1:以下、新鯖からお送りいたします[saga]
2013/09/21(土) 01:54:03.67 ID:8ucU1b060
大学4年、夏。俺はあほだった。
生来の怠惰な性格が災いし、周囲が就職活動や卒業論文やらに精を出し過程を経て結果を出しなどしているのを横目に俺は、コンビニエンスストアのアルバイトをずるずる続けたり、サークルの連中と馬鹿騒ぎをしたり、たまの休みに朝からボンベイサファイアの瓶を片手に自室をうろうろするなど、将来性のまったくない用事に忙殺されながらも危機感はなかった。
そんな俺でも教授から呼び出され、「お前、これからどうするんだ」なんて真顔で言われるとやはり心に来るものがあって、以降の俺はアルバイトも辞め、エントリーシートや論文の作成・添削といった地道かつ重要な作業をつぶつぶ始めたかというとそんなことはなかった。
ではどうしたかというと、なんてくだくだしい前置きをするまでもない。ただ俺は逃げたのである。
といって夢見がちな餓鬼たる俺のこと。一切れのパン、ナイフ、ランプ鞄に詰め込んで飄然と旅に出たわけではない。
土曜日の夕方、俺はジーンズの尻を叩いてポケットに財布があるのを確認すると、ウィスキーかなんかの強い酒を買いに出かけたのであった。
尻に火。
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2:以下、新鯖からお送りいたします[saga]
2013/09/21(土) 01:54:55.39 ID:8ucU1b060
酒屋もコンビニもスーパーマーケットも素通りした。なぜならこれらの店は一定程度取り扱う商品の種類が決まっているからで、酒を買うなどと言い条、実際は現実から逃れ気分が落ち着くまで時間を潰したいだけの俺にとって、買って帰る、という直線的な動作だけでことが済んでしまう店はあまりにも便利すぎた。
結局やってきたのは地上3階地下1階建ての大型ショッピングセンターだった。米国の様式を形だけ摸した空虚な店内には食品、雑貨、衣類、家電、眼鏡、畜類、書籍など実にさまざまな商品に特化した店が立ち並び、各々の店を見ていたらとても一日では回りきれない、という実に今の俺におあつらえ向きな不便さを持ち合わせていた。
休日とあって店内は親子連れやカップル、女子高生や暇な爺婆で浅ましいほど混んでいた。げしゃげしゃであった。
内心うんざりしたがここで帰るのも癪である。大抵酒の売り場は一階、もしくは地下にある。半ば自棄になった俺は3階に向かうことにした。
3:以下、新鯖からお送りいたします[saga]
2013/09/21(土) 01:55:23.74 ID:8ucU1b060
常識とは20歳までに集めた偏見のコレクションである、だなんて言った人があるが、その偏見の目で見ればまったくの無意味な、無内容なショーであるのはまず間違いない。しかしながらこの時の俺は、内容や意味を超越した、なにか崇高なものをこのショーに感じていたのである。
つまりこれが仕事というものなのだ。ステージ上のへぼ役者たちはこの、なんの意味もない、なんらの意義も見出せないしょぼくれた演劇に関わることで飯を食うのだ。
おそらく彼らは心中で泣いていることであろう。人として生まれて演技を覚え、こなす年齢になっても尚、誰からも省みられない仕事で他者への良心、自らの青春を殺してゆく。報酬といってわずかな給金と子供たちからの声援のみ、その純真な子供たちによって心から発された声援ですら、結局のところは自らのへぼな演技によって騙し取ったまがいものなのだ。
これほどの悲劇があろうか。でもこの程度の悲劇なんて社会のどこでも演じられていて、畢竟それが、働く、ということなのだろう。
4:以下、新鯖からお送りいたします[saga]
2013/09/21(土) 01:55:56.22 ID:8ucU1b060
「さあどうする、ショウテンガイ」
「こうなったら仕方がない。そこの君、力を貸してくれ」
ステージ上で腑抜けていた俺はぼんやりと、まだ増やすのか、なんて思っていた。でも仕方がないなら仕方がない。
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