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2013/08/05(月) 10:56:57.59 ID:868/ISGe0
東堂あかね(女子14番)の姿が見えなくなってから、澤部淳一(男子6番)は小さく息を吐いた。そこには、どこか安堵したような響きが含まれている。
――ようやく厄介払いできたか。
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2013/08/05(月) 10:58:49.87 ID:868/ISGe0
須田雅人(男子9番)が発したその一言は、この教室全体に波紋を広げていた。橘亜美(女子12番)も、一瞬我を忘れてポカンとする。それは、心の奥底では誰もが思っていたことだけれど、同時にこの状況では言うことを躊躇う内容でもあったから。
「それって、自分は参加したくないってことかなー?」
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2013/08/05(月) 10:59:56.35 ID:868/ISGe0
高槻清太郎(男子十四番)は地面のぬめりに足を取られて滑り落ちぬよう気を付けつつ、斜面に対して平行に歩いていた。
七時間睡眠を基本としている普段の生活と比べて、十分な睡眠時間を取れたとは言い難いが、生死の狭間に立たされたこの状況下では、幾分でも休息をとれたというのは幸運だったのかもしれない。いろいろあって疲れていた夜間よりも、足取りが軽くなったような感覚があった。
支給されたバッグを肩に掛けているが、その重さもさほど気にならない。林間学校用に家から持ってきた私物も詰めているが、必要な物だけを選別した甲斐があった。先日買ったばかりのカードゲームの束など、破棄するのを躊躇われた物もあったが、命には代えられない。
支給品の他で残したものは、少ない衣類と菓子類くらいに留まった。
苦渋の決断の末に身軽さを手に入れることができた清太郎。だが、支給された武器が頼りなく、不安は残る。
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2013/08/05(月) 11:00:39.00 ID:868/ISGe0
「俺らのアジトはすぐ近くだからさ。歓迎するよ」
そう言って拳銃の大男、浜田智史(男子十八番)は手を伸ばしてきた。
強く握手を交わし、清太郎は「よろしく」と返す。
そして今度は清太郎から、マシンガンの小太り男、佐久間祐貴(男子九番)へと手を差し出す。
祐貴は数秒間黙って清太郎の手を見ていたが、これまで緊張していた顔を緩めて、最終的に握り返してきてくれた。
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2013/08/05(月) 11:01:11.47 ID:868/ISGe0
複雑に絡み合った植物の茎に足をとられそうになりながら、必死に逃げているのは高橋宗一(男子十五番)。お調子者で常にテンションが高い彼は、地声が大きくてボリュームの調整がきかず、内緒話等も周囲に聞かれてしまったりすることが度々ある。それがクラスメート同士の諍いの種になってしまう可能性もあるため、秀之からは注意レベルと評価されていた。
「くそっ、なんで俺がこんな目に……」
背後に迫る脅威に怯え、宗一は走りながら時々後ろを振り返る。
視界の中、流れていく森の景色の奥に、禍々しく殺意を滾らせる追跡者の姿をはっきりと捉えた。狐の面を被った転校生、危険レベルの辻斬り狐(男子二十五番)。その手には大型のククリナイフが握られており、重厚で切れ味の鋭そうな刃が暗闇で時折光る。
脳裏をよぎったのは、自らが斬り付けられる凄惨な光景。背筋が、ぞくっ、とした。
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2013/08/05(月) 11:01:53.31 ID:868/ISGe0
鳴神空也(男子二十六番)と山田花子(女子二十五番)のことだ。二人は船の中で口数が少なく、一見した限りでは辻斬り狐ほどの異常性は感じられないが、この糞ゲームに志願する理由なんて、確かに殺人への興味以外に考えられない。
「僕ノ場合ハ、テレビゲームガ好キデサ。特ニ、出テクル敵ヲ銃トカ[ピザ]ッ殺スヤツ。バキューン、バキューン、ッテネ。デモ、ソレニ飽キテキタノカ、近頃ハゲームナンカデハ興奮デキナクナッテキテネ」
「現実でやってみたくなったわけか……」
「ソウイウコト!」
「その仮面は?」
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2013/08/05(月) 11:02:24.00 ID:868/ISGe0
潮風が吹き付ける海岸をゆっくりと歩く人影は、肩にかけたバッグの意外な重さに、早くも音を上げそうになっていた。
細身で小柄なその正体は、足立宏(男子一番)。
彼は、海とは反対側の茂みの中から沖田秀之に覗かれていることに気づいておらず、砂浜に僅かに残されている移動の痕跡も、完全に見落としていた。まさか自らが参加することになるとは夢にも思っていなかったプログラムに突如巻き込まれたことにより、情緒不安定な状態に陥ってしまい、冷静に周囲に注意を払えるほどの余裕なんて残されていなかった。
寒いわけではないのに身体の震えが止まらず、俯き加減になりながらしきりに、両腕で自らの肩を抱いたり、癖毛でもじゃもじゃの頭を抱えたりを繰り返した。
歩を進めるごとに、力が入らない足を砂にとられ、体勢を崩してしまいそうになる。
920:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/08/05(月) 11:05:59.36 ID:868/ISGe0
?烙焔島(らくえんじま)?
千葉県から数キロ沖に存在する、およそ2km四方の島。
廃村等の存在から、かつては人が暮らしていたのが分かるが、今は無人となっている。
長い間外界から遮断されていたため、あまり調査は進んでいない。
921:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/08/05(月) 11:07:41.80 ID:868/ISGe0
「…今、何か音…したか…?」
滝井良悟(男子10番)から直線距離にして50m。
間には本棚が並んでいるため視界は開けていないので存在には気付いていないが、常陸音哉(男子14番)は音を聞いた。
微かに、聞こえた気がした。
922:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/08/05(月) 11:08:22.28 ID:868/ISGe0
音哉は溜息を吐いた。
なぜ15歳という歳で、せいぜい風邪をひいたことがあるくらいの健康体である自分が、戦いを強要され、死と隣り合わせにならなければならないのか。
…チッ、わかってる…アイツらの…政府のせいだ。
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