過去ログ - 高垣楓「シンデレラ前夜」
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1:名無しNIPPER[saga sage]
2015/01/12(月) 00:51:50.74 ID:+O4eTT2KO
仮面はいい。モデルという仕事をしている限り、どんな表情でも取って付けかえることが出来る。
悲しい時、嬉しい時、楽しい時、辛い時、色んな表情の一瞬をフィルムの先へ。
感情なんていらない。仮面の上にその時を浮かべればいいだけ。だからとても…。

多くを着飾って、取り繕って、誰かの求める物を形にする、そんな仕事の毎日。
私じゃなくてもいい。
これはお人形と一緒。着せ替え人形のように毎日色んな物を着飾られて、フィルム越しの形を作る。

でも楽でいい。感情を殺して、ただある物を着て、仮面を付け替えて、
色んな表情のできるモデルであれば、あとは何も必要ない。それだけで仕事は十分にこなせてしまうから。

自分の限界も分かっている。多分どこまでか行けば私は捨てられる。
もっと魅力的な人が現れて、私なんか汚れた人形のように、誰にも見向きもされずに放り出される。
それが分かっていても、私は私にしかなれない。これしか私は私を知らないから。




「…」


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2:名無しNIPPER[saga sage]
2015/01/12(月) 00:53:04.32 ID:GdVxBNigO
「…アイドル部門、ですか?」

「ええ。私たち346プロは芸能部門に特化したプロダクションだという事は周知のことだと思いますが」

「はい。私もモデルとしてお世話になっていますから」
以下略



3:名無しNIPPER[saga sage]
2015/01/12(月) 00:53:58.64 ID:GdVxBNigO
「唐突過ぎて理解が追い付いていないかもしれないが、
我がプロダクションのアイドル部門の未来がかかっている。どうかな、やってくれるかな」

「それは、私の意見は考慮されない、プロダクションからの辞令という事でしょうか…」

以下略



4:名無しNIPPER[saga sage]
2015/01/12(月) 00:55:47.21 ID:GdVxBNigO
確かにモデルのお仕事は減ってきている。目に見えてではないにしても、
新しい子も所属しだして、私のお仕事は少しずつ変化していることも気づいている。

これは多分移動と言う名の廃品処分に近い何かだろう。
こんなに早くそんな状況が来るとは、我ながら考えもしなかった。
以下略



5:名無しNIPPER[saga sage]
2015/01/12(月) 00:56:57.12 ID:GdVxBNigO
そうして今夜も私はお酒に逃げる。

寒い夜に、熱燗をカウンターの隅で一人寂しく啜る。
暖かさが食道を抜け、胃の中に落ちる。少しずつお酒は私を満たし、それと同時に私を渇かす。

以下略



6:名無しNIPPER[saga sage]
2015/01/12(月) 00:58:04.53 ID:GdVxBNigO

「高垣楓さん、ですね」

「はい、高垣楓です。モデル部門から転属されました」

以下略



7:名無しNIPPER[saga sage]
2015/01/12(月) 00:59:19.65 ID:GdVxBNigO
この人は、私がモデルをやっていたことを知っているのだろうか。笑顔なんて、いくらでも出来る。

ニコッと、いつものファインダーに向ける笑顔を一つ。

これでNGが出ることは今まで一度も無かった。
以下略



8:名無しNIPPER[saga sage]
2015/01/12(月) 01:00:33.79 ID:GdVxBNigO
レッスンと言えば聞こえはいいけれど、これは特訓に近い何かだと思う。

「アイドルの基礎は何より体力!
しっかり走って、しっかり筋力をつけて、自分自身を支える芯を作ること!!」

以下略



9:名無しNIPPER[saga sage]
2015/01/12(月) 01:02:18.58 ID:GdVxBNigO
疲労の色が伺えたのか、レッスンの続いた数か月後、やっとお休みをもらえた。

勿論肝いりのアイドル部門だから、甘ったれた言動・行動は許されない空気があったのは事実。
私もすがる道がそれしかないから、必死についていった。

以下略



10:名無しNIPPER[saga sage]
2015/01/12(月) 01:03:20.10 ID:GdVxBNigO
だるい体を引きずって、346プロまで足を運ぶ。

アイドル部門の扉を開ければあの大男が窮屈そうにパソコンと向き合っている。

電話を受けているようで、受話器も極めて小さく見える。
以下略



11:名無しNIPPER[saga sage]
2015/01/12(月) 01:04:38.01 ID:GdVxBNigO
「どうぞ」コトッ

「ありがとうございます」

「…」
以下略



12:名無しNIPPER[saga sage]
2015/01/12(月) 01:05:36.54 ID:GdVxBNigO
「はい。346プロには、貴女以外にアイドルはいませんから」

「そ、そうですよね…」

「緊張、しますか?」
以下略



13:名無しNIPPER[saga sage]
2015/01/12(月) 01:06:55.60 ID:GdVxBNigO
「だから、今まで積んできたモデルでの経験は、アイドルの世界では0と同じです」

「0ですか…」

「0です。モデルとしてではなく、アイドルとしての高垣楓の、第一歩目です」
以下略



14:名無しNIPPER[saga sage]
2015/01/12(月) 01:08:49.53 ID:GdVxBNigO
…私は結局不安なのだ。

このままのうのうとは生きていけないと分かっていても、そうするしか生きていけない。

そして、崖っぷちに立った時に初めて私は恐怖する。
以下略



15:名無しNIPPER[saga sage]
2015/01/12(月) 01:09:58.80 ID:GdVxBNigO
「…へっ?」

「雑誌で見る貴女の表情が、私には本物には見えませんでした」

「…」
以下略



16:名無しNIPPER[saga sage]
2015/01/12(月) 01:11:25.48 ID:GdVxBNigO
「誰もがそんな魔法を信じているんです。
夢を叶える為に、星に願いをかけることもあります。
私は魔法使いにはなれません。
ですが、次のライブが、高垣さんに魔法をかけてくれるかもしれません」

以下略



17:名無しNIPPER[saga sage]
2015/01/12(月) 01:12:23.53 ID:GdVxBNigO
ライブ当日


「緊張、しますか?」

以下略



18:名無しNIPPER[saga sage]
2015/01/12(月) 01:13:46.94 ID:GdVxBNigO
「逃げ出したっていい。貴女の道です。
でも、一歩踏み出した人にしか分からない世界があります。
貴女は今そのスタートラインに立っています」

「ここが…スタートライン」
以下略



19:名無しNIPPER[saga sage]
2015/01/12(月) 01:14:43.34 ID:GdVxBNigO





以下略



20:名無しNIPPER[saga sage]
2015/01/12(月) 01:15:59.57 ID:GdVxBNigO
「…まあ、初めてのライブなんて、そういうものです」

「うぅ…」

「お疲れ様でした」
以下略



21:名無しNIPPER[saga sage]
2015/01/12(月) 01:17:27.91 ID:GdVxBNigO
「きっと、もっと色んな顔が高垣さんにはあるはずです。それは仮面じゃなく、貴女自身が持っている輝きです」

「…持っているのでしょうか」

「持っていますよ。今日はそんな魔法がかかってこんな素敵な表情になったんですから」
以下略



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