21: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/08/31(日) 22:58:02.84 ID:FWRyUZRr0
市販の物とはとても思えない、不必要に尖った部分のある鋭いデザイン、研ぎ澄まされ過ぎた刃。危険な匂いしかしない。鉄の香りがわたしの鼻先まで漂ってくるかのようだった。
刃先が金髪の身体に向く。だらだらと長い金髪の散髪をしてあげる、という様子ではない。
切っ先そのまま、少女は迷いなく鋏を突き出した。
鋏は金髪の右肩に刺さった。
22: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/08/31(日) 22:59:37.22 ID:FWRyUZRr0
金髪の絶叫が木霊する。それを楽しむように、口が裂けそうなほどの笑みで少女が鋏を捻る。絶叫にノイズのような変化が生じた。少女はラジオのつまみをいじるように、ぐりぐりと鋏を捻り回す。金髪の叫びから痛みが伝わってきそうで、耳を塞ぎたくなる。
少女が鋏を抜き、金髪を蹴転がす。金髪は、ぎゃっ、と一鳴きした後、肩を抑えながらうずくまり、荒い息を繰り返すだけとなった。
「さあ、次行きましょうかね」少女が青頭に、血と雨水に濡れた鋏を向けた。
23: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/08/31(日) 23:01:31.04 ID:FWRyUZRr0
少女の一方的な暴力を呆然と見ていた青頭が反応する。「お前、この女の知り合いかよ」
「いや、知らないけど、そんなメスガキ」少女が鋏を振った。わたしもこんなハサミ女は知らない。
24: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/08/31(日) 23:04:45.47 ID:FWRyUZRr0
不意に、青頭に襟を掴まれ、乱暴に引き寄せられた。きゃあ、と声を出す間もなく、少女の方へ突き飛ばされた。
ぶつかる瞬間に、鋏の輝きが目に入る。あの金髪を痛めつけた鋏がこちらを向き、わたしを切って捨てるに違いない。そう、思った。
わたしの背と腰に、少女の手が絡んだ。
予想に反し、少女はわたしを抱き止めながら、わたしの背後の方へ軽やかに足を運び、くるりと反転した。
25: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/08/31(日) 23:06:42.95 ID:FWRyUZRr0
うしろ、と声が出かかった時、少女の右腕が鞭のように動いた。
少女はわたしを左手で支えたまま、上半身を軽く捻った。右肘から動いた、そう思ったら、もう次の瞬間には目にも止まらぬ速さで右腕全体がしなり、鋏の閉じる音が響いた。
しゃきん、という音に続いて、ぽちゃん、という音があった。
26: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/08/31(日) 23:08:42.43 ID:FWRyUZRr0
ぞっ、と怖気が走る。肩や背の辺りの、肌が粟立つ。
一呼吸の後、青頭が、自分の右手の指が揃っていないことに気づき、悲鳴を上げる。
慌てて自分の中指を拾い、踵を返し、駆け出した。わたし達の横を抜けて、金髪もふらつきながらそれに続いた。
慌ただしい足音も、すぐに雨音に消える程遠ざかり、彼らの傘だけがこの場に残った。
27: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 21:55:43.39 ID:b1HKoC2c0
「結局、逃げんのかよ。全然好みじゃないし、いいけどさあ」少女が笑い飛ばす。同時に、わたしの身体から手を離した。
少女の腕に背を預ける格好となっていたわたしは、濡れた地面に尻餅を突いた。うひゃあ、と変な声が出て、少女がげらげら笑った。
「あの」尻をさすりながら、立ち上がる。「助けてくれて、ありがとうございました」頭を下げ、上目使いに、ちらっと、少女を観察する。
28: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 21:56:47.83 ID:b1HKoC2c0
「たまには善行を積むのもいいもんね。いつもはまあ、やりたい放題やっちゃってますけど」少女はまた、げらげらと笑った。
人を刺し、指を切り飛ばして喜んでるような人間が、全うな善人であるわけがなかった。
29: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 21:57:57.83 ID:b1HKoC2c0
が、少女の方を見ると、どうも上の空のようだった。何かおかしい。少なくともわたしの話は聞いていない。
やがて、少女がわたしの後方を睨んでいることに気づき、振り返る。
30: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 21:59:25.30 ID:b1HKoC2c0
少女の時と同様に、それは闇から現れた。
視認した瞬間、黒い布を被った死神に見え、びくり、と身体が震えた。
目を凝らし、よく見ると、黒い布ではなく紺のレインコートで、死神ではなく人間だと解った。
紺色の、脛辺りまである長いレインコートだ。手には、黒い革手袋。大きなフードを目深に被っており、顔が殆ど見えない。
31: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:00:44.16 ID:b1HKoC2c0
「だんまりかよ。まあ、違うなんて嘘吐いたら、舌をちょん切ってやんだけどさあ」少女は笑いながら理不尽な台詞を飛ばすと、地を蹴った。
風のように、わたしの横を抜け、少女は一直線にレインコートへ迫った。
レインコートの一歩手前で、足に力を込め急停止し、死んでいない上半身の勢いに任せ腕を振った。鋏が口を開け、襲いかかる。
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