新田美波「わたしの弟が、亜人……?」
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2: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/03(火) 00:03:12.31 ID:5kzXp0UHO
1.あの外国の人はいないんだ



「おまえはのべつ死を口にしていて、しかし死なない」−−フランツ・カフカ [創作ノート]
以下略 AAS



3: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/03(火) 00:04:25.47 ID:5kzXp0UHO

美波「あ、待って、圭」

永井「なに?」

以下略 AAS



4: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/03(火) 00:05:53.27 ID:5kzXp0UHO

約二〇年前、美波が生まれてまもない頃、彼女を産んだ母親は病院内でなんらかの感染症に罹り死亡した。なぜそんなことになったのか、いま現在になっても美波は詳しい事情を知らない。母親が自分を抱きしめたのかどうかすら、美波が知ることはなかった。

分かっているのは、それが父の勤めていた病院での出来ごとだということだけだった。父は失意のどん底に落ちた。そこから這い上がることもできず、生後間もない美波をつれ、生まれ故郷である広島から離れた。友人の紹介で次の勤め先である病院はすぐに見つかった。その病院は東京にあり、職員用の託児所もあった。だが、託児所といっても、そこは多忙を極める外科医にとって、いつまでも幼い娘を預けられる場所ではなかった。どうしても深夜まで働かなければならないときは、子育ての経験がある友人の家庭に美波を預けることもあった。それは、父と娘双方に大きなストレスをもたらした。

以下略 AAS



5: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/03(火) 00:07:29.98 ID:5kzXp0UHO

かれら夫婦が離婚したのは、美波に弟ができて九年が経ったときのことだった。臓器売買。ある患者の生命を救うために、違法な手段で切り取られた臓器を購入すること。

裁判では父親に執行猶予付きの有罪判決がくだされた。腎臓の購入をブローカーに持ちかけられ、それを承諾したものの、実際の売買が未遂であったこと、医師としてドナーの発見に奔走し、すべての取りうる手段や可能性に当たっていたこと、患者の状態を鑑みるに移植を早期に行わなければ重篤な状態におちいり、生命の危機に瀕するだろうことが病院から提供されたデータから明らかであったことなどから、医師としての職務を遂行しようとする思いが強過ぎたあまりの犯行であることは明白だと弁護士は強弁した。

以下略 AAS



6: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/03(火) 00:08:59.46 ID:5kzXp0UHO

結局、父親は職も家庭も失い、広島に戻ることになった。そして、誰にとっても予想外なことだったのだが、美波も父親といっしょに生まれ故郷に戻った。母親はもちろん、美波を引き取るつもりだったし、父親の方もそのことに異論はなかっただろう。

そのような事態の推移に対して、強くはっきりと反抗したのが美波だった。そのとき美波はまだ十一歳だったが、今振り返ってみても、あれほど強硬な態度をとったことはなかったし、おそらくこれからもないだろう。あれは、人生で一度きりの決定的な意思表示の瞬間だった。美波の父親は本来なら、妻が死んだ時点で残りの人生を健全に過ごすことはできないくらい心に打撃を受けていた。そうならなかったのは、ひとえに産まれたばかりの娘の存在があったからだ。だから、今回もわたしがいっしょにいてやらねばならないのだ。

以下略 AAS



7: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/03(火) 00:10:14.25 ID:5kzXp0UHO



美波「ほんとうのお母さんじゃないくせに」

以下略 AAS



8: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/03(火) 00:11:09.53 ID:5kzXp0UHO

これでなにもかも終わった、と美波は思った。人生は続いていくけれど、それはこれまでの十一年間と連続したものではない。凧は糸が途切れ、地面に落ちてしまった。糸の短くなった凧をもう一度空にあげるには、よほど良い風が吹くのを待つか、自分から糸を結びなおさなければならない。前者を選べば、待っているあいだの時間を周囲の人びとをよそに、ひとりで膝を抱えて耐えなければならない。後者の場合は、凧をふたたび風に乗せても、糸が途切れたという事実はずっと残る。

ベッドの上には窓があった。その窓は閉められていたが、そこから通りを行く子供たちの声が聞こえてきた。近くの公園で遊んでいた子供たちが、それぞれの家に帰っていく時間だった。太陽は西に傾きはじめ、だんだんと水平に近づいていく陽光の線が、これから空の下の方を赤色に染め上げていく。空の上の方はといえば、対照的に濃い藍色から闇に染まっていくだろう。

以下略 AAS



9: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/03(火) 00:12:24.20 ID:5kzXp0UHO


律「美波」


以下略 AAS



10: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/03(火) 00:13:56.74 ID:5kzXp0UHO

律と美波は、しばらく互いに沈黙していた。ふたたびドア越しの声が聞こえたとき、あたりは薄暗くなっていた。夕暮れと夜とのあいだの時間。宵よりはちょっと明るい。光の状態は、標高の高い山の空気がそうであるように薄くなっていた。山の高いところのように家のなかが静まりかえっていた。律の声はさっきより低い位置から聞こえてきた。律は廊下に座って、美波と同じ目線から話を続けようとしていることがわかった。


律「美波、お父さんが刑務所に入らなかったからといって、それは罪を犯さなかったからというわけじゃない。違法な手段で臓器を購入しようとしたことは事実なの。だから、医師の仕事をやめざるをえなかった」
以下略 AAS



11: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/03(火) 00:15:14.46 ID:5kzXp0UHO

美波はドアを開けた。義母は両膝を立てて座り、そこに肘を置いていた。背中を壁につけた姿勢のまま、美波と視線を合わせた。


美波「おかあさん」
以下略 AAS



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