高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「『あいこカフェ』で」
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7:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:31:06.82 ID:eE/KPeRw0
 半寝起きの私に手を掴んでもらえなかったことにまたしてもぷんすかモードになった藍子ちゃんを片手で払いながら、壁にかかった写真のズレを直す。
 くつろぎスペース側の壁にはさまざまな写真がかけられていた。ほとんどはトイカメラで撮ったサイズの物で、2つだけ最新のカメラで撮った物を、不自然にならない程度に引き伸ばした物が混じっている。
 トイカメラサイズの写真は、雲がぷかぷかと浮かぶ空、木陰がくっきりと見える場所、燦々とした晴れ模様が想像できる光り輝く砂浜と誰かのピース。今は誰も乗せていないブランコ、色んな人が思い思いに花を一輪ずつ突っ込んだ結果よく分からない物に仕上がった生花、街角で大あくびしている黒猫とカメラを意識している澄んだ眼の白猫、今からでも歩き出したくなるような靴――自然のショットから人工的な物まで、なんの法則もなく、上下も一定の位置を持たずに並んでいる。その隙間を山の上から撮った1枚がいい具合に埋めていて、ぐちゃっとした感じと整えられた様相を両立させていた。

 もう1つの引き伸ばし写真は、どこかのカフェの店内。

 ある街角にある、あまり知られていない場所。そこでは店長さんと店員さんが1人ずついて、のんびりと経営をしている。店員さんがあるアイドルに夢中になっていて、彼女を見る度に冷静な佇まいが崩れたり、手をあわあわと振り回すことを知っているのは……カフェを知っている人の中でも、本当に極一部。
 もちろん店名は出していない。他のお客さんや、件の店員さんも映してはいない。
 もしかしたら多くの人は、何の写真だろうと思ってしまうだろう。分かる人は分かるかもしれないけど、きっとそういった人達は真相を言いふらしたりはしないよね。
 だから無造作なインテリアの中でも、異色を醸し出すほどに意味のない1枚。誰にでも楽しめる空間を――というフレーズを何度も口に出しながらたくさんの優しさと思いやりを溢れさせた藍子が、店内の目立たない場所に仕込んだ、ちょっとしたワガママなんだよ。

 額縁の上に乗った、切りそろえた後の爪よりも小さな埃をふっと払って、また室内の反対側へ。
 四角テーブル側には、壁取り付け型のラックと床置きの背の高いチェストが十分なスペースを空けて設置されていた。壁棚を取り付けたのはスタッフさんで、そこに置く小物を選んだのが藍子。大半が家にある、お土産だとか自作の置物、お母さんに借りた物がいくつか混じってるんだって。
 ある棚に置いている物だけは全部、今日の為に作った物。赤ちゃんサイズのカップとおままごと用のソーサー、残念ながら開くことはできないミニ書物。16分の1スケールの制服は、藍子のユニット仲間がハマっているゲームの話をした時に、藍子がゲームという遊びそのものに興味を持って、お返しに教えてあげたら事務所全体でブームが起きてしまった、某スローライフなゲームの作り方を真似したの。もちろんこの服は、藍子が着けている物と一緒だよ。
 この棚だけが特別ってことは、さて、何人が気付くでしょう? 残念ながらそれを確かめる方法はないけど、だからこそ空想の話題で盛り上がっちゃうのかも。

 ひと通りチェックを終えたところで、閉じられた窓の向こうの猫と目があった。
 カフェとなる建物の仕切りには簡単な動物避けが施されていて、テラス席に入って来ないようにされてる。
 なんとなく追いかけようと外に出て、ベルを鳴らした時点で猫はさっと逃げちゃった。
 そんなに怖い顔してたかなぁ、私……。当日は完全に裏方になるけど、ちょっとくらいは気をつけておかなきゃ。

 さて、窓から外のテラス席。いつものカフェテラスと同じようにライトカラーのウッドデッキになっていて、出入り口から横に続く壁に沿って植木鉢が置かれているのも同じ。WELCOME、いらっしゃいませの手描き看板は ウッドデッキ出口に置かれていて、こっちからでも入れるようになっている。
 丸テーブルには4人がけの椅子で、強い日差しに対応したパラソルが差し込まれている。藍子が何度も、倒れてしまわないか入念にチェックしてたところだ。時期的には雨の方が心配だけど……。降ったら降ってしまった時のこと。お客さんが雨に濡れた時の対処もバッチリだからね。

 窓の内側には極薄の水色カーテンが設置されているけど、機能性というよりインテリアの範疇で、基本的に光を遮ることはしない。どうしても日差しが気になる時は簾を降ろすよう決めてるし。
 そのおかげでテラス席からも中の様子がよく分かる。今も、店内でスケジュールブックをチェックしていた藍子と目が合った。手をふりふりと振られたので、私も振り返した。けど――
 私だから気安く対応したけど、これ、藍子のファンがやられたら熱中症になっちゃうかもね。その対策もしなきゃ! ……なんてねっ。
 でも、熱中症対策をしているのは本当のこと。もしお客さんがピンチな時は、裏方担当の私がヘルプに出ると決めてる。いつか藍子に厳しく教え込んだ対策を改めて書いていく間は少し気が引き締まってたんだよね。こんなの使わないに限るけど。


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