過去ログ - 少女「ずっと、愛してる」
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182:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/10(金) 20:12:40.58 ID:oNd+Ad/T0
――そうだ。

ゼマルディをもう一度呼ぼう。
そして今日は彼の部屋にいよう。
ここなんかよりずっと安心できる。
以下略



183:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/10(金) 20:13:12.58 ID:oNd+Ad/T0
しかし、やはり羽生やしの儀式の直後にリンチを受けたことでカランはもう限界だった。突然目の前がぐにゃりと歪んで、自分で自分の足に引っかかってしまう。
ビタン、とカエルを地面に叩きつけたような無様な音を立てて、美貌の少女は顔面から床に倒れこんだ。受身も取れずにしたたかに鼻をぶつけてしまう。一瞬視界に星が舞う。
鼻血が出てきたことに気がついて、慌てて袖で鼻を押さえ……そこで彼女は、野次馬達のみならずその場全ての目が自分を向いていることに気がつき、心底から震え上がった。
反射的に叫び声をあげようとした途端、しかし声が出てきたのは彼女の口からではなかった。丁度担架で運ばれていく途中の少女の一人が、震えながらカランを見止め、指差して訳のわからない言葉を叫びだしたのだ。
あまりの寒さのせいか、言葉になっていない。しかしその場にいる少女達は全員仰天として二人のことを見ていた。
以下略



184:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/10(金) 20:13:41.95 ID:oNd+Ad/T0
表面的にはカランを暴行した娘達の方が、遥かに監査官ウケはいい。成績だって問題ない。
それに引き換え、『何も出来ない』自分は圧倒的にここでは弱い立場だ。どちらの話を信じるかというと、そんなことは決まっている。
この位置からでは何を言っているのか分からないが、どうやら貯水槽に落とされた娘達は、口々にそれがカランの仕業だと言っているらしかった。
ゼマルディの存在を匂わす単語が出てこないことにどこか安堵しながらも、しかし次の瞬間、こちらに近づいてこようとしている一部の監査官を見て青くなる。
逃げなければ、本当に酷い目に遭わされる。今月の頭にも、いわれがない濡れ衣で――その実は広間にいる観賞用の魚を殺したという実にどうでもいい話だったのだが――太股を歩けなくなるほど竹鞭で叩かれたばかりなのだ。
以下略



185:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/10(金) 20:14:20.31 ID:oNd+Ad/T0
彼が冗談半分で言っていた『ギロチン』のことを思い出し、失禁しそうになる。
逃げなければと思うが、一体何処に逃げるというんだろう。隠れる場所も、逃げられるほど機敏に動く足もない。
それに、彼女の心は一睨みされただけで完全に砕き壊されてしまっていた。
それほどこの十七年間で、彼女の美貌、そして要領の悪さで招いてきた出来事が刻み込んだ心の腐りは大きく広がってしまっていた。
真っ青になって動けないでいるカランを取り囲むように、三人の監査官が立つ。いずれも彼女のことを月に一度は、何らかの因縁をつけて痛めつける女達だ。いつもはカラン一人の問題だったが、こんな大事になったのは初めてのことだ。
以下略



186:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/10(金) 20:14:51.49 ID:oNd+Ad/T0
後ろに転がった監査官の目が、釣鐘のように歪む。尋常ではないことが起こっているのに加え、抵抗を見せたカランに対し。監査官達が腰に挿していた小さな皮鞭を抜いたのが見えた。

(あ……謝らなきゃ……)

謝らなきゃ、また痛いことをされる。
以下略



187:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/10(金) 20:15:21.13 ID:oNd+Ad/T0
そこでカランは、何事かを言っている監査官達を見もせずに右手をポケットに入れた。そして先ほど掴んだばかりのゼマルディの花を手で掴む。

――大丈夫だよ。

彼は強いんだから、大丈夫だよ。
以下略



188:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/10(金) 20:15:57.84 ID:oNd+Ad/T0
その時。

鐘が、鳴った。

ゴゥン、ゴゥン……とその重苦しく、歪で耳の奥に突き刺さる金属の音が、室全体に響き渡った。
以下略



189:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/10(金) 20:16:28.69 ID:oNd+Ad/T0
(ゼマルディ……!)

顔を上げて、目を輝かせる。
しかし次の瞬間、カランの鼻にまるで粘りつくような、薄汚いドブを連想させる、鉛色の悪臭が飛び込んできた。体中に絡みつき、べとつく感覚を撒き散らす。
この臭い。
以下略



190:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/10(金) 20:16:55.90 ID:oNd+Ad/T0
鼻が、曲がりそうだった。
彼のレモンの澄んだ香りとは似ても似つかない悪臭。しかしその場にいるカラン以外の娘達は皆誰も気づかないのか、逆に周囲の変化した空気にうっとりと眉を降ろしている。

(や、やだ……)

以下略



191:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/10(金) 20:17:25.08 ID:oNd+Ad/T0
あまりのことが起きない限り何かを嫌悪などしたことがないカランだったが、この状況は本当に最悪だと,心の底が足りない語彙で警鐘を発していた。
カランだけが座り込んだまま、廊下の向こうから歩いてきた人間が角を曲がるまでの間。監査官を含む娘達は床に膝を突き、廊下の両端に速やかに座り込んだ。そして人差し指と中指だけを床につけ、深々と頭を下げる。
カランもそれに習おうと……あまつさえ、周りの子達に紛れてしまおうとして視線を彷徨わせたが、既に彼女が入っていけるようなスペースはどこにもなかった。一人廊下のど真ん中にへたり込んでいるという奇妙な図式になってしまう。
息ができない。
あまりの臭いに、あたまがグラグラする。
以下略



192:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/10(金) 20:17:51.06 ID:oNd+Ad/T0
そこで廊下の向こうから、引きずるほどの袖――黒い一族の正装である長いローブ――と、スカートのような、薄い布で出来た腰当を床に引きずった少年が顔を覗かせた。
綺麗に櫛が入り、梳かされてピンなどで留められた茶色の髪。そして鳶色の瞳。
端正な顔立ち……いや、まるで人形のような整った卵形の顔だ。背丈はひょろ長く、僅かに猫背。顔には色とりどりの顔料で線が引かれていた。
袖をぶらぶらさせながら彼は周りを見回し、そして挨拶もせずに、一人取り残されているカランに目を留めた。
そして、彼はカランから視線をずらし。
以下略



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