92: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/02/26(木) 23:40:52.99 ID:MBaWhPHO0
……今思えば、恥ずかしい行為ですこと……。
アンマリにも腹が空いたからって、ここ掘れ応々、だなんて……ホホホ……。
しかしながら、空腹とは人を獣にするようでして。エエ……。
ズンズンと進みますと、匂いは濃くなり、空気は水気を帯び重たくなります。
93: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/02/26(木) 23:44:44.14 ID:MBaWhPHO0
白いものが交じった髭だらけの、汚らしい襤褸(ぼろ)を羽織った男です。
普段の妾でしたなら、きっと近付きもしなかったでしょう。
ですが、今の妾には男の姿すら見えておりませんでした。
ただ、美味そうな匂いを漂わせる鍋が、気になって気になって仕方がありませんでした。
94: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/02/26(木) 23:48:00.53 ID:MBaWhPHO0
「ナンダ……食いたいっていうのかい。エエッ……」
嗄れた声で呟く男は、妾では無く何処か別の人に語りかけているかのようでした。
しかしそこには妾しかおりませんでしたので、キット男は妾に話しかけているつもりなのでしょう。
妾は何も言わず、唖のようにただ凝然(じっ)と指を咥えて鍋を見つめておりました。
95: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/02/26(木) 23:53:57.45 ID:MBaWhPHO0
「……腹が減っておるのかい」
男はナニヤラ迷っているようでした。
自分の折角の食事を、赤の他人である妾にくれてやるのを躊躇っているような素振りです。
男の目がギョロリギョロリと、妾と鍋を行き来します。
96: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/02/26(木) 23:56:49.33 ID:MBaWhPHO0
妾はもう我慢なりません。
今にも男から鍋を奪い取らんとする勢いです。
「食わせてくれるのですか」
97: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/02/26(木) 23:58:15.90 ID:MBaWhPHO0
ですが、ちらと見たトタンに、妾の食欲やら胸の高まりやらは、
一気に萎んでしまいました。
98: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/02/27(金) 00:00:14.99 ID:jdn1l7cc0
鍋の中身と、目が合ったのです。
99: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/02/27(金) 00:02:45.59 ID:jdn1l7cc0
妾は腰を抜かして、冷い地面に尻もちをつきました。
男は何処吹く風といった顔で、尚も鍋をかき回しております。
その何気ない行動が、今の妾にはトテモトテモ恐ろしいモノに感じました。
間違いありません。ダッテ、シッカリと目が合ったんですもの……。
100: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/02/27(金) 00:06:58.70 ID:jdn1l7cc0
喉の奥から悲鳴が飛び出そうになるのをヤットの思いで閉じ込めますと、
妾は震える足で立ち上がりました。
怖気づきますと自分まで食われてしまう、と……そう強く思ったものですから。
妾の心臓はイヨイヨ痛いくらいに早く打っておりましたが、それをオクビにも出さず、妾は男に尋ねました。
101: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/02/27(金) 00:10:09.54 ID:jdn1l7cc0
今思いますと、ナントモ間抜けな質問であったかかと……。
しかし、その時の妾は大真面目です。ですので、始末に終えません。
もしかしたら、鍋の中身と目が合ったのは気のせいで……いや、魚か何かの頭であったかもしれない、と……。
そう一摘みの希望を胸中に抱きまして、尋ねたのです。
男はチョット考えますと、何食わぬ顔で告げます。
102: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/02/27(金) 00:12:37.45 ID:jdn1l7cc0
「分からないので?……自分の作った鍋なのに?」
「ああ、おれには興味が無くてね……殺したトタンに、今までの恨み辛みも一切合切全部、シッチャカメッチャカになっちまったんでね」
妾の足が震えます。
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