69:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/06/23(日) 07:53:13.92 ID:MzQQmjXnO
乙
70: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/26(水) 02:58:43.48 ID:v8bhYI//o
完全な沈黙が、神社を支配した。聞こえるのは、梢が触れ合う音と、風が通り抜ける音。俺は、掛ける言葉一つ見つからず、呆然としたまま彼女を見つめ続ける。そして、彼女もその琥珀色の瞳で、俺を見つめ返す。
まるで、その瞳が俺に言っているような気がした。”見つけた”と。
『……な、んでここに?』
71: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/26(水) 02:59:11.06 ID:v8bhYI//o
『……なんのことかな、茄子さん?』
「事務所、畳んじゃったって聞きましたよー? 社長さんから教えてもらいましたっ」
『はは、シンデレラガールズの社長には伝えなかったはずなんだがなぁ……』
72: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/26(水) 03:00:01.03 ID:v8bhYI//o
「今、幸せですかー?」
その言葉に一瞬、言葉が詰まる。俺は確かに、自分勝手な目的を果たしつつある。ただ、幸せかと言われれば――。
『幸せでは、ないね』
73: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/26(水) 03:00:38.94 ID:v8bhYI//o
(馬鹿な、いまさら何を取り返すってんだ)
自分の勘にそう反論しても、それは答えてくれることはない。ただ、警鐘を発し続けるだけだ。
「Pさんは」
74: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/26(水) 03:01:30.91 ID:v8bhYI//o
ふと気づけば、茄子さんがその琥珀色の瞳を揺らし、俺の方へ一歩、歩を進める。それを、俺は抵抗もできず、止めることもできず、ただ立っているだけだった。
ざり、ざりと参道を歩く音が響く。そして、ぽふん、と体に衝撃が走る。何がどうなっているのか、さっぱりわからなかった。ただ、茄子さんが俺の胸に顔を埋めている事だけは確かだ。
そのまま、俺は蛇に睨まれた蛙のようにしばらく動けなかったが――少しして、体を震わせる。
75: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/26(水) 03:01:57.72 ID:v8bhYI//o
いいとも。幾らでもプロデュースしてやるさ。
本音が零れそうになる。その自分の、甘ったれた思考を握り潰し、俺は茄子さんの肩へと手を置く。彼女が顔を上げた。ああ、かわいらしい顔が台無しだ。やっぱり君には、笑顔が良く似合う。泣き顔なんて、似合わない。
『……できないんだ、茄子さん。俺だって、何度も考えた。だけど、俺にはその資格も、権利もない』
76: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/26(水) 03:02:32.96 ID:v8bhYI//o
『……四年前、俺のせいで潰れたプロダクションがある』
気が付けば、俺はそう言っていた。ひびの入った陶器から水が漏れだすように、するすると言葉が漏れだしている。
その俺を、茄子さんは少し頬を濡らして、見上げる。距離はゼロに近しい。キスをしようと思えば、出来る距離じゃないだろうか。
77: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/26(水) 03:02:58.80 ID:v8bhYI//o
『当時の俺は、まあ世間の知らないガキだったよ。ある日、唯一の所属アイドルに移籍の話が来てね。大手の事務所だったよ。俺は乗り気じゃなかったが、社長は担当プロデューサーの俺ごと移籍するなら、って条件で交渉に臨んだよ』
思えば、社長はいつでも俺とアイドルのことを考えていた気がする。あの人の下でいろんなことを学んだ。アイドルに対する接し方、体調とスケジュールの管理、事務処理やトレーニング技術、果ては経営ノウハウまで。
『向こうの態度は、横柄そのものだった。まあ、でも大手はこんなものだと社長に言い聞かせられてたし、腹は立っていたけど我慢は出来た。それより向こうに移籍した後に、上手く彼女がやっていけるよう、尽力する事ばかり考えていたね』
78: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/26(水) 03:03:29.06 ID:v8bhYI//o
『結局、俺が散々暴れまわって移籍の話はご破算したよ。それだけならまだよかったけどね』
はは、と力なく笑い、ゆっくりと目を開け、茄子さんを見る。見つめ返してくる琥珀の瞳は、その先あったことを理解したようだった。
「……干された、んですね?」
79: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/26(水) 03:03:58.34 ID:v8bhYI//o
「私は、そんなこと気にしません。私にとって、Pさんは優しくて、頼りがいがあって、えっと……恰好、いい人ですから」
彼女は少し恥ずかしそうに言った。くそ、かわいらしい。女の涙に騙される男が多いわけだ。いや、騙されてもいいと思わせるだけの、可憐さと可愛さがあると、俺は今知った。
『……俺の名前はね、この業界の、一部のブラックリストに載ってるんだ。俺がプロデュースしても、茄子さんをトップアイドルには連れていけない。……また、潰されてしまうから。一緒には居られないんだ。茄子さんに迷惑を掛けたくはない』
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