1:名無しNIPPER
2015/07/21(火) 11:53:18.50 ID:YMdcm1g70
教室の窓辺から灰色の空を眺めていると、チャイムが鳴り、静謐な空気を打ち破る。
授業の終わり。一日の終了を告げる最後のベルでもある。
後方座席の私に見えるのは、クラスみんなのきらびやかな顔。顔。顔。
「きょーうもがんばったー!」
隣の矢田桃花の輝きは一段と眩しい。んーっと言いながら伸びをする彼女。大きな胸が冬服の上から強調された。
前に席にいた速水凜香にもそれが見えたらしく、
「桃花、無防備すぎ」とたしなめる。
言われた本人は、なんで? と言いながら首を傾げていた。
「自覚ないみたいよ、めぐり」
「まぁ、誰にも見られてなかったみたいだし」
教室をすばやく見渡す。こちらに視線が向いている男子はいない。
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2:名無しNIPPER
2015/07/21(火) 11:54:34.21 ID:YMdcm1g70
現在二月。卒業を控えた私たちに、受ける授業はなにもない。
決められた履修は全て終わっており、残りの授業は受験勉強に向けての自習に当てられている。
「にしてもさー」桃花は鞄から紙パックジュースを取り出した。「二人とも、誰かいないの?」
3:名無しNIPPER
2015/07/21(火) 11:55:27.38 ID:YMdcm1g70
「好きな男子にきまってるじゃん。もうすぐ卒業だからさ。いたらコクらなきゃ」
「いるわけないでしょ」
ふん。と凜香は鼻をならす。そう言ってる割には少し顔が赤らんでいるような…。
4:名無しNIPPER
2015/07/21(火) 11:56:40.87 ID:YMdcm1g70
掃除を手早く済ませ、帰りのホームルームが終わると、、友人との雑談もそこそこに私は教室を後にした。
昇降口で靴を履いて、校門を出る。
朝よりも空気の冷たさが一段と増し、風も強くなっている。輝け、太陽。
5:名無しNIPPER
2015/07/21(火) 11:57:42.61 ID:YMdcm1g70
ケージに入り、レジで交換したメダルを投入して。さあ来い、とバットを構えた。
すぐにゴゴゴゴゴ、と音がして、錆びついたマシンが勢いよくボールを弾き出す。
私は、ボールを上から叩くイメージで、バットを振り出した。
6:名無しNIPPER
2015/07/21(火) 11:58:22.15 ID:YMdcm1g70
不思議だ。球を棒で引っぱたくだけのことだけなのに、どうしてこう楽しいのだろうか。
ボールが来ては打つ。来ては打つ。押し込めていたいろんな思いをぶつけるように繰り返す。
そのうちマシンはボールを吐き出すのをやめてしまった。
7:名無しNIPPER
2015/07/21(火) 11:59:05.48 ID:YMdcm1g70
「城廻先輩、どもです」
片目をつむる彼女。痩せ形の体型で、背は標準。全女子が羨むスマートな体だと言っていい。
やや丸い輪郭に大きな瞳はよくマッチしていて、かわいい部類に入るだろう。
8:名無しNIPPER
2015/07/21(火) 12:00:07.06 ID:YMdcm1g70
一色さんに、飲み物を買ってくると伝え、自販機のある外に出る。
冷たい空気が体を包むが、ぽかぽかになった私には、寒さは感じず、むしろ涼しく、気持ちがいい。
中に戻るとケージの後ろにあるベンチでぼんやりと座る一色さんの隣に腰かけた。
9:名無しNIPPER
2015/07/21(火) 12:00:45.09 ID:YMdcm1g70
「ありますよね、そういうこと」
一色さんが納得したように深く頷く。「衝動的になにかやりたくなる時」
「私の場合は、現実逃避かもしれないなあ」
10:名無しNIPPER
2015/07/21(火) 12:01:35.72 ID:YMdcm1g70
「別にいいと思いますよ。それくらいの逃避なら」
ゲームや漫画よりよほど良いですよ、と付け加え、ココアをちょびっとだけ口に運ぶ。
時折、聞こえる金属音は私たちの会話を盛り上げているようにも聞こえる。
11:名無しNIPPER
2015/07/21(火) 12:02:17.53 ID:YMdcm1g70
週末明けて月曜日。二月も中旬に入り、試験まで約一週間というところ。
担当の教師が事務的に出席をとると、号令もなしに全員が勉強にとりかかる。
わたしはというと、眠気が残っているせいでどうしても気分が乗らず
12:名無しNIPPER
2015/07/21(火) 12:03:42.36 ID:YMdcm1g70
慣習的に、第二学年の首席入学者が読むことになっているから人選に手間取ることはないだろう。
今日にでも取り掛かろう。私の記憶が正しければ、二年の首席合格は雪ノ下さんだったはず。
……そういえばあの部屋には比企谷くんもいるんだっけ…
13:名無しNIPPER
2015/07/21(火) 12:04:27.26 ID:YMdcm1g70
すこし迷ってから、平塚先生に確認してみよう、と思った。職員室へ向かうために歩き出す。
「なにか御用ですか?」
背後からの声に、足がつんのめった。
14:名無しNIPPER
2015/07/21(火) 12:05:35.74 ID:YMdcm1g70
カチリとロックの解除音が聞こえ、私は中に通された。
入ると、ひんやりとした空気に変わる。反射的にマフラーをきつく締めた。
「座っててください。紅茶を入れますね」
15:名無しNIPPER
2015/07/21(火) 12:06:14.49 ID:YMdcm1g70
「比企谷くんは?」
「彼については存じありません。 しばらくしたら来ると思いますよ」
「そうなの」
16:名無しNIPPER
2015/07/21(火) 12:07:03.37 ID:YMdcm1g70
と、誰かがこちらに向かってくるのが見える。
中肉中背。ポケットに手を突っ込み、擬音をつけるとしたら、ふらふらであろう力弱い歩み。
ぼんやりとしているのか私には気付いていない様子。
17:名無しNIPPER
2015/07/21(火) 12:08:09.11 ID:YMdcm1g70
「あの…私のこと、知らない?」
「いえ。知っていますよ。城廻先輩でしょう」
「はーい」
18:名無しNIPPER
2015/07/21(火) 12:08:57.53 ID:YMdcm1g70
「お願いがあるの」
少しの枕話をしたあと、そう切り出した。生徒会室にいるのは、
私と比企谷くんの二人だけ。他の役員は誰もいない。
19:名無しNIPPER
2015/07/21(火) 12:09:38.41 ID:YMdcm1g70
うすうす思っていたことだけど、彼は受け入れている。
「誤解なんでしょう? 相模さんの件」
あの日以来、向けられる冷たい視線も。
20:名無しNIPPER
2015/07/21(火) 12:10:35.77 ID:YMdcm1g70
「そうだよね…やっぱそうだよね」
「城廻先輩は、何も悪くないでしょう」
「ううん」
21:名無しNIPPER
2015/07/21(火) 12:11:12.80 ID:YMdcm1g70
彼は一礼して立ち去ろうとした。「比企谷くん」背中に向かって声をだす。
「私ね、もうすぐ受験なの。 合格発表の日、一緒に来てくれないかな」
「唐突ですね」
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