発し、突然彼女が掲げたその手にはキラリと。
小さなナイフが煌いていて。

エツァリ「―――」



ショチトル「いっそここで―――!!!!


そして振り下ろされた。
少女、自らの胸に向けて。

87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 02:44:52.72 ID:EdL2s1VTo

次の瞬間響いたのは―――ぱん、という弾けたような音と。
次いで床を跳ねる金属音だった。
ナイフを握っていたその手は、勢い良く叩かれていた。

『立ち上がった』―――原典を起動しているエツァリによって。


ショチトル「―――…………」


彼女はそんな彼を暫し呆然と仰ぎ見て。
そして最初は少しずつ、そしてだんたんと大きく顔を歪めては今にも泣き出しそうな表情を浮べて。

彼のスーツの腹、胸をすがるようにして掴み、震える声で。

ショチトル「何で……何で貴様はそこまでして……この街に………………なぜ?」

エツァリ「……………………」

なぜ。

それは土御門、一方通行、結標、麦野、

そして上条当麻と――――――御坂美琴が、この街を守ろうとしているから。


エツァリ「……友人達が―――戦っているから……」


その問いに彼は、素直にありのままの理由をシンプルに答えた。
周りに葉脈に似た筋が浮き上がっている目で彼女を見つめ、その頬に手をそっと添えながら。
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 02:46:39.41 ID:EdL2s1VTo

だがその手を振り払うようにして、彼女は更に詰め寄った。
エツァリから手を離せば、ベッドから転げ落ちてしまいそうなまでに身を乗り出して。

ショチトル「だったら私は……!!私は……!……残ってはダメなのか……貴様がいるのに……?」

ショチトル「私だって魔術師なのに……大切な奴のために覚悟を決めちゃ……いけないのか?」

そして声を一際強く震わせて。

エツァリ「―――…………」


ショチトル「私には……決めさせて……くれないのか?……私だってこんなに……こんなにも…………」


その時とった行動は、エツァリ自身意外なものであった。
彼は思わず―――半ば衝動的に―――ショチトルを抱きしめたのだ。

エツァリ「―――…………すまない……ショチトル」

そうしてこの行動に対してか、彼女の本音に気付かなかった事へか、
それとも、これでも彼女を学園都市の外に置くべきだと考えてしまうことへか。

自分自身はっきりと自覚できてはいなかったが、彼はそう謝罪の言葉を口にした。

ショチトルは驚いたのか一瞬びくりとしたものの、目だった反応はそれだけだった。
あとは静かに体を預け。

更に受け入れるかのように、静かにエツァリの胴に腕を回して。

ショチトル「馬鹿にしないでよ……わかるから……」


ショチトル「…………エツァリお兄ちゃんが……死んでもいいって顔してるの……わかるんだから……」


エツァリ「……すまない」


そうして口から出た二度目のその謝罪。
今度ばかりは、彼もその意味をはっきりと自覚していた。
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 02:48:29.81 ID:EdL2s1VTo

ショチトル「……………………仕方無い…………」

そうして十数秒間ののち、
彼女はずず、っと半泣きの鼻を鳴らしては。

ショチトル「…………もう一度だけ。貴様の言うことを聞いてやる。行くよ。行ってやる」

顔を埋めたまま。

エツァリ「……良いのか?」

ショチトル「だが条件がある」


ショチトル「……誓え。迎えに来るって。そして二度と私を置き去りにしないって」


エツァリ「……誓う」

彼は迷い無く答える。
彼女の頭に頬を当てたまま、彼女の体を強く抱きしめたまま。


ショチトル「―――生きて迎えに来なかったら、死んでやる」


エツァリ「わかった。ショチトル」


エツァリ「……運命を共に」


ショチトル「…………うん」
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 02:50:00.32 ID:EdL2s1VTo


―――それから約30分。


彼女を載せた機は最終便、超音速機は無事離陸、そして目的地に到着し。
先ほど学園都市の情報筋を通じて、陰陽寮から保護完了との連絡があった。

エツァリ「…………」

とあるビルの屋上の淵。

携帯電話をスーツのポケットに押し込めながら、エツァリは眼下に広がる学園都市、
普段とは違い、必要最低限の灯りしか点けられていない暗い街並みを眺めていた。


少し前に凄まじい圧力を覚えたので飛び出してきたのだが、その騒ぎもすぐに終ってしまい、
今や街は不気味なほど静かだ。

ただ、状況が落ち着いたわけではないのはわかっているが。
今は台風の目に入った、いや、嵐の前の静けさか。

エツァリ「…………」

容赦なくその身を削っていく冬の夜風か。
ネクタイやジャケット、解けかかっている包帯を執拗に揺さぶっていく。

だがこの程度の冷気が、彼のその身を削っていくことは無かった。

バージルと遭遇した際に思い切って使ったことからわかったのだが、
案外己は「冷気」に関係する事象と相性が良いらしいのだ。

91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 02:50:54.95 ID:EdL2s1VTo

エツァリ「…………」

肌に良く馴染む冷気、決してわるくはないその居心地の中で、
彼は今の状況確認に再度思考を巡らせて行く。

学園都市、暗部、『能力とは』、というものを良く知っている側の者の中では、
デュマーリ島への遠征にほとんど裂かれてしまっているせいでこうして動ける人員は少ない。

特に『反乱側』の者としては、
この戦いの中に曲がりなりにも飛び込めるのは恐らく一方通行と―――己くらいしかいない。

そしてその一方通行も、彼自身が言う通りアレイスターの手中。
そうなれば結果として。

エツァリ「…………」

フリーの『遊撃』要員は己だけ。

一方通行に何かがあった時には、
今まで手に入れたあらゆる学園都市の知識、そして数日間で得た数々の極秘資料、
そしてこの実行力を使って状況解決に全力を注ぐ。

それが仕事だ。

エツァリ「…………」

それこそが、この街で果すべき使命だ。
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 02:52:00.69 ID:EdL2s1VTo

更に今、己に課せられている使命はそれだけじゃない。
学園都市を守り、そして生きてショチトルを迎えに行かなければならないのだ。

エツァリ「…………はは……」

彼は一人、呆れがちに笑ってしまった。

なんて困難な事か、と。
例え死んででも、という捨て身のやり方すら許してはくれない。
体は傷も癒えぬまま、このように原典を起動してる時点ですでに死にそうなのに。

だが。

『何か』をできる可能性がある、というだけでも充分であろう。

少なくとも―――バージルと相対したときのような、一切手が及ばない絶対的な状況よりは遥かにマシだ。

それにあの絶望的な状況からでさえ、こうして何だかんだでこうして生き延びているのだから。

エツァリ「…………」

何とかなるものだ。
白い吐息を吐きながら、エツァリは仲間、友達の姿を思い浮かべては、
今一度自身の覚悟を確かめていく。

土御門、結標、一方通行、麦野。
そして上条当麻と。


エツァリ「―――御坂さん。必ずこの街はお守りします」


次いで、彼女の柔らかな感触が残る手へと目を落として。


エツァリ「―――待っていてくれ。ショチトル」


そしてその時だった。
彼方、暗い街並みの向こうで強烈な圧が出現したと思った―――次の瞬間。


それを遥かに超える、そして今までに無い異質な存在の―――『咆哮』が響き始めたのは。


その『産声』は、彼の戦いの幕上げを告げているものだった。

―――
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 02:53:05.49 ID:EdL2s1VTo
―――

ステイル『―――ッッは!!』

意識は突然回復した。
その瞬間、半ば反射的に跳ね起きるステイル=マグヌス。

ステイル『ぐ―――ぁッ!!!!』

そして胸に覚える―――強烈な痛み。
身を起こしたのも束の間、彼は胸を押さえて今度は背を丸めて呻いてしまった。

これではマズイ、と深呼吸してなんとか落ち着かせ、
一瞬また飛びかけてしまった意識を何とか留め。

己が胸の状態をチェックしてみると。

ステイル『…………ッ…………!』

不思議な事に穿たれたはずの穴は跡形もなくなっていた。

そこでまず最初に思うは、
あれは夢か幻の類だったのではないか、ということだが。

ステイル『……』

間違いなく現実だ。
傷跡は無いものの、強烈な力の残滓が色濃く残っている。

そこで次に思うはこうだ。


ステイル『―――くそッ!!』


―――あれほどの傷が、表向きにでも治癒してしまうくらい―――時間が経ってしまったのか。


と、その時であった。


「―――んっ……あ、あの……大丈夫ですか?」
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 02:55:04.50 ID:EdL2s1VTo

斜め後方、すぐ傍から聞えてきた突然の声。
まるでその気配に気付けなかったことからすると、先ほどのエイワス―――か。

ステイル『!!』

声質を認識するよりも早く、瞬時にそう研ぎ澄まされた本能が判断を下し、
すかさず跳ね起きては低く身構え。

振り向いたその先には。

温和で気の小さそうな、一方で胸は非常に豊かな、
メガネをかけた長い髪の少女が立っていた。


「あっ……わッ!わ、私はそういうのじゃ……!ご、ごめんなさい!」


ステイル『…………』

そしてその一見した姿通りと言うべきか。
少女の反応はまた臆病な女の子そのもの。
敵意の欠片など一切見られない、なんと『ゆるい』オーラか。

そう、先ほどのエイワスとは違い、そんな普通の人間的な感情がこれでもかと全身から溢れ出ていたのだ。

ステイル『……………………』

どうも調子が合わない。

この僅かなやり取りでも強烈に覚えるのは、
さながら怯える小動物に吠え掛かってしまっているような気分。

彼は一瞬で確信せざるを得なかった。
この少女はとりあえず、こちらに危害を加えるつもりなどないか、と。
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 02:57:06.39 ID:EdL2s1VTo

彼は一応、感覚だけは研ぎ澄ましたままだが、
構えを解いてその場に億劫そうに腰を下ろして。

ステイル『……僕が倒れてから……どれだけの時間が経ったかわかるかい?』

「……2分25秒です。でもまだしばらくここからは出れないから、もう少し休んだほうが……手当てもまだ全部は……」

ステイル『……今すぐ出たいのだが、方法は無いのか?』

「はい。ありません。今ここは、アレイスターが完全に閉鎖していますので内側からは何も……」

ステイル『…………』

どうらや嘘も無さそうだ。
この少女には純粋無垢、という表現が良く合うか。
感情がそのまま顔や仕草に出てしまうタイプらしい。

悪魔の感覚を持ってしまえば、まるで読心しているような気分だ。

とにかく彼女の言葉が本当となると、急いでも仕方がないようだ。
ステイルは込み上げてくる焦りを抑えてなんとか冷静を保ち、一つ一つ、まずは『外堀』の疑問を潰していく。

ステイル『そうか……そういえば手当てと言ったが……僕の胸は君が?』

「はい。でも私の力が悪魔の体に馴染むかどうか……拒絶反応とか……本当に大丈夫ですか?」

ステイル『そうだったのか。いや、問題は無いよ。ありがとう……ところで君は何者かな?』


風斬「風斬……風斬氷華です」


ステイル『カザキリ…………?』

その響きにステイルには覚えがあった。
去年の9月30日に学園都市で起こった騒乱、通称『0930事件』の報告書にあった『名』。


あの日学園都市に出現したという―――『人工天使』の名称だ。

そのステイルの表情を見て悟ったのか。


風斬「あ、す、すみません。稼動状態に移行すれば『ヒューズ=カザキリ』、とも。こっちの方の名なら、あなたでも聞いたことが……」


ステイル『なるほど……』

前もってエイワスを知ってしまっていたのだから、
この少女が例の『人工天使』だとしても特に驚きはしない。
むしろ、エイワスと同じく気配が完全に周囲とどうかしてしまっていることからも納得だ。
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 02:58:12.18 ID:EdL2s1VTo

ステイル『その口ぶり、君は僕の事を知っているみたいだね?』

風斬「はい。この街での一連の騒動は全て『見て』いましたので」

ステイル『……そうか……』

この辺りで外堀はもういいだろう。
ステイルはそう判断して。


ステイル『―――上条当麻。彼について何か知っているか?』


ついに本題に切り込んだ。
そして返って来た答えは、予想外―――いや、『ある意味』では納得か。


風斬「は……はい」

そう返事をする彼女の仕草はまさに。
本人は隠しているつもりなのだろうが、これは悪魔の感覚が無くても誰でも一目でわかる、
確実に何か『想う』ところがあるものだった。

ステイル『(なるほど上条……………………この子もその「類」か。全く)』

知っているどころか、彼女もまた上条の手に『かかった』一人らしい。
そしてこの反応はまた別のの事実を示していた。

彼女は彼の現状を知らないか、もしくは彼はまだ生きているか、だ。
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県) :2011/10/21(金) 02:59:06.41 ID:SEjfmaLh0
;;
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 03:00:06.92 ID:EdL2s1VTo

ステイル『今、彼がどうなっているかわかるか?』

そこを踏まえてステイルは、もう一度聞き直した。

風斬「はい……そのことで、あなたとお話がしたくて……」

ステイル『今上条はどうなってる?』

風斬「囚われてはいますが……特に傷などを負ったりは……ですが……」

ステイル『……だが何だ?これからアレイスターは何を彼に?』



風斬「いえ…………あ、あの、アレイスターもだけど……」



ステイル『―――な、何?』

そこで本当に予想外の反応が返って来た。
アレイスター『も』、確かに今彼女はそう口にしたのだ。

それは文面通り受け取るとこうだ。


上条に『何か』をしようとしている者は―――アレイスターの『他』にまだいる、と。


風斬「その…………もしかすると………………………………」


だが風斬の言葉は続かなかった。
いや、『続けられなかった』ようだ。
声を放とうと口が動いているのだが、言葉が全く聞えないのだ。

しかもその口の動きも―――滅茶苦茶。
まるで読唇できるものではない。
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 03:02:30.02 ID:EdL2s1VTo

しばし彼女は懸命に口を動かし、更に地面にも何かを描こうとしたが。
悉くその情報を伝える試みは失敗してしまっていた。

まるで何かが間に割り込み、塞いでしまっているかのように。


風斬「だ、だめ…………ごめんさない…………私……」


そうして彼女は、今にも泣きそうな顔をして座り込んでしまった。

ステイル『お、おい……?!一体……』

思わずそんな彼女を見て、傍に行こうと―――彼が立ち上がったその時だった。


「そのメガネちゃんはプロテクトがかかって伝えられねえんだ」


脇から、今度は男の声が響いてきた。


「アレイスターが仕込んだプログラムを『奴』に利用されててな」


またしても気配を悟れなかった存在の。

ステイル『―――』

半ば風斬の盾となるような位置で、ステイルは再度身構えて振り向くと。

己ほどではないものの長身で、
容姿は整っていながらもいかにも軽そうな茶髪の男が立っていた。
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 03:05:04.70 ID:EdL2s1VTo

今度の場合は、ステイルの警戒がすぐに解けることは無かった。
そして彼が放つはまず。

ステイル『……誰かな、君は』


垣根「垣根帝督だ」


垣根、そう名乗った男はニヤニヤと不敵な笑みを浮べたまま、
風斬の盾となっているステイルを眺めて。

垣根「ちなみに一応言っておくがそのメガネちゃん」


垣根「ここの中にいる限りは、俺やおたくよりもずっと――――――『強い』ぞ」


ステイル『……』

風斬「大丈夫です……彼は……」

ステイル『そ、そうなのか……?』

それでも未だに警戒を解かない彼を見て、
垣根帝督は呆れたような表情を浮べて。

垣根『いいから、今から俺が言うことを黙って聞いた方がいい。時間が無い』


垣根『あの幻想殺しと、その周りでこれから起こることをちゃっちゃとこの俺が講釈してやる。良く聞きな―――』


ステイル『……っ……』

そしてステイルの反応を待たずに、一気に言葉を連ね始めた。
その勝手に思わず彼は、一度言い返して仕切りなおそうとしたが。


ステイル『―――』


垣根の口から発された内容は、それどころではなかった。
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 03:06:56.02 ID:EdL2s1VTo



――――――――――――――――――――――――――――――。



ステイル『――――――――――――――――なッッ―――――』

信じられない。
垣根提督の口から告げられたその内容が、とても信じられない。


―――なんてとんでもない事なのか。


垣根「ただ言っておく。俺が知ってるのは恐らくほんの一部分だ。全貌はもっとデカイだろうさ」

ステイルは思わず背後の風斬の方を振り返って、彼女の答えを求めてしまった。
この男の言葉は本当なのかと。

嘘だと言ってくれと。


しかし風斬は無言のまま小さく―――頷いた。


ステイル『………………な……くそッ……くそ……』

頭を抱えてしまう、とはまさにこの事だった。
理解しようにも、理解しきれない。
受け入れなければ成らないのに、受け入れ切れない。

一体どうすれば。

どうすれば、この男の言った事態を回避できるのだろうか。


これはもう、一人で考えてどうにかなるレベルではない。
神裂や、その向こうのバージルや魔女達にも知らせなければ―――。
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 03:07:58.19 ID:EdL2s1VTo

ステイル『―――頼む!!僕をいますぐここから出してくれ!!』

垣根「もう聞いただろ。無理だ」


ステイル『……じゃ、じゃあ、ア、アレイスターは……?!そ、それを知っているのか?!』

垣根「いいや」

ステイル『じゃあ教えるんだ!!あの男は常にここの状態をチェックしているのだろ!?だったら―――』


垣根「無駄だ」


垣根「『奴』は俺であり、このメガネちゃんであり、エイワスであり、この虚数学区そのものであり―――学園都市を覆うAIMそのものだ」


垣根「俺たちの意識がアレイスターの手元にデータとして届く頃にはもう、『奴』によって上書きされてやがる」


垣根「そもそも俺は、別にアレイスターになんざ教えるつもりはないしな」

垣根「ま、どの道ここから出れるのは事が始まってからだ。考えるべきなのは回避法じゃなく、解決法だ」

ステイル『…………くっ!!』


垣根「そこで一つ。ちょっとした助けになるプランを俺は思いついたんだが。聞くか?」

ステイル『な、何だ!?』


垣根「そんな大きなものでもないんだが、少なくとも天界からの侵攻の対処はずっと楽になる」
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 03:10:26.29 ID:EdL2s1VTo

ステイル『―――教えてくれ!!』

今や藁をもつかむ気持ちだ。
プラスになることだったら何でも良い。
どんな僅かなことでも、それで可能性が増えるのならば。

垣根「魔術師には理解できねえと思うから、今から俺の言葉を丸暗記しろ。悪魔ならそんくらいできるだろ」



垣根「いいか、虚数学区を顕現させて、学園都市の上に『重ねろ』」



垣根「人間界の上にもう一層置いて、界で『コーティング』しちまえってことだ。覚えたか?」



ステイル『ああ!!』

垣根「『表』に戻ったらこれを話のわかる奴、そうだな、シスターズやラストオーダー……いや、連中は死んでるかも知れねえ」

垣根「だったらあのアステカの魔術師とかでもいい。とにかく一方通行周りの、能力者側の事情に詳しい奴に言え」

ステイル『これだけ言えばそれでいいのか?』

垣根「ああ、わかる奴ならわかる。そしてわかる奴なら、具体的な方法もまあ思いつくだろ」


垣根「うまく行けばそのメガネちゃんも戦力になる。エイワスまでとはいかないが、虚数学区上で『完全稼動』すれば恐ろしく強いぞ」

垣根「ま、さすがに四元徳辺りが相手じゃかなり厳しいだろうが」

垣根「それにセフィロトの樹に繋がってる魔術師が入っちまったら、どうなるかは知らねえが。ま、その辺りの対処法はおたくらの方が詳しいだろう」


ステイル『そうだな……その方面はこちらに任せてくれ!』


セフィロトの樹、となれば今神裂らが取り掛かっていることだ。
彼女やバージル、魔女達に伝えれば、例の魔術師に対する『障害』の問題も何とかなるかもしれない。
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 03:12:40.07 ID:EdL2s1VTo

と―――その時だった。


ステイル『―――!!』


突然この陽炎の世界に、
耳鳴りに似た強烈な力の衝撃が走り抜けていった。

それも断続的に、更に徐々に強くなっていく。

垣根「……始まったか。ということで俺はここまでだ」

ステイル『……何処かへ行くつもりなのか?』

垣根「まあな」

ステイル『待て!!話じゃまだここから出れないはずじゃ!!』

垣根「ああ悪い。一箇所だけ行けるところがあった」

ステイル『なぜそれを言わなかった?!』

垣根「好き好んで行く場所じゃねえからさ。それに行ったらお終いだ」

ステイル『―――おしまい?』


そこで垣根はにっこりと、わざとらしい笑みを浮べて。


垣根「『あの世』だよ」



垣根「そういえば言ってなかったな。俺は今この段階で―――『消える』んだ」



さらりと告げた。
目前に迫った己の寿命を終点を。
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 03:15:09.04 ID:EdL2s1VTo

ステイル『―――…………』

突然のその自己宣告に、
ステイルは何も言葉を返せなかった。

垣根「おおっと、湿っぽいのは止せよ。少なくとも俺は赤の他人に悲しまれるようなガラじゃねえ」

垣根「それに本当は去年の十月に死んでたはずなんだ。ここまで楽しめただけでも儲けもんだ」

と、そんな垣根帝督に向けて。


風斬「垣根さん…………あなた、やっぱり本当は良い人なんだよ……」


ステイルの後ろから風斬が、やや俯きながらそう言うと。

垣根「ははは、やっぱりメガネちゃんはちょっと純粋すぎるんじゃないかな」

垣根「俺が『良い人』じゃ、人類の99%を『聖人君子』と呼ばなきゃならねえ」

垣根提督は笑った。
そしてあっけらかんとした調子で言葉を連ねていく。

垣根「俺はとてもそんな奴じゃあない」

垣根「自分でもウンザリするくらいにプライド高くて、自己主張が激しいだけさ」

徐々に―――その姿にノイズが混じり。

垣根「そのせいで、ここで『負けっぱなし』で消えちまうのはどうも食わねえ」

垣根「それにこの街が、異世界の連中に良い様にされるのは―――はっきり言ってかなり気分が悪い」

風斬「あ…………っ!」

体が見る見る薄れていっても変わらずに。
最後まで、最期の最期まで自身に溢れて不遜な物言いで。

垣根「人類絶滅しようが地球が砕けようが、それは別にどうだって良い」


そうして彼は―――消滅した。




垣根「でもな、この『薄汚れた街』をぶっ潰しても良いのは――――――俺たち『能力者』だけなんだよ」




最期にそう断言して。

―――
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/10/21(金) 03:16:17.87 ID:EdL2s1VTo
今日はここまでです。
次は日曜に。
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/21(金) 03:37:11.36 ID:q4ingBLKo
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/21(金) 03:54:45.25 ID:KlHvTMAI0
乙です!!
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage saga]:2011/10/21(金) 06:30:46.97 ID:olU1vIhh0
お疲れ様です。

この垣根、どことなくKHのアクセルっぽいな。
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/21(金) 06:43:40.48 ID:xVS/Xwj3o
お疲れ様でした
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/21(金) 12:42:20.73 ID:PiYPz5JIO
ていとくん( ;ω;)
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/10/21(金) 14:42:00.30 ID:498/svUH0
乙乙
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県) [sage]:2011/10/21(金) 18:38:56.73 ID:6P/bA+770
乙tylish!
ていとくんかっこいいなおい
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北陸地方) [sage]:2011/10/21(金) 18:46:35.80 ID:8kbVuvbWo

某SSを読んでいるせいかエイワスと風斬とていとくんが真面目やってると吹く
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/10/21(金) 20:17:48.98 ID:L+5LW8SJo
乙です。帝督の口ぶりから察すると、ヒューズ全力カザキリは大悪魔中位、イフリートやトリグラフのちと下あたりになるのかな。
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/10/21(金) 20:49:57.64 ID:HQIQpGKio

周りの反応見てようやく神化一方さんが次元が違う領域までいったってことに実感湧いてきたわ
アスタロト戦のせいでだいぶ感覚が麻痺してたんだなあ
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:13:59.26 ID:oGtMbEbto

―――

遡ること少し。
学園都市第一学区地下。


そこは何百と言う複合装甲板の下、深さ500m、
最深部は実に1000mにも達する巨大な地下施設。

総括理事会長アレイスターが『個人所有』する、学園都市の中で最も強固で安全なシェルターだ。

そしてその中でも一際安全な、最深部に近い位置にて。


唯一の違いは窓が無いくらいか、
五つ星ホテルのスウィートルームと見紛うほどに広く上品なとある一室の。
これまた上質な革張りの大きなソファーに今、

毛布を肩にかけた初春飾利が、背を丸めるようにして座っていた。


初春「……ふっー……」

深く息を吐きながら手をあわせ、寒さを凌ぐかのように絡ませ動かす初春。
いまだに小刻みに震えている細い指を。

しかし震えがおさまる気配は無く、むしろ徐々に強くなってさえいるかもしれない。

指先だけではなく肩や腕、歯までもが小刻みに鳴っている。
全身隅々、まるで内臓までが痙攣してるような感覚だ。

しかしこうして安全で暖かな場所にいるおかげで、
少なくとも精神状態は、万全とは程遠いものの少しずつ安定しつつあった。
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:15:03.61 ID:oGtMbEbto


正常に稼動しつつある頭の中では、
今しがた今しがた目にした事、出来事がぐるぐると回り始めている。

初春「……ふー……」

絡める両手に今度は息を吹きかけながら、
『現実として受け入れよう』とそれらに思考を巡らせて行く。

まず御坂美琴と瓜二つな姿の二人だ。

一人は、ボーっとしながらもガードマンのように壁際に立ち。
もう一人はこの『スウィートルーム』の端にあるカウンターに座しては、暇そうな面持ちで雑誌を捲っていた。

初春「……」

見れば見るほど御坂美琴そのものだ。
姉妹、三つ子というレベルではない。

そのままコピー、まさにクローンでもないと。


初春「……本当……だったんだ……」

初春はぽつりと、まず誰にも聞えないであろう小さな声で呟いた。
あの『噂』は本当だったのだ、と。
少し前に囁かれていた『超電磁砲のクローンが生産されている』という、出来の悪い冗談が。

この二人が先ほど、〜号とナンバーで自己紹介したのもはっきりと覚えている。
間違いないのだろう。


となればおそらく。


テーブルを挟んで向かいのソファー、そこにさながら蓑虫のごとく毛布に包まっている、
『小さな御坂美琴』―――『アホ毛ちゃん』も同じく。
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:17:21.29 ID:oGtMbEbto

鼻まで毛布に潜り、
見るからに不機嫌な目つきな茶髪の『アホ毛』の少女。

『あの時』は耳栓したくなるくらい活発すぎたのに、
今は一言も発さずただじっと毛布の中に潜っている。

初春「…………」

そんな幼い少女の姿、
『あの時』は気付かなかったが、今一度その顔を意識すると。


これまた見れば見るほど、御坂美琴の面影があるのだ。


年齢に差があるため、
これだけなら妹と考える方が普通であろうが。

だがクローンの噂が現実だとわかってしまった今では、こう第一に思ってしまう。
この少女もまた同じなのではないか、と

初春「…………」

『アホ毛ちゃん』。

この幼い女の子と最初に出会ったのは忘れもしない、
去年の十月九日、学園都市の独立記念日だ。

はっきり覚えているのは、なにも祝日だからという訳じゃない。
何せあの日は肩関節を脱臼し、挙句に殺されかけるという破目に遭ったのだからだ。

このアホ毛ちゃんを探していた、胡散臭いホストのような男にだ。
あの時は、良くわからないが周囲に『爆発のような現象』が起こって何とか生き永らえた―――。

初春「……………………」

と、あの日の記憶を遡っていたところで初春は気付く。
あの日と今日の類似点を。

危険から解放された経緯も似通っていたし、何よりも―――同じ声を聞いた。

そうだ。
あの『白い少年』は十月九日にも、己を死の淵から引き上げていたのだ、と。
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:20:26.09 ID:oGtMbEbto

「アドレナリンの過剰分泌よ。慣れてないとそうなるの」

とその時だった。
いつのまにかテーブル脇に立っていた女、芳川と名乗った女の声。
震えている様子を見ての言葉だろう。

初春「……あっ」

芳川「まあ……原因はそれだけじゃないけれど。『悪魔』を見たんだし」

初春「(……あくま?)」

ここで唐突に放たれた、
その場違いにも聞える言葉に少し引っかかりながらも。

芳川「はい、どうぞ」

初春「あ……ありがとうございます……」

芳川「熱いから気をつけてね。あと味は期待しないで」

初春は、芳川が差し出した紅茶が注がれているカップを両手で受け取った。
震えてるこちらが零さないようにか、そのカップは両側に取っ手がある大き目のものだ。

初春はそのカップを、大切なものを扱うようにして両手で包み込み、
ゆっくりと顔の前に持っていった。

初春「……ふーっ……」

鼻、そして頬に当たる熱気がとても愛おしく感じられる。
冬の寒さと恐怖で固まりきったこの体に浸み込み、解凍を促してくれる暖かな刺激だった。
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:22:01.41 ID:oGtMbEbto

彼女はそんなカップに静かに口をつけながら、
今しがた耳にした『悪魔』、という言葉の意味を考えていた。

芳川は言った。

その震えは、『悪魔』を見たからでもある、と。

悪魔と言う単語のイメージから思い当たるのは当然―――さっき目にした異形のバケモノ。
先ほどまでの一連の出来事の中で、最も信じ難い存在だ。

その現実実の無い感覚を振り返れば、この『悪魔』というオカルト的表現もしっくりくる。
きっと『悪魔』と呼ばれるに相応しい、凶悪な生物兵器か何かの類なのだろう。

初春「『あれ』が悪魔なんですね?」

芳川「ええ」

クローンの噂も現実だったのだ。
ならばあのくらいの生物兵器が存在していたって不思議では―――そう初春は一先ず結論付けて。

初春「何なんですかあれは?」

机を挟んで向かいのソファー、毛布に包まる打ち止めの横に座った芳川に向け、
『悪魔』の正体を問うたが。


芳川「ん?だから『悪魔』」


返って来たのは、彼女にとって少し頓珍漢な答えだった。


初春「……ん?」
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:23:16.83 ID:oGtMbEbto

つまりは単に比喩したものではなく、元からそのような名称なのか。
だがその認識は―――前提そのものから誤りであった。

初春「―――悪魔、ですか?」

芳川「ええ。悪魔。小説とか映画とかに出てくるような」

初春「そ、そのの『悪魔』ですか?何かの神話とか伝説に登場するような、『あの悪魔』ですか?」

芳川「そうよ」


初春「ちょ、ちょっと待ってください!そんな…………!」


もちろん、いきなり信じられるわけも無かった。
そんなことは無理だ。

最先端の科学の街で、こんな―――オカルトなことを本気で信じろと。

ただ芳川はこの初春の反応を半ば予想していたのか、可笑しそうに小さく笑って。

芳川「信じられないのもわかるけど……どう説明したらいいかしらね」


芳川「私も詳しくは知らないけど……言うならば『異世界の生命体』、かしら」


初春「―――い、異世界?」


芳川「私達が存在するこの宇宙とは違う、法則も何もかもが異なっている別の宇宙よ」
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:24:06.53 ID:oGtMbEbto

初春「は、はあ」

話が飛躍しすぎて、全く理解が追いつかない。

初春はカップを置くどころか瞬きすることすら忘れ、
ただ目をまん丸にして呆然としていた。
一体この女性は何を言っているのだろうか、と。

だが不思議な事に。

初春「……」

心のどこかでは、納得してしまっている自分がいた。
思考の奥底、決して嘘をつけない本能が感じた通り―――『あれ』はこの世のものではない、と。

目にしてその肌で感じた存在感が異質すぎるのだ。

どう言い表せばいいのか、いや、そもそも合致する表現など無いのかもしれない。
それも芳川の言う通り、そして本能が感じる通りだとすれば。

初春「………………」

当然なのかもしれない。

ただ。

やはり今まで作り上げてきた『常識』がある以上、
すぐに受け入れることはできないが。

芳川の言葉をそのまま飲み込むには、少し時間が必要だった。
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:27:02.22 ID:oGtMbEbto


と、そんな初春を案じてのか。

芳川「そういえばまだ聞いてなかったわね」

ぱん、と芳川は手を叩いてはそう話を切り替えて、
その手を机の端に置いてあった携帯端末に伸ばした。

初春「……初春飾利です」

芳川「ウイハルカザリ、っと」

その名の響きを入力したのだろう、画面を指で叩き。


芳川「えっと柵川中学一年、ジャッジメント第177支部所属の?」


初春「は、はいっ!」

そうして一瞬で済んでしまった身元特定。
初春は少し驚き、その返事の声色がやや張ってしまった。

初春「……?!」

あの携帯端末にはこちらの個人情報が映し出されているのだろうか。
名前で検索できる権限を持っているのならば、この芳川はアンチスキルの関係者か、

いや、公にされていない第一学区の地下深くの、こんな特別なシェルターにいる者。
アンチスキルどころか、学園都市上層部の者などであってもおかしくはない。
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:28:31.30 ID:oGtMbEbto

初春「…………」

一体あそこには、その他に何が表示されているのか。

ふうんと意味深な反応を示す芳川を、
彼女がカップに口をつけながら神妙な面持ちで見つめていると。


芳川「……あながち全く関係無い、って訳でも無いのね」


芳川が妙に納得したような表情を浮べてぼつりと呟いた。
明らかに独り言であろう、聞き逃してしまうくらいに小さな声でだ。

初春「……?」

芳川「ああ、色々とね色々。まあ、とにかく中々すごい」

と、初春が意識していることに気付き、そんなふうに今の言葉を有耶無耶に流しては。

初春「はい?」

芳川「自作のファイアウォールを第177支部のシステムに。評価は+Sであり、アンチスキルのメインサーバーと同等の堅牢度である」

芳川「更にそのソースを各公的機関へ無償提供し、一部は『バンク』にも使用されている」

表示をスクロールさせているのか、画面を指で撫でながら『読み上げた』。
彼女の得意分野を示す、その経歴の中でも特に自慢できる点を。

初春「あはは……まあ……そんなことも」
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:32:00.71 ID:oGtMbEbto

芳川「その歳でここまでの水準なんて、この街の子供達は本当にどうしちゃってるの」

芳川「でもおかしいわね。ここまでできるのに、専門の開発系に従事したことないなんて。どこかから声かからなかった?」

初春「いえ……特には……」

芳川「ああ……なるほど。結構やることやってたのね」

とそこで芳川は、更にスクロールしたところで再び納得の表情を浮べて。

初春「?」

芳川「ジャッジメント設備を私的目的で無断使用、権限外のアクセス行為、」

芳川「公的サーバーの破壊行為、機密領域への侵入多数、高セキュリティ指定の情報を無断取得etc……」

今度は『負の点』を読み上げた。

初春「―――!!」

これには初春も、その温まりかけていた体から再び血の気が引いてしまった。
そんなことまであの端末には表示されているのか、いや、
そもそもまさか『あれら』の行いがバレていたとは思っていなかったのだ。


芳川「超電磁砲とも近い関係を有しているため、監視レベルは7指定、だって。貴女そこらのテロリストよりも厳しい監視されてるわよ」


初春「わわっ……!!ち、ちが、いえ、違いませんが……!!でもちちちがッ!!テロリストなんかじゃ!!」
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:33:35.32 ID:oGtMbEbto

芳川「まあ、ここまでやっても監視維持に留まってるから、反社会的思想は無いみたい?」

初春「も、もちろんですよ!!あるわけ無いじゃないですかッ!!私は正義を貫くジャッジメントですよッ!!」

芳川「言うわね。起訴されたら問答無用で少年院行きなことやってる口で」

初春「うっ……!!」

芳川「……ま、こうして今、悪魔を知ってここにいる時点でこんな意地悪言うのも野暮ね」

芳川「ところで何で、あんなところにいたの?厳戒令布かれてる中で封鎖区に入ってまで」

芳川「問答無用で殺されててもおかしくないのよ?わかってる?」

初春「………………それは…………」

芳川「確かに学園都市は闇を抱えてるけど、それだけじゃない」

芳川「上も今は一枚岩じゃなくて、この厳戒令だって本当に市民を守るために発令されたものよ」

芳川「それに率先して従い、安全を保つべきジャッジメントがここまで勝手な行動するなんて」


初春「わかっています!!でも……!!」


さすがに悪魔に遭遇するとは思ってもいなかったが、でもわかってる。
自身の行動が命令違反で決して許されないのも、
戦時下での厳戒令の意味、それを無視することがどれだけ危険かということも。

しかしそれでも―――それでも黙ってなどいられなかった。

行方がわからない大切な友達を―――。

初春「―――」

と、その時。
初春は、その尋ね人の消息を知るに役立つ、
あるものが目の前にあることに気付いた。


初春「それで―――探してほしい人が!!」
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:34:52.35 ID:oGtMbEbto

一気に飲み干したカップを、叩くようにして机に置いた初春は、
芳川の手にある端末を指差して声を張り上げた。

初春「佐天涙子という人を!!私と同じ中学校の!!」

芳川「―――え、は、えっと……サテンルイコ、ね」

突然の初春の声にたじろぎながらも、
勢いに押される形でその名を入力していく芳川。

とその時。


―――ぴこん、とアホ毛を揺らして。


打ち止め「―――そのひと、知ってるよ、ってミサカはミサカは伝えてあげる」


幼い少女が恐らく初めて。
少なくとも、初春にとってはこの場で初めてとなる声を発したのだ。


初春「――――――ほ、本当?!」


打ち止め「デュマーリ島にいたよ。今はアメリカからこっちに―――…………」


だが、彼女が久しぶりにその声を聞いたのも束の間。

初春「―――…………?」

ぴたりとその声が途切れてしまった。
ゆらゆら揺れていたアホ毛も同じくして止まる。

そしてそれはほぼ同時だった。

直後。

壁際とカウンターにいた、御坂と瓜二つの少女が―――突然倒れたのと。


打ち止め「――――――…………あ……jhwえ―――」


再び幼い少女が―――。

妙な―――ノイズ、と言えるか、とても幼い少女の喉から発されるようなものではない、
異質な『音』を漏らしたのは。
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:36:02.28 ID:oGtMbEbto

初春「―――っ?!!」

何が起きたのだろうか。
そう思考がこの状況を解き明かそうとする前に、体が動いてしまうのは職業病と言えるか。

音に振り返り倒れた彼女達を一目見るや、
初春は肩にかけていた毛布を払いのけて、まずは壁際の一人の方へと駆け寄り。

そして呼びかけと状態確認をしようとした―――その時。


芳川「―――触るな!!」


初春「―――え?!なっ?!」

突然の、あの芳川の風貌からとは思えない程に鋭い制止の声。
その声に従い初春はその場で留まったものの、目の前には倒れている人がいるのだ。
相応の理由が無ければ、制止し続けていることなどできない。

芳川「―――いいから離れて!!」

だがその理由は、聞くまでもなくすぐにわかることだった。

初春「―――!」

―――ばちり、と不気味に鳴り響く電空音。

良く見ると、倒れている御坂と瓜二つの彼女の全身、
そのあちこちからスパークが散っていたのだ。
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:38:00.36 ID:oGtMbEbto

初春「(そうだ―――電撃使いなんだ―――!!)」

御坂美琴のクローンならば当然の事だ。
床に倒れている彼女、そしてカウンターに突っ伏している方も、
どう見ても触れるのは危険なレベルのスパークを発していた。

能力の暴走、のようなものなのだろうか。

とにかくこれではどうしようもない。
まずは芳川に事情を聞くべきであろう、と初春が振り向くと。

芳川はちょうど、ソファーにうずくまっていた『小さな御坂』から毛布を剥ぎ取ったところだった。
そうしてここでやっと目にする、ワンピースを纏った幼い少女の全身。

初春「!」

一見すると『小さい御坂』―――アホ毛ちゃんは、どうやら体に帯電はしていないよう。
しかし呼吸は不規則で、額には汗が噴出していて。
頬も真っ赤に火照っており明らかに容態は悪いものであった。


芳川「―――ラストオーダー、聞える?聞えたら瞬きして」


片手を少女の頬に当てては呼びかけて、
そしてもう片方の手に持っている端末に目を通す芳川。

こんな時まで画面を見るとは、あそこに一体何が表示されているのだろうか。
それを初春が知る術は無かったが、それでも画面を見つめる芳川の表情を見ていると、これだけはわかる。

きっとあそこに映っているのは―――どうしようもなく良からぬ事だったのだろう、と。


みるみる顔が青ざめ―――端末を持つ手が震え始める芳川を見ていると。
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:39:29.07 ID:oGtMbEbto

すると、その身を縛る不安を振り払うためか、
芳川は一度鋭く息を吐いて。

芳川「―――…………手伝って!!この子を運ぶから!!」

小さな御坂を抱き上げてそう声を放った。

初春「―――か、彼女達は?!」


芳川「あの子達はあとでいい!!まずはこの子をどうにかしないと!!―――――――――皆死ぬ!!」


初春「―――!!わ、わかりました!!」

芳川「ドア開けて!!」

初春「はい!!すぐに―――……」

そうして初春は、まずは声に従いドアに駆け寄―――ろうとした瞬間だった。

初春「―――」


『音』が聞えた。


耳鳴り、地響きか、いや、違う。

それはそれは形容し難い、比喩にしてもぴたりと当て嵌まる言葉が見つからない―――『初めて聞く音』だった。

不快ながらも、なぜか沸々と気分は昂揚し。
耳障りであるにもかかわらず、ずっと聞いていたいとも思える、そんな音。

耳に手を当てても、塞いでもまるで変わらない、発信源がわからない不思議な響き―――。
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:40:52.24 ID:oGtMbEbto

芳川「ねえ!!ボサッとしてないで!!」

芳川には聞えていないのだろうか、
彼女は動きをとめてしまっている初春に対して、思わず憤りを抱いてしまったよう。
ただ、初春がこの『音』について説明する必要は無かった。

その直後だ。


『音の源』である少年が、突然―――いや、いつの間にか―――芳川の前に立っていたのだから。


芳川「―――」

初春「あ―――っ」

その拍子に、打ち止めを抱いたまま尻餅をついてしまう芳川。
そんな彼女の前に現れた少年は、実は良く見知っていた者であり、
初春にとっても先ほども会ったばかりの恩人だった。

しかし。

彼女が『彼』の正体、先ほど自身を救ってくれた少年と同一人物だった、
という点に気付くには、少しの時間を要することとなった。

なぜなら、彼を良く知っている当の芳川ですら。


芳川「―――アクセラレータ………………なの……?」


そんな風に問うてしまうくらいに、その姿は―――。


―――
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:41:57.26 ID:oGtMbEbto

―――

一方通行はそこに立っていた。

大きく変質してしまったその体で。

背中からは黒曜石のような翼が幾本も伸び、手足は蠢く闇に覆われ。
黒い葉脈のような筋が刻まれているその顔は、石灰岩の彫刻の如く蒼白で。


そして『黒髪』と―――仄かにオレンジ色に光る瞳。


彼は芳川の問いかけには答えぬまま、その異質な目で唖然としている彼女の腕の中、
苦しそうに喘いでいる打ち止めを見下ろしていた。

一方『…………』

瞬き一つせず、ただジッと。

芳川に打ち止めの状態を聞く必要など、今の彼には無かった。

なにせ手に取るようにわかるのだから。
存在を認識できるようになってから更に進み、今や―――AIMに含まれている『意味』を読み取れる。

AIMを補足して、そこに知りたいと欲すると『理解できる』のだ。
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:42:41.62 ID:oGtMbEbto

一方『…………』

打ち止めと妹達に、この自身の『稼動』がどれだけの負荷をかけているのか。
稼動方法は、その構造は、といった様々なことが意識内に飛び込んでくる。

そしてそれらは全て―――『最悪』を示していた。

今回は、打ち止めや妹達側からどうにかできるものではなかった。

一方通行はもちろん、更に専門である芳川もプログラムを再三チェックした通り、
打ち止め側に原因、もしくはこの稼動状態のONOFFに干渉できる因子は無い。

以前、天井の手から打ち止めを救った時のような手法は不可能。
ここにもし0930事件のようにインデックスがいてくれたとしても無理だ。

稼動状態を維持している『核』はネットワークの外部に存在しているのだ。

では『核』とは、それは明白だ。


全ては―――アレイスターだ。


一刻も早くあの男を止めるのだ。

そう、一秒すら無駄にしないで―――いますぐ行くべきなのに。



一方通行は動けなかった。


その時。
気を失っていたはずの少女の目が開き、虚ろながらもしっかりと―――彼の方へと視線を向けて。
弱弱しくもはっきりと、こう口にしたから。


打ち止め「……いかないで…………」
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:44:14.32 ID:oGtMbEbto

芳川「…………!!ラストオーダーッ!!」


一方『―――』

『また』だった。
数日前、病院で、決別したときと同じく―――心が揺らいでしまったのは。

この幼い少女の声はまるでセイレーンの歌だ。
揺さぶられるその感情の振り幅は、一瞬―――この身を満たしている怒りを超えかけそうになるほど。

更に今や、五感だけではなくAIMからも感情を読み取ってしまうため、
それまでとは比べ物にならないくらいに強烈に。


打ち止め「……ねえ……いかないで…………って…………」


何度もそう呟いて、細く小さな手を伸ばす少女。

一方『……』

差し出されたその震える手を、思わず取ってしまいたくなる。
火照った頬を伝う涙が、まるで蜜のようにこちらを引き寄せようとする。

一方『……』

奥底に厳重に閉じ込めた『愚かな分身』から、許されない声が響く。

この小さな少女の望みを、叶えさせてやりたい。
彼女が望むのなら、その言葉に従いたい、と。


そして―――また―――『ありもしない幻想』を描いてしまう。

己が打ち止めと共に生きていく未来を。
己が、彼女と共に『普通』の生活をしている未来を。


彼女の成長を―――傍で見守っていく未来を。
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:45:31.61 ID:oGtMbEbto

なぜそんな事を思ってしまうのだ。

ここで手を取ってしまえば、そんな未来なんか訪れる訳が無いのに。

そもそもこれは結論を出し、決着が着いた問題ではないのか。
何度も何度も、何重にも何重にも覚悟して決意したことではないのか。


それでなぜ―――こんな事を考えている場合ではないのに―――なぜこの期に及んでまで意識する?


なぜ思考に除けられずに、ここまで意識してしまうのだ?


一方『―――……ッ』


わからない。


原因がわからない。
この問題の本質がわからない―――『答え』がわからない。

本当はどうしたいんだ。
何を感じ、何を思っているのだ。

『俺は本当は―――何をするべきなンだ』

それは―――打ち止めを守るためだ
即ちアレイスターの手の上から彼女を解き放つということ。

『俺は結局―――何をしたいンだ?』

打ち止めの本当の自由が保障されたのち、死んで全てに決着をつける、ということ。


『それが「本当」ならば―――他に方法はあったはず』


そうだ、例えば。

上条が悪魔の力を覚醒させた段階にでも打ち止めを託して、自害するという選択肢などがあったのでは?
己自身よりもあの男の方がずっと信頼できるし、何もかもが丸く収まるではないか。
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:49:24.14 ID:oGtMbEbto
とにかく方法はいくらでもあったはずだ。
こんなどうしようもない状況は、簡単に避けられたはずなのだ。

一方『―――』

思考が冷酷にかつ合理的に導き出すそんな指摘。
それらへの反論が出てこない。

なぜそうしなかったのか、その『答え』がわからない。

そもそも、己の手でいつまでも打ち止めを守ろうとした理由は?

妹達を殺した責任?償い?

上条の側に託していた方が、どう考えても安泰ではないか。
彼には強い仲間が大勢いるし、何よりもあの男自身が『鉄の存在』だ。

打ち止めの事が第一ならなぜそうしない?
『責任』、『償い』という鎖を利用して、『なぜ』打ち止めを手元に置いた―――。


打ち止め「…………おねがい……だから……って……」


一方『―――』

彼女のか細い声が、
まるでハンマーに側頭部を叩かれたかのように響き渡り。

少年のアイデンティティの基盤を砕いていく。


『なぜ』なんだ。


『答え』はどこなんだ。


『俺』の『答え』は何なんだ。


打ち止め「…………ミサカは……ミサカはあなたを―――」



その先の言葉はもう、彼は聞けなかった。
AIMから流れ込んでくる意識はこれ以上―――覗くことはできなかった。

耐えられなかったのだ。


彼はそこから逃げるように、一気に空間を『飛んでいった』。
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:51:45.51 ID:oGtMbEbto

意識するだけで、『奇妙な文様』で形成されたオレンジの『光の輪』、
―――魔方陣と言えるかそんなものが出現し、そして『飛べる』。

しかしどうも、あの窓の無いビルの中にだけは行けないようだ。
次の瞬間に彼が目にしたのは、目の前に聳えるあの黒い―――墓標のような建造物。

ただ、中に直接いけなくとも特に困ることなど無い。


それならば―――力ずくでぶち破るだけだ。


ちなみにこの窓の無いビル、自治は0930事件の際に彼が破壊を試みるも、
傷一つつけられずという結果に終った過去がある。

しかし今この時、一方通行の意識内にはそんな過去の出来事など全く浮かんでいなかった。
記憶を参照する程度のことすら、まともに機能していなかったのだ。


少年の意識は、たった今の出来事、それだけでもうボロボロだった。
あれがトリガーとなり、何もかもがぐちゃぐちゃの滅茶苦茶になってしまった。

何も知りたくない、何も気付きたくない、何も考えたくない、と。


今まで巧妙に仕込まれて植えつけられてきた『ストレス』が、『器』の中身を『更地』にするべくついに最後の大爆発を起こす。

その衝撃は容易に―――『彼』を砕くほど。

『答え』を見つけられない『彼』は成すすべなく―――崩壊するしかない。


『一方通行』という人格はここに―――『割れ始めた』。

139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:53:12.20 ID:oGtMbEbto

砕かれつつある彼の意識の断片も、それにはもう抗おうとはしていなかった。

どうせ今終る、どうせここで終るのだ、と。
己を保つことなんか、もう意味無い。
自己分析して自己同一性を確立する必要なんて、もう無い。


幸いにも、『今どうしたらいいのか』だけはわかっているのだ。
それだけは唯一、確かにこの意識の中に形を保っている。

壊れてしまう前に、ぶっ壊すだけ。
食われてしまう前に、食ってしまうだけ。


この魂が消え去ってしまう前に―――殺す。


そう。



『――――――アレイィ゛ィ゛スタァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛―――!!!!』



―――アレイスターのもとに向かう、それ『だけ』は。



壁の前に屹立する少年。

闇同士が摩擦を起こしているのか、
黒曜石に似た表面が揺れ乱れるたびに、耳障りな音と共に『オレンジの火の粉』が飛び散っていく。

そんな闇を纏う右拳を、少年は大きく引き。
無造作に、ただ乱暴に目の前の壁に叩きつけた。


『―――ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!』


すると―――以前の試みが嘘のように―――抵抗無く沈む拳。

そしてこれまた雑に彼が手を引き抜くと。
闇に『引っかかった』何重にも重ねられた分厚い特殊鋼版が、さながら紙細工の如く引き剥がされて行く。
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:54:33.24 ID:oGtMbEbto

入り口を作るには、その一度で充分であった。
彼の身長ほどもの厚さがあった壁は、そのたった一度でぶち抜かれ―――そしてトラックでも通れそうな大穴が穿たれたのだ。

そうして彼は亡霊のようにゆらりと、闇を引きながらその中に入っていく。
『目的物』は探すまでも無かった。


アレイスター『―――ようこそ。ふむ、良い「仕上がり」だ』


穿たれた穴の真正面に立っていたのだから。


『―――……アレイスター。アレイスター……アレイスター=クロウリー……』


一歩一歩、進みながら彼は繰り返す。
これまた怨霊のように、『純粋な怒り』のみで形成された声で。
何度も何度も目的物の名を。

最早彼の中では、形を保っているのはそれだけ。
目的物の後ろ、宙に磔にされている少年の顔を識別するどころか、その存在すら把握できず。

そして少年が何度も叫び繰り返している―――。


「ダメだ!!来るな!!こっちに来ちゃだめだ!!『――――』!!」


―――『誰か』の名前すら。




「―――おい!!『――――』!!『――――』!!止まれええええ!!」




もう認識できなかった。


―――
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/10/24(月) 01:55:06.55 ID:oGtMbEbto
今日はここまでです。
次は水曜に。
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/24(月) 01:55:53.63 ID:hBuOwR7fo
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/24(月) 01:56:49.51 ID:yoPDtzmDO
一方さんが強さ的にも精神的にもヤバい
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/10/24(月) 01:57:12.19 ID:5DpMV74o0
またいいところでっ
本当に上手いなぁ
水曜が待ち遠しいよ
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/24(月) 06:51:21.35 ID:y/Yrmo8xo
お疲れ様でした。
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県) [sage]:2011/10/24(月) 18:52:36.96 ID:AeqUWyer0

相変わらず面白いな
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/10/24(月) 22:40:22.40 ID:qYZUgCDGo
乙です。時に一方さんはハデスをトレスしたようですが、本家のハデスの格も同程度なのでしょうか?
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/25(火) 11:50:14.09 ID:hjYaSb9DO
これだけ強固なビルにちょっとお隣さんお邪魔しますよ感覚で何度も入ってるダンテって…
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/25(火) 14:36:47.52 ID:e02xgLYDO
>>148
リベリオン「お豆腐並みに柔らかい壁ですね」ニコッ
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/10/26(水) 01:51:04.76 ID:SfkefR7uo
>>147
一方通行は、セフィロトの樹を掌握しつつ四元徳にも対抗できるようにと生み出されたハイパー特別製ですので、
本家のハデスよりもずっと強大だと考えております。

ちなみに垣根は成長が早かった分、
このアレイスターの求めるスケールに達しないと判定されてサブに回されてしまった、と。
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/26(水) 01:54:42.89 ID:SfkefR7uo

―――

ニュージャージー州、マクガイル空軍基地。

エプロンにひしめく多数の輸送機、大きな背嚢を背負った、出撃態勢ととのった兵士達の長い長い列、
それらの隙間をひっきりなしに往来するトラックや作業車。

恐らく全米中の基地が今はこんな状況であろう、この基地もその例にもれず騒然としていた。
いや、それどころか特に慌しくなっている方か。

東海岸の主要な輸送拠点の一つであり、欧州へ向けての便も多数飛び立っているからだ。

そうして格納庫もまた、
一時的な物資の集積場やミーティング場、兵の待機所や作戦指揮所として使われており。
今その一つに、百人近くの少年少女達が陣取っていた。

学園都市からやってきた、世界初の能力者によって編成された『組織的戦闘力を有する部隊』が。


土御門「…………どういうことだ?」

その一画にて、土御門は怪訝な表情を浮べていた。
米軍の携帯食を流し込むように口にしながら。

今ここでは誰も行儀など気にしていない。
米軍が厚木行きの超音速輸送機を一機手配してくれるとのことで、
それを待つ間、みな急いで態勢を整えている最中だ。


土御門「その『音』は、俺以外は皆聞こえているのか?」


土御門は更に大きく一口、パウンドケーキをほお張りながら、
近くにいる二人へと問い放った。
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/26(水) 01:57:08.74 ID:SfkefR7uo

結標「そうみたい。能力レベル関係無しに」

御坂「うん。浜面くんと佐天さんもだってね」

通信機を弄りりながら答える結標、続き、
弾薬箱から大量の弾をバッグへと詰め替えながらの御坂。

作業の傍ら彼らが話しているその内容。
それはつい先ほど、この空港に向かっている間に起きたことだ。

突然ミサカネットワークが応答しなくなり、結標と滝壺がその演算支援を受けられなくなり。
その直後、土御門を除くこの部隊のメンバー全員に『異様な音』が聞え始めたのだ。

土御門「……」

ネットワークの接続が切れた原因として考えられるのは一方通行だ。
御坂曰くフィアンマが現れた時も同じ状態になったという事から、彼の身に何かが起きたのだろう。

『音』については、聞える条件は諸々の話を聞いてすぐにわかった。
能力開発を受けた者、つまり強弱関係なくAIMを有している者だ。

それでレベル0の浜面からレベル5の御坂まで皆聞えているが、
AIMを捨てた自身や周りの米兵達が聞えていないのも筋が通る。

ただ。

あまりにも材料が少なすぎて、
いくら考えてもこの音については結局、今はその正体を推測することすらできなかった。
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/26(水) 01:59:03.38 ID:SfkefR7uo

今現在、学園都市で何が起きているのか、それを知ることは非常に困難になっていた。

土御門「どうだ?」

首を横に振る、通信機を手にしている結標。

ネットワークがこんな状態になったと同時に、
事態を把握しているであろうアレイスター側とは全く交信できなくなってしまったのだ。

親船が中心となっている暫定理事会には繋がるがやはり時間の無駄、
彼らは何が起きているか全くわかっていなかった。

そうなるとやはり、できるだけ早く学園都市に戻りこの目で状況を把握するしかない。

土御門はそんなもどかしい気持ちを何とか押さえて。
相変わらず片手のパウンドケーキを口に持って行きながら、もう片手で手際よく装備を整えていった。

とそうしていたところ。

申し訳無さそうに少し身を屈めて、
彼らのところに佐天がやってきた。
彼女は御坂と結標に小さく会釈したのち、土御門に向けて。

佐天「あのう、今いいですか?」

土御門「何だ?」


佐天「できれば私も……ここの皆と一緒に学園都市に行かせてもらえませんか?」
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/26(水) 02:00:57.48 ID:SfkefR7uo

学園都市への第一便、つまり今待っている超音速輸送機には、
部隊の全員が搭乗するわけではなかった。

今も医療施設にて集中的な治療を受けている者、作戦能力を喪失した者や非戦闘員は、
少し遅れて通常の輸送機で運ぶ手はずになっている。

もちろんこの佐天もだ。

御坂「佐天さん……気持ちはわかるけどやっぱり……」

結標「第23学区に着陸できるとも限らず、場合によっては高高度から降下するかもしれないわけで、」

結標「『学習装置』も受けて無ければ能力も無いってなると、ねえ。とにかくある程度自分の身を何とかできる力が無いとどうにも」

と、結標はそんな全うな意見を述べたところで。

結標「……って、私は考えてるけど……」

自信が欠落していくかのようにみるみる声を小さくしながら、じろりと目を横に移した。
もぐもぐと口を動かしながら、不敵な笑みを浮べている『指揮官』へ。

そして彼女が肌で感じていたことは的中した。


土御門「構わない。わかった」


土御門はあっさりと承諾したのだ。

土御門「だが。こっちもできる限り手を貸すが、忘れるな。向こうで何があっても、ここで決断したお前の自己責任だ」

佐天「は、はい!!」

土御門「じゃあ準備を済ませておけ」

佐天「わかりました!!」
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/26(水) 02:03:07.71 ID:SfkefR7uo

そうして。
佐天は大きく礼をして、急いでその場から走り去っていった。

御坂「―――ちょっと!!何で?!」

当然、御坂は土御門に詰め寄った。
佐天の身を案じるからこその食いつきだ。


土御門「連れて行っても損は無いと思うぜい。きっと運がノってくる」


対して土御門は、パウンドケーキの最後の一欠けらを口に放って、
大したことでもないという調子でそう返した。

御坂「運?!何よそれ!!そんな適当な理由で私の友達を―――」


土御門「適当なんかじゃない。実績があるだろ。彼女がいなければ、彼女の働きが無ければ、キリエ嬢は助からなかったんだ」


土御門「わかるか?彼女もこの『流れ』の中にいるんだ。もう無関係とは言えない」

土御門「第一便に乗れない他の者達とはわけが違う。彼女は俺たちも『中心よりの役者』かもしれないんだ」

御坂「で、でも……」

土御門「少なくとも俺はその可能性を感じたから承諾した。お前が反対しようとも、俺は俺の権限で許可する」

御坂「………………う、…………」

納得しきれることではないが、そこまで言われてしまうともうぐうの音も出ない。
どうやっても土御門の判断を覆させることが出来ないと、ここで御坂はわかってしまった。
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/26(水) 02:04:02.31 ID:SfkefR7uo

それならば、と。

御坂「じゃあ佐天さんには私が付―――」

土御門「ダメだ。お前は本物のレベル5だ。世話係りに使っていいようなコマじゃない」

御坂「…………は、はい」

と、そう口を開いたのも束の間、
言い切る前に土御門にこれまた正論で却下されてしまった。

土御門「心配するな。結標にやらせる」

結標「私が?冗談でしょ?」

土御門「いいや本当だ。演算支援復旧の目処がつくまでは彼女の護衛だ。頼んだぞ」

結標「……ま、命令なら仕方ないわね。了解」


と、その時であった。
通信魔術の起動を知らせる、きん、と甲高い音が土御門の脳内に響き。


オッレルス『―――土御門!!』


かなり張り詰めたオッレルスの声が聞えてきた。
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/26(水) 02:05:33.23 ID:SfkefR7uo

アックアはキリエをフォルトゥナに送り届けるために飛び去り、
シルビアは先ほどこの基地からイギリス行きの便に、
そしてオッレルスは、あのまま一人デュマーリ島に残り『核』の解析を行っているのだ。

そうして作業していたら何かがあったのだろうか、オッレルスは酷く慌てていた。

土御門『―――どうした?』

オッレルス『大変だ!!とんでもないことが―――!!』

土御門『落ち着け。落ち着いて話すんだ』

オッレルス『たった今だ!!ああ……くそ!!すまん!!順を追って話す!!』

オッレルス『さっきこの「核」の中におかしな部分を見つけたんだ!!』


オッレルス『―――アリウスが死んでから起動するよう記述されてた術式だ!!』


土御門『―――なに?』


ぞくっ、と。
これも慈母が残してくれた力の一端か、思考でその言葉を理解する前に、
鋭い嗅覚が強烈な『不穏』の香りを捉えたのだ。

アリウスが死んでから、ということはあの男の『置き土産』なのだろうか。
だがこの悪寒はその程度のものではない、と仄めかしていた。
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/26(水) 02:07:22.11 ID:SfkefR7uo

オッレルス『当然だがもう起動されている!!』

オッレルス『それでやっと俺も見つけられて把握できたんだが、おかしいんだよこれが!!』

オッレルス『アリウスが布いた全ての暗号化を解いた後でもまだ暗号化状態だった!!』

土御門「どういうことだ?」

オッレルス『これを組み込んだのはアリウスじゃない―――第三者だ!!』

オッレルス『「誰か」がアリウスに気付かれないように仕込んでたんだよ!!』


土御門『その術式の作用は?』


オッレルス『それはわからない……内部構造がまだ解読できない。アリウスのものとは全く違う未知の書式なんだ……!!』

土御門『……』

作用はわからない。
となると、問題は他にもあるということだ。
確かにこれだけでも驚きの情報だが、それだけだとオッレルスをここまで動転させるには弱すぎる。

何せアリウスの中に真っ向から飛び込んだ、鉄の精神力を持つ男なのだから。

そしてその通り。


オッレルス『だが―――更に重要なことが判明した!!』


これは序章だった。
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/26(水) 02:08:08.26 ID:SfkefR7uo

土御門『何だ?』

オッレルス『これが本題だ!!』

オッレルス『こいつが起動して少しした後。たった今のことだ!!』


オッレルス『俺が解析してる真っ最中に、この術式に「外部」から接続があったんだよ!!』


土御門『ということは逆探知を?』

オッレルス『向こうの位置は全く探れなかったが―――「身元」は!!』


オッレルス『魔界言語で作られた「紋」が出てきたよ……!!』

土御門『つまりは悪魔か。誰だ?』

オッレルス『とても信じられないが…………この核がこう判定したんだ―――』


そうして、オッレルスの声に乗せられてきた名は。


土御門『―――…………ウソだ―――有り得ない―――』


この土御門ですら、思考が一瞬で真っ白にまってしまうほどのものだった。
そう、こんな名が出てくることなんて有り得ないのだ。


オッレルスが口にした『存在』は既に―――『滅んでいるはず』なのだから。
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/26(水) 02:11:09.06 ID:SfkefR7uo

土御門『冗談が過ぎるぞオッレルス!!見間違いだ!!もう一度確認しろ!!』

信じられるわけが無い。
誰が何と言ってもこれは覆りようが無い事実なのだ。

オッレルス『この印の意味は何度も確認した!!間違いない!!』

土御門『だったらアリウスの構文自体がおかしい!!単語の割り当てが間違ってるに違いない!!』

有り得ない、絶対に有り得ないはず。

オッレルス『―――ならば―――君の慈母の目で確認しろ――――――!!』

だが。

土御門『―――』

次の瞬間、オッレルスから送られてきた問題の『紋』が意識の中に浮かび上がり。
慈母の目は確かに読み上げた。


『ムンドゥス』


『アルゴサクス』


そして。



『スパーダ』



と。

土御門『―――…………ウソだろ…………おい…………』

しかも、一体いかなる意味を表しているのだろうか。
それら三つの名は―――。

重なり―――『融合』し。

『一つ』になって、そこに新たな意味を明示していた。



『全』、と。



―――
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/10/26(水) 02:12:23.30 ID:SfkefR7uo
短いですが今日はここまでです。
次は木曜の夜に。
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/10/26(水) 02:15:54.39 ID:3thY0y+1o
緊張してきた
全裸で正座して待つ
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/26(水) 06:46:23.82 ID:/ItTypIuo
お疲れ様でした
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/10/26(水) 11:48:28.34 ID:42/39kR3o
乙です。これからジェットコースターの直滑降か・・・
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県) :2011/10/26(水) 21:04:24.95 ID:815rZZlm0
wwktk
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/26(水) 22:21:32.46 ID:yHnmTEoV0
創造主に勝てるパーティが合体かよ・・・
これは右手の人と無関係なのかどうなのか
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/27(木) 10:13:41.97 ID:OwAP1tTQ0

やばいなおい
とりあえずバイタルスター買ってくるわ
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/27(木) 11:33:48.49 ID:kJMMAwoIO
チェーンソー買ってくる
169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/10/27(木) 20:21:19.86 ID:/0/0Z7f2o
ちと今日の投下前に2つほど質問が。いつもの北海道ですみません。
基本、他局的に現状を書かれてますが、最近の内容は時系列に違和感を感じます。構成の内でしたら申し訳ない。
最後に、学園都市編は現在何割ほど消化してますか?
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/10/27(木) 22:49:07.66 ID:I/28j2Hpo
>>169
本当にすみません。
その違和感の原因は確実に>>1が思いつきで削ったり入れ替えたり、変に間違って思い込んだり時々混乱してるせいです。

時系列はきっちり投下順ではなく「大体同時進行」という具合に、
その重なり方や前後関係は、一方通行昇華などの共通する出来事を指標にする感じでどうかお願い致します。

それと消化率ですが、これもまた削ったりしますので確実では有りませんが約八割ほどかなと。
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/27(木) 22:51:21.17 ID:I/28j2Hpo

―――

上条「―――ダメだ!!来るな!!こっちに来ちゃだめだ!!アクセラレータ!!」

上条は叫んだ。
宙に磔られているその体を少しでも前へ、一ミリでも近くへと乗り出して。

友は全く反応を示さなかった。
そのオレンジの瞳には上条など映ってはいない。
声も届いてなどいない。

上条「―――おい!!アクセラレータ!!」

それでも上条は腹の底から声を放つ。
届かないとわかっていながらも、そう、またこれもわかっていたのだ。

友の前にあるアレイスターへと続くたった10数mの道。
絶対にそこを進ませてはならない。

その終着点に待ち受けるのは―――とてつもない凶事なのだから、と。
このとてつもない男、アレイスター=クロウリーの罠が待ち受けいているのだから。

上条「アクセラレータァッ!!」


だが―――やはり無駄だった。

瞬き一つしない、その空虚な目は真っ直ぐとアレイスターに向き。
不気味な光沢の闇を纏わせながら歩みを進めてくるのだった。

徐々に、ゆっくりと。

上条「―――止まれええええッ!!」
172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/10/27(木) 22:51:36.79 ID:i8f1X/340
け、削らなくてもいいんだからね!

続きは早く読みたいけど終わって欲しくないというジレンマ・・・
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/27(木) 22:52:40.61 ID:I/28j2Hpo

アレイスター『さあ、来るんだ』

上条の声と相反しての誘い込む言葉。

それは平坦で単調で、上条のものよりもずっと小さな声なのに、一方通行は反応を示す。
ぴくり、と目の周りを痙攣させるように動かして、身に纏う闇を振るわせたのだ。

上条「ダメだ!!聞くな!!」

アレイスター『今の君なら、私など軽く捻り潰せるぞ』


アレイスター『今の君の力の前には、私など虫けらに等しい』



アレイスター『君は人間界の新しい「王」だ。さあ、私に裁きを下してしまえ』



上条「耳を貸すな!!全て戯言だ―――!!」


と、そこで上条が放った『戯言』という言葉、
その表現が引っかかったのか、アレイスターはふと彼の方へと振り向き。

アレイスター『全て、ではないぞ。むしろ今は、私は真実しか口にしていない』

上条「―――っ?!黙れ!!」

今更どの口でそんなことを言うのか。
上条は一際憤りを覚えたが、アレイスターは全く気にする様子も無く。


アレイスター『では、彼の力を試してみるか―――?』
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/27(木) 22:55:10.52 ID:I/28j2Hpo

その瞬間だった。
突然アレイスターの前の空間に。

白い無地の装束を纏った、長身の女性『らしき何か』が出現した。

上条「―――」

いや、上条にとっては『何か』なんて表現を使わなくても良かったか。
彼は一目でその正体を把握したのだから。

アレイスター『私はエイワスと呼んでいる。説明はいらないだろう』


エイワス『私を構成する一部には、君と面識があった者も大勢いるからね』


その通り、説明はいらなかった。


上条「な……なんだよ……『コレ』は……!!」


アレイスターは一体いくつ隠し玉があるのだろうか。
これもまた己の知覚を疑う存在だった。

それは人界の神々の因子が無数に混ざり合う力の塊。
古き世界の記号が寄せ集められた残像。


それは―――『亡霊』。
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/27(木) 22:57:01.71 ID:I/28j2Hpo

上条「な……なっ……!!」

エイワス『ああ、彼はまだ「ミカエルだけ」のままか。竜王の因子は稼動させてないのだな』

アレイスター『焦るな。これからだ』

エイワス、そうアレイスターが称した存在は彼と一声交わしたのち、
5m先にまで歩んできていた一方通行と向き合った。

エイワス『ということは、先に彼を「味見」をさせてくれるのかな?』


アレイスター『ああ。試してみてくれ。もちろん―――最高出力で構わんよ』


と、そこでアレイスターが杖でこん、と床を叩いた瞬間。
エイワスの背後の空間から、煌く光の翼が出現した。

いや―――それは翼とするよりは『大樹の根』か。

無数に枝分かれた光の筋が瞬く間に周囲に広がり、空間に不規則な網目状の根を張っていく。
その光景は、肉に絡む毛細血管に似ているか。

上条「―――!!』

発されるとてつもない規模と濃度の力。
死した残骸からなる『ただの塊』とはいえ、それはそれは尋常ではない量だ。

アレイスター『これが、私の手にある最大の力だ』


アレイスター『見てろ。これを今から彼にぶつけてみせる』


そして小さな子供が自分の工作を自慢するかのように。
アレイスターはただ純粋な笑みを浮べて、上条へ向けて微笑んだ。

176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/27(木) 22:59:03.53 ID:I/28j2Hpo

本能はまだ残っていたのか、その戦気を悟ったのだろう、
一方通行はそこで足を止めた。

と、その直後だった。

空間に根を張っていた光が一斉に―――彼目掛けて伸びた。

上条「―――」

大悪魔の域に踏み込んでいる今の上条ですら、認識できないほどの勢いで。

そしてただただ乱暴に、小細工無しに真っ向から。
死しても尚、諸神諸王の域たる圧倒的な力が一方通行へ叩き込まれた。

しかし。

そんな力が放たれたにも関わらず、結果は随分と地味なものであった。
爆轟も衝撃も生じず、ただ一瞬の光の明滅だけ。

それだけだった。

上条「―――ッ……!!」

次の瞬間には。
周囲を満たしていた光の大樹は、幹と言える部分か、
エイワスの背に近い部分までしか残っていなかった。


対して一方通行は―――傷一つ無し。


闇の不気味な光沢には淀みなどどこにも無く、
姿勢は先と同じまま、何かの動作をとった形跡すら無い。

空間や界どころか、物質領域の床や周囲の大気にすら、
エイワスの力の爪痕は一つも残っていなかった。
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/27(木) 23:00:48.02 ID:I/28j2Hpo

アレイスター『さて、この証明で満足かな』

上条「…………」

満足もなにも、これは反証の余地など無いだろう。

一方通行は現生人類から人界の神へ、つまり『真の人』へと変じ、
原初の人類と同じくその魂に己自身の『力』を持つ存在となり。


エイワス『―――素晴らしい』


根こそぎもぎ取られた自身の翼を見て、呟くエイワスの言葉通り。

その領域は―――。


エイワス『これはもはや一柱の神の範囲ではない―――まさに「王」たるに相応しい』


―――人界の主たるものだった。


上条「……っ……」

そう、先ほどのアレイスターの言葉は嘘ではなかった。
今の君なら、私など軽く捻り潰せるぞ、
今の君の力の前には、私など虫けらに等しいよ、それは真実だ。

だがアレイスターがここで一方通行に倒される気が無いのも、もちろんのこと。

上条「―――」

それを踏まえると、アレイスターが一方通行を具体的にどうしようとしているのか、
そのやり方が自ずと浮かび上がってくるものだ。

――いや。

それはわざわざこうして確認するまでも無かった。
今更なことだ。
今までと同じやり方だったのだから。
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/27(木) 23:02:30.85 ID:I/28j2Hpo

何も今に始まったことではない。

力で勝負はしない。
腕ずくで屈服させるつもりはない。

直接的な手段は執らない。

アレイスターはあくまで環境の整備と誘導だけに留まり、自発的変動を促すだけ。
そのやり方はこの最終段階でも変わりは無かった。


今の一方通行相手に正攻法で挑むと、アレイスターの力など当然及びはしない。
最高出力のエイワスをぶつけてもこの通り、とても干渉できる差ではない。

しかしそこは言わずもがな、彼はそんなやり方などしない。

憎い、愛しい、破壊したい、手に入れたい、殺したい、守りたい。
特に強いこれらの衝動の『振り幅』を調整することで事足りるのだから。

それに今の一方通行でも、
存在が昇華しようとも思念は現生人類のまま、それも―――成長過程は全てアレイスターに管理されていたもの。

アレイスターにとって、
感情を揺さぶりその人格を容易に―――破壊させるのはお手の物なのだ。

そして、既にアレイスターの最後の一手は終っていた。
一方通行がここにこうしてやってきた時点で決していた。

あとは待つだけだ。
一方通行という人格が、極度のプレッシャーと自らへの疑心の果てに―――自壊し。

その器を明け渡すのを。
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/27(木) 23:03:41.32 ID:I/28j2Hpo

上条「―――」

このアレイスターのやり方は今までも繰り返されてきたこと。
先ほど嫌となるくらいの驚愕に苛まれたのだから、今更のことだ。

しかし。

確認するのが何度目であろうが―――許し難いのは変わらない。

そうして三度憤りを覚える彼の内面が『見えている』にもかかわらず、
アレイスターはむしろ逆撫でするかのように。

アレイスター『彼は君みたいに図太く鈍感ではない

アレイスター『誰よりも純粋で繊細なのだよ』


アレイスター『生真面目で、素直で、親の言いつけは絶対に守るような無垢で幼い子供だ』


火に注がれる油のごとき補足を付け加える。


アレイスター『だから非常に扱いやすい』


エイワス『ふふ、えげつない。えげつないよアレイスター=クロウリー』


そしてこれまた愉快そうな声を発するエイワス。
亡霊は小さく笑い声をあげて。

エイワス『ホルスでさえ、その「目」をそこまで使いこなしてはいなかったぞ』


エイワス『見ていて面白いよ。君は本当に飽きさせない男だな』
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/27(木) 23:06:54.01 ID:I/28j2Hpo

上条はそこで一声、いや、
何度でも怒号を吐きたくなったが何とか堪えて。

上条「アクセラレータ!!下がるんだ!!」

その代わりとばかりに、これでもかというくらいの声を友に放つ。
無駄だとわかっていても、それでも何度でも試みる。

きっと、きっと彼の理性があの中にまだ残っているのだから、と。

しかし。
やはり無常にも、彼は上条の声になどには全く反応せず。

アレイスター『―――さあ来るが良い』

静かなアレイスターの声に応じて、再び歩を進め始める。

上条「止まれ!!ダメだっつってんだろ!!来るなッ!!」


アレイスター『そうだ。何もかもをかなぐり捨てて、ただ怒りに身を委ねてしまえ』


そしてエイワスの横をすれ違い。

上条「考えろ!!こいつを殺したところで何も解決はしない!!」

4m、3m。

上条「なあ聞えてるんだろ!!」


2m、そして1m。


上条「―――来るなァァァァ!!」
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/27(木) 23:08:45.84 ID:I/28j2Hpo
上条の言葉、それは『知っている』からこそのだった。
ただ激情に身を委ねてしまったらどうなってしまうのかを。


上条「『あの時』はお前が俺を止めてくれただろ……!!なのに何で……お前がこんな…………」


そしてあの時、この上条当麻を止めてくれたのは他の誰でもない、この一方通行だ。
それなのになぜ、なぜこんな―――。


上条「逃げるな……!!目を逸らすなアクセラレータ!!」


今まで知る由の無かった、深淵の『自分』と向き合う行為、
それは確かにとてつもなく怖くて、恐ろしくて、そして想像を絶する自己嫌悪に苛まれて。

だがそれがどれだけのものだろうが、
絶対にそこから逃げてはいけないのだ。

こんな途上で今、進むことをやめてしまったら―――その手で守ろうとしていた存在はどうなるのだ?


上条「―――考えるのを止めるんじゃねえッッ!!向き合え!!」


ここまで来て全てを放り投げてしまうのか―――。

大切な存在を、何もかもを放棄するのか―――。


上条「俺ですら出来たんだ……お前が乗り越えられない訳が無いんだよ……強いお前が―――!!」

だが。

そんな想いも、届きはしなかった。
もう何もかもが遅かった。
182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/27(木) 23:10:44.31 ID:I/28j2Hpo

上条「―――アクセラレータ―――頼む……」

現実は一方通行が一つ一つ歩を進めるたびに。

また一つ、と。
一方通行と言う人格から、大きなパーツが割れ落ちていき。


アレイスター『さあ―――その手で、私の首を捻じ切るが良い』


ついにアレイスターの前、手を伸ばせば届く距離にまで来た『彼』は。
右手を大きく引いて、そして。


上条「よせ―――」


アレイスターの顔面目掛けて。


上条「―――やめろォォォォォォォォォォォオオオオオ!!」


黒き一撃を振り抜いた。


そうしてその右手は打ち砕くた。
一瞬にして貫き、跡形も無く粉砕してしまった。

アレイスターの頭部ではなく―――己の人格を。

振られた右手は、アレイスターの鼻先僅か数pのところで止まっていた。
彼はその拳と、凍ったように硬直している一方通行を見て。

動じる様子も無くただ一言、淡々と事務的に。



アレイスター『ふむ―――「削除」完了だ』



宣言した。
183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/27(木) 23:13:05.88 ID:I/28j2Hpo

上条「あ……あぁ…………あ……」

目の前で起きたことが信じられなかった。

何を考えればいいのか。
アクセラレータのこの結末は、どんな言葉で言い表せば良いのか。

何も浮かばない、真っ白だ。

上条「………………あ……」

今の上条を満たすは、驚愕や憤りとはまた違う感情。
果てしない喪失感と悲しみだ。

抜け殻になった友の体は、糸が切れた操り人形のようにがくりと膝を突き。
その場で、身に纏わりついてた闇が繭のように体を覆い隠した。

アレイスター『なに、彼は死んだ訳ではない。「ただ」、思念が抹消されたされただけだ』

「ただ」、と。
一方通行という人格が何を思い、何で苦しみ、何で悦び、何で笑ったか、それらを全て知っていながら。
アレイスターはまるで、それがただのデータでもあるかのように言う。

続けて同じように。

アレイスター『もちろん、君も死にはしない』

上条にも向けて。


上条「…………」

上条は一言も返さなかった。
虚ろな目で、ただアレイスターを見返すだけ。
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/27(木) 23:14:07.60 ID:I/28j2Hpo

そんな彼を物足りなそうに見上げてはアレイスター。

アレイスター『…………何か言いたい事は無いのか?」

上条「……………………今更なんて言って欲しいんだ?」


上条「…………『気に食わないが理には適っている』か?」


上条「…………それとも『お前には負けた』、か?」


対し上条は乾いた笑み混じりに口を開き。

上条「良いさ、俺の言葉が欲しければ言ってやるよ。どっちも確かに事実ではあるからな」

上条「だがこれも一緒に言わせて貰うぜ」


上条「てめえが抱くそのクソッタレな幻想は―――俺がぶち殺す」


宙に磔になっているその口で、そう宣言した。
成す術など無い、自分も一方通行と同じ結末を迎える、そう頭では理解していても。
それでも攻めの姿勢は崩そうとはしなかった。

それがミカエル、そして上条当麻の生き様。

愚かで馬鹿らしい戦士は、この期に及んでも頑固に、
その自身の有り方を曲げようとはしなかった。


上条「―――必ず…………必ずだこんチクショウがッッ!!!!」
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/27(木) 23:17:38.52 ID:I/28j2Hpo

それを聞いたアレイスター。
その美麗な女性の顔に、小さく可笑しそうな笑みを浮べて。

アレイスター『やはり君は予想通りの反応しかしないな』

アレイスター『ここまできても、不可能と可能の分別をつけないか』

上条「あたりめーだろうが!!」


上条「―――んなもん持ってたらココまで来てねえよ!!」


アレイスター『……確かにな。君がこうじゃなかったら、そもそも私もこんな事などしていなかった訳だ』

アレイスター『これから何が君に起こるか説明しておこう。これも尊敬する君への礼儀だ』

と、そこで「さて」と言って、声の調子を変えるアレイスター。

アレイスター『まず、君をエイワスと融合させ―――竜王の枷となっているミカエル、つまり君の思念を初期化する』

そして声を続けながら、彼が再び杖で床を叩くと。
エイワスから無数の光の筋が伸び、瞬く間に上条の体に巻きついていく。


アレイスター『そして―――竜王の顎を完全起動させてもらう』


そうしてついに準備が整ったところで。

アレイスター『ではこれで最期だが、何か遺す言葉はあるかな?』


上条「…………クソッタレが……!!」


アレイスター『直情的で面白みの欠片も無い言葉―――まあそれも君らしい』


あっけなく。


上条「―――はっ…………」


そしてゆっくりと。
上条の意識は、緩やかに沈んでいった。
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/27(木) 23:19:33.63 ID:I/28j2Hpo

その直後。
いや、時間感覚すら定かではない中ではそうも言い切れないが。

とにかく『彼』はまどろみの中、その思念を遥か時空の彼方へと運ばれていった。

まずは同じ人間界のデュマーリ島にある『核』。
予め『彼』が、協力者の目を欺き仕込んでいたそのルートを通過して。

その先の現実と虚構の境目。
有と無を跨ぐ、きわめて『あやふや』な領域へと向かう。

―――『収穫物』を確認するために。


「(―――何だよこれは―――)」

だが事情を知っているのは片方、『手を持っていた彼』だけ。
もう片方の『顎を持っていた彼』はまったく身に覚えが無い。


『やあ。上手くサルベージできて良かったよ』


「………………なるほどな。『コレ』を仕込んでいたのか」


「(―――?!何だ、誰と何の話をしてるんだ俺は?!)」

だがそんな『彼』になどお構い無しに、
もう『片方の彼』は『収穫物』を有する協力者と言葉をかわしていく。


「―――…………とすれば……今のお前は、『竜王』と呼ぶべきか?」


「(竜王―――って―――)」


『好きにしてくれ。「俺様」にとっては、名前に然したる意味なんてないからな』


「……ではこう呼ぶか?―――『ミカエル』」


『………………ふん。確かに、俺様にはそう呼べる「部分」もあるがな』
187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/27(木) 23:21:50.99 ID:I/28j2Hpo

「(―――!!)」

と、そこで『顎を持っていた方の彼』は気付いた。
この高慢な口調と一人称で悟ったのだ。

確かにこれは自分の声なのだが、今までのものではない、と。

『上条当麻』の声帯を元にしたものではない、これはあの男の―――。


そう認識した瞬間、魂に遺されていた古い記憶がまた解放されて。

「(なっ……こんなことが―――)」

「―――…………そうか…………それでは待たせたな。聞きたいことは全て聞いた」

『ああ、心配しなくても良い。お前の思念は残らんよ。綺麗さっぱり消滅する』

「それは嬉しいな」


『……ただ、俺様の内部に残す事も一応できるが。今後の事、興味あるか?』


「無い。さっさと終わらせろ」


「(――――――ウソだろ!!こんな―――!!)」

       ミ カ エ ル
彼、『上条当麻だった方』もようやくこの状況を把握した。

アレイスターの筋書きは最後の最後で破綻していたのだ。
竜王は顎だけではなく、その『行使の手』をも取り戻し―――いや、『逆』だ。


行使の手しか無かった竜王は、『ミカエルもろとも顎』を取り戻したのだ。


そして竜王が飲み込むのは、アレイスターが言う人間界なんかじゃなく。
更に竜王がその腹の中で構築するのは、新世界なんかでもない。


『そうか、では頂こう』


飲み込み、腹に揃うのは―――三神の力。



『破壊と具現、お前達は―――どんな味がする?』



そうして構築されるは――――――『全』。


―――
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/10/27(木) 23:22:22.13 ID:I/28j2Hpo
今日はここまでです。
次は日曜に。
189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/10/27(木) 23:26:16.29 ID:/0/0Z7f2o
乙です。ここでやっと学園都市編のプロローグにつながるのか・・・
>>170に関しては多少混乱したりはしましたが、むしろそういう面での考察は大好物なのでどんどん俺を踊らせてください。
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/27(木) 23:32:41.86 ID:xGWnAb0uo
お疲れ様でした
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/28(金) 00:07:44.01 ID:qHKyxckb0


恐怖公とはなんだったのか
192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/28(金) 00:10:13.27 ID:Dpr7gY7DO
『全』かぁ……つまりジュベレウスみたいなもんか
今更だけど上条さんの覚醒っていつもインデックスが絡んでるな
193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/28(金) 01:24:24.92 ID:+ChFv56SO
乙。相変わらず凄いなこの作者は。
今更だけど誰かアスタロトや完全覚醒一方さんのイラスト描いてくれる人いないかな?
194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/28(金) 01:24:51.38 ID:+ChFv56SO
乙。相変わらず凄いなこの作者は。
今更だけど誰かアスタロトや完全覚醒一方さんのイラスト描いてくれる人いないかな?
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県) :2011/10/28(金) 20:15:43.00 ID:P3NT1xis0
大事な事なのでry
196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/28(金) 20:35:21.47 ID:Dpr7gY7DO
確かに大事だな
だから誰か描いてくだ(ry
197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/10/29(土) 02:39:37.76 ID:oHTcI8Alo
書こうと思ったけど余白が足りなかった
と言うわけでだれか
198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/29(土) 13:13:17.52 ID:ww1ytpfDO
モッピー知ってるよ
『創世と終演』編の次はラストエピローグだけど、悪魔100体倒すか一定時間ヒロイン守りきったらオマケSSがつくことを知ってるよ
199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/30(日) 01:03:49.72 ID:7tWDu52DO
作者さん、少し質問なんだが、スパーダ一族の能力である『破壊』とは基本的にどういう能力なんだ?世界を消滅させるほどのパワーというわけではないだろうし(そんなこといったら他の奴らだって出来る。ムンドゥスとか)
200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/30(日) 02:19:19.86 ID:G2tWDFuno
いたってシンプルな戦闘力ってことで前に書いてたぞ。能力なしの戦闘力においては魔帝、覇王を圧倒するってな感じで
でも能力で殺しきれないから封印したと丁寧に説明までしてくれてたな
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/10/30(日) 05:47:58.01 ID:vVM0Nswco
>>199
>>200さんの通り、いたってシンプルなものです。
スパーダがここまで突き抜けて『完全無敗』の『総合的な史上最強』になった、
大まかに言えばそれが『破壊』です。

ただ決して、彼のパワーを全盛ジュベレウス並みと比喩しているものではなく、
実際に「ジュベレウス以外の存在全てにかかっていたリミッターを自分だけ外せる」、という機能が働いており、

それは○○も壊せる・○○も切れる、などの外界への具体的な効果ではなく、
内から無尽蔵の力を引き出し続けるというHPMPスタミナ無限化のような、
見た目地味ですが実にハイパーなチートです。

『最大出力が互角であるはず』の魔帝がただの一度もスパーダを殺せなかった一方、
スパーダは魔帝を数えきれないほど、封印が完了するまで延々と殺し続けた点などに、
この圧倒的な地力が現れています(もちろん彼の鍛え上げられた戦闘技術もその要因ですが)。

ただ、この『破壊』は【MISSION 07】スレ700の通り、
『スパーダの血』に『魔剣スパーダ』のセットでないと真価を発揮できません。

『破壊』が強く作用すれば作用するほど、無尽蔵の力と引き換えに伴うとんでもないリスクに、
スパーダでさえ追い詰められて最終的に魔剣という形で分化させてしまったためです。

もちろん魔剣スパーダ無しでもある程度効果はありますが(スパーダ自身がもう半分の『破壊』であるため)、
セット運用時には遠く及びません。

またダンテやバージル・ネロは、魔剣スパーダを手にしても『破壊』は100%には達しません。
スパーダの要素が魂を占める割合はダンテ達は半分、ネロは四分の一であり、
『破壊』もそれに準じる程度しか受け継いでいないためです。

202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/30(日) 08:21:05.03 ID:7tWDu52DO
>>200>>201
わかりやすく教えてくれてありがとう。ちょっと最初から読み直してくる
203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/30(日) 14:11:35.28 ID:o3RRHwako
ゲーム原作で言うところのスーパーダンテ見たいな物か、判りやすい説明感謝します
しかし伴うリスク…?界が力開放してないスパーダの存在にも耐えられないとか?
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/30(日) 19:30:32.96 ID:qgTXUBui0
『デュマーリ島』
アラストル麦のん→ねこきんぐvsつっちーwithアマ公と愉快な仲間たち→ネロvsアリウス→人造悪魔停止・謎システム作動→アリウス捕食シーン

ローラとインデックス→ダンテブラッディパレス&アスタロトマストダイ→上条拘束・一方覚醒→上条融合・・・?→アリウス捕食シーン
『学園都市』

とりあえず並べてみた
作者的に違っていたら、ごめん
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/10/30(日) 22:17:37.11 ID:yNjMGh/Q0
乙。

>>201
これ見ると、人間に味方したのがスパーダでよかったと思うわ。
人間界侵攻の際に仮に反逆したのが魔帝や覇王だったとして、何とかなったイメージが湧かない。
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/10/30(日) 23:11:34.09 ID:UEBMxPXfo
無尽蔵に引き出す・・・あぁ、維持との違いはそこか。維持は100を100のままにできるけど、90まで減って維持を起動したら100にゃできんものな。
変わって破壊は、100はおろか200でも千でも万でも引き出せる、と。同時に力の過負荷のリスクも跳ね上がるんだろうけど。あと
>スパーダの要素が魂を占める割合はダンテ達は半分、ネロは四分の一であり、
ダンテとバージルがポタラかフュージョンして真魔人になるのを妄想した。
207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/10/31(月) 01:58:43.91 ID:AUEPPTnso
破壊の力は半減してんのにそれでもダンテは親父超えたって言われてんのか
208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/31(月) 02:12:28.51 ID:oM/uczJVo
―――

神儀の間。

莫大な力を流し込まれて震えるこの聖域が奏でるは、
悲鳴とも賛歌とも表現できる、不安を掻き立てるもなぜか居心地が良く思えてしまう音。

神裂『……』

神裂はそんな『芸術的な不協和音』に耳を傾けながら、
このオーケストラの指揮者を身を堅くして見つめていた。

広場の中央にて、床に突き刺した閻魔刀の柄を握っているバージル。

一体どれだけの力を絶え間なく注ぎ込んでいるのだろうか。
まさにこの最強の男が己の生命力、文字通りその寿命を削っていく業。

バージルの表情は特に変わらぬも、こめかみには血管が浮き上がり、
その全身には『力み』がはっきりと滲んでいた。

そして空間を満たすは、鉛の海の底にいるかのごとき重圧。


そんな空気に不安にさせられたのか、思わずといった風に。

神裂『……』

手を握ってくるすぐ右隣のインデックス。
神裂はその細くて柔らかな手を包み込むように握り返した。
そっと優しくかつしっかりと、ちょっとやそっとでは絶対に解けないように。
209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/31(月) 02:14:08.58 ID:oM/uczJVo

二人は今、己達の仕事の準備が整うのを待っていた。
託された作業はもうすぐにでも始まるのだ。

固唾を呑んでバージルを見つめながら、
神裂は何度も何度も頭の中で、セフィロトの樹の切断手順を確認していく。

セフィロトの樹。

それは70億もの人間の監視、管理、操作、力の供与から、
人間界の基盤として理を維持する役割までをも担う、天界が作り出した一大システム群。

人間を縛り付ける鎖でありながら、人間を生かす命綱でもある存在。

そんなものに手を出す、ましてや切断するとなれば、当然そのリスクはとてつもないものとなる。
順序や切断部分を一つ間違えれば最悪の場合、
存在基盤を失った70億人が消え去ることになりかねないのだ。

アイゼン『よいか? 極力慎重に、な』

二人の前に立ちそう再度確認するアイゼン。
インデックス次いで神裂と、その頬に手を当てて、
彼女達に施した視覚共有の術式の最終確認をしつつ声をかけていく。

アイゼン『時間は考えるな。とにかく精度を優先しろ』

神裂『はい』

禁書『……うん』


アイゼン『心配するでない。虚無といえど、セレッサが「観測」している』


アイゼン『そなた達はただ己の仕事に集中しておればよい』
210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/31(月) 02:16:05.10 ID:oM/uczJVo

虚無。

そう、これから神裂とインデックスが向かうのは虚無であった。

セフィロトの樹、その全体像を一度に捉えるには、手段は二つしかない。
天界側からか、それか遠く『外側』から俯瞰するか、だ。

だが天界側から捉えるのはまず困難だ。
なにせメタトロンらに率いられたセフィロトの樹を守護する軍団が常に監視しているからだ。
見つからずにその本拠に潜入するのはまず不可能。

人界の70億はそのまま人質でもあるため、
攻め込むといった強攻策ももちろん取れない。

そこで選択肢は一つ。

人間界と天界の外であり、更に影が映りこむプルガトリオでもない、
完全な『透明度』を有する領域―――つまり『虚無』から俯瞰するのだ。


ただ、だからといってそう簡単に行ける領域でもない。
いや、行くことはある程度の力量さえあれば簡単だ。

問題は入った後だった。

魔帝や覇王の監獄として使われるとおり、そこは一度入り込めば内側では『何もできない』。
自力で抜け出すことなど不可能な領域。

こちらの生と死が営まれる世界が『有』ならば、その外であるこれはまさに『無』。
あらゆる存在も変化も『制止』する領域、それが虚無だ。
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/31(月) 02:17:27.97 ID:oM/uczJVo

―――だがもちろん。

こうして神裂達が行こうとしている通り、
虚無の中でも安定して作業を行える手段がある。

アイゼン『うん、セレッサ。配置につけ』

二人を確認し終えたアイゼンの言葉、
それを受けてベヨネッタがバージルの方へと足早に歩み寄っていく。

そして閻魔刀を挟んで彼と向かい合う位置に立ち、
そっと右手をその魔刀の柄頭に載せて。

一度、静かに目を閉じて―――そして再び見開いたその瞬間。


ベヨネッタ『―――ふっ―――』


彼女の全身から、真っ赤な光が放たれ始めたのだ。
激しく燃え盛ってる炎のような、悪魔が纏う衣とはまた違う異様な輝き。


ベヨネッタ『「観測点」を―――ここに「定義」。OK、見えてる』


そして彼女は呟いた。


そう、これが神裂達が安全に虚無に行ける手段。
その内容は単純、『無』を『有』に定義してしまえば良いのだ。

ただそれをできるのは、道理や因果などお構い無しに―――存在をそこに定義できる『観測者』。


ベヨネッタ、すなわち―――『闇の左目』のみ。
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/31(月) 02:18:54.95 ID:oM/uczJVo

禁書『……わぁ…………』

またもや思わずといったものか、
インデックスの口から今度は驚きの声が漏れた。

神裂『…………』

彼女の目には、
あの闇の左目とやらの『何か』が見えているのだろうか。
果たして、その『何か』とやらは一体『何』なのだろうか。

実は神裂、ここまで来ても未だ、
あの『闇の左目』という力をいまいち把握しきれていなかった。

いや、ジュベレウスが有していた『世界の目』の片割れ、
というのはわかってはいるが果たしてそれが何なのか、
例えばどんな力を行使できるのかという具体的な事がわからないのである。

もちろん以前に、任務に影響する要因の把握のためと単純な好奇心もあって、
闇の左目とは、とジャンヌに聞いたことがある。

その時返って来た答えはこうだ。


少なくとも、『存在が有か無かの定義』に干渉できる力、と。


更にジャンヌはこう続けた。

ただ影響範囲やその限界などは、実際に使って確かめてみなければわからない。

そもそもこれが正しい使い方なのかもわからないし、
他にも機能があるかどうかさえわからない、セレッサさえあの力の全貌なんか把握してなどいない、と。
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/31(月) 02:22:29.97 ID:oM/uczJVo

実はこの今の使い方も、ベヨネッタの父の手法を元にしているだけのものらしい。
故にこれが正しい使い方すらかもわからないのだという。

そう、つまり『闇の左目』とは、『未知の力』と言ってもいいくらいに謎に包まれているのだ。

もちろん、その闇の右目と光の右目を合わせた『世界の目』もだ。

これまたジャンヌ曰く、二つ揃った状態の『世界の目』は、文字通り『何でもアリ』の力であるらしい。
ただその具体的な内容を把握しているのはジュベレウスのみであった、と。

続けて神裂は、破壊や具現についても彼女に問うた。
ジュベレウスの因子と言うが、実際はジュベレウスとどんな関係なのかと。

これには、ジャンヌはすっぱりはっきり答えてくれた。

創造や具現といったものらは、
『世界の目』という何でもアリの力の中から一部の要素を『模倣』したもの、と。


ここでジャンヌは更に、国語教師らしい物語仕立ての例えでこう続けた。


『ジュベレウスの「机」の上にはAからZまでの「字」が置いてあり、
 彼女はそれらを好きに並べて自在に物語を生み出せることができた。
 そのようにして、「机」の周りは次第に彼女が作った物語とその登場人物で埋め尽くされていく。

 彼女の他には物語を書ける者など誰もいなかった。
 なぜなら、彼女が生み出した登場人物はみな彼女よりもずっと小さく、
 机の上にまでは手が届かなかったからだ。

 だが、そのようにして物語を作っては壊してを繰り返し続けたある時だった。

 なんと「机」に届くまでに大きくなった登場人物が現れたのだ。

 そのような者達は手を伸ばしては机の上をまさぐり、
 ある者はYを、ある者はEを、また中には複数の「字」を勝手に使い始めたのだ。

 そうなると当然。
 物語は、彼女の好きなようにはならなくなってしまう。
 あちこちが勝手に書き換えられ、または滅茶苦茶にされて、物語は想定外の方向へとどんどん突き進んでいく。

 そこでついに怒った彼女は実力行使を選び、その拳を振り上げたが。

 物語を書き換えることで更に体の大きくなった登場人物たちに押さえつけられてしまい、
 なんと逆に彼女が机から引き摺り降ろされてしまったとさ』
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/31(月) 02:24:24.14 ID:oM/uczJVo

この例え話の『机』は創世主の領域、
AからZの『字』は『世界の目』と呼ばれるもの、

登場人物が机に届くほどに大きくなった、というのは一部の強者がついに創世主の領域に届いてしまったということ。

そうして彼らが勝手に使い始めた一部の『字』は、
『世界の目』の要素の一部であり創造や具現と名付けられることとなる力。

そして彼らは手を伸ばしてまさぐってそれらを入手したのに対し、

ジュベレウスは机の全体を俯瞰できて、AからZ全てを完全に把握している、
故に『世界の目』を理解しているのはジュベレウスだけということだ。


神裂はこの例え話を聞いて、ふと怖くなってしまった。
ジャンヌは特に何でもないように創世主の力のことを口にし、
その内容もまるで御伽噺のようだ。

だが―――それは虚構ではなく現実。

現実だと改めて確認すると、なんてとんでもないことなのだろうか、と。
ベヨネッタは、なんととんでもない力をその身に宿しているのだと。

そんなことをして―――危険ではないのか、と。

創世主では無い者が、理解しきれない創世主の力を持って―――リスクはないのだろうか、と。


そして。
これが神裂が一番、言い知れぬ不安を抱いた疑問。


今、その『机』には――――――『誰』が座っているのだろうか。


もし誰も座っていないのならば―――管理者を失った 『机』の上は一体―――どうなってしまっているのだろうか。

215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/31(月) 02:26:16.96 ID:oM/uczJVo

ベヨネッタ『―――OK。いいわよ、始めて』

その時だった。
そんな神裂の回顧を断ち切るベヨネッタの声。

闇の左目の安定の確認が終ったのだろう、
彼女は柄先に手を乗せたままアイゼン、そして神裂とインデックスを見た。

神裂『―――は、はい!!』

再び思い返した不安を掃い、神裂は意識を眼前の仕事へと切り替えた。
そもそもこれはどう考えたところで、己程度がその答えを知ることができるものでもない。
ベヨネッタやバージル、ダンテのような、『机』に届く者達でやっと何とかできる領分なのだ。

それに、と。

神裂は今、ある一定の安心を覚えていた。
その理由はもちろん、バージルと繋がっているからだ。

あの最強の主にはこの感情も思考も全て伝わっているはず。
この疑問を知っていてさえくれれば、これに関して神裂がすることはもう無い。


彼女は表情を再度引き締め、握るインデックスの手を優しく引いて。
バージルとベヨネッタから2m程の場所にまで進んだ。

そしてそこでアイゼン、
正面の像の台座のところに座しているジャンヌとローラ、と今一度順に目を合わせていき。

神裂『インデックス。いいですか?』

禁書『うん。行こう。かおり』


そうして無表情のバージルとベヨネッタを見やり。


神裂『では、お願いします』


ベヨネッタ『いってらっしゃい』
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/31(月) 02:26:59.06 ID:oM/uczJVo

―――次の瞬間。


二人の目に映る周囲の光景が解けるようにフェードアウトして、完全な闇に染まった。
そして覚える、底の無い海に沈んでいくような感覚ののち。

全感が途絶えた。

五感も、悪魔の知覚さえも何も捉えない。
それは彼女達が麻痺したわけではなく、周囲が正真正銘の『無』だからである。

そのため、全感が無くともそれにはただ一つ例外があった。

互いに握る手の温もりだ。

神裂『大丈夫ですか?』

禁書『大丈夫なんだよ。かおりは?』

神裂『問題ないですよ』

と、その時。

禁書『―――……あっ……―――』

神裂『……どうしましたか?』


禁書『―――あったよ!!すごい……こんなの…………!!』
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/31(月) 02:28:22.95 ID:oM/uczJVo

『あった』、ということは『目的のもの』か。

神裂にはただただ闇しか見えないが、
彼女の瞳はしっかりとを捉えているのだろう。

神裂『何が見えていますか?』

答えはわかっているが、
再確認の意も篭めて神裂が問うと。


禁書『―――せ、セフィロトの樹!!―――すごいよ!!』


予想通りの返答。
ではあるが、どうやらそのセフィロトの樹の姿は予想していなかったものらしい。
それも彼女の声色から見て、よからぬ方向にという訳でもないか。

神裂『――ーでは、視覚共有を』

禁書『うん!!』

そうしてアイゼンが施した魔女の技を起動し。


インデックスの視界を共有した瞬間。


神裂『―――………………』


神裂は言葉を失った。
目の前に『広がる』そのセフィロトの樹の姿を見て。


あまりにも―――それこそ許しがたいほどに―――美しかった。
218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/31(月) 02:29:01.54 ID:oM/uczJVo

人間界と天界の外縁部にあるセフィロトの樹の全貌。

それは複雑に入り組んだ、巨大な網の目状の『光』の構造体だった。
大樹の根のように無数に枝分かれし絡み合い、何重にも重なり合って透き通る煌きを放っていた。
しかもその規模はとてつもない。

ここは虚無なのだから、そもそも何らかのものさしでその大きさを測るのも馬鹿馬鹿しいが、
それでも例えると。

まるで銀河系を真上から見下ろしている感覚、とでも言えばよいか。

神裂『……こ、これは…………』

問答無用で感情がざわつき、ぞわりと全身を衝動が走る感覚。
何かを見て、ここまで美的感覚が刺激されたことなど無い。

だがそう長く、その美しさを純粋に味わってなどいられなかった。
次に神裂の頭を過ぎったのはこんなこと。

これが―――こんなものが。

70億もの人間の監視、管理、操作、力の供与から、
人間界の理の維持までを行う存在なのか、と。


まさに許し難い美しさだった。
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/31(月) 02:29:33.24 ID:oM/uczJVo

そんな怒りと、これを破壊することへの悲しみを覚えながら。
神裂は七天七刀の鞘を、魔術で目の前の空間に固定し。

その柄に手をそっと添えて。


そして最終確認の声を放った。


神裂『―――始めても?』


『主』へ向けて。
意外なことに、主の声はすぐに返って来た。


バージル『一々許可を仰ぐな』


声色は相変わらずの冷徹なものであったが。
だがそれでも神裂にとってはまさに天の声であった。

許可を仰ぐな、つまりは「お前に一任する」という、そこには絶大な信頼が表れており、
それが彼女に絶対的な自信を与えてくれるのだから。


神裂『はい!!では―――いきます!!』


彼女は高らかにそう返事をし、
そしてインデックスの手を固く握り締めながら。

左手で―――蒼き光を放つ七天七刀を抜いた。


一世一代のその大任を果すために。

―――
220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/10/31(月) 02:30:03.34 ID:oM/uczJVo
短いですが今日はここまでです。
次は明日に。
221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/10/31(月) 02:31:41.85 ID:zs+vLgJx0
乙!
222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/31(月) 06:36:13.22 ID:FHZsGJx+o
お疲れ様でした。
223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/31(月) 06:52:59.97 ID:WEuwW/1f0
乙乙乙

神裂さん、完全にバージル信者
224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/10/31(月) 17:38:05.15 ID:7SCwx41W0
いよいよクライマックス乙乙乙
225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/10/31(月) 20:49:23.48 ID:7ychKpgTo
乙です。学生時代じゃんぬせんせいに国語教えてもらえれば1取ることも無かったのに・・・
226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/31(月) 22:24:30.28 ID:oM/uczJVo
―――

あるデータを見て。

アレイスター『―――どう……なっている………………?』

彼は凍りついた。

それは己が目を疑うものだった。

感情を排し常に冷静沈着で徹底した合理主義、
そんな彼の思考が一瞬―――『完全』に空白になってしまうほど。

実は彼が『これ』を見つけたのは、今が初めてではなかった。


最初に見つけたのは―――右方のフィアンマがこの街で滅んだ数日後だ。


充分に許容範囲内に見えたこと、そして調査の時間的余裕が無かったこともあり、
目を瞑っていた小さな小さな『誤差』だ。

学園都市を覆うAIM拡散力場上に見られた、ごくごく小さな『揺らぎ』。

計算上は問題ない、プラン成功の確率には変化を及ぼさない、
そう判断したあの『ほんの僅かな誤差』、それが今。

アレイスター『―――何だ?…………何なんだこれは……?』

みるみる肥大化し始めていた。

それこそもう『誤差』と呼べる規模ではないほどだ。
絹布に墨汁を垂らしたかのように、AIM拡散力場に原因不明の―――『振動』が瞬く間に染み広がっていく。

それも一点から拡大しているのではなく、
あちこちで同時多発的に発生して。

アレイスター『―――どうなっているんだ―――これは?!』

この瞬間、今や虚数学区、そしてこの上条当麻のAIMにまで既に影響が見え始めていた。
227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/31(月) 22:25:48.50 ID:oM/uczJVo

人間でも誰しもが抱く嫌な予感、悪寒、というものに少しでも彼が意識を向けていたら、
彼もこの問題に何らかの策を講じることもできたかもしれない。

だが彼は『そんなもの』など信頼してなどいなかった。

悪魔などならともかく、たかが人間の勘。
そこに確実性など欠片も無く、役に立つわけなど無い、と。
なにせ、そのような曖昧な衝動に従ったせいで一度目は失敗しているのだから。

だからこそ彼は人間の充てにならない感覚は全て排除し、
データに示される事だけを信じるというやり方を貫いたのだ。

そしてそれが不可能を可能にし、彼はこのようにここまで勝ち続けるに至り、このまま―――。


―――完全な勝利を収めるはずだったのに。


その絶対的なやり方は、この最後の最後の段階で――――――彼の信頼を裏切った。


アレイスター『―――ッ!!』

もう今は、悠長に原因の正体を探っている場合ではなかった。
最優先すべきは、とにかくこの『振動』の拡散と激化を止めることだ。

このままでは、修正不可能な状態になってしまう。
材料不足で計算はまだできなくとも、そう確かに推測できるくらいに、
拡散の勢いは増し続けていた。
228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/31(月) 22:27:11.32 ID:oM/uczJVo

エイワス『おや―――随分と大変なことが起きたな』

アレイスター『―――黙っていろ!!』

相変わらず、どことなく愉快な色を滲ませるエイワスに声を荒げながら、
彼はこの拡大を止める手段を探してホログラムに目を通してく。

アレイスター『…………』

画面を流れていく大量のデータ、
それを見て彼の思考はすぐにある点に気付いた。

どうやらこの『振動』は、一方通行が火付け役であり燃料であると。

AIM拡散力場上の中に紛れていた原因不明の種、いや、ある特定周波数のAIMが、
一方通行の『生』と繋がったことにより突然『生き返った』かのごとく活性化したようだ。

となれば。

一方通行との繋がりを切断すれば、
拡大は停止するかもしくは勢いが衰えるはずだ。

アレイスター『よし……』

そう彼は考え、更に素早く策を具体化させていく。
もっとも簡単で早い切断方は?、箇所は?

その簡単な選定は一瞬にして終った。

単純だ。


ミサカネットワークと一方通行を切断すれば良いのだ、と。
229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/31(月) 22:28:19.86 ID:oM/uczJVo

ミサカネットワークは虚数学区、
そこからエイワス、上条当麻と繋がっているのだから、
ここを一つ塞き止めるだけで全域から一方通行の影響を取り除ける。

一方通行の側も、
その思念は既に抹消済みで完全に掌握下にあるのだから、
一時的にスタンドアローンにしても特に問題は無い。

そうして早速、彼がその作業を行おうとしたその時だった。

ここでまた彼の想定外の事が発生する。
アレイスターの前にあるホログラム、そこにミサカネットワークの状態が表示されたその直後。

突然。


アレイスター『―――っ』


ミサカネットワークが切断された。

ミサカネットワークが一方通行と、ではなく―――虚数学区とだ。

それも―――アレイスターの意思ではなく


アレイスター『―――なぜだ?』


―――『勝手』に。
230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/31(月) 22:30:31.83 ID:oM/uczJVo

更にそれだけには留まらなかった。
他にもあるミサカネットワークと各所の回線もぶつり、ぶつりと次々と切断されていく。

一方通行とミサカネットワークが、他と完全分離していくのだ。

最後にはこのアレイスターの管理システムとも切断され。
ホログラムにはエラー表示が浮かび上がった。

アレイスター『―――……』

結果的には切断され、他の画面に示されるデータの通り、
虚数学区と上条の中に見られた振動は急激に衰えていく。

だがこれは次なる問題をも同時にもたらした。


アレイスター『一体……これは……』


完全に掌握していたはずなのに、
なぜこうも次々と予想外の事態が連続する?

なぜこんなにも―――イレギュラーが発生する?


顕在化したイレギュラーは二つ。
一つはあちこちにある『振動』の原因。


そしてもう一つはこのミサカネットワークと一方通行の孤立化の―――

―――いや、この原因であるイレギュラーは別今顕在化した訳ではなかった。

なぜならアレイスターは、
半年以上も前から『コレ』をイレギュラーとして認識していたのだから。
231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/31(月) 22:32:15.66 ID:oM/uczJVo

しかしそれは余りにも『小粒』であったため、
彼の計算上では距離を離しておくだけで良い、と判断を下してしまっていたのだ。

―――イレギュラーは把握しきれないからこそ『イレギュラー』だというのに。

特に影響を及ぼさない小粒で終るとは限らず、
逆に最大の爆弾となり何もかもを吹き飛ばしてしまうかもしれないのに。


アレイスター『!』

彼はその時、背後に突然気配を覚えた。
誰もいないはずの―――闇に包まれている少年しかいない背後に。

そうして素早く振り向くが、別に新たな第三者がいたわけではなかった。
その少年以外はいなかったのだ。

そう、一方通行以外は。


つまり―――気配の主はその少年だったという事だ。


アレイスター『――――――』


エイワス『―――ふふ、そう来なくてはな。やはり人の物語とはこうでなければね』


彼が振り向いた先にあったのは『少年の入った闇の繭』ではなく。
立ち上がり、そのオレンジの瞳でこちらを見据えている少年だった。

それもとても『中身が無い』とは言えないような、凄まじい形相―――かつ。


その目から『黒い雫』を―――まるで『泣いている』かのように滴らせながら。
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/31(月) 22:34:12.96 ID:oM/uczJVo

それは、『小粒』でしかなかったイレギュラーが爆弾へと変じた瞬間だった。


『小粒』の正体は―――ある一人の正真正銘の無能力者。

ただの一般人であり、
例えイレギュラーであろうが何の変化をもたらすことも出来ない小粒。

そのはずだったのに。

アレイスター『どうして……どうしてだ…………有り得ない……』

彼から生じたほんの僅かな波が―――あるレベル5の女へと伝わり。

ダンテ、アラストルという別のイレギュラーと更に反応を起こし、そして―――。



一方通行『―――よォ…………アレイスター』



―――ついに一方通行にまで到達した結果がこれだった。


少年、一方通行はそう静かに彼の名を口にした。

突き刺さるような視線をアレイスターに向け、
そして焼け付いてしまいそうなほどにその声に激なる内の熱を載せて。
233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/31(月) 22:37:48.39 ID:oM/uczJVo

エイワス『―――さて、ここからどうする? エドワードよ魅せてくれ。もっと楽しませてくれ』

相も変らぬ他人事か、そんな腹立たしくなるようなエイワスの言葉。
だが今のアレイスターには、最早言い返す余裕など無い。

アレイスター『なぜだ……なぜ……!』

あまりの状況に彼は思わず一歩、更に一歩、
後ずさりしてしまった。

もうその類稀な思考ですら、この展開にはついていけなかった。
一体なぜこの少年の人格がこうして存続しているのか。

徹底的に崩し砕き完全に抹消したはずのなのになぜ―――?
精神が存続し得ない、圧倒的なストレスと疑心を与えたのになぜ―――?


アレイスター『……―――なぜだッ―――!!どうしてお前がッ―――!!』


一方通行『…………なぜかって?』

少年は小さな、乾いた笑い混じりに口を開いた。

一方通行『―――そりゃァ―――俺は―――』


一方通行の思念を存続させた『それ』は、別に大きな力などではなかった。

あの『無能力者』から生じた波は、この一方通行に届いた時も変わらずに小さくて。
届け先が彼では無かったら意識されることすらなかったようなもの。

それは強いて言うならば。

たった一つの『言葉』だった。


一方通行『―――「答え」を見つけたからな』


―――ある『女』が遺した、『くだらない願望』だった。


―――
234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/10/31(月) 22:38:20.19 ID:oM/uczJVo
今日はここまでです。
次は木曜に。
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/10/31(月) 22:55:25.67 ID:7ychKpgTo
乙です。☆が★になってきましたね。しかし敢えて言わせてください。
物足りない・・・ッ!物足りませんガンダム・・・ッ!!
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/10/31(月) 23:03:37.49 ID:RjdFEGkWo
つ、続きが待ち遠しい…乙
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/10/31(月) 23:20:42.94 ID:FV/C0oWR0
乙。
ジュベレウスの話でSO3を思い出した。
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/31(月) 23:31:36.57 ID:FHZsGJx+o
お疲れ様でした。
239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/01(火) 23:08:15.78 ID:5/sxrk5d0

ついにスーパーアクセラレータ化か・・・

サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:http://vs302.vip2ch.com/
240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(北海道) [sage]:2011/11/01(火) 23:54:01.55 ID:O8LO3YjNo
敢えて言おう。

はぁァァァァァまづらァァァァァァァァァ!!!

サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:http://vs302.vip2ch.com/
241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(兵庫県) [sage]:2011/11/03(木) 03:06:42.83 ID:kNtQv31E0
(*´ω`)ああもぅアレイスター先生のうろたえっぷりがたまらんですよ乙乙乙!!
242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/03(木) 23:25:37.09 ID:UMjtKL09o

―――

『中』から、熱くて痛くて辛くて苦しい爆風が押し寄せてくる。
何もかもを薙ぎ払う真っ黒な風が、この体と精神を貪っていく。

それはそれは馬鹿みたいに五月蝿くて、凄まじく熱くて、猛烈に痛くて。

何もわからない。
何も考えられない。
何も認識できない。


『―――さあ来るが良い』


だがただ一つ。
あの声だけははっきりと聞えた。


『そうだ。何もかもをかなぐり捨てて、ただ怒りに身を委ねてしまえ』


そう、だた一つ。
あの者の姿だけは見えていた。

闇の中に唯一見える光だ。
迷い絶望し怯えきった少年は、夢中になってその光に向けて歩を進めていく。

例えそれが肉と骨を焼き尽くす炎であっても。


『さあ―――その手で、私の首を捻じ切るが良い』


そうして呼ばれるがままに近づいて。


手を伸ばして―――火の中に身を投じると。


次の瞬間、そんな最後の光すら消え去って、
底無しの闇の中へ少年は落ちていった。
243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/03(木) 23:27:37.37 ID:UMjtKL09o

どこまでも、どこまでも落ちていく。

そして流れていく闇の中に走馬灯、と呼べるものか。
垣間見えるのは過去の記憶。

さまざまな情景が凄まじい勢いで過ぎ去っていく。

『最終処分』用の破砕機へ送り込むために、全ての情報をスキャンしているのか。

それもただ見るだけではなく、その時目にしたもの、触れた感触、
そして抱いた感情ら全てを忠実に追体験していく。

ただ唯一、色が無いという点だけが違っていたが。

彼はもう一度、これまでのそんなモノクロな人生を歩み直していく。

とはいえ彼にはもう正確な時間感覚なんかなかったため、
正確な年齢と同じ体感時間ではなく、一瞬にも永遠とも言えるくらいに不確かなもので、
それも記憶の濃淡によっても大きく異なっている。

彼はぼんやりと。

ただ受身のまま、その記憶の奔流に身を委ねていた。

始まりは幼い頃から。
当時の情景はきわめてあやふやで、両親の顔すらもはっきりと見えない。
そこが果たして学園都市なのか、それともその外なのか、それすらも覚えていない。

はっきりとしてくるのは、大体4歳辺りからか。

その時は既に学園都市の中で暮らしていた。
ただ記憶が明確とはいえ、その中身はそれはそれは空虚なものであったが。

白髪に赤目と、その特異な容姿が故に同年代からは避けられ。
一応親代わりだった担当の者も、ただ状態をチェックするだけで実際には親と呼べる行為は何一つしない。

その頃はただ、一人で学校と研究所を往来するだけの日々だった。

そうした10歳のある日のことだ。
突然、能力が発現したのは。
244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/03(木) 23:30:57.24 ID:UMjtKL09o

始まりは、いつものいじめっ子がつっかかってきた事。
理由なんて覚えてはいない。
いや、大した理由なんて無かったかもしれない。

とにかくその時発現した能力は―――触れてきたいじめっ子の腕をへし折った。

それを見て周りの大人が駆け寄ってきたが、それも弾き飛ばし。

通報されてきたアンチスキルを吹き飛ばし。
そして非常事態だと出動してきた駆動鎧やらヘリやらを木っ端微塵にした。


その『事件』がきっかけで、
無垢な少年は『もう誰も傷つけない』ように一人で生きていくことを決めたのだ。


そして歳を重ねて現実を知る中で少年はいつしかこう考えるようになる。
誰も傷付かない『完全な防護策』とは、戦意さえ喪失するような、争いが起こりようも無い絶対的な力であると。

それが、彼がそれまでの名を捨て去って最強を目指した理由であった。


しかし―――そんな望みとは裏腹に。

強くなればなるほどその手を染める血は濃くなっていき。

『もう誰も傷つけない』と決意して歩んできたはずなのに。

気付けば、自らが殺戮した大量の躯の山に座っていて。


彼は―――笑っていた。


頬に散る他者の血肉、その感触に―――浸っていた。
245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/03(木) 23:32:35.91 ID:UMjtKL09o

記憶の回廊の果て。

少年はソファーに座っていた。
両肘を膝に付き、頭を抱えて。


「……どォしてだ……どォしてこンな……」


そこはあの病棟の一室。

グループの面々と、出撃前夜に酒を酌み交わしたあの部屋。
正確無比に疑似体験しているためか、その思考も正常な水準にまで一時的に戻っていた。

戻ってはいても―――何も変わりなどしないが。

同じように疑念を抱き、同じように絶望して、答えなど結局見出すことが出来ず、
このまま記憶の追体験は、麦野達を見送って三頭の狼と獅子の戦いを経て、再び―――崩壊する。

それだけだ。

いや、全て同じわけではない。
この二度目の追体験で二重に追い込まれ、
これでもかとばかりに徹底的に粉砕されるのだ。

その魂に残っている記憶も、生きた情報も何もかもを根こそぎだ。


「俺は……どォしてこォなっちまったンだよ……」


髪を掻き毟り、彼は答えの出ない問いに苛まれ続けた。
己を責め続け、絶望し、否定して、更に深みに落ちていく。
246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/03(木) 23:34:01.13 ID:UMjtKL09o

―――妹達と打ち止めは、自分がいなかったら生まれなかった?

それは確かに事実だろう。
だがそんなものはただの結果論だ。

二万人は殺されるために生み出され、実際に一万人は殺したのだ。
狂った殺人鬼の夫婦が殺すために子供を作るようなもの。

そんな戯言、気休めにすらならない。


―――あんな事、本当は『したくなかった』?

それは嘘っぱちだ。

本当にそう思っていたのなら、例えそうせずるを得なくとも―――決して笑いなどはしない。
あんな風に快感の声を漏らしながら拷問し、残虐に引き千切り、その血肉を舐めたりなどしない。

本当に『したくはない』、という気持ちはあったかもしれないが、
一方で確実に『殺戮』を求めていた自分もいたはずなのだ。

だからこそ。

だからこそだ、今となってここまで己に嫌悪し怒りを抱くのは。
こうして自分自身が『大罪』として認識している。

果たすべきことを果したのち、早急に死をもって贖うべきだと。


では―――その果すべきこととは何だったのだ?


それはこの期に及んでまで―――片付けきれない量なのか?
247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/03(木) 23:35:15.81 ID:UMjtKL09o

天井の手から打ち止めを救った、そこまでは文句は無い。
その後しばらくの『護衛』もまあ良い。

だがその後だ。

打ち止めの安全を確保できて、命を絶つ機会なんていくらでもあった。

ダンテ達が絡んできてから、それを達するにもっと簡単になったし、
それ以上に自分が生きている限り打ち止めに完全な安寧など訪れないと確かになったのに。

なぜそうしなかった?

それまでの『最強になる』なんて目的だって、
絶対的な力を得れば争いは消える、そんな根底の理論がダンテ達の出現で否定されてしまったのに。
巨大すぎる力は、更なる戦いを招くだけだと明確にされて。

もうこの世に留まる、己がいなきゃならない理由など無いのに。


なぜ―――。


「……俺は……本当は……何をしたかったンだよ……」


―――まだ生きているのだ。


「なァ…………アクセラレータ……オマエは何を…………」


『あのまま』ではわかっていたはずなのに。
こんなどうしようもない状況に陥るのが確実であったのに。
248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/03(木) 23:36:48.46 ID:UMjtKL09o

わからない。
思考は無意味に堂々巡りし、更に深みに落ち込んでいった。

周りでは記憶の再生が続き、
こうして思考を保っていられる残り時間が刻々と減っていく。

「…………」

周りで聞えるは、酒を交えたあの時の他愛も無い会話。
内容は日常離れしているであろうが、その調子は世間話そのもの。
読み合いも緊張も無く、そこにあるのは緩い連帯感。

確かに結構な量の酒が入っていたが、
交わされた一言一言から隅々の情景まで、きわめて明瞭に記憶していた。

夜も更けたところで、泥酔した御坂が結標に飛ばされる形でリタイアし、
土御門、海原、結標はそれぞれ親しい者達と時間を過ごすために去り。

「………………ねえ」

そして。


麦野「…………今まで殺した連中の顔、全部覚えてる?」


麦野沈利と二人だけになる。
顔を上げれば、机を挟んだ向かいのソファーに彼女が座っているはずだ。
一言一句正確に再現された声が耳に入ってくる。

だが彼は。

「……」

彼女を見ることは出来なかった。

麦野「―――私もね。アンタと同じく『向こう』に行かなくちゃならないと思ってるの」

例えそれが本物ではなく記憶が作り出した偶像であっても、
眩しすぎて、耐えられそうもなかった。
249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/03(木) 23:38:59.29 ID:UMjtKL09o

麦野「『向こう側』に会わなきゃならない『仲間』がいる」

麦野「そして『伝えなきゃいけない』事もある」


「なァ……オマエは……こンな俺を見たら……どう思ったンだ」

忠実に再生されていく声に向けて、彼は問いかけた。

彼女は本物ではない己の記憶が作り出す像。
何を聞いたところで、引き出せる言葉は元から己が言っているものだけ、
己の分身に問いかけるようなもの、そうわかっていながらも。

「……これが俺なンだよ…………俺は……」

言葉を続けた。

最強の能力者、そしてこうしてそこらの大悪魔をも超える力を手にしておきながら、
中身はどうしようもなく脆弱。

強い力を持っていたから強者と錯覚していただけで、
本当は己の弱さに全く気付いていなかった愚か者。

いいや、気付いてはいたはずだ。

ただそれよりも悪いことに、他者を傷つけないため、打ち止めのため、
それを理由にしてこの問題から目を逸らしていただけなのだ。

どれだけ外見を取り繕おうが、その中身はもう騙しきれなかった。


贋物は結局、最後の最後にはバケの皮が剥がれてしまうものだ。
250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/03(木) 23:41:18.76 ID:UMjtKL09o

その結果、留守の学園都市を守る、
そんな託された使命もろくに果せず。

アレイスターを独断で、それもただ感情に任せて殺そうとし。
打ち止めも何もかもを投げ出して絶望に屈してしまった。


麦野「―――…………私は……これはわがままなのはわかってるけど……」


麦野「こんな薄汚れてどの口でって言われるだろうけど……」


そんな己なんかが、どのツラ下げて彼女を見るのだ。
自分を理解しきった上で前に進もうとした戦士を。

己とは違い、使命を完璧にこなしたあの女を。

自分の全て、何もかもを受け入れて。



麦野「生きたい―――」



そう望みながらも―――命散らした麦野沈利を―――。


「―――――――――…………ッ…………………………」


その時だった。


記憶の中の一言、
麦野の口から発されたその言葉を再認識した瞬間。


彼の思考の中に、一筋の光が突き抜けた。
251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/03(木) 23:43:04.16 ID:UMjtKL09o



「――――――は、ははッ…………」


彼は跳ね起きるようにして顔を上げては、上半身をソファーの背もたれに投げ出して。
茫然自失気味に小さく笑ってしまった。

信じられなかった。
頭がオーバーヒートしそうだった。

それも今までの『空回り』とは違い、
追いつかないくらいのペースで思考が明瞭に繋がっていく。


―――なぜ彼女のその言葉が、聞いて以来ずっと気なり続けていたのか。


またことあるごとになぜ、
打ち止めと共にいる未来なんて許されぬ幻想が湧き上がってきてしまうのか。


気付いてしまったら、非常にシンプルなことだった。
このワードとこの問題を結びつけられなかった事が、不思議に思えてしまうほどだ。

己とあんな事を言えてしまう麦野とには、その認識に違いなんて『無かった』のだ。
視点の位置も見ている景色も全て同じだった。

ただ、己が気付いていなかっただけなのだ。


『何がしたかったのか』、その答えがすぐ目の前にあったのに。


「はッ、はは…………チクショウ…………」


そう、根底にあった望みは同じ。
単純明快、人間誰しもが有する基本的な願望。



「…………………………なンなンだよ…………クソッタレ…………」



自分もまた―――『生きたかった』のだ。
252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/03(木) 23:44:33.83 ID:UMjtKL09o

それは決して虐殺者の大罪人には許されない望み。

わかっている。
わかっているとも。

今の今まで常に意識し、一時も己を許したことなど無い。
それなのに。


「は、ははッ……オマエは……ほンッッッとォに―――」


『情けないこと』に。

一度気付いてしまったら、もう抑え込めなかった。


「―――どォしよォもねェ野郎だなァアクセラレータッ!!」


吐かれる言葉とは裏腹に、沸々と湧き上がってくる感情。
偽れない本心が噴出し、内をわがままでどうしようもない望みで満たしていく。


「脳ミソ腐ってンじゃねェのか?!アァ?!クソッタレが!!」


黄泉川、芳川、上条、土御門、結標、海原。

そして打ち止めが存在するこの世界に、
このまま留まり続けていたい、と。


「クソッ!クソが!!あああァ―――!!」


できるならば―――皆と―――打ち止めと―――生きていきたいと。
253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/03(木) 23:45:48.68 ID:UMjtKL09o

腹の内から、己へと罵声を浴びせて。
それでも認めざるを得ないとわかって。

「――――――……………………クソが…………!」

彼は諦め混じりにため息をついた。
後頭部を背もたれの上に叩きつけて、天井を見上げながらゆっくりと長く。


こんな気持ち、初めてだった。


少なくとも、今見てきた記憶の中で覚えたことなど無かった。

何もかもが怖くて怖くてたまらない。

友を失うことが。
一人になってしまうのが。
自分が壊れてしまうことが。


打ち止めが―――己の前から消えてしまうのが。


そうして初めて実感できる―――それらの『本当の価値』。


それらを守るためにと戦ったのも、
その最大の動機は『自分が失いたくなかった』からだ。

まず第一に、自分がそれらの存在を求めていたのだ。
254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/03(木) 23:47:56.53 ID:UMjtKL09o

「…………」

しばらくして、彼は目の周りのむず痒い感触に気付いた。
原因はすぐにわかった。
視界がぼやけていたのだ。


「……はは、はは、ははは……こィつ……」


彼はその目尻から露が毀れる触感を、ただ可笑しげにあざ笑った。


「―――泣いてやがる……泣いてやがンぜ…………女々しい野郎だ……」


涙したのはいつ以来だろうか。
少なくとも、能力が発現してからはこんな風に泣いたことなんてまず無かった。
感情が高ぶって湿っぽくなることすらなく、常に乾ききっていた。

溺れるほど血を浴びていたにもかかわらず、
その中身は知らぬうちに常に乾きに喘いでいたのだ。

「…………」

目尻から毀れる露を拾おうと、何気なしに手を上げたところ。
彼はその手を顔の上でふと止めた。

「…………」

触れるものを一瞬で潰しかねない暴力的すぎる手。
何千回も何万回も血で塗り重ねられたせいであるかのように、色を喪失した手。

己から逃げ続けて、愚かにひたすら力を求めた代償か。
遂には失いたくない存在に触れることができなくなってしまった。

「…………ラストオーダー…………」

あの幼い少女の、柔らかな髪に最後に触れたのはいつだっただろうか。
二度と近づくな、そう告げた瞬間のあの少女の表情が忘れられない。
マジックミラー越しに叫ぶあの顔が脳裏に焼きついている。


泣いて、泣いて、泣きじゃくっているあの表情が―――。
255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/03(木) 23:54:13.52 ID:UMjtKL09o

なぜ彼女はあんな顔をしていたのか。

その理由は『知っていた』。

全ては弱いくせに、臆病なくせに、頑固で意地っ張りで強情な己のせいだ。

こんなのだから、自力では己の本質に気付けずにここまで落ちに落ちてしまったのだ。
こんなのだから、ラストオーダーを苦しませて。
笑い騒ぐためだけに生きているようなあの少女の顔から、その笑みを奪い取ってしまうのだ。

しかも己の決断が、そんな結果を招くと知っておきながら。
彼女がどう思っているかを悟っていながら。

そう、わかっていた。
そこまで鈍感じゃあない、これまでの積み重ねを見ればそれは明確だ。


打ち止めは、一方通行の死を望んではいないと。


怒り、憎しみといった負の感情が欠落しているわけじゃなく、打ち止めは本当にそう思っているのだと。
それなのに、目を逸らし続けてきた。
自分は大罪人、そんな甘い選択など許されないと『勝手』に決め付けてだ。

そもそも、己に自分自身を裁く権利など元より無いのにだ。
この身の処遇を最初に決める権利を持っているのは他ならない―――打ち止めと妹達だ。


それなのに己は逃げるようにして、『勝手』に自身を裁こうとした。
いいや、それは裁きと称してはならない、ただの『先送り』、有耶無耶にするための『時間稼ぎ』だった。

ではなぜ打ち止め達の判断を避け続けたのか、
その理由は単純にしてどうしようもなく情け無いものだ。

怖かったからだ。


もしも、もしも打ち止めと妹達が―――己を拒絶したら、と。
256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [saga]:2011/11/03(木) 23:57:53.15 ID:iqxyFipLo

彼はその黒き手の甲を瞼の上に当てて。

「…………クソ喰らえ…………」

鼻をすすりながら悪態をついた。

もうウンザリだった。
こんな己がもう嫌だった。

もう逃げるのも受身でいるのも嫌であった。


そして何よりも―――もう打ち止めの泣き顔なんて許せなかった。


弱くて臆病で卑劣で未熟な己、そこから目を逸らし続けるのはもう終わりだ。

そうして彼はついに真の意味で、己を受け入れることとなる。
吹っ切れ、己を解き放って、真の『自分の意志』で前へと進む。


ああ、戦ってやるとも、と。


―――俺は『俺の望む未来』のために、『ありのままの俺』で戦ってやる―――、と。


そして打ち止めと妹達に直接問おう。
もう逃げずに裁定を求めよう。

彼女達が拒絶したら、今度こそ潔く命を絶ち。

彼女達が受け入れてくれたら。
このチンケなプライドも何もかもを捨て去って。

無様に―――その寛大な判断に甘えさせてもらおう。


誰が何と言うがクソ喰らえだ―――俺も『わがまま』になってやる、クソッタレ、と。
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/03(木) 23:59:22.11 ID:UMjtKL09o

手を除けて再び目を開くと、
あのモノクロだった情景に『色』が戻っていた。

「……………………」

彼は天井、壁と、もたげていた上半身を起こしながら視線を巡らせて。

そして。

麦野沈利を見た。
僅かな気負いもせずに真っ直ぐに。

「……よォ」

彼女の姿を目にしても、今や負の感情は全く覚えなかった。
ただ代わりに―――胸が締め付けられる感覚に襲われたが。
心臓が萎縮してしまうような。

しかしそれも別段苦痛といったものではなく、むしろどことなく心地良い。
柑橘系といった類のさわやかな刺激に似ているか。

「………………あァ…………そォか……」

確信しそして再度気付いてしまった。
興味を超えて魅せられていたあの感情、それも『本心』だったと。

それもあの言葉だけではなく。


この女『そのもの』に魅せられてもいたのだと。
258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/04(金) 00:02:33.40 ID:n0ibw8afo

それは初めての感情だが、何となくその正体はわかるものであり。
以前の己なら一笑してまた目を背けていただろうが、
今となっては否定なんかもしなかった。


自覚した彼は楽しげな笑みを浮べて。

静かに、まるでこちらの言葉を待っているかのように佇んでいる偶像、
記憶が作り出した幻想の女性へ向けて。

いや、きっと、本物の彼女であっても同じように。


「よォ、クソアマ。どォやら俺は―――」


臆面もなく―――嬉しそうにそう告げた。



「―――惚れちまったみてェだ。オマエにな」



それは確実に悲恋に分類される物語であろう。

片方が気付いたときには、
片方はもう生者ではなくなっていた―――『始まる前から終っていた恋』であったのだから。

しかしそんな悲劇の登場人物であるのに、
彼は嘆き悲しむことなんかせず、ただ穏やかな笑みを向けて。


「―――ありがとな、麦野」


別れではなく―――礼の言葉を手向けた。


『今度』こそ、最期に彼女へ向けて。
259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/04(金) 00:03:08.30 ID:n0ibw8afo

そうして。

一人の少年は完全に消滅する寸前に、己を取り戻した。

絶対に与えられるはずの無かった―――


―――アレイスターのプランには存在していなかった『たった一言』によって。


思念が完全に再構築された後で、彼が最初にやるべき事は明確だった。

まずは打ち止めと妹達の命を救うこと、
つまり―――ネットワークから『余分なもの』を切り離すこと。

それは以前の彼にとっては非常に困難なことであった。
プログラムを徹底的に解析して解体、それもアレイスターに気付かれて妨害される前になんて不可能に近い。

しかし今となってはきわめて簡単なことだった。
AIMに直接干渉できるまでにその認識は進化しており、
その存在も紛れも無い王たる神の領域へと昇華している。

更に『生』という明確な意志を有している彼の前には、
死した残骸の力などただの『無機物』に過ぎないのだ。

もうプログラムなんて解析する必要などなく、『能力者』の力は意のまま。
安定して切り離す、そう意識するだけで―――ミサカネットワークは瞬く間に独立していき。

独立は完了、となれば次にやるべきは『決着』をつけに行くこと。


いや、―――本当の己の戦いの『幕をあげる』ことだ。


そして彼の意識は一気に急上昇していき、幻想と闇の中から抜け出して。


黒き『繭』を砕いては、母なる世界層に再顕現して。


彼は黒き涙を伝わせながら、
槍のごとき鋭い目で―――すぐ正面にいるあの男に向けて。



一方通行『―――よォ…………アレイスター』



宣戦布告する。


今度こそ、真の己の意志で。

―――
260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [sage]:2011/11/04(金) 00:05:15.95 ID:n0ibw8afo
今日はここまでです。
次は日曜に。
261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(北海道) [sage]:2011/11/04(金) 00:06:45.91 ID:RVQ2JH6/o
乙です。禁書目録もう一人の主人公がついに・・・!
262 :sage [sage]:2011/11/04(金) 00:07:48.62 ID:oi95uS6b0
乙です!!!!!
263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(富山県) [sage]:2011/11/04(金) 00:09:09.17 ID:ZQhNxBy8o
乙〜

ようやくアレイスターをぶっ飛ばせますね!
264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/04(金) 00:09:32.06 ID:7YpNvwwAo
お疲れ様でした
265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) :2011/11/04(金) 00:10:49.57 ID:g5Eis2LIO
乙です。
一方さんかっこえぇ( `・ω・´)
266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/04(金) 00:25:59.07 ID:ELzd047DO
一方さん自分に素直になったな。あとは上条さんか
267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(大阪府) [sage]:2011/11/04(金) 01:21:46.96 ID:1O6cu38po
どれもこれも浜面と上条さんの行動による揺らぎなわけか
ちゃんと三人の主人公のキャラが立ってていいなぁ
268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(兵庫県) [sage]:2011/11/04(金) 04:18:39.99 ID:9+3j7hO20
文章の勢い凄くてテンション上がったわ乙乙乙!
269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/06(日) 22:54:10.64 ID:7wFHTcxWo

―――

第一学区地下深く。
とあるシェルターの一室にて。

芳川「―――っな」

芳川は硬直していた。

持ち歩いている携帯端末、更に打ち止め専用に整備した、この一室を埋め尽くす各種機器。
それら全てが突然エラーを起こしたからだ。

芳川「ちょっ……!!待って!!どうして!!」

それも、部屋の中央のベッドに横たわっている死に瀕している打ち止め、
今からその彼女にできるだけの処置をしようとした矢先にだ。

彼女だ飛びついた近くの端末、そこに表示されてたエラーの原因は、
ネットワークとの接続が切れてしまったからというもの。

芳川「…………」

一体なぜか。
これもアレイスターの仕業か、それともまた別の―――と、
思考を一気に巡らせるも、彼女はこの問題にぞの思考の全力を注ぐことはなかった。
原因が何であれ、今最優先すべきことは誰が何をしたかではなく、
どうすれば接続を復旧できるかなのだ。

彼女は数秒間、画面を凝視しては押し黙ったのち。

芳川「―――貴女!!やってほしい事が!!」

部屋の隅に身を小さくして立っていた少女、
初春の方へとふり向いては声を張り上げた。

初春「―――はい?!」


芳川「―――来て!!ここ座って!!」
270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/06(日) 22:56:58.88 ID:7wFHTcxWo

初春飾利。
僅か13歳にして、厳重な監視体制が敷かれるほどのハッキング技術の持ち主。
この狂った街が生み出した、『異常な才を持つ子供』の一人。

そこで、と芳川は考えたのだ。

この少女ならば繋ぎ直すことができるかもしれない、と。

芳川は半ばまくし立てるようにして、
勢いで彼女を端末に向かわせた。

初春は最初は困惑していたものの、
席についた瞬間からはまさに人が変わったかのようにその才を見せた。

管理者である芳川の権限もあったが、
それを差し引いてもおかしなくらいの速度で、彼女はここのシステム解析してしまったのだ。
それも作業の傍らに芳川からの仕様説明を聞きながらだ。

だが。

そんな初春の手にかかっても、この問題は手に負えなかったらしく。

初春「―――……うぅん、無理ですね」

彼女はため息混じりに首を横に振りながら。


初春「どうも、この『MNW』は完全に独立化されたみたいですね」


芳川「独立化……?」

初春「はい。ここだけじゃなく、見える限りでは、他との接続も全部切断されているみたいです」
271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/06(日) 23:01:01.88 ID:7wFHTcxWo

芳川「…………」

完全な独立化なんて、今までに起きたことなど無かった。
それも少しの状態すらもわからないくらいに強固に。

ミサカネットワークに未知なる現象が起きているのは確実か。
こんな異常なことをやってのけているのは、やはりアレイスターなのか。

と、その時であった。
再び思考のために押し黙りかけていた芳川に向けて。

初春「あ、あと…………この子のバイタルが正常値に戻りつつありますよ」

芳川「……え?」

そう指し示された、
打ち止めの肉体の状態を表示している画面へと目を向けると。

脈、血圧、呼吸、脳波、体温、それらが全て、徐々に安定しつつあった。
完全に正常とまではいかないものの、
さっきまでの死に瀕していた状態からすれば嘘のように落ち着いていたのだ。

芳川「ラストオーダー?聞える?」

すぐに彼女の傍に向かい、耳元でそっと呼びかけると。

打ち止め「…………ねえ……」

彼女は意識が回復していたどころか、確かな意思を示した。
薄く目を開いては微笑んで。

芳川「……っ?」


打ち止め「ミサカを……あの人のところに連れてって……ってミサカは……ミサカは……」

272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/06(日) 23:02:22.57 ID:7wFHTcxWo

芳川「……」

意識が戻ってすぐのその言葉。
だが当然、芳川は二つ返事で首を縦に振るわけにはいかない。

まず、地上に今向かうのはとにかく危険すぎる。

次に肉体が安定しつつあるからとはいえ、
ミサカネットワークの状態が全くわからない以上、安心はできない。
むしろ未知の現象続きなのだから警戒しなければならない。

この安定は、台風の目に入ったように一時のものかもしれず、
次の瞬間にはまた急激に悪化するかもしれない。

とにかくまずは、ミサカネットワークの状態を少しでも把握しなければ。

芳川「……ねえ、ミサカネットワークに何が起こったの?」


打ち止め「…………わからないの……だからそれを確かめに行きたいの……ってミサカは……」


芳川「今の状態は?正常に稼動しているの?」

打ち止め「……うん……」

芳川「……」

だが息も絶え絶えに答える打ち止めを見ては、口頭でこれ以上聞き込むのも憚られた。
いくら安定しつつあるとはいえ、まだまだ絶対安静が必要な水準。
意識を失うかどうかという境目で朦朧としていて、喋るのもやっとな状態であろう。


打ち止め「……おねがい……」


そう、そんな状態なのだから、打ち止めの頼みなど承諾してはならないのに。
そこには考慮の余地さえ無いのに。

芳川「……」

芳川は迷っていた。
273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/06(日) 23:05:25.15 ID:7wFHTcxWo

こんなこと考えるのはどうかしてる。
そう自覚しながらも彼女は考えてしまう。

もしかして、彼女の希望通りにするべきなのではないか、と。

常識的に考えれば、
保護者という立場の己は絶対にそんな事をしてはならない。

だが―――今の状況のどこが『常識的』だというのだ、と。

それに非常識な状況下においてはいつも、
一方通行の元にいることで打ち止めが救われる、
または打ち止めが現場にいたことによって一方通行が救われてきたのだ。


そこで、だったら今回も、と。
芳川は考えてしまう。


今や状況は、脇役でしかない己の手には負えないのだから、
一方通行や打ち止めのような―――主役達に直接委ねるべきなのでは、と。

ここまで来てしまったらもう子供も大人も関係なく、
運命は彼ら自身の手で決めさせるべきでは、と。

芳川「……」

芳川は自覚していた。
この考え方は勇気とも優しさとも言えるものではない、と。

その実は、それはそれは愚かしくて、勝手で無責任な『甘さ』であることを。

そしてこう、
こんなことだから夢であった―――『教師』にはなれなかったのだ、と心の内で己を笑いながら。


芳川は打ち止めを抱き上げて、ドアの方へと進んだ。
274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/06(日) 23:06:54.25 ID:7wFHTcxWo

と、その時。

初春「―――待ってください。どこへ行くつもりですか?」

背後から呼び止める初春の声。
打ち止めとのやりとりとこの芳川の行動を見ては、誰が見ても明白であろうか。

呼び止める初春のその声は、制する意図がはっきりと見える強き響きを有していて。

芳川「……貴女はここに残っていて」

初春「まさか地上に出るつもりですか?」

芳川「…………」


初春「ダメです!!絶対ダメです!!」


そして示すは、ジャッジメントとして当然の態度。
椅子から勢い良く立ち上がっては一気に駆け出て、
芳川とドアの前に割り込んで立ち塞がった。

だがそんな彼女の断固とした態度も、
次に返された芳川の言葉ですぐに揺さぶられてしまった。


芳川「……お願い。貴女だって友人のために第七学区に行ったのでしょ?」


初春「―――……」

そこから暫し数秒間、
この幼い風貌の少女は繭を顰めては黙りこくって。
こう、静かに慎重に問い返してきた。


初春「……………………向かおうとしている先には、何があるのですか?」


対する芳川は即答した。


芳川「この子にとって一番大切な人」
275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/06(日) 23:08:11.27 ID:7wFHTcxWo

初春「………………………………」

それを聞いた初春の判断は、答えを聞くまでも無かった。
不満ながらも諦めたように何度も頷く彼女の仕草が物語っていたのだから。

芳川「じゃあ貴女はここにいて……?」

だが、そう答えが示されたにも関わらず初春はドアの前から退こうとはしなかった。
そして首を傾げた芳川が口を開くよりも先に。

初春「私も一緒に行きます!!」

大きな声でそう宣言した。

芳川「ちょ、ちょっと!」

初春「何と言われようが私も行きます!!」

芳川の言葉を遮るようにして、
かつ己を奮起させるようにより強く。


初春「運動不足では?!そんなのじゃとても行かせておけません!」


そうして今度は芳川の方が制圧されてしまった。
初春がそう指摘するとおり、芳川はもう既に肩で息をしている状態だったのだから。

打ち止めは今しがた抱き上げたばかりなのに、
もう腕にはかなり疲労が溜まっていたし、心なしかいつも以上に己の体も重い。
まさに初春の言葉通り、日ごろの運動不足がたたってしまっていた。

芳川「………………」

これを聞き入れてしまうのもまた、無責任で弱くて『甘い』か。
芳川はそう再度自覚しながらも、素直な己の判断に逆らいはせずに。


芳川「……行きましょう」


―――
276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/06(日) 23:09:21.61 ID:7wFHTcxWo
―――

アレイスター『―――』

答えを見つけた、と。
この少年は今、一方通行という人格で確かにそう口にした。

その言葉が発された時点で、
その意味を探る必要はもう無かった。

答えは、今のこの状況がはっきりと明示していたのだから。

一方通行と言う人格は何らかのイレギュラーで復活し、
その力と魂と器の支配権を取り戻したのだと。

更にミサカネットワークを独立させて、打ち止めと妹達をも己の保護下にして。

アレイスターはこの現実を、信じ難くも認めざるを得なかった。

緻密に慎重に築きあげてきたプランの大柱の一本が、
ここにきてあっけなく崩壊したのだと。


一方『……おィ。上条に何をした?』


正常な認識に戻りようやく気付いたのだろう。
アレイスターの背後の宙に磔にされ、だらりと力なく頭が垂れ下がっている上条当麻。
更にエイワスからの光の根が絡まりついてるのを見て。


一方『―――答えろ!!何をしやがったッ?!』


放たれる強烈な圧を帯びた怒号。
277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/06(日) 23:11:18.67 ID:7wFHTcxWo

アレイスター『っ……』

強烈な圧迫感の中、その声にアレイスターの『目』は捉えた。

今までの一方通行のものとは違って『陰り』が無い、
腹のそこから噴き上がってそのままの純粋な怒りを。


一方通行はまるで―――上条当麻のように『素直』に怒り狂っていたのだ。


今や少年の思念には付け入る隙が無かった。

アレイスターが今まで植えつけてきた虚栄、幻想、絶望、
そして悲観的な覆いは全て払拭されており、根底に鎮座しているのは確たる自己意識だ。

一方通行と言う人格には、もう如何なる精神攻撃も効かない。
刺激を与えられたとしても、その結果はもう予測できる範囲のものでもない。

今までのやり方は通用しなくなっていた。

アレイスター『………………』

その現実が、アレイスターにとてつもない焦燥となって襲い掛かる。
熱を帯びる呼吸、加速する鼓動、アドレナリンが分泌されて覚える寒気と筋肉の震え。


ダンテやバージルに覚えたこの言い知れぬ恐怖を、ここでまた、それもまさか一方通行相手に―――。


―――だが。

その一方で彼は、
別の自分がこの状況で快感を覚えているのも認識していた。
278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/06(日) 23:13:03.70 ID:7wFHTcxWo

それは60年以上前に『敗北』してから封印した『人間性』。

プランの担い手である以前に、
魔術師であり戦士であり挑戦者であった頃のエドワード=アレグザンダー=クロウリー。

追い詰められた究極の状況下にて、
思考がいつもとは比べ物にならないほどに飛躍し、ありとあらゆる力が漲り、
不可能なことなど無いように思える感覚。

そして、本当に不可能を実現するとてつもない力にもなりうる衝動。

だが。

一方でそれは、代償として―――何もをも失う結果にもなりかねないこともある。

故にアレイスターはこの弱き人間の性を『憎み』そして封印したのだ。


確証も確実性も無い―――『希望』なんて幻想は。


なにせ本当に一度、
これを信じたせいで掛け替えの無い存在を全て奪われたのだから。

アレイスター『―――』

しかし眼前の状況下では、もうそんなことも言ってはいられなかった。
管理から人間性を排した緻密なプランは今崩壊し。


残された手段は、
このイレギュラーな衝動任せの『アドリブ』だけだったのだ。
279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/06(日) 23:18:47.96 ID:7wFHTcxWo

そうしてアレイスターは再び。


もう一度。


もう一度、その憎き人間的な衝動に身を任せて、状況の解決を試みる。


今眼前にある問題は、まず一方通行をどうやって制圧するかだ。


精神面からの刺激はもちろん、
小細工も通用しないとなれば今や方法は一つ。

強制的手段によって捻じ伏せるだけだ。

ただそれは先に証明した通り非常に困難だ。
エイワスの全力を投じようが、正攻法で挑めば確実に力負けするのだ。
さらに一方通行に知性が戻っている以上、その困難さは先よりも更に増している。


一方『―――おィ!!なンとか言ェやクソッタレ!!』


たが一つ。
一つだけ、それを覆す一手がまだアレイスターの方にあった。

一方通行は今すぐに、
確実にこちらの肉体を制圧しにかかってくるだろうが、絶対に殺しなどはしない。


上条当麻がこちらの手中にあるのだから。


己を取り戻し精神が正常に戻ったおかげでアレイスターの支配から抜け出した一方、
彼はアレイスターをそう易々と殺せなくなってもいたのだ。
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/06(日) 23:22:33.29 ID:7wFHTcxWo

それだけじゃない。
上条当麻は、今や覚醒を待つだけの段階である―――竜王の顎でもあるのだ。

そこを踏まえてアレイスターは、ここで一つの打開策を組み上げた。

それはプラン上では全く想定していなかったタイミングと運用法。

いかに確実に思えるとはいえ、そう『思うだけ』で、
実際それはイレギュラーなアドリブであることには変わりなく、
ここまでプランが崩壊していなければ絶対に手を出さない策ではあるが。

彼にとっては、これしか選択肢が見出せなかった。

その策の内容は単純。


覚醒させた竜王の顎で一方通行を丸呑みにするのだ。


ただ、丸呑みにする前に全力で応戦されてしまったら、やはり勝ち目は無い。

確かに竜王の顎の許容はまさに『無限大』。
スパーダや魔帝ほどの存在でも、さらには魔界丸ごとであっても、
力の強弱規模関係なく、理論上は存在そのものを腹におさめることができる。

ただし。

それらが『無抵抗』のまま飲み込まれてくれた場合だけだが。
もし魔帝を飲み込もうとしても、その前にあっさりと一撃で滅ぼされるであろう。

更に現状、エイワスと統合して『生』に転換した『程度』の竜王の顎では、
一方通行と正面から挑むのがきわめて無謀なのも変わらずだ。

しかし、それはあくまで一方通行が全力で抵抗したらの場合。
そしてそんな事、彼が彼のままであったら不可能なのだ。


竜王の顎を破壊する、つまりは上条当麻を殺すことなど絶対に。


打ち止めも妹達も手中から失った今、
アレイスターの手の中に残る、まさに唯一の一方通行の『弱み』なのだから。
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/06(日) 23:24:35.92 ID:7wFHTcxWo

その刹那。

アレイスター『―――』

アレイスターは成すすべなく、その場の床に仰向けに打ち倒された。
一瞬にして距離を詰めてきた一方通行によって。

いや、もはや抵抗しようとしても一切できなかったであろう、
それほどの差が両者の間に存在していた。

一方通行は彼の首の付け根を踏みつけながら見下ろして。


一方『―――いィ加減にしやがれ!!』


アレイスター『……』

これまた強烈な威圧感と殺意を覚えるが、
その声を最も占めているのはそんな負の感情よりも上条へ対するもの。

優しい。なんと素直で純真で優しき少年か。
そんな一方通行の本来の人間性が。

一方『―――何をしやがった?!あァ゛?!』

こちらの勝機となるのだ。


アレイスター『―――何をしたか?その目で直接見るといい』


そうしてアレイスターは手を下す。
彼の意識内の命令が飛び―――竜王の顎が『覚醒』。

遂に『死』から『生』へと転換し―――その鼓動が再び打ち紡がれる。

それはイレギュラーに対抗するために下した、
彼が自ら選択した半世紀ぶりにして最後であろうイレギュラー。

そんな彼の苦渋の決断は決して無駄ではなく、
まさに一方通行に対する最高の1手である―――。



―――はず―――であったのだが。
282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/06(日) 23:30:24.71 ID:7wFHTcxWo

唐突に響く。


エイワス『――――――なんだ。やれやれ、もう少し「楽しませてくれる」と思っていたのだがな』


場違いなまでに淡々とした声。

一方『っ!!』

その不意の声に、勢い良く顔を挙げて警戒の色を示す一方通行。
だが誰よりもその亡霊の声に驚いたのは。

アレイスター『―――ッ』

アレイスターだった。


エイワス『君には今までのやり方を貫いて欲しかったが。ここでそんな外法に頼るとはね』


アレイスター『―――なッ』

なぜエイワスが喋っている?
竜王の顎が覚醒し統合された時点で、エイワスと言う亡霊の思念体は消え去るのに。


それも一体―――何を喋っている?


エイワス『やはり因果に見放された子には、この障壁はさすがに無理があったか』


しかし事態はそれだけに留まらなかった。
この場の状況の全ての主導権が、遂にアレイスターの手から完全に離れていく。

次に続いた言葉は。



『『―――興醒めしたよ。エドワード』』



エイワスのものだけではなく、
宙に磔にされていた―――


一方『おィ―――か、かみ―――?』


上条当麻の口からの声も重なっていた。
283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/06(日) 23:33:47.09 ID:7wFHTcxWo

上条、一方通行はそう呼びかけたも、彼はすぐにその口を閉じた。
彼もまた、その異質な存在に気付いたのだろう。

喋っているのは―――上条当麻ではない、と。

アレイスターと一方通行。
それぞれがそれぞれの立場から、この異様な事態をなんとか見極めようとしている中。


『『ただ、それでも君は称賛に値する男だ。そして礼を言おう。良い暇つぶしとなり、そして―――』』


謎の存在は言葉を続けていく。
それも徐々に、その平坦な声にせせら笑うような色を滲ませつつ。

と、ここでようやくだった。
エイワスの像が上条当麻の体に重なるようにしては消え、その存在が竜王の顎に統合されていく―――のだが。


『―――蘇らせてくれたのだからな』


思念は明らかにそのまま存続していた。


『この―――「俺様」を』


一方『―――ッ!』


『俺様』、その特徴的な声色で発された一人称を耳にして、一瞬にして凍りつく一方通行。

そして同じくしてアレイスターも。
いや、彼は一方通行以上にその声に衝撃を覚えていた。

その『目』ははっきりと、上条の口から漏れる声の思念を認識していたのだ。
『相手』は隠そうともせず、挑発するかのように声に己の証拠を載せていたのだ。
284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/06(日) 23:36:22.78 ID:7wFHTcxWo

だが。

そこまではっきり示されていてもその身分は。


アレイスター『何者―――だ―――?』


こうして直接目にしていても尚、到底信じられるものではなかった。
まさに悪い夢を見ているとしか。


アレイスター『―――誰だお前は?!』


認められるわけがない。これが現実なんて。

目覚めたのが、竜王の顎『だけ』では―――『無い』なんて。

アレイスターは放った。
この『ふざけた事態』向けての、混乱と憤怒が混じった怒号を。


アレイスター『―――誰だ?!何者だ―――答えろォォォッ!!!!』


一方通行の足の下から放った。
すると。


『全く、この俺様がわからんのか?』


突然乾いた破裂音が響いては、宙の拘束が解けて上条当麻の体が―――。


―――いいや。
床に降り立つ前にはもう、その体は『上条当麻』ではなかった。
285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/06(日) 23:40:26.90 ID:099A/0EN0
一体誰条さんなんだ?
286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/06(日) 23:42:23.29 ID:7wFHTcxWo

燃える夕日のごとき光が一瞬溢れ、その体を包みこみ。
そして光の中から床に優雅に降りたその姿は―――。

光と同じ色をした髪に、端整な中性的な顔。
その細身に着ているのは、同じ色彩の独特な意匠のスーツ。


一方『――――――ンなっ……ウソ……だろ―――なンでオマエが―――』


その姿を見て絶句する二人。
だが、現れた男はそんな彼らと対照的に。

『まあ良い。誤解も無いよう、改めて―――劣等種のお前達でも理解できるように自己紹介してやろう』

揺ぎ無い自信と力に満ち溢れる声を発しながら、
その面をゆっくりと上げて。

                     カ ル コ ス             
『平伏せ―――下賤の「青銅の子」らよ―――』


炎ごときゆらめく、黄昏色の光を仄かに纏わせて。
圧倒的なまでに堂々と、そして神々しくまでに『尊大』に。


名乗り、そして同時に宣言する。


『我が王号は「人王」にして――――神号は「 竜 」』


暴虐なる人界の『古王』の復活と。


『そして全宇宙、因果の新たな主に成る――――――「唯一にして全て」』


第二の『創世主』へと成る者の誕生を。


『―――我が真名を魂に刻め。今宵から全宇宙の不変の真理となる言霊を―――』


『その輝きは、旧世界を焼き払う黄昏の光であり―――新世界を鋳造する暁の光』




                               フィアンマ
『その響きは―――――――――「 焔 火 」だ』




―――
287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [sage]:2011/11/06(日) 23:44:23.68 ID:7wFHTcxWo
今日はここまでです。
次は水曜に。
288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(北海道) [sage]:2011/11/06(日) 23:46:17.32 ID:havdHh5Ro
乙。一方さんが上条さん(元 を心配しててほっこりした。
そして真フィアンマさん中二病ドイヒー・・・
289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/06(日) 23:48:11.77 ID:kE8Z5PlAo
お疲れ様でした。
290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/06(日) 23:50:15.62 ID:CxKWsgEDO
真のラスボス・フィアンマさん来た!
アレイスターがどういう行動をするか気になるね
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/11/06(日) 23:58:12.39 ID:/tKmL60Go
フィアンマさん14歳こじらせすぎワロタwwwwww
やべえ続きが待ち遠し過ぎる
292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(兵庫県) [sage]:2011/11/06(日) 23:59:23.26 ID:J+9lUVjR0
Σ(;゚Д゚)フィアンマさん相変わらずけったいな赤スーツのままかよ乙乙!
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [sage]:2011/11/07(月) 00:16:47.95 ID:1WEMQjgoo
更新乙です。
優しい一方通行に対してフィアンマうぜぇwww。
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(群馬県) [sage]:2011/11/07(月) 00:48:52.78 ID:D7CiRVfn0
更新乙
あれ?フィアンマさん死んだはずじゃ?あれ?
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(岡山県) [sage]:2011/11/07(月) 01:06:47.41 ID:Y2eGH6Mvo
フィアンマを竜王の顎がそげぶ(食)った

そういうことか
296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [sage]:2011/11/07(月) 01:13:26.65 ID:1qd5EMSPo
>>294
準備と休息編から「俺様」で検索かければ隠れてるフィアンマが見つかる
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(神奈川県) [sage]:2011/11/07(月) 02:01:09.47 ID:IGJMqqc8o
フィアンマこじらせてんなーwwwwww
乙でした
298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(関西・北陸) [sage]:2011/11/07(月) 02:51:56.12 ID:tioa9grAO
お前らフィアンマを小物としかみてないだろwwwwwwww
299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/07(月) 08:36:12.31 ID:/xZG966DO
>>298
いや、全然
300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/11/08(火) 00:04:47.34 ID:GkqdftQZ0
せっかく復活したのに
フィアンマさん早々にそげぶフラグを立てたな
301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/08(火) 00:22:43.89 ID:effeoWfO0
フィアンマなんてスーパー状態で常時クイックシルバー掛ければ余裕
302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/08(火) 02:06:32.99 ID:ygbZn9aro
>>301
魔人化無で余裕じゃね?それどころか縛っても勝てそうな希ガス
303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/08(火) 06:42:30.41 ID:p4rvgGaeo
散々な言われようでワロタ
304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(大阪府) [sage]:2011/11/08(火) 10:15:18.02 ID:nWLuRKkK0
本編で見せ場ナシの超雑魚アリウスが
あんだけの見せ場有ったんだぞ

全能に近いちからを手に入れながらワンパンでふっ飛ばされたからって
俺様ちゃんを侮りすぎだろ
305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(熊本県) [sage]:2011/11/08(火) 22:08:58.62 ID:INUBQv/Uo
すっごいなぁまだ続いてんのか
306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(群馬県) [sage]:2011/11/08(火) 23:49:11.78 ID:ichDB+kV0
フィアンマ=創造+破壊+具現+上条の体+竜王 で合ってる?

今の面子じゃ無理ゲーだろ・・・
307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(岐阜県) :2011/11/08(火) 23:52:20.95 ID:VvJ9zLL20
きっとスパーダトリオが何とかしてくれるよ…
308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/10(木) 00:41:48.77 ID:YXw5gbk1o

―――

アグニ『ダンテ。まだ待つのか?』

ルドラ『ダンテ。まだ動かないのか?』

プルガトリオ、学園都市を映し出すとある階層にて。
ビルの壁面にしがみ付きながら、その双子の大悪魔は屋上にいるダンテに問いかけた。

もし彼らの肉体に頭部があれば、
ダンテから見てちょうど淵から突き出ているように見えるだろうか、
小さな子供が覗き込んでいるような姿勢だ。

もちろん、その筋骨隆々とした巨体を抜きにした場合の例えだが。

ダンテ「ああ。待つ」

落ち着かない双子にさらりとそう返す、足組み寝そべるダンテ。

彼らとは対照的に、静かに目を閉じているその佇まいは、
今にも寝入ってしまうのではというくらいにリラックス状態だ。

アグニ『いつまでだ?』

ダンテ「さあな」

ルドラ『わからないのか?』

ダンテ「ああ、わからない」
309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/10(木) 00:43:00.59 ID:YXw5gbk1o

アグニ『……』

ルドラ『……』

簡潔明瞭に即答され沈黙する双子。

その肉体に頭部は無く声のトーンも一定、
彼らの本体である魔剣の柄先の顔も見えないとなれば、その感情を読み取るのは難しい。

ダンテ「……」

だがある程度この双子と過ごせば誰でもが、
そんな無表情な彼らの感情を読み取ることができるようになる。

いや、厳密には読み取るのではなく『推測』か。

彼らはとても単純なのだ。
思考は常に直線的で、ダンテほど近しくなれば
その行動どころか次の一語一句までほぼ完璧に予想できる。

ダンテ「…………」

故にダンテは彼らの『おしゃべり』が耐え難い。
ろくに意識せずとも簡単に一語一句正確に予測してしまって再生し、
一歩遅れて本物がこだまのように同じ言葉を発する。

それのなんと、なんと騒々しいことか。

そんなやかましい合唱を防ぐに最も有効なのは、

彼らの単純な思考が話を拡大させていく前に、きっぱりと明言して出鼻を挫く。
つまり今のように受け答えすることだ。
310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/10(木) 00:43:54.15 ID:YXw5gbk1o

確かに付き合いが悪い態度ではあるが、
アグニ&ルドラ相手にはこのくらいがちょうど良い。

それにただ聞き流してわけではなく、
質問に対しては本当の事を返している。

アグニ『何を待っているのだ?』

ルドラ『何が来るのだ?』


ダンテ「さあな。わからない」

これも嘘ではない。
いつになったら何が来るのか、ダンテもわかってはいないのだ。

ただ。

その『何か』こそが、
この筋書きの核への入り口になることは確信していた。

ネロが魔剣スパーダを折ったことで、この『クソッタレな筋書き』はより雑に、
『本線』が浮き彫るになるのも躊躇わないくらいに大胆な『修正』をかけてくるはず。
塞き止められた水が溢れ支流を作るかのように、必ず別の形で莫大なストレスが噴出す。


その噴火口に飛び込み、突き進んだ先にこそ―――ぶっ壊すべき『何か』があるのだ。

311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/10(木) 00:45:17.88 ID:YXw5gbk1o

そして噴火は今や秒読み段階。

ダンテ「―――」

瞬間、ダンテは異様なざわつきを覚えて跳ね起きた。
今までには無い衝撃が電撃のように全身を走ったのだ。

それは彼のような領域、『筋書き』の存在を認識した者にだけ聞こえる、
この現実と呼ばれる『生』の世界が軋む音。


筋書きの『修正』が開始される音。


たった『今』、その始点として『何か』が『どこか』に現れたのだ。

その衝撃はもちろん他の超越者達にも到達していく。

魔界の深淵。
煉獄にて作業の傍ら、互いに顔を見合わせる―――。

バージル『…………』

ベヨネッタ『…………』

―――最強の魔剣士と最強の魔女。

そして。

プルガトリオの魔界に近い階層にて。


ネロ「……何だ……今のは……?」


アリウスを倒した後、
アスタロトの軍勢の残党狩りを再開していた『最強の人間』にも。
312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/10(木) 00:47:55.14 ID:YXw5gbk1o

そうしてダンテは立ち上がり。

ダンテ「ハッ―――ハッハ!!」

鋭い笑い声を発しながら、
確認するかのように両手両足の魔具と魔銃を軋ませる。

これまでは準備体操、さあここからだ、と。

巨大な流れは今、重要な局面を迎えたのだ。
それは最終ステージへと繋がる大きな布石。


『筋書き』と複雑に絡み合っているスパーダの血の宿命と、バージルの判断と魔女達との行動、
対する己の考え方とネロの選択。


そして今現れた―――『何か』。


役者と舞台は全て揃った。


ダンテ「―――トリッシュ!!準備は良いか?!」


この先には一体、
どんなクソッタレな展開が待ち受けていることか。

繋がりの向こうで見ている相棒へ声を飛ばしながら、
ダンテは嬉々としてビルから飛び降りた。


―――
313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/10(木) 00:49:12.28 ID:YXw5gbk1o
―――

 ミ カ エ ル
上条当麻は戦慄していた。
この身その魂の主導権を握る人格―――豪胆かつきわめて聡明な王を。

なぜ上条は戦慄しているのか。
それらの特徴を有しているのならば『優れている王』の範囲では、と普通は捉えられるであろうが。

実は王の特徴はそれだけでは無く、以下のことを更に有していた。


―――欲深く、嫉妬深く、傲慢で、倫理観は完全に欠如―――。


すると賢王は一転、『知性豊かな暴君』という最悪の君主像となり。
ここにもう一つ、『無邪気』というある特徴を加えると。


誰しもが戦慄する暴虐の君主、竜王となる。


かの暴虐なる王は、知性と力を持った『子供』そのものだった。

彼は崇高な目的意識など有してはいない。
更なる力の入手や勢力拡大といった、具体的な願望も無い。

彼の行動を掌握しているのは、ただ純粋な―――『娯楽欲』だ。

そしてとことん無邪気であるが故に、
それは今の人間の価値観からすれば常軌を逸しているほどだった。

興味惹かれ意外性があり刺激が強ければ、『何でも』構わないのだ。
314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/10(木) 00:51:26.08 ID:YXw5gbk1o

喜びなどといった快楽は当然、
怒りや悲しみ、恐怖といった絶対的な負の感情、
更には己の死でさえ、彼にとっては娯楽欲を充足させる『嗜好品』。

怒りや恐怖を抱かないというわけではない、
彼らもまた、生命の危機に瀕したり圧倒的な存在を前にすれば、その顔を引きつらせて恐れおののく。

そんな負の感情を彼らは娯楽として認識し求めるのだ。

俗な表現をすれば、とんでもなく恐ろしいホラー映画を見て怖がりたがるようなものか。
これだけならば今の人間にだって良くある傾向で、特におかしなものでもないが。


その娯楽を空想虚像ではなく、現実に『際限なく』求めるとなれば間違いなく異常であろう。


フィアンマという人間として、戦い、そして学園都市で予期せぬ敗北を味わったのも、
彼の根底の思念にとっては『意外性のある刺激的な展開』なのだ。

そんな狂った価値観と聡明な思考が組み合わさればどうなるか、その結果は自明の理だ。
問題を十二分に理解しながら、解決しようとはせずに更に効率よく油を注ぎ、
更なる『刺激的』な出来事を引き起こそうとする。

竜王は愚鈍ではない。
己にどうしようも無いほど酔狂していながらも、決して盲目ではない。

現実は嗜好品の塊、故に周囲にある小さなありとあらゆる存在が、彼の娯楽になり得るのだ。
瞬間の己の一挙一動、更には仄かな一風から雨の一雫までも。


彼は己の根底にある『娯楽欲』に忠実に従い、その力と知能をもって周囲全てを『嗜好品』にしようとする。


少し見方を変えれば―――『機械的』とも言えるくらいに。
315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/10(木) 00:53:44.21 ID:YXw5gbk1o

かつては、魔界による侵略が目前に迫っても尚、
圧倒的な魔の力に恐怖し絶望する、それも『楽しみ』。

                 カ ル コ ス
最下層の人間、『青銅の種族』の中から魔女・賢者という集団が台頭してきた際も、
彼らの力が巨大化するまで敢えて放置し事態を複雑化させて『楽しみ』。

魔界に抗うどころか敢えて優柔不断な姿勢でその綱渡りを繰り返し、
更に状況を悪化させて、それによって生じる人々の苦痛や争いを『楽しみ』。


そしてその先にある滅亡をもすら『楽しもう』とした―――狂気の王。


だが当時の人間界内における価値観では、
そんな竜王の人格も別段異常なものとしては特に認識されてはいなかった。

竜王とは、太古の人間界のあらゆる面を凝縮し抽出した『パンドラの箱』的存在。

つまりこの竜王から垣間見えるは、
天界によって解放される前までの『本当の人間界』の姿。

当時の人間界の中では、秩序だって明確な目的を掲げた魔女や賢者の方が異端であり、
他の大多数の神族は、竜王ほどでは無いにしてもこのような『狂った』価値観のもとに動いていたのだ。

そんな当時の人界が、天界の目にはどう映るか。
それはまさに狂気に満ち溢れた世界だ。

天界の価値観からもってすれば、
その世界は目を覆いたくなるほどに何もかもが狂っていた。


魔界が『暴力』ならば、人界は『混沌』の世界だった。
316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/10(木) 00:56:54.67 ID:YXw5gbk1o

善悪、正否、白黒を明確にしようとする天界にとって、
その情景は魔界以上に見るに耐えない世界であった。

故に天界はそれを問答無用で『悪』と断じ、武力介入を決意し、そうして一人の戦士が―――。

       ミ カ エ ル
―――上条当麻がその任の要となり竜王に挑むこととなった。


混沌に苦しむ下層の人間達を解き放つ、その大義の下に。


無論、後世の人類にとってもその存在は『悪』にほかならない。
天界によって界の基盤を再構築され、
天の倫理観・価値観の元に現代世界は成り立っているためそれは当然である。

また現生人類は、魔女賢者から一般人までその全てがかつて虐げられていた最下層の人間、
『青銅の種族』の末裔であるのだから、例え天界に植えつけられた倫理観が無くとも、

古の神族が絶対的にして永遠の『悪』であることには変わりないのだ。


それは決して災害なんかのような、『仕方ないもの』ではない。


苦痛・絶望・死を楽しむために求めて、そして無邪気に笑う。
それを最下層の人間から見て『悪』以外に何と呼べるのだ。

己が負の感情や死までをも娯楽と判定する、そんな機械的な―――ただ『純粋な悪』、それ以外に何と。
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/10(木) 00:59:06.64 ID:YXw5gbk1o

    ミ カ エ ル
故に上条当麻は戦慄する。

そんな古王の復活に。

楽しむために人間界を潰すのも厭わなかった竜王が、
創造、具現、破壊、その三つ創世主の因子を有して再誕することに。

それがどれだけ危険なことなのか。
三つの因子を統合し、かの創世主に並びそして超える『真の全能』と成った時。

この怪物は、全ての現実をどんな『嗜好品』に換えてしまうのだ?

      ミ カ エ ル
そして上条当麻は絶望し、憤怒した。
絶対に力が渡ってしまってはならない者に、究極の力が集ったこの皮肉な現実に。


一体何の『因果』でこんな―――こんな上手い具合に『最悪の展開』になるのだ、と。


「―――」

と、そう上条当麻の思考が至った―――その瞬間だった。

三つも創世主の因子を有したからか、『彼』はそこで認識してしまう。

フィアンマ                                
竜王がその領域に到達するということは、一心同体である彼の思念もまた同じく。
本来、何人も知ることの無い存在を上条は知ってしまうこととなった。


『現実』を構成する因果の連なり、それを支配する―――『筋書き』を。
318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/10(木) 01:00:46.22 ID:YXw5gbk1o

それは、いち個体の何者かの意志によるものではなかった。

無数の者の願望が集っては流れを形成して、
誰かが統率せずとも同じ方向へと向かう大河。

川筋を決められるジュベレウスが存在しない今、
その流れを支配しているのは、全宇宙、無数の生者の『無意識下』の本能的思念だ。

とはいえ、その集合体は明確な方向性を定めることは無い。
それぞれ世界やその中での立場でまさに千差万別で、統一など成されるはずもない。

その無数の願望の中で特に共通すること、
それが更に単純化されたものが、その時その時の流れの向きを決定していく。

そして今、ジュベレウスも魔帝も滅びこの混迷きわまる情勢。
先の見えない不安の中における流れの向きは。


―――三度、『絶対的英雄』を求める。


一度目、魔界とその他全ての世界の間で行われた、終わりの見えない戦争の終焉させる英雄を。
二度目、他全ての世界を飲み込む勢いの魔界の拡大、それを終焉させる英雄を。


そうして今もまた同じく、この『不安定な状況』を終焉させる英雄を。


「―――」


その英雄とは誰か。


それはもちろん―――スパーダの血族だ。
319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/10(木) 01:05:06.13 ID:YXw5gbk1o

誰しもがそう考え、そう望む。
上条自身も例外ではなくそう願う一人だ。

ダンテ、バージル、ネロ。
皆が皆、彼らスパーダの血に絶対的な英雄性、
もしくはいかなる存在にも打ち勝つ最強性を、彼らの姿に見ているものだ。

人界側の者達にとってはもちろん、
他の世界の者達からしても、魔界の拡大を防ぎ魔帝覇王を打ち倒した英雄の血族であり。

魔界の者達からしてみても、
裏切りに対する怒りよりも前にまずスパーダの力への最強性の認識と、それへの崇拝があった。
だからこそ、裏切られたことに対して異常なまでの怒りを覚えるのだ。


―――そう。

これが、この『最悪の展開』が生み出された原因だった。
どの世界の者達のの願望にも共通している点は、

スパーダ血族の英雄がここでまた躍り出て、
『どういった形』であれ、この混迷する状況を終焉させること。


つまりは、いかなる思いであれ、今この状況において『全ての意識』がスパーダの血族に集中しているのだ。


―――そんな願望は、『願望のまま』であったのならば特に問題は無かった。
こうして上条当麻が衝撃を受けることも無い。

しかし実際は、願望はその範囲には留まらず一人歩きして。
絶対的な影響力を有する『筋書き』となって現実に作用していたのだ。

このように。


英雄を、絶対的な英雄たらしめるためには――――――小さな希望の欠片一つすらない『絶望の舞台』と。


―――『最強の敵』が存在しなければならない―――、と。
320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/10(木) 01:08:09.70 ID:YXw5gbk1o

「―――」

ミ カ エ ル
上条当麻はこの筋書きの存在に只ならぬ恐怖を覚えて拒絶する。

その『筋書き』とは、もう理解を超えてしまっている概念域だった。
それまでの価値観を持ち出すのも場違いな領域であるため、
これが正しいのか間違っているのかも判断がつかない。

しかし。
ありのままの上条当麻の感情だけは、素直に―――きっぱりとこの筋書きを拒絶した。


ふざけんな―――んなもん納得できるわけがねえ―――何余計なことをしてやがる、と。


『どうしようもないからこそヒーローを求める』のと、
『ヒーローを出すために世界をぶっ壊しにかかる』はまるで意味が違うのだから。

ただそんな上条当麻に対して、『もう一人の彼』は真逆の反応を示した。


         フィアンマ                        オ モ チャ
筋書きは『 竜 王 』にとっては―――最高の『嗜好品』に見えたのだ。



『―――我が真名を魂に刻め。今宵から全宇宙の不変の真理となる言霊を―――』

彼は知っていながら。

『その輝きは、旧世界を焼き払う黄昏の光であり―――新世界を鋳造する暁の光』

あえて筋書きに沿い、
むしろこの騒乱をより複雑に、かつ巨大化させようとする。

                               フィアンマ
『その響きは―――――――――「 焔 火 」だ』


なぜか、それはもちろん、
こうして乗りに乗ってその『役』になりきっている通り。


筋書きに沿った方が――――――――――――『楽しそう』だから。


理由はただそれ『だけ』だ。


―――
321 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(青森県) [sage]:2011/11/10(木) 01:09:36.43 ID:YXw5gbk1o
短めですが今日はここまでです。
次は土曜に。
322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(大阪府) [sage]:2011/11/10(木) 01:10:31.28 ID:mYvt0pbro
乙ー
フィアンマさんマジ暴君
323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/10(木) 01:11:11.41 ID:kzS8n+Bao
お疲れ様でした。
324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/10(木) 01:11:16.39 ID:tFb3+BODO
スパーダの一族はどのような判断を下すのか
325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/10(木) 01:21:05.04 ID:BgF1MGZDO
>>1
乙乙乙tylish
パラレルエピローグで兄貴にスカボコにされたのも懐かしい思い出ですな右方さんww

次回辺りからダンテ本格参戦ですかね、ダンテ式バレットアーツ楽しみにしてますよ。
326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/10(木) 01:22:53.94 ID:khDZalhSO
乙。スパーダ一族と竜王の戦いも気になるけど、この絶望的な状況の中で上条さんがどんな風に竜王に抗うのかが楽しみだ。
327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/10(木) 01:24:33.22 ID:khDZalhSO
乙。スパーダ一族と竜王の戦いも気になるけど、この絶望的な状況の中で上条さんがどんな風に竜王に抗うのかが楽しみだ。
328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/10(木) 01:25:39.72 ID:khDZalhSO
乙。スパーダ一族と竜王の戦いも気になるけど、この絶望的な状況の中で上条さんがどんな風に竜王に抗うのかが楽しみだ。
329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(大分県) [sage]:2011/11/10(木) 01:42:03.71 ID:ZFG5Drsto


乙 か、スタイリッシュ大事なことなので だな
330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(北海道) :2011/11/10(木) 02:30:14.23 ID:7vxQxDpAO
>>1乙乙乙
この先の展開にwwktkが止まらないwwwwwwwwwwww
331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(兵庫県) [sage]:2011/11/10(木) 03:18:33.12 ID:5/PeSK250
>>326-328
どんだけ大事な事やねんwwwwww
332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/11/10(木) 10:13:53.92 ID:J2Xz4lLp0
アレイスターさん空気wwww
世界の筋書きにより外され気味になったwwwwww
333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(北海道) [sage]:2011/11/10(木) 12:10:21.49 ID:CEB9QJ9Co
ありのままry今日の深夜だと思ったら今日の未明に終わっていた。
不覚・・・!でも面白いからまいいや乙乙乙。
・・・ところで上条さん(真)って顎に食われずに残ってるんだ。これはフィアンマに感謝か?乗っ取られてるけど。
334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/10(木) 17:42:37.10 ID:tFb3+BODO
>>332
ちょっと出ないだけで空気とか言うのはどうかと思うぞ

マブカプ3のバージルかっけぇ
http://www.youtube.com/watch?v=ovLE3fK3cSQ
335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/11(金) 07:48:42.92 ID:zWch8tK10
世界の集合無意識はアレイ☆さんを前座扱いということなのか
フィアンマが立ちはだかる脅威役(メイン)と。
世「乙。君もういいからね」
☆「」

そげぶしとらんから復活あると信じてる
336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(群馬県) [sage]:2011/11/12(土) 12:31:24.55 ID:od6NPf7w0
Cra乙y!
たまに色々ごっちゃになる自分の頭がうらめしい
337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/12(土) 13:07:20.14 ID:P7Tt7OxW0
このSS読んでると猛烈にDMCやりたくなるから困る
338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長野県) [sage]:2011/11/12(土) 20:31:28.83 ID:LBRstAZ5o
そこでデビルメイ クライHDコレクション発売決定ですよ、来年だけど
ブラッディパレス登りながら投下待ちするかな
339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/12(土) 21:16:18.89 ID:VE4BWIRro
新しいDMCは残念な出来になりそうで怖いけどな
340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(岐阜県) :2011/11/12(土) 22:48:24.64 ID:UBwGRNP00
DMC4リフレイン楽しいです
341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(九州) :2011/11/13(日) 01:25:32.36 ID:lweLccuAO
>>340
携帯にしてはクオリティ高いよな

いつもROMって楽しみにしてる
342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/13(日) 03:05:12.57 ID:xxUCz63jo
―――

一方『何しやがった?!何をッ―――』

皆で倒したはずのあの男の姿を目にして、一方通行はアレイスターに詰め寄った。
足蹴にしていた彼の体をベクトル操作で宙に放り、
その胸倉を黒き腕で掴みあげて。

一方『―――なンであのカマ野郎が?!上条はどォした?!アイツはどこに行った?!!』

乱暴に揺さぶりこの理解し難い状況の説明を求めるも。


一方『―――答えろアレイスターァァァッ!!』


アレイスターは呆然としたまま。
瞬き一つせずに目を見開いては、あの中性的な男を見つめ続け、
まるで一方通行の言葉など届いてはいない様子だった。

そんな時。


『―――上条当麻ならここにいるぞ』


『ご親切』にそう告げてくる高慢な声。

一方通行はアレイスターの胸倉を掴みあげたまま、その声の源へと顔を向けた。
一閃するかのごとく鋭い視線を飛ばし、横目に睨みつけて。

その視線の先4m程の位置、そこには例の中性的な男。
一方通行の鋭い視線に彼は不敵な笑みを返し、己が胸に指先を当てこう言い放った。


『―――俺様が上条当麻だ』
343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/13(日) 03:07:47.12 ID:xxUCz63jo

からかっているのか、と。
常識の範囲内ならばその言葉を聞いて一蹴するであろうが。

たった今あの男の一連の登場の仕方を見、
その力の動きも観測した一方通行にとっては、ただの妄言なんかには到底聞えなかった。

一方『―――…………』

そう言い放ったあの男は、こちらの言葉を待っているのか、
高慢さが滲む薄ら笑いを浮べたまま黙っている。

一方通行は一度大きく深呼吸しては興奮した気を沈め。
アレイスターを、あの中性的な男とは反対の方向に放り捨てるように降ろして。


一方『…………フィアンマ、つったか?オマエの中にアイツがいるのか?』


今度こそその身も振り向かせて、正面から向かい合った。
と、そこで彼が放った声、その問いの内容よりもまずは『呼び方』に引っかかったのか、

相手は露骨に不機嫌そうな表情を浮べてこう続けた。


『フィアンマ、か。確かにそれは俺様の今の真名ではあるが』


『お前のその言霊は、「青銅の種族」として生きた最後の一世しか指していない』

もはや面目など気にならないであろう、
聞いている方も清々しくなるほどに突き抜けた酔狂っぷりで。


『真の俺様を指すのならばこう呼べ。「焔竜神王フィアンマ」、と』


一方『はッ……相変わらず口が減らねェ野郎だ。いンや、それどころかウザさ五割り増しか』


竜王『フン、まあ、「竜王」でもいい。お前等の乏しい記憶力でもこれならば大丈夫だろう』
344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/13(日) 03:09:39.72 ID:xxUCz63jo

一方『……知るか。オマエの「ただしいおなまえ」なンざどォだっていいンだよ』

一方『それよりも質問に答えてくれねえェか?竜王さンよ』

嫌味を篭められても一応『竜王』と呼ばれたことに満足したのか、
竜王は再び笑みを浮べながら「そうだったな」と髪を掻きあげて。


竜王『俺様の中にいる、という考え方は少し間違っている』


竜王『俺様が上条当麻、その言葉のまま受け取ってくれ』

一方『あァ?』

竜王『大昔にちょっとした事があってな。その際に彼と同化してしまったのさ』

竜王『その頃から俺様達は「同一人物」であり、この「青銅の種族」として生きた千世代の間が「片割れ」同士であっただけだ』

一方『…………』


竜王『だから、上条当麻を構成していた人格は俺様自身でもあるのだ』


一方『―――オマエそのものが上条当麻だァッ?』


とそこでこれ以上言葉を続かせないとばかりに、
耐えかねた一方通行が強く声を発した。

竜王の言葉は、どうやっても納得できないものだ。
竜王がもし上条の姿のままであっても、これだけは間違いはしない。

この竜王という人格が、
己の知っている上条当麻という男であるわけがない、明らかに別人だ。
345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/13(日) 03:12:51.92 ID:xxUCz63jo

一方『―――黙って聞ィてりゃ好き勝手言ィやがってよォ』

その下種な姿と口、そして明らかにあの『フィアンマ』として覚えている人格が、
己が上条当麻だと自称するのは不愉快極まりない。


竜王『おいおい、そんな言い方は無いじゃないか。インデックスを取り戻すために「共」にバージルに挑んだ仲だろう?』


一方『………………………………おィ。いい加減にしろよ』


インデックスを攫おうとした人格が、インデックスを守った男を自称するなんて。
許し難いにも程がある。

そんな風にして怒りに滾る一方で、彼は冷静にこの竜王の言葉も分析していた。

竜王の声、表面的な言葉には真実も含まれているのであろうが、
その根底にある意図は明らかに『冷やかし』だ。

挑発し茶化しているだけ。隠そうともしていないので明らかだ。
ここから更にこちらを逆撫でするために、誇張や嘘を平気で混ぜてくるとも考えられる。

となれば。

この竜王の声は今、真剣に耳を傾ける価値など無いに等しい。
そこから上条を『取り戻す』方法のヒントを得るのは困難だ。

そうして状況を分析した彼の考えは、このような結論に至った。

やはり―――まずはアレイスターから聞くしかない、と。

それはつまり。


一方『……チッ……』

なんと『胸糞悪い』展開か。


アレイスターはまだ『殺すわけにはいかない』。



この背後にいるどれだけ憎んでも憎み足りない『クソ野郎』を―――『絶対に守らなければならない』ということだ。
346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/13(日) 03:15:01.79 ID:xxUCz63jo

そして同じく。
これまた癪なことに、この竜王を殺すことも出来ないのだ。


上条とフィアンマが『同一人物』、
それがどんな仕組みで成り立っているのかわからない以上、あの男を殺すという選択など有り得ない。

一方で、アレイスターを連れてここから離脱するという選択も危険だ。
これまた何もわからない以上、最初から竜王を完全に放置する選択をするわけにもいかない。

今ある選択肢は一つ。
この男をできるだけ傷つけないように素早く制圧すること、それだけだ。

一方『(……クソッタレ)』

なんとも面倒極まりない状況か。
更にこの竜王も、一筋縄ではいかないのは明らかか。

ただの『フィアンマ』として相対した前回とは、人格と表面的な姿形は同じであるが、
同一なのはその点だけだ。

他の要素は全くの別物、規格外もいいとところだ。
こうして対峙しているだけでも、その存在や力の異質さを肌に覚える。

しかもその存在を構成している要素は単一なものではなく、
様々なものが混ざっているように見えた。

一方『……』

悪魔のものから、能力者や己と同じ力の他、
海原から覚えていたまた別系統の匂い、

そしてそれら『三つの系統が融合している』―――独特な上条当麻の匂いも、確かに存在している。


だが最も色濃く、その割合の多くを占めていたのは、


去年の『あの日』、異世界上で繰り広げられた魔帝とスパーダの一族の戦い、
その戦場を満たしていたのと同じ強烈な『匂い』。


そう、魔帝やダンテ達と『同一』にして飛びぬけて圧倒的な力だ。
347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/13(日) 03:16:32.67 ID:xxUCz63jo

なぜこの男からダンテ達と同じ匂いがするのか。
その理由なんか想像すらつかなかったが、それでもこれだけはわかる。


この竜王は紛れも無い―――『怪物』だと。


竜王『―――まあ、お前の話は後で聞いてやる』

と、ここで。
気を張り詰めらせる一方通行とは対照的に、これまた潔いくらいに高飛車な表情と声で。


竜王『その前に、「彼女」と話をさせてくれないかな?』


竜王は彼の背後のアレイスターを指差した。
その肉体は『美しい女性』である彼を。

竜王『―――おっと失礼。その「麗しい姿」でついつい』

続けて『わざとらしく』そんな言い訳をして。


竜王『では改めて。そこの「彼」、アレイスターと話をさせてくれないか?』


一方『…………』

その言葉に応じる理由など無かった。
具体的な用件はどうであれ、動機が悪意に満たされているのは明らか。

一方通行は声にしてではなく、その身に纏う張り詰めた戦意で返事を示した。
そんな彼を目にしては、竜王はため息混じりにこれまたわざとらしく苦笑いを浮べて。

竜王『おやおや、お前達はどうしてそうすぐ野蛮な方向に物事を考える?』

一方『隠してるつもりか?プンプン匂ってるぜ。雑な殺意がなァ』

そして次の瞬間。


竜王『なるほど、前回よりも随分と―――感覚が洗練されているようだな』


―――『オレンジ色の光』が瞬いた。
348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/13(日) 03:19:38.77 ID:xxUCz63jo

両者の間は僅か4m。
彼らほどの存在にしてみれば、
物理的には『距離』なんて言葉で表すのも馬鹿馬鹿しい程度の空間。

しかしそれは物理的な観点のみの捉えだ。


人界の古王と、人界の新たな王に相応しき領域の者。


そんな両者の圧倒的な力がひとたび放たれれば、
その空間は途方も無く危険で濃密な領域となる。

刹那。

竜王のすぐ頭上の空間から放たれた―――夕日色の光の筋。

一方通行の頭部、ちょうど眉間目掛けて真っ直ぐに伸びていく。
いや、放たれた時には既に『着弾していた』。
見切ることなど不可能とも思えるほどの速度だ。

しかし。

物理領域においてどれだけ速かろうが、例えそれが光速に等しかろうが、
物理領域から飛び出してしまっている今の彼らにとっては大した意味を成さない。

『速い』か『遅い』か、この神の領域でそれを決める要素はただ一つ。

『力のあり方』だ。

どれだけの量を篭められるかのパワー、どれだけ集束させて高密度を維持できるかのテクニック、
そしてその攻撃に的確な『意思』を載せられる精神力と判断力、
それらによって形作られる力によって全てが決まるのだ。

そうして開戦の狼煙たるこの初撃については。


一方『―――』


一方通行に軍配が上がった。
349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/13(日) 03:21:46.01 ID:xxUCz63jo

光が着弾したのは、彼が己が顔の前にかざしていた左手の平。

その蠢く闇を貫くことはできず、
光は斜め後方へと強引に向きを変えてられて、壁にバスケットボール大の穴を穿った。

弾きいなされても尚その集束は維持されたまま、
一切の余波も衝撃波も生じさせずに、不気味なまでに滑らかな切り口の穴を。

そのように捻じ曲げた光を横にすれ違うようにして、
一方通行は前へと瞬時に踏み込む。

全身の漆黒の闇から、真っ赤な火の粉を散らしながら―――。

ここで―――距離は3m。

と、それとほぼ同時にして、竜王の掲げた右手先に新たな光が出現、
莫大な力が一気に集束しては、オレンジ色の『光剣』を形成し。


それを手にしては、そのまま振り下ろすべく竜王もまた前へ―――距離は2m。


一方通行はそれを見ては更に姿勢を落とし。
次いで竜王の首元を掴み押さえ込むべく、引いて『溜めていた』右手を―――凄まじい速度で突き出した。

しかし。

この二合目で勝ったのは。


一方『ぐッ―――!』


今度は、振り下ろされた竜王の刃であった。
350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/13(日) 03:24:22.69 ID:xxUCz63jo

それは一瞬のタイミングの遅れと、
『速度』を決定付ける力の僅かな甘さが招いた敗北だった。

次の瞬間、一方通行の右手首から先は―――切り落とされていた。

一方『―――』

更に彼の目が捉えるは、竜王の左手に出現していた光剣。

その切っ先はまっすぐにこちらへと向いており、
今にも喉元へと突き上げられる直前だった。

だが。

状況的に必殺であったはずのその三合目は、竜王の思惑通りにいかなかった。

振り下ろされたばかりの竜王の右手、
その手首を一方通行が上から押さえるようにして掴み。

一気に引き寄せたからだ。


―――瞬時に再生させた『右手』で。


竜王の刃、その力の密度は確かに凄まじいものであったが、
一方通行から右手の存在を奪う水準にはあと少しのところで達していなかったのだ。

その右手で一気に引き寄せられ―――両者の距離は1m。

突き上げられた竜王の左の切っ先は、一瞬の差で一方通行の喉を捉えきれず。
彼の耳の後ろ、その黒く変質している髪先を掠り落としていくことしかできなかった。

竜王『―――ッ』

この時の竜王は、左手は振るわれたばかり、右手は押さえ込まれているという状態。

そう、一つの攻撃の失敗が、この無防備な瞬間を生み出してしまっていたのだ。
彼には、周囲からの『光』による対応という選択も確かにあったのだが、

この瞬間を見逃さずにして一瞬にして伸びてくる―――漆黒の左腕には到底間に合うものでは無い。

だが―――かの竜にはまだ別の選択肢があった。

一方『―――!』

その瞬間。
一方通行が掴む彼の右手首が突然、「ばちん」と『弾け切れた』のと同時に。


竜王の体が―――消失した。
351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/13(日) 03:27:01.61 ID:xxUCz63jo

それは『前回の戦い』でも多用していた―――『瞬間移動』。

いや、あの時よりも更に洗練されているか、
魔術や能力による『まがい物』ではなく正真正銘の空間移動だ。


竜王は消失しのたと全く同時にして―――彼の背後に出現していた。


その左手の刃で、彼の首を切り落とす瞬間の体勢で。


だが前回とは格が違うのは、一方通行もまた同じであった。

瞬間、彼は一瞬にして今の竜王の行動の把握し。
進化した知覚を最大限に稼動させて、相手の力の動きを感じて、
そこから『飛行先』の先読みを行い―――難なく読み切る。


故に、竜王が飛んだ先で目にしたのは―――翼で弾き上げられ、軌道を逸らされる己の刃。

この闇の主の首を落とすはずだった光剣が、
またしても、同時に屈んだ一方通行の髪先を掠るだけに終り。

次いで、振り向きざまに放たれてきた黒き裏拳が彼の視界を覆った。

竜王『がッ―――』

顔面に拳を叩き込まれ、
足が宙に跳ね上がるまでに仰け反りかえる竜王の体。

だが、彼の体がその莫大な衝撃で吹っ飛んでいくことは無かった。

次の瞬間、彼が弾き飛ばされていくよりも速く。
更に身を翻した一方通行が半ば殴るようにして竜王の胸倉を掴み。


そのまま床に―――叩き落したからだ。


一瞬にして割れて陥没する床、
しかしそこから破片が飛び散る事すら始まらないうちに、
間髪入れずに一方通行の翼が踊り。

そして一気に竜王の全身へと絡まっていき。


竜王をその場に固定し―――制圧した。
352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/13(日) 03:28:55.92 ID:xxUCz63jo

圧倒的な力の炸裂によって界が軋んだも、
物理領域まで届いた衝撃は、大地とビル全体をやや強く震わす程度のもの。

床は大きく割れ陥没してしまったものの、顕在化した破壊の跡はそれだけ。

半ばぶっつけ本番で、しかも打ち止めが同じ学区内にいるという状況で、
これほどの力を振り回すことにはいくらかの懸念もあったが、
どうやらほぼ完璧に統制し切ったか。

最初から最後まで力の集束は維持でき、ほとんど余波を生じさせずに済んだようだ。

一方『―――…………ッふゥッ』

腰を落とした姿勢でその竜王の胸倉を押さえ込んだまま、
一方通行はその安堵の意味も篭めて、一区切りを示す息をついた。

そんな彼を見上げて。


竜王『ッは……殻を破ったばかり、その力を到底扱いきれるとは思っていなかったが』


苦痛を滲ませながらも、
未だに不敵な表情のままの竜王が声を放ち。

竜王『十二分に使いこなしているじゃないか。「竜王として」の俺様をここまで圧倒するとは』

そして高らかに叫んだ。

竜王『―――なあエドワード!!本当に良い「駒」に仕上げたな!!』


奥にて、膝をついているアレイスターへと向けて。


竜王『―――その「駒」に守られる気分はどうだ?!はははは!!』



竜王『それも「その体」の「仇」からな!!』
353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/13(日) 03:31:47.65 ID:xxUCz63jo

一方『―――』

そんな竜王の言葉が放たれた途端、
一方通行は確かな気配の変化に気付いてその顔を向けた。

アレイスターへと。

瞬間、抜け殻のようになっていた彼の気配に、
いや、それ以前に元から『中身』の無いまるで機械のようなあの男に。

微かに―――ほんの微かに、『生々しい熱』が生じたのを敏感に察知したのだ。

しかもそれはどす黒くて強烈な、
こうして僅かな分だけでも瞬時に把握できる、一方通行が良く知っている『熱さ』。


そう―――『憎しみ』だった。


竜王『これは傑作だ!!聞えているのだろうエドワード!!どんな気分だ?!』

竜王『是非聞かせてくれ!!礼として俺様は「ローズの歯ごたえ」を聞かせてやるぞ!!』

明らかに挑発し侮辱している竜王の言葉、
当事者ではない一方通行ですら耳障りの忌々しい声、それが連なっていくたびに。



竜王『お前の「妻」の魂を引き裂いた俺様の爪から、「駒」に保護される気分は?!ははははは!!』



一方通行ははっきりと感じ取った。
俯いているアレイスターのその背に、全身に、色濃く重なっていく『憎悪』の影を。

今まで一度たりとも、
人間性の欠片も覚えなかったこのアレイスター=クロウリーに。


一方『…………ッ!』


生々しすぎる程に煮え滾った感情を。
354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/13(日) 03:33:29.41 ID:xxUCz63jo

―――そして。


その体の仇。

お前の妻。

魂を貪った俺様。

それだけの言葉で、
竜王とアレイスターの間にあった過去の因縁はおおまか予想が付いてしまう。

一方『―――…………つ……ま……』

素直で純真な一方通行、
そんな根が露になっている今の彼としては、絶対に知りたくも無かった過去が。


竜王『知りたいか?聞きたいか?この男の哀れで無様で罪深き所業の全てを―――』


一方通行の反応を見て、ここぞとばかりといった調子でニッと笑い、
これまた明らかに冷やかしの声を放つ竜王。


その時―――これはマズイ、一方通行は瞬時にしてそう状況を分析した。

ここはあのまま『動かないで』いて欲しかったアレイスターが。


面を遂に挙げて―――竜王を真っ直ぐに睨んでいたからだ。


―――その瞳を血走らせて。


竜王『あの男は昔―――』

そして彼は、そう口を開きかけた竜王の言葉を。



アレイスター『――――――――――――黙れ―――』



静かながらも、鋭いその一声で封じた。
355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/13(日) 03:34:55.51 ID:xxUCz63jo

竜王『ほお……これはこれは……』

そんなアレイスターの声に、
これまたわざとらしく嬉しそうな声を漏らす竜王。

対して一方通行は真っ直ぐにアレイスターを睨み、強烈な威圧感を放つ。

一方『―――アレイスター。黙ってろ』

しかし。

その制止の声にアレイスターが応じる気配はなく、
床に転がっていた銀のねじくれた杖を手に取り。


一方『やめろ―――止せ』


一方通行が他の翼を大きく広げ、
武力行使の意思を示しても、彼は留まる気など微塵も見せず。


一方『―――おィ、こィつは最後の警告だ』


そして立ち上がった。
その瞬間、容赦なく一方通行の翼が伸び、
アレイスターを再制圧―――。

―――するはずだったのだが。


一方『―――』


伸びていくはずの翼が―――根こそぎ『切り落とされていた』。

いつの間にか周囲の宙に出現していた―――『真っ赤』な光の筋に。



竜王『さてと、そろそろ俺様も―――「新しい力」を試させてもらうぞ』


356 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/13(日) 03:36:15.03 ID:xxUCz63jo

何が起きたのか。

それを把握するどころか、
こうなる僅かな兆しすら全く知覚出来ず。

一方『―――』

続けて更に間髪入れずに。

彼がわき腹に強烈な衝撃を覚えた瞬間、
その身が一気に吹っ飛ばされてしまった。

何が起き何で攻撃されたのか、彼がようやく知ったのは、
そうして壁に磔にされてからであった。


一方『―――ッかァァァア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!』


腹部を貫通していたのは―――『赤き光の槍』だった。

今の今まで竜王が行使していたものとは明らかに違う、
そして桁外れの力が篭められている凄まじい刃―――。

その刹那。

一方通行の思考は、この『赤き槍』の姿を過去の記憶の中にも見出す。

―――どこかで、どこかで見たような。

いいや、はっきりと覚えている。
あんな代物を忘れるわけも見間違えるわけもない。

あの赤い、赤い光の『矢』。

一方『なッ―――』

去年のあの騒乱の際。


あの異世界の決戦の時―――かの魔帝が使っていた―――。


一方『―――なンでコレをッ―――オマエがァァァァ゛ァ゛ッッ!!!!!!』


ダンテ達に雨のように放っていた―――無数の赤い『光の矢』だ。
357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/13(日) 03:38:46.88 ID:xxUCz63jo

響く、苦悶に染まりあがった一方通行の怒号。
そして彼の問いに返されたのは言葉ではなく。


立て続けに放たれた―――同じ六発もの『赤い矢』だった。


それらが一気に、彼の腹、胸、そして首へと突き刺さっていく。

一方『―――ァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!』

その魔帝の力による激痛と衝撃は、まさに今まで味わったことのないもの。
あまりの刺激に耐えかねた彼の咆哮は、内臓が口から飛び出してしまうか、というまでの勢い。
そんな、磔になっている彼の様子を見て、

竜王『はは、これまた驚いた。馬鹿みたいに頑丈だな』

いつの間にか自由の身になっていた竜王が、呆れがちに笑った。


竜王『これは魔帝の矢だぞ?そこらの大悪魔なら一撃で即死しかねない代物だ』


竜王『いくら俺様でも、「竜王だけ」としてだったら、立て続けに七発も浴びれば声すら出ないものなのだがな』


竜王『さて……お前に昔話を聞きかせるところだったかな?』


そうして再度、『昔話』を始めようとしたところ。


アレイスター『―――黙れと言っただろう』


またしてもアレイスターがその声を遮った。
358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/13(日) 03:44:34.03 ID:xxUCz63jo

竜王はそんなアレイスターの顔をまじまじと眺め、「ふむ」とわざとらしく声を発しながら、
お馴染みの酔狂しきった高慢な笑みを浮べて。

竜王『一端の責任感はまだ健在だったか』


竜王『真の大罪を背負うのは己のみ、如何なる形であれ、他者の記憶に残り偲ばれる事は拒絶する―――』


一方『―――やめろアレイスタァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ!!』


闇や翼をいくら伸ばしても赤き光の筋に切り掃われ、両者には欠片も届きもせず。
その咆哮も、もうアレイスターには届いていなかった。
彼がどれだけ大きく叫ぼうが、憎悪に滾る男の熱は冷めず。

それどころか、ますます激しく荒々しく噴き上がっていく。


竜王『―――そんなところかな、お前のケジメは。全く、非業の魔術師であり親であり夫であり一人の男だな。泣かせるよ』


アレイスター『黙れと言っているのだがこの腐れ竜が。私に用があるのだろう?』

竜王『ああ、そうだ、お前に用があったんだ。エドワード』


一方『―――――――――逃げろッッ!!逃げやがれッッッ!!』


ダメだ、これではダメだ―――上条を取り戻すためには、あの男が必要なのに。
万回殺したとしてもまだ殺したり無い、そんな男でも。

絶対に―――絶対に生きていてもらわなければならないのに。


アレイスター『…………………………………………』


それこそ今この瞬間においては―――打ち止めたちと『同じくらい』に、失ってはならない命であるのに。


一方『――――止せェエェェェ゛ェ゛ェ゛ェ゛!!』


そんな一方通行の叫びも虚しく。
竜王とアレイスターの姿は次の瞬間。

彼の目の前から消失した。


―――
359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [sage]:2011/11/13(日) 03:45:36.90 ID:xxUCz63jo
今日はここまでです。
次は火曜の深夜に。
360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(北海道) [sage]:2011/11/13(日) 03:46:48.72 ID:QQ5dFAvAO
乙!
先が気になる
361 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(茨城県) [sage]:2011/11/13(日) 03:47:53.77 ID:L71GXJ8y0

しかし赤い矢6本ってスパーダ血族レベルじゃないと無理だな
362 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) :2011/11/13(日) 05:06:30.27 ID:13ObDqDR0

つか一方さんどんだけ頑丈なんだよwwwwww
ダンテたちでさえ耐えられるのは5本が限度とか言ってなかったっけ?
363 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(北海道) [sage]:2011/11/13(日) 09:45:26.59 ID:osvi0q8Do
乙です乙です。
あれじゃない?魔帝級攻撃でも出力するのが竜王級だから気持ちランクダウンみたいな。
364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [sage]:2011/11/13(日) 12:59:06.78 ID:xxUCz63jo
紛らわしくてすみません。
ダンテ達でも危険なのは『赤い大剣』の方で、四発以上直撃すれば死ぬという代物ですが、
フィアンマが今回使ったのはそれではなく、魔帝がバッシバシ大量にぶっ放してきてた小さい光の矢です。
365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(岐阜県) :2011/11/13(日) 16:20:18.52 ID:AOcffcVg0
この一方さんならネロぐらいになら勝てるんじゃね
366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/13(日) 16:35:47.22 ID:uXpLhdlF0
竜王単体も今の一方通行も維持無しアスタロトクラスのはずなのに、魔帝の質より量攻撃で瀕死になるのか。
367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/13(日) 17:05:17.44 ID:X+diJI3AO
質より量ったってそもそもムン様の強さがマジキチだからなあ
1のダンテは矢3本直撃で動けなくなってたし真魔人状態ですら2本で悶絶してたくらい
368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [sage saga]:2011/11/13(日) 17:05:30.11 ID:uv/COLbu0
ふと、ダンテが「ジャッジメントデスノー!」って言ってた頃を思い出した。…どうしてこうなった…
369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(北海道) [sage]:2011/11/13(日) 17:55:41.18 ID:osvi0q8Do
違うぞ、ジャッジメントdeath!NO! だ。
370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟県) [sage]:2011/11/13(日) 18:02:12.86 ID:FzhF1k+e0
アレイスターまじ苦労人
御琴をゲコ太で釣ろうとしてた頃が懐かしい
371 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/13(日) 20:11:59.02 ID:xJsNC5fO0
DMCで上条さんやら一方さんを使いてえ
372 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(兵庫県) [sage]:2011/11/13(日) 21:27:09.24 ID:LRof23oJ0
炬燵の中から乙乙乙!
373 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(群馬県) [sage]:2011/11/13(日) 23:03:07.98 ID:/MRzPYUJ0
冬のナマズみたいにおどなしくさせるんだ!
374 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(徳島県) [sage]:2011/11/13(日) 23:38:05.81 ID:o5yc4xDG0
DMCで禁書勢力をつかえるとしたら
一方は初心者向けで
上条は玄人向けかな?
375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/13(日) 23:56:57.32 ID:z43SmSWSO
魔界、天界、旧人間界を別のモノに例えてみた。

<魔界>暴力団(の世界)。もしくは永遠に続く戦国時代な世界。

<天界>宗教団体(真っ当なのもちゃんとあるがインチキなのもある。内部はネチネチ)

<旧人間界>ごく一部を除いて薬をキメちゃってる人達ばかりの世界。

こんな感じか?
376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/14(月) 00:10:31.07 ID:uHJv3Q1wo
>>374
上条さんは銃器一撃判定なし、素手のみ一撃判定になったHeven or Hell(ただしボスはネロの掴めるタイミングのそげぶのみ一撃)くらいの難易度はありそう
377 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/14(月) 01:36:16.10 ID:L4w0C9RDO
>>376
それでも…ベオ条さんバージョンならなんとかしてくれる……!
378 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/14(月) 07:57:32.11 ID:uwe5IuLAO
質より量ったってそもそもムン様の強さがマジキチだからなあ
1のダンテは矢3本直撃で動けなくなってたし真魔人状態ですら2本で悶絶してたくらい
379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/14(月) 11:41:03.84 ID:uwe5IuLAO
なんか前のレスが書き込まれちった誤爆
380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/14(月) 12:24:44.95 ID:dtSFjKLDO
>>378
このSSのスパーダ家長男と次男は割と剣山みたいな状態になってもピンピンしてた記憶がある…
孫は精神崩壊寸前の状態で直撃喰らって一機減ってたけど。
381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [sage]:2011/11/15(火) 19:40:32.24 ID:NxeNH0vxo
すみません。
今日の投下は諸事情によりありません。
できれば明日の深夜に。
382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(北海道) [sage]:2011/11/15(火) 23:03:36.91 ID:6bu3/NXZo
その旨を良しとする!
383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/16(水) 00:23:50.75 ID:3JwD8+hn0
がんばってレッドオーブ稼いでくるんだ

>>382
そっちのスレも覗いてたから間違えたかと思ったぞフラッグファイター
384 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/17(木) 02:33:16.96 ID:frLJcbqn0
今日はもうないかな?
385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/17(木) 03:04:26.36 ID:ex0W4kCWo
―――

19世紀末、ある魔術結社に二人の若き魔術師がいた。

片方は物静かで紳士的、もう片方は活発で傲岸不遜と、
その人格は似ても似つかない正反対のものであったが、

一つだけ、彼らの間には『彼ら同士』にしかない共通点があった。


非凡なる頭脳を有していたことである。


これもまた不思議な縁か、
それとも『何か』が明確な意志の元にそうしたのか。

1000年に一人、いいや、その程度では収まらないほどの才が同じ時代に生まれ、
魔術界へと入り、同じ結社に属し、そして肩を並べていたのだ。

そうして、対等に知的共有できる相手が互い以外にはいなかった彼らの間に、
他には無い特殊な関係が形成されるのも当然の成り行きか。

それは実に奇妙な『信頼関係』。

生活スタイルも価値観も、
付き合う人の種類もまるで違うにも関わらず、
彼らは互いを最も理解し唯一の『親友』であり『ライバル』と認め称え合う。

そして互いに理解しきっているが故に相容れず、
彼らの間は常に一定の緊張感で満たされる、というものだった。

それだから、結社の同士達の目にはまさに犬猿の仲に映り、
そんな二人の一触即発の緊張に周囲は常に気をもんでいた。

当の二人にとっては最も気兼ねなく接することができる相手であるのだが、
喧嘩腰に聞える魔術談義が白熱し、実際に殴り合いにまで発展することもしばしばあっては、
周りからは到底『親しく』見えるわけも無いのである。
386 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/17(木) 03:05:57.56 ID:ex0W4kCWo

ただ彼らのこの奇妙な関係は、その密度に反比例するかのように短いもの、
僅か二年の間だけであった。

いいや、近い内に別の道を歩むことになることを互いに感づいていたのかもしれない。

だからこそ、周囲からは犬猿の仲と認識されるくらいに、
その思考をとにかく吐き出しては激しくぶつけ合っていたのかもしれない。

そうして二人が出会って二年が過ぎた頃、彼らの道は遂に別れることとなる。

活発で傲岸不遜であった一人は、次第に『魔界魔術』に傾倒していき、
その力に魅せられては天界魔術に見切りをつける形で突然離団。
更には魔術界の表舞台からも姿を消し。


人間の―――『力』を証明するために、ただそれだけに己が才と人生の全てを賭す。


そして物静かで紳士的であったもう一人もまた、
唯一対等な者がいない結社には、これ以上身を置く意味も無いと結社を離れ。
その才を惜しみも無く発揮し、魔術界を席巻し、革命を起こす―――そんな『隠れ蓑の裏』で。


一人の特別な女性と出会い、そして彼女の力から『真実』を知り。


古の天の英雄に共感し心酔し、かつその手段を否定して。


人間の―――『未来』を手に入れるために、ただそれだけに己が才と人生の全てを賭すようになる。
387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/17(木) 03:08:40.12 ID:ex0W4kCWo

―――ただ、と。

『今』になって『彼』は再認識する。

人間の未来を手に入れる、
その理想をただただ純粋に追い求めることができていたのは、60年前までだったのだ、と。

一度完全なる敗北を喫したとき、
エドワード=アレグザンダー=クロウリーなる人物は、
もう素直に前に進めなくなってしまっていたのだと。

アレイスター『……』

その人間性は全ての喪失に耐えられるほどに強くは無く、
中身はどす黒くなってしまったのである。

だからこそでもある。
二度目のプランを進めるにあたって、己から人間性の全てを除外したのは。

だが。

ここでもまた彼はようやく気付いた。
そのような人間性から完全に逃れること、絶対になどできないのだと。

いくら外装を取り替えても、
こうして根源の魂から絶え間なく噴き上がってくるのだから。

ミカエルに心酔し、そして―――ある女性を愛した『人間の男』のままの魂から。


アレイスター『…………』


怒りが。

憎しみが。

抗いようも無いほどに強く。
388 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/17(木) 03:11:04.93 ID:YCcZz5Dbo
ちょwwwwwwこんな時間にwwwwwwwwwwww
いやっふーだけどそろそろ仕事の時間なので
帰ったら見させてもらいます
お先に乙だけ置いておきますね
389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/17(木) 03:12:09.92 ID:ex0W4kCWo

意識内にて、最後に交わしたあの友の声が再び木霊する。


『―――お前の真の目的は「――」だ』


その言葉に今の彼は「そうだ」と返す。


そうだジョン―――その通りだ。


その点については君が正しかったよ、と

60年前のあの日から、この魂を突き動かしていた最大の原動力は理想を遂げることではなく―――


―――怒りだ。


       ローズ
―――『彼女』を奪った全ての存在への、と。


今まで対していた敵は天界。
彼女の仇とはいえ、その関与はあの状況を整えたという『間接的』な範囲に留まっている。
それ故だろう、魂の奥底に渦巻いていた憎悪は、理性による封印を破ることは無かった。

アレイスター『……』

しかし今や違う。

対面している存在は―――『直接的』に手を下した者。

その『行使の手』で彼女を噛み砕いた神の右席。
彼女を侮辱しその死をあざ笑う古の怪物だ。


彼の激情は今や、理性で抑えきれる範囲を遥かに超えていた。
390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/17(木) 03:15:16.86 ID:ex0W4kCWo

彼はもう諦めていた。
己を律することは止めた。

プランも終わりだ。

敗北したのだ。
この『二度目』もまた、完全に敗北し失敗した。


もう良いのだ。
もとより生に執着は無く、後悔はあれど未練など一欠けらも無い。
二度も敗北して、もう三度目に挑む気力も無い。

どうしようもなく疲れて、どん底まで絶望して、
二度と色を落とすことが出来ないくらいに憎悪に染まってしまった。


そして感情に再び身を委ねてしまったからこそ認識する―――これまでの行いに対する、桁違いの『罪の意識』と。


とてつもない『失望』。


元から人の命など全く気にしていない人格だったアリウスとは、決定的に違う。

本来のアレイスターは、古の英雄に思いを馳せ、一人の女性を愛し、
そして人間の未来を救おうとした『馬鹿正直な理想家』なのだ。

そんな彼が耐えられるわけも無い。


この60年の間に犠牲にしてきた存在―――大勢の子供達の『命』が、全て『無意味』だったことに。


己の行いはただ―――事態をかき乱し―――


救うはずの人類を―――更なる窮地に追い込んでしまったのだと。
391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/17(木) 03:16:47.43 ID:ex0W4kCWo

そうして絶望と失望に打ちひしがれて、憎悪に身焼くアレイスター
そんな彼に今できることはただ一つ。

それは些細な『後始末』であり、今や己にしかできないこと―――竜王を廃することである。


竜王『―――ッ』


アレイスターと竜王、次の瞬間に彼らが立っていたのは、
学園都市の薄暗いビルの中ではなかった。

黄昏色の光に満たされた大気、空。
黄金の縁取りが施された、延々と続く白亜の石畳。
そして崩れかかった、金銀煌びやかな装飾過多の列柱。


アレイスター『―――覚えているな?』


そこは古の人界に存在していた神族の界域、
その中でも最上層の『人界王』の間であり。


そして―――――――――竜王とミカエルが共に滅んだ地であり。


アレイスター『―――この場所を』


60年前、先代の右方と―――ローズが死んだ地。
392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/17(木) 03:18:59.85 ID:ex0W4kCWo

そこはアレイスターによって、
かの『界域』が学園都市の『中』に限定的に『再現』されたもの。

そう、『再現』だ。

それもアレイスターが再現しているのはこの風景だけではない。

かつてある時、そこで行われた出来事―――。


―――ミカエルが竜王に喰われ、融合し、そして竜王の思念を破壊して自滅させるに至るかの決戦。


その過去の『事象』をまるごと『今』に重ね合わせているのだ。

竜王『―――』

これこそ60年前に『行使の手』を打ち破った、
竜王の力に対するアレイスターの究極の切り札。

『彼女の目』が竜王の力から正確無比なる記憶を引き出し、
アレイスターの業で偶像となり『再現』される。


効果はもちろん文字通り―――過去の正確な再現。


かつてと同じようにして、
『竜王役』の思念は破壊されその力で自滅するのである。

そしてこれまた同じく。


代償として『ミカエル役』の魂も―――飲み込まれて共に死ぬことになる。
393 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/17(木) 03:20:21.90 ID:ex0W4kCWo

だがそんな代償も、
今のアレイスターにとっては何の障害にもならない。

むしろ彼はある種の悦びを覚えていた。

竜王『―――これは―――』

なぜなら。

一度目、人界を救うためにミカエルが。

二度目は、己を生かすためミカエルをローズが演じ。

この三度目にて。


アレイスター『……これも覚えているだろう?』


己が演じるのだから。

どういった形であれかの英雄、
そして妻と同じ『時間』と『苦痛』を体感できることは、

この瞬間の彼にとって唯一の―――そして最期の光であった。


アレイスター『―――この―――「右剣」を』

394 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/17(木) 03:23:41.18 ID:ex0W4kCWo

竜王は突然切り替わった周囲を見、
そしてアレイスターの『右手』を見て、その目を大きく見開いた。

煌々と輝く彼の右手―――そこに握られている白金の『光剣』を。

              ツルギ
それはミカエルの剣の偶像である。

かつて、かの偉大なる英雄が振るった十字教最高の刃。
更にあの決戦の際には、大任を果すべく天界のあらゆる力が集積されていた極限なる『右剣』。

この刃をもってミカエルは竜王に挑み、
喰われると同時にその魂を貫き、竜の思念を破壊したのだ。

そんな刃が、アレイスターの魂と意識と―――類まれなる『業』が許す限り、最大限にまで再現される。

アレイスター『―――ぐ―――がッッ―――!!!!』

その身を震わせるのは想像を絶する負荷。
しかし彼の意識が鈍ることなど無かった。


―――果てしなく強い憎しみと怒りが、その命続く限りは眠ることなど許してはくれなかったのだから。


彼は己の魂や体の悲鳴などお構い無しに、
全ての力をこの術に注ぎ込んでいく。

墓所はもちろん魔界からも、
もう隠れる必要も無いのだから天界からさえも、力を強引に引き出して。
395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/17(木) 03:25:23.77 ID:ex0W4kCWo

そうして。

彼の類まれなる技術と、莫大な力が集束したとき。

この術式の『強制力』は、
まさしく大悪魔・神の域と称される『世界への干渉権』をも手に入れて。

たちまち周囲の現実に―――偶像を上書きしていく。


竜王『こ―――』

竜王が何かを言おうと口を開きかけた瞬間、
その『前世』のフィアンマと言う人間の姿が―――剥がれ―――飛び散っていき。


かつての決戦の時と同じ、『竜』の真の姿へと変じさせられる。


黄昏色のたてがみのある竜の顔に、体表を覆うはさながら黄金の如く煌く鱗。

隆々とした胸板に、鉤爪のあるたくましい腕。
しっかりと床を踏みしめるこれまた屈強な獣脚。

そして後方に大きく開き伸びる―――翼と長い長い尾。

力図強く悠然としているその立ち姿は、まさに『竜人』とも言えるか。

心奪われる神々しさに満ち溢れながらも、
装飾過多の域に達している煌びやかさは、一方で形容し難い嫌悪と不安を抱かせる―――。


―――混沌の竜王。
396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/17(木) 03:27:45.27 ID:ex0W4kCWo

刹那。

黄昏色の光の衣を、炎のように揺らめかせながら。
力ずくで真の姿を暴かれた竜王は、
同じく光が篭る『竜の目』でアレイスターを真っ直ぐに見た。


かの時に抱いた驚きと怒りもまた、正確に『再現』されているのであろう、

アレイスター『―――はッはははは―――!!!!』

異形の瞳にそれらの感情を見て、アレイスターはたまらず笑った。
苦痛に顔を歪めながら、憎悪と絶望を滲ませて。



 ミ カ エ ル
上条当麻。

彼の思想に共感して、彼の英姿に心奪われ、
そして彼に成り代わってその理想を現実にしようとこの生涯を費やした。

志半ばで敗北し、掛け替えの無い存在を失っても、
それでも何度も己に自問し再び立ち上がった。

何があっても絶対に立ち止まるわけにはいかない、
何のために妻がミカエル役を自ら引き受けて己を生かしたのだ、と。

そうして二度目も60年かけて挑んだが。


結果はこのザマだ。

現実は懲りない彼に突きつけた。

お前は―――本物のミカエルになどなれやしない、と。


お前はどれだけ足掻こうが―――『生涯ただの一度も勝てやしないのだ』、と。
397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/17(木) 03:29:48.69 ID:ex0W4kCWo

―――ならば、と。

彼は最期に望む。
それができぬのならば。

せめて。
せめて、最期に一度だけ。

                          ミカエル
思いを馳せた、かの偉大なる『英雄』を演じ切らせてはくれないか、と。


アレイスター『―――はッ!!!!』


アレイスターはねじくれた銀の杖をその場に放り捨て、
『右剣』を一度大きく振るっては。


愛する妻の体で、尊崇するミカエルを演じて―――竜王へ向けて踏み切った。


できることならミカエルの抱いた理想を、その一片でもこの手で成し遂げたかった。
例え『ゆめまぼろし』でも。


一時の『幻想』でも良かったから―――。


―――それがローズの願いなのだから。




しかし、彼に対する現実の仕打ちはどこまでも冷酷だった。
彼のその最期の望みですら、返答は。


更なる『絶望の上書き』だった。
398 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [sage]:2011/11/17(木) 03:30:25.13 ID:ex0W4kCWo
ぶつ切りですが今日はここまでです。
次は土曜の深夜に。
399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/17(木) 07:08:31.84 ID:reiuJ3S4o
お疲れ様でした。
400 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/17(木) 09:34:53.20 ID:O469SRyDO
竜王ってガチでドラゴンだったのね
401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(北海道) [sage]:2011/11/17(木) 18:06:18.90 ID:8wtkIw7So
お疲れ様です。竜魔人バランさん。竜魔人バランさんじゃないですか!
402 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(群馬県) [sage]:2011/11/18(金) 18:22:23.98 ID:m7K/deoG0

竜王にライジングドラゴンうって欲しい
403 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/18(金) 21:25:26.95 ID:G4d/RZAR0
敵がギューンって来たらブレイクダァゥンして、ダンテェーィとか言ってる隙にホォーゥしてバババババってする。
そのままシュバっと跳んだ瞬間にヒヤ!ヒヤ!ヒヤ!ヒヤして、ブラストォ!の直後にレッツローック!
でスウィート!ベイベーッになったらゴーマリソーンになる前にバヒョッで周りの相手にカムヒヤッミ。
けどそれだけやってもまだ敵がベリカッベリカッベリカッならイィィィャッでホゥホゥホゥホゥホゥをキャンセルしてカマーンで打ち上げ、
最後にソノゲンソーヲブチコロース!クカキケコカカキクケククコカカキクココクケケケコキクカクケケコカクケキカコケキキクククキキカキクコククケクカキクコケクケクキクキクキコキカカカ――ッ!!してれば大抵の敵は倒せる
404 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(神奈川県) [sage]:2011/11/19(土) 04:27:52.33 ID:T0sTF+g20
さりげなく最後に混ぜるなww
405 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(徳島県) [sage]:2011/11/19(土) 19:41:49.05 ID:Dxkffh5x0
今の一方さんが圧縮圧縮ゥしたら破壊力がヤバいことになりそうだな
406 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(千葉県) [sage]:2011/11/19(土) 23:41:17.84 ID:vXph7klJo
人間界壊れたらどうなるの?
407 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(北海道) [sage]:2011/11/20(日) 00:08:49.98 ID:voailGHuo
人間界以外でも存在できる連中除いて人類抹消。
侵攻の目的を見失った魔界と、守る物のない天界との一方的な消化試合。
その後魔界内での玉座争い。ただし、以上はスタイリッシュ勢が無干渉だった場合。
408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [sage]:2011/11/20(日) 01:59:06.77 ID:qEQJ4VGio
>>406
>>407プラス、人間界の崩壊が免れないとなったらダンテ達でも他の世界に退避していないと危険です。
俗に言う大悪魔の領域に達していれば消滅はしませんが、
そのまま崩壊する人間界に残っていると虚無に放りだされて、魔帝が封印されていたのと同じ状態に陥ります。
409 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/20(日) 01:59:51.41 ID:qEQJ4VGio

駆ける一つの女体。
駆ける一人の男。

そして突き出される光り輝く天の剣。

その刃の前進には抵抗など無かった。
前へと突き進んだ勢いはそのまま、一切衰えることなくするりと。

竜の鱗に覆われた胸部に沈み―――そして貫通し―――背から切っ先が頭を出す。

そうして、アレイスターの魂はその刃を通り。
竜王に飲み込まれると引き換えに、怪物の思念を崩壊させる。

古の決戦を60年前と同じように、絶対的な強制力の下に完全再現する。
竜王役はミカエル役と共に自滅する、その完全再現からは神の領域の存在ですら逃れられない、

アレイスターの全ての技術と業が結集した、完璧にして究極の魔術。


人界の神を殺す――――――『神浄』の術式。


――――――そのはずだったのだが。



刃が竜王の胸を貫いた、それ以降は―――。



アレイスター『―――………………………………………………なぜ―――』



―――再現が『止まっていた』。


410 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/20(日) 02:02:13.99 ID:qEQJ4VGio

ここまできても、
彼の腕は些細な勝利すらをも掴み取ることはできなかった。
最後の最後まで、彼の運命は決して微笑むことは無く。

一回限りの究極の切り札は、その効果半ばで完全に停止してしまっていた。

これで全ての気力が失われた、そう言ってもいい。
アレイスターはこの状況を前にしては、
絶望と失望『だけ』の表情を浮べて、硬直し唖然とすることしかできなかった。


そんな彼に向けてか、これまた酔狂した独り言なのか。


竜王『―――「俺様を倒す」』


竜は仄かに瞳を輝かせながら、連なる牙の間から音を漏らした。
左手先の爪で、胸を貫いている刃をなぞりながら。


竜王『ただそれだけのために、天の力と技術の粋を集めて生み出された刃』


竜王『ミカエルの右腕に埋め込まれし、「俺様にしか効果が無い聖剣」―――』


そして今度こそ、
確かにアレイスターへと向けた声であった。



竜王『―――そうだ。お前への用はこれだ。俺も「これ」が確認したかった』
411 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/20(日) 02:06:51.25 ID:qEQJ4VGio

そうして竜王は、
その異形の顔でもはっきりと読み取れるくらいに『微笑み』。

竜王『そこまできわめて特化してる性質ゆえ、この「聖剣」に関することでは俺様も確証が持てなくてな』

竜王『例えこうして三神の力を持っていようが、直に俺様の魂に作用しかねない代物なんだよ。この剣は』

そう続けて、今度は刃を指で叩いた。
目障りだといった風に、大げさに目を細めて。


竜王『そうだ、この剣は俺様の唯一の弱点なのだ』


竜王『―――だが実に喜ばしいことに』

と一転、ここでまた演技がかった笑いを浮かべ。

竜王『二度とその弱点に怯えなくとも良いということが今証明された』


竜王『完全体である俺様の思念を崩すには、完全なる聖剣が必要』


そして今度は強く刃を握り締めながら。
鼻先同士が触れるかというくらいまでにその竜の顔を向き合わせて、強く確かにこう続けた。


竜王『だがお前でも、かの聖剣の完全再現は不可能であり』

            オリジナル
竜王『そして「ミカエル」は俺様と同一体』


まるで裁きを言い渡すかのように。


竜王『つまり今、何人たりとも―――』



竜王『―――この三神の力を突破せずして―――俺様の魂に届くことはかなわないのだ』
412 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/20(日) 02:08:22.67 ID:qEQJ4VGio

アレイスター『……ッ』

竜王『はは―――なぜ60年前と結果が違うのか、』

竜王『それは俺様がオリジナルであり完全体である一方、お前は本物のミカエルでは無いからだ』

竜王『その「女の目」で正確無比な情報を引き出しても、お前の魂程度では、完全なる聖剣の依り代の役は果せなかったということだ』


竜王『―――再現は再現。所詮はまがい物の域を出ない』


竜王『同じまがい物や、60年前の俺様のように不完全体には効果を発揮できるであろうが』


竜王『生憎―――今の俺様はまがい物でも不完全体でも無い』


アレイスター『―――そんな―――はずが…………』

そんな竜王の口から放たれた理論は、
アレイスターの認識とは全く異なっていたものだった。

確かに60年間のあの時は、半ば即席染みた短期間でこの術式を作り上げた。

だがその後の60年間の緻密な解析、更にこの10年間、幻想殺し、
すなわち『竜王の顎』という現物を前にしてのより正確な研究で、怪物の力の性質は全て調べ上げて得たデータは、

この『神浄』の術式は、
竜王の力に対して完璧な作用を有していると確かに裏打ちしているのだ。
413 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/20(日) 02:11:39.35 ID:qEQJ4VGio

油は、その量をどれだけ増やそうが、
火を投げ込めばたちまち引火するという性質は変わらないように。

不完全体であろうが完全体であろうが、
竜王の魂である以上絶対にミカエルの聖剣の効果からは逃れられない。


『神浄』の術式は『絶対に効果がある』のだ。


だがいくら、アレイスターがそう断じても。
確かなデータと証拠を元にどれだけ完璧に、確実に、非の打ち所なく「こうだ」と叫んでも。


目の前の『現実』は、そんな『幻想』をぶち壊すには充分すぎる威力を持っていた。


竜はあざ笑う。
隠すことも無く、そんなアレイスターをあからさまに嘲笑する。

竜王『確かにお前は良くやったよ。お前は、俺様自身の次に俺様の力の性質を理解しているだろうな』

怪物は刃を握っていた手を離すと、今度はアレイスターの首を掴みあげて、
その顔を更に前に突き出して。


竜王『着眼点も良かった。プランとやらは中々良く出来ているものだ。素直に感心するよ』


竜王『しかしお前はたった一つだけ。重大なミスを「犯し続けた」』

牙をむき出しにして彼の耳元で囁いた。



竜王『「人間的な感性」無くして―――』



竜王『理解しきれるとでも思っていたのか?―――――――――人の王であり「祖」である俺様の全てを』
414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/20(日) 02:14:42.32 ID:qEQJ4VGio

アレイスター『―――…………―――』

そう、アレイスターの認識は確かに正しかった。
彼の揃えたデータはどれも正確無比なもの。


問題なのは、それだけでは『足りなかった』ことである。


彼をここまで成功させた『やり方』。
人間的な感覚の一切を廃した徹底した論理実証主義。

人の感情すらも完全に数値化することも、彼にとっては不可能なんかではなく、
現に一方通行を筆頭に大勢の人々の人格をこうして操作してきた。

だがそれも『可能である』だけで、決して『完全』なんかではなかったのである。

竜王『お前は、俺様の顎も行使の手もただの「力の塊」、「道具」として見ていなかった』

竜王『上条当麻とフィアンマという二つの魂、それらと切り離して考えてしまい、』

竜王『その人間性が力に及ぼす影響や、力の相互干渉について正確に認識することができなかった』

アレイスター『…………』

竜王『確かに、お前が「AIM」と呼ぶ我等神族の残骸の力そのものは死んでいる。またそこには如何なる意志も含んではいない』

竜王『しかしな、単に意志を保有していないだけで、外部の意志の影響を受けないというわけではない』

竜王『例え死んでいようが、意志を与えれば、または影響を受ければ、ただの残骸の力であろうがある程度の意志を宿せるのだよ』


竜王『お前自身、その証拠は現に目にしていたじゃないか。「エイワス」や「ヒューズ=カザキリ」として』


アレイスター『…………ッ』


竜王『お前の言い方をすれば、「彼女達」はただの記号の集合体、プログラムか』

竜王『はははは、俺様には確かな「人格」にしか見えんがな。特にヒューズ=カザキリは、現世を生きている人間と何ら変わらない程に』


竜王『人の王であり祖としてここに保障してやってもいい。あの「小娘」は、紛れも無く人間と呼ぶに相応しい思念だぞ』
415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/20(日) 02:17:21.73 ID:qEQJ4VGio

そこで竜王は少し頭を引いては再び向き直り。

竜王『だが愚かなことに。人間的な感性を廃していたが故に、お前はその点に気付けなかった』

竜王『目の前で人間性に溢れた者達が干渉しあい、運命を捻じ曲げる物語を紡ごうとも、それでおもお前は見向きもしなかった』

竜王『それがお前が犯した最大にして唯一の失敗さ』

竜王『それでもある程度はこうして騙し騙しやってこれたが』

アレイスターの失敗、どの実像をここに明確に明示し弾劾した。

竜王『やはり全てが露になってくるこの佳境では誤魔化し切れず。結局、あの「ハデスもどき」の最後の進化を見誤ることとなる』

「プラン」、それは確かに完璧だった。
的確で非の打ち所の無い計画だ。
しかし。

その手綱を握るアレイスター自身が不完全だったののである。

だからこそ、つい先ほど、ほんの僅かなイレギュラー因子が原因で、
一方通行へのこれまでの操作が一瞬にして打ち崩されたように。

アレイスター『―――ッ』


竜王『そしてこの術式だ。そんな欠如したお前自身の認識で、俺様の人間性に直接影響する聖剣の性質を―――』


そして今、こうなったように。


竜王『―――完全に具体化できるわけもないだろう?』


失敗し敗北した。
そう、術式は『完璧』だったのにも関わらず。

アレイスターが不完全であったから―――。
416 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/20(日) 02:20:35.91 ID:qEQJ4VGio

それはアレイスターにとって、これまでの半生の全てを否定されるに等しい事実だった。

感情の類を完全に己が内から廃し、血も涙も無い鉄の人形となり。
ただただ目的のため理想のためにあらゆる犠牲を払ってきたその60年間、それが―――。

全て―――『最初』から過っていたのだ、と。

元から成功するはずが無かったのだと。

緻密に計算した正しいと思われた行動も、当然の如く全て裏目に出て。
中途はあたかも上手くいっているように見せかけて、結果は確実に最悪なものを引き寄せるのだ。


アレイスター『―――あッ…………』

―――どうしてだ、と。

どうしようもない、己という存在への更なる怒りと絶望と失望に沈み、
これでもかとばかりに苛まれていく。

―――しかしそれだけでは物足りないとばかりに。


竜王『おっと待て。お前の「罪」はこれだけではないぞ?』


竜はアレイスターの顔を覗き込むようにして、更なる残酷な真実を告げようとした。


竜王『もう一つ教えてやろう。厳密には、俺様が復活したのは「今」ではない』

竜王『完全体に戻ったのが今であるだけで、この意識が覚醒したのはもっと前―――』

倫理観が未だ定まっていない子供のような、純粋であるからこその残虐さか。

更なる絶望に落ちるアレイスターが見たい、
そんなただの『好奇心』を満たすためだけに。


竜王『―――「60年前のあの日」、あの瞬間だよ』
417 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/20(日) 02:24:40.70 ID:qEQJ4VGio

アレイスター『―――』

一瞬、その竜王の言葉を理解できなかった。
いや、正確にはもう理解したくなかった、か。

だが彼の意識はここまでのストレスに晒されても、
皮肉なことにその聡明さが陰ることは無く。

知らなかった方が良かった―――あまりにも残酷すぎる真実を聞いてしまう。

竜王『60年前のあの瞬間、この術式の再現によって、俺様の意識は「竜王として」存在していた』

竜王『そしてそのまま忠実に再現されていれば、竜王の魂はまた破壊され、その意識と記憶は再び完全に封じられ、』

竜王『1000代繰り返してきたようにまた一人の青銅の種族として輪廻する』

竜王『しかしこのとおり、この術式の再現性は不完全だ』

竜王『その時は、俺様が不完全体であったこともあって力の暴走による自滅には追い込めたものの、』


竜王『魂への影響は表層の記憶を飛ばしたのみ。そして「その状態」のまま―――俺様は輪廻したのだよ』


それはすなわちこういうこと。


竜王『俺様の意識が「竜王として覚醒」したのは―――60年前。お前がこの術式を使ったあの瞬間だというわけだ』


アレイスター『―――』

この状況の原因、
竜王を蘇らせたのは紛れも無い―――アレイスター自身であった、と。


竜王『だからお前に礼を言っただろう?俺様を復活させてくれて感謝する、と』


しかも結果として。


竜王『ローズを捧げてまでしてくれてな』


―――最愛の女性の命と『引き換え』にする形で。

418 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/20(日) 02:26:10.63 ID:qEQJ4VGio

その事実を認識した瞬間。
彼の意識は絶望の底へと向けて更に加速していく。

アレイスター『…………はァっ……―――!』

感情は爆発し。

鼓動が高鳴り、胸の中で不快な感触渦を巻く。
空気を求めて喘ぎ、呼吸が加速し、吐息には熱が篭っていく。

竜王『そして記憶無くとも意識と本能が存続している以上、』

竜王『輪廻した俺様が、自ずと「聖なる右」の完全なる力と「幻想殺し」を求めたのもまた必然』

体中が火照り、
その熱で揺らがされているかのように視界が霞んでいく。


竜王『前世の「右方のフィアンマ」も、その実は単なる記憶喪失状態であっただけで、厳密にはそのまま俺様だったということだ』


神浄の術式が完全に砕け、聖剣は霧散。
竜王が手を離すと、彼はそのまま白亜の床に跪くようにして落ち。


アレイスター『―――ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛―――!!』


彼は身の内を焼く絶望に耐えかねて咆哮した。
419 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/20(日) 02:32:04.46 ID:qEQJ4VGio

己の何もかもが憎かった。

彼女の命と引き換えにのうのうとここまで生きてきた己が、
己の存在そのものが憎くてたらまらない。

60年前のあの時、己はおとなしく死んで、彼女を生かし逃がしていたら―――結果は変わっていたのか。
少なくとも、こんな最悪の状況になんかにはなってはいなかったのかもしれない。


己は一体何をしたのだ。
己は一体、この世界に何を残したのだ。

ただぶっ壊しただけだ。
この手で、彼女も理想も何もかもを自ら破壊してしまっただけ。

ミカエルがその身と引き換えに打ち倒した竜王を―――再び解き放っただけ。

人類の確かな未来を手に入れようとするつもりが。
引き寄せた未来は、天と魔の衝突に巻き込まれるという人類終焉のシナリオと―――古から蘇った悪しき混沌。

人類を解き放つことはできず、逆にパンドラの箱の中身を解き放ってしまう始末。

アレイスター『―――ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ―――……!!

叫びながら内では「なぜだ」、と。

アレイスターは自問する。
なぜお前は生まれた。

エドワード=アレグザンダー=クロウリー、なぜお前は誕生したのだ、と。

しかしそんな問いになど答えは返ってこない。
ただ告げられるのは。

竜王『因果はもとより、己が運命からすらも見放された、人界の不運不幸の全てを背負ったかの如き哀れな男よ』

竜王の口からの冷酷にして残酷な―――。


竜王『人は、誰もお前を許しはしない。誰もお前に同情などしない。誰もお前に慈悲など与えやない』


―――否定しようの無い事実。


竜王『誰しもがお前に失望し、誰しもがお前を憎み恨む―――そうだ。ローズさえもな』
420 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/20(日) 02:34:01.61 ID:qEQJ4VGio

竜王『結果としてお前は人類を裏切り。ローズを裏切ったのさ』

アレイスター『―――ア゛ア゛ッ…………あぁ……』

竜は俯く彼の傍に屈み耳元で告げる。
その声には欺瞞と嘲りが満ちてはいるが、紡がれる言葉は真実しかない。

竜王『常に勝者であり挑戦者であり続け、スパーダの一族と刃散らしてまで己が望みを成し遂げたアリウスともまるで違う』

アレイスター『……………………』

まさにその通り。

あの友のように己の芯を貫けなかった。
ありのままの己を、その全てを受け入れることが出来なかった。

この耐え難い感情を制する強さは無かった。


竜王『お前は一度も因果を味方につけることはできぬまま』

そう、一瞬たりとも英雄になどなれず、演じることら叶わず。

竜王『ただの一度も勝てぬまま』

そう、如何なる戦いにも最後の最後には無様に敗北し。

竜王『ただの一度も救われぬまま』


そう、どんな運命にも英雄に救われることも無く―――。



竜王『失意と絶望と後悔の中で死ぬのだ』



―――ここで終るのだ。
421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/20(日) 02:35:23.29 ID:qEQJ4VGio

次に何が起こるか。

竜王によって、『神浄』の術式と共にこの身ごと消し飛ばされるのだ。

俯き地しか見えていなくともわかる。
竜王の腕に出現しているであろうあの魔帝の矢によって、
周囲がぼんやりと『赤く』照らされているのだから。


アレイスター『…………』


哀れで愚かで不運で罪深い、人類最高の天才であり魔術師。
そんな彼の最期の言葉は。


アレイスター『………………………………………………………………すまない……ローズ………………』


亡き妻への、無念に染まった謝罪の言葉。

ただそれだけだった。

直後、周囲が『赤き光』に満たされて。
強烈な衝撃と共に全ての近くが途切れ。



そしてあっけなく終った―――。
422 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/20(日) 02:35:53.55 ID:qEQJ4VGio

―――はず、だったのだが。




アレイスター『…………』

不思議なことに、意識は今だ存続しており。
一瞬の知覚の途切れも、次の瞬間にはすぐに回復していた。

アレイスター『…………』

見えるのは白亜の床に、『赤』。

それも赤は赤でも、魔帝の矢の光ではなく―――カーテンのようにたなびく、『真紅の皮革』。


見上げると。


カーテンの正体は『真紅のコート』で。


その上に見えるは『銀髪』に―――肩に載っている『白銀の大剣』。


そう、眼前にあったのはまさしく。


アレイスター『…………………………』



正真正銘の『英雄』の背中だった。
423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/20(日) 02:38:54.75 ID:qEQJ4VGio

だが。

『救われた』彼の内を満たしたのは歓喜ではなく、
安堵でも救済でもなかった。

アレイスター『なぜだ……なぜ…………』

こみ上げてくるのは。


アレイスター『なぜ「今頃」になって―――ッなぜだ?!なぜあの時―――私達の前に現れなかったッ?!!!』


怒り。

                                           お 前 ら 
アレイスター『なぜ60年前のあの日に―――「スパーダの一族」は私達の前に―――…………ッ?!!!』



己と言う存在をこの世界で躍らせる、『気まぐれな現実』への憤怒だった。


アレイスター『―――……なぜだ……?!…………なぜ……私とローズは…………今の時代に…………生まれなかった…………』


その男の叫びに、英雄は背中越しにさらりと告げた。
一切の感情が除かれた、平淡で冷ややかな声で。


『―――何をやっても常に遅れ、時にはどうしようもねえくらいに完全に手遅れになる―――』



                                            ヒーロー
『―――悪いな。そういうクソッタレな存在なんだ。「英雄」ってのは』




―――
424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [sage]:2011/11/20(日) 02:40:13.60 ID:qEQJ4VGio
今日はここまでです。
次は水曜に。
425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/20(日) 02:42:31.63 ID:O9qVEwRDO
やべぇ、ダンテかっけぇ
あとアレイスターさんカワイソス、ワロエナイ
426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/20(日) 02:44:40.33 ID:vCIuhIvwo
お疲れ様でした。
427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/20(日) 02:47:39.02 ID:AwcovQ+s0
乙です!!
ダンテキター!!!
428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/20(日) 02:49:31.63 ID:CQgatjIC0
アレイスター・・・
429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/11/20(日) 03:00:18.65 ID:xkevnsrh0
フィアンマとっとと片付けてアレイスターとの決着かと思ったら
アレイさんフルボッコwwww
原作描写では絶望的な状況+能力なし、
それでも抗って抗って望むものを救えた浜面にはどこか思うところがあったようですが
アレイスターは再び立ち上がり抗うことができるのだろうか・・・!?
水曜が今から楽しみです
430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/20(日) 04:20:18.30 ID:qJGROxU8o
乙です
今更だけど人間界の神って基本的にはギリシャ神話の神々なのかな?
431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(神奈川県) [sage]:2011/11/20(日) 08:01:07.91 ID:iZH8WU2n0
乙。
幻想殺しって竜王の顎のことだったのか。
別物かと思ってたぜ。
432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(北海道) [sage]:2011/11/20(日) 08:10:47.04 ID:voailGHuo
乙です。ダンテはそれでいいのさ・・・ヒーローは遅れてやってくる、だろう?
433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(兵庫県) [sage]:2011/11/20(日) 11:17:22.63 ID:btqvxCtu0
(`・ω・´)「"英雄"の致命的欠陥は力無き多数が不幸にならないと誕生しない事だ」

ダンテさんは良くわかっていらっしゃる乙乙乙!!
434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/20(日) 11:26:44.94 ID:MLI+Iva+0
乙乙乙

スタイリッシュヒーローキター!!
435 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [sage]:2011/11/20(日) 15:07:14.47 ID:RX4KuQFHo
>>430
アレイスターがプランのベースにしたのがギリシャ系というだけで、人間界の神はギリシャの神々だけではないです。
例えばアレイスターの妻のローズの「目」は、エジプトのホルスの性質であったりなど、
人工能力者達はみなギリシャ系ですが原石はそうとは限りません。

神話・信仰のどれが人界系か天界系か、大まかに分けると以下の様に。

人界系
メソポタミア神話系、エジプト神話系、ギリシャ神話系など

天界系
旧約・新約、インド神話系、ケルト・北欧神話系、メソアメリカ系、日本神話など

古代に広く栄えたが紀元後には衰退、
現代では一般的に信仰として存続していない、といった特徴があれば基本的に人界系、

紀元後に栄えて、または現代でも広く信仰されているという特徴があれば基本的に天界系、
かつ唯一神教であれば確実に天界系となります。

ただ、阿修羅やケルベロスは実は悪魔だったりなど、
細かい点では伝聞と真実が異なっていたりしている通り、これはあくまでも大雑把なグループ分類です。
436 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/20(日) 17:27:35.92 ID:O9qVEwRDO
作者さんアンタすげぇよ
437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(群馬県) [sage]:2011/11/20(日) 20:02:59.91 ID:8Upto42z0

相変わらず設定がすげぇw
438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(徳島県) [sage]:2011/11/20(日) 22:01:34.52 ID:eaDYVIg70
じゃあ世界三大宗教は天界系ってことになるな

キリストとかブッダは天界からの使者だったのか?
439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/20(日) 23:07:20.26 ID:MLI+Iva+0
キリストは、人間界に興味と愛情を抱いた数少ない神の加護を受けた人間だったんじゃね?

ブッダというか釈迦は自力で神の領域までたどり着いた、みたいな
440 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/20(日) 23:23:48.67 ID:Uyz1DdvWo
そして下界で有給中、と
441 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関東・甲信越) [sage]:2011/11/21(月) 00:17:08.32 ID:F1uKVoIAO
…人間界滅んでも立川は大丈夫かもしれないな
442 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(千葉県) [sage]:2011/11/21(月) 01:48:27.72 ID:2VBd4sUdo
ダンテきたー!
設定の細かさがやべえw
443 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(京都府) [sage]:2011/11/21(月) 11:40:23.15 ID:R1TXV0x6o
竜王にも一方さん≒ハデスみたいな固有の名前があるんですか?
ミカエルとの絡みだと赤龍としてのサタンっぽいけど、そうすると
天界か魔界になりそうだし
444 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [sage]:2011/11/21(月) 20:53:57.59 ID:vqBMy5J6o
>>443
当SSにおいては、竜王は「サタンのモデル」といったところです。

実はこれも阿修羅やケルベロスと同じく、
現代に残る伝承が必ずしも完璧な真実を語っているわけではない例の一つとなります。

「竜王含む人界神の過去は全て葬る」という天界の立場の時点で、まず後世の人間達が実像の全貌を知り得ることは叶わず、
(そもそも「人界神」が存在していたことすら知るのは至難)

僅かな情報ですらも短いスパンで世代が入れ替わっていく人間世界、その目まぐるしい歴史に揉まれて改変されていき、
かつ天界の意識操作で都合良く誘導されてしまった結果、

また悪魔という言葉は、大多数の一般の人々にとっては「魔界の生命種」というよりも
「神と人の敵対者であるとにかく悪しき存在」という認識の方が強いため、
そこも混同されて竜王=神と人の敵対者≒悪魔(サタン)という解釈で現代まで記述されてしまった訳です。



※ちなみにここから以下は、本筋にほぼ全く絡まない完全な蔵入り設定ですが、
 イエスと釈迦の名が出たので、ついでということで彼らに繋がる歴史を。
※かなりかなり長いです。

現代では一切の情が入る余地の無い天界と人界の上下関係ですが、
かつては天照達の例のように、天界神が人界に降りて友として関わっていた時期がありました。

しかしある時、「世界の目」の発見によるジュベレウス派の管理方針の変更に伴い、
人間界と天界の物理的な接続は遮断、上下関係を絶対的なものにするため、天界神と人間の直接的かつ友好的な接触を一切禁じます。

そこで天界は、人界内で大きな力が必要とされる作業を行う際は、
特定の人間に力を与えて「使者」とし、天の御業を代理させるという手法を取るようになります。

それがアブラハムをはじめとする「預言者」やメタトロンなどいった者達です。

とはいえ当時の関係も完全に冷え切っていたわけではなく、
それら「使者」の人選は、才能はもちろんですがその他に人徳や、時には暖かい愛情によって加味されていました。
更に中には眷属として天界に受け入られる者もおり、
特にメタトロンなんかは大出世に出世を重ね、元々人間だった経験もあってセフィロトの樹の責任者を任されるに至ります。

しかしこのような関係も、ずっと続くことはありませんでした。

天界神が離れたことによる影響と人間界生まれの魂の本能によってか、
ある時、古代メソポタミアをはじめとして各地で人界神信仰が再燃し、文化の成熟と共に人界神へ近づく学問研究も加速、
最終的には、アレイスターの話でも少し出たとおり古代ギリシャのホメロス達が人界の真理にまで到達してしまいます。

当時の人間界を取り巻く状況は、明日にでも魔界の侵略が始まってもおかしくないものであり、
「世界の目」が存在している人界を失うわけにはいかないジュベレウス派からすれば、
管理体制を崩しかねない人間の探求は、すぐにでも解決せねばならない緊急事態だったわけです。

結果的にはホメロス達は失敗したものの、その後も人界信仰とその学問の波は衰えることは無く、
マケドニアの拡大によるオリエントとの融合、ヘレニズム文化の確立拡大、アレクサンドリア図書館などでの更なる学問探求が進み、
また東では焚書坑儒などの儒教思想弾圧、

西ではギリシャ文化を受け継ぐローマの覇権拡大、
それによるケルト信仰などの天界系他信仰の同化吸収など、天界にとって人界内の状況は更に悪化していき。

遂にジュべ派が「おい良い加減どうにかしろ、これ以上悪化したら武力でもう一度人界洗浄すんぞ」と、
それぞれの下位派閥に圧力をかけるに至り、

それで執られた大規模かつ徹底された「管理強化策」によって、魂のみならずその根底の思想、
価値観や倫理観といった要素も全て「天界風」に「再修正」され、現在の状態へと繋がることになります。

そして当時、その「管理強化策」の使命を与えられた「使者」が、
釈迦やイエスといった現代に続く信仰の直接的な「始まりの者」でした。

そのような背景の元、紀元0年から約±400年の期間中に、
人界神信仰は最盛期を迎えると同時に即座に天界系に廃絶され、
もしくは乗っ取られる形で吸収同化されその後は急激に衰退していくことになります。

ちなみにイエスと釈迦は両者とも各派閥の神に愛された「人間」ですが、
彼らは本筋には絡まないので、天の使者となる詳しい経緯は明確に設定していません。

ただ諸々の事からすると、釈迦はアレイスターと同じく魔神の領域の超弩級の天才で、自力で真理に到達して天に見初められた、
イエスは天に愛されたマリアが生んだ半人半天の選ばれし子(天界視点では管理強化策の要)、といったところが妥当でしょうか。


ということで、ここに設定厨の>>1の余談、長々とお目汚し失礼致しました。
またこれらは全て、あくまでも当SS内における設定です。
445 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(群馬県) [sage]:2011/11/21(月) 21:33:23.62 ID:LZ7vxWHl0
設定が凄過ぎるwどれだけ考えてるんだよw
446 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(京都府) [sage]:2011/11/22(火) 00:08:28.93 ID:OrLmq9Bso
>>444
モデルですか、なるほど…

というか、これだけ設定が練られてるならもうオリジナル作品いけますね
既に並みのラノベより出来上がってるしww
447 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(北海道) [sage]:2011/11/22(火) 00:17:03.32 ID:WT/vuZ6Zo
あれだ、一生ついていくよ、>>1
448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/22(火) 00:48:47.71 ID:29n8M7ZDO
>>444
設定厨だとしても、ここまで長い話なんだから裏設定がどっさりあっても不思議ではないわ
欲を言えば、この物語が終わった後(長く続いてはほしいが)にでも、語られなかった設定を聞きたいな……

あと質問なんだが、インデックスのパワーの量はどれくらいのレベルなんだ?今後の展開に関わるようなら答えなくていいけど
449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(千葉県) [sage]:2011/11/22(火) 02:09:19.85 ID:XS9kgt0Xo
>>444
設定資料集だせるなw
450 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/23(水) 18:26:36.08 ID:FXUnYE1q0
いやここまで練り込まれてたら厨どころじゃねえよ
設定神だよ
もう>>1がラスボスでいいよもう
451 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [sage]:2011/11/24(木) 02:01:36.56 ID:c9WGBkWGo
>>448
現時点におけるインデックスが扱える規模は、『量だけ』ならば下位の大悪魔、ケルベロスなどをも越えています。
ただ彼女は、力の量がそのまま戦闘能力にはならない特に良い例です。

インデックス(妹)は魔女の戦闘訓練の一切を受けておらず、かつ彼女の性格上、戦うという行為自体にまるで向いていないため、
扱える総量がずっと小さいローラにも徹底的に押されしまった通り、物量ゴリ押しが通用しない相手だとどうしようもありません。
当然、ケルベロスなどが相手となれば戦いにすらなりません。
452 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/24(木) 02:02:15.07 ID:c9WGBkWGo
―――

一方『―――がァッ……!!』

魔帝の矢により壁に磔にされてしまった少年、
一方通行は未だその縛から脱せずにいた。

胸から胴に連なって突き刺さる七本もの矢、その中の一つを両手で握り引き抜こうとするも。
麻痺とも言えるか、絶え難い激痛によて力も意識もかき乱されて『力む』ことができない。

一方『……ッンンン゛あ゛ァ゛!!クソがッ!!ァァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!』

情けなく痺れ震えるだけの己が手に、
彼は口から血の如き『黒い飛沫』を吐きながら罵った。

こうしている間にもアレイスターの命が失われかねないのだ。
いいや『かねない』ではない、このままでは確実に失われる、一方通行はそう確信していた。


今の一方通行の目には、一目瞭然だったのだ。
こちらの声などまるで聞かず立ち上がったアレイスター=クロウリー、

その姿はまるで鏡を見ているくらいにまで―――『同じ』だったのが。

『ついさっきまでの己』と。


そう―――『死ぬため』に戦おうとしていた大馬鹿野郎と。


一方『アレイスターァァァァァ!!』
453 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/24(木) 02:04:01.61 ID:c9WGBkWGo

と、無駄だとわかっていながらももがいていたその時。
先ほど彼が壁をぶち抜き入ってきた穴から、恐る恐るといった歩みで一人の少年が姿を現した。

「……?!」

海原光貴、いや。

『化けの皮』はもう脱ぎ捨てている褐色の肌に、
スーツを纏ってはいるも普段とは違いタイ無しでラフな格好のこの場合は、『エツァリ』と呼ぶべきであろう。

一方『―――海原ァッ!』

ただ、常日頃から呼びなれた名はそう簡単に変えられるものではない。
特にそこまで意識をまわせる余裕など無い彼にとっては。

エツァリ「―――!―――これは……一体何が……?!!」

オレンジの光を宿す瞳に真っ黒な髪、顔は普段の状態を遥かに通り越して蝋人形のように『生気が無い白さ』、
その上を浮き上がった血管のごとき走る黒い筋、そして蠢く闇に覆われている全身。

そんな変貌していた一方通行を一目見て、エツァリは一瞬警戒と躊躇いの色を見せたものの。
すぐに意を決するかのように表情を引き締めては彼の傍へと駆け寄った。

一方『……こィつをっ……!!抜け!!』

エツァリ「わ、わかりました!!」

そして言われるがまま、彼の体を貫いている矢の一本を握ろ―――うとしたが。


エツァリ「つ゛ァッ―――!!」


刹那、光が瞬き、彼の手が勢い良く弾かれてしまう。

苦痛の声を漏らし弾かれた右腕を押さえるエツァリ、
その右手の平の半分が火傷したかのように酷く爛れていた。
454 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/24(木) 02:05:55.39 ID:c9WGBkWGo

エツァリ「……ッ!!何ですかこれは?!」

これは予想できた結果であろう、なにせ魔帝の矢だ。
肉体はあくまで生身の『ノーマル人間』であるエツァリが触れる訳が無いのも当然のことか。

エツァリ「―――とても自分には―――!!」

一方『……ッチッ!』

そんな結果を目の当たりにし、一方通行は即座に思考を切り替えて。


一方『クソッ!!俺は後にしろ!!今はアレイスターだ!』


エツァリ「アレイスター?!彼があなたをこんな―――?!」

一方『……ンぐッ……いやッ……!!』

エツァリ「何があったんですか?!ではあの男がまた何かを企んでいるのですか?!」


一方『違ェ!黙って聞け!!アレイスターが上条の命綱だ!!奴を守れ!!』


エツァリ「………………は?…………上条さんの……命綱?」

上条の命綱、その言葉から伺える事情を瞬時に悟ったのか、
その褐色の肌でも目に見えて一気に青ざめていくエツァリ。

一方『そォだ!!とにかくアレイスターを―――!!』


と、その時。
突然、ここに新たな第三者の声が響き渡った。


『―――――――――アレイスターは大丈夫だ!』
455 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/24(木) 02:06:48.60 ID:c9WGBkWGo

一方『!』

エツァリ「!」

それはちょうど一方通行の正面だった。
一瞬にして警戒姿勢に移行して振り返るエツァリの視線の先、

その宙の空間から突然噴出す炎―――そして。


ステイル『―――ダンテが今向かった!!』


中から飛び出してくるは―――ステイル=マグヌス。
更にそれだけではない。

次いでビル全体が大きく振動し―――左側からは『白銀の巨獣』、右側からは『炎を纏う巨人』。

それぞれが壁を『ぶち破って』中へと入ってきたのだ。

それもとてつもない力、

一瞬にして「間違いなく大悪魔、それもかなり高位」、
だと確信できるまでに濃厚な大気を纏って。

一方『―――ッ!!』

刹那、これはエツァリにはもちろん、一方通行にとっても最悪の事態に見えた。

力量は己の方が上か、この大悪魔二体を相手にしても楽でもないが、確実に勝てるであろう。
しかしこうして動けない以上はどうしようもない。
ステイルやエツァリがどうにかできる相手ではないのも一目瞭然。

彼ら二人は蹴散らされ、己は嬲り殺される―――と、一方通行の頭脳は瞬時に状況分析し、
そんな最悪なシナリオを導き出したも。

それは杞憂だった。
456 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/24(木) 02:08:22.44 ID:c9WGBkWGo

数秒後、次に覚えるは炎の巨人からのステイルと、
白銀の巨獣からの―――上条と同じ力の匂い。

そしてそれを裏付けるように。

ステイル『―――心配するな!!彼らも味方だ!!』

駆け寄ってきたステイルがそう口にした。

ステイル『―――イフリート!ベオウルフだ!』


イフリート『ダンテは我が呼び寄せておいたぞ』


ステイル『向こうはダンテに任せろ!』

一方『―――ッ……』

ダンテが向かった、この状況下でそれ以上に耳に良い言葉があるか。
さすがに安心したとまでは言えないものの、
それでもこの焦燥感を一先ず抑えるには充分だった。

そうして一方通行が小さく息を吐いたところ、次いでのそり、と。

慌てて脇へ退けていくエツァリと入れ替わるようにして炎の魔人が彼の前に出て屈み、
これまた大きな、彼の腕よりも太い指で、魔帝の矢の尻を摘んだ。

イフリート『耐えよ小僧。少々痛むぞ』

そしてそう告げて。

一方『―――ガァアアアアアアアアッ!!!!』

とても丁寧とは言えない手付きで引き抜いていく。
もちろんその痛みは『少々』なんかではない。
457 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/24(木) 02:10:27.17 ID:c9WGBkWGo

響く一方通行の叫びなど気にもせず、次から次へと引き抜いていくイフリート。
赤き矢は床に落ちた瞬間、まるでガラス細工の様に砕け散り消えていく。

そんな作業の傍ら、エツァリはステイルに向かい。

エツァリ「上条さんに何があったのですか?!知っているのですか?!」

ステイル『……彼は復活した竜王の一部になった!!』

一瞬、その褐色の肌の少年を見てステイルは目を細めたも、
すぐに悪魔の感覚で一方通行の仲間の『海原』であると認識してそう放った。
一方通行にも聞えるように声を張り上げて。

エツァリ「リュウオウ?!」

一方『ッツン゛ン゛ァア゛ァ゛ッ!!!なンッ!!だよあィつァァァァァァッ?!』

ステイル『詳しくは知らない!昔に死んだ神としか聞いていない!僕だってさっき聞いたばかりの話だ!』

イフリート『竜王か。昔に耳にした事がある。人間界に君臨していた古き王だ』

イフリート『だが名しか知らぬ。天界が囲い込む以前の人間界など、悪いが誰も関心など持っておらんかったからな』

そこでそう、横から補足するイフリート。
炎の魔人は最後の一本を放り捨てて、

イフリート『貴様はどうだ?』

これまで沈黙していたベオウルフの方へと横目を飛ばした。
だが白銀の巨獣はその問いかけには言葉を返さず。


ベオウルフ『……小僧。そのアレイスター、と言う輩が「我が息子」の命運を握っておるのだな?』


解放され床に膝をついている一方通行に向けて声を放った。
まるでその場にお互いしかいないように、真っ直ぐと彼を見据えて。
458 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/24(木) 02:13:56.61 ID:c9WGBkWGo

その刹那。

一方『………………』

彼は妙な感覚を覚えた。
巨獣のこちらを見据える『視線』、その源の―――赤く輝く『瞳』。

あの目をどこかで良く知っているような―――そんな感覚を。

いや、これはそんな『あやふや』なものでは無かった。
あの『目』を間違えるわけが無い―――


一方『……おィオマエ……上条に「何をした」?』


確信した少年は問い返す。


一方『なンでオマエが―――アイツの「目」を持ってやがる?』


その身からただならぬ一触即発の気配を醸し、
目を見開き修羅の表情へと豹変させて。
するとベオウルフはこう即答した。


ベオウルフ『ふん。親と子の「契り」を交わしたまでだ』


その変わらぬ態度を見て、一方通行は真っ直ぐとベオウルフを見据えたまま。
脇のイフリートへ向けて声を放った。

一方『…………よォ、おたくやケルベロスっつったかァ?あの三つ頭の犬コロは問題ねえが』


一方『―――こィつは信用ならねェ。絶対にだ』


対しベオウルフも牙の隙間から、
明らかに嘲りと敵意の滲む笑い声を漏らして。

ベオウルフ『当然だ。その小僧は味方と言ったが、我はそのつもりは無いからな』


ベオウルフ『誰が貴様ら下種な人間共に肩入れなんぞするか』
459 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/24(木) 02:16:13.02 ID:c9WGBkWGo

一方『―――はッ。言ゥじゃねェか』

そんなベオウルフの『素直な態度』と返答で、一方通行は確信した。
上条との明確な関係がわからない以上、即座に殺すわけにもいかないが、
この信用無い巨獣は今すぐに手足でももぎ取って行動不能にしておくべきだ、と。

そう長く見張っていられることなどできない。

状況が状況だ、いくらダンテが向かったからといって、
「そうですか」とおとなしく待っていられる訳も無いのだから。

と、そうして一方通行が立ち上がった時。

ステイル『―――落ち着くんだ!!大丈夫だアクセラレータ!!』

ステイルが駆け、彼の前に割り込み。

ステイル『確かに僕の言い方が悪かった!!ああそうだ、彼は僕等の味方では無い!!』


ステイル『だが「上条の味方」だ!!これだけは確実だ!!』


そして一方通行の胸倉を掴み、こう声を放った。

ステイル『それに今はそれどころじゃない!!アクセラレータ!!他にも重要な話がある!!』

一方『……あァッ?!』

ステイル『―――海原!!君もだ!!』

エツァリ「……じ、自分もですか?!」


ステイル『―――ああ!!君も必要だ!!』
460 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/24(木) 02:19:39.02 ID:c9WGBkWGo


そうして半ば強引に、二人の返答など待たずに一方的にステイルは言葉を連ねていった。

最初、一方通行はベオウルフやアレイスターが気になって仕方が無かったが、
ベオウルフは己が見ている、アレイスターの状況もダンテとの『繋がり』を通して見ている、
何か問題があったら知らせるというイフリートの言葉でようやく納得し、
やっと耳をしっかりと傾け始めた。

ステイルの口からは放たれる話、
その内容は『陽炎の学園都市』―――虚数学区上で会った風斬氷華なる少女との話と、

一方『垣根……だとォ?』

エツァリ「……彼が?」


―――垣根帝督という胡散臭い男から聞いた、天界の侵攻に備える『策』とやらだった。


ステイル『これは彼の言葉を丸暗記したものだ。学園都市側の者としての意見を聞きたい』

一方『……虚数学区を実体化させて展開か。すまねェが、俺は「界」がどォのこォのって話は良くわからねェ。海原』


エツァリ「殻となった虚数学区が壊れない限り『本物の学園都市』には被害は及ばず、」

エツァリ「かつフル稼働のヒューズ=カザキリも加勢してくれるとなると悪い策では無いですね」


エツァリ「ただその策の実現には、いくつか解決しなければならない問題が」

エツァリ「まず一つ目、大悪魔の領域の莫大な力を持つ「能力者」が必要ですね。AIMを扱うわけですから悪魔の方では代わりは出来ません」

そう告げながら、その例を示すようにイフリートとベオウルフを横目で見やるエツァリ。
そこに一方通行はこう声を放った。


一方『俺ができそォだな』


エツァリ「本当ですか?」

一方『あァ。多分いける。どォやらアレイスターは、俺にこの世界をまるごと掌握させるつもりだったらしィからな』

一方『現に、そこのイフリート達よりも俺の方が「馬力」はあるしなァ』
461 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/24(木) 02:22:17.27 ID:c9WGBkWGo

エツァリ「では……次の問題はその『像』の具体化ですね……どうやって界を被せる形で実体化させるか」

一方『海原。オマエの魔術とやらでどォにかならねェのか?』

エツァリ「無理に決まっているでしょう。自分の魔術は天界系ですよ?」

エツァリ「それに今話してる次元の理論だってここ半年の付け焼刃ですし、とてもぶっつけ本番でAIM用の『方程式』なんか組めません」

一方『じゃァどォすンだ?』

エツァリ「……一番現実的な方法は、ミサカネットワークと滝壺さんに「設計」してもらい」

エツァリ「接続しているあなたが増幅させて実体化、といったところなのですが…………」

とそこで、エツァリが急に口ごもってしまった。
それを見て首を傾げるステイル、そして対して―――

一方『…………ッ』

思い当たる節があって、表情が固まる一方通行。

エツァリ「今はなぜか通信が出来ないのですよ。土御門さんとも」

エツァリ「彼は自分以上に魔術科学両方に精通していますから、意見を聞きたいのですが」


一方『…………悪ィ、最低限の維持機能を省いて俺が凍結遮断しちまったンだ」

462 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/24(木) 02:24:52.84 ID:c9WGBkWGo

それは正に、あの強襲部隊にとって矛を封じられているに等しい状態だ。
各々の能力強化はもちろん、何よりも滝壺の部隊全体の掌握があるからこそ、
地獄とも呼べる魔窟のど真ん中に飛び込んでも、正確に任務を遂げ帰って来る一つの『生きた戦闘集団』となるのだ。

だがその機能が喪失されているとは。
更に、その状態に左右されない最大戦力―――麦野とアラストルを失っているともなれば。


エツァリ「何ですってッ……!!つまり今の彼らは演算支援も受けていないということですか?!」


それを知った彼が、思わず声を荒げてしまったのも当然の事か。
しかし。

一方『すまねェ……黙っていたのも悪かった。シスターズから負荷を取り除くにはこォするしか無かったンだ』

エツァリ「…………ッ」

簡潔に述べられるその理由も、これまた咎められるものではなかった。
それに今までに無いくらいに素直に、真摯に謝る一方通行にも驚きを覚えたのか。

エツァリ「そうでしたか……すみません、事情を知らずに」

エツァリもすぐに己を落ち着かせて、そう謝り返した。

一方『いや、良ィンだ。少し待て、再構成して連中との回線だけ修復する』

エツァリ「……急いでください。それとステイルさん」

エツァリ「魔術師の拒絶に関しては、あなたがどうにかできるかもしれない、という事でしたが……?」
463 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/24(木) 02:27:02.11 ID:c9WGBkWGo

0930事件の例から見ても、恐らく実体化した虚数学区内では、
魔術師にかかる「拒絶」反応は凄まじいものになるであろう。
それに高濃度のAIMで人間界が満たされてしまったら、全世界にも影響が及ぶはず。

つまりこの街にいるエツァリやショチトルを含む、天界系魔術師全員の命を奪いかねない死活問題なのだ。
その問題については、ステイルによると彼の側で対処するという話であったが。

ステイル『もうこの話は伝えてある。僕が虚数学区を出た瞬間から、神裂との繋りが回復しているからな』

エツァリ「神裂さんが?」

いざエツァリが具体的に聞くと。


ステイル『ああ、だが……最終的な判断をするのは神裂の上のバージルだ。だから確実にどうにかできるとは…………』


エツァリ「バージル……?!が……神裂さんの上?!ちょっと待ってください話が見えないのですが?!」


一方『―――バージルだと?おィ?何の話だ?』

とんでもない名が、
そのステイルの口から飛び出してくることになった。

ステイル『……すまない、僕も黙っていた。実は、もう「拒絶」とかの話じゃないんだ』

そこで彼は申し訳無さそうに額に手を当てて。
魔術師であるエツァリにとっては更に突拍子も無い、出来の悪い冗談のような事を口にした。


ステイル『今、僕達はバージルの下に属していてね……神裂はセフィロトの樹の全切断を命じられているんだ』
464 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/24(木) 02:31:15.55 ID:c9WGBkWGo

エツァリ「セフィロトの樹の……せ、切断?」


ステイル『ああ。今ちょうどその作業の最中だ』

ステイル『全切断だから、もちろんその中にはテレズマの供給線も、能力者に供給させないための拒絶機能も含まれてる』

ステイル『だから拒絶は起こらないだろうが、通常の天界魔術も全て使えなくなる』

エツァリ「……………………これもですか?」

そこで脇のホルスターに収まっている原典の本体を見せるエツァリ。
ステイルは眉を顰めてやはりといった具合で。

ステイル『ああ。天使や神と「直接」繋がってでもいない限り無理だ』

エツァリ「……………………」

ステイル『僕はもちろん、事情を知った神裂も今、同じくテレズマの供給線だけは残したいと「言っている」』

ステイル『残しておいて使えれば、それだけで魔術師という戦力が増えるし、』

ステイル『怒った天界が「蛇口」を閉めてテレズマを流し込まなくなっても特に実害は無いからね』


ステイル『だが決定権はバージルにある。僕達はその彼の判断には干渉できない』


ステイル『魂で主従関係が結ばれているからね。魔のそういう繋がりは絶対的なんだ』


エツァリ「……まあ、……ならば仕方ないでしょうね。ここで何を言っても」
465 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/24(木) 02:37:24.33 ID:c9WGBkWGo

バージルが判断する、その言葉は、
ダンテがアレイスターの所へ向かったというのと同じく、
否応無く納得せざるを得ない絶対的な響きを有していた。

エツァリ「……とにかく、全世界の天界魔術師が死なないだけずっとマシですね」

それにそもそも、ステイルの話は悪いことではない。
拒絶が無くなることはまず確実なのだから、先ほど想定していた状況よりもむしろ良くなっている方だ。

ステイル『それにこの面子なら、まあ増援が無くとも何とか凌げるかと思うけどね』

一方『戦力なら俺がいるしヒューズ=カザキリも加勢するしなァ』

ステイル『もちろん僕もいるし、作業が終ったら神裂も、そして何よりも魔女も来るぞ。ダンテに引けを取らないね』

一方『はッ!そィつは良ィじゃねえか!』

イフリート『我もいるぞ。そして我がダンテの友らもな』

そうして続いたイフリートの声に、
一方通行はニヤリと不敵に笑い。


一方『この面子に学園都市の損害を気にしなくて良ィってンなら―――充分じゃねェのか?おもックソ暴れてやンよ』


エツァリ「ふっ…………いけますか、いけますね」

釣られるようにして、エツァリも小さく笑い返して。


エツァリ「それとこの際、『私情』は抜きにしてくださいね」


一方通行の顔を真っ直ぐに見てそう言い放った。
薄く微笑みながらも、鋭く制するような声色で。

一方『……』

『私情』という言葉、それは半ば不意打ちで返された言葉であったが、
それが指す意味を一方通行は瞬時に悟った。


打ち止めとの関係―――彼女と頑なに距離を置こうとしていたことか、と。
466 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/24(木) 02:39:59.26 ID:c9WGBkWGo

虚数学区の展開は、要となる一方通行とミサカネットワークの連携が重要になってくる。
エツァリは、その連携を如何なる理由があろうと滞らせてしまうことは無いように、と告げていたのだ。

ただ、そんな彼の懸念も今や杞憂に過ぎない。

一方『あァ、わかってる。心配するな』

確かに一方通行は、今でもその問題については色々思うことはあるものの。
もう考え方もその結論も、これまでとは真逆なのだから。

そう。

今はもう、あの少女から―――


一方『「アレ」はもう…………やめたからなァ』


―――逃げやしない、と。


言葉少なくも、その一方通行の確かな反応を見て納得したのか、
エツァリは小さく頷いてそれ以上は言葉を発しなかった。
そうして一方通行は勢い良く立ち上がり。

一方『おィ!!アレイスターはどォなってる?!』

イフリート『大丈夫だ。今アグニがこちらに連れてくるぞ』

ベオウフルを見張るようにして向かい合っていたイフリートへ向かい、
状況を確認するべく声を放った。

一方『よしッ。それとあの「竜王」とやらを殺してねェだろォな?ダンテ』

イフリート『それも問題は無い。きゃつがあの小僧でもあることも気づいておる』

すると。

一方『そォか。できれば縛り上げるでもしてココに連れて来てもらいてェンだが、頼めるか?』


イフリート『―――…………ううむ。それがな…………』


なにやら急に口ごもり、その瞬間。


突然の―――凄まじい『地響き』が周囲を襲った。
467 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/24(木) 02:42:30.18 ID:c9WGBkWGo

否、それはただ『地響き』と呼べる代物ではなかった。

一方通行『―――!!』

厳密には『力の振動』だった。
床やこのビルはもちろん、大気も、物理的には一切変わりない。
激しく揺れているのは『力』だ。

ステイル達が醸す魔、エツァリの天、そして一方通行のAIM。
それらの力の次元においてだけ、何かが大爆発したかのような衝撃が襲ってきたのだ。

エツァリ「!!」

ステイル『なッ!!』

一体何が起こったのか、少なくともその表面的な事象はすぐに認識できた。
イフリートがこのビルに入ってくる際に穿った、
穴と言うよりも最早一面まるごとを剥ぎ取ったかの如き壁の側。


その向こうに広がる『学園都市の上』に、その場にいた全員が見た。


巨大な―――太さ数百メートル、高さはkm単位に及ぶであろう『黒い塔』が―――


―――天へと向けて勢い良く伸びつつあったのを。


『地面を割って学園都市から』、ではない、『学園都市の上から重ねられて』、だ。

塔の『幽霊』が現れた、といった表現がまさに適しているか。

勢い良く突き上がる塔に吹っ飛ばされるように、
50m以上にもなろうかという巨大な瓦礫や土砂の塊が飛び散るも。
『学園都市の地面』は割れもしていなければ、ビルも何も変わりなくそこに建っている。

だからこそ『幽霊』、まるで巨大な立体映像が投影されているような光景である。
質感も距離感も明らかに現実離れしており、どの学区の上に重ねられているのかすらもまるでわからない。
そもそも、物理領域にて明確に位置づけられるものではないのかもしれない。

さながら蜃気楼の如き、近づこうとしても絶対に到達できない『幻影』だ。


だが実際は、それは決して幻影なんかではなく―――『別位階上』に実際に存在していた。


一方『……!!』

皆が肌で確かに感じ取っていた。
この学園都市に重なる『界上』に出現した、あの黒き塔の存在を。
468 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/24(木) 02:45:49.40 ID:c9WGBkWGo

目を疑う光景に一方通行、エツァリ、ステイルが言葉を失う中。
傍にいた二柱の大悪魔は、それぞれの反応を見せていた。

イフリート『あれは……』

ステイル『……………………知っているのか?』

イフリート『…………直接は無いが……ダンテの記憶の中に垣間見た……まさか……なんと……』

炎の魔人は、驚きと嫌悪の滲む声でそう呟き。

白銀の巨獣は笑った。
異形の怪物そのものといった、地響きを伴う笑い声を発して。

ベオウルフ『竜王とやらも随分愉快な事を考える!!』

嫌悪は同じくも、一方でイフリート違って可笑しそうな色を滲ませて。


ベオウルフ『よもやこの忌々しい「塔」を再顕現させるとはな!!』



ベオウルフ『バージル!!ダンテ!!貴様ら兄弟の墓場に似合いの舞台ではないか!!』



一方『―――おィ!!なンなンだよありゃァ?!』


ベオウルフ『知らぬのか?!「我等」人界に残りし魔達の牢獄であり―――!!』


ベオウルフ『―――かつて、魔剣スパーダの「芯」が封印されていた領域へのかの「階段」を!!』


エツァリ「な……?!なッ……?!」

ステイル『おい!!イフリート!!答えろ!!向こうで何が起こってる?!』

そうして半分激怒し半分笑う、そんな奇妙な調子で昂ぶるベオウルフの言葉に続き、
遂にイフリートが口する。


イフリート『あれは……』


かつて、二人の若き魔剣士が剣を交え、その『宿命』を決定付けた―――。





イフリート『……………………………………………………テメンニグルの塔だ』





―――あの『始まりの塔』の名を。



―――
469 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [sage]:2011/11/24(木) 02:46:37.07 ID:c9WGBkWGo
今日はここまでです。
次は土曜に。
470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(千葉県) [sage]:2011/11/24(木) 02:48:40.71 ID:N2npSVwQo
盛り上がって来た
塔が
471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) :2011/11/24(木) 03:03:15.61 ID:ySr3ZK2p0
創造か具現で顕現させたのかな?
面白さが加速していくな!
乙です!!!
472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(岐阜県) :2011/11/24(木) 03:10:28.62 ID:NDibrBvc0
なんかダンテさん負ける気がするなあ…
473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/24(木) 05:03:50.42 ID:bxbxBjV/0
乙乙乙

この>>1の何がすげえって、舞台上の役者と設定を余すことなく動かしているところだよな
474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(兵庫県) [sage]:2011/11/24(木) 06:30:46.28 ID:jfEGMGaS0
舞台をテメンニグルにする処がこの>>1は最高にわかってるぜ乙乙乙!
475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/24(木) 07:06:25.82 ID:WVXmiO5lo
お疲れ様でした。
476 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/24(木) 09:15:28.96 ID:zPI/e4yIO

奥様もウットリの太い棒が出てきましたね(歓喜)
477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(北海道) [sage]:2011/11/24(木) 09:17:17.90 ID:FOphHowro
お疲れ様です。まさかテメンニグルを持ってくるとは・・・その発想はまじで無かった。
そしてインデックスと神裂はまだ切ってたのか。さすがに時間かかる。
478 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(群馬県) [sage]:2011/11/24(木) 20:12:04.51 ID:uVjPqax80
>>476
ジェスター乙
479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(岐阜県) :2011/11/25(金) 00:21:56.11 ID:IoYq4biI0
ちょっとホモ沸いてんよ〜(指摘)
480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/25(金) 05:53:08.88 ID:J07guEHDO
乙乙乙tylish!!
テメンニグルか…ハg…アーカムの霊とか彷徨いてたりして。
481 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(大阪府) [sage]:2011/11/25(金) 12:46:02.10 ID:QLHbJzXv0
これはイカン…
フィアンマがレディにシバキ殺されるww
482 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(北海道) :2011/11/27(日) 01:02:45.76 ID:KWy+xrvAO
>>482
本当にやりかねんから恐ろしい……
483 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(大阪府) :2011/11/27(日) 01:22:45.57 ID:d44tI8DTo
>>482
本当にやりかねんから恐ろしい……
484 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 02:53:18.87 ID:9fD6OnLMo
―――

学園都市の『界上』に限定的に再現されている『人界王の間』。
延々と続く黄金の縁取りがなされた白亜の石畳に、大気を満たすは黄昏色の光。

人間界本来の夕暮れとは色具合は似ていても本質はまるで違う、
篭められているのは退廃的な終末感と享楽的な狂気で彩られた混沌だ。

そんな、何もかもをコントラスト強く浮かび上がらせていくオレンジの光に。

ダンテ「…………」

ダンテは煩わしそうに目を細めながら、正面10m、割れた石畳に埋まっている『竜』を見ていた。

ここに飛び込んだ初撃で頭を『斬り飛ばし』、
更に蹴りの連撃を加えて胴を粉砕して石畳に叩き込んだ竜、周囲には破片と肉片が混じり広く散っている。

そして背後からは途切れ途切れの、言葉にならない悲壮な呻き声。

膝をつき蹲っている男、アレイスター=クロウリーのやり場の無い怒りと悔しさに満ちた声である。
周囲は無風、割れた石畳の欠片が落ちる小さな音のみ、そんな中で彼の慟哭が一際大きく響いていた。

そんな彼に対しては、ダンテは特には反応を示してはいなかった。

その面持ちは一見すると何を考えているのかわからない無表情、
よくよく見ると僅かに薄ら笑いが滲んでいる、非常に冷ややかなもの。


つまりは彼の『真顔』だ。


彼のその『真剣身』の原因はもちろん、
目の前のあの『竜』から覚える―――様々な匂いや感覚だ。


ダンテ「…………」


そう、良く見知った力や親しい者。


魔帝と『創造』、父と『破壊』。


そして―――上条当麻。
485 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 02:54:20.24 ID:9fD6OnLMo

ダンテ「よお、いつまでオネンネしてる?客に挨拶も無しで寝てるつもりか?」

リベリオンで肩を軽く叩きながら、ダンテはこれまた平淡な声を放った。
いつのまにか肉体の損壊部が元に戻っていた竜に。

竜王『…………無茶を言うな。お前の不意打ちを受けたんだぞ』

すると瓦礫を除けながら上半身を起こす竜。
いかにもつらそうにゆっくりとぎこちなく。

そして大きく翼を広げては一度羽ばたいて。

竜王『やあ、ダンテ。俺様は初めてではないが、「この状態の俺様」は初めてだな』

穴からようやく出てその淵、ダンテの前5mほどのところに立った。


ダンテ「みたいだな」

そんな竜を改めて見て、ダンテは片眉を細めた。
魔帝の力や上条当麻がこの竜に含まれていると確信したのだ。

今のは傷の『治癒』ではなく、ダメージが一切蓄積されていない状態への『己の新規作り直し』。
つまり『創造』の働きだ。

そしてこの竜という存在、肌に覚える感覚はまさに上条当麻そのものだ。
ダンテの確かな感覚は、この目の前の存在を上条当麻であると明確に認識しているのだ。

姿形、そして数語交わしただけでもわかるくらいに人格が違っていても、魂は確実に彼のものでもある、と。

ダンテ「………………」

そう状況の一端を把握した瞬間、
彼のこの場における、ある一つの選択肢が潰れた。


今ここでぶちのめす、という最も単純明快な選択が。
486 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 02:57:30.13 ID:9fD6OnLMo

だがそれは充分予想は付いていた。
具体的にはともかく、このような手を出しにくい状態になることはわかっていた。
今挑んでいる本当の敵、『筋書き』が、そう簡単にコトを終らせてくれるわけが無いのは当然。

現状ではまだまだ『弓の弦』の引きは甘い。

             ストレス
この程度の『世界の困窮』では、筋書きが望むような絶対的な『一矢』は放てないのだ。


現段階では、ダンテもコトを終らそうというつもりではない。
(もちろんもし可能だったのならば、さっさと片付けるが)

今の目的は、流れのど真ん中へ飛び込み割り込むことだ。
そしてどうやらその目的は達された様か。


この流れに新たな、かつ大胆な変化をもたらす筋書きの『修正点』、それが今―――目の前にあったのだから。


間違いなくこの―――竜だ。


ネロが魔剣スパーダをへし折る、そんなとんでもない事態に釣り合い、
そして上回るために、これでもかとばかりに重要な要素が集められている。

魔帝と父、加えて恐らく覇王、そして―――上条当麻、と。

ダンテ「……」

そう。
上条当麻という存在もまた、
ダンテにとっては大義的・個人的の両方で『とある意味』を持っていた。
487 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 02:59:10.29 ID:9fD6OnLMo

竜王『さて、何から話そうか……』

ぱきりと、陶器の像が砕け散る光景を逆再生したかのように。
竜の外皮の上をどこからともなく出現した『殻』が覆っていき。

竜王『話したいことはかなりあるのだが、いかんせん、今は時間も限られているしな』

そうして竜はその異形から、一瞬にして人間、赤毛の華奢な男の姿へと変じた。
これまた陶器のように整った顔は、傲慢と嘲笑を隠しもせずに鋭い笑みを浮べている。

そんな中性的な容姿を、ダンテは細目で訝しげに眺めて。

ダンテ「なら俺が聞いていいか?」

竜王『構わない』


ダンテ「『お前』は上条当麻か?」


そうして単刀直入、そう簡潔に核心の一つを問うた。
竜はやはり察しがいいな、と小気味良さそうに口角を上げては。


竜王『そうだ。俺様は上条当麻。魂は完全に同一』


竜王『俺様の死は、上条当麻の死でもある』

ダンテ「………………へぇ」
488 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 03:01:49.46 ID:9fD6OnLMo

現状では手を出しにくいという原因には、
もちろん『創造』という厄介な力が存在もあるが。
上条当麻という存在のよるところも大きい。


上条当麻。

かの少年は失われてはならない。
生い立ちや力の差はあれど、その本質的な意味はネロと同じ。

これからの人間世界を守るであろう、『次代』の強き意志の一つ。


受け継がれる『正義』の一欠けら。

                                             ボーヤ
己の全てに換えてでも守り遺さなければならない『子供達』の一人である。


ここでそんな存在を、仕方の無い犠牲と割り切ってもろとも殺すか。

そう、確かにそうせざるを得ない状況か。
かつてネロが神像に取り込まれた時のような状態とはまるで違う。

竜の魂は上条当麻そのもの、完全な同一人物。
客観的に見ると、ダンテの記憶にある『上条当麻という少年』は―――死んでしまったも同然であろう。
すなわち『今まで通り』―――『手遅れ』なのだ。

ここからダンテが専念するべきなのは、更なる被害の拡大を防ぐため、
創造を打ち破り竜を殺す、ただそれだけ。

そしてそれが成されれば、この騒乱の大部分は収まるだろう。

しかし。

それでは今までと『同じ』―――単なる『受身の現状維持』でしかないのだ。

根本的には何も解決しておらず、一歩も前には進めない。
そしてスパーダの一族、その血の破滅的な力が『救い』として称えられ、
それを維持するために、たびたび避けようの無い絶望的なイベントが繰り返される未来が続くことになる。

つまりは、ここで今まで通りのやり方で解決してしまったら。


そのあり方が―――揺ぎ無く『再肯定』されてしまうということだ。
489 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 03:03:07.37 ID:9fD6OnLMo

ダンテ「……」

当然。

今のダンテは、そんなこれまで通りのやり方をするつもりなど無かった。
ネロはそんな筋書きを真っ向から拒絶し。
ダンテは筋書きをぶっ潰すために今ここに立っているのだから。

そう、今この状況こそ、
ダンテとネロの選択と筋書きの流れの向きが、『初めて』真っ向から対峙した瞬間だ。

これこそ筋書きの明確な、ダンテ達へ向けての『反応』だ。


スパーダの一族が、スパーダの力を否定し捨て去ることは許さない。

そしてスパーダの一族ではない者が、スパーダの意志を受け継ぐことはできない、させない。
スパーダの一族ではない絶対的英雄など、必要ない、認めない、と。


『そんな者達』など、こうして舞台装置の一つにしてやろう、と。


つまりこの『修正点』の本質は―――筋書きからの『宣戦布告』。

万物を統べる因果、その全体意志には逆らえぬと、
反逆者に首輪を再認識させるための。

それはそれは付け入る隙の無い、ダンテの弱点を的確に抑えた一手であった。

このような状態に置かれれば、
普通ならば怒りを覚えるか、または焦燥し絶望するか。

しかしこれを認識したダンテがまず最初に示したのは。


ダンテ「―――ハッ」


―――笑み。
490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 03:03:50.70 ID:9fD6OnLMo

やはり相変わらずの薄いものではあったが、
瞬間、彼はこの場で初めてはっきりとした笑みを浮べたのだ。

それはそれは危うい戦気と昂揚―――『期待感』が滲んだ、見た者を戦慄させる不敵な笑い。

獲物を眼前に捕捉した獣、戦いを生業にする闘士そのものの瞳。
この男には、追い込まれて消沈する『神経』など存在していない。


困窮に陥れば陥るほど、彼の原動力たる魂は熱く噴き上がる。


不可能だと?、上等じゃねえか。
上条当麻、必ずお前を臭え竜の口の中から―――引きずり出して。


クソッタレな筋書きは綺麗さっぱり消し飛ばしてやるよ、と。


竜王『―――…………はは、これは恐ろしい』

一瞬、そんな顔と瞳に捕捉されていた竜は、
その端正な顔を僅かに引き釣らせた。

竜王『聞いてはいたが、やはり実際に相対すると凄まじいな』


ダンテは「そうか?」といった風に少し肩を竦めて。
肩に載せていたリベリオンを降ろしては足元に突き立て、その柄に肘を載せながら。

ダンテ「創造、どうやって動いてるんだ?」

そして左手で顎先をさすりながら、まるで何気なく雑談するような声色でそう問うた。
ただもちろんそれは表面的な部分だけで、
その全身からは強烈な威圧感が一定して放たれていたが。

ダンテ「ボーヤの右手に収まってたのはまあ薄々気付いてたが、それでも徹底低にぶっ壊れてるはずだぜ」

対して竜はそのダンテの圧で火照った熱を冷ますように、一度大きく息を吐いて。

竜王『アリウスさ』

その目をダンテの背後下、
アレイスターの方に向けながら、かの魔術師の名を口にした。
491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 03:06:30.25 ID:9fD6OnLMo

竜王『彼はその「負け犬」とは違い、本当にとんでもない男でな』


竜王『覇王とスパーダの力を「生きた状態のまま」で統合し、器に組み込み完全に己がモノにしてしまったのさ』


竜王『そんな彼の器さえあれば、創造も具現も負荷は全く気にしなくて良い。問題なく稼動する』


竜王『そして創造の破損部は、具現を組み合わせる形で修復した』


そうして右手をポケットに突っ込み、
左手で得意げに髪をかきあげて言葉を続ける。


竜王『創造と具現は、元はある同一因子からの派生系だからな』

竜王『違いは精神領域か実体領域か、作用原理が異なっているだけ。その差異は魔帝と覇王の性格によるところか』

竜王『そこだけを除き、他の点はほぼ同一だ。共に絶対的な己の存続を約束し、広範囲に絶大な影響を及ぼすまさに支配者に相応しい力』


竜王『またそうした側面から「保身」の意味も強いため、使用者には比較的優しいものだ』


と、そこで竜はふとわざとらしく眉をしかめて、
「だがな」と一度話を区切って。
左手をふと顔の高さにまで掲げて。


竜王『まあ少し話変わるが、逆に―――』


紫とも赤黒いとも言える『光』を灯した。


竜王『―――「破壊」はとんでもなく扱いにくいな。「やはり」』

492 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 03:12:35.98 ID:9fD6OnLMo

そんな、笑み交じりにも辛そうな顔を見せる竜に、
ダンテは「そりゃそうだろう」といった表情を浮べて。

ダンテ「昔、俺も気ぃ狂いかけたからな」

ダンテ「免疫の無い『赤の他人』が、親父のモンそのまんま入れちまえばキツイに決まってるさ」

絶え間なく際限なく湧き出してくる力。
ダンテも過去に一度、その『破壊』の性質の境地にまで到達しかけた。
かつてマレット島で、覚醒した魔剣スパーダを手に魔帝と相対した際にだ。


余分なものを何もかも取り払い、ただ純粋な力の亡者と変貌する―――『真魔人化』。

ダンテ自身、あのまま『破壊』に身を委ね続けていれば、
自我を失い『闘争の獣』へと変じてしまっていただろうか。
だからこそあれ以来、ダンテは魔剣スパーダを使おうとはしなかった。


竜王『本来、まことの創世主の因子とは創世主のみに許される力だ』

破壊の負荷に苛まれているのか、
竜は小さく歯噛みしながら更に言葉を連ねていく。

竜王『その力を創世主ではない者が扱うには、ある程度「薄める」必要がある』

竜王『創造や具現は、現に創世主たる力をコンパクトに簡素化したものだ』

竜王『魔帝や覇王は現実家だからな、そんな彼らの性格上、発現する創世主の因子もまた使い勝手の良い形となる』


竜王『しかし同じ創世主の因子でも―――「破壊」は違う』


竜王『スパーダはただ純粋に力を求めた。己が保身も野望も一切無く。力だけをな』


竜王『結果、発現した「破壊」は―――全く薄まることなく―――創世主のそれとほぼ同一のものであった』


竜王『それがどのような意味なのかはわかるな?』

ダンテ「…………『まことの創世主の因子とは創世主のみに許される力』、か」

竜王『その通り。いくら超越者とはいえ―――創世主ではないスパーダには手に余る代物だったのさ』


竜王『故に彼自身ですらその身に収めておくことに耐え切れず、魔剣スパーダとして分離させることとなる』
493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 03:16:42.27 ID:9fD6OnLMo

ダンテ「…………」

それが魔剣スパーダの誕生の物語。
初めて聞く、それも相手からして真偽不明の逸話。
だがそれが真実であったとしても何ら不思議ではない。

いいや。

むしろ、真実はこうでなければ筋が通らない。

ダンテは知っている。
スパーダが何よりも、そして唯一恐れていたものこそ―――己の力だったのを。

魔界の門の錠に己の半身を惜しみなく使い、
更に魔剣スパーダもただ封印するだけではなく三つに分解までする。

そんな己の力に対して一片の未練も愛着も感じさせない様は、
フォルトゥナの地獄門ですらを、故郷魔界への情緒から残してしまったような男の行いとは思えないものだ。

だが。

この竜の話でその糸は全て繋がる。
その過去の父の行動も、ダンテ自身の魔剣スパーダを使った時の体験も。

二つの魔剣を双子の息子達に授けてしばらくの後、父がふと姿を消した―――その理由も。

そうして、母は父をこよなく愛していたにも関わらず――――――失踪した彼を一切探そうとしなかったのも。


ダンテ「Humm」

諸々の記憶から、随分と前から薄々はそうであろうと思ってはいたが、
やはり第三者からの筋の通る情報がなければスッキリしないものだ。

そこをようやく埋める確信を手に入れられて、
顎をさすりながらダンテは小さく喉を鳴らした。

長年、その頭の片隅を占有してきた『もどかしい問い』と決別できるのだ、と。

その一方で少し名残惜しいが、
今までもどこかで抱いていた、一縷の『期待』とも別れなければならないが。


ダンテ「…………………………………………」


そう、―――『父は既に死んでいる』、そうはっきりしたのだから。
494 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 03:20:37.86 ID:9fD6OnLMo

ダンテ「それにしてももの知りだな「じいさん」、一体いつから生きてんだ?」

竜王『創世記からさ。創世主の座に君臨していた頃のジュベレウスの御業も、直に目の当たりにしてきた』

竜王『そういえば、俺様の自己紹介がまだだったな』

と、そこでふと思い出したかのように、
竜は左手に灯していた破壊の光を収めては改めてといった面持ちで。


竜王『我が王号は「人王」にして――――神号は「 竜 」』


これまた、いや、これまで以上に酔狂して声高に仰々しい名乗りを始めた。


竜王『そして全宇宙、因果の新たな主に成る――――――「唯一にして全て」』

竜王『―――我が真名を魂に刻め。今宵から全宇宙の不変の真理となる言霊を―――』

しかしこの名乗りは、今の相手には大層たまらなかったものだったらしく。

竜王『その輝きは、旧世界を焼き払う黄昏の―――』


ダンテ「ふはっ……はっ―――おいおいちょっといいか?自己紹介くらいもうちっとサクサクやってくれ」


思わず噴出して笑い堪えるダンテに遮られてしまった。

竜王『……………………』

ダンテ「拝むたびにんなコテコテの前置き聞かされるなんてたまんねえぜ。『ありがたみ』も薄れちまう」

あからさまに不機嫌な表情を浮べる竜とは対照的に、
彼は小刻みに肩を揺らしながらお返しとばかりに言葉を連ねていく。

軽く飄々と、普段と同じの半笑いの冷やかし声で。

ダンテ「ママに教わっただろ?人と話すときは要点をわかりやすくってな。ん?何?教わってねえのか?」

ダンテ「じゃあパパにこう教わらなかったか?ケンカの時に言葉で自分を飾る奴は―――」

しかしその言葉の最後には。


ダンテ「―――案外大したことはなかったりするって、な」


笑みは含まれてはいなかった。
ただその表情の変化は、竜の目に映ることはなかった。
なぜならその直前。

竜王『―――』

彼の端正な顔にダンテの無骨なブーツの裏――
495 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 03:25:36.76 ID:9fD6OnLMo


―――正面蹴りが叩き込まれていたのだから。


確かにこの竜を倒す選択なんて、現時点ではまず有り得ない。
しかし確保するかしないかはまた別の話である。

強烈な一撃を受けて竜の頭部は砕け散り―――首から下が、放られた人形のごとく吹っ飛んでいく。

いや、厳密にはその一行動の合い間に『三撃』加えられていた。

一撃目はダンテの靴裏。
二撃目は瞬時に出現したギルガメスの鋭い歯車。
そして三撃目は、そのギルガメスに組み込まれている拳銃からの魔弾。

はじけ飛んでいく竜の体は最初に穿った床の穴の上を越え、
そしてその規模をも遥かに越える穴を100mほど向こうに穿った。

ド派手に石畳を捲りあげ大量の欠片を撒き散らして。

その様子を前に、ダンテは魔剣を引き抜いてはたんっと颯爽と前へと踏み出し。


ダンテ『アグニ。ルドラ』


魔人化し、かの双子の大悪魔の名を口にした。

すると瞬間。

咆哮染みた声を轟かせながら、すぐ上方の虚空から呼ばれた双子が出現、
アレイスターの盾となる位置に、石畳を割って豪快に降り立った。

そうして彼らにアレイスターを任せ、ダンテはクレーターに降り立つ。

竜はクレーターの底にて、崩れた石畳に埋まっていた。
出ているのは手先と足のみ、胴部分は全て瓦礫の下、
先ほど砕け散った頭部だけは埋まってはいないか。

ただその事実も、創造によって即変更。

竜王『……ッ……二度も不意を突くか』

瓦礫の下から放たれるは、無いはずの口からの声。

ダンテ『ハッハ、ケンカに不意打ちもクソもねえさ「王サマ」』

そして『新造』されたのは頭部のみならず。


竜王『はは―――それも尤もだな』

『翼』もだ。
刹那、瓦礫を一気に吹き飛ばすようにしてその下から大きな竜の翼が出現―――


―――薙ぎ振るわれたその両翼から、無数の魔帝の矢を放った。
496 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 03:30:01.39 ID:9fD6OnLMo

懐かしい、いや、これを見たのはつい半年前、
懐かしむほどの時間など経過していないか。

ダンテ『―――Ha!』

ダンテは小気味の良い声を漏らしては、この壮絶な弾幕へと真っ向から飛び込んだ。
無数の魔帝の矢、それらが壁となって押し寄せてくる光景はまさに圧巻か。

しかし。

表面的にはそうは見えても実際に飛びこむと、この竜のと、本物の魔帝のそれとは大きく異なっていた。

本物の魔帝が放つ弾幕は一見無造作に見えても、
実は一本一本隅々までまで意識が行き届いていて、その起動は全て計算ずくであった。

一本避ければ別の一本のコースへとどうしても出てしまい、その一本を弾けば、
今度はその手が届かないコースで別の一本が、といった具合にだ。

だが竜のこれは、『ただのばら撒き』だ。

数多く放たれているだけで、その実は無秩序、
コース修正もなくただ真っ直ぐにしか飛ばないため、突破ルートは簡単に複数見出せてしまう。


ダンテはその中の一つ、あえて幅が狭いルートを選び身を投じた。

頬を、首を、脇を、無数の矢が凄まじい勢いで掠めていく。
だがどれも数cmいや数mmというところで当たらない。

身を捻り、ギリギリながらも正確無比に、
紙一重ながらも余裕たっぷりに赤き魔剣士は抜けていく。

更にここで彼特有の遊び心か。
彼はあえてルートを外れ、わざと矢のコースへと身を投じ。

ダンテ『――Siii―Ha!!』

身を回転させては左足、右足と連蹴りで掃い―――最後に魔弾で蹴散らし、完全に弾幕を突破。

そして。

竜王『―――』

新造されたばかり、かつ瓦礫からちょうど出たばかりの竜の顔へ目掛けて。


今度はリベリオンの刃を突き立てた。


同時に両足でその胴体を踏みつけつつ。
もちろんその足は『一蹴三撃』という凶悪なもの。

そんなこれまた豪快過ぎる着地に、クレーターは一際大きく深く陥没した。
497 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 03:33:41.84 ID:9fD6OnLMo

魔帝の矢。
これには特に、マレット島における戦いの際に幾度と無く苦しめられた、
『イカれてるダンテ』でさえもが『嫌いな』攻撃だ。

だがそれもこの通り、使用者次第。

ダンテがかつて苦しめられた原因は、もちろんその威力が凄まじいこともあるが、
魔帝の豊富な経験と極められた戦闘技術によるところもかなりの比重を占めるものだ。

ダンテ『まだまだ甘いな。力に遊ばれてるぜ』

確かにその力の規模だけでも充分脅威ではある。
だが同じく力が桁違いで、かつ戦闘技能も極められている相手、
例えばこの通りダンテなどが相手では、そう簡単に通用などしないのも当然の事である。

だが。

だからといって、充分脅威であることが打ち消されることもない。

技術、経験など時には関係なく、
インフレした量の力というものは存在するだけで、何人にとっても一定の脅威であることもまた真理。


リベリオンで再び瓦礫の底へとぶち戻した竜へそんな軽口を飛ばしていたところ。

ダンテ『―――』

ふと気配に気付き、ダンテがその面を挙げると。


正面上方にて長さ5m近くにもなる、赤い―――『光の大剣』が浮遊していた。


これもまた、つい最近に嫌と言うほど見たものだった。
平時の人間界ならば、一撃の下に消し飛ばせる規模の―――圧倒的な『力の塊』。


かの魔帝の―――絶なる刃だ。


次の瞬間。
これを見たダンテの一言を待たずして、大剣が打ち出された。
498 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 03:38:41.45 ID:9fD6OnLMo

迸る閃光、激突する赤と赤の力。

衝撃に晒された石畳は広範囲にぶっ飛び、いいや、削り取ってしまったかのように綺麗さっぱり蒸発。
欠片一つ飛び散らず、滑らかな擂鉢上の地面へと変貌する。

だがこれも漏れ出したほんの僅かな余波によるものにしか過ぎない。
放たれた莫大な力は、同じく莫大な力の篭められた極なる『一突き』によってほぼ全て相殺されていた。


ダンテ『―――ふッはッ―――!』


総出力の力を集め極限まで圧縮して。
それを載せて叩き込む、シンプルかつ最大火力のダンテの十八番、『スティンガー』。

彼の白銀の刃は強烈な『魔の熱』を帯びて、周囲を蒸発した爆心地にて金属音を奏でていた。

ダンテが先か、それともリベリオンが先か、この場合いはもう関係ないであろう。
『仇』の力を受けた刃の高鳴りに同じく、ダンテも思わず昂揚した声を漏らす。

                                     ヒメイ
この衝撃、この痺れ、このリベリオンの刃から響く歓喜の『共鳴』。


頭では魔帝は死んだとわかっていても、
この身を流れる父と母の血が沸騰していく。

―――ぶっ殺せ、クソ野郎をぶっ殺せ、と。

だがそんな魅惑の闘争心にのせられるほど、彼の理性は弱くも無い。
ダンテは即座にそんな危うい声を遮断して竜の方へ。

今の隙に脱し、10mほど前方に立っているあの華奢の男へと目を向けた。
499 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 03:41:44.43 ID:9fD6OnLMo

竜王『つッ―――はっはァ!!』

興奮しているのか、口を引き裂くようにして短くも大きな声を発する竜、その姿形は既に新造されていた。
魂にも器にもダメージの痕跡も全く無い。

ダンテ『……』

対照的にすぐに己を落ち着かせたダンテは、
冷静に今の一連の状況を分析していく。

今の攻撃は確保を試みたものであったが、どうやら確保することもかなり難しいか。

その力の使い方は到底及ばないものの、その総量は紛れも無く魔帝に匹敵、いいや。
覇王とスパーダの片割れをも吸収している今はそれ以上か。

そんな莫大な器上で創造が稼動している限り抑え込むことなど不可能、
身を縛しようが今の通り力の放出を留める術は無いようである。

ダンテ『……』

これは面白いといえば面白いが、一方で面倒臭い、
それがこの結果に対するダンテの率直な心境だった。

さて、ではここからどうするか。

気まぐれ気の向くままに進むことは変わりないが、
それでもある程度の向きと目的を定めておく必要がある。

まずここでこのまま戦い続けていても、上条当麻を引きずり出す方法が見つかるとは思えない。
バージルの件もあるためあまり長くダラダラと付き合ってもいられない。
そして兄のみならずもう一度、あの黒髪にイイ体の『素晴らしい魔女』とも接触したい。

無論、イイ女であるからではない、
彼女もまたバージルやネロと同じ重要な世界の要素であると直感しているからだ。

と、竜に相対する傍ら、ダンテが頭の半分では思考を巡らせていたところ。
同じくして思考を巡らせていたのか、竜がふと何かを思いついたような笑みを浮べて。



竜王『……この戦いが含む意味、お前にとっては人間を守るためというだけでは無いな』
500 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 03:46:20.29 ID:9fD6OnLMo

ダンテ『……』

一瞬、唐突に何を言い出すかと思ったがすぐにダンテは気付いた。
恐らくこれが具現という力の作用の一つか、と。

どういったものかは、ある程度は話に聞いている。
ウィンザー事件もあって、
トリッシュの言いつけで否応無くそれなりに学び研究せざるを得なかったのだから。

だた。

トリッシュ『他者の精神、記憶へと侵入し干渉、干渉できなくとも全て覗き通すことができるみたいね。嫌な力。デリカシーがないわ』

こうして繋がりを介してトリッシュが補則してくれるのならば、
別に自身が学ばなくとも良かったのでは、ともダンテは一瞬思ってしまうが。


竜王『スパーダの血族。その世界の歪みたる、因果に食い込む「宿命」を清算する戦い、か』


竜王『自らの存在が、大乱を誘発させる潜在的な原因であると考えての、な』


竜王『具体的には、人間界の時間軸を「塞き止めている」バージルと魔女の本拠へととりあえず殴りこみたい、違うか?』

ダンテ『…………へぇ。便利な力だな。まあそんなところだ』

そしてこれまたいつもの事。
嫌悪を示したトリッシュとは反対に、
まるで意地になって対抗するかのようにある程度の許容の反応を見せるダンテ。

竜は可笑しげに小さく笑いこう続けた。


竜王『ならば、少しお前手助けをしてやろうか』
501 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 03:51:05.63 ID:9fD6OnLMo

ダンテ『……Humm』

そこでピクリと。
笑み交じりに、わざとらしく訝しげに眉を細めるダンテ。

竜王『俺様が考えるに、こんなことをやってのけられる場所は「神儀の間」しか考えられない』

竜王『「神儀の間」とは俺様が倒された折に建立された神域の一つだ』

竜王『かの神域にて魔女とその側に付く魔、賢者と天界の間で誓約が交わされ、セフィロトの樹の原型が築かれ、そして2000年前』

竜王『戦勝の英雄たるスパーダが、諸神らの前で人界と共に生きることを誓った』

そんな彼に対して、
竜は右手を肩の高さに掲げて得意げに続けていく。

竜王『とまあ、概要はそんなところだが、重要なのは今、バージルはかの領域を完全に支配しており』


竜王『彼の意志無くして、何人も不可侵ということだ』


ダンテ『……』

竜王『お前でもな、もちろん俺様でもだ』

そしてこれまた大げさな表情を浮べて。


竜王『だが一つだけ。彼の意識外からかの領域に侵入できるルートがある』


竜は不気味にほくそ笑んだ。
その端正な顔を醜悪に歪め、享楽的酔狂に満ちた息を吐いて。


竜王『お前にとっては懐かしいものであろう』


そうして。
竜が掲げた右手を軽く振り下ろした―――その瞬間だった。

光が溢れ―――竜の姿が一瞬で忽然と消え。

入れ替わるようにして、延々と続く白亜の石畳の果てにて―――突然、地を割って巨大な『塔』が出現した。

ダンテ『……』

幅数百m、高さは数kmにも及ぶであろう『黒い塔』。
その姿まさしく。

今でもダンテの脳裏に焼きついているあの―――テメンニグルの塔そのものであった。
502 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 04:02:48.60 ID:9fD6OnLMo

竜王『―――そう、テメンニグルの塔だ』

そしてこれも具現の力の一つなのか、
この場には存在していないにも関わらず、そして『繋がり』なども形成してもいないのに。

トリッシュのそれと同じように直接意識内に響いてくる声。

竜王『人界に踏み入った魔達の牢獄であり、魔剣スパーダの「芯」の封印領域へと繋がる「階段」』

竜王『だがな、それらは「アレ」の本質ではない』

ダンテ『……』

どこかへ離脱してしまったのだろうか。
ただダンテは、そんな竜の突然の逃走にも特に動じはしなかった。
創造が機能している以上、逃げる気になった竜を留めておける方法など現状は無いのだ。

竜王『アレはかつて魔女の手によって、神儀の間と共に建立された「神域」の一つ』

そうして、声のみとなった竜の言葉が続いていく。


竜王『本来の機能は―――あらゆる領域へと繋げられる―――「門」だ』


竜王『築かれた当初の目的は、魔界による侵略の際に異界から直接増援を引き出す、というものであった』

竜王『ただ結局、その主目的では使われ無かったがな。開門に必要な力が莫大過ぎることもあって―――』


ダンテ『―――ハッ。長ったらしいご講釈はもう充分だ。要はなんだ?』

と、そこでダンテは耳障りとばかりに目を細めて、
そう単刀直入に切り返す。

竜王『……ふん。要はだ。お前がかの塔に血を注いだ時、門はお前の望む場へと開く』


竜王『お前はバージルの下へと到達できる。一切の障害無くな』
503 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 04:08:07.23 ID:9fD6OnLMo

ダンテ『……』

これは一体―――如何なる意図があるのだろうか。
じっと塔を遠めに眺めながらそう、ダンテが意識内でふと思うと。

竜王『現時点において、お前と俺様の利害は一致してるのだよ』

竜が口を開き、これまた『ご丁寧』に述べてくれた。

竜王『俺様は、筋書きの従うことを決めた。だがな、なにもその目的に同調したわけではない』

竜王『俺様が求めるのはその「過程」だ。意外性に満ち溢れ、あらゆる刺激を有する激動の物語。それを見、体験したいのだ』

竜王『筋書きは、ただ俺様とお前が死力尽きるまで激闘を繰り広げること、そしてお前が「上条当麻を殺す」結果を望んでいる』


竜王『だがそんな流れなど、お前は望んではいないし何より―――つまらないだろう?』


竜王『そして俺様も―――まだ終らせたくはない。更に愉快な展開にしたい』


ダンテ『…………Humm』

竜、その人格はどうにも信用ならず、
そして何よりも生理的に気に喰わない。

『ムカつく』野郎だ。

だがそんな人格とは相反して、
その良し悪しはともかく吐かれる言葉は全て合理的。

それにこれまた『腹立たしいこと』に。
ダンテの冴え渡る直感が、竜の言葉は全て真実であると揺ぎ無く肯定していた。

ダンテ『…………』
504 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 04:19:29.85 ID:9fD6OnLMo

トリッシュ『一端退きましょう、ダンテ。イマジンブレイカーの坊やの件もあるし、これは良く考えなくちゃ』

内から、一時退却を促すトリッシュの声が共に思考の中に響く。
彼女の言うこともごもっとも、それが『普通』の考えであろう。
先行きが読めず、かつ複数の未解決の問題が積みあがっていれば、
誰でも一先ず歩みを止めて状況を分析しようとするものだ。


だが生憎―――ダンテは普通じゃない。


彼は正真正銘『イカれている』。
どうしようもないくらいに常軌を逸して、他の悪魔とも人間とも違って何かが『ズレている』。


竜王『再びかの塔を昇り、己の血で扉を開け』


それこそ『ダンテ』が『ダンテ』たる個性であり、
そして―――筋書きに気付き反旗を翻す、という『狂気の沙汰』へ至った種だ。


竜王『お前の宿命が決定付けられたかの塔の門の先で―――』


つまりはこの『狂気の沙汰』を昇華し貫くことこそ―――筋書きをぶっ潰すに至るのだ。


竜王『―――お前の宿命の決着が待っているであろう』


それに竜の言葉通りならば。


竜王『そして―――「全」へと成っている俺様もその先にな』


『上条当麻』も塔の先にいるということだ。
これはもう、ダンテにとってこの『挑発』を断る道理など無い。


ダンテ『―――ハッハッッ!!面白え!!乗ったぜそのゲーム!!』


進んで飛び込み何もかもを盛大にド派手にぶち壊す。
宿命の本質へと到達するこの戦いは、まさにこれまでを再度なぞる集大成。

そうだ。

何だってそうだ。


      クライマックス
―――『最 期』はこうでなければいけないものだ。
505 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 04:28:31.09 ID:9fD6OnLMo

そうして。

魔人化を解いては、ダンテは一ッ跳び。
マントと翻してアレイスターの盾となっていたアグニとルドラの傍へと降り立ち。

ダンテ「聞えてたな!そういうことだ!俺はもう一度あの塔に登る!」

アグニ『我らも共に』

ルドラ『我らも同行を』

ダンテ「良いぜ!来な!『思い出巡り』だ!」

そうして、猛々しい喜びの雄たけびを上げる双子を傍らにダンテは歩き進み。


ダンテ「…………よお、お前も来るか?」


因果からダンテがもぎ取った命、アレイスターへと言葉を放った。
哀れで罪深い彼は相変わらず俯き、廃人のようにただ呆然としている。

だが。

ダンテ「お前に何があったのかは知らねえ。だがこれだけはわかるぜ」

ダンテ「お前は因果とやらに吐き捨てられたってな」

因果。捨てられた。
その言葉を投じられた瞬間、僅かにアレイスターの肩が動き。


ダンテ「どうだ? んなクソッタレな『お前の筋書き』―――ぶっ飛ばしたくはねえか?」


そして微かに、『動き』のある硬直を見せたが。
それでも結局は、彼は立ち上がるそぶりは見せなかった。
506 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/27(日) 04:31:11.04 ID:9fD6OnLMo

そんな彼を見て、ダンテは両脇の双子へ向けて声を飛ばして。

ダンテ「………………おい、どちらか、コイツを学園都市に戻してきてくれ」

アグニ『ふむ、では一先ず兄の我が』

ルドラ『ふむ、では我が先にダンテと共に行こう』


ダンテ「なあ、アレイスター。お前の宿命を潰せるのは、お前しかいねえんだ」


アグニがその巨体をアレイスターの傍に屈める傍ら、
まるで何気なくの独り言のように、あっさりとした声色で連ねた。

ダンテ「『英雄』ってのはそりゃあ表向きは大勢を救えるが、それはあくまで表向きでしかない」

無数の救うべき命が、
どうしても『手遅れ』となりその手をすり抜けてきた者としての言葉を。


ダンテ「―――20年も『ヒーロー屋』やってりゃ、嫌でもわかるぜ」


ダンテ「『宿命』ってのから本当にそいつを救えるのは―――そいつ本人だけだってな」


彼らの屍の上に立っている―――『血まみれ』英雄としての言霊を。


ダンテ「何が言いたいかわかるか?要はな、」



             ヒーロー
ダンテ「本来、『英雄』ってのは―――誰でもなれるもんだってことだ」



アレイスター「…………」

それらの響きが、この男の内にどこまで浸み込み。
どんな波紋を描くか、それを明確にこの場で知る術は無かった。

だが。
確実に、何らかの波紋を生じさせたのは確かであった。

アグニに連れられ、彼の姿が消える際にダンテは見た。
アレイスターのその拳に力が僅かに戻り―――握り締められたのを。


ダンテ「ハッハ。まずはステップ1はクリアだ。そうだ―――その通り―――」


そしてダンテは小さく笑い。


ダンテ「―――ぶっ飛ばすには、はじめに握り拳を作らなきゃあな」


彼方の塔へとその面を向けた。


―――
507 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [sage]:2011/11/27(日) 04:32:05.65 ID:9fD6OnLMo
今日はここまでです。
次は火曜に。
508 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(富山県) [sage]:2011/11/27(日) 04:38:51.19 ID:mw0/2TeTo
なんちゅう時間に
509 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/27(日) 04:39:49.81 ID:Isymcn5z0
乙です!
いよいよ佳境ですね。終わりが近づくのが楽しみであり、既に若干寂しくもある・・・

ここからどう纏めてくるのか期待しています!
510 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/27(日) 04:57:59.01 ID:L03mjcF50
乙乙乙

真魔人化してあの技を使おうとしたら
ボタン入力がうまくいかなくて
結局ただの銃乱射になったのはいい思い出
511 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(岐阜県) :2011/11/27(日) 07:10:58.39 ID:5zGILQ670
テンション上って寝れなくなった
訴訟
512 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(兵庫県) [sage]:2011/11/27(日) 07:59:37.02 ID:/BY/xcVB0
(*´Д`)また入り口のケロ介にエボ&アイぺちぺち撃ち込む作業が始まるお
513 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(北海道) [sage]:2011/11/27(日) 09:27:23.49 ID:cvQbAaYjo
乙ストーム!
『』になってたからまさかと思ったら、ダンテ魔人化状態だったとは・・・さすが竜王。
ちなみにまだ学園都市編の範疇ですかね?
514 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [sage]:2011/11/27(日) 13:40:19.75 ID:9fD6OnLMo
>>513
あと二、三回で学園都市編は終ります。
515 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/30(水) 02:22:18.39 ID:FyE4RatUo

―――

何もかもから隔絶された領域、虚無の彼方にて。

神裂『…………』

禁書『…………』

互いにしっかりとその手を握りしめながら、
二人は静かに待ち続けていた。

眼下に広がる大樹は、5%ほどの線を残してほぼ二分されている。
インデックスの正確な解析のもと、神裂が次元斬りで少しずつ切り離していったのである。

今頃天界は大騒ぎであろう。
セフィロトの樹、そのシステムを全てチェックし、何とかして侵入者を見つけ出そうとしているはずだ。
しかし見つかるわけが無い。

こうして虚無から刃を振るっているのだから。
彼女達は一切邪魔されること無く、ここから悠々と切断していったのである。


そしてその残る『枝』は―――人間への各種テレズマの供給線のみ。


彼女達は今、その供給線を前にして作業の手を止めていた。
ステイルからの報告を踏まえての、テレズマの供給線に関するバージルの判断を待って。
516 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/30(水) 02:25:14.95 ID:FyE4RatUo

ただ。
神裂は、己とステイルの要望が通るとはどうにも思えなかった。

バージルからすれば天界魔術師など微々たる存在であろう。
いてもいなくてもさして変わらない、いや、むしろ彼の性格からすれば、
余計な事をされないよう供給線も切り力を奪った方が良い、と考えるかもしれない。

そもそも計画は当初から、セフィロトの樹は全切断する方針。
ここで供給線だけを残すよう要望する神裂やステイルの方が、その計画から逸れてしまっているのだ。

テレズマの供給線を残して、実際的な利点は何がある?
計画をここで変更するに足るものがあるか?
むしろこのまま計画通り全切断し、天界魔術を人界から一掃してしまった方が、
多くの争いの原因を根絶することができて良いのではないか?

そう返されてしまえば、神裂とステイルは何も言えなくなってしまう。
『理由付け』の殻は全て剥ぎ取られてしまい、こう曝け出されてしまうのだから。


根は単なる『私情』、『己が育った世界、そして今も仲間達が所属している世界を失いたくないであるから』、と。


しかしそうした『私情』を抱いてしまうのも、人の心を持つものとしての性である。

どれだけ小さくとも確かな機会と理由を手に入れてしまったら、
誰しもがその私情を叶えることを試してみたくなってしまうもの。

それが例え、拒絶されるとわかっていてもだ。


神裂『あのう!聞えますか?!答えを!』


神裂『お願いします!!どうか―――!!』
517 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/30(水) 02:28:07.05 ID:FyE4RatUo

沈黙を通す主に向け、再度声を放つ神裂。
そんな彼女とは対照的に。

禁書『…………』

傍らのインデックスは、
この件に関しては未だ明確な意志を示さずにいた。

彼女は少し俯きながら下唇を噛み、じっと押し黙ったまま。

神裂『……っ』

魔女の身としてはセフィロトの樹の全切断、
天界と人界の完全決別はまさに悲願であろうか。

更に二度目の人生も魔術世界で道具として良いように扱われて、
天界魔術が引き起こした騒乱の数々を目にしてきた彼女からすれば尚更か。

と、そんな自身の思いの一方。

神裂やステイルの立場でもしっかりと考えているのだろう、
一切口を出そうとはしない。

神裂『…………』

しかし彼女、インデックスはいささか不器用で素直すぎるところがある。
彼女自身は隠しているつもりなのであろうが、繋がりを介すまでもなく、
その表情や佇まいで心情は丸わかりだ。

一度、そんなインデックスを見て。
神裂と繋がりの先にあるステイルは、やはり己達の私情が過ぎていたと認識して。


神裂『………………す、すみません。やっぱり―――』


そう、バージルへ向けて声を発しかけた時。
ほぼ同時に、そして鋭く鮮烈に。



バージル『――――――好きにしろ』



声が放たれてきた。
518 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/30(水) 02:31:11.97 ID:FyE4RatUo

神裂は一瞬、己が耳と意識を疑ったが、
それは確かにバージルの声だった。

普段どおりの冷ややかで無感情な声色である。

神裂『―――な、ほ、本当ですか!』


バージル『二度言わせるな』


神裂『―――は、はい!すみません!!ありがとうございます!!』


ダメとわかってはいても、何事も言ってみるものである。
バージルはここにはっきりと、その声と繋がりをもって神裂達の要望を許可してくれたのだ。

しかしこれで万事良しというわけでもない。
もう一人、その前にはっきりとした答えを聞かねばならない者がいる。

神裂『―――……インデックス。私はあの線だけは残したいと思っています』

神裂はそうしてインデックスへと向き求めた。
この判断についての確かな、彼女自身の答えを。

神裂『あなたは……どう思っていますか?』


禁書『……………………わ、私は…………う……うぅん……』


と―――その時だった。

アイゼン『―――そなたら、少しよいか』

突然、この場に割り込み二人の意識内に響くアイゼンの声。

アイゼン『いまやセフィロトの樹は陥落したも同然、そればかしの供給線など、いつでも人間界からでも切断できる』

アイゼン『だからそれらの是非を論じるのは後にせよ。今はとにかくはよう戻って来い』

その声は少し張り詰めているか、神裂にはどことなく、
アイゼンのいつもの余裕が全く含まれていないように聞えた。

禁書『……?』

インデックスも似たような印象を抱いたのか怪訝そうな表情を浮べており。

神裂『何か問題でも起こったのですか?』

そして神裂がそう問うと。


アイゼン『うむ。特に「主席書記官」。そなたに強く関係しておるぞ』


禁書『―――わ、私?』


―――
519 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/30(水) 02:32:43.58 ID:FyE4RatUo
―――

学園都市、第七学区。
複数の大悪魔の力が立て続けに振るわれたその一画は、今や瓦礫散らばる荒野と化していた。

いいや、『瓦礫』として認識できるほどに、
『普通の形』を留めているものはまだ良い方なのかもしれない。

五和「……」

レディに続き無残な更地の中をゆく五和、
第七学区の奥へと進むにつれ現実離れしていく周囲の環境を見て、五和はふとそう思ってしまった。


光源がどこにも無いのに、満月が『五つ』くらいでもなければというくらいに、
青白くぼんやりと浮かび上がっている地面。

それも照らされているのではなく、光を帯びているのだ。
瓦礫や鉄くず、爪先で蹴ってしまう小石までもが。

そして冬の冷たい風が吹き荒んでいるにもかかわらず、
ふわふわと穏やかに宙を舞う、ガラスとも氷とも判別がつかない不気味な煌きを帯びた『細かな砂』。

人類が周知しているどの法則でも説明がつかないであろう、
神の領域の力による現象の数々であろうか。

レディ「大丈夫だとは思うけど、下手にあれこれ触らないようにね。まだこの辺りは『全て』に力が濃く残留してるわ」

一際強く光を帯びている瓦礫の一欠けらを脇に目にしての、
そう一応といった忠告を飛ばしてくるレディ。

五和「…………」

力の残留、それは五和もはっきりと認識していた。
この特有の息苦しさはもちろん。
手にある魔女の槍、そして腰に刺している上条当麻の黒い拳銃からも熱を帯びて感じる。

いいや、今やこの第七学区だけではない。
先ほどから第一学区であろうか、その方向からこことは比にならないプレッシャーが放たれてきており、
更に学園都市中が『悪魔のもの』とは明らかに違う『異質な圧力』に覆われている。
520 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/30(水) 02:35:51.85 ID:FyE4RatUo

と、そうして二人が更地の中を歩み進んでいたところ。
先を行くレディがふーん、と鼻を鳴らして。

レディ「この有様の原因は主にイポスとケルベロスの力、それとシャックスが戻ってきたみたいね」

力を分析する魔術的な判別紙であろうか。
三つの異様な紋章が浮かび上がっている、その葉書ほどの古びた紙を指の間に挟みこむようにして、
ひらりひらりと振るいながらそう口にした。

五和「名くらいは私でも知ってはいますが……それも三つとも、やっぱり大悪魔なんですか?」

レディ「そうね。ケルベロスはダンテの『飼い犬』で、シャックスとイポスの飼い主はアスタロト」

五和「その……彼らがここで戦いを?」

レディ「みたい。詳しい流れはよくわかんないけど、とにかく人類の敵であるシャックスとイポスはとりあえずくたばったみたいね」

                     オーブ
レディ「ここはあいつらの『血』で満ちてるわ。おかげでホクホクだしいい気味だし最高ね」

五和「それでもう一体は?」
                                       オーブ
レディ「ケルベロスね、うぅん、あちこちに彼の『血』も飛び散ってるのだけれど、盛大にってわけでもないのよね」

五和「では……生きてると?」

レディ「あー……微妙ね。死んでてもおかしくない量でもあるし」
521 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/30(水) 02:37:31.14 ID:FyE4RatUo

そうした会話を続けていると、
二人は大地に穿たれた大きな窪みの淵に辿りついていた。

一方に向けて巨大な溝が続く大きなクレーター、その様はさながら、
地面とほぼ水平の角度で隕石が衝突してきたかのよう。

レディ「ま、一応知ってる顔だし、そんなワンちゃんの安否でも確認してあげようとっねっ」

そこでレディはそう口にしながら淵から飛び降り、クレーターの底へ滑り降りていった。
ワンちゃん、そんな表現に少し意表を付かれるも、一先ずと五和も続き飛び降りていく。

クレーターの底の深さは20mほどか、これまた光を帯びた大量の異質な瓦礫で覆われているため、
実際の深さはもっとあるか。
そんなクレーターのちょうど中心辺りにて、
ロケットランチャーを箒のように振るい、乱暴に瓦礫を除け始めるレディ。

そして。

レディ「?いたいた」

五和「…………?」

その欠片の合い間にて、青く透き通る水晶のようなものに覆われた『何か』が見え。
更にがらがらと周りの瓦礫を除けていくと、そこから現れたのは大きな―――『獣状の足先』だった。

人の胴五本分はあろうかという巨大なそんな爪先を今度はレディ、
ロケットランチャーの尻で乱暴に叩き。

レディ「良かった。一応生きてはいるわね」

今の行動でどのようにして判別したのか五和にはさっぱりであったが、
一先ず彼女はそう確認の声を口にした。

レディ「『冬眠』に入りかけてるけど」

五和「……と、冬眠ですか?」


レディ「復活まで『一時的に死んでいる』状態ね。魂と器の治癒待ち」

レディ「悪魔の習性ってところかしらね」
522 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/30(水) 02:38:57.77 ID:FyE4RatUo

そう傍らの五和に告げながら、
ロケットランチャーでごんごんと更に叩くレディ。

レディ「話はできる? ああそれも無理、ね」

レディ「じゃあ……とりあえずここに放置するわけにもいかないし、もうちょっと運びやすいサイズになってくれない?」

とその時、彼女がそう巨大な爪先に言い放った途端、
突然その場が大きく陥没した。
深さ幅共に5mほどが一気に沈んだのである。

五和の体は条件反射ですかさず飛び退き、陥没に巻き込まれることなく穴の淵へ。
そこでようやく彼女の意識は驚きという感情を滲ませた。

五和「……っ!!」

レディ「ごめんびっくりしたでしょ」

対して逃げなどせずに地面と一緒に陥没したレディは、
そんな彼女を見上げて意地が悪そうな笑みを浮べて。

足元に転がっていた『あるもの』を爪先にひっかけ、
五和へと向けて蹴り上げた。

それは青い結晶のような質感の―――三棍のヌンチャク。


五和「っきゃ……つ、つめたっ……!」

『冷たい』、それがヌンチャクを抱きとめた彼女が最初に覚えた感覚だった。
そんな彼女の反応を見てまたもやレディはにやにやと笑みを浮べて。

レディ「それがかの名だたる三頭の魔狼、ケルベロスよ」
523 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/30(水) 02:40:17.34 ID:FyE4RatUo

五和「…………」

ケルベロス。

数々の神話や記述にその名がある存在。
それら伝聞の元となった本物の『神』が今、己の手の中にある。

それはそれはとんでもないコトなのであろうが、
不思議な事に、内に何かの衝撃が走ることは無かった。

ここ半年、悪魔という存在とは特に強く関わってはきたせいか、
そしてウィンザー事件やヴァチカン、先のアスタロトという一連の流れの中で慣れてしまったのだろうか、
これといって強く思うことが何も無い。

五和「…………」

『冬眠』であるせいか、ヌンチャクからはこれといった重圧も覚えないことも、
その『新鮮味』の欠如に拍車を駆けているか。

この神が通常の状態であれば、
きっと慣れ不慣れ関係なく精神を揺さぶられるのであろうが、
今伝わってくるのは氷を持っているかのような冷気のみだ。

五和はそう何気なしといった面持ちで少しこのヌンチャクを眺めて、
陥没穴から上がって来たレディに手渡した。

そんな彼女の様子を見てレディが一言。

レディ「いい顔してるわね」
524 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/30(水) 02:41:23.86 ID:FyE4RatUo

五和「…………」

それは一体、どういった意味なのか。
先ほどのアスタロトの件から精神状態がほぼ回復し
落ち着いていることを指しているのか。

それともこうして妙に冷めて、
神たる存在を手にしても全く怖気もしていないことなのか。

五和「は、はい。どうも」

その意図はどうにも分かりかねたが、レディの表情を見る限り、
少なくとも悪い意味は一切含まれていないよう。
そうしてここは一先ず素直にと、五和は褒めの言葉に対して礼を返し―――


―――と、その時であった。


それは突然の『異質な衝撃』。
地面は揺れてもいないのに『地鳴り』が響き、倒れてしまいそうになるくらいの振動。

そしてある方向の彼方にて。

距離感がなぜかまるでわからないが、
それでもとてつもなく巨大だと瞬時にわかる、

今まで人類が築いたどの建築物よりも高いであろう―――『黒い塔』が出現した。
525 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/30(水) 02:42:38.65 ID:FyE4RatUo

刹那、五和はとても信じられない『もの』を目にしてしまった。

五和「―――っ」

もちろん突然現れたあの異質な塔でもあるが、
それとは別にもう一つ、彼女の目は捉えてしまったのだ。

それは振り向き、あの黒い塔を見たレディ。


一瞬だけ見えた―――ひきつった横顔。


それを覗かせたのはほんの僅かな時間だけ、
しかしそれでもはっきりと認識できるくらいに、そこにはとてつもなく色濃く負の感情が―――


―――嫌悪、憤怒、そして―――恐怖が滲んでいた。


五和「―――」


しかもそれは程度の差はあれど、
少し前に五和がレディの中に目にした色と同質のものであった。

先ほど、アスタロトが罠にかかる直前、
彼女がデビルハンターとなる道を決定付けたある男―――『父親』の話をしていた時に垣間見せた『陰り』と。
526 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/30(水) 02:44:38.81 ID:FyE4RatUo

レディ「―――…………」

レディ、その目に映るかの塔の姿に、『メアリ』は何を抱き見るか。
それは今でも脳裏に焼きついている凄惨な過去。


彼女だけの―――そして彼女にとって唯一たった一度の―――『悪夢』。


だが今は、その悪夢を見ている存在はもう『彼女だけ』ではなく。
たった『一度』でもなくなってしまった。

メアリ=アン、彼女が悪夢の象徴としてかの塔を意識したとき。

かの塔も彼女を意識し。
かの塔を顕現させている要素の一つ、『具現』も彼女を認識し捉えることとなる。


それはつまり、かの力に精神が囚われてしまうことを意味する。


『具現』、それを前にして僅かな恐怖でも見せてしまったら、
この恐怖を主食とする忌まわしき力に、恐怖の源たる記憶を抉られ―――そして曝け出され。


あの日終ったはずの、その手で自ら終らせたはずの悪夢が――――――再現される。



レディ「………………………………」


この瞬間、彼女の脳裏に『悪夢』が鮮明に復元されて。
同時に再顕現されたテメンニグルの塔内には、その『悪夢』が再び『実体化』する。

この呪縛から抜け出すにはただ一つ。

再びその恐怖の権化たる試練に立ち向かい、
『前回』と同様、その手で決着をつけるほか無い。

そう。


レディ「……………………………………………………………………」


自らの意志でもう一度、あの重くて痛くて苦しくてたまらなかった――――――――――――『引き金』を絞らねば。


―――
527 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/30(水) 02:47:06.06 ID:FyE4RatUo
―――

学園都市の界上にて、
創造と具現の『御業』により再顕現したテメンニグルの塔。

それは古の世にて魔女の手で築かれた『門』であり
2000年前のかの魔界による侵略の際は、
漏れ出した魔界の欠片と悪魔達を封じる牢獄として使われ、その後。

その後は魔剣スパーダの芯、フォースエッジの封印領域へ続く、唯一の門となった。

もちろん、そうした経緯からこの塔そのものも強固に封じられることとなる。

スパーダは己が半身を魔界の錠にしたように、
七柱の大悪魔を礎に『七つの大罪』をなぞる『七つの封印』を敷く。

それは如何なる事があろうと、
フォースエッジを持つに足るものでなければ決して解くことのできない錠。
すなわちスパーダの二人の息子達のみということだ。

更に、ここにスパーダはもう一つの『カラクリ』を仕込む。

七重の封印を解けるのは双子のみであるが、
双子だけではその封印の位置を絶対に見つけられないようにしたのである。

封印の位置に関する記述は、魔術の暗号言語でのみ残して。

これぞ、息子達が人間と共に歩むことを願ったスパーダの遺言の一つだ。
我がスパーダの力を受け継ぐ時は、人間の協力と許可が必要である、と。
528 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/30(水) 02:48:46.55 ID:FyE4RatUo

しかし。

さすがのスパーダであっても未来を正確に見通すことは不可能であったか、
その後には誤算が生じていく。

いいや、結果をみれば誤算ではないであろうか、
だがその経緯はとても彼が望んだものではなかったはずである。

彼が消えてすぐに妻が生き絶え。
息子達の道が完全に分かれ。

そして。

兄がフォースエッジを求めて七つの封印を解こうとした際、

得られた協力者は、悪意に満ちた狂気の魔術師だった。
それも妻を生贄に悪魔に転生した『元人間』の。

そこから繰り広げられたのは、兄弟の血で血を洗う闘争。
二人の宿命を分かち、そして冷酷に突き付ける戦いだ。


竜王『……』

そんな、かの魔剣士の刃の記憶に優雅に浸って。

竜はその鮮やかな髪を風に揺らしながら、
テメンニグルの塔の頂上、『七つの柱』が物寂しげに立っている広間に佇んでいた。
529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/30(水) 02:49:47.58 ID:FyE4RatUo

竜王『「七つの鐘を打ち鳴らし、我らは祝福するだろう」―――』


竜王『―――「太古の恐怖の再来、魔界の王の降臨を」』


その『祝福の鐘』が吊り下げられるであろう柱の一本を見上げながら、
口から漏れるは、『七つの封印』の錠とされた大悪魔の一柱が最期に残した言葉。

竜王『―――はは、面白い。中々風情がある』

そうして小さく笑っては柱に軽く寄りかかり、
ゆっくりと眼下へと目を向けた―――ちょうどその時であった。



『―――まさか今一度、貴様と言霊を交わす日が来ようとは』



突然響く、低く篭った異質な声。
ただ竜王は特に驚きなどしなかった。
むしろ待ちかねたといった表情を浮べて。


竜王『やあ、久しぶりだな―――』


そして相手の名を口にした。



竜王『―――フォルティトゥード』
530 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/30(水) 02:51:22.66 ID:FyE4RatUo


フォルティトゥード『我が名を気安く口にするな……腐れ竜めが』


現天界の頂点にして四元徳が一柱、忍耐フォルティトゥード。

まるで隠すつもりもないのであろう、
その声にはとてつもない嫌悪がありありと滲み出ていた。
しかし竜王はそんな相手の声色など全く気にもせず。

竜王『昔の蟠りは抜きにしよう。時間が惜しいしな。すぐ本題に入らせてもらうよ』

フォルティトゥード『何用だ?』

酔狂に満ちた声でこう告げた。


竜王『―――俺様と手を結ばないか?』


その瞬間、塔全体が揺れるかというくらいの振動を伴った、
天空からの笑い声が響き渡り、そして。


フォルティトゥード『―――貴様と手を結ぶだと?妄言も甚だしい』


笑いの中に怒りも滲ませての、四元徳の威圧的な声。
しかしその笑いも、次の竜王の言葉で一瞬にして途絶えることとなった。



竜王『―――――――――「創世」。それがお前達の悲願であろう?』
531 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/30(水) 02:54:20.43 ID:FyE4RatUo

フォルティトゥード『…………』


竜王『世界の目を持ち、完全なる状態で復活したジュベレウス』

竜王『かの存在による御業、全てを無に還し、この世を絶対的な秩序の下で「創世」、それをお前達は望んでいたのだろう?』

フォルティトゥード『…………』

竜王『しかし今や「光の右目」は完全に失われ、ジュベレウスの復活は不可能。創世の可能性は潰えた。だが―――』



竜王『―――俺様なら―――創世も不可能ではない』



竜王『さて、良く考えろ』

竜王『お前達はこれからどうするつもりなのだ?この今の人間界を巡る一戦には「奇跡的」に勝利したとしても、そこからどうする?』


フォルティトゥード『…………』


竜王『わかっているだろう?「俺様抜き」であれば、如何なる選択をしようが今敗北するかいずれ敗北するか、結果はこの二つしかない』


フォルティトゥード『……………………』


竜王『実質、お前達には選択の余地が無いのだよ』


竜王『悪くは無い話だと思うが?俺様と手を結べば、悲願の創世が叶うのだ』


竜王『この世の全ての闇と共に魔界も消え去る。それこそジュベレウスが望んだことではないのか?』
532 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/30(水) 02:57:28.86 ID:FyE4RatUo

竜の声。
それはとても信頼できるような音ではない、
冷やかしと嘲笑があちこちに色濃く浮かび上がっているもの。

だがそんな表層とは相反して、放たれた言葉自体は全て道理にかなっていた。

そう。


フォルティトゥード『……………………』


彼らにとって選択の余地は無いのである。
ここで竜王の手を取らなければ、天界の滅亡は確定することになる。

ましてやジュベレウスが滅亡した、その衝撃に今だ震撼している天界とっては、
この『創世』の可能性は『救いの光』に等しいものだ。


フォルティトゥード『……………………良かろう』


答えはそれしかなかった。

竜王『心配するな。何も俺様に隷属しろというわけじゃあない』

竜王『三神の力を完全統合し、「全能」となるには少し時間がかかる。その間少し支援して欲しいだけだ』

竜王『学園都市の「洗浄」は当初の計画通り行ってくれても構わない』

フォルティトゥード『……ふん』

そうしてここに、それまでの関係からするとあまりにも意外な、
竜王と四元徳の同盟が成立した。


ただ当然、そこには一欠けらも信頼など存在していないが。
四元徳との交信を終えた後、竜は一人可笑しそうに笑った。


竜王『はっ……相変わらず馬鹿正直で安易な連中だ。それだから戦下手なのさ』
533 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/11/30(水) 03:01:50.45 ID:FyE4RatUo

と、そう一仕事終えた後。

竜王『ほぉ……これはこれは、思わぬゲストか。面白い』

さきほどから背後に覚えていた気配に向け、
竜は愉快気に笑みを浮べながら声を放った。

竜王『ちょうど先ほど、この塔と併せてお前についても記憶を遡っていたよ。一度会ってみたかった』

竜王『この時代に生を受け、世界に多大な影響を及ぼした至高の魔術師、その三傑を決めるとすれば―――』

そして振り向き、そこにいた一人の『男』と面と向かって。

竜王『アリウス、アレイスター、そしてお前―――』



竜王『――――――アーカムであろうな』



その名を呼んだが。
アーカムと呼ばれた、スキンヘッドの異様な雰囲気の男は特に反応を示してはいなかった。
人形のようにそこに立ち尽くしているだけだ。

それを見て竜は、まいったといった風に肩を竦めて。

竜王『……ま、所詮は「過去の残像」か。「記憶の主」以外にはまともに反応しないか』

そうして、わざとらしくではあるが寂しそうにため息をついた時。
タイミングよく、ある人物が彼へとアクションを送ってくれた。

それはまず、魂そのものによって形成されていた『特異な繋がり』の『再起動』にはじまり。


竜王『お、やっと「回復」したか』


そして意識内に響くは。



『―――――――――――――――あなたは…………―――だれ?』



かの『愛おしい少女』の茫然自失とした声。
対して竜はけらけらと笑いながら、茶化すようにして言葉を返した。


竜王『誰かって? ひどいな――――――インデックス』


それもわざと―――口調を真似て。



竜王『君が愛する――――――「上条さん」ですよ』



―――
534 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [sage]:2011/11/30(水) 03:02:37.00 ID:FyE4RatUo
今日はここまでです。
次は金曜に。
535 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/30(水) 04:12:12.21 ID:RYpCkhFDO
乙乙乙tylish!!!
クライマックスへ向けて着々と役者が揃いつつありますな。

そういえばスパーダの作った三本の魔剣、スパーダと閻魔刀の固有能力は描写されてますが、
リベリオンの固有能力ってどうなってるんだろう?
伏線のギミックになってるんですかね?
536 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(富山県) [sage]:2011/11/30(水) 07:21:56.60 ID:J2dtW2Afo
右条さんはゲスいな
537 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/30(水) 07:35:36.88 ID:BG0EPEmto
お疲れ様でした
538 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(北海道) [sage]:2011/11/30(水) 08:46:12.10 ID:DLBIWix5o
お疲れ様です。竜王マジ鬼畜。
>>535
鍔元がくぱぁって開くギミックがあるじゃない。
539 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(群馬県) [sage]:2011/11/30(水) 19:03:52.21 ID:zMbifXWB0

リベリオン飛べるじゃん
540 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(千葉県) [sage]:2011/12/01(木) 02:49:56.06 ID:Zr3jrNOVo
ゲーム上の基本武器だからしかたないけどリベリオンって地味だな
多彩なスキルがあるけどあるのが魅力なんだろうけど
541 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/12/03(土) 02:24:35.60 ID:rnNsSxiao
―――

ステイル『テメンニグルの……塔……』

名を聞かされても、いまいち釈然としなかったが、
その響き自体に、とてつもない言霊としての力があるのであろう。

名を耳にし認識した瞬間、神裂から―――いや、これはその先の『大主』のバージルからのものであろうか。
断片的なイメージが繋がりを介して流れ込んできたのだ。

それらは具体的に何の情景なのかは判別できない、ノイズまみれの壊れたイメージ。

ステイル『……』

しかしこれだけははっきりと認識できた。
それらの断片上に渦巻いてる、只ならぬ感情と滾りを。

なんと苛烈で熱く、破壊的で破滅的な滾りか、
その勢いは無二の絶対的恐怖をも覚えてしまうくらいだ。


そう、今この瞬間、バージルはかの塔の存在を認識して『逆鱗』しているのだ。


そんな最強たる『主の主』の強烈な憤怒に晒されてしまうことは、
『使い魔の使い魔』である彼にとって恐怖のどん底に突き落とされるのと同じこと。
ステイルは顔をひきつらせてその場に硬直してしまう。

しかし彼には別の繋がりがもう一つある。


イフリート『何をしておる?―――まずお前達はやるべきことを成せ』


父たるこの大悪魔との繋がりが。
一瞬バージルの激烈な圧に押し潰されそうになったステイルを見て、
炎の魔人は良く響く言霊を放った。


イフリート『恐怖に縛られるのはその後でよい』
542 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/12/03(土) 02:26:31.24 ID:rnNsSxiao

ステイル『……っ』

そうだ、今こうしている余裕など無いのだ、と。
イフリートのたくましい声が、揺らぎかけていた彼の芯火に再び力を宿させる。

ステイル『ああ……』

『向こう』でも、この状況を前に混乱しているのであろうか。
バージルはもとより、神裂からも具体的な命令は放たれてこない。

となれば今の己の義務は、こちらでやれることをやるのみである。

イフリート『かの塔については今ダンテが動く。彼らに任せるが良い』


そしてまた、イフリートの神たる声は例え繋がりが無くとも、
聞く者の内には言霊の力が届くものである。

一方『…………チッ』

唖然としていた一方通行もまたその頭を切り替えるように、
己が額を叩くようにして手を当てて舌打ち。

エツァリ「……そう……ですね。まずは……」

そうしてエツァリも塔から視線を外して、彼らの方へ振り向いたその―――瞬間だった。

突然彼らの背後、つまり塔から反対側の方向、
すぐこのビル内にて赤い魔方陣が浮かび上がり。


―――筋骨隆々とし、赤い体皮の―――『首なし巨人』が現れた。


『―――届け物だ』


そしてそう告げる巨人の、大木の如き足の前には―――床に膝を付いて俯いているアレイスターがいた。
543 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(富山県) [sage]:2011/12/03(土) 02:28:47.36 ID:7oCa2Nwdo
きた
これで勝つる
544 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/12/03(土) 02:29:47.53 ID:rnNsSxiao

イフリート『ご苦労であったアグニ』

アグニ『うむ』


ステイル『……アレイスター』

一方『―――はッ』

長い髪が垂れ下がり肩を落としている様からは、例え顔を見なくても充分にわかるほどに、
竜王とアレイスター=クロウリーの勝負の結末が示されていた。

一方通行はそんな彼の姿を見て悟った瞬間「びきり」と。
闇と歪に混じる白い顔に、憎悪と憤怒に満ちた笑みを刻んで。

一方『―――カッカカッ!そォら言わンこちゃねェ!ボロッカスに負けたみてェだな!ザマァねェなァおィ!!』

無様は敗者の元へと、容赦なく言葉を浴びせながら歩んでいく。

彼がその歩を進めるたびに、周囲の虚空から闇の筋が出現し、
アレイスターの体へと今度こそどこにも逃さぬとばかりに巻き付き、その場に完全に拘束固定。


一方『よォ、「負け犬」さン。そこで大人しくしてろ。オマエにァ、ぶっ殺す前に聞きてェことが山ほど―――』


アレイスターの前まで来た一方通行は、その髪を乱暴に掴み、
俯いている顔を強引にあげて覗き込んで―――


一方『(―――っ…………こィつっ…………)』


そうしてその目を見た瞬間。
情け容赦ない言葉を連ねていた口が―――止まってしまった。


アレイスターの見た目は『麗しい女性』の顔、
その目から、透き通った雫が幾筋かの線を引いていたのだ。

そしてその瞳には。

僅かに、それでいて確かに―――先までは無かった何らかの『光』が宿っていた。
545 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/12/03(土) 02:32:43.49 ID:rnNsSxiao


―――泣いているのか―――?


こんな普通の人間のような目で?
本当にあのアレイスターなのか?


これが―――憎んで憎み足りない、例え百万回殺しても絶対に気など晴れない、あの男の成れの果てだと?


ステイル『……アクセラレータ?』

一方『…………』

彼は少し混乱し困惑してしまった。

ちょうど己の陰になって、アレイスターの顔が見えていないのであろう、
そんなステイルからの声を受けて、一方通行は訝しげに目を細め。

無言のまま更にもう一重、彼の体に闇を強固に巻き付けては、
その手を乱暴に離して踵を返し。


一方『…………回線の修復が終わりそォだ。土御門と滝壺に繋げンぞ』


笑みを完全に潜めた表情で、そう言葉を放ちアレイスターの傍を離れた。
そんな彼の様子を見て、ステイルとエツァリは顔を見合わせるも。

エツァリ「……まあ、今はまず虚数学区の件を」

ステイル『ああ』

そう頷き、一方通行の方へと向かっていった。
546 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/12/03(土) 02:36:32.29 ID:rnNsSxiao

アグニ『手は足りているか?』

イフリート『否。現状において、充分という言葉など存在せぬ。手勢は多ければ多いほど良い』

アグニ『では我もしばらくここに』

イフリート『よいのか?』

アグニ『よい。ダンテの元へはいつでも行ける。ルドラがいる』

そうして首なしの巨人アグニは、その場に『本体』である大剣を突き立て、
のっしりとアレイスターの背後に胡坐をかいて座った。

向かい、アレイスター越しの前方の壁際にはちょうど―――変わらぬ、友好的とは言えない雰囲気を醸すベオウルフ。

アグニ『……ふむ。何を考えている?ベオウルフよ』

この白銀の巨獣がなにやら思案気な目でアレイスターを眺めていることに気付き、
そこでアグニはすかさずそう問うたが。


ベオウルフ『……黙れ「脳」無しが。白痴がうつるわ』


手厳しく一蹴された。

イフリート『構うな。アグニ』

アグニ『ふむ……』


ベオウルフ『…………………………………………』

相変わらずの相容れない威圧感を放ち、じっと佇むベオウルフ。
その赤き光を宿す瞳は、何人も悟れぬ『ある意図』を含み。
ただただ静かにアレイスターへと向けられていた。

そんな白銀の巨獣の背後、
ぶち抜かれた壁から覗く闇夜の空は今、ぼんやりと。


―――徐々に『白金』の輝きを帯び。


虚空の狭間から学園都市へ、幾本もの光の筋が差し込み始めていた。
それはそれは『清廉で神々しい』―――『天からの光』が。

―――
547 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/12/03(土) 02:39:42.86 ID:rnNsSxiao

―――

実用に耐える超音速機を所有しているのは、
学園都市とウロボロス社を除けばアメリカとイギリスのみ。

ただイギリスのそれは学園都市からリースした数機のみで、
整備は学園都市の第23学区で、もちろん学園都市のクルーによって行われるというものだ。

もちろんアメリカが所有する超音速機も、
開発した社はウロボロス系列であるため、
限定的にはこのイギリスと学園都市の関係とも重ねられる。

ただそれはあくまで限定的な類似点のみを抽出した見方であり、
一転して超音速機を取り巻く全体状況を有り方は、実質大きく異なってくる。

まず、ウロボロス社の各種軍需品開発の予算の大半はアメリカからのもの。
そして開発は当然米軍主導、量産整備も全てアメリカ国内で行われる。

それゆえか。

こうして生み出された超音速機、いや、
これはウロボロス北米本社傘下の全ての工業製品に言えることだが、

これらは、よく言えば『小奇麗で全てにおいて徹底的に作りこまれた』、
悪く言えば『器用貧乏』といった学園都市の工業製品類とは、『全体的』に大きく異なっている。

特にウロボロス系列の軍用機それは、
乗り心地など『絶え難いストレス』さえ覚えなければそれで充分、
『無駄』に乗り心地なんかを作りこむよりも実用性・保安性にだけ力を注ぎ込み、
できるだけ早く安く簡単に生産できる様にするべし、という思想で作られているのだ。
548 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/12/03(土) 02:43:27.09 ID:rnNsSxiao

具体的には、まずこの超音速輸送機だ。

座席は固いしベルトは重く、換気が悪い貨物室内には金属的というか、
こういった『重工業系』機械類特有の油臭さが充満し。

学園都市のそれならば小声で会話するくらい簡単であるが、
ウロボロス社せいのそれは、超音速機用の高出力エンジンの爆音が鳴り響いているため、
隣の席の者と会話する際も大声を発しなければならない。

これは先に学園都市が実用化してしまったことによる圧力から、
早期実用化のため防音性開発の部分が短縮されてしまったことが主な原因である。

ただ、これも『よくあること』。

確かにそれは騒音と呼ぶに相応しいものであるのだが、
実際に搭乗する米軍兵士は皆 軍用機とはそういうものだ、
話したければ従来どおり機内無線を使えばよい、という考えで特に気にもしていない。

しかし。

学園都市で育った『この少年少女』達はもちろんそんな辛抱なんか無く、
尚且つ機内用無線のヘッドセットは数が限られ、個々の通常無線も今は混線防止で切られているため。


「―――決めたァッ!!」


何か他人に伝えたい時は、ただひたすら爆音に負けぬよう怒鳴り散らす。

真っ直ぐ切りそろえた前髪が印象的な、
包帯で作った粗末な眼帯をしている少女は、パーカーのフードの下から叫んだ。


「―――もォ一生飛行機には乗らねェ!!乗らねェぞチクショウがッ!!」
549 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/12/03(土) 02:45:16.12 ID:rnNsSxiao

黒子「……」

同感だ、と。

離陸を待つ超音速輸送機のカーゴの無骨な座席にて、
向かいに座っている『Juliett 4』のそんな言葉を聞いて、彼女は一人心の中で頷いた。

学園都市のはもちろん、このウロボロス社製の機にも、
もう超音速で飛行する物体そのものに二度と乗りたくない。

超音速に乗り込み、危険極まりない空の旅へと発つのは本日二度目。
そして下手をすれば、同じく二度目の決死の降下をも敢行するかもしれない。
それも専用の頑丈な投下用シェルに乗ってではなく、この身のまま空へと飛び出し、
背にあるパラシュートと己が能力で。

これを狂気の沙汰と言わずしてなんと言う。

黒子「……」

更に、そんな狂気の沙汰を自ら行うのは十代の少年少女たち。
これを聞いた世界中の人権活動家や識者達は、一体どんな顔をするだろうか。

まさにイカレテル。


黒子「全く…………『クソッタレ』ですの」


それがなぜかとても滑稽に思えて彼女はにやりと笑い、
おそらく隣の者にすら聞えないであろう小さな声で口汚く呟いた。

少し前はこういった汚らしい言葉は抵抗があったが、今はその逆だった。

これはきっとダンテやネロのせいだ。

彼らの汚い口調に重なると、
自然と力が湧いてきて精神的に図太くなれてしまう。

黒子「ふふ……」

全く、なんと教育に悪いヒーロー達であろうか。
影響力が抜群のため本当にタチが悪い者達だ。
550 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/12/03(土) 02:47:25.50 ID:rnNsSxiao

そのようにして彼女が一人笑っていた頃、
カーゴの中ほどでは。

絹旗「……」

浜面「……」

この二人がメンバー内に混じり、並んで座していた。

滝壺は今は一時的に機首側、土御門や結標といったいわゆる首脳陣と共におり、
浜面の隣はその彼女のために空けられている。

浜面「…………」

そんな二人の間には、
しばらく会話が無かった。

話すべきことはあるかもしれない、いいや。
山ほどあるのだが、二人ともわかっていたのだ。


『それ』は今は話すべきではない、と。


言葉を交わさずとも滝壺もわかっていたらしく、
彼女もまた、デュマーリ島を離れてから『それ』に関することは一言も口にしていない。

―――否。

そもそもこれ以上は、特に話す必要は無いのかもしれない。
『あの場あの時』、皆が皆その胸の中のものをまるごと吐き出したではないか。

浜面も、絹旗も、滝壺も。
怒って、泣いて、喚き散らして、荒削りの素のままの気持ちを。
551 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/12/03(土) 02:50:06.87 ID:rnNsSxiao

浜面「……………………」

あの時の光景を思い返す中、浜面はぼんやりと顔をあげた。
上方のラックからは、小さなテレビが無造作に吊り下げられている。

映っているのはどう見ても通常番組では無い。
深夜の放送休止時間のようなカラーバーが全面に映り、
下の帯にはしきりに英語のテロップが流れている。

浜面「……なあ!!あれなんて書いてるんだ!!」

ふと何となしに。
爆音の中、隣の絹旗に向けそう叫び問うと。

絹旗「民間人への避難指示ですよ!!最寄の基地か指定の施設に超急いで避難してくださいってところです!!」

浜面「なるほど!!」

絹旗「あの程度の英語も読めないのですか!!全くここまできても浜面は相変わらず超浜面ですね!!」

そしていつもの調子で返される声。
こちらをコケにする普段どおりのその返しが、今はどれだけ心地よかったか。

浜面は思わず「ふっ」と小さく笑って。

浜面「……ああ。お前も普段どおりだな」

そう小さく呟き返した。
と、その言葉は聞えなくとも口が動いたことに気付いたのか、

絹旗「―――はいぃ?!超浜面のくせに何か文句でも―――?!」

絹旗が声を放った―――その時。


突然、方々から大きな声が上がった。
一時的にこの爆音を上書きしてしまうほどにまで、メンバーが皆沸き立ったのだ。

浜面が驚き隣を見ると、
絹旗も周りと同じく目を見開いて、何やら歓喜の声を放っている。

そこで彼が、彼女の耳元で声を張り上げて問うと。

浜面「―――おい?!何があった?!」


絹旗は満面の笑みでこう答えた。


絹旗「―――回復です!!―――演算支援が超回復しました!!」
552 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [sage]:2011/12/03(土) 02:51:25.34 ID:rnNsSxiao
ぶつ切りですがですが今日はここまでです。
次はできれば明日の夜中、それが無理なら日曜の夜中に。
553 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(富山県) [sage]:2011/12/03(土) 03:15:56.57 ID:7oCa2Nwdo
554 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 03:24:34.91 ID:LGIwE+9DO
ええ!?もう終わり!?
555 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(北海道) :2011/12/03(土) 08:11:35.58 ID:lVOiPzfAO
>>1
唐突すぎて一瞬何がなんだか分かんなかったぜ……
556 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) :2011/12/03(土) 08:21:07.54 ID:Dk/Ps7KD0
途中まで読んでたんだけどインデックスって銀髪だろ?
青い髪って表現いつ直るの
557 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(兵庫県) [sage]:2011/12/03(土) 10:27:14.80 ID:B2wyRcJG0
乙!

バージル兄ちゃんテメンニグルで逆鱗てアレか、昔の黒歴史ノート引っ張り出されてる感じなのかな
558 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [sage]:2011/12/03(土) 13:46:19.99 ID:rnNsSxiao
>>556
本当すみません。
大ボケかましてました。
まだ直っておりません。
559 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [sage]:2011/12/03(土) 17:45:16.23 ID:Dk/Ps7KD0
アラストルの最後の台詞が凄い違和感あったんだけど
なにせ、あのスパーダの息子に仕え〜 かのスパーダが〜
って面識無いような言い回しになってるけどアラストルとイフリートって盟友だからこの言い回しおかしくね?
息子に仕えて至高どころかお前本人と盟友だったじゃねーかと思ってしまった

560 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(富山県) [sage]:2011/12/03(土) 18:10:27.61 ID:7oCa2Nwdo
関西の人間はツッコミが鋭いな
でも現行の部分に突っ込みいれるならまだしも今更前の部分に突っ込みいれられても>>1も困るだろうしほどほどにな
他の読者に「チラシの裏に書いてろ」とか言われちゃうぞ
561 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 18:16:06.30 ID:qhBpOwPAO
>>559
アラストルとスパーダの盟友設定はwiki発祥の妄想ガセ
少なくとも公式媒体では明言されてないかと
562 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(北海道) [sage]:2011/12/03(土) 21:44:29.12 ID:sb06N41Wo
乙でござる。
あちゃー、竜王さん兄貴を怒らせちゃったかー・・・
563 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [sage]:2011/12/03(土) 23:59:07.41 ID:rnNsSxiao
>>559
すみません。
>>561の通り明確なソースがありません(あくまで>>1が知る範囲)ので、
当SSでは『スパーダとアラストルが盟友だった』という設定はもともと反映しておりません。

ちなみにwikipediaのデビルメイクライ系の記事は、
昔からちょくちょくソースが無い設定が記載されていて、やや信憑性が乏しかったりします。
564 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/12/04(日) 05:30:55.80 ID:uo+bICLDO
人手不足?ゲリュオンさん喚べよっ!!
565 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/04(日) 10:58:20.77 ID:LsM/T1LDO
>>1 安定した乙乙乙tylishっぷりです、もうラノベ位の厚みなら三〜四冊くらいになってそうですね。
>>564
そんな事言ったら…
ルシフェル「やぁダンテ!私のサポートが(ry」
そういえばルシフェル、ルシファーってサタンの別名と言われるレベルの1柱なのに意思すら持たぬ魔具なんだよなぁ。
作品によって悪魔や神の格がマチマチなのは日本ならではなんだろうな。
566 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/12/04(日) 11:10:53.62 ID:g1YVXi5H0
それは女神転生でも有名な分霊設定を活かしてみてもいいかもしれん。
或は初代攻略本でダンテがベルゼバブの項で、
「蠅っぽい見た目だから高位の悪魔の名前だけ語ってる別物」
みたいな事を言っていたのを当てはめてみても良いかもしれんな
567 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/04(日) 23:17:00.70 ID:f1UciNFH0
>>564
Neko氏を呼ばれたらアウトだ
568 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/12/05(月) 05:22:59.32 ID:A3y7G+xXo

そして機首側の『首脳』達の側にも、一気にその騒ぎが波及していく。
その時土御門は、結標と共に米軍の将校と確認作業を行っていた。

土御門「―――?!」

結標「―――演算支援が回復したわ!!」

土御門「―――本当か?!」

彼にとっては全く前触れのない突然の湧き立ちだったが、
驚き面を上げるとほぼ同時、すぐに結標がそう告げてくれた。


滝壺『つちみかど。学園都市との回復したよ』


土御門「―――!」

次いで耳の通信機から『久しく』響いてくる滝壺の声。
当の滝壺は近くの座席にちょこんと座り、
周囲の騒ぎとは対照的に相変わらずのマイペースな空間を形成維持し続けている。

滝壺『アクセラレータから通信が入ってる』

そして彼女はそのまま口動かすことなく、
再構築された回線を介して声を送ってきた。


土御門「―――繋げろ」

一方『―――土御門。聞えるかァ?』

指示すると、続けて学園都市からの彼の声も。
569 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/12/05(月) 05:29:11.72 ID:A3y7G+xXo

土御門「何かあったのか」

一方『あァ大アリだ』

結標『学園都市の状況は?』

一方『あァー、色々あり過ぎてだな……』

対する一方通行の反応は、あまり芳しいものではなかった。
伝えることが多すぎるのであろうか、立て続けの質問に押される形で、

一方『……口で伝えるには面倒ォな量だ。まずは滝壺と結標にイメージ流すぞ』

彼はそう、一先ずミサカネットワーク・滝壺の能力経由でデータを流すと告げてきた。

ただその脳内への直接のイメージデータは、
滝壺とAIMで接続されていない土御門は受け取ることが出来ないもの。

しかしそれも考え方次第でどうとでもなることだ。
いつも通り柔軟に働いた土御門の思考は、瞬時に己もイメージデータを受け取れるある妙案を導き出す。

土御門「―――そっちに魔術師はいるか?」

エツァリ『はい、自分が』

ステイル『僕もいる』

土御門『よし、まず海原、今お前は原典起動しているな? 魔術回線を構築して、イメージを直接俺に流してくれないか』

エツァリ『はい?記憶の直接転送が可能なほどに強い魔術回線なんか繋げたら、あなたは―――』

土御門「大丈夫だ。今の俺は魔術障害は一切無い」

エツァリ『ああ…………ふふ、なるほど、「例の件」は上手くいったのですね』

土御門「ああ。成功も成功、思わぬ助けも得ちまったぜよ」
570 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/12/05(月) 05:30:04.87 ID:A3y7G+xXo

そうして魔術的位階座標とある程度の術理論を素早く話し合わせ、
土御門も問題なくエツァリ・ステイルからの必要な記憶を受け取った。

土御門「―――」

彼らの見聞きした事柄が一瞬にして、
走馬灯のごとく意識内へと流れ込んでくる。

特にこの一刻のステイルの記憶は壮絶なものであった。
学園都市、そしてプルガトリオを跨いで行われた激しい戦闘と『逃走劇』。
神裂、ローラ=スチュアート、インデックス、魔女、アスタロト。
イフリート、ベオウルフ。


そして虚数学区への『投獄』、アレイスターと―――上条当麻。

土御門「―――……っ……」

それはそれはこちらがデュマーリ島で体験したことにも引けを取らない、
濃密過ぎる出来事の数々。
いや、デュマーリ島よりも更に酷いか。

こちらの出来事は一応一段落ついているのに―――学園都市ではまだ継続中なのだ。
ステイル、エツァリからの記憶は唐突に終っていた。


今すぐにでも天界の侵攻が始まるかという中で―――上条当麻が竜王とかいう存在に『成ったまま』で。


土御門「…………」

結標『…………』

イメージの持ち主・送り元が違うとはいえ、内容はほぼ同一であろう。
顔を見合わせた結標もまた、その表情は唖然としたものであった。
571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/12/05(月) 05:31:51.46 ID:A3y7G+xXo

土御門「……」

天界の門の開放、迫る天の軍勢降臨の時。
ネロとダンテを信じ、同意した結果がこれか。

いや、この言い回しは語弊があるか。
別に土御門は、彼らを信じたことを後悔しているわけではない。

むしろより―――彼らへの信頼を強めていた。
そしてより―――彼らのその『流れの上』の立ち位置と視点に驚かされていた。

ネロが任せとけと言うのだから、
てっきりスパーダの一族が天界関連の問題にも着手してくれるとは思っていたが、
そんなことは無い、学園都市を守るのは自分達自身であったのである。

このイメージに付加されてきた策―――天界の攻撃から本物の学園都市を保護する計画。

虚数学区を実体化させ殻とする、なんて悪い冗談・戯言に聞えてしまう内容だが、
彼らが精査し組み立てたこの仕様を見る限り、決して不可能な話しでもない。
各人材を適切に配置すれば充分に実現可能なものであるのだ。


土御門「……」

具体的にこの状況へとなることを、ダンテやネロが最初から予期していたか、
いいや、それはまず考えられない。
まずこの案の出所は垣根帝督であり、直接の接点があるとは到底思えない。


つまりはこれもまた、彼らにとっては―――『何となく』、『気まぐれ』が引き寄せた展開である。
572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/12/05(月) 05:35:11.70 ID:A3y7G+xXo

ふと脳裏を過ぎる、それらのネロの言霊。
篭められたる意味は決して『無責任に流れに身を任せろ』なんかではない、
『己と直感を信じて進路を定めろ』というもの。

土御門「……」

再度、その単純ながら至難である行動原理の在り方を実感させられた。

一切妥協しない。
どんな恐怖にも屈しない。
何があっても絶対に止まらない。

逆境の中でそれらを貫くのはまさに至難。
しかし、逆境に屈せずに進み続けていれば、
僅かずつでも確かに可能性が積みあがっていき―――その可能性の山がこうして新たな可能性を引き寄せてくれるのだ。


それはそれは、可能性を積み上げて別の可能性を手に入れ、それを積み上げてまた―――という、
きわめて長く険しい綱渡り。
デュマーリ島で散った者達のように、途上で脱落してしまう可能性も大いにあるであろう。

しかし脱落したからといって、それまでの行いが無駄になるわけではない。


手に入れた可能性は仲間に引き継がれてゆくのだから。

そう、今の己達のように。

                                    クソッタレ
――――――麦野沈利を筆頭とした亡き『仲間』達、彼らが築いた可能性の山の上に立っているからこそ、


こうして学園都市に生きて帰還することができ、学園都市を守るために戦える。
土御門舞夏と、彼女の住まうこの世界を守りきれる可能性を捕捉できる。


          バカ
そしてあの親友―――上条当麻を引き戻す可能性も必ず―――。
573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/12/05(月) 05:38:24.45 ID:A3y7G+xXo

土御門「……」


結標『―――………………悪くは無い案ね』


そうして結標もまた、己の中である程度の形をもって状況を飲み込んだのか。
唖然とした顔からすぐに切り替え、例の計画についてそう口を開いた。

土御門「滝壺、設計は可能か?」

滝壺『うん、ちょっと待って…………大丈夫、ミサカネットワークに手伝ってもらえれば上手くできそう』

滝壺『でもAIM掌握がミサカネットワーク経由だけだと、すごい量だから少し遅延が出てくるよ』

一方『具体的にはどォいった障害が出る?』

滝壺『例えば、アクセラレータや虚数学区のAIM自体に揺らぎが生じたら、対応処理が遅れて一瞬穴が開くかもしれない』

滝壺『最悪、コンマ数秒くらい』

土御門「……」

コンマ数秒。
普通の人間の感覚からすればごくごく一瞬ではあるが、
異界の戦士達からすれば充分すぎる時間だ。
穴を見つけられたら、本物の学園都市へと一気に雪崩れ込んでくるに間違いないか。

そんな、学園都市が直接戦火に晒されることは何としてでも避けなければならない。

滝壺『でも私が学園都市の真ん中にいけば、直接掌握できるから遅延問題は解消するよ』

土御門「……」

ならば核たる滝壺を危険域の中央に置くのも止むを得ないか。

一方『チッ。仕方ねえな。オマエ達が来るまで穴とやらはこっちで何とか誤魔化してやる』

土御門「頼む。こちらはもうすぐ離陸する。二時間以内にはそちらに着くだろう」

一方『おゥ』
574 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/12/05(月) 05:41:26.78 ID:A3y7G+xXo

土御門「それとだな、念には念をいれて外部から常時モニターするエンジニアも欲しい」

土御門「設備と一緒に確保できるか?」

エツァリ『ここは第一学区ですし、アレイスターのものもありますし設備はなんとかなるでしょう』

エツァリ『エンジニアは芳川さんなどは?確かラストオーダーと一緒におられるのでしょう?適任かと』

土御門『妥当だな。頼んだぞアクセラレータ』


一方『…………』

と、そこで急にアクセラレータが押し黙ってしまった。
音声だけでも充分にわかくらいに重く言葉を詰まらせて。

土御門『……アクセラレータ、言っておくが―――』

一方『―――わかってる。そィつはさっき海原にも言われた』

と一転、今度はやや早口で土御門の声を先回りして遮った。
そう、一方通行たる人物を知っている者ならば、
すぐにピンと来る彼の『個人的な問題』。

滝壺『?』

きょとんとしている滝壺を除き、
この会合に参加している者達は皆揃って、含みのある沈黙と相槌を発した。


一方『……あァ。わかってンよ』
575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/12/05(月) 05:43:50.15 ID:A3y7G+xXo

エツァリ『…………さて、それでは、まず実体化はあとどれくらいで?』

滝壺『え?あ、うん、とりあえずあと三分くらいで、一応の形で実体化できるかな』

滝壺『細かいところはその後に加えていくよ。それで完成に固められるのは30分くらいかな』

土御門「よし」

これはかなり良い話しだ。
今や天の軍勢が降臨するかという時なのだから、すぐに実体化できるに越した事は無い。

と、そう話を詰め合わせていたところ。

少し席を外していた米軍将校が再び戻って来、身振り手振りで離陸する旨を告げてきた。
聞いて土御門は、結標と頷き合わせては座席に座り。

土御門「滝壺、この馬鹿騒ぎしてる連中に離陸すると伝えろ。あと黙れともだ」

滝壺『了解』

するとAIMのネットワークを介して彼女の指示の声が伝わったのだろう、
機内のざわめきがみるみる沈み、変わらぬエンジンの爆音独奏へと戻る。
その中、滝壺自身は機の中を小走りで駆け、機の中ほどの己の座席へと戻っていった。

エツァリ『こちらに到着するのは?』

土御門「学園都市領空に到達するのは約100分後だ」

エツァリ『わかりました。では、快適な空の旅を祈ります』

土御門「ああ。本当に快適であって欲しいぜよ」

そうして土御門もベルトをしっかりと止め、
徐々に振動を増す機体へと身を委ねた。

一際大きく唸りをあげるエンジン、
その咆哮の音程は、強まる振動と共に徐々に高くなりつつあった。
576 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/12/05(月) 05:45:32.50 ID:A3y7G+xXo

その頃、同じく機の一画では。

御坂「―――ねえ、何があったの?」

回復したミサカネットワークを介して、
御坂が妹達からの状況説明を聞こうとしていた。

『……おお』

『……ううん』

『……あー……』

『……本当にこういう気持ちの時はどうすればいいのでしょう。すごくザワザワして気持ち悪いんです』

しかし学園都市で何があったが、
それを問うと妹達は皆口篭り、思わせぶりな声を漏らすばかり。

御坂「ちょ、ちょっと何よ、はっきり言いなさいよ」

『では……先に言っておきますがどうか落ち着いて聞いて下さい。ミサカ達も実は今、頑張ってパニックを抑えている最中なんですから』

ただそれでも最終的には、『長女』たるの命令には逆らえず。

御坂「―――パニック?」


『はい、ぶっちゃけて言いますと――――――』


妹達は学園都市にて起こった事をありのまま―――告げた。


御坂「――――――――――――は―――当麻―――が―――?」


血の気が引く、とはまさに今の彼女の表情変化の事を言うのであろう。
耳の通信機からの声に、御坂美琴の思考は瞬間完全に止まってしまった。




暗いグレーに塗装された大きな機体は、凄まじい出力のエンジンを高鳴らせて。
そんな彼女と他100余りの少年少女を載せてゆっくりと滑走路に進入。

そして離陸許可を受けたのち、みるみる加速して。
高温ジェットの光の尾を引き空を引き裂いていった。

日中であるにも関わらず依然、不気味に闇に淀んでいるその空を。


―――
577 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/12/05(月) 05:46:48.95 ID:A3y7G+xXo
―――


学園都市、第一学区。
『窓の無いビル』と呼ばれていた、今や壁が崩壊しているその建物にて。

ステイル『さて、僕は外に出て様子を見てくる』

アグニ『我も逝こう』

土御門達との打ち合わせを一先ず終えて、それぞれが動き出した。
ステイルは『神々しく』白み始めている空を伺いながら、
同時に腰を上げたアグニと共に外へと歩んでいく。

イフリート『我はとりあえずこやつと共にここに居よう』

炎の魔人はそのまま、まずはベオウルフの見張りを続ける事とし。

エツァリ「自分はまずこの施設の設備を見てみます」

エツァリもそう口しながら周囲を見渡して、そして。

エツァリ「あなたは、わかっていますね?」

一方『……』

一方通行へ向けてさりげなく、
それでいながら強く戒めるかのような声色でそう放った。


一方『………………あァ』


何のことか、それはわかっているとも。

大仕事の前に、円滑な作業の障害になりかねない個人的問題を片付けておけ、
つまり―――打ち止めに面と向かって会えということだ。
578 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/12/05(月) 05:47:50.23 ID:A3y7G+xXo

怖いか。

それはもちろんだ。
彼女に会うことは怖い。
彼女の本当の言葉を聞くのは怖い。

しかしもう逃げることは許されない。


一方『あァ、ンなこたァわかってンよ』


そして先送りにすることなんて、今の己自身が許さない。

すぅっと一度大きく息を吸い。
彼は目を瞑り、己が感覚を研ぎ澄まして彼女の魂の位置を探っていく。


一方『はッ…………』

すると案外、彼女は近くにいた。
第一学区の地下深くではなく地上、それもここから300m足らずの目と鼻の先にだ。

大悪魔が三体も密集しているせいで近づけないのだろうか、
ちょうど圧が急激に濃くなる範囲のすぐ外のところで、他二人の人間と共に留まっていた。
一人は芳川、もう一人はどうやら先ほど保護した『花畑』の少女か。

三人は、あたかもこちらを待っているかのようにじっと動かずにいた。


一方『……来ィってか』


それもまあ当然なのかもしれない。
AIMごと掌握し、あれだけミサカネットワークを力ずくで弄ったら、
こちらの『色々な事』が妹達に筒抜けになっていてもおかしくない。

それこそこちらが今、どんな事を考えているのかも。


そうして一方通行は再度、
己を鼓舞するように大きく息を吸っては吐き。


彼女のもとへと『飛んだ』。
579 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/12/05(月) 05:48:46.00 ID:A3y7G+xXo

「―――ひゃわ!!」

その先でまず耳にしたのは、
そんなやや間抜けな少女の声だった。

一方『……』

そこは薄暗い、施設と施設間の壁に挟まれた路地。
やはり同行していたのはあの花畑の少女と芳川だった。

こちらの突然の出現で驚いたのだろう、少女は壁にびたりと張り付き、
かたや地面に座していた芳川は、少々目を丸くしていたも特に驚いてはおらず。

そして芳川の腕の中、毛布に包まった―――幼い少女に至っては。

まるで、いや、予めこちらの出現する場所がわかっていたのであろう、
その大きくて可愛らしい目は一切揺らぎ無く彼へと向けられていた。


一方『………………あッ…………』


透き通る瞳。
そのあまりの澄み渡り具合に瞬間、声が出なくなってしまった。
呼吸、鼓動も止まってしまったのような感覚。


一方『………………』


聞きたい事がある。
大事な大事な、今までずっと聞きたかったことがある。
しかし。

それが喉まで来ているのに言葉が出てこなかった。
580 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/12/05(月) 05:50:02.93 ID:A3y7G+xXo

ならば。

声が出なければ、せめて体で示そう。


一方『…………』

そこで一歩、また一歩と前へと踏み出し始める一方通行の足。
地面を踏みしめるたびに闇が擦れて赤き火花が散り、
その重圧で周囲が小刻みに揺れる。

芳川、その腕の中にいる打ち止めに近づいていくたびに、
止まったような感覚に陥った鼓動と呼吸が、
今度はずくずくと形容し難い振動を伴って加速していく。

そして2mというところにまで達したとき。
彼は静かに跪き―――頭を垂れた。

それが今の彼の精一杯の意思表示。


己が魂の采配を全て貴女に委ねよう、と。

一方『……………………』

その時だった。

彼女が芳川の腕の中から降り立ったのが、
細い足が地面に伸びる形で見えた。

今、どんな顔をしているのかはわからない。
今、どんな目をこちらに向けているのかわからない。

だがひたり、ひたりと小さな足が着実にこちらに向かってきて。

手を伸ばせばすぐに届く位置、
僅か30cmのところまで歩み寄ってきて。

そこで彼女の声が発された。


打ち止め「あなたが―――……『見えるよ』って……ミサカはミサカは………………」


穏やかで、幼くて、一方で。


打ち止め「―――…………あなたがそう求めるなら―――ミサカも『裁き』をはじめる」


幼い少女のものとは思えないほどに鋭い声色で。
581 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/12/05(月) 05:51:10.95 ID:A3y7G+xXo


一方『……』

ついに始まった。
ここからは聞くべきだった言葉。
聞かなければならなかった言葉。


打ち止め「そうだよ―――――――――――――――ミサカは、あなたに怒り続けてる」


今まで逃げ続けてきた―――

一方『…………』



打ち止め「ミサカは、あなたが―――――――――憎い」



初めて耳にする、彼女の『本音の本音』。



打ち止め「あなたに一万回分―――同じ事をしてやりたい」


一方『………………………………』


打ち止め「―――でもね。困ったことにミサカは、あなたのことを―――これっぽっちも嫌いになれないの」


打ち止め「だってあなたは何度も―――ミサカを守ろうとしたから」


一方『…………』
582 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/12/05(月) 05:52:49.44 ID:A3y7G+xXo

それは何の捻りもない、幼く単純な言葉。
だがそれ故に、ありのままの形で彼女の心の内を運んでくる。

打ち止め「ミサカ達を一万回殺した『あなた』のことは憎い―――」


衝撃的で、刺激的で。
残酷で、荒削りで。


打ち止め「―――でも、ミサカを何回も守ってくれた『あなた』のことは、ミサカは―――」


情緒の欠片も無くて。



打ち止め「―――――――――大好き」



どこまでも透き通って明確で。

打ち止め「……ねえ、ミサカはどうすれば良いのかな?」

そして容赦なく―――核心を突く。



打ち止め「『どれ』がミサカの本当の気持ちなのかな?」



打ち止め「―――あなたがミサカだったら―――どうするの?」



一方『………………………………』
583 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/12/05(月) 05:54:31.34 ID:A3y7G+xXo

どうするか。

一方通行『……』

己の場合、憎くて憎くてたまらない存在と言えば―――アレイスター=クロウリーだ。

何回殺そうが絶対に気が晴れそうも無い、どれだけ憎んでも憎み足りない相手。

打ち止めが問うのは、
もしあの男が―――打ち止めと同じくらいに己にとって重要なものであったら、ということ。

普通に考えて、そんな感情が肩を並べることなどまず有り得ないであろうか。
愛情が憎しみに変貌することはあっても、それら二つが同化することなく同居するなんてことは。

だが現に打ち止めの中には、そんな二つの感情がしっかり分化したまま同居しているのだ。

一方『………………』

つまりこの問いの本質は『選択』。


―――滾る憤怒に身を委ねるか、それとも。

―――憤怒に耐え、かけがえのない愛情を守るか、というもの―――であるが。

この問題は、今の一方通行にとっては――――――愚問に等しかった。


一方『………………………………』


これについての答えは、少し前に己の中で既に導き出されたではないか。

もう、己の本心から目は背けないと。
もう、苦悩することを恐れないと。
もう、苛まれることも恐れないと。


一方『俺は…………』



もう―――全てを投げ出して―――。



一方『………………「逃げない」』



―――『憤怒』にだけ身を委ねることなんてしない、と。
584 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/12/05(月) 05:56:03.42 ID:A3y7G+xXo

己の本心を認められなくて。
己を見失って。
考えるのをやめて。
苦悩に抗うことをやめて。

そして『憤怒』だけを選び『憤怒』だけになったとき、どうなってしまうか。

それは先ほどこの身をもって証明されたではないか。


己は打ち止めのもとから離れ、全てを投げ出して、灼熱の『憤怒』に焼かれて灰になりかけた。


一方『俺は―――』


そこで馬鹿で臆病者だった己はやっと気付いたばかりではないか。
『ある女』のおかげで覚悟を決めたばかりではないか。


一方『―――選択はしない。全て受け入れる』


そう。


その矛先が例え、あのアレイスターであろうが。
『憤怒』と『愛情』を天秤になど絶対にかけない。

己の全てを受け入れ、全てを掌握し、全てを支配してやる、と。
585 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/12/05(月) 05:57:00.83 ID:A3y7G+xXo

すると。
頭上から、あの普段通りのけたけたと快活な笑いが毀れて。


打ち止め「あなたって、欲張りさんになったんだね」


打ち止め「でも今のあなたは―――今まで一番好きな『あなた』かもって」


一方『―――っ…………』

鋭さが消え、今度は母性さえも感じさせるような温もりに満ちた声。
そしてふわりと。

一方通行は、己が頭に小さな手が置かれる感触を覚えて。

打ち止め「うぅん、それならミサカも欲張って、都合よく『間』を取っちゃおうかな」

打ち止め「決めたっこうするっ―――」

放たれた『判決』の言葉をその身に刻み込んだ。



打ち止め「あなたは『今後一生』―――ミサカ達の望みどおりにすること!」



一方『…………』

すなわち傀儡と成ること、それが科せられる刑。
この身この魂の未来は、まるごと彼女の所有物。
生きるも死ぬも全て言いなりの『終身刑』―――


そう、『終身刑』。


一方『―――……ありがとう』


つまり―――『生として存在すること』の承認。

彼女の判決はまさしく、己の存在を拒絶するどころか、
一先ず生きていて良いと認めてくれたのだ。
それも『今後一生』、とは、どれだけ長く刑に服するであろうか。
それだけ長く生きても良いのだろうか。

そんな彼女の言葉が何よりも嬉しくて、その慈悲が何よりも有り難くて。


一方『……………………ありがとう……ラストオーダー』


一方通行はそう再度呟いて、更に深くその頭を下げた。
586 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/12/05(月) 05:59:00.38 ID:A3y7G+xXo

すると。


打ち止め「む、……顔を上げてミサカを見なさい!って、ミサカはミサカは第一の命令をしてみる!!」


仰々しく更に低くなる一方通行に対し、早速放たれる命令。
声を受けてゆっくりと彼が面を上げると。

幼い少女は楽しげに、そして穏やかに微笑みを向けてきて。


打ち止め「つづいて第二の命令!って、ミサカはミサカはこれでもかとアピールしてみる!」


それだけ言うと両手を大きく広げてみせた。
第二の命令の内容、それは言葉では示されていなかったが、
その仕草で充分把握できるもの。

両手を広げ、じっと待つ姿勢


一方『………………………………』


つまりは抱きしめろということだ。

そうすぐにわかる。
そう、すぐにわかるも、一方通行はその第二の命令に従えずにいた。
原因は恥ずかしい、そもそも柄じゃない、そんな人並みの普通の感情も含まれていたが。


何よりも大きいのは―――全て闇で形成されているこの今の己の体が信用できなかったから、だ。
587 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/12/05(月) 06:01:21.30 ID:A3y7G+xXo

とてつもなく破壊的、で恐ろしく容赦の無い力の塊で、
彼女に触れることはどうしても抵抗が生じてしまう。

もちろんしっかりと、力は隅々まで意識を巡らして制御統率している。
だが得て時間が短い体と力、それでも万が一が考えられる。

一方『…………』

その万が一で、
打ち止めを傷つけてしまう光景が脳裏を過ぎってしまう。

と、そう彼が手を伸ばせずにいたところ。


えい、っと―――打ち止めの方から飛びついてきた。


そして彼の胸にぎゅっと抱きついて。


打ち止め「―――怖がらないで。今のあなたなら大丈夫」


一方『……』

それはさながら呪文のような言葉であった。
声と共に胸に覚える温もりに吸い寄せられ、自然と腕が動き。

彼女の背へと回され―――そして触れた瞬間。


―――すぅっと。


一方『……』

全身を覆っていた闇がみるみる退いていった。
588 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/12/05(月) 06:03:15.75 ID:A3y7G+xXo

火花散らしていた翼が、まるで休めるかのように折りたたまれ、
指も腕も、顔も髪も、全てが生身だった頃の姿形へと変じていき。

そうして一方通行は強く抱きしめた。
一切怖気ずくことなく、その小さな体をしっかりと固く―――優しく。

一方『……』

ふわりとした癖のある髪が頬を、そして鼻先を撫でていく。
体温と鼓動、そして呼吸が伝わってくる。

それのなんと暖かいことか、なんて心地よいことか。

打ち止め「良くできました。それじゃあ、次は第三の命令―――」

そして彼の胸に顔を埋めながら、少女は第三の命令を発する。


打ち止め「―――絶対に帰ってきて」


一方『――――――……あァ』

それは命令されるまでも無いことだった。


今から赴くのは―――『生きるための戦い』。


一方『必ず帰る』


絶対に勝って帰らなければならない戦い。

打ち止め「そしてまた皆で、黄泉川と、芳川と、ミサカと一緒に暮らすことって、ミサカはミサカはもっと欲張ってみる」

もちろんだとも。

一方『あァ。誓う』

これ以上、この少女の泣き顔なんか見たくはない。
そして。


『この笑顔』をずっと見続けていたいのだから。


胸から顔を少し放して―――満面の笑みを浮べる打ち止め。


そんな彼女の姿が、そこで徐々に薄れていった。
芳川も、あの花畑の少女の姿も。

それは虚数学区が実体化したことによって、一方通行が虚数学区上に『押し上げられている』から―――。
589 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/12/05(月) 06:06:05.67 ID:A3y7G+xXo

その間も打ち止めはずっと抱きついたまま、
彼を真っ直ぐに見上げていた。

透き通り、その触感も重さも消えても。

最後の最後まで。

一方『……』

そうして完全に学園都市が虚数学区と言う殻に覆われて、
彼女含め三人の姿は完全に消えていた。

胸と腕に温もりを。
そして大気には香りを仄かに残して。

だがその僅かな余韻に浸る時間も、今は与えられなかった。



その時突然―――白みを帯びていた天から轟く―――無数の『ラッパ』の音。



一方『―――』


奏でられるは壮大な聖歌のような―――いや、軍歌的でもある、
圧倒的なパワーと畏敬の念を抱かせるもの。

そして目が眩みそうなほどの、白金色の輝きに染まっていく空。


そう―――遂に『始まった』のである。


一方『……来たか』

実はかなり時間的に危ういものだったらしい。
あのように『始まる』前、30秒も無いうちに実体化できたとは、なんと幸いなことであろうか。
590 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [saga]:2011/12/05(月) 06:12:47.89 ID:A3y7G+xXo


一方通行は即座に飛びあがり、付近で最も高いビルの上へと降り立った。


遠くには依然、遥か高く聳えるテメンニグルの塔。
そして眼下に広がるは、文字通り『無人』の学園都市。
正確には、学園都市を覆う強固な『殻』か。

一方『……』

ステイル達はまだこちらに入ってきてはおらず、
ヒューズ=カザキリも実体化していないか。
虚数学区のAIMは全て認識下にあるため、内側にいる存在は全て把握できるのだ。

その知覚で確認できる限り、今ここの界上にいる生命体は己だけ。
ただここもすぐに大賑わいになる。

一方『…………はッ』

見上げたその空、そこから天のものと思われる莫大な圧が染み出してきているのだから。
きっとすぐあの向こうには、大勢の天使とやらが詰め掛けてきているであろう。

その天使共を迎え撃つため、一方通行は戦闘態勢へ―――再度、己が身を闇へと変ずる。
翼を解放し、全身からも闇を滲ませ、莫大な力を豪快に渦巻かす。


そうして臨戦態勢となり、相手の出現を待つだけとなった時。


一方『おィ―――聞えるか?』


彼はふと―――独り声を放った。

それはある一人の女への『一方的な言霊』。


一方『これ以上、オマエのことをしつこく考えはしねェ』


その胸にぽっかりと穴を空け、
心の一部を『持ち逃げ』していったあの『暴君女』であり。

そして今、こうして存在できている己の最大の『恩人』。


そう、あの―――初めて本気で恋してしまった、今は亡き女。


一方『だからよ、最後に一つだけ頼みがあるンだ―――』


もっともっと話し、知り、触れたかった彼女。
それが叶わなかったとしても、せめてこれだけは知ってほしかったのだ。

これだけは―――伝えたかったのだ。



一方『せめてこの戦いの間だけは―――』



その心に共感し、こうして同じ思いで―――生きて戦おうとしている己を。



一方『―――――――――見ていてくれ。なァ、麦野』



―――
591 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [sage]:2011/12/05(月) 06:13:58.56 ID:A3y7G+xXo
学園都市編はこれにて終了です。
創世と終焉編は10日開始を予定しております。
592 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(富山県) [sage]:2011/12/05(月) 06:18:35.53 ID:/ab7/RW7o
盛り上がって参りますた乙
593 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/12/05(月) 07:06:43.42 ID:kPGuFo+Fo
お疲れ様でした
594 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/05(月) 07:51:29.01 ID:fe8CnKWl0
乙乙乙

相変わらず熱いぜ
595 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(神奈川県) [sage]:2011/12/05(月) 09:21:19.49 ID:kb4UsAsao
カックイーなぁ
乙!
596 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/05(月) 09:24:56.62 ID:zksTFNeDO
むぎのんむぎむぎ
597 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) :2011/12/05(月) 21:09:20.27 ID:/1bzyLri0
>>565
遅レスだが、小説だとベリアルと親友だったらしい。ダンテの魔具になりはててるのは
ダンテが狩ったから
ベオウルフも魔具になったあとは本編じゃ一言もしゃべらなかったし
598 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(北海道) [sage]:2011/12/05(月) 21:41:16.91 ID:1f1MFGRpo
学園都市編終了お疲れ様です。前8割ほど消化と聞いた。そんな程度では無かった。
しかしこれから一方さんは何と言えばいいのか。一方神行・・・?一方さんでいいや。
そして創世と終焉編かー。終わっちゃうんだなぁ・・・
599 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(徳島県) [sage]:2011/12/06(火) 00:31:11.87 ID:KdGohkx/0
最初の頃は上条さんはただの悪魔だったのにな・・・
600 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(徳島県) [sage]:2011/12/06(火) 00:31:12.05 ID:KdGohkx/0
最初の頃は上条さんはただの悪魔だったのにな・・・
601 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/06(火) 00:48:54.29 ID:F52bslsSO
今更だけど最強の人間になったネロってアルティメット悟飯に似てるよな。姿変わらないし。
602 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(徳島県) [sage]:2011/12/06(火) 17:18:28.59 ID:KdGohkx/0
ごめん連投してた
603 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/09(金) 10:11:48.92 ID:m2sgMdFDO
乙なんだよ!
604 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/09(金) 20:00:02.83 ID:3RQZHa6I0
>最初の頃は上条さんはただの悪魔だったのにな・・・

そうだな・・・
って、何の疑問も持たなかった自分はこのスレに影響されすぎたのかもしれん
605 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/09(金) 23:41:02.61 ID:sKzDu1hgo
あ、>>1や。もし明日から投下するのなら読者として一つお願いが。
学園都市編終了までの各登場人物、勢力の現状を簡単でいいので、短くテンプレっぽく書いてはもらえないでしょうか。
過去ログ見るのもいいけど、>>1が現在まとめられる範囲で構いませんので。
606 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 02:50:08.46 ID:CvmXWnF7o
どうぞ。

◎学園都市
 ○ダンテ&ルドラ 
   バージルの問題含めた『筋書き』をぶっ潰すため、最顕現したテメンニグルの塔へ。具体案はいつも通り無し。
 ○レディ+ケルベロス&五和 
   レディはテメンニグルの塔を認識。ケルベロスは瀕死。五和は上条の銃持ち。
 ○一方通行 
   人界の神族化。上条のことで悩むも、ひとまず虚数学区上にて天界の軍勢を迎え撃つためスタンバイ。
 ○アレイスター 
   竜王に徹底的にぶちのめされて気力を喪失したも、ダンテに救われて僅かながら『何か』を抱く。
 ○ステイル&アグニ
   学園都市の見回りののち、天界の軍勢を迎え撃つ予定。
 ○海原
   アレイスターの設備をチェック中。主に、土御門が合流するまでの虚数学区実体化作業の取り纏め役。
 ○ベオウルフ&イフリート
   ベオウルフは協調性ゼロ、アレイスターを見て何かを思案中。イフリートはその見張り兼この場の守護役。
 ○打ち止め
   虚数学区実体化作業の中核を担う。芳川・初春が同行。
   
◎能力者部隊
 学園都市へ帰還途上。学園都市編終了時点で、到着まで約100分。
 ○土御門・結標・滝壺
   虚数学区安定化のため、滝壺を学園都市へ『設置』することがひとまずの目的。結標は一応今も佐天の『世話係り』。
 ○御坂
   上条の現状を知って衝撃。『大砲』の弾はレディ製が尽きたため、米軍に譲ってもらった通常弾。
 ○浜面&絹旗
   課せられている任は変わらず滝壺護衛。
 ○黒子
   満身創痍ながらも他隊員ら(黒夜など)と共に帰還途上。

◎テメンニグルの塔
 ○竜王(上条)
   アレイスターですら『ミカエルの聖剣』は完全再現できないと確認できて安心。
   悠々と三神の力を融合し、全能となることを目論む。その目的は『楽しむこと』。
   ちなみに『上条当麻』は視覚をベオウルフに捧げる形で喪失。

◎天界
 ○ジュベレウス派
   竜王を信用してはいないが損は無し(選択の余地無し)として表面上の同盟を組む。
   四元徳はドーピングで強化状態。
   セフィロトの樹が『何者か』に切断されたこともあって、人間界再掌握は急務であるとし、学園都市掃討は当初の計画通り推し進める。
   また天界内の不穏な空気には薄々気付いてはいるも、戦力差は歴然である(ジュべ派の絶対優勢)と考えひとまず放置。
 ○天界諸派
   ロダンと天津族・アース神族による蜂起が秒読み段階。
   依然、天界内におけるパワーバランスは絶対的不利ではあるも、ロダン〜ダンテの繋がりと立ち上がろうとする人間達の意志を信じて実行に踏み切る。
   その他派閥はいまだ明確な姿勢を示してはいないものの、一部ガブリエルといった『非公式』単独で動く者も存在。
607 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 02:52:48.72 ID:CvmXWnF7o
◎神儀の間
 ○バージル
   人間界の時間軸を力ずくで塞き止めて状態を固定、
   これによって魔界の侵食やセフィロトの樹の喪失から一時的に人間界を保護中。
   次いで『人間界を救う』ため、その身と引き換えにする形で『ある作業』を行う。
 ○ベヨネッタ
   バージルとの仕事を済ませたのち、人間界へ出撃翌予定。
 ○神裂&インデックス
   セフィロトの樹の切断を済ませ、アイゼンに呼び出される形で神儀の間に帰還。
   上条の状態を知ってインデックスは茫然自失。ちなみにインデックスは右腕をアスタロトによって喪失。
 ○アイゼン
   相談役兼神儀の間における作業の取り仕切り役。
 ○ジャンヌ&ローラ
   両者ともそれぞれの件で疲労困憊。一時休息中。

◎魔界
 ○ネロ
   魔剣スパーダをへし折り、『人間』としてダンテ・バージルと同じ『最強』へと昇り立つ。
   プルガトリオの境界にて悪魔掃討中、『流れ』の異変に気付く。
 ○十強
   アスタロト一派は壊滅したも、他の十強達が人間界に大挙しつつあり。

◎その他
 ○トリッシュ
   ネヴァンと共に事務所デビルメイクライに。
   歩行すらままならないほどに衰弱しきっているが、その意識は常にダンテと共にあり。
 ○シルビア
   イギリスへ帰還途上
 ○オッレルス
   デュマーリ島にて核を解析・情報収拾中。
 ○アックア
   キリエをフォルトゥナに。

 ○麦野&アラストル 
   トリグラフと相打ち死亡。
 ○ルシア 
   アリウスの安定化を崩すのと引き換えに死亡、ネロに取り込まれる。

◎世界情勢
   ロシアからヨーロッパにかけての争乱は終息。
   アメリカ、イギリス、日本、フランス、イタリア、スペイン、ロシア、正教・盛教・清教らはひとまず停戦合意。
   イギリスのアシュフォードにて、キャーリサとローマ教皇が面会し合同会議へ。
  

こんなところです。

それと諸事情により投下開始は数日遅れます。
本当にすみません。
その穴埋めにはなりませんが、ついでに整理参考のために使っていた年表を置いていきます。
608 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 02:56:07.39 ID:CvmXWnF7o

―――太古の昔―――

ジュベレウスによる創世。無数の世界が生み出される。
そして気の遠くなるほどの時が経った頃、魔界の一部の者達が創世主の領域を侵犯。
魔界対ジュベレウスに率いられた世界らによる『ファーストハルマゲドン』勃発。

約1500万年前〜
  ジュベレウスが魔界の三神に敗北、魔界の覇権時代が始まる。
  ファーザーロダンが魔界に堕天、更に彼を真似てオーディーンなどの多数の天界の存在が堕天。

人界系神話のモデルとなる『事実』は主にこの期間の出来事。


―――人類(人界最下層の知的種『青銅の種族』)の歴史の始まり―――

50000年前 「青銅の種族」の一部の者達が、人界神に見切りをつけて天界や魔界の力を求め始める。

34000年前 アンブラの魔女とルーメンの賢者が起つ。

30000年前 ミカエルと竜王が共に倒れ人界神族と力場が封印、人間界はその存在を天界に依存することとなり、
      神儀の間やテメンニグルの塔などの神域とセフィロトの樹の原型が作られる。

―――天界による人間界保護時代(アレイスター曰く『オシリスの時代』)の始まり―――

26000年前 魔女王アイゼンの治世。アンブラ魔女の勢力が確固たるものとなる。

25000年前 『常闇ノ皇』率いる悪魔の一団が人間界に侵入、天照ら天津族との戦い。

20000年前 ジュベレウス派、人間界に『世界の目』の存在を確認。
     この時より、その行動指針をジュベレウス復活に定める。
     その一環でセフィロトの樹を改修、保護から支配するためのシステムへ変貌する。

―――現行の有史時代の始まり―――

約5000年前〜 人界神信仰のシュメール文明が成立。
       ゴモラが滅ぼされる(神戮)。

旧約のモデルとなる『事実』は主にここまでの出来事。

2800年前 ギリシャにてホメロスらが人間界の真理に到達しかける。
     ジュべ派は人界神信仰と人間の知性探求の危険性を改めて認識し、
     支配を更に強化するよう各派閥へ命じる。

―――天界信仰の全盛時代の始まり―――
 
2400年前 釈迦を皮切りに、各地で天界の管理強化策が始まる。

2010年前 イエスが生まれる。

約2000年前 魔界による人間界侵略が始まるもスパーダの反逆、魔帝封印、
     表の人間世界への影響はごく僅かなものにとどめて早期終結。

1600年前 アレクサンドリア図書館が破壊され、古き知識が失われる。
     ローマ帝国において十字教が国教化され、人界神信仰は基盤を失い凋落する。

525年前 セレッサ(ベヨネッタ)とジャンヌ生まれる 。
    またセレッサの出自とその処遇に関して(バルドルの策略)、アンブラの魔女とルーメンの賢者の関係が急激に悪化する。

520年前 姉メアリーが生まれる(のちの最大主教ローラの基礎人格)

510年前 妹ローラが生まれる(のちのインデックスの基礎人格)

この頃にアンブラの魔女と天界・ルーメンの賢者の戦争が勃発。

500年前 ジャンヌがセレッサを闇の左目と共に封印。四元徳率いる軍勢により魔女滅亡。

こののち十字教も大動員された魔女狩りが欧州を席巻し、残党は徹底的に掃討される。

400年前 スパーダがフォルトゥナを去る。

120年前 アレイスターとアリウスが生まれる。
609 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 03:00:33.12 ID:CvmXWnF7o

―――ここから激動の一世紀―――

100年前 アレイスターとアリウスが出会う。

80年前 アリウスがウロボロス社を建て、のちの第二次世界大戦で大きく成功する。

アレイスターとローザが出会う。

60年前 イギリスの片田舎でアレイスター・ローザと、「先代右方」に率いられた掃討部隊との戦闘が発生。
    生存者はアレイスターのみ。

40年前 アリウス、デュマーリ島開発に乗り出す。
      同じ頃、アリウスの協力によってアレイスターが学園都市創設。

39年前 バージル・ダンテが生まれる。

3X年前 レディが生まれる。

30年前 スパーダが突然姿を消し、エヴァが双子を庇って悪魔に殺される。

25年前 エリザードの推薦によりローラが最大主教に。

23年前 父の足跡を追ってバージルがフォルトゥナに。ネロが仕込まれる。

22年前 ネロが生まれる。アーカムとバージルが出会う。

21年前 湖底で封印されていたベヨネッタ目覚める。
    テメンニグルの塔におけるダンテとバージル・アーカムの戦い。フォースエッジの封印が解かれる。

18年前 神裂が生まれる。

16年前 上条、土御門、一方通行が生まれる。

15年前 マレット島にてダンテと魔帝の戦い。ネロアンジェロ死亡。魔剣スパーダが覚醒。

14年前 バアル・モデウスら兄弟とダンテの戦い。
    御坂、ステイルが生まれる。

10年前 人工能力者の「生産方法」が確立され、垣根や麦野達ら第一世代の開発が本格化する。
    フィアンマが神の右席右方の座に付く。

5年前 ローラの手によってインデックスが目覚め、禁書目録として必要悪の教会へ。

4年前 魔剣教団教皇サンクトゥスによるフォルトゥナ争乱。

3年前 神裂、ステイル、インデックスがフォルトゥナへ。

2年前 ベヨネッタが四元徳とバルドル、ジュベレウスを倒す。
    イザヴェルグループがウロボロス社に吸収合併、アリウスはヨーロッパのシェアをも完全掌握。

1年前 バージル復活。


恐らく間違っていたり矛盾している点がありますので、あくまで参考までに。
610 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 10:34:44.29 ID:gReTbNup0
おー年表わかりやすい!
ネロが仕込まれるにワロタwwww
ネロって兄貴16の時の子供なのか…ww
611 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 10:53:50.81 ID:+MAb4/p8o
>>1にお願いしたらジョルトカウンターが飛んできたでござる。俺嬉しくて涙目。あと
>3X年前 レディが生まれる。
  ↑    ((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
612 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 10:58:10.91 ID:cXwzj20ao
>>18年前 神裂が生まれる。
嘘だッ!!
613 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 12:08:42.65 ID:BYM6mpQQ0
>15年前 マレット島にてダンテと魔帝の戦い。ネロアンジェロ死亡。魔剣スパーダが覚醒

つまりトリッシュ(15歳)って事はレディの半分以k・・・なんでもない
614 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 13:09:27.59 ID:YJ2shzsDO
>>611
バ、バカ!それ以上はッ!
……手遅れだったか。無茶しやがって……
615 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 15:28:46.33 ID:n8XlMiQb0
>>611-615

ああ、>>1の言う間違った点や矛盾する点とはそういう意味か・・・
616 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/10(土) 18:42:42.45 ID:75cQ219P0
>>613
この話の中のトリッシュは魔帝が作ったのではなかったはず。
617 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 22:18:12.91 ID:c3uQKIlSO
>>1
この年表に載ってる1と3のダンテ達の年齢(時間軸)ってオリジナル? それとも公式? 調べても出てこなかったんだが。
618 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 22:34:11.84 ID:fju1oymD0
DMC4の数年後、DMC2の約10年前だから
ダンテとバージルは40歳前後のはず


二人ともおっさんだな
そしてレディは3X歳になってもレディ(お嬢ちゃん)と呼ばれている件について  
619 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 22:49:09.17 ID:S3QPZCPx0
(´・ω・`)・・・ ・・・ ・・・


(´・ω・`)ベオウルフがベオ条さんの"視覚”を奪ってるのってもしかしたら凄い伏 
620 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 23:35:40.01 ID:ZH1Y7sFuo
>>617
3ではキャラデザが19歳をイメージ。
4ではキャラデザが30〜40歳をイメージ。
4は3の16年後。

3から1にかけてよりも、1から4にかけての方が容姿年齢の変化の度合いが大きいことや、
よく20代後半だろうと言われてること、ゲームやアニメにおける諸々の言動から、
1ダンテは24〜27程度ではと考え、SS内での他の出来事とのすり合わせを経てこの時期に落ち着いてます。

ただ、すり合わせに失敗して大小様々なズレがあちこちで生じていますし、
何よりも「(1の)ダンテは30歳くらい」という神谷発言と決定的に矛盾しちゃっています。
すみません。
621 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/11(日) 00:37:18.34 ID:Nnln9xhz0
Q.年齢とか年代の設定おかしくね?矛盾してね?

A.魔翌力です。


これで問題ない
622 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/11(日) 00:39:08.68 ID:Nnln9xhz0
すまんノイズが入ったようだ

有給ラッシュされてくる
623 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 11:17:24.91 ID:zygRKXIx0
この作品をtxt化して読んでるんだが、

データのサイズが6.6MBになってるのに気づいて、

改めて>>1すごいなって思った。
624 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 13:29:34.91 ID:/2IvAbCIO
>>623
とんでもない量だな
625 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/12(月) 17:23:24.94 ID:LVJ77NGdo
俺にもくれ
626 :623です [sage]:2011/12/12(月) 20:28:01.63 ID:c7Mw8gkAO
>>1様へ

>>625さんが私がまとめたtxtデータを欲しいと言っておられますが、

頒布しても宜しいでしょうか?

一応、今まで書いてこられた文章をファイルとして

>>1様の手で頒布するという方法も有りますが…

このまま私が頒布するのは著作権法に抵触するので判断を仰ぎます。

お返事お待ちしております。
627 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 20:49:46.65 ID:60fMJe6SO
この掲示板に書き込んだ時点で知的財産権は管理人に譲渡されるんじゃなかったっけ
628 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 20:55:29.94 ID:f7BTHLSpo
>>626
どうぞお気になさらず。
629 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 22:21:02.75 ID:rXYO2gG90
いやいや>>1よ、こういう時にトリ使いなさいよ・・・
630 : ◆tSIkT/4rTL3o [sage]:2011/12/12(月) 23:34:24.23 ID:f7BTHLSpo
すみません。
どうぞお気になさらず。
631 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 00:05:34.02 ID:s5rIUkPB0
@投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定
される権利も含む)その他の権利につき(第三者に対して再許諾する権利を含みます)掲示板運営者
に対し、無償で譲渡することを承諾します。ただし、投稿が別に定める削除ガイドラインに該当する
場合、投稿に関する知的財産権その他の権利、義務は一定期間投稿者に留保されます。

A掲示板運営者は、投稿者に対して日本国内外において無償で非独占的に複製、公衆送信、頒布及び
翻訳する権利を投稿者に許諾します。また、投稿者は掲示板運営者が指定する第三者に対して、一切
の権利(第三者に対して再許諾する権利を含みます)を許諾しないことを承諾します。

B投稿者は、掲示板運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を一切行使しないことを
承諾します。

よって配布は問題無いと思われます。つかウチも欲しいです(´・ω・`)
632 :626です [sage]:2011/12/13(火) 00:09:17.13 ID:iOMvKZ/AO
>>1

早速の返答有り難うございます。

データの頒布ですが、こちらの仕事の都合によりダウンロード用のリンクを貼るといった作業はすぐには出来ません。

13日午後5時までには全作業が出来るかと思います。

直ぐに行動を起こせず申し訳ございません。

では。
633 :SS寄稿募集中 [sage]:2011/12/13(火) 01:22:44.68 ID:VPRRXNCG0
txtで読みたいのなら欲しがるより自分でメモ帳にコピペしたら?
そんなに時間かかりませんし。
自分はホライゾーンに転載されているのをコピペ→読む→コピペ→読むのループで
携帯に全話入ってる状態にww
634 :626です [sage]:2011/12/13(火) 09:31:44.99 ID:/evRRN6C0
データをアップロード致しました。

Read Meにも書いてありますが、UTF-8でエンコードしています。

ご注意ください。

素人編集ですので、重大な欠陥を発見した場合はお知らせください。

http://ux.getuploader.com/tututti/download/1/%E3%83%80%E3%83%B3%E3%83%86%E3%80%8C%E5%AD%A6%E5%9C%92%E9%83%BD%E5%B8%82%E3%81%8B%E3%80%8D.zip
635 :625です [sage]:2011/12/13(火) 17:31:01.19 ID:7/f5tOW4o
>>634さん
自分の我儘を聞いていただき誠にありがとうございます。
ありがたく頂戴いたします。

そして>>1さん
毎週更新を楽しみにしております。
これからも頑張ってください。
636 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 20:58:37.12 ID:okTotzl50
解凍できないのは俺だけか
637 :626です [sage]:2011/12/13(火) 22:15:13.38 ID:iOMvKZ/AO
>>636さんへ

おかしいですね…自分のPCでは

正常に解凍できたんですが…

638 :626です [sage]:2011/12/13(火) 22:59:25.90 ID:/evRRN6C0
windowsでのメモ帳で開くと改行されないという

重大な欠陥が見つかりました。

改訂版をアップロードいたします。

申し訳ございません。

http://ux.getuploader.com/tututti/download/2/%E3%83%80%E3%83%B3%E3%83%86%E3%80%8C%E5%AD%A6%E5%9C%92%E9%83%BD%E5%B8%82%E3%81%8B%E3%80%8D.zip
639 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/14(水) 00:32:13.85 ID:XxiJXrAd0
今度は普通に開けたー
ありがとう
640 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/14(水) 00:52:17.81 ID:Vk6LXxX3o
―――

遡ること暫し。
レベル5第一位の少年が、アスタロト配下の魔鳥を『虐殺』する少し前。


イギリス、アシュフォードに置かれている前線本部にて。


キャーリサ「……」

現英国軍の最高指揮官たる第二王女、キャーリサは、
見るからに不機嫌そうに顔を顰めていた。

そこはある質素な大きな幕営。
中央には大きな長机が無造作に置かれ、そこに様々な所属の者達が顔を揃えていた。

まず上座には―――並び座す、キャーリサとローマ教皇。

次いでローマ教皇側にはヴェント、この『教皇救出作戦』に協力したフォルトゥナ騎士の指揮官、
キャーリサ側には騎士団長・シェリー、英軍将官や政務官達。

そして『女王艦隊』に搭乗してきたイタリア、フランス、スペイン等の高官。
現地調整官としてすぐさま派遣されてきたドイツ軍幹部と、
魔術顧問兼護衛の『ワルキューレ』(北欧系における聖人)の女性。

在英米軍の幹部、ロシアと中国・インドの大使館付の武官や魔術顧問といった、
各国各勢力の者達がこの長机に並び座していた。


本来、このような会議はロンドンの全うな施設で行うべきなのであろうが、
ローマ教皇がこのドーバー近辺に留まること、
そしてキャーリサもこの前線本部に留まることを望んだため、この地でこうした会議が開かれることになったのである。

そうして集った彼らは今、皆一様に重苦しい空気を漂わせていた。

付き添いの者と耳打ちし相談、またそれぞれの母国と話し合わせているのか、
席を外して幕営の隅で無線機で話しこんでいる者、PDAで通信している者、険しい表情で資料を捲る者。
そうしてある者は愕然とし、ある者は頭を抱えてため息、ある者は険しい面持ちで思索を巡らし悩ましげに唸る。


そこまで彼らを困窮させている問題、それはもちろん―――異界の力に脅かされている世界の現状だ。
641 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/14(水) 00:54:12.02 ID:Vk6LXxX3o

こちらに向かっているシルビア、
デュマーリ島に残るオッレルスと、学園都市へ向かっている土御門。

それらの報告から浮かび上がる、今回のロシア・ヨーロッパにおける争乱の真実と今現在の状況。

この戦争は神の右席の一人と、
ウロボロス者CEOアリウスによって仕組まれたものであること。

次いで魔界の門が開き、再侵攻が始まりつつあるということ。
ただそれは、オッレルスや土御門によると、
今のところは『恐らく』スパーダ一族によって辛うじて押し留められている『らしい』、とのこと。

そしてその一方で今この瞬間、
人間界に対して天界の介入が始まろうとしているということ。


その第一の目的は―――学園都市の抹消。


キャーリサ「……」

それらの報告を一度に見聞きして、すぐ理解できる者などここには誰一人いない。

魔術の専門的知識が豊富な騎士団長やヴェント、更には魔にも通じているシェリーですらも、
情報の整理にはいくばかの時間を必要とした。

そして魔術畑の彼ら達ですらそうなのだから、
非魔術サイドの人間にとってはまさに理解を超えるもの。

此度ロシアとヨーロッパを蹂躙した『悪魔』という存在、
それを現実だとようやく受け入れつつあった段階に『これ』である。
正規軍の幹部や武官達は皆、半ば狐につままれたかのように、
ただただ頭を抱えて当惑していた。
642 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/14(水) 00:58:11.04 ID:Vk6LXxX3o

キャーリサ「……」

そんな重苦しい面々による淀んだ空気の中。
キャーリサもまた苛立ち滲んだ表情を浮べていた。

同じく険しい面持ちであるも、姿勢崩さす品を保っている隣のローマ教皇とは、
その佇まいはまるでかけ離れている。

多くの報告書や小型ディスプレイ、魔術による立体映像などが散乱している長机の上。
頬杖を突き、もう片方の手ある霊装剣カーテナ・セカンドを杖のように地面に突き、
鬱憤を少しでも逃がすかのように、指で小刻みに柄を叩という、
このような場ではあるまじき態度だ。

ましてや彼女は英王室の者、気品は常に保たれねばならぬのに。

ただ。

『そんなこと』など、今ここでは誰も気にしてなどいない。
机に肘を突く、腕を組む、足を組む、臆面も無くタバコを吹かすなど、
教皇を除くこの場にいる皆が『礼』を捨て掃っていた。

「その……『天界』、ですか、彼らの標的は学園都市なのでしょう?」

タバコの煙吐きながら、重苦しそうにまず声を発するはイスラエルの駐在武官。
そして彼に続き、各々が口を開き始める。

「我々と敵対関係であるわけではない、かと」

「…………能力者は本来、十字教のみならずあらゆる信仰の敵。この件については、我々が無用に関わる必要は無いのでは」

騎士団長「しかしデュマーリ島の件については、学園都市の働きによるところが大きい。学園都市の助けが無ければ最悪の事態になっていたかと」

「だが此度の戦争で悪魔に対抗した魔術は、その大半が天の力によるものなのであろう?貴国の魔術師も皆その恩恵の中にあるのでは?」

「ちょっといいですかな、今重要なのは、学園都市への支援の可否ではない。我々と『天界』という存在との関係です」
643 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/14(水) 01:00:25.73 ID:Vk6LXxX3o

騎士団長「―――それつまり……この学園都市の件は目を瞑れと?」


「そうではない、ただ我々には何もできないということだ」

「現状何ができる? 米国の空母打撃群を数十分で殲滅するような連中ですぞ? 増援を送り込んだところで彼らの二の舞になるだけだ」

「デュマーリ島のは『悪魔』であり、天界のものとは違うのでは?」

「同じもんだろう?どちらも異世界のバケモノだ」

「本気で言っているのですか?悪魔と天使を混同するなんて」

「まあまあ、落ち着いて。とにかく、我々が増援を送ったところでどうにもならないのは明白で」

「貴重な魔術師を送り込むわけにもいきません」

「その通り。我が国はこれ以上、魔術戦力を喪失するわけには。貴国皆様方も同じでしょう。通常戦力が悪魔に効果薄となれば尚更です」

「ともあれ、天の御意志ならば仕方あるまい」

騎士団長「……」

キャーリサ「………………」

このような流れになるのもまた仕方ないものか。

この場で今語られている『天界』という存在の認識の仕方は、
各自で大きく異なっている。

信仰上のものと同一視している者もいれば、
それらと切り離して現実的に『ひとつの勢力』と捉えている者もいる。

ただその認識の相違によって、会話の内容が食い違うことは無かった。
なぜなら根底の部分では、皆の考えは共通していたのだから。

悪魔であろうが天使であろうが、
これ以上『異界の存在』と敵対することはあまりにもリスクが大きすぎる、と。
644 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/14(水) 01:02:49.92 ID:Vk6LXxX3o

これは決して『個人的な保身』によるものではない。
そもそも己の保身に走るような者が、こんな死屍累々の前線に自らの身を運んでくるわけがない。

ここにいる者達は皆が皆、自らの祖国、民族、家族、それらの運命を背負って座している。
そして彼らの後ろで意思決定を行う母国の首脳部もまた同じ。

現に異界の力による破壊を目の当たりにして、
国家の崩壊どころか『人類滅亡』というワードが、呪いの言霊のように皆の魂を縛り上げているのだ。

今や彼らの意識は、国家や宗教の壁を越えていた。
互いに顔を見合わせ、学園都市の件には関わらないことを確認し合う。

これ以上異界の力による破壊を招いてはならぬと。

そう、彼らはそれこそ―――人類は今、その魂に刷り込まれた『本能』によって、
天界と敵対することを避けようとしていたのである。

キャーリサ「…………はッ」

これはなんとも皮肉なことか。

長らく対立し続け、屍の山を積み上げてきたあらゆる国々が。
互いの過去の蟠りを一先ず捨てて、今こうして意思を共にしているとは。


絶え難い恐怖が、想像を絶する災厄が、人類世界に悲願の『世界平和』をもたらす。


確かにそれは仮初、強いられた表面上のもの。
しかし和平は和平、『平和』と『協調』は本物であることには変わりない。

キャーリサはふと、これが酷く滑稽に思えて小さく笑ってしまった。

日ごろは好き勝手横暴を行う癖に、圧倒的な力を前にしては縮こまり、烏合の衆となり、
ただただ祈るようにして口を紡ぎ隠れ潜むことしかできない。

何とも人間らしい無様な姿で、そして―――『美点』か。

これぞ弱き人間の短所でもあり長所、憎むべきでもあり愛すべきでもある面だ。

どんなに惨めでも、絶対に生き延びることを諦めない。
時にその執念は醜態を晒すこともあるが、一方でここから人間の最大の力―――『希望』が生み出されるのだ。
645 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/14(水) 01:04:44.31 ID:Vk6LXxX3o

キャーリサ「…………」

それにもし学園都市を支援するという話しになったとしても。
現状、どの国家も勢力も行動に移すことは出来ない。

特に甚大な被害を被ったロシア、フランス、イタリア、
そしてこのイギリスも、今や他国の支援を行う余裕など無い。

目下の優先事項は政府組織回復と自国内の掌握、
正確な被害状況の把握、最低限の治安を確保すること。
共同体であるドイツ、オランダやスカンディナビア諸国などもその復興支援に全力を投じざるを得ない。

更にオッレルス達の報告にあった魔界の門のことを踏まえると、
無闇に貴重な人員や戦力を自国から離すわけにもいかない。

また悪魔達がどこからともなく大挙してくるかもしれないのだから。


交わされる、覚悟に満ちたとも無様で卑屈とも言える重き人の執念の言霊。

それらの中ローマ教皇はじっと黙し。
静かに目を閉じてただただ聞き入っていた。

キャーリサ「…………」

騎士団長「…………」

シェリー「…………」

そしてその老人の隣のキャーリサも同じく沈黙。
続くシェリーも、始めは学園都市を案じる発言をしていた騎士団長も、今や固く口を閉じていた。
この合同会議の流れに逆らうことができずに。

個人的に学園都市に思うことはあってもその『立場』が許してはくれない。
今や非常事態、その身は英国民6000万のもの。
個人的判断で自由に使える体ではないのだから。
646 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/14(水) 01:08:35.12 ID:Vk6LXxX3o

そう、それが上に立つ者、国を治める者の義務だ。

キャーリサ「……………………………………………………」

特に彼女、キャーリサにとってそれは自らの存在理由の芯である。
物心ついた頃から叩き込まれ、そして自らのものとした『鉄血』の帝王学。

民は君主に『忠誠』を。
君主は民に『忠誠』を。
それが強き国家を築き護るのだ、と。

しかし。

そんな彼女の帝王学には、『忠誠』の他にもう一つ。
大いなる柱が存在していた。

             プライド
それは―――『名誉』だ。


それは決して万人に必要なものではない。
むしろ一般的な日常生活においては、過剰な『名誉』はきわめて不自由なものになりかねないもの。

だが。

キャーリサはこう考えている。
有数の地位と絶なる力を有する者は、名君であるには必ず『名誉』を持ち合わせていなければならない、と。

なぜなら。

名誉が名誉たるには、根底にまずは鉄の信念を必要とし。
その信念が万人に称えられ愛されるには、徹底して貫かれなければならず。

そうして『意味』と『力』を持った名誉は、信頼に値する絆となり。


それが集団の無二の『忠誠』を形成するのだから。
647 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/14(水) 01:15:45.80 ID:Vk6LXxX3o


だが―――今この瞬間。

キャーリサ「…………」

彼女はその自身の帝王学の大柱、『忠誠』と『名誉』の間で大きく揺らいでいた。
『忠誠』を果す、すわなち学園都市を見捨てて国家の保全を図るか。
しかしそうすると。

『名誉』はどうなる?


特にあの伝説の戦い―――学園都市における―――魔帝の争乱で得た『もの』は?


あの日。
臣下たる英国魔術師が、スパーダの一族のもと、学園都市と共に戦い抜いた。
この人間世界の運命を掴み取るために。


これを『名誉』と称さずに何というか。


更にその繋がりが、のちに悪魔の脅威に晒される英国を護ることにもなったのだ。

にもかかわらずそれを裏切れと?
臣下、戦士、英雄、この世界の命運のために戦った彼らの『記憶』を―――忘却しろと?

あの日自ら達と同じく、いやそれ以上に犠牲を払った学園都市から―――目を逸らせと?


この『名誉』を裏切れと?


キャーリサ「…………」

そんな事をしてしまうと。
それらの苦難を乗り越えて存続しているこの人類世界、その『生存』を否定することにもなりかねないのでは―――?

しかもこうして―――『戦争』の残滓として、莫大なテレズマと魔の力が残留している中で、
そんな『集団意識』を許してしまうのはあまりにも危険すぎるのでは?

そう。
そんな危うい意志とこの漂う莫大な力が結びつくと、想像を越える影響を人類に及ぼしかねないのでは?
648 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/14(水) 01:17:33.27 ID:Vk6LXxX3o

ただ。
そのような『起こるかもしれない』ことのために、
国家や己が勢力を『確実な危険』に晒すなんて、まともな君主ならばますしない。

重要なのは変わりないが、天秤にかけるようなことではないのだ。
『まとも』な者ならまずは『確実な危険』の回避に全力を注ぐ。

だが果たして彼女、この猛々しい第二王女は『まとも』なのであろうか。

キャーリサ「…………」


―――否。

彼女は剣と盾と槍の間で生れ落ちた、武と栄光を糧とする英国の『赤き獅子』。
毒を抜くためならば、その首すらをも掻き切る『鉄血の女』。

『忠誠』か『名誉』か、彼女にとっては『逆の意味』で天秤にかけるまでもない。

それはもうとっくに『実証』されているではないか。
現に彼女は過去、『忠誠』を放棄し。

一度、君主である母へと刃を向けた。

一度、この祖国へと刃を向けた。

一度、民へと刃を向けた。


無論、それは決して短絡的な考えによるものではない。
己を隅々まで理解した上で、彼女が徹底して突き詰めて合理的に考えた上での結論だ。

すなわち。

己以上に英国の『忠誠』を担える者は他もにいるが。


己以上に英国の『名誉』を担える者は―――他にはいないのだと。


そんな彼女の鉄血の理論は、今この瞬間も―――変わりはしない。
649 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/14(水) 01:20:44.20 ID:Vk6LXxX3o

「殿下。ご決断を」

黙していたところ、背後にいた背広の初老の男
急遽ロンドンから派遣されてきていた政務官の一人が、彼女にそう耳打ちをしてきた。

ただ実際は、何かを決断する必要はもう無いが。
既に答えは決まっている。

キャーリサは頬杖していた手を戻して、その姿勢を一応正して。


キャーリサ「……貴国方の判断と同じく、我が英国は、この件に関与するつもりは一切ない」


その瞬間、各々からは漏れるは音にならない安堵の息。

続くは、目を閉じ変わらず黙しているローマ教皇からの、
隣にいるキャーリサしか聞えないくらいに小さな―――無念そうな喉の音と。

騎士団長の苦悩のため息と。

シェリー=クロムウェルと神の右席 前方のヴェントの―――明らかな憤りの熱を帯びた息。


そして当のキャーリサ、その表情に最も近かったのは―――


キャーリサ「―――そーいうことで良いな?」


―――シェリーとヴェントのものだった。

彼女は声色変えてそう鋭く声を放つと、突然立ち上がり。

キャーリサ「時間が惜しーから略式で済ませるぞ。書記官、今から私の言葉を公式声明として全て記録しろ」

急な行動で驚いている周囲、その反応など一切待たずに。


キャーリサ「我、英国王室員 第二王女キャーリサは―――」


良く響く声で。



キャーリサ「我が母、女王エリザードより授けられた全軍統帥権を――――――我が姉、第一王女リメリアに移譲する」
650 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/14(水) 01:22:06.38 ID:Vk6LXxX3o

その瞬間。

皆が息止め言葉無くし唖然とした。
さながら時間が止まったよう。

この第二王女の突然の宣言に、この場の何もかもが凍りついた。

彼女の言葉はそれだけには留まらなかった。
更に続けて、皆の予想を遥かに越える言葉が発される。

キャーリサ「また、ここに英国王室員 第二王女キャーリサは―――」


彼女は周囲の硬直など気にもせずに、カーテナを無造作に椅子に立て掛けて。
その空いた手で、自らの右手人差し指を握るようにして。


キャーリサ「―――王室離脱の意を示し。その王位継承権を―――」


英王室の一員たる証―――盾支える獅子と一角獣の彫刻が施された金の指輪を外し。



キャーリサ「―――――――――――――――放棄する」



これぞ彼女の鉄血の理論が、この場で打ち出した回答だった。
『忠誠』を担う『者』は英王室に他にいる。

だから己は再び『忠誠』を放棄し―――『名誉』を選び担うのだ、と。

彼女は己の魂の声に従うことにしたのだ。

今やキャーリサは、その己の素直な声に全幅の信頼を寄せていた。

なにせ、今回のこの欧州における戦いについても、当初に覚えた違和感と疑念は正しかったのだ。
騎士団長もシェリーも、他英国内の誰しもが気付かなかったこの戦争の真実を、
この『人間の直感』は早々に嗅ぎ付けたのだから。
651 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/14(水) 01:23:25.52 ID:Vk6LXxX3o

そしてその直後だった。

椅子に立てかけられていたカーテナから―――何かが弾け共鳴したかのような、
不思議な金属音が響いたのは。

それはこの剣の『制約』が解除された音。

皆が愕然とする中、彼女はまるで何もなかったかのようにその剣の柄を再び握り取り。
身の内へと流れ込んでくる、脈動する力から確かにその『意志』を感じ取った。

このカーテナ=セカンドは、今や『使用領域は全英大陸内』という制限から解き放たれ。
英国王室のものではなく、『キャーリサという一人の人間』によってのみ振るわれる刃へと変じたのだと。


―――何者によってか―――それはもちろん、この刃の『力の源たる存在』によってだ。


キャーリサ「……はっ……」


どうやら『天の御意思』も一枚岩ではないらしい。
この剣の向こう、テレズマの源が明確な意志を示して駆り立ててくるのだ。


人間よ―――『自ら』の意志と気高き心で―――立ち上がれ、と。


キャーリサ「そーいうことで、私はこれから休暇に入り―――学園都市に『旅行』に行く」
652 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/14(水) 01:25:16.76 ID:Vk6LXxX3o

騎士団長「――――――なっ?!何を仰って―――?!」


絶対零度たる沈黙を切り裂いたのは、そんな騎士団長の怒号染みた声。

キャーリサ「『後釜』は姉上とヴィリアンがいるではないの。どっちもいけ好かんがその王器は保障するぞ」

騎士団長「そっ―――そのような問題ではッ―――!!」

キャーリサ「ぎゃーぎゃー騒ぐな。みっともない」

そんな騎士団長を彼女は疎ましげにあしらっては、「では失礼」とその場で軽く一礼し。
マントを翻して幕営からさっさと出て行ってしまった。

騎士団長「―――キャーリサ様!!」

「お待ちを!!殿下ァッ!!」

その背を血相変えて追う騎士団長や英国政務官達。
そうして繰り広げられた、第二王女の急な行動と取り巻きの騒ぎに一同が唖然とする中。

周囲とは違う反応を示していた者が四人ほどいた。
まず一人目はフォルトゥナ騎士の指揮官。

魔が練りこまれられている甲冑を纏った壮年の武人は、その厳しい表情を全く変えぬまま立ち上がり。
礼儀正しく深々と一礼したのち幕営から出て行った。

次いで二人目と三人目はシェリーとヴェント。

両者ともその身の内からの滾りを滲ませて、
まずシェリーは「失礼する」と浅く一礼しては足早に幕営の外へ。

そしてヴェントも同じようにして軽く一礼しては、上座にいる老人へ―――


―――愉快気な笑みを浮べているローマ教皇と目を合わせて。


微かに頷いては、即座に踵を返して幕営から出て行った。
653 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/14(水) 01:27:42.88 ID:Vk6LXxX3o

彼女達が出て行った幕営内を満たすは、息を殺したかのような沈黙。
だがそれもいつまでも続くわけも無く、しばらくするとちらほらと声が上がり始めた。

「……一体どういうおつもりだ……?」

「第二王女殿の話は伺っていたが……これほどとは……」

無論、どれもキャーリサの行動への苦言。

「勝手なことを。我々にも火の粉が降りかかるかもしれんぞ」

「止めるんだ。ロンドンのリメリア王女殿下を呼ん――――」

その時だった。


ローマ教皇「―――心配なさるな」


今まで黙していたローマ教皇から、確たる声が放たれたのは。
一瞬にして静まり返る幕営内。

その中を、穏やかながらも力強い彼の声が続いた。


ローマ教皇「天が―――」


顔を年甲斐も無く、楽しくて嬉しくて仕方がないといった、
まるで子供の様な笑みで満たして。


ローマ教皇「―――『子羊』と『獅子』を見間違えるわけがあるまい」
654 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/14(水) 01:30:06.63 ID:Vk6LXxX3o

アシュフォードの野営地内をマントを靡かせては、
力強く歩き進む、赤き甲冑を纏った女。

当然、その身のこなしは王家たる優雅さに満ち溢れているも。
それ以上に彼女の姿に濃く滲んでいるのは、彼女自身の性格からくる『猛々しさ』。

圧倒的な『武』のオーラである。

それゆえ。
通常、王家の者が過ぎる場合は深々と頭を垂れる、或いは軍人であれば敬礼を行うものであろうが、
今の彼女に対しての反応はそれらとは異なっていた。

むしろ特に気が昂ぶっているこの前線においては、そうならざるを得ないか。

彼女が歩み進んでいくと、周囲の英軍兵士達からは歓声が湧き上がる。
皆頭を下げるどころか手を掲げ、
喉がはち切れんばかりの勝利と栄光を称える咆哮を放っていた。


その中をキャーリサは一切の迷い無く歩を進めながら。


キャーリサ「―――あの女王艦隊で人員を運ぶとして、最速でどの程度で東京湾に着く?」


無言のまますぐ背後に続いてきていた、ローマ正教の半天使へと声を放った。
背を向けたまま、意思を確認するどころか前置きも一切置かずに『本題』たる言葉を。

ただそれも、キャーリサの正確からすれば特におかしくもないか。
そもそもこのようにして続いて来ている時点で、意思を確認する必要など無いのである。

そうして問いかけられたヴェントもまた。
これも半天使たる知覚のなせる業か、
そんなキャーリサの性格もこうして会って早々ながらも理解しきっており。

ヴェント「―――コルベットサイズに、一隻に力を集束させれば20分程度」

キャーリサ「そのコルベットサイズで何人運べる?」

ヴェント「詰めれば約300」

特にたじろぎせず、そう単純明快に言葉を返しては。

キャーリサ「すぐに用意して」

すぐにその場から跳びあがり、
光の尾を引いてドーバーの方角へと空を切り裂いていった。
655 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/14(水) 01:32:44.62 ID:Vk6LXxX3o

次いで。

騎士団長「キャーリサ様!!」

キャーリサ「フォルトゥナ騎士殿は何名だ?」

食いつくように何度も何度も呼びかけてくる騎士団長を完全に無視しては、
同じく続いてきていたフォルトゥナ騎士団の指揮官へと声を向けた。

「192名です」

キャーリサ「急ぎ乗船準備を」

「はっ」

これまた簡潔に話し合わせて、
地面を強く蹴って群集を飛び越えていくフォルトゥナの指揮官。

騎士団長「お待ちを!!」

キャーリサ「シェリー。魔界魔術を扱える戦闘員を100ほど、『脱走兵』集められるか?」

そうして変わらず騎士団長を無視しつつ、今度はシェリーへ。

シェリー「表立って募ると恐らく『志願者』が多すぎて収拾がつきません」

シェリー「時間も惜しいですし、ここは学園都市と日本に縁のある建宮隊とアニェーゼ隊からの選抜では?」

キャーリサ「適任だが、その二隊の『志願者』のみで足りるか?」

シェリー「ご心配なく。恐らく全員志願するかと」

キャーリサ「急げ」

シェリー「了解」

シェリーもまた、淡々と簡潔に言葉を交わした後、
すぐさまその場に浮かび上がった魔方陣へと沈んでいった。
656 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/14(水) 01:35:49.64 ID:Vk6LXxX3o

そうしてようやくだった。

騎士団長「―――キャーリサ様ッ!!」

キャーリサ「騎士団長」

彼へと声が向けられたのは。

キャーリサ「母上が目を覚ましたら伝えろ」

彼女は半身振り返っては、カーテナを肩に乱暴に載せて。

キャーリサ「こいつは退職金代わりに頂く、と」

キャーリサ「それと姉上のことだ。どーせ実働指揮権はお前に押し付けてくる」

一方的に、立て続けに言葉を連ねていく。

キャーリサ「頼むぞ。シルビアももうしばらくで帰ってくるから―――」

そんな彼女の態度についに耐えかねて、
言葉を遮る形で。


騎士団長「―――私の話を!!『なぜ』ですか?!なぜそのような―――!!」


許しを請わずに問うてしまった。

騎士団長「…………っ……失礼を……!!ご無礼を……!!」

そして一瞬の硬直ののち、すぐに己の非礼に気がつき、
その場に膝を付き深々と頭を下げたが。

キャーリサ「構わん。面を上げろ」

当のキャーリサの声は、
非礼に怒るどころか特に動じもしていない変わらぬ声色。

そうして許され、恐る恐る彼が顔を上げると、
彼女はカーテナを持っていない側の手を広げて。

キャーリサ「此度の戦乱は、過去二度の世界大戦とはまるで性質が違う」

まさに咆哮とも称せる歓声を指して、そう言葉を紡ぎ始めた。

キャーリサ「英国全土で魔界魔術が大規模行使され、欧州全土を悪魔が席巻し、莫大な量のテレズマと魔界の力が撒き散らされた」

キャーリサ「更には今や、異界との境界すらも不明確、この世の理が揺らいでいる」


キャーリサ「そのせーでほら―――『見よ』」


キャーリサ「絶望、苦痛、嘆き、怒り、そしてこの勝利の声に確かに帯びつつある、目に見えぬ力を」
657 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/14(水) 01:39:16.90 ID:Vk6LXxX3o

騎士団長「…………っ」

そこで彼はようやく、この場を満たす大気の異質さに気付いた。

テレズマや悪魔や魔界魔術による魔の力が漂っているのは、
それだけならば今となっては特に珍しいことでもない。

問題は、『それだけ』では無いという事だ。

力には今や『未知なる流れ』が生じ、
巨大な『うねり』がそこに形成されつつあったのだ。

騎士団長「―――……」

思わず反射的に、腰に指している己が霊装剣フルンティングの柄を握ると、
そのテレズマも強く胎動しているのを感じる。

無数の声と意志が共鳴し合い混在しているのだ。

キャーリサ「ただの力の塊ならば、いくらでも処理の仕方がある」

キャーリサ「しかし、それらが人の精神と強く結びつき意志を有してしまっていては、一筋縄にはいかないの」

騎士団長「…………」

その通りだった。
この莫大な力の処理は、そのやり方を誤れば大変な事態となる。


処理を保留して放置しておくにしても、
こうして極度の緊張に置かれている中、いつかどこかでこれらの力を起爆する『火花』が生じるかもしれない。
起爆しなくとも、長時間この濃厚な力に浸されてしまう形で大勢の者が魂を蝕まれてしまうかもしれない。
658 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/14(水) 01:40:54.09 ID:Vk6LXxX3o

この『大気』は人類には濃度が高すぎる。

人類中99%以上の者がこれに耐えることなどできない。
精神力の問題どころか、認識し気付くことすらもできないのだから抗い御するなど到底無理な話だ。

キャーリサ「だが幸いにもだ、この『意志』の大半が―――」

だが。

キャーリサ「―――仏伊西の者達は、前方のヴェントの名へ」


キャーリサ「そして我が民のものは―――我が名へと向いている」


その通り、『幸い』にも。

今のところはこの二者に明確に向けられている。
『うねり』は『かろうじて』暴走することなく、彼女達を中心として保持されているのだ。


騎士団長「…………」

そうしてここで、騎士団長はやっと彼女の真意を伺い知ることができた。

彼女は今この瞬間、自らの名が束ねている間に、
この大いなる『うねり』を丸ごと持ち去ってしまおうとしているのだ。

本来人類の皆がやるべきことを、自ら一手に引き受けようと。
659 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/14(水) 01:43:02.92 ID:Vk6LXxX3o

騎士団長「―――…………」

そのキャーリサの声は、
既に彼が知っている彼女のものでは無くなっていた。

英王室の一員、英国の『武』を背負って立つ指揮官、
そんな『小さな』枠から飛び出してしまっていた。
同じ人間であるはずなのに、そのように『何か』が完全に逸脱しているのだ。

『獅子』の首には、枷は嵌らない、
『獅子』は、『子羊の群れ』の中に居続けることはできないように。

キャーリサは騎士団長の前に軽く屈み、
荒々しく鷲づかみにするように彼の頬に手を当てて。


キャーリサ「―――お前は『忠誠』を果せ」


真っ直ぐと彼の目を見つめ、鋭く確かに放つ。

キャーリサ「祖国へ、父祖へ、民へ、家族へ、友へ『忠誠』を果せ」

キャーリサ「無様に怯え、隠れ潜み、泥を啜ろうとも子羊共を守り通せ」

そうして肩に載せていたカーテナを振り下ろすようにして、
己が横の地面に突き立てて―――告げる。


キャーリサ「私は―――『名誉』を果す」


これらの『声』は―――


キャーリサ「人類の、父祖の、祖国の、民の、家族の、そして学園都市の友の―――『名誉』を貫き果す」


ただ持ち去るだけではなく―――刃へと変じて振るおう、と。
660 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/14(水) 01:45:03.96 ID:Vk6LXxX3o

キャーリサ「―――確かに我ら人は、神の子羊だ」


彼女は、この『うねり』を単に害悪物として処理するつもりなど無かったのである。


キャーリサ「だが『忘れるな』。人の屍で築かれた栄光は、我ら人のもの―――」


キャーリサ「―――人の血と魂で贖い手にした勝利は、我ら人のものだ」


むしろ彼女にとっては、それもまた守り貫き通す掛け替えのない存在。
人の魂から噴出した、莫大な純なる意志の集まり。


キャーリサ「故に、それらを人の『財産』と『名誉』を汚し砕くという者は―――如何なる存在であろうと『人の敵』」


彼女はここで騎士団長へ向け宣言する。
力強く彼の顔を掴み、更に声を鋭くして。


キャーリサ「例えその相手が我らが『父』―――『天の意志』であろうとも―――」


これら人々の『声』は、一切無下にはせず。
栄光は栄光のまま、勝利の悦びは悦びのまま。


キャーリサ「我が身我が魂に子羊共の意志を纏い」


古から今日までの『勝利の記憶』は一切汚させず。


キャーリサ「全霊を賭し、我が刃をもって相対してやる」


守り果してみせよう、と。
661 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/14(水) 01:47:04.85 ID:Vk6LXxX3o

騎士団長「………………」

それはどうしようもなく頑固で、強情で、意地っ張りで、不器用で、
魔術世界に身を置く側からしても時代錯誤的な考え方。

だが。

それもまた今更なこと。
今やここで呈するような事柄ではない。
彼女がそのような思考回路であることは、以前から周知のこと。

この女は英王室の一員であり王位継承者である以前に。


―――『獅子の心臓』を持つ鉄血の武人なのだ。


騎士団長「……」

それこそが、このキャーリサの最たる『魅力』ではないか。

裏も表も無く、絶対に逃げも裏切りもしない、目的の完遂のためにはその全霊を賭す。

この人格こそ、騎士団長含め多くの者が彼女に突き従った理由。
結果としてクーデターが失敗し、大逆の罪を問われたにも関わらず、
軍民問わずいまだにここまで愛され信頼され称えられる理由。


騎士団長「………………………………っ」


そんな彼女が彼女たる面が、こうして絶頂の域へと到達している今。
如何なる言葉でその身を繋ぎ止められるというのか。

いいや。

そもそも今や、彼女を止めようとも思えなくなってしまった。
咆哮している周りの兵達と同じだ。
彼女の姿に心揺り動かされ、昂ぶり、畏れ、敬い、愛し、称え。


騎士団長「―――っ…………」

彼女の名に、自らの魂からの声を託すのだ。
662 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/14(水) 01:51:18.01 ID:Vk6LXxX3o

主と忠臣、獅子とその右腕。
彼らの間には、今や一片の蟠りも存在していなかった。

衰えぬ歓呼の中、キャーリサの隣に赤き魔方陣が浮かび上がってはシェリーが姿を現し、
その手を彼女に差し出しながら。

シェリー「出航の準備が整いました」

キャーリサは身をすぐさま起こしては、そのシェリーの手を取りながら告げた。


キャーリサ「―――騎士団長。忘れるな。己の騎士の誓いを」


返されるは、普段通りの阿吽の言葉。

騎士団長「―――はっ。決して。しかしお一つ」

そして事あるごとに付け加えて返すのもいつも通り―――。

キャーリサ「何だ?」


騎士団長「どうか必ずご帰還を。願わくば、『今後』も貴女のお姿を『直』に目に刻み続けたく」


キャーリサ「……それは民の代弁の言か?それとも――――――お前の『個人的』な望みか?」


ただ、その言葉の裏にある『真意』は、いつもとは少々違い。


騎士団長「……失礼ながらその問いへの明確な答えは、『今』はまだ『用意』できておりません」


『特別なもの』であったが。


キャーリサ「ふん、まぁーいい。私の『凱旋式』までに、私が満足する答えを用意しておけ」
663 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/14(水) 01:52:01.16 ID:Vk6LXxX3o



―――そうして。


イギリスから獅子に率いられた一団が出立してから暫しののち。


学園都市の界上にて


一人の半人半魔が『記憶』と対峙していた。
そこは巨大な塔の麓、魔の『氷』に覆われた門前の『広間』。


ダンテ「―――今更ノックは必要ねえよな」


彼は大きな『門扉』の前に立っていた。
背後から聞えてくるは、仰々しくやかましい天のラッパの音。
そして眼前の塔から覚えるは、無数の魔の蠢き。

そんな混沌としつつある状況に対して、彼は愉快気に喉を鳴らし。


ダンテ「イカれたパーティの始まりか―――」


そう、ほくそ笑み。
身を翻してはコート靡かせて―――門扉に回し蹴り。



ダンテ「―――Let's Rock!―――HA!!」



塔内へと叩き入った。


――――――――――

  創世と終焉編


第一章 『人間と記憶』


――――――――――
664 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 01:52:49.39 ID:Vk6LXxX3o
今日はここまでです。
次は土曜に。
665 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 01:56:29.12 ID:Ml5Eckcyo
お疲れ様でした。

熱いですねぇ・・・・イィですねぇ・・・・・・・。
666 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 10:26:48.10 ID:f7FLIyoL0
乙乙乙

ついに最終章か・・・!
667 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 12:53:52.16 ID:ifg8/nF0o
乙です。魂が奮えてきた・・・!
668 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 17:00:15.75 ID:katxZ+QIO
もう映画化でいいよ
669 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 19:53:10.07 ID:7BC6XHmf0


悪いが俺の魂はこう言っている

もっと続きを!
670 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/18(日) 03:03:23.81 ID:Q8IWBCvQo
―――

それは始まった。

さながら天蓋が崩落してくるかのような光景か。
異界の笛のオーケストラが世界を揺るがす中、空を満たす光の中から雪崩落ちてくる白金の滝。

構成する無数の滴の一つ一つが、真の天の意志に満ちた天の刃。
それは比喩などではない、『真』の天罰を下す天の執行者達だ。

彼らがこのようにして人間界に姿を現したのは二度目。
500年前の一度目はアンブラの魔女を、そして二度目の今宵は。


―――学園都市を『断罪』するため。


科学と結びつけて古の人界の力を引き出し、
能力者の数を激増させ、『天による人間界の安定』を乱す街。

その許されざる都を、天はこの世から抹消せしめんとする。

かの500年前の時と同じく、真実は闇に葬られ、人類の一般意識と歴史の表層から抹消され、
史実か夢物語かの線引きも曖昧となり、この世界の記憶から消え去ってゆくのである。

ただそれは、当初の天の計画通りに事が進んだ場合による結果。
今や事態は彼らの許容範囲を大きく逸脱していた。

500年前とは状況が何もかもが異なっていたのだ。
671 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/18(日) 03:06:55.91 ID:Q8IWBCvQo

前回は黙認し一切介入しなかったスパーダであったが。

今回、彼の息子の内の一人はこの流れの何もかもを叩き壊すことを画策し、
もう一人は天の宿敵たる魔女と手を結び、人類の命運を握っていた天の大樹を切断。

更に彼の息子は何人も推し量ることの出来ない、『最強の人間』たるイレギュラーと化し。

そして復活を遂げる竜王。
それもよりによって三神の力を有してだ。

これらの要素がどう影響し合い、どのような結果を招くのかは誰もわからない。
ただ、一つだけ確かなのは―――もはや進むしかないということだ。

今や流れからの途中下車など不可能、足を止めればそこで何もかもが終焉するのである。
天にとってもそれは同じこと。
彼らは迷うことなく当初の作戦通り、学園都市の抹消を推し進めていく。

500年前と同じ作戦、直に学園都市に強襲を仕掛け、
相手の刃を封じると同時に何もかもを粉砕し焼き払うのだ。

そうすれば少なくとも人間界の趨勢は天の手に。
セフィロトの樹が消失した今、そうして人間界を直接天の力で満たし、
直接人間達の魂へと『再服従』の楔を打ち込むことで、再度完全支配下に置くことが可能なのである。

しかし。

そんな彼らの作戦すらも、出鼻からすぐさま挫かれることとなった。

天界の軍勢が降り立ったのは敵の喉下、学園都市ではなく。

その一層界上にて展開している強固な『戦場』―――虚数学区であったのだから。


そして彼ら天の先陣を出迎えるは。
学園都市が産み落とした、この街の集大成たる―――『若き王』。


一方『―――カッ』


何よりも濃い影を纏った少年、一方通行は口角を引き裂くようにして牙を剥き出しては、
強烈な怒気混じりの『笑い声』を発して。


うねり真っ赤な火花散らす漆黒の影を―――解き放った。
672 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/18(日) 03:08:34.25 ID:Q8IWBCvQo

それは、核爆発の衝撃波が雲を押し除けて行く光景に似ていたか。

耳障りな音を奏でていた漆黒の翼たちが鞭のように激しくしなった瞬間。
先端から黒い力の衝撃波が打ち出され、巨大なドーム状となって、
天から雪崩落ちつつあった白金の雲を噴きとばしていく。

しかも連続してだ。


立て続けに振るわれる三対六枚の翼。

黒曜石のように滑らかで硬質ながら、
液体のように揺らめき、荒削りの金属が擦れるようにして火花を飛び散らせては伸縮し、
その先端から莫大な力を、遥か天空へ向けて放出。

形成された黒い壁は、虚数学区全体を震わせて、
無数の天使達を群れごと砕き蒸発させていく。

その集中砲火のなんと苛烈なことか。

わざわざ降りて来るのなど待たず、また手加減も惜しみもせず初っ端から、
一方通行は最高出力で天使達が降り出でてくる『光の穴』へと力を撃ち放った。

しかし。

最高出力とはいえ、ここまで力が拡散された攻撃では仕方の無いことか。
ある程度の存在なら耐えられるであろうし、大悪魔に匹敵する辺り以上ならば痛くも痒くもない。

遥か天空、黒き衝撃波が天の軍勢を打ち砕く中に、一方通行はその集中砲火に耐え切る存在達を確認した。
衝撃波が直撃した者達のうち約三割は生き残り、更に一割に至っては無傷であった。
673 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/18(日) 03:10:30.03 ID:Q8IWBCvQo

一方『―――カカッ。そりゃそォだろォな』

ただそれも至極当然のこと、元々わかっていたことだ。

確かに最大出力ではあるが、
今放っているこの集中火砲は彼にとってはあくまで『数減らし』に過ぎない。

『雑魚』が怖いのはその数だ。
虚数学区上に散らばられてしまたっら、総当り作業で学園都市への穴を見つけられる可能性がある。
いいや、いずれ確実に見つかると考えても良い。

だからまずはとにかく、数が武器の雑魚を削り続け。
そして砲火を抜けてきた高位の個体は、
個体ごとにしっかり認知して、高濃度の力を叩き込み直接排除するのだ。


とその時、ちょうど天界軍の側も、
一方通行を至急対処するべき障壁として定めたのだろう。

一方『それじゃァ確かめさせてもらォうか』

猛烈な速度で己へと向かって降下してきている高位の者達を捉えながら、
彼は怒気混じりに笑い呟き。


一方『―――天使サマの血の色とやらをなァ』


その翼から絶えず『砲火』を打ち上げながら、
自らの体も天へ向けて解き放った。
674 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/18(日) 03:14:13.33 ID:Q8IWBCvQo

立っていたビルの屋上が衝撃で砕け散った瞬間、
彼の体は遥か高空、『天の門』の直下にあった。

そこで彼の目がまず捉えるは、
エイに手が生えたような姿をした天使達だった。

いや、俗にイメージされる『天使』という存在と重なっている点は、

       ヒレ
両側の『翼』の上にそれぞれ一つずつ浮かび上がっている、神秘性を放つ金の光の紋章くらいか。
他の部分はどれも想像とはかけ離れていたものだった。

仮面なのかそれとも本物のものなのか、どちらにせよ不安を抱かせる不気味な『顔らしき部位』、
触手のように揺れる、ネズミのそれに似た長い尾。
薄気味悪い質感の乳白色の肌、豪奢ながらも目に五月蝿く毒々しい装具。

一方通行にとってその造形は、悪魔よりも『悪趣味』に見えてしまうくらいだ。


一方『―――はッ』


そんな異形の天使達は一瞬驚愕していたのか、
それとも彼の速度に知覚がついていけなかったのか。

とにかく天使達が一方通行に目に見える反応を示したのは、
彼がまず近くにいた一羽を捕らえてようやくであった。


この天使の顔と思われる、
三つの黒き『眼球』がある半球上の部分を鷲掴みにする一方通行。

一方『天使サマよ―――カクゴは良いかァ?!』

彼は覗き込むようにして顔を近づけてはこう宣告した。
その身に、古の人界の『冥府の神』と非常に似た力を纏って。


一方『ここから先は一方通行――――――「地獄」行きだぜェ!!』


直後。

悲鳴か懇願か、はたまた罵倒か、『エイ天使』から耳障りな泣き声が発されかけたが。
その天使の叫びは、黒き手がその『顔面』を握ち潰す破砕音によってかき消されてしまった。
675 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/18(日) 03:18:43.39 ID:Q8IWBCvQo

どうやらこの部位が本当に頭部だったか。

いや、一切手加減無く最高出力・圧力の力を叩き込んでいるのだから、
この程度の存在ならばどこに当たろうが一撃で殺せるか。

ふらりとゆらぐ天使の尻尾と翼。

力が消失し絶命した事を一方通行は確認したのち、
亡骸を放り捨て、その天使の血で塗れた黒き手を見て一言。

一方『―――「赤」か』

そしてその手を口元へと運び、
指先を口角にひっかけるようにして一舐めしては、不気味に顔を引き裂き笑ってこう口にする。


一方『なンだ―――人間と大して変わらねェじゃねェか』


次の瞬間、彼は振り返るようにしてその宙空で身を捻った。
すると六枚の翼が一気に伸び広がり―――鎌となり、周囲の『エイ天使』達を一気に刈り取っていく。

哀れな天使達に応戦する暇など与えず一瞬にして。
無論、この翼達の薙ぎ払いに練り篭められた力も最高出力・圧力だ。

この程度の相手に対して、今の一方通行の最高出力なんてまさに過剰火力とも言えるが、
現状に置いては『確実性』が第一だ。

彼にとっては今『戯れる』余裕なんて無い、
今この場で専念するべきことは、一体辺りの所要時間をとにかく減らして、
いかにしてより多くの天使を殺せるか、だ。

故にどんな存在に対しても最高出力を叩き込み、
圧倒し、捻じ伏せ、確実な一撃必殺を狙うのだ。
676 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/18(日) 03:19:46.19 ID:Q8IWBCvQo

そして一帯を完全に刈り取った一方通行は、
漆黒の尾を引きながらまた別の一団の元へと向け、光満ちる空を引き裂いていく。

同時に翼から衝撃波を打ち出して、『雲』を掃うように『無数の雑魚』の雑魚を消し飛ばしながら。


一方『―――』

そうして薙ぎ払い雑魚の群れを打ち掃った先に残るは、これまた異形の天使達。
力の知覚が無ければ、それら『そのもの』が生きている天使だとはまず思うまい。

それは10m程の―――小型の『船』だった。

先ほどの『エイ天使』と同じ趣の豪奢な装飾に、
船首には彫刻のような顔とこれまた薄気味の悪い形状。

そんな悪趣味な船がいくつも浮遊し、空中艦隊とも言える一団を形成していたのだ。


しかもその船からの攻撃は―――『ミサイル』。


一方『―――ッ』

己に向けて張られる弾幕を見て、思わず一方通行は純粋に驚いてしまった。
天界側からすれば別の言い方があるのであろうが、
人間の目からすればどこをどう見てもあの『ミサイル』と言うほか無い。

そして人間の認識で語られるミサイルとは、現代科学の結晶だ。
そんなものが異界の存在から打ち放たれてくるなんて。

似ているのは外面の姿形だけで、原理や構造はまるで違うとはわかっていても、
これにはギャップを覚えずにはいられない。

ただもちろん。

その程度で一方通行の動きが揺らぐことは無かったが。
677 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/18(日) 03:24:45.57 ID:Q8IWBCvQo

ごく普通に驚く一方、
闘志は一切気を緩ませること無く、彼の身を突き進める。

眼前には雨霰ほどの弾幕。
対して彼は一切避けることはせず、体に闇を纏い、
その上に更に翼を巻き付けて―――正面から突っ込む。

無数のミサイルが直撃し、爆轟が重なり合い、そして虚数学区を揺るがす大爆発へと成るも。
それでも『闇』は打ち消せなかった。

炎と闇の尾を引いて、巨大な火急から弾丸のように貫き出でる一方通行。

彼はそのまま凄まじい速度で飛翔して、まず『一隻』―――更にその背後の三隻―――己が体で『撃ち抜いた』。

そして五隻目に翼を巻き付けて、船体を絞め砕きながらその上に降り立ち振り向き。
今しがたの戦果、砕け散り肉片と血飛沫を撒き散らして『轟沈』する四隻を、その目で直に確認するも。

そんな豪快な最期の『オワリ』まで、目と意識を向けていることはできなかった。
なぜなら。


周囲の船の上に、別の天使が立っていたのだから。

それも『エイ天使』やこの『船』達とは明らかに一線を画している存在が。


その姿は、爪先から頭頂部まで10mに達するか。
『十字型』に刃が取り付けられている巨大な斧槍を手にしている、
ゴリラのような筋骨隆々とした体躯の『巨人』。

それが二体ほど、それぞれ船の上に立っていた。
その存在感と大きさで、船が単なる小さな足場にしか見えなくなってしまっている。


一方『(―――真打登場か)』


そして力も、その姿に恥じぬ非常に大きなもの。
今までの天使とは完全に格が違っていた。
678 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/18(日) 03:28:45.10 ID:Q8IWBCvQo

しかもその動きの『速度』もまた、重厚な姿からは連想し難いまでに『格別』。

一体が低く唸った次の瞬間。
巨人天使が立っていた船が、叩き潰されるようにして突然爆散して。

一方『―――』

僅か一瞬後にその巨体が真上にあった。
斧槍を振り上げ、今にも叩き降ろす瞬間の体勢で。

瞬時に船から跳ぶ一方通行。
直後、紙一重で斧槍が船を一切の手加減無く『かち割った』。
仲間に両断され、悲痛な咆哮を発して無残に轟沈する船。


そうして一方通行が回避したのも束の間、
彼が飛んだ先にはすかざずもう一体が待ち構えていた。

もちろん。


一方『ッ―――』


一体目と同じく、既に攻撃を繰り出す瞬間の体勢で。
これまた尋常じゃない速度で横から薙ぎ振るわれる、巨大な斧槍。

速度だけではなく、その刃に集束している力もまたとてつもないものである。

ただ。

確かに『強い』、この『巨人天使』は強者であるのだが、
今の一方通行にとっては別段『強敵』でもなかった。
679 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/18(日) 03:30:01.57 ID:Q8IWBCvQo

一方『カッ!!』

直後、振るわれた天の斧槍は間違いなく一方通行に直撃したが。
その肉と魂を削ぐことは叶わなかった。

斧槍が直撃したのは、更に速く強く繰り出された一方通行の手。
漆黒の掌との衝突で、強烈な衝撃とともに火花散らして、
無残に砕け散る煌く天の刃。

それを認識してか、巨人があっけに取られたかのように唸りかけたが。
すぐさまその声は打ち切られた。

その彫像の如き顔面に、
勢いそのままで飛翔してきた少年の強烈な『膝蹴り』が叩き込まれたのだから。

飛び散る仮面の欠片と、熱き血しぶき。

そうして奏でられた破砕音は、
木材をへし折るとも、自動車をプレスする音にも似ていた。

一撃必殺たる力が練り篭められた闇の槌が、
天使の肉と魂を毟り、削り、すり潰していく。


一方『―――ッ』


ただ『強敵』ではないとはいえ、この巨人天使はやはりかなりの存在か。
それまでの天使達とは違い、こんな一撃をもってしても『瞬殺』はできなかったのだ。

そして。

絶命するまでに一瞬のラグがそこに生じることとなる。

680 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/18(日) 03:32:55.57 ID:Q8IWBCvQo

頭部を叩き潰された巨人天使は絶命の瞬間、
その巨大な両手で、一方通行を挟み込むようにして押さえ込んだのだ。
余りにも掌が大きくて、彼の体はすっぽり包み込まれてしまった。


『それだけ』では、一方通行にとっては別に然したる問題でもなかった。
この程度、腕もろとも弾き飛ばして即座に振りほどくことができるが。

周囲の状況によっては、その僅かな時間のロスが大きな問題へと繋がる。

それも彼が明確に認知していない問題、
彼が把握している『以上』に敵の―――『数が多い』だということである。


確かに、この天界の軍勢には『化物染みて強い存在』はいない。


たが『強い存在』が何体も何体もいるのだ。


翼で弾き、木っ端微塵にその巨人天使の手を吹き飛ばしては振り返る一方通行。
彼ははっきりとその存在、この隙に背後に回ってきたもう一体を認識していたのだ。

振り向きざまに、振るわれてきた斧槍を同じように手で打ち砕き、翼のカウンターで貫く―――。

―――と、それがこの時の彼の段取りであるが次の瞬間、変更を余儀なくされた。


一方『―――』


いつの間にか―――もう一体、三体目の巨人天使が真上にいたのだから。


しかも更に『それだけ』ではなかった。

三体目を認識したのと同時に彼の知覚は、
己の頭部へと真っ直ぐに飛翔してきている―――『火弾』を検知した。
681 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/18(日) 03:35:26.16 ID:Q8IWBCvQo

彼はまず、背後の二体目の斧槍を振り向きざまに左手で弾き砕きながらカウンター、
翼の一本でその分厚い胸を貫き。
次いで真上からの三体目へ向けて、同じくカウンターで翼の一本を突き上げながら、

また別の翼の一本で火弾を弾きいなした―――のだが。

火弾の力の認識を少し誤ってしまったか、
その衝撃は想定したものよりもずっと上回っており、そこで彼は体制を崩してしまったのである。

それにより僅かな差で、真上の巨人天使の頭部を貫き損ねてしまい。


一方『が―――ッ!』

逆に彼の方が避けきれず、
三体目が振り下ろした斧槍の一撃を額に受けてしまった。

強烈な衝撃と共に一瞬明滅する思考。
ぐりんと視界が回り、四肢が人形のそれのように暴れ、空がとてつもない速さで流れて行く。


巨人天使の凄まじい一撃によって、
一方通行の体は漆黒の尾を引き一気に落下していった。

ただ、今の彼が『この程度』でそのまま叩きつけられる訳もない。

彼は即座に意識を再起動させ、
その姿勢を建て直して―――虚数学区の街並みの中に豪快に着地した。
682 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/18(日) 03:37:25.87 ID:Q8IWBCvQo

彼を中心にして、クモの巣状に広範囲にひび割れる大通り。
ただその程度など、次なる破壊に比べてはまだまだ生易しい。

一方『―――』

そうして着地して一瞬の後。
一方通行が『それ』を瞬時に知覚して、目で確認すらせずにそのまま彼が後ろに跳ね飛ぶと―――直後。

追って急降下してきた巨人天使の更なる一撃が、
一瞬前まで彼の体があった空間に叩き込まれ、道路を大きく陥没させた。


そうして破片が舞い散りかける中。


この巨人天使の命運は、この時点で尽きていた。
回避された段階で死んだも同然だった。

その彫像の如き顔が上げられ―――白亜の瞳が一方通行の姿を捉えようとした時には、


鋭い漆黒の翼の先端が、僅か10cmのところにまで迫っていたのだから。


凄まじい速度で放たれた一方通行の一撃は、
この巨人天使に振り下ろした斧槍を引き抜くことすら許さず―――その頭部を貫き散らした。

だがこれで今の相手の全てを討ち取ったわけではない。
あの『火弾』を放った存在がまだいるのだ。


三体目の巨人天使の絶命を確認して、即座に面を上げた彼のその視線の先には。

龍か蛇か、赤と金色の、長い長い胴をしたこれまた異形の天使が、
空をゆっくりと泳いでいた。
683 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/18(日) 03:40:55.30 ID:Q8IWBCvQo

先ほど受けた火弾もまた、大きな力を練り篭められており、
あの蛇のような天使も、他と一線を画す巨人天使と同格の存在と思われるか。

そう、彼が即座に分析して、
腰低く着地した姿勢からそのまま、あの『蛇天使』のもとへと飛びゆこうとした―――その時だった。

彼方の空を漂っていた蛇が、
突然過ぎ去った『紫電の筋』で、頭部から尾まで綺麗に両断されたのだ。

その蛇天使を一閃の下に斬って捨てた存在の正体は。

一方『―――はッ。現れたか』

この虚数学区は意識化にあるため、彼には手に取るようにわかる。
そして相手もまた、律儀にすぐさま飛来して来、彼の前に降り立った。


その紫電の輝きに包まれていたのは―――どこかの高校の制服を纏う、
大きなメガネをしている穏やかそうな『普通』の少女だった。

いや、『普通』と言えるのはその人間的な部位だけか。
その他の非人間的な部位はとても『普通』なんて領域では無かった。


『遅れてすみません―――!!』


まず第一にそう謝罪して、ぺこりと頭を下げる少女。
その頭上には虹のような鮮やかな光で形成されている輪。

髪は金色に淡く光り、背中からはこれまた莫大な力を帯びた、
木の根のように広がる紫電の翼。


更に手には、天使の鮮血がまだ少し付着している―――翼と同じ紫電の―――光剣。



風斬『――――――ヒューズ=カザキリ―――風斬氷華です!!』



そうして彼女は再び顔を勢い良く挙げ、そう名乗った。
684 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/18(日) 03:44:55.34 ID:Q8IWBCvQo

一方『……』

そんな少女の姿は、0930事件に見たヒューズ=カザキリとは似ても似つかなかった。
少なくともあの日は、ビル街の上に大きく突き出るくらいに巨大だった。
更にこんなにも普通の人間と同じく接触できる存在だったとは。


―――ただ、今はそんなことなど『どうでもいい』。


力の知覚からも、この少女があの『ヒューズ=カザキリ』であることは間違いない。
かなり心強い増援だ。


一方『おォ。助かンぜ』


風斬『は、はい!……それとあの……!額から血が……!』

とそこで指摘されてやっと。
一方通行は、己が額の小さな傷から出血していることに気付いた。

絶えず翼で衝撃波を放ち、天空の『雑魚』を吹き飛ばす傍ら、漆黒の手で拭うと、
『今の血』も同じく『黒い』ため見えにくいが、確かにその手に血が付着していた。


これは懸念すべき事柄か。


彼が放つ攻撃は、どんな相手に対してももちろん最大出力だし、
どこかの『赤い魔剣士』のようにわざと加減なんかはせず、肉体の強度も最大にしているのだ。

その状態で生じた傷は、単なる肉体の損壊以上の意味を含む。

それはつまり、あの巨人天使達の刃はこちらの力と魂の強度を上回っているということ。

こちらの方ずっと力は大きいものの、決して無敵ではないということだ。
確かに相手は『強敵』ではない。

しかしその刃でも、傷を負い続けてしまえば―――こちらも充分に倒されかねないのである。
685 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/18(日) 03:48:19.25 ID:Q8IWBCvQo

その時。

ふと脳裏に過ぎるは、いつぞやのアレイスターの声。
四元徳とやらが率いる天界の軍勢の話しの中における、
『上級三隊の数は500を越える』という言葉。

一方『……』

あの他とは一線を画す『巨人天使』や『蛇天使』が、その上級三隊とやらなのだろうか。
そうでなかったら最悪だが、もしそうだとしても最悪なのは変わりない。

楽観的に考えても、この水準の存在が500もいることになるのだ。

一方『……』

その数で一気に来られたら、さすがに今の己でさえ押し留めるのは厳しいであろう。

そして果たしてそれだけの数を、学園都市へ漏らさずに全て排除できるのだろうか。
『雑魚』として群れごと吹き飛ばせない天使もあれだけいるのに。

一方通行はここでもう一度、
己を含め学園都市は今、とても一筋縄ではいかない勢力を相手にしているのだと再認識させられた。

天の軍勢には、悪魔のそれのように飛びぬけて派手な『強さ』は無い。
しかしとにかく堅実で確実な『強さ』がそこにあるのだ。

一方『…………』

天空を見上げると心なしか、いいや、明らかに。
こちらが打ち出す衝撃波から、生き残る天使の数が増えていた。

こちらに対抗して、より強い者達が前面に出できているのだろう。
きっとあの巨人天使や蛇天使も多数いるであろう。


そう、今までは単なる威力偵察―――『本戦』はこれからだ。


一方『やる事ァわかってンな?』


風斬『つ、土御門さん達が到着し、滝壺さんによって虚数学区の穴が無くなるまで休み無く―――敵を掃討し続ける、ですね』


そうして並び立つ人間界の『神と天使』は、天を見据えながら声を交わして。


一方『―――行くぜ。片っ端から殺しまくンぞ』


飛びあがり―――その身を天の軍勢の中へと投じた。


―――
686 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 03:48:47.02 ID:Q8IWBCvQo
今日はここまでです。
次は火曜の深夜に。
687 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/18(日) 04:54:52.75 ID:ZnqyqMmD0
一方さんつえええええええええええええええええ
んぎもちいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
688 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 05:29:14.18 ID:2Vt/YAwDO
乙なんだよ!
689 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 05:58:45.82 ID:kvLvEc540
一通さん人型決戦兵器になってるな乙乙
690 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 07:07:26.98 ID:wptceAsdo

もう必要ないんだとは思うけどやっぱりベクトル操作を使ってないと寂しいな
691 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 07:42:58.04 ID:JSHgoWaAO
>>1

素晴らしい作品ありがとう!
692 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 08:01:14.97 ID:ByNRif/a0

いま気づいたけど
一方さんはハデスに似せてるから全体的に黒っぽいんだな
693 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 08:44:58.49 ID:U+7pR3xDo
息を吐き出すのを忘れるね頼もしいわ乙!
694 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 10:19:58.85 ID:9gveP3FBo
お疲れ様でした。
695 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/18(日) 12:24:24.85 ID:LDSJEesDO
乙乙乙!
ベヨネッタのOne_Of_A_Kindが流れてきそうだな!
696 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 13:30:22.29 ID:s65iky6bo
お疲れ様です。スーパーアクセラレータイムはっじまったよー。
>>695
フウゥゥウゥーーフゥゥゥウゥゥーーーフゥウゥゥゥゥウウゥーードゥドゥダッドドゥドゥダて月に連れていかれても俺は構わない。
697 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 21:45:25.64 ID:FMecnxvZ0
一方さんと風斬によるトーチャーアタックあるでこりゃ
698 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/20(火) 04:41:52.16 ID:AzU797z20
これほど一通さんが大暴れする回は原作で来るのはいつの事になるのか。
699 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/21(水) 02:12:45.75 ID:w80+sUW9o

―――

学園都市は震えていた。

空の上から絶え間なく響くは、天蓋を巨大な金槌で打っているかのような轟音。
莫大な規模の人と天の力が、『界上』にて激しく衝突しているのだ。

学園都市の地上は事実上機能を停止していた。
残っているのは最低限の保安・維持要員のみ、行政機能等や市民は皆地下へと移されていた。

そこで人々はじっと息を潜めていた。
古き時代に先祖達が、『神の怒り』に畏怖したように。


分厚い地殻と防壁を越えて浸透してくる異質なプレッシャーと、
いくら耳を塞いでも―――体の芯、思考の中まで直接響いてくる『轟音』。

『何か』が『おかしく』なりつつある、そんな漠然とした未知なる世界の変化を前に、
ただただ耐え忍びこの激なる嵐が過ぎ去るのを待つしか術はない、
と彼らの本能は己が生の保全を優先させたのだ。

それは紛うこと無き『真っ当な行動』である。

生ある存在としてはもちろん、この世界唯一の知能種であるという点を考慮しても尚、
この世界の住人である以上この真理の絶対的正当性は揺るぎはしない。

特に彼ら大多数のような、『流れ』に招かれなかった力無き者達、

今日という日がいつか、知らぬ者のいない物語として語り継がれることとなっても、
決してその名が声にも字にも宿ることの無い『子羊達』にとっては。

ただ。

そんな無名の子羊達の全員が、皆足並み揃えてこの正当な行動を選択するとも―――限らない。


なぜか?―――それはもちろん、『人間』だからだ。
700 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/21(水) 02:15:47.26 ID:w80+sUW9o

いくら界の『理』を一新されようが、その魂に継いでいる混沌の世界の血は消えやしない。


どれだけ状況が徹底して詰められていても、
僅かな要素で危なげに揺らぎ、迷い、時として不合理とも言える選択をするのである。

しかも面白いことに、その選択は必ずしも無意味に終るとも限らない。


確かに『主役』となる者達の多くは生まれた瞬間から、もしくは生まれる前から、
その魂には大いなる運命が課せられているが。

無名の子羊だった者だってその『意志』さえ明確ならば、
物語の主要人物として名を連ね、大いなる運命を引き寄せることも可能だ。

例えば―――19世紀に誕生した、二人の史上最高峰の魔術師や、

スパーダの孫をすっぽりと包み込んでしまう大器、フォルトゥナの姫。

更に極端な例ならば、僅かな期間で『完全な無名』から物語の中核に食い込んでしまった、
欠片の力も無い『成り上がり者』、佐天涙子という少女までいる。

そうして今。

この震える街のある路地裏にも一人。


初春「……」 


物語の『歯車』に成り上がりかけている、一人の『無名』の少女がいた。
701 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/21(水) 02:17:25.81 ID:w80+sUW9o

空から響く轟音と、
現か夢かも定かではない、異質な感のする大気。

初春「…………」

それら肌に覚える感覚に浸る一方。
初春は頭の中で、今しがた見た少年と幼い少女の『問答』の様を思い返していた。

二人の関係については、具体的なことなど何も知らない。

打ち止めの口からは、部外者でもある程度過去を案じられる言葉がいくつか発せられてはいたも、
それらのワードを繋げ纏めるには少しの時間が必要だ。

ただ。

それがわからなくともこれだけはわかる。

あの二人の間には、とても強固な絆があって。
あの二人は互いの為に、困難へと立ち向かおうとしているのだ、と。

その彼らの意志を目の当たりにしたとき、
初春は体の中で熱くなる何かを抱かずにはいられなかった。

初春「…………」

こう感じてしまうことはいささか、単純で未熟なのかもしれない。
巧みな言葉や演出によって扇動され、理解をする前に感化してしまうのと同じなのであろうか。

いいや、似てはいても決して同じではないはずだ。
確かに理解はできずとも、考えることを止めたわけではないのだから。


現にこうして―――自覚し認識しているのだから。
702 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/21(水) 02:20:04.89 ID:w80+sUW9o

ジャッジメントとしての日々の中でそれなりに危険は経験している。
御坂美琴と白井黒子との繋がりで、様々な厄介ごとに何度も首を突っ込んだこともある。
更にあの幼い少女と初めて出会った日のように、『本物の死』に半ばその首を捕まれたことも。

しかし今、目の前にある状況は、その今までのどれよりも規格外で凶悪な空気を醸していた。
覚えるのは闇夜の嵐の中に放り出されるかのような、絶対的な恐怖と圧倒的な孤独感。

それこそ、いっそのこと『死んでしまって楽になりたい』と思わせるまでに過酷な重圧。

しかし。

初春「……」

それは重々認識した上で、彼女の心は決まってしまってた。

あの『白くて黒くて』、天使にも悪魔にも、ただの人にも唯一の神にも見える少年。
煌々と燃え揺らぐその存在にあてられてしまったのか。

あれを目の当たりにしてしまった時点で―――もう『遅い』。

人間界の王、その神たる熱は、
すでにこの少女の魂へも飛び火してしまっていた。


いや―――そもそも、最初の火種は彼女自身が宿したものだ。

あの若き神の熱はより激しく燃え盛らせただけである。

彼女は元々、無二の友人が帰ってくるまでは、己も安全地帯に篭るつもりなんてなかったのだから。
友人を探すため命令も規則も破り、第七学区に単身踏み入った時点で既に彼女の魂には火が点いていたのだ。

己が命の保全にただただ注力するのも、この世界、人間の持つ強い意志。
一方でなりふり構わず他者のために、
無駄だと頭の隅で認識していながら『馬鹿げた行動』をするのもまた―――混沌の子たる人間が有する意志の一つである。
703 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/21(水) 02:21:25.64 ID:w80+sUW9o

打ち止めは今、再び毛布に包まっては芳川の脇に立ち、
彼女と何やら話し込んでいた。

ぼそぼそとした小声だったためその内容はわからないも、
まず世間話といったものではないのは確かであろう。

真剣な面持ちで、手振りも交えて何かの打ち合わせを行っているように見えた。
と、それが一段落したのかふと手を止めて。

芳川「……ありがとう。貴女は地下に戻って」

そう芳川が初春に声を向けながら、
懐からシェルターの認証キーを取り出した。

対し向き合った初春はそっけなく。

初春「お断りします。私は『一緒に行く』と言ったはずです」

変わらず甘ったるいながらも、
良く響く芯の通った声を返した。

芳川「……」

初春「あなた達が安全な場所に落ち着くまで、絶対に傍を離れませんよ」

真っ直ぐに芳川を見据えて。
その瞳に恐怖はあるも、更にそれを上回る強固な意志を見せて。

一瞬、芳川は目を細めたも、
結局肯定的な意見に落ち着いたのか、諦め混じりの表情で頷いて。

芳川「―――じゃあ―――」


と―――彼女が口を開きかけた時だった。

突然、路地に風切り音が鳴り響き。
三人のちょうど中間の位置に、スーツに血の滲む包帯という身なりの、褐色の肌の少年が姿を現した。

そして少年は礼儀正しい仕草で芳川と打ち止めの方へと向き。

「ラストーダー、芳川さん。お迎えに」
704 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/21(水) 02:22:40.57 ID:w80+sUW9o

一瞬驚いたも、すぐに初春は冷静になった。

初春「……」

少年と芳川・打ち止めの様子を見るとどうやら知り合いか。
『何か』の話も通じているらしく、特に話し合わせることもなく二人は頷き、
彼の傍へと歩んでいく。

と、そこで少年は初春の方へも顔を向け。

「初春さんですね」

初春「―――?」

エツァリ「エツァリです。馴染みの方々からは諸事情あって『海原』と呼ばれていますが」

そう彼女へ一礼しながら、自己紹介した。
なぜ彼が彼女の名を知っているのか。

初春は知る由も無いがこの少年エツァリは、
随分と前から『あるレベル5の少女』つながりで、この初春のこともチェック済みであったのだ。

エツァリ「ええと……初春さんは最寄のシェルターにお運び―――」

そうしてエツァリが声を続けると。

芳川「この子も一緒に」

隣に立った芳川が遮るようにそう声を放った。

芳川「彼女が『助手』よ」

ふむ、と少し表情を曇らせるエツァリ。
だが数秒間の沈黙ののち、諦めたように息を吐いて。

エツァリ「これ以上『あの人』のご友人を巻き込みたくないのですが…………まあ、今はとやかくは言ってられませんね」

芳川「でしょう?これから適う技術がある人員を探すなんて、そんな時間あるとは思えないし」

芳川はエツァリに声を向けながら、再度小さく初春へ頷いて見せた。
対し初春も、きゅっと口を引き締めて頷き返す。

とそうしていたところ。


打ち止め「ねね、急ごう!って、ミサカはミサカは虚数学区上の抜け穴を早速いくつか観測したから急かすの!!早く早く!!」


芳川の袖を引っ張り、打ち止めが大きな声を皆に飛ばした。
アホ毛をせわしなく揺らして。

―――
705 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/21(水) 02:23:58.77 ID:w80+sUW9o
―――

『ステェェェイルッ!!』

己が名を呼ぶその声は、まるで雷鳴のように轟いた。

ステイル『……っ』

学園都市の空に響く激音の合い間を貫いてきた一方通行の声である。
力の系統の壁で、能力・魔術の回線を作ることもできなければ、

通信機器の類はどうせ自身の力で『焼き壊して』しまうため、
ステイルはそういった機器は身につけていないのだ。


一方『狩り漏らした奴等がそっちに行くだろォからオマエ達はそいつ等を狩れ!!』


さながら天の声、大音響で口調悪く響く一方通行の声に、
相手に聞えるかはわからぬもステイルは小さく「ああ」と返して。

ステイル「そろそろ一度戻ろう」

アグニ『うむ』

並び走る頭の無い巨人に向け告げた。
彼らは今、一通り周囲の環境をチェックしていたところだった。

これだけの異変が起こっているため、拠点となる窓の無いビルを中心として、
一帯の『世界』の状態が正常かどうか確認しておく必要があったのだ。
706 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/21(水) 02:25:19.87 ID:w80+sUW9o

そうして進路を変え、一路窓の無いビルへ向かおうとしたその時。


早速の事だった。


ステイル『―――ッ』

道路向こう、闇にどっぷり浸かる先にきらりと煌く―――白金の異質な光。
それが何なのか、一目で彼は悟った。


天使である。


即座に低く構え、その手から業火の刃を伸ばし、
ステイル=マグヌスは地面を蹴った。

行く手のアスファルトを一瞬にして溶かしては、オレンジ色の『小川』を道路に刻み、
灼熱の尾を引いて一気に突き進む。

その滾る赤き瞳で捉えるは、四体ほどの天使の姿。
トカゲのような足に大きな前掛け、頭には奇妙な仮面、
そして手には輝く光を模した形状の刃がある杖―――。

彼らは、ステイルの接近になどまるで気付いていなかった。

ステイル『―――シッ』

短く息を吐き―――まずは一体目。

すれ違いざまにその首を炎剣で焼き刎ねた。

ただその首は、宙に舞い飛びはしなかった。
一瞬にして燃え尽き、火の粉となってさながら散弾のように砕け散ったのだ。

そうして残った体も業火に飲み込まれる中、
ステイルは身を捻り半円を描くように足を運んでは、アスファルトの上を溶かし滑り。


更に通り抜けざまに―――二体目の首も『焼き散らす』。
707 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/21(水) 02:27:45.25 ID:w80+sUW9o

そこでようやくこの『襲撃』が認識できたのか、
三体目が杖を構えかけたが。

それだけだった。
それ以上は反応が全く追いついていなかったのだ。
無論ステイルの存在、その容姿を認知することなど全くかなわない。

次の瞬間、更に身を捻りながら滑り抜けたステイルによって、
三体目はその体を胴辺りで上下に分断され、火の粉と灰となり焼き飛ばされた。

そうして彼が、最後の四体目も立て続けに狩ろうとした―――その時。


突然、真上から赤い大きな『何か』が現れ、
四体目を踏み潰してしまったのだ。

ステイルは即座に急停止してはその赤い首の無い巨人、アグニを見上げて。

ステイル『この程度の連中なら、僕に全て任せてくれてても構わないんだけどね』

ステイル『君は今日はずっと激戦続きだったんだろう? 疲れない程度にしてくれよ』

ステイル『僕の手に負えない大物が来たら、君に任せるんだからな』

するとこの大悪魔は、軽く笑うような唸り声を発して。

アグニ『敵を前にして黙せとは。苦行か』

ステイル『……まあ我慢してくれ』
708 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/21(水) 02:28:54.67 ID:w80+sUW9o

そうしてアグニと軽く言葉を交わしたのち、
ステイルは手早く魔術通信を起動して。

ステイル『聞えるかい? 早速だが天使達と遭遇した』

エツァリへ向け声を飛ばした。

エツァリ『早いですね……』

そして帰ってくるは、重く濁らせるアステカの魔術師の声。

エツァリ『「上」はたった今ヒューズ=カザキリも合流しましたが、やはりそう簡単にいかないようです』

エツァリ『99%以上は押し留めていますが、なにしろ膨大な数ですからね』

エツァリ『それに高位の存在は絶対に逃すことはできませんので、どうしても下位の天使達の掃討には限界があります』

エツァリ『ラストオーダーによると、数百体が既に二人の防衛線を突破して虚数学区上の街に散開、恐らく穴を探しているのでしょう』


ステイル『そして僕が、穴を見つけ突破したばかりの連中に遭遇したという事か』

エツァリ『恐らく。そこに後続は?』

そこでステイルは見合わせるようにアグニを見上げ(この大悪魔には頭が無いが)、
そぶりで互いの認識を確認して。

ステイル『いいや。見当たらない。静かなものだよ』

エツァリ『それは良かった。他の天使達に報せられる前に排除できたようですね』

エツァリ『一先ずその座標をマークし、ラストーダー達の準備を整え次第、応急処置を施します』

ステイル『急いでくれ。僕達は一先ずそちらに戻るよ』

エツァリ『いえ、ラストオーダー達の準備が整えばある程度侵入を検知できますので、あなた方はそのまま遊軍となりパトロールを』
709 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/21(水) 02:30:32.70 ID:w80+sUW9o

ステイル『なるほど。そうしよう。そっちは大丈夫かい?』

エツァリ『問題ないでしょう。自分とイフリートもおりますし』

エツァリ『ベオウルフもまあ……イフリート曰く少なくとも天界に組することはない、とのことですので』

ステイル『そうか。じゃあよろしく頼むぞ』

エツァリ『ええ。あなた方も』

そうして軽く話し合わせ通信を終えたのち、
ステイルは鋭い目で睨むように空を見上げた。

不気味に白み、界を揺さぶる轟音を響かせている天。

ステイル『…………』

傍ら、神裂を通じて思考の中へと入ってくる『向こう』の状態に、
彼はその顔を険しく歪ませた。

上条に起きたことを知ったインデックス。
その少女の表情を傍で見、感じる情景がありのまま送られてくるのだ。

ただ。

さすがに心痛む情景ではあったが、『意外なこと』にステイルの予想よりは
インデックスの精神状態は悪くは無いように思えた。

確かにとてつもない衝撃を受けてはいるも、それでも―――心は折れてはいない。
彼女の中に通る強い芯が、びくともせずにしっかりと耐え切っているのが神裂の瞳越しに見えたのだ。

少女は衝撃を受け茫然自失としながらも、
立っているその足は少しも揺れ動いてはいない。
大きく見開かれている目、その瞳からは確固たる光は決して消えてはいない。

そして残る左手はぎゅっと。
固く確かな力をもって握り締められていた。
710 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/21(水) 02:32:36.75 ID:w80+sUW9o

アスタロトによって重傷を負ったこともあり、
この心労は今のインデックスには最悪のものとなると恐れていたが。

ステイル『………………はっ……』

予想以上の彼女の強さを見て、ステイルはその歪めてた顔のまま思わず、
『嬉しさ』の余り軽く笑ってしまった。
この瞬間、それはそれは奇妙な表情になってしまっていただろう。


やはりインデックスは大きく変わった。
上条に会って、悪魔と関わって、魔女とその己の出生と相対して。

彼女はどんどん、加速度的に『強く』なっている。

守られる者から己を守れる者となり、
更に他者へ手を差し出し守る側へと半歩踏み込んでいるのだ。

と、そこまで思考が走った時。
ステイルは悪魔の感覚で直感的に悟った。
無論、同期している向こうの神裂もまた同時に。

二人の思考の中にこう過ぎった。


上条を『救う』のは―――最終的にインデックスであろう、と。


それは漠然とした、半ば幻想、夢に似たものであろう。
具体性など欠片もない。

ただそれでも二人は確信していた。

インデックスと上条当麻、この二人の関係を特に良く知り、
『彼らの物語』を傍で目の当たりにしたからこその確信。

魂がそう告げるのだ。
711 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/21(水) 02:33:44.85 ID:w80+sUW9o
『視覚』を失った『幻想殺し』。
『右腕』を失った『禁書目録』。

こうして運命を捻じ曲げて、互いを重ねてしまうくらいに二人は一心同体、
片方が完全に消滅してしまえば、残る片方も生きてはいけない存在になってしまった。

今となっては、彼らの繋がりは単なる依存関係ではない。
上条当麻とインデックスの繋がりは、そんな『傷の舐めあい』なんかではない。

弱さをカバーしあうのではなく、
むしろ逆に互いに互いに『お前の大切なものが失われてもいいのか?諦めるのか?』と挑発し、
発破し、駆り立てる関係。

魔女の鉄の契りが結ばれた今、そこに弱さは欠片も許されない。
それこそ『擁護』ではなく『脅迫』に近いものなのだ。

つまりはこういうこと。


片方が状況に屈することなく存在する限り―――残る片方も、絶対に屈しはしない。


彼らにとって『敗北』とは、『彼ら二人とも』が砕け落ちたときのみ。


それが魔女と悪魔―――上条当麻とインデックスの『永劫の契約』だ。
712 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/21(水) 02:35:57.58 ID:w80+sUW9o

ステイル『……』

神裂を介して、上条とインデックスの間にあるその繋がりを再確認して、
ステイルは今度は安堵の息を漏らした。

そして少しばかりの―――寂しさも。

インデックスを挟み、神裂と己が両脇斜め後ろに立つことはもう無いのだと。

今やこちらからインデックスに手を差し伸べる必要はない。
求められたときのみ『対等の友』として手を貸す、それだけ。

そう。

もう彼女には保護と護衛はいらないのだ。
少女の瞳には今、ベヨネッタやジャンヌ、そしてローラにも見たあの―――『鉄の意志』が宿っているのだから。


一度、ステイルは面を下げて。

ステイル『アグニ』

そうして再び上げてては、空ではなく今度は真正面。
前に続く『道』を見据えて。

ステイル『準備が整うまでもう一度、辺りを見回ってこよう』

涼やかに告げては。


ステイル『行くぞ―――』


地を蹴った。


『己』が前に続く『道』の先へ。

『己』が意志で、『己』が足で、自ら『前』へ―――『己が戦い』へと。

―――
713 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/21(水) 02:36:53.50 ID:w80+sUW9o
―――

テメンニグルの塔、門前の氷に覆われた広場にて。


ケルベロス『…………懐か……しいな』

途切れ途切れながらも、声を発せられる程度にまで回復した魔狼が、
レディの腰からそう言葉を放った。

レディ「……懐かしいわね」

対し、少し重く静かな声で返すレディ。
その面持ちは厳しく、全身からは異様な空気を発していた。

怒り、とも。
緊張、とも。
焦り、とも。

そして―――恐怖、とも取れる空気を。


ケルベロス『おお……2000年の間……我が守りし……魔塔の……開かずの大門よ』


そんなレディが一歩、また一歩とゆっくり門の前まで歩んでいくと、
再び途切れながらも声を発するケルベロス。
714 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/21(水) 02:38:20.60 ID:w80+sUW9o

門の前の床には、割れて真新しい氷の破片が散らばっていた。
つい最近、ここで誰かが派手に―――そう、例えばこの門を蹴り開けでもしたのだろう。


ケルベロス『……ダンテ』


レディ「…………」

その通り、彼だ。
一足先にこの塔に乗り込んで行ったのだ。

そうあの赤き魔剣士の存在を認めた途端、
レディは弾けたように素早い仕草で己が装備の再点検を始めた。
拳銃、サブマシンガン、切り詰めたショットガン、そして特別製のロケットランチャー。

ついで腰の魔導書を手に取り、厳重な錠を外しては該当のページを開いて、
弾薬など諸々の物資をその場に呼び出し補充。

これまた素早く弾帯やポーチに差し込んでいく。


そして。


レディ「戻りなさい。普通に飛べば人間界に戻れるから」

五和「……」

斜め背後に立っていた五和へと、顔を向けずに声だけを飛ばした。
715 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/21(水) 02:42:49.27 ID:w80+sUW9o

五和「…………」

対し五和はただ沈黙を返す。
魔女の槍を握り、ぎゅっと表情を引き締めて。

彼女は今、そう易々とこのレディの言葉に従える気持ちではなかった。

その原因はもちろん―――レディの様子だ。

この塔を目にしてから空気が完全に変わってしまった。

余裕が無い、とも言えるか。
あらゆる負の感情を彼女から覚えるのだ。

それらが熱を帯びてどす黒く渦巻き、
まるで彼女の身をチリチリと炙り焼きにしているかのように。

レディ「それと魔術通信を試してみなさい。多分そっちの『お仲間』が戻ってきてるから」

五和「ですが……」


レディ「五和ちゃんは、この塔に入る『理由』は無いでしょ」


理由。
その言葉を耳にして五和は一歩、レディの側へと進んで。


五和「…………………………レディさんの『理由』は…………『悪夢』、ですか?」



核心を突いた。
716 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/21(水) 02:43:47.36 ID:w80+sUW9o

やはり五和の覚えた感覚は正しかった。

レディはぴたりと動きを止めて、数秒間硬直。
そして再び静かに、最初は恐る恐るといった風に動き出して、
ゆるやかに装備の点検を終えて。


レディ「お願い。一人にして―――」


そう、さながら懇願するように告げた。
だがそう感じられるのもここまでか。

次に続いた声に、彼女の本当の内面が垣間見えた。



レディ「―――邪魔するな。これは『私だけの狩り』だ」



それはそれはどす黒く、灼熱の感情に満ちた声。
その迫力に思わず五和は、今度は一歩後ずさってしまった。

そうして身を強張らせる五和を置いて、レディは顔を向けることなく門に手を当てて。
片方の扉を押し開けて、隙間からするりと中に入っていってしまった。
717 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/21(水) 02:45:09.97 ID:w80+sUW9o

五和「…………」

最早これ以上、五和はレディの個人的事情へ首を突っ込むことはできなかった。

仕方ないことか。
自分の中にだって誰にも踏み入らせたくない、誰にも譲れない『絶対的な領域』がある。

それに五和は今、まずは神裂達と合流するという第一の目的がある。
己の安否が定かではないせいで、あの心優しい『女教皇』を無闇に心配させてしまいたくはない。

彼女は踵を返して門に背を向け、その場でまずは通信魔術を起動した。
『周波数』は必要悪の教会と天草式が常に使用しているものに設定し、範囲を学園都市に定めて。


五和「誰か、聞えますか?」

するとすぐさま声が返って来た。

ステイル『五和か!!良かった!無事だったか!』

今となっては妙に懐かしくも思えてしまう、
ステイル=マグヌスの声が。

五和「はい!あなたも!プリエステスとインデックスは?!」

ステイル『大丈夫だ。色々あったが今は問題ない』

それを聞いて一先ず、ほっと胸を撫で下ろす五和。
そうして彼女は腰にある黒い拳銃へと意識を回して。

五和「上条さんは?!上条さんの銃を拾いまして……」


ステイル『……ああ、彼か…………』
718 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/21(水) 02:46:45.27 ID:w80+sUW9o

すると、ステイルの声が急に濁ってしまった。
そのトーンだけで、良からぬ事が起きたのは明白か。

それもとにかく、とにかく良からぬ事が。

五和「……あ、あの……何が……?!」

急激に緊張し強張る身をなんとか抑えながら問い返すと。
ステイルの重々とした声に乗って、上条の現状が五和の意識の中へと刻み込まれていった。

上条当麻の身に何があったか。
彼は今どんな状態なのか。

そしてダンテからイフリートを介しての情報で―――『上条当麻』の現在位置も。


五和「―――」


その瞬間。


―――とうとう五和にも―――『理由』ができてしまった。


この魔塔に乗り込むに足る『理由』が。

確かに五和は、彼とインデックスが結ばれるとわかっている。
そして己がインデックスの位置に立つことは、もう随分前に諦めてもいる。

だが。


これは―――それとはまた別の問題だ。


この純粋な『想い』だけは―――絶対に『譲れない領域』のもの。


五和は全くの迷いなくすぐさま振り向き、
放たれた矢の如く駆けては、体当たりでもするかの様に門に強く体を当てて。


片方の扉を押し開けて―――中へと踏み入った。


―――
719 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/21(水) 02:48:08.28 ID:w80+sUW9o
今日はここまでです。
次の投下は諸事情のため27日か28日となります。
すみません。
720 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/21(水) 03:18:28.06 ID:4Q1v3s5Vo
721 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/21(水) 09:33:11.67 ID:g+QqJ5YB0
魔界も天界も人間界もいよいよごっちゃになって来て、幽々白書の最後らへんの展開を思い出してきた。
この戦い終わったら皆どうなっちゃうんだろう。ゼノサーガみたいに全員まとめて上位次元にシフトか?
722 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/21(水) 18:21:36.28 ID:MATDd3g6o
乙です。
こうなると魔女組がどう動くかが気になるな。天界にはしこたまブチ込みたいだろうし。
723 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/23(金) 23:27:22.99 ID:h/RrTvn00
原作新キャラのオディヌスはでない?
まあ強さ的においてけぼりだけど
724 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/24(土) 11:47:09.78 ID:CY4BYvVV0
名倉ダンテもいるよ
725 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/24(土) 21:42:37.41 ID:RYruLbaz0
クリスマスぼっちだから今日テメングニル登ってジェスターに笑われてきた

(;∀;)メリークリスマス
726 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/24(土) 22:22:08.46 ID:QWo/2rL0o
ウェルカムトゥヘール!!!!
727 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/24(土) 23:09:33.01 ID:+Tn/ROlY0
奥様もうっとり
728 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/24(土) 23:10:31.71 ID:+Tn/ROlY0
奥様もうっとり
729 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 18:37:01.06 ID:9d3EfE6g0
学園都市防衛戦なのにナンバーセブンは出さないの?
730 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 18:55:42.05 ID:HxZWyRtvo
魔界の奴らが強過ぎるのがよく解った
731 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 19:52:08.39 ID:67t6ECXbo
そもそもナンバーセブンってこの作品にでてたっけ
732 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 21:56:44.66 ID:j2e+xobY0
たしかデュマーリ島突入前にちょっと触れられてて

「アレイスターでもよくわからない能力だから、
放置させておいた方がプレンへの影響も少ないし無難」

みたいな扱いじゃなかったっけ?
ジュベレウスのような>>1がどこまで考えているかはわからんが
733 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/27(火) 23:26:43.51 ID:vVvsBFOq0
ここまで強いと2ンテの真魔神どんぐらいになるんだ
734 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/28(水) 00:16:19.21 ID:SFK1fAbvo
>>1の設定的には、スパーダ無しで50%『破壊』の力をダンテが完全支配してる状態、なのかな。
735 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/28(水) 00:42:07.56 ID:kaDADruQo
真魔人強かったもんなww
カプコンは早く2のリメイクを出すべき
736 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/28(水) 02:57:39.02 ID:ZujNS7gw0
そろそろかな〜wktk
737 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/28(水) 06:56:26.41 ID:pkvAR4LAO
ゆっくり舞ってね
738 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/28(水) 12:55:50.23 ID:F1F3d2/Ao
>>735
http://www.capcom.co.jp/devilmaycry/
リメイクと言っていいかは微妙だが3月22日に一応出るぞ
739 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/28(水) 19:27:34.18 ID:A35wWilFo
2はストーリーは悪くないんだから作り直せば結構良いのが出来ると思うんだけどな
回避の動きとか射撃の動作とかシリーズ一番カッコいい
740 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/28(水) 23:00:18.10 ID:jQs1suY2o
―――

テメンニグル。

その塔の姿は、初めてここに踏み入った時となんら違っていなかった。

門扉の向こうに広がっていたのは、吹き抜けの巨大な空間。

入ってまず最初に目が行くのは、
門の真正面に構えている『黒がねの大鐘』であろう。

『客人』を歓迎すると同時に、塔がもたらす災いを警告し示しているかのように、
翼の生えた恐ろしげな者達が悶え絡む不気味な『トロフィー』。

七つの大罪を象った、この塔を門として機能させるための鍵の一つだ。

そこから次に目に行くのは、広間の灰色の内壁に沿い、交差するように両側から昇る螺旋状の回廊。
それが延々と上層部まで続いている。

また先の『黒がねの大鐘』の背後上には、これまた巨大な煌く歯車がいくつもはめ込まれており、
それらの隙間からステンドグラスの様に、広間に淡く金の光が差し込んできていた。


レディ「……………………」


そんな『思い出の地』にレディは立っていた。
以前ここに立ったのは随分と前になるか、成人すらしていない頃だ。

だがあの日の光景は、今での昨日のように脳裏に焼きついている。
あの日の空気は、今でもこの全身の肌にこびり付いている。
741 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/28(水) 23:03:08.96 ID:jQs1suY2o

部分的には現代にまで引き継がれているも、やはり根本的な部分で異なっている、
強い魔の影響を受けている古代様式。

塔内はしんと静まり返っており、聞えるのは己が呼吸と鼓動だけ。
だが耳に聞えなくとも肌で感じ取れる、この塔に巣くう無数の魔達のざわめき。

何もかもがあの日踏み入った瞬間と同じだった。

そう何もかも―――何もかもが。


レディ「…………」


空気内に微妙に漂う――――――『身内の魔術』の『匂い』までも。


今この塔は睡眠状態にあるか。
稼動していれば壁にはめ込まれた歯車が回っており、
ここ広間の中央には赤い螺旋が刻まれた『芯棒』たる柱が天上まで聳えているはずだからだ。

レディ「……」

なぜこの塔が再出現しているのかはわからず、
一足先にここに入ったダンテの目的もいまいち見当がつかない。
単純にこの塔の頂に行こうとしているのではないらしいが。

この広間の隅ににある最上層までの昇降機が、稼動しているにも関わらず彼が乗った形跡が無いのだ。

彼の痕跡は昇降機に見向きもせず、『始まりの回廊』の方へと続いていた。

単純に上に行くのが目的ではないとなると、次に思い当たるのは―――この塔の稼動か。
それならば地下の『礼典室』に向かい、起動の儀式を行わねばならない。
742 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/28(水) 23:04:28.81 ID:jQs1suY2o

ただ。

ダンテの動向に関しては、今のレディにとっては最優先事項ではなかった。
今彼女の意識が向けられていたのは、『身内の魔術』の匂いだ。

レディ「…………」

なぜこの匂い、感覚を覚えるのであろうか。
同じ系統の術式を扱う誰かがこの塔内にいるのだろうか。


それとも―――あの男が―――あの日、この手で確かに止めを刺したあの男が―――


しかし。

今のところはどうとも言えなかった。
なぜどうやってなんて考えるには材料が少なすぎるのだ。

そもそも疲労のせいで幻覚を覚えていたり、
この異質な塔が『残り香』を保存していただけなのかもしれない。

ひとまずやるべきことは匂いの源を確認し、この悪寒の正体を暴くことだ。
気のせいだったのならば、ダンテに合流して彼の支援に回ればよい。


レディ「……」


そしてもし本物だったのならば――――――もう一度この手で葬るまで。


なぜ死人が蘇っているかなんて詳しい原因究明はその後で良い。
そう、後で良い。


殺した後で、だ。


すばやく頭の中で己のやるべきことを確認したレディは即座に駆けだした。
匂いを辿って広間を横切り、回廊を駆け上がり青い扉へと向かい。

蹴り開けて『始まりの回廊』へと進んでいった。


―――
743 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/28(水) 23:07:51.95 ID:jQs1suY2o
―――

神儀の間の『稼動音』だけが響く重い沈黙。

神域にいた全員もまた、この予想だにしない方向へと加速していく状況を前に、
驚きの念を抱かずにはいられなかった。

ローラ、ジャンヌ、神裂、そしてもちろん―――インデックスも。

アンブラ史上最高の長と謳われるに相応しい器量を有す魔女王アイゼンですらも、
顔からは普段の悠然とした色が失せ緊張が濃く滲んでいた。

バージル『……』

ただ、この超越した二者―――バージルとベヨネッタだけは―――

ベヨネッタ『……』

―――同じく驚きを覚えつつも、一切動じず。

閻魔刀を間に向き合う位置のまま作業を正確に継続。
これほどまでに大きな『想定外の爆弾』が姿を現そうが、
その表情も目の色もまるで変えず不気味なまでに落ち着き払っていた。

神裂「…………魔帝と覇王と……スパーダの力を有している、と……」

果てしなく重い沈黙に耐え切れずといった風に、途切れながらも口を開く神裂。

ステイル経由からバージルへと伝播、インデックスは『本人』から直に知り、
既にここの一同皆が大まかに竜王周りの件を認知していたが、再度確認の意を篭めて彼女はそう告げた。
また、己に言い聞かせ事実として受け入れるための意味もあったか。

インデックスは神裂の手を固く握ったまま、
白亜の床の一点だけを睨むようにしてじっと沈黙していた。
744 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/28(水) 23:12:06.93 ID:jQs1suY2o

その神裂の声からいくばか経ったのち。

アイゼン『……………………竜王か』

ふむ、と手首の腕輪をじゃらりと鳴らしては口元にあて、思い出したように呟くアイゼン。

アイゼン『……よもやあの者にかの力が渡るとは……小賢しい腐れ竜めが』

最下層の人間が奮い立つ頃から数々の故事を目の当たりにし、
竜王と同じ時代も生きてきたこともあってか、一つ二つ思うところを匂わせる物言いか。

ジャンヌ「あの者をご存知で?」

そこを嗅ぎつけて問うジャンヌ。
彼女のその姿には今だに疲労が色濃く見えていたも、
新たな長となった以上いつまでも伏せっているわけにはいかぬとばかりに、地に立つ足には確かな力が篭っていた。

アイゼン『かつて一度のみ謁見した事が……………………ある』

問われたアイゼンは同じ調子でぼそりと。
それだけ言って、仮面の下からのぞく口元を不快気にきゅっと引き締め黙ってしめてしまった。

それ以上、一同は問わなかった。

バージル『…………』

このアイゼンの反応を見れば、聞く必要も無いであろう。
魔女・賢者と人界神の歴史を知っていれば、アイゼンと竜王の間に何があったのか大方予想がつくところだ。

かつて人間界が魔界の次なる標的として脅かされ、最下層の人間達が立ち上がった頃、
魔女や賢者達は徒労に終るとわかってはいても、
懸命に人界神に向け団結して立ち上がるよう説いたと考えられる。

それが招待された席なのか、それとも魔女側が申し出たのかはわからぬも。
きっとかの会見で彼女達はただただ愚弄され侮辱され、その言葉の一切を聞き入れてもらえずに締め出されでもしたのだろう。
745 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/28(水) 23:14:18.92 ID:jQs1suY2o

皆がそのようにして大方の予想をつけていると。

アイゼン『―――最悪だ。最悪だぞ』

今度は弾ける様に口早にそう声を発するアイゼン。

アイゼン『かの竜の行動には一貫性など存在しておらん』

アイゼン『成せばならぬ事案に対しては決して動かず、成してはならぬ事案はあえて成す輩だ』

その声は彼女に似合わずどんどんと熱を帯び。

アイゼン『奴が求めているのは「何らかの結果」ではなく「混沌の過程」のみ』

アイゼン『かの塔を顕現させたのも、そなたら兄弟の反応を誘うためのもの―――』


アイゼン『―――奴はただ楽しんでおるのだ!この戦いを掻き回す事だけをな!』


そして遂には、はっきりと滾りを吐き出した。
彼女はバージルとベヨネッタを睨んでは、彼らに向けるようにして人差し指を立て、
怒りに満ちた声を張り上げた。

この場にいた誰もが目にした事が無い、アイゼンの本気の憤怒が外に漏れた瞬間だった。

長い長い生涯を人間界を守るためだけに捧げ、こうして悪魔へと転生してまで尽くそうとしている気高き魔女王。
長き苦難を耐え越えてきて、今ようやく悲願が達せられようとしている。

そんな時に『これ』である。

3万年の時を越えて、よりにもよってこのタイミング、
更には三神の力を有して人間界の『癌』が復活するとは、これを悪夢と言わずして何と言うか。
746 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/28(水) 23:17:22.31 ID:jQs1suY2o

決して彼女の辛抱が足らないわけではない。

悪魔であろうが人であろうが、己が芯を貫く心がある者が、
この悪意に満ちた不条理に怒りを覚えずにいられぬわけがないのだ。

果てしない器量を有し、万の時を耐え忍び、無数の悲劇を乗り越え、
数々の困難を乗り越えてきた強い意志がある彼女だからからこその仕方が無い憤怒だ。

アイゼン『…………すまぬ。少々血が昇ってしまった』

だからこそ、彼女が感情の制御困難に陥ることも無い。
アイゼンは伸ばした手を再び口元に当て、小さく咳払いしては即座に怒りを制圧し。

アイゼン『さて、どうするか』

次いでバージルとベヨネッタへ向けて問うた。

バージル『……』

対して彼は聞いていないかのように表情を一切変えずに沈黙。

ベヨネッタ『Humm』

代わりにベヨネッタがキャンディの柄を口角で躍らせながら、
肩を竦めては「決まってるでしょ」と目配せ。

そう、これは問うまでもないことだった。
これはアイゼンもわかっており、彼女はあくまで確認の為に問うたのだ。

『段取り』は変わりはしない、とするよりも『変えられない』と表現した方ががいいか。
バージルとベヨネッタは今、取り組んでいる作業からは絶対に手が離せないのである。
747 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/28(水) 23:19:52.35 ID:jQs1suY2o

人間界の時間軸への強引な干渉、セフィロトの樹の切断で『浮遊状態』の人類、
開かれた魔界の大門、そして人間界に迫りつつある『一つ欠けた九強』らに率いられた軍勢。

こんな状況下で作業を一時中断するなど狂気の沙汰であろう。
この状態が長引けば長引くほど、人間界の首が締め上げられていくのだ。

ゆえにまずはこの状態から脱するために、
竜王出現の問題は脇に置いて予定通り事を進めなければならないのである。


そのようにして、これからバージル達が成さねばならない仕事は大きく分けて二つあった。
いや、そもそもここからの二つこそが本来の目的だ。

セフィロトの樹の切断や人間界の時間軸への干渉もそれこそ『準備段階』に過ぎず、
莫大な力の負荷や魔界の侵食から守っているのも、それらの副次的な結果でしかない。
(もちろんこれらの作用も見据え、計画の内に入れていたが)


そうした本命、まず一つ目は魔界の大門の再封印だ。

不完全かつ『老朽化』が激しく崩壊が目前だったスパーダのものに変わり、新たな『錠』を取り付けるという、
人間界の未来を大きく左右するきわめて難度が高い仕事だ。

―――とはいえ。

作業が難しいのは変わり無いが、途方も無く困難というわけでもない。
少なくともスパーダによる『前回』よりはずっと確かで易かった。

なにせ超越した力を有するベヨネッタや、アンブラの魔女の技の何たるかを知り尽くしているアイゼン、
その技術・知識を網羅しているインデックスもいるのだ。

今回は魔女側の全面的な支援を受け、完全な『錠』をかけるための諸々の準備も事前に整っているため、
2000年前の前回にスパーダがやった『応急的』なやり方、
莫大な量の力と魂の欠片を土嚢の様に積み上げるなんて非効率な方法を取らなくても良い。

前もって練り上げられた、緻密な手順通りに作業を済ませれば良いだけである。


一方変わってもう一つの側―――二つ目は、そう簡単にカタがつく話でもなかった。
748 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/28(水) 23:24:26.28 ID:jQs1suY2o

いいや、このような表現は語弊を招くか。
成せる望みが薄い・成功確率が低いというわけではない。

二つ目もまた、周到に準備されて確かな計画が練り上げられており、
バージルの手にかかれば必ず成されると言っても過言ではないものである。

ただ一つだけ、一つ目の作業とは大きく異なる点があったが。


それは―――完遂にはきわめて大きな『代償』が必要となる、という点。



死に絶え冷え切った人間界の力場を―――『生』へと『再点火』するために―――『人柱』が必要なのだ。



バージル『…………』


そう―――『彼』が必要なのである。


魔の冷たき殻の内で、人知れず煮えたぎる激情―――『濃厚な人間性』。
人間界の『重量』を用意に支え内包できる規格外の魂の器。
そしてそれらを如何なる存在の干渉も受け付けない無い強固なものとし、新たな理を刻むに足る超越した力と。


―――果てしなく強き意志。


バージルの他に人間界の火種に相応しき者がいるであろうか。
少なくとも彼自身は、己以上の適任者はいないと考えていた。

無論、ダンテやネロも適任ではある。
彼らでも充分に成せるであろう。
しかし己以上の効果をあげられるかとなれば、彼としては否定的にならざるを得ず。


そしてそのような実際的な問題以前に―――

スパーダという存在と向き合い続け、その影を追い、その意味を常に問い続けてきたこの男が。
スパーダの『長男』であり、次いで『兄』であり『父』であるこの男が。


―――『母』を守れなかった『弱さ』を心底憎んだこの男が―――


―――『弟』と『息子』にこの役を譲るわけが無かった。
749 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/28(水) 23:27:30.26 ID:jQs1suY2o

スパーダですら成し得なかった―――魔帝ムンドゥスの完全なる死が達された瞬間、
彼の魂に巻きついていた鎖が、嵌められていた枷が、打ち込まれていた楔が全て一気に抜け落ちた。

それはあの日から彼の魂に巣くい続けてきた闇、
己が弱さへの比類なき憤怒、己が存在への底無しの憎悪、そして果て無き力の渇望だ。

そうした闇からバージルが解放された時、果たして彼の中には何が残ったのであろうか。
彼自身は『何も無い』とそれまでは考えていたが、実際はそうではなかった。

長き闘争の旅を終えてみると、そこには。


スパーダとエヴァの息子であり、ダンテの兄でありネロの父である―――『ただのバージル』が立っていた。


そんな存在しないと思っていた己の人間性に気付き、彼はいくばかの失念と困惑を抱くも。

創造が生み出したあの戦場が壊れゆく折、
彼は虚無に落ちる寸前に―――弟と息子の手を取り―――そんな己を受け入れることを選んだ。

ダンテとネロの立ち位置を『認め』、
この世界を救ったスパーダの行いを『認め』、その父の意志と母の心を一から理解し直そうと。
そして解き放たれた己、『バージル』という男のありのままの姿を。

そのようにして己がアイデンティティの再探求を行った、
このバージルと言う頭脳明晰な『完璧主義者』が今の結論に至るのは当然ことだった。

陰りが消えた彼の眼が捉えたのは、
さながら鋭い切っ先の上に載せられているかの如き、極めて危険な環境に置かれている人間界。

そう。
スパーダの血に纏わる物語は『終っていなかった』のだ。
魔帝の死は『遺産』の一つが清算されただけ。
天界との関係、封印されている覇王、魔界の大門の錠の老朽化等々、忌々しい遺産はその他にも数多く残っていたのだ。

しかもそれらは全て、突き詰めれば―――太古の昔―――魔界の三神がジュベレウスを倒した事に発端している。


つまりは―――スパーダもこの諸悪の根源の一端であったのだ。

そこへバージルの思考が達したとき、彼はこう一つの結論を出した。


父の『贖罪』と『正義』の戦いは終ってはいないのだと。


2000年前、魔界への反逆によって始まった『スパーダの戦い』は―――まだ道半ばなのである、と。


人間界は未だに―――救われてはいない、と。
750 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/28(水) 23:31:01.16 ID:jQs1suY2o
>>749
修正です。
40行目の
>スパーダもこの諸悪の根源の一端であったのだ。

を↓に。

>スパーダもこの諸悪の根源の一つであったのだ。
751 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/28(水) 23:34:16.73 ID:jQs1suY2o

それこそ彼の導き出した『答え』だった。

父の戦いを継いで成就させること、
それが彼が己が存在とその身に流れるスパーダの血から見出した、『使命』―――『宿命』だった。

ここで彼は己を含め、弟と息子のその存在理由の全てをも理解する。


この『使命』―――『宿命』に気付いたのは、やはりダンテよりもバージルが先だった。
兄が最初に、単独でその意味を理解したのだ。

一方、ダンテは気付かなかった。
バージルが行動を起こし、学園都市で刃を交えてようやくダンテはその存在に気付く。
常にバージルが流れの先を走り、ダンテは『二週遅れ』で後に続くのだ。

だがそんな『消極的』で『受身』なダンテの立場を、
兄は否定するどころかむしろ肯定する。

『それ』で良い、『それ』がダンテの役割だ、と。


ダンテは据え置き待ち受け、寄って来た脅威を真っ向から叩きつぶす『守護者』。
彼は人間性・魔性の両方が完璧に安定している存在。
その使命は人類の前に留まり続け、片時もそこから離れずに永久に守り続けることだ。


一方で己、バージルは弟とは真逆の―――新たな変化をもたらす『扇動者』である。
魔性も人間性も身を焼くほどに猛々しく不安定。
その使命は、留まるところを知らぬ衝動で世界を掻き回し、破壊し、
何もかもを焼き尽くし、その業火の中から新たな世界を鋳造するのだ。


それが『バージル』と言う存在。
彼自身がこの使命に気づく前から、バージルはその責務を常に果し続けてきた。

スパーダの血の力を目覚めさせ、弟の覚醒をもたらし。
フォースエッジの解放と魔剣スパーダの覚醒をもたらし、魔帝ムンドゥスの死をもたらし。


そして―――ネロという『人間の未来』をもたらす。


全てバージルが『扇動』しなければ起こり得なかった出来事だ。
752 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/28(水) 23:36:27.18 ID:jQs1suY2o

バージル『…………このままだ』

柄を握り作業を継続しながら、独り言のように鋭く呟くバージル。

明確に宿命を認識した今でも、その生き方は変わりはしない。
こうして予期せぬ事態が発生しても、己のやるべき事は何一つ変わりはしない。

バージル『作業を継続する』

徹底して刃となり、道化となり、踏み台となり、そして人柱となり。
その『己が死』すらをも余すところ無く『利用』して遣り遂げるのだ。


それがスパーダとエヴァの長子たる使命。責務―――『宿命』。


それが己の『生まれた理由』である―――バージルはそう『理解』した。




―――そのように静かに煮え滾り、自身の信念を貫こうとするこの男を眺めて。

ベヨネッタ『……………………』

同じく柄先に手を乗せている真向かいのベヨネッタは、
正面のバージルすらも認識できないくらいに僅かに、一瞬だけ目を細めた。

それにはこんな想定外の事態に見舞われても、
この計画の要たる彼が一切揺れ動いてはいないことへの安堵が篭められていたか。

だがそれだけではない、一方でもう一つ。

闇の左目を持つ超越した魔女は、今の瞬間のバージルの姿に―――僅かに一縷の『危うさ』を覚えたのだ。
『違和感』と表現してもいいか。

あまりにも直感的で漠然としてて、何が原因なのかは全くわからないが、
その感覚だけは確かにはっきりと覚えたのだ。

何かがしっくりこない。
何かが引っかかる。


何かが―――『歪んでいる』、と。
753 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/28(水) 23:40:39.75 ID:jQs1suY2o

それはとてつもない重圧によって支える柱が軋み、ひび割れ始めているような感覚か。

静かに、しかし着実に。
ゆっくりと首を絞め上げていくかの如く。

この感覚は今に始まったものではない。
始まりは、ネロが魔剣スパーダを『葬った』と知った時からだ。
タイミング的に恐らく、創造、具現、破壊の三つを携えて竜王が復活した瞬間もこの悪寒を覚え。

そしてその復活劇に対するバージルの反応。

一度引っかかってしまうと、何もかもが怪しく不吉に見えてきてしまう。

この蒼き魔剣士が掲げるのは英雄スパーダの意志、それは紛うこと無き『正義』。
バージルはそれを己が使命、宿命として、ただただ成就させることに全身全霊を賭す。



まさに一欠けらの過ちも陰りも無い、完璧なる『正しき行い』―――であるはずなのに。


ベヨネッタ『……………………』

この悪寒は一体どこから湧いてきたのであろうか。
闇の左目を有す魔女とはいえ『人間』、
この世界のあらゆる運命と因果の決算点を迎えるにあたっての武者震いなのか。

それとも―――。


ベヨネッタ『―――アレ』

そんな言い知れぬ悪寒を覚える中、顔色一つ変えぬまま平淡な声で彼女は問うた。

ベヨネッタ『結構厄介そうだけど、どうする?』

ダンテが動いているとステイル・神裂経由で把握しているが、
ではこちらは竜王に対してはどのような姿勢を、と。

バージルは答えた。

バージル『…………「幕引きの時」となっても依然存在していたならば』

相も変らぬ、ベヨネッタ以上に淡々とした声色で。
それでいながら。


バージル『俺が狩る』


氷結の下に焼き付きそうな熱を微かに覗かせながら。
754 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/28(水) 23:43:03.84 ID:jQs1suY2o

ベヨネッタ『…………』

そう、『今のバージル』ならば、創造・具現・破壊の統合体に対してもかなりの効力を有しているであろう。

スパーダから受け継いだ破壊と刃を有し、更にその刃には完全稼動状態の『時の腕輪』。
かつて父が行ったのと『同じ手法』で創造を打ち破ることが可能である。


そう、『同じ手法』で―――『同じよう』に。


創造と非常に良く似ている具現も同じくスパーダが行ったように打ち破れる。
それにダンテと、今や図りようの無いバージルの息子―――
もしかすると父や叔父を越えてしまっているのかもしれないネロもいる。

単純な総力もジュベレウスの因子も、全てにおいて決して劣っているわけではないのである。

この三者の手にかかれば、三神の力の統合体を打ち倒す事が可能だ。
それでも足りぬのならば―――闇の左目を有す己も出でれば良い。

ベヨネッタ『……』


―――とここで『また』だった。

バージルの示した見解と、それによって至ったこの己の考え。
そこに彼女はまたもや同じような悪寒を覚えたのだ。

何かが違うような。
何かがズレているような。


『正しい』はずなのに―――どんでもない『間違い』を犯しているような。


ベヨネッタ『…………』


絶対的位置にいる観測者は人知れず、たった一人。
その妖艶で不敵なマスクの下で困惑し―――『迷い』を抱いていた。


―――
755 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/28(水) 23:43:36.16 ID:jQs1suY2o
今日はここまでです。
次は30日の夜中に。
756 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/28(水) 23:43:49.40 ID:ecPY9EKco
いったい何に気づいたというのか
おつおつ
757 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/28(水) 23:53:59.14 ID:SFK1fAbvo
乙です。あー・・・スパイラル思い出した。
758 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/29(木) 02:21:59.61 ID:0arszdBq0
なんか人間界の器に上条竜王さんも当てはまりそうだな〜なんて思ってみたりもした。
とりあえず乙乙!
759 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/31(土) 02:00:37.14 ID:7FbKCjqDo

―――

ダンテはふと思案気に喉を鳴らした。

そこはテメンニグル内のとある一画、
床の大きな一部がそのまませり上がるタイプの昇降機の上。

がこりがこりと響く重々しい機械仕掛けの駆動音の中、彼は何となしに首を傾げ、
背中にリベリオンと交差する形で携えている魔剣に問うた。

ダンテ「ルドラ。こいつらは『本物』だな?」

床に散乱している『砂』を軽く爪先で掃いながら。
先ほど木っ端微塵にしたヘル=プライド達の残骸だ。

ルドラ『本物だ』

すかさずダンテの背から言葉を返す、本体である剣のみになっている風を司る大悪魔。
あの巨躯では屋内行動にいささか難があるため、この大悪魔は一先ず傀儡たる肉体を消していた。

ダンテ「…………Humm」

それを聞いて再び意味深に喉を鳴らすダンテ。
この塔とここにいる悪魔達が創造・具現で生み出された存在なのか否か、それがふと気になったのだ。

確かに『創造』から創られた存在は『本物』と呼べる存在であるが、
彼が気になったのはそのような意味ではなく、

いわゆる『オリジナル』かどうか―――つまりこのテメンニグルの塔が以前訪れたものと同一かどうか、という点だ。
760 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/31(土) 02:02:08.75 ID:7FbKCjqDo

それに対してのルドラの回答は、
まず悪魔達についてはオリジナルであるらしかった。
無論、それはダンテも『触感』でわかっていたため、この問いは確認の意が強かったが。

その上で、彼は続けて問うた。
両手先のギルガメスをぎちぎちと蠢かせて、トリッシュから預かっているルーチェ&オンブラを、
ギミック付きの仕込み拳銃のように動かして調子を確かめながら。

ダンテ「この塔は違うよな?―――『半分』」

ルドラ『うむ。存在基盤はオリジナルではあるが、表層は複製されたものだ』

ダンテ「…………」

すなわちこのテメンニグルの塔という存在オリジナルではあるが、
『今の姿』は創り直されたものである、ということだ。

まあそれもこの塔を外から見た段階で大方予想がついていた。
以前テメンニグルの党が起動した際、『芯棒』が伸びたおかげで外縁部が大きく崩れてしまっていたのだから。

あれがそのまま再顕現したとすれば、非稼動状態で『芯棒』が収まっていたとしても、
その外見は大きく変わっていたはずであろう。

しかしこの通り、再顕現した塔はあの日最初に目にした姿そのまま。

トリッシュ『―――しかもその表層、あなたが核になっているわ』

続いて、繋がりの向こうからのトリッシュの声が捕捉した。
体は事務所デビルメクライにありながらも、彼女の意識はダンテのところまで伸びて同化し、
その『インテリ頭脳』でダンテとはまた違うアプローチで状況を分析してくれるため大助かりだ。


トリッシュ『これは具現の作用なのかしらね。「像」はあなたの記憶に依存しているみたい―――』
761 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/31(土) 02:06:15.16 ID:7FbKCjqDo

ダンテ「へぇ」

これらの点はある重要な事柄を指し示していた。

この塔内、この空間、この位階は今―――

―――リアルタイムで『創造』と『具現』の力が働いているということだ。

具現がダンテの記憶に侵入し巣食って、過去の像を実体として引き出し、
創造がそれを『彼だけの幻想』ではなく他者も触れられる『完璧な現実』にする。

しかも『塔だけ』ではなく『塔が出現する』という一連の事象を丸ごとだ。

ゆえに、『オリジナルの塔』も『その塔が出現した』という『既成事実』に引っ張り出される形で強引に顕現させられ、
より存在を強めるための土台となったわけである。


そしてこの点は、視点を変えれば―――今このテメンニグルの塔は、
『存在』だけではなく『事象』すらも現実化する効力に包まれている、と言えるかもしれない。


すなわち何かに対して強い感情や意志を向ければ、
もしかするとそのイメージが『丸ごと』―――『実体化』するのかもしれない、と。


ダンテ「―――なるほど。もしそいつが本当に可能なら、ピザの出前も自由自在って訳だ」

トリッシュ『―――さあ、どうかしら。具現が捕えるのは恐怖とかの負の衝動だと聞いてるし、何を実体化させるか決めるのは竜王次第だろうし』

トリッシュ『まあ、とにかく精神に付け入られる隙を作らないようにね』

トリッシュ『あなたが自分の恐怖に呑まれることはまず無いでしょうけれど。アホみたいに図太いし』

ダンテ「OK」

トリッシュ『あ、ただ竜王は今のところはまだ力を持て余してるみたいだし、』

トリッシュ『もしかするとあなたの意思が自動で反映されてピザが現れるかもしれないわよ』

ダンテ「ん、要はピザを心底怖がるか、憎めばいいってことか?」

トリッシュ『多分ね。難しいと思うけど。あなたが怖がるよりも、ピザが怖いって人探したほうがまだ現実味があると思う』
762 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/31(土) 02:09:31.92 ID:7FbKCjqDo

状況分析の合い間、そんな風に念話している内に、
ダンテを載せた昇降機はがこんと一際大きな音と響かせて上層に到着した。

そこは『天照す天文の間』と呼ばれるやや広めの空間だった。

広間の向こう、昇降機に乗ってきたダンテの向かいには橋状の通路が伸びており、
その一本橋を挟むようにして、両脇には煌びやかな歯車群がせりだしていた。

トリッシュの『アドバイス』を聞いたダンテはハッと小さく笑うと、
その細い通路へ向けて歩をゆるりと進めながら。

ダンテ「ルドラ。お前ピザ怖くないか?」

ルドラ『怖いわけがあるまい』

ダンテ「だよな」

背にある魔剣に問い、次いで―――。


ダンテ「お前らの中にピザが怖いって奴いるか?」


正面、歯車群に挟まれた一本橋や、梁の上にちょうど出現した―――三体のヘル=スロースに向け問うた。
手には血錆びた大鎌、細身長身に纏うは白いぼろきれといった姿の『死神』は、
耳障りな咆哮と共に勇んで出現したも。

そんなダンテの出会い頭の奇妙な問いで一瞬、戸惑った様子を見せた。

ダンテ「ま、そりゃそうだな」

ただそんな奇妙な空気も束の間のこと。


ダンテ「気にすんな―――OK、始めようぜ!!」


彼が両手両足のギルガメスを激しく打ち鳴らして、
たんっと軽く跳ねるようにして構えたのを合図に、『死神』達は何事も無かったかのように再び咆哮を上げ。

そして『狩り』が始まった。
763 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/31(土) 02:11:56.60 ID:7FbKCjqDo

ダンテ「―――Yeeeeeah!!」


開幕の狼煙は―――ダンテの強烈な突き。


ちょうど一本橋の入り口を塞ぐ位置にいた中央のヘル=スロースに向け、
ダンテは一瞬にして距離を詰めてリベリオンの切っ先を叩き込んだ。

白銀の刃は死神のちょうど胸の中を貫き、
赤い閃光と衝撃を纏ったダンテは更に勢いそのままで突き進み―――この死神を橋先奥の扉に磔にした。

そしてこの悪魔にとっての『血飛沫』である砂と真紅の光の衝撃波が混じる中、
彼は軽く喉をならしては不敵な笑みを浮べて。

ダンテ「―――Hey! What's up, Amigo?!」

目の前で何やら叫ぶ死神へ、ここでようやくの『真っ当な挨拶』。
この悠久の地の『古い馴染み』の悪魔共へ向けた再会の言葉だ。

ただそれは―――相手の悪魔にとっては、同時に『死の宣告』の意味合いも含まれていたが。

死神を磔にしているリベリオン、その刃をダンテは引き抜こうとはせず、
それどころかパッと柄から手を離しては―――腰を落とし、拳を両脇に添える姿勢で構えて。

次の瞬間。


ダンテ「―――Are you ready?」


この哀れな死神へ向けて、極悪な連続拳を繰り出した。
764 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/31(土) 02:13:23.59 ID:7FbKCjqDo

『砂』で肉体を構築している悪魔が磔にされ殴打を浴びる、
文字通りの『サンドバッグ』といったところか。

一瞬にして壮烈な猛打の嵐。

どっしりと構えたダンテから左右交互に繰り出される―――凶悪な拳。


ダンテ「―――Ho! hu! hu! hu! ha! huuuha!-ha-ha-ho!―――」


それが槌のように死神の体にめり込むたびに、
ダンテの力との相乗効果でより凶暴になっている―――衝撃鋼ギルガメスから放たれる『爆圧』。

目も眩む閃光が瞬き、漏れた余波がこの区画どころか塔全体へと伝播し、悲鳴の如き地響きを奏でていく。

しかも『それだけ』ではない。
ギルガメスのインパクト直後、一拍遅れのタイミングで―――魔弾も放たれるのだ。

ダンテの力を帯びたこれまた凶悪な魔弾が、今しがた砕かれた部位をこれでもかとぶち抜き抉り飛ばす。

更にその発砲の反動で拳の引き返し速度も上乗せされ、連続拳がますます加速。
拳が重ねられるたびにより激しく凶悪的に勢いを増していくのである。

ギルガメスの白い光と魔弾の赤き閃光が混じり輝き、立て続けに重ねられた爆轟によって、
この哀れなヘル=スロースは特技の『瞬間移動』も発揮できぬまま、
成す術なく無残な『ぼろきれ』へと姿を変えてゆくしかなかった。

ただ。

この個体は特技が発揮できなくとも―――そのフロアにはもう二体いたが。


ダンテに他二体がようやく彼に刃向けれたのは、
彼の神速のラッシュがちょうどクライマックスに差し掛かっていた頃だった。
765 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/31(土) 02:14:42.40 ID:7FbKCjqDo

一体がダンテのすぐ背後に瞬間移動。
その大鎌を大きく振り上げて、悲鳴の如き咆哮を放って出現し。
同時に更にもう一体が、彼の頭上に同じように現れた。

狭い橋の端にて背後と頭上を塞がれる、まさに逃げ場の無い袋のネズミといった状態か。
しかし。

この男に対してそのような策が効果があるか否かは―――自明の理であろう。


後方からの大鎌は結局振り下ろされることが無かった。


その前に、この二体目の死神の頭部が―――。


ダンテ「―Yeeah!」


―――砕かれていたのだから。

ダンテの振り向きざまの回し蹴りによってだ。
ギルガメスのインパクトの閃光、そして瞬く凶悪な魔弾の赤き光。

背後のヘル=スロースは砂を撒き散らしながら、橋の柵に激しく叩きつけられた。
しかしこの個体の悪夢はそれだけには終らず。

ダンテ「Ya-Ha!!」

更に続けざまに、素早く身を捻ったダンテによる容赦の無い―――回し蹴りがもう一発。

その鉄槌の如き蹴りと柵に挟まれた哀れな二体目は、
格子に押し付けられられて『なます切り』状にぶち切られ。

結局、その衝撃に最後まで耐え切れなかった柵と共に木っ端微塵に砕け散った。
766 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/31(土) 02:16:30.27 ID:7FbKCjqDo

ダンテはそこから更に続けて、コート靡かせ流れるような動作で、
歪み飛び出した格子の一本に足掛けてはくるりと身を翻して。

ここで三体目。

上方から跳びかかって来ていた死神に向け―――オーバーヘッドの蹴りを叩き込んだ。

これまた轟く凄まじい閃光ととてつもない衝撃。
その爆圧に弾かれて、ひしゃげた死神の体が吹っ飛ぶ―――ところであったが。

ダンテはそれを許しはせずに、そのまま脛と爪先で引っ掛ける形で引きずり落し。
踏みつけるようにして着地、そこから更なる追い討ち―――

これもまた一切の容赦なく―――激しく『踏みつけ』潰した。
ギルガメスと踵からの魔弾が重なり、彩り豊かに強烈な激音を奏でていく。

締めは膝を上げてからの一際強い踏みつけだ。

ダンテ「You gone!」

ダンテは踵を斜めに打ち降ろし、
この哀れな死神を蹴り掃い―――砕き散らしてその魂を刈り取った。

そうして彼はここでやっと振り向いては、
一体目を磔にしていた斧が剣の柄を取り。


ダンテ「―――Night-night. Baby」


目玉無くとも、おぞましい憤怒と見て取れる死神の虚空の眼孔へ、薄く微笑を投げかけて。
引き抜くと同時に斬り掃った。
767 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/31(土) 02:19:08.75 ID:7FbKCjqDo

三体のヘル=スロースの塵が周囲を舞う中。
ダンテは一度、砂埃を掃うようにリベリオンを振るっては、背にかけなおして。

ダンテ「ルドラ。俺とバージルが二度目に戦った場所覚えてるか?」

もう一方の魔剣へと問うた。


ルドラ『―――礼典室か』


ダンテ「塔を起動するにはあそこいけば良いんだよな?道順は覚えてるか?」

ルドラ『うむ。だが単に礼典室に行くだけならば、前回通りに進まなくてもよい。近道がある』

ダンテ「そいつぁ良い」

ルドラ『彷徨える禽獣の間から外縁部の地下水路に降りればよい』

ルドラ『その流れに沿うと地底湖に着き、双児橋と地下闘技場を抜ければ礼典室に到達する』

ダンテ「彷徨える……どこだそれ」

ルドラ『ギガピート共が巣食う回廊だ』

ダンテ「あの『大ムカデ』か。それなら覚えてるぜ」

彼は背の魔剣とそう話し合わせたのち、
扉を抜け邂逅せし災いの広間の中層へと歩を進めた。

そこから彷徨える禽獣の間は、回廊を通り、
黄色い大扉と深遠なる奈落の間を抜けた先にあった。
768 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/31(土) 02:21:42.38 ID:7FbKCjqDo

マント靡かせ、風の様に駆け僅かな時間でその目的の場、
彷徨える禽獣の間へと到達するダンテ。


そこはこの塔の外縁に沿う形で、弧を描くように伸びる巨大な回廊だった。


幅は20m、天井までは50mはあろうか。
外側は柱が並び立ってアーチ構造の梁を連ねており、その向こうには広大な地下空間が闇の彼方まで広がっている。

しかしそれだけ広くとも回廊の外を流れている地下水脈のせいか、空気はひどく湿っぽく、
薄暗さと相まってきわめて陰湿な空間を形成していた。

更にこの場の不快感の素はそれだけではない。
内壁には繭のような『白い何か』が広範囲にこびりついており、
酸かなにかで溶かされたような、直径10m近くもの穴があちこちに穿たれているのである。

穴の奥は、まるで地獄の底まで繋がっているのではと思わせるくらいに遥か先まで闇に満たされており、
生ぬるい風と共に鼻が曲がりそうな腐臭が漂ってきていた。

ダンテ「ここだな」

ルドラ『うむ。柱の隙間を降りて少しのところに地下水脈がある』

端の高台から、広大な回廊を一望するダンテ。

するとその時―――虫のものに似た―――奇怪な咆哮が回廊の中に轟いた。


ルドラ『ここの住人共も目を覚ましたようだ』


そう、ここは魔界の『大ムカデ』―――ギガピートの巣。

大きく成長した個体は、並みの大悪魔を越えるほどの力を有していることもある危険な魔獣が、
縄張りに巨大な力を有した存在が侵入した事に気付き、
そして抗えぬ憤怒を抱かせるスパーダの血族の匂いに誘われ、巣の奥から這い出て来ようとしているのだ。
769 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/31(土) 02:24:03.59 ID:7FbKCjqDo

咆哮の主は、待つまでも無くすぐに姿を現した。
ちょうどダンテが立っている高台の下の穴から出現したのだ。

『宙を泳ぐムカデ』、まさにその表現が当て嵌まるおぞましい巨躯。

その長い長い体が、彼の足下を流れていくかのように進んでいく。

ダンテ「おーおー、相変わらずのゲテモノだな」

彼はそんな魔獣を見下ろしては、大げさに顔を顰めて。
軽く跳びあがり。


ダンテ「その格好は少しばかり―――女ウケが悪いと思うぜ!」


上方から、そのムカデの頭部へ向けて一気に降下し―――飛び蹴りを叩き込んだ。

ギルガメスと魔弾の二段撃を受け、いくつもの亀裂が刻まれるギガピートの外殻。
その隙間から、この大ムカデの咆哮と共に黄土色の生ぬるい体液が飛び散っていく。

その頭の上で、ダンテは背の二本の魔剣を手に取り、
今しがた蹴りこんだ亀裂へと更に突き立て―――たその時だった。

ギガピートが突然その身を捻ったのだ。
それによってダンテの体は、あえなく振り落とされてしまった。

ただ、もちろんしがみ付いたままでも軽く跳んで再び着地することもできたが、
これはこうして振り落とされるまでがダンテにとっての『お約束』である。

ギガピートの側がどう思っているかは知ったことでは無いが。
770 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/31(土) 02:29:18.14 ID:7FbKCjqDo

ダンテ「―――Oops!」

振り落とされ、床に着地しては大げさなリアクションをするダンテ。

ギガピートの頭には依然二本の魔剣が突き刺さったままだが、
この魔獣は電光の尾を引きながら素早く宙を泳ぎ進み、またトンネルの一つに入っていってしまった。

さて、ここからどのようにして魔剣を回収するか。
別に回収自体は全く難しくは無い。
ルドラは彼が肉体を解放すれば良く、リベリオンは召喚すればそれだけで戻ってくるのだから。


だがそんなやり方は―――『つまらない』、とダンテは一蹴する。


ダンテが提示しているのは、どのようにして―――『楽しく』―――魔剣を回収するか、という問題だ。

独創性豊かで『イカれてる』彼の思考は、このような状況下でも一切鈍らずに貪欲に稼動し、
新たな『楽しいやり方』を模索し―――思いつく。

その名を呼ばれ出現するは―――。


ダンテ「―――ゲリュオン!!」


―――蒼炎の如きたてがみに、ラピスラズリのような肌をした―――巨大な騎馬。

虚空からいななきと共に駆けるようにして飛び出し、
蒼き光を放ちながらダンテの傍へと降り立った。

主、ダンテはその巨大な騎馬の背にひらりと飛び乗っては、どうどうと足で軽く背を叩き。
手綱を大きく引っ張って―――どこかのカウボーイよろしく掛け声を放つ。


ダンテ「HaHa-Ha!!―――Hi-yo Silver!!」


―――すると声に応じ、蒼き騎馬が一気に駆け出し、飛び込んだ。


―――超拡大された『時間の回廊』の中へ。
771 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/31(土) 02:32:54.31 ID:7FbKCjqDo

俗に大悪魔同士の戦いにおける相対的な『速度』とは、
言い換えれば『己と周囲世界の時間軸』への『干渉強度』である。
その神域の力で理を歪め、己の時間軸を周囲世界や相手よりも更に拡大、それが『加速』となるのだ。

特にこの大悪魔―――ゲリュオンは、その方向にずば抜けて秀でている一柱である。

その力は、まさに魔界の中でも『最速クラス』としてもよいか。
そしてそんなゲリュオンの性質が、ダンテという規格外の『ターボエンジン』によって更に―――『加速』する。


ダンテ「―――Ha!!!!」


最強の『エンジン』が搭載された魔馬が、超拡大された時間軸を疾駆していく。

ギガピートを追いトンネルに飛び込み、その空洞の天井を逆さとなって駆け。
追いつくどころかこの魔獣が気付かぬ速度で追い越し―――。


抜きざまに、騎手たるダンテが二本の魔剣の柄を取り―――あえて『引き抜くことなくそのまま』追い越していく。


そうしてある程度進んだところで、
ギガピートにも認識できる程度にまで速度を緩め、その頭の前を悠々と駆けた。

この大ムカデからするとそれはそれは奇妙な出来事であったであろう。
後方の回廊に置いてきたと思った相手が、目の前に何でもなかったかのようにいるのだから。

ただ、大ムカデにそんな風に驚愕する水準の知能があったとしても。

己が頭に刺さっていた二本の剣がなぜあの男の背に戻っているのか、
なんて点にまではどの道思考が回らなかったであろう。

そんな暇など与えられなかったのだ。

ダンテが振り向き、不敵に笑いながらパチリと指を鳴らした瞬間、
ここでタイミングよくリベリオンとルドラによって『掻っ捌かれた筋』が表面化して。


ギガピートの頭が『三枚おろし』となったのだから。
772 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/31(土) 02:39:36.35 ID:7FbKCjqDo

そうして大物獲りを終えたダンテは、軽く流すようにゲリュオンを駆けさせ、
トンネルを抜けて彷徨える禽獣の間へと戻った。

ダンテ「―――どうどう!!」

ひらりとその背から飛び降りるダンテ。

すると、久々に主に呼ばれて興奮しているのであろう。
魔馬は落ち着き無く足踏みをし、巨大な頭部を下げて息の荒い鼻先をダンテの背へと荒々しく押し付けて始めた。
そんな使い魔を横目に見て、ダンテは宥めるように右手を差し出して。

ダンテ「少しは良いがあんまりドロドロにするなよ。ギルガメスが不機嫌になっちまう」

そう言葉を投げかけた。
主の声を受けた途端、魔馬はその大きな口を開け、
蒼炎を吐きながら己が忠誠を確認するかのようにその主の腕を舐め始めた。

そうして使い魔を慣らす傍ら、ダンテはこの彷徨える禽獣の間の外縁部、
柱向こうの広大な闇の空間へと視線を向けて。

ダンテ「そこを降りていきゃ、水路があるんだな?」

ルドラ『うむ。流れの先が地底湖に繋がっておる』

と、その時であった。


突然―――この広大な回廊に―――第三者の甲高い笑い声が響き渡ったのは。


「―――Yo-Ho!!」


きわめて軽薄で不気味な、うなされた夜の夢にでも響いてきそうな笑い声が。


「おンやまあ!これはこれは、しばらく見ないウチにズ〜イブンっと大きくなったねぇ!」


そう、『誰か』にとっては紛れも無い『悪夢』である声が。


         Devil boy
「―――『デビル坊や』」


―――
773 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/31(土) 02:41:28.37 ID:7FbKCjqDo
今年はここまでです。
次は来年の4日か5日に。

よいお年を。
774 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/31(土) 02:43:24.65 ID:ggFrUIADO
ジェスターキターー(・∀・)ーー!!
775 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/31(土) 02:46:04.31 ID:cLNe/VnFo
乙乙乙!
776 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2011/12/31(土) 08:19:23.10 ID:IRzKzymy0
>>762
(`Д´)キシャー(~Д~)ウガー(-Д-)キエー


ダンテ「お前らの中にピザが怖いって奴いるか?」


(゚Д゚)(゚Д゚)(゚Д゚)ピタッ


( ゚Д゚)(゚Д゚ )(゚Д゚ )


( ゚Д゚)( ゚Д゚)(゚Д゚ )


(゚Д゚;)(゚Д゚;)(゚Д゚;)ポカーン


こんな感じの情景が思い浮かんだぜ…
777 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2011/12/31(土) 09:31:38.53 ID:H++U3PFoo
お疲れ様です。
この終盤のテンションでジェスターはうざい・・・多段RIかましたくなるな・・・
今年も素晴らしい作品をありがとうございました。良いお年を。
778 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2011/12/31(土) 09:59:37.09 ID:EXyAtR25o
お疲れ様でした
779 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2011/12/31(土) 13:39:48.38 ID:rKY2vaZ30

俺たちの友達ジェスターさんじゃないか!
来年もよろしくな
780 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2011/12/31(土) 14:00:58.86 ID:v+5xWJCZo
更新お疲れ様でした。
よいお年を。
781 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2011/12/31(土) 18:54:57.22 ID:ITR+TH4h0
今年一年>>1も読者のみんなもお疲れ様でした乙乙乙(´ω`)ノシ
782 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2011/12/31(土) 20:43:54.00 ID:3/x8pQAg0
お疲れ様です
783 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2011/12/31(土) 22:54:39.45 ID:lF+q3XMAo
SSにおけるできる>>1、俺の知ってる限りじゃここだけだぜ
784 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/01(日) 10:50:57.04 ID:u1Mzjc/P0
あけましておめでとうございます。
今年もイカれたパーティーをよろしくお願いします。


785 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/01(日) 19:26:57.33 ID:hILB39o30
あけおめえええええええええええ
786 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/01(日) 22:38:26.93 ID:FZj/yci10

読んでたら久々に3やりたくなってきた
787 :以下、あけまして [sage]:2012/01/04(水) 19:59:18.46 ID:DHU/1vFIO
3やりたい

>>783
4日間淡々とSSを投下し続けて童貞作で600〜700レス程埋めて嵐のように去って行った奴はすごかった
788 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/06(金) 11:14:08.87 ID:OmjrQP5DO
復活したか
789 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/06(金) 14:24:30.99 ID:SvaC75QDO
復活!鯖復活!
790 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/06(金) 17:28:59.72 ID:Elt/a6tIO
創造と具現で復活させた
791 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県) :2012/01/06(金) 17:47:25.23 ID:NPNLT3Nd0
更新無いと思ってたら鯖落ちてて貼れなかったのね
792 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/01/06(金) 17:53:29.95 ID:ciGGqwCLo
なんで鯖落ち……

>>787

一日でいいの、だったっけ?
793 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/06(金) 21:06:30.38 ID:OmjrQP5DO
>>790
竜王さんマジかっけぇッス!
794 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/07(土) 01:16:58.40 ID:P2ng+G84o

―――

一方通行はふと意識の一部を周囲から離して、
脳内に響いてきた声に向けた。

エツァリ『聞えますか?』

恐らく通信機器とミサカネットワークを介しての音声であろう。
その音には少々ノイズが混じっているも、程度は一般的な無線通信とほぼ変わらずの良好なものだった。

一方『あァ』

彼はそっけなく声を返した。
『天の艦隊』の中の一隻、ひどく損傷しては血みどろとなり今にも轟沈しそうなその甲板上から。

そこは学園都市の界上にて展開されている虚数学区。

眼下に広がるはオリジナルと瓜二つの陽炎の街、頭上に広がるは白金の光に満ちた天の門。
そしてその中間の大空で繰り広げられていたのは壮絶なる空中戦だ。


数に任せて押し寄せる無数の天使、それら天の軍勢をたった二人で迎え撃つは―――人界の神と天使。


人界の神たる少年―――船の上にて一瞬足を止めた一方通行の視線の先の空を、
人界の天使たる少女―――風斬氷華が、煌く雲海を紫電の尾を引いて切り裂いていく。

彼女から伸びる『雷翼』が周囲の雑魚天使を群れごと薙ぎ払い、手に持つ光剣で行く先々の船を寸断。
さながら巨大な稲妻が縦横無尽に迸っている光景だ。
795 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/07(土) 01:20:12.10 ID:P2ng+G84o

一方『なンだ?』

そんな壮大な彩りの中、一方通行は口早に先を促した。

エツァリ『こちらの状況はラストオーダーからも逐一報告は送られてきているでしょうが、一応当人の口からも。芳川さん』

芳川『寄せ集めの出来合いだけど、なんとか設備は整えられたわ。これからシステムを立ち上げる』

一方『時間かかるのか?』

芳川『ラストオーダー達がいるし、三分以内に済ませられると思う』

一方『頼ンだぜ』

エツァリの言葉通り、打ち止めからも彼らの動向の詳細がリアルタイムで流れてくるが、
これまた彼の言う通り芳川の言葉も聞いておくに越した事は無いであろう。

一方『それとラストオーダー!この音声通信の回線も常に開いておけ!』

打ち止め『まかせて!』

一方通行は手早く話を済ませては掃討戦を再開した。

一時の足場にしていたその船を粉砕しながら跳び出し、
紫電の天使で彩られていた煌びやかな大空を、今度は底無しの黒墨で蹂躙していく。


涼やかに吹き抜ける天使の雷翼とは異なり、
黒い翼はさながら火砕流のように押し寄せては天使の一群をすり潰し焼き払い。

カマイタチの如き斬り掃う天使の光剣とは異なって、
漆黒の手が砲弾のように獲物を貫いては荒々しく引き千切る。

風斬の立ち回りが『舞』ならば、一方通行のものは『獣』そのものと言えるか。
果てしなく壮絶で暴虐的で、魂と血を貪り狂うかのごとき戦い方だった。
796 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/07(土) 01:22:14.13 ID:P2ng+G84o

しかしそれほどにまで破壊と殺戮をばら撒いても、天使の数は一向に減りはしなかった。
むしろ減るどころか増え続けてきているか。

開幕の時と比べれば、下ってくる軍勢の規模は目測でも五倍を優に超えている。
周囲の一群を丸ごと潰しても、その先には比べ物にならない数の天使達が『雲海』を形成して押し寄せてくるのだ。

一方『チッ―――』

頬から口角にかけて付いた生ぬるい天使の血を、少し舐め取っては彼は舌を鳴らした。

このままのペースで天の軍勢が増え続けると、
今のまま防衛線を維持するのがきわめて難しくなる、ということが明らかだったのである。

学園都市に漏れた天使達を狩っているステイル達の動向もまた、
打ち止めから逐一送られてくるが、その天使達の出現頻度も規模も急速に拡大しつつある。
つまりは天の軍勢の増大に比例して、ここで己と風斬が打ち漏らしている天使の数も増えてきているのだ。

狩り続けていれば天の軍勢の増加もいつかは頭打ちとなり、
一転して減少していくはずなるはずと一方通行は予想していたが。

実際にこうして身を投じていると、その『頭打ちのライン』がまるで見えなかった。

それこそ、殺したはずの天使達がその場で―――再蘇生して湧き出してきているよう―――


―――と、彼がそんな突拍子も無い戯言をふと思ってしまったちょうどその時。


『これ』を突拍子も無い戯言と断じた彼を嘲笑うかのように、
現実がある『物証』を突きつけた。
797 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/07(土) 01:24:10.72 ID:P2ng+G84o

眼前の船の上に現れる、一体の巨人天使。
斧槍を手にしたあの格上の天使だ。

彼は一目するや、これまでと同じように手加減なしの全力の一撃を叩き込むべく、
一気に距離を詰め―――そして至近距離まで達して、その天使の顔を肉眼で―――捉えた瞬間。

一方通行は一瞬その動きを止めてしまった。

巨人天使の彫像のような顔面、それを歪ませいる大きな『傷』に目を奪われてしまったのだ。

それこそ巨大な杭でも突き刺さったかのような―――そう、例えば己の翼の穂先などで―――


―――そして彼は気付いた。


この天使の顔の傷は他でもない、己の翼の穂先が穿ったものであると。
なぜならば。



一方『―――ッ!!』



歪な傷跡の淵に―――僅かに己の力の残り香があったから。

次の瞬間、一瞬の隙を見逃さなかった巨人天使の一振りによって、
彼の意識は側頭部から大きく揺さぶられた。
798 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/07(土) 01:27:21.68 ID:P2ng+G84o

一方『カッ―――!』

意識の隙間、不意を付かれて叩き込まれる強烈な一撃。
響くは頭痛にも似た、奥底まで浸透してくる鋭い痛み。

それは今の一方通行からすれば、
前もってしっかりと認識さえしていれば少し打ちつけた程度の痛みで済んだはずの一振りであった。

にもかかわらずこれほど内にまで衝撃の到達を許し、
骨でも折れたかのごとき苦痛に苛まれてしまった原因、
つまり眼前の刃から意識が離れてしまった原因は、やはりこの信じ難い『物証』―――


―――『殺したはずの個体』が、目の前に再び現れているという現実だった。


強烈な一撃で、大きく横へと倒れるようにねじれる一方通行の体。
そこから伸びる黒翼の根を、足場の船から跳んだ巨人天使がすかさず掴み取り。

もう一方の手に持つ斧槍を掲げて、一方通行の顔を覗き込むようにして何やら口走った。

くぐもった声で発されたのは、天界の言語とやらであろうか。

声を音として理解は出来なくとも、今の一方通行の知覚ならば、
言霊に乗っていた意図は充分に読み取れるものであった。


その内容は掻い摘んで言えば『ついさっき殺されたお返し』、『顔を見知った上での怒り』だ。


そうして再び振り下ろされる斧槍。

だが今度ばかりは彼も無防備ではない。

驚愕的な現実を突きつけられて刹那の隙を許してしまったも、
彼は一瞬にしてあの『獣』染みた戦闘態勢へと立ち戻っていたのだから。


一方『―――るせェ!!』


即座に身を転回させては、振り向くようにして翼を掃い振るい、
振り下ろされてきた斧槍の柄をへし折って。

続いたもう一枚の翼が巨人天使の上半身を薙ぎ払い、彼はこの個体を『もう一度』屠った。
799 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/07(土) 01:31:13.84 ID:P2ng+G84o

そうしてすぐさま宙で体勢を立て直しては、
これまで通り翼で雑魚の群れを打ち掃いながら、彼は声を放った。

一方『ラストオーダー!!今の見たか!?』

打ち止め『ミサカじゃあなたの知覚速度に追いつかないけどデータは見てるよ!!なんで?!なんで生き返ってるの?!』

なぜ生き返ったのか。
なぜ殺したはずの個体が、あのように万全の状態で再び現れたのか。

一方『―――クソッ!』

その原因究明も確かに重要だが―――それ以上にこの事実はある重大な問題を叩きつけていた。


もし殺した個体が、今の天使のように蘇って再びこうして出撃きているのなら。


この軍勢の規模は増えはしても―――減るわけが無いのである。


殺しに殺し続けていればこの増大もいつかは頭打ちとなり、
最終的には天使の数も尽きるはず、そんな考えを大きく改めなければならない。

つまりはこの場での戦い方を根底から変えなければならないのだ。

風斬はもちろん、己だってスタミナは無限ではなく、戦い続ければいずれはガス欠となる瞬間が訪れる。
雑魚の群れへ放つ一振りだって、どれも手加減なしの本気のものであるため、
その積み重ねの消耗もとても無視できるものではない。


一方で天界の軍勢は―――『蘇られる』となれば。

現状の持久戦では、勝算がきわめて乏しくなってしまうのは明らかではないか。
800 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/07(土) 01:34:30.38 ID:P2ng+G84o

瞬時に状況を分析し、そこまで思考が至ったところで。

一方『ラストオーダー!アレイスターに聞け!!奴なら何か知ってるかもしれねェ!!』

彼はそう、原因の究明に関してはそちらに預けると打ち止めに声を放ち、
その返事を待たずに続けて。


一方『―――カザキリィ!!』


鮮やかに舞う天使へと呼びかけた。
すると天使はピタリと宙で静止、その紫電の翼で雑魚を掃いながら、
纏う莫大な力には似つかわしくない、いたって普通の女子高生である肉体を彼の方へと真っ直ぐ向け。

風斬『はい!』

一方『こいつらは不死身かも知れねェ!』

風斬『は―――はぃ?!どういうことですか?!』

一方『詳しくはラストオーダーからデータを貰え!俺はこれから「上」に乗り込む!!』

風斬『―――う、上?!』


一方通行が至った戦略転換は、蛇口から毀れ出たのを受け止めるのではなく、
蛇口そのものに詰め物をしてしまおうというものであった。

天使達は『無尽蔵』かもしれない、そんな事実を仄めかす物証が目の前に現れた以上、
ここで受身で防戦一方に甘んずるのではなく、
攻めに転じて軍勢を天の門の奥に押し戻し、可能ならばその奥まで突き進み源を叩き潰すのだ。

それに天の本土に侵入して大暴れすれば、学園都市からいくらか天の意識が逸れることも望めるかもしれない。
801 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/07(土) 01:37:24.21 ID:P2ng+G84o

一方『オマエはここで戦え!!』

風斬『わ、わかりました!』

当然、風斬はいまいち腑に落ちないといった面持ちを浮べていたも、
それでも一方通行の決定にはひとまず頷きを返して、
再び飛び交う稲妻となり『舞』を再開した。

それを横目に一方通行は一度、弓の弦を絞るかのように翼達をしならせて。
次いで、放たれた矢のごとく天上へと向けて飛翔していった。

天使の群れをいくつも薙ぎ払い、光に満ちた雲海を切り裂きどんどんと上昇。
白金の空に黒墨の一筆を引いて昇って行く。


天の門、いや、この場合は天界へと続く回廊とでも言うべきであろう。

通常の人間界の空間上ならば、成層圏を越えて中間圏にまで達している高度でも依然、
この白金の空は遥か上方まで続いており、天使の群れも延々と伸びている。

さながら金色の滝を昇っている光景か。
それも一つ一つ粒子が天使である、50km以上もの高さを誇る天の滝だ。

まだ先は長い、そう考えた一方通行は更に加速し。
滝を縦に斬りさばき、その崩れた流れの欠片を翼で『拾って』は押し上げ戻して、
上へ上へとどこまでも昇って行く。

それこそこの滝の始点、そして可能ならばその『水流』の源まで、と。
802 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/07(土) 01:39:36.77 ID:P2ng+G84o

そうして上り続けてしばらくのこと。

どれだけの時間が経ったか、いや、今の一方通行のその力は時空をも歪める神の領域であるため、
それにここはまず『普通の人間界』ではない事は確実であるため、
ごくごく人間的な感覚で時間経過を見積もるのは意味を成さないであろう。


とにかく彼が猛烈な勢いで飛翔し続けていたある時。


一方『―――ッ』


『それ』が現れた。


『それ』とは『赤い光の塊』。

隕石、いやまさに『光線』と称してもいいくらいの勢いでその閃光が降下して来、
そして猛烈な速度ですれ違い、一瞬にして間に下方へと消えていったのだ。


しかも途中、伸び広がっていた一方通行の翼を易々とぶち抜いてだ。

黒翼は、無数の雑魚の受け皿として数kmにまで渡って伸びていたとはいえ、
それでもあの巨人天使程度の攻撃ならば傷一つつかないほどの強度がある。

だが。

たった今すれ違った『赤い天使』は、
そんな翼を半紙でも貫くかのように一切の抵抗無く貫通していったのである。

だがそんな事象も、彼が別の知覚で同時に捉えたある情報を鑑みれば、
別段不思議なことでもなかった。


答えは単純、あの『赤い天使』は規格外の力の持ち主だったというだけだ。
あの巨人天使や蛇のような天使もまた他とは一線を画していたが、今の赤い天使はそれらとも遥かに『次元』が違う。


一方通行の知る悪魔と並べれば、あのケルベロスと互角かそれ以上か、そう―――あれは神の領域の存在だった。
803 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/07(土) 01:41:43.36 ID:P2ng+G84o

一方『チッ―――!』

無数の雑魚を押し戻すことばかり頭にあったせいで、
これまた不意を付かれた形になってしまったか。

意識の隙を一点集中で突破されたのだ。

下には風斬がいるが、果たして彼女が今の赤い天使を処理できるであろうか。

かなり簡単な目算だが、力の総量は互角辺りと考えられた。
しかし戦闘技術や意識、精神がより洗練されていれば―――難しい、最悪の場合は歯が立たない可能性も。

となればここで一端引き換えし、この手で『赤い天使』を確実に屠り、もう一度この回廊を昇るか。
今度は強者も突破できないように慎重に―――。

と、彼の思考がそこまで瞬時に至るが、実際のところこの段階ではもう選択の余地など無かった。
なにもかもタイミングが悪かったのだ。

すれ違った直後、急に周囲が晴れ渡って開けたのだ。
彼は天の門を遂に抜け切ってしまったのである。


一方『―――!』


その先に広がるは、一瞬前までは「まだか」と焦がれていたかの地、
だが瞬きする間に姿勢は一転、今は「もうか」と忌む―――天界だ。

ここまでの回廊もかなりの広さがあったが、
ここで到達した空間はとても比べ物にならないほど広大だった。
804 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/07(土) 01:44:57.21 ID:P2ng+G84o

煌く白金の光に満たされている、淡青の大空。

人界で言うところの大地らしきものは無く、代わりに『空とぶ島』ならぬ『空とぶ城塞』とも言うべき、
巨大な構造物が雲海の合い間のあちこちに浮かんでいた。

それも前後左右はもちろん、上も下も遥か彼方まで連なってだ。

と、そこで下方を見てもやはり大地は無かった。
肉眼の限界をこえて超越した知覚で覗いても、探知できるのは無数の『空とぶ城塞』の網だ。

もっとも、大地が無いのはこの位階だけなのかもしれない。

単一階層である人間界が特異なだけで、
基本的に魔界もどの世界も多重階層の構造が当たり前、更に階層ごとに別世界のようにそれぞれ違うと、
前に土御門から耳にした事があるからだ。
(ただその土御門も又聞きしたことだと言っていたが)

と、観光的視点で周囲を見るのはここまででいいだろう。
それ以上、この異界の景色に気を配る暇など一方通行には無かった。


無論、引き返してあの赤い天使を狩ることもできない。


上下左右、あらゆる城塞の上には、今にもこちらへと群がろうとしている無数の天使達がおり。
その空とぶ城塞の間にある雲海も、実は全て天使の群れであったのだから。

視認できだけで、その数はこれまで天の門を越えてきた規模の数百倍にも達しているか。

更にその向こうにも延々といるであろうから、
もはや数を概算することすら馬鹿馬鹿しくなってくる。
下で戦っていた数は、まだまだ氷山の一角だったわけだ。
805 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/07(土) 01:47:25.36 ID:P2ng+G84o

一方『―――』

ここで引き返すと、
この『本隊』が己の後を着いてきて下まで降りてしまうことも考えられる以上、
一方通行はもう退けなかった。

それに天界側の門の入り口という、現状で考えられる最も戦略上優位な場所に陣取れたのだから、
みすみす捨ててしまうわけにもいかない。

更にこうして敵方の本土に食い込んでいけば、
あの不死身・蘇生の真偽と、その原因を究明し突破できるきっかけを掴めるかもしれない。

これらの点だけでも、
ここが『己の主戦場』と彼が腰を落ち着かせるに充分な理由であった。

また、先ほど抜けていったあの赤い天使の件も、彼は驚きはしたが特に焦燥はしていなかった。

確かに実力は未知数ではあるも、風斬もこうして下を任せられるくらいに充分に強く、
更にその下の学園都市にはアグニや、かの赤い天使よりも確実に強いであろうイフリートもいるのだから。

つまり、あの赤い天使だけで学園都市が陥落することはまずないのである。


そう、あの『一体だけ』ならば、だ。


今のところ学園都市の防備は安定している、と彼は認識しながらも、
頭の片隅では常に一定の『疑心』とも言える、否定的なもう一つの視点を維持していた。

なにせ何が起こるかわからない、己自身の存在も含め、現にここまでも意表をつかれるような事態ばかりだ。
知覚するもの全てに警戒し疑いかからなければならない。


神の領域では、『有り得ないこと』なんて『有り得ない』のだから。


一方通行が挑発するように大きく翼を広げた瞬間。
これまで以上もの、絶大な規模の天使が彼へと向かってきた。

―――
806 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/07(土) 01:49:58.60 ID:P2ng+G84o
―――

学園都市、窓の無いビル。

その『窓の無い』という冠はもはや返上しなくてはならないであろう。

北側の壁には、穿たれ破られた大きな穴が開いており。
東西の二面にいたっては完全に崩れ落ち、
冬の風が吹き抜ける『野外』と称してもよい空間になってしまっていた。


その瓦礫散らばる一画にて、幾人の人間かがせわしなく動いていた。

ラフな部屋着の上に白衣をかけただけの芳川、瓦礫に毛布をかけてその上に座っている打ち止め、
そしてジャッジメントの腕章に中学の制服という格好の初春に、
血が滲むワイシャツ姿のエツァリだ。

魔術を行使して身体能力を底上げしているエツァリが、様々な機器をあちこちから運び込んできては、
芳川の指示のもと並べられて、初春が手早くセッティングをしていく。

更に芳川は指示をする傍ら、手にある携帯端末越しに打ち止め・ミサカネットワークと、
虚数学区の状態を簡易ながらも逐一モニタしているという、なんとも忙しい空間だ。

そのあまりの忙しさに、初春もエツァリも額に汗を滲ませていた。
もともとイフリートが近くにいるおかげで、ここは冬どころか初夏並みの気温であるため、
より一層彼らの体温を高めてしまっているのである。
(もちろん一般人でもこの場に居れるよう、これでもイフリートは限界まで力と熱の放出を抑えているが)

無論、そのような状況で汲み上げられたために機器は整理整頓など一切なされておらず、
少し気を抜くと一歩目で足が引っかかるであろうというほどに、大量のケーブルが縦横無尽に床を走っているなど、
辺りは雑然としていた。
807 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/07(土) 01:51:24.32 ID:P2ng+G84o

と、その時であった。
瓦礫の上に静々と座っていた打ち止めが、
突然何かに驚いたかのような声を放ったのは。

一同がふと手を止めて彼女を見やると、幼い少女はなんとか取り繕っては。

打ち止め「い、いま芳川の端末に表示するから!」

打ち止め「ってミサカはミサカはちょっと理解できないことを見て心臓が止まりそう!もちろん悪い意味で!」

そうして芳川の端末に表示されたのは、一方通行が遭遇したある事柄の要約。
『殺したはずの天使が即座に蘇って戻ってきた』という、とても信じたくは無い内容が示されていた。

芳川「……!」

エツァリ「―――……っ」

芳川は表情を凍らせると、
これは専門外とばかりに小さく顔を振りながらエツァリに見せたが。
魔術師であるエツァリにとっても、これはとても判断がつかない、
如何なる推測すらもも立てられない事案であった。

そこで彼は即座にこめかみに指を当てて通信魔術を起動して、
より詳しいであろう人物へと呼びかけた。


エツァリ「―――ステイルさん。重要なお話が。すぐにこちらに来て頂けないでしょうか」

808 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/07(土) 01:54:13.15 ID:P2ng+G84o

元々近くにいたのであろう、それからステイルが現れたのは僅か10秒後であった。
彼は、何も言わずにエツァリが差し出した端末を手にして覗き込むと、芳川と同じように表情を硬直させて。

次いで今度は彼女と異なり、
怒りにも見える熱をその瞳に宿らせては、イフリートの方へと歩き進み。


ステイル『アレイスター。これについて何か知っているか?』


その炎の魔人の足元にて俯いている男へと、敵意に滲んだ声を放った。
彼の顔の下に端末を放り落としながら。

すんなりと求める答えが聞けるだろうか、否、アレイスターから望む言葉を引き出すのは至難だ。
と、この時まではステイルもこう考え、場合によっては拷問、
更に神たるイフリートによって精神汚染してもらい、情報を強引に引き出すことも手段の一つとして頭にあったが。

アレイスター『……知っているとも』

存外、この男は素直に答えてくれた。
あの自信に溢れてたアレイスターとは別人なのではと思えてしまうくらいに、
抜け殻の様にぼそぼそとか細い声であったが。


アレイスター『…………セフィロトの樹によるものだ』


ステイル『それはおかしいね……セフィロトの樹は先ほど切断されたのだが』

その言葉を聞いて、ステイルは目を細めては探りを入れるように返した。
するとアレイスターはこう続けた。


アレイスター『今は繋がっていないとしても……』


アレイスター『三万年かけて人間界から吸い上げ、溜めに溜め込んだ膨大な量の「魂」が彼らにはある』
809 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/07(土) 01:59:27.07 ID:P2ng+G84o

ステイル『―――…………っ』


アレイスター『―――なぜ魔女が、四元徳を殺しきらずに煉獄に落とし封印したか』


アレイスター『完全に殺してしまえば、奴らは「貯蔵している魂」を使って復活するだけだからだ』


ステイル『復活……』


アレイスター『ひどく傷付いた悪魔が復活するには、己の巣に潜み長き時をかけて治癒を待たねばならない』

アレイスター『また魂が完全に破壊されてしまったら、悪魔はその時点で滅ぶ。復活は不可能だ』

アレイスター『だが奴らは違う。「替え玉」を揃えているのだからな』

アレイスター『ひどく傷付いても治癒を待つ必要は無い。思念さえ存続してれば、魂はいくら砕かれても替えが聞く』

ステイル『………………』

アレイスターの言葉に疑う余地など無かった。
神裂越しに得られる、魔女側の情報とも完全に合致する話だ。
それに元々、人間界から吸い上げた魂を己達の強化に使用しているとは聞いていた。

そう、これが人間界という『牧場』の存在が、ジュベレウスの復活だけではなく、
圧倒的な魔界に抗うため・そして天界内を完全掌握することにも必要だった理由の特に大きな一つであり。

人間界から吸い上げた魂の具体的な『用途』である。
個々の刃と力を増強するのみならず、ジュベレウスの名の下に集う軍団に不死身性をも与えるのだ。

そしてこの『貯蔵庫』の存在こそ、
武力においてもジュベレウス派が天界内で絶対的頂点に君臨している理由でもあろう。

ジュベレウス派は何度でも死ぬことが可能だが、
彼らに反旗を翻した者達は支援を切られ、一度死ねば終わりの身になってしまうのだから。
810 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/07(土) 02:01:54.01 ID:P2ng+G84o

ステイル『その話が事実だとして…………奴らは何度でも復活できるのか?』

驚愕と絶望の色を混じらせながら、ステイルは言葉重く問うた。

アレイスター『いいや。貯蔵も無限ではない。限りがある』

ステイル『何回だ?』

アレイスター『わからない。一度限りか、十回か、千回か、それとも億回か。だがとにかく上限があるのは確かだ』

アレイスター『それに、力の増強にも惜しみなく使っているようだからな。その分も復活回数は削られているだろう』

ステイル『………………』

一同が彼のここまでの言葉を理解し、受け入れるには暫しの時間が必要だった。
エツァリは思案気をさすり、芳川はそんなエツァリとステイルを交互に見やり、
そもそも話に一切付いていけない初春は困惑の表情を浮べて。

そうしてアレイスターの頭上で、イフリートが難儀だなとばかりに喉を慣らした時。


アレイスター『……急いだ方がいいのではないかな?』


ぼそりと再び彼が呟いた。

ステイル『何のことだ?』


アレイスター『今頃大いなる「列柱」が一つ、既に虚数学区まで侵入しているだろう』


アレイスター『もちろん、そのジュベレウス派の恩恵を授かってる身でな』


そうか細く言葉を続けるアレイスターの前、膝元にあった端末には、
この不死性の件に次いでとある別の事柄が表示されていた。


一方通行が天の回廊内ですれ違った―――ある『赤い天使』について、だ。

―――
811 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/07(土) 02:04:21.06 ID:P2ng+G84o
―――

それは文字通り入れ違いだった。
一方通行が天へ向けて飛翔した直後、その天空の門から猛烈な勢いで降下してきたのだから。

赤く輝く、強大な天使が。


風斬『―――!!』

その勢いは、反応しなんとか身に受けないように防ぐだけで精一杯だった。

彼女がその降下してくる強烈な気配に気付き、直感的に紫電の光剣へと全力を注ぎ、
振り向きざまに掲げたのとほぼ同時に―――赤い光の塊が、彼女の刃に激突したのだ。

その圧たるや、
まともに受けていたら一撃で致命傷になりかねないほどのもの。

風斬『―――くぅッ!!』

弾かれ一気に虚数学区の街中にむけ叩き落されるも、
宙で体勢を立て直して彼女は何とか軟着陸を成功させた。

そうして煌く紫電の翼が、電空音を打ち鳴らしながらゆらめく中。

風斬『……!!』

彼女は真っ直ぐ正面を睨みあげた。
穏やかな顔立ちでも充分に迫力が感じられるほどに鋭く。

そんな彼女の視線の先、30mほどのところには、
一泊遅れてこの大通りに降り立った―――あの『赤い天使』が悠然と立っていた。
812 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/07(土) 02:08:27.57 ID:P2ng+G84o

光の塊としてしかその姿を捉えられなかったのは、
どうやらその真紅の翼達で身を覆っていたからなのであろう。

鮮やかな翼が一度大きく振るわれては、綺麗にたたまれていき、
ようやくこの天使の姿が露となった。

風斬『……』


その格好は、人間界のものに例えるならば―――古代ローマの軍装に良く似ていたか。


身長3mほどの彫像のような白亜の体に纏っているのは、翼が変じた重厚なマントに、
高官が身に着けていそうな筋骨隆々とした胸板を模した豪奢な胴鎧、

頬宛と大きな『たてがみ』の飾りがついた兜に、全身を隠すことも用意であろう大盾。

そしてそれらから輪をかけてローマ的だと感じさせていたのは、装具類が全て赤を基調としていたからだ。
それも赤とは言えど目に五月蝿くない、落ち着きと深みのある色合いが、
より上品で高貴な空気を醸している。

ただ一つ、ローマ的ではないと感じられるものもあったが。
それは右手にある―――身長ほどもの大剣だ。

古代ローマ風に言わせれば技術も糞も無い、『力任せの野蛮人』の武器である。

風斬『…………』

ただ実際に、この目の前にいる天使が『力任せの野蛮人』ではない事は明らかだった。

息の詰まるような緊張を焚きつけながら、微動だにせず静かにこちらの様子を観察しているその佇まい。

そこには、冴え渡る機知と洗練された技量がこれでもかとばかりに滲み、
一方で具体的な意図を一切読まれないよう、
発する力や圧の根底部分を曇らせるしたたかさも兼ね備えているという、正当な武闘派でありながらの『曲者』だ。
813 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/07(土) 02:10:53.30 ID:P2ng+G84o

風斬『(この人……すごくやりにくい……)』

それが彼女の第一印象だった。
これまでの天使のように、我武者羅に向かってきてくれたほうがどれだけ戦いやすいか。

動きを一つでも誤れば、気付くと死んでいたなんてことも有り得るであろう相手と、
こうして読み合いし出方を伺うなんて。

ただ幸いなことに、この相手に専念する余裕はある程度与えられているようだった。

一方通行が抜けていてからは、天界の軍勢の出現量は急激に減っていたのである。
彼が門内を押し上げて行ってくれたからであろう、いまや空高く漂うカラスのように、
多くても十数程度の群れがちらほらと現れる程度だ。

風斬『ふぅっ―――』

この緊張に身を慣らし切り替えるべく、
溜め込んでいた息を吐き、次いで大きく吸い込んだちょうどその時。

情報元はエツァリかステイルか、
打ち止め・ミサカネットワーク経由で、彼女の意識内にこの赤い天使の情報が伝達されて来、

今から刃を交える相手の名を、彼女も知るところとなった。


眼前の赤い天使―――『彼』は『神を見る者』、『神の正義』、『破壊と罰を与える者』とも呼ばれ。
そのあまりの勇猛っぷりと強さに、悪魔的な二つ名まで多くある戦士であり。

そして将としての多くの軍団への指揮権に加え、
直属に14万4千の私兵を従える、セフィロトの樹の守護を担う強大な一柱。



その名は――――――『カマエル』。



風斬が光剣を握りなおし、左足を後ろにずらしては半身となり構えると。

構えるもまた大盾を突き出し、その背後で全身を覆い隠すように身を屈め、
盾の上辺に大剣を長槍のように乗せた。

互いに自己紹介などしなかった。
いや、する必要も無いであろう。
これは『決闘』ではなく、『戦争』の中に生じた―――単なる『殺し合い』の一つに過ぎないのだから。


次の瞬間、ほぼ同時に二者が前へと踏み切り。


『天使同士』の斬り合いが始まった。


―――
814 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2012/01/07(土) 02:12:04.85 ID:P2ng+G84o
遅れましたが明けましておめでとうございます。
今日はここまでです。
次は月曜に。
815 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/01/07(土) 02:17:37.54 ID:FBIFtVUZo
復活キツイ…絶望的だが人間のもがく姿は熱ぃっすな乙!
816 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/01/07(土) 02:34:39.27 ID:JQ2B23pz0
年明けから相変わらずの切迫した感じ 乙です。
817 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/01/07(土) 02:52:49.36 ID:DTbXWmY/o
どこまで盛り上がれば気が済むんだ

>>792
「ゾンビの平沢」ってやつ
一日でいいのは読んだことな
818 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/01/07(土) 05:17:57.07 ID:3xNt7VKd0
今年も楽しませてもらいま乙乙乙!
819 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/07(土) 07:19:05.50 ID:W5004HNA0
乙乙乙!
今年もスタイリッシュで何よりだぜ!
820 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/01/07(土) 07:31:23.99 ID:JFBB6kF7o
お疲れ様でした
821 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/01/07(土) 08:58:59.25 ID:4c8/vRKXo


サマーウォーズのウサギが敵の大群に一人で突っ込むシーンと一方通行が重なったのは自分だけだろうか……
822 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/07(土) 10:13:36.42 ID:KDCTlwASO
場違いなの分かってて書く。

子供にも良く分かる幻想殺し(竜王の胃袋)の仕組み

Q:幻想殺しは呪いや結界は簡単に打ち消せるのにどうしてただの力の塊はすぐに打ち消せないの? 竜王の胃袋は無限じゃないの?

A:力の量がデカすぎて処理するのに時間が掛かるから。だからスパーダ一族並の力の塊をぶつけられたら処理する前にすぐ死ぬ。

Q:意味がよく分からない。それと人間界をも食べちゃう竜王がどうして魔帝は食べれないの? 抵抗されたら無理って言われてるけど…

A:いくら大食いの人でも、無理矢理口の中に大量の食べ物入れられたら吐き出すだろ。
口の中で生き物が暴れたら食えないだろ。

Q:簡単にまとめて。

A:竜王は早食いと踊り食いが苦手。
823 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/01/08(日) 00:20:22.38 ID:qsRG7qeFo
お疲れ様です。噂をしたロダンさん責任とってください。
824 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/08(日) 07:33:55.52 ID:sZuzfzEDO
乙乙乙
ジュベ勢を殺しきるにはスパーダ一家の「破壊」が必要なのかね。
825 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/08(日) 08:46:46.94 ID:APR9kPmI0
ここまで風斬が真剣勝負を繰り広げるSSが他にあっただろうか
826 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府) [sage]:2012/01/08(日) 09:58:40.49 ID:BPuFcz6Io
魔界や天界は別世界として、人界の広さってどれくらいなのかな?
地球と月くらいか、太陽系か、それとも銀河系や別銀河系も含まれるのか
827 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(徳島県) [sage]:2012/01/08(日) 19:11:20.05 ID:OjKkSQg60
もう宇宙空間で闘えよって言いたくなるよなwwwwww
828 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2012/01/08(日) 20:22:37.13 ID:2ao45Ta7o
宇宙なんかなかったんや
すべてはNASAの捏造やったんや!
829 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2012/01/08(日) 21:00:28.51 ID:tH/yvtfKo
>>825
まずこんな熱いSS他にないよ
830 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/10(火) 02:54:48.12 ID:+94TzkIko

―――

ダンテの顔から、彼のトレードマークとも言える軽薄な色が潜んでしまう状況というのは、
大きく分けて主に二つのパターンがある。

一つはまず家族やそれに比する近しい者達に関係する問題だ。
とは言ってもよほど切迫した場合で無い限り、彼の軽々しい態度は消えはしない。

だがもう一つのパターンの場合、
それは彼にとってまさに『劇薬』と称しても過言ではない作用を有している。
その状況に置かれた瞬間、一瞬にして彼の調子は冷え切ってしまうのだから。

そして今、ダンテはまさしくそんな只中に置かれていた。


ダンテ「……………………」


己よりもずっと軽薄で―――遥かに『お喋り』な者に遭遇という、最も気乗りしない状況の中に。


得てして不快な物事というのは、いつまで経っても克明に記憶しているものだ。
広大な回廊の中に響くこの狂気染みた笑い声の主を、
ダンテは聞き覚えがあるどころか昨日の事のように覚えていた。

耳障りな声を耳にした途端もはや反射的といった具合に、彼は目を細めて、
あからさまに不機嫌な面持ちでむっと口を尖らした。

彼に同じく、脇にて蒼い巨馬ゲリュオンもまた鼻息荒く不快気にいななく。

「―――それにしても本当にごリッパになっちゃって。す〜っかりオトナじゃないか。今じゃアッチの方も余裕たっぷりテクニカルかな?」

次にその声が聞えたのは、耳元すぐ近くであった。

ダンテ「…………」

振り向き目に捉えなくとも、その容姿も身元もすでに知っている。


『娘』と同じオッドアイを有する―――魔に堕ちた魔術師。

どう見ても人間のそれではない槍のように突き出ている長い鼻に、
濃紫色の道化衣装に身を包んでいる『この状態』の名は―――『ジェスター』だ。
831 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/10(火) 02:57:10.16 ID:+94TzkIko

不快気にだんまりを決め込むダンテを更に挑発するようにして、ここでようやく、
道化はその姿をダンテの視界の中に現した。

ジェスター「―――おやおやおやおやムッツリしちゃってどうしたンだい?」

いちいち癪に障る挑発的な立ち振る舞いでダンテの前へと躍り出るジェスター。

ジェスター「こうして冥土からお友達がはるばる再会しにきたってのにお口チャックはイタダけないぜ」

ジェスター「んん?『アレ』のし過ぎで舌でも無くしたのかい?ちなみに『アレ』ってのは今じゃ当然わかるよな?」

そうしてダンテの反応など鼻から待たずに捲くし立て、
これまた挑発的に一人でげらげらと馬鹿笑いをする。

ダンテ「…………」

まさにあの頃と寸分違わぬ、間違いなくあの『クソッタレのピエロ』そのものであった。
その姿や調子といった表面的なものだけではない、この肌に覚える感覚から声に宿っている濁った思念まで、
何から何までもが在りし日と変わらない『本物』だ。

そう。


あの日に完全に魂そのものを砕かれ『完全に滅んだはず』の男が、こうして目の前にいたのである。


ダンテ「…………」

この事実だけである部分が確定する。
この男は確かに本物ではあるのだが―――。


トリッシュ『彼は「本物」じゃないわね』


オリジナルではない、と。
今日ここまで遭遇してきたこの塔の『普通の住人達』とは違う―――この道化は創造と具現の産物である、と。

道理も因果も捻じ曲げられ、歪められた現実の中に出現した、
存在するはずの無い『影』であるのだ、と。
832 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/10(火) 02:59:20.68 ID:+94TzkIko

そこまで考えが及んだところでダンテとトリッシュは、
共にふとある推論に達した。

この道化を蘇られた源は具現が捕えた負の感情であろうが、それの出所はダンテではない。
確かにダンテも並々ならぬ嫌悪を抱いてはいるも、決して尻尾を巻いて逃げたくなるようなものではない。

むしろ進んで何度でも叩き潰してやるといった塩梅だ。

では誰か、とそこでわざわざ思索を巡らす必要も無いであろう。
これは明らかだった。

トリッシュ『レディね』

ダンテ「……」

間違いなくレディだ。
この男にありとあらゆる負の感情を抱く『娘』。
そしてここまで分析が至ったところでもう一つ、二人はある別の推論をも導き出す。


この男の存在基盤の源がレディならば―――と。


そこでダンテはそれら推論の確認のため、
手早く腕のギルガメスを稼動させてはそこにある拳銃を握り。


ダンテ「わざわざ化けて出てきてくれたところ悪いが」


口早にそう、一切の笑みを含まずに吐き捨てて。


ダンテ「―――『今回』はお前の案内は必要じゃあない」


道化の鼻先に銃口を押し付け、相手の反応を待たずに引き金を絞った。

ただ、確認のためとは言うが、この方法を選んだ動機の割合は、
単にムカついただけというものが大部分を占めていたが。
833 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/10(火) 03:02:25.38 ID:+94TzkIko

この男に向けて銃撃した事は初めてではない、
以前であった当時に、むしろそこらの悪魔よりもかなりの数を撃ち込んである。

ただし、それら雨あられと放たれた弾丸の大半はこの道化に掠りもせず、
彼は狂気染みた笑い声と共に悠々と踊ったものだ。
元々当時は、ダンテの側もそうして意地悪く小突く意図もあったが。

しかし今はまるで異なっていた。
ダンテの側にはそんな遊びの意図は微塵もなく、それ以前に彼の力は、当時よりもずっと強大になっていたのだから。

次の瞬間、道化は少しの回避をとることも叶わずに。

凶悪な魔弾にその頭を貫かれては木っ端微塵に吹き飛ばされ―――首のない体が、
硬質な床に何度も打ちつけられながら大きく後方へと吹っ飛んでいった。

と思ったのも束の間、15mほど吹っ飛んだところで突如、首のない体が軽やかに高く跳ねてはくるりと宙返り。
その宙返りから見事な着地を決める間に、失われた頭部はすっかり元通りになっていた。


ジェスター「フゥー!やっぱり―――」


そうして道化が笑い混じりにそう声を漏らしたところでまたもや唐突に。



「―――あの頃のようにはいかないか」


突然フィルムを切り替えたかのように、男の姿は道化のそれから切り替わっていた。

その風貌は、皺一つ無い黒の神父の服に身を包んだスキンヘッドの長身の男。
道化時との共通点はオッドアイくらいか。

ダンテ「……」

これもまたダンテは知っていた。


これこそこの男の真の姿であり、この場合の名は―――『アーカム』。


アーカム「一発の鉛玉にまで、時を経て成熟し洗練された力が顕著に表れている」


調子は一転、まさに道化時と対極か。
落ち着き払った佇まいに、尊大で仰々しくも静かで聞えによい声色と、
ダンテの調子を狂わせる要因は全て取っ払われているか。


ダンテ「―――ハッハ。なあに。あの頃だって当てようと思えばいつでも当てられたぜ」


キャラクター性の重複を解消した事によって、
自然と不敵な調子と薄笑いが戻っていった。
834 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/10(火) 03:06:51.47 ID:+94TzkIko

そうして軽口を吐く傍らも、分析もしっかり欠かさないダンテ。
今の確認作業は成功だった。

この一発で、己とトリッシュの推論が正しいと決定付けるに足る情報が得られたのだ。

手加減無しの魔弾を打ち込み、確かに命中したも、当のアーカムにはダメージの跡が一切無い。
このような現象はダンテは何度か見覚えがあった。
魔帝との戦いの中で、彼が使っていた創造の作用と非常に似ていたのである。

単刀直入に結論を言うと、アーカムはこうしている今も恒常的に、
その存在は具現と創造の力によって維持されているのだ。


言い方を換えれば―――具現と創造が機能している限り『不死身』、か。


いや、厳密に言えば完全に不死身というわけでもないであろう。
具現に関する己とトリッシュの解釈が正しければ、具現・創造を止めるほかにもう二つ、
アーカムを再び冥土へ叩き返す方法がある。


それはこの『存在の源』、『影の光源』たる―――レディを殺すか。


もしくはレディ自身がこの『負の感情』の象徴たる存在を真っ向から制し、
アーカムという男を心に留めぬ存在にまで除けられるか、だ。

ダンテ「…………」

トリッシュ『全く……そこにイマジンブレイカーがいてくれれば、色々と捗るのだけれど』

意識内で響くトリッシュの声に、ダンテは頷いた。

レディを殺すという選択肢はまず無く、
上条当麻がいない以上、竜を倒すまでは創造と具現の効力は持続する。
となると、レディ自身の手でこの男を消し去ってもらわねばならないのだが。

レディならば成せるとダンテは確信はしているが、
それはそては困難な試練で、最悪の場合彼女自身も大きな犠牲を払ってしまうかもしれないか。

なにせ現にこうしてアーカムが現れている事が、
この男の影が今も彼女の中にどれだけ色濃く染み付いているかを物語っているのだから。
835 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/10(火) 03:08:57.63 ID:+94TzkIko

アーカム「力のみならず、機知もまた相応になったようだな。気付いたか」

そんなダンテの分析を悟ったのか、アーカムは小さく嘲笑的に喉を鳴らした。
対して普段の調子を取り戻したダンテは、
脇で猛るゲリュオンを宥めながら言葉を返す。

ダンテ「まあな。それにしても趣味が悪いぜ。よりによってお前なんかを蘇らせるとは」

アーカム「いいや。あの高慢で愚劣な竜は、私がこうして現れることは意図していなかったようだ」

アーカム「私は誰に求められることも無く、自律稼動している具現と創造によって予期せずしてこの舞台に招かれたという訳だ」

ダンテ「へえ。竜のことも今の状況も知ってるのか?」

アーカム「知っている。顕現の際にどうやら私は知識と記憶を与えられたようだからな」

ダンテ「なら話は早いな。今はお前が死んでからもうずいぶん経つんだぜ」


とここでアーカムは一歩。
今のダンテの言葉を遮るかのように踏み出しては。


アーカム「いいや。正確に言えば、この私は『死んではいない』」


やや声色を強めてそう口にした。
この返答だけでは、ダンテは彼の声の意図を掴みかねたが。


アーカム「『この私』はお前達兄弟に敗れる直前の私―――『死ぬ前の私』だ」


次いで放たれた言葉で、
アーカムが何を言わんとしているかを即座に悟った。
836 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/10(火) 03:10:48.90 ID:+94TzkIko

トリッシュ『なるほどね』

同じくして理解したトリッシュが相槌を打つ。

ダンテ「…………」

このアーカムは彼の言葉そのままの通り、『あの日あそこで討ち倒される前のアーカム』なのである。

具現はご丁寧にも、レディがもう己は付いていけぬと悟り、
父を止めてくれとダンテに思いを託した瞬間のこの男を、
彼女の絶望や恐怖、無力感が頂点に達した瞬間のアーカムを引き出していたのである。

まさにタイムスリップしてきたとでも例えられるか、
つまりこの目の前に存在しているアーカムには、野望砕かれ命落とした『事実』は『無い』のである。

ダンテ「……本当に悪趣味なこった」

アーカム「奇妙なものだ。お前達の刃に敗れ、我が娘に止めを刺された記憶はあるにもかかわらず」

アーカム「『私』はそれを『まだ』体験してはいない、とはな」

と、そんなアーカムの感慨話なんざ知ったこっちゃないとばかりに、
ダンテはぱんっとゲリュオンの鼻先を叩き。

ダンテ「それはそうと」

こともなげに、世間話のような調子でこう問うた。


ダンテ「ところでお前は、今は何をしにここにいるんだ?」
837 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/10(火) 03:13:10.30 ID:+94TzkIko

とはいえこの疑問の答えに関しては、
ここまでの分析やアーカム自身の話を踏まえれば大方予想がつくものであった。

それはわかっているだろう、といった風にアーカムも口角を歪めて薄い笑みを浮かべ。


アーカム「最終的な目的は当然『同じ』だ。あの頃とな」


やはり、といった具合か。
これは明白であったと言ってもよいものであった。

『あの日スパーダの息子達に破れる前のアーカム』なのだから、
その胸の内も同じなのは当然だ。

そしてこのアーカムの目的が何だったのかもダンテは良く覚えている。
悪の大玉が考えるような、よくあるパターンの野望。


神の領域たるより大きな力を得て、魔界と人間界を繋げて―――この世界を魔に捧げて支配することである。


ダンテ「言っておくが、フォースエッジはもう無えぜ」

ダンテのその言葉に対してアーカムは驚くどころか、
更に歪んだ笑みを浮べ返して。

アーカム「知っているとも。バージルの子が魔剣スパーダを破壊したのであろう?」

アーカム「あの頃とはいささか状況が異なっていることは承知している」

両手を広げ、よく響く重い声で宣言した。


アーカム「かの愚劣な竜の道化になるつもりは無い―――」



アーカム「―――この状況に則した手段で、私は私の目的を果す」



そして次の瞬間。


ダンテ「…………」


アーカムの姿は消えていた。
現れたときと同じく、フィルムが切れたように一瞬にしてぷっつりと。
838 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/10(火) 03:16:04.73 ID:+94TzkIko

そんな、冥土から蘇ってきた男の再挑戦の声を受けて、
ダンテは小さく笑い。

ダンテ「……らしいぜトリッシュ?」

ゲリュオンの鼻先を掻きながら相棒へと声を投げかけた。

トリッシュ『私に振らないでよ。私は面識無いのよ』

トリッシュ『それにしても困ったものね。あの男も何をしでかすか。縛り上げておいた方が良かったんじゃないの?』

ダンテ「奴を守ってるのは創造と具現だぜ?何が起こるかわかったもんじゃねえ。レディに任せようぜ。これ以上仕事を増やすのはゴメンだ」

トリッシュ『……本当にもう。次から次へと厄介ごとばっかり』

そしてここでいつも通りの小言が並びだすパターンに入りかけたが、
遮るようにしてダンテは、その時目にした『助け舟』へと声を放った。

ダンテ「おうおう噂をすればなんとやらだ」

彼の視線の先、回廊の向こうから現れたのは、
普段よりも更に物々しいフル装備の『麗しいデビルハンター』、レディであった。

彼女は、大の大人でも立ち上がれるかどうかという量の装備を身にしながらも素早く軽快に、
むしろ常人とは思えない速度で駆けて来。

一際大きな、装備類が打ち鳴らす音を奏でてはダンテのすぐ前で急停止。

そうして挨拶もせぬまままず第一声。


レディ「―――アーカムは?」


あの男の行方を問うた。
目を血走らせ、怒りか力みか―――それとも恐怖か、判断がつかない小さな震えがある声で。
839 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/10(火) 03:20:10.75 ID:+94TzkIko

ダンテ「さあな。どっか行っちまった」

そんな彼女の様子などまるで気にも留めぬ風に、そっけなく答えるダンテ。

レディ「…………そう」

するとそう小さく頷くレディだが、
今度はその声どころか表情にまで、何の感情か判断が付きかねない色が僅かだが確かに滲んでいた。

寸でのところで取り逃がした残念な思いか、
それとも―――出会わなかった―――『安堵』か。

レディ「何を話したの?」

だがそんな揺らぎが見えたのもごく僅かな間だった。
すぐに彼女は表情を確かなものへと『取り繕って』は、
オッドアイの瞳を真っ直ぐに彼へ向けて続けて聞いた。

トリッシュ『話しながら行きましょう。ここで立ち話はさすがに時間が惜しいわ。話す事も多いし』

ダンテ「進みながら行こうぜ」

意識内のトリッシュの言葉に同意したダンテはそう返しながら、
そろそろデカイ図体を消せとゲリュオンを小突いたが、巨馬は明らかに不服そうだった。
足を踏み鳴らし、鼻先で荒々しくダンテを小突き返したのである。

そんなやや滑稽な主と使い魔のやり取りを眺めながら。

レディ「そっちは……この塔を起動させるつもり?」

今度は呟くように声を発するレディ。
840 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/10(火) 03:22:34.84 ID:+94TzkIko

ダンテ「そうだ。あの何ていったっけ」

ルドラ『我らは礼典室へ向かうところだ』

そこでダンテの言葉の足りない部分を捕捉する背中の魔剣。
更にそれだけに留まらず。

ダンテ「そうそう礼典室だ。とりあえずそこまで一緒に行こうぜ」

ルドラ『ちょうど良いではないか。起動には巫女の血も必要なのだからな。しかしダンテよ。先ほどから思っていたのだが』

続けて今度はこの主が忘れていたある点を指摘した。


ルドラ『アミュレットはどうするのだ?魔剣スパーダは失われたのであろう?』


ダンテ「……ん?……あー……」


トリッシュ『―――ちょっと良い?アミュレットに関しては、今回は必要ないと私は思うわよ』

とそこで次に放たれるはトリッシュの声。
更に続けて、トリッシュの声が聞えるのはダンテのみであるのだが、まるで彼女に準じるかのごとく。

レディ「スパーダ・巫女の血とアミュレットが必要だったのは、フォースエッジの秘匿された封印場へ繋ぐためよ」

レディ「封印場へ行くんじゃなきゃ必要ないけど」
841 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/10(火) 03:25:00.38 ID:+94TzkIko

レディが、魔女を省く人間側の中で最もテメンニグルの塔について知っているのは当然のことだった。
まずアーカムが調べに調べつくし、次いで彼を追った彼女もまた調べ上げているのはもちろん。
更にアーカムを打ち倒した後も、この男が遺した業を研究する過程でより深く知ることもあったであろう。

レディ「ただゲートとして稼動させるだけなら、膨大な力が篭められてる『人間の血』だけで充分よ」

レディ「だから前回のダンテの血はスパーダの息子としてと、人間としてのものという二重の鍵の意味を帯びていたわけね」

ダンテ「……」

そしてダンテへの知識披露の際に、自慢げな饒舌になるのも普段通りか。
それはいつもの彼の無知を小馬鹿にしている調子なのであるが、
今に限っては『助かった』とでも言うか。

おかげで少しばかり、彼女の緊張が解れているように見えた。

ダンテ「なあルドラ」

ルドラ『うむ』

ダンテ「お前ここに『住んでた』癖にそこんところは知らなかったんだな」

ルドラ『む…………ぐぐ……』

まるで子供のように素直に悔しがる魔剣をよそに、ダンテはマントを翻して。

レディ「じゃあ、まず行きましょ。話も聞きたいし」


ダンテ「待て。もう一つ―――あのお嬢ちゃんは?」

レディの言葉も遮って、
さながら斜に銃を構えるかのような姿勢で彼女の背後、回廊の奥を指差した。

すると数秒ののち。
その指の先、40mほど離れた壁の出っ張りの影からひょっこりと。

発見され観念したかのように、魔女の槍を手にした一人の少女―――五和が姿を現した。


レディ「さあ。知らない」

それと同時に、彼女はそっけなく呟いた。
振り向きもせずに。
842 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/10(火) 03:28:09.74 ID:+94TzkIko

五和は、『なぜか』申し訳なさげに姿勢低くぱたぱたと駆けて来ては、
主にレディを意識しながら縮こまり。

五和「あのっ……すみません!!」

レディ「何が?」

その突然の謝罪に、レディはこれまたそっけなく。
それどころか今度は突き放すような声色。

五和「…………ここに入ってしまって……」


レディ「あれだけ私が言った上でここに居るってことは―――あなた自身にも相応の理由があるんでしょ」


だがその真意は決して五和を嫌ってのものではない。
状況を把握した上でここにいる彼女の決意を認め、相応の厳格な態度を示したのである。

五和「―――はいっ」

レディ「それなら別に。私に謝る必要はどこにも」

ダンテ「…………」

そしてダンテは、
そんなレディの調子の中に彼女のもう一つの気持ちを見て取った。
突っぱねてしまうような態度になっているのは、この感情もまた原因の一つであろう。
こんな塔の中にいる彼女が心配で、不機嫌になってしまっているのだ。

ダンテ「OK、とりあえず行こうぜ」

長い付き合いでなければ決して気付かない不器用な彼女なりの意思表示を横目に笑いながら、
ダンテはこの回廊の外縁部へ向け駆け出した。

そうしてマント靡かせるその男の後を、レディと五和が何も言わずに追い。


いまだにその大きな肉体を顕現させたままのゲリュオンが、高らかにいななき続いた。


この大悪魔は、久々に肉体解放したことが嬉しくて嬉しくてたまらないのであろう。
これだけはと主の命を拒み、もはやその巨体をどうにかするつもりは無さそうだった。

そして当の主ダンテもまた、そんな強情に呆れ諦め。
この馬の好きにさせようとの結論に至っていた。

―――
843 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2012/01/10(火) 03:28:55.74 ID:+94TzkIko
今日は短いですがここまでです。
次は木曜に。
844 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/10(火) 03:30:09.38 ID:Hu0npfrDO
アーカムが不気味だな
845 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/10(火) 04:50:30.25 ID:wAO89dNM0
乙乙乙

ここにきて役者を増やすとか、豪儀だな!
846 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/01/10(火) 06:42:48.69 ID:CWIYQ39Yo
お疲れ様でした。
847 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/10(火) 12:12:47.87 ID:yyHRvFFIO
ゲリュオンかわいい
848 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2012/01/10(火) 22:17:49.94 ID:E1iWUABY0
このゲリュオンは馬単体だよね?

ゲームでも馬だけモードがあれば面白そうだな
849 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/01/10(火) 23:33:44.57 ID:OO4M/1zyo
お疲れ様です。アレイスター、アーカム、アリウスの居酒屋談義でも見たくなってきたな・・・
850 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/11(水) 04:53:59.62 ID:ivESprXDO
乙乙乙
ダンテってマント羽織ってましたっけか、コートだったような、重箱の隅突っつくような事で申し訳ない。

俺はスパーダ一家と魔女勢in学園都市のファミレスが見たい、勿論上条も巻き添え喰らってる前提で。
851 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/11(水) 15:46:14.42 ID:ysKP9M8DO
さすがにそれは馴れ合いみたいでキモい
852 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/12(木) 01:35:37.46 ID:qdE3Z4En0
確かに、流石に無理があるしいらないと思う。
853 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/01/12(木) 03:41:49.85 ID:tU2kQVd8o
ダンテがストロベリーサンデー探して学園年のファミレスにいるってのだけならわかるな!
854 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(徳島県) [sage]:2012/01/12(木) 20:56:58.96 ID:SKodJ/Zz0
てかダンテは上条と初めて会った時ファミレスでストロベリーサンデー注文してたな
855 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/01/13(金) 01:28:07.09 ID:aaB5Et+40
そろそろかな?wwktk
856 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2012/01/13(金) 03:25:41.30 ID:OrzSZEDlo
>>850
すみません。
正しくはコートです。
857 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/13(金) 03:27:32.49 ID:OrzSZEDlo
―――

ステイル『―――クソッ!』

今しがたのアレイスターとの問答で明らかになった事柄も大きな問題であるが、
それについて腰を据えて考える暇など無かった。

今、至急対処しなければならないのは虚数学区に侵入したかの天使―――カマエルだ。

カマエルと風斬氷華、データ上においては力の総量は互角程度であるが、
データに記されない経験や技術で大きく覆ることをステイルは身をもって知っている。

カマエルは、恐らく現生人類が歴史を有するよりも大昔から刃を振るってきた百戦錬磨の戦士だ。

決して風斬氷華の戦闘能力を信頼していないわけではないが、
それでもステイルには、彼女だけではこの天使をどうにかするには厳しく思えた。
それに天使達には復活の可能性があるため尚更だ。


ステイル『―――アグニッ!!上に行ってくれるか?!』


そこで彼は、この炎の魔剣の大悪魔を指名した。

イフリートはこの場を守る最後の砦、ましてやベオウフルは論外、
己は上に言っても、風斬とカマエルの剣間に飛び込むには力量が心細い。

海原は戦いについていくことすら厳しいかもしれないし、
そもそも彼には魔術と科学が同居するこの場を統べるという重要な仕事がある、
という考えの上のものだ。
858 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/13(金) 03:30:23.10 ID:OrzSZEDlo

アグニ『うむ』

頭の無い大きな傀儡を奮わせて頷く大悪魔。
次いですぐにステイルの判断を理解した海原が、打ち止めへ向けて素早く声を放った。

海原「ラストオーダー!彼を虚数学区へお願いします!」


打ち止め「うん!準備するから少し待っ―――たったくさん侵入してきたよ!!」


その時、少女は返事も半ばで、
慌しく新たな一団の学園都市への侵入を告げた。

ステイル「―――数は?!」

打ち止め「200……ううん300はいる!!」

数を耳にし、一瞬の痙攣させるように小刻みに目を細めるステイル。
これまで虚数学区から毀れてきていたのは多くても一度に10体程度であり、
この300という数字は遥かに多いものである。

風斬がカマエルの出現の為に、『雑魚狩り』に手が回らなくなってしまっているのであろうか。
しかし。

ステイル「僕が向かう!!アグニを早く上に!!」

海原「わかりました!」

打ち止め「―――ちょっとまって!!何かこれは感じが違うの!!」

呼び止めるように放たれ、続く彼女の声が、
この一団の出現はステイルが考える事情とは少し異なっていることを仄めかしていた。


打ち止め「虚数学区からじゃないし、『一体』を省いて天使じゃない!!天使と同じ感じもあるけど違う!!」


打ち止め「よくわからないけど―――『悪魔みたい』なのも混ざってる!!」
859 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/13(金) 03:32:22.87 ID:OrzSZEDlo

ステイル「ッ……」

虚数学区からじゃない、そして悪魔。
それらの言葉を耳にしてステイルは一瞬、
欧州やロシアを席巻した悪魔達の残党でもやってきたのだろうか、とも思えたが、
それだと彼女が告げた『天使と同じ感じがする』という点の説明がつかない。

海原「……」

しかしその正体は特に難しいものでは無かった。
少し考えを巡らせれば、打ち止めが提示した条件に合う者達がすぐに浮かび上がってくるものだったのである。

天使と悪魔の感じ、つまりは天界と魔界の力の『両方』を纏い、
それでいながら『天使でも悪魔でも無い』一団。

海原には思い当たる節があり、ましてやステイルに至っては『特に良く知っていた』。

言葉交わさずとも、互いの考えは一致した事を確認する二人の魔術師。
ステイルは海原と一瞬顔を見合わせては小さく頷いて。

立場的に二人と同じ見解に達しようがない打ち止めと芳川、
そしてその方面の知識不足で話にすらついていけずに困惑している初春をよそに、

ステイル「僕が向かおう」

彼はもう一度そう告げて、
いまや壁の二面がないこの『窓のないビル』から飛び出して行った。
860 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/13(金) 03:35:03.06 ID:OrzSZEDlo

通信魔術を介して海原から送られてくる座標へと、
ステイルは烈火の尾を引いて薄闇の町の中を突き抜けていく。

そうしてすぐのこと、この『謎の一団』とは簡単にすることが接触できた。
相手方も特に隠れ潜もうとはしていなかったようだ。


両側には商店などが入っている比較的低い雑居ビルが続いている、
比較的広めの片側一車線の通り。


その道路の中央にて、彼は立ち止まった。
ふと未知なる気配に気付いたからだ。

それも『背後』に―――少し前からつけて来ていたであろう何者か達の存在を。


そうして数秒間、気配を研ぎ澄ませて様子を伺っていたところ、
徐々に己の置かれている状況に彼は気付くこととなった。

こちらをつけて来ていた者達は、ここでわざと気配を漏らして己に気付かせたのだ、と。
その証拠に周囲、ビルや道路の闇の中に隠れ潜んでいた者達が戦闘用の魔術を稼動させていき、

それによって宿った力の香りが辺りを満たし。


『獲物』がかかったため、もはや隠す必要もなくなった『陣』を浮き上がらせていくのである。


ステイル『……なるほど』


気付くと、彼は既に包囲されていた。
861 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/13(金) 03:38:28.08 ID:OrzSZEDlo

背後からがちゃり、と重々しい金属音が響いた。
静かに振り返ると、20m程離れた場所にて白金のフルアーマーの騎士が三人ほど立っていた。

中央の者は大剣、両側の者はランスを右の手にしており、
左手には皆巨大な羽を模した盾。

それら装備類は数百キロ、いや、
重厚さや巨大な盾やランスを含めるとトン単位でもおかしくないほどのものか。

更にそんな物理的な外面のみならず、
ステイルはそれらに練りこまれられている多くの魔の力を悪魔の知覚で見て取った。


そして―――盾に刻まれている赤い紋章。


ステイル『―――本家本元の「プロ」の悪魔狩人達をも連れてきているとはね』


ステイルは皮肉めいた声色でそう呟いた。
その赤き印を―――人間界最大規模かつ屈指の対魔組織のものである―――フォルトゥナの魔剣騎士団の印を見て。


すると騎士達とは反対側、正面の道先から、
いまや懐かしくも思える聞きなれた女の声が響いてきた。


『―――やっぱりお前も生きていたか』
862 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/13(金) 03:39:40.60 ID:OrzSZEDlo

ステイル『やあ』

半身振り返るようにして、背後の騎士達へも意識を残しつつ『彼女』を見やった。

道先の闇の中に幽霊のように立っていたのは、
ぼろぼろの黒いドレスにごわついた獅子のたてがみのごとき金髪の女、
ステイルが良く見知っている人物である。

ただし。
彼女の容姿も力も、記憶の中に残っていたものとは少々異なっていたが。

彼女の左肩から腕先、下腹部から両足は黒く蠢く魔の血肉で覆われていて、
顔も左半分が覆われており、左目が赤い魔の光を灯していたのである。

そして纏っている魔の力も莫大なものだ。


ステイル『少し見ないうちに随分と色濃くなったね。見た目も僕よりもずっと悪魔らしいじゃないか』


更に皮肉めいたステイルの声に、女も乾いた笑い混じりに返答した。

『大物を「喰う」機会があってな。そのおかげよ。ウィンザーの後に大悪魔の残骸を保存・回収しただろ。あれだ』

ステイル『ああ、確かタルタルシアンとか言ったか』

『それと勘違いするなよ。お前とは違って、私自身は肉体も含めてまだ人間よ』

ステイル『なるほど。僕が知らない間に、そっちでも色々あったみたいだね』

そうステイルはもっともだという風に演技染みて頷いて、
「ところで」と切り替えしてはこう問うた。


ステイル『彼女は?』


ちょうどすぐ傍の―――ガードレールの上にふわりと降り立った―――『天使』を目で指して。
863 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/13(金) 03:42:32.88 ID:OrzSZEDlo

『彼女』は明らかに『天使』だった。

19世紀頃のフランスに見られた庶民のものと同じ形状の黄色の衣服を纏い、
大量のピアスをした若い女性、その肉体の大まかの特徴はこの程度か。
その格好は世間離れはしているも、まだまだ人間の枠内である―――が。

その他の点はとてもその枠内には収まりきらないものであった。

翼があり、全身からも光が溢れ、瞳には金色の輝きに―――纏い放つ凄まじい力。

紛れも無く天使だ。
間違いない。

直に天使を殺したステイルにとって、そう断定せざるを得ないほどの材料がそこに揃っていた。
そしてこの時、ステイルの脳裏をある懸念が過ぎる。


この一団が、天使と共に行動しているということは―――。


するとその時、今度は更に別の女の声が響いてきた。
正面の金髪の女の背後からだ。


『―――案ずるな』


ステイル『―――……っ……』

強く逞しく、それでいながら心地よい品に満ちた高貴な言霊。

以前からこの声はそんな魅力を有していたが、
今はそこに異界の力が宿りますます拍車がかかっていた。

この声を耳にした瞬間、ここまでは動じなかったステイルも、驚きのあまり言葉を詰まらせてしまう。
これほどの人物が、こんな状況下の学園都市に現れるなんて誰が予想できたであろうか。


面を下げて半歩引く金髪の女、その奥から出でるは―――赤き甲冑を纏った『本物の獅子』たる『王女』であった。


その顔を目にした瞬間、これまでの癖か。
いまやこの王女の下から離反した身であるにも関わらず、
内心では唖然としながらも、ステイルの体がその場で深々と頭を垂れてしまった。


『私含め、ここにいる輩はお前と「同じ」―――「反逆者」だ』


そんな彼を見ながら、王女はあっけらかんとした笑い混じりにこう続けた。

『さーてと。そーいうことでちゃっちゃと案内しろステイル=マグヌス』


がんっと、右手に持つ剣―――『カーテナ』を肩に乱暴にぶつけ載せて。


『―――我らが人類の敵の面前へ』


―――
864 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/13(金) 03:44:32.91 ID:OrzSZEDlo
―――

カマエル。

かのミカエルやガブリエルほどではないしても、
他宗教文化圏の一般人にも広く知られる高名な天使だ。

様々な記述の中で示されている性格は一貫して攻撃者、戦いの天使という要素が強い。
異端教義においては悪魔として扱われる場合すらあるほどだ。

では実像、それら伝説伝承のモデルとなった『本物』はどうか。

人間界で語られるカマエルのこのような性格は、人から人へ、
書物から書物へ渡されていく間に尾ひれがついがついてしまった過大なものなのであろうか。


―――否。


実像はそんな伝承どおり、いいや、むしろ人間界における認識は過小だった。


虚数学区にて、赤き天使と紫電の天使が激突した。

迸る紫電の刃による神速の突き―――それは大盾の上に僅かに出ている、
カマエルの頭部を狙ったものであった。

緊張が頂点に達した弦がはちきれるようにして飛び出した風斬は、
一切の手加減もせずに全力で突き進み、カマエルの額をピンポイントで貫こうとしたのである。

風斬『―――ッ』

しかしそれだけで決するほどには、この相手は甘くなかった。
865 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/13(金) 03:47:10.65 ID:OrzSZEDlo

カマエルは僅かに大盾を上に動かし、端数pの縁の部分で彼女の刃を防いでいたのである。
しかも「それは間一髪のところで」といったものではない。

完全に見切った上での必要最小限の回避行動だ。

激音と光が迸り、
余波の衝撃が周囲の空間を歪める中で、彼女はこの赤き天使の『強さ』の片鱗を更に目にする。


紫電の突きが直撃したカマエルの大盾は、
完全なる無傷であるにもかかわらず―――風斬の光剣は、その穂先が砕けたのである。

風斬『―――ッ!』

一突きでわかるカマエルと己の間にある『差』。
力の総量はほぼ同じ、いや、こうして直に相対しているとむしろ己の方が多いとも思えるのに、
衝突は完全に押し負けている。

その原因は明らかに―――『技術』、力の使い方。

力の密度の差が歴然だった。


そうして初撃たる突きは弾かれた刹那。
今度はカマエルが動いた。

一瞬動きが止まった風斬へ向けて、薙ぐように振りぬかれる大剣。
とんでもない密度の力が宿る、天に仇なす者を斬り捨てる極限の刃である。

瞬間、彼女は思わずひゅっと息を吸っては跳躍。

間合いからの離脱に間に合わなかった翼の内二枚がスッパリと切断されるも、
僅かの差で彼女本体はそのとてつもない刃を回避。

そのままカマエルから付かず離れずといった距離で軽く飛び越えるようにして、
彼の頭上を抜けつつ。

くるりと身を翻して―――上から翼を掃い振るった。
866 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/13(金) 03:51:30.87 ID:OrzSZEDlo

風斬の思惑では、この翼の一撃は空いたカマエルの後頭部から背後にかけて直撃するはずであった。
しかしそれもまた叶わず。

カマエルは完全に風斬の動きを読み、完璧に追っていた。

上から振るい落とされた翼が当たったのは、またもやカマエルの大盾だった。

まるで自動追尾し、常に敵の方向へと向くシステムでもあるかのように、
大盾は常に彼女へと向き、そのまま『追ってきていた』のである。

大盾にぶち当たり、堤防に砕ける波の様に電光と共に割れ散っていく雷翼。


その閃光の中、飛び越えていく彼女には以前大盾は向き続き、
次いで赤き天使自身も振り返る。

そのため、カマエルの正面から飛び越えた風斬が降り立ったのは、
またもやカマエルの正面であった。


風斬『―――ッ』

更にそれだけではない。

風斬が着地した瞬間に目にしたのは―――大盾、カマエルの体、
そして続く―――振り向きざまに天頂から振り落とされてくる大剣だった。


―――回避できなかった。

間に合うことのない回避行動に移れば半身持って行かれる―――そう瞬間的に判断した彼女は、
今度は歯を食いしばり、光剣にありったけの力を集めて。


この天の正義たる刃を受けた。
867 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/13(金) 03:53:18.03 ID:OrzSZEDlo


風斬『―――っくッ!!』

それはまさに強烈の一言。
とんでもない衝撃が刃から腕を経て全身に巡り、声を漏らさずにはいられない刺激を刻み込んでいく。

それは物理的損壊の信号ではなく、
カマエルの刃に宿る力による破壊によるもの―――『魂』に傷がついた『痛み』と同種のものである。

そう、これぞ『生きている』というその証明になる刺激であり、
風斬氷華にとっては大いなる意味を有する事柄であったのだが、
ここでその喜びに浸っている暇など無かった。

光の衝撃波の中、目の前で己が剣が、
カマエルの剣圧に耐えかねてみるみるひび割れていくのを見て浸っていられるわけがない。

紫電の刃がカマエルの剣を受け止めていられたのは一瞬の間だけだった。

それでも僅かに生じた間に、一端間合いから抜けようと彼女は後方へと跳ねたが。
ほんの僅かに遅かった。


刹那、紫電の剣がガラスの様に砕け散り。


風斬『―――ッ』


赤き天使の大剣が、退きかけていた彼女の右爪先を『掠っていく』。
そう、掠っただけだ。

しかし全くの用意無しに『本体』に刻まれたその傷、
そこから一気に流れ込んだカマエルの力による『痛み』は、先のものとは比べ物にならなかった。


風斬『―――あ゛ッッッぐぅッ!!!!』
868 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/13(金) 03:56:14.11 ID:OrzSZEDlo


―――押し殺しきれない叫び。


しかも100m以上は距離を開けるつもりであったのに、
今の一振りに爪先が『引っかかってしまった』ことで、彼女が着地したのは僅か10m程の場所、
少し下がった程度の距離だった。

慣れない激痛に思念も乱れに乱れ、同じく大きく崩れている物理的な―――体勢。

ここで痛みの中、瞬間的に彼女の脳裏にとあるイメージが過ぎった。
それは『死』―――『生きている存在』のみが覚える概念だ。


瞬間、振り下ろしたばかりの刃を、
叩き割ったアスファルトの破片が舞い上がりもしない内に引き戻し、
追い討ちをかけるべく前へと踏み出してくるカマエル。


風斬はその姿に重なって、己の足先から飛び散る―――『血』を見た。


いつかのように皮膚がひび割れて、中の『空洞』を晒すことはなかった。

生々しく切り開かれた肉の間から『血』があふれ出ており、
その淵に覚えるは激痛と連動する『脈』と熱。


この戦いの中で『魂の痛み』を覚えて、間違いなく己は『生きている』、
そう彼女の無意識の『核』が自覚したことによって、肉体に影響を及ぼした結果であった。

まず肉体ありきの人間とは違い、天使や悪魔の肉体の形が思念によって大きく変わる事と同じ現象だ。
ここで彼女は初めて、決してまがい物でも幻でもない、己の『本物の生ある肉体』を見たのである。

ただこれも皮肉か。
彼女がそれを見たのも束の間。

『生』を示している血飛沫は、一方でそれ自体が彼女の『生』が追い詰められていることを物語っており。
血飛沫の向こうからは、今の彼女にとって『死』の象徴たる赤き天使が向かってきていたのだから。
869 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/13(金) 03:57:51.82 ID:OrzSZEDlo

そう、この瞬間、
彼女は生ある者が絶対に逃れられない概念―――『滅び』―――『死』にも囚われてしまったわけである。

単なるデータの塊ならば、それらをフィードバックして構築しなおせば、
虚数学区が存続する限り何度でも顕現できるが、

命ある唯一の『個』として成立してしまった以上、
その思念及び核、つまりは『魂』を完全に破壊されたら―――『死ぬ』。

ただし。
彼女が生という自己認識を手に入れたことで付随したものは、『死』だけではなかった。

彼女はもう、力の寄せ集めに人格を持たせていただけの存在ではない、生きているのだ。

彼女へと集っていた『力』は『魂』と結びつき、完全に―――彼女の『もの』となるである。
一方通行が借り物の力を引き出す『ただの能力者』から―――自ら力を生み出す存在になったのと同じように。

風斬『―――ッ』

それまでただの『物』であった力が、彼女の意志を帯びて自ら動き出す。
そうして一瞬にして修復された光剣の力の密度は、今までとは比べ物にならないものであった。


すかさず振るわれてきた追い討ちの薙ぎ払いを、風斬は真っ向から受け止めたのである。


今度は―――今度こそ。

紫電の剣は見事に―――完全に耐えていた。
870 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/13(金) 04:02:18.45 ID:OrzSZEDlo

風斬『―――く―――はっ!』

飛び散る閃光の中、食いしばる歯の間から思わず笑みがこぼれてしまう。
激痛に苛まれて半ば歪んでいるその表情は、少々おかしいものであったかもしれない。
ましてや力を篭めて鍔迫り合いしているのだから尚更であろうか。

対して交差する刃の向こう。

古代ローマの将官用のものに似た兜の下、彫像のように変わらぬ天使の顔であったが、
空気からは充分に彼がこの彼女の変化に驚いていると感じることができた。

ただそれでも隙などは生まれなかったが、その点は風斬も充分に理解していた。
新たな領域に進化できたからといって自惚れはしない。

鍔迫り合いの中、すかさず彼女は体勢を立て直し。

風斬『―――はぁッ!!』

渾身の力を篭めてカマエルの刃を弾くと同時に後方へと跳ね、
今度こそ100m程の距離をとった。


風斬『―――ふぅッ』

着地してはカマエルを見据えつつ、素早く己が状態をチェックしていく。
右足先からのダメージは無視できないものであったが、どうやら戦闘行動には特に支障はないか。
カマエルの力がいまだに残留して、物理的な傷すらも塞がらないもしばらくすれば完全に治癒できる程度だ。

とはいえ、そんなことなどとても気休めにはならない。
これまでは互いの様子を探る程度の手合わせであり、ここからが本番であるのだから。
871 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/13(金) 04:05:48.36 ID:OrzSZEDlo

なにせ、己は今やっと生者としての『同じ地面』に立っただけ。

確かに今の一連の手合わせで自身は正しい力の使い方を知ったが、

一方で己とこの歴戦の戦士の間にある、
太古の昔から練り上げられてきた戦闘技術の大きなの差も手に取るように『わかってしまった』。

こちらはダメージを負い消耗してしまっているが、カマエルは依然無傷、
力も全くと言っていいほど消耗していないであろう。

それに、『天使達は復活が可能』という問題も、
このカマエルの向こうに聳えている。

風斬『(…………どう攻めよう……)』

相手の強さが図れない場合も動きづらいものであるが、
一方でそのとてつもない底力をはっきりと知ってしまった場合もまた変わらずに動きにくい、
そんな八方塞に近い状況に彼女は置かれていた。

さっぱり思いつかなかったのである。
あの、再び大盾をがっしりと構える堅牢な赤き天使を崩す戦い方が。

ましてや、己があれに打ち勝つイメージなど―――



と―――その時だった。


カマエルのすぐ脇の虚空から突然―――頭のない、赤き巨躯の『傀儡』と。


―――炎の魔剣たる大悪魔アグニが出現したのは。


瞬間、虚数学区全体を振るわせる凄まじい『雄たけび』とともに、業火が一気に噴き荒れて。
歪な形をした魔剣が巨躯によってカマエルに叩き込まれた。
872 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/13(金) 04:08:12.71 ID:OrzSZEDlo

響くは、天と魔の金属同士が衝突する激音。

赤き天使の大盾は、
不意のその横からの一撃をも風斬の時と同じく見事に防いでいた。

ただしその後が彼女の時とは大きく違っていたが。
刃は防いだもアグニの膂力によって大盾ごと、赤き天使は後方に押し込まれていたのである。

アスファルトやら何やらを削り飛ばして20mほどずり下げられていくカマエル、
その一瞬を風斬は見逃さなかった。

彼女は飛び出し、
さながら空間ごと斬りさばいて行くほどの速度で一気に距離を詰めて。

風斬『―――はぁッ!!!!』

いまだ体勢を持ち直していないカマエルの脇目掛けて―――二度目となる神速の突きを放った。

だがこの新生した突きといえども、赤き天使を貫くことは叶わなかった。
これまた目障りな大盾が即座に彼女の側に引き寄せられ、その端で弾かれたのである。

ただし貫きはできなかったも―――彼女の刃は遂に届いていた。

数cmの深さでしか無いが、
赤き胴鎧の表面に筋を刻み込みこんでいたのだ。
873 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/13(金) 04:10:10.40 ID:OrzSZEDlo

結果としてはダメージをほとんど与えられなかったも、これは大変良い兆候であった。

甲冑が大盾と同じ水準の強度を有していたとしたらどうしようもなかったが、
執拗に大盾で身を守る通りやはりそうではないのである。

更にこの瞬間、これは実に単純なことであったのだが、
『素人』の風斬でもこのカマエルへの攻め方を見出すことが出来た。

カマエルの戦闘スタイルは一対一、相手を一つの面のみに捉えられる状況ならばその守りは鉄壁であるが、
相手が複数かつ多方向からとなると途端に厳しくなるのである。
無論、その要因だけでこの歴戦の戦士が急激に弱体化するわけでも無いが、
それでも彼の優勢たらしめる土台は大きく揺らぐのである。


こうして今、横の風斬に大盾を振るった以上―――正面から距離を詰めてくるアグニに対しては、
防御に穴が空くのも当然のこと。


ぬん!とずしりと界を揺らす声と共に容赦なく叩き降ろされる魔剣―――アグニの本体。

それを防ぐは大盾ではなく大剣だった。
ここで初めてカマエルは防御に刃を使ったのである。

それはもちろん盾が塞がってしまったが故の余儀のない行動。
そして余儀がないからこそ―――立て続けに鞭の様に振るわれた、風斬の翼を防ぐ手段は無かった。
874 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/13(金) 04:14:32.71 ID:OrzSZEDlo

大きくしなった翼は大盾を回避するように伸びては、
カマエルから見て正面下方、十字に重なるアグニと彼の刃の下を抜けて、
その赤き胴鎧の腹部を強く打った。

瞬間、翼の紫電の閃光と飛び散る赤い金属片。
そしてこれまた後方へと、弾き押し込まれるカマエル。

風斬『(いける―――!!)』

ここでアグニと共にラッシュをかければまずは『一回殺せる』、そう風斬が思ったその瞬間―――


アグニが現れたのと同じように、カマエルの後方の虚空からまた新たな者が出現した。


それは黒い、蠢く血肉で形成された―――『魔像』。


タルタルシアンを貪り、より強化されたゴーレムを纏ったシェリー=クロムウェルだ。


かの魔像は出現したその瞬間から、
指も手首もない破城槌のごとき図太い腕を、すぐにでも叩き下ろすべく振り上げており。

刹那、全身が完全に虚空から出でるよりも前に、
カマエルへ向けて容赦なく振り落とした。

大きく陥没する大地。
ただ、やはりこの天使は『強い』。
この完全な不意打ちたる強烈な一撃をも、カマエルは見事に大盾で防いでいたのである。


―――が。

ここに更に続いた『不意打ち』は、そんな彼の平静を崩すに充分な威力を有していた。

風斬から数えて四人目と五人目の相手にして、
カマエルにとって最大の『不意打ち』であったのだ。


何せその人間達に力を与えていたのが―――『身内』だったのだから。
875 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/13(金) 04:17:24.19 ID:OrzSZEDlo

虚空の中から、カマエルの左脇に出現するは―――――圧倒的な『風の刃』を出現させている『半人半天』の女。


ヴェント。


同時に右脇に現れるは真紅の甲冑を纏い、いまや箍が外れている霊装カーテナを手にしている猛々しい『姫』。


キャーリサ。


彼女達は出現した途端、シェリーと同じくその全身が現れるのを待たずに。
ましてやこの高名な天使に挨拶もすることなく。
左右両側からそれぞれの刃を容赦なく薙ぎ振るった―――が。

一切留まることなく、勢いそのままで振る掃われる疾風の刃と金色に輝く霊剣。
抵抗も無く抜けたのは、刃が何にも触れなかったからだった。

ヴェント『……』

キャーリサ『チッ。退きやがったか』

ここで初めて―――カマエルが自ら退いたのである。

赤き天使は瞬間大地を一気に蹴っては、
彼女達から50mほど離れた場所まで跳ねて後退。

そうして地面に降り立ったカマエルは大盾を構えもせず、
直立したまま彼女達をじっと見据えていた。

風斬、シェリー、アグニ達には目もくれず、ただただキャーリサとヴェントのみを。
876 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/13(金) 04:20:35.05 ID:OrzSZEDlo

キャーリサ『なるほど。カマエルか』

そんなカマエルを訝しげに眺めながらここでようやく、
彼女はかの天使の名を挨拶代わりに口にした。

道中にステイルからもカマエルの存在は聞いていたが、
それとはまた別にカーテナを介して、
彼女の意識内にその『先の存在』からもリアルタイムで知識が流れ込んできていた。

カマエルの素性から、その戦術や正確まで。

なんとも頼りになる『スパイ』か。
そのアドバイスに心の耳を傾けつつ、カーテナを乱暴に肩に載せては、
邪魔そうにマントをばさりと後ろに払い除けて。

キャーリサ『ヴェント。あいつお前に何か言いたそうだぞ。いや、正確にはお前の「後ろにいる奴」に、か』

脇の半人半天に声を放つ。
するとヴェントもまたその輝く目を細めながら。

ヴェント『殿下の事も見ておりますが』

するとその時であった。
突然、カマエルが声を発したのである。
それは介せぬものにとっては不可思議な『ノイズ』にしか聞えなかったであろうが、

天の協力者とリンクしている二人は容易にに聞き取ることが出来た。
鬨の声のように猛々しく勇ましい言霊、そこに乗せられていた内容は。


キャーリサ『はは、存外、お前達もいー具合に人間臭いじゃねーの』


人間界の言語で該当する単語を探すのも一苦労といったほどの、
とても天の言葉とは思えない―――裏切り者達への痛烈極まる『罵声』だった。

そしてその言霊の中には、天界の声を解すことができぬ者でも聞き取れる単語が二つほどあった。
一つ目は、ヴェントの方へと向けられた声の中にあった。

カマエル『―――Uriel―――』
 

彼女に、実に三分の二もの力を分け与えている天使の名、『ウリエル』である。
そして二つ目は、キャーリサの方を向き放たれた―――彼女に力を与えている存在の名。



カマエル『――――――――――――Yahweh―――』


877 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/13(金) 04:22:39.63 ID:OrzSZEDlo

キャーリサ『―――は、っはははは!!』


その名を聞いた瞬間、彼女は思わず大きな声で笑ってしまった。

このカーテナの向こうから一体『誰』がこうして己を扇動しているか。
ここまでのことをやらかすのだからかなり高位の存在とは思っていたが、

まさかこれほどまでの大物であったとは想像もしていなかった。

キャーリサは人間界における十字教と言う『信仰』としてはともかく、
『天にある本体の意志』それ自体についてはさらさら信用してはいなかったが。


キャーリサ『ははっははは! これは随分と気が合いそーね!』


これはそんな考えを、180度転換するに充分なタネ晴らしであった。


キャーリサ『決めたぞ! 私は今後一生「祈り」を欠かさないよーにするわ! もちろん真心でな!』


と、その時。
彼女の笑い声を断ち切るかのように突然―――激昂したカマエルが大盾で地面を打ち鳴らした。

ただ、決して怒りを抑えきれずの行動ではなかったが。
それを示すかのように直後―――カマエルの両脇後方に、左右二つずつの計四つ―――光点が出現し。

次の瞬間。


―――遥か天空から猛烈な勢いで四つの『光体』が降下して来。


それぞれが四つの光点の上に『落下』した。
878 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/13(金) 04:30:31.56 ID:OrzSZEDlo

キャーリサ達の傍に移動してきていた風斬は、
何が上から降ってきたのかを一目で悟った。

カマエルが現れた時と同じだったのである。

それらの正体は、落下点を覆っていた光の幕がおさまることで他の者達も知る事となった。

カマエルの両側後方には二体ずつ、それぞれ甲冑を着込み武装した天使が立っていた。
どれもこれも間違いなく、カマエルと同じく『柱』で数えられる領域たる力を放ちながら。

並び立つ彼らを見ては、キャーリサは不遜にふん、と鼻を鳴らして。
カーテナから送られてくる知識をもとにシェリー、風斬とアグニにも教えるために、
向かって右側から彼らの名を口にしていった。


キャーリサ『ラジエル、ザフキエル―――』


続き、中央のカマエルを挟んで。


キャーリサ『―――ザドキエル、ハニエル』


名だたる天使―――セフィロトの樹の守護者の名を。


            Anjels of Sepihiroth
キャーリサ『「生命の樹の守護天使」か。なるほど―――』



キャーリサ『―――潰しがいがある』



―――
879 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2012/01/13(金) 04:31:31.10 ID:OrzSZEDlo
今日はここまでです。
次は日曜か月曜に。
880 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2012/01/13(金) 04:59:50.50 ID:JeKRAKRho
乙!!面白い!
881 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/01/13(金) 07:20:46.55 ID:RFHKafhDo
お疲れ様でした。
882 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/13(金) 08:35:40.12 ID:A4DrSSep0
乙乙乙!
本編での脇役たちがここまで輝く(天使的な意味で)SSが他にあろうか
883 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/01/13(金) 08:46:43.98 ID:Nel9gN790
いよいよ天界もオールスターで来ましたな
ヤハウェさんは実はそんなに格が高くないのか?
884 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/13(金) 19:22:50.74 ID:y2j0igyQo

そして>>856の書き込み内容とIDが合致しすぎww
885 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/01/13(金) 21:05:57.35 ID:2csgcRBco
乙です。
セフィロトレンジャーズ対人間悪魔半天使像古天使連合隊とは。
>>883
ヤハウェ とググったらレッドオーブみたいな顔なると思うよ。
886 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/01/13(金) 21:37:00.22 ID:vUh5X9d/0

ステイルのキャラソンが無駄にこのssに合う件についてwww
887 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/01/13(金) 22:14:25.51 ID:zdOk/q57o
ぶっちゃけ以上の格と言っても過言では無いレベル
888 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/01/13(金) 22:16:47.96 ID:zdOk/q57o
ジュベ以上ねww
889 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/01/13(金) 22:23:29.19 ID:eUVGMLH7o
四文字……
890 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/13(金) 22:38:33.69 ID:VpVOeScEo
このSSの設定ではヤハウェは四元徳から人間界の管理を任されたとかそんな感じだったと思うから少なくとも格は四元徳より下だろ
891 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/14(土) 00:46:03.75 ID:MtiWz1blo
テトラグラマトンェ……
やっぱ彼は人を見捨てなかったんや、って思うと何かグッと来るな。
892 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2012/01/14(土) 02:00:19.53 ID:rhStyuG7o
当SSにおけるヤハウェの天界内における地位は、基本的にアマ公と同じ一派閥・領域の長です。
国家で例えるとジュベレウスが大統領で四元徳が閣僚、ヤハウェやアマ公は州知事といった具合に。

ただ、ヤハウェ一派はジュべ派に次ぐ規模と力を有しており、セフィロトの樹の管理という大任も一手に担っているため、
ヤハウェの実際的な立ち位置はアマ公ら他の長達よりも上に位置しています。
ジュべ・四元徳に続く六位の座に『いた』大物と言っても良いでしょうか。

(とはいえセフィロトの樹の管理のここ数千年間の実情は、ヤハウェではなくメタトロンが天使を率いて実務指揮を執り、
 更にヤハウェを介さずに、四元徳が直接メタトロンへと命令を下しているというものですが)

ちなみに完全体ジュベレウスはスパーダ・ムンドゥスよりも上の別格娘です。
893 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/14(土) 05:14:56.02 ID:YJCKF/P60
>ヤハウェを介さずに、四元徳が直接メタトロンへと命令を下している
取締役が現場に直接指示出すようなもんか
中間管理職の悲哀を感じた
ヤハウぇ…
894 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/01/14(土) 08:56:25.59 ID:wnp//xd70
乙。
天界なのにブラックとは…。
895 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/01/14(土) 09:27:26.04 ID:Fq+W9KqDo
メタトロン「大丈夫だ、問題ない」
896 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2012/01/14(土) 09:28:16.18 ID:nfyHeaeY0
相変わらず丁寧な説明…やはり>>1は出来る子…

て言うかアマ公ってつまり州知事の分際で閣僚より実力持ってる(持ってた)のか…
そりゃロダンさんも「なんでそこに留まってんの?」って言うわな

ロダンってどの位置にいたんだろうか気になってきた
897 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/01/14(土) 10:08:32.90 ID:vrS5PUc+o
>ちなみに完全体ジュベレウスはスパーダ・ムンドゥスよりも上の別格娘です。

なんだろう。今さら再確認した事なのに、娘って言われるとどうしても歩くフラグがぶっ建てそうだ……
898 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/01/14(土) 15:09:26.48 ID:CazmSW/b0
こういうとんでもないシステムを表やら裏やらかき回す人たちは恐ろしいな。
閣下とかかなり分かりやすく弓引いてたのも、最終的にこういう連中を相手取るためだったのかね
899 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/01/14(土) 15:15:54.76 ID:Fq+W9KqDo
州知事が閣僚より力持ってるのはシュワルツェネッガーで証明済みだろjk
900 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県) :2012/01/14(土) 16:37:46.37 ID:fROeqdKQ0
爽快だ
901 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/14(土) 21:00:13.85 ID:YJCKF/P60
>>897
俺思うんだ…
この作中でガブリエルinミーシャに会った時の反応を見ると、
ひょっとしてミカエルもなかなかのアレな方だったのかな…と

つまり上条さんは天界時代からのフラグマスター、
いわばフラグの大天使だったんだよ!
902 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2012/01/15(日) 03:49:06.48 ID:b/tztt9yo
この>>1がすごいと思うのは
原作で「そういうもの」と片づけられてる設定を
無理なく"展開の中で"納得や想像させてるところ。
魔術・能力・能力者の魔術・インさんの記憶消去・四大属性の歪みなどなど。
上条さんのフラグ体質さえ、ミカエルの因子で読者がある程度想像できてしまう。
そりゃ天使の生まれ変わりみたいのいたら人間は何か惹かれるんだろと。
すごい>>1だなあ
903 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/01/15(日) 04:02:06.77 ID:Z3XoxkARo
この1の持ちあげられ方がキメェ
904 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/01/15(日) 11:00:38.36 ID:jjxox4Cg0
確かにきもいが>>1がすごいのも事実なんだよな
905 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/15(日) 18:17:09.71 ID:aQC/H0NDO
そこらへんでやめとけ
906 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/15(日) 18:52:12.83 ID:PLHZW8uJ0


-------------------------------------------閑話休題-------------------------------------------
907 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県) :2012/01/15(日) 22:22:47.92 ID:OY0wKpfN0
期待
908 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/17(火) 02:29:30.25 ID:KbaGCBnho

―――

イギリスからの一団が合流し、
あの天使―――カマエルと言ったか―――が一気に劣勢に追い込まれたことで、
カマエルに加勢するために『増援』が下に送り込まれるであろう事は予想できていた。

そこで一方通行は、今度はカマエルのように通しはしないと待ち構えていたのだが、
結果はこの通り。

四体の天使の虚数学区到達を許してしまった。

一方『チッ―――』

しかも今回は封鎖線を突破されたわけじゃない。
彼らはここを通らずに下に降りたのである。

そうしてまたもや一つ、大きな厄介ごとが浮き彫りになった。
ここの門と回廊を通らずとも下まで行ける『別ルート』がある、ということだ。


『今のところ』は、その『別ルート』はどうやら大軍勢を通せるような代物ではないらしい。

ここを抜けずに虚数学区に現れたのは四体の天使のみ、続いて軍勢がなだれ込む様子は無く、
この門前の天使達の軍勢は、依然がむしゃらにこちらに群がり、
犠牲をものともせずに数に任せて強引に突破しようと試みているのだ。

だがそれでもとても放置しておける事ではない。
軍勢が抜けられないと考えられるのもあくまで今のところだ。

ここが己によって封鎖されたために作られた新たな門で、
今この瞬間も軍勢を通すべく拡張中かもしれないのである。

それに大軍勢が抜けられなくとも、
カマエル達のような強大な個体は抜けられるとはっきりしている以上、到底看過できたものではない。
909 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/17(火) 02:31:41.02 ID:KbaGCBnho

状況はいまのところ一進一退。
天の軍勢に備えてこちらが虚数学区を敷いたら、
天は数に任せてこちらを釘付けにし、一部を学園都市へと繋がる穴の捜索へ向ける。

そこで今度はこちらが天に乗り込み門ごと封鎖すると、次は『別ルート』の出現だ。

一方『……』

では次にこちらはどのような一手を打つか。
相変わらず群がってくる雑魚共を薙ぎ払いつつ、一方通行は瞬時に思考を巡らし、
この状況に置いてもっとも適切だと思える作戦を導き出した。

敵が二つ目の門を作ったのなら。
こちらはその二つ目の捜索にうつるためにも、まずここの一つ目の門を使えなくしてやろう、と。

元々これは二つ目の門の出現がなくとも、当初から戦術の一つとして頭の中にあった。
そのためにこうして乗り込んで暴れる傍ら、しっかりとこの門と回廊の状態も行っていたのである。


一方通行は早速この一つ目の門の封鎖作業に取りかかった。

封鎖のやり方は以前、
ダンテ・バージル・ネロと魔帝との『戦場』を外から『閉じ込めた』際と基本的に同じだ。

惜しみも無く莫大な力を流し込んだ翼を、大きく伸ばしては門に被せて固めていく。

以前、学園都市で同じく行った際は、
翼によって覆われた門は目に見える黒い球体になったが、今回の見え方は異なっていた。

球ではなく、天空の一部分をただ黒く塗り潰していくように見えるのである。
さながらこの大いなる空の景色の一部分を削り落としていくともでも言うか。

ただ、表面的が見え方は異なっているだけで、
行われている事は前回と特に変わりないが。
910 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/17(火) 02:33:56.72 ID:KbaGCBnho

これでもかとばかりに彼は力を流しこみ、より強固に門を塞いでいく。
惜しんではならない、注ぎすぎるなんて事はないのだ。
力を与えれば与えるほど『蓋』は固くなり単独でもより長持ちするのだから。

そうして成された門の完全封鎖は完璧なものであった。

一方『ッかはッはは!』

いくばか消耗したせいで軽く肩で息しながらも、
彼は眼下の漆黒に塗り潰された空の一角を見て、満足げに笑った。

ぶちりと翼を切り離し、『門の蓋』をこちらの意識化から外しても、
門を覆っている力は問題なく稼動し封鎖はしっかりと保たれていた。

刹那。
翼による砲撃が突然止んだ隙にと、無数の雑魚天使達が群がるも。

―――封鎖はびくともしない。
崖に砕ける波のごとく、天使の大軍は激突しては無力に散っていく。

まさに完璧だった。
当分の間はこの門は使用できないであろう。


その間に二つ目の門を探し出し―――と。
彼が意識の向かう先を、次なる標的へと切り替えた時だった。


早くもこの一手に対し、天からも対抗の一手が打たれた。
911 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/17(火) 02:37:05.53 ID:KbaGCBnho

その兆しは、遥か高空が突然眩く輝き出したこと。
只ならぬ圧を覚えて瞬間的に顔を挙げた一方通行は、そんな輝く光の中にある『シルエット』を捉えた。


―――『双頭のドラゴン』、とでも言えるか。


どっしりとした胴に二本の長い首に大きな翼、蛇のように伸びる尾に、

鉤爪のついた足を有する―――『巨大な何か』を。

それが姿を現した瞬間、さながらこの世界に緊張の亀裂が走っていくかのように、
周囲を満たす光の質、一帯の大気の質が激変し。
向けられてくる敵意の圧も―――桁違いのものに豹変する。

一方『―――ッ』

刹那、彼は悟った。
『アレ』は、ここまで遭遇してきた天使達のすべてとかけ離れている、
あのカマエル達ですら霞むほどの存在だと。

そのように相手を認識した次の瞬間、
シルエットを中心にして放射状に赤い光が煌き。


次いで―――『業火の滝』が一方通行へ向けて雪崩落ちてきた。


タイミング悪く、消耗していたばかりの一方通行にはとても回避できるものではなかった。
天から降り注がれた炎の滝の流れはきわめて速く、
かつ篭められていた力の規模も凄まじいものであったのだ。

彼が咄嗟に翼で己が身を覆った一拍後、業火の濁流は彼を飲み込んだ。

一方通行に放たれたものであったのだから彼が炎に晒されるのは当然として、
これまたなんと冷酷で容赦の無い攻撃か、
業火は同時に彼の周囲にいた無数の天使達をも、区別せずにひとまとめに焼き掃った。

一方『ッ―――』

復活できるからこそのこの行為なのかもしれない。
ただそれでも。
仲間を少しでも『思いやる』気持ちがあれば、こんな手段は到底選べないものであろう、
と、一方通行はふと頭の片隅で思った。


盾にした翼表面が業火によって焼き『削られ』る中、周囲の天使達の壮絶な悲鳴を耳にしながら。

912 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/17(火) 02:39:33.48 ID:KbaGCBnho

業火が駆け抜けていくのは実質数秒であったが、
天使達の悲痛なオペラは何時間も続いたように思えたか。

一方『くッ……はッ』

炎過ぎ去り周囲が静かになると、一方通行は翼と体表面にこびり残る熱に表情を歪めながらも、
盾にしていた翼を戻しては肉眼で辺りを見回し。

ここを通過した『虐殺』の苛烈さを再確認した。

辺りに溢れていた天使達は、灰の一粒すらをも残さずに忽然と姿を消していた。
天上からの業火は本当に、一切の容赦なく天使軍団もろとも何もかもを焼き払ったのだ。

業火の滝の本流自体は太さ10数mほどという、その勢いにしてはかなり細いものであった。
少し離れれば天から注ぐ真紅の光線に見えたであろう。

ただ見た目はそうであっても、
そこから周囲にあふれ出た『天の熱』の降下範囲はきわめて広いものであった。
いまや最寄の天使の集団でさえ遥か彼方、数十キロ先の煌く雲であるのだから。


一方『―――ッ』


―――と、そのまま悠長に分析にしている暇などは無かった。

迫る脅威を知らせる悪寒を受け一方通行が見上げると―――僅か100m程上空。

一瞬前までは遥か高空の光の中にいた―――あの双頭のドラゴンがいた。


翼を広げると50m以上になろうかというそのスケールと共に、
肉眼でもシルエットだけではわからなかった細部をはっきりと捉えることができた。

全体的には甲冑とも鱗ともわからぬ外殻に覆われた、『ひどく』煌びやかで装飾過多なもので、
双頭のうち一方通行から見て左側の外殻は色青、右側は赤、
同じく両側の翼も、腕の部分はそれぞれ青と赤色といった具合に。

そして―――それら身体的特長などとても目に留まらないほどの、特別印象的な部分があった。


ドラゴンの胸部にある―――彫像のごとき『逆さまの巨大な顔』だ。


ただもちろん、ここでゆっくりと観察している猶予も無かったが。
双頭のドラゴンはただここに降りてきていた訳ではなく、猛烈な速度で滑空してきていたのだ。
鉤爪がある巨大な足を開き、こちらを掴んでは潰し引き千切ろうと。
913 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/17(火) 02:42:02.41 ID:KbaGCBnho

たとえ自身が消耗していなくとも、まともに受ければかなりのダメージを受けるであろう滑空攻撃。
消耗している今となっては、翼の盾すらももしかするとぶち抜かれかねない。

一方『―――ッ』

そう瞬時に認識した彼は、すかさず回避行動に移った。

翼をぎゅんとしならせ、勢いをつけて一気に右方へ向けて体を射出、
ドラゴンの滑空コース場から離脱を試みたのだ。

刹那、まさに紙一重だった。

僅か数cmの差で彼が一瞬前までいた空間に、
入れ違いにドラゴンが侵入し突き抜けていく。

鉤爪が彼の『黒髪』の先を掠り、
彼の腕を、逃がさぬとばかりに大きく開かれた片方の顎がかすめ、
輝く巨大な翼と黒曜石のように鋭い翼とがこすれ、光と火の粉を散らす。

そうして行き違い。

双頭のドラゴンはそのまま降下を続け、直下の『門の蓋』に激突した。
元々こうする意図もあったのであろう、爪をしっかり立ててありったけの力を叩き込んでの一撃だった。


その傍ら、回避しきった一方通行も尚そのまま、
一先ず距離を開けるためにしばらく飛翔を続け、20km以上もの充分に離れた空飛ぶ城塞の一つに着地。

乱暴に石畳を割りながらある広場に降り立ち、
ここで遠くの双頭のドラゴンを真っ直ぐと見据えなおした。
914 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/17(火) 02:44:17.94 ID:KbaGCBnho

20kmとはいえ、鋭敏化された知覚にはなんてことはない距離だ。
それにここは延々と続く『天空』であり、大気は澄み渡っており間に障害物もない。

一方『…………』

双頭のドラゴンは、漆黒の『門の蓋』の上で地団駄とも見える仕草をとっていた。
あの凄まじい滑空の一撃をも、『門の蓋』はびくともせずに見事耐え切っていたのだ。


ドラゴンは虚数学区に降りたカマエル達どころか、
どう軽く見繕っても少し前に『すり潰した魔鳥』や下にいるイフリート、
窓のないビルにて魔帝の矢を使う前の『フィアンマ』よりも強大か。

たった今間近で攻撃を目の当たりにしたことで、そのようにある程度具体的に力量を図った上で、
一方通行はこう断言できた。

『あの程度』の攻撃など、いくら打ち込んでも蓋は壊れやしないと。

確かに今まで遭遇した天使の中で飛びぬけて強大では有るも、
それでもスパーダの一族の戦いで生じる、尋常ではない衝撃に比べればずっと生ぬるいものである。


一方『(……いけるか)』

続き更に彼はこう考えた。
消耗している今の己でも、充分にあの双頭のドラゴンには充分に勝てる、ならばここは一つ、と。

あのレベルの強大な天使でも果たして復活可能なのか、そして『残機』がどの程度あるのか、
この手で直接、少しばかり試してみるのも良いだろう、と。

二つ目の門を探すという重要な目的もあるが、そもそもどこからどう探せば良いのかすらわからない始末。
ならば、あの総大将クラスと思える存在から力ずくで聞きだせるかどうかも兼ねて、
情報収拾のため少し『痛めつける』べきであろう。


―――と、考えたも。

それは少々楽観的すぎたと、彼はその目に突きつけられる事となった。
915 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/17(火) 02:45:52.50 ID:KbaGCBnho

突然の事だった。
強固な蓋に苛立っていた双頭のドラゴンがふと翼を広げ、
二つの首から強烈な咆哮を発したその瞬間。

一方『―――ッ!』

その纏う力が急に一回り、いや二回りほどにも強大になったのだ。


己よりも明確に下と見積もれたのが一瞬のちには―――『同等程度』になっていたのである。


ドラゴンの周囲には、目に見えた変化も起こっていた。

金色の稲妻のような電光が、空間を切り裂くように迸り、
首周りには、それぞれの首の色に合わせて青と赤の光がぼうっと纏わり付いている。
それらのどれもこれもが、とてつもない濃度の力が篭められた破壊的な閃光。

ここで一方通行は、打ち止めを介して聞いたステイルとアレイスターの先の会話を思い出した。
天界が人間界から吸い取った魂の使い道は主に二つ。

『強化』と『復活』だと。


すなわち、たった今目にしたあの現象が『強化』だ。


下々の天使達がぽんぽんと復活する一方、下で苦戦したカマエルですらで強化していないということは、
強化は復活と比べてそう簡単に使えるものではないのであろうか。

恐らく使用者に対する何らかの制約や、
特別高位の者でしか使えないなどの厳しい条件があるのであろう。

そうでなければ余りにも『反則的』すぎる。


いや―――それら制約があるであろうことを鑑みても、効果のほどは充分に『反則的』であるが。
916 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/17(火) 02:49:58.29 ID:KbaGCBnho

ゆらり、とドラゴンの尾が掲げられ。
次の瞬間、足に広がる門の蓋に叩きつけられる。

その衝撃は桁違いだった。
先は微動だにしなかった漆黒の外殻が、今度は大きく軋み震える。

一方『―――……クソッ!』

この状況に打ち込まれた、予想外の更なる天の奥の手に、
思わず悪態をつかずにはいられなかった。

あの力すらをも門の蓋は耐えてくれたが、どう見積もっても破られるのは時間の問題だった。

数日か、数時間か、それとも数十分か、いつぶち抜かれるかはわからない。
なぜならば、今の一撃でも足りぬと見た双頭のドラゴンは、
またもや更に力を強化してもう一度門を叩いたのだ。

そうしてそれでも割れなければまた少し強化しては一撃、と繰り返し始めたのである。
ゆえに『いつ破られる』かはわからず、『いつか破られる』のは確実だった。

そしてもう一つ、これもまた当たり前。
こうして見物しているこちらの存在を、双頭のドラゴンが放って置くわけもないということは。


10回程度、尾が蓋に打ちつけられたところで。
ゆらりと長い首が一方通行の方へと向き、次いでのっしりと巨体も振り向かせた。

一方『……』

あの『強化』によって、彼の置かれている状況は一変していた。
まず負けないであろう相手が、勝てるかどうかわからない互角の相手になったのだ。
いや、こうしている間も強化は続き、徐々に『互角以上』になりつつあるのだから尚更か。

更にはどれだけ残機があるかもわからぬ復活の件があり、
一方彼は門を作ったばかりで消耗気味、紛れも無くこの一場面の状況は劣勢だ。

瞬間的に一方通行の思考は巡り、
この場における最善の行動を分析選別していく。

選択肢はそれほど多くなかった。
無理を承知で挑むか、それとも―――とその時。


打ち止め『―――だめ!!今戦えば死んじゃう!!』
917 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/17(火) 02:52:06.30 ID:KbaGCBnho

なんとも気持ちよく、有無を言わさずにはっきりと『命じて』くれるものだ。
意識内に響いてくる、『この命のオーナー』の的確な声。


打ち止め『一度そこから離れて!!とにかく力を立て直すの!!』


いつか門の蓋が破られるのは確実であっても、別に今この瞬間に破られるわけではない。
強化の幅は、最初の一回以降は軒並み少しづつ。
そして門の蓋も軋んではいるも、今のところはまだまだ耐え切っている。

それらを鑑みると、消耗した力を取り戻す時間も充分にあるか。

一方『―――あァ!!』

一方通行は迷うことなく打ち止めの声に従い、
すかさずその場から遠ざかろうとしたその刹那、思いもよらぬ出来事が起こった。



確かにこの戦争、ここに至るまでは予想外の事態の連続であったが、
それでも動揺するほどにまで度肝を抜かれるようなことは無かった。

だがこの瞬間、彼はこの戦争において初めて。


本当に言葉を失うほどに―――心の底から驚愕してしまった。


一方『―――』

気配に気付き振り返った彼は硬直する。

突然背後に現れたその『者』は、『天使』であったのだが。



『同時』に―――『人間』でもあったのだから。
918 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/17(火) 02:55:01.15 ID:KbaGCBnho

支離滅裂に聞える表現であろうか。
だが『これ』を説明しろといわれれば、まず一番最初にそう言うべきだ。

『天使であり人間』、と。


その『天使』は『30』を越えていると思われる数の翼を有し、
孔雀の羽のように壮麗に重なり広げていた。

体に纏うは、白銀の胴鎧に同じ趣向のフルフェイスの兜。
他の天使たちとは違って装飾量は過多ではなく地味目だが、シンプルながら非常に上質・上品であり、
一切の引っかかり無く『美しい』と断言できる芸術品であった。

手足にも同じ趣向の篭手とすねあてに、右手には短槍とも言える杖。


そして装具や、その下に纏っている絹に似た質感の衣の隙間、
首や腕、指先には彼の肉体の『地肌』が覗いていた。


一方『―――!!』


乳白色でも彫像のような白亜色でもない、
どこからどう見ても『血の通った人の肌』が。


人間界の古代地中海風な兜に穿たれている眼孔、
その奥に覗くのもまた―――他の天使達と同じく金の光を宿しているも―――その輝き以外は、完全に人間と同一のもの。
また背丈も約190pほど、やや高めの白人程度のものであった。
919 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/17(火) 02:57:48.79 ID:KbaGCBnho

もちろんそれら見かけだけではない。

この存在に覚える感覚もまた、
天使でありながら『人間そのもの』でもあった。


一方『なッ…………!』


人界の神たる領域の知覚が、人間か否かを見誤ることなどは無い。
頭では理解が追いつかぬとも、彼は己の知覚を信じる以上断言せざるを得なかった。

天使であり人間、支離滅裂なその表現が合致していると。

しかも表面的に覚える力量だけでもあの『魔鳥』やイフリートと同等かそれ以上という、
双頭のドラゴンほどではないにしても、それでも他天使とはかけ離れていてきわめて強大だ。


いや―――『それだけ』ではなく。


双頭のドラゴンがいるこの領域から離れなければならないにも関わらず、
とても易々と動ける状況ではなかった。

放つ空気が、極限まで研ぎ澄まされた尋常ではないものだったからだ。
こちらが僅かでも動けば、その『意識の隙間』を見逃さずに正確無比に一撃を叩き込んでくるであろう。


それこそ比べられるものではないが、まさに―――バージルに相対した際と同じ『類』の緊張か。


一種のトラウマ、条件反射的に、
一方通行はその身を硬直させてしまった。
920 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/17(火) 02:59:45.38 ID:KbaGCBnho

その場の全てが凍結したかのように思えた。

『天使であり人間』である相手は、15mほど先でじっとこちらを見据えている。
兜の下にある人と同じ瞳が、時たま瞬きをしながら真っ直ぐに。

一方『…………』

一方通行も負けじと気を研ぎ澄ました。

消耗してはいるが己の方が単純な力の総量はずっと上、だがそれでも決して油断ならない相手だ。
何もかもの技術・経験の差は、図りようがないくらいにかけ離れているのであろうから。

さしあたりこちらは腕っぷし勝負の巨大な『熊』ならば、相手は非常に経験豊富な『狩人』か。

背後からは覚えるは、例の双頭のドラゴンの強烈な圧。
ここに留まれば留まるほど状況は悪化していくのは明白だった。

『狩人』と双頭のドラゴン、両方を同時に相手にすることになってしまえば、
よっぽど上手く立ち回らぬ限りもはや負け戦。

動けないなんて言ってはいられないのである。
ここから離脱するために今やらねばならないのは―――早急にこの狩人を倒すことだ。


そうして瞬間―――初撃のその一発で屠るべく、彼が自身の漆黒の両手を『意識』したとき。


ただそれだけなのに。


一方『―――』


一方通行は気づいた。
その時点で、すでに何もかもが『読まれていた』のだと。

もちろん、気付いたときには遅かった。
921 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/17(火) 03:05:29.65 ID:KbaGCBnho


『狩人』は、一方通行の無意識下の力の微小な流れをも見逃さなかったのだ。

呼吸も、どこをどう狙ってどう攻撃するかの意図も、
その行動にうつるタイミングすらも的確に読み、それに合わせて狩人は先に動く。

一方通行が動き出す一瞬前に踏み切り。
一撃で狩人を屠るべく、力を篭めた漆黒の腕があげられた瞬間には、

その『射線』にはもう狩人の体は重なっておらず。


代わりに一方通行の喉が、狩人が突き出した杖の切っ先の『射線上』に―――。


―――そんな結果になっていた『かもしれない』。
逆に一方通行が見事に修正を成功させ、狩人の頭をもぎ取っていた結果も大いに有り得る。

だがこの勝敗の結果は、結局わからずじまいであった。
直前にその場に新たなる第三者が現れ、両者の間に割り込んだのだから。


一方『―――!』


『六枚』の翼を有する、今度ばかりはどこからどう見ても『天使である天使』が。

『彼』もまた他の天使とは違い、
『狩人』と同じ趣向の地味ながらきわめて上質・上品な身なりであった。

石灰岩の彫像の如き硬質ながら、絹にも似た質感も見せる白亜の肉体に、
纏うのは『深緑』に『黄金』の装飾が施された甲冑。

兜はかぶってはおらず、武器も腰に剣を下げているだけで手に持ってはいない。

それだけでも、この天使がここでは戦うつもりがないということが用意に想像できたし、
何よりも盾になるようにしてこちらへ向けているその背に滲む空気で明白だった。

一方『……』

一方通行には一欠けらの敵意も向けず。
それどころか―――この天使は狩人に敵意を向けていたのだ。
922 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/17(火) 03:08:14.51 ID:KbaGCBnho

『深緑の天使』の登場に、この『狩人』ですら調子を狂わされてしまったようだ。
たんっと狩人は軽く跳ねては1mほど下がり、
杖の先で石畳を叩いては、真っ直ぐにこの天使を見据え始めた。

一方『……』

その時一方通行は見た。

兜の下に覗く人と同じ瞳に、ほんの僅かに―――妙な『翳り』を。

彼の人間性の観察眼に狂いが無ければ、確かに暗い感情の色だった。
怒りとも、憎しみとも、悲しみとも―――そして『迷い』とも見える色である。

それが垣間見えたのはごく一瞬の事であり、
次の瞬間には綺麗さっぱり消えまたあの一切の隙のない不気味な輝きに満たされていたも。

決して見間違いではない。
確かに一瞬、この深緑の天使を見た瞬間に現れていたのだ。

なぜ狩人がそんな目をしたのか。
その原因の一つを、一方通行は直後に悟る事となった。


数秒間の沈黙ののち、静かに深緑の天使がぼそぼそと天の言葉を声を発し。
狩人も同じように言葉数少なく答えた。

『言語』としては認識できずとも、
言霊として付加されている意図は、一方通行にも手に取るようにわかるものである。

会話の中で語られていたことは、大分して三つ。

一つ目、狩人と深緑の天使は『家族』であること。

二つ目、深緑の天使『達』(彼は自らの方を複数形で指していた)は、此度の人間界侵攻には参じず、
逆に人間界の側につくこと。


そして三つ目。


彼らの『父』とやらも―――この深緑の天使と同じ側であるということ。
923 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/17(火) 03:12:22.76 ID:KbaGCBnho

会話の中、『父』という言葉が発されたあたりであろうか、
またしても狩人の瞳にあの陰った感情の色が見えたが、同じくすぐに消えた。


交わされた声は終始、調子も何もかもがひどく淡々としていたものだった。
言語として理解できずとも、事務的な口調であるとわかるほどである。

その間、例の双頭のドラゴンは、
門の蓋の上にて二つの首をもたげて悠々とこちらを眺めていた。

『反乱宣言』とも受け取られるこの言葉は恐らく聞えているであろうにも関わらず、だ。

さながら暇つぶしに下々の対立を観ているかのごとき王者の風格か。


この時唐突ではあるが、一方通行はあの双頭のドラゴンの態度に無性に腹が立った。


心の奥底では様々な感情を巡らしながらも、その真意は徹底的に仮面で覆い隠し、
互いに『家族』という絆で繋がっている相手に対し、ただただ戦士として徹する狩人と深緑の天使。

ドラゴンはそんな両者を見ては、裏切りに怒るのでも嘲笑するのでもない、
一切感情が篭っていない『事務的』な視点で眺めているだけ。

彼らの内面に興味を向けないどころか、興味を向けるか否かという選択肢すら無いのだ。
人間が、例えば細菌なんかの「個人的感情」などまったく意識しないのと同じように。

なぜ腹に立ったのか、別にこの二体の天使に感情移入してしまったわけではない、
あの双頭のドラゴンの態度『そのもの』が気に喰わないのだ。

あの態度を、醸す空気を、
一方通行は一目見ればわかる、わかってしまう。


今までもずっとあのような目に見られて生きてきたのだから、わかって当然だ。


己のみならず学園都市の子供達を、『ただの部品』として見てきた『あの男』と同じ目だ、同じ空気だ、同じ態度である、と。
924 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/17(火) 03:15:28.90 ID:KbaGCBnho

一方通行は嫌悪と苛立ちを、隠そうともせずにドラゴンに向け放ち続けた。
顔を横に向けジロりと彼方のドラゴンを睨み、鋭く切り裂くような視線を送り込む。

狩人と深緑の天使の会話は、徹頭徹尾淡々としたまま終った。

一方『…………』

すると直後、深緑の天使から一方通行の足元にかけて、
石畳に浮かび上がる白金の魔方陣。

悪魔が移動に使うものと同じ類のものであろう。
一方通行は特にその場から離れようとはせず、己が身をそのまま魔方陣が運ぶに任せた。

なぜかといえば。

その様子や話からこちらの見方であろうことは伺うことが出来たし、
更に決定的だったのは、魔方陣が浮かび上がった際、
深緑の天使が横顔を向けるようにして半身こちらに振り返り、こう告げてきたからだ。

『来ていただければ、あなたの疲れを早く癒すことが出来ます』

やや早口ながらも、狩人に対していた時とは全く違う、
穏やかで透き通る声で。

『ご心配なさらず。あなたが築かれた「門扉」はしばらく持ちこたえ、軍団はその間足止めとなるでしょう』


『第二の門も、軍勢が抜けられるにはもうしばし時間がかかります』


完璧な『日本語』で。



『―――さあ、我らが「兄弟」の友、「上条当麻」の共よ。どうぞご一緒に』

925 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/17(火) 03:17:18.52 ID:KbaGCBnho

そうして一瞬。
視界が光に包まれたのち、目に写った景色は一変していた。

そこはどこかの『丘』だった。

涼やかな風に靡く、延々と続く新緑の原。
大気は穏やかで心地よい、柔らかな光に満たされていた。

同じく神々しくも、先の門があった界域のどぎつい、
さながら電子レンジに放り込まれたような錯覚を覚える光とは大違い。

一瞬、人間界とも思えてしまうくらいに身近で親しく感じられる場だ。


一方『―――……』

優しげな陽光に、頬を撫でていくそよ風と、さあっと波打つ原が奏でる心地よい音色。

今や世界を跨いで切迫した『戦争』が繰り広げられているというのに、
獣のように戦うことしか能がない(彼自身がそう思っているだけであるが)彼ですら、
柄にも無くこの場に留まりたい、そんな願望がふと湧き上がるくらいだ。

傍ら、それと同時に。
彼はこんな禍々しい容姿の己がひどく場違いに思ってしまっていたが。

そんな彼の思いに気が付いたのであろう、
深緑の天使はお気になさらず、とだけ優しげに告げて、ついてくるよう身振りで示した。


丘の峰に沿い、一筋の舗装されていない道が続いており、
そしてその先の丘の頂上には、二本の細い若木が立っていた。

いや、若木に見えたのはざっと遠くから覘い場合で、
よく観察してみると、その木皮のくたびれた具合からかなりの樹齢を誇っているとも取れるか。

ただし若木か老木か、明確に判断を付けれるほどにまでは彼は固執しなかった。
すぐに別のものに意識が移ったからだ。


彼からみて奥側の木の根元に―――二体の天使が座っていた。
926 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/17(火) 03:20:29.55 ID:KbaGCBnho

一方は黄金と言うよりは黄色か、そのようなこれまた上質な甲冑を纏った、
面長のほっそりとしたやや厳しい顔つきの男性的天使。

もう一方は甲冑ではなく緩やかな衣に身を包んだ、
(と言ってもそれが本当に衣なのか、それとも皮膚なのかは判断付かないが)
穏やかそうな女性的天使であった。

一方『……』

二体は一方通行の姿を目にすると、その彫像のごとき顔向けて小さく会釈。
そしてすぐさま再び顔を戻して座ったまま動かなくなった。
その様子は『瞑想』しているようにも見えるか。

そんな二方を横目に、先導していた深緑の天使に促されるままに手前の木の根元に座る一方通行。

そこから彼はてっきり、先のこの天使の言動からも治療的なものでもするかと思っていたのだが。
深緑の天使はそんな一方通行の傍にて、静かに佇んでいるだけであった。


まさか木陰で休めば、疲れが癒されるのが早くなるとでも言うのか。
そんな風に思った―――その矢先。

ここで、彼はやっとここで休む本当の意味を理解する。

一方『……………………』

なんと座っているだけで―――いいや、違う、この木の根元にいるだけで、
みるみる力が回復していくのである。
己の奥底から滲み出てくるかのように、全身が癒されていく。

生まれて初めてとも言って良いくらいの安からな感覚だ。


『ここならば、しばらくの間は四元徳公閣下の手も及びません』

傍らから、穏やかな口調でそう告げる深緑の天使。
この時ふと、一方通行は彼が口にした『四元徳』という言葉に意識を留めて。

一方『…………アレが四元徳か?』

そんな風にぼそりと問うた。
『アレ』とはもちろん双頭のドラゴンであるのだが、
その部分をばっさり省略するという、聞きようによっては漠然としすぎて誤解を招きかねない言葉数で。

ただ意図は正しく伝わっていた。
深緑の天使はするりと滑らかに答えた。


『はい。かの御方が四元徳が一柱、フォルティトゥード公閣下です』
927 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/17(火) 03:23:05.78 ID:KbaGCBnho

一方『……』

やはり、と言った所か。
あれがアレイスターの話にも前から出ていた四元徳、天界の親玉か。

この時一方通行は、少しばかり安堵の息を吐き出した。
確かにあの四元徳とやらはいまや己と互角かそれ以上の強敵だ。

だがそれでも―――十二分に勝負できる相手であることには変わりない。

ダンテやバージルのような、もう何をどうしたって勝てそうもない存在ではない、
それだけがはっきりしただけでも充分に良い兆候である。

そうして一方通行は、この味方であろう深緑の天使に重要な事柄を続けて問うた。

一方『なァ、その四元徳も復活はできるのか?できるとしたら何回だ?』

これもはっきりしなければならない。
この点の正否が、今後執るべき戦い方を大きく左右するのだから。

と、そこで告げられた答えは。


『大まかに見積もるとフォルティトゥード公閣下は、かの御方の専用貯蔵量だけでも約6000回、復活が可能かと』


愕然とせざるを得ない数字だった。
だが直後、そんな絶望に叩き落された一方通行を一転して引き上げる答えが続く。

『ただし「加護」は、二つの併用は叶いません』


『フォルティトゥード公閣下は現在、「強魂」の加護をご使用中ですので、復活は不可能です』
928 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/17(火) 03:26:58.71 ID:KbaGCBnho

一方『―――あン?』

『強魂』とはあの強化のことであろうか。
強化を使用中の今は―――復活できない?
思わず一方通行は聞き返し、己の認識が正しいかどうか確認した。


一方『つまり強化中に殺しちまえば、そのまま死ンじまうってことか?』


『はい』

これはなんと素晴らしい情報か。
一度の勝利であの親玉を倒せるとなれば、この戦争における勝利もぐんと近づく。

『ですが油断なさらぬように。最大まで「強魂」なされた四公閣下は、全天が反逆したとしても敵わぬ武を誇ります』

『あなたよりも確実に強いでしょう』

だがそんな良い兆候の頭を押さえつけるかのごとき、
やや声のトーンを落としての重量ある忠告。

一方『……』

恐らくこの天使も門の前における己の戦いを見、ある程度こちらの力量も知っているであろう。
その上でのこの物言いは、信じるに足る忠告と判断できる。

最大まで強魂した四元徳は己よりも強い、と明言するのならば、恐らくその通りなのであろう。
それにこれがもしも、もし万が一に誤りである忠告だとしても、過小評価して失敗するよりもずっとマシだ。


一方『スパーダの一族並みに強くなンのか?』


そしてそれらを踏まえて、一方通行はすっぱりとした口調でそう問い返した。
これもまた再度確認しておかなければならない。
『強さ』という尺度には『戦える限度』と言うものがあるのだ。
929 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/17(火) 03:32:05.20 ID:KbaGCBnho

対して答えは。

『いえ、さすがにかの領域までは至りません』

これには深緑の天使もきっぱり。
その声を聞いて、一方通行は小さく笑みを浮べた。

一方『なら―――イケる。少なくとも一切歯が立たねェなンてこたァねェ』

そして特に意識しているわけではなかったが、
どこかの『誰か』に似た不敵な笑を。


一方『ぶン殴れるなら―――それで充分だ』


それは決して慢心からくるものではない、
己の力と己そのものを知り尽くし信頼している上での自身だ。

この時、ふと一方通行は傍の深緑の天使の顔を、
己と似た表情を浮べている彼を見て、こう確信した。

この天使はこちらい大体の力量どころではない、
過去にバージルに血を流させたことすらも知っている、と。
930 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/17(火) 03:35:44.25 ID:KbaGCBnho

ふん、と笑いまじりに鼻を鳴らし、
一方通行は更なる情報収集を試みる。

一方『ちなみに他の天使達はどォなンだ?「残機」は?連中も強化中なら一度で殺せるのか?』

『あれほどの「強魂」は四公閣下しかできません。他の者ができたとしても、負った傷を癒す程度です』

一方『……』

その言葉で一方通行は悟った。
今の己を治癒している現象も―――『ソレ』なのであろう、と。

ただそこで彼は話を止めはしなかった。
更に続けて天使が重要な事を口にしたからだ。

                                            ヘイロウ
『それと四公閣下の「強魂」は、きわめて莫大な量の「魂」を消費します』

『今頃フォルティトゥード公閣下の専用貯蔵庫は空となっており、更に軍団用の各貯蔵庫からも吸い上げていることでしょう』

一方『そィつは、つまり……』

『はい、全軍団の復活の残り回数も必然的に減ります』

『そしてもし、フォルティトゥード公閣下に続きテンパランチア公閣下も最大まで「強魂」なされれば―――全ての貯蔵庫が空となるでしょう』

一方『そォなれば全部の天使が復活できなくなるってわけか』

『はい』

これもまた納得か。
四元徳の強化とやらは、とても易々と使えるものではないのだ。

長き時をかけて溜めに溜めてきた魂を、天の軍事力の要たる桶をたったの一度で空にしてしまう、
まさに天界の総力と引き換えにする『最終奥義』なのである。

一方『四元徳ってのは何人いる?』

『現在は、フォルティトゥード公閣下とテンパランチア公閣下のお二方です』
931 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/17(火) 03:39:15.06 ID:KbaGCBnho

なんと素晴らしい情報か。
この二人を追い詰めてこの最終奥義を使わせてしまえば、もう天使達は不死の軍勢ではなくなる。
天界という勢力としての力は一気に凋落するのだ。

確かにあれほどの存在を追い詰めるのは非常に難しいことであろうが。
それでも頭数では圧倒的に劣勢である以上、
何千回も復活する天文学的数の軍団を相手にするよりは、標的を二個体に絞った戦いの方が遥かに易い。

と、頭数の問題が頭に浮かんだところで、一方通行はこう問うた。

一方『そォいえば、オマエ達は下に行けねェのか?できれば下に加勢してもらいてェンだが』

『人間界へと続く門は、四公閣下の許可無く通過できません』

『私達程度では強行突破も叶いません。現在形成中の第二の門も同じく、ですから―――』


一方『―――ヴェントって奴か』

と、そこで一方通行はふと思い至って、
打ち止めを介して伝えられてきた名を口にした。
ローマから来た半天使とやらである。

そしてこれまた、その名だけでこちらが言わんとしている事が伝わったようだ。


『そうです。強き人の子に力を託し、その身で戦えぬのならば、せめて彼らの刃となり盾になるのです』

深緑の天使は、首を小さく掲げるようにして背後、
奥の木の根元に座っている二体の天使を指して答えた。
932 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/17(火) 03:42:57.64 ID:KbaGCBnho

一方『そォか。オマエは、誰にも力を与えてねェみてェだな』

『はい……私と互換する者は、少し前に命を亡くなりまして』

その時、金色の光を湛えた彫像の優しき瞳がゆらりと、
申し訳無さそうに細く煌いた。

一方『……』

それもまあ仕方の無いことであろう。
神の領域の力を、そう簡単に誰でも関係なく託せるわけがない。
素養がある者を探すのも一苦労なのが用意に想像できる。

一方『気にするな。別に文句がある訳じゃねェ』

一方『そのおかげって言っちまゥのも難だが、こォしてオマエに助けてもらってるしな』

そこで会話が途切れ、
両者の間に静かな空気が流れ数秒、一方通行がぼそりと、思い出したように口を開いた。


一方『家族、なのか?俺をここに連れて来る前にいた奴は?』

深緑の天使は少し言葉を溜め込むようにして答えた。


『……はい。彼の生まれは私とは違い人間界ですが、共に同じ血と力と杯と―――父の祝福を受けた愛する兄弟です』


一方『元人間……か』

それならあの人間としか思えない感覚も納得であろう、とここで確信する傍ら、
一方通行は少し心にトゲが刺さる思いを覚えた。

『愛する兄弟達』、臆面も無くそう口にできる相手に向けて、
この天使があのように淡々と宣戦布告していた光景を思い出して。

そして同じく『真の絆』を有していたからこそのであろう、
あの狩人の瞳に微かに見えた―――翳りの色を。
933 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/17(火) 03:44:43.00 ID:KbaGCBnho

深緑の天使は小さく頷くと、奥の木の方に顔を向けて、
すっと伸ばした手で二人の天使を指して。

『手前の彼はウリエル。奥の彼女はガブリエル。同じく私の兄弟です』

『そして下に降り、あなたの同志方と刃交えている五名も同じく』

一方『……皆、生まれも天界か』

『そうです』

これはあえて確認することでもなかった。
どこをどう見ても彼らが生粋の天界の者だとわかるのだから。

だが一方通行は、わかっていながら問うたのだ。
次に続く質問の準備として。


一方『…………上条は?アイツとも兄弟なのか?』


そして彼は、ついに真に聞きたかった問いを放った。
対して深緑の天使は、小さく微笑み。
より丁寧により優しくこう答えた。


『はい。彼の遥か前世から。そして彼が人となり魔となった今も変わらず』

934 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/17(火) 03:46:18.93 ID:KbaGCBnho

一方『…………アイツに会いたいか?』


『ええ。それはもう。ガブリエルは先に会いましたがその時、彼女以外は皆ちょうど席を外しておりまして』


一方『…………』

それ以上何を聞く事があろうか。
この微笑み、この空気、この声色。

瞬間の深緑の天使の様子が、
知りたかったことを全て、充分すぎるくらいに物語っていた。

そう、わかるとも。
あの男は遥か前世ずっと大昔空も何一つ変わらず、
短絡的で偽善者で救いようのない馬鹿な人格そのままであったのだと。
そんな『嬉しさ』に思わず、一方通行の口端から笑いが毀れた。

そしてまた数秒の会話の途切れののち、彼はもう一つ問うた。

これもまた聞きたかったことだ。
いや、今こうしてこの天使と話したからこそ聞きたくなったことだ。


この深緑の天使達の目的が知りたかったのだ。


一方『オマエ達はなぜ、俺達の味方をする?』


ここまで強い絆で結ばれた家族を、
真っ二つに割ってしまうことも厭わずになぜ戦うのだ、と。
935 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/17(火) 03:50:29.71 ID:KbaGCBnho

一体どんな理由が、そこまでしなければならないほどに追い詰めるのだろうか。
己の身に置き換えてみると、一方通行にはとても考えられなかった。
いや、考えたくも無かった。

黄泉川や芳川、そして打ち止めと殺し合うことも辞さないほどに対立するなんて。

深緑の天使は少し押し黙り。
静かに、一言一言確認するかのような口調でこう答えた。


『私達も、また四公閣下の側についた者達も、信じるもの―――戦う理由は同一です』


『古から今までも一切変わらず、みな愛する者達のために刃を振るっております』


『ただ……唯一異なっているのは―――選んだ「手段」ですね』


一方『……』

何のために家族を切り捨てたか、という一方通行の問いの真意に対して、
この天使は、その問い自体が間違っていると返したのだ。

『何かのために家族を切り捨てた』わけじゃない、
それぞれが信じる道を進んでいる内に―――道の方が勝手に分かれていったのだと。



一方通行が天使の答えをかみ締め、続く問いの言葉を選んでいたとき。
ここで深緑の天使は思い出したように声を切り替えて。


『それと失礼、申し送れました。私の名は―――ラファエルです』


一方通行に名乗った。


一方『……ラファエル、か。アイツに会ったら伝えておくぜ。オマエに会いに行くように』

一方通行はあえて、上条当麻が『引きずり出される』ことが決まりきっているような口調で返した。
対してラファエルもまた、同じ調子でこう言った。

ラファエル『ええ。いずれ機会があったらどうかよろしくお願いいたします』

ちなみにこの後、一方通行は再び上条当麻に会うことができたが、
ラファエルが再会することは結局叶わなかった。

一方通行が上条当麻と再会した頃には、この天使は死んでいたのだから。

―――
936 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2012/01/17(火) 03:51:37.48 ID:KbaGCBnho
今日はここまでです。
次は木曜に。
937 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/01/17(火) 03:57:29.90 ID:mrIWC3nDO
乙!

一番良い装備のメタトロンきたのか?
938 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/17(火) 04:06:18.57 ID:vm5Pv+Ubo
お疲れ様です
ラファエルさん・・・(´・ω・`)
939 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/17(火) 07:03:22.28 ID:SMkLlLzj0

四大天使きたあ

こいつらってこの作品では大天使扱いだっけ?
なんか作品とか資料によっては熾天使だったりするが
940 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/01/17(火) 07:42:16.08 ID:55SUZ+v1o
お疲れ様でした。
941 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/01/17(火) 08:55:00.12 ID:LZWXZpsU0
今の覚醒一方さんてどんぐらいの強さ?
強化前の四元徳より強いみたいだから大悪魔頂点クラスと覇王クラスの間くらい?
942 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/17(火) 09:04:14.53 ID:kxGY2YrDO
>>941
能力なしのアスタロトレベルだったはず
943 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/01/17(火) 10:27:21.32 ID:LZWXZpsU0
>>942
ありがとう

一方さんはそれぐらい作中でも結構上位の存在だけど
>>684でかなり格下の天使(強化ナシ)に血を流す程のダメージを受けるのはどういうことなんだろ?
944 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/01/17(火) 10:56:06.34 ID:Fhwgt+9w0
どれだけDMCをやりこんでも
突然襲いかかられるとダメージ受けちゃうだろ?
そういうことだ
945 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/01/17(火) 12:43:06.68 ID:0mcF959fo
、常に最大防御状態を保とうとしたらどれだけエネルギー消耗するのかと。

最近のゲームでもスルーされてる話なんだけど、なぜか常に最大値を保ち続けれるみたいなのが多い。

防具や武器だって、状態によっちゃ性能低下したりするのにね。
946 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/01/17(火) 14:26:49.40 ID:aULV9T0AO
てか>>684のちょい前に書いてあるぞ
一方さんに一撃くれたのは、そこらの雑魚とは格が違う巨人天使
一方さんからしたら「強敵」ではないってだけで
表現としては「強い」んだから傷つけられてもおかしくない
それに殲滅重視で最大火力で暴れ回ってんだから
防御まで完璧なわけがない
ましてや隙突かれてんだし
947 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/17(火) 17:24:16.82 ID:4hSupquIO
メタトロンとかサンダルフォンはどのくらい強いんだろ
948 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/01/17(火) 19:10:23.01 ID:5MOpywKpo
人だって蚊に刺されれば血が出るだろ
949 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/01/17(火) 20:06:36.88 ID:LZWXZpsU0
色々分かりやすい説明サンクス
いくら格下と言ってもダメージ通らない程弱い訳じゃないのね

それに不意打ちだったらしゃーないな!
950 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/01/17(火) 23:42:39.07 ID:EbYCeiGUo
乙です。今度は天界側の面々にもいいキャラが。
>>939
天使単体としては最上位だけど、四元徳とかアマテラスよりまだまだ下。
少し格下のM字開脚に集団レイプされたら敵わない程度。
951 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/01/18(水) 03:24:57.53 ID:5clwA5RE0
>>950
(;゚Д゚)酷い例えだなオイwwww
952 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/18(水) 07:41:03.51 ID:SoVlXA+DO
ジョイさん初登場は色々酷いw
953 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/18(水) 11:32:21.05 ID:FpYHUOiAO
油汚れに
954 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県) :2012/01/18(水) 21:34:53.70 ID:Ah6ZR6EK0
なんか文体変わった?
どんどん文章が上手くなってくな〜
955 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/01/18(水) 22:22:39.96 ID:kv6Y1j9to
俺は回りくどくなったように感じるけどな
無論・・・だが。
とかの言い回しもちょっと気になる
956 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県) [sage]:2012/01/18(水) 22:44:47.86 ID:d6TOOFDq0
遅くなったけど乙
ミカエル「あれ?俺ぼっち?」
957 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/19(木) 01:26:15.26 ID:EyLSyaGDO
>>956
…………?お前は何を言ってるんだ?
958 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/20(金) 02:09:58.68 ID:6VFmKQ1po
―――

学園都市の防衛戦は現在、
何もかもが切羽詰まっている猫の手も借りたい状況である。

ステイルとの繋がりから見える一進一退の戦況を視て、
今まさに神裂もこの防衛戦に参じようとしていた。

竜王、上条、テメンニグル等々、問題は次から次へと生じ山積みであるも、
それらは己の仕事ではないと彼女は悟っていた。

竜王に関しては先ほどバージルとベヨネッタが今後の方針を速やかに定めたし、上条当麻のことだって。

神裂「……」

こうしてすでにインデックスが取り組み始めている。

小さな魔女は神裂手を握りながらも、
まるで彼女の存在など『忘れてしまっている』かのような様子であった。
肩に乗っている相棒たる子猫ですらも、意識の外に締め出されているかもしれない。

瞬きもせずに床の一点を見つめ、細かに口を動かしては『声のない独り言』を呟く。
全ての意識が内側へと向き、猛烈な速度で思考が巡っているのであろう。

繋いでいた手をそっと離しても、彼女が気付いた様子は無かった。
神裂はそのまま静かな足取りでアイゼンの脇まで歩み。

神裂「私は学園都市へ」

アイゼン『…………うむ』
959 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/20(金) 02:11:46.43 ID:6VFmKQ1po

アイゼンの返事は力のないものだった。

先ほど激昂してしまったためか、少々疲れを覚えているのであろう。
仮面の下に見える瞳の輝きもややおぼろげに揺れていた。

神裂「では」

じゃらじゃらと腕輪を鳴らすアイゼンに軽く礼をし、
次いでバージル、ベヨネッタ、ジャンヌへと目配せ。

そして出撃の前にもう一度、インデックスの方を見ようとした時。


禁書「―――かおり!待つんだよ!」

振り向くよりも僅かに早く、当のインデックスに呼び止められた。
あのフル回転の思考はもう一段落したのか、片腕の無い小さな魔女はぱたぱたと走り寄って来。

禁書「私も一緒に連れて行って!」

神裂「っ?」


禁書「―――ベオウルフと話がしたいの!」


これに対する神裂の返答は、声にするまでも無かった。
その表情にはっきりと示されていたのだから。
960 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/20(金) 02:13:49.43 ID:6VFmKQ1po

神裂のベオウルフへの印象は、ステイルの認識と同じく最悪どころではない。

人物としてはその来歴からしてとても信用できるわけがなく、
また現在、上条当麻から『視覚』を奪いかつての力を取り戻しているため、
脅威度も遥かに跳ね上がっている。

この大悪魔と見張っているイフリートが形成しているあの場は実質、
極度の緊張が張り詰める『冷戦地帯』なのである。

そんなただ中へインデックスを連れて行くなんて、とても承諾できることでは無い。

神裂「それは―――」

そうした考えを明確に示す表情に続き、彼女が声にもして返答しようとすると、
インデックスは大きな瞳で神裂を見上げ。


禁書「ベオウルフの力も必要なの―――!」


ここで勇気と覚悟を胃の中に落とし込むように一度ごくりと喉を鳴らして、
『小さな魔女』は更に確かな声でこう告げた。



禁書「―――とうまを『強制召喚』するために!!」


―――
961 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/20(金) 02:15:59.28 ID:6VFmKQ1po
―――

ステイル「……」

イギリスからの一団の到着によって、
学園都市の置かれている状況は幾分か好転していた。

確かに虚数学区上では、カマエルに続き四柱もの強大な天使の降臨を招く結果となったが、
それでもアニェーゼ隊と天草式隊の刑98名、
フォルトゥナ騎士団192名という戦力が学園都市に配備されるのは願ってもないことであった。

それにキャーリサ率いる一団が来なくとも、
カマエルが己だけでは風斬とアグニを処理できないと判断すれば、
いずれは他の四柱も降臨していたであろう。

また、このイギリス隊の到着の直後に完了した、
一方通行による天の門の封鎖も非常に良い兆候である。

門はもう一つ存在すると示唆されているが、そちらもまだ完全に使える状態ではないらしく、
現在、天の軍勢の後続は完全に途絶えていた。


ステイル「…………」

ステイルはアスファルト状に浮かび上がっている魔術による立体映像、
学園都市と虚数学区の簡略化された地図を眺めていた。

そこは窓のないビルのすぐ脇に置かれた臨時の『本陣』。
大悪魔の突入によってビルの壁が完全に倒壊しているため、
少し声を張れば屋内にいる海原達にも容易に肉声が届く位置だ。
962 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/20(金) 02:18:59.29 ID:6VFmKQ1po

ステイル「…………」

この立体映像は、打ち止めとリンクしている端末からの情報をそのまま魔術映像に投影するという、
海原が作成した魔術・科学の融合技の一つだ。

とはいっても、単にディスプレイ面に魔術を被せ、
表示される情報を人間の目と同じく『見て』読み取っているだけのきわめて簡素なものであるが。

学園都市の地図上には、天使の反応はどこにもなかった。
前述のとおり第一の門が封鎖されてからは、雑魚天使は一体たりとも降りて来ることは無かった。

映像に表示されている敵の天使は、
一層上の虚数学区上にいるかの五柱のみだ。


建宮「配置、整ったのよな」

その光点をジッと眺めていたところ、隣に立っていた建宮がそう報告してきた。
ステイルは物言わずに正面、立体映像を挟んで向かいにいるアニェーゼと、
三十代半ばほどのフォルトゥナ騎士隊長を続けて見やった。


学園都市側の防衛線の主戦力は、192人のフォルトゥナ騎士である。

彼らを8〜10人ずつに分け、学園都市の地理に明るい天草式と、
支援要員としてアニェーゼ隊の者達を数人ずつ付けては、
学園都市の要所、主に市民が避難しているシェルターの上に配置。

そして特に精鋭を集めた三組ほどは定点配置せずに、
それぞれが建宮、アニェーゼ、騎士隊長が指揮を執る遊撃部隊とする。

これが学園都市の防衛配置の概略である。
963 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/20(金) 02:22:22.96 ID:6VFmKQ1po

ちなみにこの街にやって来たアニェーゼ隊は68人、天草式隊は30人だった。

今回、ステイルはイギリスにおける戦闘には参加していないが、
建宮やアニェーゼの表情を見ればどれだけ苛烈なものであったかは一目瞭然。

それゆえにステイルは判断しかねていた。
この68人と30人という数は、『選抜されてきた者達』なのかそれとも部隊の『全人員』であるのかは。

ただ建宮は、ここに合流した際に「天草式隊の『全』戦闘可能人員『30』名」と報告していたため、
ある程度の推断は可能である。


天草式の残りはみな、ひどく負傷してイギリスに残っているか、もうこの世に残ってはいないかだ。


ステイル『…………』

四人の指揮官は一言も発さなかった。

みなじっと立体映像を見据え、戦争のただなかでぽっと生じたこの一時の静けさに浸っていた。
それぞれがふと、『今』の状況では『余計な』ことを考えながら。

アニェーゼや騎士隊長は失った部下や仲間のことを、加えて建宮は神裂のことも考えているのであろう、
彼は無言のままフランベルジュの柄を指で叩きながら、ステイルを数度横目で見やっていた。

そして当のステイルの脳裏をぐるぐる巡っているのは、今しがた神裂越しから聞いたインデックスの話である。


このような状況下におけるやる事が無くただ待機するという時間は、あまり歓迎できたものでは無い。
考えなくてもよいこと、考えても無駄なことを意識しがちになってしまうのだ。

ただそこで意識がふと醒めてしまっても、彼らの集中・緊張の糸が緩むことはなかった。
界上の虚数学区から、この現実から絶対に逃避させてくれない、
断続的な激音が轟いてきていたのだから。

いまにもこの世界の天蓋が割れ落ちてくるかというほどの。

―――
964 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/20(金) 02:23:21.88 ID:6VFmKQ1po
―――

虚数学区にて行われているのは、
五つの一対一のではなく、一つの五対五の戦いだった。

始まりの一撃は―――


キャーリサ『―――はッ!!』


―――獅子たる姫が撃ち放った一振り。

『父』の力を帯びたカーテナの切っ先が、キャーリサの正面の景色を『両断』する。

アスファルトに不気味なまでに滑らかな溝が走り、
この場に満ちる高濃度の力もろとも大気を分断、空間と次元の何もかもをも切り離していく。

ただしその刃ですらも切断できなかった存在が一つ。
彼女の真正面、50mほどの地点にさながら巨塔のごとく聳えていた―――カマエルの『大盾』だ。

この真紅の防壁の前に、金色の光の刃は無残に砕け散っていった。

ただそれを目にしても、
キャーリサの手は動じることなく流れるように続いた。

キャーリサ『ふッ―――』

軽く息を吐きつつ振り下ろしたカーテナを切り返し、次は水平に薙ぎ振るい―――前方の景観に十字を刻む。
965 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/20(金) 02:26:26.47 ID:6VFmKQ1po

またしても虚数学区上に刻まれる容赦のない断絶。
陽炎の街の続く限り遥か彼方まで、
カマエルの大盾だけを残して、街灯からビルまで何もかもが切り倒されていく。

そしてこの二撃目が、双方にとっての開戦の合図となった。

キャーリサの両脇にいた四者、
魔像を纏う人間、半天使、人工天使、そして炎剣の大悪魔が、この放たれた光の刃を追うようにして飛び出し。

対して。
軽く跳ねてはキャーリサの光の刃を回避していた、カマエル他の四天使達も、
すぐさま宙の『空間』を蹴り、爆発的速度で突進。

両陣営は、ちょうど互いの中間点で激突した。

色とりどりの閃光が瞬き、光の衝撃波が何もかもを砕き掃い、
極度の力の集中が虚数学区に悲鳴を奏でさせていく。

キャーリサはすぐに仲間の四者を追って駆け、その眩い爆轟の中へと飛び込んだ。


その空間はこの時点から、
もうすでに両者入り乱れの混沌とした乱戦となっていた。

両陣営のみなが、特定の相手に狙いを定めてなどいない。

誰のものだろうと関係ない、放たれてきた攻撃は片っ端から防ぎ。
誰であろうと関係ない、目に付いた味方を庇い、
目に付いた敵には片っ端から攻撃を叩き込んでいくのである。
966 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/20(金) 02:29:47.98 ID:6VFmKQ1po

例に漏れず、飛び込んだキャーリサもまず目にとまった敵へと切りかかっていく。
 
光で形成されたウォーハンマーを両手に持ったヴェントと
目にも止まらぬ打ち合いを繰り広げていたところの天使、
両手にエストックに似た細身の長剣を有するザドキエルだ。

キャーリサは短く息を吐き。

キャーリサ『―――はッ』

真横から、ザドキエルの首を切り裂くべくカーテナを振るった。
するとこの天使はすかさず半身振り向き、彼女のカーテナを片方のエストックで弾きいなした。

キャーリサ『ッ』

飛び散る閃光、そして柄を握る手に伝わる衝撃。

神域の天使の膂力はそれはそれは凄まじいもの。
カーテナは大きく外へと弾かれて、彼女の体もつられて捩れていく。

だがそこで彼女はあえて慣性に身を任せ、己が体を軽やかに回転させた。
瞬間、彼女には一瞬の隙が生じたが、ここにザドキエルからの反撃が叩き込まれることは無かった。

それとほぼ同時にヴェントがすかさず、
もう一方の手にあるウォーハンマーをザドキエルの胸元向けて振り抜いていたのである。

ザドキエルにとっては片方のエストックはキャーリサの攻撃をいなした直後、
もう一方はこのヴェントの一方のウォーハンマーと激突中、という危機的状況だったか。

だがこの天使は刹那、なんとかカーテナを掃ったばかりの剣を引き戻し、
柄の部分でヴェントの一撃を見事に横に打ち弾いた。

ただそれでも。

直後、ちょうど一回転したキャーリサからによる、
より加速した一撃を防ぐ手は残っていなかったが。
967 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/20(金) 02:32:28.46 ID:6VFmKQ1po

真紅のマントを大きくなびかせて、カーテナを振り上げるキャーリサ。
勢いに乗った『父』の力に満ちた刃が、ザドキエルの脳天を叩き割る。

完璧な一振りになるであろう。
ザドキエルもその瞬間、己の敗北を確信したはずだった。

もしこの戦場に、他の人物達がいなかったらの話であるが。

キャーリサ『―――』

刹那、己が身に迫る斜め後方からの攻撃にキャーリサは気付いた。

ゆえに。
振り上げられたカーテナが、下ろされて天使の脳天を叩き割ることはなく。
逆に更に押し上げられるようにして、その刃がキャーリサの背面にまで伸ばされた。


そして直後。

僅か一瞬の差で、このカーテナに巨大な曲剣の刃が激突した。
『父の刃』は間一髪のところで、この獅子たる姫の背の分断を防いだのである。

それはラジエルが振るった、
彼の身長の2倍以上、実に6mにも達しているかという巨大な曲剣だった。


キャーリサ『―――ッぐ!!』


なんとか足を踏ん張り、押し出されぬようこらえるキャーリサ。
その間にザドキエルは一歩後方に跳ね。

すぐさま体制を立て直すと再び一歩、前へと跳ねだしてきて、
今度はお返しとばかりにキャーリサへと刃を突き上げてきた。
968 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/20(金) 02:34:48.75 ID:6VFmKQ1po

瞬間、彼女もこの天使に合わせるように一歩下がりつつ。

カーテナの柄頭をそのまま上方にした背負うような姿勢のまま、
半身そっぽ向くように身を捻ってエストックの一本目を掃い。

もう一歩下がり、今度こそカーテナを振り下ろして二本目のエストックの切っ先を叩き落す。

寄るザドキエルと下がるキャーリサ、その『息の合った』足並みは、
劇中で姫が言い寄る男を避ける一幕にも見えるほどのものか。

飛び交った刃が真剣である、きわめて危険な劇であるが。
そしてこの劇は更に即興で展開していく。


ザドキエルの猛攻を、カーテナで弾きいなしていくキャーリサに向け、
今度はラジエルが横から再度巨大な曲剣を振るった。


と、その刃を受け止めるは―――炎剣の大悪魔、アグニ。

首のない巨体が割り込み、ヘビー級の刃同士が激突。
猛烈な衝撃と業火が吹き荒れ、
ただでさえ砕かれ原型を留めていない街並みが、今度は赤く歪み始めていく。

そんな重い刃の押し合いは、アグニの勝利に終る。


周囲でキャーリサやザドキエルや、他の者達が目まぐるしく打ち合いをする中、
繰り広げられた猛烈な鍔迫り合い。

それは、炎剣の大悪魔がぬんっと一気に押し弾くことで終結した。

大剣ごと大きく後方へと押し出されていくラジエル。

そこへ目掛けすかさず追い討ちをかけるべく、アグニが前へ―――飛び出そうとするもその時。


背丈ほどの大槌を持った、少し小柄な女性的天使―――ハニエルが、
上方からその重き一撃を叩き落してきた。
969 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/20(金) 02:38:17.51 ID:6VFmKQ1po

この瞬間に示されている状況こそ、この『劇』の大きな特徴である。

双方とも、中々追い討ちをかけることが出来ないのだ。
戦いの最中で瞬間的、局地的に優勢に立つことはできるのだが、
そこから決定打へと繋げることがきわめて難しい。

ここで追撃すれば相手を倒せる、そんな瞬間に、
まるで示し合わせたかのように別の者が割り込み、
状況が仕切り直されてしまう。

そこにはバランスも膠着性も存在していない、あるのは『即興』の書き合いだ。

両陣営とも次から次へと刃で『戦い』を書き連ねていき。
限界に達して、相手がついにアドリブに対応できなくなる瞬間こそが、真の狙い。

それがこの外道非道邪魔者上等、決闘的要素などクソ食らえ、
勝ちさえすえば『全て良し』という乱戦のたった一つの『テーマ』だ。


すかさず本体である魔剣を掲げ、上方からの強烈な一撃を流し落とすアグニ。
ハニエルはひらりと彼の前に下りると、すぐさま地面を踏み返しては突進、
その身と不釣合いな大槌を軽々と振り抜いてゆく。

火花と火の粉を散らし、凄まじい速度で手数を重ねていく炎の魔剣と大槌。

爆轟が何十にも重なり、周囲の者達が放つ衝撃と入り乱れ共鳴、
この陽炎の町を更にずたずたにしていく。

これが学園都市で行われていたら、どれ位の被害を招いていたことであろうか。
『局地的』に見れば、かの魔帝との争乱と並ぶ爪あとを人間界に残していたかもしれないほどである。
970 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/20(金) 02:41:56.90 ID:6VFmKQ1po

小柄なハニエルと巨体のアグニが切り結ぶ中、そこへほぼ同時に割り込む者が二人。
先ほど押し出されたラジエルと、ザフキエルと打ち合っていたシェリーだ。

両者はハニエルとアグニのすぐ頭上で激突した。
共にこの下で戦っている敵方の者へ、上方から攻撃を放とうとしての宙での出会い頭の衝突である。

シェリー『らぁあああああああ!!』

蠢く漆黒の魔像、その破城槌のごとき巨腕と、
ラジエルの大曲剣が衝突、その結果は―――ラジエルの勝利か。

彼の刃が、巨腕の手首辺りまで食い込んだのだ。
だがそこでラジエルの勝利と明言できるのは、拳と刃という範囲に限定した場合のみだった。

結果として見れば、
ラジエルの大剣は魔像の腕に捕まれてしまった状態だったのだから。

魔像の胸に埋もれる褐色の肌の女が、カッと笑い混じりに息を漏らし。
次の瞬間、もう一方の巨腕がラジエルの顔面を叩き潰す―――かという瞬間、『またもや』だ。

シェリー『ッ!!』

突如魔像に、真横から激突する―――真紅の大盾。
猛烈な勢いで、カマエルが大盾かざして体当たりをしてきたのだ。

衝撃で弾き飛ばされ、30mほど離れた街中へと落下する魔像。
(ただ街中とはいっても、すでに一帯は瓦礫の更地やら溶解した海やらで原型を留めていなかったが)

ラジエルはその直前に大曲剣をひねり、
魔像の手首から先を切り落とす形で刃を解き放っていた。
971 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/20(金) 02:43:52.29 ID:6VFmKQ1po

シェリー『チッ!!―――クソがッ!!』

一度激しく叩きつけられるも、大地を殴り飛ばしてはにして跳ね、
姿勢を整えて再着地するシェリー。

瞬間、真正面をみやると。
僅か10mほどの場所に、カマエルがもう追いついてきていた。


魔像はすかさず巨腕を構え、この重装の天使を正面から迎え撃った。
巨体のショルダータックルで大盾に激突、衝撃で互いに少し後ろに弾かれ仰け反るも。
これまた同じ速度とタイミングで姿勢を戻し、二撃目を交差。

ただそこまでは互角であったものの、この瞬間に決定的な地力の差が浮き彫りとなる。

シェリー『―――!!』

シェリーは認識した。
ここにいる五柱の天使それぞれが恐ろしく強大な存在ではあるも、
その中でもこのカマエルが特に強いと。


大盾を避けるように、カマエルの頭部めがけて上方を迂回する軌跡で放たれた拳は、
直前にこの天使の大剣で切り落とされていた。


だが彼女もただでは負けない。
魔像は怯むことなくすぐに第二撃―――と、全く同時であった。

カマエルが大盾を一気に前に突き出してきていたのは。

直後、猛烈な激突ののち。
両者は互いに後方に大きく弾き飛ばされた。
972 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/20(金) 02:46:16.14 ID:6VFmKQ1po

即興の書き合い、そこにはバランスや膠着性など存在していない。
継ぎはぎだらけの不安定極まりない劇であり、
ほんの一瞬、ほんの僅かな衝撃で容易に崩れてしまうことだってある。

それこそが両陣営にとってのこの乱戦の中における唯一の明確な狙いだ。

そしてこの時―――ついにその瞬間が訪れた。


シェリー『―――ッ』

仰向けに地面に落下するシェリー。

刹那。
彼女のその瞳が見るのは、魔像の上に飛び乗ってきた―――ザフキエル。
つい先ほど打ち合っていた天使だ。

見事な甲冑を纏った天使は、壮麗な槍の切っ先をまっすぐに『シェリー本体』に向けていた。
今この瞬間に彼女自身の喉元を貫こうと。


この状況に―――『割り込んでくる者』はいなかった。


キャーリサ『―――はぁぁぁぁぁぁぁ!!』


『天界側』には。


シェリーの瞳にザフキエルに続いてうつるのは。
この天使の背後から切りかかり―――その首を刎ね飛ばしたキャーリサの姿だ。


ついで一拍後。
この獅子たる姫の腹を貫き飛び出してくる、エストックの切っ先も。
973 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/20(金) 02:47:56.38 ID:6VFmKQ1po

シェリー『―――ッ――――――』

くるくると回り、少し離れた場所にごとんと落ちるザフキエルの首。
そして首のない体から飛び散ってくる鮮血。

高名な天使がここに一柱、その命を絶たれた瞬間だった。
復活する可能性がきわめて高いが。

ただこの時、シェリーの意識が向いていたのはザフキエルの死ではない。
腹部を貫かれていたキャーリサだった。

キャーリサを追ってきたザドキエルのエストックが、彼女の左腹部を貫通していた。


シェリー『――――――なッ!!!!』


目に見えている光景の意味を理解した瞬間、
シェリーの顔から一瞬にして血の気が失せていった。

その時。

風斬が現れ、ザフキエルへ向け神速で紫電の刃を振り抜くと。
この天使はキャーリサに止めを刺すよりも己の生命を優先したのか、
すぐさま後方に跳ねて離れていった。
974 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/20(金) 02:50:14.98 ID:6VFmKQ1po

シェリー『―――――キャーリサ様ッッ!!!!』


彼女はすかさず魔像から離れて、己が肉体でキャーリサを抱きとめた。
その体を支えた際の衝撃で、甲冑の穴から鮮血がごぼりと毀れおちるのを見て、
シェリーの表情がますます凍りついていく。

するとキャーリサは歯を食いしばりつつもこう口にした。

キャーリサ『ッッ……わめくなッつーの。カーテナが「生きている」内はこの程度じゃ死にはしない』

そしてにっと笑みを浮かべ。


キャーリサ『―――それよりも。今のザドキエル、見たか?どう思う?』


正面、100m程離れているところで、
こちらをじっと伺っている四体の天使を視線で差した。
そう、こちらに向かって来ることは無く、静かに身構えている彼らを。

シェリー『…………はい』

この姫の状態が心配でしかたないものの、彼女も言われるがままに思考を向けた。

先ほどザドキエルは、このキャーリサに止めを刺さずに、
風斬の攻撃の回避を優先させたが、実はそれだと『おかしかった』のだ。

事前情報によると、天使達は復活することが可能。
そうなればあの瞬間ザドキエルは、
風斬に殺されてでもキャーリサに止めを差す方が道理に適ってはいないであろうか。

なにせ、人間側はみな一度死ねば終わりなのだから、
殺せるところでは確実に殺しておくべきであろう。
975 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/20(金) 02:55:11.71 ID:6VFmKQ1po

キャーリサ『……』

そもそも、今のザドキエルの行動以前にここまでの彼らの戦い自体がおかしい。

戦力はほぼ拮抗しているために普通に戦えば長引くのは必須、ならば、
死んでも構わないのなら損害を省みずにもっと攻勢に出ても良いではないか。

だがそうしない。

それどころか、こうして一体殺した途端あの通り。
こちらに向かってくるどころか完全な防御体制に移行だ。

シェリー『……』

彼らのここまでの行動は、ある一つの向こうの事情を明確に示していた。

復活できようができまいが、
『そうポンポンと簡単にこの場に増援を送り込むことはできない』、という点である。

風斬『上に行った「彼」によると門は封鎖、第二の門も恐らく使用にはまだ難があるとの事です』

同じく気付いたのであろう、ここで風斬がこの天使達の行動を裏付けるに足る情報を捕捉する。

正面の四体の天使達からは、増援を待つ間は防御に徹するつもりであろうことが伺えた。

劣勢だった情勢がやっと人の側にも傾き始めたのだ。
ここまでは防衛戦だったが、今度は人界側が『攻撃者』となる番がようやく到来したのである。

―――と。

キャーリサ『…………このまま、一気にぶっ潰すぞ』

キャーリサはシェリーの手を振り払い、カーテナを肩に載せて熱の篭った声で呟いたのだが。
直後、彼らの攻勢は結局お預けとなってしまった。


野暮な第三勢力の介入によって。


そのとき突然、至るところから―――無数の悪魔が出現した。


―――
976 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/20(金) 02:56:13.49 ID:6VFmKQ1po
―――

戦いのなかにぽっかりと生じた、学園都市側の一時の安寧は、
その出現の際と同じように突然終了した。

海原「―――ッ」

無造作に置かれたディスプレイの一つを見ていた彼は、
その瞬間言葉を失う。

打ち止め「たったいへん―――たいへんだッ!!」

慌てふためく打ち止めの声と共に、地図を表示していた画面に表れるは、
侵入者を示すとてつもない数の光点。


天使ではなく―――悪魔の赤い光点だ。

高名な天使の一体を退け、
やっと虚数学区上の主導権を取り戻したと思った矢先に、なんというタイミングの悪さか。

とてつもない数の悪魔が急に現れ、
この瞬間にも虚数学区のみならず学園都市側にまで侵入しつつあった。

海原「ステイルさん!!」

まさに非常事態だ。
彼はすかさず通信魔術を起動させ、待機しているステイルへと呼びかけた。

ステイル『ああ!!建宮達も動かす!!』

ステイル達もここと連動している立体映像を見ていることもあって、状況説明は不要。
準備も万全であったため、その一度のやり取りだけで充分であった。
977 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/20(金) 02:58:41.93 ID:6VFmKQ1po

そうして学園都市側の防衛線は速やかに稼動を始める。

悪魔との戦闘はプロ達に任せることにして、
海原はすぐさまここの『情報部』としての仕事に立ち戻った。

たった今、至急対処せねばならない大きな問題が新たに出現していたのである。

芳川「―――これはどこから来たの?!」

打ち止め「わからないよ!!」

そう、この大量の悪魔の出所が不明だったのだ。

虚数学区と学園都市の両界両域は、完全に打ち止めの監視下におかれているにもかかわらず、
到来の前兆どころか、こうしている今もどこからやって来ているかがわからない。

前触れもなく虚数学区上に溢れ、更に虚数学区上にある『穴』を通らずに、
直接学園都市側にも湧き出してくる始末である。

海原「……」

だが『出所』が存在しないなんてことは有り得ない。
必ず通過してくる領界や、明確な侵入方法があるはずなのである。

ばたばたする打ち止め、せわしなくモニターを見やる芳川を横目に、
彼は一度気を落ち着かせて、褐色の肌のあごに手を添えてはふと思索を巡らせた。

何かを見落としている気が。
答えがすぐ近く、今見ている視界の中にこともなげに示されている気がする。

そうして一からここまでの経過と周囲状況を、すばやくも丁寧に再精査していくと。
案外、答えは容易に見つかった。


海原「―――」

彼はハッと面をあげると、ぽっかり崩壊した壁の彼方に聳えるあるものを見据えた。
遥か高く聳える魔塔―――テメンニグルの塔を。
978 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/20(金) 03:00:40.86 ID:6VFmKQ1po

それとほぼ同時であった。

初春「あの!ちょっといいですか?!」

せわしなくキーボードを叩いていた初春が突然声を張り上げた。

初春「気になるものを見つけたんですが!」

座っていた大きな瓦礫から跳ね降りて、彼女の元へと駆け寄る打ち止め、
芳川も後に続き、ひとまず海原も初春の方へと駆け寄り、背後からモニタを覗き込んだ。

初春「ここの階層の位相データに詳細不明のゆらぎがありますよね?」

皆が集まると、彼女は画面上のある部分を指し示した。

芳川「それは異界の力による影響よ。解析しようがないから処理から除外してるのだけども」


異界の力は、ある程度の環境が整えば観測することは比較的容易であるも、
その力を身に持たぬ者が理解するのは本来困難なことである。

『異物』として検知して位置や動きを監視することは可能ではあるも、
その力の性質や働きを解析してシミュレートするとなるとまた別の話。

更にそのような演算処理に関する問題以前に、
力なき者が理解を試みれば、まず普通は精神が汚染されてしまうという最大の障壁が聳えているのだ。

ゆえに悪魔と天使の力は、打ち止めの演算からも除外されていた。
979 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/20(金) 03:04:56.38 ID:6VFmKQ1po

初春「はい、そうなんですが」

だがそれを『知らない』初春は、今まで通りこの『バグ』の解析を試みていた。
『無知』は時に、画期的なアプローチ方を見つけ出してしまうものだ。

現にここで示した彼女の解析法は、確かに完璧とはとても言い難いも。

初春「少しフォーマットを変えてを再展開してみると……」

一方で精神汚染の危険性もゼロだった。
間にディスプレイを通しているのだから。

魔の力だろうが天の力だろうがAIMだろうが、
彼女にとってはどれもディスプレイ上に表示される数値に過ぎないのである。

キーボードを目にも止まらぬ速さで叩き、
彼女は瞬時に簡略化した解析結果を表示させた。

海原「これは……」

思わず海原は唸ってしまった。

確かに不完全なものではあったが、
大まかな状態を理解するには充分な結果が表示されていたのだ。

テメンニグルの塔は学園都市のある人間界から虚数学区まで、
全ての階層を『貫いて』展開していたのである。
ゆえにここからの悪魔が、虚数学区と学園都市の両方に出現するのも当然の事。


そしてこの『素人』の少女が暴いたのはそれだけではない、
海原がテメンニグルの塔をようやく意識したとき、彼女の視点は更なる先にまで到達していたのだ。

出所が特定されているどころか、
この計算モデルを使用すればある程度の出現位置も特定可能なほどであり。

初春「それとあくまで後手後手で、AIMストーカーが到着するまでの時間稼ぎにしかなりませんが」


初春「虚数学区の一部構造に手を加えることで階層上に『防壁』を敷き、侵入をある程度防ぐこともできます」


彼女は彼女なりの戦う手段も得ていた。

―――
980 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2012/01/20(金) 03:07:25.85 ID:6VFmKQ1po
―――

テメンニグルの塔の中層。
バルコニー状に突き出たとある広間にて。

神父の装束を纏ったスキンヘッドの『亡霊』は、そのオッドアイで遥か下の街並みを眺めていた。

10の『つわもの』達が入り乱れていた虚数学区、
そしてその界下に広がる学園都市―――人間界を。

それらに向けて今、無数の悪魔達が界の割れ目からあふれ出て、
幾本もの漆黒の滝を形成していた。


そんな光景を目にして彼は、小さく歪んだ笑みを浮べた。

まず第一陣の悪魔達の誘導は成功だ、と。
ちょうど魔界の名だたる存在・勢力達がこぞって人間界に向かってきていたところであったため、
さほど難しくも無かった。

そして次にやるべきなのは、この流れの維持である。
つまり今、誰かが行っている魔界の大門の封鎖作業を妨害し、『完遂させない』ことである。

彼は両手を広げて、そのための芸術的な術式を即興で組み上げて稼動させた。


―――この人間の世界を魔に染め上げて、自身は圧倒的な魔の力を手に支配者となる。

そんなおぞましい野望を成就させるために。
手段は状況によって変わってはいるも、その目的は同じ―――あの時と何一つ変わりはしない。

そう、何一つ。


―――
981 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2012/01/20(金) 03:08:14.92 ID:6VFmKQ1po
今日はここまでです。
次は日曜か月曜に。
982 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/01/20(金) 03:37:26.08 ID:rXjwCMxN0
今夜も乙乙

(;´・ω・`)それにしてもこの気○いピエロのオッサン、ノリノリである
983 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/01/20(金) 07:22:43.78 ID:D+kviPYZo
お疲れ様でした
984 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/20(金) 08:11:41.40 ID:AkOXN6rh0
乙乙乙

アグニがあんなに強いなんて…
いつもジャストブロックで弾きまくってごめんなさい(´・ω・`)
985 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/01/20(金) 13:51:04.43 ID:+uW0UakUo
お疲れ様です。乱戦が綱渡り・・・
それでも初春みたいな脇役なれど、舞台にいる役者には違いは無い。すごいなぁ。
986 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/01/20(金) 15:23:29.84 ID:pkco0kaco


禁書グループで今の竜王上条さん除いて一番強いのは一方通行なのか?
987 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/01/20(金) 15:55:32.72 ID:+uW0UakUo
神方通行>天使風斬>デビル神裂>ヤハウェキャーリサ≧ガブアックア≧ウリエルヴェント>ステイル
一読者の視点だと。
988 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/01/20(金) 16:27:57.23 ID:pkco0kaco
>>987
おお、ありがとう
書き込んでからヘタ錬も気になったけど、ヘタ錬はホルスの壁で無理か
989 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2012/01/20(金) 21:25:07.51 ID:6VFmKQ1po
すみません。
以前まとめtxtをあげてくださった方にお伺いしたいのですが、
>>638のリンクをテンプレに加えてもよろしいでしょうか?
990 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/01/21(土) 12:45:19.94 ID:adXzbfUo0
乙tylish
そろそろ誘導してくれると非常にありがたい
991 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2012/01/21(土) 14:04:03.24 ID:MvGhN54no
次スレです。
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1327122014/
次の投下は次スレから、このスレは埋めます。
992 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2012/01/21(土) 14:07:24.48 ID:MvGhN54no
ume
993 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2012/01/21(土) 14:08:07.49 ID:MvGhN54no
ume
994 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2012/01/21(土) 14:08:34.28 ID:MvGhN54no
ume
995 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2012/01/21(土) 14:09:04.20 ID:MvGhN54no
ume
996 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2012/01/21(土) 14:10:25.44 ID:MvGhN54no
うめ
997 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2012/01/21(土) 14:10:53.47 ID:MvGhN54no
埋め
998 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2012/01/21(土) 14:11:19.27 ID:MvGhN54no
埋め
999 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2012/01/21(土) 14:12:04.92 ID:MvGhN54no
                                            __          , - 、      _,、_
                                         └一 、 ̄L__,、   〈  }r─‐冖'ィ^´
                                             L.r‐- 、_  ` ̄` `ア^  {フ }
       , -─- 、                                         , -=マ      、_ |
.       /.::/ ̄`ヽ.:ヽ.                                     //^}::::}      \`´        _
     l:::::}    _ 、::.、             __                    //   ,'.::,' . : :      ` ̄ ̄ ̄ ̄ ̄    ̄>
     l:::/  // ',:::',        _  /.::::}     _                _/.:/    /.::/. : : :                   /
     |/   /.::/.   ',:::',         /.} //}::/      /.::} /}      _, - '7.:/  . ://  /  . :             {
          /.::/     ',:::}        し' {:レ'/      /.:://.:::,′__ _, - '´  /.:/ . : : : :´ _  {  :/. : _            ノ
.         /.::/     }::レ'^V^l /| _ |::/      /.:,:〃..:/ /.::}´__ ,ィ  /.:/. : : : : : /.:::::} 」 /}  { \         /
       _/.::/       ノ.:{::::ソ.:::レ',::レ'::}_ノ:{__,   /.:/.::/}::{_/.〃::レ'.::レ'.::{_ {::: {___/:/^}::レ'::レ'.:::L,  }   、     , -‐′
   __/.:::::`'ー─‐::"´_.:::〔/,イ:::/ `^}:::/{::::ノ _//{:/ .L:ィ::/L.ィ/}::7 : 、:::::::::::::::/  l_/L/}::71 j    ',  /
  ` ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄´ ` ̄ `´   `´ `´  ̄/ ̄´   ア⌒´   /:/   ` ̄ ̄´     }  /:/ } {    } /
    デ ビ ル   メ イ   ク ラ イ/      _/     /:/           ノ /:/ | \_  レ'′
                        /    _/        〈:/              `¨〈:/   ` ̄¨´
                         ̄ ̄

                                          \     /
                                            \ /
                                              X
                                            / \
                                          /     \


                  z‐、                、___「_T__、
                | |  z‐、        、_、 | | __「T__、__「T_、 ハ.  r z __、     __
                | | //.  、┐      .〃  | |.ノィ_i、>.ノィ_iミ、//._| |__ミ>     /ヘヽー、\
                ゝ '/    '=} .==^ 〃⌒ヘ | |┌r‐イィーrヘ  /^>.__| | ー┬r^ //  } }   ヽヽ
               //       , ィ |¬=、 (Ξソ | |||―| |―| | /ィ | }/| | }ヽ || { {  /./   } }
              { (     _ 〃 } レノ ).}  ̄  | |└|┬| |‐rムヽ. | |〃 | | しL||  、ーノ    / /
               ヽ、二二二-' ヽ=ヘ.)∠- '     _ノノ _ノノ ヽニニ^) |_|   |_|  ヽ丿   . ̄  ∠- '
                  ┌――――――‐┐     __     、_____ 、  r‐r、  ___、
                  |::_「 T_、_「 T__、::|   ――| |―「 T 、| |      |. Γ //^ヽ)    | |
                  |::::/ └、::/   丶、|  ̄二二| |二|._」 ̄ | |―――| |/ ‐i┬^  ̄ ̄| |
                  |:〃:|._」Y〃:|._」ヽ「::| _二二|._」二二_、| |___| |   | | 、 ‐┬i┴ヘ
                  |::::::::――――^:::::::|   r‐r――‐r:ヘ  | |      | |  ̄| | ̄ }ヽ| ヘノ>
                  |::::ー―┬┬z―^ ::|   |__|ニニニニ]__|.   |._」―――|._」 }ヽ| |/> 'ー'||<
                  |:::_ノ^>_」 「ヽ`ヽ::::|                        ー'| ヒ__.ノZ||、\
                  |::ー::´::ヽ.ノ::::::ー′|  イ  ン  デ  ッ  ク  ス  「二−へヘ_ノ  Y^
1000 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2012/01/21(土) 14:13:48.40 ID:MvGhN54no
           ':::-、
         /: : :彡ヽ
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      i: : : : : :/ __ ヽ_::_:_:_:フ     ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
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      ヽ:f ! "" ̄__ ̄"|:i
        |ヽヽ_   ヽ _ン.  /:i
       |: : : :>,、_____, イ: :i
       |: :,イ:::::::ヽ、/ 「ヽ|: :i
       |/::::::';::::::::::::|::::::::i:::Y
      ri::::::::::::!::::::イ ̄ヽ:!::::i          and BAYONETTA
1001 :1001 :Over 1000 Thread
 | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | もうたらい回しは勘弁だぜ
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ダンテ「学園都市か」【MISSION 10】 @ 2012/01/21(土) 14:00:14.92 ID:MvGhN54no
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メフィスト「安価で奥村くんの嫁を決めましょう」燐「安価?嫁?」 @ 2012/01/21(土) 12:24:09.14 ID:vS9MVkTAO
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おら!滝川出て来いや! @ 2012/01/21(土) 10:27:43.75
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2ちゃん死んだああいああああああああああああああ @ 2012/01/21(土) 10:23:16.50 ID:iy6o1yqLo
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バレンタインまで一ヶ月切っているわけだが @ 2012/01/21(土) 09:41:03.43 ID:aapdZ8k20
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けいおん!の人形つくってるよー @ 2012/01/21(土) 05:28:41.33 ID:BMP4zWCt0
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まじこいS発売直前蒼いのスレ @ 2012/01/21(土) 03:52:17.17 ID:oNbV3JVLo
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口喧嘩してくれる暇人来いや @ 2012/01/21(土) 03:37:44.51 ID:dI9RHWKA0
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