145: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 02:05:37.25 ID:s8phhYh5O
 「ふふっ、いま私が述べているのはあくまで身体能力の話ですよ?」 
  
 そう云って、麗は社長を見、にやりと口角を上げた。 
  
 「それ以外の部分なら、あの子自身にはあまり自覚がないようですが、色々と恵まれています。 
146: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 02:06:04.15 ID:s8phhYh5O
  
  
  
 ――そして、それこそが普通の人間との決定的な差です。 
  
147: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 02:06:32.36 ID:s8phhYh5O
 麗は、再度更衣室の方を向いて表情を引き締め、強くそう云い切った。 
  
 身体能力は、無論、センスや才能も物を言うのだが、トレーニングを積んで高みへ昇ることが可能。 
  
 しかし生まれながらに左右される要素は、後からどのような修練を重ねても、会得することはできない。 
148: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 02:07:13.27 ID:s8phhYh5O
 社長は何も云わないが、目を細めることで回答した。 
  
 無言の返事に、麗は肩をやや竦めながら笑い、言葉を続ける。 
  
 「本田君だって、15歳であのグラマーな体つきは大きな武器になるでしょうし、島村君の愛嬌も元気になれる。 
149: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 02:07:45.33 ID:s8phhYh5O
 麗は残念そうに首を振った。 
  
 「自分の主宰する教室がありますから、今すぐには無理です。来年度まで待ってください」 
  
 「まあ駄目元で訊いてみただけだが、やっぱりそうなるか」 
150: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 02:08:15.22 ID:s8phhYh5O
  
 着替えを終えた卯月たちが「お待たせしました」と出て来た。 
  
 そのまま、五人全員でスタジオのエントランスまでゆっくり歩く。 
  
151: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 02:09:02.15 ID:s8phhYh5O
  
  
 ―― 
  
 凛は、事務所までの道のりを歩く間、心の中の火照りに戸惑っていた。 
152: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 02:09:32.17 ID:s8phhYh5O
 勿論、アイドルになるのなら、それが“仕事”と化すのだから綺麗なことばかりではなくなるだろうが―― 
 このまま日常のループに身を置いているだけでは、この興奮を得るなど、到底出来ないだろう。 
  
 それでもやはり、『非日常』の世界へ飛び込んで行くのに必要な“勇気”を確信するまでには至っていない。 
  
153: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 02:10:01.98 ID:s8phhYh5O
  
 先程と同じ応接エリアへ戻りソファへ着くと、ちひろが改めてお茶を淹れてくれた。 
  
 スタジオからの道中も、事務所に入っても、社長から凛に「どうだったかな」と催促してくることはなかった。 
  
154: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 02:10:33.33 ID:s8phhYh5O
 そこへ、ちひろが社長の隣、凛の正面に坐った。 
  
 「ふふ、どうだった?」 
  
 にこりと笑み、尋ねてきた。 
155: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 02:11:06.90 ID:s8phhYh5O
 「……なんて云うか、歌とか踊りとか固有のものじゃなく、漠然とした感覚だけど……“表現すること”、かな」 
  
 明るいメロディに合わせて楽しく、哀しいメロディに合わせて情緒豊かに―― 
 そんな、場に応じた自らの表現の仕方に、様々な種類、表情があると云うこと。 
  
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