258: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:44:18.97 ID:s8phhYh5O
「……まゆみの場合は人身事故で止まる中央線くらい日常茶飯事だもんね」
「あっはは、五限なんて起きてられるわけねーだろって!」
凛の拗ねたような皮肉に、ガサツな勢いで道破する本人。
259: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:44:46.49 ID:s8phhYh5O
「まァいいや、アタシ今日は部活が早上がりだからさ、どっか寄らね? 最近遊んでねーし」
五限を丸々使ってたっぷり寝たせいか、彼女は元気が余っているようだ。
「あー……行きたいのは山々なんだけど」
260: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:45:13.18 ID:s8phhYh5O
凛がCGプロへ行ったあの日から、ずっとレッスン漬けで、ほとんど遊べなくなっていた。
特に、休日ならともかく、放課後の予定を合わせることはまず無理だ。
「ごめんね、やることがたくさんあってさ」
261: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:45:44.21 ID:s8phhYh5O
「ふーん、そっか」
あづさもまゆみも他人へ必要以上に干渉しないので、それ以上訊いてくることはなかったが――
凛は、彼女達に少々の申し訳なさと、自分に対するむず痒さを禁じ得なかった。
262: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:46:16.82 ID:s8phhYh5O
――
飯田橋は鉛色をした空で覆われている。
263: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:46:44.19 ID:s8phhYh5O
Pは、梅雨が好きではない。
それは、所有している楽器が湿気を吸ってコンディションを保ち難いと云う個人的な理由が一番大きいが――
無論、世の中が陰気になる、この時期特有の性質も、苦手と形容するに充分な理由だ。
264: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:47:31.37 ID:s8phhYh5O
「おはようございます」
入ってきたのは、スクールバッグを肩へ掛けた凛。
既に夕刻であるが、芸能界の挨拶はいつでも『おはよう』だ。それはたとえ陽が落ちていようとも変わらない。
265: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:48:02.05 ID:s8phhYh5O
凛は、ちひろに会釈を返しつつ、Pが書類と格闘している事務机まで、つかつかと直行する。
「ねぇ、プロデューサー。私が云うのは変かも知れないけどさ――」
矢庭に話しかけると、机の天板に右手を添えて、Pを覗き込んだ。
266: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:48:32.08 ID:s8phhYh5O
彼女の瞳はやや険しくなっている。
無作法で、無遠慮で、無愛想な、碧い宝石。
その奥に在るものを、吐き出したいのに吐き出し切れない、そんな眼。
267: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:49:02.09 ID:s8phhYh5O
軽く頷いて、棚から一つのファイルを取り出す。
「俺も、そろそろかなと思っていたんだ」
何枚か束ねられている紙には、中堅企業の広告モデル案件が書かれていた。
268: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:49:37.89 ID:s8phhYh5O
――
結論から云えば、仕事は失敗した。
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