高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「『あいこカフェ』で」
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15:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:36:08.05 ID:eE/KPeRw0


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 いよいよ『あいこカフェ』のオープン!

 ……って言ったけど、あとの私は裏方だよー。

 もちろんやることが無い訳じゃない。食材を搬入する業者さんや時々様子を見に来る設備業者の相手をするPさんに付き添い、何かあったら藍子達に連絡を飛ばす。レジの補充や備品の故障、電話対応も私が回ることになっていた。熱中症含む急ぎの事態があったらいつでも動けるようにはしているし、それから後日SNSにアップする『あいこカフェ』の様子を書く役割もある。

 ……と言っても、当日の問い合わせは受け付けてないしレジの補充もスタッフさんがその場に用意しているものをやってしまいそうだし、Pさんの付き添いってホントにただの付き添いなんだよね。『あいこカフェ』もサポート役。メインは藍子が書いて、私はちょこっと付け足すだけ。
 だからどれも大した役じゃない、なんだったら中学生のやる社会勉強くらいかもしれない。

 私の主な出番はオープン前の準備時間。そして藍子の近くにいて、藍子を見守ってあげることそのもの。
 それ以降は裏方、ただの黒子の1人だよ。何かあるまでキッチンの両隣のドアから見守るだけ。きっと何もないって確信しちゃってるんだけどね。

 表の看板を「準備中」から「営業中」へと変えてきた藍子が、ゆるふわな微笑みを携えつつ唇を軽く引き結んだ。
 号令の代わりにフロアスタッフさんと目線を交わし合い、うんっ、と頷く。
 頷くタイミングはそれぞれがバラバラで、コーヒーの件と同じようにみんなの個性を下手に合わせようとしない、のびのびとした空気が漂う。
 スタッフさんの最後の1人が身を翻したところで、すぐ近くの壁が荒い息に叩かれていた。

 ……えーと。

 私の斜め下に筋肉質をめいっぱい丸めている人がいる。……あ、目があった。
 このスタッフさんは昨日や一昨日にはいなかったけど、壁棚を取り付けたり最初に大きなテーブルとかキッチン道具を運び入れた時に活躍してくれた人だよ。名字も名前も暑苦しそうなのにいつも冷静に目を細めていて、知的っぽいけどすごく筋肉質な人。藍子が、大道具を運んでもらう時によく頼りになってるんだってさ。
 そんなヒート&クールのスタッフさんが、私の斜め下にいた。で、ぎこちなく笑った。とりあえず私も笑っておいた。たぶん、すっごくぎこちなく。
 CDショップでミニライブをやってる最中トークの合間にクラスメイトを見つけた時みたい。ちなみに実話だよ。

 絶妙な距離を空けつつ一緒に藍子達のことを見守るスタッフさんは、なんかすっごいハラハラしている。

 うん、気持ちは分かる。私もかなりドキドキしてるもん。
 ステージに上がる時の、胸が高鳴る感じとは少し違う緊張感。
 足元から病熱の混ざる体温がせり上がって、その場を離れたくなってしまう。
 藍子なら大丈夫だよ、って空想の中であのカフェにいる私が言うんだけど、自信満々な幻像を描いても気持ちは落ち着かなかった。


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