過去ログ - 食蜂「好きって言わせてみせるわぁ」 その3
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乾杯
◆ziwzYr641k
[saga]
2013/09/07(土) 23:04:05.85 ID:eVoQzYad0
昼間の件について詫びていると、すぐ横で少年が着ているトレンチコートを脱いでいるのが見えた。
一瞬良からぬ想像が浮かんだが、彼は黙ってそのコートを自分の肩にかけてくれた。
寒さで肩が震えていることに気づいたのだろう。
その重さと、まだ残っている温もりに、少しだけほっとする。
一方で、胸にわだかまる不安は、今の空模様よりなお暗澹としたままだ。
外部の人間向けに、定期的に行われている研究所でのデモンストレーション。
大失態という言葉ですら軽かった。
まさか能力開発を見学に来た理事やスポンサーの目前で
催眠をかけた相手を昏睡状態に陥らせてしまうなんて。
「あ、あの、私、これからどうなるんですかぁ?」
ついに堪えきれず、涙声になってしまう。
情けない限りだったが、自分を心配してくれたという何でもない言葉に、感極まっていたのかもしれない。
学園都市の裏組織、暗部。
問題を抱えた能力者たちの再処理施設。
都市伝説じみた噂は学生の間でもまことしやかに囁かれている。
そしてその噂がほぼ正しいことを、少女は知っていた。
『大丈夫ですよ。もう何も心配することはありません』
子供をあやす様な、言い聞かせるような声だった。
小学生のような外見でも、やはり彼女は学園の教師なのだと思い知る。
「え……で、でも」
それでも、彼女の言葉を鵜呑みにはできなかった。
どれだけ能力を解除しようとしても、彼らには何の反応も見られなかったのだ。
異変を察して駆けつけた研究員たちが頬を叩いて呼びかけても、気つけ薬を使っても――電気ショックでも。
私の目の前で、彼らが目覚めることはなかったのだ。
そんな、否定的な思考に陥っている自分に――
『実験に付き合ってくださった皆さん、あの後すぐに意識を取り戻しましたから』
彼女はきっぱりとそう言った。
受話器越しでも伝わる朗らかさに、狐につままれたような気分になった。
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