1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2014/09/12(金) 09:24:01.56 ID:YEnzxIxj0
中東の風は乾いているな、と男はこの国に降り立って二分に一回は考えていることを口に出してみた。  
  ひゅうひゅうと吹き付ける風には僅かに砂が混ざっていて、目が乾く。  
  「……帰りに目薬でも買っていくか」  
  目を煩わしそうにしばたたかせ、立ち止まっていた男は再び歩き出した。  
  周りにはあばら家と見まごう程にボロボロの家屋が立ち並んでいて、しなびたバナナを汚い布の上で並べている年老いた商人がこちらを訝しげに見つめている。  
  男は訝しげな視線を気だるそうなジト目で受け止めて、年老いた商人に言った。  
  『日本人は珍しいか?』  
  『……珍しいなんてもんじゃないさ、なにしにきたんだイエローモンキー。ここらにゃ人売りぐらいしかいないぞ』  
  『それが目的なのさ』  
  『ここを真っ直ぐいきな、戦争のゴミをかき集めてるクズどもが居る。対応を間違えてくれるなよ。わしはまだ頭をスイカのように吹き飛ばされたくは無いからな』  
  『尽力しよう』  
  男は商人に興味を失ったようで、一度は止めた足をまた進めていく。  
  しばしボロボロの家屋が立ち並ぶ景色が続き、やがて鉄筋コンクリート造りの廃屋が見えてきた。大きさは学校ほど。廃校を拠点にしているのかもしれない。  
  ところどころ銃痕が刻まれ、あまり平和な所ではないことを教えてくれる。  
  男は門を開き、塀の内側に足を踏み入れた。  
  枯れた雑草が所々に茂り、ドラム缶で炎がいきり立っている庭。  
  『おい、誰かいないか!』  
  呼びかけるとすぐに正面のドアが開き、ターバンを巻いた男が出てくる。  
  目付きはギラギラと鋭いナイフの様に鈍く輝き、手にはカラシニコフを構えていた。  
  ターバンを巻いた男が問う。  
  『誰だ?この国のもんじゃねえな。チャイナか?』  
  『残念ながらチャイナとは仲が悪いな。日本人さ』  
  男の答えを聞き、ターバンを巻いた男は褐色の顔を歪め怪訝そうに言う。
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2014/09/12(金) 09:24:24.58 ID:YEnzxIxj0
 『日本人?おいおい、ここは観光地じゃないぞ。とっとと帰れ。じゃないと鉛弾をケツ穴にブチ込むぞ』 
 『待ってくれよ、俺は買い物に来たんだ』 
 『尚更出てけッ!日用品が欲しかったらバザールにでも行くといいッ』 
 男はめんどくさいなと思う。 
 自分たちの売り物の事を完璧にわすれさっているじゃあないか。 
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2014/09/12(金) 09:25:26.60 ID:YEnzxIxj0
 男は持っていたバッグをあさり、通帳を取り出した。 
 『そこにゃ俺の資産が載ってる。一部だけどな……職業は勘弁してくれ。表に出せるようなもんじゃないんだ』 
 スーツの男は渡されたそれを空いてる方の手で受け取り、ざっと目を通してまあいいだろうと胸ポケットから手を出した。 
 『随分と持ってるじゃないか。日本人のサラリーマンはこんなに儲かるもんなのかい?』 
 『サラリーマンなんかじゃ一生手は届かないだろうよ』 
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2014/09/12(金) 09:26:11.32 ID:YEnzxIxj0
 さて、と男は開かれた鉄箱の隅でうずくまる少女に英語で話しかける。 
 『何言ってるかわかるか?』 
 少女は色の違う両眼に涙を浮かばせ、首を横に振る。 
 (おっと……中国人?朝鮮?東アジアあたりの人間だったか……) 
 そう思い、今度は中国語で語りかけてみた。 
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2014/09/12(金) 09:26:57.89 ID:YEnzxIxj0
 「……旅行中に、紛争に巻き込まれたので」 
 「聞いたよ。どんぐらいあこそでうりに出されてたんだ?」 
 「三年半です」 
 「一桁の時からか、そりゃご苦労なこって。よく今まで売れなかったな」 
 「…………一年ぐらい前から、急に男の人があの部屋に来る頻度が上がりました」 
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