43: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 00:33:02.02 ID:s8phhYh5O
腹を抱える男と対照的に、凛は表情を変えなかった。
否、呆気にとられて、表情が追い付かなかったと云うのが正解。
はぁ、と軽く息を吐いてから、やや温くなった紅茶で喉を湿らせる。
44: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 00:33:38.10 ID:s8phhYh5O
凛は、目線をやや下げ、左手を顎に添えた。そのまま、じっと考え込んでいる。
――日常に飽き飽きした心への、カンフル剤となる。澱みの中へ一条の光が射し込むかも知れない。
――いや、幾ら無変化に飽きたからと云ったって、芸能界などとは。到底やっていけるわけがない。
45: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 00:34:08.43 ID:s8phhYh5O
「……返答は保留でいい? さすがにここで決めるのは、ちょっと」
「勿論だよ。君の人生にも大きく関わってくることだからね、無理強いはしないし、結論を急がせもしない」
男の言葉には余裕が見て取れる。
46: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 00:35:20.93 ID:s8phhYh5O
その後、事務所へ戻る男と駅コンコースで別れ、彼とは反対方面へ向かうプラットホームで、独り言つ。
「アイドル……か……」
47: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 00:35:54.69 ID:s8phhYh5O
電車の扉が開く際に鳴る電子音が、凛の鼓膜を揺らす。
脳はそれを、ただ行動に移すための記号としか捉えず、深い自問自答を中断させることはなかった。
その日、凛は、寝るまでずっと、考え込んでいた。
48: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 00:37:01.61 ID:s8phhYh5O
――
「はぁ〜ぁ……」
49: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 00:37:31.96 ID:s8phhYh5O
そこへ、前の席にいる少女が、声を掛ける。
「なによ凛、そんな幸せが逃げ出しそうな溜息なんか吐いて」
「あー……あづさ、私そんな溜息ついてる?」
50: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 00:38:01.82 ID:s8phhYh5O
「まあしゃーねーよ。政経なんてかったるい授業トップ3だもん」
隣の席からも会話が混じってくる。
凛は、声のした方に顔を向けて笑った。
51: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 00:38:31.90 ID:s8phhYh5O
「んで? 随分とダルそうな溜息じゃねーの、どうしたよ」
少々がさつな口調のまゆみが、頬杖を突いて問うた。
「んー、ちょっと将来について考えることがあってね」
52: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 00:39:04.12 ID:s8phhYh5O
凛は頭を上げて、「うーん」と身体を伸ばした。
「そこまで真面目なもんでもないよ。ただ、人生について考えるきっかけがあっただけ」
「人生、ねぇ。わたしは一回こっきりしか無いんだから楽しんだモン勝ちだと思うけど」
53: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 00:39:31.89 ID:s8phhYh5O
――
放課後、ターミナル駅前のカラオケ店へ、三人は来ていた。
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