過去ログ - 恒一「『ある年』の3年3組の追憶」
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15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/08/06(月) 21:14:10.90 ID:4DOG5YTr0
◆Interlude I Shoji Kubodera
こんな酷いことが、本当にあっていいのか?
信じられない惨状が、目の前で広がっていた。
私のクラスの委員長を務めている、桜木のお母様が、
事故に遭って病院へ搬送されたことを、宮本先生から伝えられたこの時、
既に私の中では、胸騒ぎがしてならなかった。
しかし伝えないわけにもいくまい。
桜木にその旨と、後日テスト改めて行うことを告げると、
足早に廊下へ出た彼女から視線を外し、再び試験の見回りに戻った。
と、不自然な物音と、鋭く短い悲鳴と教室に響いた。
試験中であるため、どよめきこそ起こらなかったが、
少なくとも生徒の皆からは、動揺の色が見える。
「すみませんが、少し見てきます。皆さんはそのまま試験を続けて下さい」
努めて冷静な口調で告げると、私は悲鳴が聞こえた方へ足を早めた。
「大変だ。救急車を!」
宮本先生の野太い声が聞こえる。
既に4組や5組の先生方も何事かと、私よりも先にその場へ駆けつけていた。
彼らはある一点を見つめたまま、氷のように固まったまま動けずにいる。
嫌な予感がした。
ようやく辿り着いた私が目にしたのは・・・
ある一点・・・そう、二階から一階へと下る西階段の踊り場。
ひしゃげた傘、床を紅に染めるおびただしい血だまり、そして・・・
虚ろな目を浮かべながら、虫の息で血の海に沈む桜木の姿があった。
私は、全身の血が引いていくのをひしひしと感じた。
「先ほど、桜木さんが事故に遭いました。ただ今、病院へ向かっています。
皆さん、どうかくれぐれも取り乱さないようにして下さい」
クラスの皆には、できるだけ簡潔に、そしてパニックにならないように、
言い方には充分気をつけながら、その旨を告げた。
また、今の話が焼け石に水であることは重々承知している。
しかし、できる限り皆を落ち着かせるためのことをする他なかった。
それに私だって、本当ならば落ち着いていられるわけがない。
だが、私はこのクラスの担任だ。
生徒を指導する立場の私がうろたえてどうする。
先ほど話した際、感情を抑えて淡々と説明することはできたはずだ。
この時、校内ではどこも中間試験最後のテストを行っていたが、
事故の一件が各教室に伝わり次第、次々に中断。
全生徒を中断下校させ、警察の調査が一段落付くと、緊急の職員会議が行われた。
病院へ搬送された桜木が、その途中で亡くなったという知らせが入ったのは、
その最中のことであった。
今年度から赴任してきた新校長は、3年3組の事情を全く知らない。
学校の安全管理について話し始めていたが、
一昨年度から、わが校で教鞭を執る先生方は皆、
そのような問題では済まないと思っているだろう。
一昨年度の10月から続いたあの悲劇の再来、
3年3組の死の連鎖が、再び始まってしまったのだと。
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