92: ◆eO0MHGE6wPTj[saga]
2015/11/21(土) 00:03:41.10 ID:9OmX/7sM0
病室のベッドには、白い服を着た少女が座り、窓から大きな青空を見ていた。
寝ているのではなく、体を起こし、壁に寄りかかりながらも、外を見つめていた。
俺は、一瞬のうちに頭が機能を停止した。
持っていた花瓶を落とした気がした。
夢なんじゃないかと思った。
「凛……」
俺の口からは、その少女の名前を呼ぶことしか出来なかった。
どうしてだろうか。
今の俺は口が回るはずなのに、それ以上の言葉が出てこない。
言葉が出てこないのに、涙だけがただただ溢れてくる。
そして視線の先の少女が振り返り、俺に微笑みかけた。
そして、だらしなく涙を流し続ける俺に言ったのだ。
「何、泣いてるの、こういう時は、笑うんだって、知らないの? ねぇ、プロデューサー」
そう言って、凛の目から涙が流れた。
「なんだよ、凛だって、凛だって、泣いてるじゃないかよ……」
「ごめんね、しんぱいかけて、ほんとうに、ごめ、んね」
お互い、涙が止まらない。
何故涙が出るのだろうか。
こんなに嬉しいことなのに、なぜ笑いではなく涙が出るのだろうか。
そんなことは、どうでも良かった。
「俺、頑張ったんだ。凛が目を覚ますって信じて、すげえ頑張ったんだよ」
「うん、うん、ありがとう、プロデューサー。ありがとう……」
凛が、ありがとうと言った。
それだけで、今までの疲れが消えてなくなったような気がした。
凛のために頑張ってきたこと。
凛を信じ続けてここまできたこと。
その全てが、この一瞬に集約されているのだと思った。
「凛、俺と凛が失った半年はもう取り返せない。けど、これからは、いままでの俺じゃない、もっともっと凛を輝かせられるから。これからが俺達の始まりな
んだ。これからは、今までの比じゃない、素晴らしい夢を、素晴らしい世界を、俺が、凛に見せてやるからな」
「わかってるよ、うん、わかってるよ。ごめんね、心配掛けて、ごめんね」
「心配なんて、目を覚ましてくれればそれでいいんだよ」
「それと、なんていえばいいかわからないけど、これが正解なのかな」
そう言って、俺が待ち続けた表情を見せてくれた。
凛の、満面の笑み。
夢に見たとおりの笑み。
その待ち続けた笑顔で、凛はこう言ったのだ。
「――ただいま。プロデューサー」
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