高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「『あいこカフェ』で」
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14:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:35:37.77 ID:eE/KPeRw0
「ずっと一生懸命になっちゃうくらい、今が楽しいんです」

 藍子は続けてそう言い、髪を揺らした。

「自分の思い描いてた理想ができあがるのと、大好きな場所が組み立てられていくのが、一緒に見られて……つい、駆け回りたくなっちゃうくらいっ。でも、カフェは静かにしなきゃいけない場所なので、走ることなんてしませんけれどね」
「……そうだね。走り回る子供が来たりしたら、注意しなきゃ」
「つい、加蓮ちゃんに頼りたくなっちゃうけれど……今日は私が注意するんです。うぅ、ちゃんと言えるかな……? 泣き出したりしないかな」
「急に心配になる。そこもシミュレーションしとく?」
「それって、誰がお子さんの役になるんですか?」

 ……ランドセルってまだ家にあったっけ? それを藍子に。……いやいやいやいや。

「……たははっ」
「も〜。加蓮ちゃん、いま私がやればいいって思ったでしょっ。私が注意する側なんだから、子どもの役はできませんよ」

 じゃあ私が小学生にでもなろっかな。
 いや、なる訳ないけど。
 そうなれたらいいなって、もっと小さい頃藍子と出会えればよかったなと思ったのは雨が酷かった日だったよね。もう今を否定することなんて言わないんだから。
 そして未来を否定することも。会話の切れ目にカフェを見渡し、時々くすりと笑う……その度に横目で私を見て、ふいと顔ごと逸らしてしまう藍子の頭を撫でてあげた。

 どんな決断をしても、それはもうちょっとだけ後の話。
 それに私達は、このカフェが終わったらもう1回、朝までかかっても話そうって約束した。
 身勝手に突きつけられる診断結果とは違う。時に大人の都合で努力を叩き潰されてしまうオーディションの通知とも違う。
 ちゃんと私も、相手の想いを知って、受け止める機会がある。
 ……うんっ。大丈夫。もっと言えば楽しみになってきちゃった。藍子の楽しいって気持ちが、少し形を変えて伝わってきちゃったのかも。

「藍子。やっぱりなんでもないっ。明日が楽しみだね」

 それからはいつものカフェと同じように、時々スタッフさんも交えてお仕事モードになりながら、いつもより時計の針が早く聞こえる時間を過ごした。


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