446:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:33:52.58 ID:JYEl3aKe0
血まみれで、何とか両足を踏みしばって立つ。そこで兵士達が、タンカにルケンを乗せて運び去ろうとしているのが目に映った。
「キャラァァァァァァアアアアアアアア!」
反射的にゼマルディは絶叫していた。殆どウロコがはがれている状況だと言っても、皮が全て剥けたような血だらけに加え、彼の体は大き過ぎた。そしてその甲高い音は、周囲に彼を敵と認識させるに十分な威力を孕んでいた。
447:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:34:25.03 ID:JYEl3aKe0
――あいつだけは
――あいつだけは殺さねば
――カランのために
――俺の妻が、笑って暮らせるために
――殺す
448:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:34:53.25 ID:JYEl3aKe0
ゼマルディの視界が徐々にブラックアウトしていく。世界が揺れていて、ルケンが何処にいるのかも分からない。しかし彼は、視界の端に白い……タンカのようなものを捉え。
体中の力を込めて踏み潰そうと、足を振り上げた。
その途端だった。
何かが、振り上げた足を右から左へと通り過ぎた。
痛みも、何もなかった。
449:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:35:29.26 ID:JYEl3aKe0
「…………まさかここまで稼動されてる魔導生物が、まだでも現存しているなんて……」
奇妙な訛り……というのだろうか。妙におかしな共有語を喋りながら、赤髪の女は周囲を押し止め、ゆったりと両腕、そして右足をもがなくなって這い蹲るゼマルディに向かって歩き出した。
「けが人の救助、早く!」
450:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:36:01.95 ID:JYEl3aKe0
ルケンが、別の兵士に運ばれていく。それを庇うように女が立っている。
邪魔だった。
あの女が、邪魔だった。
「ヒィ、ラルケィ、ルケアァァ!」
451:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:36:31.51 ID:JYEl3aKe0
*
妻の声が聞こえた。
――夢だと思った。
452:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:37:03.24 ID:JYEl3aKe0
だが、その時。
確かにゼマルディは妻の声を聞いた。
カランの声を、彼は聞いた。
建物の影から、白髪を振り乱しながら彼女が走ってくるのが見えた。その奥には、ドクもいたような気がする。彼は憔悴し、青白い顔で何事かを叫んでいた。
妻は、義足をつけていることにはいたが……殆ど外れてしまっていて、片足で走っているようなものだった。
453:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:37:31.86 ID:JYEl3aKe0
突然の少女の乱入に、周囲は唖然としてそれを見た。赤髪の女でさえ、一瞬彼女の方に目を向けた。
カランは歯を食いしばり、事実本当に転がりながらゼマルディに向かって、懸命に駆け寄ってきていた。途中で転がったが。両腕を使い、まるで獣のように。子供を守る母親のように。なりふり構わずカランはゼマルディに駆け寄ると。
そのまま脇を通り過ぎ、派手に転がりながら、赤髪の女に、頭から体当たりをした。
相手魔法使いは、全くの予想外だったのか小さな悲鳴を上げてその場に転がった。意識を集中していないと放てないのか、発光していた魔法が気の抜ける音を立てて掻き消える。
454:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:38:08.29 ID:JYEl3aKe0
次の瞬間。
それだけクリアに見えているゼマルディの視界で。
兵士の一人が撃った銃弾が、まるで紙の塊のように妻の体を突き刺し、放物線を描いて空中に吹き飛ばした。弾は彼女の胸を貫通したが、戦車に打撃を与えられる武装だ。その威力は、子供並のカランの体には有り余るものだった。
何の抵抗もすることができずに、壊れたマリオネットのように……カランはゼマルディよりも後方に、背中からぐしゃりと音を立てて落下した。
455:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:38:32.38 ID:JYEl3aKe0
どうしてカランが?
どうして、ここにいる?
逃げたのではなかったのか?
ドクと一緒に、逃げたのでは?
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