75: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/26(水) 03:01:57.72 ID:v8bhYI//o
いいとも。幾らでもプロデュースしてやるさ。
本音が零れそうになる。その自分の、甘ったれた思考を握り潰し、俺は茄子さんの肩へと手を置く。彼女が顔を上げた。ああ、かわいらしい顔が台無しだ。やっぱり君には、笑顔が良く似合う。泣き顔なんて、似合わない。
『……できないんだ、茄子さん。俺だって、何度も考えた。だけど、俺にはその資格も、権利もない』
76: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/26(水) 03:02:32.96 ID:v8bhYI//o
『……四年前、俺のせいで潰れたプロダクションがある』
気が付けば、俺はそう言っていた。ひびの入った陶器から水が漏れだすように、するすると言葉が漏れだしている。
その俺を、茄子さんは少し頬を濡らして、見上げる。距離はゼロに近しい。キスをしようと思えば、出来る距離じゃないだろうか。
77: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/26(水) 03:02:58.80 ID:v8bhYI//o
『当時の俺は、まあ世間の知らないガキだったよ。ある日、唯一の所属アイドルに移籍の話が来てね。大手の事務所だったよ。俺は乗り気じゃなかったが、社長は担当プロデューサーの俺ごと移籍するなら、って条件で交渉に臨んだよ』
思えば、社長はいつでも俺とアイドルのことを考えていた気がする。あの人の下でいろんなことを学んだ。アイドルに対する接し方、体調とスケジュールの管理、事務処理やトレーニング技術、果ては経営ノウハウまで。
『向こうの態度は、横柄そのものだった。まあ、でも大手はこんなものだと社長に言い聞かせられてたし、腹は立っていたけど我慢は出来た。それより向こうに移籍した後に、上手く彼女がやっていけるよう、尽力する事ばかり考えていたね』
78: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/26(水) 03:03:29.06 ID:v8bhYI//o
『結局、俺が散々暴れまわって移籍の話はご破算したよ。それだけならまだよかったけどね』
はは、と力なく笑い、ゆっくりと目を開け、茄子さんを見る。見つめ返してくる琥珀の瞳は、その先あったことを理解したようだった。
「……干された、んですね?」
79: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/26(水) 03:03:58.34 ID:v8bhYI//o
「私は、そんなこと気にしません。私にとって、Pさんは優しくて、頼りがいがあって、えっと……恰好、いい人ですから」
彼女は少し恥ずかしそうに言った。くそ、かわいらしい。女の涙に騙される男が多いわけだ。いや、騙されてもいいと思わせるだけの、可憐さと可愛さがあると、俺は今知った。
『……俺の名前はね、この業界の、一部のブラックリストに載ってるんだ。俺がプロデュースしても、茄子さんをトップアイドルには連れていけない。……また、潰されてしまうから。一緒には居られないんだ。茄子さんに迷惑を掛けたくはない』
80: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/26(水) 03:05:03.39 ID:v8bhYI//o
「そんな、迷惑だなんて……」
『全部、俺のエゴだ、茄子さん。俺の見出したアイドルが、トップアイドルになる。そこに俺の名前は無くても、ね。本当に、完全な自己満足だよ。だから、俺には君を、アイドルをプロデュースする権利も、価値も、資格もないんだ。……俺が、何を望もうと、ね』
「では、聞こう。君は、何を望む?」
81: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/26(水) 03:05:29.49 ID:v8bhYI//o
「いやはや、本当に君がいるとはね。鷹富士くんの運、というのには恐れ入ったよ」
『シンデレラガールズの社長……? なぜ、ここに』
そこには、つい先日茄子さんが移籍したプロダクションの社長。憎々しい男だ。何度も、俺に暴発するよう差し向けた。四年前の悪夢を、何度も繰り返させようとした。その記憶が蘇る。
82: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/26(水) 03:06:24.93 ID:v8bhYI//o
しかし、それなら尚更たちが悪い。俺がどんなことをあのプロダクションにしてしまったのか、彼は知っているのだ。それでもなお、俺に暴発させようとしたのか。
そして、少し唖然としたままの俺に、シンデレラガールズの社長は追い討ちを掛けるように言う。
「それで、君は先生のプロダクションが潰れたのは、自分の責任だと言いたいわけだね?」
83: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/26(水) 03:06:51.17 ID:v8bhYI//o
「……やはり、知らなかったようだね。先生も、君に伝えておけば、ここまでこじれることはなかったかもしれないのに」
社長はため息をつき、そして言った。
「君があの時何をしようと、先生はもう限界だった。どちらにせよ、移籍を終えればプロダクションは解散の予定だったそうだ」
84: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/26(水) 03:07:23.46 ID:v8bhYI//o
『結局、俺はその程度だったってことか』
「そんなこと――」
俺の諦念にも似た呟きに、今まで押し黙っていた茄子さんが反論しようとした。そのときだった。
85: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/06/26(水) 03:08:23.83 ID:v8bhYI//o
今回はここまでです。長いからって区切りすぎた気がします。
卒研進めてたせいでイベントろくにできなかったのが心残りですね。
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