過去ログ - 少女「ずっと、愛してる」
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178:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/10(金) 20:09:50.94 ID:oNd+Ad/T0
――独りぼっち。

先ほど、ただ座っていただけなのに、ああやって運ばれていく子達に蹴られた。お腹やお尻を、ためらいもなく。
人に暴力など、カランは産まれてこの方振るったことなど一度もない。
それは、長い間……それが彼女の中で常識となるほどの時間、周りから煙たがられ、賛美と裏腹な虐待を受け続けてきたことによる、心の奥底に潜んだ恐怖心の裏返しだった。
以下略



179:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/10(金) 20:11:02.23 ID:oNd+Ad/T0
だがそれは、心に深刻な麻痺を産み……そしてどこかを腐らせるには十分な時間だった。
初めて他人に……妹のように怒りながら……気兼ねをさせながらではなく、本当に親身になって損得なしに守ってもらえたことは、カランの心にその『腐り』を自覚させる結果を生んでいた。

――妹も、自分のことを心のどこかで煙たがっていることは知っていた。

以下略



180:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/10(金) 20:11:39.13 ID:oNd+Ad/T0
それが面白くないはずがない。
こんな出来の悪い姉を終始監視して、そして気を揉んでいることがストレスでないはずがない。
そんなことは、分かっていた。
分かっていたのだ。

以下略



181:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/10(金) 20:12:07.61 ID:oNd+Ad/T0
ゼマルディに不思議な薬で治療はしてもらい、体の痛みは消えたが……心に刻み込まれた恐怖心は全く消えていなかった。いや……なまじ体の痛みがない分その精神的な傷跡に致命的な血を垂れ流させていることに、他ならぬ治療を施したゼマルディは気づいていなかった。
痛みがあれば、逃避することが出来る。
我慢をすることができる。
我慢をすれば、しているだけ心は麻痺して現実を考えずに済む。
そうなのだ。
以下略



182:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/10(金) 20:12:40.58 ID:oNd+Ad/T0
――そうだ。

ゼマルディをもう一度呼ぼう。
そして今日は彼の部屋にいよう。
ここなんかよりずっと安心できる。
以下略



183:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/10(金) 20:13:12.58 ID:oNd+Ad/T0
しかし、やはり羽生やしの儀式の直後にリンチを受けたことでカランはもう限界だった。突然目の前がぐにゃりと歪んで、自分で自分の足に引っかかってしまう。
ビタン、とカエルを地面に叩きつけたような無様な音を立てて、美貌の少女は顔面から床に倒れこんだ。受身も取れずにしたたかに鼻をぶつけてしまう。一瞬視界に星が舞う。
鼻血が出てきたことに気がついて、慌てて袖で鼻を押さえ……そこで彼女は、野次馬達のみならずその場全ての目が自分を向いていることに気がつき、心底から震え上がった。
反射的に叫び声をあげようとした途端、しかし声が出てきたのは彼女の口からではなかった。丁度担架で運ばれていく途中の少女の一人が、震えながらカランを見止め、指差して訳のわからない言葉を叫びだしたのだ。
あまりの寒さのせいか、言葉になっていない。しかしその場にいる少女達は全員仰天として二人のことを見ていた。
以下略



184:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/10(金) 20:13:41.95 ID:oNd+Ad/T0
表面的にはカランを暴行した娘達の方が、遥かに監査官ウケはいい。成績だって問題ない。
それに引き換え、『何も出来ない』自分は圧倒的にここでは弱い立場だ。どちらの話を信じるかというと、そんなことは決まっている。
この位置からでは何を言っているのか分からないが、どうやら貯水槽に落とされた娘達は、口々にそれがカランの仕業だと言っているらしかった。
ゼマルディの存在を匂わす単語が出てこないことにどこか安堵しながらも、しかし次の瞬間、こちらに近づいてこようとしている一部の監査官を見て青くなる。
逃げなければ、本当に酷い目に遭わされる。今月の頭にも、いわれがない濡れ衣で――その実は広間にいる観賞用の魚を殺したという実にどうでもいい話だったのだが――太股を歩けなくなるほど竹鞭で叩かれたばかりなのだ。
以下略



185:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/10(金) 20:14:20.31 ID:oNd+Ad/T0
彼が冗談半分で言っていた『ギロチン』のことを思い出し、失禁しそうになる。
逃げなければと思うが、一体何処に逃げるというんだろう。隠れる場所も、逃げられるほど機敏に動く足もない。
それに、彼女の心は一睨みされただけで完全に砕き壊されてしまっていた。
それほどこの十七年間で、彼女の美貌、そして要領の悪さで招いてきた出来事が刻み込んだ心の腐りは大きく広がってしまっていた。
真っ青になって動けないでいるカランを取り囲むように、三人の監査官が立つ。いずれも彼女のことを月に一度は、何らかの因縁をつけて痛めつける女達だ。いつもはカラン一人の問題だったが、こんな大事になったのは初めてのことだ。
以下略



186:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/10(金) 20:14:51.49 ID:oNd+Ad/T0
後ろに転がった監査官の目が、釣鐘のように歪む。尋常ではないことが起こっているのに加え、抵抗を見せたカランに対し。監査官達が腰に挿していた小さな皮鞭を抜いたのが見えた。

(あ……謝らなきゃ……)

謝らなきゃ、また痛いことをされる。
以下略



187:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/10(金) 20:15:21.13 ID:oNd+Ad/T0
そこでカランは、何事かを言っている監査官達を見もせずに右手をポケットに入れた。そして先ほど掴んだばかりのゼマルディの花を手で掴む。

――大丈夫だよ。

彼は強いんだから、大丈夫だよ。
以下略



188:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/10(金) 20:15:57.84 ID:oNd+Ad/T0
その時。

鐘が、鳴った。

ゴゥン、ゴゥン……とその重苦しく、歪で耳の奥に突き刺さる金属の音が、室全体に響き渡った。
以下略



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