5: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/12/27(土) 17:06:57.56 ID:bTDiL5Hz0
頭を働かせずに歩いていると里志が俺を追い抜いた。チェーンの回る音を響かせながら、手を振って進んでいく。
俺と里志は中学から同じで、一緒にいる期間も時間もそこそこ長いが、どうしてか連れ立って帰ることはなかった。
見る人が見ればその関係は「冷たい」と言われてしまうだろう。
6: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/12/27(土) 17:07:49.29 ID:bTDiL5Hz0
が、里志曰くの「桁上がりの四名家」のお歴々が揃いも揃って神山高校に籍を置いている辺り、エリート層であっても学問に身を入れようという教育はあまりされてないのかもしれない。
校則が厳しいと噂のブレザーたちでも下校時の道草は許されているらしい。勉強はやらなくてはいけない部類に入るが、だからこそ手短にするべきだ。
彼らの向上心は俺には恐らく縁がない。
7: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/12/27(土) 17:10:01.88 ID:bTDiL5Hz0
新刊の期待もほどほどに、平積みされた本の山に視線を通していく。店内にはポップや店員からのおすすめ紹介などがひしめいていて、実に自己主張の強い場となっていた。
躍る惹句は「春休みの読書感想文にどうぞ! 名作文庫フェア」を筆頭に、学生の長期休暇にちなんだものばかりだ。
他に目につくのは映画化の紹介や万引き防止を促す張り紙。しかし俺が見たいのはそれではなく、今月の新刊一覧である。
8: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/12/27(土) 17:12:29.01 ID:bTDiL5Hz0
ふと俺が入ってくるときの出来事を思い出す。これは恐らく、あのどちらかのものだろう。
中身を見れば持ち主のプロフィールもわかるだろうが、さすがにそれはプライバシーの侵害だ。自宅の電話番号くらい入ってそうなものだが、はてさて。
店員に渡すのが妥当と判断し、店内へと戻ろうとするが、ちょうど子連れがこちらに向かってくるところだった。母親らしき人物の両隣りに、男の子と女の子。通路一杯の幅を使っている。
9: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/12/27(土) 17:14:34.60 ID:bTDiL5Hz0
俺の学校の生徒が襲われたらしい。
その話を聞いたのは、朝のホームルーム、担任からだ。昨晩、塾から帰る途中のできごとだという。
名前は出さなかったが、場所がとある河川敷であること、女生徒であること、命に別条はないが鞄が持ち去られたことが伝えられた。次いで注意喚起もされた。
10: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/12/27(土) 17:15:22.32 ID:bTDiL5Hz0
「怖いな」と、特別棟四階の端、神山高校の辺境、地学準備室で俺の隣に座った里志はそう言った。
里志は口ではそう言っているものの、表情はにこやかだ。まさか自分が被害者になるわけがないというような。
それはある種一般的な反応だ。俺だってまさか矛先が自分に向くとは思っていない。
11: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/12/27(土) 17:16:37.73 ID:bTDiL5Hz0
「どうした、千反田」
俺は伊原の隣でかちゃかちゃとやっている千反田に声をかけた。
12: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/12/27(土) 17:17:38.02 ID:bTDiL5Hz0
いや……。そういえば。
俺はポケットからそれを取り出す。昨日偶然拾ったそれを。
「俺も持ってるんだ」
13: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/12/27(土) 17:18:41.62 ID:bTDiL5Hz0
「いやいや、いいんだよ。お二人とも、お幸せにね」
「だから、そんなことはなくてですね――折木さんも何か言ってくださいっ」
14: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/12/27(土) 17:19:32.52 ID:bTDiL5Hz0
「千反田さん、ケータイの登録はしたかな?」
思い出したふうに里志が言う。
携帯電話の登録? 自転車の防犯登録みたいなやつか?
15: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2014/12/27(土) 17:20:14.29 ID:bTDiL5Hz0
「あの、福部さん。携帯電話の登録ってなんでしょうか?」
おずおずと千反田が尋ねる。
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