高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「『あいこカフェ』で」
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名無しNIPPER
[sage saga]
2021/05/16(日) 14:31:38.96 ID:eE/KPeRw0
店内へ戻ると、藍子と、それから連絡を終えたスタッフさんがおかえりなさいと言ってくれた。私も片手を上げて、ただいま、と軽く言う。
今ここにいるスタッフさんは私を除いて3人。藍子によると、昔からよく同じ現場にいることが多い人が2人と、今回初めて会った人が1人みたい。
私にとっては全員が初めまして。とっくに顔も名前も覚えたけどね。
「みなさん、そろそろお昼ごはんにしませんか? 5人分のお弁当を、作ってきたんですっ」
藍子がそう言うと、スタッフさんは揃って笑顔を輝かせた。
準備を初めてから、何度も何度も見た顔だ。
「はい、どうぞ。ゆっくり食べて、大丈夫ですからね」
藍子が1人1人へと、名前を呼んであげながら手作り弁当を手渡してあげる。……どっちがスタッフさんなんだか、まったく。
最後に藍子が手渡してくれたお弁当を開けて、長机の角の席に座って割り箸を割る。白ご飯をつまんで、卵焼きを食べて、もう1個卵焼きを食べて、そうしたら隣の席のスタッフさんが声をかけてくれた。20代半ばで、全体的に芯が細く整った顔立ちはお嬢様というあだ名をつけたくなるけど、肩の上で跳ねるギザギザヘアーとまんまるな目、無邪気な笑い顔からして呼ぶとすれば「お嬢ちゃん」。……私の方が年下だから、言ったりしないけど。
そんな彼女は、めいっぱい飲み込んだご飯粒を口端につけたまま私にスケジュールブックの5ページ目を突き出し、ちょっとした確認を求めてきた。自分のブックのメモも確認しながら答えている最中……私が赤い太字で書いた言葉、「自分が北条加蓮だとバレないように! 今回は藍子のステージ」を――ステージ、っていうのはたとえ話だけどね。藍子の世界と書くには一抹の抵抗があったから。文字を目に入れて、バレないようにしなきゃねと呟くと彼女はなにかおかしそうに笑い出した。
たぶんバレちゃいますね!
だって。……なんで? 当日は裏方しかしないからバレないよ。そう聞いた答えが、この人と賭けてるんです! ……返事になってないよ。
彼女の言うこの人とは、2人目のスタッフさんだよ。笑顔が柔らかく、時々見てて不安に思っちゃう引け腰が少し不安な人。中性的な顔立ちだけど男性……なのかな? 名字の一部に、放っておくとすごい勢いで成長し、時には害になる植物の名前が入っているのが印象的で、対照的に名前は海産物を少しもじった物なんだ。藍子とは、CDデビューする以前くらいからの顔馴染みなんだってさ。
そんな竹林の中に筍と一緒に成長の時を待っていそうな人は、ギザギザヘアーさんに肩を掴まれるとものすごく慌てだした。うん、たぶん男性だ。この人も私より10個くらいは年上なんだろうけど男の子でいいや。慌てながら賭けにしたことを全力で否定し、彼女が勝手にやったことなんですという言葉だけなら説得力0の定番フレーズを口にして、でも……と続ける。
おふたりが一緒に活躍されているところは、たくさんの人が知っていますから。
……そう言われて思い出したのは、私達の元に来たファンレター。藍子のそれを読んだことはないけど、私の名前がよく入るようになったと言われたのも随分前のこと。
……アイドルバレって、実は結構嬉しいところがあるんだけど、今回はやっぱり全力で防ぎたいよね。
なんたって、藍子のカフェなんだから。
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