32: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:02:05.84 ID:b1HKoC2c0
雨男はナイフを少女に向け、空中で彼女の姿をなぞるように、ゆっくりと動かした。どうやって身体を寸断するか、測っているようだった。
少女は調子を確かめるかのように、しゃきちゃきと二、三度鋏を鳴らした。
今度は、同時だった。両者ともが唐突に、同じ時機に、踏み込んだ。
交錯の瞬間、少女の鋏は再び空を切った。
33: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:03:13.60 ID:b1HKoC2c0
----- ✂︎ -----
「いやあ、あんな美味しいディナーまでご馳走になっちゃって、悪いわね」
34: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:05:07.90 ID:b1HKoC2c0
雨男が去った後、少女は唐突にわたしの方を向き「アンタ、名前は?」と尋ねてきた。
この危険人物に名前を教えていいものかと、わたしが口ごもっていると、少女は自身の制服のスカーフを左の二の腕に巻きながら、声を荒げた。
「聞こえなかった?お名前なあにって訊いてんのよ。ワッチュアネーム。自分の名前忘れちゃったの?だったら、アタシが思い出させてあげるけど」少女が鋏を鳴らしはじめた。
35: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:08:50.95 ID:UDVM4aPw0
まるで古くからの友のような気軽さで放たれた願いを、いやです、と、わたしは即座に拒否した。
この少女はどう考えても危険人物だ。どうすれば早くこの少女と別れられるか、と必死に考えていたのに、冗談じゃない。
「いいじゃないのよ。色々とアレなことされる前に、助けてあげたじゃん。お願い、こまっちゃん」
36: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:15:31.02 ID:UDVM4aPw0
家に向かう前に、わたしは一つ質問を返した。
「あなたの名前は、なんていうんですか?」こちらが名乗らされたのだから、これぐらい訊いても怒りを買う事はないだろう、と思った。
37: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:16:34.77 ID:UDVM4aPw0
ずぶ濡れのわたし達を迎えた母は、わたしがジェノサイダーを友達であると紹介すると、あら、と目を細めて笑むだけで、特に何を問うこともなく、唐突な来訪者の宿泊を承諾した。昔から母は、底の見えないところがある。
ジェノサイダーと入れ替わりで入った風呂から上がると、既に食卓には晩御飯が並んでおり、ジェノサイダーはその料理を褒めちぎっていた。
とにかくよく喋るジェノサイダーは母と早々に打ち解けた様子で、わたしは複雑な気持ちで箸を口に運んだ。
38: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:17:58.72 ID:UDVM4aPw0
食事を終え、今、わたしの部屋で殺人鬼と二人きり。
緊張の抜けないままベッドに腰掛けるわたしに反し、わたしのパジャマを着たジェノサイダーは、鼻歌交じりに部屋をうろうろし、本棚やら、写真立てやら、置いてある物を眺めていた。
わたしはなんとなく、除菌スプレーを適当に吹きかけ干してある、ジェノサイダーのセーラー服を見た。スカーフはない。パジャマの下の二の腕に、直に巻き直してあるのだろうか。
それよりも、あの恐ろしい鋏は、この制服に忍ばせてあるのだろうか。それとも、今もジェノサイダーが肌身離さず持っていて、いつでも振りかざせるのだろうか。
39: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:19:15.48 ID:UDVM4aPw0
とりあえず、ただ頭を抱えるより、ここの殺人鬼に質問をぶつけてしまおうか。本格的に部屋を漁りだすのを止める為にも。
「あの」声をかけたら、ん?とジェノサイダーがこちらを向いた。丁度、白い熊のぬいぐるみと、黒い熊のぬいぐるみを、見比べるように両手に持ったところだった。色以外はほぼ同じぬいぐるみだが、それぞれ別の人物から貰った物だ。「なんで、雨男を探してたんですか?」
40: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:20:14.77 ID:UDVM4aPw0
「迷ってるうちに?品定めみたいな感じですか?」
「そんなもんはとっくに済んでたわよ。間違いなく、極上の獲物だった」
41: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:21:32.98 ID:UDVM4aPw0
部屋に沈黙が流れる。
「え?」殺人鬼を名乗ったと思ったら、今度は、人を殺せない、とは。「本当ですか?一体、どうして」
42: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:23:09.03 ID:UDVM4aPw0
「まさか、それで人を殺さないって約束を取り付けられたんですか?」この、ジェノサイダー翔が?「逃げ切られたんですか?」
「まったく、とんだラッキーボーイよねぇ」ジェノサイダーは、まるでその人物が目の前にいるかのように、笑った。「あんな小僧との約束なんざ、律儀に守る必要ないはずなんだけどさあ。なぜか、どうしても、破れないのよね」
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