388:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/15(水) 20:23:15.30 ID:EmuY6hvN0
鳥肌が立っていた。
何が起こったのか、分からなかった。
気づいた時にはもう遅かった。
何の気配も感じさせずに。
いきなりルケンは、後頭部を何か金属質のモノに鷲掴みにされた。
389:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/15(水) 20:23:51.78 ID:EmuY6hvN0
予想外のその事実により固まってしまったのは、大きかった。
万力のような力で後頭部を締め付けられ、次いで首のみを支えにして小柄な少年の体が軽々と一メートル以上も持ち上げられた。
抵抗しようとした途端。
背後に立ったその『人物』は、ルケンを掴んだまま、腰を曲げて野獣のように跳躍した。エンジン。それを連想させる白く、悪臭を孕んだ水蒸気を体中から噴出させながら。
ゼマルディはその巨体ごとルケンを押さえつけ。
390:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/15(水) 20:28:35.89 ID:EmuY6hvN0
お疲れ様でした。今日の投稿はここまでになります。
毎回お付き合いいただいて、ありがとうございます。
寒いですが、皆様も体調を崩さないようお気をつけくださいね。
391:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:04:25.14 ID:Z6fjuYRs0
こんばんは。12話の投稿をさせていただきます。
392:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:08:39.28 ID:Z6fjuYRs0
12 音速の人
彼女はいつもと同じように、そこにいた。
うずくまって震える彼を痩せた腕で、しかし彼のものよりもはるかにしっかりとした温かさで背中から抱いて、さすっていた。
名前も、顔も思い出せなくなっていた。
393:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:09:14.08 ID:Z6fjuYRs0
それ以前に……逃げて、それからどうする?
逃げて、逃げて、逃げて。その先には一体何があるのだろうか。いずれ死んでしまうであろう、この忘却の時間を繰り返して、心身ともに崩れていって、結局は何が残るんだろうか。
そもそもが間違いだったこの恋には、ちゃんとした結末なんてありようもないのに、それを望んでしまっている自分がいた。
自覚してしまった途端、自制していた何かが崩壊してしまった。
ただ、彼は恐ろしかった。
394:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:09:51.66 ID:Z6fjuYRs0
――分かっていたことじゃないか。
分かっていたことではないのか?
そんなことは重々承知の上で、自分は動いたのではなかったのか?
395:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:10:27.75 ID:Z6fjuYRs0
何が良くて何が悪いか何て、考える必要はなかったんだ。
だって、俺が何もしなければ。
少なくとも俺が何もしなければ。
この子は外の世界も知ることもなく、外の暖かさを知ることもなく、男も、常識も、優しささえも知ることもなくただ生きて、殺されて魂に還っていた筈なのだ。
その循環の輪を壊してまで、自分は何をしたかったのだろうか。
396:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:11:00.23 ID:Z6fjuYRs0
*
気づいた時には、ゼマルディは白髪の妻の上半身を折るようにして覆いかぶさっていた。その無骨な左手……一本だけ残った腕で、棒のような彼女の首を握り締めていた。
カランは、何度か口をパクパクとさせると、一瞬だけ目を白黒とさせた。しかしすぐに、泣きそうに――いや、実際うっすらと涙を浮かべている夫の顔を見て、体の力をフッと抜いた。
ぐったりとしたカランを見て、ゼマルディはすぐに我に返った。そして慌てて彼女を抱き寄せ……ボロボロと大粒の涙を零した。
397:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:11:26.33 ID:Z6fjuYRs0
「…………こわい?」
先ほど喉を傷つけてしまったのだろうか。微妙にくぐもっている。
ゼマルディは、彼女の顔を直視することが出来なかった。
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