38: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:17:58.72 ID:UDVM4aPw0
食事を終え、今、わたしの部屋で殺人鬼と二人きり。
緊張の抜けないままベッドに腰掛けるわたしに反し、わたしのパジャマを着たジェノサイダーは、鼻歌交じりに部屋をうろうろし、本棚やら、写真立てやら、置いてある物を眺めていた。
わたしはなんとなく、除菌スプレーを適当に吹きかけ干してある、ジェノサイダーのセーラー服を見た。スカーフはない。パジャマの下の二の腕に、直に巻き直してあるのだろうか。
それよりも、あの恐ろしい鋏は、この制服に忍ばせてあるのだろうか。それとも、今もジェノサイダーが肌身離さず持っていて、いつでも振りかざせるのだろうか。
39: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:19:15.48 ID:UDVM4aPw0
とりあえず、ただ頭を抱えるより、ここの殺人鬼に質問をぶつけてしまおうか。本格的に部屋を漁りだすのを止める為にも。
「あの」声をかけたら、ん?とジェノサイダーがこちらを向いた。丁度、白い熊のぬいぐるみと、黒い熊のぬいぐるみを、見比べるように両手に持ったところだった。色以外はほぼ同じぬいぐるみだが、それぞれ別の人物から貰った物だ。「なんで、雨男を探してたんですか?」
40: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:20:14.77 ID:UDVM4aPw0
「迷ってるうちに?品定めみたいな感じですか?」
「そんなもんはとっくに済んでたわよ。間違いなく、極上の獲物だった」
41: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:21:32.98 ID:UDVM4aPw0
部屋に沈黙が流れる。
「え?」殺人鬼を名乗ったと思ったら、今度は、人を殺せない、とは。「本当ですか?一体、どうして」
42: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:23:09.03 ID:UDVM4aPw0
「まさか、それで人を殺さないって約束を取り付けられたんですか?」この、ジェノサイダー翔が?「逃げ切られたんですか?」
「まったく、とんだラッキーボーイよねぇ」ジェノサイダーは、まるでその人物が目の前にいるかのように、笑った。「あんな小僧との約束なんざ、律儀に守る必要ないはずなんだけどさあ。なぜか、どうしても、破れないのよね」
43: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:24:58.71 ID:UDVM4aPw0
「なんであれ、アタシの獲物の命を掻っ攫った以上、あの男には、自分の命でツケを払って貰わなきゃ気が済まねえのよ。だからアタシは雨男を探してた」
それはそれで凄い言い分ですね、と、わたしは思ったが、口には出さなかった。
44: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:28:02.90 ID:UDVM4aPw0
再び、しばしの沈黙が流れた。
言い回しにどこか引っかかるものがあるが、殺人鬼が消え去るのなら、それは世界にとって喜ばしい。そのはずだ。
しかし、沈黙を破ったわたしの言葉は、自分でも信じられない内容だった。
45: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:28:48.84 ID:UDVM4aPw0
「なんじゃそりゃ」ジェノサイダーは吹き出した。「何の解決にもなってないじゃん」
「そうですよね、すいません」わたしは、消え入るような声で謝った。笑っているからいいものの、あまり適当なことを言うものではない。特に目の前の相手には。
46: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:30:00.12 ID:UDVM4aPw0
----- ✂︎ -----
目を開けるといつもより天井が遠くにあり、床で寝たことを思い出す。
47: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:30:52.01 ID:UDVM4aPw0
身体を起こし、部屋を見回す。
ジェノサイダーが居なかった。
干してあったセーラー服もない。
ベッドの上には意外にも綺麗に畳まれた、わたしがジェノサイダーに貸したパジャマがあった。その上にメモが一枚置いてある。わたしが部屋に置いているメモ帳の一片だ。「寝相悪過ぎ」と、乱雑な字で小言だけが書かれていた。丸めて捨ててやろうかと思ったが、裏面にも何か書かれていることに気づいた。「雨は止んでない。せいぜいお気をつけて」と書かれていた。
48: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:34:37.58 ID:UDVM4aPw0
----- ✂︎ -----
ジェノサイダーとの邂逅から、三日が経った。
93Res/54.37 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。