430:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:25:25.37 ID:JYEl3aKe0
石を、小川の水が叩く澄んだ音がしていた。
カランの背中から伸びた長い骨羽が、水晶のような音を発していた。
「そうだね……」
431:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:25:55.71 ID:JYEl3aKe0
「世の中って、楽しいぞ……」
「……」
「俺がこう思ってるように、お前がそう思ってるように、世の中には色んなことを思ってる奴らが無限にいるんだ。無限に沸いて来るんだ。そんな中では俺らなんざぁちっぽけなもんだし、苦しんで、辛くて泣き叫んでいたことなんて、ほんのチャチなものでしかねぇんだよ」
432:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:26:30.88 ID:JYEl3aKe0
「俺のかーちゃんはさぁ」
「……」
「俺を産んで、俺が外に連れ出した。目も、耳も、足も、腕ももがれてさぁ。黒い一族のエサになるために、飼育されてさ」
433:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:27:02.60 ID:JYEl3aKe0
ゼマルディの肩が、震えていた。
カランは黙り込んでしまった大男の背中をポン、ポンと母親のようにさすってやりながら、彼の胸に顔を擦りつけた。
「嬉しいよ……」
434:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:27:31.72 ID:JYEl3aKe0
「……」
「確かにね、この世の中にはたくさんの人がいるかもしれないね……」
「……」
435:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:28:00.09 ID:JYEl3aKe0
「……」
「あなたのお母さんも、そう言いたかったんだと思うなぁ」
「……」
436:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:28:38.22 ID:JYEl3aKe0
「……」
「人が何より欲しいのは、そういうことなんだと……私は思うよ……」
「……」
437:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:29:06.83 ID:JYEl3aKe0
「もっと、もっと幸せになろうね……」
それは、問いかけではなかった。
確認でもなかった。
それは、少女の。
438:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:29:37.66 ID:JYEl3aKe0
「……」
「この私達の家で、二人だけは、ずっとずっと……ずっと、生きて……いこうよ?」
「……」
439:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:30:05.34 ID:JYEl3aKe0
カランは、もう一度。
片手で腹を押さえ、もう片手でゼマルディの腰に手を回し、そして彼の胸に体を預けた。
「あぁ……」
440:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:30:38.96 ID:JYEl3aKe0
*
怒鳴り声が聞こえた。
銃弾? 砲弾?
分からないが、飛び道具で射撃されたことだけは確かだった。奇跡的と言っては奇跡的に、その飛来した銃弾は、ゼマルディの剥がれかけていたウロコ――こめかみのひとつに突き刺さり、鉄のようなその表面を僅かに削っただけで脇にそれていた。
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