過去ログ - 鷹富士茄子「幸運にめぐまれて」
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49: ◆bsVOk5U9Es[saga]
2013/09/16(月) 20:27:11.47 ID:jugo19V7o

 埃っぽい店内から出ますと、初夏の日差しが降り注ぐものですから、その眩さに私の目は少しちかちかとしてしまいます。
知らず汗をかいていたようで、緑薫る風が大変に心地良く感じられました。
うきうき気分で先ほど物々交換で手に入れましたヘアピンをさし、「さぁ、姿を見せて黒猫さん。」と意気込んでみたはいいものの、そう上手く事が運ぶ訳ではないようです。
しかし私は気を落としたりはしないのです。世の中というものは何事も巡り合わせでありますから、きっとご縁がありましたらそのうちに良い運びとなりましょう。
以下略



50: ◆bsVOk5U9Es[saga]
2013/09/16(月) 20:28:18.11 ID:jugo19V7o

 バスルームから出ると濡れた髪もそのままに私はベッドへと腰掛けます。
我ながら少しお行儀が悪いかも知れません。こんな姿を母に見られでもすれば、たちまちに有難いお小言を頂くに違いないでしょう。
肩に掛けたタオルで髪の湿り気を取りながら、リモコンの電源ボタンを押します。
もはや普及しきった液晶テレビが音もなく画面を映しだしました。ぶおん、と鈍い音を発するブラウン管も今では目にする機会は殆どありません。
以下略



51: ◆bsVOk5U9Es[saga]
2013/09/16(月) 20:29:55.70 ID:jugo19V7o

 順繰りにチャンネルを送って見つけた地方局に合わせ、私は白いタオルをアルミ製のラックへとかけました。
髪先はまだ僅かに湿ってはいますが、この陽気ですから直ぐに乾くことでしょう。
モニターからは若い女性の声が聞こえてまいります。
そちらへと目を向ければ、マイクを持ったレポーターらしき女性と画面中央に立つ年老いた男性が一人。
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52: ◆bsVOk5U9Es[saga]
2013/09/16(月) 20:32:05.51 ID:jugo19V7o

 代々陶芸を営んできたという男性は、取材陣を蔵の中へと案内しました。
そこには急須や湯飲み、花瓶や茶碗などが数えきれない程に収められております。
「最近はこういったものもつくっている。」そうお爺さんが持ちだしたのは取手とソーサーのついたコーヒーカップでした。
備前焼で作られたそれは、白い洋食器と比べて暖かな印象を受けます。土の色合いや質感がそう感じさせているようでした。
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53: ◆bsVOk5U9Es[saga]
2013/09/16(月) 20:34:14.27 ID:jugo19V7o
 
 少し、しんみりとした様子のお爺さん。心なしか、一回りほど小さくなったように思えます。
十六といいますともう高校生でしょうから、焼き物よりも服やアクセサリーといったものに心惹かれる年頃なのかも知れません。
自分の焼き物が喜ばれなくなったお爺さんの心中は察するに余りあることでしょう。
寂しそうに伏せた目が、一層と哀愁を誘います。
以下略



54: ◆bsVOk5U9Es[saga]
2013/09/16(月) 20:36:26.02 ID:jugo19V7o

 ……なんだかどっと疲れてしまったように思います。
別にお爺さんが悪いわけではないと分かってはいても、このやり場のない思いをどうすればいいのか、非常に悩ましいところであります。
その後、画面上には威厳の欠片もない好々爺と化した男性が、延々とお孫さんについて語り続ける姿が映しだされておりました。
もはや惚気けるといってしまってもよい語りっぷりであります。レポーターのお姉さんも、どこかぐったりとして見えたのはきっと気のせいではないでしょう。
以下略



55: ◆bsVOk5U9Es[saga]
2013/09/16(月) 20:38:07.48 ID:jugo19V7o



 
 他愛のお喋りをして、テレビを眺めたりホテル内を探検したりとしているうちに、いよいよその時が近づいてまいりました。
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56: ◆bsVOk5U9Es[saga]
2013/09/16(月) 20:38:38.06 ID:jugo19V7o

 バスに揺られること二十分ほど。遠き山に日は落ちて、辺りは橙色の柔らかな光に包まれております。
ライブの行われるホール近くではぞろぞろと人々が降車していきます。勿論、その人々には私も含まれておりました。
ホールまでは更に十分ほど歩くため、車内では迷わないかと不安でありましたが、同乗していた気合の入った方々のお陰でどうやら杞憂と終わりそうです。
楽しげに会話を交わす彼らの後ろを、私はのんびりと歩いて行きました。
以下略



57: ◆bsVOk5U9Es[saga]
2013/09/16(月) 20:40:39.07 ID:jugo19V7o

 会場の敷地内には、老若男女を問わずと数多くの人々が集っております。
建物の入り口までの道のりには、色取り取りの出店が並んでおり、縁日のような眺めでございます。
そして、敷地内の一番目立つ所には、運動会で見かけるようなテントが幾つか並んでおり、こぞって人々はそこを目指しているようでありました。
焼きトウモロコシや、りんご飴、たこ焼きにお好み焼きなど、お祭りの匂いに誘われそうになるものの、どうにか踏み留まった私は、人波に乗って白いテントを目指すのでした。
以下略



58: ◆bsVOk5U9Es[saga]
2013/09/16(月) 20:41:37.93 ID:jugo19V7o

 テントの内いくつかは実行委員会の本部といったところでしょうか。
お揃いの上着と帽子を身につけた方々が、無線で連絡を取り合ったり集ったファンたちを誘導したりと、まさに八面六臂の大奮闘であります。
そういったテントを二つほど挟んだ先には、やはり同じように人々が犇めき合うテントがあります。
係員の数に見合わないほどの人々が詰め寄っているあたり、どうやらグッズ販売を主としたもののようでした。
以下略



59: ◆bsVOk5U9Es[saga]
2013/09/16(月) 20:43:31.95 ID:jugo19V7o

 漸くと品物が見える位置へとつけた私は、「この経験だけでちょっとした本が書けそうだ。」と、仕様もないことを思います。
それ程までに、人の波を掻き分けて進むというのはなかなか過酷な旅路でありました。
眼前に置かれた幾つもの長机には、彼女たちゆかりの商品が所狭しと並べられております。
団扇やTシャツにブロマイド、マフラータオルにスポーツキャップ、渋谷凛さんのシングルCD、それとこうしたイベントには必需品だと聞く光る棒、サイリウムなど。
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