72:みの ◆hetalol7Bc[sage]
2012/08/28(火) 20:12:24.80 ID:bOaug2Ec0
  
  
 ジョバンニの切符(中) 
  
  
73:みの ◆hetalol7Bc[sage]
2012/08/28(火) 20:17:59.03 ID:bOaug2Ec0
  
 そしてあの姉弟はもうつかれてめいめいぐったり席によりかかって睡っていた。 
 さっきのあのはだしだった足にはいつか白い柔らかな靴をはいていたのだ。 
  
 ごとごとごとごと汽車はきらびやかな燐光の川の岸を進んだ。 
74:みの ◆hetalol7Bc[sage]
2012/08/28(火) 20:20:43.69 ID:bOaug2Ec0
  
 「おや、どっから来たのですか。立派ですねえ。ここらではこんな苹果ができるのですか。」 
  
 青年はほんとうにびっくりしたらしく、燈台看守の両手にかかえられた一もりの苹果を、 
 眼を細くしたり首をまげたりしながら、われを忘れてながめていた。 
75:みの ◆hetalol7Bc[sage]
2012/08/28(火) 20:23:12.99 ID:bOaug2Ec0
  
 燈台看守はやっと両腕があいたのでこんどは自分で一つずつ睡っている姉弟の膝にそっと置いた。 
  
 「どうもありがとう。どこでできるのですか。こんな立派な苹果は。」 
  
76:みの ◆hetalol7Bc[sage]
2012/08/28(火) 20:25:12.02 ID:bOaug2Ec0
  
 「ありがとうおじさん。おや、かおるねえさんまだねてるねえ、ぼくおこしてやろう。 
 ねえさん。ごらん、りんごをもらったよ。おきてごらん。」 
  
 姉はわらって眼をさましまぶしそうに両手を眼にあててそれから苹果を見た。 
77:みの ◆hetalol7Bc[sage]
2012/08/28(火) 20:27:59.36 ID:bOaug2Ec0
  
 「まあ、あの鴉。」 
  
 女のとなりのかおると呼ばれた女の子が叫んだ。 
  
78:みの ◆hetalol7Bc[sage]
2012/08/28(火) 20:29:22.54 ID:bOaug2Ec0
  
 向うの青い森の中の三角標はすっかり汽車の正面に来た。 
 そのとき汽車のずうっとうしろの方からあの聞きなれた三二○番の讃美歌のふしが聞えてきた。 
 よほどの人数で合唱しているらしいのだった。 
  
79:みの ◆hetalol7Bc[sage]
2012/08/28(火) 20:32:10.52 ID:bOaug2Ec0
  
 男「ほら、孔雀が居るよ。」 
  
 「ええたくさん居たわ。」 
  
80:みの ◆hetalol7Bc[sage]
2012/08/28(火) 20:34:36.47 ID:bOaug2Ec0
  
 男「鳥が飛んで行くな。」 
  
 男が窓の外で言った。 
  
81:みの ◆hetalol7Bc[sage]
2012/08/28(火) 20:37:18.95 ID:bOaug2Ec0
  
 「まあ、この鳥、たくさんですわねえ、あらまあそらのきれいなこと。」 
  
 女の子は男にはなしかけたけれども、 
 男はやけに大人びたしゃべり方をする子だなと思いながら 
82:みの ◆hetalol7Bc[sage]
2012/08/28(火) 20:39:17.61 ID:bOaug2Ec0
  
 そして車の中はしぃんとなった。 
 男はもう頭を引っ込めたかったのだが、明るいとこへ顔を出すのがつらかったので、だまってこらえてそのまま立って口笛を吹いていた。 
  
 男(どうしておれはこんなにかなしいんだろう。 
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